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2017.08.29
中小企業のマネジメント研修

中小企業のマネジメント研修

人財開発研究会 上井 光裕

1.はじめに
 中小企業診断士の業務に「研修」がある。筆者は、独立して6年、これまで主にガス業界の中小企業の研修を実施してきた。中でも階層別マネジメント研修を10社ほど実施してきたため、その実績をベースに標準的な「マネジメント研修」としてまとめたものである。今後マネジメント研修を企画する際の参考にしていただきたいと思う。

(1)マネジメント研修のニーズ
 平成28年度厚生労働省能力開発基本調査によれば、OFF―JTを実施している事業所は、正社員で従業員30人以上の企業でも5割以上あり、マネジメント研修は新規採用者研修に次いで、5割近くの事業所で実施されている。

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 そこで今回は、従業員30人以上300人未満程度の中小企業を対象とした、初級マネジメント研修について、その内容や効果について、まとめてみた。
 
(2)マネジメント研修に入れるべきスキル
 マネジメントに求められるスキルとして、ハーバード大学のカッツ教授は、コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキル、テクニカルスキルの3つのスキルを挙げている。上級管理者になればコンセプチュアルスキルが多く、初級管理者はテクニカルスキルが占める部分が多い。ヒューマンスキルはどの階層でも等しく求められる。
 そこで、今回は、ヒューマンスキルを中心に、コンセプチュアルスキルを入れてマネジメント研修とした。なお、テクニカルスキルは業種によって求められるものが異なるケースが多く、業種を問わないものを取り入れた。

2.初級管理者研修のカリキュラム
 階層別研修は、多くの研修会社から提案されているが、上記の必要とされるスキルからカリキュラムを作成した。人事考課・人材育成といったヒューマンスキルを中心に、企業の課題分析としてのコンセプチュアルスキル、財務基礎やプレゼンテ―ション等のテクニカルスキルを、筆者の研修実績と実施した企業のニーズと振り返りからカリキュラムを設定した。なお、研修は月に一回開催として、研修後は課題を出し、次回履修結果を発表するという想定である。

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3.経営管理・リスク管理研修
(1)SWOT分析 
 最初のコンセプチュアルスキルの代表は、「我が社の課題分析」である。診断士にはおなじみのSWOT分析を使うが、初級管理職に、いきなりSWOT分析は難しい。
 従って、まず自分の周囲や職場、社会の変化を思い浮かべて列挙してもらう。これがSWOTの外部環境になる。
 次に内部資源について列挙してもらう。多くの研修では、自社を客観的に見たことが少ないせいか、強みはあまり出ず、弱みは目につき数も多い。そして弱みの大小、粒の大きさも異なって列挙されることが多い。

(2)因果関係分析
 実際の問題は複雑に絡み合っていて、その原因や結果、根源的な真因などが混在している。そこで、SWOT分析で出された弱み(問題点)を、1項目ずつ総あたりで原因と結果の関係を調べていく。

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 そして因果関係の得点を合計して、得点によりグループ全員の合意で真因を見つけるのが、因果関係分析である。
 筆者の経験によれば、「我が社の本質的課題」をテーマとすると、業界企業の多くは、①人材不足、②危機意識が少ない、③受注先が偏っている、がベスト3であった。
 最後に、コンセプチュアルスキルの演習として、真因の解決策をレポート等で求めるのがいいだろう。

(3)リスクマネジメント
 管理職になると、定常的には起きないが、発生すると影響の大きいリスクをマネジメントする必要が出て来る。そこでコンプライアンスの課題を含むリスク管理研修を行う。自社のコンプライアンス推進体制としくみを作成・周知し、業界や自社のリスク、職場のコンプライアンス課題やリスクをグループになって洗い出し、マップに落とす。
 リスクマップは、横軸に発生確率、縦軸に発生した時の影響度を取る。そして象限ごとに対策が異なることを理解し、プロットした事象について対策を検討していく。
 対策は、保有、移転(保険などの対策)、軽減、回避の4種類で、たとえば、影響度大:大地震が発生、発生確率大:首都圏で頻繁に起きる、なら、その事業は事象から回避策を取る、つまり事業を廃止する。影響度小:電車の遅延で、発生確率小:めったに起きないなら、そのリスクは保有である。このようにグループの同意で、一つずつ対策を検討していく。典型的なリスク課題は、事例を事務局で提供し、共有化する。またこの手法は、受講生が持ち帰り、自分の職場に当てはめて分析するようにすることも有効である。

