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2018.04.29
中小企業の海外展開支援業務と知識体系

中小企業の海外展開支援業務と知識体系

ワールドビジネス研究会
大喜多 富美郎

1.ツール開発の経緯
 2016年5月初め、中小企業診断協会(連合会)から東京協会国際部に、「海外展開支援のための業務および必要な知識体系」構築の打診があり、国際部では各支部の国際部員に向けて希望者を公募した。しかし、このような体系の構築には、担当者同士の相互協力が必要であり、また、その成果物には品質と責任が伴うことを考慮し、当研究会が一括して開発することが望ましいと判断、国際部や連合会と相談の上、この業務を一括して受託するに至った。当研究会では、この事業の担当者として海外展開支援の実務経験が豊富で、それぞれ専門分野の異なる5名を選定し、6月20日にプロジェクトチームを結成した。そして、この5名の得意分野に従って担当分野を決定、各自が自分の担当分野について調査、研究して体系表づくりに取り組んだ。体系表の構築段階では、大学教授等の有識者、専門家や海外展開の経験が豊富な中小企業の経営者、診断士等にヒアリングを行い、内容や品質の確認をするとともに全体のレベルや重複などを調整し、2017年2月に完成、成果物を連合会に納品した。
 この『中小企業の海外展開支援業務と知識体系』は、中小企業診断協会(連合会)のホームページから会員専用のMyページに入り、"パンフレット・登録申請書などのダウンロード"から、Excelファイルでダウンロードできるので、参照しながら理解していただきたい。

2.本ツール開発の目的
 日本企業の戦後の海外進出は1960年代、1970年代の大企業製造業主導の時代から、日本の高度な経済発展にともなう円高など日本経済の信用力向上とあいまって、中堅・中小企業やサービス業などの非製造業にも拡大してきた。また、中小企業の海外進出動機についても従来型の顧客・取引企業の要請によるものが多数を占めた時代から、より積極的に自社の技術や能力の活用、販路の拡大などの独自の判断で検討、決定される事例が増加し、質的な変化も起きている。
 一方で、独自の判断での海外展開は、業容の拡大と同時にリスクの拡大につながる場合も多くなり、われわれ中小企業診断士の顧客企業の海外展開への支援にもより緻密な関与が求められ、必要とされる業務や知識もより広範囲かつ高度になってきている。とりわけ21世紀に入り急速に拡大する経済のグローバル化と中国の台頭に代表される経済・政治的力学の変化が顕著になり、その一方で格差の拡大による国民の不満の蓄積、自国中心主義による地域貿易協定などの自由貿易拡大に逆行する動き、民族主義や過激な思想・宗教グループによる治安問題や安全保障問題など、従来のビジネス環境を脅かす事態も多々発生し、国際情勢が中小企業経営者の海外ビジネスに与える影響も増加しつつある。
 こうした環境下で、特定の国や地域を対象にした国際業務、海外事業に関する参考文献、研究レポートは数多く出版、発表されているが、海外事業を俯瞰的に見て海外事業展開のための「業務および必要な知識」という観点からまとめたものはほとんどみられない。
 本『中小企業の海外展開支援業務と知識体系』(以下「本体系」という)は、中小企業診断士が顧客の海外事業展開支援を進める際に、その顧客の事業展開の段階に応じて必要とされる基本的な業務を体系化することにより知識とノウハウを明確化し、中小企業診断士が顧客の海外事業展開を支援する際に活用するとともに、中小企業診断士としての専門分野のスキルを向上することを目的として作成したものである。
 同時に、中小企業診断士が支援業務の中で、自分に不足している知識・経験を確認し、必要な専門的人材の助言を得ること、さらに支援のためのチーム作りのための指標となることも重要な目的としている。
 さらに、中小企業診断士が「本体系」を理解し、全体もしくは個々のアイテムについてセミナー、深化した研究成果の出版などの事業につながっていくことも期待される。

3.「本体系」の使用法
(1)「本体系」の構成
①本体系は、中小企業診断協会(連合会)が順次整備しようと計画している、中小企業 診断士の顧客支援業務の体系化のうち、海外直接投資と輸出を中心とした「海外事業展開支援」に係る知識と業務を体系化したものであり、「本体系」全体をセクション「OS海外事業展開支援」とする。
   注:セクション・コード「OS」は Overseas の短縮形である
②全体の確認すべき業務と知識を階層化して分類した。「本体系」ではできる限り単純化するために必要以上に深い階層は作らないよう、必要な注釈は備考欄に記載した。対象のアイテムによって階層の深さは異なるが、一番深い階層は第6階層(3ドットグループ)となっている。

201805_3_1.jpg

③業務および知識の必要な時期、事業の種類、主な業務場所について、「本体系表」の各シート右側にマトリックスで表示した。


(2)階層の定義
201805_4_2.jpg①第1階層: 「海外展開支援業務」の大分類である。
 OS01、OS02、・・・という番号を付している。
 第1階層では大分類落として、下記の13の業務、知識をグループ化している。

