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2016.09.28
中小企業・個人が起こす「スローファッション」のイノベーションと、中小企業診断士の新たな役割

中小企業・個人が起こす「スローファッション」のイノベーションと、中小企業診断士の新たな役割

ファッションビジネス研究会 会員 坪井 竜之介
ryunosuke.tsuboi@gmail.com

【はじめに】
 ファッションビジネス研究会は、平成17年(2005)発足以来、月1回の例会で活動し続けている。当時、中小企業診断士にはアパレル・繊維産業の出身者が少なく、中小企業診断士にとって有用なアパレルビジネス・モデルの理解・認識を拡げたいという研究会代表今宿博史の想いが出発点である。
 アパレル・繊維産業は、雁行型経済発展による変化の波を先頭で被り、その経済環境は厳しい。一方で世の中の「気分」の変化が最も早く現象化する文化産業であり、「モノからコトへ」経済のサービス化の先端にあって機会創出が常に続いている。すなわち、課題先進産業にしてイノベーション先端産業である。ファッションの視点で継続的に現場を見続けることは、あらゆる業種・業界において活用可能・重要であると考えるゆえんである。しかしながら、変化の中にあって先見性を持つ企業が次代の役割を創造するも、近年ますます加速する変化に追いつけず立ちすくむ従来型企業が多いのも事実である。
 ゆえに中小企業診断士の役割は重要となっている。当会は「現場力」をキーワードに、会員による日常活動、および姉妹関係の中央支部認定マスターコースである「ファッションビジネス・リデザイン支援マスターコース」における実務従事での「実践」を出口として活動を推進している。以下ではまず、(1)アパレルビジネスを支える繊維企業にして地域経済を構成する産地企業、(2)先細りの経営環境から抜け出し反転攻勢の道を模索するアパレル企業、(3)新しい価値観とビジネスモデルを組み合わせファッションビジネスに挑戦している新興企業の3つの形態のビジネスの事例を紹介する。

【事例研究】
(1)資源の限られた産地企業の選択と集中の事例
 S社は、身の丈にあった経営革新を続ける生地メーカー、すなわち機屋(はたや)である。産地自体、生地受注下請企業数は激減したものの、ここまで生き残った各社は自社主導によるメインビジネスの生地素材の受注が堅調で、跡取りへ代替わりをはたし能力・気力が充実している。S社の産地でいえば、気鋭の跡取り経営者が集まって染色・撚糸等のどの企業にも共通する工程は協同組合化し(協調領域)、機織や新たに取り組む最終製品企画・展開では各社の独自性を出す(競争領域)、すなわちオープンイノベーションの手法で価値創造の仕組みを現代的に最適化し、生み出した余力で新規事業を拡大している。
 機屋専業から最終製品企画・展開までの事業拡大では、これまでやったことが無い消費者アプローチが問題となる。S社では各種SNS等を通じた働きかけは、手間さえ割けばコストが掛からないということで経営者自身のコトバで非常に積極的に取り組んでいる。一方で資源が不足しノンコアであるEC(eコマース)・物流はアマゾンを活用するというメリハリの効いたネット利活用で成功した。

(2)産元商社主導でベテラン職人と若いクリエイターを巻き込む人的資源活用事例
 H社は、織物産地の産元商社でアパレル企業のOEM依存の先細りからの脱却を図るため、自社ブランドの商品企画・展開を目指している企業である。取組みの中心に若いブランド責任者を抜擢し、ネットを活用した認知度向上活動などは無論のこと、地域の職人の巻き込みと意識改革に取り組み、都会の若いクリエイターの呼び込みなど、人的資源の充実・成長に力を注いでいることが特徴である。産地においてはこれまでの成功体験の残照による強固な保守性向があり、これを変えていくには説得より行動、成功の実例をもって見せつける必要があった。しかし一度納得すれば、産地内の人的ネットワークにより一段と優れたスピード・パフォーマンス発揮している。このように産地で成立してきたシステムは、保守性という点で一見弱みに見えても、働きかけ次第ではポジティブな能力に転化する。総合力で勝る大企業と同質化競争・空中戦をする愚に陥らず差異化していくには、潜在する現場力の発揮がカギとなる。

(3)フェアトレード×B2B×受注生産という新しいビジネスモデル構築事例
 I社は、他の先進国に比べまだ市場が小さく、ゆえに拡大余地の大きいフェアトレードの可能性に着目し、B2Bと受注生産を組み合わせた、まったく新しいビジネスモデルを立ち上げた新興企業である。バングラデシュの縫製工場ビル「ラナ・プラザ」崩壊事故で縫製現場の劣悪な労働環境が批判を浴びて以来、低賃金国生産の恩恵を受けてきた世界の大手アパレルは急速にフェアトレードに舵を切っている。大手企業の取引が低コスト・大規模生産であるのに対し、小規模企業は多品種生産となり、高コストで在庫問題も重い。これに対しI社のイノベーションのポイントは、出口をB2Bとしノベルティを含む企業CSR向けOEM商品を受注生産で納めるビジネスモデルとしたことである。受注生産にしたことで規模と在庫にまつわる数々の問題が解決できる上、ビジネスをスケールさせやすいメリットが生まれている。