5p図.jpg 筆者の経験した企業は、業種特性もあるのであろうか、交通事故と個人情報の紛失リスクが多く出されていた。

4.人事考課・人材育成研修
(1)リーダーシップ研修
 リーダーシップの研修は、数多く提案されているが、ここでは比較的簡単で、実践的なチームによる模擬建物の組み立てを紹介する。
 数人が1チームになり制限時間内で、割りばしやストロー等で模擬的にタワーや橋を組み立てる。1回目の作業では、時間内にキチンと組み立てるのは難しい。それは、リーダーがいないこと、チーム員の役割が不明確なことが原因である。振り返りを行って2回目にチャレンジすると、リーダーを決めて、材料、加工、組立て、タイムキーパー等の役割を分担し、見事に組織力を発揮して完成する。
 この研修では、リーダーシップのもと、短時間で「組織」を体験し、組織に必要なこと、①材料の制約という原価管理、②制限時間という工程管理、③安全で高い建物という品質管理、を体験してもらう研修である。

(2)人事考課とプロセス研修
 人事考課や人材育成は、ヒューマンスキルの中心的課題である。人事考課研修は、まず当該企業の人事考課方式・流れを確認する。そして、人事考課者の陥りやすい誤りを学習する。誤りは中小企業診断士試験にも出題される内容のため細部は省略する。
 この後、事例を数ケース事前に作成しておき、研修で用いる。以下は、実際の中小企業で遭遇したケースである。Aさんの行動について、まず受講者個人が5段階で評価した。その後同じ内容をグループで評価をしたが、メンバー間で評価が2段階異なる場合が出てきた。3を平均とすると4と2、つまり被評価者一人の行動をやや良いとする考課者とやや悪いとする考課者がいた。同じ企業でこれはまずい。これを徹底的に議論し収束させた。この作業を通じて当該企業における公正な評価方法を身につけていただいた。

(3)簡単な作業による仕事の教え方研修
 簡単な作業によって、上司に仕事の教え方の気づきを与えるものである。まず、講師が受講生に、写真のような二本のひも(コード)を一定の方法で結んで見せる。次に受講生に実際にやってもらう。一見簡単そうだが、これがなかなか難しい。講師が、「あなたが普段教えている部下も実はわかっていないんですよ」と言い、教える難しさを実感してもらう。そして受講生に教え方のスタイルを見直してもらう研修である。
 筆者も実際、何度か研修に使っているが、3ステップで結べる簡単そうな内容でも、5~10回程度繰り返して教えるとやっと結べるようになる。そのくらい仕事を教えるのは難しいということが実感できる。

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(4)OJT計画書の作成
 OJTは、経営資源に制約のある中小企業においては優れた教育手法である。
 OJTの課題は、指導者が正しく手法を理解し、継続できるか否かである。実際、筆者の診断経験でも、つい仕事が優先し、せっかく作ったOJT計画も中断することが多い。そこでOJTの目的や手法について研修を行っている。6p下表.jpg OJTは思いつきで行うものではなく、意図的、計画的、継続的に行う必要があり、研修ではOJT計画書の作成方法を学び、実際に計画書を作成してもらう。

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 OJT計画書は、作成するだけではなく、研修後課題として、実際に対象者と面接し、OJTを実施してもらうようにしている。実際1か月後の履修状況発表では、上手に行ったOJTや挫折したOJTが報告されている。

(5)コーチング研修
 最近では多くの企業で取り入れられているコーチング研修は、中小企業ではまだまだ普及していない。コーチングは、「傾聴」と、「承認」、そして「質問」が基本的な3つのスキルである。

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 あまり欲張らずにこの3つの基本スキルを身につけてもらうように、講義とペア演習を組み合わせる。
 コーチング指導は一定のスキルが必要なため、コーチングの講師をするには机上だけでなく、スクールなどで基本を身につけるとよい。なお、コーチングは、研修しても実際に使わないとすぐに忘れてしまうため、フォロー研修や職場で使ってもらうことを事後課題とするなどの工夫が必要である。

(6)面接研修
 大企業では目標管理が導入されているため、期末や中間期の面接は徹底しているが、中小企業では実施していない企業も多い。そこで、業績面接を研修に取り入れている。一般的な業績面接では、部下が期初と期末に目標管理シートを提出し、その内容を上司が確認するスタイルである。
 研修では、実際の目標管理シートをお借りして模擬面接を行うが、受講者同士のロールプレイになるため、緊張感に欠ける場合が多い。
 そこで筆者は、ワイルドカードを用いて、緊張感を出している。ワイルドカードは、5枚のカードを伏せておいて、面接演習時に被面接者が1枚引く。そこには、シートに書かれていないことを面接者に強く訴えるなど、面接者が臨機応変な対応を求められることを書いておく。
 面接者は、目標を達成した項目は褒め、未達成の項目は動機付けしなければならない。その上相手から意外な事実を話されても動揺しないように訓練するのが研修の目的である。
 面接研修の例では、多くの上司は心で褒めてはいるが、口では出しておらず、部下に伝わっていないケースが多く見られた。

