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2015.01.30
新社会人向け研修ゲーム「PMG」の開発

新社会人向け研修ゲーム「PMG」の開発


城南支部実践能力開発研究会 岩立  誠
E:iwatate@tkd.att.ne.jp

Summary(要約)
 若者の価値観や能力の多様化からか、昨今、スケジューリングや報告・連絡・相談といった基本的な仕事の仕方を十分に身につけないまま企業に入る新社会人が増えつつあり、これらを会得させる手立てのニーズが高まっている。
 これら仕事の仕方は、体験、とりわけ失敗体験を通じて習慣として身につけさせることが望まれるものの、多くの企業では余裕の乏しさから、実業務での失敗体験の提供が難しくなりつつある。次善の策として研修ゲームにおける疑似体験が有効と考えられるものの、既存の研修ゲームは主に経営者・管理職用のものと簡易なアイスブレーク用とに二極化されており、新社会人向けのものは少ない。
 そこで当研究会では昨年度、新社会人向けの能力開発の中でも特にニーズが大きいと思われるスケジュール管理を題材に、研修ゲームの開発を実施した。プロトタイプの作成後、研究会の中で試行と改良を繰り返し、現在までにゲームのベータ版を完成させ、試行しつつ改良を加えているところである。今後、研究会の外部への提供を狙い、内容のブラッシュアップやバランス調整、受託促進ツールの整備等を行っていきたいと考えている。

Ⅰ.開発の経緯
 「実践能力開発研究会」は、(一社)東京都中小企業診断士協会城南支部のプロコン養成課程である「コンサル塾」の卒塾生を中心に、継続的な自己研鑽を目的に平成23年に設立された研究会である。
 当研究会では設立以来プレゼンテーション演習をはじめ、主に個々人の能力向上を目指した活動をしてきたが、昨年度は研究会独自のコンテンツを開発することを狙い、ニーズ発掘の議論を行った上で、次の点に着目して新社会人向けの「研修ゲーム」を題材に取り上げることとした。

 ①若い世代の価値観・能力の多様化や中間管理職の希薄化により、有効な新入社員の教育システムを持っていない企業が増えている。
 ②研修の充実度合いが就職先を選ぶ学生の高評価に繋がり、採用活動で有利になりやすい。
 ③世にある研修ゲームは経営者・管理職用のものか、アイスブレーク用のものが大半で、新人研修用のものはいまだ少ない。

 このうち①の育成と②の採用は中小企業にとって喫緊の課題であり、また③は他の士業やコンサルタントに比べて中小企業診断士の優位性を生かしうる点である。
 開発に当たっては、基本コンセプトを決め、ゲームの大まかな骨組みを作った後、研究会内で講師役と新社会人役に分かれて試行を繰り返し、ゲームを拡張・改良していった。現在は一旦完成したベータ版のゲーム素材(ボード、カード、コマ等)、ルールブック等を改良中である。

Ⅱ.開発したツールのポイント
1.本研修ゲームで身につけさせる能力
 今回の研修ゲームで題材に取り上げたのは、新社会人に求められる能力の中でも、「複数の業務を指示された際に、優先順位を考えながらスケジューリングを行っていく能力」である。
 この能力に対する企業側のニーズは高い。というのも、新社会人にスケジューリング能力が身についていない場合、複数の業務や、ある程度の固まりの業務を任せることができず、上司や教育担当者が新社会人に対して逐次指示を出すような仕事の仕方をしなければならないためである。これでは上司や教育担当者の手を煩わせ、かえって組織(部門)全体の戦力はダウンしてしまう。このため一部企業では、本来であれば人手が足らないからこそ増員をするにも関わらず、忙しい部門ほど新入社員を受け入れたがらないという本末転倒な状況も見られるほどである。
 なお、優先順位の決定を題材とすることから、本ゲームの名称は「Priority Management Game」(略称:PMG)とした。

2.研修ゲームの利点
 「スケジューリングは基本的な仕事の仕方であり上司から適切な注意をすれば治るのではないか」という意見もあるが、注意が有効なのは誤りを認識している者に対してであり、新社会人がスケジューリングの必要性自体を理解できていなければ、注意だけでは行動を変えるには至らない。また、一度や二度の説明を聞いただけでは、たとえ必要性を認識できたとしても、習慣として身につくまでには至らない。こういった基本的な仕事の仕方を習慣として身につけさせるためには、腹に落ち記憶に残るような体験、特に失敗体験をさせることが有効である。
 ところが昨今は多くの企業において余裕が無くなってしまったことから、以前は実際の仕事の中で普通に与えることができたこれら失敗体験を、新入社員に与え難くなってきている。そこで、研修の中で、この腹に落ち記憶に残るような体験を組み込んだゲームを準備すれば、企業活動への実際のダメージ無く、必要な疑似体験をさせることができる。
 また、実務の中ではいろいろな体験が混ざってしまうことから気づかせたい体験に意識が向かない場合があるが、ゲームであれば特定の体験を抽出することができ、更にゲーム前後に必要な解説を入れることで、効果を高めることも可能である。


Ⅲ.ゲームの構成・進め方と体験できる状況
1.ゲームの概要
 PMGはターン制のカードゲームであり、3~5人のプレイヤーが各ターンにランダムに与えられる小タスクを限られた自分自身の手持ち資源で次々とこなしていき、その結果としてのポイントを競う。基本的には、手持ち資源は各プレイヤー平等の「勤務時間」であるが、ゲームの中には個人のスキルを高め、タスク処理能力を上げる要素を含んでいる。
 1回のゲームは1時間程度、ゲーム内の架空時間で3~6か月。実際の研修では最初の説明と最後の振り返りを挟んで、ゲームを1~2回行う。研修時間は2~6時間を想定している。

