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2017.10.29
りんご農家のビジネスモデルの再構築

良い食品販売研究会  齊藤 昭彦

はじめに
良い食品販売研究会は、平成21年に発足し、人々の健康に資するため、座学による食やコンサル手法などの知識の習得をもとに、実際の診断活動を続けてきた。メンバーは、食品業界に関わっているもののみならず、他業種からも数多く参加しており、多面的な議論を行いメンバー間相互に触発することを特徴としている。
今回、当研究会ではI農園よりビジネスモデルの再構築の相談を受け、現地調査のうえ、つぎのような提案を行った。

1.日本のりんご農家の現状
りんごの収穫量は、従事者の高齢化や農家数の減少により、結果樹面積(栽培面積のうち生産者が果実を収穫するために結実させた面積)は年々低下し生産量も減少傾向にある。

(1)りんご農家の状況
 ① 農業従事者の状況2p-1.jpg
   平成27年度のりんご農業経営体数は、全国で39,680と果樹栽培農業経営体の17.9%と柑橘類に次ぐ規模であるが、総数、果樹栽培農業経営体数に対する割合ともに減少傾向にある。
 ② 作付面積
   平成28年度のりんご作付面積は、全国で38,300haと柑橘類に次ぐ規模であるが、その面積は減少傾向にある。
 ③ 消費動向2p-2.jpg
   平成26年度のりんごに対する1世帯あたりの年間の支出金額は5,210円、購入数量は12,868gであり、柑橘類に次ぐ消費量である(二人以上の世帯)。
   また、平成26年度の世帯収入別(勤労者世帯)および世帯主年齢別の年間支出額をみると、高年収世帯、高齢者世帯の支出額が大きくなっている(二人以上の世帯)。

 ④ 貿易
   平成28年度のりんご輸出額は、130億円を超えており、3p-1.jpg生鮮・乾燥果実輸出額の80%以上となっている。主な輸出先は、台湾(70%)、香港(10%)、中国(4%)である。その一方、りんご輸入額は生鮮4億7千万円に対して、ジュース108億円と、ほとんどがりんごジュースとして輸入されている。

(2)りんごの品種とその特徴
 平成28年度の品種別にみた収穫量は、「ふじ」が40万6,600トンと最も多く、全体の5割以上を占めている。また「つがる」「王林」「ジョナゴールド」とあわせて、上位4品種で約8割の収穫量を占めている。3p-2.jpg
 これまで「おいしい」「食べやすい」などの消費者ニーズに応じて新品種が育成・生産されてきており、近年もより多様化したニーズに対応した新品種が育成されているが、現実は上位4品種への集中度が高まる傾向にある。りんごの主な生産地の青森、長野で生産されている主なりんごの特徴は以下のとおりである。

3p-3.jpg

2.支援先企業I農園の概要
I農園は長野県飯綱町にあり、周辺を志賀高原、戸隠高原、斑尾高原に囲まれた自然豊かな丘陵地で、昼夜の寒暖の差が大きく、土壌も粘土質で大変美味しいりんごが収穫できる場所として有名。
I農園では、自分や家族、親せき、友人が安心して食べられるように、殺虫剤の使用を極力控え、雑草駆除剤は使用しないという安全なりんごづくりにこだわりをもつ。

(1)生産体制
 ① 生産者の想い4p-1.jpg
   Ⅰ農園の規模は約2 haと小規模ではあるが、甘く、大きなりんごに育てるために剪定や摘果、葉摘み、玉まわしなどを丁寧に行い、質の高いりんごを栽培している。りんごの木の寿命は、経済的には20年~30年といわれているが、Ⅰ農園では1本1本の手入れを適切に実施することにより樹齢50年以上の木もある。
 ② 人員体制
   通常時は、剪定、施肥、最小限の農薬散布等を経営者1名、経理等1名、営業1名で運営している。摘果、収穫時は地元主婦のパートを7名程度雇用する。
 ③ 商品
   りんご生産量の80%は「ふじ」、20%が「つがる」である。
   生産量の90%程度は、利益率の高い贈答生食用として販売している。生食用として販売できなかったりんごは、りんごジュースやシードルの原料として利用している。シードルの生産量は年間500本程度であるが、自社での醸造設備をもたないため、近隣のワイナリーに醸造を委託している。
 ④ 製造原価、利益
   生食用りんごは、ほとんどが消費者への直販となっているため、中間マージンを省き高い利益率となっている。シードルは、販売価格1,700円(1本)に対し委託醸造費が約1,000円必要となるため粗利益は700円(1本)程度である。

(2)販売体制
 ① 主な販売先
   販売先は、消費者への直売がほとんどで、JAへの出荷は行っていない。直販比率が高いため、中間マージンが省けるので利益率は高い構造となっている。
 ② 消費者へのアプローチ
   消費者へのアプローチは、既存顧客へのDMによるセールスと、ホームページを使ったインターネット通信販売により行っている。品質が評価され、既存顧客のリピート率は高く固定客主体の販売体制となっている。

