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2017.07.29
第4次産業革命と中小企業等経営強化法

中小企業施策研究会 牛嶌 一朗

1.はじめに

東京協会中小企業施策研究会は長年にわたり、会員に対して中小企業・小規模事業者に対する政策や施策について広く情報を提供する取組を行ってきた。本稿ではその取組から得た知見に基づき、とくに中小企業等経営強化法について、我が国の中小企業・小規模事業者の発展において重要な鍵となる第4次産業革命の創出と活用の観点から、その意義を考察する。

2.産業構造の変化と生産年齢人口の減少

(1)産業構造の変化

  国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、2012年から2015年の3年間で、製造業の給与所得者数は29万人減少している中、サービス業においては235万人もの大幅な増加となり、我が国の雇用を牽引している。この傾向は大都市圏に限られたものではない。1986年時点では、北海道を除き市町村単位で雇用を支えていたのは製造業であったが、2012年になるとそれがサービス業・福祉医療業が増加する、といった形で多様化している(2015年版中小企業白書 第3部 第1章「地域活性化への具体的取組」)。このことからも、サービス業が我が国の雇用を牽引する中心的な産業となったことは、地域を含む全国的な傾向となっている。

(2)生産年齢人口の減少

  我が国の生産年齢(15~64歳)人口は、1995年の8,716万人をピークに減少に転じ、2016年10月には7,708万人と1,000万人以上もの減少となっている(平成28年版高齢社会白書 第1章「高齢化の状況」)。さらに国連の「世界人口推計:2015年改訂版」によると、2000年の生産年齢人口を100として指数化した場合、2015年の同人口は米国が113.5、イギリスが108.8、ドイツが94.9であるのに対し、我が国は89.8と国際的にもその減少率は顕著なものとなっている。

 この傾向は今後も続くことが想定される。経済産業省が2016年1月に行った推計では、今後出生率が回復し、かつ女性がスウェーデン並みに働くとともに高齢者が現在よりも5年長く働いたとしても、我が国の15歳以上の労働人口が2030年には6,300万人、2060年には5,400万人程度まで減少するという結果になっている。

3.中小企業・小規模事業者の現状と課題

(1)小規模事業者とその従業員の減少

 2009年から14年にかけて、中小企業の数は420.1万者から380.9万者と約39万者の減少となっている。その中でも、中規模企業は53.6万者から55.7万者と増加になっているものの、小規模事業者は366.5万者から325.2万者と約40万者以上も大きく減少している(2016年版中小企業白書 第1部 第2章「中小企業の動向」)。

 この傾向は、従業者数の変化でも顕著となっている。非農林雇用者数の1996年から2015年までの推移をみた場合、従業者数30~99人ならびに100~499人の企業は、ともに800万人から1,000万人の間でゆるやかに推移しているものの、従業者数1~29人の企業は、1,735万人から1,523万人と200万人以上もの大幅な減少を示している(2016年版中小企業白書 第1部 第2章「中小企業の動向」)。この傾向は、さらに前述の生産年齢人口の減少によっても加速化される可能性がある。

 一方、地域区分別に企業規模別の売上高、付加価値額、給与総額および従業員数の構成割合を見た場合、都市部から地方に行くほど小規模事業者の構成割合が高くなる。たとえば、2012年度の事業者ベースの場合、企業規模別の付加価値額構成における小規模事業者の割合は、東京特別区と政令指定都市が9.3%なのに対し、郡部の町村が34.2%、同様に従業者数構成における割合は、前者が15.6%なのに対し、後者が45.4%となっている(2016年版小規模企業白書 第1部 第4章「地域の中の小規模事業者」)。換言すれば、「地方都市」や「郡部の町村」ほど、小規模事業者の地域への貢献度が高い。このような現状を踏まえた場合、小規模事業者とその従業員の減少は、地域経済の活性化を推進する上で大きな課題である、といえる。

