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2018.08.26
働き方改革とダイバーシティ

ダイバーシティ研究会代表 佐藤 一樹

1.はじめに
 東京協会認定ダイバーシティ研究会は、経営の三要素である「ヒト・モノ・カネ」のうち、人的な経営資源に焦点を当てて「女性、高齢者、外国人、障がい者、LGBT等多様な人材」の雇用や創業などの社会経済的な活動による生産性の向上などの研究に勤しんでいる。
 今回は、企業の成長に向けた「働き方改革」について、ダイバーシティの観点から、中小企業診断士が適確な理解をもって支援に臨める手法を紹介する。
 
2.人材難の時代へ
 すでに周知の通り、これからの日本は少子高齢化による生産年齢人口の減少にともない、多くの企業が人材難に直面する。特に大手企業に比べて人材獲得力が弱い中小企業においては、すでに人手不足が進行し、事業の停滞や縮小、また廃業などの深刻な状況にある企業が少なくない。
 こうした環境変化に対して、取り組みの早い企業では、人材の獲得枠を女性や高齢者、外国人などへと拡大し、人材の募集・採用はもとより、定着や育成にも力を注ぐことと合わせて「多様な人材による組織づくり」やそのための「働き方改革」に着手することによって、生産性の向上や業績の成長を実現している。しかし現実には人材や組織の多様なマネジメントを苦手とする中小企業が大半であり、働き方改革も足踏みし、人手不足と競争力の低下に苦しむ状況に陥っている企業が多い。
 人手不足により生じている問題には 「需要の増加に対応できない」 「技術・ノウハウの着実な伝承が困難になっている」 「事業運営に支障を来たしている」など、重大な影響を及ぼしている状況が見て取れる。(図-1参照)

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3.組織・人的資源の改革=働き方改革
 現状の人手不足は、一般に労働力の正規軍(20~50代日本人男性)の不足として語られるが、まずはこの思い込みから脱することが重要で、人手不足に対しては、多様な人材に着目することにより、多くを解決することが可能である。女性は男性と同等の量と高等教育を受けた人材であり、高齢者、外国人などがこれに続く。これら多様な人材のことを「ダイバーシティ人材」と言い「ダイバーシティ経営企業100選」2) では、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげることを「ダイバーシティ経営」と定義しており、これからの日本企業が競争力を高めていくために、必要かつ有効な戦略と述べている。
 ただし、取り組む上での課題もあり、多様な人材の開発や組織の開発、新たなマネジメントの開発などが挙げられる。これは国が進める「一億総活躍」や「働き方改革」の課題と重なるが、ダイバーシティによる働き方改革の目的は、①多様な人材が「より多く」「よりよく」働けるようにすること、②1人あたりの生産性を高め、経営(経済)の成長を図ることの2点に集約できる。
 不足する労働力をカバーし、さらなる成長増分を得るためには、多様な人材の質的向上による「生産性の向上」がカギとなり、さらに量的確保が困難な局面では、「量」と「質」の両方の追求が必須となる。「一億総活躍」もこの「量」と「質」を同時追求するものであり、「働き方改革」はそのための手法と位置づけられる。
 「ワーク・ライフ・バランス」や「女性活躍」は、働き方改革やダイバーシティの試金石と言われている。仕事と生活の両立支援施策も、背景に少子高齢化や人手不足が存在し、今なお課題であり続け、働き方改革の取組要素となっている。以下にその重要視される理由を押さえておきたい。

①少子化対策による労働力確保が課題
  長時間労働慣行が女性就業の制約要因になり、結婚や子育てとの両立困難から少子化の要因となった。また、働き方の選択肢が限定される中、多様な人材を活かすことができず、労働力確保に問題を抱えることとなった。

②共働き世帯の増加と、変わらない働き方・性別役割分担意識
  現在、勤労者世帯の過半数が共働き世帯であるが、働き方や子育て支援などの社会的基盤や性別役割分担意識は従来のままであり、女性の就業上の制約は大きい。

③仕事と生活の間で問題を抱える人が増加
  長時間労働による心身の疲労や生産性の低下、働き方による格差拡大、さらに、プライベートでは家族団らんが持てないなど、仕事と生活の間で問題を抱える人が増えた。

 これらの結果、個人の生き方や人生のライフステージに応じて、多様な働き方が求められるようになり、また、働き方の見直しが、次に述べる生産性の向上や競争力の強化になるとの認識が一般的になってきた。
 人材確保の課題は、働きやすさや働きがいの追求が要件となり、一人あたりの業務量拡大の対応には一人あたりの労働生産性の向上がカギとなる。
 そのためには、次に掲げるような組織づくり(組織改革)が必要になる。

①多様な人材を受け入れる組織改革201809_4_1.jpg
  従来の働き方は、男性が同一の財・サービスを長時間働いて生産することであった。しかし、世界(OECD加盟35ヵ国)との比較では、日本の生産性は低く、1時間あたりのGDP換算では46.0USドルと20位に留まり、さらにOECD平均(51.9USドル)よりも低く、先進7ヵ国では最下位である。(図-2参照)
  人材の対象は女性だけでなく、高齢者や外国人、障がい者におよび、それぞれが持つ能力を発揮することにより、生産にプラスに作用するとともに、CSR活動(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)として、倫理的な面からも企業の付加価値を高めることができる。

②多様な人材が生産性高く働く組織改革

  労働投入量を徐々に増加させたときに、生産量の全体は増えていくものの、その増加分は次第に緩やかになるという「限界生産力逓減の法則」がある。
  長時間働いても、ある時点から生産量が増えにくくなるという、能率の低下ポイントを示す法則である。(図-3参照)

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③多様な人材による新しいマネジメントへの組織改革
  多様な人材による主なメリットとデメリットには次のものが挙げられる。
【メリット】
 ・多様な考え方が共存し、新しいアイデアが生まれる。
 ・社員一人ひとりの能力を活かすことができ、モチベーションが上がる。
 ・求職や新卒の応募に効果があり、離職が減る。
【デメリット】
 ・意見の集約に時間がかかり、マネジメントに対するコストがかかる。
 ・習慣・文化的なコンフリクトを生んだり、パワーバランスに労力を要する。
 
4.生産性を考える
 限られた人員で成果を上げるとき、一人ひとりの能力の成長や仕事への高い意欲、高い従業員満足、就業の継続・定着などが欠かせない。これからの経営では、社内の人材をこうした充足によって利益の源泉(生産性の高い"人財")に育てることが重要となる。
 労働生産性を高めるための考え方として、次の計算式が一般的である。
   労働生産性 = 売上高付加価値率×1人あたり売上高

 また、女性の活躍は企業のパフォーマンスにつなげるための人材活用戦略であり、その必要性はますます高くなっている。女性の活躍推進は企業が成長するための入り口と言われ、女性を活かした経営と業績の関係を示すと次のことが言える。(図-4参照)201809_5.jpg

①女性が活躍する企業は業績が良い。

 ・経営指標が良い。

 ・女性役員の比率が高い企業の方が、利益率が高い。

②育児休暇支援制度を導入した働き方改革では生産性が高い。

 ・女性の視点が、新たな発想や価値の創造につながっている。

 ・これまで潜在的な存在であった女性が、これからの競争力の一翼を担っている。

 

 

5.具体的な支援手法とポイント

 「ヒト」に対して、今までと同じやり方で採用や育成をするという、これまでの延長線上にあるのではなく、社員の意識や行動を変えることをともなう、新たな考え方が必要である。企業の規模や業種、風土などで、取り組み方や進め方は異なるが、働き方改革で人材難解決・生産性向上・利益創出を支援するための基本的な進め方を示す。
 働き方改革を推進していくためには、自社に最適な組織(チーム)体制で臨むことが重要であり、また、最初から大きな成果を目指さずに、足元の早くできる施策から始め、小さな成功を重ねることがポイントである。

 以下に、支援手法の手順と内容を示す。

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6.まとめ
 企業は働きやすさや働きがいの追求とともに、多様な人材が活躍することによって、生産性が向上することを述べた。その手法はPDCAというマネジメントサイクルである。これら一連の結果が働き方改革であり、冒頭の人手不足の解消となるものである。
 なお、新たな考え方を導入した際は、一度やったからといって組織に馴染んでいくものではないため、評価・対策・改善のアクションプランを作り、幾重にも繰り返し取り組んでいくことが重要である。

 働き方改革のポイントを以下に挙げる。
  ・改革の目標と全体像を描くこと。
  ・改革には、目的の明確化と経営者の強いリーダーシップが必要となること。
  ・経営者は精神的な発言・発信に留まらず、推進の仕組みづくりにも関与し、推進役と関わること。
  ・最初から大きな成果を目指さずに、小さな改革の成功で社内を元気づけ、機運を高めること。
  ・評価は、定量的・定性的に測定可能な成果指標を設定して行うこと。
  ・点検と見直した内容は、全社員また関係部署の構成員が共有すること。
 
 人材不足を打開する活路は組織と人材の生産性の向上にあり、多様な人材の確保と組織・人材の生産性を向上させるためには働き方改革が必要である。また、人材の量の確保には「多様な人材」がキーワードになり、質の確保では「生産性」がポイントとなることを頭に留めておきたい。

7.最後に
 上記に述べてきたように、中小企業においては、多様な人材の確保と活躍できる環境整備が喫緊の課題である。ダイバーシティ研究会では、こうした多様な人材を活かすマネジメント手法について、会員相互の研究成果の共有や診断実務経験を積み重ねている。また2016年にダイバーシティ研究会が母体となって「一般社団法人日本ダイバーシティ・マネジメント推進機構(JDIO)」を設立した。JDIOでは、ダイバーシティ・コンサルタント養成講座を開講し、ダイバーシティ・コンサルタントの認定資格を発行しているので、この分野で活躍を期する中小企業診断士はぜひ受講を検討していただきたい。

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1) 出典:「人材(人手)不足の現状等に関する調査」(企業調査)結果および「働き⽅のあり⽅等に関する調査」(労働者調査)結果、JILPT 調査シリーズ No.162、P7、労働政策研究・研修機構
2) 出典:「ダイバーシティ経営企業100 選」経済産業省
3) 出典:「若者・女性の活躍推進をめぐる現状について」、内閣官房・内閣府、第1回 若者・女性活躍推進フォーラムの資料 P6、2013年(平成25 年)

2018.07.25
"金融"の切り口から中小企業経営を考える

企業金融研究会 吉田 勉

1.はじめに
 企業金融研究会では、金融を「血流」に例えて説明している。企業活動とは、資金を調達して事業に投資し、企業価値を向上させていく持続的な取り組みと言える。当研究会では、こうした「資金の調達」、そして「事業への投資」という、金融の視点から中小企業の課題を研究するとともに、診断実践を重視した活動を行っている。
 本稿では、これまでの研究活動を整理する形で、金融の切り口から中小企業経営を考察し、中小企業診断士の活動に寄与する機会としたい。

2.信用保証協会の保証付き融資の動向
 中小企業金融の中核を担っているのが公的機関である信用保証協会(注1)の保証が付いた制度融資である。市区町村や都道府県が利子の一部を補填する仕組みもセットになっているので、中小企業が金融機関から借入を行う場合には、多くが利用している。
 平成20年9月のリーマンショック後の金融支援対策として、信用保証予算は平成20年度には5割増の20兆円近くまで増額された。しかし、その後の推移をみると、リーマンショック後の増額以降は年々規模が縮小され、平成30年度予算は8兆円とリーマンショック以前の13兆円をかなり下回り、残高ベースでは最近のピーク時の36兆円から22兆円へと大幅に減少している。

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 リーマンショックの翌年、平成21年12月には中小企業金融円滑化法が施行された、中小企業に対する一律救済的な支援策が講じられ、信用保証協会(注1)が金融機関の融資に対して100%保証できるセーフティネット貸付も拡充された。具体的には、直近3カ月の売上高が前年同期比と比べて5%以上減少している場合を5号認定として、ほぼ全業種をセーフティネットの対象とし、金利や貸付期間の優遇措置がとられたのである。しかし、金融円滑化法は平成25年3月に終了し、セーフティネット5号認定の対象業種は、現在ではほぼ6分の1まで縮小している。
 中小企業支援施策は、これまでは差別なく一律支援的な要素が強かったが、金融円滑化法の終了を契機として、一律支援から限定的支援へと大きく舵が切られている。一方、平成24年度補正予算以降、ものづくり補助金、創業補助金、小規模事業者持続化補助金等各種補助金が新たに創設され、中小企業支援予算の拡充が図られた。公的保証の優遇支援が限定的になった一方で、ポテンシャル(成長可能性)の高い企業や意欲のある経営者に対しては、前向きな支援策が強化されたのである。こうした補助金は審査を経て採択されており、申請企業すべてに交付されるわけではない。一律支援から選別化支援のステージへ入ったと言えよう。
(注1)中小企業・小規模事業者が金融機関から融資を受ける際に、債務保証することにより融資を受けやすくなるよう支援する公的機関。責任共有を原則とし、通常は信用保証協会が8割、金融機関が2割の割合でリスクを共有する。

3.運転資金と設備資金
 借入金(融資)は、運転資金と設備資金に大別される。バブル期あたりまでは、事業の継続的な活動に必要な経常(正常)運転資金(注2)は短期借入金で調達し、設備資金は長期資金で調達する構造が一般的であった。短期借入とは返済期間が1年以内の期間の短い融資であり、一定金額を継続的に借り換えしていく場合には、最近では短期継続融資と呼ばれている。企業は一定の与信枠の範囲で継続して資金を確保できることから、経常運転資金(注2)を調達するには、非常に都合の良い資金である。借入金を返済せず利払いだけで済み、配当を支払えばよい資本金と事実上同じメリットを得ることができるので、疑似資本と言われることもある。かつては「短コロ(短期転がし)」と呼ばれ、一般的な借入形態であった。しかし、バブル崩壊後、金融機関が相次ぎ破綻した信用収縮の時代を経て、金融機関における短期継続融資の貸付は非常に厳しくなり、中小企業には利用が困難な状況が続いている。その結果、経常運転資金である仕入資金や決済資金を信用保証協会の保証付きの長期運転資金で調達している中小企業が非常に多くなり、資金繰りの繁忙化を招く状況になっている。
 短期借入金を継続的に借り換えられるかどうかは、その借り換え時の金融機関側の判断であり、継続される保証はない。過去の金融引き締めの時期には、黒字であっても短期借入金の継続融資が止められ、倒産した大手企業の事例も多い。卸売業などで仕入資金の割合が大きく、季節変動が大きい業態の場合には、経常運転資金であっても長短のバランスをとって金融リスクを緩和する対策も必要である。また、経常運転資金の算出においては、決算期末だけではなく、12ヶ月の月次の推移も考慮して検討しなければならない。
 ここで借入金の概念を整理したい。経常運転資金を長期で借り入れすると、約定返済資金の借り換えを定期的に行っていかないと資金繰りが厳しくなる。この時、借り換えで回していっても良い借入金と内部キャッシュフローで返済していくべき借入金が曖昧になってしまう。経常運転資金は、「売上債権(受取手形+売掛金)+在庫-仕入債務(支払手形+買掛金)+α」で算出される。+αは運転資金の予備として月商の半月程度見れば良いであろう。長期借入金を借り換える場合には、この経常運転資金の範囲内にとどめておくことが望ましい。この経常運転資金を長短借入金の合計額から差し引いたものが実質的な要返済債務であり、収益返済すべき借入金になる。この要返済債務を当期内部キャッシュフロー(当期利益+減価償却費)で割れば、実質的な債務返済年数が算出できる。

(注2)企業の事業活動を行っていくうえで継続的に必要と認められる運転資金であり、赤字運転資金とは区別される。正常運転資金とも言う。「経常運転資金=売上債権+在庫-仕入(買入)債務+α」で算出される。資金繰り的には短期継続で調達することが望ましいが、運転資金の季節変動が大きい場合には、長短借入金のバランスを図ることも必要である。

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4.担保と保証
 金融機関が融資する際には、その債権(貸付金)の回収を保全する目的で、担保や連帯保証を求めることが一般的である。中小企業が融資を受ける場合には、必ずと言って良いほど担保や保証が条件とされている。しかしながら、経営者の多くが十分理解しないままに担保を提供し、連帯保証人になっているケースが多い。
 "融資"という用語は、金融機関側の言い方であり、企業側からすれば、"融資を受ける"、あるいは"借入"となる。融資が契約されれば、金融機関は融資(貸付金)という債権を持ち、企業側は借入金という債務を負う。金融機関は債権者であり、借り入れした企業は債務者という関係である。債権者は、担保や連帯保証を徴求することにより自らの債権の保全を図っている。企業側から見ると、優良担保がないと融資が受けにくい、あるいは、経営者は経営責任上連帯保証人とならざるを得ない、というのが現状と言える。制度融資の中には、無担保・無保証人という優遇条件もあるが、これは限定的なメニューである。中小企業の多くの場合、担保や保証によって、企業の信用力が補完されている。

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(1)担保
 信用保証協会の保証付き融資では、原則として保証付き融資残高が80百万円以下までは無担保とされている。この80百万円の無担保枠を超える場合や、無担保枠内であっても業績が低迷している場合は、資産状況に応じて担保の提供を求められる可能性が生じる。
 担保は、土地や建物等の不動産担保が一般的である。金融機関がこれを担保にする場合は、不動産抵当設定契約を締結し、当該不動産に抵当権を設定して登記する。この登記がほかの債権者への法的な対抗要件になり、登記受付の順に優先権を持つので、金融機関にとっては、不動産登記は重要な保全手続きとなる。不動産登記簿謄本を開くと、表題部、権利部(甲区)、権利部(乙区)と続く。表題部には土地であれば、所在、地番、地目(土地の種類)、面積等、建物であれば、所在、家屋番号、種類、構造、面積等が記載されている。権利部の甲区には所有権に関する事項、乙区には所有権以外の権利に関する事項が記載され、この乙区に抵当権が登記される。
 物件評価は、金融機関が独自に行うもので一定の基準はないが、土地は路線価、建物は簿価等をベースに70%程度の掛け目を入れたあたりが目安となろう。担保評価額と借入金合計額を比べて評価額に余裕があれば、一般的には金利面の条件がよくなる。中小企業の場合、提供できる担保がないケースが多いので、公的な信用保証協会の保証による制度融資が広く利用されているわけである。
 企業においては、実際の借入額と金融機関の抵当権による保全額のバランスについても、確認しておく必要がある。抵当権(普通抵当権)は債権が特定され、返済と同時に登記された債権額も減少し、抵当権の抹消登記を行わなくても当該債務の完済と同時に抵当権は消滅する。しかし、根抵当権の場合には、債権が特定されず、極度額で包括的に保全され、極度額は返済しても減少せず将来の債権保全として枠として残り続ける。金融機関側としては、債権保全面で強力であり、管理も簡便な根抵当権を設定することが一般的である。
 中小企業にときどき見かけるのが、融資残高がほとんどないにもかかわらず、根抵当権が大きな極度額のままで残っているケースである。担保物件の評価を上回るような極度額の根抵当権が設定されている場合、他の金融機関への担保提供が困難になるので、資金調達の選択肢を狭めることになる。経営者は、担保の評価額と借入債務のバランスを常に意識していくことが重要である。

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(2)連帯保証
 企業が金融機関から融資を受ける際、法人においては代表者個人の連帯保証を求められることが多い。制度融資においても信用保証会の公的機関の保証に加えて、代表者の連帯保証を徴求することが一般的である。この連帯保証は、通常の保証とは違って債権者側から見れば、非常に強い債権保全手段になる。その違いは以下のとおりである。
 ①連帯保証人は、催告の抗弁権がない。請求が来た場合に、「まずは債務者に請求してください。」と主張することができない。
 ②連帯保証人は、検索の抗弁権がない。債務者が返済できる資力があるにもかかわらず返済を拒否した場合であっても、「債務者から返済してもらうか、債務者の財産を差し押さえてください。」と主張することができない。
 ③連帯保証人は、分別の利益がない。複数の連帯保証人がいる場合、人数で按分した金額だけを負担すれば良いのではなく、全額の返済義務を負う。

 債務者が約定どおり返済していれば保証の問題は生じないが、倒産等で返済不能に陥り、期限の利益(注3)を喪失すれば、連帯保証人は保証している債務の全額を返済しなければならなくなり、債務者と同等の責任を負うことになるのである。
 連帯保証に関しては、最近2つの見直しが行われている。1つ目は第三者保証の原則非徴求である。第三者とは、経営者以外の親族や事業の関係者等が該当する。第三者保証をとる場合には、高齢経営者の後継者であるとか、事業に大きく関与していること等の理由が必要になる。かつては、個人事業主として創業する場合には、親等の親族の連帯保証を求めることが一般的に行われ、第三者保証を付けることで金利条件でも大きく優遇されていたが、最近はこうした金利体系も見直されてきている。
 2つ目は経営者保証である。平成26年2月より「経営者保証に関するガイドライン」が適用になった。経営者保証を徴求する場合、従来は債権者である金融機関からの一方的な条件で済んだが、このガイドラインにより金融機関は説明責任を負うことになったのである。具体的には、法人と経営者個人の会計区分が曖昧である、企業の財務基盤が不安定であることなどの理由を説明しなければならない。結果的には多くの中小企業の経営者保証は免れないのが現実であるが、金融機関側の説明責任がガイドラインで示された意義はきわめて大きい。中小企業経営者は、こうした点を十分理解し、自社の信用力向上に努め、経営者の連帯保証を回避できるような経営を視野に入れていくことも必要である。
 しかしながら、制度融資においては、依然として「法人の場合は原則代表者の連帯保証」を要件とする記載が散見される。ガイドラインの趣旨に沿うのであれば、「担保・連帯保証は、金融機関との協議による。」と記載されるべきであり、最近は、こうした記載に変更している事例が増えている。
(注3)契約書上で定められた期日や期限が来るまでは、借入金等の債務の返済を行わなくてもいい債務者側の利益のこと。契約書では、通常期限の利益喪失条項が定められており、企業が倒産等の事由に該当すれば、債権者はこの期限の利益を喪失させ、期限を前倒しして一括請求することができる。

5.金融施策の動向
 金融政策についても大きな転換が見られる。かつての担保・保証に極度に依存した融資からの脱却である。すなわち、企業の事業性を評価して与信判断をする、という本来の金融機能の発揮が求められている。地銀、信用金庫、信用組合等の地域金融機関は、こうした方向性に対応できるか否かで二極化が進むと思われる。単に不良債権を抑制していくという経営姿勢では、金融機関としての存在意義は失わざるを得ない。今後、地域金融機関においては、コンサルティング機能を発揮し、企業の成長をサポートすることにより地域の活性化・振興に寄与していくことが大きな課題となる。
 一方、中小企業においても、金融機関と良好な関係を構築していくことが成長の鍵となる。金融機関は、融資や振込・送金等の役割だけではなく、事業に関するさまざまな有益な情報の提供者あり、助言者であるという、良きパートナーにもなるのである。中小企業においても金融機関を選別化するステージに入ったと言えよう。

6.おわりに
 企業金融研究会は、平成25年4月に発足後6年目を迎えた。現在の会員数は約40名、診断士以外では弁護士1名、建築設計コンサルタント1名が参加して活動している。毎月定例会を開催しているので、企業金融、診断の実践に関心のある方は、ぜひ見学にお越し願いたい。

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2018.06.26
葬儀社の実態と課題、これからの支援

終活ビジネス研究会 
濱田 良祐

1.はじめに
 葬祭業界といえば、どのような印象をお持ちだろうか。高齢化社会が進む中、葬儀の需要が増加し、「正直なところ儲かっている」という印象をお持ちのかたもいるのではないだろうか。葬祭業界は本当に儲かる産業なのか、今後の展望や課題はいかなるものなのか。葬祭業界の現状と葬儀社の課題を確認し、診断士がどのようにかかわっていくことが重要なのかについて考察する。なお、当研究会が行った提案などご紹介するが、葬儀に関する慣習は地域によってかなり違いがあること、我々がご紹介するのは、主に関東近郊の葬儀社の事例であることをご承知おきいただきたい。
 
2.葬祭業界の現状
 日本の人口構成はどうなっているか確認する(下図)。

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 高齢化が叫ばれて久しいが、65歳以上の人口は2040年ごろまで増加し、その後も全人口の内、高い割合を維持していくと推計されている。また、2040年頃までは、死亡者数が増加するという予測であり、単純な葬儀の機会という意味では、確実に増加すると考えられる。葬儀社が活躍する場面は、過去と比較しても多くなっているといえる。
 では、「葬儀社は儲かっている」といえるのだろうか。実際の葬儀件数と葬儀社の数をまとめたものが次の表である。

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 2000年と2017年を比較すると、売上高が約2.3倍、取扱件数が約2.4倍の増加を示しているのに対し、事業所数は約4.3倍の増加を示している。高齢化社会の中で、葬儀の件数は増加しているが、それ以上に葬儀社の数が増えており、1事業者あたりの売上高でみると、2000年よりも減少している。また、家族葬に代表されるように葬儀規模の縮小も葬儀社にとって重大な課題である。取扱件数の伸びよりも売上高の伸びが小さいことからも、より安価で小さな葬儀が普及しつつあるといえる。葬儀業界は、現状維持の経営施策を続けていれば何もしなくても収益が増加する、というわけではない状況にある。
 葬儀社が増加した要因についても考察する。葬儀社は「電話一つあれば開業できる」と例えられるほど、開業が容易な業種といえる。実際に葬儀を行う場合には、葬儀を行う場所、宗教儀式のための祭壇など多様な設備が必要となるが、場所は区民館などの公共施設を使用、レンタルの器材を利用するなどして、自らが建物や設備を必ずしも抱える必要がない。高齢化社会に伴う需要増加予測と、開業の容易さから事業所が大幅に増加したと考えられる。
201807_5_1.jpg インターネットを介した新たな葬儀仲介サービスも増加している。インターネット葬儀仲介サービスは、自社では葬儀を行わず、地域ごとに提携している葬儀社を紹介することで、葬儀費用から一定の紹介手数料を得る業態である。インターネット葬儀仲介サービスの特徴として、追加料金が発生しないプランを用意している点が挙げられる。葬儀は、料金形態が複雑で、消費者にとっては不明瞭に映りがちである中、インターネット葬儀仲介サービスが提供する葬儀プランは、一部追加料金が発生するものもあるが、基本的には固定料金であるという点が大きなアドバンテージとなっている。また、実際の葬儀は提携している各地域の葬儀社が行うため、地域を絞っているわけではなく全国に同じ葬儀を提供していることも、インターネット葬儀仲介サービスの大きな特徴である。従来あれば、葬儀社はサービスを提供できるエリアが限定されており、消費者も自身の生活圏を中心としたエリアにある葬儀社を選択する必要があった。インターネット葬儀仲介サービスであれば、固定料金となっているプランを選択し、葬儀を申し込めば、葬儀社を探す必要なく葬儀を行うことができる。地域での営業力が乏しい葬儀社にとっては、仲介によって葬儀を行い、売上げを得ることができるという利点もあるが、インターネット葬儀仲介サービスを通した葬儀プランは固定料金であることが多いため、通常であれば追加料金が必要なサービスを無料で提供せざるを得ないケースがあるなど、葬儀社の収益を圧迫するという側面もある。葬儀社にとっては、インターネット葬儀仲介サービスに負けない営業力が必要ともいえる。
 このように、高齢化社会の中で葬儀の需要は増えるものの、個々の葬儀社にとってみると競合や新たな葬儀サービスの出現によって、決して明るい展望が開けているとは言えない状況である。葬儀社が生き残るためにどういった活動が必要か、当研究会で実際に行った経営支援の例も交えながら考察する。

3.葬儀社のマーケティングについての考察
 多くの業界では、良い商品やサービスを開発することで、その商品への関心が高まり、流行が発生、販売数が増加するといった形で需要を喚起することができる。しかし、葬儀に関しては、急激に日本全体の葬儀件数を増加させるといったことは不可能である。そもそも葬儀社の商圏は狭く、基本的には地域密着型の企業であるため、葬儀社にとっては、展開するエリアの中での葬儀件数をライバルと奪いあうシェア争いに主眼を置く必要がある。
 消費者にとって葬儀社に葬儀を依頼する場面というのは、突然やってくることが多い。病院で亡くなった場合などは、病院から葬儀社を紹介されることもあるが、葬儀社が選ばれるためには、消費者が葬儀社を選択する際に、その選択肢の中に入っている必要がある。葬儀社としては、認知度を高め、消費者の選択肢の中に入る努力が必要となる。そのための施策を以下に紹介する。
 ① 会員制度
 自社の会員制度を作り、潜在顧客の囲い込みを行う。入会金や年会費を設定することもあるが、無料としている葬儀社も存在する。会員には、◦会員価格での葬儀や、◦会員限定でのイベントなどのメリットがある。一方葬儀社側としては、◦会員に対して定期的に情報発信できることや、◦ある程度将来的な葬儀件数の予測ができる、といったメリットがあるが、もっとも大きなメリットは、事前相談や見積もりを行うことで、生前から葬儀の準備を行うことができる点である。会員自身が葬儀社と葬儀の内容や見積もりを行うことで、実際の葬儀の場では喪主となる家族に対して、会員自身が葬儀についての意思表示をすることになる。
201807_6_1.jpg ② イベントの開催
 イベントの開催も有効である。葬儀に関連するテーマでセミナーを行うことや葬儀とは全く関係なくいわゆる楽しい催しを行うこともある。一例を右図に示す。
 遺影撮影会や人形供養祭など葬儀社ならではのものもあれば、アレンジフラワー教室といったカルチャースクールのようなもの、家族で楽しめるような縁日といったイベントなどさまざまである。
 セミナーを開催することも多い。葬儀や終活といった関係性の高いテーマから、LINE講習会といった葬儀とは違ったテーマで行うことも効果的である。
 いずれにしても、まずは葬儀社に来てもらい、地域での認知度を向上させることが最も大きな目的となる。そのうえで、会員への登録や事前相談の実施など消費者とかかわる場面を増加させるためにイベントを行う。
 ③ ポスティングチラシ、新聞折り込みチラシ
 地域へのPRのため、ポスティングチラシや新聞折り込みチラシを活用することが有効である。用いられることの多いコンテンツとして、◦葬儀プランや価格、◦イベントの告知、が挙げられる。
 葬儀プランや価格についてのチラシでは、他社との比較を行うなど、価格やプラン内容で優位性を示すものが多いが、消費者にとっては、そのプラン内容が複雑であることも多いため、できるだけシンプルにわかりやすい内容とすることが重要である。「家族葬専門」や「追加料金なし」といったプランを掲げている葬儀社も多くなっている。しかし、価格やプランの優位性などで強みを示そうとしても、上述のインターネット葬儀仲介サービスの台頭もあり、なかなか効果的なPRを行うことが難しくなっているのも現状である。地域密着型の産業としては、イベント告知を主としたチラシのほうがより効果的ではないかと考えられる。
 上記のような施策を用い、葬儀社は地域での認知度・親和性を高めていくことが重要である。消費者にとって突然やってくる「葬儀社選択」の場面で、いかに選択肢の中に入るのか、生前から選択されている状態にできるのか、ということが葬儀の依頼を増加させるために重要なポイントである。

4.葬儀社の業務や従業員に対する考察
 「働き方改革」へ注目が集まっているが、葬儀社にとっても従業員の管理は非常に大きな課題として挙げられる。葬儀社の特徴的な部分として、短期的な予測が難しいというところが挙げられる。他のサービス産業では、土日祝だから顧客は多いだろう、天気が荒れるから仕入れを減らしておこう、といった予測が可能であるが、葬儀に関してはそういった予測が非常に難しい。そのため、従業員が有給休暇を取りづらい、暇な時間も長いが残業も長い、といった悪循環に陥ってしまうことがある。どんなにマーケティングをうまく行い、会員が増加し、年単位でみると葬儀件数が増加したとしても、短期的に見れば、日ごとに業務にばらつきが出てしまう。おのおのの従業員が、葬儀がなく空いている時間に何ができるかを整理し、やるべきことを見つけられるように管理することが重要である。そのためのツールの一例して「週間やることリスト」を紹介する(下図)。

201807_7_1.jpg

 週次で何ができ、何ができなかったかを整理することで改善活動を重ね、業務効率化を図る狙いがある。
201807_8_1.jpg 業務効率化は、葬儀単価下落への対策としても有効である。「家族葬」に代表されるように、葬儀の小規模化が進み、1件あたりの価格が減少している。葬儀の規模や慣習は地域によって異なるが、会葬者が減少していることや、消費者からの葬儀価格の透明性向上への期待、消費者自身がさまざまな情報を得ることができるようになり、価格比較が容易になったことなどが要因として考えられる。葬儀社によっては、価格での優位性や高付加価値サービスを強みとするなどさまざまな戦略が考えられるが、葬儀費用の低価格化は避けられない状況となっている。つまり、従業員がより効率的に葬儀を行っていく必要があるということである。業務に無駄やロスを発生させず、一定の品質を保つために、業務マニュアルの作成も有効である。とくに、文字だけのマニュアルではなく画像や動画を用いて、実際にどういった動きをするのかが確認できるよう工夫することが望まれる。動画マニュアルについては、作成用ツール(Teachme Biz など)を用いれば、比較的容易に作成が可能であり、従来のマニュアル作りよりも大幅に作成コストが削減できる。また、視覚的に内容を確認できることで、OJTで行うことが多かった技術指導と比較すると、教育コストの削減にもつながる。

5.診断士が役に立てること
 現代の葬儀社は決して楽な業界ではなく、限られた顧客を多くの競合と奪い合う状況にある。さらに、葬儀社自体は地域密着を基本としたサービス業であるが、全国に展開する葬儀関連サービスにもうまく対応する必要がある。また、消費者自身が多くの情報を得ることができるなど価格やサービスに対する要求事項も多種多様なものとなっている。
 葬儀社を取り巻く環境は常に変化している中で、従来の経営手法を変えることができていない葬儀社が多い。診断士には、多様な変化に対応するための、従来の葬儀業界の慣習にとらわれない提案が求められていると考えられる。当研究会では、他業種の取り組みを参考に、葬儀社で活用するにはどうしたらよいかといった視点で提案を行うことも多い。葬儀の知識を有することも重要であるが、より広い視点から葬儀社にかかわることが診断士にとって重要なポイントである。
 葬祭業界は、今回紹介している葬儀社以外にもさまざまな業種がかかわる非常に幅広いものである。当研究会では葬儀社以外の業種にも幅広く知見を広め、「葬祭業界のNo.1シンクタンク」を目指すとともに、葬祭関連企業の向上を支援することで、ひいては消費者に貢献することを目標として、今後も活動していく所存である。

2018.05.29
事業承継支援者のためのノート開発

事業承継研究会  大沼 健三

はじめに-研究会発足以来の課題
 事業承継研究会は2005年10月にスタートした。発足当時、事業承継支援の課題は、相続問題や相続税対策などの財産承継対策が主体で、弁護士、税理士の担っていた分野とされていた。これに対し、企業理念の承継、後継者育成など経営承継の分野の重要性を主張し、中小企業診断士の活躍分野であるとの認識を広めることが、研究会の主な課題であった。発足後12年を経過し、経営承継が重要な分野として認識が進み、また診断士の役割の認知が201806_1_1.jpg進んだ点は大きな成果といえる。
 事業承継研究会は、この間に会員数が16名から142名へ約9倍に拡大し、プロジェクト活動として4つの冊子を作成するなどの成果を上げることができたが、そこでは、支援の現場を重視した具体的なものを志向してきた。今後もこの考え方で、①診断士の事業承継支援への参入を後押しし、受注力向上に資する、②支援活動に具体的に有効なツールを提供する、という方向で進めていく予定である。

1.開発の経緯
(1)テーマの選定
 今回のプロジェクト発足時に、研究会のプロジェクト担当幹事4名によりテーマについて検討した結果、以下のような内容の制作物を目指すことになった。
 ①中小企業診断士が事業承継支援に取り組む際に、具体的に役立つツールを提供する。ベテラン診断士の事
  業承継支援ノウハウを集約し、体系化することにより、事業承継支援ノウハウの多くの診断士への水平展
  開を図ること。
 ②従って想定ユーザーは、事業承継支援に取り組む中小企業診断士である。
 ③支援の対象とする企業は、年商30億円くらいまでの、中・小規模企業および個人事業者で、事業の継続に
  何らかの課題を持つ。
 ④制作物は、あくまでも使うためのツールであり、「中小企業診断士のための事業承継支援ノート」と命名
  した。内容はユーザーの頭の中を整理するのに有効であり、かつ思慮するプロセスを具体化するものであ
  ることとした。

(2)開発および制作の体制
 事業承継研究会員に「事業承継支援ノート作成プロジェクト」への参加を募ったところ、25名の会員から応募があり、担当幹事等を含め総勢30名となった。そこで制作物の内容をテーマ別に分け、参加者の希望をもとに7つのグループに編成し、各グループリーダーを決めた。また、担当幹事は、各グループに分かれて参加した。なお、本プロジェクトへの参加者は、弁護士2名、税理士1名を含む中小企業診断士である。

201806_2_1.jpg

(3)制作の過程
 2015年11月にプロジェクトがスタートし、内容の検討および原稿の制作は各グループ単位で毎月1回(合計5回)集まり、検討を進めた。また、各グループ間の意見調整の場として、毎月の研究会例会日に、例会前の30分間でグループリーダー会議を行い、各グループの進捗確認、意見調整、全体の方針決定の場とした。
 また、各グループの情報共有を目的として、共有アプリDropboxを用いてグループ会議のメモおよび作成中の原稿を共有し、さらに各グループの原稿案ができあがる段階で、グループリーダー会議を2回行い、各グループの原稿内容の調整を行った。
 2016年8月以降は、イラストグループを発足させ、本ノートの要所にイラストを挿入した。また、担当幹事およびグループリーダーから選抜した編集委員8名により編集委員会を編成し、編集会議を3回開催して、全体の内容構成の見直し、各グループ作成原稿のひょうそく合わせ、最終校正を行った結果、2016年12月に出稿となった。

2.制作の目的と基本コンセプト
(1)制作の狙い
 中小企業診断士が事業承継支援に取り組む場合のステップとして、
 ①現状についてのヒアリングの段階。
 ②収集情報のまとめ、事業承継上の課題への対応のシナリオ化、事業承継計画の策定。
 ③事業承継計画の開始後、計画に対応したフォローアップ。
の3段階になるが、特に①の段階は、通常の企業診断に比べて、
  ⅰ)相談者のプライバシー部分に触れることが多い。
  ⅱ)内容が広範にわたるので、情報収集・検討などの漏れが発生しやすい。
  ⅲ)相手側のニーズに合わなければ支援受注を逸する。
といった特質があり、情報収集の段階から質問に際して一定のノウハウと気配りが必要となる。ノウハウは経験の積み重ねにより得られるものとはいえ、特に経験の比較的浅い診断士にとってその経験の場を効果的に活かすことが必要であり、その取り組みのハードルを引き下げることが、本ノートの役割といえる。したがって、本ノートは頭の中を整理するだけでなく、「体を使って書き込むノート」としており、実践のツールと位置づけた。

(2)基本コンセプトについて
 原稿制作に先立ち、以下の点を基本コンセプトとして確認した。
 ①事業承継支援の、主に前工程についての基本定石を提示し、支援の品質維持を図る。
 ②ツールとして実際に使えること。使用上の便宜を図り、以下の2方式を作成する。
  ⅰ)ファイル式...ページの自由な抜き差しが可能で、使用者が各自オリジナル追加
  ⅱ)冊子式.........通常の冊子と同様の製本
 ③実際の支援の場で、経験の浅い者にもベテランのノウハウを生かした情報収集・質問応答ができるような
  ツールを目指す。
 ④情報収集整理を体系的に行い、業務効率の向上に有効であること。
 ⑤女性マンパワーを活用し、女性の視点を重視すること。

(3)使われる場面
 本ノートを使う場として、以下のような状況を考えた。
 ①診断士が事業承継支援を依頼された場合、先方への訪問、窓口相談に際して、
  ⅰ)インタビューの準備として、時間内でできるインタビュー項目を用意し、重みづけによる時間配分の
    検討。
  ⅱ)現況の情報収集
    収集した情報の整理、承継計画としてのとりまとめに使用。
  ⅲ)事業承継計画にまとめあげる段階の検討と整理。
  ⅳ)事業承継計画の開始後のフォロー。
 ②現在の支援先であらためて事業承継をテーマとする支援を求められたとき、または事業承継が今後の課題
  になることに注意喚起する場合。

3.内容の構成
 本ノートの内容は以下のとおりである。

201806_4_1.jpg

4.ツールとしての特徴と活用の事例
(1)ツールとしての特徴
 ①事業承継支援を行う際に、収集すべき情報を体系的に整理し、「ヒアリングのポイント、アドバイスのポ
  イント」としてわかりやすく表示している。
   したがって、経験の浅い診断士だけでなくベテラン診断士にも、情報を漏れなく収集するためのチェッ
  クリストとして活用できる。
 ②情報を収集時にそのまま書き込める。
   ファイル型・冊子型の2種類を制作し、ファイル型は必要ページをコピーして、そのまま書き込めるよ
  うにした(ただし、ファイル型は研究会員のみに限定配布)。
 ③事業承継支援の経験豊かな診断士が、情報収集およびとりまとめ時のノウハウを水平展開して提供してお
  り、経験の浅い人でも使いやすい。

(2)活用事例
 本ノートの活用事例の概略を以下に示す。
 下記の事例は、3回の訪問相談に本ノートを使用したケースである。

201806_5_1.jpg

(3)記入例
 下記は、本ノートの見開き2ページに書き込みをした事例である。左側偶数ページの質問項目をもとに質問し、右側奇数ページに手書きで書き込む。

201806_6_1.jpg

5.普及のための活動
 本ノートは、ファイル型150冊、冊子型250冊、合計400冊を作成した。ファイル型は研究会員に配布、冊子型は診断士の希望者に有料配布するとともに、以下のように本ノートの普及に向けた活動を行った。

(1)外部公的機関等への紹介および贈呈
 研究会の幹事・監事が本ノートを持参して、外部機関を訪問し、内容の説明紹介、 贈呈を行った。贈呈先は以下のとおりである。
 ①役所・公的機関
  中小企業基盤整備機構、関東経済産業局、産業労働局、中小企業振興公社、都内区役所数ヵ所など
 ②商工団体
  東京商工会議所、東京都商工会連合会、東京都中小企業団体中央会など
 ③金融機関
  都内信用金庫、政策金融公庫など
 ④東京都中小企業診断士協会

 当研究会では、これまでもプロジェクト活動により冊子を作成後、外部機関等にできあがった現物を持参し説明紹介しており、これにより各支援機関との関係を構築し、連携・支援等の良好な関係の維持を図ってきたが、本ノートについても、同様に研究会員による紹介活動と贈呈を行った。

(2)中小企業診断士への紹介
 スプリング・フォーラムでブース紹介し、一部有償販売を行った。

(3)研究会の新入会者向け基礎講座での紹介
 当研究会では、比較的最近時の入会者を対象に事業承継基礎講座を開催し、当研究会設立以来の活動と方向、事業承継の基礎知識の提供を行い、42名が参加したが、この場においても本ノートを再度紹介し、普及に努めている。

6.今後に向けて
(1)当研究会の目指す方向
 当研究会の設立以来の目標である、中小企業診断士による事業承継支援の拡大に向けて、新規取組者のハードルを引き下げる課題に継続的に取り組んでいるが、それは、単に当研究会員にとどまらず、広く中小企業診断士全体の業務の領域拡大をめざすものである。

(2)本ノートの定期更新
 今後も法令・税制等の改正に合わせて、定期的に更新継続していくことが必要であるが、そのためには、若手の育成などを図り、長期的に継続した取組体制を作ることが課題となる。

(3)本ノートの活用について
 今後、中小企業診断士による事業承継支援のノウハウの蓄積を更に図る必要があるが、このような書物は少なく、特に診断士に的を絞った類似書籍はほとんどない。本ノートが支援のいろいろな場で使用されることにより、活用の場が拡がることが期待されるが、そのためには使用事例の蓄積が課題となる。

2018.04.29
中小企業の海外展開支援業務と知識体系

中小企業の海外展開支援業務と知識体系

ワールドビジネス研究会
大喜多 富美郎

1.ツール開発の経緯
 2016年5月初め、中小企業診断協会(連合会)から東京協会国際部に、「海外展開支援のための業務および必要な知識体系」構築の打診があり、国際部では各支部の国際部員に向けて希望者を公募した。しかし、このような体系の構築には、担当者同士の相互協力が必要であり、また、その成果物には品質と責任が伴うことを考慮し、当研究会が一括して開発することが望ましいと判断、国際部や連合会と相談の上、この業務を一括して受託するに至った。当研究会では、この事業の担当者として海外展開支援の実務経験が豊富で、それぞれ専門分野の異なる5名を選定し、6月20日にプロジェクトチームを結成した。そして、この5名の得意分野に従って担当分野を決定、各自が自分の担当分野について調査、研究して体系表づくりに取り組んだ。体系表の構築段階では、大学教授等の有識者、専門家や海外展開の経験が豊富な中小企業の経営者、診断士等にヒアリングを行い、内容や品質の確認をするとともに全体のレベルや重複などを調整し、2017年2月に完成、成果物を連合会に納品した。
 この『中小企業の海外展開支援業務と知識体系』は、中小企業診断協会(連合会)のホームページから会員専用のMyページに入り、"パンフレット・登録申請書などのダウンロード"から、Excelファイルでダウンロードできるので、参照しながら理解していただきたい。

2.本ツール開発の目的
 日本企業の戦後の海外進出は1960年代、1970年代の大企業製造業主導の時代から、日本の高度な経済発展にともなう円高など日本経済の信用力向上とあいまって、中堅・中小企業やサービス業などの非製造業にも拡大してきた。また、中小企業の海外進出動機についても従来型の顧客・取引企業の要請によるものが多数を占めた時代から、より積極的に自社の技術や能力の活用、販路の拡大などの独自の判断で検討、決定される事例が増加し、質的な変化も起きている。
 一方で、独自の判断での海外展開は、業容の拡大と同時にリスクの拡大につながる場合も多くなり、われわれ中小企業診断士の顧客企業の海外展開への支援にもより緻密な関与が求められ、必要とされる業務や知識もより広範囲かつ高度になってきている。とりわけ21世紀に入り急速に拡大する経済のグローバル化と中国の台頭に代表される経済・政治的力学の変化が顕著になり、その一方で格差の拡大による国民の不満の蓄積、自国中心主義による地域貿易協定などの自由貿易拡大に逆行する動き、民族主義や過激な思想・宗教グループによる治安問題や安全保障問題など、従来のビジネス環境を脅かす事態も多々発生し、国際情勢が中小企業経営者の海外ビジネスに与える影響も増加しつつある。
 こうした環境下で、特定の国や地域を対象にした国際業務、海外事業に関する参考文献、研究レポートは数多く出版、発表されているが、海外事業を俯瞰的に見て海外事業展開のための「業務および必要な知識」という観点からまとめたものはほとんどみられない。
 本『中小企業の海外展開支援業務と知識体系』(以下「本体系」という)は、中小企業診断士が顧客の海外事業展開支援を進める際に、その顧客の事業展開の段階に応じて必要とされる基本的な業務を体系化することにより知識とノウハウを明確化し、中小企業診断士が顧客の海外事業展開を支援する際に活用するとともに、中小企業診断士としての専門分野のスキルを向上することを目的として作成したものである。
 同時に、中小企業診断士が支援業務の中で、自分に不足している知識・経験を確認し、必要な専門的人材の助言を得ること、さらに支援のためのチーム作りのための指標となることも重要な目的としている。
 さらに、中小企業診断士が「本体系」を理解し、全体もしくは個々のアイテムについてセミナー、深化した研究成果の出版などの事業につながっていくことも期待される。

3.「本体系」の使用法
(1)「本体系」の構成
①本体系は、中小企業診断協会(連合会)が順次整備しようと計画している、中小企業 診断士の顧客支援業務の体系化のうち、海外直接投資と輸出を中心とした「海外事業展開支援」に係る知識と業務を体系化したものであり、「本体系」全体をセクション「OS海外事業展開支援」とする。
   注:セクション・コード「OS」は Overseas の短縮形である
②全体の確認すべき業務と知識を階層化して分類した。「本体系」ではできる限り単純化するために必要以上に深い階層は作らないよう、必要な注釈は備考欄に記載した。対象のアイテムによって階層の深さは異なるが、一番深い階層は第6階層(3ドットグループ)となっている。

201805_3_1.jpg

③業務および知識の必要な時期、事業の種類、主な業務場所について、「本体系表」の各シート右側にマトリックスで表示した。


(2)階層の定義
201805_4_2.jpg①第1階層: 「海外展開支援業務」の大分類である。
 OS01、OS02、・・・という番号を付している。
 第1階層では大分類落として、下記の13の業務、知識をグループ化している。

   ・OS01  事業コンセプト
   ・OS02  国際情勢
   ・OS03  企画事前準備
   ・OS04  現地法制・規則
   ・OS05  資金、決済、資金管理
   ・OS06  労働市場
   ・OS07  インフラ
   ・OS08  社会環境
   ・OS09  事業開始手続き
   ・OS10  現地経営
   ・OS11  現地生産
   ・OS12  現地販売
   ・OS13  リスクマネジメント

 OS01からOS08までは事業開始前に必要な業務、知識であり、OS10からOS12は主として事業開始以降に関連する事項である。また、事業全体として常に考えておくべきものとして、OS13としてリスクマネジメントの項目を設けている。
②第2階層: 第1階層の業務を中分類したものである。
 OS01A、OS01B・・・という番号を付している

 第1、第2階層までを「目次」として最初のシートに揚げている。(上の図2参照)

③第3階層:第2階層をさらに具体的項目に分類したものであり、
 01/00、02/00、03/00・・・という番号を付している。
④第4階層以降(ドット・グループ):さらに具体的に分類したものである。
  ・項目の桁数と「・」の数が増えるとより下位の階層になる。
  ・「本体系」では、次の図のように第6階層まで使用している。

201805_5_3.jpg

(3)マトリックス 
 階層分けされている業務および知識の必要な時期(事業開始前・後)、事業の種類(海外直接投資・輸出)、主な業務場所(国内・現地)について、各シートの右側にマトリックスで表示している。
 必要とされる時期、事業分類、場所に"○"、場合によっては必要となるものについて"△"とした。

201805_5_4.jpg

4.期待される効果と今後の展開
(1)中小企業診断士による活用
 当初からの作成目的である中小企業の海外事業展開を支援する中小企業診断士による活用として、下記のような活用が期待される。
①顧客企業の海外事業展開支援を行うためのチェックリスト
②海外事業展開支援業務という専門スキルの向上と、コンサルタント活動で求められる幅広い業務知識、調査能力を習得する指針
③海外事業展開に係る業務知識、ノウハウは膨大な量と範囲にわたるものであり、一人の診断士ですべてをカバーするのは難しい。事案ごとに、自分にない専門知識、経験を有する診断士などから助言、支援を得る、もしくはチーム・ビルディングの指針
④その他、新しい切り口での支援活動の開発

(2)ワールドビジネス研究会員による展開事例
①分科会による事業化の検討
 本年8月にワールドビジネス研究会の中に、「本体系」をベースに『中小企業海外展開支援講座(仮称)』事業化検討分科会をメンバー12名でスタートした。
 2019年開講を目標に、2018年6月までに最終提案をまとめ、事業化可否の結論を出したい。
 まずは9月末までに、
   ・開講趣旨
   ・講座の特徴
   ・受講対象者
   ・習得できる知識・スキル
 などをまとめるべく議論している。
 今後もメールによる議論と合わせて、3~4週間に一度程度のミーティングを開き、事業化できるよう検討と準備を進めていく。

②国際情勢やビジネス環境の変化に対応するための定期的なブラッシュアップ
 国際情勢やビジネス、投資環境は常に変化していくものであり、必要な変更や修正、追加を行う方法を検討していきたい。

③会員による講演会、セミナーでの活用例
 JICA発注プロジェクト「投資促進のための経済特区開発・工業団地開発」での講義で活用している。
 JICAが年2回、アジア、中東、アフリカ、中南米などから、経済特区開発責任者など15~25名程度を招聘し、日本で2~3週間研修後、ベトナム、インドネシア等で1週間の補完研修を行うプログラムであり、中小企業診断士が中心になって運営している㈱ワールド・ビジネス・アソシエイツが継続的に受注しており、本研究会メンバーの一部もプログラムに参加している。
 研修対象者のほとんどが公的機関の所属であり、民間企業がどのような検討を行って海外直接投資先を決定していくのか、実際に投資した後にどのようなサポートを求めているのかを理解させるために、「本体系」の分類項目は顧客の求めるものを説明し、理解を深めるうえで役立っている。特に、マーケティング、オペレーション、メンテナンスの基本的な考え方の理解に活用している。

201805_7.jpg

「本体系」作成プロジェクト参加メンバー
  ・徳久 日出一    総括
  ・大喜多 富美郎   副総括、体系表作成担当
  ・松村 正之
  ・山本 倫寛
  ・永吉 和雄

  質問、活用提案などあれば、下記まで遠慮なくご連絡ください。
  徳久 日出一  (三多摩支部)  htoku1818@gmail.com
  大喜多 富美郎 (城南支部)   okita@ofc-okita.com

2018.03.30
ものづくり創業支援施設と連携した地域創業支援活動の事例

東京協会 もの・ことづくり実践研究会


はじめに

 当研究会は、製造業が、製品・商品に対して、情報、ストーリー性や体験を結びつけることで高付加価値化・差別化を図る活動、いわゆる「ものづくり」と「ことづくり」に着目し、それら活動の研究と実践支援を目的に設立された研究会である。具体的には、

 ① 日本の「ものづくり」に「ことづくり」の視点を取り入れたビジネス構築の研究
 ② ものづくり企業や支援団体等の創業支援に関するサポートのあり方の研究と実践
などを行っている。今回は、「ものづくり分野」専門のインキュベーションオフィスとして設立された「アジアスタートアップオフィスMONO(以下、MONO)」の支援を通して、当研究会が実施した地域創業支援活動の事例を報告する。

1.MONO概要と活動の背景
 (1)MONOとは
 MONOは、「エンジニア、デザイナー、スタートアップが集うオープンイノベーションのプラットフォーム」となることを目指し、後藤建築事務所株式会社が東京都の後援を得て設立したインキュベーションオフィスである。NC、レーザーカッター、3Dプリンターといったデジタルものづくり設備を備えた工作室を備えているのが最大の特徴であり、入居者はいつでも工作室を利用して、試作品の開発・製作を行うことができる。また当初より海外特にアジアのインキュベーション施設との連携にも力を入れており、中国、台湾、フィリピン、ミャンマー、シンガポールにその活動を広げつつある。
 
 (2)当研究会による支援実施の背景
 MONO設立当時、後藤建築事務所株式会社にはインキュベーションオフィス運用や創業支援等のノウハウがなく、同社の創業時に支援を行った当研究会代表の吉倉英代に創業支援事業立ち上げの支援要請があった。そこで吉倉を中心とした有志の診断士グループを立ち上げ、MONOに対する組織的な支援活動をスタートした。その後、その有志グループが母体となり、平成27年6月には研究会として体制を整えた。以来、当研究会はMONOへの起業家支援ノウハウの提供とMONOにおける起業家支援活動を通して、起業家の発掘・育成を行っている。

2.MONO支援の概要
 設立したばかりのMONOの課題は、運営基盤を安定させるための入居者の獲得と、人材交流を通じたイノベーティブな事業立ち上げの実績づくりであった。そこで、当研究会では、MONOに対して、ものづくり分野の創業予備軍の人々にMONOの認知度を向上させたり、創業のきっかけづくりを行ったりすることを申し出てMONOの賛同を得た。具体的には、以下の3つを柱とした支援を提案、実施していくことなった。
 ①ものづくり創業者を掘り起こすための「ものづくり・創業」をテーマとしたセミナー、イベントの開催
 ②イベント参加者へのフォローアップと、創業およびMONOへの入居の後押し
 ③創業者に対して、創業実務、資金調達(融資獲得、補助金活用)、知財確保など実用的な支援の実施

 これらの3つの活動を繰り返すことで下図に示す通り、MONOの事業拡大・ビジョン実現に貢献するとともに、診断士の活躍の場を創出し、地域社会への貢献を目指すこととなった。

3p-図.jpg

3.活動実績

 (1)ものづくり創業者を掘り起こすための「ものづくり・創業」をテーマとしたセミナー、イベントの開催
  ①創業支援プログラムに基づいた、ものづくり創業セミナーの企画・実施
 MONOは設立直後に、国の特定創業支援事業に応募し採択され、江東区・金融機関を交えた3者で地域の創業活性化に取り組むことになった(当研究会では、その特定創業支援事業の申請の支援も行った)。そこで、MONOの特長を生かしたものづくり起業家発掘のための創業支援セミナーの開催と参加者に対するハンズオン支援の実施を行うこととなり、当研究会が内容を一から企画し、「こうとう創業支援セミナー」として実施した(1年に2回ずつ、6回実施、のべ約100人が受講)。
 創業セミナーの内容としては、ものづくり創業者を意識して、製品アイデアに対しての知的財産権の保護やデジタル加工機械の活用法を組み込んだものとした。さらに、研究会メンバーの人脈を生かして、実際に成功した起業家を多数ゲストスピーカーに招いたり、仮想の創業ストーリーもとにグループワークで創業プランを議論させたりなど、手間暇をかけて内容を一から開発し、実践な内容にし、通常の創業塾との差別化を図った。
 なお、MONOはその創業支援の活動が認められ、平成28年度には東京都の認定インキュベーション施設として承認され、その入居者は東京都の創業助成金の申請要件を獲得できるようになった。
 ②ものづくり創業予備軍を集めMONOの知名度を上げるためのスポットセミナー・イベントの開催
 前述の創業セミナーのほか、効果的なPR・広報セミナー、リーンスタートアップセミナー、クラウドファンディングセミナー、知財セミナー、デザインセミナー、各種助成金セミナーなど、起業家が興味を持つテーマでイベントを実施した(のべ、約120人程度が参加)。
 
 (2)イベント参加者へのフォローアップと、創業およびMONOへの入居の後押し
 イベントやセミナーの後には、個別相談会を設けることで、興味を持った参加者に対してそのまま創業の意識を高める働きかけを行った。それによって創業・MONOへの入居へつなげる創業者を増やすことができた。

4p-図.jpg

 また、創業後も、MONOが定期的に行う入居者向けのカジュアルな交流会(ランチ会)に参加して、入居者の日々の疑問点に相談に乗ったり、創業者とのネットワークを広げコミュニケーションを深めたりした。

 (3)創業者に対して、創業実務、資金調達(融資獲得、補助金活用)、知財確保など実用的な支援を実施
 MONOのインキュベーションマネージャーと密に連絡を取り合い、入居している起業家に対して、事業計画策定、販促・プロモーション、資金調達・助成金獲得支援、知的財産権の取得の支援、デジタル工作機器の活用方法、ITシステムの導入活用支援など、研究会メンバーの得意分野を生かした実践的な支援を行った。

 このようにして、200人以上の創業希望者に起業ノウハウを伝え、そのうち30社を超えるスタートアップの事業立ち上げを支援し、うち半分程度が順調に事業を拡大している。
以下に、MONOにおけるものづくり創業者とその支援事例の一部を示す。


日本3Dプリンター株式会社
https://3dprinter.co.jp/
5p-図上.jpg 日本3Dプリンター(株)は、MONOをオフィスとして創業し、アジア(主に中国)の最新の3Dプリンターを輸入し、日本国内の製造業、教育機関等に販売および関連サービスの提供を行っている。
 代表者の北川士博氏から事業計画策定と資金調達について当研究会のメンバーが相談を受け助言を行ってきた。平成27年度ものづくり補助金、平成29年度創業助成金(東京都)などの申請の支援も行い採択を得た。昨今の3Dプリンターブームと中国メーカーの世界市場における競争力向上の波に乗って、順調に社員を増やし事業拡大を進めている。

株式会社アドバンスト・キー・テクノロジー研究所
https://www.akt-lab.jp/
5p-図下.jpg(株)アドバンスト・キー・テクノロジー研究所(AKT)は、電子デバイス用の単結晶材料とその製造装置の製造・販売を行う企業である。創業者の阿久津伸氏が平成26年にMONOで行った補助金セミナーとその後の創業セミナーを受講されたことが支援を行う機会となった。これまで創業補助金やものづくり補助金の申請・活用支援、契約交渉の際の助言など行ってきた。平成29年5月からは本研究会会員が同社の経営チームに参画しており、10年後には売上高で100億円を超える企業にすることを目指して資金調達、事業計画の策定と実践に取り組んでいる。



ムーバクラウド株式会社
http://www.movacloud.co.jp/

6p-上図.jpg ムーバクラウド株式会社は2015年2月に創業した、MONO入居企業である。代表者の李水平氏は中国出身のSEであり、「自由な発想でICTを活用した最新の技術サービスを提供し、よりよい社会の実現に貢献する」を目的に各種システム開発やAIを活用したスマートフォンアプリの全自動テスティングサービスなどを行っている。
 新規事業として、AI技術を活用したIoTサービスでスマートホームサービス事業に参入する計画があったため、ものづくり補助金を紹介。その申請支援を行い本年採択された。当社は過去にも他の専門家などの支援を受けて何度か補助金申請を行ったが、すべて不採択だったとのこと。今回、当会会員が蓄積したノウハウを発揮し、かつ手厚い支援したことが功を奏したといえる。現在、補助事業の実施においても継続支援を行っている。


おもいで写房
http://omoideshabou.com/

6p-下図.jpg 森正実氏(茨城県つくば市在住)は定年退職後、柔軟な発想で市場機会を捉えた創業を決意。独自に「瞬間撮影装置」を開発し、3Dプリンターを活用してフィギアを制作する事業を考案した。資金調達方法を模索していたなか、MONOで行った創業補助金セミナーを受講した。その後個別支援につながった。補助金申請支援を行った結果、当事業者は無事採択された。
 それに加え販路開拓支援も行い、日刊工業新聞の記者に紹介したところ紙面で紹介され、その後も読売新聞やNHKからも取りあげられ、知名度アップにつながった。当社はその後、近隣地域の各種ビジネスフェアなどにも出展して事業を発展させている。








4.成果
 (1)中小企業診断士としてのビジネス機会の創出

 当研究会では、MONOの支援を通して、スタートアップオフィスの特性を生かした診断士としてのビジネス機会を創出した。具体的には、知財確保、IT活用、販促プロモーションなどのコンサルティング、助成金などを活用した資金調達支援のコンサルティングなどのビジネスにつなげている。
 MONOはものづくり企業のためのスタートアップオフィスではあるが、実際の創業者の事業内容は製造業にとどまらず、サービス業につながる「ことづくり」企業など多岐にわたり、まさに当研究会が主眼としている「ものづくり・ことづくり」に関するノウハウを培う場としても成果をあげることができた。

 (2)地域への貢献
 MONOは国や都の支援を受けた創業支援施設であり、MONOの支援を通して東京都や地元・江東区の企業活性化に貢献することができた。また、各種行政の制度の周知や施策の活用の促進にも一役買えたのではないかと思う。
 地域活性化の視点からも、MONO内にとどまらず、台場、豊洲、砂町、清澄白河などの地元・江東区内に事業拠点をもつ創業者と、お互いの交流を深めることにより地域のものづくりネットワーク作りにも貢献した。創業セミナー参加者は、参加者同士やゲストスピーカーとして登壇いただいた先輩起業家と、その後も継続した交流を行っている。

 (3)企業内診断士・新人診断士への実務機会の提供
 副次的効果ではあるが、研究会メンバーには、新人診断士や企業内診断士も参画しており、そうしたメンバーに対しては、創業者との交流を得る、貴重な実務の機会を提供することができた
 さらに、ベテラン診断士が、創業支援セミナーの定番プログラム(マーケティング、人材育成、資金調達、事業計画)を定型化して、講演ノウハウを伝えることで、新人診断士のスキルアップを図ることができ、実際に講師として登壇する機会も提供できた。また、事業計画策定支援なども手掛けることができた。

5.課題
 以上のようにさまざまな実績と効果を上げてきた本活動であるが、さらなる成果をあげるために以下のような活動を行っていく予定である。

 (1)創業者の事業拡大の支援
 創業者は順調に増加しつつあるが、多くの場合、その事業規模はまだ小さい。一方で、ある程度の事業規模になった企業は、インキュベーション施設を卒業し、外で発展を目指す傾向がある。MONOのコンサルタントとして、小さい事業を確実に発展させる息の長い支援を行うことと、企業がMONOを卒業してもMONOとビジネスパートナーとして関係を継続したくなるものづくりネットワークを形成できるよう、MONOの機能強化を支援していきたい。

 (2)付加価値の高い支援サービスの提供
 現状の当研究会での支援モデルとしては、創業セミナーや創業支援プログラムは低コストで提供し、その後の創業実務の支援を通して、診断士としてのコンサルティングビジネスとして成り立たせてきた。支援を開始して4年が経ち、当研究会でも基本的な支援メニューの定型化はできてきたため、次は、より専門性の高いコンサルティング支援を提供していきたい。MONOとしても、当初は集客の手段として位置付けていたイベントであるが、今後は個々のイベントだけでも相応の収益が得られるようにしていきたいという希望がある。当研究会もその期待に沿えるようレベルアップを図りたい。

 (3)海外への展開
 ものづくりや革新的サービス分野では、ビジネスの国際化が急速に進んでいる。MONOにおいてもアジア地域をはじめとした外国人による創業の割合が増えており、海外での事業展開のニーズも出てきている。当研究会でも海外事業の経験者をメンバーに加えるなどして、各地域の法律やルールへの対応などの海外進出のノウハウを蓄積していきたい。

2018.03.30
三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介

主催:三多摩支部 能力開発推進部

 三多摩支部では、将来独立を志望している方および新たな顧客領域を開拓したいと考えているプロコンに対してコンサルティング研修講座「多摩の塾」を実施しています。5日間にわたり座学と演習を行い、特定の分野に対してプロとして通用する技能を修得していただくことを狙いとしています。多摩の塾の概要は下記の通りです。
 
  目   的:専門的な分野を掘り下げて、「専門家派遣」にて通用するコンサルティングの実践能力を修得すること
  対 象 者:新たな領域を開拓したいプロコン、プロコンを目指す企業内診断士、自己啓発を目指す企業内診断士
  平成30年度のテーマ:事業承継など(予定)
  開催予定日:8月下旬~12月上旬の5日間(土、日曜日開催予定)
  募集人員:20名(定員限定)
  参 加 費:25,000円
  開催場所:国分寺労政会館またはビジネストセミナールーム(中小企業大学校東京校内)(予定)
 
 「多摩の塾」は、コンサルティングスキルの中で、時代の強い要請がある特定の分野にテーマを絞り、プロとしての高度な知識、技能を身につけるとともに、中小企業者に高い評価を得られるレベルのスキル習得を目指します。
 毎年異なるテーマを選定して、ほぼ8月から12月までの土・日曜日に計5回実施します。講義、グループワークによる演習、ディスカッションおよび発表を中心に行いますが、各自が自分自身で考える時間配分および、現場での実戦を想定したプログラムを研修に組込みます。
 講師はテーマ分野において実務経験があり現在現場で活躍されている支部および協会の会員または外部講師が行います。講義の進行は、担当する講師陣とグループワークをサポートする複数のベテラン会員で行います。また、必要に応じて企業経営者・支援団体の担当者などを招聘して、テーマに関連した実務や実際の対応などを話していただきます。
 地域の支援機関との連携が強いという三多摩支部の特性を生かせるよう、実施するプログラムは、支援機関において実施される事業に合わせて即戦力として活動できる内容を目指します。
 (連絡先:三多摩支部 能力開発推進部 森田 俊朗、E:zwq11416@mbr.ocn.ne.jp

2018.03.30
城北支部 城北プロコン塾6期生募集

主催:城北支部 能力開発推進部

 城北支部では、診断士としての資質とスキルの向上、診断士活動の場の拡充およびプロとして仕事に役立つ人脈の形成を目的として、平成25年に「城北プロコン塾」を立ち上げました。
 "今までにない実践的スキルが身につくプロコン塾"として、城北支部の中から豊富な経験と実績を有する講師陣の熱のこもった指導のもと、製造業、小売・サービス業、商店街支援などの幅広い切り口で、一騎当千の実力を有する診断士を育成します。併せて、受講期間中を通して塾生自らが専門分野をブラッシュアップし、"メシのタネになるコンテンツ"を一本のレポートに仕上げるという課題に取組みます。
卒塾後は、企業診断案件への登用、認定支援機関等への専門家登録の取次ぎ、ベテラン診断士のコンサル現場への同行訪問など、"稼げるプロコン"への更なるステップアップを城北支部全体でバックアップします。

開催日程:平成30年6月~平成31年3月 <全10回>
実施場所:「北とぴあ」会議室(最寄駅;JR王子)他
募集人数:15名
受講料:城北支部60,000円(他支部65,000円 東京協会以外70,000円)
カリキュラム: ※講師の都合等により一部変更となる場合があります。

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申込み&問合せ窓口:城北支部プロコン塾事務局(担当:石井 邦利)
          E:jouhoku-procon-info@googlegroups.com
          紹介HP:http://jouhoku-procon.jimdo.com/
 3月18日よりHPにて申込受付いたします。詳しくは「城北プロコン塾」で検索ください。

2018.03.30
東京支部で最も伝統あるプロコン塾 城南支部 第14期 城南コンサル塾

■基本コンセプトは中小企業・小規模事業者支援専門家育成
 東京協会で最古のプロコン養成塾である「城南コンサル塾」は、基本コンセプトを「中小企業・小規模事業者支援専門家育成」としております。プロコン養成塾としての意味合いから、中小企業支援機関から真に必要とされる中小企業診断士を育成するべく、基本的なスキルとノウハウを体系的に学ぶ事に重点を置いています。


■創業から事業承継・再生まで中小企業のライフサイクルに合わせた講義内容
 実践の城南の名に恥じぬ人材を育成するため、机上の空論、評論家的診断士ではなく、実践的な専門家育成を目的とします。無理なく実現可能で、かつ実証できた効果的なコンサルティング手法を習得するため通年型(合宿含めて全11回)の研修を開催します。


日  程:平成30年6月~平成31年3月。毎月第3土曜日9:30~18:00。2月のみ第3日曜日。全11回。うち1回は合宿、8月18日(土)および19日(日)。 診断実務実習、工場視察は別日程。
募集人数:最大20名
受講料:18万円(税込)
研修会場:台東区複合施設いきいきプラザ等
城南コンサル塾 公式サイト http://johnan-consul.com/

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講師陣:仕事につながるネットワークを持つ講師を全国から招聘。診断士に限らず、中小企業支援機関や金融機関の職員、経営者などが講師となって実践的指導を行います。
実務実習:3社程度を予定。実務実習におけるコンサルティング手法や診断報告書の作成について標準的かつ汎用性の高い手法やツールを活用します。そのため、一定レベル以上のコンサルティングの実践的スキルが身につきます。
模擬講演:自分の言いたいことではなく、相手の聞きたいことを、相手の心を動かす訓練の場です。独自ツールをつかった指導によって、プレゼン能力の飛躍的向上が期待できます。

申込先:城南支部 コンサル塾部 星野裕司 E: fieldstar25@gmail.com
氏名、住所、電話、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上メールでお申込みください

2018.03.30
城西支部 城西プロコン養成塾14期生募集

主催:JOPY運営委員会/城西支部 研修部

 城西プロコン養成塾(略称JOPY)は、中小企業経営者に適切な助言・提案のできる診断士養成を目指し、平成17年に開講し、本年度で14期目を迎えます。
 コンサルタントは、中小企業経営者の目線に立ち一緒にモノを考え、適切な助言を行なうとともに、良き相談相手となる必要があります。知識だけでなく、現場の状況を把握したうえで、クライアントが納得する実現可能な解決策を提示する、JOPYはこうした診断士を養成します。
 今後の診断士ライフを有意義なものとするには、診断士活動に関わる適格な情報収集がかかせません。JOPY は、講師・OB・プロコンとして活動する支部メンバーや同期生との密な人間関係を短期間に構築し、人脈の幅を広げることを支援します。

養成期間:平成30年6月~12月 原則、毎月第3土曜日10:00~17:30
     ただし、商店街診断、商業診断、工場診断は別途日程を組みます。
研修会場:杉並区立産業商工会館(JR「阿佐ヶ谷駅」または東京メトロ「南阿佐ヶ谷駅」)
募集人数:18名
受講料:75,000円
講座内容:商店街診断・工場診断・商業診断は、実務従事ポイント(10P)が取得可能

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・上記に加え、城西支部  実践!スキルアップ講座(4回)への無償参加が可能
説明会および申込方法:スプリングフォーラムにおいて説明会を行います。申込希望の方は、氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上、下記宛にメールでお申込みください。お問い合わせも受け付けます。
     <申込先> 城西支部プロコン養成塾(JOPY)事務局 浅田 昌紀
           T:080-5678-0055  E:asada@dp.u-netsurf.ne.jp

2018.03.30
城東支部 スキルアップ受講生募集

主催:城東支部 能力開発推進部

 城東支部のスキルアップは、主に診断士の資格を取得し、将来診断士として独立を考えられている方を対象としたプロコンを目指すための研修コースです。
 6月から3月まで、毎月1回計10回の開催を予定しています。城東支部のプロコンとして活躍されている方々が講師をつとめます。 
 城東スキルアップコースの特徴は、以下の3点です。
  ①中小企業経営診断の定石を学ぶことができます。(経営診断テキスト入門編を提供します)
  ②コトラー、ドラッカー、バーバラミント、マービンバウワーなどの著書を経営診断課題図書(8冊)として定め、経営の基本を学びます。
  ③企業診断、セミナー講師など実践の機会を提供いたします。
 初回の6月の講義では、将来プロコンを目指す方のために、城東のプロコンの方々が、仕事の獲得方法やプロコンとしてどのような仕事をしているかなどをお伝えします。
 7月以降の講義の内容は、午前中は主に経営診断課題図書と診断技法の原理原則について学習します。午後からは毎回テーマごとの講義とグループワークをおこないます。


カリキュラム(予定)

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*原則第1土曜日の(9:30~16:30)に開催いたします。ただし1月は第2土曜日開催。
*講義内容は変更となる場合があります。
*企業の実地診断を1、2社実施予定です。 
申込資格:新人会員、既存会員(城東支部以外でも歓迎いたします)
受講料:45,000円/年    
開催場所:都内の区民館
申込先:事務局 木内清人  E:kiyoto.kiuchi@gmail.com

2018.03.30
中央支部 認定マスターコースのご紹介

 中央支部では認定マスターコース制度を設けています。認定マスターコースはプロコンとしての診断実務能力の向上を目的に、原則1年間のカリキュラムを通してプロコンとしてのスキルアップを目指す中央支部独自の取り組みとなっています。2017年度ではマスターコースに延べ360名の会員が所属しプロコンを目指し研鑽を行っています。
 中央支部マスターコースの特徴はバラエティーに富んでいることです。プロコンとしての幅広い知識やスキル、心構えなどを養成するマスターコースだけではなく、「製造業」「ファッションビジネス」「アグリビジネス」など業種・業態に特化したマスターコースや、「プロ講師」「経営革新」「事業承継」「企業内リーダー」など特定分野に特化したマスターコースなど、会員のニーズに応えられる多様なマスターコースがラインナップされております。

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 詳細はhttp://www.rmc-chuo.jp/category/master/courseをご確認ください。
 また5月26日(土)に『中央支部カンファレンス2018』が開催されます。この中で「中央支部認定研究会・マスターコース活動紹介」「ブース相談会」を実施予定です。中央支部が誇る研究会とマスターコースの詳細を知る絶好の機会となりますので、プロコンを目指している中小企業診断士の皆様ぜひご参加をお待ちしております。
 中央支部会員以外でも参加可能です。(会員Myページでの事前登録をお願いします)

