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2014.12.26
ビッグデータ時代にこそ必要な中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方

ビッグデータ時代にこそ必要な
中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方

中央支部ビジネスデータ分析研究会 村山 聡

 

【活動の経緯】
 ビジネスデータ分析研究会は、2012年1月より活動を開始した研究会である。ビッグデータに代表されるデータ分析活用ニーズの高まりを背景に、中小企業支援において中小企業診断士がデータ分析を積極的に活用していくことを目的に、統計解析手法やデータ分析ツールの使用方法などを研究している。

【支援企業概要】
 支援先である株式会社ビレセントは、女性を対象とした酵素風呂サービスを提供する「酵素風呂ボラボラ」を八丁堀にて運営している。酵素風呂とは酵素入りヒノキパウダーの入った風呂であり、酵素による温熱効果で、新陳代謝の活性化や体質改善を促進する効果があるとされている。また健康をキーワードとした商品の店舗での販売、及び空きスペースを活用した整体、マッサージなどのサービスを提供している。

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【データ分析を取り巻く現状】
 ここ数年「ビッグデータ」を始めとしたデータ活用事例が、さまざまなメディアにキーワードとして取り上げられている。情報システムの発達により、ネット上に存在する膨大なデータや、センサーから取得できるデータ、デジタル画像や動画データと言ったデータを比較的容易に収集・分析できる環境が整ったことが理由である。

 しかし、これらのデータ活用事例の多くは情報システム、分析ツール、アナリストといった分析に必要なリソースが十分に揃った大企業での利用を前提としている。
 では、中小企業にはデータ分析は不要なのだろうか。確かに高度な統計解析手法の活用は、中小企業にとっては敷居が高い場合が多い。しかしデータを分析し、財務分析だけでは読み取れない経営の現状を数値で把握することは、中小企業にとっても必要不可欠である。とはいえ、実際に分析リソースを中小企業が独自で用意することは困難であることが多い。
 このような現状を鑑みた場合、中小企業診断士がデータ分析を実施した上で、経営支援を実施することは、重要な意義があるといえる。

【分析対象の把握】
 支援を開始した当時、ビレセントは創業して1年ほど経過しており、売上げも順調に伸びつつあった。一方で、主力事業である酵素風呂の稼働状況は20%程度とまだまだ余裕があり、さらなる売上向上がビレセントの当面の課題でもあった。そこで今後、売上げ向上施策検討のための基礎資料とするため、2013年1月から2013年12月までの1年間の売上げデータを用い、顧客データ分析を実施することとなった。
 分析を実施する際には、分析対象について状況を把握することが重要だ。今回は顧客データ分析を行うため、まず顧客の行動を可視化することから支援を開始した。

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 酵素風呂は、繰り返し入浴することで効果が持続すると言われている。そのためビレセントでは、利用料を割り引いた回数券を用意し、継続して利用したい顧客に利便性を提供している。この回数券販売という施策は、来店可能性を高めると同時に、顧客から先に利用料金を払ってもらえるため、資金繰りが楽になるというメリットがある。一方で、顧客が回数券を使用する場合、設備は稼動していても、その日の売上げにはならないため、日々の売上げと店の稼働状況が一致するとは限らないことになる。つまり売上推移だけを見て、経営状況を判断すると、実情を見誤る可能性が高いということになる。このような現状を踏まえた上で、データ分析の実務を開始した。

【データ分析のポイント】
 顧客データ分析実施においては、3つのポイントを押さえておく必要がある。

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 一つ目は、データを分析可能な状態に加工することである。一般的にシステムに残されているデータは、そのままでは分析に適さないため、さまざまな加工が必要となる。数値化されているマスタ情報の置き換え、年月日や曜日といった分析に必要な軸の作成、名寄せなどがそれにあたる。本事例では、受領した顧客売上げデータは、「売上管理シート」というExcelで作成されており、デジタル化はされていたが、加工作業以前の問題として日々の顧客一人一人の売上げが個別のシートに記載されていた。

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 このように中小企業においては、日々の記帳を優先し、データが分析に適さない状態となっている場合も少なからず存在する。幸いフォーマットは標準化されていたため、データを抽出、変換するマクロを作成することで対応した。これにより月別に12個のファイル、3,000を超えるシートにわかれていた売上げデータを一元化し、データ加工を実施した。地道な作業ではあるが、この作業を実施しなければ、データ分析自体も実施することができない。分析の世界で、データ加工が分析の8割の業務量を占めると言われる由縁である。

