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2017.05.30
損保代理店の「成功の秘訣」から 導き出したコンサルティング・フレームワーク

損保代理店の「成功の秘訣」から
導き出したコンサルティング・フレームワーク

代理店ビジネス研究会 枦山 直和
 

1.損保代理店向けコンサルティング・フレームワークを開発した経緯
 昨今の大規模自然災害や、高齢者による自動車事故の増加により、損害保険の重要性が再認識されている。損害保険業界では金融規制緩和を受けて、メガ損保グループへの業界再編や、商品自由化、さらには、損保代理店数の減少傾向の状況にある。また、保険金不払い問題を発端とするコンプライアンスの厳格化や、金融庁主導による法整備も進んでいる。すでに成熟産業と見えるが、冒頭にあげたリスクに対する備えの需要も高まっており、代理店経営者の工夫次第でいかようにもビジネスを伸ばす余地が高い業界であると考えている。
 中小損保代理店が勝ち残るために、どのような未来戦略を描いたらよいのかについて、代理店ビジネス研究会のメンバーで研究・討議をかさね、コンサルティング・ツールとして体系化している。さらに、損保代理店の経営者に役立つ「成功の秘訣」として、実際に成功している優良代理店の事例と合わせ、明日から実践できる具体的な施策に落し込んでいる。
 損保代理店のコンサルティングに従事する中小企業診断士の知見とするため、損害保険業界の基礎知識から、損保代理店を取り巻く経営環境まで整理したフレームワークである。

2.損保代理店の診断予備知識を整理
(1)損害保険の基礎知識と市場動向
 損害保険の仕組みと歴史、損害保険業界の市場環境の現状と今後の見通しを概観する。
 日本経済の成長とともに拡大してきた国内市場は現在、停滞傾向にあり、各保険会社は国内代理店網の再編と海外進出を進めている。反面、金融機関、インターネット、来店型店舗など、代理店チャネルは多様化し、従来型の代理店にとって非常に厳しい状況と認識している。

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 ①損害保険の3つの原則(大数の法則、収支相等の原則、公平の原則)
 ②市場動向(米国に次ぐ2位で7兆円規模、規制緩和、メガ損保へ集約化、損害率推移)
 ③環境変化(国内代理店網の再編、コンプライアンス厳格化、委託型募集人の禁止)

(2)損保代理店のビジネス環境
 損保代理店の業務や種類、業界全体の規模を説明するとともに、損保代理店を取り巻く環境変化とビジネス影響、さらに変化に対してどのような変革が迫られているのか整理している。
 1996 年の金融ビッグバン以降、損保業界では販売チャネルの多様化や商品多様化が進展し、損保代理店にとっては新たな競争に直面している。コンプライアンスの要請の高まりや新たな規制の強化などを受け、代理店は一層の効率化と経営水準の向上が求められる。
 ①損保代理店の種類(専業代理店と兼業代理店、専属代理店と乗合代理店)
 ②業界の規制緩和(商品の多様化・複雑化、代理店ポイント制度変更、チャネル多様化)
 ③損保代理店の業務内容・損保代理店の変化(M&Aでの大型化、来店型保険ショップ)

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3.損保代理店を経営変革させる方策
 損保代理店経営における「成功の秘訣」をこれから論じる6つの切り口で方策化し、さらにコンサルティング場面において課題発見や提言に活用できる具体的施策に細分化している。
(1)勝ち残る秘訣としてのキッチリした経営計画を整備する方策
 年々厳しくなる損保代理店の経営環境のなか、専業代理店は基本に立ち返り、経営理念・ビジョンの作成(再定義)、経営戦略の策定、キッチリとした経営計画の作成・実行が、勝ち残る秘訣である。環境変化を見据えて、市場と顧客、そして保険会社とのパートナーシップを見直し、自らの強み・弱みを洗い出し、マーケティングの視点を持って取り組むべきである。
 ①社会環境変化をビジネスチャンスと捉え「求められる代理店像(存在意義)」を価値創造
 ②市場と顧客、保険会社とのパートナーシップを見直し、マーケティング視点を持ち策定
 ③問題解決力・専門性・企画提案力・関係性の観点から自社のポジショニングと差別化
 ④コミュニケーション・協業・パートナーシップの切り口でマーケティングイノベーション創出

