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2016.02.25
ストーリーとしての「ウェブサイト構築」 コンサルティング・マニュアル

中小小売業の情報化研究会(POS研) 大久保 紀子
E-mail: n.okubo@plusyou.biz

はじめに

 ICT(IT)の活用は企業経営にとって重要な課題となっている。中でもウェブサイトを活用することによって、大きく業績を伸ばしている企業は少なくない。中小小売業の情報化研究会(POS研)では、多くのウェブサイト構築支援実績に基づき、支援事例を一般化し、ウェブサイト構築を支援するための手順をマニュアルとして体系化した。


 本マニュアルでは、コンサルティングのプロセスをフロー図で表し、各プロセスで必要とするデータ(インプット)、作成するデータ(アウトプット)を定義し、さらにプロセス間のデータの流れを示した。データの流れを「ストーリー」として落としこむことで、経営者の理解を得たうえでウェブサイト構築を進めていくことができる。現在、バージョン1(V1)としてダウンロード販売で提供している。
 (http://www.dlmarket.jp/products/detail/260653)
 
 本稿では、マニュアルに沿ってウェブサイト構築に「ストーリー」をもたせる基本的な考え方を紹介し、支援企業への適用例をとおして具体的なウェブサイト構築の事例を紹介する。

1.「ウェブサイト構築」 コンサルティング・マニュアルについて
(1)ツール開発の経緯
 企業の情報化を支援する一環として、ウェブサイト構築のコンサルティングを行う機会が増えている。特に、ホームページの作成支援を行う事例が増えてきたことから、ウェブ知識のない中小企業診断士でも支援が行えるよう、コンサルティングの方法を体系化し、「ウェブサイト構築コンサルティング・マニュアル」としてまとめることとした。
 これまでの構築支援実績をベースとしてツール開発を行い、事例として紹介する河野エムイー研究所(製造小売)、他2社のホームページ作成支援をとおしてマニュアルのブラッシュアップを図った。

(2)基本的な考え方
 ウェブサイト構築における中小企業診断士の役割は、単にホームページを作成することではなく、経営理念の策定から、費用対効果を考慮した業者選定アドバイス、ホームページ導入後の効果検証、改善までのPDCAサイクル支援まで、ウェブサイトを通した経営目標やマーケティング目標の実現にある。 
 したがって、本マニュアルでは以下の5章に分けてPDCAサイクル全体を支援することを目指している。(図表1、図表2)

201602 2p-図表1.jpgのサムネイル画像201602 2p-図表2.jpgのサムネイル画像
(3)マニュアルの特徴
 各章には、章のテーマに応じた複数のプロセスがあり、プロセスは「インプット」「ツールと技法」「アウトプット」からなっている。それぞれのプロセスでは、集めた情報を「インプット」とし、適切な「ツールと技法」を用いて情報を加工し、成果として「アウトプット」を作成するような形式を採用している。アウトプットは他のプロセスのインプットとなっており、プロセス間のつながりをデータフロー図として表している(図表3) 。

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 たとえば、第1章「経営戦略」では、7つのプロセスを定義している(図表4)。これらのプロセスのうち、「1.5 経営戦略の検証」プロセスを中心とした「インプット、ツールと技法、アウトプット」(図表5)、およびフロー図(図表6)の例を示す。
 このように、第1章から第5章までのすべてのプロセスがフロー図としてつながっているため、ホームページ作成支援において作成すべき成果物が明確になり、全体をストーリーとしてとらえることができる。そのため、支援する診断士・経営者の双方にとって理解しやすいようになっている。

201602 3p-図表4.jpg201602 3p-図表5.jpg201602 3p-図表6.jpg
2.ツールの活用事例、成果
(1)事例企業について201602 4p-図表7.jpgのサムネイル画像
 株式会社河野エムイー研究所では、本マニュアルをもとにホームページのリニューアルを行った。
 株式会社河野エムイー研究所(代表取締役:河野英一氏)は、2002年に設立され、川崎市内のインキュベーション施設にある。
 事業内容は医療・健康機器の研究開発や技術コンサルティングである。その中でも「減塩モニタ」(図表7)を主力製品として販売している。本製品は、日々の塩分摂取量を手軽に家庭で測定するための器具である。NHKでも紹介され、複数の大学の教授からも推奨されている高血圧患者の減塩治療にきわめて有効な製品である。リニューアルまでは主として他の通販サイト経由での販売を行ってきた。

(2)支援内容
 ウェブサイトの改修に際し、経営者から課題として、以下の2点を求められた。
 ① 乱立する通販サイトから自社サイトへ誘導し利益率を改善すること
 ② NHK等のマスメディアによるパブリシティの活用
 背景として、これまでは「減塩モニタ」に知名度が不足していたこともあり、通販サイトから言われるままの値付けで販売していたが、NHKで紹介された後は売り手の交渉力が強くなったという、外部環境の変化があげられる。
 経営理念「人々の生命、健康に役立つ技術を実用化する」を確認し、経営戦略の策定を行い、「専門医師や福祉関係者の推薦、マスメディアによるパブリシティを活用し、高血圧や腎機能に不安を感じている消費者をターゲットとする」ことを基本戦略とした。その上で、ストーリーとして、「自社サイトの魅力を高めることにより、高血圧予防に興味のある潜在顧客の流入を図る。その上で自社サイト内の巡回やリピート訪問を促し、結果的に減塩モニタの販売につなげる」とした。
 以下、各章でのポイントを説明する。

