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2014.06.28
東京都区内商店街における「まちゼミ」の可能性

商店街研究会 研究事業
東京都区内商店街における「まちゼミ」の可能性
~港区初、白金商店街での実施事例をひもといて~

中小企業診断士・一級販売士・商業施設士
鵜頭 誠


はじめに
 東日本大震災以降、「絆」という言葉が注目された。人々のつながり、どこかに属していたいという意識による、コミュニティの大切さが注目されたことによるものだろう。
 しかし商店街は、ずっと昔から今まで、地域の絆やコミュニティを大切にして歩んできた。東日本大震災当日、商店街の店主同士で、通行する人の誘導を自然と行いつつ、夜から朝方にかけて、交通情報、近隣の一時避難所情報等をtwitterで流し続けた人達がいた。そこまでに至った「想い」を間近に聞いて、地域を守る商店主の想いが、長年の積み重ねによって生み出されてきたものだと感じた。
 東京都中小企業診断士協会認定研究会である商店街研究会では、地域コミュニティの担い手である商店街の視察、取組紹介を主として、月一回の活動を行っている。
 都内を中心として、キラリと光る商店街を視察し、その活力の源泉を聞く。そこから、どのように、まちの「にぎわい」を維持していくべきかを模索する。そのような想いを蓄えつつ、おのおのの中小企業診断士が支援先商店街に対して、地域再生へのノウハウとして還元している状況にある。

1.まちゼミ開催のきっかけ
 平成25年度に愛知県岡崎市の松井洋一郎氏をお迎えし、「得する街のゼミナール、まちゼミ」の講義を受けた。
 まちゼミは、各店舗が長年培ってきた、店舗や店主独自のノウハウをもとに、生活に役立つワンポイントを、ゼミ形式の講座で一般客向けに実質無料で提供するものである。愛知県岡崎市を起点として、平成26年6月現在では、100を超える全国の商店街、中心市街地での実施事例があり、個店と店主、顧客を直接結びつけていることに事業の特徴がある。
 私は、この実施過程のサポートに中小企業診断士の支援の意義があると感じ、商店街研究会に所属する13名の企業内診断士とともに、東京都港区の白金商店街で、港区初となる、まちゼミ実施の支援にあたった。その要点を今回ご紹介する。

2.今回ご紹介するまちゼミの実施概要
 港区の白金商店街にて行った、まちゼミの実施概要は下記のとおりである。
 商店街組織:白金商店会(東京都港区白金)
 商店街属性:近隣型商店街
 参加店舗数:7店
 実施講座数:10講座
 参 加 店:男性衣料品店、肉屋、魚屋、八百屋、呉服店、美容院、化粧品店
 コンセプト:「白金最後の下町」白金商店街
       生鮮三品が集うまちゼミとして、コンパクトさをウリにし、さらに地域と店主とが親しみを深めていく交流の機会とした。
 本まちゼミの大きな制約は、「規模」と「予算」であった。
 規模について、通常、「まちゼミ」は、20店舗以上が参加することを基本としている。しかしながら、任意団体である「商店会」が単独で行うには、20店舗を集めることは困難であった。しかしながら、想いをもつ数名の店主達を中小企業診断士がバックアップすることで、商店会長、副会長の了解を得て、可能な限りでの拡大を行っていき、実施に結びつけたものである。
 予算について、年度途中で実施が決まったために、補助金を含めた予算計上が本事業に対しては行われていなかった。しかし、まちゼミでは、「販促活動の大きさ」が事業成功のカギを握っている。そのため、限られた範囲内で最大限のPRを行う必要があった。
 そこで、ポスターデザインは中小企業診断士が無償で担当し、印刷費は地域の印刷業者で低く抑え、地域の区営施設、最寄り駅の掲示スペースなどを活用しながらPRを行った。
特集-3p-図.jpg

3.まちゼミの「三方よし」を見る
 まちゼミでは、売り手よし、買い手よし、地域よしの「三方よし」を踏まえた上で臨む必要がある。三つの主体が、このようなメリットを共有できるというルールがあるからこそ、まちゼミの良さが活きてくるのである。
 「売り手よし」
・お店の認知度向上、顧客との信頼関係の構築、商店街内の店舗同士のチームワークの向上が図れる。
 「買い手よし」
・すぐに商品を購入する気持ちがなくても、押し付けられることなくその道のプロから適切なアドバイスを受けられる。
 「地域よし」
・地域の歴史、逸品等をテーマに取り上げることで、地域の特徴が発信され、「その地域独自の成り立ち、良さ」が改めて地域住民に向けて発信され、伝承される機会となる。

