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2016.01.29
公的オープンデータの 中小企業支援・地方創生への活用

公的オープンデータの 中小企業支援・地方創生への活用

三多摩支部データ活用研究会 黒田 一磨

はじめに

 データ活用研究会では、どういった課題に対して、どういった情報が必要で、どうやってその情報を入手するかといったデータ活用のプランニング部分(以下、「データ活用設計」)の開発を中心に活動している。診断士活動にデータを活用するための手順を整理することで、データ活用の習得の容易化や、診断の質を高めることが期待できる。

1.ツール開発の経緯

 企業活動におけるデータ活用の重要性が増している。しかし、中小企業が単独でデータ活用することは難しい。なぜなら、データ分析を習得するためのコストや時間がかかりすぎることや、自社データを分析可能な形で保有していないためである。  診断士が支援活動に使えるデータやツールは整ってきている。インターネットを通じて無料で取得できる信頼のおけるデータが数多く存在する。たとえば、総務省が運営しているインターネットサイト「e-stat」では各種統計調査の結果をダウンロードすることができる。内閣官房および経産省が運営している「地域経済支援システム」では地域に関する情報を取得することができる(以下、オープンデータ)。また、分析や効果的な表示を可能にする無償・安い解析ツールも存在する(R、QGIS等)。

 しかし、診断士の中小企業や商店街への支援活動はまだまだデータドリブンで行われていない。その原因として、個々のデータやツールの使い所と、診断手法との関係が整理されていないことが考えられる。

 そこで、オープンデータを活用した支援手法を開発した。具体的には、データを支援活動に活用するための手順を整理し、ツールや解析手法の位置づけを明確にすることを試みた。中小企業を支援する診断士は、データ分析の習得と公的オープンデータの活用により診断の質を高め、活躍の場を広げることが期待できる。

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2.開発ツールの概要

 開発ツールの概要は以下のとおりである。

 ・ツールの名称:データ活用設計

 ・活用領域・目的:中小企業支援、地方創生プランニング支援のデータ活用設計

 ・ツールの利点:一定の手順に従い、公的オープンデータを活用した支援活動ができること

(1)データ活用設計の手順

 診断活動でのデータ活用の全体の流れを解説する。まず、目標を設定し、その目標を達成するまでのプロセスを整理する。そのプロセスなどをもとに課題や課題解決策の方向性を洗い出す。この際に各課題のKPIとKPIの目標値を設定する。次に、各課題解決策をより効果的に行うための情報をデータから導き出し、課題解決策を具体化する。最後に、課題解決策の実施成果をモニタリングする仕組みを整理し、実施成果から更なる改善策を検討できるようにする。

手順概要

(1)目標を設定する

   ・目標が達成された状態を定義する

   ・目標値と期間を設定する

(2)目標達成までのプロセスを整理し、課題を特定する

   ・目標達成までのプロセスを可視化し、構成要素の数値(量や割合)を記入する

   ・改善ポイントを選定し、KPIとその目標値を設定する

   ・課題と課題解決策を洗い出す

(3)課題解決に必要な情報・入手方法を特定し、具体策を検討する

   ・課題解決に必要な情報を定義し、必要な情報(データ)の取得方法を検討する

   ・データ収集の実施計画を策定する

   ・データを収集し、分析する

   ・データ分析結果を評価し、具体策を検討する

(4)課題解決策の実施成果と目標への貢献度を評価し、改善策を検討する

   ・実施成果のモニタリングフローを設計する

   ・実施成果を評価し、改善策を検討する

3.公的オープンデータの中小企業支援への活用

 開発した手順とは別に、まずは公的なオープンデータや無償の解析ツールでどのようなことができるのかといった活用例を紹介する。国勢調査や家計調査等の統計調査結果を活用した「商圏内の地域特性・潜在購買力を推計する手法」を紹介する。次に、「商圏特性にあわせた販売促進計画を立てる手法」を紹介する。

(1)商圏内の地域特性・潜在購買力を推計する手法

 ここでは、品揃えの見直しや売上目標の設定などを想定して、商圏内の潜在購買力(市場規模)を推計する手法を紹介する。まず、商圏を設定し(駐車場の有無や、ターゲットの移動手段などにあわせて)、その商圏内の世帯数をカウントする。調べたい商品の世帯あたり購買額を、家計調査で調べ、先ほどの世帯数と掛け合わせることで、商圏内の潜在購買力を推計することができる。

