TOP >> コラム >>  特集 >>  TKKメソッドの活用によるオンリーワン戦略の実践
コラム
最新の記事
月別の記事
2017.04.25
TKKメソッドの活用によるオンリーワン戦略の実践

ものづくりコンサルタント養成コース 安藤  豊
平林 裕治

1.はじめに

 ものづくりコンサルタント養成コースは、赤字または問題を抱える工場(企業)を真に蘇生させるプロコンを養成するマスターコースである。当コースでは、TKK(トータル工場改善)メソッドを用いて、工場改善を進める実践力を習得することを目標としている。
 本稿では、マスターコースにおいて、継続して3回の工場診断を実施した企業を題材に、各診断時のレベルチェックの比較・分析を行う。その結果から、支援先企業がオンリーワン企業として成長する過程と工場改善の成果について検証し、TKKメソッドの有効性と新たな活用方策について紹介する。

2.TKKメソッドの概要
 TKKメソッドは、8つのステップから構成され、各ステップにはそれぞれ8つ、合計で64の実行課題がある。実行課題は、達成度にあわせて5段階に区分しており、レベルチェックにおいて点数化し評価する。各レベルの目安は、無策の状態はレベル1、工場改善が定着し継続した段階をレベル3、企業文化になるまで理想を追求する段階をレベル5としている。
 レベルチェックは、個人単位で行うので、職種階層、業務単位での分析が可能であり、定期的に継続してレベリングを実施することで時系列での比較も可能である。
 具体的な改善は、レベリングの結果を踏まえ、強化すべき実行課題について改善テーマを設定し、活動に取り組むこととなる。実行課題ごとのレベリング結果に応じた適切なアクションを提言することにより、工場の実力に応じて身の丈に合った工場改善が推進できる。

201705-01-01.jpgのサムネイル画像201705-01-02.jpgのサムネイル画像

さらに、図2のとおり、TKKメソッドは、アクションを提言する際、改善に取り組む人間にも着目し、その人の「器」を向上させる現実的方法についても深く考えることを示している。

 
3.支援先企業の概要
(1)オンリーワン企業とは
 本稿で対象とする企業はオンリーワンの製造業である。そこでオンリーワン企業とは、どのような特徴、性格を有しているのか、まず、この点を整理する。
 政府は、「ものづくり白書2016」などにおいて、これまで培った製造技術などの強みを強化するのと同時に、市場変化に応じてビジネスモデルの変革を進め、ものづくりを通じた価値づくりを進める「ものづくり+」の特性を有した製造業の出現を求めている。
 また、ものづくり基盤技術を担う中小企業への支援を定めた「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」は、施行から10年経過し、アベノミクスの進展とともに、製造業の国際競争力強化や新事業の創出につながる基盤技術の強化への期待が高まっている。
 こうした状況下において、オンリーワン企業とは、我が国製造業が抱えるさまざまな課題に対して、同業他社と明確に異なる独自性のある事業コンセプトや独自の技術・製品戦略で差別化に成功し、優れた業績をあげている企業を指す。オンリーワン企業の取り組みは、これから「ものづくり+」でのイノベーションを実現しようする企業にとって、先行事例として参考になる。

(2)企業の概要
 支援先企業(以下、K社という。)の概要は表1のとおりである。

201705-02.jpg

 K社は、独自に開発した高性能ダクタイル(注1)を材料にエレベーターの昇降に用いられる最重要保安部材シーブ(鋼車)など、産業機械の鋳物部品を製造する企業である。
 K社は、競合他社と技術面での差別化を進め、顧客である大手機械メーカーと強固な信頼関係を築き、安定経営を継続している(表2)。
(注1)ダクタイルは、組織中の黒鉛の形を球状にして強度や延性を改良した鋳鉄品。高性能ダクタイルは、軽量かつ耐久性の材料特性と加工コストの低減を実現し、強度や耐熱性、耐食性、耐摩耗性など、あらゆるニーズに応える最適合金設計を可能とし、高い信頼性が要求される部品に使用することで実力を発揮する。

201705-03-01.jpg

(3)得意分野
 ①独自性
 K社は、元々営業力が弱く、既存顧客と少しでも有利な条件で取引を継続するためには、技術力で差別化を図るしかなかった。
 社長は、自社の強みの本質が、顧客からの厳しい制約条件から適切な加工条件を導き出す対応力(原因分析のプロセス、蓄積したノウハウ)にあると気づいた。そして、試行錯誤ののち、「ニーズ→設計→シミュレーション→再現実験」を机上と現場で繰り返すことで理論の裏づけから問題を解決し、製品化につなげる独自の開発プロセス(図3)を構築した。

201705-03-02.jpg

 ②オンリーワンの組織
 K社は、技術人材の育成として、試験研究センターを組織化(2007年)し、金属材料分野において権威ある技術顧問を招き、独自の研究開発を行っている。加えて、社外研修への参加を積極的に支援するなど、大学院レベルの教育を実施することで、幅広く専門知識を身につける機会を提供している。
 ③オンリーワン戦略の実践
 (a)解析
 社長は、技術の向上を10年単位での長期の積み重ねと認識している。試験研究センターにおいては、独自技術の研究開発に加え、大学等から国レベルでの解析作業を請負うなど、技術データとノウハウを蓄積し、日々技術のレベルアップに努めている。
 (b)試作
 K社は、開発プロセスを活用し、試作品とともにさまざまな提案を行うことで、取引先からの信頼を得て、現在では新製品の開発初期から関与している。取引先の問題解決に協力することで、逸早く新製品の情報入手が可能となり、開発期間の短縮、性能アップなどの効果が生まれ、下請けの立場ではなく貴重なパートナーとしてWin-Winの関係を築いている。