2018.03.30
東京協会・支部 プロコン養成講座

東京プロコン塾 第12期生募集のお知らせ

主催:一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
運営:能力開発推進部

 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会では、診断士制度の変更、診断士の社会的ニーズ、激変する経済環境などに対応するため、平成19年度より真のプロコンを養成しています。真のプロコンとは、高度な学識、スキルはもとより、人間力も備え、クライアントの要望を充分満足させられる"稼げるコンサルタント"を指します。
 東京プロコン塾では、稼げるプロコンを養成するため、座学による講義、現地実習をはじめ、最も重要な、稼いでいるプロコンのノウハウを伝授します。
 講師には、当塾の趣旨にご賛同いただいた、各方面で活躍中のプロコンがあたります。
 プロコンとして独立をお考えの方、コンサルタントとして独立したが活躍が十分でないと感じている方は、ぜひご応募ください。

開催日程:平成30年5月~平成31年3月 原則毎月第4土曜日(9:00~17:00)
     〔うち1回は合宿研修(1泊2日)を予定〕全10回
応募資格:①東京都中小企業診断士協会 会員
     ②プロコンとして独立する強い意志のある方
応募人員:最大25名(申込者多数の場合は選考いたします)
参加費用:10万円(一括支払、支払方法は別途連絡します。合宿費、現地実習費込み。)
実施場所:座学は、主に東京都中小企業会館8階会議室を予定
     現地実習は現地、合宿地は未定〔平成29年度は、さわやかちば県民プラザ(千葉県柏市)〕

カリキュラム
・毎回、プロコンとしての心構え、独立の仕方、営業方法について話をします。
・講義は、実務に直結したコンサルティングスキル向上を目指した内容になります。
・現地実習では、企業を訪問し、コンサルティングを行います。
・ミニプレゼンを実施する機会が5回程度あり、プレゼン能力が向上します。
※詳細は4月22日の説明会で発表します。
その他:修了認定者には、東京都中小企業診断士協会より修了証を授与します。
     実務更新ポイントが必要な方は、現地実習にて取得可能です。
     講師陣や、活躍する塾生の先輩、東京都中小企業診断士協会の塾生同士で人脈ができます。
     メーリングリストや研究会で、卒塾後も当期以前の卒塾生とのつながりを持てます。

下記のとおり説明会を実施します
日  時:4月21日(土)14:00~16:00、4月22日(日)14:00~16:00
場  所:東京都中小企業会館8階会議室C
      (東京都中央区銀座2-10-18)
申込方法:現在、申し込みを受け付けています。会員Myページにてお申し込みをいただくか、氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.、メールアドレスを明記の上メールでお申し込みください。
     申込をされた方には入塾申込書フォーマットを送りますので、説明会で内容をご確認のうえ正式にお申し込みください。
運営担当:能力開発推進部 部長 佐藤 正樹
申込先:東京都中小企業診断士協会 東京プロコン塾係 担当:清水
     T:03-5550-0033  E:info_tokyo@t-smeca.com
     ご質問は、加藤 敦子(atsuko.k@altopartner.co.jp)まで

2018.02.28
ハンズオン支援型研究会の活動事例 新たな研究会モデル~ある企業様への密着支援から~

ハンズオン支援型研究会の活動事例
新たな研究会モデル~ある企業様への密着支援から~


城西支部 コンサルティング実務研究会 浅利 栄文
E:yuinao@w4.dion.ne.jp


1.はじめに
 当研究会は、設立後約40年に渡る長い歴史を持ち、実務的なコンサルティング活動を主な目的として研究活動を行っている。具体的には、実務で多彩な企業を支援することで会員の診断/支援能力の向上および各種ノウハウの蓄積を図り、業種業態を限定することなく幅広くコンサルティング能力を高める活動である。そのため実際に企業診断をする機会が多く、自己研鑽を積みながら実務ポイントが取得できる。一方で、毎年1社の支援企業に対し年間を通じて診断から報告会の実施サイクルの繰り返しで、研究会として提案した各種施策を支援企業の現場に踏み込んで継続してフォローアップすることが長い間の課題であった。
 最近では「密着支援」「3現主義」を旗印に当研究会が新たに支援している企業の中で、数社において、より深く長く密着して支援し、秘密保持契約を締結し有償事業に移行している成功事例が現れている。中小企業診断士の研究会活動のフィールドから脱皮して、まさしく実務的で密着した継続支援で企業経営に貢献し、その見返りとしての収益事業を加えた研究会であり、「稼げる診断士」を養成し輩出している。
 当研究会の全体的な活動内容と、4年前よりハンズオンで経営支援をしているA社に焦点を当てここに紹介する。

2.現在の研究会活動概要
1)継続支援対象先および主な取組内容

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2)継続支援対象先の特徴
 当研究会の経営支援対象企業様は、中小企業の中でも比較的経営規模の大きな先を対象とし、研究会全会員の多彩な得意分野、専門分野をフル活用し貢献できるような環境を構築している。対象企業とは秘密保持契約の締結を徹底し、経営者と会員との密接な接点や関係を増やし信頼関係を築き、あらゆる情報を開示いただけるような風土を醸成している。

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3.活動の背景、経緯

 A社とは、4年前から当研究会としての研究支援対象先として1年間の経営支援を実施することで合意した。当初は、社長ヒアリングおよび決算書等開示資料から経営診断を行い、報告会を企画するなど、中小企業診断士として研鑽し実務ポイントの取得の場であった。 
 当研究会では、支援企業に即した実務的で具体的な提言と提案を行うことを研究会の場で議論しているが、その提言内容に社長の高い評価をいただき、次年度も引き続きご支援する機会を頂戴した。その後幹部社員を対象としたヒアリングやセミナー、全社員を対象とした従業員意識調査(当研究会開発のオリジナルシート)を実施し、より一人ひとりの社員と密接な関係作りの中で支援を図ることに成功し、当研究会の存在価値がA社全社員の間に浸透した。また当研究会が提言した中で、「社員間コミュニケーションの活性化」の課題を解決するために、チームワークを組織内に醸成するための「チームビルディング研修」を全社員対象に、北海道や各支店から東京の品川に場所を替え、1月から3月にかけ3日程に分けて一泊二日で実施した。その後も社員教育の一環として1、2年目の社員を対象に北海道本社で「若手研修」を実施した。いずれも有償化支援(研修提案モデルおよび研修ツールの活用)に移行している。
 社長や役員をはじめ社員一人ひとりと密着支援してきた当研究会は、A社から引き続き継続支援の依頼を受けている。これは当研究会が信頼されると同時に期待され、なくてはならない存在となっている証でもある。
 
4.A社への取組み概要
1)昨年度までの主な取組
 ①幹部社員対象の経営診断報告会の実施
 社長/幹部ヒアリング、決算書等の資料分析等を実施し、定期的に経営診断報告会を企画実施している。社長および各支店幹部は東京に集結し、当研究会との熱い議論のやり取りが行われる。
(場所:港区商工会館)

 ②「第48期経営計画発表会」へのオブザーバー参加
 毎年期初(4月上旬)に社長の新年度会社方針と幹部社員による各支店の営業戦略(SWOT分析戦略立案セミナーツールを活用)の発表が行われる。
 参加者は、全社員、メインバンク様(2社)、お取引様、当研究会から5名が一泊二日でご招待いただいている。
(会場:京王プラザ札幌)

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 ③全社員対象「従業員意識調査」の実施。問題・課題の把握
 当研究会のオリジナル従業員意識調査シートを全社員に協力いただき、100%回収した。集計結果から従業員が抱える問題や会社への提案/要望事項を収集整理。社長へ「意識調査結果報告会」を実施した。

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 ④幹部社員対象「グループワーク研修」の実施
 幹部社員が従業員意識調査結果を共有し、グループワークを実施。ブレーンストーミング等を行い、問題・課題の把握から改善提案までを議論し優先課題を抽出した。
(場所:港区商工会館)

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 ⑤拠点長対象の「SWOT分析戦略立案セミナー」の実施
 支店長・所長が自部門・エリアの特色・特性に応じてSWOT分析から戦略立案し使いこなせるまでセミナーを数回・各拠点にて実施。
 各拠点長が年度はじめに戦略を立案し、前掲載の「経営計画発表会」で披露している。
(場所:長野オリンピックセンターおよび札幌篠路コミュニティーセンター)

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2)今年度の主な取組

 ①「チームビルディング研修」(25名/回を3回実施)を全社員対象に実施
 組織/チーム力を醸成する社長の意向を受けコミュニケーション系研修を企画開催した。社員が自ら考え提案する場を創出した。
(場所:品川の研修センタ-)

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 ②「若手研修」を1、2年目社員対象に実施
 「お客様第一主義」を掲げるA社においてそれを実現できる若手を育成する。主にCSに関するセミナー/自職場での課題発表/事例を背景としたロールプレーングを実施し、チャレンジ目標を設定した。
 (会場:A社札幌本社)

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 ③「第49期経営計画発表会」にオブザーバー参加

 今年度も京王プラザ札幌にて4月8日、9日の経営計画発表会に当研究会より4名を招待いただいた。

(場所:京王プラザ札幌)

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5.A社への提案手法

1)有償事業獲得スキーム
 A社においては、下図のプロセスを踏んで継続的な経営支援に至っている。特に全社員を対象に従業員意識調査を実施し、経営診断報告会での仮説を立証し、この調査結果の分析内容を題材にした幹部社員グループワーク研修を実施し当社の課題を炙り出した。
 外部コンサルとしての客観的な提案だけにとどまらず、社員や幹部の考えを巻き込み提案材料とした「ボトムアップ型の主観的な提案」がA社経営層に響いたと考えられる。

【継続的有償事業獲得スキーム】

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2)開発ツール
 

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①当研究会オリジナル従業員意識調査シート(オリジナルシートおよびその解析モデル)

 人・物・金・情報等、経営資源別にアンケート項目を作成し、特に経営診断レベルで仮説として挙げた問題・課題に焦点を当て、オリジナル標準シートをA社用にアレンジし、潜在するリスク情報を顕在化した。さらに解析段階で項目別に定量化し重要事項を炙り出し、解決するべき事項の優先順位を明確にした。一方、オリジナル標準シートは、現在支援している他の企業へも活用できるよう汎用性が高くアレンジできる。


 ②従業員研修提案モデル
 当研究会の人的資源から研修可能な項目(コミュニケーション系および知識系)を網羅した俯瞰図を作成し、経営診断および意識調査資料等によりA社現状とあるべき理想像を示し、そのギャップを埋めるべく研修項目を提案するモデルである。

 ③各種研修ツール
 現在実施済みの研修カリキュラムは当研究会のオリジナル作品であり、貴重な収益事業資源として蓄積している。現在支援している他の企業へも展開可能なツールである。

6.主な活動成果

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7.今後の予定
 まず、すでに実施してきた「チームビルディング研修」および「若手研修」で各社員が職場で実施するチャレンジ目標を設定している。その実施フォローと定着に向けた支援を行う。
 次に、今年12月から来年の3月にかけて全社員対象のモチベーションマネジメントコーチング研修もしくは中堅社員対象の階層別研修を実施する予定である。さらに来期以降は、A社の重要課題である人事評価制度構築に向けその診断と再設計支援に向けた提案を行う予定である。

8.おわりに
 コンサルティング実務研究会では、よりコンサルの実務としてステージアップした研究会を目指し、今回報告のA社をはじめとして、3年目の支援となる階段製造業C社や昨年から支援を開始した鋳物製造業B社を加えた3社の同時支援体制となっている。会員のノウハウや経験の貴重な蓄積の場として、実際に現場での企業支援に多くの時間を携わり、経営者から高い評価をいただけるようになった。またその評価の証として、A社から継続的な社員研修とB社から補助金等申請業務等の支援依頼も入り、有償支援へと定着している。有償になってより我々の緊張感や士気も高まり、さらに会員全員で日々真剣に取り組んでいる次第である。
 A社は来年創立50周年の記念の年を迎えようとしている。さらなる飛躍に貢献するため、当研究会はA社を中心とした支援先とともに歩み続ける。

2018.01.25
一歩踏み込んだ研究会によるR社支援(Webサイト改善)

三多摩支部 最新IT活用研究会 三村 雅彦


1.当研究会の概要
 当研究会は2003年に現在の三多摩支部に設立された。活動目的には「中小企業が業務の効率化と新たな事業展開を図っていくためには、中小企業の情報化推進(IT化とIT利活用)が必要不可欠となっています。しかしながら、中小企業では人材不足などの理由で情報化推進が十分できていない企業が多くあります。このため、中小企業の情報化推進を支援するためのスキルの向上を図ることを目的とします」を掲げ、今年で15年目を迎えた。
 参考までに研究会設立時の2003年と2016年のIT環境を比較してみると<資料1>のとおり、ITは日進月歩の状況にあることがわかる。しかし当研究会の肌感覚としては、現在でも「中小企業では人材不足などの理由で情報化推進が十分できていない企業が多くあります」という点は解消されていない。なお、2016年版の中小企業白書にも「...IT投資が重要であると考えているものの、現在IT投資を行っていない企業に対して、IT投資を行わない理由を尋ねたものである。これを見ると、ITを導入できる人材がいないと回答した企業が最も多くなっており...」との記載がある(<資料2>を参照)。ここからも、人材不足が中小企業の情報化を困難にしている大きな原因であることがうかがえる。201802_1_1.jpg

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 当研究会では2003年からWebサイト(以下、サイトと記載)の診断・改善を中心に、およそ20社に対してコンサルティング活動を行ってきたが、クライアントからは「よい提案だけれど、当社には手を動かせる人材がいない」という声が多かった(<資料3>参照)。この活動の中で、いわゆる「企業内診断士」の集まりである当研究会が、クライアントのシステムの実装部分までどうサポートするかが課題として見えてきた。この論文では実装部分まで研究会として支援した「一歩踏み込んだ」点を中心に紹介したい。

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2.クライアントからの要望
(1)クライアントの概要
 2014年1月に三多摩支部経由で化粧品を製造販売しているR社から、サイトの改善について提案してほしいとの要望をいただいた。R社の概要は<資料4>のとおり。

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(2)1回目のクライアントとの打ち合わせ
 まず、R社へのヒアリング実施に向け、確認したい事項について論議した。限られた時間内に効率的かつ確実に必要事項を聞き出すための工夫として、当研究会では事前準備(化粧品業界の調査、R社サイトの評価、同業他社のサイト調査など)を進めつつ、<資料5>のヒアリングシートを作成した。

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 4月にクライアントを訪問し、社長と専務に対してヒアリングを実施した。ヒアリングシートに沿ってポイントを絞って話を進めたいが、なにせ初対面、第一印象は大切である。クライアントの反応をひとつひとつ確認しつつ、打ち合わせを進めることを意識した。打ち合せ室には、主力の基礎化粧品が展示されていたので、「主力製品のアピールポイントは何ですか」と製品の話から会話を始めた。これが功を奏して話が弾んでいく。一般的に、経営者はアイデアマンなので、自社のやりたいことをうかがうと発散思考となり話は尽きない。

 たくさんの話を聞けたことは提案する側にとっては収穫だが、クライアントの要望は多様で、必ずしも話に一貫性があるとは限らない。当然ながら経営資源には限りがあるので、やりたいことを全て実現することもできない。この点は経営者も十分承知しているものの、気持ちよく話をしている経営者に対し、どのタイミングで話題を変えるかが難しい。今回は、展示してある主力製品に話を戻しつつ、ヒアリング後半はR社の現状を冷静に確認する時間とした。R社では振興公社などが主催する展示会に出展したり、皮膚科専門医と提携したりなど、売り上げ拡大に向けた施策を地道に実行しているものの、なかなか成果として現れていないことがわかった。将来を見つめつつ現状の経営課題や自社の強みなどを十分に話し合った結果、自社のブランド力を高めることをサイト改善の主目的とし、ネット経由での販売拡大を副次的な目的とすることで合意した。

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(3)2回目のクライアントとの打ち合わせ
 1回目のヒアリングが発散フェーズであるとすれば、2回目のヒアリングは収束フェーズである。研究会として考えうる提案の中から、先方の体力や事情を考慮して、提案内容の絞り込みとその妥当性をクライアントに確認するため、2回目の打ち合わせを行うことにした。

 研究会での経験則だが、一般的に自社のサイトを見ながら「ここを改善してはどうか」と提案しても、自分が作成した文書を他人が指摘しても簡単には修正しないように、苦労して製作した自社のサイトを簡単に修正する気持ちになってもらえない。その気にさせるには、競合他社のサイト(それも完成度の高いサイト)をクライアントに見せるのが効果的である。これによって、「他社では、ここまでサイトを工夫しているのか。それなら当社もこのように修正したい!」という具体的な要望を引き出すことができる。そこで、R社と競合他社数社のサイトを比較した<資料7>を作成し、これに基づいてR社のサイトを具体的にどう改善するか議論した。専務いわく「同業者の視点でみると、原料、設備、化粧品の使い方などごくあたり前のことでも、きれいな画像付でサイトに掲載した方がよいとわかった」との感想だった。

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 このとき困ったことが発生した。競合他社のサイトを確認していると、「新たに外国人観光客向けに旅行代理店・三多摩地域の他業種と連携して商品を販売するアイデアがある」、「自分専用の石鹸、化粧品を欲しがっているお客様もいるのでこのようなお客様もターゲットにできるのではないかと考えている」、「自社内の接客設備を活用して、口コミで自社の商品を浸透させていきたい」など専務の中でアイデアが数珠繋ぎに浮かんできて、予想外に話が拡散したのだ。研究会としては、2回目のヒアリングで提案する内容を絞り込む意図だったので、ここにきて新しい話が出ると、前提条件が覆ってしまいかねない。
 そこで、議論の収束を図るべく、1回目のヒアリング結果を振り返り、当初のゴールイメージを再確認することにした。その結果、化粧品の成分抽出を他社から供給を受けずに自社で行っている点をアピールするサイトに改めて、自社ブランド製品のサイトでの拡販を図るという方向性が固まった。

3.成果と今後の課題
(1)提案書のとりまとめ
 研究会にはシステムエンジニアもいれば、ユーザーとしてシステムベンダー向けにユーザー部門の要件をとりまとめる人材、システムの運用を行っている人材など多様なスキルを持ったメンバーが在籍している。今回はクライアントへヒアリングしたメンバーが、クライアントの要望を研究会の定例会で他のメンバーに詳しく説明し、各メンバーの得意分野を活かした提案ができるよう役割を分担した。これによって、サイトに掲載するコンテンツやサイトの構成をユーザー(サイト訪問者)視点で整理しつつ、通販機能の具体的な改善についても提案に盛り込んだ。通販機能については、R社が投資可能な金額内で、商品特性や既存販売ルートとの競合など考慮し、「まずはやりたいことへの一歩を踏み出す」ために最小限の機能で実装することとした。

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(2)サイトの改善
 改善案が固まっても、改善を実装できる人材がいなければ絵に描いた餅と同じである。とはいえ、診断士はクライアントの要望をまとめ、改善の方向性を提示することまでがタスクで、実装についてはクライアント側で進めるという考えもある。
 10月に実施した最終報告会は好評で、R社からは早々に実装したいとの発言があったものの、社内に人材がいないと相談を受けた。これまで研究会では、実装までは請け負わない方針を採っていたが、クライアントの熱意を強く感じるとともに、実装部分までどうサポートするかという課題を乗り越えるために、今回は実装のサポートまで提案することを決定した。その方法を検討し、案出しした諸策の中から、研究会の古参メンバーの知人で、そのメンバーが技術レベルと実績に太鼓判を押しているK氏をR社に紹介することにした。K氏によるサイト改善をスムーズに行うため、研究会の提案内容を事前にK氏に伝え、十分に連携したうえで、11月にK氏と研究会メンバーでR社を訪問し、R社からの了解を得た。
 サイトの見栄えは画像に大きく左右される。K氏は写真の腕もプロ並みなので、訪問日に撮影機材を準備し、サイト用の撮影を実施した。これにより、別途写真撮影する機会を設ける必要がなくなり、画像作成のコストを削減することができた。
 後日、R社のサイトがリニューアルされた(<資料9>参照)。

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(3)成果
 <資料10>のとおりサイト経由での問い合わせ件数やPV(※)をみれば、「自社ブランド製品のサイトでの拡販」に十分な成果があったといえる(なお、サイト経由での売上高は非公表である)。

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(4)今後の課題
 R社の課題としては、サイトからの受注状況、受注内容をにらみながら、サイトでの販売製品の見直し・拡大、受注処理の自動処理化などである。
 当研究会の課題としては、①実装できる人材の確保、②資金面の提案力(各種施策面などを含め、三多摩支部と連携し提案した内容をクライアントが実行に移せるように)、さらには前出の①と②をパッケージで提案できるスキルの開発が挙げられる。この点については、今回の対応を検証しつつ、今後整備を図っていきたい。

※最新IT活用研究会メンバー(本論文に関わったメンバーのみ記載)
 三村雅彦(代表)、吉沢正男、辻本一、硯靖洋、大西伸弘、小川博幹、高木望、茅野耕治、西田吉希、宮下博之

2017.12.28
自動車部品製造業における営業力強化・売上UP実践

営業力を科学する売上UP研究会 緒川 直樹

1.はじめに
 日本政策金融公庫「2017年中小企業の景況見通し」によると、中小企業が経営基盤強化に向けて注力する分野は、「営業・販売力の強化」(75.3%)が、2位以下に大差をつけてトップである。このように問題意識が強い一方で、中小企業の営業力強化に焦点を当てた解決策は多くないのが現実である。
 本研究会は、法人営業における課題を可視化する「営業力診断アンケート」を開発し、平成26年度中小企業経営診断シンポジウム第3分科会で発表した。その後、金融機関、認定支援機関等と連携して、平成29年7月現在、支援先企業8社に対し営業力強化コンサルティングを実施するに至った。
 本論文では大企業の系列として発展してきた自動車部品製造業A社に営業力診断アンケートを行い、2017年1月~5月にかけて当研究会が支援する営業力強化コンサルティングにより、売上UPと新規顧客開拓を目指した事例を報告する。

2.支援先企業A社の事業概要と営業の現状
201801-4.jpg (1)事業概要
 A社は創業以来、半世紀にわたり金属プレス製品の受託加工を行ってきた。生産品目は自動車などの輸送機器部品であり、生産拠点は山形県、営業拠点は東京都にある。
 A社は大企業であるB社、C社との系列関係のもと安定的に成長してきた。その結果、現在ではB社、C社との取引が売上高の88%を占めている(図表1)。
 得意先B社は商用車製造業、C社は自動車の主要部品を製造する大企業であり、A社と両社との取引年数は30年以上となる。

(2)営業の現状
 営業職に従事しているのは4名、内管理職は1名であり、各営業にそれぞれ担当する顧客が割り当てられている。営業の役割は新規開拓よりも既存顧客の深耕が中心である。
 A社の営業職に求められることは、系列関係にある得意先から製品供給契約を獲得することである。契約獲得後は、工場側が顧客からの注文を処理し、生産および納入業務を実施している。当社製品が組み込まれる顧客の商品・製品のライフサイクルが続く限り、継続的に顧客から注文が入ることがA社のビジネスの特徴である。(図表2)。
201801-5-1.jpg なお、A社には製品開発機能がないため、顧客の製品仕様(図面)を工場側で確認し、工場側が受託可否を判断している。このような系列関係にある得意先からの製品供給契約の獲得に特化したA社の営業スタイルは、既存顧客深耕には高い効率性を持っており、強みになっていた。
 しかし、近年、得意先の海外移転や海外調達などによって売上高が徐々に減少する中、新規顧客開拓を目指したA社であったが、既存顧客に対する受け身の営業スタイルであるため、新規顧客開拓に関する営業経験やノウハウがなく、将来の展望に対して不安を感じている。

3.当研究会による経営支援の流れ
201801-5-2.jpg 経営支援の全体の流れを図表3に示す。
 平成28年9月に、A社の営業力診断アンケートをマネージャー1名と営業担当者3名に対して実施した。その結果、図表4のとおり、「戦略力」、「計画力」、「行動力」、「商談力」、「管理力」の5つの評価軸のうち、「戦略力」と「商談力」のスコアが相対的に低かった。また、営業担当者の「計画力」の評価がマネージャーに比べて、かなり低い結果となった。

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 さらに、各質問項目や自由記述欄を分析し、図表5に示す営業課題をまとめて、A社社長と営業マネージャーに報告したところ、A社の実態を表しているとの評価を得た。
 その後、A社より、営業力強化のためのコンサルティングを受注し、平成29年1月~5月まで、図表5に示す課題に対する改善活動の支援に取り組んだ。

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4.営業力強化コンサルティングの実施
 図表6に示すとおり、営業力強化コンサルティングを、フェーズ1:「既存顧客に対する顧客別営業戦略の立案」、フェーズ2:「新規顧客開拓の検討」の2フェーズに分けて実施した。

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 フェーズ1では、既存顧客に対する営業戦略を立案することで、受け身の営業スタイルからの脱却と、営業活動におけるPDCAサイクルの構築を目指した。フェーズ2では、新規顧客開拓に挑戦できる体制を構築することで、B社、C社への集中リスクを回避することを目指した。
 以下、各フェーズの実施内容と、コンサルティングにおいて工夫した点を記す。

(1)フェーズ1: 既存顧客に対する顧客別営業戦略の立案
 A社では、B社、C社を含む既存顧客5社に売上の96%を依存しているため、不特定多数の顧客と取引を行う場合と異なり、既存顧客1社1社との関係構築や、複数抱える案件を細かく見ていくことが重要である。そこで、既存顧客5社に対する顧客別営業戦略を立案することとした。
①顧客別営業戦略の立案
201801-7-1.jpg 当研究会が用意している標準の「顧客戦略シート」「案件戦略シート」を用いて、既存顧客5社に対して、顧客との関係づくりを描く戦略や、案件成約への道筋を描く戦略をまとめた(図表7)。
 顧客別営業戦略の立案にあたって、「戦略に沿った行動計画になっているか」「行動計画が数値目標にまで具体化されているか」という点に留意して助言を行った。たとえば、重点攻略先に対して、「優先的に訪問予定が割り当てられているか」「訪問件数は数値目標として設定されているか」「必要な場面で上司同行が設定されているか」などがチェックポイントとして挙げられる。
②営業会議(顧客戦略会議)
 営業会議を開催し、顧客戦略と案件戦略の内容を、営業部門の知恵を結集して練り上げた。
③行動計画表の作成
 顧客戦略、案件戦略の内容を、各人の行動計画表に掘り下げた。
④顧客別売上計画の作成
 営業戦略の実行を前提に、中長期の顧客別売上高、新規顧客開拓による拡販目標を設定した(図表8)。
⑤営業会議によるフォローアップの仕組み構築
 A社のマネージャーが、営業担当者による行動計画の進捗を確認したうえで、上司同行などサポートが行えるように、営業会議の運用ルールを取り決めた。営業会議を活用して、コンサルタント抜きでも、A社単独で営業活動のPDCAを回していくことを目的としている(図表9)。

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(2)フェーズ2: 新規顧客開拓の検討
 新規顧客開拓にあたっては、従来のサプライヤからA社に置き換えるメリットを、お客様にアピールする必要がある。そこで、まず、既存顧客がA社を選んでいる理由を分析した。
①現状分析
201801-8-1.jpg A社では、お客様が要望するさまざまなロットサイズに対応している。製造業では、工程管理面から、自社の生産工程に適したロットサイズ外の受注を避けることが一般常識である。しかし、A社は、得意先B社、C社の要望に応えることで、少量~大量のロットサイズのそれぞれに、最適な品質・コスト・納期で応えられる柔軟な生産体制を確立した。この点がA社の特筆すべき強みである(図表10)。
 最初、A社メンバーからは、A社の保有設備が「強み」として挙がってきた。しかし、「自社目線」でなく「お客様目線」でA社の強みを抽出する必要があると考えた。そこで、「顧客が数ある競合の中からどうしてA社を選んだのか」という点を深堀するために、顧客、競合、自社の関係性を整理することができる3C分析(当研究会では「三社分析」と呼ぶ)を活用した。なお、A社を始め中小企業で容易に活用できるように、分析用のフォーマットを用意した。
②新規顧客向けアピール資料の作成
 A社の会社案内は、主要設備、主力生産品を紹介したものであった(図表11a)。これでは、お客様目線でA社の強みを十分に説明できなかった。そこで、「鉄製品を1個でも!1万個でも!貴社の生産のムダを減らします」のキャッチフレーズでA社の強みをアピールする資料を作成した(図表11b)。

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 中小企業の多くは、販促物の制作を担う部門がなく、制作のノウハウも有していない。そこで、当研究会では、会社案内や製品・サービスなどの販促チラシの制作のコツ(コンテンツ、レイアウト、印刷方法)をまとめて、さらに、素材を埋め込むだけで完成する標準テンプレートを用意している。今回、それを活用してA社向け資料を作成した。
③新規顧客のターゲット、アプローチ方法の検討
 新規顧客のターゲットとしては、少量~大量のロットサイズに対応できる「A社の強み」を活かせる理由で、自動車業界を選択した。新規顧客へのアプローチ方法として、仕入先である材料メーカーからの紹介と、A社の工場がある山形県が主催する商談会への参加を選んだ。
④行動計画表の作成
 紹介見込みのある仕入先メーカー14社をリストアップした。これを基に各人の行動計画に14社への訪問計画と商談会への参加予定を加えた。

5.経営支援の効果
 当初の課題に対する、経営支援の効果を、次ページの図表12にまとめる。従来の「成り行き」「担当者任せ」の営業活動から、「重点顧客を定めた」「組織的」な営業活動に転換しつつある。

(1)顧客訪問件数
 昨年は、営業拠点から遠い得意先については、会社からの出張許可が得られにくいため、近隣のB社に訪問が集中していた。今回、顧客戦略を策定し、会社公認のもと、訪問すべき顧客を決めたことで、出張許可が下りやすくなった。さらに、見積書テンプレートを標準化するなど営業事務処理の効率向上も並行して進めたため、顧客訪問のための時間的余裕も確保できた。
 その結果、顧客訪問件数は、2017年4~7月まで月平均29件となり、昨年度比較で30%増の実績となった(昨年同時期:月平均22件)。なお、訪問時に積極的に顧客の困りごとを聞くことで、次回までの宿題を設定できるようになり、顧客からのアポイントメントも取り易くなった。

(2)新規顧客開拓
 新規顧客向けアピール資料を基に、山形県広域商談会に参加し、17社に対してアプローチを実施した結果、5社から引き合いをいただいている。そのうち、螺旋系製造会社、自動車部品製造会社の2社からは有望案件の引き合いをいただいている。また、仕入先メーカーから5社の新規見込顧客の紹介をいただき、そのうち静岡県のトラック荷台用器具製造会社からは、金属フックの二社目の調達先として具体的な検討をいただいている。
 その結果、2017年7月末現在10社の新規見込顧客が開拓でき、内3社からは有望案件の引き合いをいただいている。(昨年同時期:新規見込顧客 0社)

(3)A社社長、工場長の評価
 A社社長からは、営業活動の成果により、他社情報(強み・弱み、当社の競合に成りえるかなど)を入手できるようになり、競合対策の必要性を早めに判断できるようになった点を評価されている。たとえば、ある得意先では、部品の納入頻度の面で、地場業者に差をつけられていることが分かり、その情報を部課長会議で報告した結果、早期に対策の検討を開始することができた。
 また、A社工場長からは、得意先別の営業戦略と売上目標を設定したことを評価されている。売上目標の精度を上げることで、工場の設備計画を早めに準備し、最適化することが期待できる。

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6.今後の予定
201801-10-2.jpg A社では、新規案件の受託権限が工場側にあるため、リスクを恐れて新規案件の受託を手控えることがある。その場合、受託否の理由も不明確であった。そこで、今後は、工場部門との目標共有、連携向上のための仕組み作りを視野に支援を続ける(図表13)。
 第一に、工場の関係部門より、受託の可否判断に必要な情報(生産技術・設備・生産能力)を聴取し、可否理由を記録に残すためのフォーマットを準備した。
 今後、受託可否判断のルールを決めて、本フォーマットによる運用を開始し、蓄積されたデータから、定期的に受注否の要因分析を行うことで、A社の生産技術や設備にあった新規顧客のターゲットの明確化や、新規案件の受託率を向上するための生産技術や設備の改善に結び付けていく予定である。(平成29年9月~実施予定)

7.おわりに
 中小部品製造業A社に対して営業力強化の経営支援を行った事例を報告した。実施効果として、訪問件数、新規商談数、新規顧客件数は伸びており、売上UPに繋がる成果が出始めている。一方で、営業の新規顧客開拓の取り組みを成果に結びつけるためには、工場側の協力が必須であることも分かった。今後は、工場との連携向上の仕組み作りを支援していく所存である。
 当研究会では、これまでの営業力強化コンサルティングの実績を基に、適用事例集を作成することで、診断・コンサルティングのノウハウを形にしていく予定である。さらに、「顧客戦略シート」など経営支援ツール類について、業種ごとの適用結果を整理し、テンプレート化することで、「営業力強化コンサルティング」をさまざまな業種にスムーズに適用できるようにしていく所存である。


【執筆メンバー】
 営業力を科学する売上UP 研究会
 (リーダー)緒川 直樹、鎌田 慎也、小林 工、木村 健一郎、新城 信弥ほか

2017.11.29
創業2年目のイタリアンバル支援の事例

店舗ビジネス研究会

1.はじめに
 飲食業、サービス業、小売業は「立地産業」ともいわれるように、業種・業態に応じた店舗立地が重要で、経営に与える影響は大きい。したがって、新規開業において売上を構築、収益を確保するためには、まずはいかに望ましい立地、店舗を選択するかという立地選定および店舗開発にかかわる経営課題がある。そして、ひとたびそれらを選択したあとは、それらを所与の条件として、いかに経営していくかという店舗経営の問題となってくる。
 本会は、このような店舗ビジネスにおける経営課題を解決するために、会員相互の研鑽と情報交換を通じて、中小企業診断士としての役割を認識し、スキルを磨き、活動・実践して情報やノウハウを蓄積し、中小企業の革新と活性化および持続的発展に寄与することを目的とする。
 本稿では本会有志によって支援した事例であるイタリアンバル支援の事例を取りあげて、その支援にあたっての考え方を提示しつつ、概略を紹介したい。

2.支援のきっかけと支援対象の概要
 当店は当会のメンバーが創業に関わった関係から、店舗がスタートした時点でまず経営者が課題と考えていることについて整理してほしいという依頼があり、昨年(2016年)支援を行った。その際のテーマは①競合調査、②IT活用、③従業員教育/マニュアル見直しであった。そして、本年(2017年)は開業して1年経過しての問題点と課題の抽出およびその解決への提案がテーマであった。支援先の店舗概要については以下のとおりである。

◎店舗概要
 (1)店舗コンセプト
 仕事を頑張るために、みんなが集い、明るく楽しく気軽に入れてお酒だけでなく食事も楽しめるイタリアンバルスタイルのお店
 (2)開業
   2016年6月末
 (3)こだわりメニュー
  ①安全、安心で新鮮な食材にこだわりと野菜ソムリエ考案によるバラエティーに富んだ新鮮野菜メニューを提供
  ②北海道の小麦を使用した自家製のパンを提供
  ③石窯を備え、ピッツァやオーブン料理を提供
 (4)営業概要
  ①営業時間
    昼間  平日  7:30~17:00
    夜間  平日と土曜日  17:00~22:00(予約日のみ営業)
  ②席数:35席
  ③営業内容
    昼間  ベーカリーカフェ、パンの販売
    夜間  イタリアンバル 
 (5)経営概況
    月商  約130万円
    借入金 2,554万円
 (6)商圏  JR神田駅西口近辺

 飲食業の事業において、通常言われるものにFLR比率というものがある。FはFoodの頭文字で材料費である。LはLaborで人件費である。RはRentで店舗の賃借料である。それぞれ、売上高に対して、Fは30%程度、Lは30%弱程度、Rは10%程度に抑えられていることが望ましいとされている。
 図表1に示すように、創業計画時には材料費(F)、人件費(L)、家賃(R)をそれぞれ望ましい比率に抑えて計画されていても、実際に創業してみると現実①のような事態に陥ることがよくある。当店はまさに現実①の状況に陥っており、赤字経営となっていた。

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3.現状分析と問題点、課題の抽出
 まず、われわれは現状を把握するためにSWOT分析を行った。その概要が図表2である。われわれは問題点として、店舗がベーカリーカフェとイタリアンバルという二つの性格を持っており、顧客にとってコンセプトがわかりにくいという点が最大の問題点であると認識した。そのため、顧客に店舗のコンセプトをいかに周知させるかということを重点的に提案することとした。しかしながら、現状の赤字対策も緊急を要するため、短期的に売上が上がる方策も併せて提案を行った。

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4.提案内容
(1)プロモーションの提案
 店舗の経営を蛇口とタンクになぞらえ、顧客を水に例えると、新規の顧客の流入と、顧客の退出は図表3に模式的に表される。蛇口の水は新規顧客、穴から流れる水は退出顧客、たまった水は常連顧客である。新規の顧客を増やしても、退出する顧客が多くなると、常連顧客の数を示す水位は下がってくる。流入する水(新規顧客)を増やし、流れ出る水(退出顧客)を減らし、そのたまった水位(常連顧客の数)を上げるための活動を行う必要があるわけである。

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 そのうえで、われわれは当店においては、図表4の店舗活性化の概念図における「認知拡大」の段階でまだ努力できるところがあるのではないかととらえ、次のような提案を行った。

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  ・周りの店よりももっと目立つような工夫をする(リアルの世界)
  ・ネットでの露出を増やすべく対策を行う(ネットの世界)
  ・足腰を強くするための広告・宣伝の実施(具体的には潜在顧客にターゲットを絞ったチラシ配布や店舗案内の配布などの営業活動)
  ・リピーターへのリマインド作戦
(2)売上アップへの取り組み
 図表5は新規に出店して、時間の経過とともに店舗の売上がどのように推移するかを模式的に示したものである。店舗を開店してからの売上高の推移はこのようなカーブを描くことが多い。新規に店舗を出すと、まず新しい店舗ができたということで認知が進み、通常、売上は上がっていく。しかしながらお試しの顧客が一巡してしまうと、コアな顧客のウェイトが高まってくるとともに徐々に売上は落ちてくる。そのまま手をこまぬくと、低い売上レベルで店舗経営を強いられることになる(Aのカーブ)。そのため、店舗としては新たな施策(第1回施策)を打ち出して店舗を活性化する必要がある。それを二度(第2回施策)、三度と繰り返すことにより、コアな常連客を増加させていくとともに、売上が底上げされ、店舗経営が安定してくるという経路をたどる。

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 われわれはこのカーブを意識して、飲食業として最も売上の上がる年末年始に向かって、次のような施策を講ずることを提案した。
  ・夜の売上アップのためのメニュー開発
  ・顧客や従業員を巻き込んだイベントの実施
  ・オペレーション負荷のかからない、日中の顧客増対策

(3)メリハリのある施策の実施
 いろいろな施策を提案しても、オーナー1人で取り組むことになるため、次のように取捨選択したうえで優先順位づけして実施することを提案した。
  ・売上アップにつながる即効性のある施策から行うこと
  ・何を、いつまでに、どこまでやるかを考えて取り組むこと
  ・計画的に実施すること
 施策を実施するうえで、次のようなフォームを一例として提示を行った。

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5.提案を受けてのオーナーの反応
 われわれの提案を受けてオーナーは次のように実行することとした。
  ・材料費を中心として、コストは2割下げるようにする
  ・イタリアンバルとしての認知性を高めることにさっそく取り組む
  ・ターゲットを絞ってチラシの配布を行う
  ・顧客に対してイタリアンバル風の忘年会イベントを提案することとする
  ・試食会など、顧客や従業員を巻き込んだイベントを検討する
などである。

6.終わりに
 今回の支援では、オーナー自身が店舗の運営で手一杯であったうえ、売上が何よりも最優先であるから、なかなか打ち合わせのタイミングが取れないという状態になった。そのため、さまざまなデータの収集、調査、確認が進まなかった点が最も苦労した点である。今後は提案のうち何が実行され、何が実行されなかったか。そのために店舗はどうなったかをレビューし、さらなる店舗経営の改善に結びつけていければと考えている。

2017.10.29
りんご農家のビジネスモデルの再構築

良い食品販売研究会  齊藤 昭彦

はじめに
良い食品販売研究会は、平成21年に発足し、人々の健康に資するため、座学による食やコンサル手法などの知識の習得をもとに、実際の診断活動を続けてきた。メンバーは、食品業界に関わっているもののみならず、他業種からも数多く参加しており、多面的な議論を行いメンバー間相互に触発することを特徴としている。
今回、当研究会ではI農園よりビジネスモデルの再構築の相談を受け、現地調査のうえ、つぎのような提案を行った。

1.日本のりんご農家の現状
りんごの収穫量は、従事者の高齢化や農家数の減少により、結果樹面積(栽培面積のうち生産者が果実を収穫するために結実させた面積)は年々低下し生産量も減少傾向にある。

(1)りんご農家の状況
 ① 農業従事者の状況2p-1.jpg
   平成27年度のりんご農業経営体数は、全国で39,680と果樹栽培農業経営体の17.9%と柑橘類に次ぐ規模であるが、総数、果樹栽培農業経営体数に対する割合ともに減少傾向にある。
 ② 作付面積
   平成28年度のりんご作付面積は、全国で38,300haと柑橘類に次ぐ規模であるが、その面積は減少傾向にある。
 ③ 消費動向2p-2.jpg
   平成26年度のりんごに対する1世帯あたりの年間の支出金額は5,210円、購入数量は12,868gであり、柑橘類に次ぐ消費量である(二人以上の世帯)。
   また、平成26年度の世帯収入別(勤労者世帯)および世帯主年齢別の年間支出額をみると、高年収世帯、高齢者世帯の支出額が大きくなっている(二人以上の世帯)。

 ④ 貿易
   平成28年度のりんご輸出額は、130億円を超えており、3p-1.jpg生鮮・乾燥果実輸出額の80%以上となっている。主な輸出先は、台湾(70%)、香港(10%)、中国(4%)である。その一方、りんご輸入額は生鮮4億7千万円に対して、ジュース108億円と、ほとんどがりんごジュースとして輸入されている。

(2)りんごの品種とその特徴
 平成28年度の品種別にみた収穫量は、「ふじ」が40万6,600トンと最も多く、全体の5割以上を占めている。また「つがる」「王林」「ジョナゴールド」とあわせて、上位4品種で約8割の収穫量を占めている。3p-2.jpg
 これまで「おいしい」「食べやすい」などの消費者ニーズに応じて新品種が育成・生産されてきており、近年もより多様化したニーズに対応した新品種が育成されているが、現実は上位4品種への集中度が高まる傾向にある。りんごの主な生産地の青森、長野で生産されている主なりんごの特徴は以下のとおりである。

3p-3.jpg

2.支援先企業I農園の概要
I農園は長野県飯綱町にあり、周辺を志賀高原、戸隠高原、斑尾高原に囲まれた自然豊かな丘陵地で、昼夜の寒暖の差が大きく、土壌も粘土質で大変美味しいりんごが収穫できる場所として有名。
I農園では、自分や家族、親せき、友人が安心して食べられるように、殺虫剤の使用を極力控え、雑草駆除剤は使用しないという安全なりんごづくりにこだわりをもつ。

(1)生産体制
 ① 生産者の想い4p-1.jpg
   Ⅰ農園の規模は約2 haと小規模ではあるが、甘く、大きなりんごに育てるために剪定や摘果、葉摘み、玉まわしなどを丁寧に行い、質の高いりんごを栽培している。りんごの木の寿命は、経済的には20年~30年といわれているが、Ⅰ農園では1本1本の手入れを適切に実施することにより樹齢50年以上の木もある。
 ② 人員体制
   通常時は、剪定、施肥、最小限の農薬散布等を経営者1名、経理等1名、営業1名で運営している。摘果、収穫時は地元主婦のパートを7名程度雇用する。
 ③ 商品
   りんご生産量の80%は「ふじ」、20%が「つがる」である。
   生産量の90%程度は、利益率の高い贈答生食用として販売している。生食用として販売できなかったりんごは、りんごジュースやシードルの原料として利用している。シードルの生産量は年間500本程度であるが、自社での醸造設備をもたないため、近隣のワイナリーに醸造を委託している。
 ④ 製造原価、利益
   生食用りんごは、ほとんどが消費者への直販となっているため、中間マージンを省き高い利益率となっている。シードルは、販売価格1,700円(1本)に対し委託醸造費が約1,000円必要となるため粗利益は700円(1本)程度である。

(2)販売体制
 ① 主な販売先
   販売先は、消費者への直売がほとんどで、JAへの出荷は行っていない。直販比率が高いため、中間マージンが省けるので利益率は高い構造となっている。
 ② 消費者へのアプローチ
   消費者へのアプローチは、既存顧客へのDMによるセールスと、ホームページを使ったインターネット通信販売により行っている。品質が評価され、既存顧客のリピート率は高く固定客主体の販売体制となっている。

3.I農園の課題と解決の方向性 
(1)課題1:りんご生産者を取り巻く環境変化への対応
 ① 課題
   I農園の主力商品は生食用りんごである。生食用りんごのアピールポイントである見た目、すなわち大きさ、形、色・艶をよくするための作業をほとんどすべて手作業に頼っているが、近年の人手不足の影響で必要な労働力の確保が難しく、人件費がコストアップ要因となっている。
   また、生食用りんごは販売量・販売単価ともに右肩下がりの傾向にある。スーパーなどで手に入る果物の種類が豊富になる中でりんごを選ぶメリットが感じられない、皮をむくのが面倒、核家族化で丸々一個は食べきれないなど、消費行動の変化がその背景にある。
   このような環境変化は徐々に採算を圧迫しつつあり、りんご農家の中には耕作を放棄するケースもみられるようになってきた。人手不足や消費行動の変化は一時的なものではなく、将来ますます厳しさを増すと考えられ、I農園もりんご農家として生き残るために事業内容の見直しを迫られている。
 ② 解決の方向性
   加工用りんごは見た目で評価されないため生食用りんごに比べて生産にかかる労働力が少なくて済む。この利点を生かした人手不足および採算対策として生食用から加工用へとりんご生産の軸足を移す方向を検討中である(ただし、海外市場向けなど高価格で取引される生食用りんごの生産は続けたいと考えている)。
   加工用りんごの主要な用途としてはジュースとシードルが挙げられるが、この2者を比較するとシードルに下記の点で、より優位性が認められる。
  a.製品の賞味期限がなく、歩留まりがよい
  b.瓶のラベルに農園の名前が記載されるので、農園の知名度があがる
  c.りんごの持つ健康イメージとアルコール度数が低いことから世界的に需要が伸びる中、日本でも徐々に人気が高まりつつある
  d.日本のシードル市場は現在発展途上の段階にある。既存事業者の増産や新規参入がみられ、今後市場拡大とそれに伴う要求水準の向上が期待される。
   具体的な事例として、日本シードルマスター協会が主催する「シードルアンバサダー講座&認定試験」は非常に人気が高く、申し込み多数でキャンセル待ちの状況である。
   なお、シードル用には酸味・渋味のあるりんごが適しており、甘みが要求される生食用りんごに比べて生育期間が短縮されるメリットもある。このようなシードル生産に適したりんご品種の選択・開発も今後の課題の一つである。

(2)課題2:シードル醸造(外部委託)に制約が多い
 ① 課題
   I農園は現在でも自社で生産したりんごの一部を外部のワイナリーに委託してシードルに加工・販売をしている。しかし、外部委託には以下のような問題がある。
  a.時期の問題
    りんごにはさまざまな品種がある。シードルに適した品種の収穫最盛期は10月~11月であるが、この時期はワイン用ブドウの収穫期と重なっており、委託先のワイナリーにとっても本業であるワイン生産で最も忙しい時期に当たるためシードルは醸造してもらえない。ワイン醸造が暇になる1月~2月になればシードル醸造を受託して貰えるが、この時期に収穫される品種は甘みがあってクセの少ない生食用の「ふじ」が中心であり、シードルづくりには適さない。
    また将来ワインの需要が増えた場合、1月~2月もワイン製造にあてられる可能性があり、その場合にはシードル生産を受託して貰えなくなるリスクを抱えている。
  b.保管場所の問題
    I農園の希望する瓶内二次発酵製法は瓶詰めしてから製品として完成するまでに時間がかかる。酒税法の規定上、完成するまでは醸造所敷地から外に出すことはできないため、ワイナリーにとってその間の保管場所が問題となる。
 ② 解決の方向性
   I農園と同じく外部委託の問題を抱える近隣のりんご農家と共同で醸造設備を保有・運営する。これによって下記のメリットが得られる。
  a.最適な時期に、最適な品種のりんごを加工することにより理想とする品質のシードルを追求し、今後の伸びが期待されるシードル市場において他の生産者たちと切磋琢磨しあうことができる
  b.「りんご農家の作るシードル」を主力製品とすることで、りんご農家として生き残りを図ることができる

4.今後の対応(支援計画)
シードル醸造事業(自家設備)の運営を進めるにあたって、下記項目について仮説→実行→検証→フィードバックのサイクルに沿って伴走支援を継続する予定である。
   
(1)経営主体
 ひとつの事業体としてまとまりをもって事業にあたるために、株式会社設立を行う。これは同時に、6次化補助金の受領条件である(農業)法人化を充足することにつながり、資金調達の幅を広げる。

(2)設備の規模とその調達
 シードルの酒類製造免許を取得するための法定製造数量は 6,000ℓである(特区では 2,000ℓ)。採算にのる規模は 30,000~50,000ℓと算定している。
 近郊の廃校予定の小学校跡地を商業集積化する計画があり、設備の建設地の選定・購入などの問題がクリアできるうえ、資金面でも有利であるため、有力な設置場所として検討する。
 廃校利用の場合の初期投資額は、
   ・設備(搾汁、発酵、瓶詰)       13百万円
   ・リフォーム(水回り、空調・断熱、販売・試飲スペースなど) 10 ~20百万円
の、合計23~33百万円の見込みである。

(3)資金調達
 共同事業農家による出資のほか、余剰りんごに困っている周辺農家から、シードルの製造受託と引き換えに出資を募るなど地域のりんご農家を巻き込む。更にファンドや6次化補助金などの利用を検討する。

(4)醸造技術
 免許取得には醸造責任者の存在が不可欠だが、その養成には時間とお金がかかる。そのため、近隣ワイナリーから、兼務の形で醸造責任者を派遣して貰うと同時に、別途常駐者を設けることで、技術習得に努めることにする。

(5)酒類の製造・販売免許取得(資格・期間)
 酒造免許は、許可が下りるまで約6ヶ月を要する。従って、生産開始時期を見きわめて、全体の計画を練る必要がある。

(6)設備を充分に稼働させるだけの受注量確保と販路開拓
 自家設備を持つ以上、自家ブランドを育成したい。現在ワイナリーに製造委託している農家の製品を受託生産し、更に近隣のりんご農家を巻き込みたいと考えている。
 具体的な販売経路は、酒販店を通すものと直接ルートとが考えられる。後者はさらに、ネット、飲食店、イベントへの参加などになるが、当初は生食用りんごの購入者に対するアプローチからスタートする。

まとめ
今回支援させていただいたI農園では、次世代の後継者が日本の農業を未来へつなぐためにさまざまな取り組みを検討している。昨年度当研究会で学んだ「地元学」(参考文献;吉本哲郎「地元学を始めよう」結城登美雄「地元学からの出発」)にあったように「土の人」(地元の人々)と「風の人」(よそ者:診断士)が知恵と行動を融合することで新たな活路を見いだせるような活動を今後も続けていきたい。

2017.09.29
中小企業のIT経営推進への道標 ~「IT経営推進プロセスガイドライン」の活用~

中小企業のIT経営推進への道標
~「IT経営推進プロセスガイドライン」の活用~

「診断士ITC研究会」

1.はじめに
 IT化の進展により中小企業でもITの利活用が必要となっている。ITコーディネータ協会i)では、「IT経営とは、経営環境の変化を洞察し、戦略に基づいたITの利活用による経営変革により、企業の健全で持続的な成長を導く経営手法である」と定義し、「IT経営推進プロセスガイドラインVer.3.0」ii)(以下、IT経営PGLと記す)を発行している。本稿では、大企業までカバーする「IT経営PGL」を、中小企業診断士が中小企業・小規模事業者の支援に活用することを想定し、「IT経営PGL」の概要と事例について紹介する。

1p-図1.jpg

i) ITコーディネータ協会 https://www.itc.or.jp/
ii)IT経営推進プロセスガイドラインVer.3.0:初版発行日2016年8月31日、184ページ

2.IT経営の推進方法
 IT経営PGLは、IT経営推進の羅針盤として、IT経営の「実行基準」と「判断基準」を示している。実行基準は、IT経営で注力すべき重要な活動領域での「進め方(プロセス)」を示しており、判断基準は、各プロセスの実行における判断の視点としての「基本原則」を示している。以下、進め方を中心に記載する。
 IT経営プロセスの全体像を図1に示す。進め方(プロセス)については、3つの主要な活動領域に分けている。IT経営認識領域(A)、IT経営実現領域(B)、IT経営共通領域(C)である。各プロセスについては、以降で詳しく述べる。
  
3.IT経営認識領域(A)
 IT経営認識領域は、経営や組織のIT経営への変革認識を向上させることで、IT経営実現領域(B)の活動を支える。
 (1)変革認識プロセス(A1)
  危機感や問題意識を経営者や従業員で共有し、環境変化に気づき、変革のためのモチベーションを組織的に高め、変革の必要性を全社にわたり認識させる。
 (2)変革マネジメントプロセス(A2)
  変革の推進を支援するとともに、変革構想の前提条件の変化とIT経営実現領域の活動状況とを継続的に把握し、必要な是正を行う。
 (3)持続的成長認識プロセス(A3)
  変革構想に基づいた経営戦略、業務改革、IT戦略、IT化プロジェクト実行成果の評価によって組織の成長を確認し、次の変革実現に何が必要かを確認する。

4.IT経営実現領域(B)
 IT経営実現領域(B)では、IT経営を実現するための、経営戦略の策定から戦略目標達成までの一連の活動を行う。活動には、経営戦略に関するもの、業務に関するもの、ITに関するものが含まれる。また、ビジネス改革や業務プロセス改革(イノベーション)の活動も含まれる。
 IT経営実現領域の各プロセス概略を図2に示す。

2p-図2.jpg

 (1)経営戦略プロセス(B1)
  経営戦略プロセスはIT経営実現領域の最初のプロセスで、経営者の変革構想を受けて、経営戦略の策定・実行・評価を行う。経営戦略は全体計画と個々の組織別計画にブレイクダウンして実行され、結果は経営戦略目標の達成度で評価される。
  ①経営戦略策定段階
   経営戦略プロセスでは、変革認識プロセス(A1)で作成した変革構想を確認し、自社の「強み」や会社としての能力、内外の経営資源を考慮し、経営戦略を策定する。
   また、経営変革にどの程度ITを組み込むのかを決める重要なプロセスでもあり、変革の程度、範囲やスピードを大きく左右する方針が決定される。
   図3(経営戦略企画書の事例)は、中小企業はもちろん小規模事業者まで対応可能な支援実績のある、できるだけ簡単にテマ・ヒマ・カネをかけず経営戦略を1枚にまとめ検討・確認する目的で作成されたものである。

3p-図3.jpg

  ②経営戦略実行段階
   経営戦略を組織内で共有し、これと整合をとった中期経営計画、組織の短期実行計画(通常年度単位)などを作成し実行に移す。これらの計画に沿って開始される業務改革やIT戦略、IT利活用の各プロジェクトは、業務改革プロセス、IT戦略プロセスおよびIT利活用プロセスで推進される。
  ③経営戦略評価段階
   中期計画期間終了時点で、各プロジェクトから実行結果の評価を引き継ぎ、全体として経営戦略目標を達成しているかどうかを評価する。評価結果は、持続的成長認識プロセス(A3)へ引き継ぎ、経営戦略プロセス(B1)を完了する。
 (2)業務改革プロセス(B2)
  業務改革プロセスでは、新たなビジネスのあり方や新業務プロセスを検討し実現する。必要に応じて業務改革プロジェクトとして実施する。ITに目がいきがちであるが、ITは業務改革の実現手段であることを意識しておく必要がある。
  ①改革課題の明確化
   中期経営計画から具体化したCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)/KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)および業務改革課題などを明確化し、業務改革方針を策定する。
  ②現状のビジネス・業務の分析
   業務改革に関連する外部環境および内部環境の情報やデータを収集し、中期経営計画実現に向けての課題と対策を検討する。
  ③目標とするビジネスのあり方・業務プロセスの決定
   外部のベンチマーキングやさまざまな事例、技術動向、業界動向などから目標とするビジネスのあり方を検討・決定し、それを実現するための業務プロセスを具体化する。そして、改革内容、スケジュールを業務改革実行計画にまとめる。
   図4は、具体化した業務プロセスを業務フローで表現した例である。

4p-図4.jpg

  ④ビジネス改革・業務改革の実施
   目標とするビジネスのあり方やその業務プロセスの実現のために業務部門やビジネスパートナーとの協働作業を行う。
  ⑤ビジネス改革・業務改革の評価
   予定されていた計画との差異を確認し、成果を評価するとともに、そこで明らかになった課題の改善や見直し内容を明らかにする。
 (3)IT戦略プロセス(B3)
  本プロセスでは、ITサービスやIT利活用のための戦略を策定する。IT戦略プロセスの進め方は以下の通りである。
  ①IT領域環境分析
   IT領域の環境を、現行のIT環境、内部制約条件、外部のIT動向の観点で分析を行い、現行のIT環境の成熟度、および制約条件を確認し課題を抽出する。
  ②IT要因による業務プロセス改革の特定
   実現すべき業務プロセスを特定したうえで、KGI/KPI達成のための既存業務の見直しを行う。制約条件(IT環境、予算、期間)を踏まえ、解決を「人間系」「IT系」に区分し、目標とする業務プロセスの概要を策定する。そして、「IT利活用レベル」を把握し、目標業務プロセス実現のための目標IT環境を策定する。
  ③経営戦略とリンクしたIT戦略の策定
   目標とする業務プロセス、およびIT環境の現状とのギャップをIT経営の成熟度の観点で分析を行う。そして経営戦略の優先度、難易度、投入可能な経営資源、費用対効果などを評価し、新業務プロセス・ITサービスの範囲と機能、サービスレベル、スケジュール概要、推進体制、評価項目、IT戦略目標達成、IT戦略活動指標を定める。さらに、ITの導入方式(パッケージ導入、パッケージのカスタマイズ導入等)、運用形態、IT化プロジェクト体制の構築方法を策定する。これらをまとめ、「IT戦略企画書」を作成する。
   図5は、「図3 経営戦略企画書の事例」をもとにIT化戦略を検討・確認する目的で、1枚にまとめた事例である。
  ④IT戦略の展開
   IT化の方針を、ITサービスの範囲、対象者、サービスレベル、機能、導入、運用、新旧システムの連携と整合性、セキュリティポリシー、リスク対策などを踏まえて、推進体制、進め方を具体的に定める。そして、目標ITサービスレベルと利活用レベルを定め、業務部門と合意し、IT化プロジェクトの評価内容を決定する。これらの決定事項とロードマップ、投資計画を加え「IT戦略実行計画書」を作成する。
  ⑤IT戦略の達成度評価
   IT戦略の実行後(IT戦略の実行については後述するB4を参照)、あらかじめ「IT戦略実行計画書」で設定した計画の達成度を評価し改善を行う。IT戦略のKGI/KPI等の計画値と実測値の差異分析と、その結果に対する原因分析を実施してIT戦略の実現度を評価する。その中で導出された問題点は解決方針を明らかにし、課題の内容を鑑みてフィードバック先のプロセスを決定する。

6p-図5.jpg

 (4)IT利活用プロセス(B4)
  ①IT資源調達ステップ(B4-1)
   中小企業の場合、内部資源だけでは、ITサービスをすべて調達することは難しい。そのため、ITサービスを外部のサービス開発・提供者から調達するケースが多い。
ア)IT資源調達計画
 「IT戦略実行計画書」に基づいて、新業務プロセスとITサービスを、調達できる単位に整理し、それぞれ、機能要件、情報モデル、技術的要件、運用要件、品質要件といった調達要件を明確にする。あわせて、現行の業務プロセス・IT環境(As Is)と、業務プロセス・IT環境のあるべき姿(To Be)を外部の関係者に理解できる形に整理しておく。
 契約方法、納品、研修など日常調達業務の作業範囲・契約条件などについて、購買部門と調整を図る。また、調達基準は、経営基盤、技術力、アフターサービス体制、要求事項の達成度、費用などから設定しておく。

イ)提案依頼書(RFP)の発行
 今までの検討に基づき、発注企業の現況および環境、課題と達成目標、調達内容および範囲、期待効果、予算、現行の業務プロセス、体制、業務フローと新業務フロー、新情報システム、移行、教育・訓練、開発・運用条件、保証条件、契約条件、取引形態などをまとめて提案依頼書(RFP:Request For Proposal)を作成する。提案依頼対象者のリストを技術的能力、実績、開発能力、品質管理能力、財務安定性などに基づいて作成し、それらに対してRFPを発行する。必要に応じて、提案依頼対象者に対して、説明会などを開催して、質問や依頼に対する説明などを行う。

7p-図6.jpg

ウ)調達先の選定・契約
 外部のサービス開発・提供者から提案と費用見積もりを受領し、内容を調達基準に基づき評価し、選定する。その後、選定した外部のサービス開発・提供者との契約内容の合意のための交渉を行い、合意に基づいて契約を交わす。
 IT資源調達は、公平な立場で、公正、オープン、透明性を確保して実施し、総合的な視点で選ぶ。
  ②IT導入ステップ(B4-2)
   外部のサービス開発・提供者を含めたIT化プロジェクトチームを編成し、経営目標・業務改革実現のためのIT利活用を行う業務プロセスを具体化する。

8p-図7.jpg

ア)IT導入実行計画策定
 具体的なシステムの方式・形態(内外製方式、導入形態、開発方式、運用形態)を決定する。IT導入ステップを、WBS(Work Breakdown Structure:プロジェクト全体を細かな作業に分解した構成図)などを用いて詳細なタスクに分解し、各タスクにおける役割分担を業務改革プロジェクトチーム、IT化プロジェクトチーム、外部のサービス開発・提供者を含め定義する。導入詳細スケジュール、IT化プロジェクトチームが中心になって、IT導入マネジメント計画を策定する。
イ)IT導入のマネジメント
 IT導入マネジメント計画に基づいて、IT化プロジェクトチームが中心となって外部のサービス開発・提供者とともに、IT導入を進める。積極的なIT利活用に基づく業務要件やITサービスの要件を確定し、新業務の業務プロセスを詳細な業務フローやITサービス内容についてIT戦略との整合性を取りつつ、設計する。新業務の業務プロセスについては、業務要件定義、業務フロー、情報モデル、コード体系、入出力情報といった内容を確定する。ITサービス内容については、サービス内容、基盤、日次、週次、月次、年次などの運用方法やその仕組みだけでなく、緊急時運用法などについても業務の実施に影響がないよう検討する。IT環境構築にあたっては、IT導入方式に従って、導入を行い、品質・コスト・納期から全体管理を行う。
 総合テスト計画・システム移行計画の策定と準備は、業務改革プロジェクトチームとIT化プロジェクトチームが一体となって行う。総合テスト計画では、テストの範囲・方法・環境、スケジュール、役割分担、要員配置、必要機器類、必要設備などについて、計画の策定と準備を行う。移行計画は、1)移行時期、タイミングの判断、2)移行のためのツール準備、3)移行による現行業務への影響度合い、4)移行の実施者、責任者の明確化、5)移行テストと移行結果の確認方法、6)実施予定日における全体調整、7)リハーサルの必要性と実施、8)移行失敗時の手戻し手段と戻し作業手順などを考慮する。
 業務改革プロジェクトチームが業務マニュアルを、IT化プロジェクトチームがシステム運用マニュアルをそれぞれ主体となって作成をする。業務マニュアル、システム運用マニュアルに基づき、業務改革プロジェクトチームとIT化プロジェクトチームが一体となって教育・訓練計画を作成し実施する。
 総合テストは、計画に基づき、ステイクホルダー参加のもとで実施する。システム移行、データ移行、現業業務から新業務への業務移行のリハーサルは、移行計画に基づいて、業務改革プロジェクトチームとIT化プロジェクトチームが一体となって実施する。
ウ)IT利活用開始判断
 総合テスト状況と結果、業務移行準備、データ移行準備、システム移行準備、ITサービスの開始準備状況等を評価して、ITサービス利活用開始可否の判断を行う。
  ③ITサービス利活用ステップ(B4-3)
   業務改革プロジェクトチームは、積極的なITサービスの利活用を対象業務部門などに促し、業務改革を推進する。
   ITサービス提供部門は、その提供状況と利活用状況をSLA(Service Level Agreement
:サービスの提供事業者とその利用者の間で結ばれるサービスのレベルに関する合意水準)に規定された指標ごとに、設定されたタイミングで捕捉し、差異分析を行い、必要に応じて改善策を検討する。ITサービスレベルの改善はITサービス提供部門が、ITサービス利活用の改善活動は業務改革プロジェクトチームが中心となって実施する。
   運用中に、IT提供部門に対して、業務改革プロジェクトチームから各業務部門からさまざまなITサービスの提案やクレームや改善要望が出されることがある。その場合、経営全体視点の観点などから、変更を行うかの判断、変更の方法、変更内容や範囲、変更時期などを決定して、その変更要求の過程(受付、対応、指示、結果)を記録する。

10p-図8.jpg

5.IT経営共通領域(C)
 IT経営共通領域は、IT経営の各領域、プロセス、ステップに関して、共通の考え方で推進すべき取組みを示す。
 (1)プロジェクトマネジメント(C1)
  IT経営実現領域(B)での各プロジェクトを整理・統制し、目標、成果物、期限、品質や対象範囲、責任範囲を明確にし、目的の達成に導く取組みである。
 (2)モニタリング&コントロール(C2)
  環境の変化と、各領域、各プロセスの状況をモニタリングし、目的達成に向けてコントロールする取組みである。IT経営認識領域(A)では外部変化も踏まえて全体最適観点で、IT経営実現領域(B)では各プロセスの完遂をめざして実施する。
 (3)コミュニケーション(C3)
  IT経営プロセスの全般に渡るステイクホルダーとのコミュニケーションにおいて、重要なコンピテンシー(能力・適性)である。相手の価値観を察知し、相手の意見を聞き(傾聴)、自己の意見も伝え(アサーション)、より良い合意形成ができるコミュニケーションの環境作りを主導する。

6.おわりに
 IT化の急速な進展の中で中小企業・小規模事業者も経営改革・改善にITの利活用が必要とされている。しかし、ITへ関心がない、ITの話題を避ける経営者も多く見られる。診断士ITC研究会では、研究テーマの一つとして経営戦略からIT利活用まで大企業も参考にできる「IT経営推進プロセスガイドライン」(旧ITCプロセスガイドライン)に対し、中小企業支援に役立つ簡素版IT経営PGLのあり方を検討してきた。
 本稿を、IT化に比較的馴染みの薄い中小企業診断士が企業支援を行う際に参考にしていただければ幸甚である。迅速に幅広くIT化の進展が見込まれるなかで、今後とも、IT経営の視点を中小企業・小規模事業者への経営支援に役立てたい考えである。

2017.08.29
中小企業のマネジメント研修

中小企業のマネジメント研修

人財開発研究会 上井 光裕

1.はじめに
 中小企業診断士の業務に「研修」がある。筆者は、独立して6年、これまで主にガス業界の中小企業の研修を実施してきた。中でも階層別マネジメント研修を10社ほど実施してきたため、その実績をベースに標準的な「マネジメント研修」としてまとめたものである。今後マネジメント研修を企画する際の参考にしていただきたいと思う。

(1)マネジメント研修のニーズ
 平成28年度厚生労働省能力開発基本調査によれば、OFF―JTを実施している事業所は、正社員で従業員30人以上の企業でも5割以上あり、マネジメント研修は新規採用者研修に次いで、5割近くの事業所で実施されている。

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 そこで今回は、従業員30人以上300人未満程度の中小企業を対象とした、初級マネジメント研修について、その内容や効果について、まとめてみた。
 
(2)マネジメント研修に入れるべきスキル
 マネジメントに求められるスキルとして、ハーバード大学のカッツ教授は、コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキル、テクニカルスキルの3つのスキルを挙げている。上級管理者になればコンセプチュアルスキルが多く、初級管理者はテクニカルスキルが占める部分が多い。ヒューマンスキルはどの階層でも等しく求められる。
 そこで、今回は、ヒューマンスキルを中心に、コンセプチュアルスキルを入れてマネジメント研修とした。なお、テクニカルスキルは業種によって求められるものが異なるケースが多く、業種を問わないものを取り入れた。

2.初級管理者研修のカリキュラム
 階層別研修は、多くの研修会社から提案されているが、上記の必要とされるスキルからカリキュラムを作成した。人事考課・人材育成といったヒューマンスキルを中心に、企業の課題分析としてのコンセプチュアルスキル、財務基礎やプレゼンテ―ション等のテクニカルスキルを、筆者の研修実績と実施した企業のニーズと振り返りからカリキュラムを設定した。なお、研修は月に一回開催として、研修後は課題を出し、次回履修結果を発表するという想定である。

3p上図.jpg3p下表.jpg

3.経営管理・リスク管理研修
(1)SWOT分析 
 最初のコンセプチュアルスキルの代表は、「我が社の課題分析」である。診断士にはおなじみのSWOT分析を使うが、初級管理職に、いきなりSWOT分析は難しい。
 従って、まず自分の周囲や職場、社会の変化を思い浮かべて列挙してもらう。これがSWOTの外部環境になる。
 次に内部資源について列挙してもらう。多くの研修では、自社を客観的に見たことが少ないせいか、強みはあまり出ず、弱みは目につき数も多い。そして弱みの大小、粒の大きさも異なって列挙されることが多い。

(2)因果関係分析
 実際の問題は複雑に絡み合っていて、その原因や結果、根源的な真因などが混在している。そこで、SWOT分析で出された弱み(問題点)を、1項目ずつ総あたりで原因と結果の関係を調べていく。

4p図.jpg

 そして因果関係の得点を合計して、得点によりグループ全員の合意で真因を見つけるのが、因果関係分析である。
 筆者の経験によれば、「我が社の本質的課題」をテーマとすると、業界企業の多くは、①人材不足、②危機意識が少ない、③受注先が偏っている、がベスト3であった。
 最後に、コンセプチュアルスキルの演習として、真因の解決策をレポート等で求めるのがいいだろう。

(3)リスクマネジメント
 管理職になると、定常的には起きないが、発生すると影響の大きいリスクをマネジメントする必要が出て来る。そこでコンプライアンスの課題を含むリスク管理研修を行う。自社のコンプライアンス推進体制としくみを作成・周知し、業界や自社のリスク、職場のコンプライアンス課題やリスクをグループになって洗い出し、マップに落とす。
 リスクマップは、横軸に発生確率、縦軸に発生した時の影響度を取る。そして象限ごとに対策が異なることを理解し、プロットした事象について対策を検討していく。
 対策は、保有、移転(保険などの対策)、軽減、回避の4種類で、たとえば、影響度大:大地震が発生、発生確率大:首都圏で頻繁に起きる、なら、その事業は事象から回避策を取る、つまり事業を廃止する。影響度小:電車の遅延で、発生確率小:めったに起きないなら、そのリスクは保有である。このようにグループの同意で、一つずつ対策を検討していく。典型的なリスク課題は、事例を事務局で提供し、共有化する。またこの手法は、受講生が持ち帰り、自分の職場に当てはめて分析するようにすることも有効である。

5p図.jpg 筆者の経験した企業は、業種特性もあるのであろうか、交通事故と個人情報の紛失リスクが多く出されていた。

4.人事考課・人材育成研修
(1)リーダーシップ研修
 リーダーシップの研修は、数多く提案されているが、ここでは比較的簡単で、実践的なチームによる模擬建物の組み立てを紹介する。
 数人が1チームになり制限時間内で、割りばしやストロー等で模擬的にタワーや橋を組み立てる。1回目の作業では、時間内にキチンと組み立てるのは難しい。それは、リーダーがいないこと、チーム員の役割が不明確なことが原因である。振り返りを行って2回目にチャレンジすると、リーダーを決めて、材料、加工、組立て、タイムキーパー等の役割を分担し、見事に組織力を発揮して完成する。
 この研修では、リーダーシップのもと、短時間で「組織」を体験し、組織に必要なこと、①材料の制約という原価管理、②制限時間という工程管理、③安全で高い建物という品質管理、を体験してもらう研修である。

(2)人事考課とプロセス研修
 人事考課や人材育成は、ヒューマンスキルの中心的課題である。人事考課研修は、まず当該企業の人事考課方式・流れを確認する。そして、人事考課者の陥りやすい誤りを学習する。誤りは中小企業診断士試験にも出題される内容のため細部は省略する。
 この後、事例を数ケース事前に作成しておき、研修で用いる。以下は、実際の中小企業で遭遇したケースである。Aさんの行動について、まず受講者個人が5段階で評価した。その後同じ内容をグループで評価をしたが、メンバー間で評価が2段階異なる場合が出てきた。3を平均とすると4と2、つまり被評価者一人の行動をやや良いとする考課者とやや悪いとする考課者がいた。同じ企業でこれはまずい。これを徹底的に議論し収束させた。この作業を通じて当該企業における公正な評価方法を身につけていただいた。

(3)簡単な作業による仕事の教え方研修
 簡単な作業によって、上司に仕事の教え方の気づきを与えるものである。まず、講師が受講生に、写真のような二本のひも(コード)を一定の方法で結んで見せる。次に受講生に実際にやってもらう。一見簡単そうだが、これがなかなか難しい。講師が、「あなたが普段教えている部下も実はわかっていないんですよ」と言い、教える難しさを実感してもらう。そして受講生に教え方のスタイルを見直してもらう研修である。
 筆者も実際、何度か研修に使っているが、3ステップで結べる簡単そうな内容でも、5~10回程度繰り返して教えるとやっと結べるようになる。そのくらい仕事を教えるのは難しいということが実感できる。

6p写真.jpg

(4)OJT計画書の作成
 OJTは、経営資源に制約のある中小企業においては優れた教育手法である。
 OJTの課題は、指導者が正しく手法を理解し、継続できるか否かである。実際、筆者の診断経験でも、つい仕事が優先し、せっかく作ったOJT計画も中断することが多い。そこでOJTの目的や手法について研修を行っている。6p下表.jpg OJTは思いつきで行うものではなく、意図的、計画的、継続的に行う必要があり、研修ではOJT計画書の作成方法を学び、実際に計画書を作成してもらう。

7p上図.jpg

 OJT計画書は、作成するだけではなく、研修後課題として、実際に対象者と面接し、OJTを実施してもらうようにしている。実際1か月後の履修状況発表では、上手に行ったOJTや挫折したOJTが報告されている。

(5)コーチング研修
 最近では多くの企業で取り入れられているコーチング研修は、中小企業ではまだまだ普及していない。コーチングは、「傾聴」と、「承認」、そして「質問」が基本的な3つのスキルである。

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 あまり欲張らずにこの3つの基本スキルを身につけてもらうように、講義とペア演習を組み合わせる。
 コーチング指導は一定のスキルが必要なため、コーチングの講師をするには机上だけでなく、スクールなどで基本を身につけるとよい。なお、コーチングは、研修しても実際に使わないとすぐに忘れてしまうため、フォロー研修や職場で使ってもらうことを事後課題とするなどの工夫が必要である。

