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2017.10.29
りんご農家のビジネスモデルの再構築

良い食品販売研究会  齊藤 昭彦

はじめに
良い食品販売研究会は、平成21年に発足し、人々の健康に資するため、座学による食やコンサル手法などの知識の習得をもとに、実際の診断活動を続けてきた。メンバーは、食品業界に関わっているもののみならず、他業種からも数多く参加しており、多面的な議論を行いメンバー間相互に触発することを特徴としている。
今回、当研究会ではI農園よりビジネスモデルの再構築の相談を受け、現地調査のうえ、つぎのような提案を行った。

1.日本のりんご農家の現状
りんごの収穫量は、従事者の高齢化や農家数の減少により、結果樹面積(栽培面積のうち生産者が果実を収穫するために結実させた面積)は年々低下し生産量も減少傾向にある。

(1)りんご農家の状況
 ① 農業従事者の状況2p-1.jpg
   平成27年度のりんご農業経営体数は、全国で39,680と果樹栽培農業経営体の17.9%と柑橘類に次ぐ規模であるが、総数、果樹栽培農業経営体数に対する割合ともに減少傾向にある。
 ② 作付面積
   平成28年度のりんご作付面積は、全国で38,300haと柑橘類に次ぐ規模であるが、その面積は減少傾向にある。
 ③ 消費動向2p-2.jpg
   平成26年度のりんごに対する1世帯あたりの年間の支出金額は5,210円、購入数量は12,868gであり、柑橘類に次ぐ消費量である(二人以上の世帯)。
   また、平成26年度の世帯収入別(勤労者世帯)および世帯主年齢別の年間支出額をみると、高年収世帯、高齢者世帯の支出額が大きくなっている(二人以上の世帯)。

 ④ 貿易
   平成28年度のりんご輸出額は、130億円を超えており、3p-1.jpg生鮮・乾燥果実輸出額の80%以上となっている。主な輸出先は、台湾(70%)、香港(10%)、中国(4%)である。その一方、りんご輸入額は生鮮4億7千万円に対して、ジュース108億円と、ほとんどがりんごジュースとして輸入されている。

(2)りんごの品種とその特徴
 平成28年度の品種別にみた収穫量は、「ふじ」が40万6,600トンと最も多く、全体の5割以上を占めている。また「つがる」「王林」「ジョナゴールド」とあわせて、上位4品種で約8割の収穫量を占めている。3p-2.jpg
 これまで「おいしい」「食べやすい」などの消費者ニーズに応じて新品種が育成・生産されてきており、近年もより多様化したニーズに対応した新品種が育成されているが、現実は上位4品種への集中度が高まる傾向にある。りんごの主な生産地の青森、長野で生産されている主なりんごの特徴は以下のとおりである。

3p-3.jpg

2.支援先企業I農園の概要
I農園は長野県飯綱町にあり、周辺を志賀高原、戸隠高原、斑尾高原に囲まれた自然豊かな丘陵地で、昼夜の寒暖の差が大きく、土壌も粘土質で大変美味しいりんごが収穫できる場所として有名。
I農園では、自分や家族、親せき、友人が安心して食べられるように、殺虫剤の使用を極力控え、雑草駆除剤は使用しないという安全なりんごづくりにこだわりをもつ。

(1)生産体制
 ① 生産者の想い4p-1.jpg
   Ⅰ農園の規模は約2 haと小規模ではあるが、甘く、大きなりんごに育てるために剪定や摘果、葉摘み、玉まわしなどを丁寧に行い、質の高いりんごを栽培している。りんごの木の寿命は、経済的には20年~30年といわれているが、Ⅰ農園では1本1本の手入れを適切に実施することにより樹齢50年以上の木もある。
 ② 人員体制
   通常時は、剪定、施肥、最小限の農薬散布等を経営者1名、経理等1名、営業1名で運営している。摘果、収穫時は地元主婦のパートを7名程度雇用する。
 ③ 商品
   りんご生産量の80%は「ふじ」、20%が「つがる」である。
   生産量の90%程度は、利益率の高い贈答生食用として販売している。生食用として販売できなかったりんごは、りんごジュースやシードルの原料として利用している。シードルの生産量は年間500本程度であるが、自社での醸造設備をもたないため、近隣のワイナリーに醸造を委託している。
 ④ 製造原価、利益
   生食用りんごは、ほとんどが消費者への直販となっているため、中間マージンを省き高い利益率となっている。シードルは、販売価格1,700円(1本)に対し委託醸造費が約1,000円必要となるため粗利益は700円(1本)程度である。