(2)中小企業の生産性の伸び悩み

 ここ13年間で、大企業の従業員一人あたりの労働生産性(付加価値額)はリーマン・ショックの影響もあった2008年度・2009年度に大きく落ち込んだ後、その後上昇に転じ、2009年度から2015年度にかけて製造業で999万円から1,307万円の30.8%増、非製造業で1,080万円から1,296万円の20.0%増となっている。これに対して、中小企業の労働生産性は、ほぼ横ばいとなっており、製造業で501万円から549万円の9.6%増、非製造業で521万円から558万円の7.1%増とその格差の拡大が続いている(2017年版中小企業白書 第1部 第2章「中小企業のライフサイクルと生産性」)。

 業種別にみた場合、なかでもサービス業の労働生産性が他業種に比べ相対的に低い水準にある(2016年版中小企業白書 第1部 第3章「中小企業の生産性分析」)。前述のように、我が国における生産年齢人口の減少が顕著ななか、中小企業・小規模事業者にとっては、雇用環境の改善のみならず、全業種、とくに我が国の雇用を牽引するサービス業の生産性向上が重要な課題である、といえる。

4.第4次産業革命とは

 2年ごとに世界のデータ量が倍増する中、ハードウェア性能の指数関数的な進化、ディープラーニングなどによるAI技術の非連続的な発展などの技術的なブレークスルーにより、データの活用による新しい社会の創造が可能となり、産業構造や就業構造が劇的に変化する可能性が出てきている。全ての産業における革新を目指す第4次産業革命の構想はそのような背景から生まれ、ドイツのIndustrie4.0や米国のIndustrial Internetに代表される世界的な潮流となっている。

 この第4次産業革命を支える基盤技術として経済産業省などが重視するものは、IoT・ビッグデータ・AI・ロボットである。これらの基盤技術により、データを収集(IoT)し、蓄積+分析(ビッグデータ+AI)し、制御(ロボット)し、またそれにより生じたデータを収集する、というサイクルを回すことで、個々のニーズに合わせたカスタマイズ生産や製品・モノのサービス化など、新たな付加価値を生み出す、ということが本革命の基本モデルとなっている(図1)。

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5.第4次産業革命における中小企業等経営強化法の意義

(1)我が国の政策における第4次産業革命の位置づけ

 日本再興戦略2016においては、「戦後最大の名目GDP600兆円」の実現を目指し、第4次産業革命の創出と活用を我が国の経済の未来を切り開く重要な鍵として位置づけている。そのため、日本再興戦略2016では、「新たな『有望成長市場』の戦略的創出」「人口減少に伴う供給制約や人手不足を克服する『生産性革命』」「新たな産業構造を支える『人材強化』」の3つを課題としている。これは、前述のような我が国の産業構造の変化と生産年齢人口の減少が進展する中で、都市部のみならず地方を含め、サービス業を含めた全産業の生産性を第4次産業革命により向上させるとともに、その高い生産性の労働力を新たな有望市場に投入することで地域経済を再興していく、という観点によるものである。

 その場合、国際的に第4次産業革命の先鞭となったドイツのIndustrie4.0において、中小企業・小規模事業者がその推進の上で重要なプレイヤーとして位置づけられているのと同様、我が国においても中小企業・小規模事業者における第4次産業革命の推進が政策上も重要となる。

 以下ではこの観点から、第4次産業革命を巡る我が国の政策を考える上での中長期戦略とも言える新産業構造ビジョンを概観し、中小企業等経営強化法の意義を考察する。

(2)新産業構造ビジョン

 「新産業構造ビジョン」は、第4次産業革命をキーとした我が国の経済社会システムの再設計のために示されたビジョンである。本ビジョンは、経済産業省の産業構造審議会内に平成27年8月に設置された新産業構造部会で検討され、日本再興戦略2016の発表に先立つ平成28年4月に中間整理として発表されたものである。その中では、我が国の戦略として次の7つの対応方針が示されている。

  ①データ利活用促進に向けた環境整備   ②人材育成・獲得、雇用システムの柔軟性向上   ③イノベーション・技術開発の加速化(「Society5.0」)   ④ファイナンス機能の強化   ⑤産業構造・就業構造転換の円滑化   ⑥第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及   ⑦第4次産業革命に向けた経済社会システムの高度化

 これらの方針の中で、中小企業・小規模事業者が第4次産業革命の創出者として期待されるのが、「③イノベーション・技術開発の加速化(「Society5.0」)」、活用者として期待されるのが「⑥第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」である。

