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2013.07.26
「中小企業における新卒採用の意義と課題」-中小企業は新卒採用で組織活性化をめざせ-
城西支部・労務管理研究会 大西 俊太

【労務管理研究会(城西支部)について】
 労務管理研究会では、経営の基本である「人」に焦点を当て、中小企業の支援に必要な実践的知識拡充を目的に、人事労務管理制度や人材マネジメントに関する研究を行っています。専門知識と事例発表による実践的な研究活動が特色です。本稿は筆者の個人的見解が中心ですが、研究会での発表を通じた会員相互の意見交換も参考にしています。

1.はじめに
 中小企業では必要な人材を即戦力として求め、育成に時間と手間のかかる新卒採用を行わない企業が大半である。しかし、持続的な成長をめざすならば、新卒採用にも様々なメリットがある。また、近年の就職内定率低迷は、中小企業にとって新卒採用にチャレンジするチャンスといえる。
 そこで、中小企業の採用や人材育成の現状と課題を踏まえ、中小企業が新卒採用を行う意義や成功のための課題を考察することが本稿の趣旨である。また、ここ数年新たに新卒採用に取り組んでいるA社の具体例についてもあわせて紹介したい。

2.中小企業の採用と人材育成の課題
(1)中途・即戦力中心の採用
 中小企業は中途採用を中心に行っているのが一般的である。そもそも、新卒の定期採用を行うほど業務の需要がない。また、何よりも新卒を採用・育成する手間とコストは、中小企業にとってはハードルが高い。
 仮に新卒を採用しようとして募集しても知名度の低い中小企業ではなかなか人材が集まりにくいということもある。
一般に新卒採用では「均質一定水準の人材が効率良く採用でき、白紙の状態から人材育成ができる」という点が最大のメリットといわれる。しかし、育成の時間やコスト、自社の知名度を考えれば、中途採用を優先せざるを得ないのが中小企業の実情であろう。
(2) 現場任せの教育と育成
 また、従業員の人材育成は中小企業にとっても重要な課題であるが、体系的に教育を行っている余裕がない企業が大半といえる。業務の未経験者を中途採用した場合でも、現場で先輩社員についてしばらく見習いとして働いてもらい、自分で仕事を覚えさせる場当たり的なOJTしか行われていないといっても過言ではない。
(3) 従業員高齢化と組織のマンネリ化
 そのような現状で、既存事業の成長も止まった一般的な中小企業においては、従業員も高齢化しつつある。もちろん、例外はあるものの、数十名以上の従業員を抱える一定規模の中小企業でも人材が固定化した組織はマンネリ化し、活気もなくなりがちである。

