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2015.04.29
経営改善の新たな進め方とIT化モデルの提供

経営改善の新たな進め方とIT化モデルの提供

SCMとIT経営・実践研究会 吉村 正平
yoshimura-m@mbm.nifty.com

<活動の経緯/開発の経緯>
 「SCMとIT経営・実践研究会」(略称:SCM研)は、1999年にサプライチェーン・マネージメントの概念・手法・標準化や実例等の実現状況を研究する「SCMビジネスモデル研究会」として、発足した。2006年からはIT経営の実践を研究することを明確にした現在の名称になった。
2013年度、東京協会から「中小企業のIT化支援」の理論政策更新研修を依頼されたのをきっかけに、新たな分科会として更新研修企画プロジェクト(略称:K-プロジェクト)を立ち上げ、研修内容を吟味し、資料としてまとめ、研修会を5回実施した。

 講義内容を討議していく中で、「研究会で対応した事例や発表してもらった事例を盛り込む」、「経営戦略や課題解決を検討する段階に支援が必要」、「戦術の重要な要素として『IT』を武器とする考え方」や「中小企業の相談相手である診断士を研究会メンバが支援できないか」などの意見が出された。
 「中小企業のIT化支援」を実践するときの課題に対する「ソリューションサービス」を研究会で作っていこうという機運が高まり、研修実施後も経営診断支援プロジェクト(略称:K-プロジェクト)を編成し、「経営診断支援サービスメニュー」や「ボトムアップ・アプローチ」「ジャンプアップ・アプローチ」の具体化を進めている。

1.ツールの開発の背景
 中小企業診断士がIT化を経営者に助言するために、理解しておくべき事項と助言するときの参考資料をまとめ、具体的な構築手順「ボトムアップ・アプローチ手順」とIT化業務モデルシステム「受注管理業務」を開発した。

1-1.「中小企業のIT化支援」は如何にあるべきか?
 中小企業白書(2013年版)の従業員規模別のITを導入していない理由に、「導入効果が分からない、評価できない」、「コスト負担が過大」、「IT人材不足」、「従業員のIT活用能力不足」があり、「適切なアドバイザー等がいない」も上がっている。
 中小企業のIT化の課題を次の4点にまとめた。
 ①経営者の経営目標が不明のために、実現手段としてITが使われない。
 ②IT人材不足のため、特定の個人にノウハウが集中し、組織的な対応ができない。
 ③従業員のIT能力不足のため、外部ベンダに依存し、迅速な対応ができない。
 ④各現場個別のIT利用で、経営効率化に結びつかない。
 IT化の課題に対して、発想の転換が必要と考えて、4つの新たな視点を提案したい。
 【効率化から付加価値増加へ】
  省力化よりも顧客に訴求できる業務改善への利用へ
 【経営改革活動でIT適用の検討を】
  経営改善に挑戦する経営者に中小企業診断士が助言すべき
 【開発投資コストだけでなくITの生涯コストで評価する】
  開発コスト、運用コスト、改修コストに加え、遅れによる機会損失コストも考慮した投資評価を
 【開発業者に依存しない維持改修体制へ】
  DIYがおすすめ:社員が学習しやすいツールを選択し、社員のITリテラシー向上に投資を

 具体的に、経営者に助言するための方法を体系化した。
 経営者が望む"ありたい姿"に向けた実現手順を3つのタイプのアプローチ「トップダウン・アプローチ」、「ボトムアップ・アプローチ」、「ジャンプアップ・アプローチ」がある。SMECA5月-特集-3p図.jpg
 「トップダウン・アプローチ」は、戦略に基づく業務の全体最適化を目指して、社長主導で進められる。例えば、全社統合システム(ERP)を導入する場合には関係部署を横断したプロジェクト体制をとり、1年以上の構築期間と移行期間を経て、運用を開始する。
 「ボトムアップ・アプローチ」は、現場の継続改善による現場力強化を目指すものである。これは、目の前にある身の回りの業務を改善しながら、ありたい姿に向かう小集団活動であり、日常業務を行いながら、数か月単位の改善を繰り返す継続活動である。
 「ジャンプアップ・アプローチ」は、目標・目的に向かって仮説に基づく新たな道を切り開くもので、従来の活動からは離れた特命体制で取り組み、成功するまで試行錯誤を繰り返し、経営者の支援がある限り挑戦する。
 以上の3つのアプローチを選択肢として、中小企業診断士が経営課題を解決するのに適した手順を経営者に助言する。さらに、情報セキュリティ、個人情報保護、知的財産権への対応も助言することを提言した。
 以上の内容をまとめたものが、更新研修資料「中小企業のIT化支援」である(参照資料1)。


