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2013.04.27
「街づくりの提言」への取り組み
域研究会 飯島 康
行政とのネットワークづくりを目的に、平成7年11月に設立された「三多摩地域づくりネットワーク研究会」が、その活動の方向を「地域づくり」にシフトし、名称を「地域研究会」と改めたのが平成10年であり、以来、「街づくりへの提言」への取り組みを主体に活動を行ってきた。
今回、「羽村市の街づくりへの提言(平成24年10月31日)」をまとめたことから、中小企業診断士による街づくりへの研究会活動をレポートにまとめる機会をいただいた。
羽村市をはじめ、これまでのいくつかの街づくり、あるいは、地域に生きる産業への提言を行ってきた経験から得られた、街づくり・地域づくりへの対応手法の紹介を中心に、研究会活動としての対応の限界、および、今後の方向について考えてみたい。
1.街づくり、地域づくりについて
研究会において「街づくり」と「地域づくり」の言葉の意味については、特に区別した定義はしていない。しかし、「都市計画」とは若干違うものだと感じている。
「都市計画」は、そこに住む人、利用する人たちがいかに便利で、効率よく暮らせるかといった視点で、道路・交通網の整備、ショッピング街の整備、公共施設の整備等の都市機能の整備計画だと感じている。私見に走りすぎるかもしれないが、「都市計画」の視点は次のようである。
 これに対して、「街づくり(まちづくり)・地域づくり」の考え方は次の通りではないか。
「都市計画」が、都市機能を高めることにより、人々の生活の利便性を高め、生活を豊かにすること対して、「街づくり」は、都市機能がある程度整備された環境の下、人々の生活の多様性、価値観の変化の中で、生活者の暮らしの豊かさ、個人の満足度をどのように満たしていくかであると考えている。
われわれ地域研究会が所属する三多摩支部の地域は、現在、大きな変化の中にあると言える。戦後の早い時期に基盤が作られた大企業の工場が撤退し大型商業施設に変わり、人々の動線が大きく変わり、また、準工業地域内の工場が撤退しマンションが建つことで新たな環境問題が発生している等である。また、交通面でも、多摩モノレール、JR中央線・他の私鉄等の高架化・地下化による人々の流れ、商圏の変化など、地域を取り巻く環境が大きく変化している。
地域研究会では、これら三多摩地域の持つポテンシャルをベースに、街の構造的な変化、人々の生活の考え方の変化等をとらえ、「この地域の生活者の満足」をどのように確保していくかをテーマとしている。
2.地域研究会のこれまでの活動
地域研究会は、一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 三多摩支部登録の研究会で、会員は、現在18名、所属あるいは出身母体は、製造業、サービス業、建設業、金融等々とさまざまであり、プロコン・企業内診断士がほぼ半々のバランスの良い研究会である。
定例の活動は次の通りである。
日時:毎月第1水曜日 19:00~21:00
場所:武蔵野商工会議所 5F会議室
必要に応じて、情報収集・情報共有のため、現地調査、小売店等へのヒアリングを行いながら、「街づくり・地域づくりの提言書」のまとめを主とした活動としている。
直近の10年程度の提言活動の概要を列記すると、次の通りである。
○羽村市への街づくりへの提言~文化あふれる元気な街を目指して~ 平成24年10月
○小金井市への街づくりへの提言~住んでよし、訪れてよしの街づくり 平成23年 3 月
○街の和菓子屋さんへの提言~また行ってみたくなる和菓子屋さん~ 平成20年10月
○安らぎの街 武蔵境駅北口~安心・安全な街づくりへの提言~ 平成18年 3 月
○国分寺市の都市農業 ~農・住近接の街づくりへの提言~ 平成16年 3 月 
また、これ以前には、「立川柴崎の地域づくり」「多摩の地域づくり」「多摩都市モノレール」等に取り組んでいる。これらは、ホームページにも収められていることから、参照していただければ幸いである。(ホームページ http://albs.biz/chiiki/ )
これまで8つの提言書のうち、地域・街へのものが6提言と、地域に深く根ざし、かかわっているものとしての和菓子、モノレールへの提言となっている。
いずれもサブタイトルをつけ、提言の視点が表題から読み取れるようにしているとともに、「小金井市への街づくりへの提言」からは、サブタイトルを実現するためのキーワードを設定し、このキーワードに沿っての具体的な提言を行っている。
3.提言のステップ(診断士としての街づくりへのアプローチ)
