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2013.05.27
マスターコースで「話す」と「書く」を磨き、独立を目指す
マスターコースで「話す」と「書く」を磨き、独立を目指す
夢をカナエル!プロコン養成マスターコース代表 住田 俊二(中央支部)
hun-sumida@k5.dion.ne.jp
1.夢をカナエル!プロコン養成マスターコースについて
1-1.『マスターコース』とは何か? 研究会との違いは?
 マスターコースは、一般社団法人東京都診断士協会中央支部(かつての東京支部中央支会)独自のプログラムである。東京協会の会員でも他の支部所属の方には馴染みが薄いかも知れないが、『中央支部認定マスターコース管理規則』では、マスターコースについて次のように規定している。
認定マスターコースとは、主に中央支部に所属する会員(以下「中央支部会員」という)で構成する任意団体で、中小企業診断士としての社会的地位の向上を目指し、スキルアップや会員相互の研鑚等を通じ、プロとしての診断実務能力の養成を図り、その活動成果を広く世の中に発表することで、中小企業診断士としての資質の向上を図ることを目的とする独立した組織で、中央支部が認定したものをいう。
 すなわち、マスターコースは、プロの診断士としての診断実務能力の養成を図る組織である。このため、半年とか1年と期間を区切って、その間に上記の診断実務能力を養成し、次の期はまた新たにメンバーを募集して始めるということが多い。年度の区切りはあっても原則としてメンバーやテーマが継続する「研究会」とは、この点がまず異なる。
 また、マスターコースは前記の趣旨から、当然プログラムの内容も盛り沢山となるため、平日の夜だけでは時間が足りず、多くのマスターコースは土曜や日曜の昼間に、1回4~6時間をかけて開催されている。当然、その受講料(会費)のレベルも研究会とは一桁異なり、年間で数万円から十万円以上のものもある。
 現在、中央支部の傘下には、「ものづくりプロコン養成」をテーマにするものや「目標管理」をテーマにするものなど、ユニークな内容の13個のマスターコースがあり、活発に活動している。当「夢をカナエル!プロコン養成マスターコース」もその一つである。
1-2.当マスターコース設立の経緯
 筆者は2004年の中小企業診断士登録であり、登録後すぐに東京支部や中央支会(当時)所属の複数の研究会に参加するとともに、中央支会のマスターコースの一つを1年間受講した。そこで知り合った同期受講生の有志やその知り合いなどが後日集まった際に、「自分たちのような新制度合格者が主体となって運営する、新制度合格者の独立支援のためのマスターコースがあってもいいのではないか。」という話になった。このときのメンバーのうちで最年長であった筆者が代表となり、2007年7月に中央支会の承認を得て当マスターコースを設立した。
 1期生は2008年1月に講座をスタートしたが、2期生以降は毎年「6月始まり⇒6月終了(前の期の修了式と次の期の開講式とを同日に行う)」方式を続けてきている。
 
2.当マスターコースの特色と現状
2-1.マスターコースのテーマ
 当マスターコースは「一緒に仕事を創っていきましょう!」をテーマとしている。
 税理士や社労士など他の士業者と異なり、中小企業診断士の業務範囲には、法的な独占分野はないが、それを逆手にとれば、「他の士業の独占分野以外は何でもできる」と考えることも可能である。そのために、仲間とネットワークを組むことが、新しい仕事を創っていくうえで重要である。そして、プロコンはもちろん、企業内診断士でもこのような姿勢をもつことで、その企業における活動を通して、「診断士の社会的地位の向上」(前記「中央支部認定マスターコース管理規則」)につながると考えている。
 
