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2012.08.31
工場診断技術について
工場診断研究会 代表 酒井 幸三
kozo.sakai@catv296.ne.jp

はじめに

 日本経済の復活は強い製造業の再生にかかっていると言われている。
 また、その日本の製造業を支えているのが、中小製造業であり、日本の製造業の特色であり秘密でもあると言われている。
 日本の中小製造業も、かつては親会社や系列に甘んじ親会社の指示により生産し、低価格を武器に一定の売上と利益を稼ぐ比較的安定的なものであったのが、グローバル化により経営が成り立たなくなっていると言われて久しい。
 中小製造業、特に町工場に近い規模のいわゆる「こうば」に対し診断士として何かお役に立ちたい、立てるようにするにはどうすればよいのか、何か診断技術というようなものがあるのか、という考えをお持ちの方は多いと思う。その背景には、全ての中小製造業が駄目になったのではなく、しぶとく生き残り世界でも名を知られるような会社があるという事実もあり「何とかしたい、何とかできるのではないか」という思いや、子供のころ近くに町工場があり、親しみや懐かしさを感じさせること等もあると思う。
 現在あるいは過去において大手製造会社(業種は様々であるが)に在籍経験のある人、ITの市場として中小製造業と関わりのある人、銀行などで融資業務等を担当している人と、動機は様々であるが、それぞれのバックグランドを活かすことで中小製造業に役立つ存在になる(そしてその対価を得る)ことを目指す診断士は多いと思われる。
 工場診断研究会(こうば研)はこうした思いからスタートした。スタートは平成21年、実際の活動は22年1月からであり、今年で3年目ということになる。この3年間「診断」を巡りさまざまな試行をしてきたが、その試行を総括するとともに、具体的な「診断技術」の習得方法についても試案を述べる。

 
1.工場を「診断」することの難しさ(特に新米診断士にとって)

 一口に製造業と言っても、食品から繊維、金属まで多種多様である。金属関連で見るだけでも表1のように多種類である。非金属関連となるとさらに多種類になる。ちなみに、こうば研が訪問(診断が目的ではあるが実際には「見学」)した工場を表2に示す。
 なお、表1の分類は長年大型の鉄構・機械部品設計・生産に携わってきた筆者の感覚で作ったものであり、必ずしも時代に合った適切な分類とはいえない点がある。最近はプレス技術の発達や素材の多様化により、小型部品は溶接による製缶から板金プレスに移っている。また、実際の工場は表2に見るように、分類の幾つかを混在させている。地域的には東京近郊や埼玉近辺では表1の網掛け部の分類に属する工場が多いと思われる。
s-特集_表1.jpg

s-特集_表2.jpg

 
 さて、「診断」という言葉であるが、医者の診断は患者の状態の良否を判断することで、その目的は(結果が悪ければ)治療を施すあるいは処方箋を書くことである。ともかく何か異常を察知することが診断の第一歩である。
 人間の場合、医者に行くのは熱が出る、咳が出るといった不具合な症状が出た場合が主であり、医者の診断は不具合な症状の原因を突き止め治療することである。定期診断を受けることが多くの事業場で義務付けられているが、この場合は潜在的な異常の有無を見ることが診断目的であり、病気の予防には非常に効果的であるが、個人で自主的に受診する人は少ないように思う。
 工場経営の場合、不具合な症状というのは、売り上げが立たない、原価がかかりすぎる等の理由により赤字になるというのが一般的症状と思われる。赤字でなくともギリギリでやっているという経営者が多い。
 表2の訪問実績工場のうち?辻井製作所、?ナガセは優良工場リストから抽出し電話で見学依頼をしたもので、ほかは、先輩診断士や会員のつてで見学させていただいた工場である。しかしながら、実はこのほかに「こうば研」の趣旨を電話等で説明して見学のお願いをして断られた工場が何社もある。断りの理由は「今経営が大変で、とても見学に来てもらう余裕がない」、あるいは「来てもらっても仕事(半製品)が何もない」というものが多かった。
 断られたことは考えてみれば当然で、人間の場合でも病気で苦しんでいるときに医者の卵に診てもらおうという患者はいない。また、工場の経営者は顧客の獲得から材料の調達、加工、納入のすべてを切り盛りしてきている人が多いので自らがその分野の専門家であり、診断士の卵に診てもらおう等という気にはならないのも当然である。
 見学させていただいた工場では「受注が減った、操業が足らない、人件費や材料費が上がった」というような問題を聞いたが、すぐに解決策が見つかるようなものではない。
 仮に診断士がそのバックグランドとして製造業の工場勤務や調達業務の経験を持っていても、中小工場の問題は制約条件が多く、特殊であるので効果的な解決策を提言することは簡単ではない。


