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2018.10.27
組織開発とは ~その手法を活用した企業支援事例を交えてご紹介~

組織開発研究会
小泉篤史 小久保和人 清野安希子

組織開発のポイントは主体性と関係性  

 組織開発を説明するには、一般に知られている人材開発との対比で説明するのがわかりやすいだろう。図1をご覧いただきたい。人材開発は、組織(会社・部門・チーム)を構成する社員ひとりひとりの知識やスキルを向上させようとする働きかけである。具体的には研修(Off-JT)やOJTであり、これは多くの企業ですでに実施されている。しかし、「社員ひとりひとりに人材開発を実施して、各社員の知識やスキルが向上しても、必ずしも行動や成果に結びついていない」ということがよくある。

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 なぜなら、知識やスキルのレベルが高くても、主体性(マインド、やる気、モチベーション)が低ければ、行動や成果に結びつかないことが多々あるからである。行動や成果に結びつくかどうかは、ともすれば当人の資質・性格の問題であると片付けられてしまうことが多いが、実際には、組織全体の関係性に問題があり、そのために主体性が発揮できなくなっているケースも多い。  社員ひとりひとりが主体性を発揮できるかどうかは、組織全体の関係性に大きく影響される。組織全体の関係性が良好なら、社員は主体性を発揮しやすくなる。逆に、組織全体の関係性が悪ければ、社員は主体性を発揮しづらくなる。たとえば、新規事業のアイデアを出す会議で、若い社員が自分の意見を言った際、「それはいいアイデアだね!」と前向きに受け入れてくれる組織と、「そのアイデアは実現性が低そうだね...。何かパッとしないね...。」などと悲観的に意見をとらえる組織では、どちらの組織の方が多くのアイデアが出るかは容易に想像できるだろう。  つまり組織開発とは、組織全体の関係性に働きかけることで、社員ひとりひとりが主体性を発揮しやすくし、行動し成果に結びつける組織づくりを行うことである。

関係の質を高めることから始める

 組織全体の関係性に働きかけることの重要性はマサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱する「組織の成功循環モデル」で説明できる。成功している組織では、関係の質→思考の質→行動の質→結果の質の順に好循環(グッドサイクル)が回っている。通常、われわれはともすると結果の質(たとえば、売上予算の達成)にばかり着目しがちだが、組織の成功循環モデルのポイントは、関係の質を高めることから始める点にある。(図2参照)

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 まず組織の関係の質を高めることから始める。関係の質が高まれば、たとえば社員間で前向きな意見交換が頻繁に行われるようになり、思考の質が高まってくる。思考の質が高まれば、社員が自発的・積極的なチャレンジを行うようになり、行動の質が高まってくる。そのような思考・行動を続けていれば、いずれ成果に結びついていく(=結果の質が高まる)。そして、結果の質が高まれば、社員間の信頼関係が深まり、さらに関係の質が高まっていく。このように、関係の質を高めることから始めるということは、一見遠回りのように思えるかもしれないが、組織が持続的に結果を出し、成長し続けていくために重要な「急がば回れ」戦略なのである。  では、組織の関係の質を高めるためには、どうすればよいのだろうか。その解決方法のひとつに、社員間でお互いのことを知り合う機会を作り、活発なコミュニケーションが行われる場を創出することがある。次からは組織の関係の質を高めるための有効な手段のひとつとして、対話について述べていく。

