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2018.03.30
ものづくり創業支援施設と連携した地域創業支援活動の事例

東京協会 もの・ことづくり実践研究会


はじめに

 当研究会は、製造業が、製品・商品に対して、情報、ストーリー性や体験を結びつけることで高付加価値化・差別化を図る活動、いわゆる「ものづくり」と「ことづくり」に着目し、それら活動の研究と実践支援を目的に設立された研究会である。具体的には、

 ① 日本の「ものづくり」に「ことづくり」の視点を取り入れたビジネス構築の研究
 ② ものづくり企業や支援団体等の創業支援に関するサポートのあり方の研究と実践
などを行っている。今回は、「ものづくり分野」専門のインキュベーションオフィスとして設立された「アジアスタートアップオフィスMONO(以下、MONO)」の支援を通して、当研究会が実施した地域創業支援活動の事例を報告する。

1.MONO概要と活動の背景
 (1)MONOとは
 MONOは、「エンジニア、デザイナー、スタートアップが集うオープンイノベーションのプラットフォーム」となることを目指し、後藤建築事務所株式会社が東京都の後援を得て設立したインキュベーションオフィスである。NC、レーザーカッター、3Dプリンターといったデジタルものづくり設備を備えた工作室を備えているのが最大の特徴であり、入居者はいつでも工作室を利用して、試作品の開発・製作を行うことができる。また当初より海外特にアジアのインキュベーション施設との連携にも力を入れており、中国、台湾、フィリピン、ミャンマー、シンガポールにその活動を広げつつある。
 
 (2)当研究会による支援実施の背景
 MONO設立当時、後藤建築事務所株式会社にはインキュベーションオフィス運用や創業支援等のノウハウがなく、同社の創業時に支援を行った当研究会代表の吉倉英代に創業支援事業立ち上げの支援要請があった。そこで吉倉を中心とした有志の診断士グループを立ち上げ、MONOに対する組織的な支援活動をスタートした。その後、その有志グループが母体となり、平成27年6月には研究会として体制を整えた。以来、当研究会はMONOへの起業家支援ノウハウの提供とMONOにおける起業家支援活動を通して、起業家の発掘・育成を行っている。

2.MONO支援の概要
 設立したばかりのMONOの課題は、運営基盤を安定させるための入居者の獲得と、人材交流を通じたイノベーティブな事業立ち上げの実績づくりであった。そこで、当研究会では、MONOに対して、ものづくり分野の創業予備軍の人々にMONOの認知度を向上させたり、創業のきっかけづくりを行ったりすることを申し出てMONOの賛同を得た。具体的には、以下の3つを柱とした支援を提案、実施していくことなった。
 ①ものづくり創業者を掘り起こすための「ものづくり・創業」をテーマとしたセミナー、イベントの開催
 ②イベント参加者へのフォローアップと、創業およびMONOへの入居の後押し
 ③創業者に対して、創業実務、資金調達(融資獲得、補助金活用)、知財確保など実用的な支援の実施

 これらの3つの活動を繰り返すことで下図に示す通り、MONOの事業拡大・ビジョン実現に貢献するとともに、診断士の活躍の場を創出し、地域社会への貢献を目指すこととなった。

3p-図.jpg

3.活動実績

 (1)ものづくり創業者を掘り起こすための「ものづくり・創業」をテーマとしたセミナー、イベントの開催
  ①創業支援プログラムに基づいた、ものづくり創業セミナーの企画・実施
 MONOは設立直後に、国の特定創業支援事業に応募し採択され、江東区・金融機関を交えた3者で地域の創業活性化に取り組むことになった(当研究会では、その特定創業支援事業の申請の支援も行った)。そこで、MONOの特長を生かしたものづくり起業家発掘のための創業支援セミナーの開催と参加者に対するハンズオン支援の実施を行うこととなり、当研究会が内容を一から企画し、「こうとう創業支援セミナー」として実施した(1年に2回ずつ、6回実施、のべ約100人が受講)。
 創業セミナーの内容としては、ものづくり創業者を意識して、製品アイデアに対しての知的財産権の保護やデジタル加工機械の活用法を組み込んだものとした。さらに、研究会メンバーの人脈を生かして、実際に成功した起業家を多数ゲストスピーカーに招いたり、仮想の創業ストーリーもとにグループワークで創業プランを議論させたりなど、手間暇をかけて内容を一から開発し、実践な内容にし、通常の創業塾との差別化を図った。
 なお、MONOはその創業支援の活動が認められ、平成28年度には東京都の認定インキュベーション施設として承認され、その入居者は東京都の創業助成金の申請要件を獲得できるようになった。
 ②ものづくり創業予備軍を集めMONOの知名度を上げるためのスポットセミナー・イベントの開催
 前述の創業セミナーのほか、効果的なPR・広報セミナー、リーンスタートアップセミナー、クラウドファンディングセミナー、知財セミナー、デザインセミナー、各種助成金セミナーなど、起業家が興味を持つテーマでイベントを実施した(のべ、約120人程度が参加)。
 
