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2017.09.29
中小企業のIT経営推進への道標 ~「IT経営推進プロセスガイドライン」の活用~

中小企業のIT経営推進への道標
~「IT経営推進プロセスガイドライン」の活用~

「診断士ITC研究会」

1.はじめに
 IT化の進展により中小企業でもITの利活用が必要となっている。ITコーディネータ協会i)では、「IT経営とは、経営環境の変化を洞察し、戦略に基づいたITの利活用による経営変革により、企業の健全で持続的な成長を導く経営手法である」と定義し、「IT経営推進プロセスガイドラインVer.3.0」ii)(以下、IT経営PGLと記す)を発行している。本稿では、大企業までカバーする「IT経営PGL」を、中小企業診断士が中小企業・小規模事業者の支援に活用することを想定し、「IT経営PGL」の概要と事例について紹介する。

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i) ITコーディネータ協会 https://www.itc.or.jp/
ii)IT経営推進プロセスガイドラインVer.3.0:初版発行日2016年8月31日、184ページ

2.IT経営の推進方法
 IT経営PGLは、IT経営推進の羅針盤として、IT経営の「実行基準」と「判断基準」を示している。実行基準は、IT経営で注力すべき重要な活動領域での「進め方(プロセス)」を示しており、判断基準は、各プロセスの実行における判断の視点としての「基本原則」を示している。以下、進め方を中心に記載する。
 IT経営プロセスの全体像を図1に示す。進め方(プロセス)については、3つの主要な活動領域に分けている。IT経営認識領域(A)、IT経営実現領域(B)、IT経営共通領域(C)である。各プロセスについては、以降で詳しく述べる。
  
3.IT経営認識領域(A)
 IT経営認識領域は、経営や組織のIT経営への変革認識を向上させることで、IT経営実現領域(B)の活動を支える。
 (1)変革認識プロセス(A1)
  危機感や問題意識を経営者や従業員で共有し、環境変化に気づき、変革のためのモチベーションを組織的に高め、変革の必要性を全社にわたり認識させる。
 (2)変革マネジメントプロセス(A2)
  変革の推進を支援するとともに、変革構想の前提条件の変化とIT経営実現領域の活動状況とを継続的に把握し、必要な是正を行う。
 (3)持続的成長認識プロセス(A3)
  変革構想に基づいた経営戦略、業務改革、IT戦略、IT化プロジェクト実行成果の評価によって組織の成長を確認し、次の変革実現に何が必要かを確認する。

4.IT経営実現領域(B)
 IT経営実現領域(B)では、IT経営を実現するための、経営戦略の策定から戦略目標達成までの一連の活動を行う。活動には、経営戦略に関するもの、業務に関するもの、ITに関するものが含まれる。また、ビジネス改革や業務プロセス改革(イノベーション)の活動も含まれる。
 IT経営実現領域の各プロセス概略を図2に示す。

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 (1)経営戦略プロセス(B1)
  経営戦略プロセスはIT経営実現領域の最初のプロセスで、経営者の変革構想を受けて、経営戦略の策定・実行・評価を行う。経営戦略は全体計画と個々の組織別計画にブレイクダウンして実行され、結果は経営戦略目標の達成度で評価される。
  ①経営戦略策定段階
   経営戦略プロセスでは、変革認識プロセス(A1)で作成した変革構想を確認し、自社の「強み」や会社としての能力、内外の経営資源を考慮し、経営戦略を策定する。
   また、経営変革にどの程度ITを組み込むのかを決める重要なプロセスでもあり、変革の程度、範囲やスピードを大きく左右する方針が決定される。
   図3(経営戦略企画書の事例)は、中小企業はもちろん小規模事業者まで対応可能な支援実績のある、できるだけ簡単にテマ・ヒマ・カネをかけず経営戦略を1枚にまとめ検討・確認する目的で作成されたものである。

