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2014.11.29
ベンチャー企業と大企業の好循環形成に向けた課題

~ベンチャー企業と大企業の好循環形成に向けた課題~

東京協会認定 ベンチャービジネスサポート研究会
干臺(ひだい)  俊

当研究会について
 ベンチャービジネスサポート研究会(VBS研究会)は、平成8年登録のメンバーが、「これからの日本経済の活性化のためには新たなベンチャーの出現が重要で、それを支援するメンターも育っていかなければならない」として平成9年に設立され今日に至っている。
 ベンチャーの創業や経営支援のあり方、仕方、事業レビュー等のスキルを磨くことが、主な目的であり、会員の中心世代は、40歳くらいで比較的若い人達が集まっている。現在、定例会とは別に2つの分科会が開催されており、企業支援として事業レビューと改善提案のための活動を行っている。今回は、VBS研究会の一つの関心事である「創業における大企業とベンチャー企業との関係」について、論じることにする。

1.はじめに
 近年、従来であれば企業内に留まっていたであろう若手のエンジニアなどの人材が、スピンアウト・カーブアウトして社外に飛び出し、ベンチャーを起業する事例が注目されている。なぜ、このような変化が起きているのだろうか。本稿では、ベンチャービジネスサポート研究会の活動報告として、その変化を考察した結果を以下の項目に沿って紹介する。
(1) スピンアウトベンチャーを生み出す社会面・ビジネス面の環境の変化
(2) スピンオフベンチャーの事例と、起業準備のための社会インフラ整備の進展
(3) スピンオフベンチャーと大企業によるビジネス育成モデルと、解決すべき課題
(4) ベンチャー支援に求められる中小企業診断士像

2.スピンアウトベンチャーを生み出すビジネス・社会環境の変化
 まず、背景にある環境変化に着目したい。社外に飛び出す人材を後押しする最近の環境変化は主に3つあると考えられる。
(1) 市場の細分化と小規模化
(2) ユーザーと一体化した製品開発手法への変化
(3) 企業への帰属意識の低下

ユーザーの一層の多様化
 個人が得られる情報量が飛躍的に増大した結果、近年のユーザーのニーズの多様化が著しく進み、市場のセグメントは一層細分化しており、この変化の中で、大きな課題が顕在化している。すでに広く認識されているとおり、一層多様化したユーザーニーズの的確な把握とウォンツの発掘である。
 
 ユーザーの多様化により開発側とユーザーの認識のギャップは一層拡大している。たとえば、大手メーカーが3次元の加速度センサーを開発したが、機能を生かすアイデアが思いつかず、「万歩計」として販売したが全く売れなかった、といった事例がある。開発段階からユーザーニーズやウォンツを認識できていない例といえる。ニーズ志向型マーケティングと言われて久しいが、当事者であるほど実践は難しく、製品企画を先行し、市場で失敗する事例は後を絶たない。

ユーザーと一体化した製品開発手法への変化
 この課題を達成するために、最近、各企業が取り組んでいる製品開発手法が、ユーザーとの共同開発である。ユーザーが開発メンバーとして参画し、マーケッターや事業プランナー、デザイナー、設計技術者、プログラマーなど、バリューチェーンの関係者がチームを組み、プロトタイピングを通じた検証により、機能やデザインを詰め、製品を作り上げる。ユーザーと開発側の認識のギャップを解消し、バックグラウンドの異なる者同士の相互の気づきから、新たなウォンツを発掘する手法である。

 本手法は、さまざまな実践方法がある。とあるソフトウェア企業では、今や社内の管理職で製品企画の良し悪しを判別することが難しいと考え、Facebookやツイッター等にプロトタイプを掲載し、「いいね」を一定数得たものを、社長含めた幹部会議で議論し、製品化の決定を行う仕組みを試験的に行っている。また、とあるデバイス企業では、開発したセンサーを主婦のグループに持ち込み、ワークショップを通じて新たなユーザーニーズを発見したり、また、身体の不自由な方と一緒に製品企画・デバイスの使い方を考えることで、その方の利便性を向上させると同時に、広く一般の方々の利便性も一層高めるといった製品開発などを行い始めている。
 
 このような方法論が拡大しているが、この変化から企業内のエンジニアなどの人材がベンチャーを立ち上げる理由が2つ見えてくる。
(1)「ユーザーとの距離の近さ」、「関係者が一同に集まれるフットワークの軽さ」が必要となり、ベンチャーなど小さい組織の方が、より取り組みやすい点
(2)特定のユーザーを対象とするため、予測できる市場規模が小さくなり、大企業では市場とならなくても、ベンチャーなど小さい組織であれば市場となり得る点
 また、エンジニアが顧客と直接対面することで、顧客の喜びを直接感じることができる、といった側面も理由に含まれるだろう。
 
