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2012.07.28
「飲食店」経営診断のコツ  ?ストアコンパリゾンを生かす?
飲食業研究会 代表 ?田 泰弘
takata@pds.jimusho.jp

はじめに

 飲食業研究会の主な活動は、上記の副題にもある「飲食店のストアコンパリゾン(実地見学)による強みの抽出」です。また、その他に、研究会としての飲食店の経営診断や、会員による飲食店の経営診断の成果発表及び飲食店に関する研究発表を実施しています。
 飲食店といっても企業である限り、通常の戦略策定のプロセスに沿って経営診断を行うのは言うまでもありません。それを前提として、今回は、前半部分で飲食店のストアコンパリゾンによる研究内容を、後半部分で実際の経営診断に当たっての飲食店ならではの"コツ"について述べていきます。


1.飲食店のストアコンパリゾン(実地見学)

(1)ポジティブな目で見ないともったいない

 飲食店のストアコンパリゾンを行うに際して、一番の落とし穴は、ネガティブな目で見てきてしまうことです。特に、職業「中小企業診断士」なんてことになると、思いっきりネガティブに見てくることも多々あります。「この料理の盛り付けはいまいち」だの、「料理の説明が台本棒読みみたいだった」だの、「全体にコストパフォーマンスが低い」だのといった具合です。もちろん、自分の顧客企業に対して経営診断を行うのであればこうあるべきです。問題点を洗い出してこそ改善できるのですから、できるだけ多くの問題点を見つけ出す目は絶対不可欠と言えるでしょう。
 実は、別に中小企業診断士に限ったことではありません。このネガティブな目でストアコンパリゾンを行ってしまうことは、大小問わず外食企業の経営者や従業員にも共通してありがちなことなのです。私自身、前職の外食企業に所属していたときにも、ストアコンパリゾン研修で同様のことを経験してきました。まず、ストアコンパリゾンの目的が明らかになっていないからこういうことになってしまうのです。自社の店舗を改善することが目的であれば、「店の問題点」を見てこなければなりません。しかし、他社から何かを学んで自社に生かそうというのであれば、ポジティブな目で「店の良い所」を見てこないと生かすことができないということです。せっかくお金をかけて他社の店を見てくるのであれば、自社の改善や顧客の経営診断に生かさないという手はないです。
 とは言うものの、この「店の良い所」を見てくる作業というのは結構難しいものです。どうしてもついつい悪い所が気になってしまうのです。それだけに、強い意識を持ってポジティブに見てくることがポイントになります。ものごとは様々な面から見ることができます。例えば、チェーン居酒屋従業員の料理の説明が少し機械的だったとします。それだけを見れば当然マイナス点になります。しかし、小さな店の経営改善に取り組んだことのある人なら、何百もある店の何千人もの従業員全員にきちんと料理の説明をさせることがどんなに大変なことだか分かると思います。「どうやって全員に徹底したのだろうか」と考えていくことで非常に役立つ研究成果になっていくのです。


(2)飲食店チェックシートの活用

 ひと口に飲食店を実地見学すると言っても、何かしらの切り口がないと見る目がブレてしまいます。そこで飲食業研究会では下図のようなチェックシートを使用しています。

特集チェックシート.JPG

 左側の表が実際のチェック項目になっています。右側のグラフは集計結果の強みや弱みをビジュアル化するためのものです。あくまでも経営診断用のチェックシートではないので、通常に見学するだけでは分からないキッチンオペレーションや財務項目は入っていません。大項目は飲食店のQ・S・C・Aに沿っています。Q・S・C・Aそれぞれの意味は、Q(クオリティ):料理や飲み物の品質、S(サービス):接客サービスや顧客対応、C(クレンリネス):清潔さや清掃の度合い、A(アトモスフィーとアメニティ):店の雰囲気と快適さとなります。さらにその大項目について、例えば、Qであれば、料理の盛り付け、味、温度管理、メニューの豊富さ、季節の反映など、Sであれば、挨拶や案内の仕方、料理説明、提供時間、気配りなどに分かれています。最後に価格に対してのバリュー感と再来店するかどうかについてまとめるようになっています。
 採点は、訪問店舗と価格帯が同程度の店との比較を基準に考えます。ただし、あくまでも主観的な評価であるため、単純な点数比較だけでは有意義な情報を抽出することはできません。飲食業研究会では、第一の目的である研究会メンバーのポジティブ眼を養うとともに、多くのサンプルを分析することで主に次のような結果を得ています。

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全体の点数は中央化傾向にあり繁盛店かどうかを判断しにくいが、価格に対するバリュー感と再来店基準で利用者の満足度を測定することができる(特に再来店基準は、「遠くにあっても来店したい」、「近所にあれば来店する」、「たぶんもう行かない」という単純なものだが、集計することでその店に対する総合評価をストレートに表す結果が出ている)。

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料理については、メニュー全体に対する印象よりも名物や際立つ料理がある店のほうが、評価が高くなる傾向にある。