2-2.コースの特色
 上記のテーマに基づき、当マスターコースでは、診断士に求められるスキルのうち「書く」と「話す」を中心に磨き、独立を目指す(企業内でも診断士としての活動の質を高める)のを特色としている。よく中小企業診断士のスキルとして「書く」「話す」「診る」の3つが挙げられるが、「診る」については実務補習で学ぶ機会があるのに対して「書く」「話す」は公式には機会がないこと、また、自分たちの経験からしても、登録間もない診断士にとっては「書く」「話す」の2つのスキルつまり表現力を磨くことが独立の近道と考えたからである。
 また、毎年9月には1泊2日で合宿を行っている。各自が職務経歴書を披露し、互いにコメントし合うことで、一挙に塾生相互間および外部へのネットワークが広がり、その後の活動レベルを高めている。
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2-3.現状
 現在6期生14名が在籍中であるが、今月(6月)には課題の自主セミナーを終えて卒業予定である。同時に次の7期生が開講する。
 なお、当マスターコースに在籍した1期生から6期生まで計70名のうち、約6割が独立済みで、プロコンとして各方面で活躍している。また、独立していない残り4割の卒業生も、転職したり、企業内で取引先支援部門に異動したりするなど、マスターコースで得た成果に基づき、資格を有効に活用している。
 
3.当マスターコースで得られた成果
 では、当マスターコースでは、具体的にどのように「書く」と「話す」を磨いて、どのような成果が得られるのであろうか。
3-1.「書く」を磨く
 「書く」の側面では、ビジネス誌への論文掲載を目標としている。塾生各自は夏に各自の企画を練り、企画書案として講師に提出する。講師は、ⅰ)テーマは読者に対して訴求力があるか、ⅱ)企画内容が既存のものと差別化できるか、ⅲ)企画の構成(論文、取材、座談会など)の流れに無理がないか、などの点からアドバイスを行う。塾生はそのアドバイスを受けて企画を修正し、秋のマスターコースの場にビジネス誌の編集者を招いて企画をプレゼンする。
 このプレゼンの場では塾生が相互に「執筆応援シート」を書き、企画内容に対して同僚としてアドバイスしたり、執筆の分担を申し出たりする機会がある。編集者はもちろん事前に企画書に目を通した上で参加していただくが、その場で企画が採用されることは少なく、多くの塾生は、「読者の代表」としての立場からなされる編集者の鋭い指摘(たとえば、「この論文は、読者として想定されている診断士受験生のニーズとずれているのではないか?」とか「この分野の論文は多数出ており、読者としては◯◯の点のさらなる掘り下げが読みたいはず」など)に直面することとなる。しかし、挫けずにその後も編集者と何度もやりとりを行って企画をブラッシュアップすることで、最終的には大多数の塾生が在籍中か卒業後半年以内に、『企業診断ニュース』『月刊企業診断』『J-Net21 中小企業診断士の広場』などのいずれかに執筆デビューを果たしている。
 一例を挙げれば、当初「企画書案」の段階では、有名な大企業のユニークな事例を採りあげたいとの内容であった。それに対して講師から「その事例が中小企業にも応用できるという視点を示してはどうか」とのアドバイスが出され、企画書が修正された。編集者からのコメントも得てさらに修正が重ねられ、最終的に記事になったものは、中小企業の事例も豊富に採りあげて、いわゆる「読者目線」の記事になっている。
このように、自分の専門領域について、独りよがりになることなく、読者代表である編集者や、同じ専門領域をもつ先輩、同僚などと意見を戦わせつつ執筆するため、最終的に記事となったものは、読者から高い評価を得ている。
 また、卒業後は雑誌の連載から発展して単著の執筆に至る例も多く、最近では労働調査会「働く・仕事を考える」シリーズなどで、続々と出版デビューを果たしている。
 このような出版となると、対象の読者は雑誌の場合よりも広くなり、中小企業経営者や診断士などだけでなく、一般のビジネスパーソンを読者として想定することとなる。その意味では、たとえば「20代から30代の働く人に、自分自身のキャリアを見つめ直してもらう」などという読者目線を持って執筆することとなる。
3-2.「話す」を磨く
 「話す」を磨くプロセスは、第1回の講座から始まる。ここで塾生は「3分間自己紹介スピーチ」を行う。もちろん事前に予告し、各自準備してきてもらうのだが、実際にはうまくいかないケースが多い。時間的には3分に対して1分近くオーバーしたり、1分余らせたりする例もかなりある。また内容的にも、過不足なく話しきる人は少ない。
 しかし講座の中で、大手研修会社のマネジャーから研修講師のあり方(基本姿勢、講師としてのテーマの広げ方など)を学び、さらに研修講師の先輩である診断士から、クライアントを納得させるプレゼンの実践的な技術を伝授されることで、当初の「自分が話したいことを自分のペースで話す」という姿勢から、「聞き手に伝えたいことを、理解してもらえるように話す」という「聞き手目線」の姿勢を身につけてくる。3月に各自10分間のプレゼンを行う時点では、ほとんどの塾生がこのような姿勢でわかりやすく話すことができ、また時間的にも、10分という設定に対してプラスマイナス10秒程度に無理なく収められるようになっている。
 「話す」ことの最後の仕上げとして、卒業前に「自主セミナー」を開催する。これは塾生6~8人程度でチームを組み、テーマの選定から会場の確保、集客、コンテンツの作成、当日の運営、参加者へのフォローまで含めて自主的に行うものである。過去1期生から6期生までが「事業承継」「創業」「差別化戦略」「キャリアデザイン」などのテーマで計9回の自主セミナーを開催し、企業経営者、一般のビジネスパーソン、中小企業診断士、学生など多彩な人から成る累計200人を超える聴衆に対して、マスターコースでの研鑽の成果を披露した。もちろん、それぞれのセミナーにおいて登壇した塾生は、それぞれの人の最高のパフォーマンスをセミナーで示しており、参加者からいただいたアンケートでは「◯◯について知りたかったポイントがよくわかった」や「グループワークで他の業種の参加者の考えを知ることができた」など高い評価をいただいている。
講義風景(プレゼンテーション実践)
 