「街づくりへの提言のステップ」について、今回の報告のきっかけとなった「羽村市への街づくりへの提言」を参考にして紹介する。
(1)羽村市の概要                【東京都における羽村市】
・市制:平成3年11月1日
・人口:56,062人(平成23年7月1日)
・面積:9.91km2
・一般会計予算:206億円(平成23年度)
・位置:東京都心から西へ約45km
島嶼部を除くと、三多摩の市町村の中で、面積は3番目に小さく、人口は4番目に少ない市だが、西部は、江戸時代の飲み水の確保のため多摩川からひかれた玉川上水の水源地(羽村の堰)として知られる風光明媚な自然を有している。
東部には工業団地を有し、JR青梅線が中央を通り、羽村駅と小作駅の2つを有するなど、小さいながらバランスのとれた、暮らしやすい地域である。
このことを示す1つのデータが「昼間人口指数」である。夜間人口を100としたときの昼間人口指数が99.1と大変にバランスが取れている。
 ・羽村駅西側 多摩川沿いを主体とした観光・旧住宅地
 ・羽村駅東側 市役所、住宅地・大型団地、工業団地、動物公園
市民の第2次産業従業者比率が多摩地区でも2番目に多いことと合わせ、職住近接の過ごしやすい街といえる。
(2)提言のステップと全体スケジュール
提言へのステップは、以下の通りである。
   
当ステップのなかで、研究会として一番重視しているのが、そして結果的に、一番時間がかかっているのがステップ1の羽村市の現状の把握である。以下に、大まかな提言へのスケジュールをまとめた。
平成23年3月に羽村市への取り組みを決定し、4月には現地調査に入った。これは、テーマ決定までに3ヶ月以上を要し、この間に、以前から羽村市の産業振興に係っている研究会会員からの状況報告や基本的なデータの調査等を行ってきたことにもよる。
(3)提言へのステップの詳細
1)基礎データの収集について
◆公共データ
  行政からは、よく調べると実に多くの情報が発信されていることがわかる。
  「長期総合計画」「中期基本計画」やこれら計画の基礎となる「人口統計」「土地利用、農・商・工・観光、環境等に関するもの」「市民へのアンケート調査」等々ある。
  これらは、街づくりの提言への貴重なデータであるとともに、我々が見て、聞いて集めたデータに客観性を持たせ、提言の信ぴょう性を高める位置づけでもある。
◆調査データ
  提言を行うにあたり、最も大切にしたい情報は、中小企業診断士としての五感で集めた情報である。前歴の経験が役立っていることも感じる。観察の深み・鋭さが違うのである。この全てが、診断士としての感性である。過去の調査の例を示す。
 ・羽村市:羽村駅西側・東側を2日に分け、徒歩・コミュニティバスを利用し調査
 ・小金井市:小金井駅南側・北側、新小金井駅周辺を3日に分け、徒歩で調査
 ・和菓子:調査班が、街の歴史ある和菓子屋3件、会員がおのおの2~3件調査
  今回は、「羽村市の印象」として、各地域・施設等を写真入りで紹介している。
2)SWOT分析
 SWOT分析は、経営診断における代表的なツールである。今回は、「街づくり」「地域振興」また、前回の「小金井市」とも似た地域環境であることから、この時のキーワード「住んでよし、訪れてよしの街づくり」などを念頭に、分析を行った。
 ◆羽村市のSWOT分析(抜粋)
強み(S) 弱み(W)
①積極的な男女共同参画社会への取り組み
②市民参加度の高い市政運営の遂行
③交通の便が良い(JR2駅、幹線道路)
⑤基幹産業(自動車)の製造業がある
⑧「職住近接」環境が高い(昼間人口指数99.1)
⑨豊かな自然・地下水や歴史に恵まれている
⑩落ち着いた街並みや動物公園を有している
⑫祭りやイベントが充実し、来場者が多い ①進む高齢者人口の割合、高齢者世帯の増加
②都心への通勤圏としては遠い
④横田基地の騒音に悩まされている
⑤大学や研究施設がほとんどない
⑥特定大企業への依存度が高い
⑦地域型商店街がない(※団地内商店街の衰退)
⑧工業団地内工場跡のマンション建設等宅地化
⑨核になるブランドが弱い(※特産品・観光資源等)
機会(O) 脅威(T)
①元気なシルバー世代の活動
③圏央道の整備が進んでいる
④環境保全への関心の高まり
⑦NPO・コミュニティ・ビジネス等の活動やボランティア活動の活発化
⑨都の「10年後の東京」計画の策定
⑬地域ブランドへの関心の高まり
⑭地域活性化につながる国等の施策
①家庭、地域の育児力低下
②少子化・高齢化の進展
③大規模自然災害発生と防災対策費の増大
④近隣市の商業集積(立川)や大型SCの進展
⑤景気の低迷による消費意識低下の長期化
