TOP >> コラム >>  特集 >>  中小企業診断士がソーシャルビジネス支援に果たす役割
コラム
最新の記事
月別の記事
2013.06.25
中小企業診断士がソーシャルビジネス支援に果たす役割

東京協会認定 ソーシャルビジネス研究会
  
田中尚武、油井文江、兼子俊江、大西純


はじめに

 ソーシャルビジネスを翻訳すれば、社会的責任ビジネスということになるであろう。いま、単に収入を得る手段としてビジネスを考えるのではなく、自分の信念に従って行動を起こし、社会を改革していこうとする、さらにそれを自己実現に結びつける社会起業家が注目されている。
 当ソーシャルビジネス研究会は、そんな社会起業家に注目し、経済至上主義、グローバリズムの先にあるものを見つめ、理論的研究(事例探求、報告書・出版)、プラットフォーム作り(情報交流・マッチング)、ソーシャルビジネス開発、さらにはソーシャルビジネス活動支援などを目指している。以下に研究会、および会員の支援活動による成果の一端をご報告し、中小企業診断士のソーシャルビジネス支援における役割と課題について考察したい。

 
1.研究会によるソーシャルビジネス支援活動

(1)出版による女性起業家予備軍への応援(2012年3月)

 「あなたも社会起業家に!―走る・生きる十五のストーリー―」(冨山房インターナショナル)。女性の社会進出の機運が高まる一方、「私に何ができるか」と自分探しの最中の女性たちは多くいる。本企画は、そうした悩める女性たちに「社会起業」という一つの選択肢を提案し、そっと背中を押したいとの想いからスタートした。単なる女性起業家の事例報告(第一章)に留まらず、さあ始めてみよう!(第二章)と起業のノウハウを教示している。
 取材先からは、「自分の組織を見直す良いきっかけになった」「今後経営アドバイスを受けたい」「PRになり、問い合わせ等が数多く寄せられた」「新規案件獲得などビジネスに役立っている」など、また、読者からは、「ソーシャルビジネスとはこういうことだったのか、大いに刺激になった」「大学院でベンチャーを勉強中だが、ぜひ取材先を紹介して欲しい」などの反響があった。執筆者からは、「活動紹介ツールになっている」などの声が寄せられた。
出版の一例.jpg

(2)スタディツアーによる大震災復興活動支援(2011年11月・2012年7月)

 原発と津波のダブルパンチを受けた福島地区を二度にわたって訪問し、南相馬市・二本松市等多数を視察した。加えて、現地復興の手がかりとすべく植物工場等の可能性を探り、南相馬市の有志と討議を持った。後日、『南相馬市の「仮称」農地活用推進事業(農地への植物工場の立地促進)』を提案した。現地でも「個人向け植物工場」の可能性を探っており、結果として支援アイデアを提供できた。しかし、事業主体顕在化の困難さなど、実現へのバリアは高いのも事実である。


(3)ツール開発とその活用~(社)中小企業診断協会調査研究事業より(2011年)

 当研究会では、事業体がどのような位置づけで活動を開始し、今後どのような方向性を目指しているかを可視化させるため、①事業性および②地域性の二事象によるポジショニング・マップを考案し、活用している。
 横軸の事業性は、指向性として利益を求めている、あるいは結果として利益を計上しているグループを右側に、収支均衡で経営しているグループを真ん中に、赤字あるいは補助金・寄付などに頼って経営しているグループを左側に配置する。縦軸は、活動地域あるいは社会問題をかかえる対象者がどの範囲に及んでいるかをもとに、グローバル、ナショナル(全国レベル)、ローカル(地域レベル)の3つのグループに分ける。事業をマップにプロットすることで、事業の成長過程や現状の位置づけを捉え、進みつつある方向を確認することができる。なお、上図ポジショニング・マップは、「2.(2)地域ビジネス支援の現場から」で詳述する事業をプロットしている。
ソーシャルビジネス.jpg

 以上のような活動をとおして、研究会はソーシャルビジネスの理解と支援ノウハウについて研鑽しているが、多くの会員はさまざまな立場でソーシャルビジネス支援の実務に携わっている。項をあらため、会員による支援事例をご紹介しながら、中小企業診断士としてソーシャルビジネス支援の役割と課題について記述したい。