(4)「つながりビジネス」の成功事例を分析する
 当会が研究してきた挑戦する中小企業各社は、社長ないし取り組みの中心的推進者自身が「コト」の媒体であった。顧客は、経営者の強い想い・生き様を商品・サービスの消費を通じ再体験するのである。顧客自身が次なる媒体となり、SNS・サイバー空間を通じ従来の口コミよりずっと高速・感染的に広がるようになってきた。「つながりビジネス」である。 当会では上記I社の研究を契機に、コンテンツとインタラクションの両方を記述でき、強み・課題を浮かび上がらせる新しいモデル化手法を「コ・マーケティング・ピラミッド」と命名・研究している。カギになるのは、当企業あるいはby nameの社長自身が表現する価値観・ライフスタイルである。

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【ファッションビジネス研究会による長期仮説】
 当会が研究してきた新しいファッションビジネスの事例から研究蓄積を高める一方で、業界先端のトレンド・ウォッチャー、トレンド・セッターを招き、過去の振り返り、今後のトレンドを定期的に議論してきた。その中でファッションビジネスの大潮流のこれまでを歴史的・経済的に説明し、今後を予測する長期仮説を「V仮説」と命名し構築してきた。

(1)繊維産業からアパレル産業への転換
 今日のアパレルメーカーはかつて百貨店を主要ターゲットとする「衣料問屋」であった。百貨店で販売される婦人服・紳士服類は、生地(テキスタイル)販売が主力であり、既製服は"つるし"と呼ばれる安物であった。購入した生地は自分自身で縫製するか、近所の家内工業的な「仕立屋」「テーラー」に縫製委託していたのである。
 繊維産業は素材中心に戦前・戦後を通じて日本の基幹産業・輸出産業であったが、昭和40年代、対米輸出が沖縄返還に絡む交渉によって規制・圧迫された。これに対し通産省は米国視察チームを派遣し「アパレル(衣料品)」と言われる業界が素材メーカーを遥かに超える規模となっていることを確認、国内アパレル市場の育成・拡大を目標に据えた。急速に成長する量販店(GMS)チェーンの追い上げを受けていた百貨店も、衣料問屋が取り組みはじめた海外有力ブランドのライセンス商品を採用・展開した。こうして衣料問屋はアパレルメーカーへ、生地は既製服へと業界が転換した。特に婦人服の既製服化進行は消費を大きく広げ、名だたる大手アパレルメーカーや小売の専門店チェーンを誕生させ、大手アパレルメーカーは直営店にも販路を広げていった(SPA化)。こうした量的成長が続く中で、小売起点・編集による妙を追求するセレクトショップ、製造起点のDCブランドが生まれ、ファッションビルも隆盛し、質も多様化した。しかし雁行型経済発展の原理により海外で軽工業たるアパレル・繊維産業が勃興すると、日本国内における輸入浸透率は着実に高まっていった。

(2)アパレル産業におけるグローバル化の進展とスローファッションの萌芽
 決定的な転機は冷戦終結であった。中国改革開放等による安価な労働力の大量供給と世界的コンテナ物流網整備を越境する資本が利用した。低賃金国での大規模生産を武器に、価格破壊力のある新しいSPAが登場し、トレンド商品を迅速・安価に供給できる欧米の有力FF(ファストファッション)が上陸した。わが国はバブル崩壊および人口減・高齢化・増税による長期経済停滞にも追い討ちをかけられ、20世紀型企業となった百貨店・量販店・専門店の後進性が一気にアパレル産業を衰退させるに至った。バリュー消費化は仕掛けた側をも飲み込み市場縮小が止まらない。伸びているのはECだけである。慢性的オーバーストア、そしてイノベーション無き多品種化・流行追いがプロパー消化率低下(バーゲン比率拡大)を招き業界全体を疲弊させている。
 
 飽和と同質化の消耗戦にあるこれらを従来の経済圏とすれば、同質化されたくない生産者と消費者がネットで直接繋がり、生産者・消費者の壁を越え「協創」し、大企業の流通構造支配力が及ばぬ新しい経済圏を形成する動きが出始めている。古くはA.トフラーの「第三の波」(1980年)、近年ではT.フリードマンの「フラット化する世界」(2005年)で予測されていた流れであり、生産者と消費者が再び接近し消費者が生産者・販売者にもなる。また個人がネットをテコに直接世界に進出できる状況の出現である。
 同質化を脱しイノベーションが生まれるカギは、「売らんかな」発想の対極、多様な「1人称の趣味性・こだわり・物語」にあり、顔の見える中小企業や個人がその担い手になる。その価値観は流行追い・同質化のマスマーケティングの対極として、地域と伝統(コミュニティ)・サスティナブル・社会貢献(ソーシャル)・スピリチュアル等による、共感・つながり・心に刺さる(エンゲージメント)といった特徴を有する。あえて一言でまとめてみると、スローファッションとでも呼べるだろう。