企業への帰属意識の低下
 前述のような変化が起こる一方で、企業内の人材のマインドも大きく変化している。「電機連合組合員調査1994年・2005年」および「経済産業省産業技術人材の成長と育成環境に関する調査」において企業内の人材の「仕事のやりがい感」、「企業忠誠心」について分析を行っている。その結果の一つは、技術者全般に共通する傾向として、仕事・企業への思いが急速に冷めている、と示唆されている点である。

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 2000年以降の成果主義人事制度の導入と、大規模な人員整理が行われたことで、終身雇用が中心と考えられていた雇用風土が大きく変化し、特に、技術系人材において、企業への忠誠心が低下したのではないか、と示唆されている。雇用の不安定さ、待遇の伸び悩みが生じた結果、「やりがい」の相対的価値が上昇し、技術者などの人材が社外に飛び出す遠心力が高まっていると考えられる。
 
3.スピンオフベンチャーの活躍と起業準備のための社会インフラ
 本稿では、実際に企業から飛び出してベンチャーを起業した事例と、前述のような社会変化を受けて、整備が進みつつある企業外・本業外での活動するための社会インフラについて紹介する。

スピンオフベンチャーの活躍
 最近の著名なスピンオフベンチャーの一つとして挙げられる企業は、車椅子を開発・製造するWHILL株式会社である。数百メートルの移動でも車椅子に集まる人目が気になり外出を控えるという車椅子ユーザーの声を受けて、デザインと機能に優れた新たな車椅子の開発を目指し、自動車や電機などの各大手企業から若手・シニアエンジニアが集まり、ベンチャーを起業した。特定のユーザーの声を大切にし、それぞれが所属する大企業では開発が難しいがために、スピンアウトして製品開発に取り組む姿勢は、昨今の変化を象徴しているものではないだろうか。
 
 もう一つのスピンオフベンチャーの事例は、3Dプリンターで安価な義手を開発する企業である。これまでの腕や指が稼動する義手は百数十万円したが、それを数万円で実現することにより、世界の腕をなくした方々に、複雑な動作は難しいが傘を持つなどの機能を持つ義手を届けることを目的とした企業である。こちらも企業内の若手エンジニア達がスピンアウトして設立したベンチャーである。
 その他、未だに起業に至っていないが企業内の若手のエンジニアから起業に関する相談を受ける機会が筆者の周囲にも増えつつある。

起業準備のための社会インフラの整備の進展
 このような動向と同時に、試作、ビジネスプランの検討、専門家とのネットワーク形成など、スピンアウトする前の起業準備を行いやすい環境の整備が進んでいる。

ファブラボ、メイカースペース、コワーキングスペースなどの整備
 「ファブラボ」や「メイカースペース」とは、簡易な工作機械を設置した製品開発環境を整えた施設であり、現在、民間の施設として全国で増えつつある。施設内のデスク、レーザーカッター、3Dプリンター、ボール盤、旋盤等を利用し、自身のアイデアを形にすることができる。「コワーキングスペース」とは、オフィスや打ち合わせスペースを共同で持ち、維持・管理コストの低下することの他に、バックグラウンドの異なる人材の出会いによる相乗効果の発揮を狙ったレンタルオフィスである。
 たとえば、経済産業省の産業技術構造審議会においても類似の取組が紹介されている。品川駅に近い場所に、品川ものづくりラボ=品モノラボ、という、品川に縁のあるメーカーや、ものづくりへの関心の高い人々が、会社帰りに集まり、ものづくりに関して相互に学び合う場が立ち上がっている。本ラボでは、すでに複数のアイデアが製品化に向けて動いているという。

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2枚目の名刺活動
 マスコミにも多数取り上げられており、ご存じの方も多いと思う。本業で培った知見や能力を本業以外の社会活動で発揮することを目的に、本業以外のもう1枚名刺を持つことを促す活動である。たとえば、NPOなどの抱える問題について、社会人がチームを組み、各個人の能力を活かしてソリューションを提供する。このような社会貢献を通じて、ベンチャーの企業など新しいキャリアを模索する若手が増えている。

 着目すべき点は、企業に所属しながらも、企業内に留まることなく、こうした活動に取り組む方々が少なからず存在する点である。「経営者保証に関するガイドライン」などの整備等により、起業失敗時のリスクは低減されているが、日本においては起業に失敗すると再起が難しい、と依然としていわれることも多い。企業に所属してリスクを最小化しつつ、起業の準備を行うことが可能なこれらの取組は、日本社会にマッチした仕組みではないだろうか。

4.ベンチャー企業と大企業によるビジネス育成モデルと課題
 前述のように社会変化とともに、スピンオフベンチャーの活躍や、企業外での活動が活性化している中で、ベンチャー企業と既存の企業にとって、どのようなビジネス育成モデルが構築されていくのだろうか。
 これまで紹介した現象を踏まえると、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源全体に渡る「ベンチャー企業と大企業による循環の形成」が今後のビジネス育成を担うモデルの一つとして考えられる。