2.新米診断士が成長するための道筋についての試案

 上記のような背景において新米診断士が工場の診断技術を身につけ経営者の役に立ち、診断士として将来独立していくためにどうすればよいか、以下試案を述べる。

(1)工場診断士として身につけるべき能力とそのための方法

 以下の2つの能力を身につける必要があると思う。
 
  ? 設備面での異常(アンバランス)を感知する力
  ? 経営者から問題解決を引き出す力
 
 まず?の能力であるが、工場を見せていただいても、財務諸表などの経営データを見せていただけるわけではないし、経営者のお話しを伺えるのも1?2時間程度である。概略の売上高や主な取引先、工場設備・技術の特徴などは話していただけるから、簡単なSWOTくらいは作れるが、それを経営者に見せても評価してくれないことが多い。資料として一見格好はよいが経営者から聞いた話のまとめに過ぎず、実行可能な具体的解決が示されないため、魅力に乏しいからだと思う。
 診断士が得意とする各種財務・管理等の紙に書かれた資料無しで、目で見える工場設備・技術そのものから経営者も気づいていない何らかの異常を読み取り経営者に伝え、興味を引くことが必要である。
 綺麗、汚い、狭い等の感想は中小の工場では当たり前だから、さらに一歩二歩深い観察力が必要である。
 一歩深い視点で異常と感じる点を経営者(社長、工場長)に話をする。「異常」は診断士の常識の目から見た異常であるから、ひょっとするとその異常にその工場の強みがあったりすることもある。いずれにせよ、抽象的な話ではなく現場的な異常を論じ合ううちに信頼関係が築け、大きな症状(赤字等)の解決の相談を持ちかけてくれるかもしれない。
 次に?であるが、中小工場の問題はなかなか一般知識では解決できない特殊な部分がある。したがって、問題解決のアイデアそのものは経営者・従業員から引き出すことが必要である。制度金融等の活用などは診断士の得意領域であるが、そこに行く前段階のアイデア(自社技術を活用した製品企画、コスト低減策、納期短縮策等)は経営者・従業員から引き出すしかない(この引き出す能力は工場診断に限らず、診断士一般に言えることであると思うが)。

(2)能力の身につけ方
 まず?の能力については製造に関わる一般常識(セオリー)をある程度座学等で学び、あとは一つの工場に何回も通い感じたことを短時間でもよいので経営者に伝え意見を聞くことであると思う。これを手弁当で続ける。1回や2回では無く、何度も通う必要がある。企業内診断士であれば時間的制約はあるが、一応生活の基礎はあるわけだから半分趣味と思ってやることはできる。興味と執念の問題である。
 ?の能力については持って生まれたその人の人柄や経験が関係すると思うが、相手から引き出すために最低限工場に関わる工場用語(リテラシー)のようなものは身につける必要があり、これは座学等で学習できる。

 
3.異常(アンバランス)を診る視点の例

(1)大型製缶工場の場合

 表3は筆者が長年携わってきた大型製缶・機械製品の外注先を吟味するときに主として着目していた点をリストアップしたものである。先に述べたように東京周辺では大型の製缶・機械工場が少ないのでそのまま役立たないとは思うが視点の例として載せる。また、図1は大型製缶・機械工場のレイアウト例である。この例は材料搬入から製品組み立て出荷までの製造の流れに沿ったレイアウトであるが、多くの中小企業(特に町工場)では面積の制約からこの流れが作れない場合が多い。その場合、製品の素材加工から組み立て出荷までを複数会社で分業して行うこともあるが、製造の流れがあることは変わりがなく、「異常」を見る上での参考になると思う。
s-特集_表3.jpg

s-特集_図1.jpg


(2)町工場(板金プレス)のレイアウトの例

s-特集_図2.jpg


 図2は板金プレスを主とする町工場のレイアウト例である。この工場はプレス機械による加工が主で、その他に筺体を作るなどしている。本図は1階部分であるが、作業エリアが狭いのが目立つ。作業エリアおよび素材類の保管場所確保を目的に、中2階を設け活用している。
 この例に限らず、一般に町工場は作業エリアおよび素材の管理スペースが狭い。積まれた素材の上で溶接・組み立て等の作業をしている例もよく見かける。改善策としては素材を横に寝かすのではなく縦置きにすることや、使用頻度の少ない機械は撤去することが考えられる。図2の工場の1階部分は見学時点では社長が1人で全工程の作業をしており、このレイアウトについては「一見狭いが1人で作業するには適したレイアウトかもしれない」という指摘がこの工場を見学した会員からあった。常識的には弱みに見えるところが強みであるということは、町工場の場合よくあることであり、それだけに町工場の診断は難しい。


4.まとめ、今後の課題

 本稿では、経営者との対話、信頼関係構築のための第1ステップとして工場設備の「異常」を見つける視点の例を述べた。設備以外では、その工場の技術レベルや特殊性について経営者からの聴き取りだけではなく、他見学工場との比較や業界データ等からソフト面での「異常」を見つけだすことも必要である。
 こうば研では、ベテラン診断士や外部講師のお力を借りながら、会員による座学や見学会および見学後の意見交換により、リテラシーや異常を見つけだすヒントを少しでも学ぶことができればよいと考えている。
 こうば研では、ベテラン診断士や外部講師のお力を借りながら、会員による座学や見学会および見学後の意見交換により、リテラシーや異常を見つけだすヒントを少しでも学ぶことができればよいと考えている。

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