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2017.01.31
小規模小売店に対する買い物行動分析を通じた販促支援の実施

城西支部 先端小売業研究会

稲垣 修

1.はじめに

 先端小売業研究会(以下「先端研」)では、2014年11月よりおおむね1年間をかけて、東京都内某所の洋菓子小売店兼喫茶店に対し、販促施策の提案、および同提案を踏まえた小規模事業者持続化補助金の申請並びに同補助事業実施にあたっての実行支援を行った。
 当社は、①不動産関連事業および②洋菓子製造販売業・飲食業の業種の異なる2事業を営む小規模事業者。夫婦2人で経営しており、社長である夫は全事業を俯瞰しつつ、実働的には①不動産関連事業を、妻は店長として②洋菓子製造販売業・飲食業(喫茶店)を担っている。今般は、上記②事業の店舗を対象としたもの(以下「A店」)。

 

2.対象店舗の概要と経営状況

 A店は、乗降客数が多く商業地として人気の高い都内某駅徒歩3分という好立地にあり、開店より19年と地元で古くから続く喫茶店である。売上は、洋菓子テイクアウト、近隣スーパー向け販売(買取制)、喫茶、オーダーメイドのオリジナルケーキ、主に子供を対象とした洋菓子のクッキングスクールの5部門で構成されている。経理、支払関係を除く、店舗内業務(製造、販売等)については、ほぼ全てを店長が一人でこなしており、アルバイトは雇っていない。
 1997年にオープンし、当初は「駅近」と「人通りの多さ」という「立地」を強みとし、また、一時期は雑誌等でも紹介されるなど相応に知名度も高かったことから、堅調に売上を維持していたが、近隣商店街が改装し人の流れが大きく変わったことで前面道路の人通りが激減したこと、駅ビル改装によりスイーツ店が充実したこと、さらに、コンビニスイーツの進化等を要因として、来店客数は徐々に減少傾向にあり、加えて、A店の特徴でもある主に小学生を対象としたクッキングスクールは、昨今の少子化の流れもあり生徒数が減少、売上高は長期間にわたって低迷している状況である。
 今般、かかる店舗の経営状況を打開せんとして、社長より当会会員あてに、売上活性化について相談があったもの。

 

3.先端研のアプローチ方法

 先端研では、「そのお店のお客様が何を求めているのか?」というお客様目線でのアプローチをおこなっているが、その起点となっているのが、「買い物行動分析」である。とかく、「自分は、こういうものを売りたい!」という「こだわり」がある経営者は、そのこだわりが強い分、「本当にお客様が何を求めているのか?」「お客様のこだわり」が、見えなくなってしまっていることが往々にしてある。
 しかし、「作り手や売り手のこだわり」と「お客様のこだわり」が適合しなければ「物が売れる」には至らない。先端研のアプローチ方法は、そういったこだわりのある経営者に対して、お客様のこだわりを想像して示してあげることであり、「買い物行動分析」とは、「お客さま目線で買い物行動パターンを観察し、売り手の現状から新たな視点や強化する視点を分析する手法」である。

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 「買い物行動パターンの観察」は、2つの視点で14類型に分類して実施する。1つ目の視点は、「どういった生活目的なのか?」という視点。これは具体的に「生活を維持するため」、「生活に変化を与えるため」、「生活に革新を与えるため」の3パターンに分類される。次の視点は、「どういった買い方をするのか?(意思決定過程)」という視点。これは、「思わず衝動的に買ってしまう」、「あれこれと選択して買う」、そして、「これを買うんだ!」という目的意識をもって買うの3パターンとなる。
 加えて、意思決定過程においては、自分で選ぶ場合と、売り手と相談する場合があることから、さらに細分化する。