3p-図3.jpg

  ②経営戦略実行段階
   経営戦略を組織内で共有し、これと整合をとった中期経営計画、組織の短期実行計画(通常年度単位)などを作成し実行に移す。これらの計画に沿って開始される業務改革やIT戦略、IT利活用の各プロジェクトは、業務改革プロセス、IT戦略プロセスおよびIT利活用プロセスで推進される。
  ③経営戦略評価段階
   中期計画期間終了時点で、各プロジェクトから実行結果の評価を引き継ぎ、全体として経営戦略目標を達成しているかどうかを評価する。評価結果は、持続的成長認識プロセス(A3)へ引き継ぎ、経営戦略プロセス(B1)を完了する。
 (2)業務改革プロセス(B2)
  業務改革プロセスでは、新たなビジネスのあり方や新業務プロセスを検討し実現する。必要に応じて業務改革プロジェクトとして実施する。ITに目がいきがちであるが、ITは業務改革の実現手段であることを意識しておく必要がある。
  ①改革課題の明確化
   中期経営計画から具体化したCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)/KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)および業務改革課題などを明確化し、業務改革方針を策定する。
  ②現状のビジネス・業務の分析
   業務改革に関連する外部環境および内部環境の情報やデータを収集し、中期経営計画実現に向けての課題と対策を検討する。
  ③目標とするビジネスのあり方・業務プロセスの決定
   外部のベンチマーキングやさまざまな事例、技術動向、業界動向などから目標とするビジネスのあり方を検討・決定し、それを実現するための業務プロセスを具体化する。そして、改革内容、スケジュールを業務改革実行計画にまとめる。
   図4は、具体化した業務プロセスを業務フローで表現した例である。

4p-図4.jpg

  ④ビジネス改革・業務改革の実施
   目標とするビジネスのあり方やその業務プロセスの実現のために業務部門やビジネスパートナーとの協働作業を行う。
  ⑤ビジネス改革・業務改革の評価
   予定されていた計画との差異を確認し、成果を評価するとともに、そこで明らかになった課題の改善や見直し内容を明らかにする。
 (3)IT戦略プロセス(B3)
  本プロセスでは、ITサービスやIT利活用のための戦略を策定する。IT戦略プロセスの進め方は以下の通りである。
  ①IT領域環境分析
   IT領域の環境を、現行のIT環境、内部制約条件、外部のIT動向の観点で分析を行い、現行のIT環境の成熟度、および制約条件を確認し課題を抽出する。
  ②IT要因による業務プロセス改革の特定
   実現すべき業務プロセスを特定したうえで、KGI/KPI達成のための既存業務の見直しを行う。制約条件(IT環境、予算、期間)を踏まえ、解決を「人間系」「IT系」に区分し、目標とする業務プロセスの概要を策定する。そして、「IT利活用レベル」を把握し、目標業務プロセス実現のための目標IT環境を策定する。
  ③経営戦略とリンクしたIT戦略の策定
   目標とする業務プロセス、およびIT環境の現状とのギャップをIT経営の成熟度の観点で分析を行う。そして経営戦略の優先度、難易度、投入可能な経営資源、費用対効果などを評価し、新業務プロセス・ITサービスの範囲と機能、サービスレベル、スケジュール概要、推進体制、評価項目、IT戦略目標達成、IT戦略活動指標を定める。さらに、ITの導入方式(パッケージ導入、パッケージのカスタマイズ導入等)、運用形態、IT化プロジェクト体制の構築方法を策定する。これらをまとめ、「IT戦略企画書」を作成する。
   図5は、「図3 経営戦略企画書の事例」をもとにIT化戦略を検討・確認する目的で、1枚にまとめた事例である。
  ④IT戦略の展開
   IT化の方針を、ITサービスの範囲、対象者、サービスレベル、機能、導入、運用、新旧システムの連携と整合性、セキュリティポリシー、リスク対策などを踏まえて、推進体制、進め方を具体的に定める。そして、目標ITサービスレベルと利活用レベルを定め、業務部門と合意し、IT化プロジェクトの評価内容を決定する。これらの決定事項とロードマップ、投資計画を加え「IT戦略実行計画書」を作成する。
  ⑤IT戦略の達成度評価
   IT戦略の実行後(IT戦略の実行については後述するB4を参照)、あらかじめ「IT戦略実行計画書」で設定した計画の達成度を評価し改善を行う。IT戦略のKGI/KPI等の計画値と実測値の差異分析と、その結果に対する原因分析を実施してIT戦略の実現度を評価する。その中で導出された問題点は解決方針を明らかにし、課題の内容を鑑みてフィードバック先のプロセスを決定する。