3-3.「書く」「話す」成果の具体的事例
 通常、研究会やマスターコースの「成果」といえば中小企業の経営支援が考えられ、過去の巻頭特集でも、そのような例が多かったが、ここでは当マスターコースの特色である「書く」と「話す」による対外的成果の具体的事例をご紹介したい。実際には「書く」と「話す」が複合している場合も多いので、「書く」「話す」の区別はせずに下記の4事例を紹介する。
【事例1】
 A氏は、マスターコースに在籍中の2011年5月より「企業診断ニュース」に『診断士にできる中小企業の資金繰り改善支援』の記事を6回連載し、中小企業の資金繰り改善に診断士が関与する際のポイントを、たとえば「銀行にリスケジュールを申し込む際の注意点」などと実際の場面に即して、わかり易く解説した。
 A氏はマスターコース卒業後に独立し、中小企業の資金調達や資金繰り改善支援を主に行っているが、その経験も踏まえ、2012年5月には労働調査会「働く・仕事を考えるシリーズ」の一環として、単著『銀行なんか怖くない!上手に融資を受けるための銀行取引のコツ』を発行した。ここでは、先代社長の急死でいきなり2代目社長となった息子をモデルとする親しみやすい構成で、中小企業経営者にとっては「厳しい」とか「怖い」というイメージを抱いてしまう銀行とどうつきあえばよいかを、元銀行員の経験に基づき、先の雑誌連載よりさらに踏み込んで、かつわかり易く説明している。
 またA氏は、この書籍の内容に即した中小企業向けのセミナーを開催しているが、銀行の担当者からも聴講の希望があるなど、参加者は広がりを見せている。このように書籍やセミナーにより、中小企業の経営者・経理担当者と銀行の融資担当者との相互理解が進み、その結果中小企業の資金繰りの改善につながれば、これも「書く」「話す」の成果といえる。
【事例2】
 B氏は、マスターコースに在籍中の2012年6月より「企業診断ニュース」に『適切な役員給与の決め方』を連載した。役員給与については税務上の制約が多く、われわれ中小企業診断士としては、ともすれば「そこは税理士の専門分野だから......」として敬遠しがちである。B氏は税理士としての実務経験に基づき、どのような基礎知識を持って、企業経営者にどのようなアドバイスをすれば、中小企業診断士が適切な経営支援をできるのか、具体的で貴重な実務情報を提供している。この点でも「書く」の成果といえる。
【事例3】
 C氏は、マスターコース在籍中より「企業診断ニュース」などに情報セキュリティについての論文を連載し、また東京商工会議所の各支部において「情報セキュリティセミナー」などを開催してきた、この分野における専門家である。縁あって、2011年12月から、「東商新聞」(東京商工会議所の会員8万社に配布)に『中小企業のための情報セキュリティ対策』と題したコラムを6回にわたり掲載した。たとえば情報の「完全性」について「思っているものと違う結果にならないようにということである」と説明するなど、ITに詳しくない中小企業経営者にもよくわかる、丁寧な説明が好評であった。編集者には「◯◯号のあのコラムを読み損なったので、見せて欲しい」との要望も寄せられている。「情報セキュリティ」ということについては、多くの書物が出され、数々のセミナーも開催されているが、中小企業経営者がそれらを読んだり聴講したりしても、なかなか実践にはつながりにくいという難点がある。このコラムは、手軽でコンパクトな形で実践的な知識を提供したという点が成果といえる。
【事例4】
 D氏とE氏は、マスターコースの課題として「創業」をテーマにした自主セミナーを、チームの一員として2010年6月に開催した。実はそのセミナーにはクリエイター関係の出版社の編集者が参加していた。後に編集者からセミナー主催者に問い合わせがあり、そこから話がトントン拍子に進んで、卒業後、両氏はクリエイターの独立を応援する書籍『クリエイターの渡世術』(ワークスコーポレーション)の執筆に参加することとなった。同書は2010年11月に発行されたが、2人はこの中で「独立の形態」や「開業手続き」について十数ページにわたり解説し、クリエイターとして独立を目指す多くの人達に、手がかりとなる有益な情報を提供している。

