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2013.09.25
小規模専門工事業の管理会計

建設業経営研究会 坪田  章、菅野 寿春、
         吉留 伸一、佐藤 正浩

はじめに

 建設業経営研究会は、昭和62年頃に設立された研究会です。現在は、平成25年7月に認定番号「0001」の東京協会認定研究会となりました。メンバーは、建設会社関係、建設資材製造業関係、官庁関係、一般製造業関係、金融関係などを出身とする独立系・企業内系で、必ずしも建設会社所属経験のあるメンバーというわけではありません。研究対象は、建設業全般で、いろいろな角度から建設業の経営支援を扱っています。

 建設業法では、「建設業」を『元請、下請その他いかなる名義をもってするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう。』と包括的に定義しています。しかし、建設業界を構成する企業の実態は多種多様であり、業界構造も非常に複雑で、一言で業界を説明することはできません。このため、建設業の業種・業態と企業の規模毎に経営課題は異なり、経営管理手法も異なります。よって、実際に建設業の経営診断・指導を行う際にはその違いを良く理解し的確に行うことが求められています。

 当研究会では、2010年より「専門工事業支援分科会」を設けています。これまで、「建設業のサプライチェーン」「専門工事業の事業再生・成長戦略・管理会計」についての調査研究を行っています。分科会のアウトプット・ねらいは、専門工事業を的確に診断し指導するためのツール開発としています。

 本報告では、第1章で建設業界の概要、専門工事業に関する概要を説明します。第2章では分科会研究内容の内、建設業の管理会計を製造業と比較して論述し、第3章では管理会計の中で重要な位置にある「実行予算」について論述します。いずれもまだ当分科会のなかでも侃侃喧々諤々の議論を行っているものです。

 この報告をご覧になった東京協会の中小企業診断士の皆様で、ぜひとも参加したいと望まれる方は、「研究会スケジュール」をご覧になりお問い合わせください。

1.専門工事業の現状と課題

(1)建設業界全体の動向~経営改善のビックチャンス
 リーマン・ショック後の工事減少や公共事業を圧縮する政策などの影響を受け、建設投資額が1991年の84兆円をピークに、2010年には41兆円まで落込みました。(【図表1】)また、建設業許可業者数は2000年以降長期的減少傾向を続けてきています。(【図表2】)しかし、ここにきて、東日本大震災の復興需要やアベノミクス政策による公共工事などにより、ようやく回復の兆しが見えてきました。ところが、縮小を続けてきた建設業界にとっては、急な需要増加が人手不足や労働者人件費や資材価格の高騰などの問題を生じさせています。自治体が示す価格では採算に合わないと視る元請建設会社が増え、公共工事の入札が成立しない例が相次いでいます。このため、社会保険の未加入問題への対応を含め、公共工事の労務費積算単価も見直され、15%程度上昇しました。

 下請となることが多い小規模専門工事業にとっては、この需要と供給バランスの変化は正に経営改善を図るための千載一隅のチャンスといえます。従来、工事を受注するために、建設会社同士がお互いに競争して受注価格を引き下げるという状況でしたが、今後、採算を考えて受注していく環境ができてきたといえます。

【図表1】建設投資の推移
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(2)建設業許可業者の実態
 平成25年3月末現在の建設業許可業者数は469,900業者でした。業者数が最も多かった平成12年3月末と比較すると▲131,080業者(▲21.8%)と減少しています。
 資本の規模でみると、資本金1,000万円未満の法人と個人事業主で59.5%を占めています。資本金1億円未満の法人と個人事業主ですと98.8%にもなります。(【図表3】)

【図表2】建設業許可業者推移
【図表3】資本階層別許可業者数割合

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(3)専門工事業とは
 建設業法では、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するために、建設業を営む者は28業種ごとに分類し、行政庁の許可を得ることとしています。(ただし、軽微な建設工事(工事費500万円未満)のみを請け負う業者は建設業の許可は不要です。)
 建設業許可区分の28業種のうち、土木一式工事、建築一式工事を除いた工事を請け負う業者を一般に「専門工事業」とよんでいます。
 「専門工事業」の大多数は、資本金1億円未満、許可業種1~3種類程度で、業種、業態、規模、経営力等で千差万別な企業が存在します。建築生産システムの中では、下請の役割を担うことになります。下請といっても、一次下請から、何重もの重層構造の最下層の場合までさまざまで、労務提供型もあれば、材工一式の業態もあります。
 一方で、建築設備工事や内装工事を行う会社にあっては、建築工事とは分離して発注される場合、専門工事業であっても、元請になることもあります。

