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2018.09.29
プロ野球人気は本当に下がっていますか? -「こと」づくりの視点で現状をみる-

スポーツビジネス研究会 中原裕之

はじめに
 私は、応援球団の試合を球場での観戦、もしくはCS衛星放送、ネット中継で毎日見ている「熱狂的野球ファン」である。
 よく言われる「日本プロ野球人気低下」のキーワード。診断士同士の飲み会でも、「野球は人気なくなっているよなぁ」という会話が多いのが、私の見た範囲での認識である。しかし、実際、球場に通ってみると「人気低下」を感じたことはなく、プロ野球への認識の「ギャップ」に戸惑っているのが、私の素直な心境である。
 今回は、その「ギャップ」を埋めるべく、日本のプロ野球の「人気」と言われる部分を、関連するデータを整理して、上記に書かれている疑問を軸に考察してみる。

1.プロ野球人気が落ちているのは本当?
(1)プロ野球の観客動員数は増加
 人気のバロメータの代表的な指標は、「観客動員数」である。ここ10年間のプロ野球の「観客動員数」推移を見ると、セ・リーグ 1,160万人(2005年)→1,385万人(2016年)、パ・リーグ 825万人(2005年)→1,113万人(2016年)と順調に伸びている。(図-1参照)

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 「プロ野球人気低下」の言葉とは裏腹に、両リーグとも、東日本大震災の影響があった2011~2012年を除き、継続的に増加している。私が感じたことと一致する数値である。
(2)閑古鳥が鳴く球場は存在しない
 観客動員数の推移をある観点で、動向をみようと思う。
 12球団を、球団の特徴により「①全国区球団」「②地方球団」「③都市圏球団」に分類する。定義としては以下の通りある。(表-2参照)

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 これら3タイプの球団の現状を見ると、ベース基盤が弱い③都市圏球団のファンが少ないのがわかる。(図-3参照)

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 苦しい市場環境である③都市圏球団であるが、10年間の1球団平均観客動員数の推移を見ると着実に伸びている。昔は、観客があまりにいないため、スタンドで「流しそうめん」をやった球場もあったようであるが、そのような閑古鳥が鳴く状況は一切ない現状がデータで出ている。(図-4参照)

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(3)着実に飛躍する横浜DeNAベイスターズの状況
 その③都市圏球団の中でも、ここ数年観客動員数が飛躍的に上昇しているのが、横浜DeNAベイスターズである。
 2011年12月、DeNAがTBSから球団を買収、横浜DeNAベイスターズが誕生した。現状をわかりやすく見る数値として、2011年から2016年までの売上高、収益、観客動員数の推移を以下の通り記載する。(図-5参照)

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 DeNAが球団を経営するようになった2012年度から、売上/収益、観客動員数は急激な右肩上がりである。特に重要なのは、2016年の3位(Aクラス)以外、他の年は、4位以下のBクラスであるチーム成績にかかわらず、横浜DeNAは、観客動員数を年々伸ばし続けたということである。
 結果として、売上激増(ほぼ2倍)、収益は、2011年の赤字(−24億円)から、2015年から黒字(2016年は +5億円)へ転換している。

 次章では、なぜ今の人気急上昇の状態になったのか、横浜DeNAの躍進の要因を考察してみる。

2.横浜DeNA躍進の要因......「こと」づくりの重要性
(1)プロ野球の「こと」作りとは  
 横浜DeNAの急上昇の要因を書く前に、プロ野球を「もの」づくり、「こと」づくりの視点で述べる。
 プロ野球は「もの」づくりとして、チームの成績、選手(監督・コーチ)、スタジアム(競技する施設・環境)があるのに対して「こと」づくりとして、野球の競技としては直結していないスタジアム(グルメなどスタジアムでの販売)、チケット販売(販売方法含む)、グッズ販売などが存在すると考えられる。(図-6参照)

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(2)チームの好成績は観客動員上昇に必ずしも結びつかない
 よく言われるのは、「もの」づくりの視点である「チームの順位が上がれば、観客動員数は増え、収入も増える」ということである。しかし、プロ野球12球団のチームの順位と観客動員数を相関係数で見ると、順位と観客動員数と相関している0.4以上の球団は少なく、一部を除いて大多数の球団はチーム成績とあまり関係していないことがわかる。さらにみると、③都市圏球団は、チーム成績とあまり関係していないことがわかる。(図-7参照)