 (2)イベント参加者へのフォローアップと、創業およびMONOへの入居の後押し
 イベントやセミナーの後には、個別相談会を設けることで、興味を持った参加者に対してそのまま創業の意識を高める働きかけを行った。それによって創業・MONOへの入居へつなげる創業者を増やすことができた。

4p-図.jpg

 また、創業後も、MONOが定期的に行う入居者向けのカジュアルな交流会(ランチ会)に参加して、入居者の日々の疑問点に相談に乗ったり、創業者とのネットワークを広げコミュニケーションを深めたりした。

 (3)創業者に対して、創業実務、資金調達(融資獲得、補助金活用)、知財確保など実用的な支援を実施
 MONOのインキュベーションマネージャーと密に連絡を取り合い、入居している起業家に対して、事業計画策定、販促・プロモーション、資金調達・助成金獲得支援、知的財産権の取得の支援、デジタル工作機器の活用方法、ITシステムの導入活用支援など、研究会メンバーの得意分野を生かした実践的な支援を行った。

 このようにして、200人以上の創業希望者に起業ノウハウを伝え、そのうち30社を超えるスタートアップの事業立ち上げを支援し、うち半分程度が順調に事業を拡大している。
以下に、MONOにおけるものづくり創業者とその支援事例の一部を示す。


日本3Dプリンター株式会社
https://3dprinter.co.jp/
5p-図上.jpg 日本3Dプリンター(株)は、MONOをオフィスとして創業し、アジア(主に中国)の最新の3Dプリンターを輸入し、日本国内の製造業、教育機関等に販売および関連サービスの提供を行っている。
 代表者の北川士博氏から事業計画策定と資金調達について当研究会のメンバーが相談を受け助言を行ってきた。平成27年度ものづくり補助金、平成29年度創業助成金(東京都)などの申請の支援も行い採択を得た。昨今の3Dプリンターブームと中国メーカーの世界市場における競争力向上の波に乗って、順調に社員を増やし事業拡大を進めている。

株式会社アドバンスト・キー・テクノロジー研究所
https://www.akt-lab.jp/
5p-図下.jpg(株)アドバンスト・キー・テクノロジー研究所(AKT)は、電子デバイス用の単結晶材料とその製造装置の製造・販売を行う企業である。創業者の阿久津伸氏が平成26年にMONOで行った補助金セミナーとその後の創業セミナーを受講されたことが支援を行う機会となった。これまで創業補助金やものづくり補助金の申請・活用支援、契約交渉の際の助言など行ってきた。平成29年5月からは本研究会会員が同社の経営チームに参画しており、10年後には売上高で100億円を超える企業にすることを目指して資金調達、事業計画の策定と実践に取り組んでいる。



ムーバクラウド株式会社
http://www.movacloud.co.jp/

6p-上図.jpg ムーバクラウド株式会社は2015年2月に創業した、MONO入居企業である。代表者の李水平氏は中国出身のSEであり、「自由な発想でICTを活用した最新の技術サービスを提供し、よりよい社会の実現に貢献する」を目的に各種システム開発やAIを活用したスマートフォンアプリの全自動テスティングサービスなどを行っている。
 新規事業として、AI技術を活用したIoTサービスでスマートホームサービス事業に参入する計画があったため、ものづくり補助金を紹介。その申請支援を行い本年採択された。当社は過去にも他の専門家などの支援を受けて何度か補助金申請を行ったが、すべて不採択だったとのこと。今回、当会会員が蓄積したノウハウを発揮し、かつ手厚い支援したことが功を奏したといえる。現在、補助事業の実施においても継続支援を行っている。


