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2014.02.01
経営革新評価システムの開発と実践

企業格付け研究会 古田中 孝一
E-mail:k2kotanaka@gmail.com

Summary(要約)
中小企業が継続的に発展していくためには、自社の今ある姿を正確に把握することが必要であり、さらに強みを伸ばし弱点を克服して将来のあるべき姿(経営戦略像)を描くことが求められる。しかし、その必要性は認識しつつも実際は日々の活動に追われ、振り返る時間的余裕の少ない中小企業が多いのが現状である。
企業格付け研究会は、この現状を改善すべく、機能的な「経営革新評価システム」を開発・実践し、展開することを目的として、1999年10月に発足した。
検討を重ねた結果、経営資源の3要素として、「ヒト」「モノ」「カネ」を評価のベースとすることとし、業種別に、製造業版、卸・小売業版、サービス業版を順次完成させた。またこれをベースに、社団法人中小企業診断協会(当時)からの依頼により、同協会編の「中小企業の評価・診断・支援」(2004年5月)の出版につき、研究会として協力をさせていただいた。
その後、さらに内容の検討を重ね、今般、全業種を対象とした「経営革新評価システム」を完成するに至ったので、それを発表するものである。

Ⅰ.「経営革新評価システム」とは
1.本システムの基本的な考え方
企業経営(管理)をよりレベルアップするためには、現状の経営(管理)のレベルを体系的・網羅的に評価したうえで、無理のない経営革新を図る必要がある。
その際、経営(管理)のレベルを評価する基準となる要素が必要となるが、『中小企業基本法第2条』では、『経営資源とは、設備、技術、個人の有する知識及び技能その他の事業活動に活用される資源をいう』とされている。また、「中小企業も独創性、機動性などを発揮して、新たな事業活動を展開していくことが重要であり、そのための基礎条件として、経営ノウハウ、技術、人材、市場情報などのソフトな経営資源の充実強化が、従来経営資源の代表例とされた機械設備や資金等のハード面の資源に加えて必要不可欠になってきた」とある。
本システムは、このような状況を踏まえ、経営資源を「ヒト」「モノ」「カネ」の切り口から総合的に把握・分析し、企業のさらなる発展に向けた提言を行うことを目的として、開発されたものである。したがって、総括的な評価報告では、「ヒト」「モノ」「カネ」それぞれについて評価を行った結果から、現状の優れている点や問題点、課題などを指摘し、企業が経営革新を推進、実行するための戦略、施策、改善策などを中心に提言する。

2.本システムの特長
(1)全業種への対応が可能
モデル業種として、①製造業、②卸売業、③小売業、④サービス業(店舗あり)、⑤サービス業(店舗なし)の5つを設定した。これによりほとんどの企業に対応することができる。
ただし、昨今企業の業態はますます多様化しており、その場合は、評価者の判断にて対象企業の業種・業態、規模等に応じた戦略項目及び評価指標を抽出することができるシステムとしたので、柔軟に活用することが可能である。

(2)評価基準の明確化
評価は客観的であることが求められる。このため、評価内容に偏りやもれがなく、企業全体の状況を体系的に把握できる構成にするとともに、評価基準を明確にすることにより、だれが行っても同じ評価となるようなシステムとした。
「ヒト」「モノ」については、全体を総合的に把握できる評価項目を体系化するとともに、評価指標ごとに、「経営者への具体的質問内容」、「ヒアリングのポイント」及び「着眼点」を明示しており、評価者の経験の有無や恣意性に影響されず、客観的かつ公平な評価が可能である。
「カネ」については、定量評価に加えて定性部分も出来る限り客観的に評価できるよう工夫し、定量部分と合わせて、企業の財務に関する実態を総合的に評価、判断できるようにした。

(3)システムのプログラム化
評価を行う場合、多くのデータを作成、処理する必要があるため、多大な手間がかかったり、時間的な負荷が大きくなるとともに、誤りが発生する可能性もある。このため表計算ソフト(Excell)によるプログラム化を図り、個々の評価結果や必要データを入力することで、短時間で正確に評価のベースが作成できるようにした。また、データをインプットするとレーダーチャートで表示される等、診断結果がビジュアル的にもわかりやすくなるように工夫をした。

Ⅱ.「経営革新評価システム」の概要
1.全体概要
「ヒト」「モノ」「カネ」について、経営革新レベルを5段階で判定する。各部門の戦略項目、評価指標の項目数は下記のとおりであり、評価は評価指標ごとに行う。

特集-3p上表.jpg

評価および経営革新レベルの判定は、①評価指標による評価⇒②戦略項目の評価⇒③部門別総合評価、の順に行う。最終的な報告は「総合評価報告書」として、各部門の評価結果から現状の優れている点や問題点、課題などを指摘し、企業が経営革新を推進、実行するための戦略、施策、改善策などを提言する。