 前者においては、オープンイノベーションの推進が主要な課題のひとつとなっている。その中で当面の対応策として挙げられているのが、「産学共同研究推進の強化」「大企業・ベンチャーとのオープンイノベーション推進の環境整備」「ベンチャーへの資金供給機能強化」などである。官邸・経済産業省も、米国経済を牽引している巨大企業GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)が小規模事業者たるベンチャー企業からスタートし、さまざまなイノベーションを生み出してきたことに注目しており、我が国の第4次産業革命の実現にむけ、大企業にはない発想力をもった中小企業・小規模事業者の活躍への期待がこの方針に表されている。   後者においては、地域の中小企業・小規模事業者におけるIoTなどの導入・利活用基盤の構築が課題となっている。その中で当面の対応策として挙げられているのが、「専門家によるITやロボット導入支援」「IoT等での省力化・自動化投資促進」「ディープラーニングでの技術開発・現場導入推進」、そして「中小企業等経営強化法の活用」である。これらにより、中小企業・小規模事業者の生産性の抜本的な改善を実現することがこの方針の狙いである。次に、この「中小企業等経営強化法の活用」の具体的な内容について考察する。

(3)中小企業等経営強化法の活用

 平成28年7月に施行された中小企業等経営強化法は、政府が生産性向上に役立つ取組を分かりやすく中小企業・小規模事業者等に提供すること、ならびに生産性を向上させる取組を計画した中小企業・小規模事業者等を積極的に支援することを目的としている。そのための具体的なスキームとして、事業分野ごとに生産性向上の方法などを示した指針に基づき、自社の生産性を向上させるための取組を記載した「経営力向上計画」を事業所管大臣に申請、認定された事業者は税制面や各種融資における支援措置を受けられることとしている。前述の「新産業構造ビジョン」における「⑥第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」では、このスキームの活用を意図していることになる。実際、すでに採択された経営力向上計画の中には、製造機器のIoT化など、本目的に則したものも含まれている。

 この傾向は、今後より一層強化されていくことが想定される。すでに本年度の中小企業・小規模事業者政策の基本的な方向のひとつ「経営力強化・生産性向上に向けた取組」では、第4次産業革命にむけての「イノベーションの加速、ITの集中的な導入」とともに、「中小企業等経営強化法の機能強化」が謳われ、経営力向上計画の認定と補助金・融資制度を連携させた生産性向上支援を行うこととしている。

 具体的には、平成29年度税制改正要望により、固定資産税の特例対象設備の拡充や、中小企業経営強化税制の創設を行い、まずは税制面からサービス業を含む幅広な中小企業の生産性向上を後押しすることとしている。中小企業経営強化税制では、国や地方公共団体からの補助金により導入した設備も対象となる。また、その対象設備も拡充され、一定の器具備品・建築付属設備が追加されている。このことは、必ずしも大型の機械装置類で構成されるわけではないIoTやAI、ロボットなどを導入・運用する上で重要な意義を持つ。一例としては、IoTやAI、ロボットなどの設備導入において、経営力向上計画の認定が加点要素となる「ものづくり補助金(革新的ものづくり・商業・サービス支援補助金)」を取得し、実際の設備導入は経営力向上計画の認定による日本政策金融公庫(日本公庫)の低利融資で行い、その融資返済に取得した「ものづくり補助金」を充て、導入設備については引き続き中小企業経営強化税制による税制支援を受ける、といったことも可能となる(図2)。

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6.おわりに

 本稿では、第4次産業革命の創出と活用の観点から、新産業構造ビジョンにおける7つの対応方針のひとつ、「第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」で中小企業等経営強化法がどのような意義をもつのかを考察した。無論、本法は第4次産業革命のためだけのものではない。しかし、我が国の再興において第4次産業革命の創出と活用が重要な鍵となっている中、中小企業・小規模事業者政策上もその意義は重要なものとなる。中小企業施策研究会では、そのような多角的な視点を持って引き続き各種の政策・施策の情報を会員に提供し、会員の中小企業支援に役立つよう努めていく所存である。

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