(4)専門工事業支援施策
 専門工事業の支援については、国土交通省から『専門工事業イノベーション戦略』が発表されています。①多様な建設管理システムの形成、②経営力・施工力の強化、③競争力強化のための新たな組織のあり方、④新分野進出、⑤元請下請関係の適正化、⑥人材の確保・育成、など、さまざまな角度から提言がなされています。しかし、「専門工事業」にはさまざまな企業が存在しますので、必ずしもすべてに共通の効果がある施策はなく、それぞれの企業の実態に応じて、効果的な施策を選択していく必要があります。
 一方で「専門工事業」の共通課題として、「管理会計の強化」「採算管理の強化」があげられます。小規模専門工事業の中には、いまだに経営管理面、特に財務面の管理を疎かにする会社があります。当分科会では、小規模専門工事業に適した「管理会計」「採算管理」の手法を検討してきており、実務への適用を図ろうとしています。

2.建設業の管理会計
 管理会計とは、企業内部の経営者や経営管理者に対する会計情報の測定・伝達の経営手法です。一般的な管理会計では具体的に、製品単位の原価計算や予算管理からなり、予実差異分析により経営管理者の意思決定や企業の業績評価に役立てられています。
 建設業は、リスクを取って仕事=工事を完成させる請負業です。よって、建設業の管理会計は、製造業のような製品単位の原価計算でなく、工事単位での原価計算に変わります。平たく言えば、建設業の管理会計の最重要目的は、工事ごとに儲かっているかいないかを知ることと、どのような改善活動が必要かを情報発信することにあります。

(1)管理会計の中心になる実行予算
 元請建設会社の場合の請負契約にいたるまでの流れは、概ね以下のようになります。
 工事の買い手である発注者が完成予想図面を用意した場合、元請建設会社の技術者または上級の技能者が図面および環境条件を読んで必要な各種資源量を精確に測定する積算、次に各種資源量を金銭高に変換する見積りを行います。ただし、自社で積算・見積のできない部分は、専門工事会社に図面を渡し見積書の提出を得ます。次に経営者は、自社分、専門工事会社の見積りをまとめて総請負額を決め、発注者に対し、価格を提示して請負受諾意思表示を行います。この意思表示は、通常は、見積書の提出や入札の形を取ります。

 見積書の提出や入札を受けた発注者は、みずから決めた手順により元請建設会社を選択し、工事の請負契約を結びます。

 請負契約後の工事段階では、現場代理人(=工事現場での建設会社代表者の代理人、「所長」、「現場監督」と呼ばれたりする)となる者が、工程計画を立案し、さらに契約前に作成した見積書を参照しながら実行予算書を立案し、社内承認を経て工事に着手します。

 実行予算とは、(元請・下請を問わず)建設会社の工事計画立案時点での達成可能な目標原価を設定した原価管理書です。利益計画達成のため、工事着手後随時、予算原価と実際に発生した原価との差異を比較分析することで、現況管理に活用します。

 また、決算期を跨る工事の場合は、工事進行基準があり、当期決算に反映させる工事とそうでない工事に分かれさらに複雑になり、管理会計と実行予算の重要性が高まります。

(2)元請・下請が一体となった品質管理と工程管理
 工事では、品質管理とともに工程管理がきわめて重要です。完成建設物に不良があると、手直し工事などが発生し無駄な費用がかかり赤字となり、欠損工事の原因となります。さらには不良工事の責任の所在をめぐって、元請と下請の紛争にもつながります。

 元請・下請の緊密な協力による工事品質の確保と、無駄のない円滑な工程管理は利益確保の前提です。元請にせよ、下請にせよ、二度手間とならない工事が経済的に最良です。無駄のないとは、1つの工事現場で同時並行的に工事をしている複数の専門工事業にとって合理的で、経済的に最適な工程になっているということで、現場代理人が作成する工程計画と実行予算の出来に大きく影響を受けます。

(3)管理会計の目的レベルに必要な体制
 工事全体の完成を発注者から請負う元請建設会社、工事の特定部分を元請から材工ともで請負う専門工事会社、工事に必要な労働力・機械力の提供が中心の専門工事会社では、負担するリスクの範囲は異なります。よって、管理会計の目的レベルも異なります。【図表4】では、管理会計の目的レベルに応じた体制・運営をまとめました。建設会社の診断に使う場合には、その負担リスクを軸に項目内容を取捨選択することが肝要です。