1-2.IT化支援に新たな追加提言
 IT化の課題(②、③)の解決策として「自社要員によるIT化」を提言した。

 提言1:投資効果を「開発投資コスト」を含めた「IT化の生涯コスト」で評価する
 企業活動におけるIT投資効果は運用してはじめて効果測定が可能となる。そのとき、評価対象となるコストは開発コストだけでなく、運用開始後の運用コスト・改修コストを含めるべきである。ハードウェア・ソフトウェアのコストは大きく低下傾向が続くが、人件費がコストの中心である導入・運用・改修コストは低下しにくい。
 外部委託して構築した仕組みの改修は、委託先企業に依存せざるを得ない。ところが、委託先では、変更要件の理解と改修方法の発見・改修箇所の特定・改修後の全体稼働確認の時間とコストが発生する。このような外部への流出コストに加え、結果には表れにくい対処遅れによる機会損失コストへの考慮も必要である。

 提言2:開発業者に依存しない維持改修体制へ
 ITの内製化へ方針変換すると、社内要員のITスキルの育成コストが課題になる。
 しかし、情報化社会においては「従業員のIT活用能力不足」を解消すること(情報リテラシーの向上)は、情報セキュリティや個人情報保護、知的財産権保護の要件からも必要な人材育成事項である。
 中小企業でもExcelを使うITスキルは自動車免許程度に普及しており、社内要員の継続育成を考えると構築・運用・改修を担う人材の育成コストが小さい(前提スキルが低く、学習時間が少ない)ツールを採用することが現実的な選択であり、個人に依存しないために、複数の社員による兼任体制を目指すことが大切である。
 自社開発を実践している企業では「環境の変化に合わせて事務処理やものづくりを自分たちで変えられる意識を持てるようになることが、大きなメリットである」と発言されている。

 以上の内容をまとめたのが、研究会発表資料「ボトムアップアプローチ手順~DIYがおすすめ~」である(参照資料2)。

2.経営改善の新たな手順とIT化モデルの開発
 IT化の道具として、Excelのデータを活用できるコンテキサー(Contexer)を取り上げた。
 SMECA5月-特集-5p図.jpg法政大学の西岡教授が提唱された「ITカイゼン」と開発されたデータ連携ツール「コンテキサー」は、工場現場の情報のムダ取りと情報の清流化を狙いとした仕組みである。工場の生産計画から現場の作業指示まで生産管理全般を対象とした、今野製作所の適用事例等の中小企業の適用事例も公開されている。
 生産に必要な情報伝達は、注文(オーダ)の単位に各種マスタデータを参照しながら業務間を流れていく情報処理である。工場のIT化の経験者が現場で使える連携ツールのソフトウェア要件を提言し、それを満たすようにソフトウェア「コンテキサー」が企画・開発された。
 コンテキサーは、業務の流れを実現するデータ連携ツールである。Excelの表形式とおなじような項目のタイトル行とデータをもつレコード行で構成される表(パネル)が基本単位である。
 表のデータ編集機能に加え、表と表の関連付けや表の外部ファイルとの入出力を使って、情報処理を行うことができる。表と表の関係付けは転記、限定、補助の三種で、詳細をパラメータで指定する。データ編集・操作(アクション)をまとめて手順(コマンド)が登録できる。業務に必要な演算・操作をプログラム言語の知識がなくても組み込むことが可能で、担当者の作業を支援する自前のシステムを構築することができる。
 このツールを中小企業のどの業種にも使える業務改善の道具であり、「ボトムアップ・アプローチ」を実現するITツールとして位置づけ、具体的な業務間連携のIT化モデルシステムを開発した。

