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2014.08.29
「中小企業のIT化支援」への提言

「中小企業のIT化支援」への提言

東京協会認定 SCMとIT経営・実践研究会
中小企業診断士 吉村 正平

 「SCMとIT経営・実践研究会」(略称:SCM研)は、1999年にサプライ・チェーン・マネージメントの概念・手法・標準化や実施例等の実現状況を研究する「SCMビジネスモデル研究会」として、発足した。2006年からはIT経営を含む企業経営に役立つ内容を研究することを明記した現在の名称になった。
(1)研究会名:SCMとIT経営・実践研究会(略称:SCM研)発足年:1999年
(2)代表者名:魚谷 幸一
(3)開催日時:毎月第4土曜日(12月は第3土曜日)
(4)開催場所:都内(中央区または杉並区)の区民館
(5)1日の構成:
  午前:分科会
  午後:定例会(2テーマ)
  夕方:懇親会
(6)情報発信:HPでの公開

 2013年度の取り組みとして、本部から「中小企業へのIT化支援」の理論更新研修を依頼されたのをきっかけに、新たな分科会として更新研修企画プロジェクト(略称:K-プロジェクト)を立ち上げ、研修内容を吟味し、資料としてまとめ、研修会を5回実施した。201409_tokusyu_1.jpg

 講義内容を討議していく中で、「研究会で対応した事例や発表してもらった事例を盛り込む」、「経営戦略や課題解決を検討する段階に支援が必要」であり、戦術の重要な要素として「ITを武器として考えるもらうこと」や中小企業の相談相手である「診断士を研究会メンバが支援するサービスの提供」などの意見がだされた。
 「中小企業へのIT化支援」を実践する時の課題に対する「ソリューションサービスを研究会で作っていこう」との機運が高まり、研修実施後も「経営診断支援サービスメニュー」や「ボトムアップ・アプローチ」「ジャンプアップ・アプローチ」の具体化を進めている。
本稿では理論更新研修「中小企業のIT化支援」対応プロジェクトとその後の継続活動を紹介する。

1.「中小企業のIT化支援」はいかにあるべきか?
 情報化社会の進展とともに経営環境の潮流変化は発生しており、小規模事業者でも何らかのIT環境を利用している。中小企業は大手企業に比べて、IT化が遅れていると言われており、その対策として各種の支援策が実施されてきた。オフィスコンピュータの時代に比べれば、現在では安価なパッケージソフトの普及もあり、企業規模によるITの適用格差は小さくなってきている。業務現場でのIT利用についても表計算や文書作成ソフト等の業務ソフト利用は進んでいる。一方では、現場の課題は経営者から見ると些細なこととしか見えないため、現場のIT化費用が認められないケースが散見される。経営から見た投資効果が表れておらず、経営者から金食い虫と思われ、経費削減の対象になっているところもある。大手企業でも優先順位やセキュリティの懸念から適用が進んでいないものもあることを勘案すると、中小企業のIT化はもはや大企業の後追いではないと言える。201409_tokusyu_2_1.jpg
 中小企業白書(2013年版)の従業員規模別のITを導入していない理由に、①「コスト負担」②「IT人材不足」③「従業員のIT活用能力不足」があり、⑦「適切なアドバイザー等がいない」も上がっている。
 中小企業のIT化の課題を次の4点にまとめた。
①経営者の経営方針が不明のために解決手段としてITが有効に使われない。
②IT人材不足のため、特定の個人に集中している。組織的な対応の無さがリスクである。
③人材のIT能力不足のため、外部ベンダに依存度が高くなりすぎる。迅速な対応力がない。
④現場では個別のIT利用で、経営効率かに結びつかない利用形態になっている場合がある。

2.IT化支援のフレームワーク
 IT化の課題に対して、発想の転換が必要と考えて、新たな視点を提案したい。
【効率化から付加価値増加へ】
 中小企業では省力化が直接的に経費削減に結びつかない場合が多く、業務処理コストの視点で省力化効果は限定的である。適用すべき現場は付加価値の創造を担っている現場であり、狙いは「IT活用による付加価値増加」である。201409_tokusyu_2_2.jpg

