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2013.08.29
「医療用医薬品流通の現状と課題」

「医療用医薬品流通の現状と課題」
医薬品等研究会 平田 雄一郎

 医薬品等とは、薬事法で、医薬品、医薬部外品、医療機器、化粧品など、医薬品以外の人の健康に影響あるものをも含め、まとめてさす言葉で、医薬品等研究会は、これら広い分野の産業や技術動向を研究する会です。高齢化やTPPによるだけでなく、今、この分野で大きな構造変化が起こっており、今回、その流れを総括的に考察、報告させていただきました。

1.はじめに
 日本は本格的な少子高齢化社会を迎えて、医療、年金、福祉という社会保障のあり方は、ますます重要となってきた。65歳以上の高齢者が国民全人口に占める比率も高まっており、将来的には3人に1人が65歳以上の高齢者という時代を迎えることになる。現在の日本の社会保障制度を継続することは、財源的にも厳しく、社会保障・税一体改革が、政府によって進められているところである。
 しかし、高齢化社会が進むとともに、さまざまな疾患を伴う生活者が増えていくことも予測され、社会保障における医療の充実は、健康な生活を送るためにまさに不可欠なニーズとなってきた。糖尿病や癌といった難治性疾患に対する画期的な新薬の発売も近年は顕著となっており、医療用医薬品の役割は患者の健康を守るという生命関連製品としての高い付加価値を発揮している。また、希少疾患という、きわめて症例は少ない疾患に対する医療用医薬品の開発に関しても、政府の強力な推進のもと着実に広がりを見せている。
 その医療用医薬品は、患者が病院や診療所を受診して、医師の処方のもと受け取るシステムである。受け取り方は、直接病院や診療所で受け取る場合や、調剤薬局において受け取る場合がある。しかし、患者によっては、その医薬品を服薬し続けなければ、生命の存続に関わる方もいるわけで、医療用医薬品がいつ、どういう場合でも、来院した患者に渡されることが必要不可欠である。
 言い換えると、在庫がありません、ではすまされない、きわめて社会性の高い商品であると言える。また、管理方法も常温や冷温等、一つひとつの医薬品ごとに異なり、徹底した管理も求められる。その医療用医薬品は、公的価格である薬価基準収載された品目として取り扱われており、平成24年4月時点で、薬価収載品目数は14,902と厚生労働省から公表されている。
 この医療用医薬品は、日本の場合、97%は医薬品卸売業経由であり、後発医薬品(ジェネリック)の一部が製薬企業から病院や診療所等の医療機関に直接販売されている。(日本医薬品卸売業連合会 国際委員会報告書から)
 それだけに、日本の医薬品流通を支える医薬品卸売業の役割は重要であると言える。しかし、今日の医薬品流通には、複雑な課題もあり新たな変革も求められている。
2.医療用医薬品流通のマーケット
 医療用医薬品の流通の形態であるが、製薬企業から出荷された医薬品は、医薬品卸売業を経由して、病院、診療所、調剤薬局に配送されている。日本の医療用医薬品のほとんどがこの流通形態である。医療用医薬品は、さまざまな法規制の下、厳格に管理される製品であるがゆえに、簡単に流通できる商品ではない。
 その医療用医薬品は、卸経由で、全国9千軒の病院、9万7千軒の診療所(歯科診療所を除く)、5万1千軒の薬局、合計約15万7千軒への配送が日々、行われている。(日本医薬品卸売業連合会 国際委員会報告書から)
 非常にきめ細かに物流網であることがわかるだろう。医療用医薬品は、生命関連商品であるため、その医薬品を必要な患者が全国津々浦々のどこにいても必ず届けていかなければならない。その意味では、この約15万7千軒の医療機関に、いつでも医療用医薬品を流通させるシステムが不可欠であるわけだ。
 では、医療用医薬品流通のマーケットの規模であるが、図①を参照いただくと、平成22年度では7兆6900万円であることがわかるだろう。過去の販売額の推移を見ても、マーケットは安定的に成長しており、今後の高齢化社会の進展を背景にマーケットは持続的に成長することだろう。また、マーケットの成長には、製薬企業の新薬の発売の影響も大きい。近年は、外資系製薬企業の新薬の発売がマーケットの成長を牽引している要因が強く、この傾向はしばらく続いていくだろう。

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<図①>卸医薬品販売額に占める医療用・一般用医薬品の割合 年次別推移