(6)面接研修
 大企業では目標管理が導入されているため、期末や中間期の面接は徹底しているが、中小企業では実施していない企業も多い。そこで、業績面接を研修に取り入れている。一般的な業績面接では、部下が期初と期末に目標管理シートを提出し、その内容を上司が確認するスタイルである。
 研修では、実際の目標管理シートをお借りして模擬面接を行うが、受講者同士のロールプレイになるため、緊張感に欠ける場合が多い。
 そこで筆者は、ワイルドカードを用いて、緊張感を出している。ワイルドカードは、5枚のカードを伏せておいて、面接演習時に被面接者が1枚引く。そこには、シートに書かれていないことを面接者に強く訴えるなど、面接者が臨機応変な対応を求められることを書いておく。
 面接者は、目標を達成した項目は褒め、未達成の項目は動機付けしなければならない。その上相手から意外な事実を話されても動揺しないように訓練するのが研修の目的である。
 面接研修の例では、多くの上司は心で褒めてはいるが、口では出しておらず、部下に伝わっていないケースが多く見られた。

5.財務基礎・文書作成・プレゼン研修
 テクニカルスキルの研修は、業種や企業によって大幅に異なるが、ここでは共通なテーマについて解説する。

(1)財務の基礎研修
 今まで財務状況などは縁のなかった人達に対する研修で、あまり時間も取れないため基本的な知識を研修する。内容は、貸借対照表と損益計算書の見方を知ってもらい、自分の仕事がどこの勘定科目に反映されているのか、自分が努力したらどの勘定が改善されるのかを概略理解してもらう。
 正直、講義をしてもピンとこない受講生が多い。そこで筆者は、勘定科目を固定費と変動費に分け、損益図表を作成してもらい、損益グラフを書き、3本の線が何を意味しているかを理解してもらう。そして売上アップや変動費・固定費のダウン等、自分の努力が何に反映されるかを理解してもらっている。また計算で損益分岐点も算出できるため、自社の採算ラインも理解できる。
9p上図.jpg(2)文書の作成
 筆者の業界は現場の監督の仕事が多く、文章の作成を苦手とする新人管理者が多い。そこで企業の要望により、文書作成の研修を行っている。テーマは、社内用として事故報告、社外提出用として、顛末書である。自社で報告しなければならない状況と、受講生が報告書に盛り込むべき事項を箇条書きにして渡す。そして市販の文書の書き方書籍を人数分購入し、これらを使って演習する。演習用パソコンが人数分準備できれば実施するが、できないと宿題とする。市販の書籍はCDで様式が沢山ついているため、重宝しているようだ。

(3)プレゼンテーション
 研修の最後は、プレゼンテーションである。パワーポイントで資料を作成し、研修の最終回に経営層にプレゼンする。受講生は、物事をまとめて発表する経験をほとんどしておらず、この研修が最も緊張するようだ。
 受講生は、まずパワーポイントの学習から始める。筆者の研修では、パワーポイントを使ったことのない受講生が約3割であったが、最後は全員パワーポイントでのプレゼンを実施している。以前はそれほど重要視されなかったプレゼンだが、現在は管理者必須のテクニカルスキルとなっているようである。
 プレゼンのテーマはこれまでの研修の感想や、課題の解決策など、自分で見つけてもらい、資料作成後、講師が事前チェックする。そして話し方や時間の設定などを講義し、自宅などで演習をしてきてもらう。最終日は一人15分程度のプレゼンを経営層に対して行い、質疑応答をする。

6.研修効果の向上策
(1)受講生の意識調査
 せっかく貴重な時間を使って研修するのだから、効果的な研修をやりたい。そこで、筆者は、研修前に、受講生の特性調査を実施している。

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 従業員特性調査ツール(Basmos)は、パソコンを利用して、一人10分程度の調査で、社会人基礎力診断と従業員満足度の両方が調査できるツールであり、中小企業の経営支援ツールとしても有効である。筆者の場合、調査結果
は、受講生、事務局、講師が共有化し、受講生の性格を掴み、研修に活用している。従業員特性調査ツール(Basmos)は、中小企業診断士なら安価で利用できる。

(2)複数企業の合同研修の準備
 研修によっては、複数の企業が集まって一度に受講する場合がある。受講生同士が初対面で、企業のバックグラウンドが異なるため、複雑な課題の研修が難しい。筆者の場合、「対立解消の演習研修」が、このケースであった。
 そこで、対立解消では事務局で小説「下町ロケット」の文庫本を購入してもらい、受講生に事前に読んできてもらった。当日は、佃製作所の社長と営業部長の対立をテーマに、その解消方法を小説企業の背景も考慮してディスカッションしてもらい、解消手法が習得できた。

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(3)その他研修効果アップの工夫
 研修が複数回にわたる際には、日毎に各部の幹部の方にプレゼンをお願いしている。これは、同じ企業内でも他部署の幹部の方の話をうかがう機会も少ないため、効果的である。また一日の研修終了時には、必ず振り返りをする。1日でもいろいろなことを学ぶため、終わりに振り返りをする。
 研修が複数の日に及ぶ場合、たとえば月に1回などの場合、研修内容の実践を課題として出題するのがよい。研修は学んだことを使って初めて効果を発揮するため、次回までに本日学んだツールを使ってみて報告させるのが効果的である。

(4)研修の評価と課題
 研修の評価は重要ではあるが、なかなか難しい。筆者は1研修が終了したら企業にレポートをしている。
 その中には、講師の所感、主な質疑、受講生のアンケート結果で、研修の定量評価(研修目的の達成度、講師の評価、研修の準備をおのおの5満点)、定性評価(受講生の所感)を作成し、研修事務局へ報告している。短期的な評価はこのアンケートで評価できるが、長期的な評価は難しく課題と考えている。

7.終わりに
 一度顧客から評価していただいた研修も時代とともに陳腐化する。各種法令やファシリテーション技術など常に新しいスキルを学んでおきたい。また、研修も一人では限界があるため、研修の一部を委託できる人的ネットワークを積極的に作っておきたい。
 診断士の仕事は研修が最終ゴールではない。信頼を得れば、その先の企業診断へ繋がっていく。
 なお、本稿は、マスターコース「プロ講師養成講座」での受講体験を一部活用している。講座関係者に謝意を表する。

2017.07.29
第4次産業革命と中小企業等経営強化法

中小企業施策研究会 牛嶌 一朗

1.はじめに

東京協会中小企業施策研究会は長年にわたり、会員に対して中小企業・小規模事業者に対する政策や施策について広く情報を提供する取組を行ってきた。本稿ではその取組から得た知見に基づき、とくに中小企業等経営強化法について、我が国の中小企業・小規模事業者の発展において重要な鍵となる第4次産業革命の創出と活用の観点から、その意義を考察する。

2.産業構造の変化と生産年齢人口の減少

(1)産業構造の変化

  国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、2012年から2015年の3年間で、製造業の給与所得者数は29万人減少している中、サービス業においては235万人もの大幅な増加となり、我が国の雇用を牽引している。この傾向は大都市圏に限られたものではない。1986年時点では、北海道を除き市町村単位で雇用を支えていたのは製造業であったが、2012年になるとそれがサービス業・福祉医療業が増加する、といった形で多様化している(2015年版中小企業白書 第3部 第1章「地域活性化への具体的取組」)。このことからも、サービス業が我が国の雇用を牽引する中心的な産業となったことは、地域を含む全国的な傾向となっている。

(2)生産年齢人口の減少

  我が国の生産年齢(15~64歳)人口は、1995年の8,716万人をピークに減少に転じ、2016年10月には7,708万人と1,000万人以上もの減少となっている(平成28年版高齢社会白書 第1章「高齢化の状況」)。さらに国連の「世界人口推計:2015年改訂版」によると、2000年の生産年齢人口を100として指数化した場合、2015年の同人口は米国が113.5、イギリスが108.8、ドイツが94.9であるのに対し、我が国は89.8と国際的にもその減少率は顕著なものとなっている。

 この傾向は今後も続くことが想定される。経済産業省が2016年1月に行った推計では、今後出生率が回復し、かつ女性がスウェーデン並みに働くとともに高齢者が現在よりも5年長く働いたとしても、我が国の15歳以上の労働人口が2030年には6,300万人、2060年には5,400万人程度まで減少するという結果になっている。

3.中小企業・小規模事業者の現状と課題

(1)小規模事業者とその従業員の減少

 2009年から14年にかけて、中小企業の数は420.1万者から380.9万者と約39万者の減少となっている。その中でも、中規模企業は53.6万者から55.7万者と増加になっているものの、小規模事業者は366.5万者から325.2万者と約40万者以上も大きく減少している(2016年版中小企業白書 第1部 第2章「中小企業の動向」)。

 この傾向は、従業者数の変化でも顕著となっている。非農林雇用者数の1996年から2015年までの推移をみた場合、従業者数30~99人ならびに100~499人の企業は、ともに800万人から1,000万人の間でゆるやかに推移しているものの、従業者数1~29人の企業は、1,735万人から1,523万人と200万人以上もの大幅な減少を示している(2016年版中小企業白書 第1部 第2章「中小企業の動向」)。この傾向は、さらに前述の生産年齢人口の減少によっても加速化される可能性がある。

 一方、地域区分別に企業規模別の売上高、付加価値額、給与総額および従業員数の構成割合を見た場合、都市部から地方に行くほど小規模事業者の構成割合が高くなる。たとえば、2012年度の事業者ベースの場合、企業規模別の付加価値額構成における小規模事業者の割合は、東京特別区と政令指定都市が9.3%なのに対し、郡部の町村が34.2%、同様に従業者数構成における割合は、前者が15.6%なのに対し、後者が45.4%となっている(2016年版小規模企業白書 第1部 第4章「地域の中の小規模事業者」)。換言すれば、「地方都市」や「郡部の町村」ほど、小規模事業者の地域への貢献度が高い。このような現状を踏まえた場合、小規模事業者とその従業員の減少は、地域経済の活性化を推進する上で大きな課題である、といえる。

(2)中小企業の生産性の伸び悩み

 ここ13年間で、大企業の従業員一人あたりの労働生産性(付加価値額)はリーマン・ショックの影響もあった2008年度・2009年度に大きく落ち込んだ後、その後上昇に転じ、2009年度から2015年度にかけて製造業で999万円から1,307万円の30.8%増、非製造業で1,080万円から1,296万円の20.0%増となっている。これに対して、中小企業の労働生産性は、ほぼ横ばいとなっており、製造業で501万円から549万円の9.6%増、非製造業で521万円から558万円の7.1%増とその格差の拡大が続いている(2017年版中小企業白書 第1部 第2章「中小企業のライフサイクルと生産性」)。

 業種別にみた場合、なかでもサービス業の労働生産性が他業種に比べ相対的に低い水準にある(2016年版中小企業白書 第1部 第3章「中小企業の生産性分析」)。前述のように、我が国における生産年齢人口の減少が顕著ななか、中小企業・小規模事業者にとっては、雇用環境の改善のみならず、全業種、とくに我が国の雇用を牽引するサービス業の生産性向上が重要な課題である、といえる。

4.第4次産業革命とは

 2年ごとに世界のデータ量が倍増する中、ハードウェア性能の指数関数的な進化、ディープラーニングなどによるAI技術の非連続的な発展などの技術的なブレークスルーにより、データの活用による新しい社会の創造が可能となり、産業構造や就業構造が劇的に変化する可能性が出てきている。全ての産業における革新を目指す第4次産業革命の構想はそのような背景から生まれ、ドイツのIndustrie4.0や米国のIndustrial Internetに代表される世界的な潮流となっている。

 この第4次産業革命を支える基盤技術として経済産業省などが重視するものは、IoT・ビッグデータ・AI・ロボットである。これらの基盤技術により、データを収集(IoT)し、蓄積+分析(ビッグデータ+AI)し、制御(ロボット)し、またそれにより生じたデータを収集する、というサイクルを回すことで、個々のニーズに合わせたカスタマイズ生産や製品・モノのサービス化など、新たな付加価値を生み出す、ということが本革命の基本モデルとなっている(図1)。

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5.第4次産業革命における中小企業等経営強化法の意義

(1)我が国の政策における第4次産業革命の位置づけ

 日本再興戦略2016においては、「戦後最大の名目GDP600兆円」の実現を目指し、第4次産業革命の創出と活用を我が国の経済の未来を切り開く重要な鍵として位置づけている。そのため、日本再興戦略2016では、「新たな『有望成長市場』の戦略的創出」「人口減少に伴う供給制約や人手不足を克服する『生産性革命』」「新たな産業構造を支える『人材強化』」の3つを課題としている。これは、前述のような我が国の産業構造の変化と生産年齢人口の減少が進展する中で、都市部のみならず地方を含め、サービス業を含めた全産業の生産性を第4次産業革命により向上させるとともに、その高い生産性の労働力を新たな有望市場に投入することで地域経済を再興していく、という観点によるものである。

 その場合、国際的に第4次産業革命の先鞭となったドイツのIndustrie4.0において、中小企業・小規模事業者がその推進の上で重要なプレイヤーとして位置づけられているのと同様、我が国においても中小企業・小規模事業者における第4次産業革命の推進が政策上も重要となる。

 以下ではこの観点から、第4次産業革命を巡る我が国の政策を考える上での中長期戦略とも言える新産業構造ビジョンを概観し、中小企業等経営強化法の意義を考察する。

(2)新産業構造ビジョン

 「新産業構造ビジョン」は、第4次産業革命をキーとした我が国の経済社会システムの再設計のために示されたビジョンである。本ビジョンは、経済産業省の産業構造審議会内に平成27年8月に設置された新産業構造部会で検討され、日本再興戦略2016の発表に先立つ平成28年4月に中間整理として発表されたものである。その中では、我が国の戦略として次の7つの対応方針が示されている。

  ①データ利活用促進に向けた環境整備   ②人材育成・獲得、雇用システムの柔軟性向上   ③イノベーション・技術開発の加速化(「Society5.0」)   ④ファイナンス機能の強化   ⑤産業構造・就業構造転換の円滑化   ⑥第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及   ⑦第4次産業革命に向けた経済社会システムの高度化

 これらの方針の中で、中小企業・小規模事業者が第4次産業革命の創出者として期待されるのが、「③イノベーション・技術開発の加速化(「Society5.0」)」、活用者として期待されるのが「⑥第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」である。

 前者においては、オープンイノベーションの推進が主要な課題のひとつとなっている。その中で当面の対応策として挙げられているのが、「産学共同研究推進の強化」「大企業・ベンチャーとのオープンイノベーション推進の環境整備」「ベンチャーへの資金供給機能強化」などである。官邸・経済産業省も、米国経済を牽引している巨大企業GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)が小規模事業者たるベンチャー企業からスタートし、さまざまなイノベーションを生み出してきたことに注目しており、我が国の第4次産業革命の実現にむけ、大企業にはない発想力をもった中小企業・小規模事業者の活躍への期待がこの方針に表されている。   後者においては、地域の中小企業・小規模事業者におけるIoTなどの導入・利活用基盤の構築が課題となっている。その中で当面の対応策として挙げられているのが、「専門家によるITやロボット導入支援」「IoT等での省力化・自動化投資促進」「ディープラーニングでの技術開発・現場導入推進」、そして「中小企業等経営強化法の活用」である。これらにより、中小企業・小規模事業者の生産性の抜本的な改善を実現することがこの方針の狙いである。次に、この「中小企業等経営強化法の活用」の具体的な内容について考察する。

(3)中小企業等経営強化法の活用

 平成28年7月に施行された中小企業等経営強化法は、政府が生産性向上に役立つ取組を分かりやすく中小企業・小規模事業者等に提供すること、ならびに生産性を向上させる取組を計画した中小企業・小規模事業者等を積極的に支援することを目的としている。そのための具体的なスキームとして、事業分野ごとに生産性向上の方法などを示した指針に基づき、自社の生産性を向上させるための取組を記載した「経営力向上計画」を事業所管大臣に申請、認定された事業者は税制面や各種融資における支援措置を受けられることとしている。前述の「新産業構造ビジョン」における「⑥第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」では、このスキームの活用を意図していることになる。実際、すでに採択された経営力向上計画の中には、製造機器のIoT化など、本目的に則したものも含まれている。

 この傾向は、今後より一層強化されていくことが想定される。すでに本年度の中小企業・小規模事業者政策の基本的な方向のひとつ「経営力強化・生産性向上に向けた取組」では、第4次産業革命にむけての「イノベーションの加速、ITの集中的な導入」とともに、「中小企業等経営強化法の機能強化」が謳われ、経営力向上計画の認定と補助金・融資制度を連携させた生産性向上支援を行うこととしている。

 具体的には、平成29年度税制改正要望により、固定資産税の特例対象設備の拡充や、中小企業経営強化税制の創設を行い、まずは税制面からサービス業を含む幅広な中小企業の生産性向上を後押しすることとしている。中小企業経営強化税制では、国や地方公共団体からの補助金により導入した設備も対象となる。また、その対象設備も拡充され、一定の器具備品・建築付属設備が追加されている。このことは、必ずしも大型の機械装置類で構成されるわけではないIoTやAI、ロボットなどを導入・運用する上で重要な意義を持つ。一例としては、IoTやAI、ロボットなどの設備導入において、経営力向上計画の認定が加点要素となる「ものづくり補助金(革新的ものづくり・商業・サービス支援補助金)」を取得し、実際の設備導入は経営力向上計画の認定による日本政策金融公庫(日本公庫)の低利融資で行い、その融資返済に取得した「ものづくり補助金」を充て、導入設備については引き続き中小企業経営強化税制による税制支援を受ける、といったことも可能となる(図2)。

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6.おわりに

 本稿では、第4次産業革命の創出と活用の観点から、新産業構造ビジョンにおける7つの対応方針のひとつ、「第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」で中小企業等経営強化法がどのような意義をもつのかを考察した。無論、本法は第4次産業革命のためだけのものではない。しかし、我が国の再興において第4次産業革命の創出と活用が重要な鍵となっている中、中小企業・小規模事業者政策上もその意義は重要なものとなる。中小企業施策研究会では、そのような多角的な視点を持って引き続き各種の政策・施策の情報を会員に提供し、会員の中小企業支援に役立つよう努めていく所存である。

2017.06.28
経営コンサルタントから見た聖地巡礼ビジネス調査レポート

コンテンツビジネス研究会有志

1.はじめに

 コンテンツビジネス研究会は、2008年8月にコンテンツビジネスに強い中小企業診断士が中心となり結成された(一社)東京都中小企業診断協会の認定研究会である。当研究会では2014年より「コンテンツ×まちおこし」プロジェクトとして、会員有志により「聖地巡礼」の実地調査や、観光地・作品の知名度の定性分析・定量分析を行ってきた。その成果として2016年に研究論文「経営コンサルタントの見た聖地巡礼ビジネス」を出版するに至った。聖地巡礼については先行研究もあるが、9カ所に及ぶ実地調査とアンケート等を用いた客観的な分析は他に類を見ない内容となっている。

 本稿では「経営コンサルトの見た聖地巡礼ビジネス」から事例および、調査分析方法について抜粋し、研究論文では記載しなかった内容を一部補足して紹介する。本稿を通じて、「聖地巡礼」やアンケート手法・分析の留意点を知ることにより、読者の今後の活動の一助となれば幸いである。

2.聖地巡礼とは

 聖地巡礼とは、文字どおり、聖地を巡礼するということである。巡礼するというのは、訪ねて参拝するということであり、ツーリズムであるということもできる。すなわち、聖地巡礼とは、聖地というターゲットに対して、ツーリズムを行うということを意味するとも言える。では、聖地とは何か、もともと神聖とされる土地や、聖者や教祖のような敬われる人物に関わる土地等、信仰の対象となる場所を指しているものであった。近年、その意味は拡大し、文化やスポーツ等において、「憧れや注目の対象となる場所」を聖地として呼ばれるようになっている。日本においては、映画やアニメの舞台を聖地として、巡礼することがあたり前なことになってきている。

 2016年、大ヒットした映画『君の名は。』は、その背景描写の素晴らしさもあいまって、その聖地(四谷、飛騨等)を訪れる人が急増するといった現象もあり、注目されたのは記憶に新しい。アニメツーリズム協会の発足などもあり、聖地巡礼が、クローズアップされることが多かった年となったといえる。

 アニメの作品舞台を聖地として巡礼することが行われるようになったのが、いつ頃からなのかについては、諸説が存在している。少なくとも、作品中に、実在の場所とわかる舞台が描かれるようになってからであることは間違いない。1970年代より、アニメの舞台背景をよりリアルに描くため、ロケハンが行われるようになっていく、その流れの延長線上に、アニメファンによる作品への拘りから舞台となったロケハンの場所を訪ねるという動きが出てくることになる。その後、ネットによるコミュニケーションの場の広がり等もあり、アニメファンの中で認知度が高まっていき、聖地巡礼としてアニメファンの中では大きなイベントの1つとして定着していくことになった。アニメの聖地巡礼は、作品とファンと聖地(地元)との関係から成立している。聖地巡礼は人を集めるものであり、人が集まることによって産業や地域が活力を得ることができるものである。その力をまちおこしに利用しようという取組みも数多く存在している。しかしながら、必ずしも成功と言える結果を得ているわけでもない。広い意味で、聖地としての対象が持っている質に対して、扱いを誤ると失敗を招く結果とも成り得ると考えるべきである。聖地巡礼といっても何の聖地なのかによって、ビジネスとしてのアプローチも対応も異なってくる。コンテンツとして、アニメや映画などの作品としての聖地の場合、作品の魅力は当然として、その他にも大切な要素が存在していると言える。クールジャパン、観光立国を目指す日本において、アニメによる聖地巡礼は、当然注目されるものとなっている。研究論文では、どのように活かすのが良いのか、複数の事例を通して考察を行っている。

3.具体的調査事例

 本稿においては、研究論文の9つの事例の中から、ベストプラクティスとみられる茨城県大洗町(ガールズ&パンツァー)の事例の内容を紹介する。

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(1)観光地としての魅力201707_2_1.jpg

 大洗町は、茨城県においては有数の観光地であり、2009年度の年間観光入込客数は約560万人。海水浴場や水族館、マリンタワー等、海を中心とした観光施設が揃う。このため、「るるぶ情報版」等の旅行雑誌でも、しばしば取り上げられている。しかし、2011年に発生した東日本大震災では、大きなダメージを受けた。2014年の年間観光入込客数は、震災前の8割程度に止まっている。

(2)作品の認知度

 『ガールズ&パンツァー』(以下、ガルパン)は、オリジナルのTVアニメ。2012年10月から「TOKYO MX」やBS11、茨城県のローカルインターネットテレビ「いばキラTV」等で放映された。その後は、オリジナルビデオアニメや劇場版が製作され、メディアミックスも盛んに行われている。しかし、認知度調査アンケートでは、男性が2.98、女性が1.47、全体で2.20と総じて低い結果であった。とは言え、この作品は、万人ではなく男性を中心とした熱心なアニメファンをターゲットにした作品と判断され、アンケートの結果でもその傾向が確認できた。ターゲットが絞り込まれているため、一般的な認知度が高くないことは仕方がないと考えた。

(3) 中心的人物の熱意

 大洗町側の中心人物は、常盤良彦氏や商工会、青年部のメンバー等である。常盤氏は、2011年10月に商工会長によって製作者側に引き合わされ、ロケハンや撮影等の支援を依頼された。そこで、撮影ポイントのマップやタイムスケジュール等を作成し、鉄道会社やバス会社、商店街等に対して撮影場所の提供を依頼した。そしてそれに止まらず、電車やバスのラッピングを実施し、地元のお祭りの際には訪れるファンの人達が買える物を用意することを事業者に要請した。ほかにも、キャラクターパネルを用いたスタンプラリーや、作品仕様のレンタサイクルを用意する等、数多くの企画を実施した。イベントは、大小合わせて年間で30以上手がけていると言われ、企画グループは毎週日曜の夜に会合を開いている。常盤氏等の熱意が人を引き付け、さまざまな企画を実現させる原動力となっていることは、間違いない。

(4)ステークホルダーの協力度合い

 常盤氏らの企画に対して、商工会や大洗町、茨城県等は、人的面を中心に積極的に支援している。作品のキャラクターパネルは、商工会の青年部等が製作した。ファンへのおまけ(ノベルティー)の缶バッチは、商工会の事務局長が自ら作成している。これによって生まれた1個数円の利益により、イベント等の資金を生み出した。大洗町役場でも、イベントの実施や手続き等でバックアップしており、業務時間外の会合にも参加していると言われている。

(5)権利者との関係

 コンテンツの権利者とは、当初より良好な関係を築いていた。製作者側は東日本大震災で被災した大洗を作品の舞台にしたいと考え、すごく前向きに手を組んでやりたかったと言われている。鉄道やバスのラッピングは、常盤氏らと一緒に作業した。地元のイベントでは、プロデューサーや声優等も多数出演している。これらの影響もあって、地元の祭りでは、従来の倍以上の10万人超の来場者を記録するようになった。キャラクターパネルや町内の事業者が製造・販売する商品に使用されているイラストやキャラクター等の点数は、多くの取組事例の中でもトップクラスとなっている。

(6)住民の作品への理解度

 作品は大洗のまちに溶け込んでおり、ラッピングされた電車やバスが走り、駅構内では作品のイラストを使った看板を多数目にする。駅のインフォメーションコーナーは作品の案内所となっており、作品に関係した観光案内やスタンプ、巡礼ノート等が置かれている。観光案内は、来街者に楽しんでもらいたい想いが伝わってくる。町中では、商店街等を中心に、キャラクターパネルを目にする。店舗では作品に関連したメニューや商品が用意されており、店内にはポスターやチラシ、グッズ、関係者のサイン色紙等のアイテムが並べられている。地域における作品の露出は非常に多く、事業者や住民の理解度は高いと考える。

(7)その他特記事項

 本事例は、特定のアニメ作品によって発生した聖地巡礼という事例の中でも、地域に対してきわめて大きな影響を及ぼしたものの1つである。しかし、この取組みは元々、「まちおこし」を目的として行われたものではない。この点は、大洗の関係者と製作者側の双方が明確に述べている。「まちおこし」ではなく、「町全体を舞台としたまち遊び」をしている認識で、取組みが行われている。

 しかしながら、これらの取組みが、大きな影響と成果を生み出したことも事実である。地域のイベントでは、従来の倍以上の来場者が訪れるようになった。商店街や観光施設等には聖地巡礼を行うファンが訪れ、飲食し、商品を購入している。ホテルや旅館は、週末を中心に多くのファンに利用されている。ファンの中には町のファンになった人もいて、年間で120日程度訪れている人もいる。大洗町に移住した人の数も2桁を超えており、仕事があれば来たいという人も少なくないという。このように、「まちおこし」を狙った活動ではなかったが、結果的に「まちおこし」と言われるようなインパクトを大きく残したのである。

 このような大きな影響を大洗町に及ぼした理由は、作品そのものの魅力を別にすると、常盤氏を始めとした中心的人物の熱意とステークホルダーや権利者の協力が大きかったと考えられる。大洗のまちが単なる作品の舞台にとどまらず、ガルパンという作品を包み込み、訪れるファンを受入れている雰囲気を作り出した理由としては、常盤氏らの取組みが「お客様を考えた」ものであったことと、若手を中心とした活動が従来から盛んに行われていたことを挙げたい。

 ガルパンの効果は、アニメの聖地としての知名度の向上による来街者の増加や土産等の販売増といった経済的な側面にとどまらず、社会的な変化もまちにもたらした。まちや店舗でのコミュニケーションが増え、ファンとの交流を楽しんでいる。ガルパンという共通言語を基に大洗のまちの人やファンが繋がり、まちの雰囲気を明るくしたと言われている。商店街では、商店主の等身大パネルを作成し、キャラクターパネルとともに並べることを始めた。取組みとしてはパネルの作成と設置だけだが、こういったことを行える商店街が全国にどれだけあるだろうか。大洗町の事例は、ガルパンというアニメ作品と大洗のまちが起こした、奇跡とも言えるものである。

(8)問題点・課題と解決策・提言

 本事例に対して大きな問題や課題はないと考えるが、宿泊キャパを超える観光客への対応とインバウンドへの対応を課題として取り上げ、提言を考えた。大洗町は、海や海産物といった資源や古い街並みが残り、ガルパンという作品の舞台となって楽しんでいる、非常にユニークなまちである。インバウンドへの取り組みは、進めておきたい。

4.聖地巡礼事例スコアリング概要

(1)定量的項目、定性的項目

 研究論文では、アニメおよびゲーム作品の舞台としての9つの事例を100点満点でスコアリングしている。スコアリングという手法を採用したのは、経験や勘に安易に頼らず、事実や論理を優先したい、という経営コンサルタントとしての思いからである。スコアリングは6項目について実施している。6項目すべてが「まちおこし」の成否に等しく影響を与えるとは考えられないため、必要な重み付けを行った上で100点満点にしている。

 定量的項目(①②)は、旅行雑誌掲載状況やアニメ認知度アンケート等に基づき算出した客観的なものである。その一方で、定性的項目(③~⑥)については、研究論文の執筆者間で調整した10点、7点、4点、1点の4段階からなる相対的な評価である。 

①観光地としての魅力(20点満点)

 当地が観光資源に恵まれていれば、1回の聖地巡礼につき滞在する時間が長くなったり、リピーターになったりする可能性が高まる。地元にとっても「作品のファンとしてその舞台を訪れてもらうことに始まり、やがては当地自体のファンになってもらう」というのが、理想的な中長期シナリオである。

②作品の認知度(40点満点)

 アニメ「聖地巡礼ビジネス」の成否に最も大きな影響を与える要素とは、聖地巡礼の対象となる作品自体の人気である。作品の人気があるほど、その聖地を訪れようとするファンが増える。後述する「認知度指数」を4倍し、四捨五入した点数である。

③中心的人物の熱意(10点満点)

 中心的人物が不在なまま、「まちおこし」が成功することは難しい。さらに、プロジェクトの持続可能性を高め、「聖地巡礼ビジネス」を成功させるためには、その人物が地元在住の人間であることが不可欠である。

④ステークホルダーの協力度合い(10点満点)

 「聖地巡礼ビジネス」を成功させるためには、行政や地域事業者等のステークホルダーが協力、連携することが欠かせない。

⑤権利者との関係(10点満点)

 コンテンツを「聖地巡礼ビジネス」に活用するためには、権利者の了承・協力が欠かせない。

⑥住民の作品への理解度(10点満点)

 アニメイラストが地域に溢れることに対する住民の理解や拒絶反応には、地域性による差が見られる。

(2)取り上げた作品とその舞台

 調査した多数の事例の中から、今回の研究論文で取り上げた作品、およびその舞台は下記である(表1)。なお、鳥取県境港市は、厳密に言うと、アニメ作品(鬼太郎)の舞台ではなく、作者(水木しげる)ゆかりの聖地であるため、スコアリングの対象からは除外している。

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5.「作品の認知度」の調査方法としての「アニメ認知度調査アンケート」

 10作品の人気を把握することを目的に、アニメ愛好者か否かを問わず、アンケート調査(以下、アニメ認知度調査アンケート)を実施した(表2、表3)。

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 アニメの視聴頻度についてみると、男性の方が平均的にアニメを多く視聴している。男性のコアなアニメファン(週に3本以上アニメを視聴する層)が全体の約28%を占めるのに対し、女性は2割に満たない。例外はあるものの、全体的に、年齢を重ねるほど視聴頻度は低くなり、どの年齢層でも男性の視聴頻度が女性よりも高い傾向がある。

 10作品の認知度にかかる回答の集計結果をいかに客観的に評価し、作品間の比較を可能にするかが認知度調査アンケートを分析する上でもっとも重要な点である。平均的な認知度を把握するために、選択肢ごとの人数と便宜的に設定した得点を基に「認知度指数」を算出することにした。先に事例紹介した「ガルパン」の一部データ(表4)を例にとり、認知度指数を説明する。

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 「回答」の文字の下にある1から5は、アニメ認知度調査アンケートにおける「10作品それぞれに対して抱くイメージ、あるいは、作品との関わり」にかかる質問に対する選択肢である。以下のとおり対応しており、それぞれに得点を与えることにする。なお、9はデータを整理する上で設けた選択肢(回答漏れ)である。

  1 世代に関係なく、誰でも知っている⇒10点

  2 特定世代に人気(であろう)⇒7点

  3 少なくとも、自分は見た(やった)ことがある⇒4点

  4 タイトルは知っている⇒1点

  5 そのタイトルは初めて聞いた⇒0点

 ガルパンの「認知度指数」(全体)は、2.20であるが、次の計算方法に基づいている。

  (18×10+269×7+125×4+394×1+541×0)÷(1,349-2)≒ 2.20

 すなわち、認知度指数とは、作品の認知度にかかる「選択肢ごとの回答者数」に「選択肢ごとに設定した得点」を乗じ、それら「選択肢ごとの数値の総和」を「回答者数」で除した平均値である。指数は0点から10点の間に収まることになる。この指数が高いほど、当該作品の認知度が高い、あるいは、人気があることを意味する。

(1)WEBアンケートを行う際の留意点

 研究論文のアンケートに対する有効回答数のうち約9割は、クラウドワークス(日本最大級のクラウドソーシング事業者)を通した2回のWeb調査による。有効回答者1人につき10円を支払ったが、スピード感をもってアンケートを実施する上で、クラウドソーシングを活用するメリットは享受できた。その一方で、研究論文では触れていない問題点もいくつか露呈しており、ここでそれらを共有させていただく。

 Webアンケートが1回で済まなかった理由は、女性の回答者数が約3分の2を占め、とりわけ、20代と30代の男女差が看過できないほど偏ってしまったからである。2回目の調査を、【1回目に回答しなかった20代および30代の男性限定】を条件に行うことにした。

 だが、実際には、女性が男性になりすましたり、40代の男性が20代になりすましたり、1回目と同一の人物が再び回答してきたりした。「こうした回答はすべて無効にする」との警告をしてもなお収まらず、最終的には、2回目に入手した回答のうちの約2割が無効なものとなった。有効なものか否かを判別するために、夜な夜な、1件ずつ回答者のIDを確認し、目検する作業に忙殺された。クラウドワークスには、無効な回答をはじいてくれるよう、システムを改善していただきたいものである。

 また、クラウドワークスの登録ユーザーは、女性が多いだけでなく、10代が少ないものと推測される。一般的に他の世代よりもアニメやゲームに興味を示すであろう10代の回答者を確保するのが、性別に限らず困難であった。それゆえ、10代の回答者をピンポイントに探し出し、対面アンケートを追加的に行う必要性に迫られた。

 以上、クラウドソーシングを活用したアンケート調査も決して完璧ではないものの、上記留意点を踏まえた上で活用すれば、コストパフォーマンスは決して低くはないことも実感できた。システムの改善に期待しつつ、今後も折を見て、研究活動の中で活用していきたい。

6.聖地巡礼事例スコアリング結果

 以下にスコアリング結果を一覧表で示す。(表5)

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7.まとめ

 本稿にて、抜粋紹介させて頂いた研究論文の最も大きな成果は、「コンテンツ自体の人気」という、「聖地巡礼ビジネス」の成否に決定的な影響を与える要素の分析を真正面から試みたことである。また、事例の横比較ができるように数値化したことも、成果として挙げられる。「聖地巡礼スコアリング」の一覧表を見れば、定量的項目だけに依存して持続させることは容易ではなく、定性的項目の充実も欠かせないことが分かるだろう。

 今回は、アニメ・ゲーム作品を基にした聖地巡礼に絞って事例を調査したが、聖地の元になり得るコンテンツは、アニメやゲームだけでなく、TVドラマや映画、小説、音楽等他のコンテンツも多数存在している。コンテンツを活用した他の「まちおこし」の事例についても研究していくことで、「コンテンツの活用によるまちおこし」の可能性をより広く研究していくことは、今後の研究課題の1つである。

 アニメ・ゲーム作品の事例についても、引き続き調査を行い、成功のポイントというべきものについて、より確証を得ることができるような情報へとブラッシュアップしていくことができれば望ましいと考える。失敗事例についても、振り返って、もしこの時にこの点について手を打っていれば、異なる結果になっていたかもしれない―と言った可能性について検討していくことは、今後、同様な事象に遭遇する場合の良きアドバイスとなり得るものである。成功と失敗、それぞれから学ぶべき点を整理して、コンサルティングにおける知恵としていくことは、われわれにとっても大切なことである。また、女性向けアニメの事例調査や、放映時期といった「旬」の問題を考察することも、今後の宿題になろう。

 今回の研究結果より、元になる作品の人気が「まちおこし」成功への重要なファクターとなっていることが明白となった。成功する可能性を高めるためにも、作品の公開にあたって、できるだけ早い段階で人気度が把握できるような仕組みがあれば、非常に有効であると言える。そのあたりのアプローチについても、「コンテンツによるまちおこし」を成功に導くために必要な研究テーマであるだろう。各方面との協力も含めて、日本のコンテンツビジネスとコンテンツを活用したさまざまなビジネスにおいて、良い結果を導くための知恵を深めていきたいと考えている。201707_10.jpg

 本稿の基になった研究論文は、当研究会のHPを通じて販売している。またコンテンツビジネスに関心があれば、ぜひ当研究会の例会に参加していただければ幸いである。

2017.05.30
損保代理店の「成功の秘訣」から 導き出したコンサルティング・フレームワーク

損保代理店の「成功の秘訣」から
導き出したコンサルティング・フレームワーク

代理店ビジネス研究会 枦山 直和
 

1.損保代理店向けコンサルティング・フレームワークを開発した経緯
 昨今の大規模自然災害や、高齢者による自動車事故の増加により、損害保険の重要性が再認識されている。損害保険業界では金融規制緩和を受けて、メガ損保グループへの業界再編や、商品自由化、さらには、損保代理店数の減少傾向の状況にある。また、保険金不払い問題を発端とするコンプライアンスの厳格化や、金融庁主導による法整備も進んでいる。すでに成熟産業と見えるが、冒頭にあげたリスクに対する備えの需要も高まっており、代理店経営者の工夫次第でいかようにもビジネスを伸ばす余地が高い業界であると考えている。
 中小損保代理店が勝ち残るために、どのような未来戦略を描いたらよいのかについて、代理店ビジネス研究会のメンバーで研究・討議をかさね、コンサルティング・ツールとして体系化している。さらに、損保代理店の経営者に役立つ「成功の秘訣」として、実際に成功している優良代理店の事例と合わせ、明日から実践できる具体的な施策に落し込んでいる。
 損保代理店のコンサルティングに従事する中小企業診断士の知見とするため、損害保険業界の基礎知識から、損保代理店を取り巻く経営環境まで整理したフレームワークである。

2.損保代理店の診断予備知識を整理
(1)損害保険の基礎知識と市場動向
 損害保険の仕組みと歴史、損害保険業界の市場環境の現状と今後の見通しを概観する。
 日本経済の成長とともに拡大してきた国内市場は現在、停滞傾向にあり、各保険会社は国内代理店網の再編と海外進出を進めている。反面、金融機関、インターネット、来店型店舗など、代理店チャネルは多様化し、従来型の代理店にとって非常に厳しい状況と認識している。

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 ①損害保険の3つの原則(大数の法則、収支相等の原則、公平の原則)
 ②市場動向(米国に次ぐ2位で7兆円規模、規制緩和、メガ損保へ集約化、損害率推移)
 ③環境変化(国内代理店網の再編、コンプライアンス厳格化、委託型募集人の禁止)

(2)損保代理店のビジネス環境
 損保代理店の業務や種類、業界全体の規模を説明するとともに、損保代理店を取り巻く環境変化とビジネス影響、さらに変化に対してどのような変革が迫られているのか整理している。
 1996 年の金融ビッグバン以降、損保業界では販売チャネルの多様化や商品多様化が進展し、損保代理店にとっては新たな競争に直面している。コンプライアンスの要請の高まりや新たな規制の強化などを受け、代理店は一層の効率化と経営水準の向上が求められる。
 ①損保代理店の種類(専業代理店と兼業代理店、専属代理店と乗合代理店)
 ②業界の規制緩和(商品の多様化・複雑化、代理店ポイント制度変更、チャネル多様化)
 ③損保代理店の業務内容・損保代理店の変化(M&Aでの大型化、来店型保険ショップ)

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3.損保代理店を経営変革させる方策
 損保代理店経営における「成功の秘訣」をこれから論じる6つの切り口で方策化し、さらにコンサルティング場面において課題発見や提言に活用できる具体的施策に細分化している。
(1)勝ち残る秘訣としてのキッチリした経営計画を整備する方策
 年々厳しくなる損保代理店の経営環境のなか、専業代理店は基本に立ち返り、経営理念・ビジョンの作成(再定義)、経営戦略の策定、キッチリとした経営計画の作成・実行が、勝ち残る秘訣である。環境変化を見据えて、市場と顧客、そして保険会社とのパートナーシップを見直し、自らの強み・弱みを洗い出し、マーケティングの視点を持って取り組むべきである。
 ①社会環境変化をビジネスチャンスと捉え「求められる代理店像(存在意義)」を価値創造
 ②市場と顧客、保険会社とのパートナーシップを見直し、マーケティング視点を持ち策定
 ③問題解決力・専門性・企画提案力・関係性の観点から自社のポジショニングと差別化
 ④コミュニケーション・協業・パートナーシップの切り口でマーケティングイノベーション創出

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(2)法人市場の開拓をリスクマネジメントで攻める方策
 法人市場の開拓手段として、リスクマネジメントを切り口とした中小企業へのアプローチが有効である。最近、企業を取り巻くリスクは大幅に多様化・顕在化・巨額化しており、保険の重要性が高まっている。保険代理店は、中小企業のリスクについて十分な知識と対応方法を知る専門家としての存在意義は大きい。中小企業の実情を理解したうえで、リスクマネジメントにもとづきリスクを十分見積もり、相手先企業の体力に対応した保険提案をする。
 ①ターゲットは機関代理店を持たない中小企業のリスクファイナンスに対する潜在的需要
 ②コンサルティング型の保険提案(経営状態とリスクの把握、中小企業診断士との連携)
 ③最適な保険商品の選択(賠償リスク対応商品、パッケージ型商品、団体制度型商品)
 ④法人営業のアプローチ(イニシャル、エリア開拓、団体制度活用、業務提携、職域)

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(3)地域密着型の保険代理店をめざす方策
 中小代理店が生き残っていく方法として、地域密着型の保険代理店をめざしたい。経営規模や宣伝力では大手には対抗できないので、自らが存在する地域に密着した営業を行っていくことが重要となる。そのため、まず自社の顧客分布状況を把握し、地域特性や競合状況を調べて地域戦略を策定する。店舗周辺を中心とした重点注力地域に対して、「ホスピタリティ・マインド」を持ち、訪問営業などの具体的な営業戦略を立てて実践する。
 ①顧客分布状況や地域ポートフォリオ分析(距離と売上高)を踏まえた地域営業戦略 
 ②安心と信頼、顧客ロイヤリティを獲得するホスピタリティマインド・コミュニケーション
 ③リピーターを越えるファン客を育て、これを組織化することを営業の優先課題とする
 ④先義後利の精神(地域への感謝、地域との交流、困っている方へ損得抜きの支援)
 ⑤自分達で行う販促(チラシ配布、訪問営業、お礼状、ニュースレター、イベント参加)
 ⑥地域への貢献活動(セミナー開催による役立つ情報発信、CSR、マッチングの仲介)

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(4)ITのフル活用により売上倍増させる方策
 業績アップを図るためにITをどのように活用していくのか、経営戦略に沿った形で、IT 戦略を策定する。IT動向や自社のIT活用の状況などを踏まえた上で、やみくもではなく、経営目標を達成するために、いかにITを活用するのかの具体的な方策を検討・決定する。
 このIT活用の方策を、「IT活用戦略マップ」、「IT活用ロードマップ」に落とし込むことで社員に示し、全社をあげて売上拡大に向けたIT 活用を推進する羅針盤とする。
 ①顧客接点強化や顧客との関係性強化を目指す「リアル(営業現場)の世界でのモバイル情報機器の活用」、「ネットの世界でのソーシャルメディア(SNS)の活用」
 ②ソーシャルメディアのさまざまなサービスを組み合わせて使う「メディアミックス」でファン拡大
 ③来店ショップとITの融合によりお客様と多面的につながり合う仕組みづくり

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(5)強い会社組織を構築する方策
 社内の良い雰囲気を創出し、社員1人ひとりのパフォーマンスを向上させることで、自然と業績が上がっていく優れた会社組織へ転換させていく取り組みが必要不可欠である。
 保険販売の多くを担ってきた委託型募集人が全面禁止となり、対応策として正社員化が進行している。損保代理店経営においてサービス・マーケティングの考え方を取り入れ、保険販売員の従業員満足度(ES)を高め、その延長で保険契約者である顧客満足度(CS)を高める。
 ①委託型募集人を正社員化したときの留意点(高齢化、既存顧客中心、モチベーション)
 ②組織3要素(共通目標、貢献意欲、コミュニケーション)のコントロールにて帰属意識醸成
 ③組織・人事の再編成、モチベーションの向上、インセンティブの拡充をバランス良く実施

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(6)経営を強くする財務管理と人材管理の方策
 損害保険代理店の経営の特質は、「ヒト」という経営資源の占める比重が大きい。厳しい環境の変化にさらされる業界において勝ち残っていくためには、代理店経営を強くするために、この人的資源について財務状況を踏まえてどのようにマネジメントしていくべきかを提言する。

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 財務マネジメントについては、人件費率の高い財務構造をふまえた収益力向上のために、損益分岐点分析(CVP分析)というツールを用いて利益計画を作成する。また、人件費・販売費・管理費の各費用項目についてその特質に沿った管理の要点を示している。
 人材マネジメントについては、重要な経営資源である人材の活力向上を念頭に、「給与・報酬制度」の考え方と効果的な「人材育成」の要点を示している。
 さらに、財務と業務の視点から具体的な「人員計画と人件費計画」を作成し、活動分析を通じ社員(特に営業社員)の非付加価値活動を削減し、生産性向上を図る方策を提案する。
 ①損益分岐点分析の導入により、固定費と変動費を適切にコントロールして収益性を確保
 ②損保代理店の費用を構成する人件費・販売費・一般管理費は精緻にマネジメントする
 ③「ヒト」が中心となって担うビジネスモデルであり「人材」は企業価値を高める要素と心得る
 ④歩合給と固定給の人材管理に与えるメリット・デメリットを考慮した最適な給与・報酬制度
 ⑤戦略面・財務面・業務面から熟慮して人員計画と人件費計画を作成する
 ⑥営業人員の活動分析を行い生産性向上の改善策
  →担当者の地域割を明確化、営業社員の行動パターン明確化、サブ拠点の設置、数ある会議の必要性見直し、IT化(営業報告書、稟議書)

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4.本ツールの活用事例・成果・課題等
(1)活用事例
 私達、代理店ビジネス研究会では、損保代理店のビジネスモデル解明と経営診断メソッドの研究に取り組んできた。その中で、東京都・埼玉県におけるM&Aで成長してきた年商4億円規模の中小損保代理店における実務従事や、一般社団法人東京損害保険代理業協会様向け会員セミナー(経営イノベーション関連、SWOT分析ワークショップ)での代理店経営者からの生の声などを通じて、代理店経営者にとって価値のある「成功の秘訣」を導き出している。
 さらに実際に成功している損保代理店5社の取材を通して分析・整理を行っており、損保代理店コンサルティングの場面で再現・横展開できる実践的なコンサルティング・フレームワークとして本ツールを開発した。これから損保代理店をクライアントとして持つ中小企業診断士にとって、損害保険業界の基礎知識から、損保代理店を取り巻く経営環境までも平易に解説しており、明日から代理店が取り組める具体的な提案施策を数多く示していることから、初めての経営診断の場面においてもプロフェッショナルとして立ち振る舞うことができる。
 なお、本論文を執筆している現在も、代理店ビジネス研究会会員からの口コミにより、千葉県の大規模で優良な損保代理店様が本フレームワークに興味を持っていただく機会を得ており、研究会の実務従事としてコンサルティング作業が進行中であることを付け加えておく。

(2)成果
 コンサルティング・フレームワークの詳細は、代理店ビジネス研究会の著書として同友館より2016年6月発売の『損保代理店 成功の秘訣』として出版済であるので参考にされたい。
 本論文ではアウトラインまでの記載であるが、著書では細部まで具体的に記述している。実際に取材させて頂いた優良代理店についての取り組みについても経営者の想いを交えて紹介している。さらに、取り上げた損保代理店経営の課題と対応施策のキーワードは、全編をロジックツリー形式で表記(本論文の図表9、図表11を参照)しており、外観を捉えやすくしている。
 読者はコンサルタントのみならず、これから損保代理店を始める起業家や、損保代理店への入社を検討中の就活者にも、損保代理店を理解できるようわかりやすく解説している。

「損保代理店 成功の秘訣」 同友館 ISBN978-4-496-05202-6定価1,800円+税

(3)課題
 損保代理店の経営基盤を拡大させるためには、さらなる売上拡大が必要不可欠であり、具体的な営業力強化のメソッドを提案する必要があると考えている。特に、保険営業マンの育成、法人営業先の開拓方法、生命保険のクロスセルの促進について損保代理店へのコンサルティング実践を通じて取り組みや成功事例を分析・整理し、追加施策としてツール拡充を図る。
 現在、研究中の「組織的営業力の強化コンサルティング」の切り口は以下の通りである。
 ①新規顧客開拓へのステップ式営業アプローチ(準備・段取りによる成約率の向上)
 ②個人力に頼る成り行き営業から、組織知による計画的営業への転換
 ③営業現場が抱える問題点の明確化と、回避策の検討
 ④新規開拓を主体に計画化(時間確保のため、既存顧客に対する営業活動を織り込む)
 ⑤営業日報の徹底的な活用(顧客情報を整理し、記録に貯めて、次の一手を考える)等

2017.04.25
TKKメソッドの活用によるオンリーワン戦略の実践

ものづくりコンサルタント養成コース 安藤  豊
平林 裕治

1.はじめに

 ものづくりコンサルタント養成コースは、赤字または問題を抱える工場(企業)を真に蘇生させるプロコンを養成するマスターコースである。当コースでは、TKK(トータル工場改善)メソッドを用いて、工場改善を進める実践力を習得することを目標としている。
 本稿では、マスターコースにおいて、継続して3回の工場診断を実施した企業を題材に、各診断時のレベルチェックの比較・分析を行う。その結果から、支援先企業がオンリーワン企業として成長する過程と工場改善の成果について検証し、TKKメソッドの有効性と新たな活用方策について紹介する。

2.TKKメソッドの概要
 TKKメソッドは、8つのステップから構成され、各ステップにはそれぞれ8つ、合計で64の実行課題がある。実行課題は、達成度にあわせて5段階に区分しており、レベルチェックにおいて点数化し評価する。各レベルの目安は、無策の状態はレベル1、工場改善が定着し継続した段階をレベル3、企業文化になるまで理想を追求する段階をレベル5としている。
 レベルチェックは、個人単位で行うので、職種階層、業務単位での分析が可能であり、定期的に継続してレベリングを実施することで時系列での比較も可能である。
 具体的な改善は、レベリングの結果を踏まえ、強化すべき実行課題について改善テーマを設定し、活動に取り組むこととなる。実行課題ごとのレベリング結果に応じた適切なアクションを提言することにより、工場の実力に応じて身の丈に合った工場改善が推進できる。

201705-01-01.jpgのサムネイル画像201705-01-02.jpgのサムネイル画像

さらに、図2のとおり、TKKメソッドは、アクションを提言する際、改善に取り組む人間にも着目し、その人の「器」を向上させる現実的方法についても深く考えることを示している。

 
3.支援先企業の概要
(1)オンリーワン企業とは
 本稿で対象とする企業はオンリーワンの製造業である。そこでオンリーワン企業とは、どのような特徴、性格を有しているのか、まず、この点を整理する。
 政府は、「ものづくり白書2016」などにおいて、これまで培った製造技術などの強みを強化するのと同時に、市場変化に応じてビジネスモデルの変革を進め、ものづくりを通じた価値づくりを進める「ものづくり+」の特性を有した製造業の出現を求めている。
 また、ものづくり基盤技術を担う中小企業への支援を定めた「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」は、施行から10年経過し、アベノミクスの進展とともに、製造業の国際競争力強化や新事業の創出につながる基盤技術の強化への期待が高まっている。
 こうした状況下において、オンリーワン企業とは、我が国製造業が抱えるさまざまな課題に対して、同業他社と明確に異なる独自性のある事業コンセプトや独自の技術・製品戦略で差別化に成功し、優れた業績をあげている企業を指す。オンリーワン企業の取り組みは、これから「ものづくり+」でのイノベーションを実現しようする企業にとって、先行事例として参考になる。

(2)企業の概要
 支援先企業(以下、K社という。)の概要は表1のとおりである。

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 K社は、独自に開発した高性能ダクタイル(注1)を材料にエレベーターの昇降に用いられる最重要保安部材シーブ(鋼車)など、産業機械の鋳物部品を製造する企業である。
 K社は、競合他社と技術面での差別化を進め、顧客である大手機械メーカーと強固な信頼関係を築き、安定経営を継続している(表2)。
(注1)ダクタイルは、組織中の黒鉛の形を球状にして強度や延性を改良した鋳鉄品。高性能ダクタイルは、軽量かつ耐久性の材料特性と加工コストの低減を実現し、強度や耐熱性、耐食性、耐摩耗性など、あらゆるニーズに応える最適合金設計を可能とし、高い信頼性が要求される部品に使用することで実力を発揮する。

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(3)得意分野
 ①独自性
 K社は、元々営業力が弱く、既存顧客と少しでも有利な条件で取引を継続するためには、技術力で差別化を図るしかなかった。
 社長は、自社の強みの本質が、顧客からの厳しい制約条件から適切な加工条件を導き出す対応力(原因分析のプロセス、蓄積したノウハウ)にあると気づいた。そして、試行錯誤ののち、「ニーズ→設計→シミュレーション→再現実験」を机上と現場で繰り返すことで理論の裏づけから問題を解決し、製品化につなげる独自の開発プロセス(図3)を構築した。

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 ②オンリーワンの組織
 K社は、技術人材の育成として、試験研究センターを組織化(2007年)し、金属材料分野において権威ある技術顧問を招き、独自の研究開発を行っている。加えて、社外研修への参加を積極的に支援するなど、大学院レベルの教育を実施することで、幅広く専門知識を身につける機会を提供している。
 ③オンリーワン戦略の実践
 (a)解析
 社長は、技術の向上を10年単位での長期の積み重ねと認識している。試験研究センターにおいては、独自技術の研究開発に加え、大学等から国レベルでの解析作業を請負うなど、技術データとノウハウを蓄積し、日々技術のレベルアップに努めている。
 (b)試作
 K社は、開発プロセスを活用し、試作品とともにさまざまな提案を行うことで、取引先からの信頼を得て、現在では新製品の開発初期から関与している。取引先の問題解決に協力することで、逸早く新製品の情報入手が可能となり、開発期間の短縮、性能アップなどの効果が生まれ、下請けの立場ではなく貴重なパートナーとしてWin-Winの関係を築いている。

(4)今後の方向性
 社長は、今後、材料開発に特化した技術力ナンバーワン企業になることを目指している。そのためには、高技術を要する希少品を開発プロセスで対応していくことに加えて、現場力を高め、量産品の生産強化を図り、研究開発と高収益を両立しなければならないと考えている。こうしたビジョンを実現することで恒常的に利益を確保し、その利益を研究開発に投資する循環を形成することにより、売上高12億円、営業利益率10%の達成を目指している。

4.TKKメソッドの活用と有効性
(1)診断と改善提案などの概要
 K社への各診断におけるレベリング結果(注2)と業績での改善効果を表3にまとめる。

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(注2)レベルチェックは、経営陣、従業員、診断士を対象に実施。点数は、各実行課題に対し、5点満点で採点。結果は、総得点を回答人数で単純平均しており、本論文に関係するステップを抜粋して表記した。過去3回のレベリング結果を単純比較すると2013年診断時に大きく改善したことが認められる。2015年は、作業員が大幅に交代したことなどにより、一時的に点数が低下したものと思慮される。

 診断時における改善提案の概要は表4のとおりである。提言の内容を踏まえ、K社は、改善テーマを設定し、改善活動に取り組んでいる。

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(2)オンリーワン戦略とレベリングの関係
 表5のとおり、K社のオンリーワン戦略に関連した実行課題に絞り込んで状況を確認すると、レベリングが向上していく過程が見え、社長の想いが社内に浸透していく様子がうかがえる。

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 実行課題「工程設計と製造技術」は、K社の強みである開発プロセスと同様に、3回のレベリング全てにおいて高水準を維持している。また、実行課題「加工条件の改善」、「治工具の改善」は、作業面での改善が進んでいること、実行課題「顧客志向の実現」は、社長の想いが現場に伝わりコミュニケーションの活性化につながったと推察される。いずれにしても取引先からの信頼が高まるに連れて、レベリングの向上に結びついたと考えられる。
 201705-06-01.jpgのサムネイル画像このように得意分野を伸ばすために関連する分野の現場改善に取り組むことで、さまざまな実行課題が相互補完的に機能していることが確認できる。こうした改善活動を継続して計画的に取り組むことは、K社が目指す研究開発型高収益企業とも方向性が合致している。図4のとおり、「ものづくり+研究開発」のオンリーワン企業としてさらなる業績向上に向けての効果が期待される。

(3)K社におけるTKKメソッドの活用と有効性
 K社の現場では、過去3回の診断での改善提案を実践することで、5S活動や品質管理など、現場改善に対する基本的考え方は確実に浸透している。

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 図5は、2015年の診断時にK社に提案した戦略マップである。戦略マップは、バランススコアカードの切り口で整理している。社長のビジョンは、現場力に支えられた研究開発型高収益企業としての成長であることから、真の意味でのオンリーワン企業を目指すための方向性をK社に提言した。
 戦略マップの左側は、オンリーワン企業の経営資源や戦略の特徴をあるべき姿として示し、レベリング結果などからK社の現状を評価(◎できている、○まあまあ、△いまひとつ)し、比較したものである。この比較から、K社が改善すべき課題(△の部分)が見えてくる。
 これに対し、右側の改善提案欄は、あるべき姿に近づくために、持続的に成長し、利益を確保する上で必要となる現場力や生産管理、ニーズ対応などに関する方向性を示しており、戦略マップとして整合性が取れた内容となっている。
 K社の事例では、以下の取り組みにおいてTKKメソッドを活用し、工場診断を進めた結果、場あたり的な問題点を指摘するだけではなく、身の丈に合ったアクションを提言できた。
 ① 過去の診断結果と改善提案から現状を検証し、時系列にレベリング結果を比較することで、改善効果を確認したうえで新たな課題を把握したこと。
 ② オンリーワン戦略に合致した実行課題がレベルアップしていたことから、さらに得意分野が伸ばせるよう、強化すべきポイントを戦略マップにより見える化したこと。
 
5.まとめ
(1)総括
 TKKメソッドによるレベルチェックは、表3、表5のように支援先の現状が可視化され、工場診断と合わせることで企業のあるべき姿とのギャップを改善提案として示すことができる。
 その際、レベリング結果から、支援先企業とともに実行課題から得意分野を見つけ出し、得意分野との関連が強く、喫緊に取り組むべき改善テーマを絞り込むといった共同作業が重要となる。その過程を経ることで、支援先企業に改善活動に対する納得感が生まれ、実効性の高い目標設定と一体的な現場改善として取り組める。
 このような、レベリングの作業、結果から改善テーマを設定、改善活動といった一連の行動、取り組みは、個人、組織、それぞれの単位での器向上にもつながると考えられる。
 
(2)今後の課題
 TKKメソッドの8ステップ全64項目の実行課題は、工場改善のヒントが網羅されており、K社のような研究開発型企業だけなく、製品開発型企業やスタートアップ企業のオンリーワン戦略やイノベーションなどに対しても活用は可能である。
 さらに、TKKメソッドが、工場診断において汎用的に活用できるようなツールとして認識されるよう、レベリングのデータ蓄積を行うとともに、各ステップの実行課題におけるレベリングの内容などに関して不断の見直しを図ってゆく。

2017.03.27
三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介

三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介

主催:三多摩支部 能力開発推進部

 三多摩支部では、平成20年(2008年)に「多摩の塾」を開始し、将来独立を志向している方および新たな領域を開拓したいと考えているプロコンに対してコンサルティング「塾」を実施しています。3~5日間にわたり座学と演習を行い、特定の分野に対してプロとして通用する技能を修得していただくことを狙いとしています。「多摩の塾」の概要は下記のとおりです。

    目   的:専門的な分野を掘り下げて、「専門家派遣」にて通用するコンサルティングの実践能力を修得すること

  対 象 者:新たな領域を開拓したいプロコン、プロコンを目指す企業内診断士、自己啓発を目指す企業内診断士

  平成29年度のテーマ:事業承継など(予定)   開催予定日:7月下旬~10月下旬の5日間(土曜日開催予定)

  募集人員:20名(定員限定)

  参 加 費:25,000円

  開催場所:国分寺労政会館またはビジネスト(中小企業大学校)(予定)

   「多摩の塾」は、コンサルティングスキルの中で特定の分野にテーマを絞りプロとしての高度な知識、技能を身につけることを目指します。プロとして中小企業の経営者から高い評価を受けられるレベルを目指します。

 毎年テーマを選定して、7月から10月までの土曜日に計5回実施し、各回とも講義およびグループワークによる演習を行います。講義と演習およびディスカッション、発表を中心に行いますが、各自が自分自身で考えること、現場での実戦を重視したプログラムを研修に組み込みます。

 講師は、テーマ分野において実務経験があり、現在現場で活躍されている支部の会員または協会の会員が行います。講義を担当する複数の講師と、グループワークをサポートする複数の会員で研修を進行します。また、必要に応じて企業経営者・支援団体の担当者などを招聘して、テーマに関連した実務や実際の対応などを話していただきます。

 地域の支援機関との連携が強いという三多摩支部の特性を生かせるよう、実施するプログラムは、支援機関において実施される事業に合わせて即戦力として活動できる内容にしています。  (連絡先:三多摩支部 能力開発推進部長 谷 譲治、mail:garyo21@mx2.ttcn.ne.jp

2017.03.27
城北支部 城北プロコン塾5期生募集

城北支部 城北プロコン塾5期生募集

主催:城北支部 能力開発推進部

 城北支部では、診断士としての資質とスキルの向上、診断士活動の場の拡充およびプロとして仕事に役立つ人脈の形成を目的として、平成25年に「城北プロコン塾」を立ち上げました。

 "今までにない実践的スキルが身につくプロコン塾"として、城北支部の中から豊富な経験と実績を有する講師陣の熱の籠った指導のもと、製造業、小売・サービス業、商店街支援などの幅広い切り口で、一騎当千の実力を有する診断士を育成します。併せて、受講期間中を通して塾生自らが専門分野をブラッシュアップし、"メシのタネになるコンテンツ"を1本のレポートに仕上げるという課題に取組みます。

卒塾後は、企業診断案件への登用、認定支援機関などへの専門家登録の取次ぎ、ベテラン診断士のコンサル現場への同行訪問など、"稼げるプロコン"への更なるステップアップを城北支部全体でバックアップします。

開催日程:平成29年6月~平成30年3月<全10回>

実施場所:「北とぴあ」会議室(最寄駅;JR王子)他

募集人数:15名 受講料:城北支部60,000円(他支部65,000円 東京協会以外70,000円)

カリキュラム:※講師の都合などにより一部変更となる場合があります。

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申込&問合せ窓口:城北支部プロコン塾事務局(担当:石井 邦利)

         E:jouhoku-procon-info@googlegroups.com

         紹介HP:http://jouhoku-procon.jimdo.com/

 2017年3月19日よりHPにて申込を受付けしております。詳しくは「城北プロコン塾」で検索ください。

2017.03.27
城南支部 中小企業・小規模事業者支援専門家養成講座(通称)第13期 城南コンサル塾  東京協会で最も伝統あるプロコン塾

城南支部 中小企業・小規模事業者支援専門家養成講座

(通称)第13期 城南コンサル塾  東京協会で最も伝統あるプロコン塾

日  程:平成29年6月18日(日)、7月15日(土)、8月19日(土)20日(日)、

     9月16日(土)、10月21日(土)、11月18日(土)、12月16日(土)、

     平成30年1月20日(土)、2月18日(日)、3月17日(土)

     全11回(うち1回は合宿、日程は予定) 9:00~18:00前後・診断実務実習、視察は別日程

     城南支部コンサル塾公式サイト http://johnan-consul.com/ 応募資格:東京都中小企業診断士協会会員(他支部も歓迎します)

募集人数:最大20名 受 講 料:18万円(税込み)実施場所:座学はちよだプラットフォームなど

■中小企業・小規模事業者支援専門家養成講座としてリニューアル

 東京協会で最古のプロコン養成塾である「城南コンサル塾」は、今期より基本コンセプトを新たに「中小企業・小規模事業者支援専門家養成講座」として大幅にリニューアルすることになりました。これは、単なるプロコン養成塾としての意味合いから、中小企業支援機関から真に必要とされる中小企業診断士を育成するべく、伴走型支援を実現できるノウハウと知見を習得するものへと変わるものです。

■伴走型支援ノウハウの提供

 「実践の城南」の名に恥じぬ人材を育成するため、机上の空論、評論家的診断士ではなく、実践的な専門家養成を目的とします。無理なく実現可能で、かつ実証できた効果的効率的な経営支援手法を習得するための通年型(合宿含めて全11回)の研修を開催します。

■講師陣:仕事につながるネットワークを持つ講師を全国から招聘。診断士に限らず、中小企業支援機関の職員、経営者などが講師となって実践的指導を行います。

■実務実習:2社程度を予定。業種、業歴、規模が異なっており標準化が難しい支援手法ですが、共通点も多くあります。「ヒアリング」、「分析」、「方向付け」、「報告書作成」、この繰り返しで支援手法が身につきます。

■講義 テーマ

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■模擬講演:自分の言いたいことではなく、相手の聞きたいことを伝え、相手の心を動かす訓練の場です。独自ツールをつかった指導によって、プレゼン能力の飛躍的向上が期待できます。

■交流会:仕事の相談、独立に関わるさまざまな相談、講師とのネットワークづくり、コンサル塾OBとの交流の機会として、講義終了後に交流の場を設けます。

申込先:城南支部 コンサル塾部 星野 裕司 E:fieldstar25@gmail.com

氏名、住所、電話、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上メールでお申込みください

2017.03.27
城西支部 城西プロコン養成塾13期生募集

城西支部 城西プロコン養成塾13期生募集

主催:城西支部 JOPY委員会

 城西プロコン養成塾(略称JOPY)は、中小企業経営者に適切な助言・提案のできる診断士養成を目指し、平成17年に開講しました。JOPY修了生は、各分野で活躍し高い評価を得ているとともに、城西支部の活動を担う人材となっています。

 コンサルタントは、中小企業経営者の目線に立ち、一緒にモノを考え、適切な助言を行うとともに、良き相談相手となる必要があります。知識だけでなく、現場の状況を把握したうえで、クライアントが納得する実現可能な解決策を提示する、JOPYはこうした診断士を養成します。

 診断士能力向上、基本と応用の再確認、独立を目指す方......ぜひ、ご応募ください。

養成期間:平成29年6月~12月 原則、毎月第3土曜日10:00~17:30

     ただし、商店街診断、商業診断、工場診断は別途日程を組みます。

研修会場:杉並区立産業商工会館

     (JR「阿佐ヶ谷駅」または東京メトロ「南阿佐ヶ谷駅」より徒歩5分)

募集人数:18名 受講料:75,000円

講座内容:講師、会場の都合により、一部変更の場合があります。

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     商店街診断・工場診断・商業診断は、クライアントより実務従事ポイント取得が可能です。

説明会および申込方法:スプリングフォーラムにおいて説明会を行います。申込希望の方は、氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上、下記宛にメールでお申込みください。お問合せも受け付けます。

<申込先> 城西支部プロコン養成塾(JOPY)事務局 浅田 昌紀

     T: 080-5678-0055  E:asada@dp.u-netsurf.ne.jp

2017.03.27
城東支部 スキルアップ受講生募集

城東支部 スキルアップ受講生募集

主催:城東支部 能力開発推進部

 城東支部のスキルアップコースは、主に診断士の資格を取得し、将来診断士として独立を考えられている方を対象としたプロコンを目指すための研修コースです。

 6月から3月まで、毎月1回計10回の開催を予定しています。城東支部長をはじめ、城東支部のプロコンとして活躍されている方々が講師を努めます。

  城東スキルアップコースの特徴は、以下の3点です。

①中小企業経営診断の定石を学ぶことができます。(経営診断テキスト入門編を提供します)

②フィリップ・コトラー、ピーター・ドラッカー、バーバラ・ミント、マービン・バウワーなどの著書を経営診断課題図書(8冊)として定め、経営の基本を学びます。

③企業診断、セミナー講師など実践の機会を提供いたします。

 初回の6月の講義では、将来プロコンを目指す方のために、城東のプロコンの方々が、仕事の獲得方法やプロコンとしてどのような仕事をしているかなどをお伝えします。

 7月以降の講義の内容は、午前中は主に経営診断課題図書と診断技法の原理原則について学習します。午後からは毎回テーマごとの講義とグループワークをおこないます。

■カリキュラム(予定)

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*原則第1土曜日の(9:30~16:30)に開催いたします。ただし6月と1月は第2土曜日開催。

*講義内容や開催月は変更となる場合があります。

*企業の実地診断を1、2社実施予定です。 

*セミナー講師の機会を提供します。

■申込資格 新人会員、既存会員(城東支部以外でも歓迎いたします)

■受講料 45,000円/年

■開催場所 都内の区民館

■申込先 城東支部 能力開発推進部 大石 正明  E:ooishi@zj8.so-net.ne.jp

2017.03.27
中央支部 認定マスターコースのご紹介

中央支部 認定マスターコースのご紹介

 中央支部では認定マスターコース制度を設けています。認定マスターコースはプロコンとしての診断実務能力の向上を目的に、原則1年間のカリキュラムを通してプロコンとしてのスキルアップを目指す中央支部独自の取り組みとなっています。27年度ではマスターコースにのべ315名の会員が所属しプロコンを目指し研鑽を行っています。

 中央支部マスターコースの特徴はバラエティーに富んでいることです。プロコンとしての幅広い知識やスキル、心構えなどを養成するマスターコースだけではなく、「製造業」「ファッションビジネス」「アグリビジネス」など業種・業態に特化したマスターコースや、「プロ講師」「経営革新」「事業承継」など特定分野に特化したマスターコースなど、会員のニーズに応えられる多様なマスターコースがラインナップされております。

<中央支部マスターコース一覧>

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 詳細はhttp://www.rmc-chuo.jp/category/master/courseをご確認ください。

 5月27日(土)に『中央支部カンファレンス2017』が開催されます。この中で「中央支部認定研究会・マスターコース活動紹介」「ブース相談会」が開催されます。中央支部が誇る研究会とマスターコースにふれる絶好の機会ですので、プロコンを目指している診断士の皆様ぜひご参加をお願いいたします。

 中央支部会員以外でも参加可能です。(Myページでの事前登録をお願いします)

2017.03.27
特集 東京協会・支部 プロコン養成講座

特集 東京協会・支部 プロコン養成講座

東京プロコン塾 第11期生募集のお知らせ

主催:一般社団法人 東京都中小企業診断士協会

運営:能力開発推進部

 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会では、診断士制度の変更、診断士の社会的ニーズ、激変する経済環境などに対応するため、平成19年度より真のプロコンを養成しています。真のプロコンとは、高度な学識、スキルはもとより、人間力も備え、クライアントの要望を充分満足させられる"稼げるコンサルタント"を指します。

 東京プロコン塾では、稼げるプロコンを養成するため、座学による講義、現地実習をはじめ、最も重要な、稼いでいるプロコンのノウハウを伝授します。

 講師には、当塾の趣旨にご賛同いただいた、各方面で活躍中のプロコンがあたります。

 プロコンとして独立をお考えの方、コンサルタントとして独立したが活躍が十分でないと感じている方は、ぜひご応募ください。

開催日程:平成29年5月~平成30年3月 原則毎月第4土曜日(9:00~17:00)      

     〔うち2回は合宿研修(1泊2日)を予定〕全10回

応募資格:①東京都中小企業診断士協会 会員

     ②プロコンとして独立する強い意志のある方

応募人員:最大25名(申込者多数の場合は選考いたします)

参加費用:10万円(一括支払、支払方法は別途連絡します。合宿費、現地実習費込み。)

実施場所:座学は、主に東京都中小企業会館8階会議室を予定

     現地実習は現地、合宿地は未定〔平成28年度は、さわやか ちば県民プラザ(千葉県柏市)〕

カリキュラム

・毎回、プロコンとしての心構え、独立の仕方、営業方法について話をします。

・講義は、実務に直結したコンサルティングスキル向上を目指した内容になります。

・現地実習では、商店街や企業を訪問し、コンサルティングを行います。

・ミニプレゼンを実施する機会が5回程度あり、プレゼン能力が向上します。 ※詳細は4月22日の説明会で発表します。

その他:修了認定者には、東京都中小企業診断士協会より修了証を授与します。

    実務更新ポイントが必要な方は、現地実習にて取得可能です。

    講師陣や、活躍する塾生の先輩、東京都中小企業診断士協会の塾生同士で人脈ができます。

    メーリングリストや研究会で、卒塾後もOB・OGとのつながりを持てます。

下記のとおり説明会を実施します

日  時:4月22日(土)14:00~16:00

場  所:あすか会議室神田小川町会議室902会議室

     (東京都千代田区神田小川町2-1-7日本地所第7ビル)

申込方法:現在、申し込みを受け付けています。会員Myページにてお申し込みをいただくか、氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.、メールアドレスを明記の上メールでお申し込みください。

     申込をされた方には入塾申込書フォーマットを送りますので、4月22日の説明会で内容をご確認のうえ正式にお申し込みください。

運営担当:能力開発推進部 部長 佐藤 正樹

申込先:東京都中小企業診断士協会 東京プロコン塾係 担当:清水

     T:03-5550-0033 E:info_tokyo@t-smeca.com

ご質問は、加藤敦子(atsuko.k@altopartner.co.jp)まで

2017.03.27
新たな仕組みによる「ものづくり企業」の活性化支援

新たな仕組みによる「ものづくり企業」の 活性化支援

城北支部 ビジネス創造研究会

伊藤 敦

はじめに  

 東京協会城北支部ビジネス創造研究会は、「新たなビジネスの創出による中小企業診断士の活動領域の拡大」を目的とした研究会である。

 具体的な活動は、板橋区、荒川区を中心とした城北・城東地域の行政、商工会議所、産業連合会、商店街連合会・信用金庫などと連携して地域の製造業・サービス業者・小売店舗の実態調査や支援プログラム、セミナー開催および個別企業・店舗に対する支援に関わる企画・提案である。更に、板橋区においては地元政党との勉強会・政策提言を行っている。実務については、(一社)板橋中小企業診断士協会(「板診会」)、荒川区中小企業経営協会(「荒川経営協会」)など、各区の診断士会と一体となり実施している。

 平成25年の政権交代以降の補助金の申請・補助事業の実施に関して、「板診会」および「荒川経営協会」と一体となり、新たな仕組みの構築により一貫した企業支援を確実に実施して大きな成果をあげることができた。その仕組みと実施事例について述べることとしたい。

1.平成25年以降に実施したものづくり企業の支援概要

ものづくり小規模事業者支援への新たな仕組みづくり

○小規模事業者の課題

 ここ数年来中小企業の経営環境は厳しさを増しており、多数の企業は企業規模を縮小し経費削減による生き残りを図ってきた。平成25年の政権交代以降、各種の補助金による中小企業に対する支援策が強化されているが、小規模事業者においてはギリギリの陣容で運営していることより、補助金の申請書類作成における要点の理解や、実際の作成作業を単独で実施することが困難な状況にある。また、採択・承認後の事業実施に際して、関連書類の整備や定期的な報告などの負担が大きいのが実情である。