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比較的客単価の低い業態ではサービスや雰囲気などの評価に対する比重が小さく、料理の評価が高ければ満足度が高くなる傾向にある(実際、これまで訪問した店の満足度ベスト5の中には、サービスや雰囲気は平均よりもかなり低い店も存在する)。逆に比較的客単価の高い業態では料理以外のサービスや雰囲気なども満足感に大きく影響する。

 これらの結果以外にも、ポジティブな目で「店の良い所」を意識して持って帰ってくることで、実際の店舗診断において、「改善後の出来栄えの具体例」や「目標とするベンチマーク店」を提示するときなどに生かすことができます。


2.飲食店の経営診断のコツ

 冒頭にも述べたように飲食店の経営診断のプロセスも他の業種と変わりません。当然、環境分析から経営の基本方針を立て、それに基づいてマーケティングその他の機能別戦略を立てていくというものです。その中で今回は、飲食業研究会の研究成果や会員による実際の診断成果を交えながらいくつかの特徴を述べていきます。

(1)経営方針関連

?目標によって経営戦略は大きく変わる
 実際に経営診断を行ったBイタリア料理店では、オーナーシェフとしてプレイヤー志向だと思われていた経営者が、実は、多店舗化して現場を離れて経営手腕を振るいたいとの希望を持っていました。プレイヤー志向と経営者志向では将来の目標が180度異なります。その目標を達成するために、5年後、3年後、そしてここ1年の計画を立てる訳ですから、まずは、経営者の目標を聞くところから始めなければ、とんでもない計画を立ててしまうことになりかねません。

?プロモーション型か店舗改善型かを見極める
 プロモーション型の店舗とは、ある程度店舗の中味は優良なのにもかかわらず、経営資源(特にお金)が少ないため、または、新規客に目が行かなくなったために販売促進が手つかずになり売上不振に陥っているパターンです。稀にこのパターンの店舗に遭遇します。座席数と比較して売上高がどのくらいあるかで判断しますが、ほとんどは新規客に目を向けた販売促進を行うだけで売上の増加に結びつけることができます。
 多くの場合は、後者の店舗改善型(Q・S・C・Aで様々な問題を抱えている)に当たります。一番厄介なのは、改善点がたくさんあるにもかかわらず宣伝すれば売上が増えると考えている経営者です。もちろん、お金をかけて宣伝を実施すれば来店客が増えてある程度売上は増加します。しかし、飲食店としての営業内容が伴っていなければ、来店後に不満を持ったアンチファンを増やすことになってしまいます。せっかくお金をかけて宣伝するならば、それにより来店した顧客がリピーターになったり口コミで他の顧客を呼んでくれたりしなければもったいない話です。ここで重要なのは順序です。まずは営業内容を改善して、「これならばお客さんが増えていく」という状態にしてから宣伝することです。

?メニューは絞るか広げるか
 よく商店街の中にある何でもやっているラーメン屋さんやそば屋さんは、何の考えもなくメニューを広げてしまった訳ではありません。狭い商圏で宣伝にかける資金もない中では、近所の方の要望に応えてメニューを広げて何回もリピートしてもらうしか生き残る道がなかったのです。ですから、逆にメニューを絞り込んだ専門店を目指すのであれば、宣伝や口コミにより商圏を広げることができないと成功はおぼつかないということです。


(2)マーケティング関連

 マーケティングと言えば多くの場合は4Pで考えることが多いです。飲食業研究会でも4Pで考えるのですが、その中でもプロダクトに関しては、Q・S・C・Aのすべてを含めて店舗のプロダクトと考えるようにしています。

?既存メニューは「死に筋」の入れ替えと改善(メニュー)
 既存メニューを見直す場合は一品ずつ細かく見ていくようにします。その中であまり出庫しない「死に筋」メニューについては、切り捨てて新規メニューへ入れ替えるか大幅に改善することを検討します。この場合、「よく出ているメニュー」という基準をどこに置くかということもポイントになります。ヒアリングで「結構出る」というメニューが、実は、1カ月間に10食ぐらいしか出ていなかったということがよくあります。

?こだわりをうたうことで印象が変わる(メニュー)
 診断先のH居酒屋では、これまで280円で売っていた豆腐を450円に値上げしました。しかし、出庫数は3倍に伸ばすことができたのです。もちろん、値上したから売れた訳ではありません。付加価値をつけてメニュー表現を次のように変えることで高く売ることができたのです。メニューの「小書き」や「写真」は重要な販売要素になります。

特集メニュー小書き.JPG

?新メニュー開発は五感に注目(メニュー)
 飲食店の売上高を改善するには新メニューの開発が大きなポイントになります。新メニュー開発に当たっては、「ワザワザそのメニューを食べに来てもらう」ことを達成目標とすることが望ましいです。いくら新メニューといっても、まったく新しいメニューをゼロから開発するというのではありません。有名シェフのお店でも、ゼロから考え出したのではなく、色々なものの組み合わせや工夫によるものがほとんです。診断先の経営者や調理責任者の創造力を膨らますのに、ストアコンパリゾンで実際に見てきたメニューの話は効果的です。また、具体的な開発の考え方としては、人の五感へのアプローチがあります。以下に五感それぞれへのヒントを記します。

