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2015.03.27
トマト農家における現場改善支援事例

アグリビジネス研究会 藤島 有人 imaboku@palette.plala.or.jp

Summary(要約)  千葉県長生農業事業所改良普及課から、農家の現場改善について、トマト農家における支援モデルを共同研究するという打診を受けた。  比較的規模の大きい農家は、家族労働に加え、雇用導入による安定的な人材確保と、効率的な雇用管理により、生産性の向上が期待できると仮定した。しかし、事前の調査の結果、作業によっては、パートタイマーの能力差が出ることが判明した。  そのため、実際のトマト農家をモデルケースとし、能力差を埋める作業マニュアル作成モデルの確立と、将来的な事業規模拡大に備える目的も含めた、優秀な人材を確保するための雇用管理のモデル案を検討することとなった。  提案した施策は、作業マニュアルモデルに関しては、工場診断における工程改善のノウハウを多分に利用したものであり、雇用管理モデル案に関しては、農業における就業規則を整備したものである。

Ⅰ.本支援を実施するに至った経緯  

千葉県長生農業事業所改良普及課から、農家の現場改善について、トマト農家における支援モデルを共同研究するという打診を受けた。  農業は、一般企業と比べ、自然や土地の影響が大きく、更には天候や気温などの微妙な変化に応じて臨機応変な対応が求められることが多い。また農山漁村集落の知恵や個人の経験知に頼るところが大きく、標準化が難しい分野といえる。しかし、組織化する上で、標準化は重要なプロセスである。  本事例では、属人化しているノウハウを見える化することで、知見の伝授の促進及び、業務の効率化を目指した。更に、業務を細分化し切り出すことで、繁忙期の手伝いなどパートタイムでの対応可能領域を拡大することを目指した。  また、家族経営を中心とした、信頼関係や経験に基づいた営みから、外部の優秀な人材を活用し規模を拡大していく上では、雇用者と被雇用者間の認識の違いが無く、被雇用者間で不公平感の無いように、一定のルールに基づき、雇用契約の内容・業務範囲を明確にすることが必要となる。更に、常に10人以上の従業員を使用する際には、就業規則が必須となる。農業では、労働時間の制限など、例外が認められているなど、一般企業で標準的に用いられている規則を、農業の実態に即してカスタマイズすることが必要となる。  本事例では、実際のトマト農家をモデルケースとし、農業独自のポイントを整理して、農作業の標準化を図るとともに、法令に則り且つ実際の運用と齟齬が無いような就業規則の雛形を提供することで、農業経営者の就業規則作りの負担軽減を図った。

Ⅱ.支援先農家の概要  

本事例における、支援先農家の概要は以下の通りである。

1.作業工程  

本事例のトマト農家は、ハウスでの養液栽培を行っている。トマト農家の規模としては、比較的大規模である。作業者の成熟度に関しては、トマトの摘み取り工程における色の見分けと、芽掻き作業に差が出ている状態である。ハウス栽培のため、年間を通して栽培でき、収穫の時期は、2月から6月及び、8月から12月と、非常に長期間となる。  色の見分けに関しては、出荷所でトマトの色が指定されているが、JAから支給された色見本には、収穫の基準となる色が掲載されていない。また、その日の天候により、事業主が指示する基準の色も異なっている。

2.作業環境  

現在の労働者は、家族従業員3名の他に、パートタイマー労働者が常時雇用3名、臨時雇用1名在籍している。労働者数が10名以下のため、現時点では就業規則を作成していない状態である。  外部環境は、他の農家や小売店などとのパートタイマー労働者の人材確保競争が激しくなっており、雇用が確保しにくい状態である。

Ⅲ.提案・取り組みのポイント  

現状の概要や目指すべき姿などのヒアリング結果から、以下のように支援を行った。

1.工程改善

(1)工程改善の分析手法  

一般的な工程改善は、①重点項目の検討(PQ分析)、②工程分析、③作業分析、④動作分析の順に行い、工程分析以降の各分析では、時間分析を合わせて行う流れである。しかし、本事例では、ヒアリング結果や視察、診断の時期的な関係から、改善工程が、「トマトの摘み取り作業」、「コンテナの組み換え作業」であることが既に判明していた為、作業分析以降の分析を行うこととなった。また、時間分析に関しては、作業自体が、比較的簡単であるため、作業分析でのみ行うこととなった。

