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2012.04.26
中小企業診断士が農業者向けの支援をするポイント

アグリビジネス研究会 伊能 賢

はじめに
 アグリビジネス研究会の活動により習得した農業者向けの支援ポイント等について報告いたします。
 アグリビジネス研究会は平成23年度末の会員が30名。文字通り農林漁業分野に興味を持つ会員で構成されています。
 農林漁業というのはこれまで中小企業診断士の支援対象としてあまり注目はされてきませんでした。これはおそらく、中小企業診断士が経済産業省の管轄下にあるため、農林水産省管轄にある農林漁業関連ビジネスとの間に壁があったことが原因かと思われます。
 しかし、平成19年に地域資源活用促進法が施行され、翌平成20年に農商工等連携促進法が経済産業省・農林水産省の共管で施行されたことによってその流れは大きく変わったように思えます。
 加えて、平成20年度に全国26の都道府県において、中小企業基盤整備機構からの貸付金による農商工連携型地域中小企業応援ファンド事業が開始されたことによりその壁は大幅に低くなり、現在多くの中小企業診断士が農林漁業関連分野に進出しています。
 特に現在農林水産省の重点事業となっている6次産業化事業については、案件発掘や事後フォローなどの業務を担う6次産業化プランナーとして多くの中小企業診断士が活躍しており、今後ともこの流れは拡大していくものと思われます。
 我々、アグリビジネス研究会としても、中小企業診断士の農林漁業分野進出の先駆けとして活動していく予定です。
 ここでは、これまで行った活動事例を中心に農業者の現場改善、農商工等連携事業、6次産業化事業についての概要説明と診断ポイントを説明します。

1.農業者の現場改善
[1] 概要
 診断の対象となったのは、千葉県にある農業生産法人A社です。平成22年度の企業概要は資本金10,000千円、従業者数20人(うちパート10人)、売上高は122,370千円、業種は花苗等の生産です。
 この診断は「少品種多量生産から多品種少量生産体制への転換」をテーマにした総合診断となりましたが、重要なサブテーマとして「工業的な生産管理手法の農業への導入」を取り上げました。
[2] なぜ農業に生産管理が必要か
(1)農業は漁業や林業と同じく、人類にとって最初に起った産業であるが、洋の東西を問わず歴史的に家族を単位とした家業として行われてきました。日本においては村単位の共同体方式がとられ、繁忙期には親族や近所の人(ゆい)の力を借りて作業をこなす生産方式でした。小作人を雇っての大規模農業が発生してもその中身は家族を中心とした小作単位の集合体で、分業を前提とした生産体制は興りませんでした。
(2)しかし、近年ハウスなど施設を利用し大規模に農業を行う農家や農業生産法人が増えてきて、生産性を重視する生産活動が広まっており、工業と同じように農業でも生産効率を管理する手法のニーズが高まってきました。
(3)市場(顧客)ニーズに対応した生産(育成)活動でなければならないのは農業も工業も同じです。市場のニーズは「より安く、より新鮮なものを、すぐに欲しい」です。これに答える生産方式がますます必要になってきました。
 農業は生産資源である、土や太陽、ハウスなどの設備を使用し、米や野菜などを生産する「製造業」でもあります。したがって、工業製品で培われた生産管理手法の導入は可能であるとの仮説を立て、テストケースとして生産管理手法の導入を行いました。
[3] 調査結果
 経営層、従業員等に対するヒアリングや現地視察、各種帳票類のチェックなどにより当社の課題が浮き彫りになってきました。具体的には、
(1)中長期生産計画と小日程生産管理の確立
(2)作業の標準化によるリーダーの負荷軽減と作業者のスキルアップ
(3)体系的教育制度の確立
(4)作業者の技能レベル管理レベル評価の実施と多能工化
(5)パートの戦力化
(6)2S(整理・整頓)の徹底
(7)作業記録等の実施
(8)資材在庫管理体制の確立
などです。こうした課題は中小企業製造業を診断した際に発生する課題とまったく同じであり、当初立てた仮説の正しさが検証されました。
[4] 診断内容
 上記の課題を解決するため、提案した内容をいくつかピックアップして記載します。
 (1)中長期生産計画と小日程生産管理の確立について
  ア)販売戦略や販売目標と連携した生産計画及び日程管理の策定
  イ)小日程生産管理は、リーダーの必須管理業務である
  ウ)当日の作業内容をより具体的に指示し、その進捗状況をリーダーが把握する
  エ)情報の共有化
(2)作業の標準化によるリーダーの負荷軽減と作業者のスキルアップについて
  ア)工程分析による作業標準書(マニュアル)の作成
  イ)QC工程表の作成
  ウ)標準時間の設定
  エ)生産性向上のための改善活動
(3)体系的教育制度の確立について
  ア)OJTとOFFJTを組み合わせた効率的な教育計画の策定
  イ)リーダー教育の先行実施
  ウ)業務全般の中での自らの業務の位置付けを教育する 
(4)作業者の技能レベル管理レベル評価の実施と多能工化について
  ア)作業者・管理者ごとに各人のレベル評価を行い労務管理の基礎資料とする
  イ)目標管理を導入し、従業員の意欲向上を図る
  ウ)適切なジョブローテーションにより多能工化を図る
(5)パートの戦力化について
  ア)パートの業務範囲拡大と柔軟な配置転換を図る
  イ)パートに対しても可能な限り経営情報を提供し当事者意識の向上を図る
(6)2S(整理・整頓)の徹底について
  ア)赤札作戦などにより資材等の要・不要を確定したのち、定位置配置を徹底する
  イ)各持ち場ごとに2S責任者を任命し、責任と権限を与える
  リーダーは適せん巡視を行いルールの順守状況をチェックし、修正点の指示を与える
(7)作業記録等の実施について
  ア)記録すべき事項や頻度などについてルールを明確にする
  イ)収集したデータは工程管理や品質管理、作業標準書のメンテナンスなど多様な活用を図る
(8)資材在庫管理体制の確立について
  ア)資材管理責任者を選出し資材管理に対して一貫した責任を持たせる
  イ)在庫保管場所を明確に設定し、誰にでも在庫保管場所がわかるようにする
  ウ)管理責任者が定期的に在庫数を定量的に検査し、過剰在庫や在庫切れの防止を図る
[5]アフターフォロー
 従来の診断では改善提案に止まることが多く、実効性の確保には疑問符がつくことが多かったように思います。私たち、アグリビジネス研究会としてしては改善提案の実効性確保の観点から提案後の指導方法についても研究していく予定です。

