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2012.11.28
シリーズ 営業秘密管理 第2回 営業秘密管理の手順等について
済産業省経済産業政策局知的財産政策室
企画一係長 根橋 広樹
「シリーズ 営業秘密管理」(全3回)の第2回目は、知的財産としての営業秘密管理の利点や営業秘密の指定の手順等を扱う。
1.知的財産としての営業秘密について
まずは、営業秘密を管理することの意義を考えるため、知的財産としての営業秘密の利点を特許権と対比することにより確認する(※1)。
第1に、当該知的財産を独占的に使用できるという点がある。特許権を例に考えると、特許権の取得により譲渡可能な排他的な権利を取得することができるが、その期間は原則として最大20年間に限られる。一方、知的財産を営業秘密として秘匿していれば、情報漏洩等によってその内容が明らかにならない限り、期間の制限なく独占的に使用することができる(※2)。
第2に、営業秘密を使用した製品等の模倣を防ぐという点がある。特許権の取得に際して、特許出願の内容は出願から一定期間後に公開されるため、他社に模倣されるおそれや周辺特許を取得され実施が困難となるおそれがある。一方、営業秘密に関しては、それが化体した製品等を解体され分析されることなどにより、営業秘密の内容を模倣されるおそれはあるものの、完成品から特定することが困難な情報については、模倣されるおそれが低い。
第3に、法律で保護されるために手続関係の費用が発生しない点がある。特許権の取得に当たっては出願料や出願審査請求料が必要となり、さらに特許権設定の登録がなされた後も特許権を維持するためには特許料の納付が必要となる。また、国際出願を行った場合にはそれに係る経費が必要になるなど、特許権の取得・維持にはさまざまな手続関係の経費が必要となる。一方、営業秘密に関しては、管理のための費用は発生するものの、不正競争防止法で保護される営業秘密とされるために義務づけられている費用負担はない。そのため、工夫次第では特許よりも経費を抑えることができると考えられる。
なお、知的財産の管理に関しては、営業秘密として秘匿することや特許権などの産業財産権を取得すること以外に、「積極的に公開」し、産業全体の発展や参入企業の増加を図ることで、最終的に当該企業の利益獲得につなげていくという方法もあり得る。
知的財産を戦略的に運用し経営に活かしていくためには、特許権等の産業財産権の取得・実施だけを目指すのではなく、企業の経営戦略に沿って個々の知的財産についてどの管理方法を取るかを選択し、それぞれを組み合わせながら活用していくことが必要である。
しかしながら、経済産業省が平成20年度に実施した調査(※3)によると、中規模企業において「情報の秘密区分の設定」を行っていると回答している割合が「技術に関する情報」では約28%であり、最も高い「経営戦略に関する情報」でも約38%に留まっている。また、平成24年度の調査(速報版)においても、営業秘密とそれ以外の情報を区別していると回答したのは、製造業の従業員300名以下の企業では約48%、非製造業の従業員300名以下の企業では約54%に留まっており(※4)、中小企業ではそもそも秘密として管理するべき情報の設定があまり行われていないことが伺われる。このことから、特に中小企業においては、営業秘密を有効に管理・活用し、企業の経営戦略に活かしている企業はまだ限られていると示唆される。
2.営業秘密管理の手順について
営業秘密を有効に活用した、戦略的な知的財産の活用を行うためには、営業秘密として管理するべき情報資産を見極め、適切な管理をすることがまずは必要となる。
以下では、「営業秘密管理指針」参考資料4「営業秘密を適切に管理するための導入手順について」(以下「参考資料4」という。)等に基づき営業秘密管理の方法に関して説明していく。まず、営業秘密管理の手順を概観すると、以下の通りとなる(※5)。
①自社が保有する情報資産(※6)の中から「自社の強みとなる情報資産」を把握し、さらにその中からどの情報資産を営業秘密として管理するかを判断する。
②営業秘密として管理すると判断した情報資産について、現状の管理体制(保管状況、従業員の認識状況等)の水準を把握する。
③事業者の規模や業種、現状の管理体制等を踏まえながら、情報資産の重要性に応じた管理のルール(営業秘密として管理する情報資産の決定手続を含む)を具体的に規定し従業員に周知するとともに、重要な情報資産を実際に決められた方法で管理する。
④営業秘密の管理体制を構築した後、指定された管理ルールが適切に実践されているかについて、確認し、それに基づき見直しを行う。また、営業秘密として指定すべき新たな情報資産が創出される場合等、必要に応じて、自社の強みとなる情報資産を適切に把握するための見直しを行う。
原則としてこの手順に沿って営業秘密管理の体制を整備することが望ましいと考えているが、実施する際の注意点として、情報資産の管理に投資できる資源が限られる中小企業においては、複雑な管理体制を構築した場合には十分に実践できないことが考えられる。そのため、まずは無理のない範囲内で管理体制を構築し、企業内で実効的に管理できていることを確認してから、必要に応じて、追加の管理方法等の導入を検討するなど、段階的に管理体制を充実させていくことが望ましい。
例えば、情報資産の重要性等の水準に応じて、管理方法を複数設けていると、従業員がそれぞれの管理方法を認識することが難しく、十分に実践できないことが考えられる。このため、はじめて管理体制を構築する際には管理方法を過度に分類しないことなどが対策として考えられる。以下では営業秘密管理の手順①~④について、順番に説明していく。
3.自社の強みとなる情報資産の把握等について
手順①「自社の強みとなる情報資産の把握」の過程については、一見すると営業秘密管理との関係が希薄なように思えるが、重要な情報と認識していないものを十分管理することは非常に困難であることから、適切な管理をするための前提条件を備えるという点で重要な過程である。
「自社の強みとなる情報資産の把握」の方法としては、一連の事業活動の成果物である製品・サービス等のなかで売上高に占める割合の高いものから順番に、高い売上を達成するに至った「強み」を把握し、さらに「強み」を基礎づける情報資産の把握を行うことが考えられる。
