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2017.12.28
自動車部品製造業における営業力強化・売上UP実践

営業力を科学する売上UP研究会 緒川 直樹

1.はじめに
 日本政策金融公庫「2017年中小企業の景況見通し」によると、中小企業が経営基盤強化に向けて注力する分野は、「営業・販売力の強化」(75.3%)が、2位以下に大差をつけてトップである。このように問題意識が強い一方で、中小企業の営業力強化に焦点を当てた解決策は多くないのが現実である。
 本研究会は、法人営業における課題を可視化する「営業力診断アンケート」を開発し、平成26年度中小企業経営診断シンポジウム第3分科会で発表した。その後、金融機関、認定支援機関等と連携して、平成29年7月現在、支援先企業8社に対し営業力強化コンサルティングを実施するに至った。
 本論文では大企業の系列として発展してきた自動車部品製造業A社に営業力診断アンケートを行い、2017年1月~5月にかけて当研究会が支援する営業力強化コンサルティングにより、売上UPと新規顧客開拓を目指した事例を報告する。

2.支援先企業A社の事業概要と営業の現状
201801-4.jpg (1)事業概要
 A社は創業以来、半世紀にわたり金属プレス製品の受託加工を行ってきた。生産品目は自動車などの輸送機器部品であり、生産拠点は山形県、営業拠点は東京都にある。
 A社は大企業であるB社、C社との系列関係のもと安定的に成長してきた。その結果、現在ではB社、C社との取引が売上高の88%を占めている(図表1)。
 得意先B社は商用車製造業、C社は自動車の主要部品を製造する大企業であり、A社と両社との取引年数は30年以上となる。

(2)営業の現状
 営業職に従事しているのは4名、内管理職は1名であり、各営業にそれぞれ担当する顧客が割り当てられている。営業の役割は新規開拓よりも既存顧客の深耕が中心である。
 A社の営業職に求められることは、系列関係にある得意先から製品供給契約を獲得することである。契約獲得後は、工場側が顧客からの注文を処理し、生産および納入業務を実施している。当社製品が組み込まれる顧客の商品・製品のライフサイクルが続く限り、継続的に顧客から注文が入ることがA社のビジネスの特徴である。(図表2)。
201801-5-1.jpg なお、A社には製品開発機能がないため、顧客の製品仕様(図面)を工場側で確認し、工場側が受託可否を判断している。このような系列関係にある得意先からの製品供給契約の獲得に特化したA社の営業スタイルは、既存顧客深耕には高い効率性を持っており、強みになっていた。
 しかし、近年、得意先の海外移転や海外調達などによって売上高が徐々に減少する中、新規顧客開拓を目指したA社であったが、既存顧客に対する受け身の営業スタイルであるため、新規顧客開拓に関する営業経験やノウハウがなく、将来の展望に対して不安を感じている。

3.当研究会による経営支援の流れ
201801-5-2.jpg 経営支援の全体の流れを図表3に示す。
 平成28年9月に、A社の営業力診断アンケートをマネージャー1名と営業担当者3名に対して実施した。その結果、図表4のとおり、「戦略力」、「計画力」、「行動力」、「商談力」、「管理力」の5つの評価軸のうち、「戦略力」と「商談力」のスコアが相対的に低かった。また、営業担当者の「計画力」の評価がマネージャーに比べて、かなり低い結果となった。

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 さらに、各質問項目や自由記述欄を分析し、図表5に示す営業課題をまとめて、A社社長と営業マネージャーに報告したところ、A社の実態を表しているとの評価を得た。
 その後、A社より、営業力強化のためのコンサルティングを受注し、平成29年1月~5月まで、図表5に示す課題に対する改善活動の支援に取り組んだ。

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4.営業力強化コンサルティングの実施
 図表6に示すとおり、営業力強化コンサルティングを、フェーズ1:「既存顧客に対する顧客別営業戦略の立案」、フェーズ2:「新規顧客開拓の検討」の2フェーズに分けて実施した。

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 フェーズ1では、既存顧客に対する営業戦略を立案することで、受け身の営業スタイルからの脱却と、営業活動におけるPDCAサイクルの構築を目指した。フェーズ2では、新規顧客開拓に挑戦できる体制を構築することで、B社、C社への集中リスクを回避することを目指した。
 以下、各フェーズの実施内容と、コンサルティングにおいて工夫した点を記す。