2.農商工等連携
[1] 概要
 支援対象の連携体には、中小企業者が食品企画・卸売会社、農業者が小松菜生産農家、漁業者が沿岸漁業者、また、協力事業者として水産物加工卸事業者が参加しています。当事業は、ある展示会で筆者とたまたま知り合った中小企業者からの相談から始まりました。中小企業者はこれまで生産設備を有していなかったのですが、ケーキ工場を取得したことからケーキの中に練りこむ原材料として地元産の野菜を使用したいとの相談を受け、旧知の仲であった農業者を紹介しました。農業者は地域の有力者でもあり、顔が広かったことからその繋がりで漁業者も含めた新たな連携体が構築されました。
[2] 農商工等連携の必要性
 食品関連産業は、少子高齢化を主要因とする需要の減少に加え、デフレ経済下での消費者の低価格志向というダブルパンチにみまわれ、販売数量・販売単価とも低迷する厳しい状況下におかれています。
 特に川上に当たる農林漁業においては、低価格化のしわ寄せをもっとも受けやすく、加えて燃油代の値上がり、材料資材の値上がり等の影響も大きく収益性を低下させているのが現状です。
 今後、人口減少が進む中、減少する需要に対応しながら食品産業が活路を見出すためには何らかの新しい取り組みが不可欠となっています。
 これまでのビジネスモデル、すなわち農林漁業者にとっては生産物を単に卸売市場に持ち込む従来型のビジネスモデルはすでに限界となっており、商工業側にとっても、大量生産大量消費を前提としたビジネスモデルはすでに限界となっているものと思われます。
 こうした、厳しい状況下今後食品産業が展開すべき新たな道として「農商工等連携事業」が脚光をあびてきました。
[3] 農商工等連携事業のメリット
 農商工等連携事業のメリットについて様々な意見がありますが、筆者が感じているところをいくつかあげます。
農林漁業者のメリット
(1)小売価格の向上:製造業者・販売業者との連携により消費者ニーズにマッチした原材料の生産が可能となり小売価格の向上が図れます。小売価格の向上により農林漁業者への成果配分向上が期待できます。
(2)取引関係の安定化:単なる原材料供給者ではなく連携者となるため、安定した販路が確保でき、廃棄ロスのリスクは減少します。また、販路が決まっていれば農林漁業者も1次加工用設備などの投資も可能となりサプライチェーン内での機能強化が可能となります。
(3)売上高向上:従来廃棄又はごく安価で販売されていたB級品や販路がないために経済的に無価値であった生産物が有価となることで売上向上が図られます。
中小企業のメリット
(1)商品差別化:地域産品を活用した独自商品を保有することにより、NB商品や大手のPB商品との差別化が可能となります。
(2)ブランド力向上:顧客の持つ珍しい商品への好奇心ニーズ、自己実現ニーズを満たすことにより顧客訴求力向上、企業のイメージアップが図れます。
(3)収益性向上:差別化された高付加価値商品を有することで収益性向上が期待できます。
地域活性化への効果
 筆者の経験からも農商工等連携に積極的な自治体が多くなっています。その理由は、
(1)地域内での人的交流の促進:農林漁業者と商工業者の交流により相互理解が進み、新たな地域おこしへの機運が醸成されます。特に都市化した地域においては農業者と都市住民の相互交流がないことが自治体の悩みになっており、農商工等連携は人材交流の側面からも進められています。
(2)地域全体のブランド力向上:地域発の名産品が生まれることで、地域の認知度向上、観光客の増加などの効果が期待できます。昨今のB級グルメなどもみてもわかるように地名が冠についた商品は地域のネームバリューを一気にあげる効果を持っており、自治体はそこに着目しています。
[4] 支援の成果
(1)現在、小松菜・にんじんを使用したマドレーヌ、ケーキは完成しすでに販売を開始しています。また、中小企業者の商品ラインの中に「パンの缶詰」というものがあります。保存期間は最大5年。長期保存が可能なものであるにもかかわらず、しっとりとして美味しいという優れものです。この商品が昨年の東日本大震災以来、保存食としてヒットしています。「パンの缶詰」の中に地元産の野菜を練りこんだことによって地元自治体からの引き合いも来ており、今後は市内の学校や老人施設などを中心に営業していく予定です。
(2)漁業者、水産加工業者を含めた新たな連携体では、東京湾で水揚げが増えている江戸前「ホンビノス貝」による加工食品の製造・販売を行う予定です。ホンビノス貝は北米原産で貨物船のバラスト水に交じって日本に定着したと言われる外来種です。これまで国内ではあまり利用されてきませんでしたが、あさりやあおやぎなどの漁業資源が減少する中、重要な資源として期待されています。ちなみに、アメリカのクラムチャウダーのクラムにはこのホンビノス貝が多く使われているそうです。筆者も食してみましたが、味覚は良好です。今後は、この貝を使用した「江戸前クラムチャウダー」や「トマトスープ」などを開発していく予定です。