  結果として、申請を検討したものの見送るケースはもとより、承認後に実施を辞退する事例も少なからず発生している。

 具体的な課題は以下の通りである;

 ・省庁、都、区などからさまざまな補助金が公募されているが、自社に最適な補助金の選択が困難。

 ・補助金申請の経験がなく具体的に対応方法が判らない。また採択を獲得するための要点を理解することが困難。

 ・複雑な申請書の作成作業に手が回らない。

 ・採択・承認後の関連書類の作成、報告などを行う体制がなく、最終的に補助金を獲得する確信が持てない。

○課題解決方法

 城北地区の企業には小規模事業者が多く専門家の支援を求める声が高まったことにより、当会では毎月の定例研究会において対応方法について検討を重ねてきた。

 その結果、以下の仕組みで支援活動を実施した。

 ・荒川区産業経済部、板橋区産業経済部、板橋区産業振興公社と協議の結果、期間限定の補助金に関わる相談専門の窓口を設け、中小企業診断士が企業からの相談に対応する。

 ・役所は区内の企業に窓口設置による支援の案内を行い、窓口相談の活用を促す。

 ・窓口相談に引続き、専門家の派遣制度を活用し、申請書の完成まで中小企業診断士がハンズオンの支援を行う。

 ・採択・承認後の補助事業実施においても継続的な支援を行い、最終的に補助金の獲得まで継続する。

 ・補助事業実施の過程では単に書類作成業務に留まらず、申請書に記載した事業計画の実現に向けてのアドバイスを行い、企業の経営課題の解決をサポートする。

 ・この過程で担当した中小企業診断士が相手企業との信頼関係を醸成し、個別の顧問契約に結びつける。

○小規模企業支援の仕組み

 ・荒川区の仕組み

 荒川区では、荒川区(産業経済部)の要請に基づき、「荒川経営協会」から企業相談員、創業相談員、にぎわいコ-ディネ-タなどの中小企業診断士を派遣している。各相談員が荒川区と常に連携を取り、区内各企業にそれぞれの実情に見合った各種補助金を紹介して、申請書作成から補助事業実施の支援を行った。

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 ・板橋区の仕組み

 板橋区では板橋区産業振興公社と「板診会」が連携して補助金申請に特化した相談窓口を設置して中小企業診断士を配置した。更に必要に応じて個別企業を訪問して申請書類作成支援から採択・承認後の書類整備・報告の社内体制作りまでの支援を行った。

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ものづくり試作開発補助金支援事例

 板橋区、荒川区の小規模企業への補助金申請支援事例を以下のとおり紹介する。

A社 板金・溶接加工企業 事例  工作機械のゴミ保護カバ-を製造しているが、取引先からの要望に応えるには生産性の向上が急務になり、ボトルネック工程の解消、受注元との生産管理に関わる情報を共有するシステムの開発などが必要になっていた。そこで、ものづくり試作開発補助金を紹介して、補助金申請、採択後の交付申請、採択・承認後の書類の整備などを支援した。

B社 エボナイト製造企業の競争力強化支援事例  長年ゴム・エボナイト製品を製造・販売しているが、他樹脂材料の進出で価格競争力が低下して減収傾向にある。更に、客先からエボナイト製品に含まれる有害化学物質の非含有化要求があり、その解決が課題であった。そこで、エボナイト製造における歩留り改善などによる価格競争力の強化、有害化学物質の非含有エボナイト製品開発のためにロール、プレス、試験機などを設計・開発・導入してコスト低減並びに有害物質の非含有化を実現する事業計画を立案し、これに基づき補助金申請書を作成、採択・承認後の補助事業の実施支援を行った。

C社 プライダル製品の製造法の改善支援事例  結婚指輪製造・販売業者であるが、金・プラチナ価格の高騰により、販売価格を維持するためには地金使用量の減少が不可欠になった。そこで、地金を溶解する工程で高硬度を保ちながら指輪の厚みを薄くする鍛造法を開発して、地金組織の高密度化を実現して価格競争力を高め、売上を伸ばす事業計画の立案並びに補助金申請書の作成支援を行った。

D社 位牌製造業の生産性向上支援事例  数年前より位牌事業を開始して位牌の字彫製造・販売を展開している企業であるが、 引合い件数の増加および顧客からのさまざまな要求に対し、現有字彫機では対応ができず、受注機会を逸失するケースが増加している。そのため新たな字彫機を開発・導入して、多様な顧客の要求に対応可能とした。また、現行の生産管理・販売管理システムの機能が不十分のため、新たなシステムを開発・導入により、生産性向上を実現するための支援を行った。

E社 フィギュア製造に3Dプリンターを導入し競争力を強化する事例

   フィギュアとはホビー・おもちゃ業界における商品である。古くは土偶から始まる人類最古の歴史を持つ美術のひとつであり、形や使用目的を変えて現在に至っている。

   フィギュア原型の製造過程において、3Dプリンター・スキャナー設備の導入およびソフト技術工法の開発・評価を行い、デジタル技術とアナログ技術の融合によって一度製作されたオリジナル製品をリプロダクトする際のQ・C・D向上を実現する。

    3Dプリンターなどの導入にあたり補助金の申請・採択後の事業実施の支援を行い、リプロダクトにおける生産手法の改善、同一原型から多種製品を開発・生産のスピードアップにより、TVアニメなど業界でのコンテンツの激しい変化に対応できる競争力の強化を実現した。

2.城北地域の中小企業支援団体の概要  城北地域には、すでに述べた「荒川経営協会」、「板診会」に加え、台東区中小企業診断士会、NPO法人東京都北区中小企業経営診断協会、(一社)ねりま中小企業経営支援センター(旧、練馬区中小企業診断士会)があり、それぞれ小規模企業の支援を行っている。

(1)(一社)板橋中小企業診断士協会 (「板診会」)

 昭和60年に板橋区中小企業診断士会として創立。昨年、一般社団法人に改組した。板橋区在住の中小企業診断士が中心となり、所属会員は130名。板橋区産業経済部・板橋産業振興公社と長年にわたり良好な関係を築いており、経営相談・創業相談・BCP計画策定、商店街支援などを行っている。特徴としては区の出前相談制度(専門家派遣事業)を活用して個別企業に対するきめ細かい支援と経営革新アドバンスセミナーの開催がある。

 ・出前相談制度

 企業から経営課題に関わる相談の要望に対して迅速に対応できる仕組みとして、「板診会」が板橋区産業経済部・板橋区産業振興公社に提案して実現した企業支援の仕組みである。  依頼企業が板橋区産業振興公社宛相談要請を提出。これに対して、「板診会」が会員の中から適任者を選択し、実際に要請先を訪問して支援にあたるものである。

 ・経営革新アドバンスセミナーの開催

 平成16年に若手経営者交流会として発足した経営者交流会が発展し、平成25年度は「板診会」、「荒川区経営協会」が中心となり、荒川区、板橋区産業振興公社、東商板橋支部・同荒川支部の後援により合計5回のセミナーを開催している。  板橋区および荒川区内のものづくり分野での会社経営者による経営革新の取り組み、大学研究員による3次元プリンターを活用したモノづくり革命など充実したプログラムであり、参加者より自社の事業運営に大変参考になると好評である。

(2)荒川区中小企業経営協会(「荒川経営協会」)

 昭和35年に創立。会員は中小企業診断士、弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士の資格保有者から構成され、荒川区産業経済部へ企業相談員、創業相談員、融資相談員、にぎわいコーディネータを派遣している。平成25年度は荒川区産業経済部から区内製造業に対する実態調査を受託して報告書を提出し高い評価を得ている。

 ・製造業調査と巡回相談

 平成25年に3ヶ月に亘り「荒川経営協会」所属の診断士を中心として60 人の診断士が参加して区内の製造業調査を実施した。区内製造業約2,000社に対する訪問調査を行い、報告書を作成した。

(3)(一社)東京都中小企業診断士協会 城北支部ビジネス創造研究会

 本研究会は主に城北地域の中小企業の経営課題解決のための支援の新たな仕組みづくりを企画し、各区の行政機関などに提案。各区の診断士会と一体になり支援を実施している。

 また、各区の行政機関、東商各支部、産業連合会、商店街連合会などからの要望に対して個別に対応を行っている。

3.他地域への今後の展開

 当研究会および「板診会」「荒川経営協会」による地元企業の支援実績は、地元のみならず、このようなスキームの存在しない他地域でも注目を集めており、問合せの頻度も増加している。今後、地域連携ネットワークとの連携により、板橋区・荒川区に加え北区、墨田区など他地域の金融機関から企業支援の要請もあり、本研究会の対象として支援を行うこととする。

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2017.02.25
データ主導のサロン店舗運営

情報管理研究会 飯村 和浩

【要旨】

 中小企業の場合、大企業と比べてデータの収集・分析・活用を行っている企業は多くはない。その原因にはさまざまな背景があげられている。データ入力の手間や集計・分析する時間を確保できないといった現実的な問題もあるが、そもそもデータ分析を経営に活かすという考え方自体に価値があると感じていないことが多いのではないだろうか。
 本事例では小規模企業がデータを経営活動に活かしていく過程を記載している。他の中小企業が参考にして自社の行動に少しでも役立てて欲しいという思いがある。
 近年のITやクラウド・サービスの進歩によって、中小企業がデータ収集・分析するハードルは一気に下がってきた。事例の内容をご覧いただければお分かりになると思うが、取得するデータや分析する手法も決して特別なものや高度なものを使っているわけではなく、データ分析の基本的なテキストに書いてあるような手法や比較的安価なツールを使っている。その中で自社の顧客や企業の理解を通じて、有効なヒントを探し、実際の行動に移しながら、結果を常に確認し続けることが重要になってきている。小規模企業でも自社の持っているデータを実際に分析してみることで役立つことを実感していただきたい。

1.支援先企業の背景
① 会社概要
 千葉県にあるG社(以下、当社とする)は2013年から柏市内にヘアサロンを展開している。このヘアサロンの特徴は、スタイリスト(顧客を担当し、へアカットなどサービス提供する主力スタッフ)を業務委託契約としているところにある。結果的に正社員のスタッフの人数比が低くなっている。委託契約のスタイリストには売上実績と連動した報酬を支払うことによって、ヘアサロンのコストの大半を占める人件費を変動費化し、売上高に対する固定費の比率を低く抑えられている。コスト構造は固定費の比率が低くなるため、損益分岐点比率を低く抑えられ低稼働率でも利益が出る体質を目指した結果だった。
 また、美容業界の美容師の就労環境は、長時間である割に他業種と比較しても待遇は決して良いものではなく、スタイリストにとっても自分の売上高に合わせて報酬が決まる制度は彼らのモチベーションになっている。さらに、委託契約であることから、自分の顧客の予約に合わせてシフトを組むことができ、柔軟な働き方を選択できる。たとえば、結婚や出産を期にヘアサロンを退職し、日中の短時間のみ働きたいスタイリストや他の店とも委託契約を結び複数店舗で働いているスタイリストの就労機会の場となっている。

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② 経営者の想い
 当社の経営者は、都内の美容専門学校を卒業後、都心でいくつかのヘアサロンに勤務し、美容師としての経験を積んだ。特定の顧客から指名されることも増え、順調にスタイリストとして成長していった。本人も独立するつもりだったため近隣の他店や都内・首都圏など多くのヘアサロンを訪れ、自分のお店をオープンさせるためのヒントを集めていた。
 その中で感じたこと、見えてきたことが今の店舗のコンセプトにつながっている。1つは新規顧客獲得のためにメニューの大幅値引きやクーポンを発行していることへの違和感だった。
 ヘアサロンの売上高は、"来店数"×"顧客単価"で構成される。1人の顧客の来店数は、"来店頻度"×"来店期間"で計算される。当然、新規の顧客よりすでに何度か来店している顧客の売上高の方が高くなる。
 しかし、クーポンや割引の対象としているのは新規顧客のみという店が多かった。これには、大きく2つの原因が考えられる。
 1つ目は新規顧客の獲得が難しく、その反面、一度顧客になれば継続した売上高が見込めるということにある。通常、顧客はすでにどこか別のヘアサロンの顧客であり、何かきっかけがない限り行き慣れたお店やスタイリストを替えようとは思わない。そこで初めての顧客向けの価格を下げることでヘアサロンを替えるための動機付けをする。髪を切るという行為は続いていくため新規顧客獲得に費用をかけるだけの顧客生涯価値(LTV)が高いという計算がされている。
 もう1つは、スタイリストの顧客の担当制度にある。通常、ヘアサロンでは、1人の顧客は同じスタイリストが担当する。指名して変更できる店もあるが、同じ店でスタイリストを変えるというのはあまり多くはない。スタイリスト側から見ると、定期的に来店してくる顧客は別のスタイリストの顧客であり、自分の顧客を獲得するためには、まだ来店したことのない新規の顧客に指名してもらう必要がある。よって、スタイリストのキャリア、成長という視点からも店舗にとって新規顧客獲得は欠かせない構造になっている。

③ 当社のコンセプト
 前述した通り、当社の経営者は新規顧客だけを優遇するクーポンや割引に疑問を持ち、すでに来店したことのある顧客も含め、いつでも、誰でも使えて一律割引になるものを発行している。
 このヘアサロンは、「長い間来店してもらえる顧客を重視し、いつでも気持ちよく再来店してもらえる店」を目指している。また、店舗のスタッフも数名の社員を除き、メインのスタイリストは業務委託契約として完全な歩合制であり、新規顧客獲得がインセンティブとなる制度は採っていない。

2.当社の店舗運営の課題と取り組み
① 出店当初の課題
 出店当初、このヘアサロンではWebの広告を使った集客をうまく行えていたため予約も満席になることが多く、売上高も順調に伸びていた。一方で、新規の顧客に再度来店してもらうための具体的で効果がある方法を模索していた。結果的にスタイリストが個々人のスキルによって再来店の顧客を獲得できていたが、何が売上高や顧客の伸びにつながっているのか明確にわかっていなかった。
 また、店舗運営においても、事務的な仕事も含めてスタイリストに任せることは現実的ではなかった。当初は紙で販売実績を記録し、表計算ソフトに入力して集計していたため、集計に時間がかかったり、入力ミスや計算の不一致が起こったり、細かいミスも発生していた。

② データの取得・店舗オペレーションの効率化
 顧客の来店数の増加や売上高の伸びの理由を明らかにするためには、データを取得し分析する必要があった。しかし、店舗のコストを下げるためにも、顧客データの記録など間接業務的なものは、極力自動化し負荷をかけないことが求められた。
 店舗でのオペレーションは、来店前の集客・予約受け付けから、来店時の接客、退店後の店舗管理業務がある。予約のほとんどはWebから入ってきていたが、来店時の顧客情報や売上高の実績は紙ベースで管理されていた。そこでiPadなどタブレット端末で使えるスマート・レジを導入することを検討した。 
 スマート・レジは月額の利用料で利用でき、タブレット端末も安価に購入できたことから初期費用は低く抑えられた。また、見た目もスタイリッシュでヘアサロンでの設置も問題ないため、試してみるという感覚で、すぐに導入することを決めた。
 スマート・レジが導入されたことで紙ベースの作業がなくなり、計算ミスや集計の手間も減らすことができた。紙での売上の集計をしていたものをやめることで、工数でいうと20%程度の削減を実現した。

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③ 顧客データ・売上高の分析
 顧客のデータは日々の店舗運営の中で自然に取得することができたため、分析に必要なデータを収集できるようになった。データ収集は、決済時にIDが付与され、メニュー単位で収集し、来店日時、顧客名、メニュー、指名/フリー、担当スタイリストなどのデータを収集している。
 
A)データ分析の初期段階
 データ分析の最初の取り組みとして、データを収集し、さまざまな角度から可視化することで、見えてくるものを探していた。いきなり分析し、何かしらの答えを出すりよりも、新規顧客と再来店顧客別・予約ルート別の売上高や来店顧客数などを可視化し、店舗を経営している中で経営者が感じる感覚と一致している数値、感覚からは外れている数値をピックアップしていった。可視化された数値と感覚値が外れているところをより深く分析することで、ヒントが見つからないかなど試行錯誤しながら可視化と分析を進めた。
 初期段階で意識したのは、経営者がデータに可視化することの意義を感じてもらいプロセスを着実に実行する点だった。経営のテキストではあたり前のように書かれているPDCAサイクルは、定着化させるまでには何度も何度も繰り返す必要がある。当社でも同様に、週次や月次、四半期の単位で可視化した結果を比較するというサイクルを何度か繰り返した。

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B)店舗実績の推移
 データ可視化を繰り返していく中で、再来店顧客の売上高の推移や構成比率を数値でいつでも確認できるようになった。データ分析の結果、たとえば以下のようなことが数値で確認できるようになった。
 ✓ 売上高の多い顧客の上位20%が全体の売上高の42%を占めている。
 ✓ 平均の2.5倍の単価で月に2回以上来店する顧客が18%を占めている。
 これらは現場のスタイリストは、感覚値として理解していたが、実際にデータ解析結果からも裏付けられたことになった。Webでの広告の表示を変更したり、日々の接客の中で次の来店を促すようなサービス、コミュニケーションを心がけたり、次の来店を促したりなど効果が見込めるアクションをとっていけるようになった。

C)データ分析に使用したツール
 データ分析に使用したツールは、主に表計算ソフトや簡易BIツール、オープンソースの統計解析ツール、クラウド・サービスのDBなどである。スマート・レジを含め初期投資には数十万円程度で分析可能な環境を用意できている。中小企業の中には百万円単位のIT投資も躊躇する規模の企業も多いが、近年のクラウド・サービスなどを利用すればIT投資のハードルは大きく下がってきている。また、データ分析も重回帰分析やロジスティクス回帰分析など基礎的な手法のみで高度な手法や解析ツールを採用しているわけではない。
   使用したソフトウェア :Microsoft Excel、R、Tableau
   クラウド・サービス :Amazon Web Service

④ 分析結果から実行したアクションの評価
 データ分析のPDCAサイクルが定着した頃から、分析結果から実行したアクションに対する評価も行えるようになった。評価は、分析結果から採るべきアクションを決める際に、前提を置いてシミュレーションする。その結果と実際にどういう数値になったかを数ヶ月後に確認するというプロセスをとっている。ヘアサロンの場合、平均の来店頻度が2ヶ月程度であるため来店したことのある顧客に対してのアクションをとった場合、効果を評価するのは数ヶ月以降ということになる。
 効果が出たものもあったが、当然、予想通りの効果が出ない場合もあった。これらについても要因を分析して、どこに原因があったのかを探るようにしている。

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3.さらなる課題と取り組み
 結果的に、再来店顧客の売上高に占める割合も、顧客数も継続して伸びていった。これは、データ分析に取り組みの成果が出たものもあるだろうが、そもそも営業開始時点ではすべて新規顧客であるため営業期間が長くなれば再来店顧客の売上高割合が増加するのは、当然の傾向でもある。

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 データを分析し可視化することによって多くのことが明確になった。経営者としては意思決定や次のアクションに何を選択するべきか迷うような結果も出てきた。
たとえば、
 ✓ 新規顧客の単価は高く、来店期間が長くなると単価は下がる
 ✓ スタイリストによって再来店につながるかどうかの差が数値として表れる
 データ分析の結果から短期的な実績を推計すると新規顧客が増えれば売上高は増えることになる。しかし、経営者は既存顧客を重要視するスタイルを貫いている。そもそものコンセプトを大事にし、長期的にはその方が効果的と考えているからである。

4.今後の課題
 当社では、集客のために多額の広告宣伝費を払っている。ヘアサロンの中には、当該広告サービスを使わなければ成り立たない店舗も多い。現在の課題は広告に頼らずに自分たちで集客し、顧客との関係を維持していくことである。
 店舗からのメッセージの発信や告知はITによって解決する部分もあるが、それだけでは現在と同様の集客力を得られるわけではなく、試行錯誤を重ねている状況である。

5.最後に
 企業を取り巻くICTやクラウド・サービスの進化は著しい。数年前に初期投資で数億円かかるようなシステムと同程度の機能や性能を、初期投資なしに月額数千円で利用できるクラウド・サービスは多く存在する。クラウド・サービスの恩恵を最も受けられるのは中小企業といえる。
 しかし、機能やサービスが高度でもITは手段であり、何のために、どうやって使うかは自分たちで考えなければならない。本事例のようにデータ分析には決められた機能ややり方があるわけではないことから、結果を出すためには試行錯誤を繰り返していくしかない。
 一方で、データ分析の結果がすべて正しいわけではない。本事例においては、顧客の売上高や来店頻度などは見えるが、実際に来店時に感じていることや率直な意見などは、データで取得できているわけではない。大前提として、経営に影響する要素すべてがデータとして取得されているわけではないため、当然であるが限界がある。本事例の経営者は、データ分析の結果も尊重しながら、最終的に自分で考え意思決定することにしている。

6.研究会としての今後の取り組み
 情報管理研究会は、「中小企業を変革するIT活用」をテーマに、店舗経営にかぎらず、中小企業の経営に役立つシステムの研究やITを活用する経営手法、管理手法について研究している。今後も事例や新しいITの動向を踏まえ、ITを経営に活かしていく手法を生み出すなどの成果を目指していきたい。

2017.01.31
小規模小売店に対する買い物行動分析を通じた販促支援の実施

城西支部 先端小売業研究会

稲垣 修

1.はじめに

 先端小売業研究会(以下「先端研」)では、2014年11月よりおおむね1年間をかけて、東京都内某所の洋菓子小売店兼喫茶店に対し、販促施策の提案、および同提案を踏まえた小規模事業者持続化補助金の申請並びに同補助事業実施にあたっての実行支援を行った。
 当社は、①不動産関連事業および②洋菓子製造販売業・飲食業の業種の異なる2事業を営む小規模事業者。夫婦2人で経営しており、社長である夫は全事業を俯瞰しつつ、実働的には①不動産関連事業を、妻は店長として②洋菓子製造販売業・飲食業(喫茶店)を担っている。今般は、上記②事業の店舗を対象としたもの(以下「A店」)。

 

2.対象店舗の概要と経営状況

 A店は、乗降客数が多く商業地として人気の高い都内某駅徒歩3分という好立地にあり、開店より19年と地元で古くから続く喫茶店である。売上は、洋菓子テイクアウト、近隣スーパー向け販売(買取制)、喫茶、オーダーメイドのオリジナルケーキ、主に子供を対象とした洋菓子のクッキングスクールの5部門で構成されている。経理、支払関係を除く、店舗内業務(製造、販売等)については、ほぼ全てを店長が一人でこなしており、アルバイトは雇っていない。
 1997年にオープンし、当初は「駅近」と「人通りの多さ」という「立地」を強みとし、また、一時期は雑誌等でも紹介されるなど相応に知名度も高かったことから、堅調に売上を維持していたが、近隣商店街が改装し人の流れが大きく変わったことで前面道路の人通りが激減したこと、駅ビル改装によりスイーツ店が充実したこと、さらに、コンビニスイーツの進化等を要因として、来店客数は徐々に減少傾向にあり、加えて、A店の特徴でもある主に小学生を対象としたクッキングスクールは、昨今の少子化の流れもあり生徒数が減少、売上高は長期間にわたって低迷している状況である。
 今般、かかる店舗の経営状況を打開せんとして、社長より当会会員あてに、売上活性化について相談があったもの。

 

3.先端研のアプローチ方法

 先端研では、「そのお店のお客様が何を求めているのか?」というお客様目線でのアプローチをおこなっているが、その起点となっているのが、「買い物行動分析」である。とかく、「自分は、こういうものを売りたい!」という「こだわり」がある経営者は、そのこだわりが強い分、「本当にお客様が何を求めているのか?」「お客様のこだわり」が、見えなくなってしまっていることが往々にしてある。
 しかし、「作り手や売り手のこだわり」と「お客様のこだわり」が適合しなければ「物が売れる」には至らない。先端研のアプローチ方法は、そういったこだわりのある経営者に対して、お客様のこだわりを想像して示してあげることであり、「買い物行動分析」とは、「お客さま目線で買い物行動パターンを観察し、売り手の現状から新たな視点や強化する視点を分析する手法」である。

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 「買い物行動パターンの観察」は、2つの視点で14類型に分類して実施する。1つ目の視点は、「どういった生活目的なのか?」という視点。これは具体的に「生活を維持するため」、「生活に変化を与えるため」、「生活に革新を与えるため」の3パターンに分類される。次の視点は、「どういった買い方をするのか?(意思決定過程)」という視点。これは、「思わず衝動的に買ってしまう」、「あれこれと選択して買う」、そして、「これを買うんだ!」という目的意識をもって買うの3パターンとなる。
 加えて、意思決定過程においては、自分で選ぶ場合と、売り手と相談する場合があることから、さらに細分化する。

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 この14類型でお客様の買い物行動を観察することで、利用するお客様の行動パターンを浮き彫りにした上で、お客様目線での施策検討というプロセスに入っていく。
 先端研の「先端」にはロングテールの先端に当たる部分を支援しようという、研究会創立時の杉浦肇氏の思いが込められている。もともとはニッチ企業を応援するツールではあるが、これだけ消費者ニーズが多様化してくると、どんな小売店でもお店の方向性をとがらせてアピールすることが大切になってくると思われる。そういった意味では、ニッチ企業に限らずこのアプローチ方法は有効なのではないかと考えている。

 

4.A店に対するサポート(フェーズ1「現状分析・プロモーション手法の提案」)

  取組期間:2014年11月~2015年4月

(1)近隣地域の市場特性および競合店調査

 同駅周辺には、同種の店舗は数多く見受けられるものの、個性的な店舗が多く、それぞれが独自の「ストアコンセプト」を出すことで「共存」が図れている市場となっている。

(2)SWOT分析

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(3)売上高低下要因検証

 外部環境変化(商店街の改装に伴う駅からの人の流れの変化、駅ビル改装にともなう高単価スイーツの充実、コンビニスイーツの進化等)により、同駅を中心とした市場内で、相対的にA店の「買いやすさ(立地等)」と「価格」が劣後するようになった結果、A店を「立地」の良さで選定していたお客様が剥落。
 従って、売上活性化に向けては、これまで十分にお客様に訴求できていなかったA店の「強み」や「ストアコンセプト」をいかにしてアピールしていくかということが重要になるものと推察した。

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(4)A店利用客の買い物行動分析

 以下の通り、既存客と新規客に分け、来店客の買い物行動分析を実施し、施策検討にあたってのテーマを考察した。

①既存客:「生活維持(K)型」、特に、KSS型かKOS型が中心。少なくともある程度は、お客様なりにA店の良さ(強み)を感じて来店していることから、いかにしてA店の強みを、さらにしっかりと擦りこんでいくか?他の強みを訴求していくか?そして、既存客でも、利用機会を広げてもらうために、いかにして「生活変化」を与えることができるか?

②新規客:「生活変化(V)型」、具体的には、VIC型やVSC型がターゲットに。たとえば、コンビニスイーツをよく買う人を、どういうきっかけで、ちょっと高めでも美味しい手作りシュークリームに興味を持たせるか? 

(5)目指すべき「ストアコンセプト」の明確化

 利用客の行動分析を行ったところで、施策検討の指針とすべく、改めて、A店として目指すべき「ストアコンセプト」の明確化を行った。

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(6)売上活性化に向けた施策のご提案

①お客様の「買い方」を意識したアイテムへの工夫

―アイテム名の工夫、季節限定品の提供、歩きながらでも食べられるアイテムの提供、小さめアイテムの開発・ホールケーキのカット売り、看板メニューの確立、スイーツ原材料のセット販売

②「買い方」を意識した広告・包装等への工夫

―アイテム表示の工夫、店長の似顔絵キャラの作成

③既存のお客様に対する囲い込み戦略

―ポイントカードの導入、高齢者向け「シルバーポイントカード(仮称)」の作成、レシピの開示による常連客のストアロイヤリティ向上、一個買いのお客様が買いやすいような広告の掲示、会議室や教室としての喫茶スペースの貸し切り提供

④通行人をA店に誘導するための施策
―店頭POP作成/店名の看板取り替えとオープンな雰囲気のエントランス作り

⑤宣伝広告
―ホームページの更新、電子メールの活用(お誕生日月や記念日のオリジナルケーキの案内等)、ショップカードの作成

 

5.A店に対するサポート(フェーズ2「小規模事業者持続化補助金申請サポート」)

  取組期間:2015年5月

(1)フェーズ1の反省

 社長の店舗に対する危機意識をきっかけにサポートを開始したものの、ディスカッションを深めていく過程で、社長の思いと実際に現場(店舗)を切り盛りしてきた店長の思いの違いを認識。

―社長「売り上げが低迷している店舗経営状況に、自身のネットワークで収集したさまざまなアイディアを試してみたい。」

―店長「あれこれチャレンジするよりも自分自身が好きでこだわりのあるケーキ作りに専念したい。」

 フェーズ1の提案書は社長の意向に軸足を置いた内容になった感あり。

(2)店長としての優先取組事項の確認

 フェーズ2からは、当会として「店長の本音を引き出す」ことに軸足を置いたサポートを意識。補助事業申請にあたり、改めて、店長としてまず取り組みたいことを確認したところ、「店頭POP」、「ショップカード」、「ホームページリニューアル」の3点を列挙。

(3)補助事業の策定と申請書作成サポート

①補助事業で行う事業名  「ストアコンセプトの明確化と市場浸透を通じた新規顧客開拓」

②補助事業の具体的内容(申請時)

・店舗視認性向上のための突き出し看板の取り替え

・店頭POPの新設

・ホームページの復活リニューアル

・ショップカードの作成・店頭設置、配布

・「安全・安心」の手作り感が伝わる新開発商品

・地元商店街で開催されるイベントへの参加

 

6.A店に対するサポート内容(フェーズ3「補助事業実行支援」)

 現状、店長は毎日の業務をこなすことだけでいっぱい、いっぱいである中、付加的に補助事業を、しかも限られた時間内で実施するには、「誰が」、「何を」、「どのように」、「いつまで」を管理する等、「一緒に汗をかく役回り」が必要と考え、当会で実行支援サポートのためタスクチーム(6名)を編成し、2015年8月~11月まで、下記サポートを実施。

(1)補助事業の具体化

 補助事業それぞれについて更にタスクを細分化したうえで、責任の所在を明確化

(2)工程管理

 工程管理表を作成、それぞれの施策、さらにタスク毎に課題・確認事項、経費、スケジュールと進捗状況を管理し共有するとともに、2~3週間に1回のペースで期間中計8回、社長、店長、当会メンバーで全体会議を開催の上、PDCAを実施

(3)実務的な作業サポート(「一緒に汗をかく!」)

 指摘、アドバイスだけに留まるのではなく、手を動かし、一緒に汗をかくことで、店長との信頼関係を構築しつつ、店長のプロモーションに対する自発性を誘引

①店頭視認性アップの店舗外観案作成

同業のみならずA店の現状を踏まえて店舗視認性をアップさせるため、参考として考えられる他店事例を収集。また、突き出し看板の塗り替え、店頭ライトアップにあたって店長をサポートし、実際に業者とのディスカッションを実施

②ショップカードのデザインサポート

社長および店長の意見を調整しつつ、所定の素材を組み合わせて原稿を作成

③業者選定調整

ホームページ業者選定(2社より選定)にあたっての入札要綱の作成、両候補者からの提案内容の検証と比較対比表の作成、選定後の作業進捗確認等

④ホームページ用写真撮影

当初専門家への外注を検討したものの、融通とコスト面から断念。今後のホームページリニューアル時の継続フォローも視野に入れて、当会メンバーでカメラマンを含む撮影部隊(先端研写真部)を編成し、全アイテムおよび店舗内外観写真を撮影

(4)実績報告書策定サポート

 8月~11月に実施した補助事業について、エビデンス等を含めた実績報告書の策定をサポート

 

7.補助事業実施概要と効果、今後の課題

(1)各施策の実施概要

①店頭POP設置

ホワイトボード、ホワイトボード設置用の椅子を購入、POPを作成の上、店頭に設置、視認性の改善とストアコンセプトの積極的な訴求に

②ホームページリニューアル

長年更新されておらず、古めかしさが残っていたホームページを全面刷新。また、ITが苦手な店長に対して、ホームページ更新の講習も受けてもらうなど、今後の定期的な更新も視野に入れたサポートを実施

③ショップカード

名刺サイズとはがきサイズで2種類×5,000枚作成。店頭設置のほか地元商店街の案内所、地元スーパーへの設置、社長・店長関係者等に配布

④新商品開発

実施期間中にケーキ2種類、焼き菓子2種類を新商品として販売を開始した他、約3種類の商品についてはおおむね販売の目途が立つ段階に。なお、商品開発にあたっては、コンビニ等のチェーン店では真似できない製法を使う等、「手作り感」が顧客に伝わるようなものを意識

⑤地元イベント参加

地元商店街が主催するイベント(2日間)に参加。イベントのおみくじ用スタンプ押印目的で来店する新規客に対し、ショップカードの配布等のプロモーションを実施。また、新商品の一部販売も開始し既存客にもアピール。なお、3日間アルバイトを1名雇用

⑥突き出し看板の塗り替えと店頭ライトアップ

突き出し看板の塗り替えと照明2個、店頭植栽のライトアップ用照明2個の設置を外部専門家に委託の上実施。突き出し看板は補助金申請当初「取り替え」の予定であったが、費用負担軽減のため既存資産を極力有効活用し「塗り替え」で対応

(2)実施効果

 補助事業実施後約1年が経過しているが、来店客は増加傾向にあり、特に喫茶の売上は前年対比1~2割増加している。クッキングスクールは、昨今の少子化等の流れから開催回数の減少を余儀なくされているものの、スクールの売上高減少を喫茶、テイクアウトの売上高増加で打ち返し、店舗全体では概ね前年対比1割の売上高増加となっている。これは、POPの設置・突き出し看板の塗り替え等により明らかに視認性がアップした効果が出てきたものと思われる。(店頭で立ち止まる通行人が増えたり、「ここってケーキ屋さんだったんだ」と会話する声が聞こえたりと、店長自身もPOP等の効果を肌で実感しているとのこと。)

(3)今後の取り組むべきこと

 ホームページについては、アクセス数が未だ低いこと、直帰率(トップページだけ見て他のサイトに移動する閲覧の割合)が高いことなど課題がある。全面リニューアルをしたものの、定期的なメンテナンスが行われていないこと等が原因と推察できる。しかし、一人で店舗を切り回している店長の業務量全体を考慮したうえで、ホームページのメンテナンスについては、いかに無理のない範囲でルーティン化していくかの検討が必要であると思われる。
 また、継続的に商品開発は行っており、その中でもお客様の反応が特にいいものもある(スフレケーキ等)。来店客との対話の中からそういった商品について的確に把握し、看板商品化すべくプロモーションしていくということもリピート率向上にあたっては有効であると考えられる。
 今般の補助事業は、既述4(6)売上活性化に向けた施策提案のうちの最優先事項を先行させたもの。同店はまだまだ改善余地があり、当会としては継続的にディスカッションを実施しながら、A店販促支援を行っていくことと致したい。

 

8.おわりに

 約1年間かけて、現状分析・施策提案から補助金申請、さらには補助事業の実行支援まで一気通貫で取り組めたことは、当会にとって貴重な経験となった。店長は、洋菓子づくりに対するこだわりや思いが強い一方で、自店を積極的にアピールする意識はそれ程高くは無かったが、一連の取組を通じ、顧客目線でのプロモーションの重要性について、小さな気づきを与えることができたのではないかと思っている。既述の通り、施策実施により売上高アップ等定量的な成果は出始めてきているが、今般の当会取組を通じて、職人気質の店長が、ITが苦手であるにもかかわらずホームページリニューアルの勉強をしたり、自らPOPを作成したりと、店舗のプロモーションのために一定の時間と労力を割くようになったその店長の意識改革こそが、当会にとっての何よりの成果であった。
 そして、基本的なことではあるが、「クライアントとの信頼関係」と「クライアント目線でのコンサルタント」の重要性を改めて痛感させられた、我々にとって意義深い取組であった。かような機会を当会に与えて頂いた社長並びに店長に、心からお礼を申し上げたい。

2016.12.29
営業力強化コンサルティングメニューの開発

営業力強化コンサルティングメニューの開発

営業力を科学する売上UP研究会 渡邉 卓
YFA64764@nifty.com

 本研究会は、法人営業における課題が一目で分かる「法人営業力診断アンケート」を開発し、2014年度中小企業経営診断シンポジウム第3分科会で発表した。その後、システムに改良を重ねながら、2016年9月現在13社から221名の回答を蓄積し、企業の困りごとや営業課題を可視化できた。
 せっかく営業課題を可視化できても、解決策を提案できなければ、中小企業経営者の悩みは解消しない。そこで本研究会は、2015年7月から、アンケートで可視化できた営業課題それぞれの解決策となる「営業力強化コンサルティングメニュー」の開発に着手した。1年をかけて完成したメニューをもとに、金融機関と提携して中小企業向けセミナーを開催し、また、中小企業に対する個別支援を開始したので、ここに報告する。

1.ツール開発の背景、経緯
(1)営業力強化に注力したい中小企業
201701_4_1.jpg 日本政策金融公庫「2016年中小企業の景況見通し」(2015年11月)によると、中小企業が経営基盤強化に向けて注力する分野は、2位「人材の確保・育成」(51.2%)に大差をつけて、「営業・販売力の強化」(69.4%)が1位である。
 売上を会社にもたらす源泉である「営業・販売力の強化」に対して中小企業経営者の危機感が強い一方で、中小企業の営業力強化に焦点を当てた解決策は多くないのが現実である。

(2)経緯
 工場と違って営業現場は、相手(顧客)次第で状況が変わり、現場に目が届きにくく定量化が難しいことから、どういう問題が起こっているのか把握しづらい。
201701_5_2.jpg 当研究会が開発した「法人営業力診断アンケート」は、Web上で4段階の選択回答50問と自由回答の5問に答えることにより、法人営業に必要な5つの評価軸(戦略力、計画力、行動力、商談力、管理力)に沿って測定する。図表2のように、営業マネージャー、営業担当者という階層別のレーダーチャートによって、把握しづらい営業課題を可視化できる。50問の回答分析に加えて、豊富な自由意見を集められるのが本アンケートの特長だが、それらをまとめた分析レポートを提示・説明する中で、中小企業経営者に改善策を提案することができる。
 アンケート分析から問題把握までは仕組み化・自動化することで省力化できたが、その後の提案はコンサルタントのスキルや経験に依存する部分が多く、個別対応による提案ツール作成に多大な時間がかかっていた。

2.開発ツールのポイント
(1)課題に最適なメニューの用意
201701_5_3.jpg 法人営業力診断アンケートを受診する中小企業が抱える営業課題はさまざまだ。提案を1つ、2つ定形化しても、幅広いニーズにとても対応しきれない。
 そこで当研究会は、2015年7月から1年をかけて、「可視化課題を解決」する営業力強化コンサルティングメニューを開発した。中小企業経営者が自社の営業課題に合わせて、11種のツールから自由に選べる、という意味で「メニュー」と名付けた。図表3のとおり、5つの評価軸ごとに重複しないように、かつ相互に補完しあえるようなメニューを選定した点が特長だ。
 たとえば、「管理力」には3つあるが、「組織営業のプロセスと管理」は体系化・仕組み化してPDCAを回していくものであり、「営業会議の実践法」は営業会議を効果的に行うための具体的指導である。3つめの「コミュニケーション力の強化」は人の思考タイプに着目した、上司の部下指導、取引先担当者への対応方法など、人的な「コミュニケーション力の強化」に力点を置いた。このように同じ管理力でも硬軟織り交ぜたメニューを用意して、人材育成を伴う営業力強化を目指すことが大きな特長である。
 当研究会の月例会で3か月おきに各分科会が進捗報告を行ない、分科会の間で重複や齟齬がないか横串をさして、メニューのレベルを合わせた。
 2016年1月の月例会で、都内金融機関A行を顧客に持つ当会員が仲介し、A行研修担当者を招いてプレゼンを行った。それと前後してA行が主催する中小企業向けセミナーで会員が講義する機会を得た。それらを踏まえて、A行が新しく企画したスキルアップ研修の受注を目指した。ツール開発を1年間続けることは心身ともにきついが、セミナー開催が動機づけとなって中だるみを防ぎ、メニューをブラッシュアップできたことは幸運だった。ここで、メニューの一部を紹介する。

(2)メニュー紹介①「新規開拓に繋げる展示会活用法」
 1つめは、新規顧客開拓を行うことを決定し、具体的営業活動として展示会出展を選んだ場合のコンサルティングメニューである。
 展示会出展は、経営革新計画認定企業向けに優遇策があるなど、新規顧客開拓策として大変有効である。しかしながら、展示会に出展したことがなく経営資源が乏しい中小企業は、どうやって展示会を企画運営するのか術を持たない。
201701_6_4.jpg そこで当研究会は、図表4のとおり展示会のステップ別に手順(シーン)や内容をまとめて、その行動内容を細かく取り決めた。展示会の準備と実施はイメージがわきやすい一方で、忘れがちな行動がある。
 事業戦略に沿って出展コンセプトや顧客ターゲットを決めた上で出展展示会を選ぶ「企画・計画ステップ」、来場者リストを作成して社内で共有した上で御礼やフォロー訪問する「フォローステップ」の2つが展示会成功の鍵であり、それらの進め方も具体的に織り込んだ。
 ファッション性の高いバッグ製造卸売業に勤め、東京ビッグサイトで展示会出展を手掛けた会員のノウハウが大いに活きた。前職の大企業時代に培ったノウハウを、小規模企業で実践する過程で磨いた工夫が織り込まれているので、中小企業が使いやすい事は明らかだ。

(3)メニュー紹介②「組織営業のプロセスと管理」
201701_7_5.jpg 中小企業における営業活動は、経営者や辣腕営業部長の個人プレーが多いが、属人的であるがゆえに、その人が引退・退社すれば途端に営業力が落ち、売上にマイナス影響を与えることが多い。
 個の力に頼るのでなく、営業マネージャーや担当者に加えて、技術部門など他部門と連携して全社一丸になった組織営業こそが、経営資源に劣る中小企業には不可欠である。そこでは、誰が、どのタイミングで、何処へ、どのように行動するのか「仕組み化」、「見える化(可視化)」することで、ごく普通の営業担当者が一定レベルの営業成績を発揮できる仕組みが求められる。その答えとして、図表5のとおり、営業プロセス別に行動や指標を整理・設計するマトリックスを開発して、仕組み化している。
 これは、高額産業機器の法人営業経験が長い会員を中心に仕組み化したものであり、A行主催セミナーでも講演した。ここでは2例を紹介したが、開発したメニューの全てが、実践経験に基づく会員のノウハウを結集して作り上げた。

3.効果
(1)メニューの会員間共有
 営業力強化コンサルティングメニューとして11種のツールをラインアップすることで、ある程度の営業課題に迅速に対処できるようになった。2016年7月には一泊二日の合宿を行ない、模擬講義やグループワークを経て、他の会員が作成したメニューも各自が使えるように、コンサルティングスキルの底上げを図った。

(2)金融機関と提携したセミナー開催
201701_7_6.jpg 都内金融機関A行は、中小企業支援にあたって、図表6のような認識を抱いていた。中小企業の課題の本質は「いかに売上を増やすか」にかかっているが、それに応えられる支援の仕組みがないことだ。
 このような認識をもつA行だったので、当研究会の提案に興味を示し、単発のセミナーでなく、企業の集合研修(5回シリーズ)という形で受注できた。2016年10月から12月にかけて研修を開催しており、実際に講義することで受講者から有益なフィードバックを得て、メニューの改良に活かしていく。
 
4.今後の活動予定
 営業力強化に悩む中小企業経営者に提案するコンテンツは完成したので、中小企業に提案する機会を増やすことが次の課題である。そこで、「中小企業への提案窓口」となる中小企業支援者とパートナーシップを結び、Webサイトの新設、お試し体験「営業力強化セミナー」等を用意することで、多くの中小企業経営者の課題解決につなげることを目指している。その全体像は、図表7のとおりである。

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(1)パートナーとの提携
 中小企業の最大課題である営業力において、体系化・仕組み化された支援策が他にないという金融機関A行の現状認識から類推すれば、当研究会のメニューは、他の中小企業支援者に歓迎してもらえるものと考えた。
201701_9_8.jpg そこで、自らクライアントを持つものの、営業力強化の手立てを持たない中小企業支援者に提案窓口になっていただく仕掛けを考案した。図表7の左側に挙げた提案窓口のうち、都内某区の産業振興部門、税理士や社会保険労務士が属する団体、2つの研究会、1つの出版社と提携済みあるいは協議中である(2016年9月現在)。
 中小企業経営者、およびパートナーである中小企業支援者に情報を直接お届けするために、図表8のとおり、ホームページを立ち上げた。

(2)お試し体験「営業力強化セミナー」の開催
 企業経営者がいくら興味をもっても、法人営業力診断アンケートを受診することで自社内情をさらすこと、効果が見通せない中でコンサルティングをいきなり有料で発注することに抵抗感を抱く心理が想定される。

 他士業を含む中小企業支援者にヒアリングしたところ、たとえば、税理士や社会保険労務士が顧問先に営業力強化を提案しても、営業面の具体的な質問には答えられないし、「先生の専門外ですよね」といわれて、暗に拒絶されてしまうようだ。

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 そこで、経営者と一緒にお試し体験「営業力強化セミナー」を受講すれば、日頃の関係を一旦リセットできて、営業力強化の必要性を理解してもらえ、中小企業支援者にとっても新しい案件受注が期待できる。
 図表9のとおり、2016年12月から定期的に開催する予定である。交通至便な会議室で、平日夜に2時間程度のセミナーを行ない、メニューを開発した会員が講師を務める。セミナー終了後に個別相談会を設けて、中小企業経営者の課題解決にあたる。

(3)企業へのコンサルティング実施と支援体制の強化
 当研究会の最終目標は、中小企業の営業力アップである。コンサルティングメニューがセミナーで使えても、企業へのコンサルティング現場で効果を発揮するとは限らない。そこで、都内某区の産業振興部門から、営業力強化に困っている企業を紹介してもらい、複数の企業に対して営業力強化支援コンサルティングを行なっている最中だ。
 中小企業の実情に合ってない部分は、実践を通じてメニューのブラッシュアップを図っている。また、メニューを作った会員だけが研修やコンサルティングを行うのでは、数多くの中小企業に対して同時並行した支援が難しい。そこで、1メニューを最低2~3人の会員が説明できるように、内部研修の仕組みをつくって、コンサルタントの内部養成を図っている。

5.まとめ
 顧客を抱える中小企業支援者にとって、自らが関わりながら営業力強化を推進でき、経営者が自信を持てるようになれば、事業計画作成や設備投資、人材育成や資金繰り強化等のニーズが出てくることが見込まれる。中小企業支援者どうしがWin&Winの関係でパートナーとなり、中小企業が最も重視する営業力強化の一助になりたい。

【執筆メンバー】
営業力を科学する売上UP研究会
 渡邉 卓(リーダー)、阿部 裕、坪田 誠治、東條 裕一、福地 信哉、丸山 直明ほか

2016.11.29
稼働率99%!特別養護老人ホームに対するコンサルティングのキー項目

福祉ビジネス研究会 代表 的場 秀夫


1.福祉ビジネス研究会
福祉ビジネス研究会は、1997年4月「社会福祉研究会」として発足しました。2000年4月介護保険法が施行され、福祉の世界に民間企業が進出し始めました。社会福祉法人が設置主体である特別養護老人ホームにおいても、利用者との関係が「措置」から「契約」に変わり、「運営」から「経営」へというビジネス的視点が求められるようになりました。
儲けてはいけないというイメージを持つ「福祉」。儲けを出し続けなければいけない「ビジネス」。一見、相入れない世界の間に何があるのだろうか。ビジネスという視点で福祉を考えてみたらどうだろうか。そんな興味の中2002年、「福祉ビジネス研究会」と改名し、活動を続けています。
2016年9月時点で会員は約30人。親の介護のことを心配している会員、自分自身の老後を見据えている会員、親族に障害を持つ方がいる会員など「将来の暮らし」に対する興味から参加する会員が中心でしたが、自ら介護事業所を経営する会員、障害者施設の管理運営を任されている会員など、「福祉ビジネス」の内側で活動している会員も増えています。最近は、銀行、建設、教育・出版等、高齢者・障害者・児童に関連した市場への進出を企画している企業からの参加や、地域福祉のマネジメントを担当する市区町村の方々も参加しています。

2.コンサルタントとしてのスキル・知識
コンサルティングに必要なスキル・知識には三つの領域があると考えています。201611-2p-Fig.jpg
ひとつめは「マネジメント・組織管理領域」であり、中小企業診断士であれば保有しているスキル・知識です。
二つめの領域は「業界研究」。介護の世界でコンサルティングを実施するのであれば、介護保険法を始めとした制度の理解、介護市場の動向、就業者の状況や労働環境の理解、介護報酬等の理解が必須となります。業界研究については、毎月の例会において、福祉・介護の世界で活躍をしている講師や、会員の研究成果発表により、知識を深めていくことができます。
三つめの領域はコンサルティングを実施するための「メソッド・ツール」です。事業所・施設の状況を把握した上で、問題や課題をどのように解決していくのか。机上の知識だけで対応できるものではなく、具体的な方針を策定し、コンサルティングを進めていく必要があります。「メソッド・ツール」の領域は、実際のコンサルティングを実施する中で試行錯誤しながら身に付けていくしかありません。当研究会においては、過去に「介護専用型有料老人ホーム開設市場調査」、「住宅型有料老人ホーム開設コンセプトおよび事業成功要因分析」事業の受注、「有料老人ホーム経営支援マニュアル」の作成などをプロジェクトチームで対応し、ノウハウとして蓄積してきています。

3.特別養護老人ホームに対するコンサルティング事例201611-3p-UpFig.jpg
本原稿では、福祉ビジネス研究会の会員が関わった特別養護老人ホーム(以降、特養という)「まごころタウン静岡(静岡市駿河区、定員100名ユニット型)」対するコンサルティング事例から抽出した、コンサルティングのキーとなる項目について解説します。
(1)最も重要な指標「稼働率」
特養の運営は社会福祉法人か行政に限られており、介護保険法では「介護老人福祉施設」として規定されています。主な収入は、介護保険給付と利用者からの介護サービス費、居住費、食費です。介護保険給付と介護サービス費は要介護度による一律の単位数と加算、居住費と食費は基準費用額で定められています。単位数単価は地域によって10円~10.90円と異なりますが、静岡市の特養には10.27円が適用されます。
1日1ベッドあたりの収入見込みは13,352円です。定員100名の特養で1年間(365日)の収入は487,348,000円となります。定員オーバは原則として認められないため、この金額が収入の上限です。施設の空きベッドに対して介護保険給付は算定されません。食費、居住費も原則取ることはできません。空きベッドの発生は、利用者が入院している期間と、利用者退所後に次の入所者が決まるまでの期間となります。
全国平均の特養ベッド稼働率は96%です。これを1%向上させることで、年間の収入は 4,873,480円増えます。逆に稼働率が1%下がると4,873,480円の減収となります。特養の経営においては、稼働率をいかに高く安定させるかが最も重要です。

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(2)コンサルティングの成果
開所月の2015年5月は、週単位で徐々に入所者を受け入れたため、稼働率は39%と低いですが、12月を過ぎると、全国平均の稼働率96%を超え2016年5月には稼働率100%を達成しています。その後も99%~100%の稼働率を維持しています。

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4.特別養護老人ホームに対するコンサルティングのキー項目
コンサルティング活動において、指導・支援のキーとなる10項目を「稼働率向上メソッド体系」として整理しました。この項目は、小売店舗を支援する場合のキー項目である「店舗レイアウト設計」「商品陳列」「仕入計画」「在庫管理」「導線管理」等に該当します。
稼働率を向上させるためには、入院につながる状態にしないことが大切であり、さまざまな状態に対応したケアが重要です。具体的には、「G.認知症ケア」「H.口腔ケア」「I.事故防止」「J.感染症予防」です。また、入院させないケアの前提として、利用者の状態をよくすることが必要であり、その考え方とケアが「F.自立支援介護」です。入院させないケア、状態をよくするケアを行うためには、利用者に対するアセスメント(利用者の状態・状況などから問題・課題を把握し、利用者のニーズを明確にすること)を実施し、適切な目標設定をする必要があり「E.要介護者モデル」による整理が有効です。
稼働率向上の目的は収入の確保ですが、特養で暮らす利用者の生活をないがしろにするわけにはいきません。特養のすべての活動を支える考え方・あり方として、「A.リハビリテーション」を常に意識し実践していく必要があります。また、稼働率向上のために、「B.入院退院カンファレンス」「C.入所退所管理」により利用者の「入」「出」を管理していくことが重要です。感情労働(感情の抑制や緊張、忍耐など、感情をコントロールする必要がある労働)を強いられる職員の「D.教育・研修・人事・労務・採用」の中にも、コンサルティングを実施する上でのポイントがあります。それぞれのキー項目の中には多くの「メソッド・ツール」がありますが、紙面の都合上、それぞれの項目の概要のみを記載していきます。
A.リハビリテーション
「リハビリテーション」といえば、弱った筋肉を動かせるようにするためのトレーニングや、関節の可動域を広げるためのストレッチをイメージする方が多いと思いますが、ここでは広い捉え方をします。
・リハビリテーションとは、身体的・精神的・社会的に最も適した生活水準の達成を可能とすることによって、各人が自らの人生を変革していくことを目指し、且つ時間を限定した過程である(「リハビリテーション概論第7版(中村隆一 2009年)」)。
・リハビリテーションとは、人が生れながらにして持っている人権が本人の障害と社会制度や習慣・偏見等によって失われた状態から、本来のあるべき姿に回復させることである(「地域リハビリテーション支援活動マニュアル(1999年)」)。
「身体的な機能を取り戻すことで、できなかったことができるようになる」というのはリハビリテーションのひとつの側面にすぎません。おむつをしていた利用者が、リハビリテーションによってトイレに歩行して行けるということは、身体的な機能だけではなく「尊厳」を取り戻すことにもつながります。訓練室の訓練だけがリハビリテーションではなく、すべてのケアがリハビリテーションです。接遇もリハビリテーションです。コンサルティングにおいても、リハビリテーションの考え方・あり方を念頭に進めていくことが大切です。
B.入院退院カンファレンス
稼働率を上げるためには、いかに入院を減らすかが大きな要素です。入院が発生した場合「なぜ入院したのか」についてカンファレンス(多職種参加の会議)をする必要があります。カンファレンスでは入院に至った経緯を明確にした上で、「入院に至る状態の変化になぜ気づけなかったのか」などの内省をするとともに、「今後どうすればよいか」の対応を検討します。
防ぐことのできない入院であっても「なぜ入院日数を短くできなかったのか」についての検討が必要です。たとえば、尿路感染症の場合、初期であれば3日の入院で済みますが、敗血症に至ると1~2週間の入院になってしまいます。尿路感染症にならないケアの実施だけではなく、初期の段階で利用者の病状に気づくための介護技術や記録方法の検討も必要です。入院という事例は「気づかなかったことに気づく」「漫然と実施していたケアの意味を意識する」など、利用者の状態をよくするケアにつながる大切なチャンスです。
C.入所退所管理
安定した稼働率確保のためには、入院を減らすことと並行して、退所した利用者のベッドを空けないことが重要です。特養待機者52万人という数字から、ベッドが空いたらすぐに入所者が確保できると思っている人が多いですが、そうではありません。待機者リストの上位から電話をすると、「入院しています」「他の施設に入所しました」「亡くなりました」「親戚の家に引越しました」など、さまざまな理由で入所に至らないケースがあります。
退所(死亡退所が多い)が決まってから入所者を探していては、入所までのリードタイムを短縮することはできません。特養の平均在所年数は約3年半です。100床の特養であれば毎月2~3人の退所者が発生することになります。待機者リスト上位に位置する本人や家族との連絡を密にして、すぐに入所できる待機者を常に3人確保しておく必要があります。また、特養の職員に、次の入所予定者の状況を伝え、受け入れ準備をしておく必要があり、多職種との協働関係作りも重要です。
D.教育・研修・人事・労務・採用
職員の思考や行動は利用者の状態に大きく影響し、結果的に稼働率を変動させる要因となります。施設の職員に求められる資質は行動変容です。知識をつけるための教育も重要ですが、知識の意味を理解した上で行動に移すことがより重要です。行動変容が起きる組織にしていくためには、施設長を含め、組織全体での取り組みと、継続的な働きかけがポイントとなります。
介護職の有効求人倍率が2.59(平成27年)という状況の中、資質のある能力の高い人を雇うことは難しく、施設内部で訓練と支援をしていく必要があります。集合研修を中心にした知識教育だけでなく、ケアプラン(介護計画)から始まるPDCAの中に、行動変容の仕組みを織り込んでいく必要があります。
自己肯定感は行動変容を生むためのエネルギーとなり向上心にもつながります。施設長が施設内をまわり、職員に声をかけ「あなたはここで役に立っている」ということを意識的に伝えることも職員の自己肯定感を高めていく上で大切な活動です。
E.要介護者モデル
リハビリテーションの考え方に基づき、状態をよくするケアを実施するためには、要介護状態になった「経緯による分類」と現在の「状態による分類」により、適切な目標設定と目標に至る道筋を明らかにする必要があります。
経緯による分類には「脳卒中モデル」「認知症モデル」「進行性疾患モデル」「生活不活発病モデル」「複合モデル」があり、課題や目標を探るヒントとなります。状態による分類には、「患者モデル」「固定障害モデル」「虚弱高齢者モデル」「BPSDモデル」「複合モデル」があり、ケアのプロセスや留意事項を明確にすることができます。
モデルを特定し、対応していくと、虚弱高齢者モデルに行きつきます。そこから、入所者の状態悪化を防ぎ、状態をよくするためのケアにつなげていきます。
F.自立支援介護
状態をよくするための日々のケアが自立支援介護です。自立支援介護は、入院させないケアの前提であり、利用者の暮らしの基盤を創るための介護となります。水分1日1500cc以上、食事1日1500Kcal以上、自然排便、歩行による運動が自立支援介護の基本となります。水分を摂取することより、確実に意識レベルが上がります。意識レベルの向上はBPSD(行動・心理症状)を発生させない認知症ケアにもつながり、適切な栄養と運動は、褥そう(床ずれ)予防、低栄養防止、事故防止だけではなく自然排便にもつながります。
全国老人福祉施設協議会(特養の全国組織)では「おむつゼロ」を目標に自立支援介護を推進しています。自立支援介護を実施するためのポイントは、組織的対応です。トップの方針のもと、介護職、看護職、医師、理学療法士、作業療法士、栄養士等すべての職種が協力していくことが重要です。自立支援介護を実践し、おむつゼロを達成した施設では、利用者の要介護度も改善しており、特養のイメージを「自宅での介護が困難な利用者をお預かりする施設」から、「利用者を元気にして地域との関係を取り戻していく施設」に大きく変化させています。
G.認知症ケア
特養利用者における認知症の割合は約9割であり(平成26年介護給付費分科会資料:認知症高齢者日常生活自立度ランクⅡ以上の割合)、認知症ケアは最も基本となるケアです。
認知症は、脳の神経細胞の破壊に伴って発生する病気であり、中核症状(記憶障害、見当識障害、実行機能障害、理解・判断能力障害など)を治すことはできません。認知症ケアとは、BPSD(妄想、幻覚、暴力、徘徊などの行動・心理症状。以前は問題行動と呼ばれていた)への対応です。BPSDには、本人の性格や生活環境に起因する理由があり、その理由を理解し、適切な対応をすることで穏やかに過ごすことが可能となります。逆に、BPSDが発生している理由を理解できず、不適切なケアで症状が悪化し介護が困難になるケースもあります。そこから状態が悪化し、寝たきりや入院に至ります。
H.口腔ケア
口腔ケアは、口の中の清潔と、口の機能の向上・維持のためのケアです。
口から食事が摂取できない胃ろうの方であっても、口の中の雑菌が肺に入ることで誤嚥性肺炎による入院に至ることがあります。すべての利用者にとって口の中を清潔に保つことは重要です。
口腔機能は、噛む、飲み込む、話す、笑うなど口の動きのことです。自分の口から美味しく食事を食べることや、家族や親しい方との会話を楽しむことは、口腔機能ができているからこそ可能なことです。口腔ケアにより、筋肉や脳が刺激され失われていた口腔機能が回復することもあります。
胃ろうゼロを目指し、口腔ケアにより口から食事ができるようにする取り組みをしている施設もあります。刻み食、ペースト食から常食に移行する取り組みも実践されています。口から食べることは、生きる元気を取り戻すことにつながり、入院は確実に減っていきます。
I.事故防止
転倒による骨折、誤嚥による肺炎等の事故は直接入院につながります。事故に対する予防・対応は、事故発生の事象を自損事故と介護過誤に分けることから始めます。
自損事故の対応は、ケアプランの見直しです。たとえば転倒のリスクが高い利用者に必要なのは、転倒しないように立ち上がりを制限するのでなく、歩行訓練です。また、利用者本人が動く環境を整えることも必要です。利用者の目標の再検討、ケア手段の再検討により、根本的な解決になっているかどうかを見極めることが重要です
介護過誤とは、職員のミスのことです。ミスを発生させた職員個人を原因とした対応ではなく、職場環境を見直すことが対応となります。手元が暗い、職場が忙しい、仕事の中断、分かりにくい指示、複雑な手順等、何が注意力を削いでミスにつながったのかに着目する必要があります。介護知識や技術が少ないがゆえに発生したミスであれば、介護知識・技術をつけるという組織的対応が必要です。
J.感染症予防
稼働率を向上させる上で、感染症から入院する利用者の増加は避けるべき事象です。感染原因は利用者の家族であることが多く、1人目の感染を防ぐことは難しいですが、そこから蔓延しないようにすることが重要です。「感染症を防ぐため冬季は利用者との面会禁止です」という施設もありますが、特養が生活施設であることを考えると、面会禁止は行き過ぎた対応であり、本人のQOL(quality of life)から見て適切な対応ではありません。
感染症予防の最も有効な対応は手洗いの徹底です。また、発生した場合に処理が的確にできる体制および知識が重要であり、教育や定期的な訓練が必須です。

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5.実践!施設稼働率向上メソッド セミナー 
福祉ビジネス研究会では、2016年6月より毎月1回「実践!施設稼働率向上メソッド セミナー」と題して、10回シリーズのセミナーを開催しています。1回90分で各キー項目を中心に「メソッド・ツール」の解説をしています。1回ずつ完結した内容になっていますので、興味のある方は、ぜひご参加ください。詳細は福祉ビジネス研究会ホームページをご参照ください。(ホームページ http://fukushi-b.jimdo.com/

2016.10.30
「食品製造業の信頼性評価基準」を活用した企業診断について

食品業界研究会 代表 磯部 典久

1.はじめに(食品業界研究会の活動範囲)
 食品業界研究会は1995年に設立されました。当研究会は、食品製造業のみならず農業から食品小売業までを対象とした幅広い中小企業者の経営支援に応えられる診断スキル、知識および技術の向上を図ると共に実践することを目的に活動を行っています。

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 当特集におきましては、食品業界研究会が平成15年に診断ツールとして開発して、中小企業経営診断シンポジウムにて会長賞を受賞した「食品製造業信頼性評価基準」とそれを活用した企業診断について、概要を述べさせていただきます。

2.食品製造業信頼性評価基準の概要
(1)食品製造業信頼性評価基準の必要性
 食品は人の生命を支えているものです。そのため、食品の購入に対する顧客の評価は非常に厳しいものがあります。過去においても、食品安全上の問題を起こした大手企業が顧客の信頼を失い、存続にかかわるような事態に追い込まれた事例も発生しています。
 食品製造に関しては、衛生管理や品質保証の観点からHACCPなどの管理システムが存在しています。しかしながら、安全・安心な食品およびそれを提供する企業として顧客から信頼されるには、HACCPによる衛生管理やトレーサビリティによる管理システムだけでは不十分であり、経営全体の質を高めることが必要です。
 「顧客満足」を経営の基本原則として位置付けている企業が多くあります。しかしながら、「顧客が満足している」ということは、「顧客は不満ではない」ということと同等の場合がほとんどで、ぜひ買いたい、ぜひ取引したいというレベルではありません。「顧客から信頼されている」ということは、それとは大きく異なります。購入する商品(食品)について、顧客の「満足度」と「信頼度」の違いを比較すると、
 「顧客がその商品に満足している」:機会があればその商品を買っても良い
 「顧客がその商品を信頼している」:その商品を必ず買うことにしている
の違いがあります。食品企業が存続してゆくためには、当然ながら、顧客からの信頼度を向上させるべく経営を行っていく必要があります。
 食品製造業信頼性評価基準は、その企業が顧客からどの程度の信頼性が得られる経営が行われているかを経営全般について評価する基準です。この基準をもとに評価を行うことにより、企業が顧客からの信頼性を高めるにはどのような改善をしなければならないかが明確になります。
(2)食品製造業信頼性評価基準の概要
 食品企業の場合、安全・安心な商品を提供することが、顧客からの信頼を得る最大の要因となります。その実現のためには、関連する多くの管理要素があり、それらを「信頼性評価基準」のチェック項目の中に組み入れました。
 このようなチェック項目について、6つのカテゴリー(大項目)に分類し、さらに大項目毎に10のチェック項目を整理し、計60のチェック項目を整備しました。 

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 以下はそのチェック項目の例です。

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 また、各チェック項目については、別途チェック項目の評価の手引きを作成して、評点者毎のものさしを、できる限り統一するようにしました。

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 診断の際には、各チェック項目について評価の上1~5点の評点をつけます。なお、評点を行う上でのガイドラインを次のように取り決めました。これは評点者の実績、経験による評点の食い違いを極力さけるためのものです。

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 評価結果は、6角形レーダーチャートにプロットして強み・弱みを明確にします。

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3.食品製造業信頼性評価基準を使った企業診断

 食品製造業信頼性評価基準は次のような場面で使用します。

 ・中小企業診断士が食品製造業の経営者、経営幹部や一般社員から現状を聴取し、対象企業の信頼性について診断・支援を行う場面。

 ・中小企業診断士がセミナー・スタイルで講義をしながら、食品製造業の社員に自社の信頼性について自己診断をしてもらい、改善すべきテーマを導かせるような場面。あるいは、公開された食品製造業信頼性評価基準を使って、企業自らが自己評価を行う場面。

 診断にあたっては、当然ながら事前に企業の経営者に当診断の主旨や目的、評価項目と評価方法等について説明し、診断のご要望をいただき、かつ経営関連の資料提出やヒヤリング等のご協力が得られることが前提になります。
 中小企業診断士が食品製造業の信頼性のレベルを診断し、その結果にもとづいて信頼性向上の提言・支援を行う際の手順は以下のようになります。
 ⑴ 支援の都度チームメンバーを編成(3~6名)し、総合評価の6つの大項目を担当するカテゴリー・オーナーを決定します。
 ⑵ 企業から提出された資料他によって診断企業の内容を把握するとともに、業界動向などを予備調査します。
 ⑶ 予備調査結果より信頼性評価における重点事項や留意点を抽出します。
 ⑷ 企業を訪問して、経営者や経営幹部他からヒヤリング(質疑・応答)を行うと共に、製造現場や倉庫などを拝見し調査します。なお、各大項目のヒヤリングについては、それぞれのカテゴリー・オーナーが中心になって行います。
 ⑸ チームメンバーは各自全項目について評点を付けます。評点結果については、全員で討議の上、チームとしての評点を決定します。評点結果は、個別評価結果報告書にまとめるとともに6角形レーダーチャートにプロットします。
 ⑹ 高得点の項目(企業の強み)と低得点の項目(企業の弱み)を明確にした上で、改善すべき課題を明確にします。
 ⑺ 抽出された課題について、重点度・優先順位を明確にした上で、改善提案を記述した改善提案報告書を作成します。
 ⑻ 経営者や経営幹部に個別評価結果報告書および改善提案報告書に沿って診断結果を報告し、企業側の改善提案に対する意見と今後の取組みについての意向を聴き、必要に応じて助言します。また、企業の希望に沿って継続支援に発展させます。

4.食品製造業信頼性評価基準を使った企業診断の事例と今後の課題
(1)企業診断の事例
 当研究会では、食品製造業信頼性評価基準を使用した企業診断を実施しており、企業から診断実務ポイントもいただいています。詳細については、守秘義務がありますので報告できませんが、診断を行った企業の経営者からは、大変喜ばれております。

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(2)今後の課題

 当評価基準につきましては、以下のような課題も明確になって参りました。
 ① 外部環境の変化に伴い、食品企業の信頼性に対する顧客の要求事項も変わってきており、個別チェック項目の見直しが必要
 ② 一部の個別チェック項目間に類似性があるため、大項目とチェック項目内容の見直しが必要
 ③ 財務的視点に関する評価軸が弱いため項目追加が必要
 ④ 飲食店などの業態向けの信頼性評価基準については、別途定めることが必要
 このため、当研究会では今後当評価基準の見直し等を図り、よりブラッシュアップしたものとしてゆきたいと考えています。合わせて、当評価基準のPRをすすめ、より積極的な活用を図って参りたいと思います。
    
5.おわりに(食品業界研究会の活動状況)
 当研究会では、毎月の例会において会員の研究成果の発表や外部講師を招いた勉強会を行なっています。2016年2月にはオープンセミナー「いま、改めてフード・マイレージと地産地消を考える」も開催いたしました。また、食品関連工場や農商工連携・6次産業化の現場見学会、雑誌寄稿(「企業診断」や「企業診断ニュース」)なども実施するとともに、随時分科会を設置して、より専門分野の研究を行っています。
 最近の主な分科会活動としては、
 ・「タイ王国進出食品製造業の現地視察研究」(2013年)
 ・「イノベーション東北」に参加(2014年)
  「東北某食品卸企業のネットショップ構築支援」を行い、東京協会が主催する「活動成果プレゼンコンペ大会」にて成果発表
 ・「台湾進出食品企業の現地視察研究」(2016年)
 ・「某レストランの経営診断」(2016年)
などを実施しています。

◎食品業界研究会月例会開催場所:久松町区民館(中央区日本橋久松町1-2)
◎食品業界研究会月例会開催日時:原則 毎月第2水曜日(18:30~20:30)

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2016.09.28
中小企業・個人が起こす「スローファッション」のイノベーションと、中小企業診断士の新たな役割

中小企業・個人が起こす「スローファッション」のイノベーションと、中小企業診断士の新たな役割

ファッションビジネス研究会 会員 坪井 竜之介
ryunosuke.tsuboi@gmail.com

【はじめに】
 ファッションビジネス研究会は、平成17年(2005)発足以来、月1回の例会で活動し続けている。当時、中小企業診断士にはアパレル・繊維産業の出身者が少なく、中小企業診断士にとって有用なアパレルビジネス・モデルの理解・認識を拡げたいという研究会代表今宿博史の想いが出発点である。
 アパレル・繊維産業は、雁行型経済発展による変化の波を先頭で被り、その経済環境は厳しい。一方で世の中の「気分」の変化が最も早く現象化する文化産業であり、「モノからコトへ」経済のサービス化の先端にあって機会創出が常に続いている。すなわち、課題先進産業にしてイノベーション先端産業である。ファッションの視点で継続的に現場を見続けることは、あらゆる業種・業界において活用可能・重要であると考えるゆえんである。しかしながら、変化の中にあって先見性を持つ企業が次代の役割を創造するも、近年ますます加速する変化に追いつけず立ちすくむ従来型企業が多いのも事実である。
 ゆえに中小企業診断士の役割は重要となっている。当会は「現場力」をキーワードに、会員による日常活動、および姉妹関係の中央支部認定マスターコースである「ファッションビジネス・リデザイン支援マスターコース」における実務従事での「実践」を出口として活動を推進している。以下ではまず、(1)アパレルビジネスを支える繊維企業にして地域経済を構成する産地企業、(2)先細りの経営環境から抜け出し反転攻勢の道を模索するアパレル企業、(3)新しい価値観とビジネスモデルを組み合わせファッションビジネスに挑戦している新興企業の3つの形態のビジネスの事例を紹介する。

【事例研究】
(1)資源の限られた産地企業の選択と集中の事例
 S社は、身の丈にあった経営革新を続ける生地メーカー、すなわち機屋(はたや)である。産地自体、生地受注下請企業数は激減したものの、ここまで生き残った各社は自社主導によるメインビジネスの生地素材の受注が堅調で、跡取りへ代替わりをはたし能力・気力が充実している。S社の産地でいえば、気鋭の跡取り経営者が集まって染色・撚糸等のどの企業にも共通する工程は協同組合化し(協調領域)、機織や新たに取り組む最終製品企画・展開では各社の独自性を出す(競争領域)、すなわちオープンイノベーションの手法で価値創造の仕組みを現代的に最適化し、生み出した余力で新規事業を拡大している。
 機屋専業から最終製品企画・展開までの事業拡大では、これまでやったことが無い消費者アプローチが問題となる。S社では各種SNS等を通じた働きかけは、手間さえ割けばコストが掛からないということで経営者自身のコトバで非常に積極的に取り組んでいる。一方で資源が不足しノンコアであるEC(eコマース)・物流はアマゾンを活用するというメリハリの効いたネット利活用で成功した。

(2)産元商社主導でベテラン職人と若いクリエイターを巻き込む人的資源活用事例
 H社は、織物産地の産元商社でアパレル企業のOEM依存の先細りからの脱却を図るため、自社ブランドの商品企画・展開を目指している企業である。取組みの中心に若いブランド責任者を抜擢し、ネットを活用した認知度向上活動などは無論のこと、地域の職人の巻き込みと意識改革に取り組み、都会の若いクリエイターの呼び込みなど、人的資源の充実・成長に力を注いでいることが特徴である。産地においてはこれまでの成功体験の残照による強固な保守性向があり、これを変えていくには説得より行動、成功の実例をもって見せつける必要があった。しかし一度納得すれば、産地内の人的ネットワークにより一段と優れたスピード・パフォーマンス発揮している。このように産地で成立してきたシステムは、保守性という点で一見弱みに見えても、働きかけ次第ではポジティブな能力に転化する。総合力で勝る大企業と同質化競争・空中戦をする愚に陥らず差異化していくには、潜在する現場力の発揮がカギとなる。

(3)フェアトレード×B2B×受注生産という新しいビジネスモデル構築事例
 I社は、他の先進国に比べまだ市場が小さく、ゆえに拡大余地の大きいフェアトレードの可能性に着目し、B2Bと受注生産を組み合わせた、まったく新しいビジネスモデルを立ち上げた新興企業である。バングラデシュの縫製工場ビル「ラナ・プラザ」崩壊事故で縫製現場の劣悪な労働環境が批判を浴びて以来、低賃金国生産の恩恵を受けてきた世界の大手アパレルは急速にフェアトレードに舵を切っている。大手企業の取引が低コスト・大規模生産であるのに対し、小規模企業は多品種生産となり、高コストで在庫問題も重い。これに対しI社のイノベーションのポイントは、出口をB2Bとしノベルティを含む企業CSR向けOEM商品を受注生産で納めるビジネスモデルとしたことである。受注生産にしたことで規模と在庫にまつわる数々の問題が解決できる上、ビジネスをスケールさせやすいメリットが生まれている。

(4)「つながりビジネス」の成功事例を分析する
 当会が研究してきた挑戦する中小企業各社は、社長ないし取り組みの中心的推進者自身が「コト」の媒体であった。顧客は、経営者の強い想い・生き様を商品・サービスの消費を通じ再体験するのである。顧客自身が次なる媒体となり、SNS・サイバー空間を通じ従来の口コミよりずっと高速・感染的に広がるようになってきた。「つながりビジネス」である。 当会では上記I社の研究を契機に、コンテンツとインタラクションの両方を記述でき、強み・課題を浮かび上がらせる新しいモデル化手法を「コ・マーケティング・ピラミッド」と命名・研究している。カギになるのは、当企業あるいはby nameの社長自身が表現する価値観・ライフスタイルである。

