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2016.10.30
「食品製造業の信頼性評価基準」を活用した企業診断について

食品業界研究会 代表 磯部 典久

1.はじめに(食品業界研究会の活動範囲)
 食品業界研究会は1995年に設立されました。当研究会は、食品製造業のみならず農業から食品小売業までを対象とした幅広い中小企業者の経営支援に応えられる診断スキル、知識および技術の向上を図ると共に実践することを目的に活動を行っています。

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 当特集におきましては、食品業界研究会が平成15年に診断ツールとして開発して、中小企業経営診断シンポジウムにて会長賞を受賞した「食品製造業信頼性評価基準」とそれを活用した企業診断について、概要を述べさせていただきます。

2.食品製造業信頼性評価基準の概要
(1)食品製造業信頼性評価基準の必要性
 食品は人の生命を支えているものです。そのため、食品の購入に対する顧客の評価は非常に厳しいものがあります。過去においても、食品安全上の問題を起こした大手企業が顧客の信頼を失い、存続にかかわるような事態に追い込まれた事例も発生しています。
 食品製造に関しては、衛生管理や品質保証の観点からHACCPなどの管理システムが存在しています。しかしながら、安全・安心な食品およびそれを提供する企業として顧客から信頼されるには、HACCPによる衛生管理やトレーサビリティによる管理システムだけでは不十分であり、経営全体の質を高めることが必要です。
 「顧客満足」を経営の基本原則として位置付けている企業が多くあります。しかしながら、「顧客が満足している」ということは、「顧客は不満ではない」ということと同等の場合がほとんどで、ぜひ買いたい、ぜひ取引したいというレベルではありません。「顧客から信頼されている」ということは、それとは大きく異なります。購入する商品(食品)について、顧客の「満足度」と「信頼度」の違いを比較すると、
 「顧客がその商品に満足している」:機会があればその商品を買っても良い
 「顧客がその商品を信頼している」:その商品を必ず買うことにしている
の違いがあります。食品企業が存続してゆくためには、当然ながら、顧客からの信頼度を向上させるべく経営を行っていく必要があります。
 食品製造業信頼性評価基準は、その企業が顧客からどの程度の信頼性が得られる経営が行われているかを経営全般について評価する基準です。この基準をもとに評価を行うことにより、企業が顧客からの信頼性を高めるにはどのような改善をしなければならないかが明確になります。
(2)食品製造業信頼性評価基準の概要
 食品企業の場合、安全・安心な商品を提供することが、顧客からの信頼を得る最大の要因となります。その実現のためには、関連する多くの管理要素があり、それらを「信頼性評価基準」のチェック項目の中に組み入れました。
 このようなチェック項目について、6つのカテゴリー(大項目)に分類し、さらに大項目毎に10のチェック項目を整理し、計60のチェック項目を整備しました。 

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 以下はそのチェック項目の例です。

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 また、各チェック項目については、別途チェック項目の評価の手引きを作成して、評点者毎のものさしを、できる限り統一するようにしました。

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 診断の際には、各チェック項目について評価の上1~5点の評点をつけます。なお、評点を行う上でのガイドラインを次のように取り決めました。これは評点者の実績、経験による評点の食い違いを極力さけるためのものです。

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 評価結果は、6角形レーダーチャートにプロットして強み・弱みを明確にします。

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3.食品製造業信頼性評価基準を使った企業診断

 食品製造業信頼性評価基準は次のような場面で使用します。

 ・中小企業診断士が食品製造業の経営者、経営幹部や一般社員から現状を聴取し、対象企業の信頼性について診断・支援を行う場面。

 ・中小企業診断士がセミナー・スタイルで講義をしながら、食品製造業の社員に自社の信頼性について自己診断をしてもらい、改善すべきテーマを導かせるような場面。あるいは、公開された食品製造業信頼性評価基準を使って、企業自らが自己評価を行う場面。

