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2013.10.28
法人営業力強化に向けた問題点と解決策(特集)

法人営業力強化に向けた問題点と解決策

東京協会認定 営業力を科学する売上UP研究会
渡辺 辰洋、丸山 直明、小川 直樹(執筆順)

 営業力を科学する売上UP研究会(以下「当研究会」)は、企業の売上アップや営業力強化に向けた考え方や実践事例に関する研究を行なっている。研究会名称に掲げた「営業」、「売上」というキーワードに惹かれて入会した、多様な業界の営業関連部署に勤務する企業内診断士が多いのが特徴である。
 当研究会の本年度テーマは「法人営業(BtoB)を極める」である。類似した言葉として「生産財マーケティング」があるが、生産財に加えてITやサービスを包含し、かつ、マーケティングの中で特に営業(セールス)に焦点をあてる意味で「法人営業」にこだわっている。
 当研究会では、共通テーマに沿って毎月発表しており、発表どうしが緊密に連携している。例えば、オフセット印刷機や複合機の業界における商談プロセスが討議された翌月には、清涼飲料自動販売機メーカーやITサービスベンダーの業界に、その商談プロセスを当てはめてみた。違った業界の法人営業プロセスどうしを比較することで、法人営業の相違点があらわになり、議論がさらに活発になる効果がある。
 本稿は、今年1月、4月、5月例会の発表要旨を繋げたものである。法人営業の特徴を明確にした上で、法人営業における問題点を整理し、解決策の方向性について述べる。

1.法人営業の特徴
 法人営業とは、法人が法人顧客に営業するものであり、BtoBである。個人営業(BtoC)との違いは、図表1のとおりである。
 法人営業は、買い手、売り手とも多くの関係者が参加し、あらかじめ設定された予算に応じて商談が進む。キーマンの特定や関係構築に時間がかかり、充実した情報提供や丁寧な商談プロセスが要求される。さらに、売上アップやコスト削減など、買い手の購入目的に沿って提案が評価されるという点から、法人営業の「商談プロセス」に着目した。

特集-図表1.jpg

2.法人営業の商談プロセス
 営業活動で苦労する企業は大変多いが、当研究会では、商談プロセスに沿って問題を整理すると、特集-図表2.jpg解決策を見つけ やすいことを発見した。高額な生産設備の場合、商談 プロセスは図表2の流れとなることが一般的である。
 まず、関係づくりプロセスとして、買い手と接点をつくり、 情報提供を続ける中で、買い手のキーマンを見つけて 関係を強化していく。特に新規顧客開拓において、重要なプロセスである。
 顧客の情報をある程度把握できた段階から、成約プロセスに移る。企画書・提案書を提示することで、買い手の課題や困りごとを把握し、改善提案を行い、見積もり、成約に進めるフェーズだ。
 法人営業では、成約した後の関係強化プロセスに 特徴がある。納品後フォロー、継続提案などを続けて、それが買い手に評価されて初めて、リピート受注に至る。
 さまざまな業種の企業内診断士やプロコンから構成される当研究会で、この商談プロセスを精査してみた。細かい部分は異なるものの、大筋では法人営業全体に共通することが確認できた。 

3.法人営業の問題点の整理
 法人営業の問題点発見、解決策の立案・実行の第一歩として、前述の「商談プロセス」に沿って「法人営業の問題点」を網羅的に整理することが有効である。図表3のように問題点を整理し、一覧化すると、各商談プロセスでどのような問題が発生し得るのかを一目で確認することができる。
 まず、「関係づくり」のプロセスでは、「①行くべき顧客に接触する時間が無い」や「②顧客に行くチャネルが無い」、「③キーマンにアプローチできない」という入口段階での顧客との接点の持ち方に関する問題点が発生し得る。
 次に、「成約」のプロセスでは、「⑤顧客の課題をつかめず、仮説を構築できない」、「⑥仮説に基づいた討議資料や提案資料が作れない」や「⑦顧客への話・提案の流れがスムーズでない」といった、提案に必要なインタビュー(課題把握)、仮説構築、ドキュメンテーション、プレゼンテーション等の営業スキルに関する問題点が多く見られる。
 最後に、「関係強化」のプロセスでは、「⑨既存顧客に対するアフターフォローが足りない」といった組織的なバックアップに関する問題に加え、再び「①行くべき顧客に接触する時間が無い」という顧客接点に関する問題点も見られる。成約後も適切な接点を継続的に持てるかどうかは、法人営業における重要なポイントとなる。

特集-図表3.jpg 

4.問題点の真因の把握
 前述で整理した問題点から、具体的な解決策を導出するためには、各問題点をさらに深掘りし、その問題が発生する真因を把握する必要がある。例として、前述の「①行くべき顧客に接触する時間が無い」という問題点を深堀りすると図表4のとおりとなる。
 本問題点の原因は、大きく分けて「営業業務が忙しくて、時間が無い」、「営業間接業務が忙しくて、時間が無い」の2つに分類される。さらに前者を分解すると、「顧客・案件間の優先順位」、「人(スキル・人数)の不足」、「無駄・非効率な業務」といった真因候補が見える。
 「時間が無い」という問題点だけで止まると、その問題が発生するに至った真因までたどりつけず、具体的な解決策を講じようがない。表層的な問題点に惑わされず、「なぜ?」を繰り返して各問題点の真因を特定することが大変重要である。