4.本活動における、中小企業診断士と商店街のメリットを把握する
 中小企業診断士、特に企業内診断士と商店街支援はもとより相性が良い状況ではあるが、おのおのがどのようなメリットを持つのかについて確認する。
 中小企業診断士のメリット
・数多くの店主との直接のヒアリング機会が得られ、個店支援力の強化が図れる。
 商店街のメリット
・一般顧客に好まれる講座のテーマや内容になっているかについて、コンサルタントの視点から確認してもらえる。
・中小企業診断士とともにスケジュール管理を行うことで、自分のみでは先送りしやすい作業を、予定通りに、モチベーションを維持しながら進めていくことができる。

5.多様な主体を巻き込むことが成功の秘訣
 まちゼミは、商店街が行う地域活動としての意義が大きい。その視点から、多様な主体を巻き込んだことで多くのメリットが得られた。ご協力いただいた主な方々は以下の通りである。
・区役所等の職員
 各区市町村の職員は、立場上、自らがまちづくりに手を動かす主体になれないことが多い。そこで、中小企業診断士が、地域に貢献するまちゼミの魅力を区に説明し、中小企業診断士が区の要望事項を聞きながら手を動かす主体となっていった。そのバックアップとして、区から、「プレスリリース」等のご協力をいただいた。役所が情報発信するイベントになったことで「お墨付き」が得られ、安心して地域の住民に参加してもらうことができた。
特集-4p-図.jpg・区や市の商店街連合会
 たとえば東京23区では、区毎に商店街連合会が存在する。商店街の活力向上のために、区役所と商店街の「パイプ役」を担うのがこの組織である。
 港区の実践では、港区商店街連合会に大変お世話になりながら支援を進めることができ、区の産業振興課や港区のケーブルテレビへ話をつないでもらうことができた。
・各区等のケーブルテレビ
 ケーブルテレビは、地域の「旬」の情報を発信する目的があり、今回の取材にもご快諾いただけた。実施にあたり、初めはやや懐疑的だった店主が、「ケーブルテレビの取材が来た。このような注目される地域の取組だと知って驚いた」と言い、高いモチベーションを発揮してゼミ運営に取り組むようになった。

6.まちゼミ実施の支援内容
 まちゼミによる支援は、まちゼミ自体への深い理解が不可欠であり、松井洋一郎氏の講義の複数回の受講や多くの事例研究を行っていく必要がある。
 その上で、私のチームで中小企業診断士が発揮した力は以下のとおりである。
・講座名や内容検討の支援
 お店のウリについて聞いても、「いまさら言われてもわからない、恥ずかしい」などという理由から、店主自身から言われることは少ない。ここで、中小企業診断士が個別に店舗ヒアリングを行うことで、参加者となる人たちからも見える、店舗の「ウリ」を抽出することで、講座内容の「発見」を行うことができた。
・講義手法の支援
 商店主の方によっては、「多くの方に向けて講義なんておこがましい、恥ずかしい」という意見を持っている。そこで、店主が自信をもって話せるよう、普段から講義、プレゼンに慣れている中小企業診断士が講義の手法を伝授して、「人前で話すのは苦手」という意識を解消した。
・当日配布レジュメの作成支援
 まちゼミでは、A4サイズ、1枚程度のレジュメを用いて講義することが多い。見やすい資料作りの方法を中小企業診断士が教えることで、一般顧客が理解しやすい講座の実施ができるようになった。
特集-5p-図.jpg

7.まちゼミ実施の効果
 商店街におけるイベント事業で即効性のあるものはない。しかし、本まちゼミ事業を通して、実施後3か月以内に、当初は想像していなかった、商店街内部での効果があった。
・実施月とその翌月の商店街理事会に、まちゼミ参加店主が全員参加した。
・本事業で商店街活動への意欲が高まった商店主が、自主的にできることを模索し始め、商店街ホームページの作成を始めた。
・まちゼミで知り合った意欲ある店主同士が仲良くなり、「ヘアセット&着付け」といった2店舗でのコラボメニューを生み出すようになった。
特集-6p-写真.jpg

8.商店街支援を行う企業内診断士に期待する
 私は、中小企業診断士のうち、企業内診断士の活動のあり方は、「スモールビジネス・マーケティング」の考え方に近いものであると感じている。プロコンに比べ時間が制約されている中で、全領域において診断士活動を行うよりは、特定の領域(ライン)で、幅広い支援内容(アイテム)を展開して活動を行う人が、そのプレゼンスを強く発揮していると感じる。
 今日、にぎわい補助金等の補助金支援など、商店街を支える中小企業診断士の需要が非常に高く、企業内診断士の実践の場での力が重要となっている。
 平日夕方や土日が支援実施の主体となっている商店街活動に対して、より多くの企業内診断士が参画してくれることを期待する。
 今回の事例紹介が、その支援活動の一助となれば幸いである。

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