対話型組織開発

 「組織の成功循環モデル」における"関係の質"を高めるため、当研究会では「対話」の重要性を意識した活動を行っている。「対話」によって多様な視点を持って語り合い、理解しあうことで人と人との関係や人と組織の関係が良いものに変わっていくと考えているからである。  ここでの「対話」はもちろん、単に人と人が向き合って話をするというだけの意味ではない。「対話」について考察された書籍『ダイアローグ 対話する組織』(著者:中原淳、長岡健 ダイヤモンド社)において「対話」とは以下のように定義づけられている。    ⑴共有可能なゆるやかなテーマのもとで    ⑵ 聞き手と話し手で担われる    ⑶ 創造的なコミュニケーション行為  上記の定義を元に考えれば、「対話」とは共有可能なテーマに基づいて行われるという意味において単なる会話とは異なる。また、聞き手が話し手と同程度または話し手以上に重要な役割を担っている点も「対話」の特徴としてあげられる。そして話し合いによって単に情報を共有したり議論を戦わせたりするだけではなく、それぞれの持つ価値観や世界観を受け入れることで、相手への理解を深め、自分自身の理解も深める、まさに創造的なコミュニケーション行為こそ「対話」と呼ばれるものである。  「対話」を実現するためのコミュニケーション手法の一つとして「Yes, and」話法というものがある。元々、「Yes, and」は台本を用意せずに即興的に演じる即興劇において、相手のアイデアを受け入れた上で、自分のアイデアを付け加えるスキルを表す言葉だが、これを人と人とのコミュニケーションに応用したものが「Yes, and」話法である。具体的には人とのコミュニケーションの場面において、相手が提案してきたことに対し「そうですね」と肯定したあとに「それに加えて」や「さらに」と話を広げていく。たとえば実現性の乏しいと思われる新規事業の提案に対して「良いアイデアですね、でも実現性が乏しいですね」(Yes, but)ではなく、「良いアイデアですね、さらに実現性を上げる方法として○○社のビジネスモデルを参考にして考えましょう」(Yes, and)と返すといった具合である。当研究会でも過去に「Yes, and」の効果を体験するワークを行った。シンプルだが日常生活において実践するためには常に「Yes, and」のマインドを意識して持つことが必要であり、奥の深い手法である。  組織開発においても「対話」は重要なキーワードとなっている。 組織開発にはさまざまなアプローチ手法があるが、大きく「診断型組織開発」と「対話型組織開発」に分けることができる。  「診断型組織開発」とは、外部から入ってきたコンサルタントのような組織開発(OD)実践者による診断のフェーズを伴うアプローチである。このアプローチについては論文等で「OD Map」というモデルに従って説明されることが多いが、本稿では説明を省略する。  一方の「対話型組織開発」について、南山大学人文学部心理人間学科教授の中村和彦氏が論文中で「OD実践者による診断のフェーズがなく、参加者の対話を通して現状を共有し、アクションの計画をしていくアプローチであり、参加者同士の対話の場がさまざまな形で設けられる」と説明している。(診断型と対話型という大別を提唱したBushe, G. R.& Marshak, R.の定義に基づく)  「対話型組織開発」の実践方法として、日本ではAI(Appreciative Inquiry/アプリシエイティブ・インクワイアリー)、フューチャーサーチなどが導入されている。

AI(Appreciative Inquiry/アプリシエイティブ・インクワイアリー)とは

 AIは、米国のデービッド・クーパーライダー教授(David L.Cooperrider)とダイアナ・ホイットニー氏(Diana Whitney)らにより、1987年に提唱された組織開発アプローチの1つである。「Appreciative」は「真価を評価する」「価値を認める」、「Inquiry」は「問いかけ」「探究」の意味があり、価値を認める問いかけによって個人や組織に光を当て、メンバーと協働しながら未来を創造し実現していくための方法だ。できていないことに焦点をあてた問題解決方法に対して、ありたい姿を達成すべく課題に臨むことからポジティブアプローチと呼ばれる。AIの特徴は、次の代表的な原理にある。

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AIの進め方

 AIは下記の4Dサイクルに沿って進められる。  ① Discovery(発見する)  インタビューをもとに対話を通じてポジティブコアを見出す段階。ポジティブコアとは自分達のエネルギーの源、強みのことである。インタビューでは、たとえば「これまでの仕事でもっとも充実した体験は?」、「自分が関わったことでうまくいった経験は?」などの質問によって、強みや成功要因を掘り下げていく。インタビューを行った後、数人による対話を行いポジティブコアをまとめていく。  ② Dream(理想を描く)  ポジティブコアを活かすことで生まれてくる未来、ありたい姿を描く段階。メンバー相互の対話を通じて理想の将来像を言語化していく。  ③ Design(設計する)  言語化した理想の将来像を実現するために実施することを決める段階。組織文化を形成するコミュニケーションや意思決定のあり方、リーダーシップなどとも関連している。  ④ Destiny(実行する/持続する)   理想の将来像実現に向けて持続的に実行する段階。

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企業での活用例

 対話の場を設計するにあたり、AIの活用は大変有用である。ただ、プロセスすべてを行うには2~3日を要し、現実はそれほど時間が割けないことが多い。ここでは、AIの一部を活用したワークショップによってコアバリュー(企業が大事にしている基本的価値観)の策定を行った事例について紹介する。  事例企業A社(以後「A社」)は創業から20年ほど経過し、規模が拡大するにつれて職場の関係性が希薄になったことに起因する問題がいくつか生じた。そこで組織文化を見直し、1つの方策としてコアバリューの策定とその共有を通して魅力ある組織づくりを目指した。以下はプロジェクト発足から8か月間に実施した流れである。