【図表4】管理会計の目的と必要な体制と運営
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3 実行予算について

(1)実行予算の必要性
 建設業の管理会計の中で、実行予算は中核的な役割を果します。様式については、専門工事業に向けた実行予算の作成例が、国土交通省のサイトに掲載されていますので参照してください。(http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/const/text/text.htm)

①受注面から見た実行予算
 建設業の利益がでるか否かは契約した時点で大枠が決まるので、契約前に原価調査や原価計算を行う必要があります。建設業構造実態調査(以下、実態調査【図表5】)では、実行予算の作成について5段階に分類していますが、「受注の前から詳細な実行予算を作成している」が全体の29.2%と最多でした。受注しても儲からない工事もあるため、受注前から原価を実行ベースで正確に掴む必要があると、多くの建設会社は感じているのではないでしょうか。

【図表5】実行予算の作成状況
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②生産面から見た実行予算
 建設業を生産面から見た場合、受注生産、屋外生産、単品生産と、同じものが二つとなく天候その他の影響を受けやすい産業です。そして、現場代理人の力量によって当該工事の利益が大きく変動するという特徴があります。このため、受注後は実行予算を指針とした工事毎の原価管理活動が重要になります。

③経営面から見た実行予算
 実行予算は、個別工事の利益確保だけに利用されるものではありません。国土交通省は、中小建設業の経営者に向けて、「経営コックピット」をキーワードとして、実行予算を中心とした各部門のPDCAサイクルを提唱しています。実行予算は、経営、営業、調達、施工など企業の重要な活動に関係するツールです。特に、「今現在、どれだけの売上や利益を確保したか」といった全社的な利益管理や、本稿では触れませんが「資金繰り」には、実行予算からの情報は必要不可欠です。

(2)小規模専門工事業の実態
 このように、建設業にとって実行予算は大変重要なツールです。しかし、実態調査【図表6】によると、実行予算は小規模専門工事会社ほど作られなくなる傾向にあります。実行予算を作成しない会社の割合は、二次下請以下が主体の会社数の割合と同じような傾向になっています。

 国土交通省の「専門工事業の経営力向上研修会テキスト」のアンケート調査結果では、実行予算を作成しない理由として「実行予算は必要ない」、「作成しても使えない」、「人手が少なく作成できない」などを挙げています。

 人手不足はやむを得ないとしても、「必要ない」、「使えない」については、検討の余地は残ります。専門工事業が実行予算について「必要ない」、「使えない」と感じている背景には以下の点があると分科会では推測しています。①『実行予算は、元請工事や材工一式請負の一次下請工事を想定した話である。』②『通常の実行予算書では専門工事業にとって必要な採算管理に合致しない。』後者の例として、労働力や機械力を提供する二次下請以下の場合は、「1日いくら」で請け負う「常用」が多く、材工一式請負に合わせた実行予算書は使えないなどが挙げられます。

【図表6】下請工事の割合と実行予算との関係
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おわりに

 最後になりますが、ここで申し上げたいのは「小規模専門工事業には実行予算は不要でありドンブリ勘定のままで良い。」という話では全くありません。

 常用主体の会社ならば、常用にフィットした実行予算や別の管理会計手段があるのではないかと分科会では考えています。たとえば、工事一件ずつ実行予算を作るのではなく、会社全体を一つの工事と考えて、PDCAサイクルを回すのも一案です。

 または、日々の作業報告や進捗報告を行うのも管理会計の一つになると考えています。

P(プラン) :年間利益目標と料金体系の再構築
D(ドゥ) :会社全体年間計画による月次稼働率目標管理
C(チェック) :作業日報・日誌に基づく作業チーム別の工事実績把握
A(アクション) :作業日報・日誌情報の共有(見える化)による作業効率化と教育訓練


 このように、本分科会では、小規模専門工事業の管理会計の研究を進め、業界団体等との会合を行いながら、多様な建設業それぞれにフィットした管理会計の体系化を構築したいと考えています。また、単に手法を考えるだけではなく、管理会計への動機付けを促すための「建設ビジネスゲーム」についても、本年度中の完成を目指しております。

 今回は中途的内容に終始しましたが、メンバー一同は、今後とも活動を継続し、最終成果が日本の建設業の発展に寄与できるよう研鑽を重ねていきたいと考えております。

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