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2015.06.27
新陳代謝を高める再生構造への変革を遂げる中小企業再生支援研究会

新陳代謝を高める再生構造への変革を遂げる中小企業再生支援研究会

筒井  恵

me.tsutsui@linksp.jp

1.研究会紹介
2006年度、再生手法の調査研究に端を発し、今年10年目を迎える。研究会は二部構成になっており、第1部は、外部講師を招き、2008年度に中小企業庁経営支援課課長、2014年度に岡山の世界的優良企業『林原』林原靖氏にご講演いただく等、中小企業庁、中小事業再生支援協議会、金融機関等との連携を深めている。第2部は、第一線で活躍されている講師陣により実践現場から旬のテーマで講話いただいており、企業再生スキームを実践交えて習得できる。
金融緩和から変わろうとしている今、企業再生の支援ニーズは益々高まっている。新陳代謝を実現するため、事業承継&再生は国を挙げたテーマとなっており、激変する企業再生のスキームを深耕する研究会である。
事例として、業態転換した事業者の再生内容を以下に提示する。

2.事例研究 ~ニット製造業~
(1)事業再生の概要
従業員40名、資本金10,000 千円
当社は、ニット製品の製造業として製造主体の工場を長年業としていたが、機械装置や工員を維持管理しながら事業継続するには市場獲得が困難になってきた。このまま事業を継続しても、採算がとれないことは明確であり、経営革新を図ることが必至であった。
事業社と検討していく中で、取引先との信頼関係をより強固なものにしていくために、新たな取り組みとして長年ニット製造業として培ってきた独自の技術を生かし、本格的なニット製品の修理・リフォームサービスの提供とこれらを総合的に機能させるため、サプライチェーンの支援体制を構築していくことを目標とした。

(2)窮境原因を分析
①製造工場の方向性
かつては量産品を扱っていたので、採算が取れていたが、多品種少量生産になり、自社で製造するのは割があわなくなった。相当のパート・アルバイトを雇用していたため、人件費負担は大きかった。自社製造では限界があると判断し、分散化・外注するようにした。

②営業所の失敗
製造工場を維持するために、新規取引件数の拡大および売上の増加を目的とし、営業所を構えた。営業スタッフを3名増員し、恵比寿に営業所を開設したが、これが裏目に出た。営業所の維持が相当の負担になっており、担当者3名は解雇した。1年で実質閉鎖するまでの間、賃借料は払い続けた。多少売り上げは伸びたが、大きな損失を空けてしまい、その期の決算は15,696千円の赤字を計上した。
売上は40,000千円のダウンであるが、かかる経費削減と、粗利率向上によって、繰越損失は清算できる見込みである。

③自社のコア・コンピタンスを活かしきれていなかった
ダイレクトマーケット事業としては、全国300社の専門店を確保できているにもかかわらず、活かしきれていなかった。

(3)窮境原因の除去策
①請負製造業からの脱却
ニットの修理専門サイトを構築し、専門店と取引する中で、専門店側300社の賛同を得ながら立ち上げた。修理機能など、リテールサポート機能があるので、専門店にとって有効なサイトになりうる。高級ニット製品の直しを中心としたパイプの太い修理専門店として構築した。
外注先は、品質レベルが確保されており、ニット製品とともに外注先製品をラインナップして市場に流すことが可能であるため、当社とWin-winの関係を築くことができる。

②営業所の撤退
営業所の成果を出せないまま、運転資金(家賃、人件費、活動費、等)も相当支出した。営業所を閉鎖するまでの間、大きな損失を空けてしまった。営業所撤退した後は、単純計算で30,000千円/年の経費削減が実現できた。

③コア・コンピタンスを活かした事業革新
撤退するまでの1年は大幅赤字であったが、欠点を是正(コンサル営業の復活と、営業所の閉鎖)し、その後、新規事業に着手する。今回の経営革新の核となるアウトレット店舗とニット修理専門サイトの運営を行うことで、顧客の囲い込みとサプライチェーン支援の実現を目指すビジネスモデルを構築した。

(4)経営革新の内容
①経営革新の内容を洗い直した上で、当社の強みとして以下の項目を洗い出した。
・製造直売による低価格販売を実現。
・全国優良専門店が行なっている顧客満足向上ノウハウを持っている。
・全てオリジナル商品なので、顧客の要望を即製品化する事ができる。
・原材料メーカーの糸や生地の余材を利用し、OEM先メーカーの閑散期などを使ってディスカウント製品を企画し、コストパフォーマンスを実現できる。
・OEM依頼先製造業者からの商材提供等のコラボレーションにより、幅広い商品構成が可能である。
・バッグ製造業者の在庫を代理で販売するなどのコラボレーションにより、販売アイテムが豊富に揃う。

②当社のコア・コンピタンスを活かした新たなビジネスモデルの展開で、以下の革新事業が期待できる。
・大手アウトレット=安売り量販店、とは品質・サービスともに大きく性質が異なる。
・既存取引先である全国300の専門店へ、ライバル他社が真似のできない、弊社独自のニット製品の修理サービスを提供し、より強固な取引関係を構築していく。
・HPを開設し、インターネットを使ってエンドユーザーへ幅広くニット製品の修理サービスを提供していく。
・Webを通じて顧客となったお客様に対し、同時に商品紹介も行ない、直接販売にまでつなげる。