3.I農園の課題と解決の方向性 
(1)課題1:りんご生産者を取り巻く環境変化への対応
 ① 課題
   I農園の主力商品は生食用りんごである。生食用りんごのアピールポイントである見た目、すなわち大きさ、形、色・艶をよくするための作業をほとんどすべて手作業に頼っているが、近年の人手不足の影響で必要な労働力の確保が難しく、人件費がコストアップ要因となっている。
   また、生食用りんごは販売量・販売単価ともに右肩下がりの傾向にある。スーパーなどで手に入る果物の種類が豊富になる中でりんごを選ぶメリットが感じられない、皮をむくのが面倒、核家族化で丸々一個は食べきれないなど、消費行動の変化がその背景にある。
   このような環境変化は徐々に採算を圧迫しつつあり、りんご農家の中には耕作を放棄するケースもみられるようになってきた。人手不足や消費行動の変化は一時的なものではなく、将来ますます厳しさを増すと考えられ、I農園もりんご農家として生き残るために事業内容の見直しを迫られている。
 ② 解決の方向性
   加工用りんごは見た目で評価されないため生食用りんごに比べて生産にかかる労働力が少なくて済む。この利点を生かした人手不足および採算対策として生食用から加工用へとりんご生産の軸足を移す方向を検討中である(ただし、海外市場向けなど高価格で取引される生食用りんごの生産は続けたいと考えている)。
   加工用りんごの主要な用途としてはジュースとシードルが挙げられるが、この2者を比較するとシードルに下記の点で、より優位性が認められる。
  a.製品の賞味期限がなく、歩留まりがよい
  b.瓶のラベルに農園の名前が記載されるので、農園の知名度があがる
  c.りんごの持つ健康イメージとアルコール度数が低いことから世界的に需要が伸びる中、日本でも徐々に人気が高まりつつある
  d.日本のシードル市場は現在発展途上の段階にある。既存事業者の増産や新規参入がみられ、今後市場拡大とそれに伴う要求水準の向上が期待される。
   具体的な事例として、日本シードルマスター協会が主催する「シードルアンバサダー講座&認定試験」は非常に人気が高く、申し込み多数でキャンセル待ちの状況である。
   なお、シードル用には酸味・渋味のあるりんごが適しており、甘みが要求される生食用りんごに比べて生育期間が短縮されるメリットもある。このようなシードル生産に適したりんご品種の選択・開発も今後の課題の一つである。

(2)課題2:シードル醸造(外部委託)に制約が多い
 ① 課題
   I農園は現在でも自社で生産したりんごの一部を外部のワイナリーに委託してシードルに加工・販売をしている。しかし、外部委託には以下のような問題がある。
  a.時期の問題
    りんごにはさまざまな品種がある。シードルに適した品種の収穫最盛期は10月~11月であるが、この時期はワイン用ブドウの収穫期と重なっており、委託先のワイナリーにとっても本業であるワイン生産で最も忙しい時期に当たるためシードルは醸造してもらえない。ワイン醸造が暇になる1月~2月になればシードル醸造を受託して貰えるが、この時期に収穫される品種は甘みがあってクセの少ない生食用の「ふじ」が中心であり、シードルづくりには適さない。
    また将来ワインの需要が増えた場合、1月~2月もワイン製造にあてられる可能性があり、その場合にはシードル生産を受託して貰えなくなるリスクを抱えている。
  b.保管場所の問題
    I農園の希望する瓶内二次発酵製法は瓶詰めしてから製品として完成するまでに時間がかかる。酒税法の規定上、完成するまでは醸造所敷地から外に出すことはできないため、ワイナリーにとってその間の保管場所が問題となる。
 ② 解決の方向性
   I農園と同じく外部委託の問題を抱える近隣のりんご農家と共同で醸造設備を保有・運営する。これによって下記のメリットが得られる。
  a.最適な時期に、最適な品種のりんごを加工することにより理想とする品質のシードルを追求し、今後の伸びが期待されるシードル市場において他の生産者たちと切磋琢磨しあうことができる
  b.「りんご農家の作るシードル」を主力製品とすることで、りんご農家として生き残りを図ることができる

4.今後の対応(支援計画)
シードル醸造事業(自家設備)の運営を進めるにあたって、下記項目について仮説→実行→検証→フィードバックのサイクルに沿って伴走支援を継続する予定である。
   
(1)経営主体
 ひとつの事業体としてまとまりをもって事業にあたるために、株式会社設立を行う。これは同時に、6次化補助金の受領条件である(農業)法人化を充足することにつながり、資金調達の幅を広げる。