【経営改革活動でIT適用の検討を】
 経営力向上は経営者の意思決定の問題であり、中小企業診断士が経営者の参画する経営改革活動で、適切な時期にIT化に関するアドバイスすることが大切である。
 経営者が望む"ありたい姿"に向けた実現手順を3つのタイプのアプローチ「トップダウン・アプローチ」、「ボトムアップ・アプローチ」、「ジャンプアップ・アプローチ」として紹介する。201409_tokusyu_3.jpg
 「トップダウン・アプローチ」は戦略に基づく業務の全体最適化を目指して、社長主導で進められる。たとえば、全社統合システム(EPR)を導入する場合には関係部署を横断したプロジェクト体制をとり、1年以上の構築期間と移行期間を経て、運用を開始する。
「ボトムアップ・アプローチ」は現場の継続改善により現場力強化を目指すものである。これは、目の前にある身の回りの業務を改善しながら、ありたい姿に向かう小集団活動であり、日常業務を行いながら、数か月単位の改善を繰り返す継続活動である。
 「ジャンプアップ・アプローチ」は目標・目的に向かって仮説に基づくあらたな道を切り開くもので、従来の活動からは離れた特命体制で取り組み、成功するまでトライ&エラーを繰り返し、経営者の支援がある限り挑戦する。
 以上の3つのアプローチを選択肢として、中小企業診断士が経営課題を解決するのに適した手順を経営者に助言する。さらに、情報セキュリティ、個人情報保護、知的財産権への対応も助言することを提言する。
 以上の内容をまとめたものが、研修用テキスト「中小企業のIT化支援」である。

3.研究会活動実績の活用
 提言を分科会活動で討議できたのは、それまでに、大学教授、企業の専門家、実務経験者、中小企業経営者、独立コンサルタント、ITベンダ等の有識者に講演を依頼して、その後の継続した交流を行ってきた人脈と情報調査を行える研究会メンバによるところが大きい。
 以下に、テキストに収納した例を紹介する。

3.1.ITカイゼンとデータ連携ツール「コンテキサー(Contexer)」
 西岡靖之(法政大学デザイン工学部教授)はトヨタのものづくりのカイゼンに対応して、工場現場の情報処理の"ITカイゼン"として情報のムダ取りと情報の清流化を提唱した。
 製造業は商流、物流、金流に関連して多様な情報伝達(情報流)があり、業務の流れに関連して各種のデータを蓄積したマスタファイルが点在し、業務担当者が必要な情報を取り扱っている。工場で扱われる情報は製品に関する多様なデータ構成と変化するデータの集まりで常に変化している。日々、付加価値を生みだす現場で、必要な情報や知識・知恵を蓄積して作業に合わせて利用できることが"強み"である。基幹システムのような統合データベースを工場のものづくりの現場で実現することは現実的ではない。
 現場作業に必要なデータは仕様と"もの"に依存しており、現場でのデータ蓄積も必要である。これらのデータ活用策としては、基幹システムのデータと現場の各種データ、整合性を取りながら現場ニーズに柔軟に対応して、情報の流れを清流化することが現実解である。
 生産に必要な情報伝達は注文(オーダ)の単位に各種マスタデータを参照しながら、業務間を流れていく情報処理である。工場のIT化の経験者が現場で使える連携ツールのソフトウェア要件を提言し、それを満たすようにソフトウェア「コンテキサー」が企画・開発された。201409_tokusyu_4_1.jpg
 コンテキサーは業務の流れを実現するデータ連携ツールである。Excelの表形式とおなじような項目のタイトル行とデータをもつレコード行で構成される表(パネル)が基本単位である。201409_tokusyu_4_2.jpg
 表のデータ編集機能に加え、表と表の関連付けや表の外部ファイルとの入出力を使って、情報処理を行うことができる。表と表の関係付けは転記、限定、補助の3種で、詳細をパラメータで指定する。データ編集・操作(アクション)をまとめて手順(コマンド)が登録できる。業務に必要な演算・操作をプログラム言語の知識がなくても組み込むことが可能で、担当者の作業を支援する自前のシステムを構築することができる。
 "ITカイゼン"の普及活動が東京都の提案公募型産業交流促進事業に採択され、中小企業が参加して実績をあげている。

3.2.今野製作所の適用事例
 研究会に講師として招聘して以来、参加メンバとなった今野製作所の社長が改善状況を研究会で発表。"ITカイゼンの講習会"の参加企業でもあり、コンテキサーで自前の生産管理システムを作り、市販の販売管理、会計処理ソフトに連携させて活用した。201409_tokusyu_4_3.jpg
以下は社長が研究会に寄せたコメントの抜粋である。
[中小企業の実情]30人規模の会社。専任のIT担当者はおけない。小さい会社は、ひとりのできる担当者が、複数の業務機能を兼務し、パラレル処理をしている。(「中小企業は小回りが効く」。)現場は、近視眼的。業務プロセス全体が見えていない。本来の「業務プロセス」「業務機能」「情報のながれ」が、自分達もわからなくなっている。
[ITカイゼンの中核メンバ]3年掛かって、ようやく体制ができつつある。
本社:業務マネージャー(42歳)+設計担当者(27歳、社歴3年)
   コンテキサーで業務アプリを作ってきた。業務全般に関して、驚くほどの急成長。
工場:業務担当者(32歳)+現場製造担当(20歳、新入社員、育成中)
   新人は「IT」「パソコン」はやたら詳しい。でも業務はまだ知らない。
[経営者の役割]①経営課題としての問題認識を、俯瞰して、その因果関係を冷静に分析することが重要。そもそも問題点だらけの中小企業。優先順位付けを経営者が行う。
②ITカイゼンの推進をどうするかの、担当者育成方針、研修会への参加コンサルの活用など、経営者の意思決定、ふんぎりが大切。
③「IT経営」。社長はなにも「狭義のIT」に詳しくなくてもいいが、業務プロセスの理解と業務全体の俯瞰能力があれば、いい。
④「業務を自分たちでカイゼンしていくのだ!」という組織マインドの醸成を目指す。