6p-図5.jpg

 (4)IT利活用プロセス(B4)
  ①IT資源調達ステップ(B4-1)
   中小企業の場合、内部資源だけでは、ITサービスをすべて調達することは難しい。そのため、ITサービスを外部のサービス開発・提供者から調達するケースが多い。
ア)IT資源調達計画
 「IT戦略実行計画書」に基づいて、新業務プロセスとITサービスを、調達できる単位に整理し、それぞれ、機能要件、情報モデル、技術的要件、運用要件、品質要件といった調達要件を明確にする。あわせて、現行の業務プロセス・IT環境(As Is)と、業務プロセス・IT環境のあるべき姿(To Be)を外部の関係者に理解できる形に整理しておく。
 契約方法、納品、研修など日常調達業務の作業範囲・契約条件などについて、購買部門と調整を図る。また、調達基準は、経営基盤、技術力、アフターサービス体制、要求事項の達成度、費用などから設定しておく。

イ)提案依頼書(RFP)の発行
 今までの検討に基づき、発注企業の現況および環境、課題と達成目標、調達内容および範囲、期待効果、予算、現行の業務プロセス、体制、業務フローと新業務フロー、新情報システム、移行、教育・訓練、開発・運用条件、保証条件、契約条件、取引形態などをまとめて提案依頼書(RFP:Request For Proposal)を作成する。提案依頼対象者のリストを技術的能力、実績、開発能力、品質管理能力、財務安定性などに基づいて作成し、それらに対してRFPを発行する。必要に応じて、提案依頼対象者に対して、説明会などを開催して、質問や依頼に対する説明などを行う。

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ウ)調達先の選定・契約
 外部のサービス開発・提供者から提案と費用見積もりを受領し、内容を調達基準に基づき評価し、選定する。その後、選定した外部のサービス開発・提供者との契約内容の合意のための交渉を行い、合意に基づいて契約を交わす。
 IT資源調達は、公平な立場で、公正、オープン、透明性を確保して実施し、総合的な視点で選ぶ。
  ②IT導入ステップ(B4-2)
   外部のサービス開発・提供者を含めたIT化プロジェクトチームを編成し、経営目標・業務改革実現のためのIT利活用を行う業務プロセスを具体化する。

