TOP >> コラム >>  寄稿 >>  シリーズ 営業秘密管理 第1回 営業秘密管理に関するこれまでの施策について
コラム
最新の記事
月別の記事
2012.10.23
シリーズ 営業秘密管理 第1回 営業秘密管理に関するこれまでの施策について
経済産業省経済産業政策局知的財産政策室 企画一係長 根橋 広樹
 
 営業秘密の管理について、中小企業へのコンサルティング業務などを行っている方々に知ってもらいたいことなどを3回に分けて情報提供する予定である。今回は経済産業省の取組や現状について説明させていただく。
 
1.知的財産の秘密管理が求められる背景について

 知識集約型経済の急速な発展に伴い、各企業がその競争力を強化していくためには、無形の経営資源である技術やノウハウなどの知的財産の管理・活用を重視した経営方法やビジネスモデルの構築が重要となる。すなわち、事業者は、自身が保有している知的財産に関して、それぞれの知的財産の内容・性格に応じて、権利は取得せず積極的に広報していくか、特許等の産業財産権を取得するか、秘匿し秘密管理下に置くべきかなどの選択肢から適切な方法を選び、管理した上で、それぞれの知的財産を組み合わせて活用することにより、新たな価値を生み出す力を得ることができると考えられる。

 特に、知的財産の管理においては、顧客情報などの特許等になじまない営業情報や、出願公開によって情報の内容が公になることで大きな支障が生じるなど権利取得になじまない技術情報に関しては、秘密として管理することが必要となる。

 各企業が秘密として管理している知的財産の多くは、事業活動を支える現場の労働者や技術者の長年の努力と事業者の多額の投資の結集であり、事業者の収益を生み出す源としての価値を有している。また、国際競争を勝ち抜いていくために、自社の技術等に加え、組織外部の技術等も活用しつつ、新しい価値等を創造するオープンイノベーションの促進が求められており、これを実現するためには、事業者間で相互に競争力の源泉となる企業秘密を開示しなければならない場合もある。これらの状況から、知的財産を企業秘密として管理・活用する場合には、保管方法や秘密保持の契約内容等を十分検討し、実践する必要がある。

 さらに、最近、鉄鋼メーカーが高機能鋼板の製造技術を不正に取得・使用したとして元従業員と韓国企業に対して、不正競争防止法(以下「不競法」という。)に基づく損害賠償請求等を求めて民事訴訟を提起する事件や、工作機械メーカーに在職していた中国人の従業員が、同社のサーバーにアクセスし、秘密情報を不正に複製して持ち出していた疑いで立件される事件など、企業秘密の流出が疑われる事例が明らかになり、知的財産の管理に関する関心が高まっているものと考えられる。

2.これまでの経済産業省の取組

 前述のように知的財産の管理等が求められる中、経済産業省においても、これまで技術情報や顧客情報などの漏えい対策として不競法の改正を中心に対策を進めてきた。

 不競法に営業秘密に関する規定がはじめて置かれたのは、平成2年のことである。WTOの前身であるGATTのウルグアイランド交渉において、営業秘密の保護のニーズに関して国際的な議論がなされたことを受けて、不競法において、営業秘密の不正取得行為等を「不正競争」とし、新たに差止請求等の対象とした。

 平成15年には、平成14年に策定された「知的財産戦略大綱」を受けて、営業秘密の不正取得等に対する刑事罰が新たに不競法に規定された。その後も、平成17年に営業秘密の日本国外での使用・開示行為や一定の条件を満たす退職者の営業秘密の使用・開示行為を処罰する旨の規定が設けられ、また、平成21年には目的要件を拡大(「不正の競争の目的」から「図利・加害の目的」に変更)するとともに営業秘密を不当に保有する行為(領得行為)について新たに処罰対象に追加するなど罰則に関する規定の整備を行ってきた。さらに、平成23年の改正によって、営業秘密の内容を公開の法廷で明らかにしない旨の決定(秘匿決定)等を行えるようにするなど刑事訴訟手続の整備を行っている。

 また、「知的財産戦略大綱」には、「企業が営業秘密に関する管理強化のための戦略的なプログラムを策定できるよう、参考となるべき指針を2002年度中に作成する」ことが盛り込まれており、これを受けて不競法による保護を受けられる情報の管理方法等を説明する「営業秘密管理指針」を策定・公表した。さらに、製造業を主な対象に、海外展開等をする場合において、意図したまたは想定していた技術移転の範囲を超える「意図せざる技術流出」が起こることを防止するために、技術流出が発生する主なパターンを紹介するとともに、その対策を提示する「技術流出防止指針」を策定・公表している。なお、営業秘密管理指針については、事業者の実態を踏まえた合理性のある秘密管理方法の提示や、中小企業等による管理体制の導入手順例や各種契約書の参考例等の提示を行うなど、累次の改訂(最終改訂:平成23年12月1日)を行っている。(※1)
 
3.各企業における営業秘密管理に関する取組の現状について

 不競法における営業秘密保護の規定の整備に伴い、各企業において知的財産を秘密として管理する際に、「不競法の保護を受けられるように体制を整えること」と、「確実に管理し絶対に漏えいしないようにすること」を区別することが重要となってきているものと考えられる。

 絶対に漏えいしないように万全の管理体制を敷くことは企業にとって大きな支出も伴うこととなるため、すべての重要な情報をそのように管理することは現実的ではない。そこで、企業にとって重要な知的財産の中でも事後的な保護(損害賠償請求等)を受けることで対応が可能なものについては、漏えいした際に不競法を活用できるようにするため、最低限不競法で保護を受けられる管理を目指すことが重要となる。

