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2014.03.30
限界集落における地域活性化支援事例

限界集落における地域活性化支援事例

アグリビジネス研究会 澁谷 宗紀
shibuya@visionaryladder.com


Summary(要約)
 本事例は、限界集落の地域活性化を依頼された際、どのような方法、順序で施策を検討したかをまとめた事例である。「雇用の機会」が「人口の増加」につながると仮定し、転入者を雇用するのにどのくらいの付加価値額が必要か、という観点から実施施策を積み上げた。
 数値目標を仮定することで、現状とのギャップがより明確になり、各施策によってもたらすべき効果を定量的に検討することができた。また、注力する予定になかった事業についても重要であることを明示することができた。
 提案した施策の多くは未だ仮定を含んでおり、今後の検証が課題として残っている。支援活動としては始まったばかりであるが、どのように施策検討を始めたか、という導入部分を参考事例として以下にまとめている。


Ⅰ.本支援を実施するに至った経緯
 関東近県の限界集落から、地域活性化を念頭においた農業法人の立ち上げについて相談をうけた。具体的には、「高齢者が人口の過半数を超える集落を、なんとか盛り立てようとの思いから農業法人を立ち上げたいと考えている。外から人がやってきて、やがて居着いて欲しい。付加価値の高い農作物を発掘し、農家所得を上げる。そのことにより、出ていった若者が戻ってくる。新たに人が入ってくることを目指したい」といった構想であった。この構想を実現化するにあたり、地域の有志が集まってこれから何をすれば良いか、というところから支援を依頼された。


Ⅱ.支援先地域の概要
1.支援先組織
 山間部にある38戸110名程度の集落が対象である。高齢者が人口の過半数を超えているおり、いわゆる限界集落となっている。独自に地域活性化委員会を組織しており、地域住民約110名全員がこの委員会に参加している。この地域活性化委員会の中心人物10名が今回の農業法人立ち上げメンバーであり、具体的な支援先である。
 10名中、比較的若い50代は2名であり、60代~70代が残りの8名を占めている。代表を務める方も70歳とやはり高齢であった。地域活性化委員会は、農業法人が設立された後、法人の出資団体となる。

2.既存事業の概要
 地域活性化委員会は、以下2つの事業を行っている。農業法人設立後、以下の事業を農業法人へ移管することになっている。
(1)農業事業
 柿・栗・サツマイモ・荏胡麻・ゆず等を生産・販売する農業事業である。地域活性化委員会として約20,000㎡の圃場を持っており、このうち農業法人(中心メンバー10名からの名義寄せ)として、4,000㎡の圃場を持つ予定である。
 農作物を生産・販売することに加え、加工商品(干し芋など)を直接販売する6次産業化を目指している。生産量の指定が厳しい大手流通へ販売することは難しいと考えており、道の駅やサービスエリアでの販売を検討している。

(2)民泊事業
 農業体験を主とした民泊事業である。この事業は外から人が訪れてくれることを目的に運営されている。年金暮らしが多い地域住民の「生きがい」になればよい、との思いで運営されており、地域農家のボランティアによって細々と運営されている。
 このため、「一気に顧客が来すぎても、対応することができなければ、顧客もがっかりするし、地域も疲れてしまう」という考えを基本としており、大人数の受け入れを断っていた。NHKなどのマスコミ取材も断っており、地域の負担にならないことを前提としていた。

Ⅲ.提案・取り組みのポイント
 現状の概要や目指すべき姿などのヒアリングを行い、提案の全体像を以下のようにとりまとめた(図表1)。

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図表1 取り組みの全体像
 地域密着型産業(農業や民泊)を再生することで雇用の場を創出し、さらに地域の魅力を地域密着型産業へ加味していくことで、地域への来訪者増加を図る。雇用の場の創出と、来訪者の増加を定住者の増加につなげていき、地域の活性化を図っていく。この一連の流れを、提案の骨子とした。
 上記によって農業法人として注力すべきテーマは整理できたものの、具体的な経営目標、特に財務面での数値がはっきりしていなかった。マーケティング面(新規商品開発、販路検討)の検討を行う前に、以下の手順で経営目標から段階的に具体化を図ることとした。

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図表2 取り組みの流れ

1.経営目標の仮定
 「雇用を提供する」というテーマに着目し、以下の手順で経営目標の数値化を試みた。この試みにより、これに続く課題の抽出や施策の検討をより具体的に進めることが可能となった。