(4)今後の方向性
 社長は、今後、材料開発に特化した技術力ナンバーワン企業になることを目指している。そのためには、高技術を要する希少品を開発プロセスで対応していくことに加えて、現場力を高め、量産品の生産強化を図り、研究開発と高収益を両立しなければならないと考えている。こうしたビジョンを実現することで恒常的に利益を確保し、その利益を研究開発に投資する循環を形成することにより、売上高12億円、営業利益率10%の達成を目指している。

4.TKKメソッドの活用と有効性
(1)診断と改善提案などの概要
 K社への各診断におけるレベリング結果(注2)と業績での改善効果を表3にまとめる。

201705-04.jpg

(注2)レベルチェックは、経営陣、従業員、診断士を対象に実施。点数は、各実行課題に対し、5点満点で採点。結果は、総得点を回答人数で単純平均しており、本論文に関係するステップを抜粋して表記した。過去3回のレベリング結果を単純比較すると2013年診断時に大きく改善したことが認められる。2015年は、作業員が大幅に交代したことなどにより、一時的に点数が低下したものと思慮される。

 診断時における改善提案の概要は表4のとおりである。提言の内容を踏まえ、K社は、改善テーマを設定し、改善活動に取り組んでいる。

201705-05-01.jpg

(2)オンリーワン戦略とレベリングの関係
 表5のとおり、K社のオンリーワン戦略に関連した実行課題に絞り込んで状況を確認すると、レベリングが向上していく過程が見え、社長の想いが社内に浸透していく様子がうかがえる。

201705-05-02.jpg

 実行課題「工程設計と製造技術」は、K社の強みである開発プロセスと同様に、3回のレベリング全てにおいて高水準を維持している。また、実行課題「加工条件の改善」、「治工具の改善」は、作業面での改善が進んでいること、実行課題「顧客志向の実現」は、社長の想いが現場に伝わりコミュニケーションの活性化につながったと推察される。いずれにしても取引先からの信頼が高まるに連れて、レベリングの向上に結びついたと考えられる。
 201705-06-01.jpgのサムネイル画像このように得意分野を伸ばすために関連する分野の現場改善に取り組むことで、さまざまな実行課題が相互補完的に機能していることが確認できる。こうした改善活動を継続して計画的に取り組むことは、K社が目指す研究開発型高収益企業とも方向性が合致している。図4のとおり、「ものづくり+研究開発」のオンリーワン企業としてさらなる業績向上に向けての効果が期待される。

(3)K社におけるTKKメソッドの活用と有効性
 K社の現場では、過去3回の診断での改善提案を実践することで、5S活動や品質管理など、現場改善に対する基本的考え方は確実に浸透している。

201705-06-02.jpg

 図5は、2015年の診断時にK社に提案した戦略マップである。戦略マップは、バランススコアカードの切り口で整理している。社長のビジョンは、現場力に支えられた研究開発型高収益企業としての成長であることから、真の意味でのオンリーワン企業を目指すための方向性をK社に提言した。
 戦略マップの左側は、オンリーワン企業の経営資源や戦略の特徴をあるべき姿として示し、レベリング結果などからK社の現状を評価(◎できている、○まあまあ、△いまひとつ)し、比較したものである。この比較から、K社が改善すべき課題(△の部分)が見えてくる。
 これに対し、右側の改善提案欄は、あるべき姿に近づくために、持続的に成長し、利益を確保する上で必要となる現場力や生産管理、ニーズ対応などに関する方向性を示しており、戦略マップとして整合性が取れた内容となっている。
 K社の事例では、以下の取り組みにおいてTKKメソッドを活用し、工場診断を進めた結果、場あたり的な問題点を指摘するだけではなく、身の丈に合ったアクションを提言できた。
 ① 過去の診断結果と改善提案から現状を検証し、時系列にレベリング結果を比較することで、改善効果を確認したうえで新たな課題を把握したこと。
 ② オンリーワン戦略に合致した実行課題がレベルアップしていたことから、さらに得意分野が伸ばせるよう、強化すべきポイントを戦略マップにより見える化したこと。
 
5.まとめ
(1)総括
 TKKメソッドによるレベルチェックは、表3、表5のように支援先の現状が可視化され、工場診断と合わせることで企業のあるべき姿とのギャップを改善提案として示すことができる。
 その際、レベリング結果から、支援先企業とともに実行課題から得意分野を見つけ出し、得意分野との関連が強く、喫緊に取り組むべき改善テーマを絞り込むといった共同作業が重要となる。その過程を経ることで、支援先企業に改善活動に対する納得感が生まれ、実効性の高い目標設定と一体的な現場改善として取り組める。
 このような、レベリングの作業、結果から改善テーマを設定、改善活動といった一連の行動、取り組みは、個人、組織、それぞれの単位での器向上にもつながると考えられる。
 
(2)今後の課題
 TKKメソッドの8ステップ全64項目の実行課題は、工場改善のヒントが網羅されており、K社のような研究開発型企業だけなく、製品開発型企業やスタートアップ企業のオンリーワン戦略やイノベーションなどに対しても活用は可能である。
 さらに、TKKメソッドが、工場診断において汎用的に活用できるようなツールとして認識されるよう、レベリングのデータ蓄積を行うとともに、各ステップの実行課題におけるレベリングの内容などに関して不断の見直しを図ってゆく。

TOP