3.中小企業における新卒採用の意義
(1)新卒採用へチャレンジの好機
 学生が就活に苦労し、内定率が低迷している今は中小企業にとっては新卒採用のチャンスといえる。安定した大企業志向の学生も多い一方で、中小企業で自分を活かそうと考える学生が増えている。そのような学生に自社の魅力やビジョンをうまくPRできれば、中小企業にも新卒採用のチャンスは十分ある。
 民間研究所の調査によれば、学生の民間企業就職希望者を希望先の従業員規模別でみると、「5000人以上」の大企業希望者は2011/3月卒から大幅に減り、逆に「300人未満」の中小企業希望者が増加して、2013年3月卒では逆転した。その後2014年卒でもほぼ同数になっている。
(2)風土改革、組織活性化につながる
 定期採用をほとんど行ってこなかった中小企業にとって、新卒採用をきっかけとして、既存社員に蔓延したマンネリを打破することが可能と考えられる。自社の魅力と将来ビジョンを見直し、新卒新入社員の受入れ体制を作ることを通じて職場環境の整備や人材育成の方針を打ち出し、単なる人材の補充ではなく、組織活性化につなげることもできる。
 後述のA社のケースでは、ベテラン社員が多い職場に元気にあいさつをする新入社員が入ってきたことで、少なくとも職場の雰囲気が明るくなった。後輩に指導する立場になった先輩社員にとっても、良い刺激になっていることは間違いない。
(3)管理者人材の育成・「人財」への投資
 中小企業で新卒者を採用するには、必然的に教育育成のしくみなど受入体制を作らざるを得ない。そのためには、管理者の人材育成も重要であり、新卒採用をきっかけとして管理者自身が人材育成の役割を認識し、「人財」への投資を重視する企業風土が醸成される。
 A社の事例でも、従来「全員プレイヤー」型の組織であったが、経験者主体でベテラン社員が多かった以前に比べ、新卒新入社員が毎年入社して来ることで、必然的に管理者クラスの役割も変わらざるを得なくなっている。つまり、本来の管理者としての役割であるマネジメントや若手の教育育成を優先せざるを得ず、自分がプレイヤーとして動く以上にマネージャーとしての役割を意識し始めている。
(4)業務の標準化とノウハウの組織的継承
 新卒採用を成功させるには、組織として体系的に人材育成を行うしくみが必要である。そのためには、個人プレイの集まりではなく、組織としてのノウハウ継承に向けたしくみが不可欠になってくる。新入社員に仕事を教えていく際にも、まず、現在の業務を整理・改善して、ある程度標準化・マニュアル化することが望まれる。そうすれば、必然的に組織的に承継が行われるようになる。
 この点においては、A社のケースではまだ課題が多い。新入社員を迎えるにあたって、研修用テキストやハンドブック、マニュアルなどを順次作成し、徐々に業務の標準化へ取組んではいる。しかしながら、現場ではベテラン社員がまだ従来の自分のやり方で仕事をする「職人」のままでいるケースも目立ち、新入社員にもとまどいがみられる。