1.プロジェクトの発足

 社内のメンバーが推進役となって進めることにより主体性を促した。キックオフミーティングでは、①「それぞれにとって魅力ある組織とは?」について話し、②目的の共有、③スケジュール、④ワークショップの流れ確認(ミニ体験)、⑤ファシリテーションのトレーニングを実施した。

2.ワークショップ

 プロジェクトメンバー数人と協働してファシリテーションを行う体制とした。ワークショップの1日の流れは下記の通り。1回に20名程度が参加し複数回実施した。  

 ⑴ イントロダクション

 ファシリテーターの紹介、ワークショップの目的、流れ等の説明、グランドルールの合意など。

 ⑵ チェックイン

 参加者の状態を確認し、より深い相互理解のベースにするため、話し合いの始めと終わりに、全員が一言ずつ今の自分の状態、気持ちなどを話す手法。場に集中する効果などもある。今回は「自分にとって魅力ある組織とは?」をテーマにした。

 ⑶ ストーリーテリング

 事前に経営者より創業からこれまでの歴史、印象に残っている出来事をその時の思いとともに語ってもらい、その様子を動画に撮影した。ワークショップ当日は、この動画を参加者に観てもらったうえでA社が今後も受け継いでいきたいことについて対話を行った。

 ⑷ ディスカバリーインタビュー

 AIのDiscovery(発見する)をベースに2人1組でインタビューを行った。インタビューの進め方、始めるにあたっての留意事項、聴き手の心得などを記載したワークシートを用意し、その人が「もっとも輝いた瞬間」について1人30分程時間をとった。インタビュー終了後、聴き手はインタビューから感じた話し手の成功要因や強みについてフィードバックをした。最後に時間をとり、話したことやフィードバック内容などの振り返りを通して、自分自身の強み、ポジティブコアについて考えた。

 ⑸ グループダイアローグ

 AIのDream(理想を描く)を参考に①ディスカバリーインタビューの共有、②「30年先私たちはどういう会社でありたいか、どうなっていれば魅力ある組織なのか」③「私たちが今後大切にしていきたいこととは」に関する価値観と背景、理由などについて順にグループごとに対話し、全グループがその内容を発表した。発表はグループ全員が発言し、他のグループからフィードバックを受けることで参加、承認のプロセスを踏んだ。

 ⑹ チェックアウト

 最後に今日のワークショップを振り返る時間をとった後、自分にとってはどんな時間だったかを一言ずつ話した。

3.コアバリューの設計

 プロジェクトメンバーは、動画で記録したワークショップの発表場面にあらためて目を通した。そして、そこから出てきたキーワードやその意味することを言語化し、経営者とのやりとりを繰り返しながらクレドカードとしてまとめた。また、ワークショップの動画や写真をもとに、新コアバリューの発表用動画を製作した。最後に、主要者が集まる会議にて先の動画で新コアバリューを発表し、経営者からもあらためて思いを語っていただいた。  ワークショップ参加者による記述式のアンケートでは、個人のモチベーションにつながったと思われた回答が44%、参加者間の関係性構築につながったと思われた回答が33%、会社へのエンゲージメントが強まったと思われた回答が37%、自分自身の職場の関係性構築につなげたいとの回答が37%の結果を得た。本ワークショップでは相互インタビューにより、自己の経験を振り返ることで自己理解につながったのではないかといえる。相手からフィードバックを受けることで自己肯定感が高まったとともに相互の信頼感が醸成された。自ら主体的にビジョンを描くことで参画意識が高まり、共創のプロセスを通して一体感が引き出された。ワークショップを通じて内発的な動機づけの機会となったと考える。課題としては一時的な効果はあったものの、時間の経過とともに希薄化することも考えられるため、継続的な取組みが必要である。

最後に

 当研究会では、今回事例としてご紹介したAIをはじめ、さまざまな手法を用いて組織の課題解決をハンズオンで実施している。組織開発について学びたい、顧問先や勤務先企業の組織に関する相談がしたいなどのご要望があればお気軽にご相談いただきたい。 odken.koho@gmail.com

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