2.会員によるソーシャルビジネスの支援事例

(1)女性起業家支援におけるソーシャルビジネスの傾向と課題

 女性起業家には、ソーシャル(社会性)を帯びた起業が多い。その課題は、事業として離陸し成長するための経営資源の脆弱性をどう解決するか、にある。実際の支援現場では、「収益を取る」という事業の基本について、改めて確認する必要があるケースも出てくる。これは、女性には非営利のNPO等の活動を出自とするケースが少なからずあり、収益を出して事業を継続する観点に慣れていないこと、また、男性に比べて社会的・就業的な面で、事業マネジメントと距離があったことが背景として指摘できる。これに次ぐ支援として、管理技術的な出入金の管理方法、人の管理、販路やネットワークの強化など、初歩のゼロベースからの支援となることが多い。このため、事業の自立には時間のかかる傾向があるが、粘り強く事業に係るのも女性社会起業家の特徴である。以下でその起業事情を述べたい。

①女性起業家支援がソーシャルビジネス支援になる理由と課題

 日本では年間平均20~30万人の起業家が誕生するが、最近ではその3人に1人を女性起業家が占めている。かくも女性の起業が増えた背景には、次のような点が挙げられる。
a)少子高齢化による国の施策の変化:労働力不足による女性の活用へのニーズ
b)知識産業・第3次産業への女性の高い適性:女性の高学歴化とソフトな感性
c)女性自身の起業意欲の高まり:IT化等による手段の獲得、家庭経済上の理由

 この女性起業家には男性と比べて次のような特徴と課題がある。
a)小規模・身の丈:自己資金のみの起業。過大な成長は望まず、ハイテクよりローテク
b)生き方の選択肢としての「起業」が多い:自己実現志向、社会貢献志向が強い
c)強みは生活・消費のプロ体験、弱みは性差や社会慣習による壁

 課題は次の2点に集約される。
a)事業経営の知識・ノウハウ不足
b)家事・育児・介護との両立困難
男女別の起業時の課題.jpg

 以上の点から、女性の起業家の多くが社会起業家となる因果は容易に推定できるところとなる。すなわち、彼女たちの願望は、生きて働く身の回りの問題を自分の問題として解決したい、社会の役に立つ事業で、自らの生き方や自己実現の道を開きたい、それを手の届く範囲でやりたい、という点に集まるからだ。それはソーシャルビジネスのエッセンスである「主体性」「精神性」「社会性」とピッタリと重なるものである。

②女性起業家の支援事例

 筆者の支援事例でも、自分の親が受けた高齢者向けデイサービスの貧弱な水準に憤りを感じ、異業種に転じて起業したケース、人生の大半を婚家の家業に従事した後、自分の価値観を生かした地域文化を大事にする別業態を起業したケース、自分のキャリアチェンジに苦労した経験から女性が生き生きと働けるキャリア支援事業を起こしたケースなど、女性の起業には社会の課題と主体的に取り組む事例が多い。
 以下に挙げた起業例はその一部であるが、教育・医療・生活サービスはもちろん、その視線は国内だけでなく、グローバルにわたる価値の追求事例となっている。詳しくはソーシャルビジネス研究会で上梓した「あなたも社会起業家に!-走る・生きる十五のストーリー」(前述)を参照していただきたい。
あなたも社会起業家に.jpg

(2)地域ビジネス支援の現場から~地域活性化~

 既存事業の支援において、事業者の想いや事業内容を整理すると、ソーシャルビジネス的な特徴を持つ事業だと認識できることがある。その際は、課題解決型ビジネスというミッションに立ち戻り、ビジネスモデルをデザインし直すことで、新たな展開が拓けることもある。以下にご紹介するのは、地域活性化に取組む事業者の事例である。

①事業の概要

 事業者は、桑の葉の研究に没頭した妻の父の想いを受け継ぎ、桑に所縁のある地で桑の葉商品を開発し、製造販売する若い夫婦である。消費者向けに販売していたが、リピート客を獲得できず、資金は底をついた。確認すると、広告代理店に勧められるままチラシを撒き、ホームページもしくは電話で注文を受けている。チラシ配布は国内の「どこか」にスポット的に配布される。配布計画はなく、いわゆる爆弾投下型である。夫婦の問題は経営知識が皆無であること、チラシで獲得した顧客に丁寧なフォローをし続ければ次の注文につながるという思い込みであった。支援の入り口は管理技術の強化であり、地元商工会等で開催する経営塾を受講して経営の基本を理解することからスタートした。現状の問題、やりたいことを一緒に整理する中で、夫婦はこの事業をとおして、疲弊していくこの地域に地域資源を活用した産業を興して元気にしたいとの「想い」を抱いていることを確認した。