1)第1章「経営戦略」
 「1.6マーケティング戦術策定の」のアウトプットとして「マーケティング戦術」、「1.7ウェブサイト・コンセプト確定版作成」のアウトプットとして「ウェブサイト・コンセプト」を策定する。
 「マーケティング戦術」は、販売サイトや商社に対し、取引数量に応じた価格を一律に適用することにより、既存の取引業者の選択と集中を行い、自社サイトにおける直販の強化を図ることとした。
 「ウェブサイト・コンセプト」は、「高血圧予防」関連用語の検索順位の上位に当社サイトが表示されるように、コンテンツの充実によるSEO対策を行った。具体的には、まずパブリシティの活用として、NHKや朝日新聞などのマスメディアにおける専門医師の推薦を紹介した。また、定期的な情報発信により高血圧や腎機能に関する関連用語や記事の発信を強化することとした。あわせて、高血圧患者は主に男性であるが、プレゼント用など購買者と使用者が異なることを想定して、女性の購入者を意識した表現にした。

2)第2章「ウェブサイトの分析」
 「第2章 ウェブサイトの分析」では、主として「2.1キーワード分析」、「2.2ウェブサイト・アクセス分析」、および「2.4ウェブサイト・コンテンツ分析」を実施した。
 「2.1キーワード分析」では、「高血圧予防」関連用語の中でも「高血圧」のようなありふれた単語では、多くのサイトの中に紛れてしまう。よって、「クレアチニン」や「慢性腎臓病」のように潜在顧客による検索数が多い割には、他サイトでの掲載数の少ないやや専門的な用語を狙うこととした。
 「2.2ウェブサイト・アクセス分析」では、まず利用者の現状を確認した。アクセス元は首都圏が多いものの全国からアクセスがある。平均滞在時間が1分、最初のページで離脱する率が45%になるため滞在時間を伸ばす余地が大きいことがわかった。動線分析では、全体の8割が検索サイトからの訪問であり、検索ワードは製品名の直接入力する割合が40%を占め、残りの5割は減塩や減塩食に関わるワードであり、製品情報取得以外を目的としていた。
 「2.4ウェブサイト・コンテンツ分析」では、スタートページを除いた人気ページは「製品紹介」43%、「減塩レシピ」11%であった。
 以上の結果から、検索ワードとして多かった「減塩レシピ」を更に充実させ「減塩食」経由のアクセス数の向上を図り、製品ページに誘導することとした。

3)第3章「ウェブサイトの設計」
 「3.1ウェブサイトの目標設定」のアウトプットとして、「ウェブサイト目標設定シート」以下のとおり設定した。(図表8)

201602 5p-図表8.jpg

「3.2ドメイン選択」では、本製品そのものを強調するため、会社名ではなく、製品名である「gen-en-monitor.com」をドメイン名とした。
 「3.3コンテンツフロー計画」では、「減塩メニュー」、「クレアチニン」、「CKD」等キーワード分析で洗い出したワードを主題とするページを作成して、SEO対策を行うこととした。また、検索サイトからどのページに来ても、製品情報や注文情報に容易にアクセスできるようにした。

4)第4章「ウェブサイトの制作」
 「4.5ウェブサイト構築」については、必ずしも中小企業診断士が実施する必要はなく、適切な外部業者に依頼することも検討する。ただし、ウェブサイト制作会社が、意図したコンセプトやサイト設計にもとづいて制作できるように業者と経営者の間に立って、中小企業診断士が調整するようにする。また、「4.2CMSツールの選定」で検討するように、汎用的なCMSツール(htmlなどの専門知識がなくても簡易にウェブサイトを構築・運用ができるツール)などを利用することで、運用開始後に経営者自身がウェブサイトを更新できるように留意する。

5)第5章「ウェブサイトの運用」
 「第5章 ウェブサイトの運用」については、経営者や従業員が定期的にブログなどの更新を実施するのが理想である。しかし、日常の業務プロセスの中にウェブサイト更新業務を組み込まなければ放置された状態となる。長期に更新されていない状態はウェブサイト訪問者によくない印象を与えるため注意が必要である。経営者には高血圧関連用語の用語集を定期的に作成するように助言した。理由は経営者にとって更新しやすいテーマであり、関連用語を充実させることが検索上位に上がることにつながるからである。

(3)支援成果
 ウェブサイト改修を行った2012年度の販売台数は前年度の5倍程度にまで上昇した。(図表9)201602 6p-図表9.jpg
 支援実施後も、NHK(再放送)や新聞などのメディアで、何度か減塩モニタは取り上げられた。それらの情報を自社のウェブサイトに記載するパブリシティの活用により、本製品に対する訪問者の信頼を厚くしている。
 トップページでは改修の結果、視認性が改善し、顧客が必要とする情報や注文書に容易にアクセスできるようになった。(図表10)
 結果的に乱立していた通販サイトへの顧客流出を防ぎ、自社サイトによる直販比率が増加し、利益率の改善を実現することができた。

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3.今後の課題
 近年においてWEBマーケティングでは、ホームページだけでなく、SNSやECサイトなどの周辺技術も含めた全体的な活用が求められている。本マニュアルで作成するストーリーを軸として、業種・業態に応じたICT活用の支援ができるよう、引き続きマニュアルのブラッシュアップを進めていく予定である。
 

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