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2012.06.29
農業分野における中小企業診断士の支援に関する提案

農業分野における中小企業診断士の支援に関する提案

新市場創造研究会 城北支部会員 古川 弘

hfurukawa@mub.biglobe.ne.jp

 

【要 旨】

 野菜作農業について、受注型農業製品製造業モデルとして捉える。これにより意欲ある農業者・農業法人が「継続企業(Going Concern)」へ至る道筋を示す。その支援は、「商工」支援の経験とノウハウに長け、関係支援機関とも連携し「農商工」のシナジー創出支援が可能な中小企業診断士が適任である。

 

【本 稿】

1.はじめに

 平成23218、日新市場創造研究会において、?ファーム・アンド・ファーム・カンパニー代表取締役藤井大介会員による講演「本質的な農業の課題と今後のゆくすえ」が開催された。本稿は、この講演に引き続いて、藤井大介会員のコーディネートにより、「本当に農家のためになる農商工連携とは」というテーマで、A、B、C3班に分かれてグループ討議・発表した内容をベースに、その後の知見も入れて取りまとめたものである。

 農業には、地球レベルではエネルギーと並び持続的に作れる食料の人口収容能力、日本レベルでは世界的な資源争奪戦の中にあり食料の安全保障という課題がある。この中にあって日本の農業は課題山積である。一方、日本産業標準分類の産業の定義「...産業とは、財又はサービスの生産と供給において類似した経済活動を統合したものであり、実際上は、同種の経済活動を営む事業所の総合体と定義される。」とあり、大分類の先頭が「A農業・林業」である。ついては、経済活動を営む事業所またはビジネスの主体として、実態を踏まえつつもあらゆる既成概念としがらみを取り除き、基本に立ち返って「継続企業(Going Concern)」を目指すべく以下に述べる。

 

2.農業分野における本稿の問題の領域について

 農業部門は、図表1の通り農業・林業・水産業がある。このうち農業については水稲作・畑作・野菜作・果樹作・酪農・養豚などがある。一方、土地活用レベルで分類すると、土地利用型農業と土地節約型農業(以下集約型農業という。)がある。

 まず、土地利用型の代表である水稲作と畑作とがある。近年、そのうちで課題山積は水稲作である。図表1によれば、北海道は1農業者あたり耕地面積が10.6haであり、1時間当りの農業所得が1,711円である。一方、都府県は1農業者あたり耕地面積が1.7haであり、1時間当りの農業所得が417円である。これは、2011年の最低賃金が新潟県の683/時、東京都の837/時に遠く及ばない。

特集_農業の問題領域.jpg

 さらに図表2にあるとおり1.0ha未満が73%を占めていて、農業所得は赤字またはほぼゼロであり、高齢化も進んでいる。ただし、73%を占める1.0ha未満を削減したら解決するのかというと、図表3に示す通り水資源の確保など資源調達のため農村コミュニティを支えている層であり、後述する標準的な農業者が成り立つ上でも農外所得などと組合せて持続していく必要がある。

 一方、10.0ha以上をみると、農業所得が500万円超で、総所得も700万円超と2006年勤労世帯平均年収630万円を超えるレベルにある。それでは、耕地面積規模を増やせば良いかというと、図表4の通り、北海道・都府県ともに10ha近傍で生産性が頭打ちとなっている。これは分散した土地集約、水稲の生産特性などからの制約と推測される。ついては、「継続企業(Going Concern)」としての標準的な農業者としては、耕地面積規模10ha程度を目標にすべきということを指摘して、土地利用型農業の課題は、政策・制度レベルの課題も多く、一旦置いておくこととする。

 次に、野菜作について1時間当り農業所得をみてみると、露地野菜が643/時、施設野菜が810/時と最低賃金レベルにある。この分野を担う農業者にとって再生産可能なレベルにはなく、ましてこの分野を担う次の世代を惹き付けることはできない。四季の旬の野菜を食するという日本人の食を支えることからも、輸入等の代替手段も難しく、持続可能性が危ういと言わざるを得ない。ついては、当該分野は、政策・制度の制約の課題も相対的には少なく、後述する事例に見られるように個々の農業者・農業法人の改革・改善の可能性が高いこともあり、「継続企業(Going Concern)」を目指す本稿の主たる検討領域とする。