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 さらに進んで同社は書籍の読者に対するサポートプログラムの一環として、上記の執筆部分をより詳しく解説する「クリエイター独立開業セミナー」を開催することとなった。2011年5月に開催されたセミナーでは、D氏、E氏にマスターコース同期のF氏を加えた3名が講師として登壇し、直接の来場者だけでなく、USTREAMでの同時視聴者を含め約200人のクリエイターや学生に対して講演を行い、質疑応答なども含め「起業前に考えておきたい10のポイント」などの情報を提供することができた。
この一連の流れを振りかえると、自主セミナーで集客に苦労しつつも、多様なルートで一般参加者を募集したことから、編集者の参加を呼び、ここから出版や次のセミナーという「書く」「話す」成果につながったものといえる。
 このほか、多くの卒業生が、産業能率大学などの研修機関や商工会議所・商工会などの中小企業団体で、研修講師やセミナー講師として、直接・間接に中小企業の経営を支援する目的で活躍中である。また、月刊「企業診断」を始めとするビジネス誌への執筆も、枚挙に暇がない。
 
3-4.「診る」成果
 当マスターコースでは、診断士のスキルのうち「診る」については、従来、特にプログラムを設けていなかった。しかし、「書く」と「話す」の実力を磨いた塾生は、その過程で「診る」についても高い能力を発揮できるようになっている。今までに数多くの卒業生が、商工会議所をはじめとする中小企業支援の公的機関で、コーディネーターや専門家派遣などで活躍しており、対外的に成果を挙げている。
4.まとめ
4-1.先輩から後輩へのノウハウの送り伝え
 当マスターコースでは、卒業した先輩が講師や事務局として後輩を指導する仕組みが定着している。これにより、「近い先輩」として親近感を持った間柄で、先輩から後輩にノウハウを送り伝え、さらに発展させることが可能となっている。
4-2.課題への対応
 なお、最近の中小企業をめぐる環境変化に対応して、「書く」と「話す」だけでなく、「診る」の面においても、いわゆる「旬」のコンサルテーマについて習得する必要が増してきた。6期生より「中小企業の海外展開支援」や「事業再生支援」などをカリキュラムに採り入れたのはその趣旨である。
 このようにして、当マスターコースは、さらに実践的な内容を目指して、毎年進化を続けている。

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