(1)フェーズ1: 既存顧客に対する顧客別営業戦略の立案
 A社では、B社、C社を含む既存顧客5社に売上の96%を依存しているため、不特定多数の顧客と取引を行う場合と異なり、既存顧客1社1社との関係構築や、複数抱える案件を細かく見ていくことが重要である。そこで、既存顧客5社に対する顧客別営業戦略を立案することとした。
①顧客別営業戦略の立案
201801-7-1.jpg 当研究会が用意している標準の「顧客戦略シート」「案件戦略シート」を用いて、既存顧客5社に対して、顧客との関係づくりを描く戦略や、案件成約への道筋を描く戦略をまとめた(図表7)。
 顧客別営業戦略の立案にあたって、「戦略に沿った行動計画になっているか」「行動計画が数値目標にまで具体化されているか」という点に留意して助言を行った。たとえば、重点攻略先に対して、「優先的に訪問予定が割り当てられているか」「訪問件数は数値目標として設定されているか」「必要な場面で上司同行が設定されているか」などがチェックポイントとして挙げられる。
②営業会議(顧客戦略会議)
 営業会議を開催し、顧客戦略と案件戦略の内容を、営業部門の知恵を結集して練り上げた。
③行動計画表の作成
 顧客戦略、案件戦略の内容を、各人の行動計画表に掘り下げた。
④顧客別売上計画の作成
 営業戦略の実行を前提に、中長期の顧客別売上高、新規顧客開拓による拡販目標を設定した(図表8)。
⑤営業会議によるフォローアップの仕組み構築
 A社のマネージャーが、営業担当者による行動計画の進捗を確認したうえで、上司同行などサポートが行えるように、営業会議の運用ルールを取り決めた。営業会議を活用して、コンサルタント抜きでも、A社単独で営業活動のPDCAを回していくことを目的としている(図表9)。

201801-7-2.jpg201801-7-3.jpg

(2)フェーズ2: 新規顧客開拓の検討
 新規顧客開拓にあたっては、従来のサプライヤからA社に置き換えるメリットを、お客様にアピールする必要がある。そこで、まず、既存顧客がA社を選んでいる理由を分析した。
①現状分析
201801-8-1.jpg A社では、お客様が要望するさまざまなロットサイズに対応している。製造業では、工程管理面から、自社の生産工程に適したロットサイズ外の受注を避けることが一般常識である。しかし、A社は、得意先B社、C社の要望に応えることで、少量~大量のロットサイズのそれぞれに、最適な品質・コスト・納期で応えられる柔軟な生産体制を確立した。この点がA社の特筆すべき強みである(図表10)。
 最初、A社メンバーからは、A社の保有設備が「強み」として挙がってきた。しかし、「自社目線」でなく「お客様目線」でA社の強みを抽出する必要があると考えた。そこで、「顧客が数ある競合の中からどうしてA社を選んだのか」という点を深堀するために、顧客、競合、自社の関係性を整理することができる3C分析(当研究会では「三社分析」と呼ぶ)を活用した。なお、A社を始め中小企業で容易に活用できるように、分析用のフォーマットを用意した。
②新規顧客向けアピール資料の作成
 A社の会社案内は、主要設備、主力生産品を紹介したものであった(図表11a)。これでは、お客様目線でA社の強みを十分に説明できなかった。そこで、「鉄製品を1個でも!1万個でも!貴社の生産のムダを減らします」のキャッチフレーズでA社の強みをアピールする資料を作成した(図表11b)。

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 中小企業の多くは、販促物の制作を担う部門がなく、制作のノウハウも有していない。そこで、当研究会では、会社案内や製品・サービスなどの販促チラシの制作のコツ(コンテンツ、レイアウト、印刷方法)をまとめて、さらに、素材を埋め込むだけで完成する標準テンプレートを用意している。今回、それを活用してA社向け資料を作成した。
③新規顧客のターゲット、アプローチ方法の検討
 新規顧客のターゲットとしては、少量~大量のロットサイズに対応できる「A社の強み」を活かせる理由で、自動車業界を選択した。新規顧客へのアプローチ方法として、仕入先である材料メーカーからの紹介と、A社の工場がある山形県が主催する商談会への参加を選んだ。
④行動計画表の作成
 紹介見込みのある仕入先メーカー14社をリストアップした。これを基に各人の行動計画に14社への訪問計画と商談会への参加予定を加えた。