①作業分析  

作業分析とは、生産現場などで行われている仕事を、作業のレベルまで細分化して、わかりやすい図表に表し、問題点や改善点を調べる分析手法である。作業者の動きを分析し、その一つひとつの作業を記号で表す手筈である。  作業は、大きく分けて単位作業と要素作業に分けられる。単位作業とは、一つの作業目的を遂行する最小の作業区分を指す。トマトの摘み取り作業、コンテナの組み換え作業などがそれに該当する。  要素作業とは、単位作業を構成する最小単位の作業を言う。尚、本事例では、作業者が作業をしている姿をビデオ撮影し、分析を行っている。  本事例で行ったトマトの摘み取り作業分析の例では、要素作業のうち「トマトを見分ける」作業に大きな改善点が見つかった。具体的には、作業場で一番熟練した作業者である事業主の配偶者は、トマトをもぎ取る前にトマトの色味を見分けているのに対し、他の従業員は、トマトをもぎ取った後で色味を見分けているケースが多く、それが原因でロスが多発していることが判明した。

②動作分析  

作業は、動作の集まりであり、作業を改善する際には、その要素である動作の特性について研究し、理解することが必要になる。動作分析とは、作業を動作レベルまで細分化し、改善すべき非能率・非効率な動作を洗い出すものである。  今回採用した、MTM法では、動作を8つの基本動作に分けて分析を行う手法である。MTM法で、これらの時間を国際標準として見積もることができる。

③時間分析  

時間測定とは、作業に掛かる時間を測定することであり、作業分析で分析した作業項目について、客観的に時間を測定することにより、その作業の無駄やばらつきを発見するために行うものである。今回は、個々の作業員のばらつきも把握したいため、時間観測法を用いた。作業状況を録画し、観察者が画像を再生しながら時間の計測を行った。  測定対象作業は、摘み取り工程とコンテナ組み換え工程である。今回は、上記の作業を半日撮影し、動画を持ち帰って分析を実施した。各作業を約10回観察し、その平均値の時間で集計していった。  測定結果であるが、摘み取り工程では、ベテランの作業者は移動時間が他の人に比べ長いのが特徴で、移動しながらトマトの選別をしていると推測できた。一方経験の短い作業者は、トマトを見分ける作業の時間が短い特徴がある。後筆のコンテナ組み換え工程に時間を掛けていることから、収穫したトマトの不良率に影響があると推定できた。  コンテナ組み換え工程では、作業時間にばらつきが大きいことが特徴である。特に経験の短い作業者は、他の人に比べ2倍近く要している。

④標準作業の設定  

標準作業とは、人と物と設備などの最も効率良い組み合わせを考えて、良い物を、より早く、安全に、ムダの無い作業が出来るように、「サイクルタイム」「作業順序」「標準手持ち」の3要素を決め、それに基づいて行われる作業を指す。  本事例では、最も作業効率の高い事業主の配偶者の作業をベースに、標準作業を設定している。設定の手順は、以下の通りである。  A)配偶者の作業分析、動作分析、時間測定結果を標準作業表に記入  B)他従業員の分析結果を踏まえ A)の内容を補正  C)配偶者と他従業員の作業の相違点を踏まえ、作業上の留意点を抽出  標準作業表を作成することで、統一基準での教育、評価を行うことが可能となる。これにより、作業者の一定の生産性、効率性などを確保することが可能である。

(2)施策の提案

①作業マニュアル

 マニュアルとは、一般的に初心者や未経験者があることを適切に行うための方法や基準を解説した文書のことを指す。今回は、トマトの収穫作業について、経験の無い人が始めて就労する場合の習熟時間を短縮することを目的に、マニュアル作成を行った。  人が業務を理解するためには、一般的に全体像を示し、次第にスコープを絞り込んで行く方法が効果的である。  マニュアル作成に関しては、以下の点を工夫した。  A)年間作業を把握する  トマトの年間作業を示すためには、年間の作業工程を把握する必要があるが、当初の年間作業についてはインタビューしておらず、把握できていない状態であった。そこで、千葉県農業改良普及員に直接、関連資料を送って頂き、叩き台資料を作成した。そして、それをもとにして、農家にインタビューする方法を採用した。  年間作業項目は、標準工程がドキュメント化されているわけではなかったが、話を伺いながら年間作業項目を組み立てなおし、年間作業の概要を作ることができた。  B)作業内容を伝えるための項目作り  作業を真似るだけでなく、創意工夫が生まれやすいようにすることを狙いとした。そこで、工程を説明するために、単に作業プロセスを書くだけでなく、作業の目的、実施体制や関係者、関連資料、用意するもの、作業手順、作業上の留意点という風に絞り込みを行った。  C)簡易マニュアルの作成  マニュアル全体を見るにあたって、作業をしながら見るのには煩雑と言う意見に応えて、3ページの簡易版を作成した。これは摘み取り作業に絞って、作業の流れと留意点を中心に説明する資料となっている。

