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2018.08.26
働き方改革とダイバーシティ

ダイバーシティ研究会代表 佐藤 一樹

1.はじめに
 東京協会認定ダイバーシティ研究会は、経営の三要素である「ヒト・モノ・カネ」のうち、人的な経営資源に焦点を当てて「女性、高齢者、外国人、障がい者、LGBT等多様な人材」の雇用や創業などの社会経済的な活動による生産性の向上などの研究に勤しんでいる。
 今回は、企業の成長に向けた「働き方改革」について、ダイバーシティの観点から、中小企業診断士が適確な理解をもって支援に臨める手法を紹介する。
 
2.人材難の時代へ
 すでに周知の通り、これからの日本は少子高齢化による生産年齢人口の減少にともない、多くの企業が人材難に直面する。特に大手企業に比べて人材獲得力が弱い中小企業においては、すでに人手不足が進行し、事業の停滞や縮小、また廃業などの深刻な状況にある企業が少なくない。
 こうした環境変化に対して、取り組みの早い企業では、人材の獲得枠を女性や高齢者、外国人などへと拡大し、人材の募集・採用はもとより、定着や育成にも力を注ぐことと合わせて「多様な人材による組織づくり」やそのための「働き方改革」に着手することによって、生産性の向上や業績の成長を実現している。しかし現実には人材や組織の多様なマネジメントを苦手とする中小企業が大半であり、働き方改革も足踏みし、人手不足と競争力の低下に苦しむ状況に陥っている企業が多い。
 人手不足により生じている問題には 「需要の増加に対応できない」 「技術・ノウハウの着実な伝承が困難になっている」 「事業運営に支障を来たしている」など、重大な影響を及ぼしている状況が見て取れる。(図-1参照)

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3.組織・人的資源の改革=働き方改革
 現状の人手不足は、一般に労働力の正規軍(20~50代日本人男性)の不足として語られるが、まずはこの思い込みから脱することが重要で、人手不足に対しては、多様な人材に着目することにより、多くを解決することが可能である。女性は男性と同等の量と高等教育を受けた人材であり、高齢者、外国人などがこれに続く。これら多様な人材のことを「ダイバーシティ人材」と言い「ダイバーシティ経営企業100選」2) では、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげることを「ダイバーシティ経営」と定義しており、これからの日本企業が競争力を高めていくために、必要かつ有効な戦略と述べている。
 ただし、取り組む上での課題もあり、多様な人材の開発や組織の開発、新たなマネジメントの開発などが挙げられる。これは国が進める「一億総活躍」や「働き方改革」の課題と重なるが、ダイバーシティによる働き方改革の目的は、①多様な人材が「より多く」「よりよく」働けるようにすること、②1人あたりの生産性を高め、経営(経済)の成長を図ることの2点に集約できる。
 不足する労働力をカバーし、さらなる成長増分を得るためには、多様な人材の質的向上による「生産性の向上」がカギとなり、さらに量的確保が困難な局面では、「量」と「質」の両方の追求が必須となる。「一億総活躍」もこの「量」と「質」を同時追求するものであり、「働き方改革」はそのための手法と位置づけられる。
 「ワーク・ライフ・バランス」や「女性活躍」は、働き方改革やダイバーシティの試金石と言われている。仕事と生活の両立支援施策も、背景に少子高齢化や人手不足が存在し、今なお課題であり続け、働き方改革の取組要素となっている。以下にその重要視される理由を押さえておきたい。

①少子化対策による労働力確保が課題
  長時間労働慣行が女性就業の制約要因になり、結婚や子育てとの両立困難から少子化の要因となった。また、働き方の選択肢が限定される中、多様な人材を活かすことができず、労働力確保に問題を抱えることとなった。

②共働き世帯の増加と、変わらない働き方・性別役割分担意識
  現在、勤労者世帯の過半数が共働き世帯であるが、働き方や子育て支援などの社会的基盤や性別役割分担意識は従来のままであり、女性の就業上の制約は大きい。

③仕事と生活の間で問題を抱える人が増加
  長時間労働による心身の疲労や生産性の低下、働き方による格差拡大、さらに、プライベートでは家族団らんが持てないなど、仕事と生活の間で問題を抱える人が増えた。

 これらの結果、個人の生き方や人生のライフステージに応じて、多様な働き方が求められるようになり、また、働き方の見直しが、次に述べる生産性の向上や競争力の強化になるとの認識が一般的になってきた。
 人材確保の課題は、働きやすさや働きがいの追求が要件となり、一人あたりの業務量拡大の対応には一人あたりの労働生産性の向上がカギとなる。
 そのためには、次に掲げるような組織づくり(組織改革)が必要になる。

①多様な人材を受け入れる組織改革201809_4_1.jpg
  従来の働き方は、男性が同一の財・サービスを長時間働いて生産することであった。しかし、世界(OECD加盟35ヵ国)との比較では、日本の生産性は低く、1時間あたりのGDP換算では46.0USドルと20位に留まり、さらにOECD平均(51.9USドル)よりも低く、先進7ヵ国では最下位である。(図-2参照)
  人材の対象は女性だけでなく、高齢者や外国人、障がい者におよび、それぞれが持つ能力を発揮することにより、生産にプラスに作用するとともに、CSR活動(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)として、倫理的な面からも企業の付加価値を高めることができる。