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 この14類型でお客様の買い物行動を観察することで、利用するお客様の行動パターンを浮き彫りにした上で、お客様目線での施策検討というプロセスに入っていく。
 先端研の「先端」にはロングテールの先端に当たる部分を支援しようという、研究会創立時の杉浦肇氏の思いが込められている。もともとはニッチ企業を応援するツールではあるが、これだけ消費者ニーズが多様化してくると、どんな小売店でもお店の方向性をとがらせてアピールすることが大切になってくると思われる。そういった意味では、ニッチ企業に限らずこのアプローチ方法は有効なのではないかと考えている。

 

4.A店に対するサポート(フェーズ1「現状分析・プロモーション手法の提案」)

  取組期間:2014年11月~2015年4月

(1)近隣地域の市場特性および競合店調査

 同駅周辺には、同種の店舗は数多く見受けられるものの、個性的な店舗が多く、それぞれが独自の「ストアコンセプト」を出すことで「共存」が図れている市場となっている。

(2)SWOT分析

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(3)売上高低下要因検証

 外部環境変化(商店街の改装に伴う駅からの人の流れの変化、駅ビル改装にともなう高単価スイーツの充実、コンビニスイーツの進化等)により、同駅を中心とした市場内で、相対的にA店の「買いやすさ(立地等)」と「価格」が劣後するようになった結果、A店を「立地」の良さで選定していたお客様が剥落。
 従って、売上活性化に向けては、これまで十分にお客様に訴求できていなかったA店の「強み」や「ストアコンセプト」をいかにしてアピールしていくかということが重要になるものと推察した。

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(4)A店利用客の買い物行動分析

 以下の通り、既存客と新規客に分け、来店客の買い物行動分析を実施し、施策検討にあたってのテーマを考察した。

①既存客:「生活維持(K)型」、特に、KSS型かKOS型が中心。少なくともある程度は、お客様なりにA店の良さ(強み)を感じて来店していることから、いかにしてA店の強みを、さらにしっかりと擦りこんでいくか?他の強みを訴求していくか?そして、既存客でも、利用機会を広げてもらうために、いかにして「生活変化」を与えることができるか?

②新規客:「生活変化(V)型」、具体的には、VIC型やVSC型がターゲットに。たとえば、コンビニスイーツをよく買う人を、どういうきっかけで、ちょっと高めでも美味しい手作りシュークリームに興味を持たせるか? 

(5)目指すべき「ストアコンセプト」の明確化

 利用客の行動分析を行ったところで、施策検討の指針とすべく、改めて、A店として目指すべき「ストアコンセプト」の明確化を行った。

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(6)売上活性化に向けた施策のご提案

①お客様の「買い方」を意識したアイテムへの工夫

―アイテム名の工夫、季節限定品の提供、歩きながらでも食べられるアイテムの提供、小さめアイテムの開発・ホールケーキのカット売り、看板メニューの確立、スイーツ原材料のセット販売

②「買い方」を意識した広告・包装等への工夫

―アイテム表示の工夫、店長の似顔絵キャラの作成

③既存のお客様に対する囲い込み戦略

―ポイントカードの導入、高齢者向け「シルバーポイントカード(仮称)」の作成、レシピの開示による常連客のストアロイヤリティ向上、一個買いのお客様が買いやすいような広告の掲示、会議室や教室としての喫茶スペースの貸し切り提供

④通行人をA店に誘導するための施策
―店頭POP作成/店名の看板取り替えとオープンな雰囲気のエントランス作り

⑤宣伝広告
―ホームページの更新、電子メールの活用(お誕生日月や記念日のオリジナルケーキの案内等)、ショップカードの作成

 

5.A店に対するサポート(フェーズ2「小規模事業者持続化補助金申請サポート」)

  取組期間:2015年5月

(1)フェーズ1の反省

 社長の店舗に対する危機意識をきっかけにサポートを開始したものの、ディスカッションを深めていく過程で、社長の思いと実際に現場(店舗)を切り盛りしてきた店長の思いの違いを認識。