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 したがって、観客動員数を伸ばす要素は「こと」作りが重要なポイントと考える必要がある。特に横浜DeNAが入っている③都市圏球団は、その傾向が顕著であり、言い換えれば、「勝てば、必ずしもお客様が来てくれるわけでない」ということにもなる。
 次から「こと」作りを観点に、横浜DeNAベイスターズの行動を述べる。

(3)横浜DeNAベイスターズの「こと」作りに対する取り組み
 横浜DeNAベイスターズは「こと」づくりをするにおいて、まず2012年からチケット販売、ファンクラブのデータなど複数のデータから分析して導き出した結果、ターゲットを以下の通り絞った。
 
  メインターゲット:「アクティブサラリーマン」30代を中心としたビジネスマン
 
 チケット購入者を分析するとまず、30〜40代の購入が多いことがわかり、さらに詳細分析をすると、仕事帰りや休日の娯楽として野球場に足を運ぶ30代男性サラリーマンをターゲットにすると観客増に有効と結果が出た。よって、仕事や金銭面で一定の余裕が生まれ、多様な趣味をアクティブに取り組む男性を「アクティブサラリーマン」としてターゲットとし「こと」づくりの観点で以下の企画を実施した。
 (注意:ここに記載しているのは代表的な企画である。)

 ①スタジアムを「ボールパーク化」
 本拠地の横浜スタジアムでは「球場で過ごす時間の価値をいかに高めるか」ということで「ボールパーク化」を実現すべく、さまざまな立場で楽しめる魅力的なシート、快適なトイレ、託児所などの「ハード面」を整備した。
 また、ベイスターズの象徴的な色である「ブルー」を意識した改装も実施。さらに、スタジアム前で、夏ならビアガーデン等イベントも多数企画し、「試合前から楽しんで、いい雰囲気のまま試合へ」というストーリー作りをするようになった。
 昨年、6年ぶりに横浜スタジアムに行ってきたが、昔の汚いイメージはなく、上記に書かれた通りに変わって、試合前、試合中、合計6時間、まんべんなく楽しめた。ある一種の野球の「テーマパーク」であったと感じた。
 
 ②スタジアムの飲食の「本物化」
 スタジアムの飲食に関して、専門店に近づくべく「本物化」を進めた。代表して、ビール、コーヒー、カレーを紹介する。

 ビール:ベイスターズが手掛けたオリジナル醸造ビール(クラフトビール)の販売
 http://www.baystars.co.jp/beer/


※なお、東急ハンズ横浜店でビン売りをしている
  コーヒー:球場専用カフェ「BALLPARK COFFEE」で、ビール同様球団が手がけたコーヒー、コーヒー豆の提供
       ※毎日10時~19時の営業
 https://tabelog.com/kanagawa/A1401/A140104/14058609/


  カレー:若手選手が生活する「青星寮」で実際に提供されるカレーライスを「青星寮カレー」として商品化
https://www.yokohama-stadium.co.jp/foods-shop/detail/?n=10788

 実際、ビール、コーヒーを飲み、カレーを食べたが、従来の球場の食べ物にあった「高い、まずい」のイメージとは非常にかけ離れており、また食べたいと思えるものだった。

 ※「メンチカツ(ベイメンチ)」「ホットドック(ベイスターズドッグ)」なども推奨できるものがあり、これからも逸品が出てくると思われる。

 ③グッズの「ストーリー化」
 球団経営で一番コントロールできる分野がグッズであり、今まで少なかったグッズのラインアップを急増した。グッズの企画にあたっては、ファンの心をがっちりつかむために、特に「球団の歴史」と「地元」の観点で「ストーリー」の部分を重視した。
 球団の歴史の観点では、ベイスターズの前身球団の大洋ホエールズが川崎市から横浜市に移転した当時(1978年)のマスコットキャラクター「マリンくん」を復刻しグッズ化。オールドファンだけでなく、新しいファンもデザインに新鮮さがあったため、好評でグッズの売り上げ上昇に貢献した。
 また、地元の観点では、DeNA球団になってから5周年記念企画の一環として、ビジターユニフォームの胸に親会社の企業名(DeNA)でなく、都市名の「YOKOHAMA」にして、それに伴いレプリカとしてグッズ販売した。「ベイスターズという球団は地域(横浜市)のものである」という意志表示をしたグッズは、飛ぶように売れたそうである。