5.財務基礎・文書作成・プレゼン研修
 テクニカルスキルの研修は、業種や企業によって大幅に異なるが、ここでは共通なテーマについて解説する。

(1)財務の基礎研修
 今まで財務状況などは縁のなかった人達に対する研修で、あまり時間も取れないため基本的な知識を研修する。内容は、貸借対照表と損益計算書の見方を知ってもらい、自分の仕事がどこの勘定科目に反映されているのか、自分が努力したらどの勘定が改善されるのかを概略理解してもらう。
 正直、講義をしてもピンとこない受講生が多い。そこで筆者は、勘定科目を固定費と変動費に分け、損益図表を作成してもらい、損益グラフを書き、3本の線が何を意味しているかを理解してもらう。そして売上アップや変動費・固定費のダウン等、自分の努力が何に反映されるかを理解してもらっている。また計算で損益分岐点も算出できるため、自社の採算ラインも理解できる。
9p上図.jpg(2)文書の作成
 筆者の業界は現場の監督の仕事が多く、文章の作成を苦手とする新人管理者が多い。そこで企業の要望により、文書作成の研修を行っている。テーマは、社内用として事故報告、社外提出用として、顛末書である。自社で報告しなければならない状況と、受講生が報告書に盛り込むべき事項を箇条書きにして渡す。そして市販の文書の書き方書籍を人数分購入し、これらを使って演習する。演習用パソコンが人数分準備できれば実施するが、できないと宿題とする。市販の書籍はCDで様式が沢山ついているため、重宝しているようだ。

(3)プレゼンテーション
 研修の最後は、プレゼンテーションである。パワーポイントで資料を作成し、研修の最終回に経営層にプレゼンする。受講生は、物事をまとめて発表する経験をほとんどしておらず、この研修が最も緊張するようだ。
 受講生は、まずパワーポイントの学習から始める。筆者の研修では、パワーポイントを使ったことのない受講生が約3割であったが、最後は全員パワーポイントでのプレゼンを実施している。以前はそれほど重要視されなかったプレゼンだが、現在は管理者必須のテクニカルスキルとなっているようである。
 プレゼンのテーマはこれまでの研修の感想や、課題の解決策など、自分で見つけてもらい、資料作成後、講師が事前チェックする。そして話し方や時間の設定などを講義し、自宅などで演習をしてきてもらう。最終日は一人15分程度のプレゼンを経営層に対して行い、質疑応答をする。

6.研修効果の向上策
(1)受講生の意識調査
 せっかく貴重な時間を使って研修するのだから、効果的な研修をやりたい。そこで、筆者は、研修前に、受講生の特性調査を実施している。

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 従業員特性調査ツール(Basmos)は、パソコンを利用して、一人10分程度の調査で、社会人基礎力診断と従業員満足度の両方が調査できるツールであり、中小企業の経営支援ツールとしても有効である。筆者の場合、調査結果
は、受講生、事務局、講師が共有化し、受講生の性格を掴み、研修に活用している。従業員特性調査ツール(Basmos)は、中小企業診断士なら安価で利用できる。

(2)複数企業の合同研修の準備
 研修によっては、複数の企業が集まって一度に受講する場合がある。受講生同士が初対面で、企業のバックグラウンドが異なるため、複雑な課題の研修が難しい。筆者の場合、「対立解消の演習研修」が、このケースであった。
 そこで、対立解消では事務局で小説「下町ロケット」の文庫本を購入してもらい、受講生に事前に読んできてもらった。当日は、佃製作所の社長と営業部長の対立をテーマに、その解消方法を小説企業の背景も考慮してディスカッションしてもらい、解消手法が習得できた。

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(3)その他研修効果アップの工夫
 研修が複数回にわたる際には、日毎に各部の幹部の方にプレゼンをお願いしている。これは、同じ企業内でも他部署の幹部の方の話をうかがう機会も少ないため、効果的である。また一日の研修終了時には、必ず振り返りをする。1日でもいろいろなことを学ぶため、終わりに振り返りをする。
 研修が複数の日に及ぶ場合、たとえば月に1回などの場合、研修内容の実践を課題として出題するのがよい。研修は学んだことを使って初めて効果を発揮するため、次回までに本日学んだツールを使ってみて報告させるのが効果的である。

(4)研修の評価と課題
 研修の評価は重要ではあるが、なかなか難しい。筆者は1研修が終了したら企業にレポートをしている。
 その中には、講師の所感、主な質疑、受講生のアンケート結果で、研修の定量評価(研修目的の達成度、講師の評価、研修の準備をおのおの5満点)、定性評価(受講生の所感)を作成し、研修事務局へ報告している。短期的な評価はこのアンケートで評価できるが、長期的な評価は難しく課題と考えている。

7.終わりに
 一度顧客から評価していただいた研修も時代とともに陳腐化する。各種法令やファシリテーション技術など常に新しいスキルを学んでおきたい。また、研修も一人では限界があるため、研修の一部を委託できる人的ネットワークを積極的に作っておきたい。
 診断士の仕事は研修が最終ゴールではない。信頼を得れば、その先の企業診断へ繋がっていく。
 なお、本稿は、マスターコース「プロ講師養成講座」での受講体験を一部活用している。講座関係者に謝意を表する。

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