③ビジネスモデル図

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(5)川上の差別化要因(大手メーカとの差別化)
・修理を拒む:工場の生産ラインをとめてやらなければならないので、費用が高額になる。
・手間のかかるサービスについて、大手はしたがらない。
・1週間~2週間で修理できるところ、大手は製造業者の空き手間を待つため、1ヶ月以上待たなければならない。
・修理方法が雑で、元の高級ニットデザインの特徴を殺してしまう。
・消費者ニーズを汲み取って対応できるだけの人材が存在しない。
・バッグ製造業者等は、むしろ取引先になりうる。品質レベルが確保されるのであれば、当社製品とともにラインナップして市場に流すことが可能であるため、Win-winの関係を築くことができる。

(6)川下との差別化(価格訴求品量販店等と比較した優位性)
①価格訴求量販店と比較した優位性
量販店は、紡績の質の圧倒的違いがある。着衣してみると理解できる品質なので、販売店も取り扱いしやすい。プライスラインはユニクロでも通用する値ごろから高級品までの幅があるが、全般に金額以上の満足度は得られる。よって、価格訴求量販店よりも強いポジションで展開できる。

②百貨店・専門店と比較した優位性
・百貨店・専門店では、上代を下げられない。
・百貨店・専門店では、修理方法含め製品のノウハウが乏しい。
・対面販売であっても顧客管理の荒さが出ている。
・百貨店でそろえきれない商材も当社では取り扱うことが可能である。
・当社は、デザインの情報収集から製品化、流通させるまでのリードタイムが短い。

③Webサイトの優位性
販売サイトは楽天、古着オークションなど、多く存在する。一方、修理サイトは手間がかかるため、大手は参入しづらい。サイトを運営しているのは、縫製業者もしくはミシン販売業者である。全国的に見ても、修理は片手間で運営している事業者が大半で、リテールサポート機能を有し、消費者と製造業者をつなぐサプライチェーン構築を具現化している修理サイトは当社に限られるのではないかと検討した。

(7)再生成果
多く存在する「たたき売り」タイプのアウトレットと比較すると、当社は、戦略的で確実に利益を上げられる仕組みが構築できている点で、他には見られない形態である。修理についても、他社は修理スキルが低いので、元のデザインを壊して修理してしまうケースが多い。品質の確保ができるのも、当社の強みであり、信用である。
アウトレットショップとニット修繕専門サイトの運営の相乗効果がみられ、粗利確保の仕組みも構築されており、新事業が高付加価値を生み出したことで結果が出た。
計画1年目からの販売管理費については、売上高対比で直近の33.1%から1年後25%に大きく低下しているが、直近の販管費には売上高への貢献が低かった営業所の営業担当3名の人件費半年分が含まれており、この金額を除くとこの期の売上高対販管費率は、約27%である。また、付加価値の高い新規事業の売上高構成比率は、計画以上の伸び率を示した。
結果、1年目から黒字化し、早い段階での再生が果たせた。今後は、更にローコストで専門店の囲い込み、並びにネットとの相乗効果を目指す。

3.これからの再生支援あり方
当研究会が発足した当初は、再生手段としてコストカットの対策が主流であった。
第1段階:P/Lのコストカットはすでに済んでいる
  ↓
後に、不動産処分含めて、B/S是正対策が行われた。
第2段階  個人資産含めて、資金投入は終わっている
      ・不動産抵当、処分、証券処分等々
      ・売れない不動産だけが残っている
  ↓
それでも円滑化法から緩和策が継続しているうちはよかったが、終結してから連続営業赤字、債務超過となっている企業の再生は困難をきわめる。営業外の負荷が大きく、支払利息が払えない状態も生じている。
  ↓
第3段階の策:知恵を使って仕組みを変え、利益体質にしなければ残れない時代
日本の企業数の99%、全雇用の95%を占める圧倒的ウエイトの中小企業経営者たちとその家族にとって、新陳代謝が避けられない。そこには、単なる企業の再生だけではなく、「事業承継」、「会社経営の退出戦略」、「業種・業態転換」が複雑に絡んでいる。これらを含み置いた、「P/L革新」がはかれないと、本質的な再生は果たせない。

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新しい産業を創出する活気溢れる国づくりの提唱の背後には、廃業も避けては通れない。「会社経営の退出戦略」「失敗の痛み」含め、再生・廃業のフェーズでは、経営者個人やその家族に押し付けて決着を付けるという現在の前時代的なやり方も多く存在する。これらからいち早く脱して、社会全体が「リスクある挑戦の意義」を充分に汲み取り、その失敗の痛みを「広く薄く分散し吸収する巧みなシステム」を、備えていなければならない。

そのために、中小企業再生支援研究会(CSS研)は、再生の現場を深耕し、1社でも多くの中小企業健全経営に寄与する研究会でありたい。

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研究会は、2部構成になっており、第1部講話は、再生の現場で活躍している診断士の事例紹介となっている。第2部講話は、全国の中小企業再生支援協議会統括責任者、金融機関、等から外部講師を招き、ホットな情報を提供していただく内容になっている。

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