(2)販売体制
 ① 主な販売先
   販売先は、消費者への直売がほとんどで、JAへの出荷は行っていない。直販比率が高いため、中間マージンが省けるので利益率は高い構造となっている。
 ② 消費者へのアプローチ
   消費者へのアプローチは、既存顧客へのDMによるセールスと、ホームページを使ったインターネット通信販売により行っている。品質が評価され、既存顧客のリピート率は高く固定客主体の販売体制となっている。

3.I農園の課題と解決の方向性 
(1)課題1:りんご生産者を取り巻く環境変化への対応
 ① 課題
   I農園の主力商品は生食用りんごである。生食用りんごのアピールポイントである見た目、すなわち大きさ、形、色・艶をよくするための作業をほとんどすべて手作業に頼っているが、近年の人手不足の影響で必要な労働力の確保が難しく、人件費がコストアップ要因となっている。
   また、生食用りんごは販売量・販売単価ともに右肩下がりの傾向にある。スーパーなどで手に入る果物の種類が豊富になる中でりんごを選ぶメリットが感じられない、皮をむくのが面倒、核家族化で丸々一個は食べきれないなど、消費行動の変化がその背景にある。
   このような環境変化は徐々に採算を圧迫しつつあり、りんご農家の中には耕作を放棄するケースもみられるようになってきた。人手不足や消費行動の変化は一時的なものではなく、将来ますます厳しさを増すと考えられ、I農園もりんご農家として生き残るために事業内容の見直しを迫られている。
 ② 解決の方向性
   加工用りんごは見た目で評価されないため生食用りんごに比べて生産にかかる労働力が少なくて済む。この利点を生かした人手不足および採算対策として生食用から加工用へとりんご生産の軸足を移す方向を検討中である(ただし、海外市場向けなど高価格で取引される生食用りんごの生産は続けたいと考えている)。
   加工用りんごの主要な用途としてはジュースとシードルが挙げられるが、この2者を比較するとシードルに下記の点で、より優位性が認められる。
  a.製品の賞味期限がなく、歩留まりがよい
  b.瓶のラベルに農園の名前が記載されるので、農園の知名度があがる
  c.りんごの持つ健康イメージとアルコール度数が低いことから世界的に需要が伸びる中、日本でも徐々に人気が高まりつつある
  d.日本のシードル市場は現在発展途上の段階にある。既存事業者の増産や新規参入がみられ、今後市場拡大とそれに伴う要求水準の向上が期待される。
   具体的な事例として、日本シードルマスター協会が主催する「シードルアンバサダー講座&認定試験」は非常に人気が高く、申し込み多数でキャンセル待ちの状況である。
   なお、シードル用には酸味・渋味のあるりんごが適しており、甘みが要求される生食用りんごに比べて生育期間が短縮されるメリットもある。このようなシードル生産に適したりんご品種の選択・開発も今後の課題の一つである。