 企業内における人材が、自己の能力発揮の場を求めて、スピンアウトもしくはカーブアウトベンチャーを起業し、製品企画・開発を通じて小規模市場でビジネスモデルの構築・検証を行う。そして、大企業がベンチャー企業を買収し、資本力を活かして、より大きな市場に製品を供給していく。ベンチャーを起業した人材は、売却とともに企業内に戻ることや、新たなベンチャーを起業していく。といった米国では日常的に行われているビジネスの育成モデルが、いよいよ日本でも始まることが期待される。

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 ただし、この育成モデルが循環するためには、これまでの終身雇用のライフスタイルを前提とした制度上に、いくつかの課題が存在する。最近の国の動きに合わせて、2点紹介したい。

入り口としての兼業・副業
 一点目は、循環のスタートである、企業内の人材が企業外の活動においてビジネスを探す副業・兼業行為を禁止する就業規則の存在である。「2014年度版中小企業白書」によると、兼業・副業が許可されていない企業は67.2%に達し、また兼業・副業したいと希望する社員・職員が48.1%存在することが示されている。

 また、過去の事例の少なさから、兼業・副業に関して具体的やつ詳細を規定したルールの積み上げも少ない。兼業・副業を解禁するためには、所属する企業側と兼業・副業の線引きがある程度明確化されるルールなどが必要である。本格的な解禁に向けては、以下の項目に関するルールの整備が必要となるであろう。
(1) 本業の利益相反とならない兼業・副業が認められる範囲
(2) 本業と副業・兼業時の個人との知的財産権の範囲
(3) 雇用者として副業・兼業を行った場合の総労働時間の管理 など
 上記のような整理が存在しなければ企業側も根拠をもって兼業・副業を許可することは難しい。今後、各企業がルールを策定の際に参考となるガイドラインの整備が今後必要となると考えられる。

出口としてのコーポレートベンチャリング
 二点目は、企業がベンチャーを買収する際のコーポレートベンチャリング(CVC)の課題である。オープンイノベーションの実践という従来から指摘されている課題であるが、外部とのアライアンスの判断基準となる「企業のコアコンピタンスの特定」や「アライアンスを結ぶ事業エリアの設定」などに難しさが存在している。ただし、企業規模が大きさに比例し、これらの特定や設定は難しくなる。また、多様な組織があるが故に、多少のコスト高が生じても外部とのアライアンスよりも内部調達の圧力が強まる傾向も存在する。

 昨今、新たな視点として、上武大学の中村裕一郎教授により、ベンチャー企業と大企業の信頼関係の形成の重要性が指摘されている。具体的には、大企業がベンチャーキャピタル(VC)のコミュニティに参加し、そのネットワークの中で、VCの投資先から将来の買収候補を選定し、ベンチャー企業自身の可能性と、経営者の資質を確認していくことで、企業によるベンチャー買収の進展の可能生を示唆している※ものである。

※中村裕一郎著 アライアンス・イノベーション 大企業とベンチャー企業の提携 理論と実際(白桃書房)
 このような信頼関係の醸成を図る取組は、現在、経済産業省が進めている「ベンチャー創造協議会」においても実施されている。大企業、ベンチャー企業、ベンチャーキャピタル等を協議会に集め、各組織間のネットワークを醸成し、大企業によるベンチャー買収を促すことを目的の一つとして協議会を運営している。

5.ベンチャー支援に求められる中小企業診断士像
 ベンチャー企業と大企業による循環形成については前述のとおり、いくつかの課題があるが、競争力のある製品を市場に供給するために、大企業とベンチャー企業の循環は徐々に形成されていくものと考えられる。このような流れの中で、ベンチャー企業を支援する中小企業診断士には、どのような能力が求められていくのだろうか。

 企業内の技術者などの人材からの独立・起業に関する相談を受ける中で、従来の(1)独立に当たってのビジネスモデルの検証、(2)融資元の選定、(3)開発・生産計画、資金繰り計画の策定、(4)知的財産の特定・保護などの支援に加えて
(1) 所属企業との知的財産の整理
(2) スピンアウトの選択、時期、所属企業との関係に関するアドバイス
(3) 企業売却に備えた候補先の選定 など
の支援が今後拡大していくことが見込まれる。

 支援範囲の拡大により、ビジネス全般をカバーする中小企業診断士の社会的なニーズは一層高まっていくことが期待される。また、所属する企業内のロジックを理解しつつ、客観的にビジネスを俯瞰することが可能な企業内診断士の新たな活躍の場としても期待することができるのではないだろうか。

6.終わりに
 本稿では、企業内のエンジニアなどの人材から、起業の相談が増えている実感および周囲の声を踏まえ、近い将来に想像されるベンチャー企業と大企業の関係について、敢えて踏み込んで紹介することを試みた。紙面では紹介仕切れていない背景や事例、また、待遇面の課題など、まだまだ多数の整備すべき点があると考えられるが、本稿をお読みいただいた方々にとっての新しい「気付き」があれば幸いである。

 また、このような論点について発表する機会をいただけた東京協会およびベンチャービジネスサポート研究会の方々に感謝の意を表したい。

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