3.3.研究会の対応事例と事例調査
 当会の実践分科会で診断した事例と中小企業IT経営力大賞などの事例を検討し、スタートアップ企業の「トップダウン・アプローチのシステム構築提案」、今野製作所の「ボトムアップ・アプローチ事例」新分野適用の「アパレル卸企業のIT化提案」「遠隔地カメラによる店舗運営」を選び、パネルディスカッションの紹介事例とした。

4.IT化支援のフレームワークに新たな追加提言(参照資料2)
 IT化の課題(②、③)の解決策として「自社要員によるIT化」を提言する。また「ボトムアップ・アプローチ」の手順を提示する。

4.1.自社要員によるIT化
【投資効果を「開発投資コストからITの生涯コストで評価する」】
 企業活動におけるIT投資効果は運用して初めて効果測定が可能となる。そのとき、評価対象となるコストは開発コストだけでなく、運用開始後の運用コスト・改修コストを含めるべきである。ハードウェア・ソフトウェアコストは大きく低下傾向が続くが、人件費がコストの中心である導入・運用・改修コストは低下しにくい。

IT生涯コスト=構築コスト+運用・改修コスト
   =構築コスト(人×月)+ Σ(要員アサイン待ち+仕様打合せ+改修期間)201409_tokusyu_5.jpg


 外部委託して構築した仕組みは社内の要員で運用維持をしていたとしても、業務要求の変化に対応した改修を実施するとなると委託した企業の人に依存せざるを得ない。ところが、委託先では開発担当者から引き継いだ要員が改修対応をすることになり、変更要件の理解と改修方法の発見・改修箇所の特定・改修後の全体稼働確認の時間とコストが発生する。このような外部への流失コストに加え、結果には表れにくい対処遅れによる機会損失コストも発生するため、これらの考慮も必要である。

【開発業者に依存しない維持改修体制へ】
 内製化へ方針変換すると、社内要員のITスキルの育成コストが課題になる。
 しかし、情報化社会においては「従業員のIT活用能力不足」を解消すること(情報リテラシーの向上)は情報セキュリティや個人情報保護、知的財産権保護の要件からも必要な人材育成事項である。
 中小企業でもExcelを使うITスキルは自動車免許程度に普及しており、社内要員の継続育成を考えると構築・運用・改修の人材育成コストが小さい(前提スキルが低く、学習時間が少ない)ツールを採用することが現実的な選択であり、個人に依存しないために、複数の要員の兼任体制を目指すことが大切である。
 自社開発することを実践されている企業では以下の声が聞かれる。
◦自社内で開発できたという達成感もあり、非常に大きな自信につながった。
◦安価で自社にあった柔軟(不具合はすぐ改善)なシステム運用が可能となる。
◦「環境の変化に合わせて事務処理やものづくりを自分たちで変えられる」意識を持てるようになることが、経営にとって大きなメリットになる。

4.2.ボトムアップ・アプローチの具体化(手順)
 ボトムアップ・アプローチの手順は社員の情報シテラシーの向上と暗黙知の形式知化を伴う3段階のステップアップで行う。
 事例として次の企業の現状を例にボトムアップ・アプローチ手順を解説する。
 ある製造小売業の現状を調査した結果、自社用に新規開発したシステムやパッケージソフトが導入されているが、導入担当者は退社して、ブラックボックス化していた。
 既存のシステムは個別の書類作成に利用され、手書き伝票やFAXの伝票、紙印刷の資料をもとに各自が業務用にExcelを活用しているが、業務間の情報伝達は紙で行われていた。201409_tokusyu_6.jpg