(2)課題2:シードル醸造(外部委託)に制約が多い
 ① 課題
   I農園は現在でも自社で生産したりんごの一部を外部のワイナリーに委託してシードルに加工・販売をしている。しかし、外部委託には以下のような問題がある。
  a.時期の問題
    りんごにはさまざまな品種がある。シードルに適した品種の収穫最盛期は10月~11月であるが、この時期はワイン用ブドウの収穫期と重なっており、委託先のワイナリーにとっても本業であるワイン生産で最も忙しい時期に当たるためシードルは醸造してもらえない。ワイン醸造が暇になる1月~2月になればシードル醸造を受託して貰えるが、この時期に収穫される品種は甘みがあってクセの少ない生食用の「ふじ」が中心であり、シードルづくりには適さない。
    また将来ワインの需要が増えた場合、1月~2月もワイン製造にあてられる可能性があり、その場合にはシードル生産を受託して貰えなくなるリスクを抱えている。
  b.保管場所の問題
    I農園の希望する瓶内二次発酵製法は瓶詰めしてから製品として完成するまでに時間がかかる。酒税法の規定上、完成するまでは醸造所敷地から外に出すことはできないため、ワイナリーにとってその間の保管場所が問題となる。
 ② 解決の方向性
   I農園と同じく外部委託の問題を抱える近隣のりんご農家と共同で醸造設備を保有・運営する。これによって下記のメリットが得られる。
  a.最適な時期に、最適な品種のりんごを加工することにより理想とする品質のシードルを追求し、今後の伸びが期待されるシードル市場において他の生産者たちと切磋琢磨しあうことができる
  b.「りんご農家の作るシードル」を主力製品とすることで、りんご農家として生き残りを図ることができる

4.今後の対応(支援計画)
シードル醸造事業(自家設備)の運営を進めるにあたって、下記項目について仮説→実行→検証→フィードバックのサイクルに沿って伴走支援を継続する予定である。
   
(1)経営主体
 ひとつの事業体としてまとまりをもって事業にあたるために、株式会社設立を行う。これは同時に、6次化補助金の受領条件である(農業)法人化を充足することにつながり、資金調達の幅を広げる。

(2)設備の規模とその調達
 シードルの酒類製造免許を取得するための法定製造数量は 6,000ℓである(特区では 2,000ℓ)。採算にのる規模は 30,000~50,000ℓと算定している。
 近郊の廃校予定の小学校跡地を商業集積化する計画があり、設備の建設地の選定・購入などの問題がクリアできるうえ、資金面でも有利であるため、有力な設置場所として検討する。
 廃校利用の場合の初期投資額は、
   ・設備(搾汁、発酵、瓶詰)       13百万円
   ・リフォーム(水回り、空調・断熱、販売・試飲スペースなど) 10 ~20百万円
の、合計23~33百万円の見込みである。

(3)資金調達
 共同事業農家による出資のほか、余剰りんごに困っている周辺農家から、シードルの製造受託と引き換えに出資を募るなど地域のりんご農家を巻き込む。更にファンドや6次化補助金などの利用を検討する。

(4)醸造技術
 免許取得には醸造責任者の存在が不可欠だが、その養成には時間とお金がかかる。そのため、近隣ワイナリーから、兼務の形で醸造責任者を派遣して貰うと同時に、別途常駐者を設けることで、技術習得に努めることにする。

(5)酒類の製造・販売免許取得(資格・期間)
 酒造免許は、許可が下りるまで約6ヶ月を要する。従って、生産開始時期を見きわめて、全体の計画を練る必要がある。

(6)設備を充分に稼働させるだけの受注量確保と販路開拓
 自家設備を持つ以上、自家ブランドを育成したい。現在ワイナリーに製造委託している農家の製品を受託生産し、更に近隣のりんご農家を巻き込みたいと考えている。
 具体的な販売経路は、酒販店を通すものと直接ルートとが考えられる。後者はさらに、ネット、飲食店、イベントへの参加などになるが、当初は生食用りんごの購入者に対するアプローチからスタートする。

まとめ
今回支援させていただいたI農園では、次世代の後継者が日本の農業を未来へつなぐためにさまざまな取り組みを検討している。昨年度当研究会で学んだ「地元学」(参考文献;吉本哲郎「地元学を始めよう」結城登美雄「地元学からの出発」)にあったように「土の人」(地元の人々)と「風の人」(よそ者:診断士)が知恵と行動を融合することで新たな活路を見いだせるような活動を今後も続けていきたい。

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