②QC工程表  

QC工程表とは、製造現場の品質を保証するために、各工程で、どのような「管理項目」を誰が何時、確認しているかを表したものである。お客様に自社の品質管理状況を説明する際や、品質保証活動を確実に実施して、不良の発生を防ぐ、などの目的がある。  本事例では、トマトの市場出荷規格を基準として、トマトの色味や形状、キズなどを管理項目に設定し、その検査方法や頻度、検査に用いる管理図などのツールや品質異常発生時の処理方法を、作業の順序に合わせて作表している。  不良品を後工程に流さない、ということが品質を維持するための基本である。QC工程表を作成し、作業者に徹底してもらうことが品質管理のスタートとなる。  QC工程表は、品質に関係する項目と品質特性や基準が表示されている。QC工程表は、品質に関係する項目とその検査方法などがあるが、作業のやり方は記載されていない。

③色見本  

現状では、配布されているトマトの色の着色標準は、No.1からNo.5までの5段階の色見本であり基準とされるが、納品時に着色標準のNo.3とNo.4の間(通称3.5)となるように定められている。3.5については、着色基準のNo.3とNo.4の間とされ、明確な基準が無く、農業者の主観により微妙に異なる。  また、収穫時の色の基準は、収穫前に諸条件を鑑みて事業主が判断し、収穫前に当該色の現物を収穫者に見せることで、共有するため、収穫者によって色の幅が異なり、時間の経過とともに基準がぶれる場合も少なくない。  そのため、配布されている色見本よりも細分化した見本を作成し、収穫前に見本となるカードを配布することで、属人化している判断の精度を平準化すること。更に、日々ツールを用い確認することで、諸条件により日々変化する判断基準の標準化を図ることを目的に、色見本を作成した。  色見本の作成においては、①収穫時の基準となる色(No.5~No.3.5相当の色の間)のトマトの写真を撮影し、色サンプルを収集する、②色サンプルを薄い順に並べ、番号を振りより細分化した色見本を作成する、③各色毎に見本カードを収穫担当者の人数分作成する手順を採用した。  色見本は、①収穫前に事業主が当日の基準色を決定する、②収穫担当者に色見本カードを配布する、③収穫担当者はカートの見えやすい位置に見本カードをセットする、④収穫担当者は、現物と見本カードを見比べながら収穫作業を行う手順で利用するものである。  また、今後の検討内容として、気温・天候・納品までの時間と選択した見本カードの記録を残し、データを蓄積することで、判断の精度を上げることが挙げられる。

④もぎ取り作業の見える化  

本事例では、トマトのもぎ取り作業の見える化資料を作成している。その理由は、作業の中に、言葉では表現することが難しい要素が多数存在するためである。例えば、「親指で茎のこぶを押しながら、トマトを持ち上げる」というポイントがあるが、これだけを教えられても、実際にどのように作業をすればよいのかが作業者には判断できないからである。  通常、このような作業を新人に教育する場合、熟練の作業者が実際に作業をしながら説明をすることになるが、このような内容を一度で習得することは不可能である。そのため、長い時間をかけ、経験を積むことで正しい作業を習得していくことになる。  一方、作業の「見える化」資料が存在する場合、新人でもその資料をもとに作業をすることで、すぐに正しい作業を行うことができるようになる。資料を見ながら、実際にやってみることで早期に正しい技術を身につけることが可能となり、教育にかかる工数や時間も削減することが可能である。  本事例では、①見える化が必要とされる単位作業の特定、②単位作業を構成する要素作業毎のポイント・留意点などを熟練作業者にヒアリング、③抽出した作業ポイント・留意点のイメージを理解できる画像の撮影、④作業順序に従い見える化資料への落とし込みの手順で、見える化資料を作成している。  見える化資料を導入する際の留意点は、作業中にその資料をいつでも、すぐに参照することができる環境を整えることである。どんなに素晴らしい見える化資料を作成しても、それが事務所の中に置かれているだけでは不十分である。実際に見える化資料を参照しながら、作業に取り組めるような工夫が必要である。本事例においては、見える化資料を、A4用紙1枚にまとめ、それをラミネート加工して作業車に設置することを提案した。

