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2015.10.29
中小企業への「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」の導入に向けて

中小企業への「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」の導入に向けて

リスク・マネジメント研究会 佐々 比呂之
sassa@grape.plala.or.jp

はじめに
 当研究会が発足した1993年当時、リスクマネジメントや危機管理というのは未だ一般的ではなかった。1995年1月の阪神・淡路大震災後に一躍注目を集め、関連図書の刊行やセミナーの開催が頻繁に行われるようになった。その後東日本大震災などの自然災害はもちろんのこと、取引先倒産、事故・故障、情報セキュリティ、粉飾決算、不祥事、内部統制、法規制、経済情勢・政治情勢の変化などあらゆるところで、リスクが大きく取り上げられるようになってきた。
 一方、マネジメントシステムは国際標準規格として品質ISO9000シリーズが1987年に標準化され、1996年9月には環境ISO14001が制定されている。その後ISOは食品安全、情報セキュリティ、事業継続などさまざまな分野に活用されるようになった。リスク関連では2001年3月20日に日本標準規格JIS Q 2001:リスクマネジメントシステム構築のための指針が制定された。これはISOとは関係なく日本独自のもので、審査機関の認証を必要とせず自主的な運営ができるような仕組みになっていた。その後2009年11月15日にリスクマネジメントに関するISO 31000:2009 Risk management-Principles and guidelinesが制定された。そして2010年9月21日のISO 31000を踏襲したJIS Q 31000:2010 リスクマネジメント-原則および指針制定により、JIS Q 2001は廃止となっている。3p-図.jpg
 この規格を利用していざシステム構築をしようとしても、どこから手を付けて良いのか戸惑うばかりで、使いこなすのは容易ではない。そこで、比較的簡単にシステムを構築・運用することができる支援ツール、「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」を完成させた。
 それでは具体的な内容を見てみよう。

1.「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」
 「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」は、本文と様式編の2部構成となっている。
(1)本文
 本文は、中小企業において自社用に必要な文言(社名、組織等)を埋めていくことにより、自社専用の「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」ができ上がるというイージーオーダー的な形式としている。面倒な規程文書をそのまま活用することができるメリットがある。
 リスクマネジメントシステムを構築するにあたり、多くの人が迷うところでもある「リスクの評価指標」については、次のような一例を提示している。導入初年度は、さらに簡単にするために評価指標を5段階から3段階に減らすこともできる。

    【画像2】 「リスクの評価指標」例

4p-図.jpg

(2)様式編
 様式編は、リスクマネジメントシステム運用にあたり、必要となる各種様式のひな形を備えている。EXCELで作成しているため、集計等の自動化をしている。
 「リスク評価・識別表」については、別に定める「リスク分類表」(多くの業種でも使用できるように幅広くリスクを拾い、大分類、中分類、小分類と分類している)を参照して、 リスク評価を一覧化するものである。

    【画像3】 リスク評価・識別表

5p-図.jpg

 【図表4】各種帳票類

6p-図.jpg

 その他にも、リスク対策実施計画シート、リスクマップ、事故報告書、情報収集シート等の各種帳票類もセットしている。

2.中小企業への導入に向けて
「リスクマネジメント」というと、多くの中小企業の社長は、「必要であることは分かっているが、まずは今日の売り上げを伸ばしていかなければ始まらない」、「大企業のものでしょ?高いんでしょ?中小企業には金銭的にも、ヒューマンリソースとしても、そんな余裕はないよ」というような反応を示す。どうしても、後ろ向きなイメージがつきまとい、余裕があるときに考えるものと捉えられていることが多い。

(1)ターゲット
 「リスクマネジメントシステムの構築」を喫緊の課題としており、コンサルティング費用を負担することが可能な企業をターゲットとすることとした。
 それではどのような場合に「リスクマネジメントシステムの構築」が必要となるのか?一つは株式の上場であるが、上場を計画している企業は数が少なく、そもそも探すことは困難である。
 もう一つは法律等の改正である。対象となる業態全体に期限を伴って求められるため、数も多く、私たちがアプローチできる可能性が高まる。
 そこで、私たちは特別養護老人ホームや保育所などの「社会福祉法人」に注目することとした。2006年の公益法人制度に連なる形で、2014年より社会福祉法人制度改革が始まった。理事長や理事に対する責任が重くなり、コンプライアンス体制の構築も求められている。
 また、社会福祉法人は手厚い補助金や税制上の優遇措置を受けている。その上、主なサービスの価格は行政により決定され、提供する量も定員等により制約を受けるため、市場競争はなく、予算通りに事業を運営することが評価される。そのために多額の内部留保金が積立てられている。(特別養護老人ホーム1施設あたりで、3.1億円の内部留保金がある:平成22年度決算) 
 