 

3.関連論文・事例からの示唆

 図表5の関連論文・事例紹介をした内容について、以下に概説し、その中から示唆を抽出する。

 

? 関連論文:日本農業の活路を探る;「日本農業の真実」生源寺愼一著2011.5より

 著者は農業経済と農業政策の第一人者であり、日本農業の強さと弱さの両面を直視し、国民に支持される近未来の日本の農業と農村のビジョンを提案している。「第5章の日本農業の活路を探る」の節だてとキーワードを引用・掲載した。このキーワードをみて驚くのは、「農」業に、かかわりながらも、「農」業を超えた普遍的なキーワードであり、モデルと言い換えてもいいかもしれない。特に、「担い手に加え、明日の担い手に希望を与え、育成する施策」「生産物の付加価値を高める」「価格形成に寄与する」などはきわめて示唆に富んでいる。

 

? 事例1:株式会社野菜くらぶ;「農業で利益を出し続ける7つのルール-家族農業を安定経営に変えたベンチャー百姓に学ぶ-」澤浦彰治著2010.3、HPなどから

 代表取締役澤浦彰治氏は農家の長男として生まれる。農業高校を卒業後、畜産試験場の研修を経て、家業の農業、養豚に従事する。コンニャク市場の暴落によって破産状態に直面する中で、コンニャクの製品加工を始める。1992年3人の仲間と有機農業者グループ「野菜くらぶ」を立ち上げ、有機野菜の生産を本格的に開始し、2011.11時点での生産者は、13農業生産法人を含め58名とある。

 著者は他業種の経営者が学ぶ群馬中小企業家同友会に入会し、農業に加えて一般企業を学ぶ中で成功している人の共通項として「仕事に対する志と健全な価値観があり、未来投資費である"利益"を出し、『経営として成り立たせている』」と述べている。このブレークダウンした内容を「2.成功の共通項『経営として成り立たせている』」に引用・掲載した。

 このキーワード、モデルは農業を超えて普遍化されており、一般経営書としても違和感がない。特に、「自分でお客様を作り」「価値ある商品を開発し」「人財教育を継続的に行い」さらには「個人を活かして幸せにする組織化実践」と述べている。

 さらに、農業の成功スタイルは「本業として農業を行い、結婚して家庭を持ち、家を持つことができる。家族が幸せに暮らせ、子供に十分な教育ができて、その子供も農業に就く」と開示している。これらをビジネスモデルの中のビジネスプラットホームとして具現化し、組み込んでいる。

 代表例1-1生産者グループまたはブランドとして、お客さまと徹底的に関わり、ニーズを吸い上げ対応することにより繰返し率の高いビジネスモデルを構築するなど価格形成に深く関与している。お客様の要請に応じて、グループ内で通年出荷も可能としている。さらには、品目、量、時期、価格などを明確にした受注をしてからしか種は播かないのである。

 代表例1-2生産者グループは、独立支援プログラムと称し、新規加入者または新規農業参入者に対して、育成し、独立後は指導し、資機材、管理システムおよび資金などの各種ツールの手当てを支援する、いわばインキュベーション機能も備えている。

この他にも千葉県の農事組合法人和郷園の代表理事の木内博一著「最強の農家のつくり方」、長野県の農業生産法人有限会社トップリバー代表取締役社長嶋崎秀樹著「儲かる農業」などを参考にされたい。

 

? 事例2:株式会社ドール;「多国籍アグリビジネスによる日本農業参入の新形態-ドール・ジャパンの国産野菜事業を事例として-」関根佳恵著、歴史と経済、第193号(200610月)、HPなど

 研究者である著者はグローバリゼーション下にある日本農業を分析するには、逆に1998年に米国系多国籍アグリビジネスであるドール・フード社の日本法人?ドールの日本農業参入を分析することにより、日本農業の姿を捉え、その将来を展望することを狙った。