 診断にあたっては、当然ながら事前に企業の経営者に当診断の主旨や目的、評価項目と評価方法等について説明し、診断のご要望をいただき、かつ経営関連の資料提出やヒヤリング等のご協力が得られることが前提になります。
 中小企業診断士が食品製造業の信頼性のレベルを診断し、その結果にもとづいて信頼性向上の提言・支援を行う際の手順は以下のようになります。
 ⑴ 支援の都度チームメンバーを編成(3~6名)し、総合評価の6つの大項目を担当するカテゴリー・オーナーを決定します。
 ⑵ 企業から提出された資料他によって診断企業の内容を把握するとともに、業界動向などを予備調査します。
 ⑶ 予備調査結果より信頼性評価における重点事項や留意点を抽出します。
 ⑷ 企業を訪問して、経営者や経営幹部他からヒヤリング(質疑・応答)を行うと共に、製造現場や倉庫などを拝見し調査します。なお、各大項目のヒヤリングについては、それぞれのカテゴリー・オーナーが中心になって行います。
 ⑸ チームメンバーは各自全項目について評点を付けます。評点結果については、全員で討議の上、チームとしての評点を決定します。評点結果は、個別評価結果報告書にまとめるとともに6角形レーダーチャートにプロットします。
 ⑹ 高得点の項目(企業の強み)と低得点の項目(企業の弱み)を明確にした上で、改善すべき課題を明確にします。
 ⑺ 抽出された課題について、重点度・優先順位を明確にした上で、改善提案を記述した改善提案報告書を作成します。
 ⑻ 経営者や経営幹部に個別評価結果報告書および改善提案報告書に沿って診断結果を報告し、企業側の改善提案に対する意見と今後の取組みについての意向を聴き、必要に応じて助言します。また、企業の希望に沿って継続支援に発展させます。

4.食品製造業信頼性評価基準を使った企業診断の事例と今後の課題
(1)企業診断の事例
 当研究会では、食品製造業信頼性評価基準を使用した企業診断を実施しており、企業から診断実務ポイントもいただいています。詳細については、守秘義務がありますので報告できませんが、診断を行った企業の経営者からは、大変喜ばれております。

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(2)今後の課題

 当評価基準につきましては、以下のような課題も明確になって参りました。
 ① 外部環境の変化に伴い、食品企業の信頼性に対する顧客の要求事項も変わってきており、個別チェック項目の見直しが必要
 ② 一部の個別チェック項目間に類似性があるため、大項目とチェック項目内容の見直しが必要
 ③ 財務的視点に関する評価軸が弱いため項目追加が必要
 ④ 飲食店などの業態向けの信頼性評価基準については、別途定めることが必要
 このため、当研究会では今後当評価基準の見直し等を図り、よりブラッシュアップしたものとしてゆきたいと考えています。合わせて、当評価基準のPRをすすめ、より積極的な活用を図って参りたいと思います。
    
5.おわりに(食品業界研究会の活動状況)
 当研究会では、毎月の例会において会員の研究成果の発表や外部講師を招いた勉強会を行なっています。2016年2月にはオープンセミナー「いま、改めてフード・マイレージと地産地消を考える」も開催いたしました。また、食品関連工場や農商工連携・6次産業化の現場見学会、雑誌寄稿(「企業診断」や「企業診断ニュース」)なども実施するとともに、随時分科会を設置して、より専門分野の研究を行っています。
 最近の主な分科会活動としては、
 ・「タイ王国進出食品製造業の現地視察研究」(2013年)
 ・「イノベーション東北」に参加(2014年)
  「東北某食品卸企業のネットショップ構築支援」を行い、東京協会が主催する「活動成果プレゼンコンペ大会」にて成果発表
 ・「台湾進出食品企業の現地視察研究」(2016年)
 ・「某レストランの経営診断」(2016年)
などを実施しています。

◎食品業界研究会月例会開催場所:久松町区民館(中央区日本橋久松町1-2)
◎食品業界研究会月例会開催日時:原則 毎月第2水曜日(18:30~20:30)

【 食品業界研究会ホームページ : http://www.f-consul.jp/】

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