おもいで写房
http://omoideshabou.com/

6p-下図.jpg 森正実氏(茨城県つくば市在住)は定年退職後、柔軟な発想で市場機会を捉えた創業を決意。独自に「瞬間撮影装置」を開発し、3Dプリンターを活用してフィギアを制作する事業を考案した。資金調達方法を模索していたなか、MONOで行った創業補助金セミナーを受講した。その後個別支援につながった。補助金申請支援を行った結果、当事業者は無事採択された。
 それに加え販路開拓支援も行い、日刊工業新聞の記者に紹介したところ紙面で紹介され、その後も読売新聞やNHKからも取りあげられ、知名度アップにつながった。当社はその後、近隣地域の各種ビジネスフェアなどにも出展して事業を発展させている。








4.成果
 (1)中小企業診断士としてのビジネス機会の創出

 当研究会では、MONOの支援を通して、スタートアップオフィスの特性を生かした診断士としてのビジネス機会を創出した。具体的には、知財確保、IT活用、販促プロモーションなどのコンサルティング、助成金などを活用した資金調達支援のコンサルティングなどのビジネスにつなげている。
 MONOはものづくり企業のためのスタートアップオフィスではあるが、実際の創業者の事業内容は製造業にとどまらず、サービス業につながる「ことづくり」企業など多岐にわたり、まさに当研究会が主眼としている「ものづくり・ことづくり」に関するノウハウを培う場としても成果をあげることができた。

 (2)地域への貢献
 MONOは国や都の支援を受けた創業支援施設であり、MONOの支援を通して東京都や地元・江東区の企業活性化に貢献することができた。また、各種行政の制度の周知や施策の活用の促進にも一役買えたのではないかと思う。
 地域活性化の視点からも、MONO内にとどまらず、台場、豊洲、砂町、清澄白河などの地元・江東区内に事業拠点をもつ創業者と、お互いの交流を深めることにより地域のものづくりネットワーク作りにも貢献した。創業セミナー参加者は、参加者同士やゲストスピーカーとして登壇いただいた先輩起業家と、その後も継続した交流を行っている。

 (3)企業内診断士・新人診断士への実務機会の提供
 副次的効果ではあるが、研究会メンバーには、新人診断士や企業内診断士も参画しており、そうしたメンバーに対しては、創業者との交流を得る、貴重な実務の機会を提供することができた
 さらに、ベテラン診断士が、創業支援セミナーの定番プログラム(マーケティング、人材育成、資金調達、事業計画)を定型化して、講演ノウハウを伝えることで、新人診断士のスキルアップを図ることができ、実際に講師として登壇する機会も提供できた。また、事業計画策定支援なども手掛けることができた。

5.課題
 以上のようにさまざまな実績と効果を上げてきた本活動であるが、さらなる成果をあげるために以下のような活動を行っていく予定である。

 (1)創業者の事業拡大の支援
 創業者は順調に増加しつつあるが、多くの場合、その事業規模はまだ小さい。一方で、ある程度の事業規模になった企業は、インキュベーション施設を卒業し、外で発展を目指す傾向がある。MONOのコンサルタントとして、小さい事業を確実に発展させる息の長い支援を行うことと、企業がMONOを卒業してもMONOとビジネスパートナーとして関係を継続したくなるものづくりネットワークを形成できるよう、MONOの機能強化を支援していきたい。

 (2)付加価値の高い支援サービスの提供
 現状の当研究会での支援モデルとしては、創業セミナーや創業支援プログラムは低コストで提供し、その後の創業実務の支援を通して、診断士としてのコンサルティングビジネスとして成り立たせてきた。支援を開始して4年が経ち、当研究会でも基本的な支援メニューの定型化はできてきたため、次は、より専門性の高いコンサルティング支援を提供していきたい。MONOとしても、当初は集客の手段として位置付けていたイベントであるが、今後は個々のイベントだけでも相応の収益が得られるようにしていきたいという希望がある。当研究会もその期待に沿えるようレベルアップを図りたい。

 (3)海外への展開
 ものづくりや革新的サービス分野では、ビジネスの国際化が急速に進んでいる。MONOにおいてもアジア地域をはじめとした外国人による創業の割合が増えており、海外での事業展開のニーズも出てきている。当研究会でも海外事業の経験者をメンバーに加えるなどして、各地域の法律やルールへの対応などの海外進出のノウハウを蓄積していきたい。

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