(3)「ファッションテック」と「オンデマンド生産」がイノベーションを後押しする
 中小企業や個人が担うスローファッションを技術革新が後押しするとファッションビジネス研究会は予測している。技術革新の柱の1つは従来の流通構造の外で新しいつながりを作るITである。○○×IT=○○テック、つまりファッションテックと呼べるが、従来のITやECの文脈をはるかに超える「IoT(Internet of Things)・AI(人工知能)による革新」になると当会は考えている。ハンドメイドやC2Cにより無数の消費者が無数の生産者・販売者にもなり得る状況に対し、ECによって個人が市場に参入するだけなら容易になった。ボトルネックは「無数の生産・販売者×無数の消費者」をうまく結びつけることである。これをブレークスルーするのがAIとなる。現在の商品検索は人が入力した商品名・説明文等に依っているが、画像を認識し分類・意味付けするAIによってマッチングされるようになるだろう。認識能力を獲得したAIはトレンドのサーベイ、デザイン・クリエイションにも応用されることは必至で、ファッションビジネスに限らず巨大なインパクトをもたらすと考えられる。
 ファッションテックが作る新しいつながりにより「売り切りからサービス化へ」シェア&レンタルも進む。ファッションは生産・販売側が新奇性・流行を仕掛けることで必需をはるかに上回る消費を喚起してきた。しかしながら多品種化で目先を変えれば畢竟在庫の問題が難しくなり、それを消費者に負わせるのは矛盾である。消費者は着たいのであって保管したいのではない。シェア&レンタルで在庫のリスクを解決すれば在庫負担によって諦めていた新しい「コト消費」が喚起されるだろう。そもそも不確実性プールの原理により川上に在庫するほど経済的だというのがシェア&レンタルである。C2Cによるリユースも消費者の在庫リスクを軽減し「消費者の仕入予算」を回復させる助けになる。上記のような特徴を備えるファッションテックのサービスはすでにはじまり、発展しつつある。
 
 もう1つの技術革新の柱が、これまで低賃金国・大規模生産・大規模販売網で築かれた大企業優位を揺るがすオンデマンド生産技術である。その主役はロボットと3Dプリンタになる。縫製は人間でしかできない、ゆえに低賃金国が優位であるという制約は、いずれこれらの技術で破られる。ニットの方であればそもそも20年以上も前から糸から1着編みができる編機が実用化されている。当会が研究した産地企業の事例ではいずれも販路問題と並び在庫問題がボトルネックであったが、もし受注生産にできれば在庫問題は大きく解消しパーソナライズでも圧倒的に有利である。すなわちオンデマンド生産技術とは、消費者近接・小ロット生産がコスト面・販売面では劣位を縮小し、物流・在庫面および顧客ニーズ適合面では大きく優位に立つ可能性を拓くものである。
 オンデマンド生産技術はファッションテックで予想される供給ボトルネックの解決にも貢献するだろう。顔が見える生産者にファンが付くファッションは他のシェアビジネスと異なる。人気が出た場合需要がスケールする速度はネットのそれだが、生産は簡単にスケールしない。従来の繊維産業は長いサプライチェーンが仇となり需要即応が難しかったが、オンデマンド生産技術はセル生産的なスケーラビリティを確保しやすい。「買いたいものが買えない市場」となって信頼を落とさないようにするには、このような課題解決も重要である。
 
(4)中小企業診断士が高めるべき資質・要件
6p-図.jpg スローファッションがイノベーションを興すという文脈にあって、中小企業診断士には新たな機会・役割が出現すると思われる。中小ファッションビジネス向けのデジタル技術活用支援、ファッション×コミュニティ/ソーシャルビジネスの立上げ支援、異業種コラボの実現支援などである。このような機会・役割が要求するであろう戦略企画・戦術構築能力は非常に幅広い。1人の中小企業診断士でカバーすることや、中小企業の側から複数のアドバイザーをセレクトし使いこなすのは困難である。ワンストップで支援をおこなうにはファッションビジネスとテクノロジーの多くのタレントを結集させる必要がある。「V仮説」ではこのためにチームコンサルティングの技術向上、タレント結集方法としての企業内診断士の活用、付随する課題として診断業務そのものの生産性向上の必要性を予測している。

【おわりに】
 ファッションは時代の風をもっとも速く受ける。ファッションビジネス研究会は今や一線のファッションビジネスコンサルタントやアパレル業界に身を置く企業内診断士が多く集まるほか、ファッションビジネスの先進性に着目し異業種からも多くの参加がある。「V仮説」も異業種出身の診断士が中核となって研究を進めた。月に1回、銀座の東京協会会議室で例会をおこない、挑戦する経営者を招いての企業研究と、業界紙編集者・ファッションマーケティング専門家による業界動向定期解説も好評である。東京協会のホームページに案内が掲載されているので、関心を持たれた方は参加歓迎、ぜひコンタクトをとっていただきたい。

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