具体的な事例に則して考えるために、検査機器を製造・販売している企業が情報資産を把握する手順(※7)を仮想的に検討してみると、
ⅰ)売上が最も高い検査機器について、高い売上を達成するに至った「強み」を検討すると、本商品は、精密な検査が可能である上、その品質が安定していることにより、同業他社の商品に比べて、相対的な優位を有していると判断した
ⅱ)そして、これらの「強み」をもたらしている要因としては、「ミクロン単位で検査位置を調整する技術」と完成品に安定した機能をもたらす「製造工程、設計図面」の2種類の情報資産であると当該企業は認識した
ⅲ)次に「強み」をもたらしている情報資産の管理方法を検討することとなるが、製品を解体することなどにより容易に模倣が可能な「ミクロン単位で検査位置を調整できるための技術」は特許権を取得して管理する一方、不正に使用された場合の立証が困難である上に解体しても技術情報の判別が困難である「製造工程、設計図面」については営業秘密として管理することを決めた
という手順が考えられる。
検査機器の例は技術上の情報に関するものであったが、営業上の情報に関してもソフト販売やソフトウェアの受託開発を主たる事業とする企業の手順を仮想的に検討してみると(※8)、
ⅰ)売上が最も高いソフトウェアの受託開発について、高い売上を達成するに至った「強み」を検討すると、取引先事業者からの細かいニーズに迅速かつ丁寧に対応することによって、信頼を得ていることだと判断した
ⅱ)そして、この「強み」をもたらしている要因としては、長年をかけてデータベース化し、活用している「取引先に関する詳細な情報」だと認識した
ⅲ)次に「強み」をもたらしている情報資産の管理方法を検討することとなるが、有名企業との取引経験があることは「積極的に公開」して広報する一方、個別の取引先のニーズ情報や個別の取引履歴等に関しては当該企業の「強み」の源泉であるとともに同業他社においても営業上の参考となるものであるため、営業秘密として管理することを決めた
という手順が考えられる。
なお、有用な情報資産を把握する過程では、経営戦略を考える上で有用な示唆を得られる場合もあるものと考えている。例えば、ソフトウェアの受託開発等を主たる事業とする企業の例において、最近取引先事業者からニーズが満たされていないなどの苦情が増加しているとする。そこで、細かいニーズに迅速かつ丁寧に対応するために有効だと認識していた「取引先に関する詳細な情報」を精査してみると、最近更新状況や引き継ぎ状況等の不備があって、取引先情報をうまく活用できないことが浮かびあがってくるかもしれない。また、業務プロセスの分析を徹底的に行う中で、どの工程で時間がかかっているのか、不良率が高くなっているのかを社員全員が参加して議論することで、取引先の多様化、製品工程での確認項目の追加など現場レベルでの改善策を決定、実施できることもある。このように、有用な情報資産を把握する活動は、経営改善への示唆を与える可能性をも有している。
図表2は、営業秘密管理の手順①を行う中で抽出されることの多い要素の例がまとめられたものである。これらの内容は、自社にとっては、日々目にするありふれた情報であるかもしれないが、それらの情報資産が「自社の強みとなる情報資産」となっていることが分かる。まずはこのような情報資産を把握することが適切な営業秘密管理の第一歩である。
なお、自社の強みとなる情報資産の特定は、経営改善に関するコンサルタント業務等を行う際にも有効であり、製造プロセスの改善、顧客との関係強化、従業員教育の充実化など多目的で活用されることが期待される(※9)。
次回は、契約等の注意点等を中心に、営業秘密管理の手順②~④について説明することを予定している。
※1 営業秘密のデメリットとしては、自社が開発した後に、他者が同じ技術等を独自に開発した場合には独占できないことなどが挙げられる。
※2 特許権として保護され得る情報資産(発明)をノウハウとして秘匿することを選択した場合は、発明を実施しているまたはその準備をしていれば、その後、他社が特許権を取得したとしても、無償の通常実施権を得られる制度(先使用権制度)がある。
※3 第1回の図表1または経済産業省(委託先:株式会社帝国データバンク)「平成20年度知的財産の適切な保護・活用等に関する調査研究,各種主体における営業秘密の適切な管理手法調査研究」P12を参照<http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2009fy01/0019931.pdf>)
※4 「営業秘密の管理実態に関するアンケート調査」結果概要(速報版)を参照
   <http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/121015HP.pdf>
   なお、「平成20年度知的財産の適切な保護・活用等に関する調査研究,各種主体における営業秘密の適切な管理手法調査研究」とは質問の内容等が違うため、一概に比較することはできない。
※5 「営業秘密管理指針」参考資料4「営業秘密を適切に管理するための導入手順について」P3を基に筆者が一部改変し記載した。
※6 知的財産基本法第2条では、「『知的財産』とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう」としており、知的財産以外の有用な情報を含める意味で、「情報資産」としている。
※7 「営業秘密管理指針」参考資料4の実践例2を基に作成した。
※8 「営業秘密管理指針」参考資料4の実践例1を基に作成した。
※9 有用な情報資産の把握は、「知的資産経営」を行う上でも重要な要素であると考えられる。知的資産経営に関しては、知的資産経営ポータルを参照されたい。
   <http://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/index.html>  

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