 また、当事業は農商工等連携促進法の認定事業となっています。
[5] サポートのポイント
(1)商工業者と農林漁業者では営業循環のスピードが異なることやリスクテーキングの姿勢など商慣行に大きな違いがあります。中小企業診断士には相違点の多い両者をつなぐコーディネーターとしての役割が求められます。
(2)農商工等連携は商工業者・農林漁業者双方にとって新しいビジネスモデル構築が必要になります。中小企業診断士にはサプライチェーン全体をにらんだビジネスモデル構築への支援が期待されています。
(3)農商工等連携を希望する商工業者・農林漁業者双方にとって適切な連携相手を見つけることは容易なことではありません。連携相手の探査を支援することも中小企業診断士の重要な役割です。
3.6次産業化
[1] 概要
 6次産業化事業は農林水産省の重要な事業として積極的な事業展開が図られています。
アグリビジネス研究会としても、最重要の事業として位置付けています。ここでは、これから六次産業化法の認定を受けようとする農業者の事例について報告いたします。
 農業者は有機栽培でにんじん、だいこんなどを生産する個人農家Tさんです。耕作面積は4haと畑作としては比較的大規模です。有機農法の伝道者的な存在で農業界では著名な方です。主な販路は都内の高級自然派レストラン・販売所、ネット販売などです。
[2] 相談内容
 Tさんは、有機農法の指導者として後継者育成にも熱心です。Tさんのもとで修業し農業者として独立された方も多数おります。
 しかし、独立しても成功する人ばかりではありません。まず、土地の確保が容易でないです。農家は農地に対しては非常に保守的で、使っていないから売る、あるいは貸すということに心理的なハードルが高いのです。まして、知らない人となればなおさらです。また、機械設備を整えるための開業資金やできた生産物を販売する販路の確保も容易ではありません。やる気のある若者が入っても結局独立できないままになってしまうこともたびたびです。
 その一方で、Tさん宅の周辺は優良な農地であり首都圏にも近く販売面での優位性があるにもかかわらず、近年耕作放棄地が増加し行政も頭を悩ませているようなミスマッチがあるわけです。
 Tさんとしては、こうした問題点を解決すべく方向性を探っているのが現状です。
[3] Tさんの新たなビジネスモデル
 そこでTさんは、新たなビジネスモデルの構想をしました。テーマは「農業のFC化」です。具体的にはTさんが現在行っている有機農法の手法を見える化して、そのノウハウと肥料・資材などを農業参入者にパッケージで提供しようというものです。
 有機農法に必要な肥料はTさんが製造販売するほか、農業用機械についてはTさんが用意し、共同利用することで、農業参入者は初期投資を抑制できます。Tさんは肥料の販売代金や機械のレンタル料によって、借入資金の返済財源とします。また、農地については地元の有力者でもあるTさん名義で借り受けて農業参入者にまた貸することで信用力の補完を図ります。
[4] ビジネスモデル実施への課題
 (1)「農業のFC化」ビジネスモデル構築のノウハウがTさんにはないこと
 Tさんのビジネスモデルはご本人の頭の中にあるだけで、未だ具体化したものではありません。これをビジネスとして成り立つようにマーケテイングミックスを組み、アクションプランを策定するのが我々の役目になるかと思います。
 (2)資金面での対応
 Tさんはすでに、肥料の製造場所・設備をお持ちですが大規模に行おうとすれば、新たな投資が必要です。そのための資金調達手段が脆弱なのが現状です。
 (3)販路開拓
 Tさん自身はすでに優良な販売先を確保しており、販路に大きな心配はありません。しかし、新規参入者にとって販路の開拓もこれからです。とりあえずは、現在の販路を使うにしても将来的に生産量が増加した際には販路の確保が大きな課題となることが予想されます。
[5] 対応策
(1)資金の確保
 Tさんの「農業のFC化」ビジネスを展開するためには資金面の解決が不可欠です。そこで、まずは法人化を行い家計と事業会計の分離を図ります。事業会計の担当者には農業参入予定者を充てることで、財務面でのOJTとなる効果も期待できます。
 経営体質の改善がみられたところで、六次産業化法の法認定を得て、借入条件の緩和を図ります。また、設備投資に当たっては6次産業化推進整備事業助成金の活用を目指します。