 ドール・ジャパンは日本独自の土地制度、契約に馴染まないなどの制約を乗り越えて、企業ビジネスとして展開している。図表5の通り企業価値は「高品質で健康な食品の提供」、そのためには「生産から販売までのあらゆる工程(プロセス)をインテグレーションし」「常に創意工夫をもって改善・改革にチャレンジし続ける」と定義している。企業ビジネスモデルの中に、ビジネスプラットフォームを組み込んでいる。

 代表例2-1株式会社ドールは販売、流通、システムを担当し、全体をインテグレーションしていて、例えばスーパーのバイヤーの領域にまで関与している。生産担当の8ファームへは、品目、量、価格、時期、生産方法などを契約で予め決めて、生産させ、全量買い取る。お客様の要請に応えて全国8ファームによるブロッコリーの通年リレー出荷も実現している。

 代表例2-2人事、人材育成、交渉担当の北海道産直センターは、8ファームの人事、人材育成を含めて指導をする。

 

? 「お客さまのニーズに始まりお客さまの口に入るまで」の受注型製造業ビジネスモデル

 上記で紹介した事例1は一農業者から始まり長い年月をかけていくつかの困難を乗り越える過程で獲得したビジネスモデルである。一方、事例2は企業のあるべき姿としてのビジネスモデルとしてはあったものの、日本独自の制度・文化との折合いをつけてインテグレーションしてきた結果の実現解である。

 それぞれが全てのビジネプロセスについて、主体的に、責任を持って取り組んできた結果、行き着いたところは、「お客さまのニーズに始まりお客さまの口に入るまで」の受注型農業製品製造業ビジネスモデルであると言えよう。

特集_関連論文・事例紹介.jpg

4.農業分野への中小企業診断士の支援に関する提案

? 意欲的な先行農業者・農業法人の受注型農業製品製造業モデルの更なる進化と横展開

 事例にみられる通り、意欲的な農業者および企業が開発・構築してきたのは、主として以下の3つであり、これらの進化と横展開を支援する。

? 営業・受注の・調達・生産加工・納品の一貫した仕組みづくり

 

特集_デマンドチェーンの構築.jpg

 お客さまと徹底的に関わり、ニーズ、さらにはクレームを吸い上げ対応することにより繰返し率の高いビジネスモデルを構築するなど価格形成に深く関与していくことが望まれる。さらにいえば新たなニーズ、シーズ、ひいてはビジネスを創り出すエンジンとして組み込んでいくことである。前述したように、受注型農業製品製造業と定義し、意識づけることによって、図表6に示す、サプライチェーマネジメントに加え、成長エンジンを組み込んだデマンドチェーンマネジメントのモデル化の推進が可能である。

? 食品加工分野への進出とシナジーの創出

 市況の影響を緩和し、生産品の特性を活かしつつ高付加価値化していくための食品加工製造分野への進出によるシナジーの創出である。

? 支援基盤・体制の確立

 専門性を高め、高付加価値化を実現していく上での資機材、生産技術、品質管理技術、管理システムなどのシーズ、さらには体現化していく上での自前の人財育成システムの確立を推進する。

 

? 中小企業診断士の支援の枠組み

 この野菜作農業を受注型農業製品製造業と定義できるならば、図表7の通り、とりわけ農協が意欲的な農業者・農業法人に対して十分に応えることができなかった経営のプロセス分野には有効な支援が可能である。中小企業診断士としては従来の「商工」分野に「農」分野を加えることにより「農商工」としてシナジーを創出していくことを支援する。支援の枠組みとしては、農業者・農業法人に直接支援することに加え、農協と連携して支援する。支援施策のスキームとしては、経済産業省の農商工連携促進支援事業でも、農林水産省の農業主導型6次産業化支援事業でもよく、実態に即してあらゆる施策等を活用していく。

特集_受注.jpg

 

5.おわりに

 農業野菜作分野において、受注型農業製品製造業と位置付けることにより「継続企業(Going Concern)」へ向けた道筋を示した。これを推進支援するにあたっては、中小企業診断士が「商工」分野の経験とノウハウを持ち、「農」と結付け、関係支援機関とも連携し「農商工」連携シナジーを創出するための支援が可能であることから適任である。

 本稿が、農業野菜作分野関係者の役に立つことができれば幸いである。



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