1)味覚......△
 重要なのは間違いないが、飲食店として美味しいのは当たり前なので差別化が難しい。
2)嗅覚......△
 焼きたての香りやガーリックなどで演出可能だが、インパクトを与えるのが難しい。
3)聴覚......△
 熱した鉄板などを使い音を立てることが考えられるが、効果が比較的短い。
4)視覚......◎
 盛り付けの美しさや、量目の多さ、形などにより、驚きやインパクトを与えやすい。
5)触覚(食感)......○
 サクサク、コリコリ、モチモチなどの食感によりインパクトを与えることができる。(具体例として、極太のつけ麺や揚げゴボウがたくさん乗ったサラダなどがあります)

?サービス改善はシーンに分解してシミュレーションする(サービス)
 「もっとサービスをよくしましょう」とか「メニューの説明ができていません」などと指摘しても改善されることなどほとんど皆無です。中小企業、特に規模の小さい飲食店では、「何をすればいいのか」だけでなく「どうすればできるのか」が課題となっています。接客サービスを改善していくためには、お客様の来店からお帰りまでを細かいシーンに分けて、実際にシミュレーションしていくことが有効です。その際には、「どうすれば全員に徹底できるか」という具体的な従業員教育にまで落とし込んでいくことが必要になります。

?原価率を一律で考えない(価格)
 H居酒屋では、3切ずつ8品盛った刺身の盛合せを原価率50%で提供することで、売上高前年対比を大幅に改善することができました。ただし、全体の原価率が大幅にアップしてしまったという訳ではありません。コツは、一律に原価率を考えるのではなく、「お客様を呼ぶメニュー」と「もうけるメニュー」を分けて考えることです。特に、「お客様を呼ぶメニュー」については、これまでよりも商圏を広げていくためのキモとなる部分なので、材料費を販促費の一部と考え、「ワザワザ電車に乗ってでも食べに行きたいレベルのメニューを作る」という視点で開発することが大切です。

?値下げをしても客単価を上げることはできる(価格)
 Bイタリア料理店では、セット料理の単価を下げることで客単価を上げることができました。「えっ」と思われるかもしれませんが、セットの値段を下げたことで、これまでスパゲッティーなどの単品を食べていた方が、より高価格のセットに移行したのが原因です。客単価が上がったときには、通常であれば来客数減少への影響を考えなければなりません。しかし、この例では、来店した方が自分の意思で高いものを選んだのであって来客数減少の心配はありませんでした。むしろ、お得でバリュー感の高いセットの登場により、来客数についても増加することとなりました。この例以外にも、単品単価を下げても複食率(お客様が注文する品数)を上げることができれば、客単価を上げることが可能です。

?販促物は目的を考えて作成する(プロモーション)
 店の外に出ているメニューも店内の掲示物もとにかく写真だらけの店や、反対に小さい文字で何が何だか分からない店が結構あります。原因は提示する目的が曖昧なことにあります。通常であれば、店の外に出すメニューや掲示物の役割は、新規客に認識してもらうことや既存客に店を選んでもらうことです。ですから、「入りやすい価格であること」や「美味しさをビジュアルで訴えること」などが主眼となります。また、店内のメニューや掲示物の役割は、「店のこだわりを訴求すること」や「次回の来店につなげること」です。そして、雰囲気の演出を行うことも重要な判断基準になります。

特集メニュー例.JPG


(3)その他

?売上を改善するにはまず自店を知る
 小規模な飲食店では、「何が何食出ているかが正確には分からない」という店が数多くあります。それどころか売上帳さえつけていない店もあります。現状を正確に知らなければ改善などおぼつかないことを伝え、まずは、ランチやディナーなどの時間帯別の売上高と客数から記帳していくようにしていきます。また、月間売上高については常に昨年対比を意識することで、問題をより早く発見できることを理解してもらいます。

?経費管理はFL比率で
 飲食店の経費を検討する際に使われる指標にFL比率があります。F(Food)が材料費でL(Labor)が人件費で、材料費と人件費の合計が売上高に占める割合がFL比率です。一般に、このFL比率は60%以下が適正だと言われています。FL比率が60%で、その他経費が30%だと10%が利益となります。小規模飲食店では実際のFL比率は65?70%であることが多いです。70%を超えると経営が苦しくなってきます。しかしながら、やみくもにFL比率を下げていくのもメニューやサービスの低下により、店そのものの魅力や他店との競争力の喪失につながるので注意が必要です。改善は、材料費であればロスの抑制から、人件費であれば分単位でムダを見直す所から始めます。


おわりに

 今回は飲食店の経営診断について特徴のある部分を、項目ごとのポイントを中心に述べてきました。何かひとつでも参考になるようなことがあれば幸いです。また、機会をいただくことがありましたら、今度は、具体的な診断成果について詳しく述べたいと思います。

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