TOP >> コラム >>  特集 >>  中小企業の海外展開支援 ワールドビジネス研究会
コラム
最新の記事
月別の記事
2015.07.31
中小企業の海外展開支援 ワールドビジネス研究会

中小企業の海外展開支援
                             ワールドビジネス研究会 徳久 日出一
1.研究会設立の経緯
当研究会の前身は『ISG(東京国際スペシャリスト会)』である。1990年代からJICAやJETRO等の業務を中心に内外で活動していた国際診断士が、独自にISGというグループを結成して東京支部内で情報交換や交流を行っていた。ところが、ISGは東京支部所属の公認組織ではなかったため、2005年末に発展的に解散し、2006年1月、当時の東京支部や各支部の国際部のメンバーを中心に、国際関連業務に従事、または興味を持つ診断士を対象として当研究会を設立した。

2.研究会の概要と特徴
 【研究会の目的】
 経済のグローバル化や中小企業の国際化に対応するため、以下の目的で活動している。
 ①国際社会に貢献する中小企業診断士としての知識、技術、品格の向上を目指す。
 ②国際関連・海外ビジネス情報等を収集・調査し、診断士や関係組織等に提供する。
 ③多彩な交流を通して、国際関連業務に携わる診断士のネットワークを構築する。
 【過去の活動実績】
国際関連業務に必要な知識、ノウハウ、スキルの向上を図るため、株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツと共同で、JICAやJETROをはじめとする国際支援機関や金融機関等の担当者を講師に、10回にわたって海外展開支援のための講座を開催した。
また、会員の有志により、以下のような書籍や資料を執筆・出版している。
・図解『BRICs経済がみるみるわかる本』(PHP研究所)
・入門『NEXT11がみるみるわかる本』(PHP研究所)
・図でわかる! 新興国の実力『BRICsとNEXT11のすべて』(PHP研究所)201507_tokusyu_2.jpg
・『海外進出のための基本情報2013年度版』(首都圏産業活性化協会)
 【WBAとの連携】
前身のISG解散後、研究会の発足とほぼ同時期に、診断士の国際業務を開発する法人組織として、株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ(WBA)が設立された。WBAは現在、診断士が経営し事業活動を行う企業として、東京協会の賛助会員(法人会員)にもなっており、多くの研究会会員を含め約80名の診断士が登録し活動している。
 【現在の活動状況】
通常、毎月第3木曜日にWBAのオフィスで定例会を開催している。会員約150名。

3.中小企業の海外展開
中小企業の海外展開には大きく分けて、販路開拓と直接投資(海外進出)がある。経営資源に制約のある中小企業では、最初から大きな投資をせず、「小さく始めて大きく育てる」考え方が重要である。ある程度の売上が見込める大企業の下請け等の場合を除いて、当初は海外への販路開拓からスタートして、相応の実績や営業基盤が確立された後に、本格的に海外に進出することが望ましい。しかしながら、最近では、国内市場の人口減少・高齢化、およびアジアや新興国の急速な経済発展に伴い、飲食業やサービス業等が直接海外に進出するケースも増加している。
初めて海外展開に取り組む企業は、支援機関や専門のコンサルタントなどから、海外ビジネスについての基本や考え方をしっかりと学んでおくことが肝要である。中小企業が海外で成功するためには、まず、理念・ビジョン・戦略を明確にすることである。
販路開拓の場合、海外での展示会や商談会に参加することが第一歩である。そこで自社製品に対する現地での反応や販売可能性等を調査・確認し、その後の販路開拓プロセスにつなげていく。下図のような標準モデルに沿って、展示会や商談会で興味を示した企業を選別し、有力な相手を訪問して、取引先として適当かどうかを判断することが必要である。

201507_tokusyu_3.jpg
4.海外展開支援事例
最近の事例として、昨年、当研究会幹事の廣井正義会員が実施した案件を紹介する。

(1)食品製造業A社の中国販路開拓事例
 ①企業概要
関西に拠点を置くA社は食品製造業である。売上の80%はOEM供給、20%が自社ブランド商品で、国内で製造・販売している。強みは長年の経験とノウハウで蓄積された特殊な加工技術で、その製品の風味や味わいは、他社では真似のできない職人技から生まれている。しかし、ほとんどがOEM供給で、日本国内では自社ブランドでの大規模展開が難しいため、海外への販路開拓を意思決定し、公的機関を使って海外の展示会に参加した。しかし、欧米やアジアで幅広く展示会に参加したものの、次の一手を打てないでいた。