⑦円高による輸出関連産業への打撃・海外シフト
⑧大手製造業による選択と集中
 ◆クロスSWOT分析
  羽村市の「街づくり」をキーワードにしたSWOT分析を基に、「クロスSWOT分析」結果を示す。紙面の関係で正規のフォーマットではないが、お許し願いたい。
 【機会×強み】 ・市民参加の機会を増やし、市政に活かす取り組みを充実させる。
      ・街の独自性を市外に発信する機会や手段を充実する。
       ・自然をはじめ地域の資源を活かした新たな産業を育成する。
 【機会×弱み】 ・起業促進をはじめ産業活性化策を充実する。
      ・大学や研究機関との連携により技術開発力を強化する。
      ・特産品や観光資源の発掘と育成など、街の独自性を高める取り組みを強化する。
 【脅威×強み】 ・子育て支援や高齢者の生きがい創出の取り組みを強化する。
  ・市内への通勤・通学者の街への愛着を高める取り組みを行う。
 【脅威×弱み】 ・住環境の整備による安心して暮らせる街づくりを行う。
3)羽村市との意見交換会
 研究会の羽村市への情報ポテンシャルが高まった時点で、SWOT分析を行い、研究会としても初めての試みとなる1回目の羽村市役所の産業振興に携わっている部署の方と意見交換の機会を持った。公式的な場ではないことから、お互いの立ち位置が明確でないという不安定さは感じたが、会員のこれまでのつながり、中小企業診断士という公的な使命を持った集団ということで、快くお会いしていただいた。研究会としての取り組みへの想い、羽村市への現状認識、市の方の現状認識等について意見交換を行うことができた。
 公園整備の状況、研究開発機関の現状等での若干の認識の違いはあったが、おおむね、理解を得られたと考えている。これにより、研究会としての提言の取り組みが、現状認識から、「具体的な提言」を行うための新たなステップに入ることとなる。
 これらのステップを経て、まとめたのが前記の「クロスSWOT分析」である。
 
4)提言に向けたサブタイトルとキーワードの設定
 先の「小金井市の街づくりへの提言」では、そのサブタイトルである「住んでよし、訪れてよしの街づくり」への提言へのキーワードとして「ワークライフバランス」「都市観光」「暮らしやすさ」の3つを取り入れ、この分野を意識しての提言を出し合い、整理し、まとめた。今回も、同様の手法を取り入れることとした。
◆「羽村市の街づくりへの提言」のキーワード
  提言の「目標(サブタイトル)」として、まず参考にしたのが、「第4次羽村市長期総合計画」「第5次羽村市長期総合計画(案)」による羽村市の「将来像」である。
 「~ひとに心 まちに風~ いきいき生活・しあわせ実感都市 はむら」
 「人が輝き みんなでつくる 安心と活力のまち はむら」
  この「将来像」と、SWOT分析の羽村市の強み・特徴等から「元気な街」「文化あふれる街」が浮かび上がり、結果として「文化あふれる元気な街」を目標とした。
  この目標を達成するためには、左図のように、①市外に向けた要素として「高いブランド力を持った街」と②市内に向けた要素として「自己実現の欲求がかなう街」の二つの方向性がバランスよく高まっていくことが必要であると整理した。ただし、二つの要素はそれぞれが独立して伸びていくのではなく、右図で示すようなお互いが影響し合って向上をしていくイメージとなった。
5)提言の作成
  以上の提言に向けての基盤を共有化した中で、2つのキーワード
   ①高いブランド力を持った街    ②自己実現の欲求のかなう街
 を意識しつつ、提言の作成を行った。
   提言は、いずれもA4版で1頁以内とし、できるだけ図表・写真等を活用し、読みやすさを念頭にまとめることとし、その構成は、小金井市への提言と同様、次のようにまとめることとした。
  【提言:〇〇〇】:提言として一言で表現
  【提言の想い】 :提言の効果を意識し、提言内容を補足するもの
  【提言の背景】 :現状、現状の問題点、他自治体との比較等客観的な内容
   以上のステップを踏み、提言を行った。具体的な提言の内容は、ホームページを見ていただきたいが、2つのキーワードに沿った提言のタイトルを示す。
Ⅰ.「高いブランド力を持った街」についての提言
 羽村のブランド力向上のために、①市民や事業者が市の魅力を再発見すること、②市外に対して情報を発信すること、の両面から提言を挙げております。多数ある羽村の強みとなる資源のうち、私たちの眼から見て「これは是非とも活用していただきたい」と考えられるものを取り上げてみました。
【提言Ⅰ- 1:マラソンおよびバイクロードレースの開催】
【提言Ⅰ- 2:動物アートの駅前整備で羽村市のPR】