⑤頻発不良原因の見える化  

トマトもぎ取り工程では、多くの不良トマトが発生する。その不良トマトを適切に見分けることが、作業を標準化する上で欠かすことができない。更に、その不良原因を把握し、原因に対する対策を打つことが不良率低減につながることとなる。  「頻発不良原因の見える化」では、これまで、簡単な絵で示されていた不良現象を写真で示すことで、初心者でも判別できるようにし、不良の原因を示すことで不良率を低減させることを目的としている。  本事例では、①現場の写真取りとヒアリング、②農業改良普及員への原因に関する情報入手、③農家の方とのレビューの手順を踏みながら、「頻発不良原因の見える化」を進めた。専門的な知識が必要となり、農業改良普及員との連携が必須な作業であった。

2.作業環境改善

(1)作業環境改善の方向性  

本事例の課題は、雇用導入による安定的な人材確保である。採用においては、職場の労働条件や規律等を明らかにしておく事は非常に重要である。そのため、労働者が安心して働くための環境整備が有効である。  就業規則とは、労働時間や賃金、有給休暇などの労働条件や職場の服務規律などを定めて書面にしたもので、つまり、労働者と事業主との間のルールブックのようなものである。特に、農業の場合は、就業規則を作成している農家の方は非常に少なく、就業規則を作成することで、職場内外で安心感を与えられ、他の農家との差別化を図ることができ、優秀な人材を安定的に確保することが可能である。また、職場でのトラブルを未然に防ぐことも可能である。そのため、本事例では、就業規則を作成し、労働者が安心して働くための環境を整備する方向で支援を行った。

(2)施策の提案  

農業の場合、雨風や台風等の気象条件に左右されること、作業の性質から1日8時間、1週40時間や週休といった規制に馴染まないこと、悪天候時、農閑期に各自適宜に休息が取れるので労働者保護に欠けないことを理由に、労働時間、休日、休憩、割増賃金、年少者の取扱が労働基準法の適応除外になっている。ただし、所定労働時間を超えて労働させた場合の割増賃金の支払いは不要であるが、通常の賃金の支払いは必要となる。また、深夜労働に関しては、農業でも労働基準法が適応され、割増賃金を支払う必要がある。  しかし、優秀な人材の採用や定着率の向上など雇用を確保する上で、一般企業並みの労働条件にすることが望ましいことから、割増賃金制度を採用した。  また、本事例のパートタイマーは、被扶養家族である場合がほとんどで、配偶者扶養控除の扶養範囲内に収入を押さえたい意向があった。勤務日数・時間の調整を行うことにより、有給休暇の付与や、健康診断の受診義務の有無が左右される。それらを決定する基準である所定労働日数・労働時間は、労働契約書に記載されている日数・時間となるため、労使間トラブルが起きにくく、扶養範囲内に収入を押さえられるように、勤務日数・時間を明記できる労働契約書を作成した。  更に、所轄労働基準監督署に就業規則を届け出るための、就業規則意見書と就業規則届を作成した。  表彰に関しては、一度賃金を上げると再び下げる事が難しくなるため、一時金で対応することとし、その体制整備のために人事評価制度を提案した。

Ⅳ.定量・定性的な効果  

本事例の支援は、提案した段階で一旦終了しており、明確な効果を確認できていない状態であるが、当初、収穫の色まわりの判断は、その日の気候を基準に、事業主の判断で色見本には存在しない色を収穫基準としてパートタイマーに指示していたが、細かい色見本を作成することで、基準となる色情報の共有精度を高める仕組みの整備ができた。また、不良品の見本を手書きから写真に変えた不良一覧表の作成により、不良判断を行いやすくする事ができるようになった。更にトマトのもぎ取り工程手順書と合わせ、パートタイマーの収穫作業習熟速度を速める体制構築を行うことができた。  雇用管理においても、就業規則を作成し、終業時間や有給休暇等を明示することで、事業主が求める人材を確保し、要求レベルに達する作業を行える体制整備を行った。

Ⅴ.今後の取り組み  

今回は、支援期間がトマトの収穫時期と重なり、収穫作業をメインとした作業改善を行った。今後は、収穫だけでなく、同じくパートタイマーによる能力差が出るトーン付けなどの作業改善を目指す。  また、本事例で確立した作業改善の手順をモデル化し、野菜栽培を中心とした他の規模の大きい農家への応用を行う予定である。

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