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2018.07.25
"金融"の切り口から中小企業経営を考える

企業金融研究会 吉田 勉

1.はじめに
 企業金融研究会では、金融を「血流」に例えて説明している。企業活動とは、資金を調達して事業に投資し、企業価値を向上させていく持続的な取り組みと言える。当研究会では、こうした「資金の調達」、そして「事業への投資」という、金融の視点から中小企業の課題を研究するとともに、診断実践を重視した活動を行っている。
 本稿では、これまでの研究活動を整理する形で、金融の切り口から中小企業経営を考察し、中小企業診断士の活動に寄与する機会としたい。

2.信用保証協会の保証付き融資の動向
 中小企業金融の中核を担っているのが公的機関である信用保証協会(注1)の保証が付いた制度融資である。市区町村や都道府県が利子の一部を補填する仕組みもセットになっているので、中小企業が金融機関から借入を行う場合には、多くが利用している。
 平成20年9月のリーマンショック後の金融支援対策として、信用保証予算は平成20年度には5割増の20兆円近くまで増額された。しかし、その後の推移をみると、リーマンショック後の増額以降は年々規模が縮小され、平成30年度予算は8兆円とリーマンショック以前の13兆円をかなり下回り、残高ベースでは最近のピーク時の36兆円から22兆円へと大幅に減少している。

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 リーマンショックの翌年、平成21年12月には中小企業金融円滑化法が施行された、中小企業に対する一律救済的な支援策が講じられ、信用保証協会(注1)が金融機関の融資に対して100%保証できるセーフティネット貸付も拡充された。具体的には、直近3カ月の売上高が前年同期比と比べて5%以上減少している場合を5号認定として、ほぼ全業種をセーフティネットの対象とし、金利や貸付期間の優遇措置がとられたのである。しかし、金融円滑化法は平成25年3月に終了し、セーフティネット5号認定の対象業種は、現在ではほぼ6分の1まで縮小している。
 中小企業支援施策は、これまでは差別なく一律支援的な要素が強かったが、金融円滑化法の終了を契機として、一律支援から限定的支援へと大きく舵が切られている。一方、平成24年度補正予算以降、ものづくり補助金、創業補助金、小規模事業者持続化補助金等各種補助金が新たに創設され、中小企業支援予算の拡充が図られた。公的保証の優遇支援が限定的になった一方で、ポテンシャル(成長可能性)の高い企業や意欲のある経営者に対しては、前向きな支援策が強化されたのである。こうした補助金は審査を経て採択されており、申請企業すべてに交付されるわけではない。一律支援から選別化支援のステージへ入ったと言えよう。
(注1)中小企業・小規模事業者が金融機関から融資を受ける際に、債務保証することにより融資を受けやすくなるよう支援する公的機関。責任共有を原則とし、通常は信用保証協会が8割、金融機関が2割の割合でリスクを共有する。

3.運転資金と設備資金
 借入金(融資)は、運転資金と設備資金に大別される。バブル期あたりまでは、事業の継続的な活動に必要な経常(正常)運転資金(注2)は短期借入金で調達し、設備資金は長期資金で調達する構造が一般的であった。短期借入とは返済期間が1年以内の期間の短い融資であり、一定金額を継続的に借り換えしていく場合には、最近では短期継続融資と呼ばれている。企業は一定の与信枠の範囲で継続して資金を確保できることから、経常運転資金(注2)を調達するには、非常に都合の良い資金である。借入金を返済せず利払いだけで済み、配当を支払えばよい資本金と事実上同じメリットを得ることができるので、疑似資本と言われることもある。かつては「短コロ(短期転がし)」と呼ばれ、一般的な借入形態であった。しかし、バブル崩壊後、金融機関が相次ぎ破綻した信用収縮の時代を経て、金融機関における短期継続融資の貸付は非常に厳しくなり、中小企業には利用が困難な状況が続いている。その結果、経常運転資金である仕入資金や決済資金を信用保証協会の保証付きの長期運転資金で調達している中小企業が非常に多くなり、資金繰りの繁忙化を招く状況になっている。
 短期借入金を継続的に借り換えられるかどうかは、その借り換え時の金融機関側の判断であり、継続される保証はない。過去の金融引き締めの時期には、黒字であっても短期借入金の継続融資が止められ、倒産した大手企業の事例も多い。卸売業などで仕入資金の割合が大きく、季節変動が大きい業態の場合には、経常運転資金であっても長短のバランスをとって金融リスクを緩和する対策も必要である。また、経常運転資金の算出においては、決算期末だけではなく、12ヶ月の月次の推移も考慮して検討しなければならない。
 ここで借入金の概念を整理したい。経常運転資金を長期で借り入れすると、約定返済資金の借り換えを定期的に行っていかないと資金繰りが厳しくなる。この時、借り換えで回していっても良い借入金と内部キャッシュフローで返済していくべき借入金が曖昧になってしまう。経常運転資金は、「売上債権(受取手形+売掛金)+在庫-仕入債務(支払手形+買掛金)+α」で算出される。+αは運転資金の予備として月商の半月程度見れば良いであろう。長期借入金を借り換える場合には、この経常運転資金の範囲内にとどめておくことが望ましい。この経常運転資金を長短借入金の合計額から差し引いたものが実質的な要返済債務であり、収益返済すべき借入金になる。この要返済債務を当期内部キャッシュフロー(当期利益+減価償却費)で割れば、実質的な債務返済年数が算出できる。