第一弾:現行担当業務の処理機能をコンテキサー化
 現場の伝票、台帳、帳票をもとに項目情報とデータの整理・整頓・精査を実施する。
 手作業やExcelで行なっていた人間系の処理部分をコンテキサーで行なえるように画面上でデザインする。既存のExeclデータはCSV形式で受けとることで、プログラムの作成なしに試行可能である。データベースを内蔵していないため、項目追加・変更、新たな表の追加などが画面上で簡単に行える。201409_tokusyu_7_1.jpg
 受注伝票のような細目があるものは受注オーダ単位に複数細目を細目シートに記録し、状況変化に応じて更新。その結果をもとに他の業務で必要なデータ(たとえば、仕入リスト、出荷リスト)を必要なタイミングでCSV形式のファイルで渡せるようになる。シート間の項目転記やシート間の制約条件により項目と明細を関連付けた階層表現の編集、条件設定による一括編集、時間経緯による在庫推移表や資金繰り表などの時系列表展開などが可能となる。
 帳票の印刷はExcelへのデータ出力機能で従来のExcelの帳票出力処理を利用できる。

第二弾:業務見直しと業務間のデータの清流化
 業務担当者の開発・運用経験をもとに、業務間のデータ渡しを目指して、共有化、標準化、手順化に向けた検討を行う。201409_tokusyu_7_2.jpg
 業務の役割分担の見直しとデータ項目の統合とデータの整理(情報の5S活動:整理・整頓・精査・鮮度・躾)を行う。コンテキサーの改修とCSV形式連携の試行で課題を解決し、紙からデータ渡しの運用へと数か月単位で逐次実施し、適用範囲をつなげて拡大していく。

第三弾;業務連携の強化と基幹システムとデータ連携
 基幹業務との役割・連携の見直し、必要な受け渡しのデータ項目と連携方法を決める。
 営業活動を支援するネット利用の情報処理や取引先との情報共有にも取り組む。
 運用変更のためのスケジュールには、データ移行やDB連携データの検証を行う期間を設けることが必要である。
 運用開始後も業務担当者による評価会を実施して、改善を継続していく。201409_tokusyu_7_3.jpg
5.経営に役立つIT化の支援
 東京都経営力向上プロジェクトなどの経営診断した情報をもとに、企業にあったオーダーメイドの経営力向上策をお客様と一緒に検討する段階からIT化の実現アプローチの設定を進めていくことが肝要である。201409_tokusyu_8.jpg
 経営者と経営革新計画を立てる。その中で「トップダウン・アプローチによる業務革新」、「ボトムアプローチによる業務改善」、「ジャンプアップを狙う開拓プロジェクト推進」の3つの形態を個別企業の具体的な行動に落とし込み、継続して支援していくことが大切である。

6.おわりに
 経営者の理解なしには、IT化の推進は実現しない。「中小企業のIT化支援」は中小企業診断士がその分野の専門家と連携して対応していく「チームコンサルティング」により、経営者に助言していくことが肝要である。研究会がそのための情報共有の場とネットワークを提供していきたい。
 研究会の運営はペーパレスのネット利用の活動で進めて、毎月第4土曜日(12月は第3土曜日)は分科会、定例会、懇親会という1日のプログラムを実施している。
 分科会では経営診断から経営改善の企画、さらに実施過程でも継続的に支援をおこなえるような「実践に使えるフレームワーク」を作成し、企業内診断士の能力と継続支援対応可能な独立系診断士(企業OBを含む)が相互に協力できる「チーム活動として実施体制」で実践することに取り組む。
 定例会では午後にSCM、IT経営に関連する多様なテーマについて、その分野の有識者による講演会と会員の発表の場であり、最新情報の学習と人的交流を継続している。
 定例会だけでも見学が可能であり、活動の趣旨に賛同し、主体的に活動に取り組む方の参加を歓迎する。(講演内容・参加方法は研究会のHPを参照)
 提言に関する問い合わせ先:吉村 正平:yoshimura-m@mbm.nifty.com
(敬称略)
Kプロジェクトメンバ:魚谷 幸一、福本 勲、石渡 昭好、今野 浩好、岡部 亮一郎、
           堀尾 健人、高橋 誠一、下平 雄司、久保 聰、吉村 正平

参考資料
1. 2013年度東京都中小企業診断士協会 理論更新研修テキスト「中小企業のIT化支援」
2. SCM研究会 発表資料「ボトムアップアプローチ手順~DIYがおすすめ~」
  参考HP:SCMとIT経営・実践研究会:http://www6.airnet.ne.jp/scmbm/
"ITカイゼン"、コンテキサー:ApstoWebのHP:http://www.apstoweb.com/
東京都新・経営力向上プロジェクト:http://www.keieiryoku.jp/
中小企業IT経営力大賞:http://www.it-keiei.go.jp/award/

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