2.ヒト、モノ部門の評価 
(1)基本的な考え方
①「ヒト」の戦略項目と評価指標

特集-3p下表.jpg

②「モノ」の戦略項目と評価指標

特集-4p表.jpg

③業種対応
「ヒト」の評価指標は全業種共通に使用し、「モノ」の評価指標は、業種の特性を考慮し、全業種に対応する指標(必須)、企業の実態に合わせて取捨選択できる指標(オプション)、当該業種では対象としない指標(対象外)の3つに分類し、業種に応じて選択可能である。

(2)評価の構成とプロセス
①評価指標の評価
評価指標ごとに定められている「具体的質問内容」「ヒアリングのポイント」「着眼点」をもとにして、経営者に対するヒアリング結果をベースに5段階で評価する。
たとえば、「ヒト」部門の戦略項目(企業経営)のうち、評価指標(経営理念・経営目標の浸透)では、以下のとおりとなる。

特集-5p表.jpg

②戦略項目の評価
各評価指標の評価結果(経営革新レベルで設定した評価)から、戦略項目ごとの評価指標の平均値を算出し、戦略項目のレベルを5段階(Ⅰ~Ⅴ)で判定する。

③各部門評価
最後に、戦略項目のレベルから「ヒト」および「モノ」部門の総合のレベル判定を行う。これは、平均値などによる統一的な基準は用いずに、各評価のバランスや平均値には現れない定性的な要因などを総合的に考慮して、評価者が決定する。

3.カネ部門の評価
(1)基本的な考え方
定量面と定性面の双方から総合的な格付判定を行う評価体系とした。
①「カネ」の戦略項目と評価指標

特集-6p上表.jpg

②「カネ」の全体評価のプロセス

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(2)評価の構成
①定量評価(比率分析)
〈第Ⅰステップ(評価指標の動態評価と静態評価による3段階評価)〉
評価指標別に基準値(中小企業庁編の「中小企業の財務指標」の業種別・規模別業界平均値を採用)と比較し、基準値を上回る、範囲内(基準値の±5%)、下回る、の3つに分類する。さらに、前期決算との増減比較により、良化、悪化を判別する。これを総合し、「A」・「B」・「C」の「3段階評価」の判定を行う。

〈第Ⅱステップ(評価指標を3段階評価から5段階評価へ細分化)〉
第Ⅰステップの「A」・「B」・「C」の3分類のうち、「A」と「C」について、基準値との乖離度が極めて高(低)い場合、これを5段階評価の「5」または「1」とする。この結果、評価指標別に5段階評価が行われる。「乖離度の判定」は、評価者の裁量的判断に基づいて行うが、参考値として、予め所定のシートに判定の目安を掲載している。
評価指標の重点評価項目の評価を勘案し、戦略項目別に「5」・「4」・「3」・「2」・「1」の5段階評価を行う。

〈第Ⅲステップ(戦略項目の評価)〉
戦略項目ごとに重要度・分布状況を総合し、定量評価全体としての評価を行う。

②定性評価
健全度分析として、問題債権や不良在庫の有無などから、財務の透明性が図られているかを把握する。また、該当する項目にその有無をコメントし、判定する。
体力度分析として、役員報酬の多寡や減価償却の実施状況などによって収益力に差が生じるケースが多いので、その実数を把握することにより判定する。

③総合評価
「定量評価」(比率分析)および「定性評価」の結果を総合し、最終的な「カネ」の総合評価の判定を「Ⅴ」・「Ⅳ」・「Ⅲ」・「Ⅱ」・「Ⅰ」の5段階で評価する。

4.企業全体の評価
以上のプロセスにより、「ヒト」「モノ」「カネ」の3部門の評価を決定する。本評価システムでは、この3部門はそれぞれ企業にとっての位置づけが異なるという観点から、これら3部門全体をまとめた評価は行わず、評価の結果、それぞれの部門について企業として取るべき戦略を提案し、トータルとして企業力の向上を目指す。

Ⅲ.経営革新評価システムの活用と実践
1.本システムの活用
(1)中小企業診断士による活用
中小企業診断士として、さまざまな業種において、意欲ある経営者の経営革新に向けてのチャレンジを積極的に支援していくことが必要である。
本システムは、中小企業診断士にとって企業診断における具体的なクライアント対応を体系化したものであり、診断アプローチの導入ツールとして、非常に有用なものと考える。

(2)経営者自身による活用
中小企業の経営者においては、本システムを活用することで、自社の経営管理の現状を体系的に把握することができ、将来のあるべき姿との差分から、経営革新を図るべき箇所を明らかにすることができる。

2.本システムの今後の実践
本システムは、中小企業の評価のみならず、財務体質の改善、事業再生計画の策定、事業承継、新市場・新事業への進出などを行う場合の基礎となる分析が可能であり、今後は上記のようなテーマに対するシステムの活用と実践に取り組みたいと考えている。
その結果をシステムにフィードバックすることにより、一層役に立つ、使いやすいシステムの開発に役立てていく方針である

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