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【ファッションビジネス研究会による長期仮説】
 当会が研究してきた新しいファッションビジネスの事例から研究蓄積を高める一方で、業界先端のトレンド・ウォッチャー、トレンド・セッターを招き、過去の振り返り、今後のトレンドを定期的に議論してきた。その中でファッションビジネスの大潮流のこれまでを歴史的・経済的に説明し、今後を予測する長期仮説を「V仮説」と命名し構築してきた。

(1)繊維産業からアパレル産業への転換
 今日のアパレルメーカーはかつて百貨店を主要ターゲットとする「衣料問屋」であった。百貨店で販売される婦人服・紳士服類は、生地(テキスタイル)販売が主力であり、既製服は"つるし"と呼ばれる安物であった。購入した生地は自分自身で縫製するか、近所の家内工業的な「仕立屋」「テーラー」に縫製委託していたのである。
 繊維産業は素材中心に戦前・戦後を通じて日本の基幹産業・輸出産業であったが、昭和40年代、対米輸出が沖縄返還に絡む交渉によって規制・圧迫された。これに対し通産省は米国視察チームを派遣し「アパレル(衣料品)」と言われる業界が素材メーカーを遥かに超える規模となっていることを確認、国内アパレル市場の育成・拡大を目標に据えた。急速に成長する量販店(GMS)チェーンの追い上げを受けていた百貨店も、衣料問屋が取り組みはじめた海外有力ブランドのライセンス商品を採用・展開した。こうして衣料問屋はアパレルメーカーへ、生地は既製服へと業界が転換した。特に婦人服の既製服化進行は消費を大きく広げ、名だたる大手アパレルメーカーや小売の専門店チェーンを誕生させ、大手アパレルメーカーは直営店にも販路を広げていった(SPA化)。こうした量的成長が続く中で、小売起点・編集による妙を追求するセレクトショップ、製造起点のDCブランドが生まれ、ファッションビルも隆盛し、質も多様化した。しかし雁行型経済発展の原理により海外で軽工業たるアパレル・繊維産業が勃興すると、日本国内における輸入浸透率は着実に高まっていった。

(2)アパレル産業におけるグローバル化の進展とスローファッションの萌芽
 決定的な転機は冷戦終結であった。中国改革開放等による安価な労働力の大量供給と世界的コンテナ物流網整備を越境する資本が利用した。低賃金国での大規模生産を武器に、価格破壊力のある新しいSPAが登場し、トレンド商品を迅速・安価に供給できる欧米の有力FF(ファストファッション)が上陸した。わが国はバブル崩壊および人口減・高齢化・増税による長期経済停滞にも追い討ちをかけられ、20世紀型企業となった百貨店・量販店・専門店の後進性が一気にアパレル産業を衰退させるに至った。バリュー消費化は仕掛けた側をも飲み込み市場縮小が止まらない。伸びているのはECだけである。慢性的オーバーストア、そしてイノベーション無き多品種化・流行追いがプロパー消化率低下(バーゲン比率拡大)を招き業界全体を疲弊させている。
 
 飽和と同質化の消耗戦にあるこれらを従来の経済圏とすれば、同質化されたくない生産者と消費者がネットで直接繋がり、生産者・消費者の壁を越え「協創」し、大企業の流通構造支配力が及ばぬ新しい経済圏を形成する動きが出始めている。古くはA.トフラーの「第三の波」(1980年)、近年ではT.フリードマンの「フラット化する世界」(2005年)で予測されていた流れであり、生産者と消費者が再び接近し消費者が生産者・販売者にもなる。また個人がネットをテコに直接世界に進出できる状況の出現である。
 同質化を脱しイノベーションが生まれるカギは、「売らんかな」発想の対極、多様な「1人称の趣味性・こだわり・物語」にあり、顔の見える中小企業や個人がその担い手になる。その価値観は流行追い・同質化のマスマーケティングの対極として、地域と伝統(コミュニティ)・サスティナブル・社会貢献(ソーシャル)・スピリチュアル等による、共感・つながり・心に刺さる(エンゲージメント)といった特徴を有する。あえて一言でまとめてみると、スローファッションとでも呼べるだろう。

(3)「ファッションテック」と「オンデマンド生産」がイノベーションを後押しする
 中小企業や個人が担うスローファッションを技術革新が後押しするとファッションビジネス研究会は予測している。技術革新の柱の1つは従来の流通構造の外で新しいつながりを作るITである。○○×IT=○○テック、つまりファッションテックと呼べるが、従来のITやECの文脈をはるかに超える「IoT(Internet of Things)・AI(人工知能)による革新」になると当会は考えている。ハンドメイドやC2Cにより無数の消費者が無数の生産者・販売者にもなり得る状況に対し、ECによって個人が市場に参入するだけなら容易になった。ボトルネックは「無数の生産・販売者×無数の消費者」をうまく結びつけることである。これをブレークスルーするのがAIとなる。現在の商品検索は人が入力した商品名・説明文等に依っているが、画像を認識し分類・意味付けするAIによってマッチングされるようになるだろう。認識能力を獲得したAIはトレンドのサーベイ、デザイン・クリエイションにも応用されることは必至で、ファッションビジネスに限らず巨大なインパクトをもたらすと考えられる。
 ファッションテックが作る新しいつながりにより「売り切りからサービス化へ」シェア&レンタルも進む。ファッションは生産・販売側が新奇性・流行を仕掛けることで必需をはるかに上回る消費を喚起してきた。しかしながら多品種化で目先を変えれば畢竟在庫の問題が難しくなり、それを消費者に負わせるのは矛盾である。消費者は着たいのであって保管したいのではない。シェア&レンタルで在庫のリスクを解決すれば在庫負担によって諦めていた新しい「コト消費」が喚起されるだろう。そもそも不確実性プールの原理により川上に在庫するほど経済的だというのがシェア&レンタルである。C2Cによるリユースも消費者の在庫リスクを軽減し「消費者の仕入予算」を回復させる助けになる。上記のような特徴を備えるファッションテックのサービスはすでにはじまり、発展しつつある。
 
 もう1つの技術革新の柱が、これまで低賃金国・大規模生産・大規模販売網で築かれた大企業優位を揺るがすオンデマンド生産技術である。その主役はロボットと3Dプリンタになる。縫製は人間でしかできない、ゆえに低賃金国が優位であるという制約は、いずれこれらの技術で破られる。ニットの方であればそもそも20年以上も前から糸から1着編みができる編機が実用化されている。当会が研究した産地企業の事例ではいずれも販路問題と並び在庫問題がボトルネックであったが、もし受注生産にできれば在庫問題は大きく解消しパーソナライズでも圧倒的に有利である。すなわちオンデマンド生産技術とは、消費者近接・小ロット生産がコスト面・販売面では劣位を縮小し、物流・在庫面および顧客ニーズ適合面では大きく優位に立つ可能性を拓くものである。
 オンデマンド生産技術はファッションテックで予想される供給ボトルネックの解決にも貢献するだろう。顔が見える生産者にファンが付くファッションは他のシェアビジネスと異なる。人気が出た場合需要がスケールする速度はネットのそれだが、生産は簡単にスケールしない。従来の繊維産業は長いサプライチェーンが仇となり需要即応が難しかったが、オンデマンド生産技術はセル生産的なスケーラビリティを確保しやすい。「買いたいものが買えない市場」となって信頼を落とさないようにするには、このような課題解決も重要である。
 
(4)中小企業診断士が高めるべき資質・要件
6p-図.jpg スローファッションがイノベーションを興すという文脈にあって、中小企業診断士には新たな機会・役割が出現すると思われる。中小ファッションビジネス向けのデジタル技術活用支援、ファッション×コミュニティ/ソーシャルビジネスの立上げ支援、異業種コラボの実現支援などである。このような機会・役割が要求するであろう戦略企画・戦術構築能力は非常に幅広い。1人の中小企業診断士でカバーすることや、中小企業の側から複数のアドバイザーをセレクトし使いこなすのは困難である。ワンストップで支援をおこなうにはファッションビジネスとテクノロジーの多くのタレントを結集させる必要がある。「V仮説」ではこのためにチームコンサルティングの技術向上、タレント結集方法としての企業内診断士の活用、付随する課題として診断業務そのものの生産性向上の必要性を予測している。

【おわりに】
 ファッションは時代の風をもっとも速く受ける。ファッションビジネス研究会は今や一線のファッションビジネスコンサルタントやアパレル業界に身を置く企業内診断士が多く集まるほか、ファッションビジネスの先進性に着目し異業種からも多くの参加がある。「V仮説」も異業種出身の診断士が中核となって研究を進めた。月に1回、銀座の東京協会会議室で例会をおこない、挑戦する経営者を招いての企業研究と、業界紙編集者・ファッションマーケティング専門家による業界動向定期解説も好評である。東京協会のホームページに案内が掲載されているので、関心を持たれた方は参加歓迎、ぜひコンタクトをとっていただきたい。

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2016.08.29
住宅産業経営支援研究会 ~「作る人」と「住む人」の架け橋に!~

住宅産業経営支援研究会 ~「作る人」と「住む人」の架け橋に!~

住宅産業経営支援研究会 代表幹事 飯島 康

 住宅産業経営支援研究会は、会則に「住宅産業経営に関心を持つ中小企業診断士が、・・・」と明記されている通り、住宅メーカー、建材メーカー、金融機関等の出身者から「自称 消費者代表」まで、住宅に関心を持つ多士、多才な中小企業診断士の集まりである。  今回は、東京都中小企業診断士協会認定研究会として、住宅建設に携わる中小企業(作る人)、或は、生活者(住む人)にどのような支援ができるかの考察の報告である。  具体的には、研究会・研究会会員の企業支援事例を「提言書」という形でまとめ、今後、研究会活動を展開するツールと位置付けるとともに、研究会そのものを知ってもらうための準備を行い、何とか外部へ展開が図るまでになってきた、そんな足跡をまとめたものである。

Ⅰ.住宅産業界と研究会:「作る人」と「住む人」との架け橋  私たち研究会のコンセプトは「『住む人』と『作る人』との架け橋」である。これを簡単に図式化すると下図のようになる。生活者「住む人」の家に対する想いを、住宅建設に携わる多くの人達「作る人」にいかに伝え、経営に役立てていくかの架け橋である。 1p図.jpg

 双方の理解者として当研究会が仲介役となり、中小工務店等への経営的視点での支援を行っていきたいとの想いである。  このような構造から、住宅産業は「すそ野が広い」「経済への波及効果が大きい」と言われている。また、一生に一度、手に入れられるかどうかの「住宅購入」に際して、「住む人」が、多くの「作る人」を相手にするには、あまりに範囲が広すぎることから、これらのまとめ役として、工務店・建設会社等があり、更に、建設業者は許可業種として行政の管理下に置かれているのである。  ここでは、「作る人」のまとめ役を総称して「地域の工務店」と呼んでいる。 *対象とする「地域の工務店」の規模等 近年の住宅産業市場の縮小、ストックからフローへの流れ、地域工務店の経営の実態等から、当研究会が対象としている地域の工務店のイメージは下記のとおりである。  売上高1~5億円程度、社員数3~10名程度、新築工事+リフォーム工事

Ⅱ.研究会活動の状況 1.研究会の現状 (1)研究会の発足と会員数(多様な出身業界)  当研究会は、同じ東京都中小企業診断士協会の「建設業経営研究会」に準備委員会が置かれ、平成10年に独立したもので、いわば親子のような関係で、現在も両方の研究会に所属している会員もいるが、研究会活動としては独立した研究会活動を行っている。  会員数は、H28年5月(研究会総会)時点で22名である。  内訳は、住宅産業に特化した研究会ではあるが、先の業界の特性から、  住宅メーカー・建設会社:5名、建材メーカー・商社:4名、IT関係:3名、  不動産関係:2名、金融保険機関等:4名、その他:4名(計22人)となっている。 (2)定例会活動  平成27年度の活動状況は以下のとおりである。

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2.これまでの実績と反省  今回の活動報告の前に、これまでの外部への活動を整理してみた。 (1)研究会としての外部活動 ・研究会の仲間で作り上げた活動:執筆~書籍出版「工務店のQ&A(井上書房)」 ・会員個人への業務だったものを研究会の仲間で支援した事業  *工務店支援:工務店創業支援1件、完成見学会支援1件  *建設専門職育成学校支援:セミナー講師:延20名程度  *業界データ整理支援:業界動向レポート:延50編程度  こうした支援活動を踏まえ、平成20年にLLPの立ち上げを行う。 (2)研究会としての「LLP住宅産業経営支援協議会」の設立と解散  前述のような研究会による企業への支援実績も踏まえ、平成20年6月に、支援活動が可能な研究会所属のプロコン会員7名が理事となり、「LLP住宅産業経営支援協議会」を立ちあげた。また、研究会の他のメンバーは後方支援として、LLPが支援依頼を受けた際にはデータ収集等の役割を担うとしての体制である。誰もが、これからの活発な展開を疑ってはいなかった。  しかし、残念ながら、3年間目立った成果があげられないなか、中心となっていた理事長の病死という、思ってもいなかった事態によりLLPは解散せざるをえなかった。  この時の反省としては、企業支援のスキルを持った会員はいるが、LLPとしてスキルを生かす市場を探し出す活動、いわば営業活動への対応が甘かったと考えている。  こんな例を聞いたことがある。ある研究会でセミナーを開催したが、初回は、会員の顧問先にお願いをし、セミナーに参加していただき、大盛況であった。2回目は、新たな顧問先も先細り、参加企業様は半減し、3回目は・・・、である。  このような事例をこの紙面で報告すること自体「いかがなものか!」とおしかりを受けそうであるが、この体験が、次に紹介する研究会の外部支援へのアプローチ方法に何らかの影響を与えていると考えられていることから、あえて紹介させていただいた。

Ⅲ.研究会の新たな取り組み 1.「提言書 地域工務店の受注の方程式」の作成  外部活動に向けての新たな模索を開始した。それが今回の報告の内容である。 (1)研究会の営業ツールとしての提言書作成:「作る人」と「住む人」との掛け橋  LLP活動への反省、また、研究会として新たな外部活動を模索する中で、「研究会のことを知ってもらうにはどうしたらよいのか」がテーマとなり、模索する中で、工務店向けに何らかの提言書を作り、これを営業ツールにしたらどうかとの案が浮上してきた。  同じころ、定例会での「会員からの報告」の中で、お客様のコンサルタントへのニーズの1つとして「不安」「不満」「不信」等の「不」をどのように解消してあげるかがあるとの報告があった。 3p図.jpg

 このことをヒントに、また、研究会の方針である「作る人」と「住む人」との架け橋を念頭に、提言書の主旨として、「住む人」が家を作るにあたっての「不安・不満・不信」は何か? 特に、不良業者、手抜き工事等、時折、新聞紙上を騒がす建設業者への不信感を持つ「住む人」が、地域の工務店に安心して家づくりの相談に来ていただくには、工務店としてどのような対応をすればよいのか。「作る人」である工務店の受注に結びつくヒント集的なものができないかとのこととなった。まさに「作る人」と「住む人」とのかけ橋である。これが「提言書 地域工務店の受注の方程式」となったのである。 (2)「住む人」の不安・不満等を「作る人」が解消することへの「系統図」

・基本的な考え方  提言内容を検討するにあたり、研究会で以下のような基本的な考え方を確認した。

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・「事業の流れ」と工務店の対応のポイント  前記の流れに沿って、「作る人」が「住む人」の不安等を解消し、信頼を得るにはどうしたら良いのかを、「設計段階~施工段階~生活段階の流れ」に沿って検討した。  系統図の流れは下図の通りである。

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ⅰ.「計画段階」での不安解消:安心して相談ができる工務店になるには? A.自社のことを知ってもらう提案3件   B.顧客のニーズ・イメージを把握する提案3件 C.技術力・施工能力の見える化を図る提案4件  D.見積もりの見える化を図る提案3件 ⅱ.「施工段階」での不安解消:気に入った家を作ってくれるか  A.施工状況の見える化を図る提案3件   B.顧客対応力の見える化を図る提案5件 ⅲ.「生活段階」での不安解消:住んでからの不具合が発生しないか  A.フォロー体制の整理を図る提案5件               【全26提案】

 少し見にくいが、系統図の抜粋を下図に示す。

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(3)提言の原稿作成  この骨組みができた段階で、「対応のポイント」に相応しい提言タイトルを募集し、各ポイントに3~5項目を割り振り、改めて執筆の希望を募った。この際、企業支援の経験、企業からの情報、研究会での工務店見学等、具体的な事例を織り込んでの提言を依頼した。 *提言の構成:1.提言の背景、2.具体的な取り組み、3.期待される効果 *提言内容:イベントの開催、ライフスタイルへの提案、原価の把握が基本、       施工管理のポイント、住宅ローンの考え方、従業員のコミュニケーション 等々の26提案で、ほぼ全会員参加の44頁の小冊子である。当研究会の今後の外部活動に向けた営業ツール的な資料であり、地域工務店へのアプローチのツールになるものである。  正式名称は、下記の通りとした。  「提言書 地域工務店の受注の方程式 ~信頼され選ばれる工務店になるためのヒント集~」

2.会員の調査と研究会パンフレットの作成  営業ツールができたことから、早速、当研究会のメンバーと関係のある建設業関連の団体にお持ちし、研究会の紹介と提言書の説明を行った。「このような資料は初めて」との関心は持っていただいたが、「どのような方がいて、どんなことをされている研究会ですか?」とのきわめて単純、明解な質問をいただき、とまどってしまった。対面している中ではいくらでも説明はできるが、たとえば、この団体を通して工務店等への紹介をお願いする場合、仲介をお願いする団体の方に当研究会を紹介していただく資料がなかったのである。  恥ずかしい限りであった。スプリングフォーラムで診断士の仲間を募るパンフレットはずいぶん前に作成し、活用しているが、地域の工務店等へ紹介するパンフレットはなかったのである。 (1)会員の得意分野の調査  早速、研究会内にアンケート調査委員会を立ち上げ、会員の得意分野や研究会に何を求めて入会をしたか、更に、外部への支援、働きかけ等を行う場合に、対応する時間等が取れるか、等のアンケートを行った。  先の研究会会員の構成にも示すとおり、研究会には、住宅産業をめぐるさまざまな分野の仲間が集まっているが、入会時の簡単な「自己紹介書」の他には、ことさら得意分野(企業支援・セミナー等への対応のできる分野)を改めて確認したことはなかった。  全員へのアンケートにより得意分野を確認した結果が、次のとおりである。  ⅰ.経営方針等の作成への支援   *事業計画の作成支援 *経営革新計画の作成支援 *企業統合の支援等  ⅱ.社内組織強化への支援   *業務改善・IT活用支援 *施工管理・従業員育成支援 *予算管理の支援等  ⅲ.市場拡大への支援   *販路開拓・顧客管理支援、*公的支援・住宅ローン対応、*リフォーム相談等  また、ピンポイントの対応として「太陽光発電への対応」や「フラット35の活用への指導」等、実に多彩なメンバーがいることが分かる。 (2)研究会紹介パンフレットの作成:クラウドワークスの活用  会員の状況を把握した後、これらを生かしてのパンフレット作りが始まった。  「『住む人』と『作る人』の架け橋になりたい」をコンセプトに、会員募集用のパンフレットを参考に、今回作成した「提言書 地域工務店の受注の方程式」をプレゼントに、「こんな支援ができます」との素案を作成した。会員間で2か月程度検討したが、文言の整理はできても全体のレイアウト・デザイン等はうまくまとまらない中、会員の提案で「クラウドワークス」の活用を試みた。  依頼を行うと2週間で8件の応募があった。同じ依頼資料から、ここまでの種々のデザインに展開されるのかと驚かされた。創造の世界の多様さ・奥深さに感心し、また、参考になった。完成したパンフレットを示す。6p図.jpg

3.今後の展開に向けて  「提言書の整備」、「会員の得意分野の確認」、「研究会パンフレット」の整備ができたところで、改めて、今年度、外部へ向けた活動を行うためのプロジェクトを立ちあげた。  「仮称 受注の方程式活用プロジェクト」である。HPの担当者を含め5人のメンバーである。今までほとんど活用されてこなかったHPを有効に活用し、研究会会員全員が後方支援を行うことを踏まえての、具体的な対応を検討するものである。

(1)研究会の当面の方向性 ❖対象市場:地域工務店、住宅専門工事業者  代替市場:研究会の既存関係団体・企業等       住宅産業関係団体、商工会、商工会議所等 ❖支援形式:個別企業支援:経営改善・人材育成等の個別の企業を対象とした支援       グループ支援:講演会・セミナー等による企業経営者・従業員研修等 ❖支援分野:経営方針作成、業務・現場管理の改善による利益確保、資金繰り管理等 ❖紹介ツール:研究会パンフレット、「提言書 地域工務店の受注の方程式」  ❖具体的活動方針:  ◦地域工務店へ直接アプローチをかけていく手法は、実際には、会員の関係工務店や飛び込み営業的なものとなり、限られた範囲での対応しかできず継続的な関係維持も難しいことは、過去の事例からも学んだところである。このため、代替市場として、各会員が関係する住宅関係機関を代替市場と考えアプローチを行い、更にはこれらの機関から工務店や建設業団体等を紹介していただく手法を検討している。

 ◦「作る人」への支援を通し「住む人」の支援を   「作る人」が抱いている家づくりへの「不安」をどのように「信頼」に変えていったら良いのかを、「作る人」との仲介ツールである「提言書 地域工務店の受注の方程式」を通して我々研究会のことを知ってもらい、我々を有効に活用してもらうことが、「作る人」への支援になると同時に、研究会のレベルアップにつながると信じての活動である。研究会としての収益にこだわるものではなく、「生きた支援」を通して、住宅産業界の実態に触れられるとともに、「住む人」にとってより魅力ある「作る人」になっていただく支援ができればと思っている。

(2)研究会としての支援の社会的な責任について  研究会としての活動が、「作る人」に対してどこまで責任を担保しての支援が可能なのか。  研究会としては「研究」だが、企業としては実態のある「事業」である。このため、研究会は、あくまでも企業経営への後方支援、アドバイザーであるといえる。  とは言え、中小企業診断士の資格そのものは、公的なコンサルタントの資格であり、当研究会も改めてLLPやNPOという形での企業支援の方法もあるのではとも考えている。  研究会グループの総合力を結集し、中小の地域工務店がより元気になる活動を支援し、地域の自然環境、社会環境にあった、人々の安心、安全、快適な住空間を創造するお手伝いができたらと切望している。

2016.07.28
フランチャイズマニュアルの重要性と作成、管理・活用のポイント

フランチャイズ研究会 幹事 高木 仁

takagi.hitoshi@kernel-c.com

はじめに

 フランチャイズビジネスにおいてマニュアルは非常に重要なものである。提供する商品やサービスの品質を一定のレベルに保つためのものであると同時に、フランチャイズ本部の「商品」を象徴するものでもあるからだ。しかし、そのマニュアルを作成するためのノウハウについて体系的に整理されているものがなかった。

 そこで当研究会では、2年に渡りフランチャイズマニュアルの作成についての研究を行った。1年目は当研究会のメンバーが本部構築の支援を行っている企業へ実際に出向き、全部で約140頁に及ぶフランチャイズマニュアル一式を作成した。2年目は1年目の実践を元に、フランチャイズマニュアルの作成ノウハウを体系化し、「フランチャイズマニュアル作成ガイド」(同友館)として商業出版した。

 

 本稿では、フランチャイズビジネスにおけるマニュアルの重要性、作成方法、作成後の管理・活用方法について、実際のマニュアルの作成例も含めて紹介する。

 

1.フランチャイズ本部にとってのマニュアルとは「経営ノウハウ」を具象化したもの

(1)マニュアルの意義

 マニュアル作成の最大の目的は、提供する商品やサービスの品質を一定のレベルに保つためである。共通のブランドを使用してチェーンビジネスを展開する場合、商品を作る人やサービスを提供する人が異なっても一定で同質の商品やサービスを提供しなければ、ブランド価値が高まらない。

 マニュアルによってオペレーションを標準化することで、商品やサービスを提供するまでのプロセスでのバラツキがなくなってくる。そして、「あのチェーンに行けば、大体このくらいの商品やサービスが受けられる」という、顧客の安心感を得るようなオペレーションを目指さなければならない。ブランドには大きく分けて「出所表示機能・品質保証機能・広告宣伝機能」という3つの機能があるが、マニュアル作成はこの中の「品質保証機能」を担保するために必要不可欠なタスクである。

 また、企業のコンプライアンスという観点からもマニュアルは重要なものとなる。事業責任者の悪意による不祥事を防止するのはもちろんのこと、無意識による過誤を避けるためにも、事業責任者の責任範囲や、業務内容を明確にする必要がある。そのため、これらを明確に規定した管理マニュアルという形で整備する必要がある。

 さらに、マニュアルは作成して終わりではなく、活用されることに意義がある。事務所のキャビネットに置かれているだけでは意味がなく、新しいスタッフの研修のテキストとして活用するとか、店舗や現場でオペレーションをチェックする際の指標とするなど、実際に活用されなければならない。

 

(2)フランチャイズビジネスのしくみ

 フランチャイズビジネスのしくみについて確認する(図表1)。

 本部から加盟者に対してはフランチャイズパッケージが提供される。フランチャイズパッケージには、「商標の継続的使用の許可」「経営ノウハウの提供」「継続的な経営・運営指導」などが含まれる。そして、加盟者はこのパッケージの見返りとして、本部に対価(加盟金、ロイヤルティなど)を支払うことになる。

 ここでいう「経営ノウハウの提供」とは、「フランチャイズ本部が持つ経営ノウハウの集大成」を形にした「マニュアル」を加盟者に渡す行為である。そして、この「マニュアル」を使ってノウハウを定着させる「研修」の実施が行われる。さらに、マニュアルをベースにした「継続的な経営・運営指導」が行われることになる。

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図表1 フランチャイズビジネスのしくみ

(3)フランチャイズビジネスにおけるマニュアル

 フランチャイズ本部がフランチャイズパッケージを販売し、パッケージの継続的な運用を提供するビジネスであるという側面を考えれば、パッケージに含まれる「経営ノウハウ」は、フランチャイズ本部にとっての「商品」であり、それを具象化したものが「マニュアル」である。つまり、マニュアルは、フランチャイズ本部の「商品」を象徴するものでもある。「商品」ということを考えれば、加盟金の金額に見合うノウハウを提供している根拠として、マニュアルが相応の質と量を具備していることが、フランチャイズ本部と加盟者との良好な関係を構築するうえでも重要な要件となる。

 また、フランチャイズビジネスにおいて、本部と加盟者は異なる事業体であり、それぞれの責任において事業を推進することになる。このとき、チェーン全体のコンプライアンスという観点からも、マニュアルは重要な意味を持つ。本部が何をマニュアルに規定しているかによって、違法行為の責任が本部にあるのか加盟者にあるのか解釈が分かれることがある。加盟店がマニュアルに違反して営業し、トラブル・違法行為などを起こした場合には、本部に責任はないとすることができる。一方、マニュアルがない、規定がされていない場合、加盟者が起こした問題であっても、本部の責任が問われる可能性も出てくる。

 

2.マニュアル作成の基本

(1)マニュアルの体系

 フランチャイズマニュアルの体系を図表2に示す。

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図表2 マニュアル体系

(2)作成のステップ

 マニュアルをいきなり作成することはできない。チェーンオペレーションに向けての取組みは、「標準化」→「システム化」→「マニュアル化」の順に進む。マニュアル作成に取りかかる前に、標準化やシステム化ができているかどうか確かめる必要がある。

 標準化とは、製造方法、調理方法、施術方法、接客方法など、チェーンの中で決められたルールや手順を確立することである。店舗や人によってやり方が違っては、チェーン全体の質を担保できないため、まずはオペレーションを標準化することから始める。また、100%オペレーションを標準化することは不可能なことであり、顧客満足度の視点から考えると顧客は応用的な20%のサービスに付加価値を感じるということからも、80%程度の割合で標準化することが妥当である。

 次の段階であるシステム化は「IT化する」という意味ではなく、しくみ化するあるいは段取り化することである。システム化は個々の作業レベルから始まり、しかる後、作業工程全体を取り扱う。標準化された作業レベルの各要素が、オペレーション全体の中で最適化されている状態がシステム化である。システム化による最大の効果は「ムダの排除」である。オペレーション全体をシステム化することで、人員の最適な配置や、在庫過多やロスの発生を抑制することができる。

 次にマニュアル化(作成)ということになる。作成ステップを図表3に示す。

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図表3 マニュアルの作成ステップ

(3)わかりやすいマニュアル

 実際に作成されるマニュアルはわかりやすくなければならない。

 わかりやすい文章で書くためのポイントとしては「ターゲットに合わせて書く」「簡潔な表現で書く」「表記のルールを統一する」などが挙げられる。内容がわかりやすいものであっても、読者が理解できる言葉で書かれていなければわかりやすい文章とは言えない。とりわけ、専門用語や業界用語の使い方には配慮が必要である。

 また、分かりやすいマニュアルを作成するためには、文章ばかりでなく写真やイラスト、フロー図や表などの図表を多く使うように構成する。文章による左脳への刺激に加えて、図表を使って右脳も刺激することで、脳への定着率を向上させる狙いがあるからである。

 図表について、基本マニュアルで使用するフロー図やマトリックス図などはデスクワークで作成できるが、オペレーションマニュアルで多用する写真やイラストには現場での取材やヒアリングが欠かせない。マニュアル作成を契機として現場に足繁く通うことで、業務改善の種を見つけることもある。

 さらに、ページのレイアウトも読みやすさを左右する要素である。読者に読むストレスを感じさせないためのポイントとしては、「要素を整列させる」「関係のある要素を近づける」「対比を強調する」などが挙げられる。

(4)マニュアルの作成例

 実際に作成したマニュアルの作成例を図表4に示す。

 現場の写真やイラスト、表などを多数用いてわかりやすく伝えることに留意している。また、見出しに背景をつけたり、本文とは別の書体を使ったりすることで目立たせるなど、読みたいところがすぐに見つかるように配慮している。

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図表4 マニュアルの作成例

3.マニュアルの管理と活用

(1)マニュアルの管理・メンテナンス

 マニュアルは「チェーンのノウハウの集合体」であり、大変重要なものである。当然、店舗にはマニュアルを安全に保管し、営業秘密として保全する義務がある。また、フランチャイズ展開しているチェーンの場合には、マニュアルは本部のノウハウの集大成であるとともに、フランチャイズシステムを象徴する重要なものである。フランチャイズ契約上では、加盟者に対して、営業秘密として保全する義務を課すことが通常である。

 外部環境の変化や顧客の変化、自社のシステムや商品構成の変化などにより、フランチャイズシステムは常に進化しており、システムとしてのノウハウを集約した存在であるマニュアルも進化し続けなければならない。チェーンとしての設備更新、商品基準、情報システム、サービス品質の基準、具体的なオペレーションの手順などが進化した場合、その内容を全ての店舗、オーナーとそこで働く従業員に一定期間内に伝え、実際の店舗でのオペレーションを変えてゆくという行動を起こさせるしくみが必要になる。

 

(2)マニュアルの活用方法

 マニュアルは作って終わりではなく、それを活用していくことが重要である。さらに、マニュアルは一部の担当者だけが活用していても意味がなく、オペレーションに関わる全員がマニュアルを活用し、マスターしていなければならない。

 せっかくマニュアルを作成したにも関わらず、活用できていなければオペレーションの標準化も進まず、店舗や人によって品質にバラつきが出てしまい、リスクの高い状況でオペレーションが行われることになる。たとえば、食品を扱うオペレーションにおいて、マニュアル通りに食材を扱っていない、機器の洗浄が行われていないなどが起きていれば、食中毒を起こすリスクが高まる。一人でも守らない人がいると、チェーン全体の存続を揺るがすほどの大事件へつながることもある。

 苦労して作成したマニュアルを活用し、結果を残すためには、活用するしくみづくりが必要である。しくみとしては、「すぐに見られる状態にする」「教育ツールにする」「チェックツールにする」などが挙げられる。

4.まとめ

 経営者がひとりで目を光らせて管理できるのは3店舗程度までである。3店舗以上の多店舗化を目指すのであれば、業種の別にかかわらず、オペレーションをある程度、標準化、システム化、マニュアル化していなければ、提供する商品・サービスの品質を一定に保つことはできない。また、フランチャイズビジネスにおいては、マニュアルは、フランチャイズ本部の「商品」を象徴するものでもあり、相応の質と量が求められる。

 さらに、マニュアルは作成して終わりではなく、その後の正しい管理、ビジネス変化に応じた改訂、現場での活用は必須であり、そのためのしくみづくりも重要である。

 参考文献

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フランチャイズ研究会 著『フランチャイズマニュアル作成ガイド』同友館

フランチャイズ研究会 著『フランチャイズ本部構築ガイドブック』同友館

フランチャイズ研究会について

 毎月の月例会に加え、分科会形式によるFCビジネスの研究、研究結果の書籍化、日経フランチャイズ・ショーにおける相談ブースの出展・セミナー講師の協力など、FCビジネスの健全な発展とノウハウ開発を目的とした実践的活動を行っている。

月例会:毎月第3木曜日 18:30~20:30

HP:http://fcken.com/

2016.06.30
経営革新が企業成長の基本

経営革新が企業成長の基本
-課題解決型の実務能力向上を目指して-

経営革新計画:実践支援研究会 日比 雅之

経営革新が企業成長の基本 課題解決型の実務能力向上を目指して

 経営革新計画:実践支援研究会(代表 小林 勇治)は、中小企業活動促進法に基づく「経営革新計画」を支援すると同時に、計画後のフォローを実践し、真に経営革新効果を高め、かつ中小企業診断士のビジネス創造に結びつけることができる実務能力の向上を目指すことを目的に平成20年に設立した。企業経営のイノベーションを通じて企業の継続と成長を支援するために研究し、実践をしている。

1.研究のテーマと研究活動
① 企業の成長は経営革新が基本
 企業の成長は経営革新をせずに存続は困難である。中小企業も企業経営は日常的に革新の必要がある。経営革新をしないと企業は衰退に向かうことは必然である。単なる承認支援ではない経営革新支援がすべての企業支援の基本であると考えている。    

② 経営革新承認支援はビジネスチャンス
 東京都の経営革新承認企業数が平成11年度から平成26年度までで6,672件となっている。(図表1)平成26年経済センサス基礎調査では東京都の全企業数179,867社あるが、これに対して東京都で経営革新計画が承認された企業数は約3.7%となる。ここにビジネス機会の可能性が存在している。

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③ 研究活動は中小企業基本法、診断協会、時代の要請に対応

 当研究会の発足時の経緯は以下のポイントとなった中小企業基本法の変化に対応をし、変化してきた。すなわち、中小企業の支援は民間の者として創造活動が求められ、当研究会の立ち上げと研究テーマが決定され、同時にビジネス創造の場の開発が必然となっていた。
法律改正の主なポイントは以下のとおりである。

 平成8年 中小企業診断制度の改正
 平成12年 中小企業基本法の抜本的改正
 平成16年 国家資格への正式認証
 平成18年 中小企業診断制度の改正
 平成20年 当研究会設立

 以降平成24年に一般社団法人東京都中小企業診断協会が発足し、独自の営業活動環境の整備が進み、問題指摘型から課題解決型へ指導できる中小企業診断士が求められ、時代環境変化に対応した研究会のあり方を追求してきた。
 
2.課題解決型に対応した実践支援
 中小企業診断士の業務は活動内容で①講演、②執筆、③診断に分けることができる。この3つの実務能力の向上を図るため、当研究会もこの3つの実務能力の向上を図っている。

① 講演
 講演はセミナー講師や、テーマについて講話をすることである。講話の内容が優れていることは当然であるが、最終的な表現形態であるプレゼンテーションも重要となる。当研究会ではプレゼンテーションのスキル向上のために、プレゼンの機会を提供している。すなわち、定例会で発表する機会を会員に募り、発表の事前準備や資料作成、プレゼンテーションスキルを意識することにより、結果的に人前で講演をするレベル向上に努めている。

② 執筆
 執筆活動の1つは後述する東京都経営革新計画フォローアップ事業に参加して事例集を作成することによりレベルアップを図ることである。この事例集作成は研究会を発起人となった、先輩診断士の経験値を詰めたマニュアルがあり、毎年内容を見直し改定をしてきた。その成果として、初めて執筆する診断士でもレベル以上の品質を身につけることができる。

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 執筆活動の2つめは有志を募り共著出版の機会を作り、執筆のスキル向上を図ってきたことである。出版社から実際に販売されるとその喜びは大きい。中小企業診断士としての意欲向上、ビジネス機会に活用できる。当会員が経営革新計画承認企業を支援またはフォローにより出版をした直近の3事例は以下の3冊がある。

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 これらの執筆は執筆者全員のレベルを合わせるべく執筆マニュアルを確認して上辞したものである。この執筆活動は、毎月の定例会とは別途に行うため先輩診断士から新人診断士の交流やスキル向上の場にもなっており、実践スキルの向上に繋がっている。

これの執筆も品質レベルを向上させるべく、執筆マニュアルを作成して、執筆者全員により、確認と毎回更新をして、作り上げてきたものである。その一部抜粋は図表4のとおりである。

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③ 診断実務

 診断実務は年に1度東京都経営革新計画フォローアップ事業に有志が参加し、レベルアップを図っている。企業訪問はメイン担当サブ担当2人が訪問している。この手法は経験豊富な診断士の手法を学びながら企業診断レベルの向上に役立っている。
 具体的には経営革新計画承認された企業に訪問し、その後の進捗を確認し、課題を発見し解決のための助言をすることが目的である。副次的に企業の了解を得て事例集の取材を行っている。
 これらの講演、執筆、診断活動が課題解決型の実務スキル向上に大きな力となっている。定例会での経営革新計画承認の成功例と実際に承認された企業様での講話を傾聴することと合わせて会員が積極的に経営革新計画承認支援とその後の経営課題支援、補助金支援等の活動につなげている。

3.研究成果事例
 さて、研究の成果を総合した会員の、経営革新承認支援した事例を以下に紹介する。
 経営革新計画承認を受けるために、研究会で学んだがポイントは、新規性と実現性の2つである東京都のパンフレット説明でも図表4のように審査のポイントとして新規性と実現性を挙げている。この2つのポイントに絞って紹介する。

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 サンドナイス社長様は機械製造業を退職後、機械設計・機械製造のノウハウを生かし、砂場清掃専用機の開発を目指した。既存事業は砂場抗菌剤の卸売販売が売り上げ主力となっている。

 背景には砂場は子供たちの成長過程において創造力を発揮する重要な遊び場であるが、今の砂場はガラス片、犬や猫の糞などで汚染されている。母親が砂場での怪我やペットの糞に潜む回虫による感染症を恐れ、砂場遊びを避けることが多くなっている。子供たちの砂場環境を守ることが、健全な発育に重要であることが専門家からも指摘されてきた。ところがこれに対応するにはスコップで砂を掬い、網でふるい落とす方法が一般的だが、人手のかかる作業で現実的ではない。建設現場での大型篩機ではごみは除去できても糞は除去できない現状となっている。(網目が大きいため)
 世の中にまだ存在していない砂場専用清掃機を試作開発し、この砂場清掃サービスを新規事業として経営革新計画の申請を目指すこととなった。
 経営革新計画承認ポイントの1つである新規性については、世の中に存在していないことを確認できれば審査要件の1つはクリアである。インターネットで検索をしても同製品、類似製品は見当たらなかった。

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 2つ目のポイントは実現性である。当然ながらこの実現性について根拠が求められる。

 生産面では試作機ほぼでき上がっていて、砂をふるい落とす機構の特許の取得もしている。
 課題は販路開発と受注に応じた生産体制の構築である。販売のためにまず商標登録「すなっぴー」を申請すること、取扱説明書とチラシを作成すること。その上で取引のある砂場抗菌剤の取扱店、千葉県、神奈川県の自治体や幼稚園、保育園へのPRを強化することにした。また、清掃サービスを受注し、効果を知ってもらうこととした。その根拠を数値で表し、実現性のポイントもクリアすることができ、経営革新計画は平成26年9月に承認された。新規性が明確であったので実現性について詳細に検討を進めることができた。

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 支援の内容と効果および今後については図表10のとおりである。また、今後の拡大事業にために畝形成装置としての特許も取得をしており、砂場清掃だけでなく農業への取り組みを視野に入れている。

 当研究会でのテーマである、単に承認を得るためでなく真の経営革新の効果を高め、ビジネス創造につなげる事例として取りあげた。今後も企業に寄り添い支援を継続していく好事例である。

<経営革新計画:実践支援研究会の活動紹介>
 当研究会は、代表小林勇治のもと、毎月1回、原則として第4金曜日に中央支部事務所にて研究会を開催している。毎月会員の経営革新計画承認事例と企業経営者(主に社長)にご登壇をいただき経営革新計画を取得するに至った経緯や苦労した点、効果について講話をいただき、会員との情報交換や交流を図り研究を深めている。会員数は登録上では124名、毎月平均参加者約40名で研鑽を図っている。

2016.05.29
人、店が集まり、店主の自主活動で盛り上がる街に!~白金商店会支援の軌跡~


企業内診断士の5年にわたる支援で街のイメージ一新!

人、店が集まり、店主の自主活動で盛り上がる街に!
 ~白金商店会支援の軌跡~

商店街研究会 山中令士、鵜頭誠

1.企業内診断士による白金商店会支援の経緯
(1)商店街研究会の活動
 東京協会認定の商店街研究会は、平成14年6月、商店街の活性化、にぎわいづくり、個店繁盛に積極的に取り組みたいという中小企業診断士の仲間が集まって設立された。201606-2p-1.jpgのサムネイル画像
 当研究会の活動は、毎月1回土曜日に商店街を訪問し、役員の方から成功談をヒアリングし、活性化方策を学ぶ活動を年間10回実施している。その他に、年2回は平日の夕方に斯界の有識者や専門家を講師として招いての座学研修を行うなどの活動を続けている。一昨年にはこれらの成果を基に10周年記念の書籍出版も行った。
 会員は現在94名で、企業内診断士が参加しやすい活動スケジュールであることから、多くの企業内診断士が参加しており、その数60名で約2/3を占める。この比率は東京協会の構成とほぼ同じであって、企業内診断士の研究活動の場を確保し、自主的かつ主体的な実践的支援活動の取り組みの機会をいかに確保するか、が課題であった。

(2)白金商店会への支援の開始

 平成22年2月、研究会の企業内診断士有志8名が、それまでの優良商店街への訪問活動で蓄えた数多くの先進的な取り組み事例を、実際に自分たちで商店街活性化の支援活動として取り組みたいと模索していたところ、当時の研究会会長から港区の白金商店会を紹介され、支援活動を開始することができた。

 白金商店会は、東京メトロ南北線の白金高輪駅から徒歩4分にある商店街で、歴史は古く明治43年から続く。商店会の加盟は63店舗で、港区では数少ない生鮮三品の揃う商店街である。 201606-2p-2.jpgのサムネイル画像

 昔は、ガス灯の製造を中心とした近隣の町工場で働く多くの工員達とその家族を顧客にして栄えていたが、その後、次々と工場が廃止された跡地の住宅地化が進んでおり、今では、地域在住の主婦や高齢者を対象とする近隣型商店街となっている。また、駅前のスーパーや大型店との競合も厳しく、スーパー立地の直後などは、店舗廃業も多く続いていた。
 
(3)支援初年度の活動
 平成22年の2月から3月にかけて、8名の企業内診断士のメンバーが商店街調査分析のセオリー通り、「商店主意識調査」、「来街者アンケート調査」および「歩行者通行量調査」を実施し、その調査結果に基づいた各種提言を、3月下旬の理事会において行ったが、理事のメンバーからの反応は今一つであった。
 今、振り返ってみると教科書的な提言内容であったと反省している。ちなみに同年3月の調査時点での歩行者通行量は2,942人/日であった。
 その年の8月、夏まつり支援の後の「白金商店会夏まつりの視察報告」において、「浴衣での来街者へ優待品贈呈」や「浴衣姿での記念写真撮影」などを夏まつりの活性化方策として提案しているが、その時の皆さんからは「そうですねぇ」というありきたりの反応で、特段の賛成の意見も反論もないままに発表は終了し、いずれの提言も実施には至らなかった。
 ただ、この時の提案がその後の我々の継続した支援活動を通じて、3年後に「浴衣コンテスト」として日の目を見ることになるのだが、その時点では全くそういった気配はないままに1年目が終了した。

(4)支援2年目の活動と変化の兆し
 翌23年5月、前年と同様に、夏まつりに向けての取り組み支援として、「商店主意識調査」および「来街者アンケート調査」および「歩行者通行量調査」を実施し、その結果を夏まつり前の7月理事会で報告する機会をいただいた。
 その際に、夏まつりに向けての盛り上げ支援策として、ホームページやTwitterによるPR活動を提案したところ、参加した商店主の一人が、「商店街内のある有名店舗が、Twitterを活用してお客さんが絶えないお店になっている」と発言したことから、反応が変わったのを感じた。
 Twitterの活用について、会長、副会長としては、「店舗の売上になるのであれば挑戦したいが、全くどのように操作をしたらいいのかも、Twitterの仕組み自体すらもよくわからない」との発言があった。早速、診断士一同で、仕組みや活用の仕方、他の商店街の取り組みなどについて調べるので、再度報告の機会を設けてほしい旨を訴え、了解を得ることができた。
 この点を新たな支援活動に活かせるものと捉え、その場で提案できたことが、その後の支援活動に繋がった。
 多くのメンバーにとって、商店街でのTwitter活用は初めての取り組みではあったが、商店街が希望する支援活動に具体的に挑戦できる機会ができたことから、メンバーの支援への盛り上がりも増し、新たな若手メンバーも応援に入り、ITを活用した商店街活性化の支援準備を開始した。

(5)支援3年目、Twitter支援の開始201606-4p-1.jpg
 平成24年2月、「夏まつりでのTwitter支援」として、商店街の皆さんとともに手を動かしながら支援する活動の内容を商店会理事会にて提言した。多くの理事の皆さんがTwitterを使うのが初めてということもあり、「白金商店街ツイッターのつぶやき方」というチラシを作成し、パソコンやタブレットを多く持ち込んで、理事の皆さんとのマンツーマンの教室を開催した。そうして、無事、理事の皆さん全員の承認を得られたことから、Twitter活用による支援を開始することとなり、診断士の我々がまず、つぶやきのモデルを示すべく、挑戦を始めることとした。
 そして、6月から8月の夏まつりに向けて、商店街からの情報発信としてTwitterでのつぶやきを我々から率先して活発に展開した。夏まつり当日には、会場での商店街の皆さんの準備活動や屋台販売の姿などを全店写真撮影し、その場でツイートしてそのTwitter画面をすぐに見ていただくという活動を展開した。
 
(6)Twitter支援の効果
 次第に、Twitterを通して、「ママさん達でのお祝い会を行うのにおススメの店を教えてください」というコメントが入って回答した際に、「いつも商店街を利用しています。これからも楽しみにしています」というつぶやきや、「就職活動で明日使うからって言ったら、翌日のすぐにクリーニングをしてくれた。白金商店街のこの下町らしさが好き」というつぶやきがあるなど、地域を利用し、かつさらに利用しようとしている人たちの本音が聞こえるようになり、オンライン上でのゆるやかな繋がりから、商店街を利用するという実際の繋がりに活かされていることが実感できてきた。201606-4p-2.jpg
 以後も、お客様側のさまざまな声がTwitter上で届けられたことから、理事会を通して、随時その声を会長や副会長をはじめとした多くの理事の方に伝えることで、「このように言ってくれるのならうれしいね」「こう思ってもらえるなら、また頑張ってやってみよう」などとさまざまな声が飛び交うようになった。
 こうした活動によって、商店街の方々にTwitterの効果について直接見せ、実感してもらうことで、理解を進めることができた。このことが、商店街の店主の皆さんと我々支援する中小企業診断士との関係では大きな成果となり、その後の我々の活動のスタイルも、「まずは実践して見せる」ということに変革していった。こうした活動を通じて、来街者や商店街に関心を持つフォロワーも増え、当初5月のフォロワー数393人が11月には1000人を突破し、フォロワー返信率も79.1%と大人気となっていった。
 平成25年の夏まつりでも、TwitterによるPR活動をさらに積極的に展開し、その後の理事会においてTwitterのPR活動の結果を報告した際には、実際にTwitterの画面を見た理事の皆さんの反応が大変良く、また、フォロワー数も大きく伸びていることを喜んでいただいた。
 Twitter活用の目的は、目指すべきターゲットである「子育て世代の女性とのゆるやかな繋がり、共感しあえる場づくり」であって、Twitter支援を約1年半続けてきた中で、オンラインの世界では、十分に地域の方々と商店街との交流機会の拡大を図ることができた。

2.店主の自主活動で盛り上がる街へ
(1)次なる支援としての「まちゼミ」提案と店主の積極参加
 平成25年9月の理事会には、今後目指すものとして、「このオンラインで、共感しあえる商店街の下町の良さや雰囲気を、オフライン、現場の店舗でも数々の体験ができる機会を持ってほしい」という想いがあった。その実現手段として、商店街の三種の神器の一つである「まちゼミ」の実施を提案した。
 ただ、「まちゼミを開催しましょう」といっても、会長、副会長は、具体的にどのようなものかがイメージがつかなかった。そこで、すでにまちゼミのイメージを持っており、かつ最もまちゼミへの声掛けに熱意のあった商店街の着物屋の店主が前面に立って、我々診断士とともにモデルケースを作り、それを他の理事の方々に示しながら実現を図るという実施計画を提示し、全理事の賛同を得ることができた。
 また、開催時期についても、年間を通して、商店街のお客様を呼びよせるよう、また最も商店街で集客のある夏まつりが終わった後の集客を拡大すべきという提言を、これまでの診断報告書でも行っていたことに商店街の方々の賛同もいただいて、2月の1か月間を実施期間とすることとなった。ここに都区内でも先駆的で、港区初となる「まちゼミ」を実施することが決定した。
 支援が3年半を過ぎて、ようやくいい方向に進み始め、我々の支援活動に商店街の皆さんからの信頼を得ることができたエポックメイキングな瞬間であった。
 我々の活動開始当初は、会長を始め各理事の皆さんも押しかけ的な若手中小企業診断士の支援活動がどこまで続くのか、過去に入れ替わりやって来ては去っていった経営コンサルタントと同様ではないかと懐疑的な見方があったが、3年半にわたり、無償で自主的な支援活動を継続する我々の姿に、やがて理解と共感を示してくれるようになった。特に、まずは自ら動いてみた、やって見せたという活動のスタイルを始めたことが大きな契機となったのである。
 こうして、これまでの我々の活動についての信頼感を得たことから、次の一手として商店街活性化策として有力となっていた「まちゼミ」の実施を提案した際にも、個店主が積極的に賛同し、その意見をもとに、その場で会長他理事の皆さんの賛同を得ることができたのである。

(2)白金商店街まちゼミの実施
 すぐさま、会長、各理事や店主を巻き込んでの「まちゼミ」実施に向けての準備に入り、平成26年2月には港区初めての「まちゼミ」を7店舗10講座で開催し、その結果について参加商店主から、「自身のお店のことなのに、いざまちゼミで話すとなると、話しきれないことがわかった。自店のことをよくするためには、自店を知るとともに、商店街を知ることがとっても重要であると痛感した」、「このような形でお店と地域の情報をお客さんに発信できることはユニークな取り組み。このような事業は継続して行っていきたい」といった声が寄せられた。
 初めての取り組みに、楽しみつつも、反省すべき点が見つかり、かつそのインパクトが大きかった。そういった中で、若手商店主たちが「中小企業診断士の方々がここまでやってくれているが、我々だってもっとできることをやらねばならないのではないか」といった声をあげ、自主的に商店街を盛り上げることへの意欲を持つようになり、その想いが、以後の、「商店街ホームページ」「浴衣コンテスト」などのさまざまな商店主の自主活動を生み出す原動力となった。

(3)若手商店主たちの自主的な活動と表彰
 平成26年4月から6月に、若手商店主主導のもとITインフラを我々中小企業診断士が支え、わずか3か月間で商店会のホームページが完成した。さらに同年8月には伝統ある夏まつりで青年部のアイデアが受け入れられ、商店街初の「浴衣コンテスト」が実現した。201606-6p.jpg
 Twitter支援やまちゼミ支援を通して、商店街を支える活動への想いを共有できた商店街の着物屋、美容室、化粧品店や八百屋の各店主などと中小企業診断士が、審査委員、採点委員、運営スタッフを作業分担して行うことで、4年前に夏まつりの活性化方策として診断報告書で提案していた「浴衣での来街者へ優待品贈呈」や「浴衣姿での記念写真撮影」などがようやく実現に至ったのである。
 平成26年10月には、こうした白金商店会の取り組みに対して、東京販売士協会主催の『販売士が推す!! エネルギッシュタウン-私の街-』表彰事業において、商店会でのホームページやTwitterを通じての頻繁なPR活動や、「浴衣コンテスト」、「まちゼミ」実施などの一連の活動が高く評価され、「コミュニティ賞」を受賞した。
 
(4)人、店が集まり、自主活動で盛り上がる街
 その後は、理事会において、今までは発言もしなかったメンバーが積極的に発言、イベントを提案し、率先して活動を進めるようになってきている。 
 平成27年1月には、昨年のまちゼミを通して、互いの商売への想いを語り合う中で、それぞれの店に寄せられた顧客の声を新たなメニューで形にしようと、意気投合した店主達の想いを汲む支援を行った。商店街内の2店の特別コラボメニュー「着付け&ヘアセット」を小規模事業者持続化補助金事業として実施し、近隣の学校、大学等の卒業式における教師や保護者等の需要を多く取り込むことに成功している。201606-7p.jpg
 また、2月には、第2回「まちゼミ」が開催され、地域の郵便局、英会話教室等を合わせて、15店20講座が催され、多くの参加者を呼ぶことができ成功裡に終えることができた。
 こうした商店街の活性化の動きを反映して、新たな店舗進出が増えてきており、歩行者通行量の数字も支援開始当初の2,942人/日が5年後の3月には3,576人/日まで増加している。
 さらに、5月には、「着付け&ヘアセット」のコラボ事業に動機づけられた地域の5店の若手商店主達が、地域の主要顧客である「子育て世代の女性」をターゲットとして、地域への想いのある互いの店舗を紹介する独自の逸品事業を展開した。本事業も小規模事業者持続化補助金の採択を受け、10月には、小冊子として配布される予定である。
 
3.まとめ
(1)商店街支援のポイント
 平成22年の支援開始から5年半を迎え、我々中小企業診断士の切れ目のない商店街支援活動が実を結ぶようになってきたのを実感できている。やはり、商店街の支援活動は息の長いもので、商店会の会長や理事だけでなく、多くの商店主や奥様方との人間関係が深まってこそ、活性化の提案も皆さんに受け入れていただけるようになるのであって、一方、短い期間では空回りとまでは言わないが、なかなかうまく意見や提案が浸透できないものだと感じている。
 我々の行う商店街活性化の提案も、年を追うごとに現場の実態に合わせてどうすれば変革していけるのか、という視点で地についた提案ができるようになってきたことも、商店街の方々の信頼を勝ち得、活性化に向けての歯車がうまく進むことになった大きな要因と考える。
 また、企業内診断士の支援メンバーもこの間に次々と新たなメンバーの参加を得て、多様な能力や知識を継続的な商店街支援に組み込むことができるようになってきたことも今回の成功のポイントである。
 企業内診断士は、普段は業種も規模も異なる企業や組織体に勤務しており、その職務経験から得られる多様な観点からのアプローチを結集することで、実にさまざまな意見やアイデアが期待できるというメリットがある。
 これが、中小企業支援の場合では、財務内容や経営状態といった機微に触れる企業情報に関与することが避けられないことから、企業内診断士の多くのメンバーが支援に長い間参画することには難しい点がある。
 しかし、商店街支援においては、企業内診断士の所属する企業との競合関係がなく、利害関係もなく支援にあたれる現場であることが多い。また、支援活動の時間についても、夕方の各店舗の閉店後の時間に個店への訪問や理事会への参加が可能であるし、土・日曜日でも店舗の営業日であれば支援活動が進められるということから、企業内診断士の勤務時間外での支援活動が大いに可能であるということから、相性がよい支援先と言える。

(2)ワーク・ライフ・バランスに留意しつつ取り組む企業内診断士
 我々の支援メンバーの特徴として、過半数は、30代、40代の中小企業診断士が占め、企業内でも第一戦、かつ家庭内でも子育てをしながら自身の時間を捻出しながら活動を行っているメンバーも多いことが注目すべき点である。
 20代や30代で中小企業診断士を取得したとしても、企業での業務多忙や子育てが重なることなどから、以後の活動機会を見いだせず、活動を休止し、引いては中小企業診断士としての資格までも失ってしまう例を残念ながらよく耳にする。
 中小企業診断士を取得した時の想いをずっと忘れずに、その想いと知識と経験を少しずつであっても活かしながら、中小企業診断士としての活動を続けることを諦めないでほしいという想いがあり、企業内診断士を中心として新たなメンバーを集めてきた。
 このように、企業内診断士としてのワーク・ライフ・バランスも留意しつつ取り組んだことが、商店街への継続した支援につながっていると考える。
 たとえば、Twitter支援であれば、現場になかなか行けなくても、電車通勤の前後でTwitterから商店街のアカウントの情報を確認したり、リツイート、リプライなどをすることは可能である。また、1日全体を歩行者通行量調査で拘束するのではなく、10人程度で、1~2時間交代のシフトで1日の調査を実施することで、おのおのの現地での作業時間を少なくすることができる。
 必ず伝えなければならないことがある重要な例会は、必ず2名か3名で訪問をする予定を組むことで、万が一の業務上の突発的な会議や、家庭の事情等が発生した際にも、誰かが必ず発言することができるようにし、適時に支援活動の進行管理を行うことができる。
 このような観点からメンバーを集め、取り組みを進めたことによって、これまで診断士活動を行っていなかった未就学児童のいる中小企業診断士が、継続してTwitter支援活動を行ったり、家庭での出産・育児の時期に重なっている中小企業診断士が継続して商店主との会合に参加し続けられる雰囲気と環境を実現できている。

(3)最後に
 我々が長年の支援活動を通じて感じたことは、商店街支援は基本的には人と人のつながりがすべてであって、人間関係重視の支援であるべきということを我々自身が実感できたからこそ、こうして長く支援を続けることができた、ということである。
 今回、我々の支援活動を披露させていただくことで、同様に多くの企業内診断士を抱える研究会や協会の活動にヒントとなれば幸いである。
 最後に、これまでに白金商店会の支援に参加いただいた仲間の皆さん、そして我々企業内診断士の活動を温かく見守っていただいた研究会の役員並びに多くの会員の皆様に厚く感謝申し上げるとともに、今後とも引き続いて白金商店会の皆さんと手を取り合って積極的な支援活動を展開し続けることをお約束して今回の報告とする。

2016.04.29
迷ったら、経営哲学に戻れ ~知識創造経営の真髄~

ものづくり経営管理研究会 竹村 一太
takemura.kazuta@gmail.com


【要旨】
 中小企業の経営者は孤独である。迷いに迷うが、最終的には独りで経営判断を行わなければならない。支援者の役割は何か。経営者と対話し、経営者の迷いや心の内を理解し、想いの表出化を支援し、また、判断材料となる考え方や情報を提供することなどである。何よりも支援者に求められるのは、経営者に寄り添うことではないだろうか。
 本稿の事例企業は、親事業者から機械の製造を受注する下請企業であった。しかし、受注の低迷から業績が落ち込み、創立50周年を目前にして、二代目社長は賭けに出た。厳しい資金繰りにもかかわらず、自社ブランド製品の開発を行い、展示会に出展し、下請けからの脱却を目指した。
 しかし、自社ブランド製品の事業化の過程では、業績の低迷や資金繰りの悪化などから、社長の心中に迷いがなかったとは言えない。支援者として、社長に寄り添い、対話し、理解し、時には、考え方などについて話し合った。そして、最終的には、社長は独りで経営判断を行った。「迷ったら、経営哲学に戻る」 
 経営者が強く「想い」を抱き、理念やビジョン、自社の存在意義や強みの源泉をぶれなく語るとき、それは経営哲学としてステークホルダーに伝わる。経営哲学を的確に伝えるために、知的資産経営の支援は有効であった。また、経営哲学について共感できていたため、事業計画策定、資金調達、業務改善などの支援を円滑かつ効果的に実施することができた。
 当社の業績は、自社ブランド製品の事業化を契機に大きく改善した。新製品開発を継続し、年2回展示会に出展し、新規分野の受注が安定してきた。積極的に設備投資を行い、新入社員も毎年採用し、将来への投資ができるようになった。 
 「迷ったら、経営哲学に戻れ」 社長の主観的な現実(actuality)が客観的な現実(reality)になりつつある。「正当化された真なる信念(justified true belief)」 知識創造経営の真髄である。
 
はじめに
 中小企業庁の平成27年度の方針のひとつに「イノベーションの推進」が掲げられている。中小企業・小規模事業者が競争を勝ち抜いていくためには、これまでのビジネスの殻を破り、創意工夫を活かしたイノベーションを起こしていくことが必要である。筆者自身もこの方針に共感している。中小企業・小規模事業者の「イノベーションの推進」を支援していきたいと考えている。
 中小企業・小規模事業者がイノベーションを起こしていくには、どのようなことが重要になるのであろうか。イノベーションの推進により企業再生を図ってきた事例企業の取組みを紹介しながら、イノベーション・コンサルティングの手法について、ご提案させていただく。

1.イノベーションとは何か
 イノベーションとは「新しい価値」の創造である。顧客や社会が「本当に価値がある!」と認める新しい価値を生み出すことである。また、イノベーションにはもうひとつの側面がある。「新しい知識」の創造である。顧客や社会が認める新しい価値を生み出すために「新しい知識」を創造することである。
 当初は、経営者やイノベーターの心の中に「われわれが生み出すべき新しい価値はこれだ!」「顧客や社会が求める新しい価値はこれだ!」という「主観的な現実(actuality)」がある。これが、新しい製品やサービスなどの創生を通じて、顧客や社会が認める「客観的な現実(reality)」になる。知識の創造とは、「新しい価値」が、主観的現実から客観的現実になるプロセスである。

2.想い(Belief)
 イノベーションの原点は、経営者やイノベーターの主観的現実である。イノベーションには、経営者やイノベーターの想いや信念が決定的な役割を果たす。
 2010年、創立50周年を前にして、印南製作所の二代目社長である印南英一氏は、「下請から脱却する。そのためには決して断らず新規分野の案件を受注する。さらに、自社ブランド製品の開発にも挑む」という想いを新たにした。
 印南製作所は、大手包装機械メーカーO社からの受注が、売上高のほぼ100%を占める典型的な下請企業であった。バブル崩壊、デフレによる価格破壊、リーマンショックなどの影響から、売上高はピークの14億円超(1996年)から10億円(2010年)まで減少した。O社からの受注は低迷を続けており、当社の経営は危機に瀕していた。しかし、コストカット、リストラ、リスケなどではなく、「断らない印南」「自社ブランド製品開発」を目標に掲げ、「下請からの脱却」への挑戦を決意した。
 想いや信念は、実体験を通じて強化される。印南英一氏の想いも、強烈な実体験の文脈から醸成された。2007年春、外資系大手通販企業A社より開発の相談が持ち込まれた。メール便のパッケージ・マシンを開発してくれないかというものであった。A社の物流センターのオペレーションは、他社とはまったく異なるコンセプトで運営されていた。そのため、パッケージ・マシンの要求仕様も前例のないまったく新しいものであった。A社はいくつかの機械メーカーに声を掛けたが、すべて断られていた。A社が最後に相談を持ち掛けたのが当社であった。
 
 先行きの見えない業績低迷の時期でビッグチャンスではあったが、資金繰りや技術リスクで正直即答はできなかった。しかし、打ち合わせに出向いてみて、カルチャーショックを受けた。ポロシャツにパーカー、ジーンズ姿の支社長と面談。社長か派遣か見分けのつかないスタッフの中で、「物流を変えよう」と握手を求められたのである。外資系の成果主義や改善提案の積極推進に間近に触れ、継続・存続を第一義に重んじていた保守的な経営理念が、一発で砕け散った。勢いも相まって握手をしてしまい、そして、「断らない印南」が生まれたのである。
 (印南英一 「モノ創りの最前線 ~通販業界へ挑む省力化機械メーカーの新提案」 流通ネットワーキング(日本工業出版株式会社) 2015年7月8日号 p20-23)
 
 9か月間の試行錯誤を重ね、メール便パッケージ・マシンを納品した。翌年2号機も納品し、現在、約60,000通のメール便が、毎日、当社が製作したマシンでパッケージされ、大手通販企業A社より発送されている。

3.想いをカタチにする
(1)INNAMIの約束
 A社との出会いが契機となり、2010年、印南英一氏は、企業再生へのプロジェクトを始動させた。全社員の意識改革をねらって経営理念を刷新し、「INNAMIの約束」を制定した。3つの「約束」のひとつに、「たゆまぬ変革により、新たな価値を創造します」というイノベーションへの決意が盛り込まれた。
 
(2)自社ブランド製品「エコメールパック」の開発
 法人設立第50期(2011年)をターニング・ポイントと定め、自社ブランド製品「エコメールパック」を開発した(図-1)。A社の巨大物流センターへのメール便パッケージ・マシンの導入で培った技術を活用し、中・小規模物流拠点向けに毎時450パックの性能のメール便パッケージ・マシンを開発した。専用封筒も自社開発した。ダンボールの張力を利用して梱包するタイプのもので、緩衝材を必要としない「エコ」がコンセプトであった。
 2010年秋の中小企業総合展に出展したところ、日刊工業新聞に紹介記事が掲載されるなど注目を集めた。また、2011年には「中小企業優秀新技術・製品賞」を受賞した(図-1)。

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4.知的資産経営から知識創造経営へ
(1)知的資産経営 ~知的資産の見える化~
 2010年12月、印南英一氏は、知的資産経営を導入した。「知的資産」とは、「決算書には現れない目に見えにくい強みの源泉」という意味である。また、「知的資産経営」とは、知的資産を「見える化」し、活用する経営手法である。
 印南英一氏には、知的資産経営を導入する明確な動機があった。第一に、企業再生プロジェクトを進めるために、「社長の想い」「当社が進もうとしている道筋」などを「見える化」し、従業員にわかりやすく説明し、理解を求める必要があった。第二に、自社ブランド製品や当社の技術などを見込み客にわかりやすく説明し、販路を開拓する必要があった。第三に、開発に必要な資金を調達するため、決算書には現れない当社の魅力や潜在的な成長力について、金融機関に理解していただく必要があった。最後に、新たに社員を採用するため、就活者に当社の魅力を訴える必要があった。
 そこで、印南英一氏は、中小企業基盤整備機構の支援を受けて、知的資産を「見える化」した「魅力発信レポート」(知的資産経営報告書)を作成することを決意し、筆者がその作成を担当することになった。
 当社の知的資産の中で最も重要なものは、印南英一氏の「想い」「信念」「経営哲学」などである。これらは、印南英一氏の暗黙知である。経営理念「INNAMIの約束」を制定はしたが、それだけでは十分に伝わらない。従業員でさえ見えにくいのであるから、社外の得意先や金融機関にはさらに見えにくい。それどころか、印南英一氏自身も明示的に認識していない想いもあった。
 インタビューを通じて筆者が問いかけ、印南英一氏自身が、「想い」「信念」「経営哲学」などを言葉に表し、明示的に認識することが非常に重要であると思われた。自らの言葉で、ぶれなく、従業員に語りかけ、得意先や金融機関、就活者に説明すること。これが、当社の知的資産経営支援では、最も重要なテーマであった。
 インタビューでは、言葉を選び、次のような内容について問いかけた。 「当社の存在意義は何か」「当社の絶対的な価値基準は何か?」 「当社はどのような未来を実現するのか?」 「顧客にとっての、社会にとっての価値は何か?」、そして「それはなぜか?」
 知的資産経営報告書「魅力発信レポート」は、2011年2月に初版が完成し、中小企業基盤整備機構の特設サイトならびに当社のホームページに掲載された。その後、毎年更新されている(図-2)。

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 知的資産経営に取り組んだ結果、「社長の想い」「当社が進もうとしている道筋」などが社員にも理解されるようになった。展示会では来訪者に「魅力発信レポート」を配布し、商談に活用した。「魅力発信レポート」が金融機関の目に留まり、表彰された。当社の魅力を理解し、数多くの新入社員が入社した。

(2)知識創造経営への進化 ~新しい価値の創造(イノベーション)~
 当社は、知的資産経営によって「今ある強みの源泉」を開示するだけに留まらず、「新しい価値」を求めて知識創造経営に踏み込んでいる。次々と新製品を開発し、毎年2回以上、展示会に出展し、披露している。「エコメールパック」に続いて、「メール便パッケージソルーション」「ダンボールパッドシュリンク包装機」「宅配便パッケージソルーション」など、梱包機械分野で新製品を開発した。2015年には、ものづくり・商業・サービス革新補助金の交付を受け、「自動ポスター巻き機」の開発を進め、出展する予定である。
 新製品の出展の度に、日刊工業新聞などに記事が掲載され、当社の技術などの知的資産が情報発信された。印南英一氏は、講演会に招かれ、TV番組にもたびたび出演するようになり、経営哲学や未来を語り、共感を集めるようになった。
 2010年に46人だった従業員は、2015年に65人まで増えた(図-3)。2011年以降、毎年、5軸MC加工機の導入、タレットパンチプレスの更新など、設備投資にも積極的に取り組んでいる。
 知的資産経営、知識創造経営、新規分野への積極的な事業展開、設備投資や人財採用などを進めるにつれて、当社の業績も向上した。2010年8月期の売上高は約10億円であったが、売上高は3年連続で毎年約1億円ずつ伸長し、2013年には約13億円となった。2014年以降も業績は堅調に推移している(図-3)。

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 知的資産経営への取組みによって、印南英一氏の想いや信念、経営哲学を、従業員、顧客、金融機関、就活者に伝えることができた。従業員に一体感が生まれ、新入社員も数多く入社し定着した。新製品の価値や技術について的確に情報発信を行うことにより、新規顧客からの引合いが著しく増えた。顧客や金融機関からも共感をいただき、プロパー融資を受けることができるようになった。その結果、業績が目に見えて改善してきたのである。

 現在も、新たな価値、新しい知識、イノベーションを生み出す挑戦が続いている。静的な知的資産経営から、動的(ダイナミック)な知識創造経営へと進化しつつある。印南英一氏が描いた主観的な現実が、客観的な現実になろうとしている。

5.迷ったら、経営哲学に戻れ
 当社の企業再生のターニング・ポイントは、印南英一氏の想いや信念、経営哲学であった。経営者の想いや信念、経営哲学が、その企業に「違い」をもたらす。「当社の存在意義は何か」「当社の絶対的な価値基準は何か?」「当社はどのような未来を実現するのか?」「顧客にとって、社会にとっての価値は何か?」 企業によって答えはさまざまである。
 描く未来がそれぞれ異なるために、企業に存在意義が生まれる。トヨタやホンダなど、多くの自動車メーカーが存在するのは、それぞれが描く未来が違うからである。描く未来は企業の運命をも左右する。コダックは倒産したが、富士フィルムは発展を続けている。ぶれない経営哲学は、企業に違いをもたらす。企業は、経営哲学を売っているのである。
 経営者が具体的な課題について判断に迷っているようなとき、支援者は何をすればよいのであろうか。筆者は、「当社の存在意義は何か」「当社の絶対的な価値基準は何か?」「当社はどのような未来を実現するのか?」「それはなぜか?」といった本質的な問いかけを行う。
 答えは経営者自身の中にある。経営哲学である。迷ったら経営哲学に戻る。その支援をするのが、筆者の役割である。

6.未来を創るイノベーション・コンサルティング
 筆者は、中小企業のコンサルティングを、6つのステップに分けて考えている(図-4)。
 第1ステップは「想い」である。経営者の想いを、それが形成された文脈とともに理解し、共感するステップである。経営者は、迷ったら、経営哲学に戻ることが重要である。経営哲学を構成する要素の中でも、「想い」は最も暗黙的であり、理解することが難しい。しかし、経営者に寄り添い、対話し、「想い」に共感できた時、第2ステップ以降のコンサルティングが非常に効果的なものになる。
 第2ステップでは、「想い」を、理念やビジョン、あるいはコンセプトとして、表出化する。この段階では、経営者との対話が重要な役割を果たす。
 第3ステップでは、「想い」、理念やビジョンを実現するための知的資産(強みの源泉)を認識するステップである。知的資産を明らかにすることにより、経営哲学を理解できるようになる。当社については、「魅力発信レポート」の作成支援を行ない、知的資産を明らかにした。
 第4ステップは、経営哲学やビジョンを実現するための事業計画の策定である。ビジネスモデルやビジネスプランを作成することである。経営革新計画の承認支援などは、事業計画の策定に有効である。当社については、「エコメールパック」の経営革新計画の承認支援を行ない、新規事業のビジネスプランを作成した。
 第5ステップは、資源調達の支援である。ヒト・モノ・カネの調達支援である。当社については、知的資産を明らかにしたことにより、当社に魅力を感じた就活者が数多く入社した。また、「エコメールパック」では市場開拓助成金(東京都)、「自動ポスター巻き機」ではものづくり・商業・サービス革新補助金(全国中小企業団体中央会)の申請支援を行い、資金を調達した。
 第6ステップは、計画を実行するにあたっての業務オペレーションの支援である。
 どの段階からでも支援は可能であるが、筆者の経験では、より上位のステップから支援を開始することが、より高い効果を得ることにつながる。

201605_8p-図4.jpgおわりに

 本事例は、イノベーションによる企業再生の成功例である。企業再生に向けて、事業承継後の二代目社長に経営哲学が生まれた文脈、新機軸の提示、知的資産経営によるステークホルダーの支援獲得といった経営イノベーションに加えて、新製品の継続的な開発、中小企業政策を活用したビジネスプランの作成や資金調達といった製品イノベーションにより、当社は企業再生を行ってきた。経営者の主観的な現実(actuality)が客観的な現実(reality)へと向かう知識創造「正当化された真なる信念(justified true belief)」の物語である。 
 筆者の使命は、「未来を創るイノベーション・コンサルティング」である。当社の企業再生に向けたイノベーションや知識創造のプロセスを支援してきた。そのために最も重要なことは、経営者へ寄り添い、想いや経営哲学を真摯に傾聴し、そして、共感することであった。

2016.03.27
東京協会・支部 プロコン養成講座

▼東京プロコン塾 第10期生募集のお知らせ

主催:一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
運営:能力開発推進部

 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会では、診断士制度の変更、診断士の社会的ニーズ、激変する経済環境などに対応するため、平成19年度より真のプロコンを養成しています。真のプロコンとは、高度な学識、スキルはもとより、人間力も備え、クライアントの要望を充分満足させられる"稼げるコンサルタント"を指します。
 東京プロコン塾では、稼げるプロコンを養成するため、座学による講義、現地実習をはじめ、最も重要な、稼いでいるプロコンのノウハウを伝授します。
 講師陣には当塾の趣旨にご賛同いただいた各方面で活躍中のプロコンがあたります。
 プロコンとして独立をお考えの方、コンサルタントとして独立したが、活躍が十分でないと感じている方は、ぜひご応募ください。
<記>
開催日程:平成28年5月~平成29年3月 原則毎月第4土曜日(9:00~17:00)
     〔うち2回は合宿研修(1泊2日)を予定〕全10回
応募資格:①東京都中小企業診断士協会 会員
     ②プロコンとして独立する強い意志のある方
応募人員:最大25名(申込者多数の場合は選考いたします)
参加費用:10万円(一括支払、支払方法は別途連絡します。合宿費、現地実習費込み。)
実施場所:座学は、主に東京都中小企業会館8階会議室を予定
     現地実習は現地、合宿地は未定〔平成27年度は、さわやか ちば県民プラザ(千葉県柏市)〕