(注2)企業の事業活動を行っていくうえで継続的に必要と認められる運転資金であり、赤字運転資金とは区別される。正常運転資金とも言う。「経常運転資金=売上債権+在庫-仕入(買入)債務+α」で算出される。資金繰り的には短期継続で調達することが望ましいが、運転資金の季節変動が大きい場合には、長短借入金のバランスを図ることも必要である。

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4.担保と保証
 金融機関が融資する際には、その債権(貸付金)の回収を保全する目的で、担保や連帯保証を求めることが一般的である。中小企業が融資を受ける場合には、必ずと言って良いほど担保や保証が条件とされている。しかしながら、経営者の多くが十分理解しないままに担保を提供し、連帯保証人になっているケースが多い。
 "融資"という用語は、金融機関側の言い方であり、企業側からすれば、"融資を受ける"、あるいは"借入"となる。融資が契約されれば、金融機関は融資(貸付金)という債権を持ち、企業側は借入金という債務を負う。金融機関は債権者であり、借り入れした企業は債務者という関係である。債権者は、担保や連帯保証を徴求することにより自らの債権の保全を図っている。企業側から見ると、優良担保がないと融資が受けにくい、あるいは、経営者は経営責任上連帯保証人とならざるを得ない、というのが現状と言える。制度融資の中には、無担保・無保証人という優遇条件もあるが、これは限定的なメニューである。中小企業の多くの場合、担保や保証によって、企業の信用力が補完されている。

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(1)担保
 信用保証協会の保証付き融資では、原則として保証付き融資残高が80百万円以下までは無担保とされている。この80百万円の無担保枠を超える場合や、無担保枠内であっても業績が低迷している場合は、資産状況に応じて担保の提供を求められる可能性が生じる。
 担保は、土地や建物等の不動産担保が一般的である。金融機関がこれを担保にする場合は、不動産抵当設定契約を締結し、当該不動産に抵当権を設定して登記する。この登記がほかの債権者への法的な対抗要件になり、登記受付の順に優先権を持つので、金融機関にとっては、不動産登記は重要な保全手続きとなる。不動産登記簿謄本を開くと、表題部、権利部(甲区)、権利部(乙区)と続く。表題部には土地であれば、所在、地番、地目(土地の種類)、面積等、建物であれば、所在、家屋番号、種類、構造、面積等が記載されている。権利部の甲区には所有権に関する事項、乙区には所有権以外の権利に関する事項が記載され、この乙区に抵当権が登記される。
 物件評価は、金融機関が独自に行うもので一定の基準はないが、土地は路線価、建物は簿価等をベースに70%程度の掛け目を入れたあたりが目安となろう。担保評価額と借入金合計額を比べて評価額に余裕があれば、一般的には金利面の条件がよくなる。中小企業の場合、提供できる担保がないケースが多いので、公的な信用保証協会の保証による制度融資が広く利用されているわけである。
 企業においては、実際の借入額と金融機関の抵当権による保全額のバランスについても、確認しておく必要がある。抵当権(普通抵当権)は債権が特定され、返済と同時に登記された債権額も減少し、抵当権の抹消登記を行わなくても当該債務の完済と同時に抵当権は消滅する。しかし、根抵当権の場合には、債権が特定されず、極度額で包括的に保全され、極度額は返済しても減少せず将来の債権保全として枠として残り続ける。金融機関側としては、債権保全面で強力であり、管理も簡便な根抵当権を設定することが一般的である。
 中小企業にときどき見かけるのが、融資残高がほとんどないにもかかわらず、根抵当権が大きな極度額のままで残っているケースである。担保物件の評価を上回るような極度額の根抵当権が設定されている場合、他の金融機関への担保提供が困難になるので、資金調達の選択肢を狭めることになる。経営者は、担保の評価額と借入債務のバランスを常に意識していくことが重要である。