 商圏内の統計情報を分析することで、地域特性の概要を把握することができる。たとえば、性別・年齢別人口から家族構成やターゲットの多寡、昼夜間人口比率から通勤通学の拠点性などである。商圏内(一定の距離内)のデータを抽出する際には、GIS(地理情報システム)の使用をおすすめする。QGIS等の無償で使用できるツールがあるので、興味のある方は試していただきたい。

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(2)商圏特性にあわせた販売促進計画を立てる手法

 商圏内の競合店や人口・世帯のデータから、効果的なチラシの配布エリアを特定する手法を紹介する。手順は、先ほどの商圏特性を調査する手法と同じで、商圏内の性別・年齢別人口からターゲットが集中して分布するエリアを特定する。配布するエリアが絞れたら、世帯数を調査し、チラシの配布にかかる費用を見積もる。また、競合店の配置を調べるために、タウンページなども利用できる。

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4.公的オープンデータの地方創生への活用

 地方創生では、「まち・ひと・しごと創生法」に基づき、人口の減少に歯止めをかけ、それぞれの地域の住みよい環境を確保し、将来にわたって活力ある社会を維持していくことを目的としている。

 これらの実現に向けた計画策定段階は、人口ビジョン策定段階と総合戦略策定段階の2つの段階に分けられる。人口ビジョン策定段階では、人口の現状・将来見通しなどを分析し、方向性を検討する。次の総合戦略策定段階では、人口ビジョンを踏まえ、より具体的な施策に落としこんでいく。

 本稿では、某地方自治体での人口ビジョン策定段階の支援をもとに、開発したデータ活用設計の手順に沿って、目標の設定、現状分析・課題設定、施策案の基礎分析例、目標(将来人口)とKPIのモニタリング・評価手法を紹介する。

(1)目標設定

 目標設定段階では、目標が達成された状態を定義し、その目標を定量的に表現し、より具体化していく。上記の地方創生の目的の通り、状態目標のおおまかな内容は定義されており、とくに補足することはない。目標値については、「4.目標とKPIのモニタリング・評価手法」で解説する。

 企業支援ではこの段階がもっとも重要だと考えている。データ分析というと、調査手法や解析手法に目がいきがちであるが、「何を調べるか(手段)」よりも「何を知りたいか(目的)」を先に明確にしておく必要があるからだ。

(2)現状分析・課題設定

 この段階では、目標達成までのプロセスを構造化・可視化し、改善するポイントや課題・方向性にあたりをつける。各構成要素の定量的なデータを明記することで、客観性を持たせることや、各構成要素の関連性を検証することが可能になる。  次図に、将来人口の維持を目標とした例を示す。

201602_tokusyu_6_1.jpg(3)施策案の基礎分析

 先ほど洗い出した各課題への解決策(施策案)の具体化や検証のために、基礎分析を行う。たとえば、周辺地域における立ち位置を把握するために、昼夜間人口比率(昼間の人口を夜間の人口で除したもの、通勤通学の拠点性の評価指標)が役に立つ。中核都市のベットタウンに位置づけられるのか、集客力があり小売業などの活性化の見込があるか、どの地域との連携・差別化を図るべきか、などを検討する際には分析することをおすすめする。また、地域内の視点では、人口密度や面積あたりの売上高が、施設配置や統廃合を検討する際に役に立つ。

 次図に、昼夜間人口比率の分析例を示す。

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(4)目標(将来人口)とKPIのモニタリング・評価手法

 各施策の目標値・KPIを前提条件として、将来人口のシミュレーションを行い、目標値の妥当性や将来人口への効果を検証する。また、実施段階における実績値をモニタリングし、進捗・目標の達成度合いの評価や、効果の検証に使える仕組みを構築する。

 次図に、将来人口のシミュレーション例を示す。

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(5)成果  本稿の執筆時点でも多くのプロジェクトが計画段階にあるため、定量的な成果は得られていない。そこで、定性的な成果として、ワーキンググループ(自治体職員、外部専門家)からいただいた感想を紹介する。

 ・データ(統計)と施策とのつながりを整理することができた。

 ・データで状況を客観的に整理することで、新たな気付きが得られた。

 ・いままで成果を数値で振り返ることは積極的に行ってこなかったが、とても大切だと感じた。

5.今後の取組予定

 診断士の立ち位置としては、データ活用のプランニング部分が本質的な部分だと考えている。ツールを使えるに越したことはないが、分析の専門業者への外注という手段もある。  今後は、研究会会員の支援経験や専門領域の知識と併せて、支援活動に必要なデータ活用手法・着眼点の整理・開発や、データを活かした企業支援を予定している。

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