―社長「売り上げが低迷している店舗経営状況に、自身のネットワークで収集したさまざまなアイディアを試してみたい。」

―店長「あれこれチャレンジするよりも自分自身が好きでこだわりのあるケーキ作りに専念したい。」

 フェーズ1の提案書は社長の意向に軸足を置いた内容になった感あり。

(2)店長としての優先取組事項の確認

 フェーズ2からは、当会として「店長の本音を引き出す」ことに軸足を置いたサポートを意識。補助事業申請にあたり、改めて、店長としてまず取り組みたいことを確認したところ、「店頭POP」、「ショップカード」、「ホームページリニューアル」の3点を列挙。

(3)補助事業の策定と申請書作成サポート

①補助事業で行う事業名  「ストアコンセプトの明確化と市場浸透を通じた新規顧客開拓」

②補助事業の具体的内容(申請時)

・店舗視認性向上のための突き出し看板の取り替え

・店頭POPの新設

・ホームページの復活リニューアル

・ショップカードの作成・店頭設置、配布

・「安全・安心」の手作り感が伝わる新開発商品

・地元商店街で開催されるイベントへの参加

 

6.A店に対するサポート内容(フェーズ3「補助事業実行支援」)

 現状、店長は毎日の業務をこなすことだけでいっぱい、いっぱいである中、付加的に補助事業を、しかも限られた時間内で実施するには、「誰が」、「何を」、「どのように」、「いつまで」を管理する等、「一緒に汗をかく役回り」が必要と考え、当会で実行支援サポートのためタスクチーム(6名)を編成し、2015年8月~11月まで、下記サポートを実施。

(1)補助事業の具体化

 補助事業それぞれについて更にタスクを細分化したうえで、責任の所在を明確化

(2)工程管理

 工程管理表を作成、それぞれの施策、さらにタスク毎に課題・確認事項、経費、スケジュールと進捗状況を管理し共有するとともに、2~3週間に1回のペースで期間中計8回、社長、店長、当会メンバーで全体会議を開催の上、PDCAを実施

(3)実務的な作業サポート(「一緒に汗をかく!」)

 指摘、アドバイスだけに留まるのではなく、手を動かし、一緒に汗をかくことで、店長との信頼関係を構築しつつ、店長のプロモーションに対する自発性を誘引

①店頭視認性アップの店舗外観案作成

同業のみならずA店の現状を踏まえて店舗視認性をアップさせるため、参考として考えられる他店事例を収集。また、突き出し看板の塗り替え、店頭ライトアップにあたって店長をサポートし、実際に業者とのディスカッションを実施

②ショップカードのデザインサポート

社長および店長の意見を調整しつつ、所定の素材を組み合わせて原稿を作成

③業者選定調整

ホームページ業者選定(2社より選定)にあたっての入札要綱の作成、両候補者からの提案内容の検証と比較対比表の作成、選定後の作業進捗確認等

④ホームページ用写真撮影

当初専門家への外注を検討したものの、融通とコスト面から断念。今後のホームページリニューアル時の継続フォローも視野に入れて、当会メンバーでカメラマンを含む撮影部隊(先端研写真部)を編成し、全アイテムおよび店舗内外観写真を撮影

(4)実績報告書策定サポート

 8月~11月に実施した補助事業について、エビデンス等を含めた実績報告書の策定をサポート

 

7.補助事業実施概要と効果、今後の課題

(1)各施策の実施概要

①店頭POP設置

ホワイトボード、ホワイトボード設置用の椅子を購入、POPを作成の上、店頭に設置、視認性の改善とストアコンセプトの積極的な訴求に

②ホームページリニューアル

長年更新されておらず、古めかしさが残っていたホームページを全面刷新。また、ITが苦手な店長に対して、ホームページ更新の講習も受けてもらうなど、今後の定期的な更新も視野に入れたサポートを実施