2.計画ボード
 ゲームを開始するに当たっては、図表.1のように場の中央に必要なカード類、サイコロ等を置いておく。小タスクを表現したタスクカードについては、計画ボードと呼ばれるボードの上にプレイヤー毎の列を作り、ランダムに並べておく。

特集3p-図1.jpg ゲーム内では1ターンを1週間と捉え、それぞれのプレイヤーは各ターン1枚ずつ自分の列からタスクカードを引いていく。プレイヤーはゲーム中、この計画を睨みつつ、いかに小タスクをこなすか、或いは遂行が難しいと判断してアラームを挙げるかを考えていく(ただし後述するイベントカードにより「予想外の小タスクが与えられる」等の状況が発生するため、必ずしもその直前まで計画ボードに並んでいた通りに小タスクが与えられるとは限らない)。

3.プレイヤー用ボード
 プレイヤーの前にはスケジュール表を模したボードが置かれ、図表.2のように、カードとして表現された小タスク、チップとして表現された勤務時間などを配置し、自身が抱えている小タスクの状況を可視化することができるようになっている。プレイヤーには、ターン毎に概ね5営業日分の勤務時間が与えられるので、小タスクの期限やポイントを踏まえ、数ターン先の状況の先読み等もしながら、どの小タスクにどれだけの勤務時間を費やすのかを決定していく。
 このように複数タスクのスケジュールを目に見える形で管理するという体験を通じて、初めてスケジューリングに触れる新社会人も、スケジューリングの大切さを認識することができる。


特集4p-図2.jpg

4.タスクカード
 与えられる小タスクを表すカードであり、192枚ある。ものによって成功時・失敗時のポイントが異なり、成功時にプラスされるポイントに比べて失敗時にマイナスされるポイントが同じか大きく設定されている。タスクは自分では選べないものの、期限までに遂行できないと判断したものは、事前に申し出て担当を解除してもらうことができる。その場合もマイナスポイントとなるものの、失敗よりはマイナスされるポイントが少ない。これは、上司の立場からすれば、仕事の担当を事前で変更しなければいけないことに比べ、一旦任せた仕事が締め切り間際になってできないと発覚することのほうが、リカバリーが格段に難しく悪影響が大きいことを反映している。
 このため各プレイヤーは高いポイントを狙う中で、現状の自分の仕掛りタスク、勤務時間状況と近い将来あたえられる可能性のあるタスクを冷静に見つめるスキルを身につけると同時に、タスクの優先度を考える、できないことは事前に申し出るということを体験することができる。

特集5p上-図3.jpg

5.スキルカード
 抱えているタスクをこなしても勤務時間が余るようなときには、場からスキルカードを引き、スキル習得のために勤務時間を費やすこともできる。スキルカードは5種類あり、必要日数をかけてそのスキルを習得すると、特定分野のタスクを短い勤務時間で終わらせたり、勤務時間を長くして1ターンでもらえる時間チップを増やしたりできるようになる。
 高得点を狙うために、プレイヤーには、計画ボード上のタスクカードをにらみながら、どのスキルを身につけるために、どこで、どれだけの勤務時間を費やすのかを考えることも求められる。
 なお、「計画的に時間を確保しなければ目の前のタスクに振り回されてスキルをなかなか習得できない」、ということもこのゲーム中で体験できる状況の一つである。

特集5p下-図4.jpg

6.イベントカード
 更に、本ゲームでは各ターンで引くイベントカードにより、「タスクに費やせる時間が変わる」、「タスクの期限が変わる」、「タスクの担当が変わる」等、予想外のイベントが発生する。多くのイベントはトラブルであり、これらにより予定通りにタスクが処理できない体験を通じて、もしもの場合に優先順位を下げるタスク或いはスキル習得を常に考えておく等、トラブルに備える心構えを身につけることができる。なお、イベントカードの枚数は168枚である。

特集6p-図5.jpg
Ⅳ.定性的な効果
 前述の通り企業の現場からオンザジョブトレーニングの余裕が失われている中、PMGでの「スケジュールを可視化して管理する」、「できないことは事前に申し出る」、「予期せぬトラブルに対処する」といった体験を通じて、効果的にスケジューリング能力を身につけさせることができると考える。
 なお、開発中にPMGをプレイした当研究会会員からは、以下のような感想も出されている。

 ・自身の抱えている小タスクを眺めながら、無理なく優先順位を考えることができた。
 ・期限までに終わらない小タスクを多数抱えたことで、できない仕事のアラームを上げる大切さを考えさせられた。
 ・ゲームに夢中になって、高得点を狙い、ついつい無理なスケジュールを組んでしまった。トラブルが起こって初めて、想定外の事態に備えることの大切さに気付かされた。
 ・冷静に作戦を立てたつもりでも、意外に強気、弱気といった性格に影響されてしまった。

Ⅴ.今後の予定
 PMGは現状、研究会内部での試行を繰り返し、一旦、ベータ版が完成したところである。次のステップとして、実際の企業や団体等、研究会外部における試行を実施し、体験者へのアンケート調査等、定量面も含めた効果測定を行った上で、内容のブラシュアップを図っていきたいと考えている。現状、候補先の探索や訪問等を行っているところであり、試行先の紹介や推薦は大歓迎である。
 また併せて、企業及び中小企業支援行政機関等の提供先ターゲットを選んだ上で、受託促進ツールを作成予定である。更に将来的には、講師用マニュアル等の改良を図り、中小企業診断士および企業人事部・研修部を対象に、コンテンツそのものを提供することも視野に入れている。

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