カリキュラム
・毎回、プロコンとしての心構え、独立の仕方、営業方法について話をします。
・講義は、実務に直結したコンサルティングスキル向上を目指した内容になります。
・現地実習では、商店街や企業を訪問し、コンサルティングを行います。
・ミニプレゼンを実施する機会が5回程度あるので、プレゼン能力が向上します。
※詳細は4月23日の説明会で発表します。
その他:修了認定者には、東京都中小企業診断士協会より修了証を授与します。
    実務更新ポイントが必要な方は、現地実習にて取得可能です。
    講師陣や、活躍する塾生の先輩、東京都中小企業診断士協会の塾生同士で人脈ができます。
    メーリングリストや研究会で、卒塾後もOB・OGとのつながりを持てます。

下記のとおり説明会を実施します
日  時:4月23日(土)14:00~16:00
場  所:あすか会議室神田小川町会議室902会議室
     (東京都千代田区神田小川町2-1-7日本地所第7ビル)
申込方法:現在、申し込みを受け付けています。マイページにてお申し込みをいただくか、氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.、メールアドレスを明記の上メールでお申し込みください。
     申込をされた方には入塾申込書フォーマットを送りますので、4月23日の説明会で内容をご確認のうえ正式にお申し込みください。
運営担当:能力開発推進部 部長・佐藤 正樹
申込先:東京都中小企業診断士協会 東京プロコン塾係 担当:清水
     T:03-5550-0033  E: info_tokyo@t-smeca.com
ご質問は、加藤敦子(atsuko_k@altoconsulting.jp)まで


▼中央支部 認定マスターコースの紹介

 中央支部は、会員のコンサルティングスキルの研鑽を目的として、認定マスターコース制度を設けています。マスターコースの大きな特徴は、後進指導に情熱を抱く先輩プロコンが、自ら磨き編み出したコンサルスキル、コンサルマインドを惜しげもなく提供することです。専門性の高いテーマを設定し、独自のカリキュラムを編成して1年間にわたり指導します。


詳細・申込はURLを参照してください。
http://www.rmc-chuo.jp/home/mt/archives/cat4/index.html
来たる5月28日(土)の中央支部カンファレンスにて説明会およびブース相談会を開催します。


▼城東支部 スキルアップ受講生募集

主催:城東支部 能力開発推進部


 城東支部のスキルアップコースは、診断士の資格を取得し、将来診断士として独立を考えられている方を主に対象とした、プロコンを目指すための研修コースです。
 6月から3月まで、毎月1回計10回の開催を予定しています。城東支部長をはじめ、城東支部のプロコンとして活躍されている方々が講師を務めます。 
 城東スキルアップコースの特徴は、以下の3点です。
 ①中小企業経営診断の定石を学ぶことができます。(経営診断テキスト入門編を提供します)
 ②フィリップ・コトラー、ピーター・ドラッカー、バーバラ・ミント、マービン・バウワーなどの著書を経営診断課題図書(8冊)として定め、経営の基本を学びます。
 ③企業診断、セミナー講師、ビジネス相談員など実践の機会を提供いたします。
 初回の6月の講義では、将来プロコンを目指す方のために、城東のプロコンの方々が、仕事の獲得方法やプロコンとしてどのような仕事をしているかなどをお話しします。
 7月以降の講義の内容は、午前中は主に経営診断課題図書と診断技法の原理原則について学習します。午後からは毎回テーマごとの講義とグループワークをおこないます。
■カリキュラム(予定)

*原則第1土曜日の(9:30~16:30)に開催いたします。ただし6月と1月は第2土曜日開催。
*講義内容や開催月は変更となる場合があります。
*企業の実地診断を1、2社実施予定です。
■申込資格 新人会員、既存会員(城東支部以外でも歓迎いたします)
■受講料 45,000円/年   ■開催場所 都内の区民館
■申込先 城東支部 能力開発推進部 大石 正明  E:ooishi@zj8.so-net.ne.jp


城西支部 城西プロコン養成塾12期生募集

主催:城西支部 JOPY委員会

 城西プロコン養成塾(略称JOPY)は、中小企業経営者に適切な助言・提案のできる診断士養成を目指し、平成17年に開講しました。JOPY修了生は、各分野で活躍し高い評価を得ているとともに、城西支部の活動を担う人材となっています。
 コンサルタントは、中小企業経営者の目線に立ち一緒にモノを考え、適切な助言を行い良き相談相手となる必要があります。知識だけでなく、現場の状況を把握したうえで、クライアントが納得する実現可能な解決策を提示する、JOPYはこうした診断士を養成します。
 診断士能力向上、基本と応用の再確認、独立を目指す方......ぜひ、ご応募ください。
養成期間:平成28年6月~平成28年12月 原則 毎月第3土曜日10:00~17:30
     ただし、商店街診断、商業診断、工場診断は別途日程を組みます。
研修会場:阿佐谷地域区民センターおよび杉並区立産業商工会館
募集人数:18名
受講料:75,000円
講座内容:講師、会場の都合により、一部変更の場合があります。

   商店街診断・工場診断・商業診断はクライアントより実務従事ポイント取得可能です。
説明会および申込方法:スプリングフォーラムにおいて説明会を行います。申込希望の方は、氏名、住所、電話番号、ファクス番号、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上、下記宛にメールでお申込みください。お問い合わせも受け付けます。
  <申込先> 城西支部プロコン養成塾(JOPY)事務局  山内 喜彦
  T&F:045-316-1416  携帯:090-3002-3507  E:ys-yamauchi@dab.hi-ho.ne.jp


第12期 城南支部 コンサル塾 東京協会で最も伝統あるプロコン塾

日  程:平成28年6月19日(日)、7月16日(土)、8月20日(土)・21日(日)、
     9月17日(土)、10月15日(土)、11月19日(土)、12月17日(土)、
     平成29年1月21日(土)、2月19日(日)、3月18日(土)
     全10回(うち1回は合宿、日程は予定)
     9:00~19:00前後・診断実務実習、視察は別日程
     城南支部コンサル塾公式サイト http://johnan-consul.com/
応募資格:東京都中小企業診断士協会会員(他支部も歓迎します)
募集人数:最大20名 受 講 料:18万円(税込み)
実施場所:座学は台東複合施設いきいきプラザ JR秋葉原駅 他


■「稼ぐ力」を強化
 安い単価を数で補う診断士ではなく、付加価値の高い仕事をし、それに見合った報酬を得ることのできる診断士になって欲しいと考えます。稼ぐ診断士とそうでない診断士の違いは、市場ニーズ、企業のニーズを掴む能力の差です。クライアントニーズの的確な把握、経営状況の分析、施策、表現力など付加価値の高い仕事をするための支援ノウハウとネットワークを提供します。
■「小規模企業対応伴走型支援ノウハウの提供」
 小規模事業者の支援ニーズも創業、経営革新、ITなど多様化・高度化しています。今後の小規模企業支援においては、このような多様化・高度化するニーズに的確に対応していくことが必要となっています。コンサル塾では経験を問わず支援方法を深められ、診断士が単独で伴走型の経営支援ができるように指導します。
■講師陣:仕事につながるネットワークを持つ講師を全国から招聘。診断士に限らず、中小企業支援機関の職員、経営者など講師となって実践的指導を行います。
■実務実習:2社程度を予定。業種、業歴、規模が異なっており標準化が難しい支援手法ですが、共通点も多くあります。「ヒアリング」「分析」「方向付け」「報告書にまとめる」、この繰り返しで支援手法が身につきます。
■講義 テーマ
 基   礎 プロコン活動の基本と営業活動、プレゼン技法・セミナーの進め方、スライドの作成・効果的な使い方
 フェーズ別 創業支援の実務、経営革新計画策定支援の実務、経営改善計画策定支援の実務、事業承継支援の実務
 機 能 別 販路開拓支援、経営分析および財務の見方、地域資源活用の実務、中小企業支援施策、融資と資金繰りの実務
 業 種 別 小売業の支援、建設業の支援
■模擬講演:自分の言いたいことではなく、相手の聞きたいこと、相手の心を動かす訓練の場です。独自ツールをつかった指導によって、プレゼン能力の飛躍的向上が期待できます。
■交流会:仕事の相談、独立にかかるさまざまな相談ができる場、講師とのネットワークづくり、コンサル塾OBとの交流の機会として、講義終了後に交流の場を設けます。


申込先:城南支部能力開発部 コンサル塾担当 星野裕司 E:fieldstar25@gmail.com
氏名、住所、電話、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上メールでお申込みください


城北支部 城北プロコン塾4期生募集

主催:城北支部 能力開発推進部

 城北支部では、診断士としての資質とスキルの向上、診断士活動の場の拡充およびプロとして仕事に役立つ人脈の形成を目的として、平成25年に「城北プロコン塾」を立ちあげました。
 "今までにない実践的スキルが身に付くプロコン塾"として、城北支部の中から豊富な経験と実績を有する講師陣の熱の籠った指導のもと、製造業、小売・サービス業、商店街支援などの幅広い切り口で、一騎当千の実力を有する診断士を育成します。併せて、受講期間中を通して塾生自らが専門分野をブラッシュアップし、"メシのタネになるコンテンツ"を1本のレポートに仕上げるという課題に取組みます。
 卒塾後は、企業診断案件への登用、認定支援機関等への専門家登録の取次ぎ、ベテラン診断士のコンサル現場への同行訪問など、"稼げるプロコン"への更なるステップアップを城北支部全体でバックアップします。
開催日程:平成28年6月~平成29年3月 <全10回>
実施場所:「北とぴあ」会議室(最寄駅;JR王子)他
募集人数:15名
受講料:60,000円
カリキュラム:
※講師の都合等により一部変更となる場合があります。

申込&問合せ窓口:城北支部プロコン塾事務局(担当:石井 邦利)

         E:jouhoku-procon-info@googlegroups.com
         紹介HP:http://jouhoku-procon.jimdo.com/


三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介

主催:三多摩支部 能力開発推進部

 三多摩支部では、平成20年(2008年)に「多摩の塾」を開始し、将来独立を志向している方および新たな領域を開拓したいと考えているプロコンに対してコンサルティング「塾」を実施しています。3~5日間にわたり座学と演習を行い、特定の分野に対してプロとして通用する技能を修得していただくことを狙いとしています。多摩の塾の概要は下記の通りです。
 
  目   的:専門的な分野を掘り下げて、「専門家派遣」にて通用するコンサルティングの実践能力を修得すること
  対 象 者:新たな領域を開拓したいプロコン、プロコンを目指す企業内診断士、自己啓発を目指す企業内診断士
  平成28年度のテーマ(予定):事業再生またはM&Aなど(予定)
  開催予定日:7月下旬~10月下旬の3~5日間(土曜日開催予定)
  募集人員:20名(定員限定)
  参 加 費:15,000円~25,000円
  開催場所:国分寺労政会館またはビジネスト(中小企業大学校)(予定)
 
 「多摩の塾」は、コンサルティングスキル全般の向上ではなく特定の分野にテーマを絞りプロとしての知識、技能を身につけることを目指しています。その到達点は、プロとして中小企業社に価値評価されるレベルです。
 毎年テーマを選定して、7月から10月までの土曜日に実施する予定です。各回とも講義およびグループワークによる演習を行います。講義と演習および演習に関わるディスカッション、発表を中心に行いますが、各自が自分自身で考えること、自己研鑽を重視したプログラムを研修に組込みます。
 講師はテーマ分野において実務経験があり、現在現場で活躍されている支部の会員または協会の会員が行います。講義を担当する複数の講師と、グループワークをサポートする複数の会員で研修を進行します。また、必要に応じて企業経営者・支援団体の担当者などを招聘して、テーマに関連した実務や実際の対応などを話していただくこともあります。
 毎年実施するテーマについては、その時々の旬なテーマ、特に地域の支援機関との連携が強いという三多摩支部の特徴を生かし、支援機関において実施される事業との連携を重視した内容にしていきたいと考えております。
 (連絡先:三多摩支部 能力開発推進部長 谷 譲治 E:garyo21@mx2.ttcn.ne.jp)

2016.03.27
サービスの差異化を目指す事業者が設備導入でものづくり補助金を活用するために行った 経営革新計画策定支援事例

TAMA活性化支援グループ 細谷 和丈

E-mail:whosoya@topaz.ocn.ne.jp


はじめに
 対象事業者は、大手の安価料金理容店が台頭する中、理容業の差異化戦略として理容業だからできる新サービス(アフターシェービングO2エステ)の提供を考えた。アフターシェービングエステに対するニーズはモニター顧客ですでに確認されていたが、今回はそれらのニーズに応え、その効果をさらに高めるためのものである。それを実現するためにはO2発生器の導入が必要で、当社でもすでに検討していたが、課題は資金調達であった。
 そうしたタイミングに理容機器輸入商社の顧問コンサルタントから、国の「ものづくり補助金」の情報を知り、補助金申請要件として認定支援機関の支援が必要なことを知った。
いろいろ調べたが認定支援機関を特定できず、対象事業者の依頼税理士から支援要請を受けたのが認定支援機関で研究会「TAMA活性化支援グループ」の会長である。
 会長が第一に取り組んだことは、研究会が3年前から取り組んできた「ものづくり補助金セミナー」に参加してもらい、補助金の申請要件などの基本的知識を習得していただくことであった。
 第二の取り組みは、補助金申請に必須な経営革新計画策定の個人支援で、税理士、顧問コンサルタントとの連携で行った。その結果2014年4月12日に申請、同年6月28日採択され、9月3日交付決定後、補助事業を遂行、同年12月2日に無事事業を終了した。

Ⅰ支援対象事業者
1.事業者概要

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2.主要サービス:理容サービス「都内に以下の4店舗を展開する。従業員21名」

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3.渋谷区幡ヶ谷店の風景  

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Ⅱ 理容業界の環境 

 理美容店「プラージュ」(630店うち理容店286店)、理容店「QBハウス」(480店)などの大型安価料金店の台頭で、理容店間の価格競争が激化し、経営環境が悪化している。当店もその例外ではない。

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Ⅲ.支援対象事業者のこれまでの取り組みと課題
1.これまでの取り組み
 ① 15年前から女性のためのシェービングに積極的に取り組んできた。
 ② 7年ぐらい前から女性スタッフが揃ったのを機に、理容師の国家資格を持つ女性による、女性のためのシェービングを打ち出し、本店の1階で女性のためのリラクゼーションルーム(ボタンジュ)を開業した。 
 ③ その結果お客様の声(ニーズ)がより聞けるようになった。そこで分かったことは「肌のくすみの改善」と「アンチエイジング」である。
 ④ このニーズに応えるための方策を探している時に出会ったのがシェ―ビング後のO2エステであり、これを当社の革新的サービスとして実現したいと考えるようになった。


2.課題
  しかし、O2エステには設備投資(約240万円)が必要で、その資金調達が課題であった。
 
3.課題解決の模索
 ① 幸運なことに、平成25年度補正「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」では、平成24年度補正「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」では対象ではなかった商業・サービスが追加された。
   この情報の提供者は当事業者と取引のあった理容機器販売商社の顧問コンサルタントであった。
 ② 社長は内容を知りたいと補助金の事務局(東京都中小企業団体中央会)主催の説明会に参加した。しかし、初めての経験で担当者の説明を十分にフォローできなかった。
 ③ また、補助金の申請には認定支援機関の協力が必要であることを知り、理容機器販売商社の顧問コンサルタントの協力を得てホームページ等を調べたが特定できず、依頼先の税理士に打診をした。これこそが正に縁の始まりである。

Ⅳ 「ものづくり補助金」申請支援の取り組み 
1.「ものづくり補助金」申請支援の取り組み経緯 
  事業者の税理士から依頼を受けたのは認定支援機関で、研究会(TAM活性化支援グループ)の会長であったが、会長はあえて個人の支援とせず、研究会をからませた二つの取り組みで支援することにした。
  第一の取り組みは、研究会主体の「ものづくり補助金セミナー」による支援であり、第二の取り組みは研究会を離れての認定支援機関としての個別支援である。

2.「ものづくり補助金」の申請支援のプロセスと方法
  表4は研究会および会員による「ものづくり補助金」の申請支援のプロセスと方法をまとめたものである。理想的には①セミナー⇒②個別相談⇒③個別支援のフルコース参加がお薦めである。しかし、実際にはセミナーや個別相談のみの参加が多いのが現実である。今回紹介の事例も日程が合わずセミナーのみの参加であった。

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3.第一の取り組み(研究会によるセミナーと個別相談)

1)ものづくり補助金申請支援に取り組めた要因
 ① 研究会員の中に補助金申請支援経験者(平成24年度補正「ものづくり補助金」で採択実績がある)がおり、また研究会自体が「ものづくり補助金」等をテーマに企業向けのセミナーを10年前から開催していたことによる。
 ② 表5は2013~2015に研究会が開催したものづくり補助金セミナーの回数と参加者数である。3年間で11回開催し、185人の参加があった。

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2)セミナー、個別相談会風景

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3)支援の特徴(セミナー・個別相談の競合優位性)

 ① 講師の実践経験が豊富でポイントを絞った解説ができる。
 ② 公的支援機関ではできない採択事例を交えた分かりやすい解説ができる。
 ③ セミナー講師を担える人材が豊富である。(会員14名中10名が経験者)
 ④ セミナーは有料である。(本気度を示す)
 ⑤ セミナー当日のオペレーションでは会員全員が自分の役割を持つ。

4.第二の取り組み(個別支援の方法と内容)
  個別支援は認定支援機関が税理士および理容機器商社の顧問コンサルタントと連携して行った。対面での支援は2014年3月24日と最後の5月1日の2回のみで、その間の支援は補助金申請書の実質的取りまとめ者とのメールでの経営革新計画書作成支援となった。

Ⅴ 取り組みの成果と課題

1.支援事業者の成果等
1)研究会のセミナーに参加した事業者は会員の個別支援・認定機関としての実効性確認を経て6月28日には「ものづくり補助金」の東京事務局より採択通知を受け取り、9月3日交付決定後、事業を完遂し、2014年12月2日には事業を終了した。
2)採択後中小企業庁のチラシ「平成25年度補正予算事業」の事例として紹介された。
 ブランド力の向上が期待される。

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3)補助金事業に取り組んだ結果、平成27年3月決算で売上もわずかながら増加するとともに、社員の一体感が醸成された。

Ⅵ 今後の取組み
1.支援対象事業者の今後の課題
  補助金事業は無事終了したが、新規事業の本格的な立ち上げはこれからである。
  以下が課題と考えられる。
 ① 本事業は2店舗で行っているが地域により集客に差が出ている。
 ② ゲット顧客(商圏内のアンチエイジング意識の高い40~50歳代の女性)に対するシェービング後のO2エステの効能を訴求する作戦の継続的展開、たとえば小規模事業者持続化補助金の活用による販路開拓などが必要と思われる。
 ③ 顧客満足を高めるためO2エステ施術技術のさらなる向上による競合優位の追求
   たとえば、社内コンペテイションによるO2施術技術の研鑽など、スタッフのさらなる能力開発が望まれる。

2.研究会活動の総括
1)活動の成果
  今回紹介した事例は研究会および会員の取り組みの代表的事例である。表7は会員の個人支援を含めた研究会全体の取り組み成果で、採択された事例が18件あった。

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2)予定外の成果
  当初想定していなかった以下の成果も出ている。
 ① セミナーや個別相談で支援スキルを磨いた会員が個人支援のチャンスを拓いた。
 ② セミナーは経営者だけでなく、中小企業診断士の意識高揚の機会も提供した。

おわりに
 TAMA活性化支援グループは15年前に設立され、当初はTAMA協会の実働部隊として会員の課題解決支援を担った。しかし、コーディネーター制度が導入されてからはその役割を終え、地域企業の経営革新をテーマに独自に活動してきた。
 10年前からは経営セミナーを通して企業の経営革新支援を、また3年前からは「ものづくり補助金」申請支援に軸足を置いて活動してきたが、これからも挑戦、相互研鑽、革新、実践を理念として、企業の経営革新を実践支援できる以下のような研究会を目指したい。
 ① 話して、聞いて、ハモる(自分の意見を出し、参加する)そんなゼミ志向の研究会。
 ② もっとアグレッシブに中小企業の経営革新支援に挑戦する研究会。
 ③ 支援対象事業者を惹きつけることのできるアトラクティブな研究会。
 ④ 成果の共有化(見える化)と先輩から受けた恩を後輩に返せる(恩送りの)研究会。
 ⑤ 他の組織(支援機関・地域診断士会・診断士以外の士会)との連携ができる研究会。

2016.02.25
ストーリーとしての「ウェブサイト構築」 コンサルティング・マニュアル

中小小売業の情報化研究会(POS研) 大久保 紀子
E-mail: n.okubo@plusyou.biz

はじめに

 ICT(IT)の活用は企業経営にとって重要な課題となっている。中でもウェブサイトを活用することによって、大きく業績を伸ばしている企業は少なくない。中小小売業の情報化研究会(POS研)では、多くのウェブサイト構築支援実績に基づき、支援事例を一般化し、ウェブサイト構築を支援するための手順をマニュアルとして体系化した。


 本マニュアルでは、コンサルティングのプロセスをフロー図で表し、各プロセスで必要とするデータ(インプット)、作成するデータ(アウトプット)を定義し、さらにプロセス間のデータの流れを示した。データの流れを「ストーリー」として落としこむことで、経営者の理解を得たうえでウェブサイト構築を進めていくことができる。現在、バージョン1(V1)としてダウンロード販売で提供している。
 (http://www.dlmarket.jp/products/detail/260653)
 
 本稿では、マニュアルに沿ってウェブサイト構築に「ストーリー」をもたせる基本的な考え方を紹介し、支援企業への適用例をとおして具体的なウェブサイト構築の事例を紹介する。

1.「ウェブサイト構築」 コンサルティング・マニュアルについて
(1)ツール開発の経緯
 企業の情報化を支援する一環として、ウェブサイト構築のコンサルティングを行う機会が増えている。特に、ホームページの作成支援を行う事例が増えてきたことから、ウェブ知識のない中小企業診断士でも支援が行えるよう、コンサルティングの方法を体系化し、「ウェブサイト構築コンサルティング・マニュアル」としてまとめることとした。
 これまでの構築支援実績をベースとしてツール開発を行い、事例として紹介する河野エムイー研究所(製造小売)、他2社のホームページ作成支援をとおしてマニュアルのブラッシュアップを図った。

(2)基本的な考え方
 ウェブサイト構築における中小企業診断士の役割は、単にホームページを作成することではなく、経営理念の策定から、費用対効果を考慮した業者選定アドバイス、ホームページ導入後の効果検証、改善までのPDCAサイクル支援まで、ウェブサイトを通した経営目標やマーケティング目標の実現にある。 
 したがって、本マニュアルでは以下の5章に分けてPDCAサイクル全体を支援することを目指している。(図表1、図表2)

201602 2p-図表1.jpgのサムネイル画像201602 2p-図表2.jpgのサムネイル画像
(3)マニュアルの特徴
 各章には、章のテーマに応じた複数のプロセスがあり、プロセスは「インプット」「ツールと技法」「アウトプット」からなっている。それぞれのプロセスでは、集めた情報を「インプット」とし、適切な「ツールと技法」を用いて情報を加工し、成果として「アウトプット」を作成するような形式を採用している。アウトプットは他のプロセスのインプットとなっており、プロセス間のつながりをデータフロー図として表している(図表3) 。

201602 2p-図表3.jpg
 たとえば、第1章「経営戦略」では、7つのプロセスを定義している(図表4)。これらのプロセスのうち、「1.5 経営戦略の検証」プロセスを中心とした「インプット、ツールと技法、アウトプット」(図表5)、およびフロー図(図表6)の例を示す。
 このように、第1章から第5章までのすべてのプロセスがフロー図としてつながっているため、ホームページ作成支援において作成すべき成果物が明確になり、全体をストーリーとしてとらえることができる。そのため、支援する診断士・経営者の双方にとって理解しやすいようになっている。

201602 3p-図表4.jpg201602 3p-図表5.jpg201602 3p-図表6.jpg
2.ツールの活用事例、成果
(1)事例企業について201602 4p-図表7.jpgのサムネイル画像
 株式会社河野エムイー研究所では、本マニュアルをもとにホームページのリニューアルを行った。
 株式会社河野エムイー研究所(代表取締役:河野英一氏)は、2002年に設立され、川崎市内のインキュベーション施設にある。
 事業内容は医療・健康機器の研究開発や技術コンサルティングである。その中でも「減塩モニタ」(図表7)を主力製品として販売している。本製品は、日々の塩分摂取量を手軽に家庭で測定するための器具である。NHKでも紹介され、複数の大学の教授からも推奨されている高血圧患者の減塩治療にきわめて有効な製品である。リニューアルまでは主として他の通販サイト経由での販売を行ってきた。

(2)支援内容
 ウェブサイトの改修に際し、経営者から課題として、以下の2点を求められた。
 ① 乱立する通販サイトから自社サイトへ誘導し利益率を改善すること
 ② NHK等のマスメディアによるパブリシティの活用
 背景として、これまでは「減塩モニタ」に知名度が不足していたこともあり、通販サイトから言われるままの値付けで販売していたが、NHKで紹介された後は売り手の交渉力が強くなったという、外部環境の変化があげられる。
 経営理念「人々の生命、健康に役立つ技術を実用化する」を確認し、経営戦略の策定を行い、「専門医師や福祉関係者の推薦、マスメディアによるパブリシティを活用し、高血圧や腎機能に不安を感じている消費者をターゲットとする」ことを基本戦略とした。その上で、ストーリーとして、「自社サイトの魅力を高めることにより、高血圧予防に興味のある潜在顧客の流入を図る。その上で自社サイト内の巡回やリピート訪問を促し、結果的に減塩モニタの販売につなげる」とした。
 以下、各章でのポイントを説明する。

1)第1章「経営戦略」
 「1.6マーケティング戦術策定の」のアウトプットとして「マーケティング戦術」、「1.7ウェブサイト・コンセプト確定版作成」のアウトプットとして「ウェブサイト・コンセプト」を策定する。
 「マーケティング戦術」は、販売サイトや商社に対し、取引数量に応じた価格を一律に適用することにより、既存の取引業者の選択と集中を行い、自社サイトにおける直販の強化を図ることとした。
 「ウェブサイト・コンセプト」は、「高血圧予防」関連用語の検索順位の上位に当社サイトが表示されるように、コンテンツの充実によるSEO対策を行った。具体的には、まずパブリシティの活用として、NHKや朝日新聞などのマスメディアにおける専門医師の推薦を紹介した。また、定期的な情報発信により高血圧や腎機能に関する関連用語や記事の発信を強化することとした。あわせて、高血圧患者は主に男性であるが、プレゼント用など購買者と使用者が異なることを想定して、女性の購入者を意識した表現にした。

2)第2章「ウェブサイトの分析」
 「第2章 ウェブサイトの分析」では、主として「2.1キーワード分析」、「2.2ウェブサイト・アクセス分析」、および「2.4ウェブサイト・コンテンツ分析」を実施した。
 「2.1キーワード分析」では、「高血圧予防」関連用語の中でも「高血圧」のようなありふれた単語では、多くのサイトの中に紛れてしまう。よって、「クレアチニン」や「慢性腎臓病」のように潜在顧客による検索数が多い割には、他サイトでの掲載数の少ないやや専門的な用語を狙うこととした。
 「2.2ウェブサイト・アクセス分析」では、まず利用者の現状を確認した。アクセス元は首都圏が多いものの全国からアクセスがある。平均滞在時間が1分、最初のページで離脱する率が45%になるため滞在時間を伸ばす余地が大きいことがわかった。動線分析では、全体の8割が検索サイトからの訪問であり、検索ワードは製品名の直接入力する割合が40%を占め、残りの5割は減塩や減塩食に関わるワードであり、製品情報取得以外を目的としていた。
 「2.4ウェブサイト・コンテンツ分析」では、スタートページを除いた人気ページは「製品紹介」43%、「減塩レシピ」11%であった。
 以上の結果から、検索ワードとして多かった「減塩レシピ」を更に充実させ「減塩食」経由のアクセス数の向上を図り、製品ページに誘導することとした。

3)第3章「ウェブサイトの設計」
 「3.1ウェブサイトの目標設定」のアウトプットとして、「ウェブサイト目標設定シート」以下のとおり設定した。(図表8)

201602 5p-図表8.jpg

「3.2ドメイン選択」では、本製品そのものを強調するため、会社名ではなく、製品名である「gen-en-monitor.com」をドメイン名とした。
 「3.3コンテンツフロー計画」では、「減塩メニュー」、「クレアチニン」、「CKD」等キーワード分析で洗い出したワードを主題とするページを作成して、SEO対策を行うこととした。また、検索サイトからどのページに来ても、製品情報や注文情報に容易にアクセスできるようにした。

4)第4章「ウェブサイトの制作」
 「4.5ウェブサイト構築」については、必ずしも中小企業診断士が実施する必要はなく、適切な外部業者に依頼することも検討する。ただし、ウェブサイト制作会社が、意図したコンセプトやサイト設計にもとづいて制作できるように業者と経営者の間に立って、中小企業診断士が調整するようにする。また、「4.2CMSツールの選定」で検討するように、汎用的なCMSツール(htmlなどの専門知識がなくても簡易にウェブサイトを構築・運用ができるツール)などを利用することで、運用開始後に経営者自身がウェブサイトを更新できるように留意する。

5)第5章「ウェブサイトの運用」
 「第5章 ウェブサイトの運用」については、経営者や従業員が定期的にブログなどの更新を実施するのが理想である。しかし、日常の業務プロセスの中にウェブサイト更新業務を組み込まなければ放置された状態となる。長期に更新されていない状態はウェブサイト訪問者によくない印象を与えるため注意が必要である。経営者には高血圧関連用語の用語集を定期的に作成するように助言した。理由は経営者にとって更新しやすいテーマであり、関連用語を充実させることが検索上位に上がることにつながるからである。

(3)支援成果
 ウェブサイト改修を行った2012年度の販売台数は前年度の5倍程度にまで上昇した。(図表9)201602 6p-図表9.jpg
 支援実施後も、NHK(再放送)や新聞などのメディアで、何度か減塩モニタは取り上げられた。それらの情報を自社のウェブサイトに記載するパブリシティの活用により、本製品に対する訪問者の信頼を厚くしている。
 トップページでは改修の結果、視認性が改善し、顧客が必要とする情報や注文書に容易にアクセスできるようになった。(図表10)
 結果的に乱立していた通販サイトへの顧客流出を防ぎ、自社サイトによる直販比率が増加し、利益率の改善を実現することができた。

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3.今後の課題
 近年においてWEBマーケティングでは、ホームページだけでなく、SNSやECサイトなどの周辺技術も含めた全体的な活用が求められている。本マニュアルで作成するストーリーを軸として、業種・業態に応じたICT活用の支援ができるよう、引き続きマニュアルのブラッシュアップを進めていく予定である。
 

2016.01.29
公的オープンデータの 中小企業支援・地方創生への活用

公的オープンデータの 中小企業支援・地方創生への活用

三多摩支部データ活用研究会 黒田 一磨

はじめに

 データ活用研究会では、どういった課題に対して、どういった情報が必要で、どうやってその情報を入手するかといったデータ活用のプランニング部分(以下、「データ活用設計」)の開発を中心に活動している。診断士活動にデータを活用するための手順を整理することで、データ活用の習得の容易化や、診断の質を高めることが期待できる。

1.ツール開発の経緯

 企業活動におけるデータ活用の重要性が増している。しかし、中小企業が単独でデータ活用することは難しい。なぜなら、データ分析を習得するためのコストや時間がかかりすぎることや、自社データを分析可能な形で保有していないためである。  診断士が支援活動に使えるデータやツールは整ってきている。インターネットを通じて無料で取得できる信頼のおけるデータが数多く存在する。たとえば、総務省が運営しているインターネットサイト「e-stat」では各種統計調査の結果をダウンロードすることができる。内閣官房および経産省が運営している「地域経済支援システム」では地域に関する情報を取得することができる(以下、オープンデータ)。また、分析や効果的な表示を可能にする無償・安い解析ツールも存在する(R、QGIS等)。

 しかし、診断士の中小企業や商店街への支援活動はまだまだデータドリブンで行われていない。その原因として、個々のデータやツールの使い所と、診断手法との関係が整理されていないことが考えられる。

 そこで、オープンデータを活用した支援手法を開発した。具体的には、データを支援活動に活用するための手順を整理し、ツールや解析手法の位置づけを明確にすることを試みた。中小企業を支援する診断士は、データ分析の習得と公的オープンデータの活用により診断の質を高め、活躍の場を広げることが期待できる。

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2.開発ツールの概要

 開発ツールの概要は以下のとおりである。

 ・ツールの名称:データ活用設計

 ・活用領域・目的:中小企業支援、地方創生プランニング支援のデータ活用設計

 ・ツールの利点:一定の手順に従い、公的オープンデータを活用した支援活動ができること

(1)データ活用設計の手順

 診断活動でのデータ活用の全体の流れを解説する。まず、目標を設定し、その目標を達成するまでのプロセスを整理する。そのプロセスなどをもとに課題や課題解決策の方向性を洗い出す。この際に各課題のKPIとKPIの目標値を設定する。次に、各課題解決策をより効果的に行うための情報をデータから導き出し、課題解決策を具体化する。最後に、課題解決策の実施成果をモニタリングする仕組みを整理し、実施成果から更なる改善策を検討できるようにする。

手順概要

(1)目標を設定する

   ・目標が達成された状態を定義する

   ・目標値と期間を設定する

(2)目標達成までのプロセスを整理し、課題を特定する

   ・目標達成までのプロセスを可視化し、構成要素の数値(量や割合)を記入する

   ・改善ポイントを選定し、KPIとその目標値を設定する

   ・課題と課題解決策を洗い出す

(3)課題解決に必要な情報・入手方法を特定し、具体策を検討する

   ・課題解決に必要な情報を定義し、必要な情報(データ)の取得方法を検討する

   ・データ収集の実施計画を策定する

   ・データを収集し、分析する

   ・データ分析結果を評価し、具体策を検討する

(4)課題解決策の実施成果と目標への貢献度を評価し、改善策を検討する

   ・実施成果のモニタリングフローを設計する

   ・実施成果を評価し、改善策を検討する

3.公的オープンデータの中小企業支援への活用

 開発した手順とは別に、まずは公的なオープンデータや無償の解析ツールでどのようなことができるのかといった活用例を紹介する。国勢調査や家計調査等の統計調査結果を活用した「商圏内の地域特性・潜在購買力を推計する手法」を紹介する。次に、「商圏特性にあわせた販売促進計画を立てる手法」を紹介する。

(1)商圏内の地域特性・潜在購買力を推計する手法

 ここでは、品揃えの見直しや売上目標の設定などを想定して、商圏内の潜在購買力(市場規模)を推計する手法を紹介する。まず、商圏を設定し(駐車場の有無や、ターゲットの移動手段などにあわせて)、その商圏内の世帯数をカウントする。調べたい商品の世帯あたり購買額を、家計調査で調べ、先ほどの世帯数と掛け合わせることで、商圏内の潜在購買力を推計することができる。

 商圏内の統計情報を分析することで、地域特性の概要を把握することができる。たとえば、性別・年齢別人口から家族構成やターゲットの多寡、昼夜間人口比率から通勤通学の拠点性などである。商圏内(一定の距離内)のデータを抽出する際には、GIS(地理情報システム)の使用をおすすめする。QGIS等の無償で使用できるツールがあるので、興味のある方は試していただきたい。

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(2)商圏特性にあわせた販売促進計画を立てる手法

 商圏内の競合店や人口・世帯のデータから、効果的なチラシの配布エリアを特定する手法を紹介する。手順は、先ほどの商圏特性を調査する手法と同じで、商圏内の性別・年齢別人口からターゲットが集中して分布するエリアを特定する。配布するエリアが絞れたら、世帯数を調査し、チラシの配布にかかる費用を見積もる。また、競合店の配置を調べるために、タウンページなども利用できる。

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4.公的オープンデータの地方創生への活用

 地方創生では、「まち・ひと・しごと創生法」に基づき、人口の減少に歯止めをかけ、それぞれの地域の住みよい環境を確保し、将来にわたって活力ある社会を維持していくことを目的としている。

 これらの実現に向けた計画策定段階は、人口ビジョン策定段階と総合戦略策定段階の2つの段階に分けられる。人口ビジョン策定段階では、人口の現状・将来見通しなどを分析し、方向性を検討する。次の総合戦略策定段階では、人口ビジョンを踏まえ、より具体的な施策に落としこんでいく。

 本稿では、某地方自治体での人口ビジョン策定段階の支援をもとに、開発したデータ活用設計の手順に沿って、目標の設定、現状分析・課題設定、施策案の基礎分析例、目標(将来人口)とKPIのモニタリング・評価手法を紹介する。

(1)目標設定

 目標設定段階では、目標が達成された状態を定義し、その目標を定量的に表現し、より具体化していく。上記の地方創生の目的の通り、状態目標のおおまかな内容は定義されており、とくに補足することはない。目標値については、「4.目標とKPIのモニタリング・評価手法」で解説する。

 企業支援ではこの段階がもっとも重要だと考えている。データ分析というと、調査手法や解析手法に目がいきがちであるが、「何を調べるか(手段)」よりも「何を知りたいか(目的)」を先に明確にしておく必要があるからだ。

(2)現状分析・課題設定

 この段階では、目標達成までのプロセスを構造化・可視化し、改善するポイントや課題・方向性にあたりをつける。各構成要素の定量的なデータを明記することで、客観性を持たせることや、各構成要素の関連性を検証することが可能になる。  次図に、将来人口の維持を目標とした例を示す。

201602_tokusyu_6_1.jpg(3)施策案の基礎分析

 先ほど洗い出した各課題への解決策(施策案)の具体化や検証のために、基礎分析を行う。たとえば、周辺地域における立ち位置を把握するために、昼夜間人口比率(昼間の人口を夜間の人口で除したもの、通勤通学の拠点性の評価指標)が役に立つ。中核都市のベットタウンに位置づけられるのか、集客力があり小売業などの活性化の見込があるか、どの地域との連携・差別化を図るべきか、などを検討する際には分析することをおすすめする。また、地域内の視点では、人口密度や面積あたりの売上高が、施設配置や統廃合を検討する際に役に立つ。

 次図に、昼夜間人口比率の分析例を示す。

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(4)目標(将来人口)とKPIのモニタリング・評価手法

 各施策の目標値・KPIを前提条件として、将来人口のシミュレーションを行い、目標値の妥当性や将来人口への効果を検証する。また、実施段階における実績値をモニタリングし、進捗・目標の達成度合いの評価や、効果の検証に使える仕組みを構築する。

 次図に、将来人口のシミュレーション例を示す。

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(5)成果  本稿の執筆時点でも多くのプロジェクトが計画段階にあるため、定量的な成果は得られていない。そこで、定性的な成果として、ワーキンググループ(自治体職員、外部専門家)からいただいた感想を紹介する。

 ・データ(統計)と施策とのつながりを整理することができた。

 ・データで状況を客観的に整理することで、新たな気付きが得られた。

 ・いままで成果を数値で振り返ることは積極的に行ってこなかったが、とても大切だと感じた。

5.今後の取組予定

 診断士の立ち位置としては、データ活用のプランニング部分が本質的な部分だと考えている。ツールを使えるに越したことはないが、分析の専門業者への外注という手段もある。  今後は、研究会会員の支援経験や専門領域の知識と併せて、支援活動に必要なデータ活用手法・着眼点の整理・開発や、データを活かした企業支援を予定している。

2015.12.26
アグリビジネスにおける都市部のマーケットリサーチツールの開発と実践

アグリビジネス研究会 松井 淳、細野 祐一

はじめに
 アグリビジネス研究会では、流通チャネルを切り口として農産物および食品加工品の市場調査に使える汎用的なツールを開発した。
 このツールの利点は、消費者ニーズを極力具体化・定量化し客観的に調査することにより、農産物加工品の潜在需要を把握することができ、商品開発の方向性の決定、効果的な販路開拓、販売促進活動に役立つ点である。
 当研究会では、本ツールを、A県B町の山菜加工品の有償の市場調査プロジェクトに適用し、クライアントより高い評価を獲得することができた。

1.ツール開発に至る背景
(1)食農産業にとってのマーケット調査の必要性
 近年、食品産業の市場の停滞に伴い、商品間・産地間での農産物や加工品の競争は激化し、ブランド化に成功したものは都市部において高い価格で取引される一方で、市場価値が低いものは低価格化が続くなど、二極化の様相を見せている。
 高付加価値化と販路開拓が大きな課題となる中、農産物の主生産地は農村地域であり周辺需要が限られることと、生鮮品のままでは保管・流通方法が限定されることから、扱いが容易で付加価値の高い加工食品に加工し、地域農産物の加工品の販路開拓に取り組む農業経営体は多い。しかしその多くは、都会の人々のニーズが掴めずに、販路開拓やブランド化に苦戦しているのが現状である。
(2)アグリビジネス研究会の取り組み
 当アグリビジネス研究会では、農産物の生産から販売までのアグリビジネス全般の研究および診断手法の開発を進めており、農商工連携や6次産業化というテーマで診断士の活躍の場を開拓してきた。特に、東京という大都市を拠点に活動しているという利点を生かし、いくつかの農産物や加工品の流通加工に関するマーケット調査に取り組んできた。
 たとえば、北海道ジンギスカンの需要調査、焼き鳥店の店舗実態調査、土壌改良剤と機能性野菜の市場調査、などを行ってきた。
 これらの調査では、食農業界に詳しい中小企業診断士が中心となり、個別に調査方法を組み立て、調査してきたが、個人のノウハウをツールに落とし込んで食農業界の診断経験が少ない人でも実施できるよう、市場調査ツールの開発に取り組むことにした。
 

2.開発したマーケットリサーチツールのコンセプト
 農産物および食品加工品業界の特徴として、流通構造の複雑さがあげられる。生産者(農業経営体)、卸売業者(卸、仲卸)、加工業者(1次加工、2次加工)、小売業者、直売店、飲食店などが複雑に絡み合っており、商品の提供形態も生鮮(常温、冷蔵)、1次加工、中食(持ち帰り)、外食(飲食)と多岐にわたる。
 これらの複雑な流通形態は、食品に関する多様な消費者ニーズに応えるために、発展分化してきたともいえる。

201601-7p.jpg そこで、本マーケットリサーチツールでは、流通業者を切り口として、想定するターゲット顧客層のニーズを直接的および間接的にとらえることとした。ターゲット顧客層のニーズを仮説として作り、その仮説に基づいた調査項目を、流通形態ごとの調査項目と調査プロセスとして標準化して整理する(流通経路別ツールキット)。この調査項目と調査プロセスには経験者の調査ノウハウを盛り込み、経験の浅い診断士でも一定品質のマーケット調査が実施できる構造になっている。

 本マーケットリサーチツール開発の特徴・利点は、次の3点である。
 ① 流通経路に着目して網羅的に捉えたこと
   小売店、消費者、飲食店、食品加工業者、卸売業、ネット販売業という、農産物加工品の販路を網羅し、各販路の特徴を踏まえた調査項目と手法をまとめている。基本的にほとんどの加工食品に適用できる汎用的なものになっている。小売業や飲食業は、さらに細分化し、顧客層や購入動機別の売り方も調査できるようにしている。
 ② 調査対象に沿った帳票・手順、ITツールを準備したこと
   調査対象に基づき、調査が多面的になるよう質問項目を洗い出した。店舗の観察では、品揃えや顧客への訴求の様子がわかるようにし、消費者への調査では、出身や環境で好みに違いがでているかなど、ヒトに焦点を当てた調査項目を洗い出した。このように予め調査項目を決めることで、調査担当者が異なることによる調査結果の違いが出ないようにした。
   また調査対象によってツールの媒体も揃えた。小売店の観察は基本的には調査員が店に行き観察する手法となり、紙に記入する方式にした。個々の消費者へのアンケート調査は、ITを活用しネットで声を拾うようにした。この手法では、簡単に多くの声を拾うことができ、集計も簡単にした。また情報収集と分析が並行して行えるようクラウドを活用し情報共有もできるようにした。
 ③ 多面的な分析の切り口を整理したこと
   小売店、飲食店、食品加工業、卸売店などで、一般的に活用できる分析の切り口を準備した。また消費者アンケートにおいては、アンケート項目間での相関分析を準備し、ターゲットとする顧客層とニーズの関連を分析できるようにした。

3.マーケティングリサーチツールの具体的内容
 リサーチの目的を「首都圏における『特定農産物およびその加工品』の消費者や食品関連業者の購入・仕入ニーズを調査する」と仮定して、以下のようなツールを設計した。

(1)調査対象の範囲
 本ツールを開発するにあたって、農産物およびその加工品のマーケティングの観点から、どんな製品であっても調査が必要になると思われる調査対象範囲を列挙して、調査対象を以下のように設定した。
201601-8p.jpg 上記は1次データであるが、①~⑥の調査を効率的、効果的に行うにあたっては、2次データによる事前調査を行っておくことも重要である。2次データの調査としては、以下の分野を挙げた。

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(2)ツールの内容
 各調査対象に応じて、以下のようなツールを開発した。

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4.本ツールの活用事例と成果
(1)本ツールの提案事例
 本ツールの基本構成を作成したのち、当研究会の会員経由で、ある農産物生産者から、A県B町における「地域経済循環創造事業」(注1)への公募の話が持ち掛けられた。応募テーマが地域農産物(山の幸)の加工販売による地域のブランド化と農産物加工品の拡販であった。そこで当研究会では、同事業への応募にあたって、当ツールを用いた首都圏における販路開拓の可能性に関しての基礎調査の実施を提案した。その提案が無事採択されたため、有償での調査を受注するに至った。
(2)本ツールを活用したプロジェクトの実施
 提案内容の通り、調査事業の受注を受けて、本ツールを用いた包括的な市場調査を、平成26年1月下旬~2月の1か月余りで実施した。
 実施に当たっては、既存の標準ツールに以下の3点をアレンジして活用した。
 ① 特に依頼元の農産物生産者の関心が高いと思われ、小売店および飲食店に対しては、会員の紹介を通じて実際の食品サンプルを渡して、商品価値に対する評価も行ってもらった(合計7件)。
 ② 依頼元の農産物生産者の農産物およびその加工品は流通量の少ないものであったため、卸売業者への定量的な調査は実施せず、会員の紹介を通じてのヒアリング調査にとどめた。
 ③ 加工品に対する調査は、加工業者が全国に広範囲に分散していることが判ったため、インターネットによる調査にとどめた。また、具体的な農産物および加工品を想定していなかった標準ツールでは、調査項目に掘り下げ方が足りない部分があったため、本調査の受託を通して更に標準ツールの完成度を挙げながら作業を行った。最終的には、小売店調査(40件)、消費者調査(150件)、飲食店(20件)、加工業者(20件)、卸売業者(3件)に対する調査を実施し、報告書(本編46ページ、調査データ73ページ)を作成した。

(3)ツール適用の効果
 ① 依頼元の農産物事業者から、今回調査結果について、顧客より「予想以上のでき栄えだ」と高い評価を得た。本案件は東北地方の事業者であったため、「首都圏(都会)での、商品の使われ方、消費者ニーズや、販売現場での売られ方が分らない。本調査を通して、首都圏での販売機会の全体像を広く浅くとらえることができた」、との評価をいただいた。その事業者は、順調に基礎調査段階を終了し、首都圏でのテスト販売活動のステップへと進んでいる。
 ② 中小企業診断士として、診断調査プロセス面で、以下のような3つの効果が得られた。
  ・スマートフォン活用による調査効率の向上:手軽に回答できる利便性のおかげもあり、メインターゲットである女性の回答比率を高めることができた(40%が女性)。またWEBを使った消費者調査のため、2週間で150件ものアンケートを集めることに成功した。
  ・効果的な作業分担により短期間で多くのデータ収集が可能に:10名あまりのメンバーで実施したが、調査フォーマットが定義されていたため、調査と分析・執筆作業を分離して分担することができた。具体的には、小売店・飲食店の調査はメンバーが自宅に近い地域で効率的に分担調査を行い、データの分析と執筆はそれぞれ担当の調査対象を決めて責任をもってまとめる形が取れた。それによって多くのデータを短期間で集めることができ、調査の信頼性を高めることができた。
  ・クライアントへの効果的な提案:提案時に標準ツールを使って調査項目や内容を明示したことで、農産物・加工品分野での調査ノウハウと実績があることを訴えることができ、本研究会を交付金事業の実施パートナーに選定してもらうことにつながったと考えている。提案に当たっては、調査項目が当初からわかっていたため、今回のような短期間の調査であっても、具体的な調査実施件数等について、安心して提案時に見積ることができた。

5.今後の課題
 今回の成果を受けて、さらに、横展開を図りながらツールの精度、適用範囲を広げていくことが課題である。
(1)農業の経営診断テンプレートとして整備し活用を促進
 マーケットリサーチツールを、農業経営の経営診断に結び付けられるように、経営診断用テンプレートとして整理してアグリビジネス研究会内での活用を促進する。
 また活用した結果を研究会の中で共有し、活用ノウハウの蓄積を進めていく
(2)適用領域の拡大
 アグリビジネス研究会の一つの診断メニューとしてJAや農業団体にアピールしていく。
 また、農産物加工品だけでなく、生鮮農産物、農業サービス(観光農園等)、水産業等周辺分野へも適用をすすめる。
 さらに将来的には、農産物の海外展開に役立つよう海外の都市部のマーケット調査にも活用できるようにしていきたい。海外における日本食人気やTPPによる自由化を見据え、高品質の農産物をアジアや欧米への輸出に取り組む事業者も出てきている。これらの事業者を支援できるツールとしても展開したい。
(3)適用情報の蓄積によるリファレンスモデル作りとその活用
 多くの調査に同じ手法を適用し、調べた情報を蓄積しデータベース化することで、リファレンスモデルとして活用することが可能になる。たとえば、ある作物の需要調査において、その類似作物の調査結果があれば、需要がある市場が類推でき、より精度の高い調査が可能となる。


(注1) 総務省主宰の交付金事業で、産学金官連携により、地域の資源と地域の資金を活用して、事業を起こし、雇用を生み出すモデルの構築を行う自治体を支援するものである。

2015.11.30
TOKYO SMECAニュース12月号研究会論文

TOKYO SMECAニュース12月号研究会論文

ロスプリベンション研究会

1.研究会紹介
 当研究会は2005年、現場でコンサルのできるロスプリベンション(商品ロスの防止)手法を研究し、診断士の新しい活躍の場を創造することを目的に発足し、今年で10年を迎えた研究会である。
 消費者の購買行動が変わり、商業者にとっては売上高を伸ばして利益を確保する方法が難しくなってきている。そこで従来あまり顧みられることがなかった「商品ロス」に焦点をあて、万引き・社内不正・伝票管理をロスプリベンションの立場から解明し、最終利益を確保する増益手段としてこの手法を活用する時がきていると当研究会は考えている。

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 いままで当研究会はロスプリベンション診断として、大手CD販売店、大手雑貨店、ローカルスーパーマーケット、中堅ドラッグストア等数多くの診断を通じて経験をつみ、企業のロスプリベンション担当者とのネットワークを築いてきた。そして近年はその実績を踏まえて、当研究会が2010年9月にロスプリベンションの普及啓蒙を目的として設立した一般社団法人ロスプリベンション協会と協同で、日本で最大のセキュリティー関連の展示会であるセキュリティーショー(日本経済新聞社主催)でのセミナー等講演活動も5年連続で実施している。

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 当研究会の活動は座学と外部講師による講演、実践と大きく3部構成になっている。
 ・座学:ロスプリベンション協会で作成した「店長が学ぶ実践商品ロス対策」を使った当研究会員による講義であり、ロスプリベンションのステップ、万引きのできない店舗づくりについて体系だった内容を学習している。

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 ・外部講師を招いての講演:株式会社トイザらス、株式会社ライフ、日本万引防止システム協会等実際に現場でロスプリベンションを実施しているご担当者をお招きし、臨場感のあるお話をいただいている。
 ・実践:昨年よりミステリーショッパープロジェクトを立ち上げ、半年かけて調査マニュアル・調査票を作りあげ、今年よりトライアルとして書籍販売店、簡易調査としてヤングアパレル店のミステリーショッパーを実施した。
 今回はミステリーショッパープロジェクトの活動内容を紹介する。

2.ミステリーショッパープロジェクト
 当研究会は過去数多くのロスプリベンション診断を実施してきたが、診断にはヒアリング・現場調査等、依頼主への多大な負担や、財務諸表の開示が障害となり、なかなか踏み切れないことが多かった。そこで導入診断としてミステリーショッパーという手法により、依頼主に負担をかけることなく、顧客視点で問題点・改善案を提示することで、ロス率改善に貢献したい。そして依頼主の信頼を得て、その後のロスプリベンション診断につなげたいという思いから立ちあげたプロジェクトである。
 ミステリーショッパーをビジネスとしている事業者はすでに多く存在するため、同じことをしていても差別化できない。そこで将来的には数多く調査サンプルを集め、回帰分析等統計手法を使って、ロス率予測モデル(たとえばこの項目を改善すると、ロス率が改善する等)の確立をしたいと考えており、座学には統計に関するテーマも盛り込んでいる。
<ミステリーショッパープロジェクト>
 ・目的:ミステリーショッパーにて当研究会オリジナルのビジネスモデルを構築すること
 ・市場環境:CS目的のミステリーショッパーは数多くあるが、ロス率改善を目的としたミステリーショッパーはほとんどない
 ・強み:専門家(診断士)の目による調査、問題点・改善案の提示
    クライアントに負担をかけない調査
 ・目指す研究成果:調査結果を蓄積、要因・原因の分析を行い、ロス率予測モデルの構築
 ・調査先の開拓:株式会社日本保安(万引きGメン専門会社)のセキュリティサービスメニューのひとつとして、連携しての取り組み
 ・研究会員のメリット:診断士の診断実務実践場所の提供、実際のデータを使った統計手法
の知識の習得、新コンサル手法の開発

3.ミステリーショッパー調査事例
 今年に入って、トライアルとして書籍店6店舗、簡易調査であったがヤングアパレル店6店舗の調査を実施した。今回はヤングアパレル店の簡易調査を紹介する。

ヤングアパレル店P社
(1)対象店舗の概要
 P社はロス率の異常値が出ている店があり、担当者が困って当研究会に相談に来た企業である。首都圏を中心に全国に30店舗のヤングカジュアル店を運営しており、常に時代のトレンドに沿いながらも、自分達の主張を大切にしたスタイル提案をし続けるお店である。独自のスタイルを貫いたオリジナル商品に加え、新品から中古までワールドワイドなセレクトによる幅広い商品を取り扱っている。その品揃えはファッションだけでなく、音楽、アートなどさまざまなカルチャーをミックスしライフスタイルとして提案し続けているお店である。

(2)調査概要
 ・調査方法:下記調査票による現地調査、○×方式
 ・調査期間:2015年3月31日から4月3日
 ・調査員:中小企業診断士協会ロスプリベンション研究会メンバーのべ12名
 ・店舗数:首都圏6店舗

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 ※実際に使った調査票(調査項目はプロジェクト外秘のため隠しています)

(3)調査結果
 調査項目 中分類別に10点満点として評価

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             ※1従業員態度、2店頭店内清掃で店舗間格差がでている


 簡易調査でサンプル数が少ないので参考程度であるが
 ・総合点でA店・B店が高得点であり、その他は同レベル
 ・中分類別にみると1従業員態度・2店頭店内清掃で大きな差がでており、他は同レベル
 ・防犯機器については全店低得点

(4)調査結果より考えられる改善案
 ・A店・B店の店長による他店従業員への接客教育、本社による防犯教育の実施
 ・防犯カメラは防犯上および社内不正対策上、最低限レジ上に必要
 ・防犯ミラーは死角コーナーに設置することで、防犯上または声掛け等顧客サービス向上のため有効
 ・私服で接客にあたる店員と客の区別がつかないので、積極的な声掛け、大きな名札・腕章等一目で店員とわかる工夫の実施

(5)その他調査員からのコメント
 ・イヤリングなどの小物類を手に持って自由に歩けるため、店員の目を盗んでバックなどに入れることは、比較的容易だと思われる。ロスプリベンションの観点から経費はかかるが防犯タグは必要
 ・D店、E店は出入り口が1つなのでゲートなど設置しやすい。他の店舗も出入り口を少なくするなど、客の流れのコントロールをするべき
 ・全体的に元気な接客で声も良く出ていた。ただ、不審者対応などの教育を受けているか不明
 ・小物をいくつか持ってみたり、持ったまま動いてみたりしたが、それを不審に思っている様子はなかった
 ・店の雰囲気などに関係するが、万引き防止ポスターを貼るなど万引き対策を店側がしていることを客側に明示するべき

(6)P社の報告後の反応
 報告内容を参考にして、各店への防犯機器の導入を本格的に検討している。

4.今後のミステリーショッパープロジェクトの活動
 現在、某有名紳士服チェーンにおけるミステリーショッパーの話がすすんでいる。研究会の実績、研究会員の経験を増やすため、またデータ蓄積のため積極的に取り組んでいきたいと考えている。そして多くのデータの蓄積により「ロス率予測のモデル化」にトライしていきたい。小売店・統計に興味のあるかた、ぜひ一緒にやりましょう。

<研究会紹介>
ロスプリベンション研究会
代  表:秋元初心
メールアドレス:akimoto@a-d-d.co.jp
会員数:29名
開催日時:毎月第3金曜日
開催場所:大久保または代々木貸し会議室

関連組織:一般社団法人ロスプリベンション協会
HP:http://www.j-lpa.or.jp/

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             2014/7~2015/6活動実績

(文責:ロスプリベンション研究会事務局
 城東支部 小貫 直之)

2015.10.29
中小企業への「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」の導入に向けて

中小企業への「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」の導入に向けて

リスク・マネジメント研究会 佐々 比呂之
sassa@grape.plala.or.jp

はじめに
 当研究会が発足した1993年当時、リスクマネジメントや危機管理というのは未だ一般的ではなかった。1995年1月の阪神・淡路大震災後に一躍注目を集め、関連図書の刊行やセミナーの開催が頻繁に行われるようになった。その後東日本大震災などの自然災害はもちろんのこと、取引先倒産、事故・故障、情報セキュリティ、粉飾決算、不祥事、内部統制、法規制、経済情勢・政治情勢の変化などあらゆるところで、リスクが大きく取り上げられるようになってきた。
 一方、マネジメントシステムは国際標準規格として品質ISO9000シリーズが1987年に標準化され、1996年9月には環境ISO14001が制定されている。その後ISOは食品安全、情報セキュリティ、事業継続などさまざまな分野に活用されるようになった。リスク関連では2001年3月20日に日本標準規格JIS Q 2001:リスクマネジメントシステム構築のための指針が制定された。これはISOとは関係なく日本独自のもので、審査機関の認証を必要とせず自主的な運営ができるような仕組みになっていた。その後2009年11月15日にリスクマネジメントに関するISO 31000:2009 Risk management-Principles and guidelinesが制定された。そして2010年9月21日のISO 31000を踏襲したJIS Q 31000:2010 リスクマネジメント-原則および指針制定により、JIS Q 2001は廃止となっている。3p-図.jpg
 この規格を利用していざシステム構築をしようとしても、どこから手を付けて良いのか戸惑うばかりで、使いこなすのは容易ではない。そこで、比較的簡単にシステムを構築・運用することができる支援ツール、「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」を完成させた。
 それでは具体的な内容を見てみよう。

1.「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」
 「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」は、本文と様式編の2部構成となっている。
(1)本文
 本文は、中小企業において自社用に必要な文言(社名、組織等)を埋めていくことにより、自社専用の「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」ができ上がるというイージーオーダー的な形式としている。面倒な規程文書をそのまま活用することができるメリットがある。
 リスクマネジメントシステムを構築するにあたり、多くの人が迷うところでもある「リスクの評価指標」については、次のような一例を提示している。導入初年度は、さらに簡単にするために評価指標を5段階から3段階に減らすこともできる。

    【画像2】 「リスクの評価指標」例

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(2)様式編
 様式編は、リスクマネジメントシステム運用にあたり、必要となる各種様式のひな形を備えている。EXCELで作成しているため、集計等の自動化をしている。
 「リスク評価・識別表」については、別に定める「リスク分類表」(多くの業種でも使用できるように幅広くリスクを拾い、大分類、中分類、小分類と分類している)を参照して、 リスク評価を一覧化するものである。

    【画像3】 リスク評価・識別表

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 【図表4】各種帳票類

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 その他にも、リスク対策実施計画シート、リスクマップ、事故報告書、情報収集シート等の各種帳票類もセットしている。

2.中小企業への導入に向けて
「リスクマネジメント」というと、多くの中小企業の社長は、「必要であることは分かっているが、まずは今日の売り上げを伸ばしていかなければ始まらない」、「大企業のものでしょ?高いんでしょ?中小企業には金銭的にも、ヒューマンリソースとしても、そんな余裕はないよ」というような反応を示す。どうしても、後ろ向きなイメージがつきまとい、余裕があるときに考えるものと捉えられていることが多い。

(1)ターゲット
 「リスクマネジメントシステムの構築」を喫緊の課題としており、コンサルティング費用を負担することが可能な企業をターゲットとすることとした。
 それではどのような場合に「リスクマネジメントシステムの構築」が必要となるのか?一つは株式の上場であるが、上場を計画している企業は数が少なく、そもそも探すことは困難である。
 もう一つは法律等の改正である。対象となる業態全体に期限を伴って求められるため、数も多く、私たちがアプローチできる可能性が高まる。
 そこで、私たちは特別養護老人ホームや保育所などの「社会福祉法人」に注目することとした。2006年の公益法人制度に連なる形で、2014年より社会福祉法人制度改革が始まった。理事長や理事に対する責任が重くなり、コンプライアンス体制の構築も求められている。
 また、社会福祉法人は手厚い補助金や税制上の優遇措置を受けている。その上、主なサービスの価格は行政により決定され、提供する量も定員等により制約を受けるため、市場競争はなく、予算通りに事業を運営することが評価される。そのために多額の内部留保金が積立てられている。(特別養護老人ホーム1施設あたりで、3.1億円の内部留保金がある:平成22年度決算) 
 
(2)訴求ポイント
 ①コスト
  「リスクマネジメントシステム」を構築するにあたり、リスク対策はやり始めればきりがない。しかし、何も初めから満点を取りにいく必要もなく、初めは抑え目にすることもできる。年間予算に合わせて、できる範囲から始めることができることを理解してもらう。
 ②文書化メリット
  理事長の頭の中には、当該施設のリスク対策について、シミュレーションをされているかもしれない。しかし、文書化していなければ、もしもの時にその場に理事長がいなければ、指示もできない。施設全体の取組みとして、改めてリスクを見直すことで、職員の意識を高める効果も期待できる。
 また、施設にとっては重要な外部監査への対応が可能になる。
 ③リスクに対する危機感
  リスクと言えば、最近気になるニュースからも次のようなものを思い浮かべることと思う。
   *自然災害の増加(地震、噴火、洪水等)
   *情報化社会のリスク(ウィルス、漏えい等)
   *金融上のリスク(為替・金利の変動等)
   *伝染病の流行(MERS、SARS、エボラ出血熱等)
   *職員管理のリスク(虐待、いじめ等)
  理事長の危機意識を高め、平時の備えを万全に行うためにリスクマネジメントシステムの導入を検討してもらう。

(3)どのように導入するか?
 次のステップを踏まえ、当研究会として、リスクマネジメントシステム構築支援までを目指す。
 ①リスクマネジメントへの関心を高め、セミナーへの誘導
  a) 広く集客するために~ インターネットの活用
「ビジネス・セミナー・ガイド」等のセミナー紹介専門サイトを活用したり、当研究会ホームページの活用を念頭に考えている。
  b) 限定的なコミュニティでの集客
社会福祉法人の団体等に対してセミナー開催の営業を行う。
 ②リスクマネジメントを啓蒙するセミナー開催
  リスクマネジメントとは、決して後ろ向きではないことを伝えたい。また、施設の周辺にリスクが多く潜んでいるという実態から、事前に備えておく必要性を認識してもらう。そのような直接的な効果の他に、間接的な効果も存在する。
  a) リスクマネジメントシステムを導入して、得られるものは何か?【直接的】
   *もしもの事態に対して、予め備えることができる。
   *事故や損失を未然に防ぐことができる。チェック機能。
   *発生してから考えるのではなく、発生する前に準備することで、落ち着いて検討できる。
   *管理者がいなくても、文書化していれば、参照できる。連絡がいつでも取れるとは限らない。
  b) リスクマネジメントシステムを導入して、得られるものは何か?【間接的】
   *監督官庁による監査等の外部監査に対する備えとなる。
   *後継者の育成。リスクマネジメント構築のリーダーを委ねることで、施設の全体像も理解できる。また、次のトップになると思えば、真剣味も違う。
   *職員の士気の向上。これまでは、はっきりとしていなかった不安について、施設全体として取り組むことで解消する。
 ③リスクマネジメントシステムの構築支援
  次のような内容での支援を実施したいと考えている。
   *参加者:理事長もしくは後継者を含む。複数名可。
   *期間:2か月半(隔週土曜日3時間×5回)
    第1回 基本方針の策定、体制の構築
    第2回 リスクの洗い出し
    第3回 リスクの評価
    第4回 リスクの対策
    第5回 モニタリング・レビュー
   *毎回、前半は前回の課題の確認、後半は次回の課題の説明。

さいごに
 今回はリスクマネジメントシステムのニーズが高まっている社会福祉法人をターゲットとするが、もちろんその必要性を感じている一般の中小企業向けにも積極的に働きかけ、一助になればと願っている。
 
 研究会名:リスク・マネジメント研究会
 開催日時:毎月第3木曜日18:30~20:30
 開催場所:「青南いきいきプラザ」港区青山4-10-1(表参道駅より徒歩10分)

2015.09.28
昨年度の研究成果~デザイン思考によるイノベーション

経営イノベイション研究会 代表 井上 美夫

1.研究テーマ選定の背景

 日本企業における意思決定は、市場調査・分析による客観的な事実を基に、組織立って合理的に決定することが求められてきた。従って、市場への投資効果や競争相手企業への優位性確保などの事前評価が求められ、これを確認するまで意思決定が延ばされる。しかし、これは大量生産・大量消費時代の物質・有形の資産が中心のモノ経済モデルで通用したことである。現在は、過去の延長に未来は見えず、未知数の市場、顧客もまだイメージにない潜在ニーズなど、価値の源泉が原料から製品、サービス、そして経験へと移り、直感的な志向から仮説を設けて実験を行う創造性、主観的意思決定がスピード感をもって求められるコト経済モデルへと移っている。また、知識社会と言われた優位性も、インターネットによって知識は瞬く間に世界に拡がり陳腐化し、コモディティ化する社会へと変貌した。世界を席巻した日本の技術立国代表企業が市場から撤退を余儀なくされている姿は、技術や品質のみではなく、魅力要因の創出へ、創造性を資源として価値を生むことを重視する世界に進展していることを示している。

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 経営者は、経済性・文化性・社会性の最適解ビジョンを構想し、自社らしい最適解をビジュアル化しつつ精緻化して、アクションにつなげて社会や社員に示す会社のデザイナーとなった。つまり経営がデザインそのものになっている。

 一方、技術としてのデザインも機能性を追求する人間工学的デザインから、需要を喚起するモデルチェンジなどの見栄えを良くするデザイン、モノだけではなくサービスなどのソフトデザインやビジネスモデルのデザインへ拡充し、企業のすべてのプロセスを通じて顧客の経験をデザインする技術へと広がってきており、対象がモノから経営そのものにシフトしてきている。イノベーション研究には必ず表出する傑出した人材を中小企業が求めるべくもない。組織とプロセスでイノベーションを興す手法として「デザイン思考」を、またイノベーションを興す「場」の研究を行い、中小企業の経営に資することができればと考えた次第である。

2.デザイン思考とは
 デザイン思考は、社会をよりよく変えるためのイノベーション技法として誕生した。人間主体の発想でイノベーションを起こし、社会に新たな価値を提供することがデザイン思考の目的である。特集-2p-表1.jpg
デザイン思考では5つのステップでイノベーションを生み出す(表1)。デザイン思考の考え方、方法を理解し、活用することで、イノベーションを生み出すことが可能である。
【STEP1 深いニーズを知る(共感)】
  人々の気持ちに共感することで本当に求めているものは何かを明らかにする。ニーズには、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」があり、理解するためには、①「観察」、②「共感」、③「洞察」の段階を踏む。
【STEP2 問題点とゴールを決める(問題定義)】
  エネルギーを集中させ、もっとも効果を見込めるポイントを明らかにすることを目的とする。①問題を構成する要素を明らかにし、②さまざまなアクションとその結果を想定、③もっとも効果が見込まれる課題の順で行っていく。
【STEP3 アイデアを生み出す(創造)】
  アイデアを生み出すために必要なことは、たった一つの優れたアイデアを生み出そうとするのではなく、可能な限りたくさんのアイデアを量産すること、および、アイデアを生み出す段階と評価する段階をきちんと分けることである。アイデアとは「既存の要素の新しい組み合わせ」を意味し、少しでも多くの情報を集め、少しでも多くの経験を積み、慣習を打ち破るという意識で、すでにあるものを利用し、新しい組み合わせを考えることでアイデアは生まれてくる。
【STEP4 アイデアを形にする(プロトタイプ)】
  試しにプロトタイピングを作るということであり、アイデアを具現化していく過程である。具現化させることで、ユーザーへの共感が高まり、作る過程で、よりよいアイデアを手にすることもできる。この過程で大切なことは、確かめたいことを事前に決め、確かめたい部分にだけ特化したプロトタイプを作成するということである。①頭の中でアイデアを固め、②手を動かし、③形を作り、④目で見て確認し、⑤さらにアイデアを練る、というサイクルを繰り返していく。チャレンジ、失敗することでアイデアが洗練されていく。
【STEP5 アイデアを評価する(テスト)】
  問題解決のために考え出したアイデアが、当初の意図とおりにうまく機能するかどうかを確かめる。対象者の誰でも解決策を活用できるかという「再現性」、感情的な視点からアイデアの納得感や重要性を検証する「妥当性」の2つの側面から評価を行う。妥当性の検証では、ユーザーが得られるメリットは明確か、そのメリットが得られるとユーザーにうまく伝わっているか、これらを重要視することで妥当性を高めることができる。
  後にユーザーからのフィードバックをもらうことも重要である。その際気をつけるべきことが2点ある。1つは「予期せぬ成功を受け入れる」ということである。2つ目は「答えを推測しない」ということである。想定と違う利用方法や効果、予想外の発言であっても、否定せず受け入れることが必要である。

3.意味のデザイン
 イノベーションを興し創造性を経営に活かすために、「デザイン思考の5つのステップ」に共通して重要なこととは、視野を広くし、正しい方向性を確保し、本当に必要な目的に向かって英知を傾けることである。あたり前のことではあるが、この「意味のデザイン」は本来の評価軸さえも変えてしまう不思議な魅力を持っている。ここでは、その例として4つの視点から「意味」をデザインしている。特集-3p-図.jpg
① 事業目的を見直す。
 従来の自社の利益を最大化する営利事業から社会的利益の追求へとソーシャルビジネスへの転換や、CSR(企業の社会的責任)からCSV(共通価値の創出)へ持続可能性を高めるなど。
② 製品・サービスの目的(本来の意味)を見直す。
 「もし私が顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えていただろう。」(ヘンリー・フォード)顧客がまだイメージできていない潜在ニーズを掴むことが必要である。
③ 目的と手段の関係を見直す。
 日本は「手段」が豊富、でも「目的」を忘れているケースが多い。手段に囚われすぎると、本質を見失う。まず「利益」ではなく「よい目的」を考えるビジネスを実践することが重要である。
④ 枠組みを変える。
 上記アフリカのある国の市場調査報告は、リフレーミングの例であるが、捉え方次第でさらなる取組みが可能となる。

4.デザイン思考の事例
(1) 3Dプリンタ革命とデザイン思考
 「3Dプリンタ」とは、紙プリンタが平面(2D)に印刷するのに対し、3Dデータをもとに立体造形(3D)することのできる機器を指し、2013年が家庭用3Dプリンタ元年となる。
 特長としては、①中空形状や複雑な内部形状も造形可能(切削では不可)、②複数の異なる材料部品が一体化された状態を一度で造形可能、③誰でも毎回同質の物を造形できる(操作者への技術依存なし)、④モノづくり経済を、大量生産から職人モデルへ回帰させる可能性などがある。
また、応用分野には、機械(試作やモックアップ)、建築(建築模型)・医療(術前検討用モデル)、教育(モノづくり教育ツール)など広範囲に適応されている。

1) 第3次産業革命
 モノ(リアル)の製造革命は、情報(ビット)革命(20世紀後半)と比べ5倍以上の経済規模であり、革命としての影響力が大きい。資本家でなくともグローバルに起業(=民主化)でき、「もの作り」のデジタル化により、個人によるデスクトップ製造業(メイカーズ)が可能となる。資金調達では、クラウドファンディングが拡大中であり、個人製造業の起業を加速させている。まさに産業革命となりうる規模と影響度である。

2) 製造業の未来
 参入障壁が低く、起業家精神をくすぐるモデルであり、利益よりも自己の充足を重視する企業家が多く出現しやすく、起業家コミュニティーが成立しやすい。このような社会は先進国では達成されやすく、結果的に先進国も低コストで挑んでくる発展途上国と同じ土俵で戦えることになる。
 
3) デザイン思考から見た『3Dプリンタ革命』
① 共感:情報革命が先行する一方、モノの製造革命が遅れており、情報のグローバル化が進む中で、モノづくり分野での革命が求められていた。
② 問題定義:手法・材料・装置本体 等の開発が長く続いたが、ようやく「ダーウィンの海」を乗り越えた。当初の課題は、汎用材料が一定の形状精度で加工可能な低価格3Dプリンタ本体の一般への普及であった。
③ 創造:金属を含む各種材料に対応した各種手法が開発されてきた。
④ プロトタイプ:要素技術の進展により、種々の機能・価格帯の装置本体が開発・商品化され、市場に広く出回った。
⑤ テスト:現状では、対象材料の拡大と、形状的・組成的な精度の向上に向け改善途上にある。グローバルなモノづくりSCM体制に向けてのさらなる発展のためには、CADデータ等の知的財産・知的資産の保護の仕組みが弱く、さらなる技術的なブレークスルーが必須となる。

(2) 社会システムの変換
 従来の主に行政による地域課題解決方法は、制度的裏づけをつくり、それに沿って予算をつけ、国⇒都道府県⇒市町村⇒民間の委託者と指導と予算を降ろしていく方法である。しかし、この方法は、①十分な予算が確保できない、②行政は人手不足であり十分な指導が行き届かない、③限られた課題に対してしか適応できない、④法制面で縛られて自由な発想や行動ができない、⑤あくまでも縦割であるため横断的課題に対応できない、⑥多様な地域資源の活用が難しいなどの問題があり、また、現代地域で起こってきている新しい課題に対応できないという欠点を抱えている。
 これらは課題解決手法における欠点であるため、現在の複雑に絡み合っている課題を解決していくためには新しい発想により、多様な地域資源を有効に組み合わせていく解決の仕組みが必要である。図1はその概念図であり、図2は障害者福祉施設で課題となっている工賃向上をどのようなネットワークで解決していくかの1案である。
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 障害者施設(就労支援B型)ではいろいろな課題を抱えている。①まず人手不足があげられる。受注活動に従事できる専任者を置くだけの余裕がなく、営業活動が十分にできない。②受注時駆け引きに合って受注単価を上げられず、低く据え置かれているということがある。③受注できると、短納期のために急に忙しくなるが、その仕事が終わると次に受注できるまで仕事のない期間ができ、稼動率を一定に保てないことなど、さまざまである。