 ②販路開拓戦略の再構築
展示会への出展等を通じて調査の結果、A社の製品は中国での販売に向いていることがわかった。しかし、今までコンタクトのあった企業とは数回メールでのやり取りだけで、その後連絡が途絶えていた。基本的には待ちの姿勢で対応も場あたり的となっており、自分たちで何をどのように進めていくのかという方針が漠然としていた。
そこで、中国のどの市場に対して、どの商品でアプローチし、どの層を狙うのか、それをどのように進めるかなど、マーケティング戦略の再構築を提案した。そのためには、自分たちの足で歩くことが必要であり、メール交信のみで、相手との面談なしでは販路開拓には結び付かない。商談相手と会って商品とターゲットをすり合わせ、落としどころを探る必要がある。訪問し直接交渉することで、商談をより具現化させることができる。
 
 ③現地での販路開拓支援
過去に連絡のあった企業リストを分析し、ターゲットとする企業を選択した。加えて、未接触だった企業の中から、可能性のありそうな候補をピックアップし、現地訪問することを決定。11月に上海で開催されるFHC Chinaという展示会への参加を予定していたため、そのスケジュールに合わせて、上海での訪問先を決定した。
201507_tokusyu_4.jpgのサムネイル画像のサムネイル画像のサムネイル画像201507_tokusyu_5_1.jpgのサムネイル画像のサムネイル画像のサムネイル画像

上海以外では北京と成都をターゲットとし、数社の主要卸売業・小売業を訪問した。日本から訪問するとどこでも大歓迎され、商談により相手先の規模や販路、得意分野等の貴重な情報が得られた。A社も、自社製品の紹介や試食、今後の計画等、具体的なプレゼンを行うことができ、お互いの理解と協力体制構築の第一歩を踏み出すことができた。
201507_tokusyu_5_2.jpgのサムネイル画像

 ④今後の活動計画
1回目の出張後、訪問した企業の特長や可能性を再度分析し、攻略する市場と優先順位を検討した。それぞれの強みを生かして、開拓するターゲットを明確化することは、今後の戦略立案には必要なことである。そして、熱が冷めないうちに2回目の訪問を提案した。当初は渋っていたが、前回の御礼とともに、今後の進め方や関係強化の依頼をしたところ、ぜひ本格的に取り組みたい旨の回答が得られ、担当者からもモヤモヤしていた営業活動への不安が一気に解消された、と非常に喜ばれた。
その後も定期的にコンタクトを繰り返しながら、少しずつターゲットと商品、プロモーション等が具現化しており、市場に商品が供給される日も近いと感じている。

(2)飲食業C社のアセアン地域進出事例
 ①企業概要
C社はラーメン店を経営している。過去の豊富な飲食店経営の経験から、日本では消耗戦が続いていること、成長するにはそれなりの体力が必要であること、一方、海外に目を向けると、まだまだ可能性の余地が高いことがわかり、海外進出を検討していた。

 ②支援のきっかけ
同社が海外展開の資金について金融機関に相談に行ったところ、経営革新の承認を取るよう言われ、認定支援機関に登録している私の方に計画立案、申請支援の依頼がきた。経営革新計画の申請と承認については、これが大変な苦労であった。所在地である地方自治体の担当者より、事業の新規性については「すでに相当程度普及している技術・方式等は不可、他社との違いを明確にすること」しかも、「海外展開で、海外子会社の業績を連結決算や配当等で日本本社に還元するだけでは不可、日本本社が直接売上・利益を得なければならない」という。これには少々閉口したが、話を伺っているうちに、この担当者は、いかにしてこの案件の承認を得るかを真剣に考えていることが分かった。そこで、何回も申請書を提出しては電話とメールでやり取りを行い、ようやく承認が取れた。