【提言Ⅰ- 3:市内の「宝ものさがし」による市民の意識向上と新たな観光資源の発掘】
【提言Ⅰ- 4:多摩地区の大学とのコラボ「はむら花と水の芸術祭」の開催】
【提言Ⅰ- 5:自然との共生の場・羽村市動物公園】
【提言Ⅰ- 6:チューリップ館の創設による羽村チューリップブランドの向上】
【提言Ⅰ- 7:『水はむら』で"地水地消の街"というブランド化】
【提言Ⅰ- 8:「グリーン電力に取り組む環境都市 羽村」をアピール】
【提言Ⅰ- 9:羽村産 水車で全国一の発電量を目指す】
Ⅱ.「自己実現の欲求がかなう街」についての提言
 羽村市がこれまで培ってきた職住近接の文化や工業、外国人を含めた市民・事業者等への支援を通して、市内に住む人が、「自分の時間を更に充実させたい」「社会に貢献をしたい」「自分の夢を実現させたい」等々の想いを実現するために効果的な「この街に住んでよかったと思える提案」を取り上げてみました。
【提言Ⅱ- 1:「3世代で暮らす住宅」で自己実現を目指す】
【提言Ⅱ- 2:子供園の創設で子育て支援を】
【提言Ⅱ- 3:チューリップ国連の創設により国際交流都市を目指す】
【提言Ⅱ- 4:羽村ワールドカップの開催による外国人との交流】
【提言Ⅱ- 5:外国人コミュニティの組織化による国際交流】
【提言Ⅱ- 6:工場見学の推進で職住近接の街をPR】
【提言Ⅱ- 7:職住近接を活かした新規創業支援事業の実施】
【提言Ⅱ- 8:チャレンジショップ制度による新規創業者支援と商業の活性化】
【提言Ⅱ- 9:羽村農援隊の創設による農業と市民のマッチングを】
【提言Ⅱ-10:ネット上でのビジネスマッチングの実施による工業団地との連携強化】
【提言Ⅱ-11:大学・研究機関との連携による企業の新製品・技術開発力向上】
4.まとめ:提言の限界と今後の方向性
このようなステップを経て、9月末までに提言書としてまとめ10月初旬に羽村市の産業環境部の方、および、羽村市商工会の方に、仮報告という位置づけで、昨年10月以来2回目の会合となる機会をいただいた。
「多様な視点からの提言」としての評価とともに、厳しいご意見もいただいた。
「お金のかかる提案は現状の財政では難しい」
「行政が前面に立ったビジネスマッチングはできるのか。事例を紹介してほしい」
また、
「今回の提言を踏まえ、より具体的な提案を検討していただけないか」
との意見もいただいた。
今回の提言にあたって、我々は「実行の可能性を、提言者なりに頭に描き提言を行う」こととしたが、行政の方は、「本当にできるのか?」「やるとしたらどうするのだ」といった、当然ながら、予算措置、具体的な対応方法をどう描いたら良いかを模索されており、しばしの間、議論が続いた。
提言への真剣な受け止めに感激するとともに、我々の「提案の限界」を感じたのも事実である。
*提言を実現させるための「人」「モノ」「金」「情報」といった行政内部の経営資源等については、理解できていない現実
*羽村市に住んでいる研究会会員はおらず、生活者としての実感は、市のアンケート調査結果だけであった。ある意味、街の外面を見ての「一面的な提言」であった
とはいえ、行政の内部に身を置き、市の運営の実際を理解していることだけが、生活者にとって良い提案につながるとは限らないのではないかとも感じた。
先入観を持たず、ニュートラルな立場で、それでいて街の持っているさまざまな資源のポテンシャルを引き出すという行為は、中小企業診断士の本業である、変化する環境のなかでの企業の位置づけをとらえ、企業の持っているこれまでの実績・経験のなかからその潜在能力を掘り起こすといった視点に通じるものであり、今回の街づくりへの提案にも生かされていると自負している。
また、行政から直接依頼を受け、市等の産業振興策等への提案を行い、実現に結び付けていくことができれば、それは「研究会活動」の究極の姿ではないかとも感じている。
ただし、「通常の研究会活動で行政のニーズに合うスピード感を持った対応ができるか」ということでは一定の限界もあり、たとえば、行政からの要請に対しては、研究会内にプロジェクトを組み、機動性のある対応を行うとともに、調査業務、検討業務に関しては、研究会の定例活動を利用する。そうした活動を通じプロコン、企業内診断士の特徴を生かした対応を行うことで、行政のニーズに応えることができるのではないかと考えている。
 
以上、研究会としての新しい可能性を感じていることを報告することで、今回のレポートの締めくくりとしたい。
【羽村市を通るJR青梅線と羽村駅・小作駅】

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