4.中小企業が新卒採用に成功するための課題
(1)経営者の決意とコミットメント
 まず、成果が出るまでに時間のかかる新卒採用を行うに際して、経営者自身が持続的な成長発展と人材育成に取り組む決意を固め、社内外にコミットすることが求められる。既存社員に対しても、自社のビジョンと新卒採用の目的を理解させることが、全社をあげた受入体制整備につながる。単に人員の補充手段として新卒採用を行うのでは意味が薄く、社内の混乱とコストの増加を招き、新卒採用のデメリットだけが表面化する恐れがある。
(2)ビジョン、求める人材像の明確化
 成長発展と人材育成を掲げるからには、当然ながら、自社のビジョン、求める人材像を明確にしておく必要がある。就活を行う学生に、大企業を含め多数の企業の中から自社に注目してもらうには明確なビジョンが不可欠である。
 A社の事例においても、会社説明会で社長が自らのことばで将来ビジョンを熱く語っている。その結果、「社長の経営理念に共感した」「将来ビジョンの説明が印象に残った」という感想がアンケートで多く寄せられ、入社の志望動機にもつながっている。
(3)計画的な定期採用活動の継続
 新卒採用を開始後の2~3年の短期間で成果を期待するのは難しい。新卒新入社員の受入が定着し、先輩から後輩へと受け継がれ、人材育成を重視する企業風土が醸成されるようになるには、5年、10年と毎年定期的に続けていくことが必要だ。
 A社では新卒採用開始から7年目になり、ノウハウや教育・育成方法の蓄積に加え、先輩社員の自覚や福利厚生制度拡充など組織活性化へ向け、一定の成果は上がっている。しかしながら、新入社員の早期離職率は低いとはいえず、さらなる成果へ向けた課題も多い。
(4)自社の「現実と夢」のバランス
 就活サイトや説明会の場で、経営者自身が将来の「夢」、ビジョンを熱く語ることは、中小企業がやる気のある優秀な学生を集めるために不可欠である。無名の中小企業でも、そこで共感を得られれば新卒採用が可能である。
 その反面、現実の仕事や職場の実態もある程度理解してもらわないと、入社後のギャップが大きく、早期離職につながってしまう。「夢」だけを強調するのでなく、「現実」も知ってもらう必要がある。
 A社のケースでは、やはり新卒から数年での離職者が多く、会社説明会や面接に基づいた入社前のイメージと入社後の現実の仕事とのギャップが、かなりの要因となっていることも考えられる。どうバランス良くアピールし、理解してもらうか、今後も課題の一つである。
(5)採用後の育成・キャリア開発体制の整備
 採用できたとしても、受入体制がないと新卒採用は失敗する。新卒者は自分がこの会社での仕事を通じて成長ができると実感できないと、入社早々でもやめてしまう。また、余剰な人員を抱えてはいられない中小企業にとっては新卒といえども早期戦力化ができないと業務に支障をきたす。従って、単なる現場OJTまかせではなく、集合研修や少なくとも数年間のキャリア形成への配慮や人事制度の整備が不可欠といえよう。
 A社でも、新卒採用開始の初年度から、4月の集合研修、その後3か月での各職場ローテーションによるOJT体験、その間の定期的な個人面談など、少なくとも入社1年間の教育・育成を組織として行う体制がほぼ整えられた。今後は入社2年目以降も「かまってあげる」しくみの充実が課題である。
(6)管理者、先輩社員の育成と業務標準化
 新卒新入社員をゼロから教育・育成していくには、先輩社員や上司となる管理者自身の教育も不可欠である。新卒採用を行う企業の管理者には、特に最近の「ゆとり世代」とうまく接し、戦力になるまでに仕立てる部下指導育成力がより問われるようになっている。
 また、仕事を一から教えるには業務の標準化も課題となる。先輩社員によってやり方が異なったり、職場のルールが不明確だったりすると、新入社員は戸惑い、モチベーションも下がり、教える方としてもやりにくい。
 A社においても、新入社員の定期的面談においては、入社後時間が経つにつれて、不安や不満の声も一部で聴かれるようになってくる。具体的には「先輩によって仕事のやり方、言うことが違う」「部署間のコミュニケーションが不足している」などである。
(7)女性の積極的活用と福利厚生制度拡充
 新卒採用には女子の応募も多い。例えば、文系では営業職を希望する女子学生も多く、大企業では総合職として男子と同等に採用されている。しかしながら、女子は企業の安定性や知名度よりも職場の雰囲気や仕事の面白さを重視する傾向がある。また、雇用機会均等法があるとはいっても、女子にとって就活はより狭き門であることも想像に難くない。
 従って、業種にもよるが中小企業には女子の応募が多くなる傾向がある。この点で大企業よりも、むしろ中小企業の方が女性を戦力として活用していくことが、より求められているともいえよう。女性が安心して長く働ける育児休業制度など福利厚生制度の拡充や職場環境の整備も必要である。
 事例のA社でも、デザイン職希望に女子が多い点はあるものの、女子学生の応募が7割近くを占め、会社説明会では福利厚生制度に関する質問も多い。実際に新卒採用にともなって女子社員が増加し、現在では育児休業制度を利用する社員の例も出始めた。また、A社では最近、海外拠点に女子社員を配属するなど女子の人材登用でも成果が表れ始めている。
(8)全社員の協力と効率的採用・教育活動
 中小企業は大企業のように独立した人事部や採用専任担当者を置く余裕はない。また、採用にかけるコストも限られるのが現状である。従って、採用活動には一般社員からの協力も不可欠である。会社説明会や面接においても、会社のアピールの点で一般社員が果たす役割は大きい。また、集合研修も社内において手作りで行うものが中心になる。
 A社は就活サイトへの登録や独自の会社説明会開催など比較的コストをかけているが、自治体や商工会議所などが主催して中小企業向けに行われる合同就職説明会への参加やハローワークの活用など、採用活動のコスト負担を抑える方法もある。
 実際にA社の新入社員研修では、社長自身も講師となる他、業務知識については多くの先輩社員が講師を務め、先輩社員自身にも自覚が高まるという副次的効果が表れている。このようにA社では集合研修、OJTも含めて「全員で教育する」という方針で臨んでいる。