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 二つ目は、顧客を分類する手法を決定することである。顧客データ分析においては、デシル分析(顧客をある軸に従って10段階に分類する)やRFM分析(直近来店日、来店間隔、購入金額の3軸を掛け合わせて分類する)といった分析手法を使うことが多いが、これは大量に顧客データが存在する比較的大企業において有効な手法であり、中小企業に対しては、現実的な手法ではない。

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 そこで、分析の主目的である売上向上施策を検討しやすい、優良顧客(グループA)、初回離脱顧客(グループC)、その他(グループB)の3種類に軸を設定することとした。優良顧客が判別できれば、継続して利用いただけるよう手厚いサービスが可能となり、初期離脱の比率を減少させることができれば、新規開拓コストの早期回収が可能となるからだ。

8p-中図_201501.jpg 分析の結果、ビレセントの売上げの約8割が、19%の優良顧客からの売上げであり、63%の顧客は1回きりの来店で初期離脱していたことが判明した。実際の分析では、この分析以外にも多面的に状況を把握するため、多くの分析を実施している。

8p-下図_201501.jpg 三つ目は、データから得られた知見をいかに活用するかである。データ分析は注力すべき方向性は確認できるが、そのための具体的な施策まで明らかにしてくれる訳ではない。そのため、分析結果をもとに経営者とディスカッションをし、具体的な施策を検討する必要があり、ここはまさに中小企業診断士の領域である。本事例では数回に渡り、分析結果をもとに、経営者にヒアリングを実施した上で、チームメンバーで50を超える改善施策提案を行った。その狙いは、取り得る施策をすべて洗い出した上で限られたリソースの中で、実行できる施策、効果のある施策を経営者とともに検討していくことである。提案した施策の中から、満足度向上、及び次回来店促進効果が得やすい施策として、優良顧客へのダイレクトメールの送付、店舗内における整体・マッサージの予約状況の掲示、及び酵素風呂とのコラボサービスの開発、分析により明らかになった売れ筋商品の自社開発などを実施することになった。

9p-上図_201501.jpg また優良顧客(グループA)の人数比率を19%から25%に、初回離脱顧客(グループC)の比率を63%から50%に改善することを目標として設定した。この目標を達成することができれば、同じ顧客数と仮定した場合、125%の売上向上が見込めることになる。

【施策実行後の効果】
 施策は、2014年4月から順次実行されている。そこで分析を実施した2013年1月~12月と2014年4月~7月の二つの期間での状況を比較することで、施策の効果検証を行った。

9p-中図_201501.jpg 分析を実行した2013年1月~12月と比較して、売上、来店人数、顧客単価すべてにおいて向上している。次に、各顧客グループの比率は目標を達成したかを確認する。グループの比率については、2013年1月〜12月と2013年1月〜2014年7月とを比較する。

9p-下図_201501.jpg 比較した結果、目標を達成するまでには至っていないが、グループAの顧客数比率は、19%から23%に向上しており、施策実行の効果が出ていると考えられる。

【今後の支援について】
 今回の支援事例では、創業間もないこともあり、新規顧客開拓に目が行きがちだった経営者に、顧客データ分析の結果により、リピート・単価アップの重要性を改めて認識していただいたことが、売上向上につながったと言える。とはいえ新規顧客開拓を怠ってしまえば、せっかくの施策も宝の持ち腐れになる可能性がある。事実、積極的な広告展開を行っていた創業当初と比較して、最近の初回来店人数は減少している。

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 今後はさらなる売上げ向上に貢献していくため、新規顧客開拓についても支援を予定しており、その第一歩としてWebの改善支援に取り掛かっている。

【中小企業診断士が持つべき分析スキル】
 我々、中小企業診断士が経営支援を実施する時、財務分析の結果から経営課題を把握し、その後、経営者に課題についてヒアリングを行い、解決策を提案するという流れがスタンダードである。しかし、分析者の観点から言えば、経営者へのヒアリングだけでは不十分ではないかという想いがある。今回のように、中小企業ではリソースが不足しているため、経営者が、自社の状況についてデータを分析していないことが十分にありえる。そのような場合、経営者のヒアリングに関する回答は、主観的な判断に偏ってしまう可能性がある。また限られたヒアリングの時間の中では、経営者が重要な事実を伝え忘れるといった事態も考えられる。このような事態を避けるためにも、中小企業診断士は、データ分析のスキルを身に付けておく必要があると考えられる。

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