(1)人口動態の把握
 まずどのように人口が減少しているのかを調査した。図表3は「国勢調査 小地域集計(総務省統計局)」より集計した対象地域周辺の人口動態である(住所範囲と「集落」の範囲が一致していないため、人口の総数は異なっている)。この調査の結果、5年で約20%の人口が減少していることがわかった。

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図表3 人口動態
(2)期待する転入者数の算定
 前記1.(1)で人口がどのように減少しているか確認できたことから、5年後、10年後、20年後にどの程度の人口になっているのか算定し、期待する転入者数を求めた。シニア層家族を2名、ファミリー層家族は4名と仮定し、家族数にして何戸になるのかもあわせて算出した(図表4)。

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図表4 期待する転入者数
(3)必要付加価値額の算出
 この転入者に対して雇用を提供するという観点で、事業運営に必要な付加価値額を算出した。シニア層家族に120万円、ファミリー層家族に400万円を年間支払うと想定し、転入家族の家長7割を法人として受け入れると仮定した。また、既存の法人立ち上げメンバーは5年で2名世代交代すると仮定した(図表5)。

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図表5 雇用者数と所得


2.経営課題の抽出
 ここまでの取り組みによって、ある程度具体的な数値目標を設定することができた。そこで現在の事業状況を分析し、どの程度の収益を見込めるのか現状分析を行った。その結果を踏まえ、必要な収益とのギャップを分析し、課題の抽出を行った。

(1)農業事業の棚卸し
 生産中の農地、生産予定の農地から各農作物の生産量を概算した。その後、その生産量をもとに、通常の流通経路で得られる収益の見通しを算出した。

(2)民泊事業の棚卸し
 ご協力いただいている農家の戸数や、最大で受け入れ可能な人数などを確認し、どの程度の収益をあげることが可能なのか試算を行った。また、年間の利用者数を整理し、転入候補として充分な人数が地域を訪れているか、という観点でも分析を行った。

(3)ギャップ分析
 前記2.(1)、2.(2)で算出した収益を踏まえ、前記1.(3)で算出した付加価値額に対してどの程度不足しているかギャップ分析を行った。結果、やはり農作物をそのまま販売したのではかなり収益が不足することがわかった。より付加価値の高い加工商品の開発・販売が必須であることをあらためて確認することができた。

3.施策の提言
(1)加工品の企画と販路の検討
 不足する収益を補うべく、農作物の加工品について詳細を具体化していった。加えて、近隣地域で期待できる販路(道の駅や地域イベント、観光スポット)を探索し、それぞれの販路でどの程度の販売を見込むべきか、シミュレーションを行った。

(2)経営目標とのすりあわせ
 前記3.(1)まで検討を重ねてきたが、それでも目標とした付加価値額に対して収益の不足が見込まれた。ここで仮定した経営目標をもう一度見直し、無理のある仮定がなかったかを点検した。その結果、転入者の7割を雇用することはハードルが高く、まず5割からの雇用を目指すこと、民泊事業は現状維持の方針であったが、こちらも本格的に事業として運営する必要があること、などを経営目標に反映した。

(3)追加施策の検討
 民泊事業を本格的に運営する必要があることを受け、「農林漁業体験民宿業」を念頭に、民宿事業をより本格化させる提案を追加した。転入者が中心となって民宿を営むことを想定し、そこで提供する体験プログラム案や価格設定などを提言に盛り込んだ。


Ⅳ. 定量・定性的な効果
 当初、地域を活性化するという定性的な目標しかなかったが、上記の手順を実施することで、定量的な目標値を設定することができた。ファミリー層に移住して欲しいという願いが先行していたが、定量的な指標値をもとに検討を行った結果、年金を期待できるシニア層から受け入れるべきだという結論を導くことができた。
 また、農作物による収入だけでは移住してくる方に雇用を提供することが難しいことも明示することができ、控えめであった農家民泊を拡大することにも納得いただけた。


Ⅴ.今後の取り組み
 現在、農業法人設立のための手続きを進めている。今後は、加工商品の開発を実際に進めていくとともに、上記支援の中で仮定した各販路の売れ行きを実地検証していく。
 また、今回は外部へのアプローチを中心に検討を行ったが、内部資源(集落のどこに住んでもらい、どのような雇用形態にするのか等)の整備が必要である。有志のほぼ全員が60歳以上であり、後継者の問題も早期に出てくることが予想される。今後は内外のバランスをとりながら、施策の推進を支援していく。

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