データ:一般社団法人 日本医薬品卸売業連合会ホームページ

 次に、マーケットの特徴を考えてみたい。医療用医薬品の販売先別のシェアについて、平成22年度は、大病院21.4%、中小病院7.4%、診療所19.7%、薬局50.8%となっている。(日本医薬品卸売業連合会ホームページから)
 つまり、日本は医薬分業の進展に伴い、患者が医薬品を受ける医療機関として、調剤薬局が一般的になってきたと言えるだろう。しかし、医薬品が必要な患者は、外来患者だけではなく、入院患者、在宅医療の患者、介護施設の患者など、さまざまな形態があるだけに、病院、診療所、薬局、それぞれの行う薬物療法の実態にのっとり、医薬品が患者に渡されていることになる。

3.医薬品卸売業の機能と使命
 医療用医薬品を物流する医薬品卸売業の機能と使命は、医薬品流通を支える基本的なビジネス基盤であるとも言える。医療用医薬品は、生命関連製品であり、社会性・公共性を基本として、高い品質管理の下、確実に患者に届けられることが求められる。特別な商品特性を持つ医療用医薬品は、法規制の下、厳格に管理されなければならない。その医薬品の流通特質としては、7点示されている。(日本医薬品卸売業連合会ホームページから)
 (1)品質や有効性・安全性を確保する
 (2)安全かつ安定的供給を行う
 (3)多種多様性に対応する
 (4)専門的知識・能力を持つ
 (5)医薬品情報を収集・提供する
 (6)迅速・的確に供給する
 (7)経済的・効率的に供給する
 また、医薬品卸売業は、流通の特質を背景に、高い倫理観を持って4つの機能を実践している。(日本医薬品卸売業連合会ホームページから)
 (1)物的流通機能
   仕入機能、保管機能、品揃機能、配送機能、品質管理機能
 (2)販売機能
   販売促進機能、販売管理機能、適正使用促進機能、コンサルティング機能
 (3)情報機能
   医薬品等に関する情報の収集および提供機能
   顧客カテゴリーに応じた情報提供機能
 (4)金融機能
   債権・債務の管理、資金運用等を通じ経営資源の効率化を図る機能
 これらの機能を実践し、社会的な評価を得た事例がまさに東日本大震災時の医療用医薬品流通の対応であるだろう。東日本大震災時には、いち早く医薬品流通の供給体制の回復を図り、震災地区への医薬品の流通に地元の医薬品卸のみならず全国の医薬品卸が支援を行い、国民の命を守った取り組みは、評価されるに値するものであった。患者にとっては、その医薬品を飲み続けなければ、生命の危機に至る場合もあるわけであり、日本の医療を支えるという崇高な使命が、医薬品卸売業の根底を支えていると言っても過言ではない。
 首都圏大震災や南海トラフといった将来的に起こると想定されている大災害時においても、医療用医薬品流通が機能できるよう、各医薬品卸売業は日々体制の整備を進めている。

4.医薬品卸売業の経営状況
 医薬品卸売業について、図②を参照いただくと、業界全体としては、平成24年調査では、企業数92社、従業員数55,041人、内MS数18,949人となっているが、年次推移では減少傾向を示している。

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<図②>卸企業数、卸従業員数、卸MS数推移<平成16年~平成24年>

データ:一般社団法人 日本医薬品卸売業連合会ホームページ

 MSとは、Marketing Specialistの略で、医薬品卸売業の販売担当者のことである。医薬品を安全かつ安定的に供給する医薬品卸の役割に基づき、お得意先(病院・診療所・薬局・歯科診療所等)を訪問して、医薬品の配送、紹介、商談、情報収集を中心に活動して、製薬企業のMR(Medical Representative、医薬情報担当者)と情報交換を行い、医薬品の販売促進にも取り組んでいる。
 東日本大震災時は、全国のMSが被災地に出向いて、医薬品の流通網の確保に汗を流したわけであり、まさに、地域医療を支えるためにMS一人ひとりが日々活躍している。
 しかし、経営状況は安定しているとは言い難い。業界全体の経営数値として、図③を参照いただくと、平成24年調査では売上高伸び率4.36%、売上総利益率6.44%、販売費および一般管理費率6.13%、営業利益率0.32%、となっており、収益性が厳しい状況が示されている。
 この背景として、医療用医薬品流通が取り扱う医薬品の公的制度を考えなくてはならない。医療用医薬品は、公的価格いわゆる薬価があり、病院、診療所、調剤薬局は、医療費として薬価費用を患者自己負担と保険償還によって、医業収益を確保している。この薬価は、2年に一回、市場実勢価格調査に基づき価格が改定される。

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<図③>医薬品卸売業の経営状況<平成16年~平成24年>