 この1案はそれらの課題に対応するために積極的な取り組み姿勢の事業所で共同受注組織を作り共同することで上記①②③の課題を解決しようとする案である。福祉事業所だけで組織の設立や運営ができない場合は地域のNPO法人や地域の人材などが手助けすることで運営も可能になる。この仕組みでは地域のNPOだけでなくいろいろな資源を動員して受注活動、品質管理、納期管理、マニュアルづくりが可能になる。行政や企業の信頼を高めることで共同受注組織の運営をビジネスにしていくことができる。
 
5.今後に向けての課題整理
 デザイン思考は、アメリカのデザインコンサルティングファームIDEO社のコンサルティングノウハウから発展し、アップル(Apple)社の初期のマウスや、パーム社のPDA(Palm V PDA)、無印良品の壁掛け式CDプレーヤーを生み出したことで知られ、P&GやGE、サムソン、ノキアといった大企業が事業戦略に導入するなど、世界的に注目を集めている。
 当研究会でもその手法を学ぶべく、「デザイン思考によるイノベーション」をテーマに研究してきたが、まだまだ手法を使いこなすまでには至っていない。今年度は、新たなテーマとして「場」を取り上げているが、再度、「デザイン思考」をテーマに取り上げて研究を深め、実務でも活用できるようにしたいと考えている。

6.研究会の紹介
 当研究会が発足したのは、リストラの嵐が吹いていた1996年(平成8年)である。設立メンバーは、リストラよりも新しい経営手法を追求しようという想いをもって研究会を立ちあげた。設立目的は、中小企業経営診断支援の資質向上に資することであり、経営手法の研究と経営課題解決法の実践的研究活動を行っている。特に、経営イノベーションを「価値の増加や全く新しい価値の創造」と解釈し、企業が抱えている困難な経営環境を克服でき、成長戦略を実行し経営ビジョンを実現させることに貢献できる活動をそのテーマとしている。
 日本経済社会の基盤を支える中小企業が「経営イノベーション」を起こすことにより、継続的に企業変革し、さらに発展・成長し、その結果、日本の将来社会が繁栄できると確信し、「経営イノベイション研究会」が微力ながら社会貢献したいと研究活動しているところである。
 さらに、①中小企業の経営イノベーションを支援できる実践的経営手法の確立とその実践、②中小企業を指導できる実践的な人材の育成、③会員相互の情報交換と親睦、人脈形成ができる研究会を目指している。特集-7p-写真下.jpg
また、会の運営方針は;
 ○毎年テーマを設定し、そのテーマに関する会員の自主研究発表と自由な意見交換
 ○参加した全員が充実感を持って帰れるように自由闊達でフレンドリーな雰囲気
 ○プロコン、社内診断士など肩書き、年齢も関係なく率直な意見交換を行うことで、人間関係の形成とコンサルとしての力量を磨く
 研究会は、毎月第3水曜日の18:30から約2時間行っている。研究会の見学・飛び入り自由で無料であり、常に外部に開かれている。

7.10年間の実績
●2006年度:BSCを活用した優良中小企業の戦略分析(日本経営品質賞大賞(中小企業部門)受賞企業:イビザ、ホンダクリオ新神奈川、武蔵野)
●2007年度:BSC事例研究(千葉ゼロックス、福井リコーなど)、ホンダカーズ中央神奈川の見学会と感想文、『バランススコアカードによる中小企業の戦略分析~優良企業の研究』:小冊子(写真(右下))にまとめ会員に配布特集-7p-写真上.jpg
●2008年度:中小企業(3社)のBSC作成支援および報告会。併せて、実務ポイントを取得。
●2009年度:昨年度、『バランススコアカードの知識』(吉川武男)をベースにしてBSCを実践した際に生じた問題点・課題を各章・各ステップの担当を決めて検討・討議
●2010年度:『バランススコアカード実践時の問題点・疑問点に関する検討』(小冊子(写真・上右))にまとめた。
●2011年度:会員による研究発表の他、外部講師による講演を実施(講師:永和総合事務所代表税理士 原田佳明氏)
●2012年度:①会津若松経営品質賞受賞企業3社の探訪ツアーを実施(オノギ食品、向瀧(旅館、写真(下))、会津若松三菱自動車販売)、②共催セミナーの開催(テーマ:福井県済生会病院はなぜ経営革新ができているのか。講師は福井県済生会病院 事務副部長兼企画課長
●2013年度:各メンバーが研究していることをテーマに取り上げ発表した。
●2014年度:デザイン思考によるイノベーションをテーマに会員が発表した。

●2015年度:イノベーションを興す「場」をテーマに会員が研究発表をしている。

執筆担当:岩橋 秀高、長島 博、濱田 良祐、井上 美夫 他

2015.08.30
医薬品業界従事者(初任者)向け通信教育テキスト執筆報告

医薬品等研究会 代表 竹中 洋介

1.はじめに
日本は少子・高齢化の進展で医療ニーズが増大する反面、財政窮迫のため歳出抑制の政策が実行に移されつつあり、今後更なる変動が予想される状態にある。
そのため、医薬品産業従事者は、単に技術的な側面だけではなく医療経済・政策的な側面を含め、業界を俯瞰して理解する必要性が大きくなっている。このような環境下で、従来、一般製造業従事者向け通信教育を提供していた職業訓練法人より、一次依頼者を経由し当研究会にテキスト執筆依頼があり、広範な人材(薬剤師・MR・技術者・薬局経営者など医薬品・医薬部外品・医療機器など広範な分野に関与している)を擁する当研究会の活動をアウトプットする好機と考え、執筆を受託した。
 
2.執筆までの経緯・執筆中の紆余曲折その他
当時の研究会活動は主として研究会内外の講師の話を聞く受け身の活動が多く、能動的な活動の好機と考え依頼を受けた前代表がこの委託を受けることにした。
しかしながら、一次受託者が専門外であったためか、当初依頼の内容は詰まっておらず、前代表が委託元の事務所を訪問、趣旨や最近の医薬品産業の環境について意見交換し、そのうえで、当方でテキストの目次や構成そのものを立案することになった。
呼びかけに応じた9名の執筆者が集まり執筆開始となったが、執筆メンバーよりこれで本当に完成するのかと危惧の弁を頂戴したほどであった。そこで、研究会員の所属事務所で考え方を練り骨子を徹底させるなどの緻密な作業が続いた。
最も苦労したのは、医薬品の研究開発について執筆可能な会員が少なく、神戸市先端医療財団アドバイザーとして、先端の医薬品開発の情報に多く接している川端隆司会員が担当、研究開発に関する専門書籍を何冊も参照いただくなど、依頼元の構成要件を満たすべく情報の精度と品質向上に努めた点である。
 
3.留意点
対象読者は医薬品業界に従事する初任者であるため、易しい表現が必要であった。そのため、技術テキストのように専門的な部分の詳述ではなく実務的な内容を初心者に解りやすく、最近の動きまで広く織り込み相互の関係が理解できるように考える必要があった。
具体的には、最近の医療供給政策、薬事法改正の意味・その効果など現代的な内容を部分的に深く解説するためにコラムを活用したこと、本テキストを入門書として使うが実務に入ったのち、もっと深く独学できるように種々の参考書・資料を挙げたことなど、多くの工夫を施している。

4.内容概要紹介
医薬品関連企業の新入社員および業界全体を俯瞰して学ぶ機会のない既存従業員に向けた内容であり、業界の概略を学び早期に全体図が把握できるよう構成されている。

第1章 製薬・医薬品の概要
   医薬品の特性と開発の歴史
   医薬品のもつリスクと対策(相互作用・安全対策等)
   医薬品の種類  医療用医薬品と一般医薬品

医薬品の全体像を把握することを目標に一般消費財と異なる医薬品の特性(生命関連性・高品質性・使用の緊急性・価格規制など)や医薬品開発の実際(基礎研究から臨床試験を経て製造販売の承認を得るまで)に触れながら「医薬品」の概要について学べる内容となっている。

第2章 医薬品・製薬業界
   製薬企業の分類
   医薬・製薬企業を取り巻く環境と製薬企業の現状
   病医院・薬局との関係と医療保険制度

内資・外資企業、専業・兼業メーカー、新薬・ジェネリックメーカーなどの違い、製薬企業を取り巻く医療保険制度、取引先である病医院・薬局との関係など外部環境や事業モデルなど内部環境的な視点まで業界全体を広く俯瞰した内容となっている。

第3章 薬剤師・薬事法
   薬剤師の扱える業務  薬事法

薬剤師の役割、薬剤業務の実際、専門薬剤師についてなど薬剤師に関係する内容を網羅する内容となっている。また、薬機法(旧薬事法)について法改正の内容を概説している。

第4章 医薬品の研究開発
   医薬品の開発  医薬品開発・製品化の流れ
   非臨床試験と臨床試験  承認審査
   研究成果の製品化のために

医薬品開発の流れ(基礎・創薬研究から臨床試験、製品化にいたるまで)、各種試験についての解説を行っている。
第5章 医薬品の製造
   医薬品の製造工程  原薬製造工程と製剤工程の違い
   原薬製造の流れ  原薬製造工程を構成する機器
   製造工程と工場における汚染の防止
   製剤工程のフローと機器の概要
   内服固形製剤設備の汚染防止管理
   医薬品GMPの概要  医薬品製造設備に関する基準
   ICHガイドライン  PIC/S

医薬品製造工程の大まかな流れと製剤工程および各工程で使用する代表的な機器類の解説を具体的に行っている。

第6章 これからの医薬品業界
   環境変化とこれからの医薬品業界
   治療効果を上げる医薬品開発の動き
   個の医療への動き  有限な医療資源の中で

高齢化に伴う医療経済環境の変化や分子標的薬など新たな医薬品開発の実際、代替医療などのトピックスを織り交ぜながら概説している。

付録:略語一覧表

5.成果と苦労・反省点
単に依頼に沿って執筆したわけではないため、結果として膨大な作業量となった。教科書的な底の浅い、細切れの知識の提供ではなく、最近の医薬品業界、医療経済、医療をめぐる国内外の関係を読み込み、医薬品の新しい動きとその背景、法改正の背景など幅広い内容ながらタイムリーな話題は深い内容を目指した。幅広い分野をいかにわかりやすく、かつタイムリーに解説するかに主眼を置いたため、本書の内容については業界解説本としては良いものになったと依頼元から評価をいただいている。
依頼元の担当者は引用資料を隅々まで読みこなし、「最新版では、ここがこう改定されていますが、こちらで良いですか?」とたびたびの確認・提案があり、「最近の開発の具体的な動きを追加していただきたい」等の希望が出された。
二次受託の形であり、一次受託者との契約・原稿料支払や税務処理など、事務処理的な体制が当初十分でなく、9名にのぼる執筆者に対する原稿料の支払い、税務処理など煩雑な処理に手がかけられないとのことで危惧したが、関係者各位の尽力により、無事解決した。
研究会としての専門性を維持・向上していくために何ができるかを考え今回の執筆を受託したが、結果として執筆担当者の自己研鑽に加え外部に自らの専門性をアウトプットすることに繋がり、大変有益であったと考えている。

6.今後の展開
今回の執筆活動を単に有志の仕事として終わらせるのではなく、業界誌等に会員の研究成果をアウトプットすべく、その後、当研究会内に「執筆ワーキンググループ」を設置した。
今後の研究会の活動の方向の一つとして、実務ポイント獲得につながるコンサルティング案件への取り組みなどと併せ、社会に還元できるアウトプットを意識した活動に取り組んでいきたいと考えている。

                    

「製薬・医薬品の基礎」執筆者等について

執筆者全員の氏名はhttp://www.iyakuhin.org/ をご覧ください。

また、本書購入希望の方は代表 竹中洋介のメールアドレスtakenakashindanshi.jp 【▲をアットマークに置き換えてください。】までお申し込みください。折り返しご連絡いたします。

2015.07.31
中小企業の海外展開支援 ワールドビジネス研究会

中小企業の海外展開支援
                             ワールドビジネス研究会 徳久 日出一
1.研究会設立の経緯
当研究会の前身は『ISG(東京国際スペシャリスト会)』である。1990年代からJICAやJETRO等の業務を中心に内外で活動していた国際診断士が、独自にISGというグループを結成して東京支部内で情報交換や交流を行っていた。ところが、ISGは東京支部所属の公認組織ではなかったため、2005年末に発展的に解散し、2006年1月、当時の東京支部や各支部の国際部のメンバーを中心に、国際関連業務に従事、または興味を持つ診断士を対象として当研究会を設立した。

2.研究会の概要と特徴
 【研究会の目的】
 経済のグローバル化や中小企業の国際化に対応するため、以下の目的で活動している。
 ①国際社会に貢献する中小企業診断士としての知識、技術、品格の向上を目指す。
 ②国際関連・海外ビジネス情報等を収集・調査し、診断士や関係組織等に提供する。
 ③多彩な交流を通して、国際関連業務に携わる診断士のネットワークを構築する。
 【過去の活動実績】
国際関連業務に必要な知識、ノウハウ、スキルの向上を図るため、株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツと共同で、JICAやJETROをはじめとする国際支援機関や金融機関等の担当者を講師に、10回にわたって海外展開支援のための講座を開催した。
また、会員の有志により、以下のような書籍や資料を執筆・出版している。
・図解『BRICs経済がみるみるわかる本』(PHP研究所)
・入門『NEXT11がみるみるわかる本』(PHP研究所)
・図でわかる! 新興国の実力『BRICsとNEXT11のすべて』(PHP研究所)201507_tokusyu_2.jpg
・『海外進出のための基本情報2013年度版』(首都圏産業活性化協会)
 【WBAとの連携】
前身のISG解散後、研究会の発足とほぼ同時期に、診断士の国際業務を開発する法人組織として、株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ(WBA)が設立された。WBAは現在、診断士が経営し事業活動を行う企業として、東京協会の賛助会員(法人会員)にもなっており、多くの研究会会員を含め約80名の診断士が登録し活動している。
 【現在の活動状況】
通常、毎月第3木曜日にWBAのオフィスで定例会を開催している。会員約150名。

3.中小企業の海外展開
中小企業の海外展開には大きく分けて、販路開拓と直接投資(海外進出)がある。経営資源に制約のある中小企業では、最初から大きな投資をせず、「小さく始めて大きく育てる」考え方が重要である。ある程度の売上が見込める大企業の下請け等の場合を除いて、当初は海外への販路開拓からスタートして、相応の実績や営業基盤が確立された後に、本格的に海外に進出することが望ましい。しかしながら、最近では、国内市場の人口減少・高齢化、およびアジアや新興国の急速な経済発展に伴い、飲食業やサービス業等が直接海外に進出するケースも増加している。
初めて海外展開に取り組む企業は、支援機関や専門のコンサルタントなどから、海外ビジネスについての基本や考え方をしっかりと学んでおくことが肝要である。中小企業が海外で成功するためには、まず、理念・ビジョン・戦略を明確にすることである。
販路開拓の場合、海外での展示会や商談会に参加することが第一歩である。そこで自社製品に対する現地での反応や販売可能性等を調査・確認し、その後の販路開拓プロセスにつなげていく。下図のような標準モデルに沿って、展示会や商談会で興味を示した企業を選別し、有力な相手を訪問して、取引先として適当かどうかを判断することが必要である。

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4.海外展開支援事例
最近の事例として、昨年、当研究会幹事の廣井正義会員が実施した案件を紹介する。

(1)食品製造業A社の中国販路開拓事例
 ①企業概要
関西に拠点を置くA社は食品製造業である。売上の80%はOEM供給、20%が自社ブランド商品で、国内で製造・販売している。強みは長年の経験とノウハウで蓄積された特殊な加工技術で、その製品の風味や味わいは、他社では真似のできない職人技から生まれている。しかし、ほとんどがOEM供給で、日本国内では自社ブランドでの大規模展開が難しいため、海外への販路開拓を意思決定し、公的機関を使って海外の展示会に参加した。しかし、欧米やアジアで幅広く展示会に参加したものの、次の一手を打てないでいた。

 ②販路開拓戦略の再構築
展示会への出展等を通じて調査の結果、A社の製品は中国での販売に向いていることがわかった。しかし、今までコンタクトのあった企業とは数回メールでのやり取りだけで、その後連絡が途絶えていた。基本的には待ちの姿勢で対応も場あたり的となっており、自分たちで何をどのように進めていくのかという方針が漠然としていた。
そこで、中国のどの市場に対して、どの商品でアプローチし、どの層を狙うのか、それをどのように進めるかなど、マーケティング戦略の再構築を提案した。そのためには、自分たちの足で歩くことが必要であり、メール交信のみで、相手との面談なしでは販路開拓には結び付かない。商談相手と会って商品とターゲットをすり合わせ、落としどころを探る必要がある。訪問し直接交渉することで、商談をより具現化させることができる。
 
 ③現地での販路開拓支援
過去に連絡のあった企業リストを分析し、ターゲットとする企業を選択した。加えて、未接触だった企業の中から、可能性のありそうな候補をピックアップし、現地訪問することを決定。11月に上海で開催されるFHC Chinaという展示会への参加を予定していたため、そのスケジュールに合わせて、上海での訪問先を決定した。
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上海以外では北京と成都をターゲットとし、数社の主要卸売業・小売業を訪問した。日本から訪問するとどこでも大歓迎され、商談により相手先の規模や販路、得意分野等の貴重な情報が得られた。A社も、自社製品の紹介や試食、今後の計画等、具体的なプレゼンを行うことができ、お互いの理解と協力体制構築の第一歩を踏み出すことができた。
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 ④今後の活動計画
1回目の出張後、訪問した企業の特長や可能性を再度分析し、攻略する市場と優先順位を検討した。それぞれの強みを生かして、開拓するターゲットを明確化することは、今後の戦略立案には必要なことである。そして、熱が冷めないうちに2回目の訪問を提案した。当初は渋っていたが、前回の御礼とともに、今後の進め方や関係強化の依頼をしたところ、ぜひ本格的に取り組みたい旨の回答が得られ、担当者からもモヤモヤしていた営業活動への不安が一気に解消された、と非常に喜ばれた。
その後も定期的にコンタクトを繰り返しながら、少しずつターゲットと商品、プロモーション等が具現化しており、市場に商品が供給される日も近いと感じている。

(2)飲食業C社のアセアン地域進出事例
 ①企業概要
C社はラーメン店を経営している。過去の豊富な飲食店経営の経験から、日本では消耗戦が続いていること、成長するにはそれなりの体力が必要であること、一方、海外に目を向けると、まだまだ可能性の余地が高いことがわかり、海外進出を検討していた。

 ②支援のきっかけ
同社が海外展開の資金について金融機関に相談に行ったところ、経営革新の承認を取るよう言われ、認定支援機関に登録している私の方に計画立案、申請支援の依頼がきた。経営革新計画の申請と承認については、これが大変な苦労であった。所在地である地方自治体の担当者より、事業の新規性については「すでに相当程度普及している技術・方式等は不可、他社との違いを明確にすること」しかも、「海外展開で、海外子会社の業績を連結決算や配当等で日本本社に還元するだけでは不可、日本本社が直接売上・利益を得なければならない」という。これには少々閉口したが、話を伺っているうちに、この担当者は、いかにしてこの案件の承認を得るかを真剣に考えていることが分かった。そこで、何回も申請書を提出しては電話とメールでやり取りを行い、ようやく承認が取れた。

 ③事前可能性調査(F/S)
経営革新申請の際に作成した事業計画を基に、国内でさらに可能性調査を行い、海外店の進出先ターゲットとしてホーチミンとプノンペンに絞り込んだ。当初想定していたシンガポールとバンコクは、競争の激化に加えて賃料の高騰、従業員の確保難等がネックであった。一方、ホーチミンは日本料理店の市場が発展途上で可能性が高く、プノンペンは日本料理店の進出が始まったばかりで、大きな潜在力を秘めている。また、ベトナムはアセアン統合に向けてさらに市場開放が進む予定であり、今後期待が持てる。カンボジアはまだまだ発展途上だが、外資の参入障壁が低く、飲食業も外資100%で登記が可能であることが分かった。
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それらの調査結果を基に、両地での現地調査を開始。調査項目は、ラーメン店をはじめ、日本料理店出店状況、従業員の雇用状況、法規制、商習慣、不動産事情、食材調達事情、厨房機器の価格等に加えて、外国人の居住環境やコスト、物価や賃金の上昇実態等々である。
調査の方法は、日本ではインターネットや新聞、雑誌、公的機関でのヒアリング、セミナーの聴講、関係機関での情報収集。現地では、公的機関現地事務所、日本人商工会議所、日系金融機関の出先、日系のコンサル企業、不動産会社、法律事務所、税理士事務所、さらに現地に駐在している中小企業診断士のネットワーク先等を訪問した。また、事前に企業側よりインターネットを通じて、日系ラーメン店を中心に参考になりそうな日本料理店をピックアップしてもらっていた。そして、いよいよ現地調査のスタートとなった。

 ④現地調査の実施と帰国後の作業
現地調査では、面談先を訪問しながら、その空き時間を使って市内の日本料理店、ラーメン店等の市場調査を行った。店舗では実際にオーダーしてひたすら食べ歩き、写真を撮り、メモを取る作業が続いた。

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帰国後、それらの情報を項目別にまとめて整理し、事業計画に落とし込み、ベトナムとカンボジアの事業計画書をそれぞれ作成、優先順位を決めた。その上で、それらを統合する企業としての事業計画書を作成するとともに、5年間の目標B/SとP/Lを作成し、それに伴う資金計画も作成した。
現在その計画を基に、まずはベトナムでの起業を目指して、登記手続きを申請している。現在の目標は、年内にカンボジアでも登記を行い、2拠点での店舗展開を実現するべく準備を進めているところである。

☆中小企業への対応で、いつも大切にしていること

  ・相手に興味を持ち、相手の話を根気よく最後まで傾聴する
  ・経営者の過去の実績をしっかりと認識し、その功績を尊重する
  ・経営者のビジョンに向かって、指導ではなく、伴走しながら支援する
  ・答えは経営者の中にある。それに気づいていただくお手伝いをする
  ・具体的で明確なゴールを設定し、軸がぶれないように誘導する
  ・常に謙虚さを忘れず、上から目線で対応しないよう気をつける
  ・経営者と一緒に汗をかき、長期的な友好・信頼関係を構築する 


5.診断士にとっての大きなチャンス
政府の日本再興戦略の中で、具体策として「国際展開する中小企業の支援」が挙げられており、成果目標が、今後5年間で1万社の海外展開を実現することとなっている。そのため、現在、政府によるさまざまな海外展開戦略が打ち出されており、下表のように、いまだかつてないほどの支援施策が用意されている。以前は各省庁や各支援機関がそれぞれバラバラに支援策を展開していたが、今回の特徴はオールジャパンとして、各機関が協力して取り組んでいることである。

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いま、国際ビジネスに携わる診断士にとって、さらに、これから挑戦したいと考えている診断士にとっても、このような施策を上手に活用して、中小企業の海外展開を支援する最大のチャンスである。詳しい内容については、この「中小企業海外展開支援施策集」、ならびに各支援機関のホームページ等を参照されたい。

2015.06.27
新陳代謝を高める再生構造への変革を遂げる中小企業再生支援研究会

新陳代謝を高める再生構造への変革を遂げる中小企業再生支援研究会

筒井  恵

me.tsutsui@linksp.jp

1.研究会紹介
2006年度、再生手法の調査研究に端を発し、今年10年目を迎える。研究会は二部構成になっており、第1部は、外部講師を招き、2008年度に中小企業庁経営支援課課長、2014年度に岡山の世界的優良企業『林原』林原靖氏にご講演いただく等、中小企業庁、中小事業再生支援協議会、金融機関等との連携を深めている。第2部は、第一線で活躍されている講師陣により実践現場から旬のテーマで講話いただいており、企業再生スキームを実践交えて習得できる。
金融緩和から変わろうとしている今、企業再生の支援ニーズは益々高まっている。新陳代謝を実現するため、事業承継&再生は国を挙げたテーマとなっており、激変する企業再生のスキームを深耕する研究会である。
事例として、業態転換した事業者の再生内容を以下に提示する。

2.事例研究 ~ニット製造業~
(1)事業再生の概要
従業員40名、資本金10,000 千円
当社は、ニット製品の製造業として製造主体の工場を長年業としていたが、機械装置や工員を維持管理しながら事業継続するには市場獲得が困難になってきた。このまま事業を継続しても、採算がとれないことは明確であり、経営革新を図ることが必至であった。
事業社と検討していく中で、取引先との信頼関係をより強固なものにしていくために、新たな取り組みとして長年ニット製造業として培ってきた独自の技術を生かし、本格的なニット製品の修理・リフォームサービスの提供とこれらを総合的に機能させるため、サプライチェーンの支援体制を構築していくことを目標とした。

(2)窮境原因を分析
①製造工場の方向性
かつては量産品を扱っていたので、採算が取れていたが、多品種少量生産になり、自社で製造するのは割があわなくなった。相当のパート・アルバイトを雇用していたため、人件費負担は大きかった。自社製造では限界があると判断し、分散化・外注するようにした。

②営業所の失敗
製造工場を維持するために、新規取引件数の拡大および売上の増加を目的とし、営業所を構えた。営業スタッフを3名増員し、恵比寿に営業所を開設したが、これが裏目に出た。営業所の維持が相当の負担になっており、担当者3名は解雇した。1年で実質閉鎖するまでの間、賃借料は払い続けた。多少売り上げは伸びたが、大きな損失を空けてしまい、その期の決算は15,696千円の赤字を計上した。
売上は40,000千円のダウンであるが、かかる経費削減と、粗利率向上によって、繰越損失は清算できる見込みである。

③自社のコア・コンピタンスを活かしきれていなかった
ダイレクトマーケット事業としては、全国300社の専門店を確保できているにもかかわらず、活かしきれていなかった。

(3)窮境原因の除去策
①請負製造業からの脱却
ニットの修理専門サイトを構築し、専門店と取引する中で、専門店側300社の賛同を得ながら立ち上げた。修理機能など、リテールサポート機能があるので、専門店にとって有効なサイトになりうる。高級ニット製品の直しを中心としたパイプの太い修理専門店として構築した。
外注先は、品質レベルが確保されており、ニット製品とともに外注先製品をラインナップして市場に流すことが可能であるため、当社とWin-winの関係を築くことができる。

②営業所の撤退
営業所の成果を出せないまま、運転資金(家賃、人件費、活動費、等)も相当支出した。営業所を閉鎖するまでの間、大きな損失を空けてしまった。営業所撤退した後は、単純計算で30,000千円/年の経費削減が実現できた。

③コア・コンピタンスを活かした事業革新
撤退するまでの1年は大幅赤字であったが、欠点を是正(コンサル営業の復活と、営業所の閉鎖)し、その後、新規事業に着手する。今回の経営革新の核となるアウトレット店舗とニット修理専門サイトの運営を行うことで、顧客の囲い込みとサプライチェーン支援の実現を目指すビジネスモデルを構築した。

(4)経営革新の内容
①経営革新の内容を洗い直した上で、当社の強みとして以下の項目を洗い出した。
・製造直売による低価格販売を実現。
・全国優良専門店が行なっている顧客満足向上ノウハウを持っている。
・全てオリジナル商品なので、顧客の要望を即製品化する事ができる。
・原材料メーカーの糸や生地の余材を利用し、OEM先メーカーの閑散期などを使ってディスカウント製品を企画し、コストパフォーマンスを実現できる。
・OEM依頼先製造業者からの商材提供等のコラボレーションにより、幅広い商品構成が可能である。
・バッグ製造業者の在庫を代理で販売するなどのコラボレーションにより、販売アイテムが豊富に揃う。

②当社のコア・コンピタンスを活かした新たなビジネスモデルの展開で、以下の革新事業が期待できる。
・大手アウトレット=安売り量販店、とは品質・サービスともに大きく性質が異なる。
・既存取引先である全国300の専門店へ、ライバル他社が真似のできない、弊社独自のニット製品の修理サービスを提供し、より強固な取引関係を構築していく。
・HPを開設し、インターネットを使ってエンドユーザーへ幅広くニット製品の修理サービスを提供していく。
・Webを通じて顧客となったお客様に対し、同時に商品紹介も行ない、直接販売にまでつなげる。

③ビジネスモデル図

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(5)川上の差別化要因(大手メーカとの差別化)
・修理を拒む:工場の生産ラインをとめてやらなければならないので、費用が高額になる。
・手間のかかるサービスについて、大手はしたがらない。
・1週間~2週間で修理できるところ、大手は製造業者の空き手間を待つため、1ヶ月以上待たなければならない。
・修理方法が雑で、元の高級ニットデザインの特徴を殺してしまう。
・消費者ニーズを汲み取って対応できるだけの人材が存在しない。
・バッグ製造業者等は、むしろ取引先になりうる。品質レベルが確保されるのであれば、当社製品とともにラインナップして市場に流すことが可能であるため、Win-winの関係を築くことができる。

(6)川下との差別化(価格訴求品量販店等と比較した優位性)
①価格訴求量販店と比較した優位性
量販店は、紡績の質の圧倒的違いがある。着衣してみると理解できる品質なので、販売店も取り扱いしやすい。プライスラインはユニクロでも通用する値ごろから高級品までの幅があるが、全般に金額以上の満足度は得られる。よって、価格訴求量販店よりも強いポジションで展開できる。

②百貨店・専門店と比較した優位性
・百貨店・専門店では、上代を下げられない。
・百貨店・専門店では、修理方法含め製品のノウハウが乏しい。
・対面販売であっても顧客管理の荒さが出ている。
・百貨店でそろえきれない商材も当社では取り扱うことが可能である。
・当社は、デザインの情報収集から製品化、流通させるまでのリードタイムが短い。

③Webサイトの優位性
販売サイトは楽天、古着オークションなど、多く存在する。一方、修理サイトは手間がかかるため、大手は参入しづらい。サイトを運営しているのは、縫製業者もしくはミシン販売業者である。全国的に見ても、修理は片手間で運営している事業者が大半で、リテールサポート機能を有し、消費者と製造業者をつなぐサプライチェーン構築を具現化している修理サイトは当社に限られるのではないかと検討した。

(7)再生成果
多く存在する「たたき売り」タイプのアウトレットと比較すると、当社は、戦略的で確実に利益を上げられる仕組みが構築できている点で、他には見られない形態である。修理についても、他社は修理スキルが低いので、元のデザインを壊して修理してしまうケースが多い。品質の確保ができるのも、当社の強みであり、信用である。
アウトレットショップとニット修繕専門サイトの運営の相乗効果がみられ、粗利確保の仕組みも構築されており、新事業が高付加価値を生み出したことで結果が出た。
計画1年目からの販売管理費については、売上高対比で直近の33.1%から1年後25%に大きく低下しているが、直近の販管費には売上高への貢献が低かった営業所の営業担当3名の人件費半年分が含まれており、この金額を除くとこの期の売上高対販管費率は、約27%である。また、付加価値の高い新規事業の売上高構成比率は、計画以上の伸び率を示した。
結果、1年目から黒字化し、早い段階での再生が果たせた。今後は、更にローコストで専門店の囲い込み、並びにネットとの相乗効果を目指す。

3.これからの再生支援あり方
当研究会が発足した当初は、再生手段としてコストカットの対策が主流であった。
第1段階:P/Lのコストカットはすでに済んでいる
  ↓
後に、不動産処分含めて、B/S是正対策が行われた。
第2段階  個人資産含めて、資金投入は終わっている
      ・不動産抵当、処分、証券処分等々
      ・売れない不動産だけが残っている
  ↓
それでも円滑化法から緩和策が継続しているうちはよかったが、終結してから連続営業赤字、債務超過となっている企業の再生は困難をきわめる。営業外の負荷が大きく、支払利息が払えない状態も生じている。
  ↓
第3段階の策:知恵を使って仕組みを変え、利益体質にしなければ残れない時代
日本の企業数の99%、全雇用の95%を占める圧倒的ウエイトの中小企業経営者たちとその家族にとって、新陳代謝が避けられない。そこには、単なる企業の再生だけではなく、「事業承継」、「会社経営の退出戦略」、「業種・業態転換」が複雑に絡んでいる。これらを含み置いた、「P/L革新」がはかれないと、本質的な再生は果たせない。

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新しい産業を創出する活気溢れる国づくりの提唱の背後には、廃業も避けては通れない。「会社経営の退出戦略」「失敗の痛み」含め、再生・廃業のフェーズでは、経営者個人やその家族に押し付けて決着を付けるという現在の前時代的なやり方も多く存在する。これらからいち早く脱して、社会全体が「リスクある挑戦の意義」を充分に汲み取り、その失敗の痛みを「広く薄く分散し吸収する巧みなシステム」を、備えていなければならない。

そのために、中小企業再生支援研究会(CSS研)は、再生の現場を深耕し、1社でも多くの中小企業健全経営に寄与する研究会でありたい。

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研究会は、2部構成になっており、第1部講話は、再生の現場で活躍している診断士の事例紹介となっている。第2部講話は、全国の中小企業再生支援協議会統括責任者、金融機関、等から外部講師を招き、ホットな情報を提供していただく内容になっている。

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2015.05.30
ケーススタディによる事業承継支援ツール

ケーススタディによる事業承継支援ツール

事業承継研究会 庭野 勉

1.開発の経緯
(1)取り組みに至る経過と目的
 事業承継研究会は、2005年10月に中小企業の事業承継支援を研究する目的で設立された。活動内容としては、月一回の定例会で、経営者や税理士・弁護士、事業承継支援機関・金融機関の関係者などを招いてのセミナー開催、さらには会員による事例発表などを行ってきた。201506_特集-2p図.jpg
 これらの研究会活動を踏まえて、これまで「中小企業診断士のための事業承継マニュアル」(2008年2月)、「事業承継塾テキスト」(2010年9月)を発行してきた。
 「事業承継マニュアル」は、事業承継支援において実務経験豊かな中小企業診断士が、この分野で活躍したい専門家のための手引としてまとめたものである。「事業承継塾テキスト」は、「事業承継マニュアル」発行後に新たに施行された事業承継円滑化法の制度概要などを追加しつつ、事業承継を控えた経営者および後継者向けのセミナーや研修会のテキストとして発行した。この「事業承継塾テキスト」は、毎月の研究会とは別に希望者を募り、プロジェクト形式で取り組んだものである。

 その後、会員の取り組み事例も増え、また、事業承継に関して中小企業診断士に対する期待が一層高まってきた状況を踏まえて、会員から新たな成果物を作成しようとする機運が生まれ、再び研究会内にプロジェクトを立ち上げ2012年7月から取り組みを開始した。
 前2冊は、どちらかというと理論編であったが、その2冊を踏襲しつつ、より実践的なものを作ろうと、目的は次の3つに設定した。
 ①生きた教材としての事例を提供し実践に使えるツールとして開発する
 ②過去のマニュアル類の検証(事例と理論の整合性、最新の統計データ類採用等)
 ③作成を通じて会員相互に学び合い、さらに実践的理解を深めること

(2)体制および取り組み
 20名の会員がプロジェクトに参加したが、特に今回は、研究会会員としても増えている弁護士・税理士等、他士業の資格を持つ会員の参加を得て取り組むことができた。事業承継は、経営と財産の2つの側面から取り組む必要があるが、弁護士・税理士の参加により財産の承継についてより深くまとめることができた。中小企業診断士だけでなく、他士業との連携が課題解決に必要となる事業承継支援という性格上、非常に有意義であったと言える。
 2012年7月のキックオフミーティング以降、事例を持ち寄り、定期的に打合せを重ね、2013年10月に冊子が完成した。

2.基本的な考え方
(1)総論の解説と事例で理解を深める
 総論と事例に一通り目を通すことによって、事業承継における課題全体に対する支援の流れがイメージできる。総論では直近の動向も踏まえ、支援にあたっての基礎的な知識を解説している。例えば、年齢が離れた後継者に対して経営課題の共有化とともに、段階的に引き継いでいくことの重要性を各段階における留意点とともに解説している。成功事例とともに、後継者の理解が不十分であったり、承継後に経営者が介入を続けたことによって、失敗した事例も解説している。理論と実際の事例双方に触れることによって理解を深め、実際の相談対応の場面で経営者に対して留意点として紹介し、解決の手がかりとして活用できる。
 また、巻末に、キーワードで総論と事例の関係を整理しており、索引として活用できるようにすることによって、単なるチェックリストとは違い、事例を踏まえて初心の支援者でもイメージを膨らませることが可能となっている。

(2)事業承継の4類型に合せた事例により支援の取り組み手順を実践的に理解
 事業承継の一般的な4類型(親族内、親族外、M&A、廃業)に合せて7事例を掲載しているが、各事例とも統一の事業承継計画にそって概要をまとめ、支援の手順と事業者の課題に対する把握項目を整理している。また、取り組み経過についても時系列的に整理している。このことによって、支援者が新たな案件に取り組む際には、手順や発生する典型的な課題をあげることができ、解決方向について事前にシミュレートすることも可能である。

(3)他士業からのアドバイスを掲載
 株式譲渡や「争族」回避等、財産の承継課題では他士業との連携が重要となる。今回、弁護士や税理士といった他士業の資格を持つ会員が参加し、4つの類型で起こった財産承継問題に対して、税務・法務面で的確に解説できており、今後同様の問題が発生した場合の参考になる。また、今後連携する場合のポイントが明確になっている。さらに、総論において基本的な理解を深め、各事例に対する具体的な解説によって、留意点が一層鮮明になっている。

3.構成
 全体の構成は、次のとおりである。

【第1部】(総論)
①事業承継の現状・課題
 中小企業白書等のデータをもとに現状や経営者の抱える課題等を整理
②相続人への経営の承継
 子息・子女への承継について、事業承継計画策定と後継者育成を関連付けて留意事項について解説
③相続人以外への承継
 親族外あるいは相続人以外の親族などが承継する場合の後継者の選定、承継計画の策定、後継者の育成、およびM&Aについて解説
④廃業
 廃業のパターンなどについて解説
⑤株式承継対策と税務
 事業承継の4パターンごとに自社株式の承継方法について解説
⑥相続
 資産の承継について、主に遺留分対策や円滑化法の民法特例等を含めて解説

【第2部】(事例)
①株価対策を優先し経営権承継を失敗した事例(親族内)
②後継者と経営状況の認識を共有して成功した事例( 〃 )
③社内に後継候補となる複数の親族がいる場合( 〃 )
④親族外後継者に新会社を設立させ事業譲渡を計画している事例(親族外)
⑤親族外後継者へ株式を移行する事例( 〃 )
⑥社外の事業者に事業を承継した事例(M&A)
⑦事業承継と争続回避のため前向きに廃業した事例(廃業)

<参考資料>
第1部と第2部の関係表

4.ツールの特徴と活用方法
(1)事例を通じた取り組み手順の提示
 各事例とも同一の項目立てで構成されており、概要を分かりやすく整理するとともに、課題に対して把握すべき基本項目や、取り組みを進める際の基本的な流れをイメージできるようになっている。また、中心となる事業承継計画表も統一様式で再整理し、モデルになるよう工夫している。
 事例の流れを整理すると以下のとおりである。
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(2)統一的な事業承継計画表の活用
 事業承継の課題対応のなかでは、経営者との間で目に見える形の計画表を作成し確認することが重要であるが、本ツールでは、一般的な計画表の項目立てに合わせ、各事例で統一様式の計画表で整理している。このことにより事例の全体像が分かりやすくなっているとともに、今後、案件に取り組む場合のモデルとして活用することが可能となっている。
 計画表の構成は、次のとおりである。
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(3)事例と総論での解説の連動性
 各事例における取り組みの経過に沿って、より理解を深めるために、巻末に関係表を整理し、各課題に対して第1部の解説と結び付けている。
 事例4を例に取り、具体的に一部を紹介する。
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5. 本ツールの普及と今後の活用
 本取り組みは「事業承継ケーススタディブック」として300冊印刷し、当研究会会員はもとより、希望者に有料で配布し、実際の支援において活用されている。
 また、関東経済産業局や(独)中小企業基盤整備機構、(公財)東京都中小企業振興公社等の行政機関や支援機関、都内金融機関等にも配布し、事業承継支援での中小企業診断士の果たす役割の重要さを訴えることができた。
 なお本書は、本研究会がこれまで作成した2冊のマニュアル類と併せて、事業承継課題に対する支援に際して活用できるものと期待している。

6. 今後の課題
(1)事例の蓄積
 現在、経営者の高齢化と後継者不足等、事業承継に問題を持つ事業者が増加しており、専門家に対する支援ニーズが高まっている。様々な支援機関や団体からの刊行物や一般書籍で事業承継に関する解説書が出版されているが、経営と財産の承継について併行的に取り組んだ事例の解説書はまだまだ少ない。
 当研究会の活動として、引き続き経営者や各専門家の講演等を通じて実践的ノウハウや情報の蓄積を図っていくとともに、今後も中小企業診断士が実際に携わった生の事例を収集し、様々な場面で効果的な支援ができるようなツールを作成していきたい。

(2)後継者育成への取り組み
 本冊子でも後継者教育の重要性や手法等について総論および各事例において触れているが、今後の課題としては、後継者育成に関する体系的なマニュアルやツール類の開発と整備を図っていく必要があると考えている。

 なお、本冊子は、当研究会で余部を持っており、希望者に対しては有料で配布している。

2015.04.29
経営改善の新たな進め方とIT化モデルの提供

経営改善の新たな進め方とIT化モデルの提供

SCMとIT経営・実践研究会 吉村 正平
yoshimura-m@mbm.nifty.com

<活動の経緯/開発の経緯>
 「SCMとIT経営・実践研究会」(略称:SCM研)は、1999年にサプライチェーン・マネージメントの概念・手法・標準化や実例等の実現状況を研究する「SCMビジネスモデル研究会」として、発足した。2006年からはIT経営の実践を研究することを明確にした現在の名称になった。
2013年度、東京協会から「中小企業のIT化支援」の理論政策更新研修を依頼されたのをきっかけに、新たな分科会として更新研修企画プロジェクト(略称:K-プロジェクト)を立ち上げ、研修内容を吟味し、資料としてまとめ、研修会を5回実施した。

 講義内容を討議していく中で、「研究会で対応した事例や発表してもらった事例を盛り込む」、「経営戦略や課題解決を検討する段階に支援が必要」、「戦術の重要な要素として『IT』を武器とする考え方」や「中小企業の相談相手である診断士を研究会メンバが支援できないか」などの意見が出された。
 「中小企業のIT化支援」を実践するときの課題に対する「ソリューションサービス」を研究会で作っていこうという機運が高まり、研修実施後も経営診断支援プロジェクト(略称:K-プロジェクト)を編成し、「経営診断支援サービスメニュー」や「ボトムアップ・アプローチ」「ジャンプアップ・アプローチ」の具体化を進めている。

1.ツールの開発の背景
 中小企業診断士がIT化を経営者に助言するために、理解しておくべき事項と助言するときの参考資料をまとめ、具体的な構築手順「ボトムアップ・アプローチ手順」とIT化業務モデルシステム「受注管理業務」を開発した。

1-1.「中小企業のIT化支援」は如何にあるべきか?
 中小企業白書(2013年版)の従業員規模別のITを導入していない理由に、「導入効果が分からない、評価できない」、「コスト負担が過大」、「IT人材不足」、「従業員のIT活用能力不足」があり、「適切なアドバイザー等がいない」も上がっている。
 中小企業のIT化の課題を次の4点にまとめた。
 ①経営者の経営目標が不明のために、実現手段としてITが使われない。
 ②IT人材不足のため、特定の個人にノウハウが集中し、組織的な対応ができない。
 ③従業員のIT能力不足のため、外部ベンダに依存し、迅速な対応ができない。
 ④各現場個別のIT利用で、経営効率化に結びつかない。
 IT化の課題に対して、発想の転換が必要と考えて、4つの新たな視点を提案したい。
 【効率化から付加価値増加へ】
  省力化よりも顧客に訴求できる業務改善への利用へ
 【経営改革活動でIT適用の検討を】
  経営改善に挑戦する経営者に中小企業診断士が助言すべき
 【開発投資コストだけでなくITの生涯コストで評価する】
  開発コスト、運用コスト、改修コストに加え、遅れによる機会損失コストも考慮した投資評価を
 【開発業者に依存しない維持改修体制へ】
  DIYがおすすめ:社員が学習しやすいツールを選択し、社員のITリテラシー向上に投資を

 具体的に、経営者に助言するための方法を体系化した。
 経営者が望む"ありたい姿"に向けた実現手順を3つのタイプのアプローチ「トップダウン・アプローチ」、「ボトムアップ・アプローチ」、「ジャンプアップ・アプローチ」がある。SMECA5月-特集-3p図.jpg
 「トップダウン・アプローチ」は、戦略に基づく業務の全体最適化を目指して、社長主導で進められる。例えば、全社統合システム(ERP)を導入する場合には関係部署を横断したプロジェクト体制をとり、1年以上の構築期間と移行期間を経て、運用を開始する。
 「ボトムアップ・アプローチ」は、現場の継続改善による現場力強化を目指すものである。これは、目の前にある身の回りの業務を改善しながら、ありたい姿に向かう小集団活動であり、日常業務を行いながら、数か月単位の改善を繰り返す継続活動である。
 「ジャンプアップ・アプローチ」は、目標・目的に向かって仮説に基づく新たな道を切り開くもので、従来の活動からは離れた特命体制で取り組み、成功するまで試行錯誤を繰り返し、経営者の支援がある限り挑戦する。
 以上の3つのアプローチを選択肢として、中小企業診断士が経営課題を解決するのに適した手順を経営者に助言する。さらに、情報セキュリティ、個人情報保護、知的財産権への対応も助言することを提言した。
 以上の内容をまとめたものが、更新研修資料「中小企業のIT化支援」である(参照資料1)。


1-2.IT化支援に新たな追加提言
 IT化の課題(②、③)の解決策として「自社要員によるIT化」を提言した。

 提言1:投資効果を「開発投資コスト」を含めた「IT化の生涯コスト」で評価する
 企業活動におけるIT投資効果は運用してはじめて効果測定が可能となる。そのとき、評価対象となるコストは開発コストだけでなく、運用開始後の運用コスト・改修コストを含めるべきである。ハードウェア・ソフトウェアのコストは大きく低下傾向が続くが、人件費がコストの中心である導入・運用・改修コストは低下しにくい。
 外部委託して構築した仕組みの改修は、委託先企業に依存せざるを得ない。ところが、委託先では、変更要件の理解と改修方法の発見・改修箇所の特定・改修後の全体稼働確認の時間とコストが発生する。このような外部への流出コストに加え、結果には表れにくい対処遅れによる機会損失コストへの考慮も必要である。

 提言2:開発業者に依存しない維持改修体制へ
 ITの内製化へ方針変換すると、社内要員のITスキルの育成コストが課題になる。
 しかし、情報化社会においては「従業員のIT活用能力不足」を解消すること(情報リテラシーの向上)は、情報セキュリティや個人情報保護、知的財産権保護の要件からも必要な人材育成事項である。
 中小企業でもExcelを使うITスキルは自動車免許程度に普及しており、社内要員の継続育成を考えると構築・運用・改修を担う人材の育成コストが小さい(前提スキルが低く、学習時間が少ない)ツールを採用することが現実的な選択であり、個人に依存しないために、複数の社員による兼任体制を目指すことが大切である。
 自社開発を実践している企業では「環境の変化に合わせて事務処理やものづくりを自分たちで変えられる意識を持てるようになることが、大きなメリットである」と発言されている。

 以上の内容をまとめたのが、研究会発表資料「ボトムアップアプローチ手順~DIYがおすすめ~」である(参照資料2)。

2.経営改善の新たな手順とIT化モデルの開発
 IT化の道具として、Excelのデータを活用できるコンテキサー(Contexer)を取り上げた。
 SMECA5月-特集-5p図.jpg法政大学の西岡教授が提唱された「ITカイゼン」と開発されたデータ連携ツール「コンテキサー」は、工場現場の情報のムダ取りと情報の清流化を狙いとした仕組みである。工場の生産計画から現場の作業指示まで生産管理全般を対象とした、今野製作所の適用事例等の中小企業の適用事例も公開されている。
 生産に必要な情報伝達は、注文(オーダ)の単位に各種マスタデータを参照しながら業務間を流れていく情報処理である。工場のIT化の経験者が現場で使える連携ツールのソフトウェア要件を提言し、それを満たすようにソフトウェア「コンテキサー」が企画・開発された。
 コンテキサーは、業務の流れを実現するデータ連携ツールである。Excelの表形式とおなじような項目のタイトル行とデータをもつレコード行で構成される表(パネル)が基本単位である。
 表のデータ編集機能に加え、表と表の関連付けや表の外部ファイルとの入出力を使って、情報処理を行うことができる。表と表の関係付けは転記、限定、補助の三種で、詳細をパラメータで指定する。データ編集・操作(アクション)をまとめて手順(コマンド)が登録できる。業務に必要な演算・操作をプログラム言語の知識がなくても組み込むことが可能で、担当者の作業を支援する自前のシステムを構築することができる。
 このツールを中小企業のどの業種にも使える業務改善の道具であり、「ボトムアップ・アプローチ」を実現するITツールとして位置づけ、具体的な業務間連携のIT化モデルシステムを開発した。

2-1.ボトムアップ・アプローチの手順の開発
 従来は「トップダウン・アプローチ」が取られており、今までにはない取り組みとして、「ボトムアップ・アプローチ」について具体的に手順を作成した。
新たな経営改善の進め方は、現場の情報リテラシーの向上を伴って、経営者と社員が一体となって、段階的に継続的に進める。大きな区切りとしては、次の3つの段階を推奨する。
 第一段:現行担当業務の処理をIT化
 第二段:業務見直しと業務間のデータの清流化
 第三段:業務連携の強化と基幹システムとのデータ連携

第一段:現行担当業務の処理をIT化
 現場の伝票、台帳、帳票をもとに項目情報とデータの整理・整頓・精査を実施する。
 手作業やExcelで行っていた人間系の処理部分を、コンテキサーで行えるように、画面上でデザインする。保有のExcelデータはCSV形式で受けとることができ、プログラムの作成なしに試行が可能である。RDB等のデータベースを内蔵していないため、項目追加・変更、新たな表の追加などが画面上で簡単に行える。この作業を通じて、担当者に業務のIT化に慣れてもらう。SMECA5月-特集-6p図.jpg
 受注伝票のような細目があるものは、受注に対する複数行の細目を細目表に記録し、状況変化に応じて更新する。その結果をもとに他の業務で必要なデータ(たとえば、仕入リスト、出荷リスト)を必要なタイミングでCSV形式のファイルで渡せる仕組みが現場で作れる。表間の項目転記や表間の制約条件により伝票項目と明細を関連付けた階層表現の編集、条件設定による一括編集、時間経緯による在庫推移表や資金繰り表などの時系列表展開などが可能である。
 帳票の印刷は、Excelへのデータ出力機能で従来のExcelの帳票出力処理を利用できる。

第二段:業務見直しと業務間のデータの清流化
SMECA5月-特集-7p図.jpg 業務担当者の開発・運用経験をもとに、業務間連携の紙からデータへの切り替えを目指して、データ項目や内容の共有化、標準化、手順化に向けた検討を行い、望ましい業務の形態を決める。
 役割分担の見直しを含めて、データ項目と内容の整理活動(情報の5S活動:整理・整頓・精査・鮮度・躾)を行う。既存のアプリの改修と新規アプリの開発を行い、CSV形式連携の試行で課題を解決するという運用を数か月単位で逐次繰り返して、適用範囲を繋げて拡大していく。

第三段:業務連携の強化と基幹システムとのデータ連携
 基幹業務との役割・連携の見直し、必要な受け渡しのデータ項目と連携方法を決める。営業活動を支援するネット利用の情報処理や取引先との情報共有にも取り組む。
運用変更のためのスケジュールには、データ移行やデータベース連携データの検証を行う期間を設けることが必要である。
 運用開始後も業務担当者による評価会を実施して、改善を継続していく。

2-2.業務のIT化モデルの開発
 受注に対応して商品提供している企業では、受注した後、社内の関連部署で作業がなされていくが、お客様からの注文確認、納期確認等の問い合わせには各部署の状況を把握して迅速・適切に回答することが求められる。紙での伝達では情報共有は難しく、手間と時間が取られるのが実情である。そこで、「お客様からの問い合わせに誰でも回答できること」を狙いとし、受注から代金回収までの業務連携「注文管理業務」を段階的に構築できるIT化モデルを開発した。
 1つの業務アプリ(販売)から使い始めて、営業・販売・購買・商品・経理の注文の情報の流れを5つの業務担当アプリに発展させるIT化モデルとし、業務のデータ連携と情報共有を可能とする仕組みとした。このモデルシステムを使えば、担当者が自分の会社の業務に合わせて改修して利用できる。
 第一段として、オーダーの流れを見える化する。最初の業務アプリは注文の生涯管理を行う受注担当者の業務を対象とした。受注伝票を精査して登録し、受注案件の社内の手続きの進行状況をデータとして保持している業務アプリ(販売アプリ)である。販売アプリのデータを参照することができる問合せアプリでは、お客様の問合せ内容を記録して、回答する業務を実施できる。誰でも操作できるようにすることで、お客様への迅速な対応を可能にする。
 第二段として、業務間のデータの清流化をするため、関連する業務(営業、購買、商品、経理)の業務をコンテキサー化して、業務間のデータを電子データにする。
 それぞれの業務アプリはその業務履歴情報を保持しており、過去のデータを知識として再利用できる。分散データベースの形態であり、完全なリアルタイム性はないが、締め処理を行うことで、データの整合性を担保する。
 CSVデータ形式のファイルシステムを採用することで、データの修正・検証機能を開発しなくても、業務担当がExcelで修正できるため、データの信頼性を確保することが可能である。
 業務量が増え、利用者が増えたとき、データのリアルタイム更新や信頼性を確保する目的で、CSVデータ形式をRDB等の本格的なデータベースへ移行することも可能である。
 第三段:将来構想として、現場のIT化を進めながら、社員の情報リテラシー向上と合わせて経理システム等の保有システムとの連携も実施していくことを示した。

2-3.ツールの効用・効果
 1)経営に役立つIT化の支援に活用可能
 東京都経営力向上プロジェクトなどの経営診断をした情報をもとに、企業に合ったオーダーメイドの経営力向上策をお客様と一緒に検討する段階からIT化の実現アプローチの設定を進めていくことが肝要である。
 経営者と経営革新計画を立てる。その中で「トップダウン・アプローチによる業務革新」、「ボトムアプローチによる業務改善」、「ジャンプアップを狙う開拓プロジェクト推進」の3つの形態を個別企業の具体的な行動に落とし込み、実行段階まで継続して支援できる。
 ボトムアップ・アプローチの手順をベースにしてお客様に助言し、この手順を共有することでITスキルを持った中小企業診断士やITコーディネータと連携することが容易になる。

 2)関連業務のIT化の実現性と操作イメージの提示
 業務のIT化モデルのデモを見せることにより、経営者や担当者はボトムアップ・アプローチが理解しやすくなる。業務改善に取り組むための全社の情報整理やデータベース設計を前提とせずに、今の業務データを利用してすぐに現場で使える点を理解してもらえれば、IT化に取り組むためのハードルが低くなる。
 データ連携ツール「コンテキサー」では、保有するExcelデータと紙の伝票・帳票を入力情報として用意すれば、データ連携の仕組みは数日で開発できる。開発要員の育成期間は、プログラミング言語の知識がなくても、数日である。自社の従業員でも使えそうであること、必要な業務に逐次適用できることが理解されれば、経営者にもIT化に期待を持ってもらえる。

3.「中小企業のIT化支援」の実践に向けて
 K-プロジェクトは、月1回の研究会定例会開催日の会合とネット利用の活動で進めている。
 今後は、経営診断から経営改善の企画、さらに実施過程でも継続的に支援を行えるような実践に使える「経営改善の進め方」を作成し、企業内診断士の能力と継続支援対応可能な独立系診断士(企業OBを含む)が相互に協力できる「チーム体制」の構築と実践に取り組む。「経営改善の進め方」は、中小企業診断士が中小企業から経営相談に対応する際に、効果的なIT化へとつながる改善提案・提言を組み立てられるように、三つのアプローチを含めて、手順と事例の研究を継続する。また、ボトムアップアプローチのIT化モデルを発展させるとともに、サポートできる人材育成に取り組む。SMECA5月-特集-8p図.jpg
 「中小企業のIT化」は、経営者の理解なしには効果が実現しない。中小企業診断士がその分野の専門家と連携して対応していく「チームコンサルティング」により、経営者に助言していくことが肝要である。研究会がそのための情報共有の場とネットワークを提供していきたい。

問い合わせ先
魚谷 幸一  E-mail:uotanik@mb.infoweb.ne.jp
吉村 正平  E-mail:yoshimura-m@mbm.nifty.com

K-プロジェクトメンバ(敬称略)
石渡 昭好、魚谷 幸一、岡部亮一郎、栗山 敏、今野 浩好、下平 雄司、
富松潤治郎、福本 勲、堀尾 健人、吉村 正平

参照資料
1.2013年度東京都中小企業診断士協会 理論政策更新研修テキスト「中小企業のIT化支援」
2.SCM研究会 発表資料「ボトムアップアプローチ手順~DIYがおすすめ~」

参考HP
SCMとIT経営・実践研究会:http://www6.airnet.ne.jp/scmbm/
"ITカイゼン"、コンテキサー:ApstoWebのHP:http://www.apstoweb.com/
東京都「経営課題解決支援事業」新・経営力向上TOKYOプロジェクト:http://www.keieiryoku.jp/
中小企業IT経営力大賞:http://www.it-keiei.go.jp/award/

2015.03.27
トマト農家における現場改善支援事例

アグリビジネス研究会 藤島 有人 imaboku@palette.plala.or.jp

Summary(要約)  千葉県長生農業事業所改良普及課から、農家の現場改善について、トマト農家における支援モデルを共同研究するという打診を受けた。  比較的規模の大きい農家は、家族労働に加え、雇用導入による安定的な人材確保と、効率的な雇用管理により、生産性の向上が期待できると仮定した。しかし、事前の調査の結果、作業によっては、パートタイマーの能力差が出ることが判明した。  そのため、実際のトマト農家をモデルケースとし、能力差を埋める作業マニュアル作成モデルの確立と、将来的な事業規模拡大に備える目的も含めた、優秀な人材を確保するための雇用管理のモデル案を検討することとなった。  提案した施策は、作業マニュアルモデルに関しては、工場診断における工程改善のノウハウを多分に利用したものであり、雇用管理モデル案に関しては、農業における就業規則を整備したものである。

Ⅰ.本支援を実施するに至った経緯  

千葉県長生農業事業所改良普及課から、農家の現場改善について、トマト農家における支援モデルを共同研究するという打診を受けた。  農業は、一般企業と比べ、自然や土地の影響が大きく、更には天候や気温などの微妙な変化に応じて臨機応変な対応が求められることが多い。また農山漁村集落の知恵や個人の経験知に頼るところが大きく、標準化が難しい分野といえる。しかし、組織化する上で、標準化は重要なプロセスである。  本事例では、属人化しているノウハウを見える化することで、知見の伝授の促進及び、業務の効率化を目指した。更に、業務を細分化し切り出すことで、繁忙期の手伝いなどパートタイムでの対応可能領域を拡大することを目指した。  また、家族経営を中心とした、信頼関係や経験に基づいた営みから、外部の優秀な人材を活用し規模を拡大していく上では、雇用者と被雇用者間の認識の違いが無く、被雇用者間で不公平感の無いように、一定のルールに基づき、雇用契約の内容・業務範囲を明確にすることが必要となる。更に、常に10人以上の従業員を使用する際には、就業規則が必須となる。農業では、労働時間の制限など、例外が認められているなど、一般企業で標準的に用いられている規則を、農業の実態に即してカスタマイズすることが必要となる。  本事例では、実際のトマト農家をモデルケースとし、農業独自のポイントを整理して、農作業の標準化を図るとともに、法令に則り且つ実際の運用と齟齬が無いような就業規則の雛形を提供することで、農業経営者の就業規則作りの負担軽減を図った。

Ⅱ.支援先農家の概要  

本事例における、支援先農家の概要は以下の通りである。

1.作業工程  

本事例のトマト農家は、ハウスでの養液栽培を行っている。トマト農家の規模としては、比較的大規模である。作業者の成熟度に関しては、トマトの摘み取り工程における色の見分けと、芽掻き作業に差が出ている状態である。ハウス栽培のため、年間を通して栽培でき、収穫の時期は、2月から6月及び、8月から12月と、非常に長期間となる。  色の見分けに関しては、出荷所でトマトの色が指定されているが、JAから支給された色見本には、収穫の基準となる色が掲載されていない。また、その日の天候により、事業主が指示する基準の色も異なっている。

2.作業環境  

現在の労働者は、家族従業員3名の他に、パートタイマー労働者が常時雇用3名、臨時雇用1名在籍している。労働者数が10名以下のため、現時点では就業規則を作成していない状態である。  外部環境は、他の農家や小売店などとのパートタイマー労働者の人材確保競争が激しくなっており、雇用が確保しにくい状態である。

Ⅲ.提案・取り組みのポイント  

現状の概要や目指すべき姿などのヒアリング結果から、以下のように支援を行った。

1.工程改善

(1)工程改善の分析手法  

一般的な工程改善は、①重点項目の検討(PQ分析)、②工程分析、③作業分析、④動作分析の順に行い、工程分析以降の各分析では、時間分析を合わせて行う流れである。しかし、本事例では、ヒアリング結果や視察、診断の時期的な関係から、改善工程が、「トマトの摘み取り作業」、「コンテナの組み換え作業」であることが既に判明していた為、作業分析以降の分析を行うこととなった。また、時間分析に関しては、作業自体が、比較的簡単であるため、作業分析でのみ行うこととなった。

①作業分析  

作業分析とは、生産現場などで行われている仕事を、作業のレベルまで細分化して、わかりやすい図表に表し、問題点や改善点を調べる分析手法である。作業者の動きを分析し、その一つひとつの作業を記号で表す手筈である。  作業は、大きく分けて単位作業と要素作業に分けられる。単位作業とは、一つの作業目的を遂行する最小の作業区分を指す。トマトの摘み取り作業、コンテナの組み換え作業などがそれに該当する。  要素作業とは、単位作業を構成する最小単位の作業を言う。尚、本事例では、作業者が作業をしている姿をビデオ撮影し、分析を行っている。  本事例で行ったトマトの摘み取り作業分析の例では、要素作業のうち「トマトを見分ける」作業に大きな改善点が見つかった。具体的には、作業場で一番熟練した作業者である事業主の配偶者は、トマトをもぎ取る前にトマトの色味を見分けているのに対し、他の従業員は、トマトをもぎ取った後で色味を見分けているケースが多く、それが原因でロスが多発していることが判明した。

②動作分析  

作業は、動作の集まりであり、作業を改善する際には、その要素である動作の特性について研究し、理解することが必要になる。動作分析とは、作業を動作レベルまで細分化し、改善すべき非能率・非効率な動作を洗い出すものである。  今回採用した、MTM法では、動作を8つの基本動作に分けて分析を行う手法である。MTM法で、これらの時間を国際標準として見積もることができる。

③時間分析  

時間測定とは、作業に掛かる時間を測定することであり、作業分析で分析した作業項目について、客観的に時間を測定することにより、その作業の無駄やばらつきを発見するために行うものである。今回は、個々の作業員のばらつきも把握したいため、時間観測法を用いた。作業状況を録画し、観察者が画像を再生しながら時間の計測を行った。  測定対象作業は、摘み取り工程とコンテナ組み換え工程である。今回は、上記の作業を半日撮影し、動画を持ち帰って分析を実施した。各作業を約10回観察し、その平均値の時間で集計していった。  測定結果であるが、摘み取り工程では、ベテランの作業者は移動時間が他の人に比べ長いのが特徴で、移動しながらトマトの選別をしていると推測できた。一方経験の短い作業者は、トマトを見分ける作業の時間が短い特徴がある。後筆のコンテナ組み換え工程に時間を掛けていることから、収穫したトマトの不良率に影響があると推定できた。  コンテナ組み換え工程では、作業時間にばらつきが大きいことが特徴である。特に経験の短い作業者は、他の人に比べ2倍近く要している。

④標準作業の設定  

標準作業とは、人と物と設備などの最も効率良い組み合わせを考えて、良い物を、より早く、安全に、ムダの無い作業が出来るように、「サイクルタイム」「作業順序」「標準手持ち」の3要素を決め、それに基づいて行われる作業を指す。  本事例では、最も作業効率の高い事業主の配偶者の作業をベースに、標準作業を設定している。設定の手順は、以下の通りである。  A)配偶者の作業分析、動作分析、時間測定結果を標準作業表に記入  B)他従業員の分析結果を踏まえ A)の内容を補正  C)配偶者と他従業員の作業の相違点を踏まえ、作業上の留意点を抽出  標準作業表を作成することで、統一基準での教育、評価を行うことが可能となる。これにより、作業者の一定の生産性、効率性などを確保することが可能である。

(2)施策の提案

①作業マニュアル

 マニュアルとは、一般的に初心者や未経験者があることを適切に行うための方法や基準を解説した文書のことを指す。今回は、トマトの収穫作業について、経験の無い人が始めて就労する場合の習熟時間を短縮することを目的に、マニュアル作成を行った。  人が業務を理解するためには、一般的に全体像を示し、次第にスコープを絞り込んで行く方法が効果的である。  マニュアル作成に関しては、以下の点を工夫した。  A)年間作業を把握する  トマトの年間作業を示すためには、年間の作業工程を把握する必要があるが、当初の年間作業についてはインタビューしておらず、把握できていない状態であった。そこで、千葉県農業改良普及員に直接、関連資料を送って頂き、叩き台資料を作成した。そして、それをもとにして、農家にインタビューする方法を採用した。  年間作業項目は、標準工程がドキュメント化されているわけではなかったが、話を伺いながら年間作業項目を組み立てなおし、年間作業の概要を作ることができた。  B)作業内容を伝えるための項目作り  作業を真似るだけでなく、創意工夫が生まれやすいようにすることを狙いとした。そこで、工程を説明するために、単に作業プロセスを書くだけでなく、作業の目的、実施体制や関係者、関連資料、用意するもの、作業手順、作業上の留意点という風に絞り込みを行った。  C)簡易マニュアルの作成  マニュアル全体を見るにあたって、作業をしながら見るのには煩雑と言う意見に応えて、3ページの簡易版を作成した。これは摘み取り作業に絞って、作業の流れと留意点を中心に説明する資料となっている。

②QC工程表  

QC工程表とは、製造現場の品質を保証するために、各工程で、どのような「管理項目」を誰が何時、確認しているかを表したものである。お客様に自社の品質管理状況を説明する際や、品質保証活動を確実に実施して、不良の発生を防ぐ、などの目的がある。  本事例では、トマトの市場出荷規格を基準として、トマトの色味や形状、キズなどを管理項目に設定し、その検査方法や頻度、検査に用いる管理図などのツールや品質異常発生時の処理方法を、作業の順序に合わせて作表している。  不良品を後工程に流さない、ということが品質を維持するための基本である。QC工程表を作成し、作業者に徹底してもらうことが品質管理のスタートとなる。  QC工程表は、品質に関係する項目と品質特性や基準が表示されている。QC工程表は、品質に関係する項目とその検査方法などがあるが、作業のやり方は記載されていない。

③色見本  

現状では、配布されているトマトの色の着色標準は、No.1からNo.5までの5段階の色見本であり基準とされるが、納品時に着色標準のNo.3とNo.4の間(通称3.5)となるように定められている。3.5については、着色基準のNo.3とNo.4の間とされ、明確な基準が無く、農業者の主観により微妙に異なる。  また、収穫時の色の基準は、収穫前に諸条件を鑑みて事業主が判断し、収穫前に当該色の現物を収穫者に見せることで、共有するため、収穫者によって色の幅が異なり、時間の経過とともに基準がぶれる場合も少なくない。  そのため、配布されている色見本よりも細分化した見本を作成し、収穫前に見本となるカードを配布することで、属人化している判断の精度を平準化すること。更に、日々ツールを用い確認することで、諸条件により日々変化する判断基準の標準化を図ることを目的に、色見本を作成した。  色見本の作成においては、①収穫時の基準となる色(No.5~No.3.5相当の色の間)のトマトの写真を撮影し、色サンプルを収集する、②色サンプルを薄い順に並べ、番号を振りより細分化した色見本を作成する、③各色毎に見本カードを収穫担当者の人数分作成する手順を採用した。  色見本は、①収穫前に事業主が当日の基準色を決定する、②収穫担当者に色見本カードを配布する、③収穫担当者はカートの見えやすい位置に見本カードをセットする、④収穫担当者は、現物と見本カードを見比べながら収穫作業を行う手順で利用するものである。  また、今後の検討内容として、気温・天候・納品までの時間と選択した見本カードの記録を残し、データを蓄積することで、判断の精度を上げることが挙げられる。

④もぎ取り作業の見える化  

本事例では、トマトのもぎ取り作業の見える化資料を作成している。その理由は、作業の中に、言葉では表現することが難しい要素が多数存在するためである。例えば、「親指で茎のこぶを押しながら、トマトを持ち上げる」というポイントがあるが、これだけを教えられても、実際にどのように作業をすればよいのかが作業者には判断できないからである。  通常、このような作業を新人に教育する場合、熟練の作業者が実際に作業をしながら説明をすることになるが、このような内容を一度で習得することは不可能である。そのため、長い時間をかけ、経験を積むことで正しい作業を習得していくことになる。  一方、作業の「見える化」資料が存在する場合、新人でもその資料をもとに作業をすることで、すぐに正しい作業を行うことができるようになる。資料を見ながら、実際にやってみることで早期に正しい技術を身につけることが可能となり、教育にかかる工数や時間も削減することが可能である。  本事例では、①見える化が必要とされる単位作業の特定、②単位作業を構成する要素作業毎のポイント・留意点などを熟練作業者にヒアリング、③抽出した作業ポイント・留意点のイメージを理解できる画像の撮影、④作業順序に従い見える化資料への落とし込みの手順で、見える化資料を作成している。  見える化資料を導入する際の留意点は、作業中にその資料をいつでも、すぐに参照することができる環境を整えることである。どんなに素晴らしい見える化資料を作成しても、それが事務所の中に置かれているだけでは不十分である。実際に見える化資料を参照しながら、作業に取り組めるような工夫が必要である。本事例においては、見える化資料を、A4用紙1枚にまとめ、それをラミネート加工して作業車に設置することを提案した。

⑤頻発不良原因の見える化  

トマトもぎ取り工程では、多くの不良トマトが発生する。その不良トマトを適切に見分けることが、作業を標準化する上で欠かすことができない。更に、その不良原因を把握し、原因に対する対策を打つことが不良率低減につながることとなる。  「頻発不良原因の見える化」では、これまで、簡単な絵で示されていた不良現象を写真で示すことで、初心者でも判別できるようにし、不良の原因を示すことで不良率を低減させることを目的としている。  本事例では、①現場の写真取りとヒアリング、②農業改良普及員への原因に関する情報入手、③農家の方とのレビューの手順を踏みながら、「頻発不良原因の見える化」を進めた。専門的な知識が必要となり、農業改良普及員との連携が必須な作業であった。

2.作業環境改善

(1)作業環境改善の方向性  

本事例の課題は、雇用導入による安定的な人材確保である。採用においては、職場の労働条件や規律等を明らかにしておく事は非常に重要である。そのため、労働者が安心して働くための環境整備が有効である。  就業規則とは、労働時間や賃金、有給休暇などの労働条件や職場の服務規律などを定めて書面にしたもので、つまり、労働者と事業主との間のルールブックのようなものである。特に、農業の場合は、就業規則を作成している農家の方は非常に少なく、就業規則を作成することで、職場内外で安心感を与えられ、他の農家との差別化を図ることができ、優秀な人材を安定的に確保することが可能である。また、職場でのトラブルを未然に防ぐことも可能である。そのため、本事例では、就業規則を作成し、労働者が安心して働くための環境を整備する方向で支援を行った。

(2)施策の提案  

農業の場合、雨風や台風等の気象条件に左右されること、作業の性質から1日8時間、1週40時間や週休といった規制に馴染まないこと、悪天候時、農閑期に各自適宜に休息が取れるので労働者保護に欠けないことを理由に、労働時間、休日、休憩、割増賃金、年少者の取扱が労働基準法の適応除外になっている。ただし、所定労働時間を超えて労働させた場合の割増賃金の支払いは不要であるが、通常の賃金の支払いは必要となる。また、深夜労働に関しては、農業でも労働基準法が適応され、割増賃金を支払う必要がある。  しかし、優秀な人材の採用や定着率の向上など雇用を確保する上で、一般企業並みの労働条件にすることが望ましいことから、割増賃金制度を採用した。  また、本事例のパートタイマーは、被扶養家族である場合がほとんどで、配偶者扶養控除の扶養範囲内に収入を押さえたい意向があった。勤務日数・時間の調整を行うことにより、有給休暇の付与や、健康診断の受診義務の有無が左右される。それらを決定する基準である所定労働日数・労働時間は、労働契約書に記載されている日数・時間となるため、労使間トラブルが起きにくく、扶養範囲内に収入を押さえられるように、勤務日数・時間を明記できる労働契約書を作成した。  更に、所轄労働基準監督署に就業規則を届け出るための、就業規則意見書と就業規則届を作成した。  表彰に関しては、一度賃金を上げると再び下げる事が難しくなるため、一時金で対応することとし、その体制整備のために人事評価制度を提案した。

Ⅳ.定量・定性的な効果  

本事例の支援は、提案した段階で一旦終了しており、明確な効果を確認できていない状態であるが、当初、収穫の色まわりの判断は、その日の気候を基準に、事業主の判断で色見本には存在しない色を収穫基準としてパートタイマーに指示していたが、細かい色見本を作成することで、基準となる色情報の共有精度を高める仕組みの整備ができた。また、不良品の見本を手書きから写真に変えた不良一覧表の作成により、不良判断を行いやすくする事ができるようになった。更にトマトのもぎ取り工程手順書と合わせ、パートタイマーの収穫作業習熟速度を速める体制構築を行うことができた。  雇用管理においても、就業規則を作成し、終業時間や有給休暇等を明示することで、事業主が求める人材を確保し、要求レベルに達する作業を行える体制整備を行った。

Ⅴ.今後の取り組み  

今回は、支援期間がトマトの収穫時期と重なり、収穫作業をメインとした作業改善を行った。今後は、収穫だけでなく、同じくパートタイマーによる能力差が出るトーン付けなどの作業改善を目指す。  また、本事例で確立した作業改善の手順をモデル化し、野菜栽培を中心とした他の規模の大きい農家への応用を行う予定である。

2015.03.26
三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介

主催:三多摩支部 能力開発推進部

 三多摩支部では、平成20年(2008年)に「多摩の塾」を開始し、将来独立を志向している方および新たな領域を開拓したいと考えているプロコンに対してコンサルティング「塾」を実施しています。3日間にわたり座学と演習を行い、特定の分野に対してプロとして通用する技能を修得していただくことを狙いとしています。多摩の塾の概要は下記の通りです。  

目   的: 専門的な分野を掘り下げて、「専門家派遣」にて通用するコンサルティングの実践能力を修得すること

対 象 者: 新たな領域を開拓したいプロコン、プロコンを目指す企業内診断士、自己啓発を目指す企業内診断士

平成27年度のテーマ(予定):金融機関と連携できる事業再生実践能力の向上(事業再生士補レベルを目指します)

開催予定日: 7月~9月の3日間(土曜日を予定)

募集人員: 20名(定員限定)

参 加 費: 15,000円

開催場所: 国分寺労政会館(予定)  