特集-図表4.jpg 

5.問題点の真因に対する解決策の導出
 前述で把握した問題点の真因に対して、解決策を導出する例を示すと、図表5のとおりとなる。
 「①行くべき顧客に接触する時間が無い」の各真因に対しては、例えば「アカウントプランの管理強化」、「効率的な手法の蓄積・共有」、「資料のフォーム統一、テンプレート化」といった解決策が考えられる。詳細は割愛するが、問題点②~⑨についても、同様に真因を把握することで、それらに対する解決策を導出することが可能となる。

特集-図表5.jpg 

6.解決策の絞り込み
 次に商談プロセスに沿って洗い出した問題点・解決策の中から、どれを選んで実行するかという絞り込みの方法について説明する。当然ながら、個々の解決策に対する優先順位付けは、販売する商品・サービスや、営業組織のスキル、経験レベルによって異なる。しかしこの際、可能な限り、解決策を実行するメンバーを集めて議論することを薦める。メンバー間で調整しながら、主要な問題点と解決策を絞り込むことで、メンバーが自分自身の問題と捉えられるようになり、実行段階での意欲を高めることができる。
 ただし、会議で時間を費やして様々な問題点を洗い出しても、「結局、最後は勘で決めている」ということがよくある。この際、絞り込んだ過程を後で振り返れるように、幾つかの評価軸を設定し、それを基に定量的に評価する手法を紹介する。一般に重み付け総合評価法と呼ばれる手法であり、改善の効果を定量的に評価する目的で使われる。
 例えば、読者の会社が生産設備メーカーだと仮定する。このとき、あなたは、顧客企業が設備を導入する際に「何を重視する」と考えるであろうか?「製品のスペック」の説明が十分に成されていること、「投資効果」が明確であること、「アフターサービス」に心配がないこと、以上を重視すると考えれば、これらが顧客の重要購買要因(Critical Buying Factor)となり、この重要購買要因を評価軸に設定して、問題点と解決策の優先順位付けを行なうことができる。前述の図表5で例示した解決策からいくつかの項目を選び、これら重要購買要因を基に重み付け評価を行なった結果を図表6に示す。
 重要購買要因は、業種・業界ごとに異なる。例えば、生産設備業界の場合は、顧客は、「自社業務に合わせたカスタマイズ」、「信頼性」、「アフターサービス」などを、メーカー間で製品特性に大きな違いがない素材産業の場合は、「価格」、「納期」、「安定供給」といった評価軸が優先されると想定される。他社の営業強化事例をうのみとするのではなく、営業部門内で、自社のおかれた業界の重要購買要因を洗い出し、自社製品、サービスの価値や営業活動の質を評価することが、本当の営業強化に繋がると考える。

特集-図表6.jpg 

7.営業の具体的行動(アクションプラン)への分解及び形式知化の促進
 主要な解決策を絞り込んだら、次にこれらを営業組織の中で確実に実行していく。このためには、解決策を行動指針といった抽象的なレベルに留めず、具体的に何をすれば良いのかが分かるアクションプランまで分解する。例えば、「タイミング良く提案する」といった施策が選択されたとする。このままでは、経験の少ない営業マンは何をすれば良いのか分からない。提案の前に必要な「顧客の予算策定時期」、「予算決定上のキーマン」に関する情報入手といった、より具体的な行動に展開し、指示を出した方が効果的である。
 この際、図表7のように、「5W2H」のフレームワークを使うことで、"抜けなく"、"ダブりなく"アクションプランに分解することができる。「何をいまさら」という方も多いと思うが、汎用的で使い勝手が良く、非常に有用なフレームワークである。「新規顧客開拓」の具体策への展開といった場合も、具体的な行動まで分解することができる。
 具体的行動として実行し成功した場合、その要因を営業担当者のノウハウに留めず、言語化して組織として共有しておきたい。営業では、対応する顧客ごとにニーズも異なるため、成功要因を形式知化するのは困難という人も多い。確かに「営業センスの問題」という場面もあるが、図表8に挙げるとおり、形式知化できるノウハウも多い。新入社員や他部門からの異動者を短期間で戦力化するためにも、組織として形式知化を進めたい。可能なものはチェックリストとして準備しておくことにより営業活動を効率化し、より重要な購買要因の方に十分な時間を割くことで営業活動全体の質の向上に結び付けられる。

 

特集-図表7.jpg  

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8.法人営業を「科学」することによる中小企業の支援
 最終製品やサービスを法人顧客に営業する場面のみならず、素材・部品メーカーが完成品メーカーに対して行う営業も「法人営業」であり、その裾野は広い。日本政策金融公庫がまとめた「2013年の中小企業の景況見通し」(2012年11月)における調査では、中小企業の注力分野として「営業力・販売力の強化」が73%に上り、30%台の次点以下を大きく引き離すほど、営業力強化に向けた中小企業の関心は高い。
 しかし、消費財マーケティングや個人営業の理論やそれを論じる書籍が多い一方で、法人営業の理論が確立しているとはいえない。それは、本稿6項で触れたとおり、販売する商品・サービス、営業組織のスキル、経験レベルによって問題点や解決策が異なり、個別対応せざるを得ないからであろう。
 されど、法人営業にも「方程式」はあるはずである。法人営業の特徴である商談プロセスを起点に科学的に展開していくと、問題点や解決策を導きやすいことが分かった。
 当研究会では「法人営業の方程式」を導き出して、中小企業の売上アップ、営業力強化に貢献したいと考えている。同じ志を持つ方は、ぜひ仲間に加わっていただきたい。

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