2-1.ボトムアップ・アプローチの手順の開発
 従来は「トップダウン・アプローチ」が取られており、今までにはない取り組みとして、「ボトムアップ・アプローチ」について具体的に手順を作成した。
新たな経営改善の進め方は、現場の情報リテラシーの向上を伴って、経営者と社員が一体となって、段階的に継続的に進める。大きな区切りとしては、次の3つの段階を推奨する。
 第一段:現行担当業務の処理をIT化
 第二段:業務見直しと業務間のデータの清流化
 第三段:業務連携の強化と基幹システムとのデータ連携

第一段:現行担当業務の処理をIT化
 現場の伝票、台帳、帳票をもとに項目情報とデータの整理・整頓・精査を実施する。
 手作業やExcelで行っていた人間系の処理部分を、コンテキサーで行えるように、画面上でデザインする。保有のExcelデータはCSV形式で受けとることができ、プログラムの作成なしに試行が可能である。RDB等のデータベースを内蔵していないため、項目追加・変更、新たな表の追加などが画面上で簡単に行える。この作業を通じて、担当者に業務のIT化に慣れてもらう。SMECA5月-特集-6p図.jpg
 受注伝票のような細目があるものは、受注に対する複数行の細目を細目表に記録し、状況変化に応じて更新する。その結果をもとに他の業務で必要なデータ(たとえば、仕入リスト、出荷リスト)を必要なタイミングでCSV形式のファイルで渡せる仕組みが現場で作れる。表間の項目転記や表間の制約条件により伝票項目と明細を関連付けた階層表現の編集、条件設定による一括編集、時間経緯による在庫推移表や資金繰り表などの時系列表展開などが可能である。
 帳票の印刷は、Excelへのデータ出力機能で従来のExcelの帳票出力処理を利用できる。

第二段:業務見直しと業務間のデータの清流化
SMECA5月-特集-7p図.jpg 業務担当者の開発・運用経験をもとに、業務間連携の紙からデータへの切り替えを目指して、データ項目や内容の共有化、標準化、手順化に向けた検討を行い、望ましい業務の形態を決める。
 役割分担の見直しを含めて、データ項目と内容の整理活動(情報の5S活動:整理・整頓・精査・鮮度・躾)を行う。既存のアプリの改修と新規アプリの開発を行い、CSV形式連携の試行で課題を解決するという運用を数か月単位で逐次繰り返して、適用範囲を繋げて拡大していく。

第三段:業務連携の強化と基幹システムとのデータ連携
 基幹業務との役割・連携の見直し、必要な受け渡しのデータ項目と連携方法を決める。営業活動を支援するネット利用の情報処理や取引先との情報共有にも取り組む。
運用変更のためのスケジュールには、データ移行やデータベース連携データの検証を行う期間を設けることが必要である。
 運用開始後も業務担当者による評価会を実施して、改善を継続していく。

2-2.業務のIT化モデルの開発
 受注に対応して商品提供している企業では、受注した後、社内の関連部署で作業がなされていくが、お客様からの注文確認、納期確認等の問い合わせには各部署の状況を把握して迅速・適切に回答することが求められる。紙での伝達では情報共有は難しく、手間と時間が取られるのが実情である。そこで、「お客様からの問い合わせに誰でも回答できること」を狙いとし、受注から代金回収までの業務連携「注文管理業務」を段階的に構築できるIT化モデルを開発した。
 1つの業務アプリ(販売)から使い始めて、営業・販売・購買・商品・経理の注文の情報の流れを5つの業務担当アプリに発展させるIT化モデルとし、業務のデータ連携と情報共有を可能とする仕組みとした。このモデルシステムを使えば、担当者が自分の会社の業務に合わせて改修して利用できる。
 第一段として、オーダーの流れを見える化する。最初の業務アプリは注文の生涯管理を行う受注担当者の業務を対象とした。受注伝票を精査して登録し、受注案件の社内の手続きの進行状況をデータとして保持している業務アプリ(販売アプリ)である。販売アプリのデータを参照することができる問合せアプリでは、お客様の問合せ内容を記録して、回答する業務を実施できる。誰でも操作できるようにすることで、お客様への迅速な対応を可能にする。
 第二段として、業務間のデータの清流化をするため、関連する業務(営業、購買、商品、経理)の業務をコンテキサー化して、業務間のデータを電子データにする。
 それぞれの業務アプリはその業務履歴情報を保持しており、過去のデータを知識として再利用できる。分散データベースの形態であり、完全なリアルタイム性はないが、締め処理を行うことで、データの整合性を担保する。
 CSVデータ形式のファイルシステムを採用することで、データの修正・検証機能を開発しなくても、業務担当がExcelで修正できるため、データの信頼性を確保することが可能である。
 業務量が増え、利用者が増えたとき、データのリアルタイム更新や信頼性を確保する目的で、CSVデータ形式をRDB等の本格的なデータベースへ移行することも可能である。
 第三段:将来構想として、現場のIT化を進めながら、社員の情報リテラシー向上と合わせて経理システム等の保有システムとの連携も実施していくことを示した。