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ア)IT導入実行計画策定
 具体的なシステムの方式・形態(内外製方式、導入形態、開発方式、運用形態)を決定する。IT導入ステップを、WBS(Work Breakdown Structure:プロジェクト全体を細かな作業に分解した構成図)などを用いて詳細なタスクに分解し、各タスクにおける役割分担を業務改革プロジェクトチーム、IT化プロジェクトチーム、外部のサービス開発・提供者を含め定義する。導入詳細スケジュール、IT化プロジェクトチームが中心になって、IT導入マネジメント計画を策定する。
イ)IT導入のマネジメント
 IT導入マネジメント計画に基づいて、IT化プロジェクトチームが中心となって外部のサービス開発・提供者とともに、IT導入を進める。積極的なIT利活用に基づく業務要件やITサービスの要件を確定し、新業務の業務プロセスを詳細な業務フローやITサービス内容についてIT戦略との整合性を取りつつ、設計する。新業務の業務プロセスについては、業務要件定義、業務フロー、情報モデル、コード体系、入出力情報といった内容を確定する。ITサービス内容については、サービス内容、基盤、日次、週次、月次、年次などの運用方法やその仕組みだけでなく、緊急時運用法などについても業務の実施に影響がないよう検討する。IT環境構築にあたっては、IT導入方式に従って、導入を行い、品質・コスト・納期から全体管理を行う。
 総合テスト計画・システム移行計画の策定と準備は、業務改革プロジェクトチームとIT化プロジェクトチームが一体となって行う。総合テスト計画では、テストの範囲・方法・環境、スケジュール、役割分担、要員配置、必要機器類、必要設備などについて、計画の策定と準備を行う。移行計画は、1)移行時期、タイミングの判断、2)移行のためのツール準備、3)移行による現行業務への影響度合い、4)移行の実施者、責任者の明確化、5)移行テストと移行結果の確認方法、6)実施予定日における全体調整、7)リハーサルの必要性と実施、8)移行失敗時の手戻し手段と戻し作業手順などを考慮する。
 業務改革プロジェクトチームが業務マニュアルを、IT化プロジェクトチームがシステム運用マニュアルをそれぞれ主体となって作成をする。業務マニュアル、システム運用マニュアルに基づき、業務改革プロジェクトチームとIT化プロジェクトチームが一体となって教育・訓練計画を作成し実施する。
 総合テストは、計画に基づき、ステイクホルダー参加のもとで実施する。システム移行、データ移行、現業業務から新業務への業務移行のリハーサルは、移行計画に基づいて、業務改革プロジェクトチームとIT化プロジェクトチームが一体となって実施する。
ウ)IT利活用開始判断
 総合テスト状況と結果、業務移行準備、データ移行準備、システム移行準備、ITサービスの開始準備状況等を評価して、ITサービス利活用開始可否の判断を行う。
  ③ITサービス利活用ステップ(B4-3)
   業務改革プロジェクトチームは、積極的なITサービスの利活用を対象業務部門などに促し、業務改革を推進する。
   ITサービス提供部門は、その提供状況と利活用状況をSLA(Service Level Agreement
:サービスの提供事業者とその利用者の間で結ばれるサービスのレベルに関する合意水準)に規定された指標ごとに、設定されたタイミングで捕捉し、差異分析を行い、必要に応じて改善策を検討する。ITサービスレベルの改善はITサービス提供部門が、ITサービス利活用の改善活動は業務改革プロジェクトチームが中心となって実施する。
   運用中に、IT提供部門に対して、業務改革プロジェクトチームから各業務部門からさまざまなITサービスの提案やクレームや改善要望が出されることがある。その場合、経営全体視点の観点などから、変更を行うかの判断、変更の方法、変更内容や範囲、変更時期などを決定して、その変更要求の過程(受付、対応、指示、結果)を記録する。

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5.IT経営共通領域(C)
 IT経営共通領域は、IT経営の各領域、プロセス、ステップに関して、共通の考え方で推進すべき取組みを示す。
 (1)プロジェクトマネジメント(C1)
  IT経営実現領域(B)での各プロジェクトを整理・統制し、目標、成果物、期限、品質や対象範囲、責任範囲を明確にし、目的の達成に導く取組みである。
 (2)モニタリング&コントロール(C2)
  環境の変化と、各領域、各プロセスの状況をモニタリングし、目的達成に向けてコントロールする取組みである。IT経営認識領域(A)では外部変化も踏まえて全体最適観点で、IT経営実現領域(B)では各プロセスの完遂をめざして実施する。
 (3)コミュニケーション(C3)
  IT経営プロセスの全般に渡るステイクホルダーとのコミュニケーションにおいて、重要なコンピテンシー(能力・適性)である。相手の価値観を察知し、相手の意見を聞き(傾聴)、自己の意見も伝え(アサーション)、より良い合意形成ができるコミュニケーションの環境作りを主導する。

6.おわりに
 IT化の急速な進展の中で中小企業・小規模事業者も経営改革・改善にITの利活用が必要とされている。しかし、ITへ関心がない、ITの話題を避ける経営者も多く見られる。診断士ITC研究会では、研究テーマの一つとして経営戦略からIT利活用まで大企業も参考にできる「IT経営推進プロセスガイドライン」(旧ITCプロセスガイドライン)に対し、中小企業支援に役立つ簡素版IT経営PGLのあり方を検討してきた。
 本稿を、IT化に比較的馴染みの薄い中小企業診断士が企業支援を行う際に参考にしていただければ幸甚である。迅速に幅広くIT化の進展が見込まれるなかで、今後とも、IT経営の視点を中小企業・小規模事業者への経営支援に役立てたい考えである。

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