(2)訴求ポイント
 ①コスト
  「リスクマネジメントシステム」を構築するにあたり、リスク対策はやり始めればきりがない。しかし、何も初めから満点を取りにいく必要もなく、初めは抑え目にすることもできる。年間予算に合わせて、できる範囲から始めることができることを理解してもらう。
 ②文書化メリット
  理事長の頭の中には、当該施設のリスク対策について、シミュレーションをされているかもしれない。しかし、文書化していなければ、もしもの時にその場に理事長がいなければ、指示もできない。施設全体の取組みとして、改めてリスクを見直すことで、職員の意識を高める効果も期待できる。
 また、施設にとっては重要な外部監査への対応が可能になる。
 ③リスクに対する危機感
  リスクと言えば、最近気になるニュースからも次のようなものを思い浮かべることと思う。
   *自然災害の増加(地震、噴火、洪水等)
   *情報化社会のリスク(ウィルス、漏えい等)
   *金融上のリスク(為替・金利の変動等)
   *伝染病の流行(MERS、SARS、エボラ出血熱等)
   *職員管理のリスク(虐待、いじめ等)
  理事長の危機意識を高め、平時の備えを万全に行うためにリスクマネジメントシステムの導入を検討してもらう。

(3)どのように導入するか?
 次のステップを踏まえ、当研究会として、リスクマネジメントシステム構築支援までを目指す。
 ①リスクマネジメントへの関心を高め、セミナーへの誘導
  a) 広く集客するために~ インターネットの活用
「ビジネス・セミナー・ガイド」等のセミナー紹介専門サイトを活用したり、当研究会ホームページの活用を念頭に考えている。
  b) 限定的なコミュニティでの集客
社会福祉法人の団体等に対してセミナー開催の営業を行う。
 ②リスクマネジメントを啓蒙するセミナー開催
  リスクマネジメントとは、決して後ろ向きではないことを伝えたい。また、施設の周辺にリスクが多く潜んでいるという実態から、事前に備えておく必要性を認識してもらう。そのような直接的な効果の他に、間接的な効果も存在する。
  a) リスクマネジメントシステムを導入して、得られるものは何か?【直接的】
   *もしもの事態に対して、予め備えることができる。
   *事故や損失を未然に防ぐことができる。チェック機能。
   *発生してから考えるのではなく、発生する前に準備することで、落ち着いて検討できる。
   *管理者がいなくても、文書化していれば、参照できる。連絡がいつでも取れるとは限らない。
  b) リスクマネジメントシステムを導入して、得られるものは何か?【間接的】
   *監督官庁による監査等の外部監査に対する備えとなる。
   *後継者の育成。リスクマネジメント構築のリーダーを委ねることで、施設の全体像も理解できる。また、次のトップになると思えば、真剣味も違う。
   *職員の士気の向上。これまでは、はっきりとしていなかった不安について、施設全体として取り組むことで解消する。
 ③リスクマネジメントシステムの構築支援
  次のような内容での支援を実施したいと考えている。
   *参加者:理事長もしくは後継者を含む。複数名可。
   *期間:2か月半(隔週土曜日3時間×5回)
    第1回 基本方針の策定、体制の構築
    第2回 リスクの洗い出し
    第3回 リスクの評価
    第4回 リスクの対策
    第5回 モニタリング・レビュー
   *毎回、前半は前回の課題の確認、後半は次回の課題の説明。

さいごに
 今回はリスクマネジメントシステムのニーズが高まっている社会福祉法人をターゲットとするが、もちろんその必要性を感じている一般の中小企業向けにも積極的に働きかけ、一助になればと願っている。
 
 研究会名:リスク・マネジメント研究会
 開催日時:毎月第3木曜日18:30~20:30
 開催場所:「青南いきいきプラザ」港区青山4-10-1(表参道駅より徒歩10分)

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