(2)販路開拓の実施
 販路開拓に当たっては、他の事業の進捗状況をにらみながら並行的に進めていきます。費用負担の軽減や営業指導を受けるため、6次産業化総合推進事業を活用し、交流会への出席や展示会への出展などを行っていきます。
(3)サポートのポイント
 こうした事業はTさん単独では難しいことから、我々中小企業診断士が支援するとともに農業事務所や市役所など行政とも連携を図っていくことが重要です。

むすび
 終わりにあたって、ご参考までに農林漁業診断のポイントについて触れます。
 農林漁業はその多くが自然相手です。したがって工業生産のように計画どおり、作業が進捗することは稀です。筆者がある漁協を支援した折、漁師さん達に計画を立てて云々と説明した際、「そんなこと言っても、来年そのイカが揚がらなかったらどうするよ」と言われてしまい二の句が継げなかったことがあります。
 また、生産のサイクルが非常に長いのも特徴です。野菜はともかく、米は年に一度しか収穫できません。一生のうちで60回くらいしかチャレンジできないのです。したがって、失敗を嫌う保守的な傾向があります。
 サイクルの長さは財務面では特に顕著になります。このあたりを頭に入れておかないと資本回転効率が悪いみたいな意味のない診断になりかねません。
 診断にあたってもっとも困ることは、法人化されていない農家の場合、貸借対照表がないことが多く、損益計算書の費用勘定も非常に大雑把なくくりなことです。
 場合によっては、資産を確認しながら見込み貸借対照表を作成する必要もあります。
 その他にも、評価額の低い宅地や農地が担保なるので資金調達力が低いことや労働災害が発生しやすいなどの特徴もあります。
 農林水産業がTPPの問題をはじめ多くの問題を抱えていることは周知のとおりですが、食は国の基本です。また、国土保全の面からもその重要性はたびたび指摘されているとおりです。この重要な産業である農林水産業発展のため、多くの中小企業診断士がこの分野に興味を持たれますことを祈願してむすびといたします。

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