②支援内容とその成果

 ひとり相撲をしている夫婦に、「想い」に共感してくれる「仲間」を集め、自分たちにできないことは協力を得ながら、ともに地域資源である桑を経済価値に変えて、地域活性化させていくビジネスモデルを提案した。商品はまず地元の人々に愛されなければならない。足元からの再出発である。チラシは即刻中止したが、その決断は怖かったと後に話してくれた。地元や県内での人的交流はなかったので、まず地元の活動に参加して地域の人々と繋がるようになった。支援機関が開催するマッチング会などにも積極的に出て「想い」を語るようになったところ、共感する事業者が現れるようになった。支援機関の紹介もあって、当社の桑葉粉末を使って新しい商品を開発したり、売場を提供してくれたりする事業者が徐々に増え、地元特産品の一つとして取り上げられるまでになった。そうした機運が地元メディアを動かして各種取材を受けるようになり、地元テレビ局の取材では「想い」を自らの声で県内消費者にも届けられるようになった。製薬会社との継続契約がとれ、資金繰りの融資もとおった。現在は工場を増床し、農業生産法人の立上げに取組んでいる。「少しずつやってきたことが実ってきて、しっかりと希望が見えてきています。桑の葉の生産者にもたくさん作って欲しいとお願いしています。」(事業者メールより)
 ソーシャルビジネスには、「何とかしたい(社会的課題の解決)」という事業者の強い「想い」がその根底にある。それを周囲に伝えることで、共感した人々の「協力」「連携」が得られて事業が動き出す。同じ想いを抱く人々とともに成長するのがソーシャルビジネスといえる。診断士には、そのスキームを理解した上で、事業者の「想い」を受け止め、具現化する支援が求められる。


(3)逗子市におけるソーシャルビジネスの実際~まちづくり支援~

 診断士がソーシャルビジネス支援と関わる方法の一つは、その事業体の一員として活動することであり、自ら活動拠点であるNPO法人を立ち上げた会員も多い。その一つ「NPO法人逗子の文化をつなぎ広め深める会(以下、文化の会)」におけるソーシャルビジネス関連の成果を2事例紹介する。

①ゴミ問題に挑む創業支援

 ゴミ問題は全国的な課題であり、逗子市でも最終処分場(埋立て場)はあと数年で満杯になる。さらに、老朽化した焼却施設は現在大規模改修中で、ゴミを他市や民間施設で燃やす処理料金が多大なのが現状である(約1億4千万円/1年間)。燃やすゴミの40%は生ゴミであり、これを少しでも減らすことができれば、最終処分場(埋立て場)の延命化に寄与できるとともに、市の支出も大幅に減らすことになる。以上の背景により、市の重要施策として生ゴミ処理器の普及がある。
 文化の会がプロダクトマネージャーとなり、家庭用生ゴミ処理器「バクテリア de キエーロ」の発案者と製造者をマッチングさせ、さらに市の助成金(購入者に購入代金の2/3を返却)制度をかぶせ、市場導入に成功させた。NHK等にも取り上げられたり、有識者のお墨付きを貰うなど反響は大きく、発売以来4年間で160台(逗子市分のみ)を普及させた。現在は、発案者(キエーロ葉山http://kiero.jp/)に販売元を移し、文化の会は中間支援組織としての創業支援の役目を果たし終えている。なお、「バクテリア de キエーロ」は全国に波及し、陸前高田市の復興支援にも貢献している。http://kiero-hayama.jugem.jp/

②版画カレンダーによる石巻復興支援

 文化の会ではソーシャルビジネスの一環として、毎年カレンダーを発行している。特に平成22年からは、地元の高橋幸子氏の協力を得て版画カレンダー「逗子メルヘン八景」(平成22年版)、「こころのわらべ歌」(平成23年・24年版)、「雨ニモマケズ」(平成25年版)を制作した。テーマからお分かりのように文化の伝承啓発を願っており、毎年好評を得ている。氏は「心の版画家」と言われる名の通った作家であり、東北大震災の被害地の一つ石巻市の出身である。付言すれば、父故英吉氏は石巻市の誇る全国的に著名な彫刻家。そのような関係で、24年版・25年版の収益金は、すべて石巻市へ寄付した。総額55万円強である。
 「雨ニモマケズ」(平成25年版)には復興への願いを強く込め、カレンダー600本を届け、当市の幼稚園、小中高校に配布してもらった。「互の重荷を負い合って 人とくらべるのではなく 自分の内からの喜びを見つけ 野に咲くタンポポのように いつも笑顔で 雨ニモマケズ 光に向かっていきましょうね」は、高橋氏の発刊へのメッセージである。なお、このカレンダーは東京新聞夕刊(平成24年11月11日)の一面のトップ記事に取り上げられ、全国的に反響を呼んだ。
版画カレンダー.jpg