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(2)法人市場の開拓をリスクマネジメントで攻める方策
 法人市場の開拓手段として、リスクマネジメントを切り口とした中小企業へのアプローチが有効である。最近、企業を取り巻くリスクは大幅に多様化・顕在化・巨額化しており、保険の重要性が高まっている。保険代理店は、中小企業のリスクについて十分な知識と対応方法を知る専門家としての存在意義は大きい。中小企業の実情を理解したうえで、リスクマネジメントにもとづきリスクを十分見積もり、相手先企業の体力に対応した保険提案をする。
 ①ターゲットは機関代理店を持たない中小企業のリスクファイナンスに対する潜在的需要
 ②コンサルティング型の保険提案(経営状態とリスクの把握、中小企業診断士との連携)
 ③最適な保険商品の選択(賠償リスク対応商品、パッケージ型商品、団体制度型商品)
 ④法人営業のアプローチ(イニシャル、エリア開拓、団体制度活用、業務提携、職域)

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(3)地域密着型の保険代理店をめざす方策
 中小代理店が生き残っていく方法として、地域密着型の保険代理店をめざしたい。経営規模や宣伝力では大手には対抗できないので、自らが存在する地域に密着した営業を行っていくことが重要となる。そのため、まず自社の顧客分布状況を把握し、地域特性や競合状況を調べて地域戦略を策定する。店舗周辺を中心とした重点注力地域に対して、「ホスピタリティ・マインド」を持ち、訪問営業などの具体的な営業戦略を立てて実践する。
 ①顧客分布状況や地域ポートフォリオ分析(距離と売上高)を踏まえた地域営業戦略 
 ②安心と信頼、顧客ロイヤリティを獲得するホスピタリティマインド・コミュニケーション
 ③リピーターを越えるファン客を育て、これを組織化することを営業の優先課題とする
 ④先義後利の精神(地域への感謝、地域との交流、困っている方へ損得抜きの支援)
 ⑤自分達で行う販促(チラシ配布、訪問営業、お礼状、ニュースレター、イベント参加)
 ⑥地域への貢献活動(セミナー開催による役立つ情報発信、CSR、マッチングの仲介)

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(4)ITのフル活用により売上倍増させる方策
 業績アップを図るためにITをどのように活用していくのか、経営戦略に沿った形で、IT 戦略を策定する。IT動向や自社のIT活用の状況などを踏まえた上で、やみくもではなく、経営目標を達成するために、いかにITを活用するのかの具体的な方策を検討・決定する。
 このIT活用の方策を、「IT活用戦略マップ」、「IT活用ロードマップ」に落とし込むことで社員に示し、全社をあげて売上拡大に向けたIT 活用を推進する羅針盤とする。
 ①顧客接点強化や顧客との関係性強化を目指す「リアル(営業現場)の世界でのモバイル情報機器の活用」、「ネットの世界でのソーシャルメディア(SNS)の活用」
 ②ソーシャルメディアのさまざまなサービスを組み合わせて使う「メディアミックス」でファン拡大
 ③来店ショップとITの融合によりお客様と多面的につながり合う仕組みづくり

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(5)強い会社組織を構築する方策
 社内の良い雰囲気を創出し、社員1人ひとりのパフォーマンスを向上させることで、自然と業績が上がっていく優れた会社組織へ転換させていく取り組みが必要不可欠である。
 保険販売の多くを担ってきた委託型募集人が全面禁止となり、対応策として正社員化が進行している。損保代理店経営においてサービス・マーケティングの考え方を取り入れ、保険販売員の従業員満足度(ES)を高め、その延長で保険契約者である顧客満足度(CS)を高める。
 ①委託型募集人を正社員化したときの留意点(高齢化、既存顧客中心、モチベーション)
 ②組織3要素(共通目標、貢献意欲、コミュニケーション)のコントロールにて帰属意識醸成
 ③組織・人事の再編成、モチベーションの向上、インセンティブの拡充をバランス良く実施

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(6)経営を強くする財務管理と人材管理の方策
 損害保険代理店の経営の特質は、「ヒト」という経営資源の占める比重が大きい。厳しい環境の変化にさらされる業界において勝ち残っていくためには、代理店経営を強くするために、この人的資源について財務状況を踏まえてどのようにマネジメントしていくべきかを提言する。