 ※この頃試合前に横浜市民の必須事項である「横浜市歌」を合唱しており、地元意識を高めて試合へとなっている。

 以上の「ことづくり」による企画で、先述通り、横浜DeNA観客動員急増に結びつく一因となっている。チーム成績に関しても、2016年は久しぶりのAクラス(3位)、2017年はクライマックスシリーズ優勝を果たし、日本シリーズの激闘を経験した。この現象をみても、「こと」づくりのがんばりが、「もの」づくりへ明らかに影響している証拠であると感じる。

3. データを整理するとプロ野球人気は低下していない
 こうしてデータを整理して説明してみると、プロ野球人気は低下しているとは必ずしも言い切れない。つまり、タイトルの答えは、「No」である。
 「こと」づくりを12球団総じて見ると「来場者全員へのレプリカ配布企画」「女性ファン獲得」の企画、グッズ企画の単体企画でなく、スタジアム、まちづくりのレベルまでとスケールの大きい話になってきている。横浜スタジアム(横浜DeNA)、また、メットライフドーム(埼玉西武)は、スタジアム全体でのボールパークを目指す大改修を予定している。さらに、北海道日本ハムは、ホテル、商業施設(ショッピングセンターなど)を含めた新球場の北海道内での移転を計画している。
 今後も「こと」づくり傾向は、プロ野球人気を支えると感じる。そして、チーム、選手は、増加した観客を見て、「もっと良いプレーをしよう」「彼らのために優勝しよう」という気持ちにさせ、プレーの質(=「もの」づくりの質)も上がると期待できる。

4.終わりに......地上波テレビ中継の現実からのプロ野球人気
 最後に一言。この原稿を作成している過程で、こんな考えが浮かんでしまった。
 ひとことで「プロ野球人気は低下していない」と言えないのか?

 「プロ野球人気低下」のキーワードの直接結びつくものとして考えられるのが、巨人戦の「地上波全国中継の大幅減少」がある。「プロ野球人気」イコール「巨人戦」の地上波全国中継も、この頃の低視聴率(10%以下)で地上波放送は激減した。「プロ野球人気低下」は、その点を指しているかと想像する。
 しかし、他球団の地上波中継状況は違う。12球団の地上波テレビ中継回数を見ると、ソフトバンク、日本ハム、広島、中日、楽天などの②地方球団、および関西をベースとする①全国区球団の阪神は、地域限定であるが、かつての巨人戦のように地上波中継を多数している。それに対し、巨人は、③都市圏球団並みに地上波中継が少ないのが状況である。
(表-8参照)

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 以前の巨人戦は140試合をホーム、ビジター関係なく地上波中継があったことを考えると、東京地区での地上波の放送は6分の1まで減少している現状では、一般への認知度が減少していると言える。巨人戦=野球人気で考えるなら、地上波での露出が低下した以上、一般的に「人気低下」と見えるのは当然と言える。
 放映権の高い地上波テレビ中継だけを見れば、従来の巨人だけを頼る時代は終わったと考える。さらに、CS・BSの衛星放送、DAZNなどのネットTV中継とテレビ中継の手段は多様となっており、有料放送の条件付きであるがテレビ中継の環境は、12球団とも同じであると言える。
 この環境を踏まえて、昔の「巨人」頼りのビジネスを上回るインパクトを残すような「プロモーション戦略」がプロ野球ビジネスにおいて現状では必須であり、これを解決しない限り、「プロ野球人気低下」のキーワードはずっと続くであろう。このキーワードを過去のものにするために、日本プロ野球は、12球団一体となった日本プロ野球の「見せ方」を変えることが、「人気低下」と言われないための必須事項と考える。

参考書籍:スポーツビジネスの教科書 常識の超え方
       35歳球団社長の経営メソッド(池田 純著/文芸春秋社)

<スポーツビジネス研究会>
 スポーツビジネス研究会は、スポーツを通じた施策による中小企業/地域活性化の可能性について多面的に研究を行い、中小企業診断士の視点で支援できるレベルに持って行くことを目的として、発足しました。
 研究会では、①スポーツビジネスにおける事例などの研究活動、②リーグやチーム、スポーツショップなど実際のスポーツ関連組織に対する提案活動、以上2つの視点で活動を行っています。
 今後の展望としては、今の研究活動を実際のスポーツビジネスに結びつけ、スポーツビジネスの現場に入る人材が出てくることを目標として活動したいと思っております。

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