 以上、2事例から感じることは、ヒト・モノ・カネ・情報がビジネスの必須項目で、ソーシャルビジネスも同様であるが、企業と違うのは、起業化のハードルが低く、リスクが少ないことである。そうであれば、ともかくスタートを切ってみること、"小さく産んで、大きく育てる、という思い切りを持つことがポイントだということである。その際、同じ志を持つ人は必ず存在するので、その仲間化を常に頭に置いておくことも重要であろう。
 

(4)企業内診断士のプロボノ活動とその成果

 プロボノは、一般的には「スキルを活かしたボランティア」と言われる。企業内診断士によるプロボノ活動は、本業を通して習得したスキルだけではなく、中小企業診断士としてのスキルを加えた、ダブルスキルを活かすことができるのが、その特徴と言える。以下は、プロボノ活動に取組む会員の活動報告である。

①プロボノ活動の実際

 東日本大震災を機に活動を始めて早くも2年。その間、プロボノ団体のサービスグラントやプロボネットのメンバーとして、非営利団体の支援に携わってきた。今年からは、ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京のパートナーとして、ソーシャルビジネスに取組む団体との協働もしていく予定である。もっとも、企業内診断士は、コンサルティングに必要な基礎知識はあれども、それを活かし、スキルを磨く実践の場が限られているという悩みがある。また、機会があっても、所属企業の兼業規定により有償活動は禁止のケースも多い。その点、無償ながら、コンサルティングの実践の場となり、それにより社会的課題の解決に貢献できるプロボノ活動は、パラレルキャリアを目指す企業内診断士にとって、最適な選択肢の一つではないか。支援の結果、団体の活動がNHKや全国紙で報道されたり、イベント集客数が増加したりと、早期に一定の成果を感じられたのも、プロボノ活動の魅力である。
NPO運営についてアドバイス.jpg

②プロボノ活動に求められる診断士スキル

 これまでの支援先団体が取組む社会的課題は、「障害者の社会参画」「不妊に関する知識啓蒙」「野生動物の保護」「心の病気のケア」とさまざま。各団体に共通するのは、個別課題の専門家であるが、ビジネスの専門家ではないこと、限られた人的資源と脆弱な経済基盤での事業運営である。そのため、約半年にわたる支援期間は、多面的なアドバイスをし、ともに考え、顧客層、提供できる価値、提供方法も段階的に具体化。あわせて、組織内での役割明確化、ステークホルダー分析、外部リソース活用方法など組織基盤づくりも検討した。
 NPO法人は、法制化以来、認証団体数は右肩上がりの状況が続く。そのため、スタートアップ段階での支援依頼も多く、アドバイスを求められる領域も多岐にわたる。事業戦略、マーケティング、組織運営、資金調達など、幅広い知識を習得し、実務経験も豊富な企業内診断士には、そのスキルを活かし、磨くことができる貴重な経験の場となる。
 プロボノ活動は、会社の看板や肩書きは関係ない世界。だからこそ、本当の自分の実力がわかり、社会の中での自身の役割を実感することができる。


3.おわりに

 診断士がソーシャルビジネスの一員として活動するにあたって、大事なことは、以下のようにまとめられると思う。
 ソーシャルビジネスは、活動に取り組む人自身や活動の成果を受け取る人と、さらには地域および社会・経済全体に、新たな経済の価値と、それによる社会の豊かさを作り上げる活動である。とすれば、その役割を担うものは、従来は「行政に加えて、社会指向型企業、市民のボランティアや慈善型のNPO」であったが、これからは、「社会的起業家ないしは社会的企業家、志ある市民=志民」であろう。自己実現を図りながら、社会的課題の解決を目指すということであり、ひいては雇用の創出にも寄与しなくてはならないと言える。
 診断士もこの例に漏れない。専門性を活かす「チェンジメーカー」としての活躍が待たれている。診断士も「チェンジメーカー」としての意識を持つことである。

TOP