5.ケーススタディ(A社)
(1)新卒採用の経緯と実績
 A社は業界の中でも老舗企業であるが、7年前に現社長が就任してから人事制度改正をはじめ様々な改革を行う一環で新卒採用を開始した。ベテラン社員が多く、「個人プレイ」が中心の社風を刷新し、組織としての会社運営をめざすことで、事業範囲拡大や海外展開も視野に入れた成長戦略を実現することが最終目的である。
 現在、新卒採用は7年目に入っており、採用方法から初期の教育育成制度は定着し、一定の成果を上げたものと評価できる。一方、一般に「新入社員は3年で3割が辞める」ともいわれるように、大企業でも新入社員の離職率が問題となっているが、当社も大差ない状況である。早期離職防止をはじめとして、今後も取組むべき多くの課題が認められる。
(2)新卒採用活動の概要
 例年11月頃から翌々年入社の採用に向けて大手就活サイトでの登録受付を開始し、翌年2~3月にかけて、あらかじめ書類審査(1次選考)のうえで1回あたり学生100名前後の会社説明会を2次選考(グループワーク)兼ねて実施。
 3次選考は学生5~6名ごとのグループ面接を実施、最終的に社長面接を経て採用内定となる。1回あたり5~6名を内定し、このサイクルを2~3回繰り返して、内定者は5月連休明け頃に翌年入社の新卒者10~15名前後となる。
 内定後も7月の現場見学会や11月の内定式・懇親会の最低2回は、入社前に職場や先輩社員と触れ合う機会として設けている。
(3)新入社員受入れと育成スケジュール
 入社後4月の集合研修では、社内での座学が中心だが、外部研修、外部講師、現場見学等も取入れてバラエティに富んだ内容としている。その後に続く6月末までは、OJT体験として、仕事内容の理解と先輩社員との交流を目的に、各職場・職種の仕事を班ごとのローテーションで一通り経験し、その後配属となる。
 後輩の新入社員を迎える直前の翌年3月までは定期的に1日の集合研修と個人面談でモチベーションの維持・確認を行うように配慮を行っている。
 また、新入社員の教育方針として、①早期戦力化、②全員で教育する、③明るく規律正しくしつける、の3点を挙げて、既存社員の受入意識も高めている。
(4)今後の課題
 現時点では新卒採用で一定の成果はあげたものの、十分に成功したといえる段階には至っていない。特に早期離職の防止が大きな課題である。戦力として活躍できるようになる3年目頃までに離職してしまう社員が多いようでは、新卒採用に取り組む意味が薄い。
 いずれにしても、今後もA社では上記のような課題へと取組みながら、新卒採用を引続き行っていく方針である。

6.おわりに
 新卒採用は2~3年続けた程度では十分な成果は期待できないと考え、長期的視点で継続していくことが大切である。新卒採用や教育は、短期的な採算だけを考えれば、中小企業にとって躊躇せざるを得ない。とはいえ、そもそも人材育成は「長期投資」であり、中小企業といえども中長期の成長志向をめざす限り、長期的視点は不可欠なはずである。
 また、新卒採用は中小企業にとって、ビジョンの明確化や人材育成の風土を醸成するなど、組織活性化につながる点で十分な意義があるものと考える。
 学生の就職活動で中小企業が選択肢に入ることも多くなったこのチャンスに、より多くの中小企業が新卒採用へのチャレンジを通じて組織活性化をめざすことを期待したい。

【城西支部・労務管理研究会】
開催日:毎月第2木曜日18:30~20:00
会  場:酪農会館(代々木)
会員数:65名
年会費:6000円

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