 「多摩の塾」は、コンサルティングスキル全般の向上ではなく特定の分野にテーマを絞りプロとしての知識、技能を身につけることを目指しています。その到達点は、プロとして中小企業社に価値評価されるレベルです。  毎年テーマを選定して、7月から9月までの土曜日に実施する予定です。各回とも講義およびグループワークによる演習を行います。講義と演習および演習に関わるディスカッション、発表を中心に行いますが、各自が自分自身で考えること、自己研鑽を重視したプログラムを研修に組み込みます。  講師はテーマ分野において実務経験があり現在現場で活躍されている支部の会員または協会の会員が行います。講義を担当する複数の講師とグループワークをサポートする複数の会員で研修を進行します。また、必要に応じて企業経営者・支援団体の担当者などを招聘して、テーマに関連した実務や実際の対応などを話していただくこともあります。  毎年実施するテーマについては、その時々の旬なテーマ、特に地域の支援機関との連携が強いという三多摩支部の特徴を生かし、支援機関において実施される事業との連携を重視した内容にしていきたいと考えております。  (連絡先:三多摩支部 能力開発推進部長 谷 譲治、E:garyo21@mx2.ttcn.ne.jp

2015.03.26
城北支部 城北プロコン塾3期生募集

主催:城北支部 能力開発推進部

 城北支部では、診断士としての資質とスキルの向上、診断士活動の場の拡充およびプロとして仕事に役立つ人脈の形成を目的として、平成25年に「城北プロコン塾」を立ち上げました。201504_14p-up.jpgのサムネイル画像  "今までにない実践的スキルが身に付くプロコン塾"として、城北支部の中から豊富な経験と実績を有する講師陣の熱のこもった指導のもと、製造業、小売・サービス業、商店街支援などの幅広い切り口で、一騎当千の実力を有する診断士を育成します。併せて、受講期間中を通して塾生自らが専門分野をブラッシュアップし、"メシのタネになるコンテンツ"を1本のレポートに仕上げるという課題に取組みます。  卒塾後は、企業診断案件への登用、認定支援機関等への専門家登録の取次ぎ、ベテラン診断士のコンサル現場への同行訪問など、"稼げるプロコン"への更なるステップアップを城北支部全体でバックアップします。

開催日程:平成27年7月~平成28年3月      <全10回>

実施場所:「北とぴあ」会議室      (最寄駅;JR王子)他

募集人数:15名

受講料:50,000円

カリキュラム:※講師の都合等により一部変更となる場合があります。

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申込&問合せ窓口:城北支部プロコン塾事務局(担当:徳永 税)

         E:ctokuctoku@email.plala.or.jp  

        紹介HP:http://jouhoku-procon.jimdo.com/

2015.03.26
城南支部 第11期コンサル塾 5/17(日)スタート

主催:城南支部 運営:能力開発推進部

 コンサル塾は平成10年開塾の東京協会で最も伝統あるハイレベルなプロコン養成塾です。支部や協会には公的機関や外部団体からの紹介要請が増加しています。コンサル塾では、このようなニーズに応える実践的で総合的な能力をもつ人材を育成します。  卒塾生からは「プレゼンスキルが飛躍的に向上した」、「仕事につながる強力なネットワークを得ることができた」、「独立1年目で前職の収入を上回った」等の声を頂いております。  

開催日程:平成27年5月~平成28年2月 原則毎月第3土曜日     

 ・全10回(うち1回は合宿)9:00~19:00前後     

 ・診断実務実習、工場/企業視察(別日程)

応募資格:①中小企業支援専門家に求められる実践的な能力を身に付けたい方

     ②東京協会・支部行事への積極的参加を確約できる方

     ③東京都中小企業診断士協会会員(他支部も歓迎します)

募集人数:最大20名(少人数教育を基本としています。申込者多数の場合は選考いたします。)

受講料:18万円(税込み、合宿・診断実実習・工場/企業視察含む、食事・交通費除く)

実施場所:座学は台東複合施設(最寄駅 JR秋葉原駅)他

予定しているカリキュラム:全ての回で塾生全員による模擬講演を実施

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その他:実務更新ポイントが必要な方は、診断実務実習にて取得可能です。      上記カリキュラムの他にオプション講座も開催します。

<第11期コンサル塾 説明会開催のお知らせ>

日 時:4月20日(月)18:30~20:30(18:00受付開始) 

申込締切日:4月13日(月)

場 所:渋谷区立商工会館 6階クラブ室(渋谷区渋谷1-12-5) 渋谷駅から徒歩10分

申込先:城南支部能力開発部 コンサル塾担当 宮島 仁 E:mail@miyajin.net 氏名、住所、電話、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上メールでお申し込みください。

2015.03.26
城西支部 城西プロコン養成塾11期生募集

主催:城西支部 JOPY委員会

 城西プロコン養成塾(略称JOPY)は、中小企業経営者に適切な助言・提案のできる診断士養成を目指し、平成17年に開講しました。JOPY修了生はすでに150名を超え、各分野で活躍し高い評価を得ています。  コンサルタントは、中小企業経営者の目線に立ち一緒にモノを考え、適切な助言を行うとともに、良き相談相手となる必要があります。知識だけでなく、現場の場数を踏み、クライアントが納得する解決策を提示する、JOPYはこうした診断士を養成します。  診断士能力向上、基本と応用の再確認、独立を目指す方......ぜひ、ご応募ください。

養成期間: 平成27年6月~平成27年12月 原則 毎月第3土曜日10:00~17:30

      ただし、商店街診断、商業診断、工場診断は別途日程を組みます。

研修会場: 杉並区立産業商工会館(12月は阿佐谷地域区民センターの予定)

募集人数: 18名

受講料: 75,000円

講座内容: 講師、会場の都合により、一部変更の場合があります。

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   商店街診断・工場診断・商業診断はクライアントより実務従事ポイント取得可能です。 申込方法: 氏名、住所、電話番号、ファクス番号、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上、下記宛にメールでお申し込みください。お問い合わせも受け付けます。 <申込先> 城西支部プロコン養成塾(JOPY)事務局  山内 喜彦 T&F:045-316-1416 携帯:090-3002-3507   E:ys-yamauchi@dab.hi-ho.ne.jp

2015.03.26
城東支部 スキルアップ受講生募集

主催:城東支部 能力開発推進部

 城東支部のスキルアップコースは、主に診断士の資格を取得し、将来診断士として独立を考えられている方を対象としたプロコンを目指すための研修コースです。  6月から3月まで、毎月1回計10回の開催を予定しています。城東支部長をはじめ、城東支部のプロコンとして活躍されている方々が講師を努めます。  この研修に参加することにより、独立後に必要となる、行政機関の創業相談業務、個別企業の診断手法、研修講師のスキルなどを学ぶことができます。  初回の6月の講義では、将来プロコンを目指す方のために、城東のプロコンの方々が、仕事の獲得方法やプロコンとしてどのような仕事をしているかなどをお話しします。

カリキュラム(予定)

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 *原則第1土曜日の(9:30~17:00)に開催いたします。

 *講義内容や開催月は変更となる場合があります。

 *このほか企業の実地診断を1、2社おこなう予定です。

申込資格  新人会員、既存会員(城東支部以外でも歓迎いたします) 受講料  45,000円/年 開催場所  都内の区民館 申込先  城東支部 能力開発推進部 大石 正明  E:ooishi@zj8.so-net.ne.jp

2015.03.26
中央支部 認定マスターコースの紹介

主催:各マスターコースの代表者(中央支部会員)

 中央支部は、会員のコンサルティングスキルの研鑽を目的として、認定マスターコース制度を設けています。マスターコースの大きな特徴は、後進指導に情熱を抱く先輩プロコンが、自ら磨き編み出したコンサルスキル、コンサルマインドを惜しげもなく提供することです。  専門性の高いテーマを設定し、独自のカリキュラムを編成して1年間にわたり指導します。  多くの修了者は、マスターコースと強い絆を維持していくことで診断士活動の基盤としています。

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 申込・詳細は下記参照。4月18日スプリング・フォーラム、5月23日支部カンファレンスで詳しい説明が聞けます。  http://www.rmc-chuo.jp/home/mt/archives/cat4/index.html

2015.03.26
TOKYO SMECAニュース3月号特集の訂正とお詫び

広報部

3月号の特集にて掲載いたしました『法人営業における課題が一目で分かる 法人営業力診断アンケート「SPM1」の 開発とコンサルティング現場での活用』(営業力を科学する売上UP 研究会 坪田 誠会員執筆)の図表に誤りがありましたので訂正いたします。 ご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

<訂正箇所>  図表2の矢印(下の右側から左側に向けたもの)がひとつ欠落いたしました。

<原因>  原稿には確かについておりましたが、図表が、インデザインでグループ化されて、上記の矢印のみがグループ化からはずれていたために印刷元原稿を作成する過程で、矢印が欠落することになりました。校正を広報部もしておりますが、この点を見落としたためそのまま掲載となりました。

<対策>  今後は印刷原稿の図表の作成の方法を上記のような現象が起こらない方法に変更し、さらに図表についての校正を厳格にするようにいたします。

 訂正については、図表のみではわかりにくいと存じますので、「はじめに」と「2.ツールの概要 (1)」を掲載いたします。論文全体をご覧になりたい場合は、以下URL(東京協会HP>コラム>特集)をご覧ください。  http://www.t-smeca.com/column/2015/02/spm1.html

はじめに

   「営業力を科学する売上UP研究会」の有志で構成する「営業力可視化分科会」は、法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1(Sales Pentagon Model version1)」を開発した。法人営業(BtoB)で提案型(ソリューション型)営業が求められる中小企業を対象に設計しており、営業力の簡易現状把握を経た改善提案により、法人営業力改善コンサルティングの案件受注および支援につなげることを目的とする。 (中略) 2.ツールの概要 (1)業績を向上させる営業力    営業活動は、営業マンの個人任せになりがちであり、その活動内容を企業として共有できていないことが多い。そのため、業績が停滞する企業では、営業上の問題を表面上の現象面で捉えがちであり、真因に迫れていない。  当研究会で営業力強化に成功した企業事例を発表、分析した結果、業績を向上させることに成功した企業の営業力を図表2のとおり体系化した。  営業は多様な形態や状況があるが、体系化すると、全社経営戦略をもとに、営業方針を構築し、具体的な訪問計画を立てる。次に、訪問計画に沿って訪問行動を起こし、提案やプレゼンテーションを実施して、商談やクロージングを行う。その全般を管理して必要に応じて修正するというPDCAのサイクルを回す。そのプロセスのどこに課題があるのか、営業担当者やマネージャーはそれぞれにどのように認識しているのか、その相違はどこから生じるのか、それらを知り、今後のアクションプランを立てる必要がある。  この一連の流れから、営業力は、戦略力、計画力、行動力、商談力、管理力の5つに分解することができ、これを評価軸と定義した。業績を向上させている企業の営業力は、この5つの評価軸を相互に連携づけて、PDCAを回す仕組みができている。 (後略)

図表2 業績を向上させる企業の営業力のイメージ

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2015.03.26
東京プロコン塾 第9期生募集のお知らせ

主催:一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 運営:能力開発推進部

 一般社団法人東京都中小企業診断士協会では、診断士制度の変更、診断士の社会的ニーズ、激変する経済環境などに対応するため、平成19年度より真のプロコンを養成しています。真のプロコンとは、高度な学識、スキルはもとより、人間力も備え、クライアントの要望を充分満足させられる"稼げるコンサルタント"を指します。  東京プロコン塾では、稼げるプロコンを養成するため、座学による講義、現地実習をはじめ、最も重要な、稼いでいるプロコンのノウハウを伝授します。  講師陣には当塾の趣旨にご賛同いただいた各方面で活躍中のプロコンがあたります。  プロコンとして独立をお考えの方、コンサルタントとして独立したが、活躍が十分でないと感じている方は、ぜひご応募ください。

開催日程:平成27年5月~平成28年3月 原則毎月第4土曜日(9:00~17:00)

       〔うち2回は合宿研修(1泊2日)を予定〕全10回

応募資格:①東京都中小企業診断士協会 会員

     ②プロコンとして独立する強い意志のある方

     ③原則55歳以下の方 応募人員:最大25名(申込者多数の場合は選考いたします)

参加費用:10万円(一括支払、支払方法は別途連絡します。合宿費、現地実習費込み。)

実施場所:座学は、東京都中小企業会館8階会議室を予定      

現地実習は現地、合宿地は未定〔平成26年度は、さわやか ちば県民プラザ(千葉県柏市)〕

カリキュラム

・毎回、プロコンとしての心構え、独立の仕方、営業方法について話をします。

・講義は、実務に直結したコンサルティングスキル向上を目指した内容になります。

・現地実習では、商店街や企業を訪問し、コンサルティングを行います。

・ミニプレゼンを実施する機会が5回程度あるので、プレゼン能力が向上します。

※詳細は4月25日の説明会で発表します。

その他:修了認定者には、東京都中小企業診断士協会より修了証を授与します。     

実務更新ポイントが必要な方は、現地実習にて取得可能です。     

講師陣や、活躍する塾生の先輩、東京都中小企業診断士協会の塾生同士で人脈ができます。

メーリングリストや研究会で、卒塾後もOB・OGとのつながりを持てます。

下記のとおり説明会を実施します

日  時:4月25日(土)14:00~16:00

場  所:東京都中小企業会館 8階会議室C(東京都中央区銀座2-10-18)

申込方法:現在、申込みを受け付けています。氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.、メールアドレスを明記の上メールでお申込みください。      

申込をされた方には入塾申込書フォーマットを送りますので、4月25日の説明会で内容をご確認のうえ正式にお申込みください。

運営担当:能力開発推進部 部長・佐藤 正樹

申込先:東京都中小企業診断士協会 東京プロコン塾係 担当:清水

     T:03-5550-0033  E: info_tokyo@t-smeca.com

ご質問は、能力開発推進部 山辺俊夫(yamve@yahoo.co.jp)まで

2015.02.27
法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1」の開発とコンサルティング現場での活用

法人営業における課題が一目で分かる 法人営業力診断アンケート「SPM1」の 開発とコンサルティング現場での活用

営業力を科学する売上UP 研究会 坪田 誠治 st1025n@gmail.com

はじめに  「営業力を科学する売上UP研究会」の有志で構成する「営業力可視化分科会」は、法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1(Sales Pentagon Model version1)」を開発した。法人営業(BtoB)で提案型(ソリューション型)営業が求められる中小企業を対象に設計しており、営業力の簡易現状把握を経た改善提案により、法人営業力改善コンサルティングの案件受注および支援につなげることを目的とする。

1.ツール開発の経緯、背景

(1)営業力強化に注力したい中小企業  日本政策金融公庫がまとめた「2014年の中小企業の景況見通し」(2013年11月)における調査では、中小企業の注力分野として「営業力・販売力の強化」が73%に上り、40%前後にとどまる人材の確保・育成、販売価格引き上げ・コストダウンを大きく引き離している。営業力強化に向けた中小企業の関心は高く、中小企業診断士として今後もっとも支援が求められる分野の1つである。

(2)法人営業特有の課題  企業の業界、業態や企業特性によって、法人営業のスタイルは多様である。また、人的営業に頼りがちな営業現場で何が起きているか、外からは見えづらい。支援する側に専門知識が求められるため、対処できる中小企業診断士が限定され、個別対応に工数がかかる。中小企業経営者にとっては、自社の営業力に課題を感じつつも、どこから着手すればよいのか判断しづらく改革を進められないという課題がある。これら現状の課題を図表1に表す。

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2.ツールの概要

(1)業績を向上させる営業力  営業活動は、営業マンの個人任せになりがちであり、その活動内容を企業として共有できていないことが多い。そのため、業績が停滞する企業では、営業上の問題を表面上の現象面で捉えがちであり、真因に迫れていない。  当研究会で営業力強化に成功した企業事例を発表、分析した結果、業績を向上させることに成功した企業の営業力を図表2のとおり体系化した。  営業は多様な形態や状況があるが、体系化すると、全社経営戦略をもとに、営業方針を構築し、具体的な訪問計画を立てる。次に、訪問計画に沿って訪問行動を起こし、提案やプレゼンテーションを実施して、商談やクロージングを行う。その全般を管理して必要に応じて修正するというPDCAのサイクルを回す。そのプロセスのどこに課題があるのか、営業担当者やマネージャーはそれぞれにどのように認識しているのか、その相違はどこから生じるのか、それらを知り、今後のアクションプランを立てる必要がある。  この一連の流れから、営業力は、戦略力、計画力、行動力、商談力、管理力の5つに分解することができ、これを評価軸と定義した。業績を向上させている企業の営業力は、この5つの評価軸を相互に連携づけて、PDCAを回す仕組みができている。201503_tokusyu_02.jpg

(2)営業力の5つの評価軸  5つの評価軸の意味と、そのポイントが低い場合の企業へのコメント例を図表3に示す。

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(3)法人営業力診断アンケートの構成  営業力5つの評価軸に対して、4段階の選択回答59問と自由回答5問の合計64問を作成した。その64問を、営業マネージャー用と営業担当者用とに言い回しを変えて、図表4の構成で、法人営業力診断アンケートを設計した。

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(4)可視化できる考察  本ツールは、アンケート形式の質問に回答し、その結果をレーダーチャート化することで、以下①~⑤の切り口で企業の営業力とその問題点を、可視化することができる。

 ①評価軸における想定課題

 ②営業マネージャーの自社の営業力に対する意識・認識

 ③営業担当者自身の営業力に対する意識・認識

 ④営業マネージャーと営業担当者の認識の差異

 ⑤営業部署別・事業別・拠点別の意識・認識の差異

(5)アンケート実施の手順

アンケートの目的と目標を明確にし、対象企業の業界、業種、業態、企業特性の把握を行うために、アンケート実施前に経営者インタビューを行う。その後、アンケート実施、回収・分析、分析結果報告と進める。一連の流れを図表5に示す。  この手順を踏むことで十分な情報を得られ、20頁程度の報告書(フルバージョン)を完成させることができる。逆に、経営者インタビューの時間がとれない場合や、グラフだけで良いので早く結果を提供する必要がある場合に備えて、1頁程度の簡易版報告書(サマリー)を用意している。  今後の展開としては、現時点では法人営業(BtoB)で提案型(ソリューション型)営業が求められる中小企業を対象にしたバージョン「SPM1」だけであるが、異なる営業スタイルに最適なアンケートバージョンを増やす予定にしている。

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(6)設問の特徴

次に、5つの評価軸ごとの選択回答での設問例を、図表6のとおり示す。これは営業マネージャー向け設問例であるが、営業担当者向けには、立場を変えた同じ趣旨の設問を用意している。この工夫によって、同じ事柄に対する営業マネージャーと営業担当者の認識差異が明確になる。

201503_tokusyu_06.jpg

3.実践事例の紹介

(1)アンケート分析結果の可視化  従業員約100名の部品加工組立メーカーA社で、コンサルティングに入る前の営業力事前診断に当アンケートを活用した。社長、営業マネージャー、営業担当者にアンケートを実施した結果を、階層別にレーダーチャートにまとめたものが図表7となる。ちなみに、図表6で示した4段階の選択回答の結果を、レーダーチャートでは5点満点に換算して評価している。  レーダーチャートの効果として、営業マネージャーの意識・認識と、営業担当者の意識・認識を、レーダーチャート上の得点と線で可視化することができる。その得点の高低と、両方の線の乖離具合から、営業力を診断することができる。  計画力を見ると、営業担当者は概ねできていると自己認識しているが、営業マネージャーから見ると低いポイントになっており、十分にできていると認識していない。一方管理力は、逆に営業マネージャーは概ねできていると認識しているが、営業担当者は不十分と感じている。計画と管理は表裏一体であり、計画ができていなければ管理できるわけがなく、管理が不十分であれば計画に反映されず、十分な計画にならない。

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(2)評価軸ごとの結果  次に、評価軸ごとの結果を図表8のようにまとめた。前述のレーダーチャートから計画と管理をきちんと設計し、回す必要があると推測されたが、これを裏付ける内容となっている。計画力を評価する質問から抜粋した質問16、17を見ると、計画段階で訪問目的の明確化やそのための準備が十分できていないと思われる。管理力を評価する質問41、44を見ると、営業活動の内容の見直しや予実管理が十分できていないことが見てとれる。

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(3)提言内容  アンケート実施前の経営者インタビューを通じて、特定の業界向け部品を扱っているA社は顧客数が限定されること、売上高全体に占める上位客の売上比率が高いことが判明していた。そこで、アンケート診断結果を踏まえて、以下3点に集約して今後の取り組みをA社社長に提言した。

①営業戦略の立案と関係者間での共有  中長期での計画や具体的な営業戦略を関係者間で共有し、意思統一する。

②顧客別戦略の立案とアクションプランの策定  重要顧客に対して関係者を交えて顧客別戦略を立案し、攻めの営業へ転換する。

③プロセス管理のための数値管理の実施  「売上数値の結果」の管理から、「売上に至るプロセス」の管理・フィードバックへ転換する。

(4)コンサルティングの実施  提言の結果、A社社長からは自社の課題認識が明確になったと高評価を得て、営業力強化のためのコンサルティングを受注した。診断フェーズからコンサルティングフェーズに移行するタイミングに合わせて、当研究会から新たに賛同者を募ってメンバーを再編成した上で、コンサルティングフェーズに進んだ。  社長や営業部長など主要メンバーにヒアリングした後、上位客を中心に顧客別戦略とアクションプランを立てることをA社社長と合意して、図表9の流れでコンサルティングを実施中である。

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4.今後の展開

(1)コンサルティング受注活動における本ツールの位置づけ  本ツールは、多くの中小企業診断士が売上UP、営業力強化を望む中小企業に対して、より具体的・実践的なコンサルティングを行うためのツールを提供するものである。  コンサルティング受注におけるアンケートの位置づけを図表10のとおり示す。具体的には、中小企業支援機関や他団体と協業した営業力強化セミナーや中小企業診断士同士の連携を通じて、集客する。アンケートによる簡易診断後に、個別改善提案によるコンサルティング実施につなげることを目指していく。  当研究会では、営業力強化セミナーを近いうちに開催する予定にしており、多くの中小企業診断士の方々と協業する形で進めていきたい。

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(2)アンケートのバージョン拡充  今後、アンケートデータの収集を進め、業界別、企業規模別や営業タイプ別(物販営業、ソリューション営業、サービス営業、代理店営業など)などで、中小企業診断士に標準値を提供していきたい。同時にアンケート内容を業界別、営業タイプ別などの特性に合わせて複数パターンを用意することにより、適用範囲を増やしていく予定である(図表11)。  当研究会では、法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1」を活用して、中小企業の売上アップと営業力強化、中小企業診断士の活躍機会の増大に貢献したいと考えている。同じ志を持つ方は、ぜひ仲間に加わっていただきたい。

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【執筆メンバー】

営業力を科学する売上UP研究会 営業力可視化分科会  坪田 誠治(リーダー)、阿部 裕、池田 誠、小澤 栄一、丸山 直明、渡辺 辰洋

2015.01.30
新社会人向け研修ゲーム「PMG」の開発

新社会人向け研修ゲーム「PMG」の開発


城南支部実践能力開発研究会 岩立  誠
E:iwatate@tkd.att.ne.jp

Summary(要約)
 若者の価値観や能力の多様化からか、昨今、スケジューリングや報告・連絡・相談といった基本的な仕事の仕方を十分に身につけないまま企業に入る新社会人が増えつつあり、これらを会得させる手立てのニーズが高まっている。
 これら仕事の仕方は、体験、とりわけ失敗体験を通じて習慣として身につけさせることが望まれるものの、多くの企業では余裕の乏しさから、実業務での失敗体験の提供が難しくなりつつある。次善の策として研修ゲームにおける疑似体験が有効と考えられるものの、既存の研修ゲームは主に経営者・管理職用のものと簡易なアイスブレーク用とに二極化されており、新社会人向けのものは少ない。
 そこで当研究会では昨年度、新社会人向けの能力開発の中でも特にニーズが大きいと思われるスケジュール管理を題材に、研修ゲームの開発を実施した。プロトタイプの作成後、研究会の中で試行と改良を繰り返し、現在までにゲームのベータ版を完成させ、試行しつつ改良を加えているところである。今後、研究会の外部への提供を狙い、内容のブラッシュアップやバランス調整、受託促進ツールの整備等を行っていきたいと考えている。

Ⅰ.開発の経緯
 「実践能力開発研究会」は、(一社)東京都中小企業診断士協会城南支部のプロコン養成課程である「コンサル塾」の卒塾生を中心に、継続的な自己研鑽を目的に平成23年に設立された研究会である。
 当研究会では設立以来プレゼンテーション演習をはじめ、主に個々人の能力向上を目指した活動をしてきたが、昨年度は研究会独自のコンテンツを開発することを狙い、ニーズ発掘の議論を行った上で、次の点に着目して新社会人向けの「研修ゲーム」を題材に取り上げることとした。

 ①若い世代の価値観・能力の多様化や中間管理職の希薄化により、有効な新入社員の教育システムを持っていない企業が増えている。
 ②研修の充実度合いが就職先を選ぶ学生の高評価に繋がり、採用活動で有利になりやすい。
 ③世にある研修ゲームは経営者・管理職用のものか、アイスブレーク用のものが大半で、新人研修用のものはいまだ少ない。

 このうち①の育成と②の採用は中小企業にとって喫緊の課題であり、また③は他の士業やコンサルタントに比べて中小企業診断士の優位性を生かしうる点である。
 開発に当たっては、基本コンセプトを決め、ゲームの大まかな骨組みを作った後、研究会内で講師役と新社会人役に分かれて試行を繰り返し、ゲームを拡張・改良していった。現在は一旦完成したベータ版のゲーム素材(ボード、カード、コマ等)、ルールブック等を改良中である。

Ⅱ.開発したツールのポイント
1.本研修ゲームで身につけさせる能力
 今回の研修ゲームで題材に取り上げたのは、新社会人に求められる能力の中でも、「複数の業務を指示された際に、優先順位を考えながらスケジューリングを行っていく能力」である。
 この能力に対する企業側のニーズは高い。というのも、新社会人にスケジューリング能力が身についていない場合、複数の業務や、ある程度の固まりの業務を任せることができず、上司や教育担当者が新社会人に対して逐次指示を出すような仕事の仕方をしなければならないためである。これでは上司や教育担当者の手を煩わせ、かえって組織(部門)全体の戦力はダウンしてしまう。このため一部企業では、本来であれば人手が足らないからこそ増員をするにも関わらず、忙しい部門ほど新入社員を受け入れたがらないという本末転倒な状況も見られるほどである。
 なお、優先順位の決定を題材とすることから、本ゲームの名称は「Priority Management Game」(略称:PMG)とした。

2.研修ゲームの利点
 「スケジューリングは基本的な仕事の仕方であり上司から適切な注意をすれば治るのではないか」という意見もあるが、注意が有効なのは誤りを認識している者に対してであり、新社会人がスケジューリングの必要性自体を理解できていなければ、注意だけでは行動を変えるには至らない。また、一度や二度の説明を聞いただけでは、たとえ必要性を認識できたとしても、習慣として身につくまでには至らない。こういった基本的な仕事の仕方を習慣として身につけさせるためには、腹に落ち記憶に残るような体験、特に失敗体験をさせることが有効である。
 ところが昨今は多くの企業において余裕が無くなってしまったことから、以前は実際の仕事の中で普通に与えることができたこれら失敗体験を、新入社員に与え難くなってきている。そこで、研修の中で、この腹に落ち記憶に残るような体験を組み込んだゲームを準備すれば、企業活動への実際のダメージ無く、必要な疑似体験をさせることができる。
 また、実務の中ではいろいろな体験が混ざってしまうことから気づかせたい体験に意識が向かない場合があるが、ゲームであれば特定の体験を抽出することができ、更にゲーム前後に必要な解説を入れることで、効果を高めることも可能である。


Ⅲ.ゲームの構成・進め方と体験できる状況
1.ゲームの概要
 PMGはターン制のカードゲームであり、3~5人のプレイヤーが各ターンにランダムに与えられる小タスクを限られた自分自身の手持ち資源で次々とこなしていき、その結果としてのポイントを競う。基本的には、手持ち資源は各プレイヤー平等の「勤務時間」であるが、ゲームの中には個人のスキルを高め、タスク処理能力を上げる要素を含んでいる。
 1回のゲームは1時間程度、ゲーム内の架空時間で3~6か月。実際の研修では最初の説明と最後の振り返りを挟んで、ゲームを1~2回行う。研修時間は2~6時間を想定している。

2.計画ボード
 ゲームを開始するに当たっては、図表.1のように場の中央に必要なカード類、サイコロ等を置いておく。小タスクを表現したタスクカードについては、計画ボードと呼ばれるボードの上にプレイヤー毎の列を作り、ランダムに並べておく。

特集3p-図1.jpg ゲーム内では1ターンを1週間と捉え、それぞれのプレイヤーは各ターン1枚ずつ自分の列からタスクカードを引いていく。プレイヤーはゲーム中、この計画を睨みつつ、いかに小タスクをこなすか、或いは遂行が難しいと判断してアラームを挙げるかを考えていく(ただし後述するイベントカードにより「予想外の小タスクが与えられる」等の状況が発生するため、必ずしもその直前まで計画ボードに並んでいた通りに小タスクが与えられるとは限らない)。

3.プレイヤー用ボード
 プレイヤーの前にはスケジュール表を模したボードが置かれ、図表.2のように、カードとして表現された小タスク、チップとして表現された勤務時間などを配置し、自身が抱えている小タスクの状況を可視化することができるようになっている。プレイヤーには、ターン毎に概ね5営業日分の勤務時間が与えられるので、小タスクの期限やポイントを踏まえ、数ターン先の状況の先読み等もしながら、どの小タスクにどれだけの勤務時間を費やすのかを決定していく。
 このように複数タスクのスケジュールを目に見える形で管理するという体験を通じて、初めてスケジューリングに触れる新社会人も、スケジューリングの大切さを認識することができる。


特集4p-図2.jpg

4.タスクカード
 与えられる小タスクを表すカードであり、192枚ある。ものによって成功時・失敗時のポイントが異なり、成功時にプラスされるポイントに比べて失敗時にマイナスされるポイントが同じか大きく設定されている。タスクは自分では選べないものの、期限までに遂行できないと判断したものは、事前に申し出て担当を解除してもらうことができる。その場合もマイナスポイントとなるものの、失敗よりはマイナスされるポイントが少ない。これは、上司の立場からすれば、仕事の担当を事前で変更しなければいけないことに比べ、一旦任せた仕事が締め切り間際になってできないと発覚することのほうが、リカバリーが格段に難しく悪影響が大きいことを反映している。
 このため各プレイヤーは高いポイントを狙う中で、現状の自分の仕掛りタスク、勤務時間状況と近い将来あたえられる可能性のあるタスクを冷静に見つめるスキルを身につけると同時に、タスクの優先度を考える、できないことは事前に申し出るということを体験することができる。

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5.スキルカード
 抱えているタスクをこなしても勤務時間が余るようなときには、場からスキルカードを引き、スキル習得のために勤務時間を費やすこともできる。スキルカードは5種類あり、必要日数をかけてそのスキルを習得すると、特定分野のタスクを短い勤務時間で終わらせたり、勤務時間を長くして1ターンでもらえる時間チップを増やしたりできるようになる。
 高得点を狙うために、プレイヤーには、計画ボード上のタスクカードをにらみながら、どのスキルを身につけるために、どこで、どれだけの勤務時間を費やすのかを考えることも求められる。
 なお、「計画的に時間を確保しなければ目の前のタスクに振り回されてスキルをなかなか習得できない」、ということもこのゲーム中で体験できる状況の一つである。

特集5p下-図4.jpg

6.イベントカード
 更に、本ゲームでは各ターンで引くイベントカードにより、「タスクに費やせる時間が変わる」、「タスクの期限が変わる」、「タスクの担当が変わる」等、予想外のイベントが発生する。多くのイベントはトラブルであり、これらにより予定通りにタスクが処理できない体験を通じて、もしもの場合に優先順位を下げるタスク或いはスキル習得を常に考えておく等、トラブルに備える心構えを身につけることができる。なお、イベントカードの枚数は168枚である。

特集6p-図5.jpg
Ⅳ.定性的な効果
 前述の通り企業の現場からオンザジョブトレーニングの余裕が失われている中、PMGでの「スケジュールを可視化して管理する」、「できないことは事前に申し出る」、「予期せぬトラブルに対処する」といった体験を通じて、効果的にスケジューリング能力を身につけさせることができると考える。
 なお、開発中にPMGをプレイした当研究会会員からは、以下のような感想も出されている。

 ・自身の抱えている小タスクを眺めながら、無理なく優先順位を考えることができた。
 ・期限までに終わらない小タスクを多数抱えたことで、できない仕事のアラームを上げる大切さを考えさせられた。
 ・ゲームに夢中になって、高得点を狙い、ついつい無理なスケジュールを組んでしまった。トラブルが起こって初めて、想定外の事態に備えることの大切さに気付かされた。
 ・冷静に作戦を立てたつもりでも、意外に強気、弱気といった性格に影響されてしまった。

Ⅴ.今後の予定
 PMGは現状、研究会内部での試行を繰り返し、一旦、ベータ版が完成したところである。次のステップとして、実際の企業や団体等、研究会外部における試行を実施し、体験者へのアンケート調査等、定量面も含めた効果測定を行った上で、内容のブラシュアップを図っていきたいと考えている。現状、候補先の探索や訪問等を行っているところであり、試行先の紹介や推薦は大歓迎である。
 また併せて、企業及び中小企業支援行政機関等の提供先ターゲットを選んだ上で、受託促進ツールを作成予定である。更に将来的には、講師用マニュアル等の改良を図り、中小企業診断士および企業人事部・研修部を対象に、コンテンツそのものを提供することも視野に入れている。

2014.12.26
ビッグデータ時代にこそ必要な中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方

ビッグデータ時代にこそ必要な
中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方

中央支部ビジネスデータ分析研究会 村山 聡

 

【活動の経緯】
 ビジネスデータ分析研究会は、2012年1月より活動を開始した研究会である。ビッグデータに代表されるデータ分析活用ニーズの高まりを背景に、中小企業支援において中小企業診断士がデータ分析を積極的に活用していくことを目的に、統計解析手法やデータ分析ツールの使用方法などを研究している。

【支援企業概要】
 支援先である株式会社ビレセントは、女性を対象とした酵素風呂サービスを提供する「酵素風呂ボラボラ」を八丁堀にて運営している。酵素風呂とは酵素入りヒノキパウダーの入った風呂であり、酵素による温熱効果で、新陳代謝の活性化や体質改善を促進する効果があるとされている。また健康をキーワードとした商品の店舗での販売、及び空きスペースを活用した整体、マッサージなどのサービスを提供している。

5p-図_201501.jpg

【データ分析を取り巻く現状】
 ここ数年「ビッグデータ」を始めとしたデータ活用事例が、さまざまなメディアにキーワードとして取り上げられている。情報システムの発達により、ネット上に存在する膨大なデータや、センサーから取得できるデータ、デジタル画像や動画データと言ったデータを比較的容易に収集・分析できる環境が整ったことが理由である。

 しかし、これらのデータ活用事例の多くは情報システム、分析ツール、アナリストといった分析に必要なリソースが十分に揃った大企業での利用を前提としている。
 では、中小企業にはデータ分析は不要なのだろうか。確かに高度な統計解析手法の活用は、中小企業にとっては敷居が高い場合が多い。しかしデータを分析し、財務分析だけでは読み取れない経営の現状を数値で把握することは、中小企業にとっても必要不可欠である。とはいえ、実際に分析リソースを中小企業が独自で用意することは困難であることが多い。
 このような現状を鑑みた場合、中小企業診断士がデータ分析を実施した上で、経営支援を実施することは、重要な意義があるといえる。

【分析対象の把握】
 支援を開始した当時、ビレセントは創業して1年ほど経過しており、売上げも順調に伸びつつあった。一方で、主力事業である酵素風呂の稼働状況は20%程度とまだまだ余裕があり、さらなる売上向上がビレセントの当面の課題でもあった。そこで今後、売上げ向上施策検討のための基礎資料とするため、2013年1月から2013年12月までの1年間の売上げデータを用い、顧客データ分析を実施することとなった。
 分析を実施する際には、分析対象について状況を把握することが重要だ。今回は顧客データ分析を行うため、まず顧客の行動を可視化することから支援を開始した。

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 酵素風呂は、繰り返し入浴することで効果が持続すると言われている。そのためビレセントでは、利用料を割り引いた回数券を用意し、継続して利用したい顧客に利便性を提供している。この回数券販売という施策は、来店可能性を高めると同時に、顧客から先に利用料金を払ってもらえるため、資金繰りが楽になるというメリットがある。一方で、顧客が回数券を使用する場合、設備は稼動していても、その日の売上げにはならないため、日々の売上げと店の稼働状況が一致するとは限らないことになる。つまり売上推移だけを見て、経営状況を判断すると、実情を見誤る可能性が高いということになる。このような現状を踏まえた上で、データ分析の実務を開始した。

【データ分析のポイント】
 顧客データ分析実施においては、3つのポイントを押さえておく必要がある。

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 一つ目は、データを分析可能な状態に加工することである。一般的にシステムに残されているデータは、そのままでは分析に適さないため、さまざまな加工が必要となる。数値化されているマスタ情報の置き換え、年月日や曜日といった分析に必要な軸の作成、名寄せなどがそれにあたる。本事例では、受領した顧客売上げデータは、「売上管理シート」というExcelで作成されており、デジタル化はされていたが、加工作業以前の問題として日々の顧客一人一人の売上げが個別のシートに記載されていた。

7p-中図_201501.jpg

 このように中小企業においては、日々の記帳を優先し、データが分析に適さない状態となっている場合も少なからず存在する。幸いフォーマットは標準化されていたため、データを抽出、変換するマクロを作成することで対応した。これにより月別に12個のファイル、3,000を超えるシートにわかれていた売上げデータを一元化し、データ加工を実施した。地道な作業ではあるが、この作業を実施しなければ、データ分析自体も実施することができない。分析の世界で、データ加工が分析の8割の業務量を占めると言われる由縁である。

7p-下図_201501.jpg


 二つ目は、顧客を分類する手法を決定することである。顧客データ分析においては、デシル分析(顧客をある軸に従って10段階に分類する)やRFM分析(直近来店日、来店間隔、購入金額の3軸を掛け合わせて分類する)といった分析手法を使うことが多いが、これは大量に顧客データが存在する比較的大企業において有効な手法であり、中小企業に対しては、現実的な手法ではない。

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 そこで、分析の主目的である売上向上施策を検討しやすい、優良顧客(グループA)、初回離脱顧客(グループC)、その他(グループB)の3種類に軸を設定することとした。優良顧客が判別できれば、継続して利用いただけるよう手厚いサービスが可能となり、初期離脱の比率を減少させることができれば、新規開拓コストの早期回収が可能となるからだ。

8p-中図_201501.jpg 分析の結果、ビレセントの売上げの約8割が、19%の優良顧客からの売上げであり、63%の顧客は1回きりの来店で初期離脱していたことが判明した。実際の分析では、この分析以外にも多面的に状況を把握するため、多くの分析を実施している。

8p-下図_201501.jpg 三つ目は、データから得られた知見をいかに活用するかである。データ分析は注力すべき方向性は確認できるが、そのための具体的な施策まで明らかにしてくれる訳ではない。そのため、分析結果をもとに経営者とディスカッションをし、具体的な施策を検討する必要があり、ここはまさに中小企業診断士の領域である。本事例では数回に渡り、分析結果をもとに、経営者にヒアリングを実施した上で、チームメンバーで50を超える改善施策提案を行った。その狙いは、取り得る施策をすべて洗い出した上で限られたリソースの中で、実行できる施策、効果のある施策を経営者とともに検討していくことである。提案した施策の中から、満足度向上、及び次回来店促進効果が得やすい施策として、優良顧客へのダイレクトメールの送付、店舗内における整体・マッサージの予約状況の掲示、及び酵素風呂とのコラボサービスの開発、分析により明らかになった売れ筋商品の自社開発などを実施することになった。

9p-上図_201501.jpg また優良顧客(グループA)の人数比率を19%から25%に、初回離脱顧客(グループC)の比率を63%から50%に改善することを目標として設定した。この目標を達成することができれば、同じ顧客数と仮定した場合、125%の売上向上が見込めることになる。

【施策実行後の効果】
 施策は、2014年4月から順次実行されている。そこで分析を実施した2013年1月~12月と2014年4月~7月の二つの期間での状況を比較することで、施策の効果検証を行った。

9p-中図_201501.jpg 分析を実行した2013年1月~12月と比較して、売上、来店人数、顧客単価すべてにおいて向上している。次に、各顧客グループの比率は目標を達成したかを確認する。グループの比率については、2013年1月〜12月と2013年1月〜2014年7月とを比較する。

9p-下図_201501.jpg 比較した結果、目標を達成するまでには至っていないが、グループAの顧客数比率は、19%から23%に向上しており、施策実行の効果が出ていると考えられる。

【今後の支援について】
 今回の支援事例では、創業間もないこともあり、新規顧客開拓に目が行きがちだった経営者に、顧客データ分析の結果により、リピート・単価アップの重要性を改めて認識していただいたことが、売上向上につながったと言える。とはいえ新規顧客開拓を怠ってしまえば、せっかくの施策も宝の持ち腐れになる可能性がある。事実、積極的な広告展開を行っていた創業当初と比較して、最近の初回来店人数は減少している。

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 今後はさらなる売上げ向上に貢献していくため、新規顧客開拓についても支援を予定しており、その第一歩としてWebの改善支援に取り掛かっている。

【中小企業診断士が持つべき分析スキル】
 我々、中小企業診断士が経営支援を実施する時、財務分析の結果から経営課題を把握し、その後、経営者に課題についてヒアリングを行い、解決策を提案するという流れがスタンダードである。しかし、分析者の観点から言えば、経営者へのヒアリングだけでは不十分ではないかという想いがある。今回のように、中小企業ではリソースが不足しているため、経営者が、自社の状況についてデータを分析していないことが十分にありえる。そのような場合、経営者のヒアリングに関する回答は、主観的な判断に偏ってしまう可能性がある。また限られたヒアリングの時間の中では、経営者が重要な事実を伝え忘れるといった事態も考えられる。このような事態を避けるためにも、中小企業診断士は、データ分析のスキルを身に付けておく必要があると考えられる。

2014.12.26
「中小企業経営診断シンポジウム表彰論文」6篇を連載

「中小企業経営診断シンポジウム表彰論文」6篇を連載

研究会部 副部長 吉崎 茂夫

●シンポジウムの概要
 一般社団法人 中小企業診断協会主催の平成26年度「中小企業経営診断シンポジウム」が10月28日(火)に東京ガーデンパレスにて開催されました。
 第2部は3つの分科会に分かれ、第1分科会は中小企業診断士による経営革新支援事例論文発表、第2分科会は会員グループによる調査・研究発表/地域施策の効果検証と新たな提言、第3分科会は東京都中小企業診断士協会による研究会成果発表が行われました。
 第3分科会の発表論文は、例年どおり東京協会および6支部の研究会等から募集しましたが、本年度は10件の応募があり、そのうち、事前審査で選ばれた6研究会がシンポジウムで発表を行いました。

●第3分科会の発表内容
 第3分科会には約100名以上が参加し、大変盛り上がりました。6研究会の発表内容は次の通りでした。

①法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1」の開発とコンサルテイング現場での活用(営業力を科学する売上UP研究会、発表 坪田誠治会員)
②ケーススタディによる事業承継支援ツール(事業承継研究会、発表 庭野勉会員)
③新社会人向け研修ゲーム「PMG」の開発(城南支部実践能力開発研究会、発表 岩立誠会員)
④トマト農家における現場改善支援事業(アグリビジネス研究会、発表 藤島有人会員)
⑤ビッグデータ時代にこそ必要な中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方(中央支部ビジネスデータ分析研究会、発表 村山聡会員)
⑥経営改善の新たな進め方とIT化モデルの提供(SCMとIT経営・実践研究会、発表 吉村正平会員)

 6名の発表内容は診断ツールまたは事例の紹介で、新しい手法などが紹介され、参加者は手元の発表資料とプレゼン資料とを見比べながらメモを取りつつ熱心に聞き入っていました。いずれも甲乙つけがたい発表でしたが、最優秀賞は僅差で、斬新な発想で審査員の高評価を得た、中央支部の「ビッグデータ時代にこそ必要な中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方」を発表した村山聡会員に決まりました。

●表彰式
 発表後、第1分科会から第3分科会までの表彰式が行われ、第3分科会は東京都中小企業診断士協会の会長賞が小黒光司会長より村山聡会員に授与されました。

●表彰論文の連載
 今回表彰された6研究会の論文を、順次掲載していきます。
 シンポジウムに参加されなかった方々もぜひ、ご一読ください。

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2014.11.29
ベンチャー企業と大企業の好循環形成に向けた課題

~ベンチャー企業と大企業の好循環形成に向けた課題~

東京協会認定 ベンチャービジネスサポート研究会
干臺(ひだい)  俊

当研究会について
 ベンチャービジネスサポート研究会(VBS研究会)は、平成8年登録のメンバーが、「これからの日本経済の活性化のためには新たなベンチャーの出現が重要で、それを支援するメンターも育っていかなければならない」として平成9年に設立され今日に至っている。
 ベンチャーの創業や経営支援のあり方、仕方、事業レビュー等のスキルを磨くことが、主な目的であり、会員の中心世代は、40歳くらいで比較的若い人達が集まっている。現在、定例会とは別に2つの分科会が開催されており、企業支援として事業レビューと改善提案のための活動を行っている。今回は、VBS研究会の一つの関心事である「創業における大企業とベンチャー企業との関係」について、論じることにする。

1.はじめに
 近年、従来であれば企業内に留まっていたであろう若手のエンジニアなどの人材が、スピンアウト・カーブアウトして社外に飛び出し、ベンチャーを起業する事例が注目されている。なぜ、このような変化が起きているのだろうか。本稿では、ベンチャービジネスサポート研究会の活動報告として、その変化を考察した結果を以下の項目に沿って紹介する。
(1) スピンアウトベンチャーを生み出す社会面・ビジネス面の環境の変化
(2) スピンオフベンチャーの事例と、起業準備のための社会インフラ整備の進展
(3) スピンオフベンチャーと大企業によるビジネス育成モデルと、解決すべき課題
(4) ベンチャー支援に求められる中小企業診断士像

2.スピンアウトベンチャーを生み出すビジネス・社会環境の変化
 まず、背景にある環境変化に着目したい。社外に飛び出す人材を後押しする最近の環境変化は主に3つあると考えられる。
(1) 市場の細分化と小規模化
(2) ユーザーと一体化した製品開発手法への変化
(3) 企業への帰属意識の低下

ユーザーの一層の多様化
 個人が得られる情報量が飛躍的に増大した結果、近年のユーザーのニーズの多様化が著しく進み、市場のセグメントは一層細分化しており、この変化の中で、大きな課題が顕在化している。すでに広く認識されているとおり、一層多様化したユーザーニーズの的確な把握とウォンツの発掘である。
 
 ユーザーの多様化により開発側とユーザーの認識のギャップは一層拡大している。たとえば、大手メーカーが3次元の加速度センサーを開発したが、機能を生かすアイデアが思いつかず、「万歩計」として販売したが全く売れなかった、といった事例がある。開発段階からユーザーニーズやウォンツを認識できていない例といえる。ニーズ志向型マーケティングと言われて久しいが、当事者であるほど実践は難しく、製品企画を先行し、市場で失敗する事例は後を絶たない。

ユーザーと一体化した製品開発手法への変化
 この課題を達成するために、最近、各企業が取り組んでいる製品開発手法が、ユーザーとの共同開発である。ユーザーが開発メンバーとして参画し、マーケッターや事業プランナー、デザイナー、設計技術者、プログラマーなど、バリューチェーンの関係者がチームを組み、プロトタイピングを通じた検証により、機能やデザインを詰め、製品を作り上げる。ユーザーと開発側の認識のギャップを解消し、バックグラウンドの異なる者同士の相互の気づきから、新たなウォンツを発掘する手法である。

 本手法は、さまざまな実践方法がある。とあるソフトウェア企業では、今や社内の管理職で製品企画の良し悪しを判別することが難しいと考え、Facebookやツイッター等にプロトタイプを掲載し、「いいね」を一定数得たものを、社長含めた幹部会議で議論し、製品化の決定を行う仕組みを試験的に行っている。また、とあるデバイス企業では、開発したセンサーを主婦のグループに持ち込み、ワークショップを通じて新たなユーザーニーズを発見したり、また、身体の不自由な方と一緒に製品企画・デバイスの使い方を考えることで、その方の利便性を向上させると同時に、広く一般の方々の利便性も一層高めるといった製品開発などを行い始めている。
 
 このような方法論が拡大しているが、この変化から企業内のエンジニアなどの人材がベンチャーを立ち上げる理由が2つ見えてくる。
(1)「ユーザーとの距離の近さ」、「関係者が一同に集まれるフットワークの軽さ」が必要となり、ベンチャーなど小さい組織の方が、より取り組みやすい点
(2)特定のユーザーを対象とするため、予測できる市場規模が小さくなり、大企業では市場とならなくても、ベンチャーなど小さい組織であれば市場となり得る点
 また、エンジニアが顧客と直接対面することで、顧客の喜びを直接感じることができる、といった側面も理由に含まれるだろう。
 
企業への帰属意識の低下
 前述のような変化が起こる一方で、企業内の人材のマインドも大きく変化している。「電機連合組合員調査1994年・2005年」および「経済産業省産業技術人材の成長と育成環境に関する調査」において企業内の人材の「仕事のやりがい感」、「企業忠誠心」について分析を行っている。その結果の一つは、技術者全般に共通する傾向として、仕事・企業への思いが急速に冷めている、と示唆されている点である。

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 2000年以降の成果主義人事制度の導入と、大規模な人員整理が行われたことで、終身雇用が中心と考えられていた雇用風土が大きく変化し、特に、技術系人材において、企業への忠誠心が低下したのではないか、と示唆されている。雇用の不安定さ、待遇の伸び悩みが生じた結果、「やりがい」の相対的価値が上昇し、技術者などの人材が社外に飛び出す遠心力が高まっていると考えられる。
 
3.スピンオフベンチャーの活躍と起業準備のための社会インフラ
 本稿では、実際に企業から飛び出してベンチャーを起業した事例と、前述のような社会変化を受けて、整備が進みつつある企業外・本業外での活動するための社会インフラについて紹介する。

スピンオフベンチャーの活躍
 最近の著名なスピンオフベンチャーの一つとして挙げられる企業は、車椅子を開発・製造するWHILL株式会社である。数百メートルの移動でも車椅子に集まる人目が気になり外出を控えるという車椅子ユーザーの声を受けて、デザインと機能に優れた新たな車椅子の開発を目指し、自動車や電機などの各大手企業から若手・シニアエンジニアが集まり、ベンチャーを起業した。特定のユーザーの声を大切にし、それぞれが所属する大企業では開発が難しいがために、スピンアウトして製品開発に取り組む姿勢は、昨今の変化を象徴しているものではないだろうか。
 
 もう一つのスピンオフベンチャーの事例は、3Dプリンターで安価な義手を開発する企業である。これまでの腕や指が稼動する義手は百数十万円したが、それを数万円で実現することにより、世界の腕をなくした方々に、複雑な動作は難しいが傘を持つなどの機能を持つ義手を届けることを目的とした企業である。こちらも企業内の若手エンジニア達がスピンアウトして設立したベンチャーである。
 その他、未だに起業に至っていないが企業内の若手のエンジニアから起業に関する相談を受ける機会が筆者の周囲にも増えつつある。

起業準備のための社会インフラの整備の進展
 このような動向と同時に、試作、ビジネスプランの検討、専門家とのネットワーク形成など、スピンアウトする前の起業準備を行いやすい環境の整備が進んでいる。

ファブラボ、メイカースペース、コワーキングスペースなどの整備
 「ファブラボ」や「メイカースペース」とは、簡易な工作機械を設置した製品開発環境を整えた施設であり、現在、民間の施設として全国で増えつつある。施設内のデスク、レーザーカッター、3Dプリンター、ボール盤、旋盤等を利用し、自身のアイデアを形にすることができる。「コワーキングスペース」とは、オフィスや打ち合わせスペースを共同で持ち、維持・管理コストの低下することの他に、バックグラウンドの異なる人材の出会いによる相乗効果の発揮を狙ったレンタルオフィスである。
 たとえば、経済産業省の産業技術構造審議会においても類似の取組が紹介されている。品川駅に近い場所に、品川ものづくりラボ=品モノラボ、という、品川に縁のあるメーカーや、ものづくりへの関心の高い人々が、会社帰りに集まり、ものづくりに関して相互に学び合う場が立ち上がっている。本ラボでは、すでに複数のアイデアが製品化に向けて動いているという。

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2枚目の名刺活動
 マスコミにも多数取り上げられており、ご存じの方も多いと思う。本業で培った知見や能力を本業以外の社会活動で発揮することを目的に、本業以外のもう1枚名刺を持つことを促す活動である。たとえば、NPOなどの抱える問題について、社会人がチームを組み、各個人の能力を活かしてソリューションを提供する。このような社会貢献を通じて、ベンチャーの企業など新しいキャリアを模索する若手が増えている。

 着目すべき点は、企業に所属しながらも、企業内に留まることなく、こうした活動に取り組む方々が少なからず存在する点である。「経営者保証に関するガイドライン」などの整備等により、起業失敗時のリスクは低減されているが、日本においては起業に失敗すると再起が難しい、と依然としていわれることも多い。企業に所属してリスクを最小化しつつ、起業の準備を行うことが可能なこれらの取組は、日本社会にマッチした仕組みではないだろうか。

4.ベンチャー企業と大企業によるビジネス育成モデルと課題
 前述のように社会変化とともに、スピンオフベンチャーの活躍や、企業外での活動が活性化している中で、ベンチャー企業と既存の企業にとって、どのようなビジネス育成モデルが構築されていくのだろうか。
 これまで紹介した現象を踏まえると、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源全体に渡る「ベンチャー企業と大企業による循環の形成」が今後のビジネス育成を担うモデルの一つとして考えられる。

 企業内における人材が、自己の能力発揮の場を求めて、スピンアウトもしくはカーブアウトベンチャーを起業し、製品企画・開発を通じて小規模市場でビジネスモデルの構築・検証を行う。そして、大企業がベンチャー企業を買収し、資本力を活かして、より大きな市場に製品を供給していく。ベンチャーを起業した人材は、売却とともに企業内に戻ることや、新たなベンチャーを起業していく。といった米国では日常的に行われているビジネスの育成モデルが、いよいよ日本でも始まることが期待される。

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 ただし、この育成モデルが循環するためには、これまでの終身雇用のライフスタイルを前提とした制度上に、いくつかの課題が存在する。最近の国の動きに合わせて、2点紹介したい。

入り口としての兼業・副業
 一点目は、循環のスタートである、企業内の人材が企業外の活動においてビジネスを探す副業・兼業行為を禁止する就業規則の存在である。「2014年度版中小企業白書」によると、兼業・副業が許可されていない企業は67.2%に達し、また兼業・副業したいと希望する社員・職員が48.1%存在することが示されている。

 また、過去の事例の少なさから、兼業・副業に関して具体的やつ詳細を規定したルールの積み上げも少ない。兼業・副業を解禁するためには、所属する企業側と兼業・副業の線引きがある程度明確化されるルールなどが必要である。本格的な解禁に向けては、以下の項目に関するルールの整備が必要となるであろう。
(1) 本業の利益相反とならない兼業・副業が認められる範囲
(2) 本業と副業・兼業時の個人との知的財産権の範囲
(3) 雇用者として副業・兼業を行った場合の総労働時間の管理 など
 上記のような整理が存在しなければ企業側も根拠をもって兼業・副業を許可することは難しい。今後、各企業がルールを策定の際に参考となるガイドラインの整備が今後必要となると考えられる。

出口としてのコーポレートベンチャリング
 二点目は、企業がベンチャーを買収する際のコーポレートベンチャリング(CVC)の課題である。オープンイノベーションの実践という従来から指摘されている課題であるが、外部とのアライアンスの判断基準となる「企業のコアコンピタンスの特定」や「アライアンスを結ぶ事業エリアの設定」などに難しさが存在している。ただし、企業規模が大きさに比例し、これらの特定や設定は難しくなる。また、多様な組織があるが故に、多少のコスト高が生じても外部とのアライアンスよりも内部調達の圧力が強まる傾向も存在する。

 昨今、新たな視点として、上武大学の中村裕一郎教授により、ベンチャー企業と大企業の信頼関係の形成の重要性が指摘されている。具体的には、大企業がベンチャーキャピタル(VC)のコミュニティに参加し、そのネットワークの中で、VCの投資先から将来の買収候補を選定し、ベンチャー企業自身の可能性と、経営者の資質を確認していくことで、企業によるベンチャー買収の進展の可能生を示唆している※ものである。

※中村裕一郎著 アライアンス・イノベーション 大企業とベンチャー企業の提携 理論と実際(白桃書房)
 このような信頼関係の醸成を図る取組は、現在、経済産業省が進めている「ベンチャー創造協議会」においても実施されている。大企業、ベンチャー企業、ベンチャーキャピタル等を協議会に集め、各組織間のネットワークを醸成し、大企業によるベンチャー買収を促すことを目的の一つとして協議会を運営している。

5.ベンチャー支援に求められる中小企業診断士像
 ベンチャー企業と大企業による循環形成については前述のとおり、いくつかの課題があるが、競争力のある製品を市場に供給するために、大企業とベンチャー企業の循環は徐々に形成されていくものと考えられる。このような流れの中で、ベンチャー企業を支援する中小企業診断士には、どのような能力が求められていくのだろうか。

 企業内の技術者などの人材からの独立・起業に関する相談を受ける中で、従来の(1)独立に当たってのビジネスモデルの検証、(2)融資元の選定、(3)開発・生産計画、資金繰り計画の策定、(4)知的財産の特定・保護などの支援に加えて
(1) 所属企業との知的財産の整理
(2) スピンアウトの選択、時期、所属企業との関係に関するアドバイス
(3) 企業売却に備えた候補先の選定 など
の支援が今後拡大していくことが見込まれる。

 支援範囲の拡大により、ビジネス全般をカバーする中小企業診断士の社会的なニーズは一層高まっていくことが期待される。また、所属する企業内のロジックを理解しつつ、客観的にビジネスを俯瞰することが可能な企業内診断士の新たな活躍の場としても期待することができるのではないだろうか。

6.終わりに
 本稿では、企業内のエンジニアなどの人材から、起業の相談が増えている実感および周囲の声を踏まえ、近い将来に想像されるベンチャー企業と大企業の関係について、敢えて踏み込んで紹介することを試みた。紙面では紹介仕切れていない背景や事例、また、待遇面の課題など、まだまだ多数の整備すべき点があると考えられるが、本稿をお読みいただいた方々にとっての新しい「気付き」があれば幸いである。

 また、このような論点について発表する機会をいただけた東京協会およびベンチャービジネスサポート研究会の方々に感謝の意を表したい。

2014.10.27
事業承継に取り組む中小企業診断士のための 「事業承継ケーススタディブック」の発行

東京協会認定 事業承継研究会 相川 尚之

 「事業承継研究会」は、中小企業診断士協会東京支部で結成された提案チームを母体に、平成18年度に発足した。研究会の概要は以下の通りである。
(1)研究会名:事業承継研究会
(2)発足年度:平成18年度
(3)代表者名:鈴木 勇吉
(4)会員数:93名
(5)開催日時:毎月第2月曜日 18:30~20:30(8月を除く)
(6)開催場所:中央区の区民会館

 月例会では、中小企業基盤整備機構、金融機関、M&A会社等の外部講師による施策や事例に関する講演、事業承継を行った会社の新代表者あるいは前代表者による経験談、また、税理士、弁護士等の他士業の講演、会員発表を行っている。
 月例会以外の活動ではプロジェクトチームにより「中小企業診断士のための事業承継マニュアル」(2008年2月:執筆25名)、「事業承継テキスト」(2010年8月:執筆27名)、「事業承継ケーススタディブック」(2013年10月:執筆21名)を作成した。「中小企業診断士のための事業承継マニュアル」は、事業承継支援において実践経験豊かな中小企業診断士が、この分野で活躍したい専門家のための手引としてまとめたものである。「事業承継テキスト」は、新たに施行された事業承継円滑化法の制度概要などを追加し、事業承継を迎える経営者および後継者向けのセミナーや研修会のテキストとして発行した。そして、2013年に3冊目となる「事業承継ケーススタディブック」を発行した。ここでは、この「事業承継ケーススタディブック」の一部を抜粋し概要を紹介する。
 
1.「事業承継ケーススタディブック」作成の経緯と構成
 3冊目の目的は、前2冊を踏まえて、事業承継に取り組む中小企業診断士の活動の参考になるために、より実践的な内容にすることであった。このため、理論的な内容以外に多くの事例を掲載し、事業承継を行うときによく出る課題にどのように対応したかを、事例を通して一層の理解を深まるようにした。
 構成は、第1部を理論編、第2部を事例編とした。第2部は、事業承継の一般的な4類型(親族内、親族外、M&A、廃業)に合せて事例を掲載した。各事例とも統一様式の事業承継計画表を用い概要をまとめ、また、支援の手順、事業承継者の課題に関する把握すべき項目の整理等も同じ切り口で編集したため、理解し易くなっている。また、理論編と事例編の関係を巻末に関係表を添付することにより整理した。事例編のそれぞれのページに記載されていることが、理論編のどの項目に該当するかがわかり、事例編の各課題を理論編の解説と結び付けた。
2.「事業承継ケーススタディブック」の一部抜粋
(1)事業承継の現状と主な課題
 事業承継は、「経営の承継」と「資産の承継」がある。この両方を円滑に行うためには、準備のための期間として年単位の時間をかける必要がある。準備なく経営者が亡くなった場合、適切な経営者がいない、経営者がいてもその人が事業資産を相続できない、相続人間で「争続」となり相続財産の分割が長期間できず、事業ができなくなることもある。このため、事業承継は経営者が第一線で活躍している時期から計画的に行うことが重要である。

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 事業承継のパターンは、一般的に①親族内承継、②親族外承継、③M&A、④廃業である。親族内承継は、承継する人が相続人であるか否かで主な課題が異なり、親族内でも相続人以外に承継する場合の課題は、親族外承継の課題と同様な場合が多い。
 

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(2)承継者の選定
 承継者を選定する場合、一般的には、初めに子供(相続人)を検討し、その承継が難しい場合は、次に娘婿、甥・姪などの相続人以外の親族、従業員等の社内人材、社外の人材の順番で検討する。適切な承継者が確保できない場合は、M&Aとして売却先を探し、それもできない場合は廃業を検討する場合が一般的である。
 
(3)子供への承継
 事業承継先は子供が一番多く、この年齢差は30歳前後が中心と考えられる。後継者には学卒後の社会経験から他社および自社での業務経験、経営者補佐役としての経験や人間としての成長が必要であり、育成には中長期で取り組む必要がある。また、それぞれの時期に現経営者と後継者がなすべきことには留意する必要がある。

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(4)子供以外への承継と廃業
 子供がいないか、いても承継の意思がない場合は、娘婿、甥、姪、従業員、外部招へいなどが考えられる。この場合、後継の経営者として最も適切な資質を持ったものは誰か、という観点で広く候補者を求めることができる。
 後継者に経営権だけを移して、所有権がオーナーの妻などというケースも考えられるが、将来的に問題が発生しにくいのは、所有権そのものを買い取らせて、会社の経営権と所有権を一致させることである。しかし、後継者が必要な株式を買い取る資金力があるかどうかだが、一般的には資金がないケースが多いのが実情である。さらに、現経営者が負っている個人債務保証の問題をどうするかも検討が必要となる。
 親族や社内外に事業を承継する適当な後継者がいない場合には、従業員の雇用の維持や取引先の仕事を確保し、また経営者の老後の生活資金を得るため会社そのものを売却し、第三者に経営してもらうM&Aも選択肢の一つである。M&Aでは、企業価値の向上のために、計画的に「会社の実力を磨きあげる」ことが必要である。また、事前準備段階で最も注意すべき事項は、いかにして秘密を守り、従業員、取引先等の事業関係者へ、M&Aを検討しているという情報の漏洩を防ぐかということである。
 親族および外部に後継者がいない、M&Aの買い手企業も現れない場合、廃業という選択肢がある。この場合、企業価値がプラスかマイナスかでいくつかのパターンがある。また、主要事業の先行きが厳しい場合、事業部分と所有している不動産を分離し、不動産業に転業するという方法もある。
 
(5)株式承継対策
 事業承継対策の中でも株式承継対策、すなわち先代経営者などの所有している自社株式をどのように後継者に承継させるかというのはきわめて大きな問題となる。優良企業であるほど自社株式の評価額は高くなり、株式承継を実行した場合の税額は多額となる。
 先代経営者の所有する自社株式の所有権を後継者に移転する手法は、大きく分けて「贈与」「譲渡」「相続」の3つになり、所有権移転の際の株式の評価額の算定がポイントとなる。親族外承継の場合は、後継者が法定相続人でないため「譲渡」を基礎とした手法となることが多い。この場合の最大の問題点は、後継者がどのようにして自社株式の買取資金を調達するかと言う点である。
 中小企業のM&Aは、多くの場合、株式譲渡方式と事業譲渡方式のいずれかによることが多い。M&A方式は純然たる第三者間の取引であることから、取引価額については、基本的に税務リスクは気にしなくて良い。
 蓄積した財産がある場合の廃業は、法人を完全に清算し、その財産を株主に配当する方法と、事業を廃業した後に、その財産を基に不動産賃貸業に転業する方法がある。法人を解散・清算する場合は、法人の残余財産は持分比率に応じて株主に配当されることになる。株主が個人であれば配当所得となり、最高で地方税を合わせて50%の税率の所得税が課税されるが、自由に使えるようになる点が大きなメリットである。不動産賃貸業へと転業する方法は、会社の商号が残る他、配当所得への所得税がかからないというメリットがある。

(6)相続
 資産の承継を考える場合に、まずは、先代経営者の資産を把握することから始める。事業承継の観点から先代経営者の資産をみる場合、自社株式、事業用資産、その他資産の3つに切り分けて把握することが重要である。
 資産の承継を考える上で、相続法の知識が必要となる。被相続人の財産を相続人が相続によって承継する方法には、「遺言相続」と「法定相続」がある。遺言がある場合には、遺言相続として遺言にしたがって処理され、遺言がない場合には、法定相続となる。事業承継では遺言相続が望ましい方法である。
 遺言によって法定相続のルールを修正することができるが、民法では、一定の相続人の生活保障などのために、遺言によっても被相続人が自由に処分できない一定割合を定めており、この一定割合の相続権のことを「遺留分」と呼んでいる。遺留分対策はいくつか考えられ、それぞれの対策を組み合わせることも可能である。

(7)事例の概要
 ①株価対策を優先し経営権承継を失敗した事例(親族内)
 創業者は、自社株の評価対策および承継対策として、自らの社長退任と後継者である長男の社長就任を決定し、役員退職金を受領するとともに、相続時精算課税制度を活用し、自社株を長男に贈与した。しかしながら、名誉会長となった創業者はその後もたびたび経営へ介入し、社内で強い影響力を保持したため、創業者と後継者との間で不協和音が生じていた。
 本件の相談を受けた中小企業診断士は、社内調査を実施した上で、失敗してしまった経営権の承継を立て直すための改善策を提案した。本提案は会社で採用され、事態は徐々に好転に向かっている。
 
 ②後継者と経営状況の認識を共有して成功した事例(親族内)
 当社は現経営者(62歳)が創業した金属部品製造業である。長男を入社させてはいるが、経営状況については何も伝えていない。その結果長男は前職の大会社にいた時と同じようにのんびりとした仕事ぶりで、事業承継についての心構えもできていない状態であった。
 中小企業診断士が社長に対して長男に経営状況を伝えて本人の自覚を促すよう勧め、経営状況について理解を求めた結果、長男には後継者としての自覚が生まれ、事業承継に向けての準備が進んだ。
 
 ③社内に後継候補となる複数の親族がいる場合(親族内)
 当社は現経営者(69歳)が創業した食品卸売業であるが、75歳までに後継者に経営を引き継ぎたいと考えている。
 社内に2人の息子がおり、経営に対する意欲や能力、社内の評価などから二男を後継者として指名した。長男も会社に残し一定の株式を譲渡することも考えたが、最終的に長男は退社して別会社を任せられ、株式も後継者の二男に集中させることにした。
 現在、将来ビジョンづくりをはじめ、後継者教育に取り組んでいる。
 
 ④親族外後継者に新会社を設立させ事業譲渡を計画している事例(親族外)
 経営者が従業員を後継者に選定し事業承継の準備を始めたが、自社株式の承継については評価額が高額となることから、従業員の後継者には一部だけ保有させ、多くは相続財産として相続人に残す「所有と経営の分離」で対応する考え方でいた。
 しかし、経営者が相談に訪れた中小企業診断士から、「所有と経営の分離」は後々経営者と相続人の争いの元になるので避けたほうが良いこと、自社株式が高い場合にも「所有と経営の分離」をしない事業承継のやり方があることなどのアドバイスを受けた。経営者はこのアドバイスを受入れ、従業員に新会社を設立させそこに主事業を事業譲渡する形で事業承継することを決意した。
 そこで中小企業診断士は事業譲渡方式による事業承継の進め方を更に詳しく提案するとともに、税理士(会計士)、弁護士とプロジェクトチームを立ち上げて税務法務の面でどんな問題点があるか検討を行った。
 
 ⑤親族外後継者へ株式を移行する事例(親族外)
 創業者はひとり娘の長女を次期社長とし、実力のある営業部長をその補佐役とする承継計画を立てていたが、長女が急逝し、営業部長も病気で退職した。銀行の紹介による会社売却も市況が悪化して頓挫した。途方にくれたが、偶然訪れた公的機関の相談窓口で、従業員への承継の可能性を示唆された。
 従業員の中から後継者を指名したが、高額での株式売却を望む創業者と株式買取資金が十分でない後継者との間で、利害対立が起こった。
 相談を受けた中小企業診断士は、他の専門家を交えた事業承継対策チームを作り、円滑な株式移行対策を提案した。
 
 ⑥社外の事業者に事業を承継した事例(M&A)
 当社は、前代表取締役が創業した会社であるが、過剰設備投資に加え、近年の事業環境の変化により、業績が急激に悪化した。
 当初、取締役である息子への事業承継を検討していたが、前代表取締役から引きついだ過剰債務があまりに重く、自主再建がなかなか思うように進まずにいた。
 金融機関と相談し、事業価値が毀損し、破たんに至る前に、外部のスポンサーに事業を承継することとした。
 
 ⑦事業承継と争続回避のため前向きに廃業した事例(廃業)
 小型船舶造船業を営む社長は、市場の縮小および自分と従業員の高齢化から、廃業を検討していたが、2011年3月の東日本大震災の被災を契機に廃業を決断した。社長の思いは、①従業員や取引先などの負担の軽減、②当社のDNAを引継いでいる金属加工会社の株式を自分から長男(この会社の社長)へ承継、③争続の回避を実現できることであった。
 本件は、これらの課題に対して、中小企業診断士のコーディネーター力の発揮と専門家とのコラボにより、社長を中心とした円滑な廃業と不動産M&Aの手法を活用してソリューションした、前向きな廃業事例である。

2014.09.27
エコステージ:中小企業の環境経営の総合サポートと支援手法の研究開発

エコステージ実務研究会 大滝 俊武

はじめに
 エコステージ実務研究会では、月に1回、環境マネジメントシステム研究会(EM研)、
一般社団法人東京環境経営研究所(以下TKKと略す。2年程前から、契約を結ぶことが可能な一般社団法人であるTKKがエコステージの評価機関となっている)の例会と同じ場所で、時間をずらして合同例会を行っている。
 以下、エコステージ活動をミッションとするエコステージ実務研究会の研究活動を中心として記していくこととする。

1.エコステージの概要
 環境問題は、世界共通の大きな課題。企業活動においても環境への対応が必須となり、大手企業を中心に環境マネジメントシステム(EMS)の導入が普及している。EMSとは、企業や団体などの事業者が、環境に関する方針や目標などを自ら設定し、これらの達成に向けて取り組み、実行していくためのシステムである。

 代表的なEMSとして国際規格のISO14001が知られているが、中小企業にとっては費用や工数などの負担が重いものである。そこで、中小企業でも導入しやすいEMS国内規格の一つとして生まれたのがエコステージ。エコステージは、ISO14001と整合性が高く、さらに経営力強化を図る有効なシステムである。国内中小企業を中心に普及が広まり、多くの大手企業の取引基準にも推奨されている。

 エコステージは次のような組織にお応えしていく。
 (1)取引先のグリーン調達基準を満すために、信頼のおける評価機関による第三者認証が必要。
 (2)将来的にはISO14001を取得したいが、コスト負担が大きくなかなか手が出ない。
 (3)経営改革、改善の実現によりコスト削減を図り、収益アップにつなげたい。
 (4)「社会的責任」がクローズアップされる中、組織のイメージ向上を目指したい。

 201410_tokusyu_1.jpgエコステージの概要を図に示す。
 エコステージ1は、環境マネジメントシステムの導入初期段階で基本的な経営管理要素について環境配慮が実施されているレベルである。

 エコステージ2は、環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001認証と同等レベルの要素が構築され、実施されているレベルである。

 エコステージ3は、システム改善が実施され、経営マネジメントシステムの中で、必須要素である営業、購買、設計、工程、物流などの管理システムにも環境への配慮が実現できているレベルである。

 エコステージ4は、経営マネジメントシステムの必須要素がカバーされ、かつ環境パフォーマンス指標に基づいた管理が実現できているレベルである。

 エコステージ5は、統合マネジメントシステムが構築されているレベルであり、かつ環境会計および情報開示により環境パフォーマンスの改善および社会とのコミュニケーションが実現できているレベルである。

2.エコステージ活動の取組み例
 エコステージ実務研究会では、数社のエコステージのシステム構築・運用支援およびエコステージの評価機関であるTKK所属の評価員として認証評価、定期評価、更新評価などの活動を行っているが、その取組み例を表に示す。
201410_tokusyu_2.jpg

3.エコステージ実務研究会の環境経営への取組み
 PDCAのサイクルを使った業務や経営の改善、中小企業診断士・エコステージ評価員による環境経営実現の支援などをエコステージ実務研究会の取組みとしている。
 
 前記の数社のエコステージ活動の取組み例でも示したように、ホームページ(以下HPと略す)のリニューアルの支援、経営革新計画の認証取得の支援、ものづくり補助金申請書作成の支援等の経営改善に関する支援なども行ってきており、中小企業診断士の強みを生かして、本業と環境活動の一体化支援をエコステージ実務研究会の環境経営への取組みの特徴としてあげることができる。

4.支援手法開発・研究
 エコステージ実務研究会ではTKKとの連携のもとに、次の支援手法の開発・研究などを行っている。

(1)化学物質管理関係の開発・研究
1)ISO-RoHSガイダンス文書の作成
  マネジメントシステム
  -製品の化学物質等の使用制限に関する法規制遵守のためのガイダンス(仮称)
    (ISO-RoHSガイダンス文書)の作成を平成24年度に行った
     (TKKのHP(http://www.ecoken.net/)参照)。

 EU RoHS(Ⅱ)指令によるCEマーキング対応が2013年1月から義務付けられることになった。CEマーキングは製造・流通過程の下流(川下)企業の義務であるが、その対応は製造・流通過程の中流(川中)、上流(川上)段階の企業に求める必要が生じている。
 川中企業は多くの川下企業からさまざまな経路で、電気電子業界固有の"均質材料"レベルでの適合性確認が要求されている。
 川中の中小企業の立場からは、対応の一本化が望まれる。また、中小企業では中国などのアジア諸国へ直接輸出する企業が増加している。
 川中の中小企業にとって、国内川下企業共通のマネジメントシステムが望まれる。
 これらを背景として、ISO9001の造詣が深いNPO法人国際品質保証協会(IQAI)と海外法規制情報に明るいTKKが連携して、ISO-RoHSガイダンス文書の作成を行った。

2)川