5.経営支援の効果
 当初の課題に対する、経営支援の効果を、次ページの図表12にまとめる。従来の「成り行き」「担当者任せ」の営業活動から、「重点顧客を定めた」「組織的」な営業活動に転換しつつある。

(1)顧客訪問件数
 昨年は、営業拠点から遠い得意先については、会社からの出張許可が得られにくいため、近隣のB社に訪問が集中していた。今回、顧客戦略を策定し、会社公認のもと、訪問すべき顧客を決めたことで、出張許可が下りやすくなった。さらに、見積書テンプレートを標準化するなど営業事務処理の効率向上も並行して進めたため、顧客訪問のための時間的余裕も確保できた。
 その結果、顧客訪問件数は、2017年4~7月まで月平均29件となり、昨年度比較で30%増の実績となった(昨年同時期:月平均22件)。なお、訪問時に積極的に顧客の困りごとを聞くことで、次回までの宿題を設定できるようになり、顧客からのアポイントメントも取り易くなった。

(2)新規顧客開拓
 新規顧客向けアピール資料を基に、山形県広域商談会に参加し、17社に対してアプローチを実施した結果、5社から引き合いをいただいている。そのうち、螺旋系製造会社、自動車部品製造会社の2社からは有望案件の引き合いをいただいている。また、仕入先メーカーから5社の新規見込顧客の紹介をいただき、そのうち静岡県のトラック荷台用器具製造会社からは、金属フックの二社目の調達先として具体的な検討をいただいている。
 その結果、2017年7月末現在10社の新規見込顧客が開拓でき、内3社からは有望案件の引き合いをいただいている。(昨年同時期:新規見込顧客 0社)

(3)A社社長、工場長の評価
 A社社長からは、営業活動の成果により、他社情報(強み・弱み、当社の競合に成りえるかなど)を入手できるようになり、競合対策の必要性を早めに判断できるようになった点を評価されている。たとえば、ある得意先では、部品の納入頻度の面で、地場業者に差をつけられていることが分かり、その情報を部課長会議で報告した結果、早期に対策の検討を開始することができた。
 また、A社工場長からは、得意先別の営業戦略と売上目標を設定したことを評価されている。売上目標の精度を上げることで、工場の設備計画を早めに準備し、最適化することが期待できる。

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6.今後の予定
201801-10-2.jpg A社では、新規案件の受託権限が工場側にあるため、リスクを恐れて新規案件の受託を手控えることがある。その場合、受託否の理由も不明確であった。そこで、今後は、工場部門との目標共有、連携向上のための仕組み作りを視野に支援を続ける(図表13)。
 第一に、工場の関係部門より、受託の可否判断に必要な情報(生産技術・設備・生産能力)を聴取し、可否理由を記録に残すためのフォーマットを準備した。
 今後、受託可否判断のルールを決めて、本フォーマットによる運用を開始し、蓄積されたデータから、定期的に受注否の要因分析を行うことで、A社の生産技術や設備にあった新規顧客のターゲットの明確化や、新規案件の受託率を向上するための生産技術や設備の改善に結び付けていく予定である。(平成29年9月~実施予定)

7.おわりに
 中小部品製造業A社に対して営業力強化の経営支援を行った事例を報告した。実施効果として、訪問件数、新規商談数、新規顧客件数は伸びており、売上UPに繋がる成果が出始めている。一方で、営業の新規顧客開拓の取り組みを成果に結びつけるためには、工場側の協力が必須であることも分かった。今後は、工場との連携向上の仕組み作りを支援していく所存である。
 当研究会では、これまでの営業力強化コンサルティングの実績を基に、適用事例集を作成することで、診断・コンサルティングのノウハウを形にしていく予定である。さらに、「顧客戦略シート」など経営支援ツール類について、業種ごとの適用結果を整理し、テンプレート化することで、「営業力強化コンサルティング」をさまざまな業種にスムーズに適用できるようにしていく所存である。


【執筆メンバー】
 営業力を科学する売上UP 研究会
 (リーダー)緒川 直樹、鎌田 慎也、小林 工、木村 健一郎、新城 信弥ほか

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