③ショップカード

名刺サイズとはがきサイズで2種類×5,000枚作成。店頭設置のほか地元商店街の案内所、地元スーパーへの設置、社長・店長関係者等に配布

④新商品開発

実施期間中にケーキ2種類、焼き菓子2種類を新商品として販売を開始した他、約3種類の商品についてはおおむね販売の目途が立つ段階に。なお、商品開発にあたっては、コンビニ等のチェーン店では真似できない製法を使う等、「手作り感」が顧客に伝わるようなものを意識

⑤地元イベント参加

地元商店街が主催するイベント(2日間)に参加。イベントのおみくじ用スタンプ押印目的で来店する新規客に対し、ショップカードの配布等のプロモーションを実施。また、新商品の一部販売も開始し既存客にもアピール。なお、3日間アルバイトを1名雇用

⑥突き出し看板の塗り替えと店頭ライトアップ

突き出し看板の塗り替えと照明2個、店頭植栽のライトアップ用照明2個の設置を外部専門家に委託の上実施。突き出し看板は補助金申請当初「取り替え」の予定であったが、費用負担軽減のため既存資産を極力有効活用し「塗り替え」で対応

(2)実施効果

 補助事業実施後約1年が経過しているが、来店客は増加傾向にあり、特に喫茶の売上は前年対比1~2割増加している。クッキングスクールは、昨今の少子化等の流れから開催回数の減少を余儀なくされているものの、スクールの売上高減少を喫茶、テイクアウトの売上高増加で打ち返し、店舗全体では概ね前年対比1割の売上高増加となっている。これは、POPの設置・突き出し看板の塗り替え等により明らかに視認性がアップした効果が出てきたものと思われる。(店頭で立ち止まる通行人が増えたり、「ここってケーキ屋さんだったんだ」と会話する声が聞こえたりと、店長自身もPOP等の効果を肌で実感しているとのこと。)

(3)今後の取り組むべきこと

 ホームページについては、アクセス数が未だ低いこと、直帰率(トップページだけ見て他のサイトに移動する閲覧の割合)が高いことなど課題がある。全面リニューアルをしたものの、定期的なメンテナンスが行われていないこと等が原因と推察できる。しかし、一人で店舗を切り回している店長の業務量全体を考慮したうえで、ホームページのメンテナンスについては、いかに無理のない範囲でルーティン化していくかの検討が必要であると思われる。
 また、継続的に商品開発は行っており、その中でもお客様の反応が特にいいものもある(スフレケーキ等)。来店客との対話の中からそういった商品について的確に把握し、看板商品化すべくプロモーションしていくということもリピート率向上にあたっては有効であると考えられる。
 今般の補助事業は、既述4(6)売上活性化に向けた施策提案のうちの最優先事項を先行させたもの。同店はまだまだ改善余地があり、当会としては継続的にディスカッションを実施しながら、A店販促支援を行っていくことと致したい。

 

8.おわりに

 約1年間かけて、現状分析・施策提案から補助金申請、さらには補助事業の実行支援まで一気通貫で取り組めたことは、当会にとって貴重な経験となった。店長は、洋菓子づくりに対するこだわりや思いが強い一方で、自店を積極的にアピールする意識はそれ程高くは無かったが、一連の取組を通じ、顧客目線でのプロモーションの重要性について、小さな気づきを与えることができたのではないかと思っている。既述の通り、施策実施により売上高アップ等定量的な成果は出始めてきているが、今般の当会取組を通じて、職人気質の店長が、ITが苦手であるにもかかわらずホームページリニューアルの勉強をしたり、自らPOPを作成したりと、店舗のプロモーションのために一定の時間と労力を割くようになったその店長の意識改革こそが、当会にとっての何よりの成果であった。
 そして、基本的なことではあるが、「クライアントとの信頼関係」と「クライアント目線でのコンサルタント」の重要性を改めて痛感させられた、我々にとって意義深い取組であった。かような機会を当会に与えて頂いた社長並びに店長に、心からお礼を申し上げたい。

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