   ・OS01  事業コンセプト
   ・OS02  国際情勢
   ・OS03  企画事前準備
   ・OS04  現地法制・規則
   ・OS05  資金、決済、資金管理
   ・OS06  労働市場
   ・OS07  インフラ
   ・OS08  社会環境
   ・OS09  事業開始手続き
   ・OS10  現地経営
   ・OS11  現地生産
   ・OS12  現地販売
   ・OS13  リスクマネジメント

 OS01からOS08までは事業開始前に必要な業務、知識であり、OS10からOS12は主として事業開始以降に関連する事項である。また、事業全体として常に考えておくべきものとして、OS13としてリスクマネジメントの項目を設けている。
②第2階層: 第1階層の業務を中分類したものである。
 OS01A、OS01B・・・という番号を付している

 第1、第2階層までを「目次」として最初のシートに揚げている。(上の図2参照)

③第3階層:第2階層をさらに具体的項目に分類したものであり、
 01/00、02/00、03/00・・・という番号を付している。
④第4階層以降(ドット・グループ):さらに具体的に分類したものである。
  ・項目の桁数と「・」の数が増えるとより下位の階層になる。
  ・「本体系」では、次の図のように第6階層まで使用している。

201805_5_3.jpg

(3)マトリックス 
 階層分けされている業務および知識の必要な時期(事業開始前・後)、事業の種類(海外直接投資・輸出)、主な業務場所(国内・現地)について、各シートの右側にマトリックスで表示している。
 必要とされる時期、事業分類、場所に"○"、場合によっては必要となるものについて"△"とした。

201805_5_4.jpg

4.期待される効果と今後の展開
(1)中小企業診断士による活用
 当初からの作成目的である中小企業の海外事業展開を支援する中小企業診断士による活用として、下記のような活用が期待される。
①顧客企業の海外事業展開支援を行うためのチェックリスト
②海外事業展開支援業務という専門スキルの向上と、コンサルタント活動で求められる幅広い業務知識、調査能力を習得する指針
③海外事業展開に係る業務知識、ノウハウは膨大な量と範囲にわたるものであり、一人の診断士ですべてをカバーするのは難しい。事案ごとに、自分にない専門知識、経験を有する診断士などから助言、支援を得る、もしくはチーム・ビルディングの指針
④その他、新しい切り口での支援活動の開発

(2)ワールドビジネス研究会員による展開事例
①分科会による事業化の検討
 本年8月にワールドビジネス研究会の中に、「本体系」をベースに『中小企業海外展開支援講座(仮称)』事業化検討分科会をメンバー12名でスタートした。
 2019年開講を目標に、2018年6月までに最終提案をまとめ、事業化可否の結論を出したい。
 まずは9月末までに、
   ・開講趣旨
   ・講座の特徴
   ・受講対象者
   ・習得できる知識・スキル
 などをまとめるべく議論している。
 今後もメールによる議論と合わせて、3~4週間に一度程度のミーティングを開き、事業化できるよう検討と準備を進めていく。

②国際情勢やビジネス環境の変化に対応するための定期的なブラッシュアップ
 国際情勢やビジネス、投資環境は常に変化していくものであり、必要な変更や修正、追加を行う方法を検討していきたい。

③会員による講演会、セミナーでの活用例
 JICA発注プロジェクト「投資促進のための経済特区開発・工業団地開発」での講義で活用している。
 JICAが年2回、アジア、中東、アフリカ、中南米などから、経済特区開発責任者など15~25名程度を招聘し、日本で2~3週間研修後、ベトナム、インドネシア等で1週間の補完研修を行うプログラムであり、中小企業診断士が中心になって運営している㈱ワールド・ビジネス・アソシエイツが継続的に受注しており、本研究会メンバーの一部もプログラムに参加している。
 研修対象者のほとんどが公的機関の所属であり、民間企業がどのような検討を行って海外直接投資先を決定していくのか、実際に投資した後にどのようなサポートを求めているのかを理解させるために、「本体系」の分類項目は顧客の求めるものを説明し、理解を深めるうえで役立っている。特に、マーケティング、オペレーション、メンテナンスの基本的な考え方の理解に活用している。

201805_7.jpg

「本体系」作成プロジェクト参加メンバー
  ・徳久 日出一    総括
  ・大喜多 富美郎   副総括、体系表作成担当
  ・松村 正之
  ・山本 倫寛
  ・永吉 和雄

  質問、活用提案などあれば、下記まで遠慮なくご連絡ください。
  徳久 日出一  (三多摩支部)  htoku1818@gmail.com
  大喜多 富美郎 (城南支部)   okita@ofc-okita.com

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