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(2)連帯保証
 企業が金融機関から融資を受ける際、法人においては代表者個人の連帯保証を求められることが多い。制度融資においても信用保証会の公的機関の保証に加えて、代表者の連帯保証を徴求することが一般的である。この連帯保証は、通常の保証とは違って債権者側から見れば、非常に強い債権保全手段になる。その違いは以下のとおりである。
 ①連帯保証人は、催告の抗弁権がない。請求が来た場合に、「まずは債務者に請求してください。」と主張することができない。
 ②連帯保証人は、検索の抗弁権がない。債務者が返済できる資力があるにもかかわらず返済を拒否した場合であっても、「債務者から返済してもらうか、債務者の財産を差し押さえてください。」と主張することができない。
 ③連帯保証人は、分別の利益がない。複数の連帯保証人がいる場合、人数で按分した金額だけを負担すれば良いのではなく、全額の返済義務を負う。

 債務者が約定どおり返済していれば保証の問題は生じないが、倒産等で返済不能に陥り、期限の利益(注3)を喪失すれば、連帯保証人は保証している債務の全額を返済しなければならなくなり、債務者と同等の責任を負うことになるのである。
 連帯保証に関しては、最近2つの見直しが行われている。1つ目は第三者保証の原則非徴求である。第三者とは、経営者以外の親族や事業の関係者等が該当する。第三者保証をとる場合には、高齢経営者の後継者であるとか、事業に大きく関与していること等の理由が必要になる。かつては、個人事業主として創業する場合には、親等の親族の連帯保証を求めることが一般的に行われ、第三者保証を付けることで金利条件でも大きく優遇されていたが、最近はこうした金利体系も見直されてきている。
 2つ目は経営者保証である。平成26年2月より「経営者保証に関するガイドライン」が適用になった。経営者保証を徴求する場合、従来は債権者である金融機関からの一方的な条件で済んだが、このガイドラインにより金融機関は説明責任を負うことになったのである。具体的には、法人と経営者個人の会計区分が曖昧である、企業の財務基盤が不安定であることなどの理由を説明しなければならない。結果的には多くの中小企業の経営者保証は免れないのが現実であるが、金融機関側の説明責任がガイドラインで示された意義はきわめて大きい。中小企業経営者は、こうした点を十分理解し、自社の信用力向上に努め、経営者の連帯保証を回避できるような経営を視野に入れていくことも必要である。
 しかしながら、制度融資においては、依然として「法人の場合は原則代表者の連帯保証」を要件とする記載が散見される。ガイドラインの趣旨に沿うのであれば、「担保・連帯保証は、金融機関との協議による。」と記載されるべきであり、最近は、こうした記載に変更している事例が増えている。
(注3)契約書上で定められた期日や期限が来るまでは、借入金等の債務の返済を行わなくてもいい債務者側の利益のこと。契約書では、通常期限の利益喪失条項が定められており、企業が倒産等の事由に該当すれば、債権者はこの期限の利益を喪失させ、期限を前倒しして一括請求することができる。

5.金融施策の動向
 金融政策についても大きな転換が見られる。かつての担保・保証に極度に依存した融資からの脱却である。すなわち、企業の事業性を評価して与信判断をする、という本来の金融機能の発揮が求められている。地銀、信用金庫、信用組合等の地域金融機関は、こうした方向性に対応できるか否かで二極化が進むと思われる。単に不良債権を抑制していくという経営姿勢では、金融機関としての存在意義は失わざるを得ない。今後、地域金融機関においては、コンサルティング機能を発揮し、企業の成長をサポートすることにより地域の活性化・振興に寄与していくことが大きな課題となる。
 一方、中小企業においても、金融機関と良好な関係を構築していくことが成長の鍵となる。金融機関は、融資や振込・送金等の役割だけではなく、事業に関するさまざまな有益な情報の提供者あり、助言者であるという、良きパートナーにもなるのである。中小企業においても金融機関を選別化するステージに入ったと言えよう。

6.おわりに
 企業金融研究会は、平成25年4月に発足後6年目を迎えた。現在の会員数は約40名、診断士以外では弁護士1名、建築設計コンサルタント1名が参加して活動している。毎月定例会を開催しているので、企業金融、診断の実践に関心のある方は、ぜひ見学にお越し願いたい。

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