2-3.ツールの効用・効果
 1)経営に役立つIT化の支援に活用可能
 東京都経営力向上プロジェクトなどの経営診断をした情報をもとに、企業に合ったオーダーメイドの経営力向上策をお客様と一緒に検討する段階からIT化の実現アプローチの設定を進めていくことが肝要である。
 経営者と経営革新計画を立てる。その中で「トップダウン・アプローチによる業務革新」、「ボトムアプローチによる業務改善」、「ジャンプアップを狙う開拓プロジェクト推進」の3つの形態を個別企業の具体的な行動に落とし込み、実行段階まで継続して支援できる。
 ボトムアップ・アプローチの手順をベースにしてお客様に助言し、この手順を共有することでITスキルを持った中小企業診断士やITコーディネータと連携することが容易になる。

 2)関連業務のIT化の実現性と操作イメージの提示
 業務のIT化モデルのデモを見せることにより、経営者や担当者はボトムアップ・アプローチが理解しやすくなる。業務改善に取り組むための全社の情報整理やデータベース設計を前提とせずに、今の業務データを利用してすぐに現場で使える点を理解してもらえれば、IT化に取り組むためのハードルが低くなる。
 データ連携ツール「コンテキサー」では、保有するExcelデータと紙の伝票・帳票を入力情報として用意すれば、データ連携の仕組みは数日で開発できる。開発要員の育成期間は、プログラミング言語の知識がなくても、数日である。自社の従業員でも使えそうであること、必要な業務に逐次適用できることが理解されれば、経営者にもIT化に期待を持ってもらえる。

3.「中小企業のIT化支援」の実践に向けて
 K-プロジェクトは、月1回の研究会定例会開催日の会合とネット利用の活動で進めている。
 今後は、経営診断から経営改善の企画、さらに実施過程でも継続的に支援を行えるような実践に使える「経営改善の進め方」を作成し、企業内診断士の能力と継続支援対応可能な独立系診断士(企業OBを含む)が相互に協力できる「チーム体制」の構築と実践に取り組む。「経営改善の進め方」は、中小企業診断士が中小企業から経営相談に対応する際に、効果的なIT化へとつながる改善提案・提言を組み立てられるように、三つのアプローチを含めて、手順と事例の研究を継続する。また、ボトムアップアプローチのIT化モデルを発展させるとともに、サポートできる人材育成に取り組む。SMECA5月-特集-8p図.jpg
 「中小企業のIT化」は、経営者の理解なしには効果が実現しない。中小企業診断士がその分野の専門家と連携して対応していく「チームコンサルティング」により、経営者に助言していくことが肝要である。研究会がそのための情報共有の場とネットワークを提供していきたい。

問い合わせ先
魚谷 幸一  E-mail:uotanik@mb.infoweb.ne.jp
吉村 正平  E-mail:yoshimura-m@mbm.nifty.com

K-プロジェクトメンバ(敬称略)
石渡 昭好、魚谷 幸一、岡部亮一郎、栗山 敏、今野 浩好、下平 雄司、
富松潤治郎、福本 勲、堀尾 健人、吉村 正平

参照資料
1.2013年度東京都中小企業診断士協会 理論政策更新研修テキスト「中小企業のIT化支援」
2.SCM研究会 発表資料「ボトムアップアプローチ手順~DIYがおすすめ~」

参考HP
SCMとIT経営・実践研究会:http://www6.airnet.ne.jp/scmbm/
"ITカイゼン"、コンテキサー:ApstoWebのHP:http://www.apstoweb.com/
東京都「経営課題解決支援事業」新・経営力向上TOKYOプロジェクト:http://www.keieiryoku.jp/
中小企業IT経営力大賞:http://www.it-keiei.go.jp/award/

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