データ:一般社団法人 日本医薬品卸売業連合会ホームページ

 つまり、安く売れば売るほど、薬価は低く改定される制度である。そのため、製薬企業としては、新薬開発コストの回収と投資の継続のために、薬価改定の価格引き下げの影響を可能な限り回避する価格戦略を一般的には選択しているため、製薬企業から医薬品卸売業への仕入価格は、厳しい交渉が行われている。
 よって、医薬品卸売業としても、病院、診療所、調剤薬局との医薬品の販売価格交渉は、時間がかかる業務となっている。この業務を担うのもMSの役割である。一方、医薬品の購入側の立場としては、できる限り安く購入したいというニーズが働く。それは、薬価差という問題である。購入側としては、保険請求価格である薬価から医薬品卸からの購入価格の差である薬価差は利益となるからだ。しかし、このことが、医薬品流通における価格交渉時に発生するさまざまな課題を露呈させている。

5.厚生労働省の流通改善
 医療用医薬品流通に関しては、平成19年9月28日に、厚生労働省から医療用医薬品の流通改善として、緊急提言が示された。

 図④に示されているように、公的医療保険で使用する医薬品の償還価格である薬価は、医薬品の価値に見合った市場実勢価格を反映させることを前提として、適正な市場実勢価格の形成の必要性が指摘されている。そのための医療用医薬品の流通改善の課題は、価格未妥結・仮納入、総価取引の是正である。これらの課題については、厚生労働省医政局経済課が中心となり、流通当事者(製薬企業、卸売業者、医療機関等)を一同に会して、議論の場を設けて、問題解決に向けての懇談会を継続的に実施している。懇談会は、「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(流改懇)」として、第19回目は、厚生労働省主催のもと、平成24年11月29日に開催されている。

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<図④>医療用医薬品の流通改善の必要性

資料:平成24年3月23日開催「第18回医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」

 ここでいう価格未妥結・仮納入とは、医薬品卸売業と医療機関との間で購入価格は未決定の状態で医薬品が流通されていることであり、総価取引とは、全ての購入医薬品の値引き率を全て一律にする購入方法である。
 正しい市場販売価格が個々の医薬品に反映されなければ、公的な薬価制度の運営に大きな影響があるため、厚生労働省が主体となって流通改善が進められている。しかし、現状としては、改善は道半ばの状況である。参考までに、図⑤に価格妥結状況調査、図⑥に総価取引の現状を掲載している。

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<図⑤>価格妥結状況調査結果 薬価改定比較表

データ:平成24年11月29日開催「第19回医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」
    平成25年2月19日開催「平成24年度全国厚生労働関係部局長会議」

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<図⑥>総価取引の状況表表

資料:平成25年2月19日開催「平成24年度全国厚生労働関係部局長会議」


6.将来の医療用医薬品流通の方向性
 今後も医薬品流通を支える大きな基盤は国民の健康を守るという高い社会的使命であり、公的制度を前提とした医療用医薬品の安定供給が求められるだろう。しかし、日本は、本格的な高齢化社会へ日々向かっている。政府の示す社会保障・税一体改革においては、在宅医療の普及が強く推し進められる方向である。病院の入院病床は今後増える想定ではないため、入院で受け入れられる病床が増える見込みはなく、多くの高齢者が、自宅、あるいは介護施設で、医療を受ける時代がやがておとずれることになる。
 そうなると、医薬品の流通先も大きく変化するのかもしれないだろう。また、各製薬企業が開発中の希少疾患用医薬品は、特定の患者に絞り込まれ、確実に供給されなければならないという絶対条件が欠かせない。
 また、いつの日か起こると想定されている大震災時に、いかに医薬品流通網を機能させるかという大きな課題もある。
 そういう意味では、日本の医療と国民の健康を支える医療用医薬品の流通機能は、さらに進化していくことが望まれる。
 一方では、流通改善への取り組みは、非常に時間がかかる課題ではあるが、まさに、業界全体としてのパラダイムシフトを起こし、一歩一歩着実に進んでいくことが重要である。

7.終わりに
 日本の国民皆保険制度は、世界に誇れる安心、安定した医療提供サービスを実現している。その医療を支えるのは、医療技術と医療用医薬品である。TPP等の議論においては、国民皆保険制度の崩壊を主張する関係者もいるようだ。将来、日本の制度がどう変化しようとも、日本全国津々浦々の一人の患者のために、医療用医薬品が確実に供給される体制こそが、医薬品流通に求められる永遠の課題であるだろう。生命関連製品を流通するという流通当事者それぞれの確かな自信と誇りが、医療用医薬品流通を今後も進化させていくだろう。

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