②多様な人材が生産性高く働く組織改革

  労働投入量を徐々に増加させたときに、生産量の全体は増えていくものの、その増加分は次第に緩やかになるという「限界生産力逓減の法則」がある。
  長時間働いても、ある時点から生産量が増えにくくなるという、能率の低下ポイントを示す法則である。(図-3参照)

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③多様な人材による新しいマネジメントへの組織改革
  多様な人材による主なメリットとデメリットには次のものが挙げられる。
【メリット】
 ・多様な考え方が共存し、新しいアイデアが生まれる。
 ・社員一人ひとりの能力を活かすことができ、モチベーションが上がる。
 ・求職や新卒の応募に効果があり、離職が減る。
【デメリット】
 ・意見の集約に時間がかかり、マネジメントに対するコストがかかる。
 ・習慣・文化的なコンフリクトを生んだり、パワーバランスに労力を要する。
 
4.生産性を考える
 限られた人員で成果を上げるとき、一人ひとりの能力の成長や仕事への高い意欲、高い従業員満足、就業の継続・定着などが欠かせない。これからの経営では、社内の人材をこうした充足によって利益の源泉(生産性の高い"人財")に育てることが重要となる。
 労働生産性を高めるための考え方として、次の計算式が一般的である。
   労働生産性 = 売上高付加価値率×1人あたり売上高

 また、女性の活躍は企業のパフォーマンスにつなげるための人材活用戦略であり、その必要性はますます高くなっている。女性の活躍推進は企業が成長するための入り口と言われ、女性を活かした経営と業績の関係を示すと次のことが言える。(図-4参照)201809_5.jpg

①女性が活躍する企業は業績が良い。

 ・経営指標が良い。

 ・女性役員の比率が高い企業の方が、利益率が高い。

②育児休暇支援制度を導入した働き方改革では生産性が高い。

 ・女性の視点が、新たな発想や価値の創造につながっている。

 ・これまで潜在的な存在であった女性が、これからの競争力の一翼を担っている。

 

 

5.具体的な支援手法とポイント

 「ヒト」に対して、今までと同じやり方で採用や育成をするという、これまでの延長線上にあるのではなく、社員の意識や行動を変えることをともなう、新たな考え方が必要である。企業の規模や業種、風土などで、取り組み方や進め方は異なるが、働き方改革で人材難解決・生産性向上・利益創出を支援するための基本的な進め方を示す。
 働き方改革を推進していくためには、自社に最適な組織(チーム)体制で臨むことが重要であり、また、最初から大きな成果を目指さずに、足元の早くできる施策から始め、小さな成功を重ねることがポイントである。

 以下に、支援手法の手順と内容を示す。

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6.まとめ
 企業は働きやすさや働きがいの追求とともに、多様な人材が活躍することによって、生産性が向上することを述べた。その手法はPDCAというマネジメントサイクルである。これら一連の結果が働き方改革であり、冒頭の人手不足の解消となるものである。
 なお、新たな考え方を導入した際は、一度やったからといって組織に馴染んでいくものではないため、評価・対策・改善のアクションプランを作り、幾重にも繰り返し取り組んでいくことが重要である。

 働き方改革のポイントを以下に挙げる。
  ・改革の目標と全体像を描くこと。
  ・改革には、目的の明確化と経営者の強いリーダーシップが必要となること。
  ・経営者は精神的な発言・発信に留まらず、推進の仕組みづくりにも関与し、推進役と関わること。
  ・最初から大きな成果を目指さずに、小さな改革の成功で社内を元気づけ、機運を高めること。
  ・評価は、定量的・定性的に測定可能な成果指標を設定して行うこと。
  ・点検と見直した内容は、全社員また関係部署の構成員が共有すること。
 
 人材不足を打開する活路は組織と人材の生産性の向上にあり、多様な人材の確保と組織・人材の生産性を向上させるためには働き方改革が必要である。また、人材の量の確保には「多様な人材」がキーワードになり、質の確保では「生産性」がポイントとなることを頭に留めておきたい。

7.最後に
 上記に述べてきたように、中小企業においては、多様な人材の確保と活躍できる環境整備が喫緊の課題である。ダイバーシティ研究会では、こうした多様な人材を活かすマネジメント手法について、会員相互の研究成果の共有や診断実務経験を積み重ねている。また2016年にダイバーシティ研究会が母体となって「一般社団法人日本ダイバーシティ・マネジメント推進機構(JDIO)」を設立した。JDIOでは、ダイバーシティ・コンサルタント養成講座を開講し、ダイバーシティ・コンサルタントの認定資格を発行しているので、この分野で活躍を期する中小企業診断士はぜひ受講を検討していただきたい。

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1) 出典:「人材(人手)不足の現状等に関する調査」(企業調査)結果および「働き⽅のあり⽅等に関する調査」(労働者調査)結果、JILPT 調査シリーズ No.162、P7、労働政策研究・研修機構
2) 出典:「ダイバーシティ経営企業100 選」経済産業省
3) 出典:「若者・女性の活躍推進をめぐる現状について」、内閣官房・内閣府、第1回 若者・女性活躍推進フォーラムの資料 P6、2013年(平成25 年)

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