 ③事前可能性調査(F/S)
経営革新申請の際に作成した事業計画を基に、国内でさらに可能性調査を行い、海外店の進出先ターゲットとしてホーチミンとプノンペンに絞り込んだ。当初想定していたシンガポールとバンコクは、競争の激化に加えて賃料の高騰、従業員の確保難等がネックであった。一方、ホーチミンは日本料理店の市場が発展途上で可能性が高く、プノンペンは日本料理店の進出が始まったばかりで、大きな潜在力を秘めている。また、ベトナムはアセアン統合に向けてさらに市場開放が進む予定であり、今後期待が持てる。カンボジアはまだまだ発展途上だが、外資の参入障壁が低く、飲食業も外資100%で登記が可能であることが分かった。
201507_tokusyu_6_1.jpgのサムネイル画像

それらの調査結果を基に、両地での現地調査を開始。調査項目は、ラーメン店をはじめ、日本料理店出店状況、従業員の雇用状況、法規制、商習慣、不動産事情、食材調達事情、厨房機器の価格等に加えて、外国人の居住環境やコスト、物価や賃金の上昇実態等々である。
調査の方法は、日本ではインターネットや新聞、雑誌、公的機関でのヒアリング、セミナーの聴講、関係機関での情報収集。現地では、公的機関現地事務所、日本人商工会議所、日系金融機関の出先、日系のコンサル企業、不動産会社、法律事務所、税理士事務所、さらに現地に駐在している中小企業診断士のネットワーク先等を訪問した。また、事前に企業側よりインターネットを通じて、日系ラーメン店を中心に参考になりそうな日本料理店をピックアップしてもらっていた。そして、いよいよ現地調査のスタートとなった。

 ④現地調査の実施と帰国後の作業
現地調査では、面談先を訪問しながら、その空き時間を使って市内の日本料理店、ラーメン店等の市場調査を行った。店舗では実際にオーダーしてひたすら食べ歩き、写真を撮り、メモを取る作業が続いた。

201507_tokusyu_6_2.jpgのサムネイル画像

帰国後、それらの情報を項目別にまとめて整理し、事業計画に落とし込み、ベトナムとカンボジアの事業計画書をそれぞれ作成、優先順位を決めた。その上で、それらを統合する企業としての事業計画書を作成するとともに、5年間の目標B/SとP/Lを作成し、それに伴う資金計画も作成した。
現在その計画を基に、まずはベトナムでの起業を目指して、登記手続きを申請している。現在の目標は、年内にカンボジアでも登記を行い、2拠点での店舗展開を実現するべく準備を進めているところである。

☆中小企業への対応で、いつも大切にしていること

  ・相手に興味を持ち、相手の話を根気よく最後まで傾聴する
  ・経営者の過去の実績をしっかりと認識し、その功績を尊重する
  ・経営者のビジョンに向かって、指導ではなく、伴走しながら支援する
  ・答えは経営者の中にある。それに気づいていただくお手伝いをする
  ・具体的で明確なゴールを設定し、軸がぶれないように誘導する
  ・常に謙虚さを忘れず、上から目線で対応しないよう気をつける
  ・経営者と一緒に汗をかき、長期的な友好・信頼関係を構築する 


5.診断士にとっての大きなチャンス
政府の日本再興戦略の中で、具体策として「国際展開する中小企業の支援」が挙げられており、成果目標が、今後5年間で1万社の海外展開を実現することとなっている。そのため、現在、政府によるさまざまな海外展開戦略が打ち出されており、下表のように、いまだかつてないほどの支援施策が用意されている。以前は各省庁や各支援機関がそれぞれバラバラに支援策を展開していたが、今回の特徴はオールジャパンとして、各機関が協力して取り組んでいることである。

201507_tokusyu_7.jpg

いま、国際ビジネスに携わる診断士にとって、さらに、これから挑戦したいと考えている診断士にとっても、このような施策を上手に活用して、中小企業の海外展開を支援する最大のチャンスである。詳しい内容については、この「中小企業海外展開支援施策集」、ならびに各支援機関のホームページ等を参照されたい。

TOP