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 財務マネジメントについては、人件費率の高い財務構造をふまえた収益力向上のために、損益分岐点分析(CVP分析)というツールを用いて利益計画を作成する。また、人件費・販売費・管理費の各費用項目についてその特質に沿った管理の要点を示している。
 人材マネジメントについては、重要な経営資源である人材の活力向上を念頭に、「給与・報酬制度」の考え方と効果的な「人材育成」の要点を示している。
 さらに、財務と業務の視点から具体的な「人員計画と人件費計画」を作成し、活動分析を通じ社員(特に営業社員)の非付加価値活動を削減し、生産性向上を図る方策を提案する。
 ①損益分岐点分析の導入により、固定費と変動費を適切にコントロールして収益性を確保
 ②損保代理店の費用を構成する人件費・販売費・一般管理費は精緻にマネジメントする
 ③「ヒト」が中心となって担うビジネスモデルであり「人材」は企業価値を高める要素と心得る
 ④歩合給と固定給の人材管理に与えるメリット・デメリットを考慮した最適な給与・報酬制度
 ⑤戦略面・財務面・業務面から熟慮して人員計画と人件費計画を作成する
 ⑥営業人員の活動分析を行い生産性向上の改善策
  →担当者の地域割を明確化、営業社員の行動パターン明確化、サブ拠点の設置、数ある会議の必要性見直し、IT化(営業報告書、稟議書)

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4.本ツールの活用事例・成果・課題等
(1)活用事例
 私達、代理店ビジネス研究会では、損保代理店のビジネスモデル解明と経営診断メソッドの研究に取り組んできた。その中で、東京都・埼玉県におけるM&Aで成長してきた年商4億円規模の中小損保代理店における実務従事や、一般社団法人東京損害保険代理業協会様向け会員セミナー(経営イノベーション関連、SWOT分析ワークショップ)での代理店経営者からの生の声などを通じて、代理店経営者にとって価値のある「成功の秘訣」を導き出している。
 さらに実際に成功している損保代理店5社の取材を通して分析・整理を行っており、損保代理店コンサルティングの場面で再現・横展開できる実践的なコンサルティング・フレームワークとして本ツールを開発した。これから損保代理店をクライアントとして持つ中小企業診断士にとって、損害保険業界の基礎知識から、損保代理店を取り巻く経営環境までも平易に解説しており、明日から代理店が取り組める具体的な提案施策を数多く示していることから、初めての経営診断の場面においてもプロフェッショナルとして立ち振る舞うことができる。
 なお、本論文を執筆している現在も、代理店ビジネス研究会会員からの口コミにより、千葉県の大規模で優良な損保代理店様が本フレームワークに興味を持っていただく機会を得ており、研究会の実務従事としてコンサルティング作業が進行中であることを付け加えておく。

(2)成果
 コンサルティング・フレームワークの詳細は、代理店ビジネス研究会の著書として同友館より2016年6月発売の『損保代理店 成功の秘訣』として出版済であるので参考にされたい。
 本論文ではアウトラインまでの記載であるが、著書では細部まで具体的に記述している。実際に取材させて頂いた優良代理店についての取り組みについても経営者の想いを交えて紹介している。さらに、取り上げた損保代理店経営の課題と対応施策のキーワードは、全編をロジックツリー形式で表記(本論文の図表9、図表11を参照)しており、外観を捉えやすくしている。
 読者はコンサルタントのみならず、これから損保代理店を始める起業家や、損保代理店への入社を検討中の就活者にも、損保代理店を理解できるようわかりやすく解説している。

「損保代理店 成功の秘訣」 同友館 ISBN978-4-496-05202-6定価1,800円+税

(3)課題
 損保代理店の経営基盤を拡大させるためには、さらなる売上拡大が必要不可欠であり、具体的な営業力強化のメソッドを提案する必要があると考えている。特に、保険営業マンの育成、法人営業先の開拓方法、生命保険のクロスセルの促進について損保代理店へのコンサルティング実践を通じて取り組みや成功事例を分析・整理し、追加施策としてツール拡充を図る。
 現在、研究中の「組織的営業力の強化コンサルティング」の切り口は以下の通りである。
 ①新規顧客開拓へのステップ式営業アプローチ(準備・段取りによる成約率の向上)
 ②個人力に頼る成り行き営業から、組織知による計画的営業への転換
 ③営業現場が抱える問題点の明確化と、回避策の検討
 ④新規開拓を主体に計画化(時間確保のため、既存顧客に対する営業活動を織り込む)
 ⑤営業日報の徹底的な活用(顧客情報を整理し、記録に貯めて、次の一手を考える)等

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