 不競法の保護を受けるためには、不競法第2条第6項に規定される3つの要件、すなわち、?秘密として管理されていること(秘密管理性)、?事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)、?公然と知られていないこと(非公知性)、を満たすことが必要となる。(※2)

 しかしながら、過去の調査によると各企業の情報管理の状況はそれほど芳しいといえる状況にはない。(※3)

20121023_sagawa_08.jpg
 例えば、平成20年度に経済産業省が実施した調査(※4)(図表1)では、「特に管理を行っていない」企業の割合は低いものの、個別の項目について見るとほとんどの企業が実施している項目はないという状況が伺える。その中でも、「媒体の廃棄」、「外部からの侵入に対する防御」は他の項目と比較すると実施率が高く、逆に「持出制限」、「施設などの入退室管理」は全体的に実施率が低い。


 また、「技術に関する情報」は他の情報資産に比べるとやや実施率が低いという結果になっている。さらに、ここでは技術に関する情報のみを示しているが、いずれの情報資産においても概ね企業規模による実施率の高低が見られる(図表2)。

20121023_sagawa_09.jpg
 当該情報が営業秘密であるという認識可能性を高める観点などから、人的な管理において重要性が高いと考えられる秘密保持契約等の締結状況について、企業規模別に取組が大きく異なっており、小規模企業では何もしていない企業が4割弱になっている。また、大規模企業においても、一般的・包括的な秘密保持義務しか課すことのできない「入社時」や「就業規則」での対応が多く、秘密としなければならない内容が明らかとなる「プロジェクト毎」や「退職時」に契約を締結している割合は低くなっている(図表3)。

20121023_sagawa_10.jpg
 以上のように、物理的管理、技術的管理、人的管理のいずれについても、我が国の企業全体を見渡すと不十分な面があることは否めず、企業にとって重要な知的財産が漏えいしてしまった場合にも不競法の保護を受けられない場合があり得るものと考えられる。
 
4. これからの施策について

 各企業の営業秘密の管理に関する取組が未だ不十分であり、また、実際に大規模な流出事例が発生したことなどから、平成24年5月29日に知的財産戦略本部において決定された「知的財産推進計画2012」(※5)では、「技術流出に関する実態について、調査・分析を行い、技術流出防止に関する取組を推進する」ことが盛り込まれた。これを受けて、当室では人材を通じた技術流出に関する調査研究を進めている。

 具体的な調査内容としては、
  ? 営業秘密の管理や流出の規模等に関する実態調査
  ? 実態調査の結果を基に企業における営業秘密管理の実態を更に詳細に把握するためのヒアリング調査
  ? 競業避止義務契約や秘密保持契約など人を通じた技術流出を防ぐための効果的な対策を取るための文献および裁判例の調査
  ? ???の調査結果等に基づき、学識経験者等により構成される調査研究委員会において企業の取り得る対応策のあり方の検討
 などを行うこととしている。

 これまでも、必要に応じて営業秘密の流出や管理実態に関する調査を実施してきたが、営業秘密の流出が日本経済に与える影響などに関しては必ずしも十分な調査を実施できていなかったため、?の実態調査では営業秘密の漏えいによる損害規模などに関して調査を実施している。

 ???までの調査内容については、平成24年度末までに取りまとめ、今後の施策に反映させていくことを予定している。
 
 
5.中小企業へのコンサルティング業務を行っている方々への期待

 上述のように、経済産業省では、知的財産の管理を推進するためのさまざまな取組を行っており、現在もさらなる取組強化に向けて検討を行っている。しかしながら、知的財産の管理に関する取組を進めていくためには、経済産業省において取組を進めていくのはもちろんではあるが、知的財産を現に有し、活用している企業等において営業秘密の管理に関する意識の向上や実効性の確保を進めていくことが不可欠である。

 特に、中小企業においては、情報の管理があまり進んでいない状況にあるため、中小企業の経営診断や助言を行う際には、当該企業における企業秘密の管理に関しても念頭においていただきたいと考えている。

 次回以降は、主に中小企業へのコンサルティングに関わる方が各企業に助言するにあたり、知っておいていただきたい情報(営業秘密として管理するための手順等)を「営業秘密管理指針」の内容を中心に紹介することを予定している。
 
 
※1 「営業秘密管理指針」および「技術流出防止指針」は、経済産業省ホームページ
<http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html>に掲載している。また、同ホームページには、営業秘密管理指針の内容をコンパクトにまとめたパンフレットに関しても掲載している。
※2 不競法第2条第6項では、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」と規定している。
※3 ここで取り上げたすべて項目を実施していないと秘密管理性が満たされないというわけではない。「営業秘密管理指針」の「参考資料1 営業秘密管理チェックシート」は、過去の裁判例を踏まえ、管理方法を中心として項目化し、特に重用視されているものについて重み付けすることで、不競法の営業秘密の要件である秘密管理性が肯定される可能性の高い管理を実践しているか否かについて診断するために作成されているので、参照いただきたい。
※4 経済産業省(委託先:株式会社帝国データバンク)「平成20年度知的財産の適切な保護・活用等に関する調査研究,各種主体における営業秘密の適切な管理手法調査研究」
<http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2009fy01/0019931.pdf>
※5 知的財産推進計画は、知的財産基本法第23条に基づき、知的財産の創造、保護および活用のために政府が集中的かつ計画的に実施すべき施策に関する基本的な方針などの事項を定める計画である。
「知的財産推進計画2012」については
<http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku2012.pdf>参照

TOP