(2)設備の規模とその調達
 シードルの酒類製造免許を取得するための法定製造数量は 6,000ℓである(特区では 2,000ℓ)。採算にのる規模は 30,000~50,000ℓと算定している。
 近郊の廃校予定の小学校跡地を商業集積化する計画があり、設備の建設地の選定・購入などの問題がクリアできるうえ、資金面でも有利であるため、有力な設置場所として検討する。
 廃校利用の場合の初期投資額は、
   ・設備(搾汁、発酵、瓶詰)       13百万円
   ・リフォーム(水回り、空調・断熱、販売・試飲スペースなど) 10 ~20百万円
の、合計23~33百万円の見込みである。

(3)資金調達
 共同事業農家による出資のほか、余剰りんごに困っている周辺農家から、シードルの製造受託と引き換えに出資を募るなど地域のりんご農家を巻き込む。更にファンドや6次化補助金などの利用を検討する。

(4)醸造技術
 免許取得には醸造責任者の存在が不可欠だが、その養成には時間とお金がかかる。そのため、近隣ワイナリーから、兼務の形で醸造責任者を派遣して貰うと同時に、別途常駐者を設けることで、技術習得に努めることにする。

(5)酒類の製造・販売免許取得(資格・期間)
 酒造免許は、許可が下りるまで約6ヶ月を要する。従って、生産開始時期を見きわめて、全体の計画を練る必要がある。

(6)設備を充分に稼働させるだけの受注量確保と販路開拓
 自家設備を持つ以上、自家ブランドを育成したい。現在ワイナリーに製造委託している農家の製品を受託生産し、更に近隣のりんご農家を巻き込みたいと考えている。
 具体的な販売経路は、酒販店を通すものと直接ルートとが考えられる。後者はさらに、ネット、飲食店、イベントへの参加などになるが、当初は生食用りんごの購入者に対するアプローチからスタートする。

まとめ
今回支援させていただいたI農園では、次世代の後継者が日本の農業を未来へつなぐためにさまざまな取り組みを検討している。昨年度当研究会で学んだ「地元学」(参考文献;吉本哲郎「地元学を始めよう」結城登美雄「地元学からの出発」)にあったように「土の人」(地元の人々)と「風の人」(よそ者:診断士)が知恵と行動を融合することで新たな活路を見いだせるような活動を今後も続けていきたい。

2017.09.29
中小企業のIT経営推進への道標 ~「IT経営推進プロセスガイドライン」の活用~

中小企業のIT経営推進への道標
~「IT経営推進プロセスガイドライン」の活用~

「診断士ITC研究会」

1.はじめに
 IT化の進展により中小企業でもITの利活用が必要となっている。ITコーディネータ協会i)では、「IT経営とは、経営環境の変化を洞察し、戦略に基づいたITの利活用による経営変革により、企業の健全で持続的な成長を導く経営手法である」と定義し、「IT経営推進プロセスガイドラインVer.3.0」ii)(以下、IT経営PGLと記す)を発行している。本稿では、大企業までカバーする「IT経営PGL」を、中小企業診断士が中小企業・小規模事業者の支援に活用することを想定し、「IT経営PGL」の概要と事例について紹介する。

1p-図1.jpg

i) ITコーディネータ協会 https://www.itc.or.jp/
ii)IT経営推進プロセスガイドラインVer.3.0:初版発行日2016年8月31日、184ページ

2.IT経営の推進方法
 IT経営PGLは、IT経営推進の羅針盤として、IT経営の「実行基準」と「判断基準」を示している。実行基準は、IT経営で注力すべき重要な活動領域での「進め方(プロセス)」を示しており、判断基準は、各プロセスの実行における判断の視点としての「基本原則」を示している。以下、進め方を中心に記載する。
 IT経営プロセスの全体像を図1に示す。進め方(プロセス)については、3つの主要な活動領域に分けている。IT経営認識領域(A)、IT経営実現領域(B)、IT経営共通領域(C)である。各プロセスについては、以降で詳しく述べる。
  
3.IT経営認識領域(A)
 IT経営認識領域は、経営や組織のIT経営への変革認識を向上させることで、IT経営実現領域(B)の活動を支える。
 (1)変革認識プロセス(A1)
  危機感や問題意識を経営者や従業員で共有し、環境変化に気づき、変革のためのモチベーションを組織的に高め、変革の必要性を全社にわたり認識させる。
 (2)変革マネジメントプロセス(A2)
  変革の推進を支援するとともに、変革構想の前提条件の変化とIT経営実現領域の活動状況とを継続的に把握し、必要な是正を行う。
 (3)持続的成長認識プロセス(A3)
  変革構想に基づいた経営戦略、業務改革、IT戦略、IT化プロジェクト実行成果の評価によって組織の成長を確認し、次の変革実現に何が必要かを確認する。

4.IT経営実現領域(B)
 IT経営実現領域(B)では、IT経営を実現するための、経営戦略の策定から戦略目標達成までの一連の活動を行う。活動には、経営戦略に関するもの、業務に関するもの、ITに関するものが含まれる。また、ビジネス改革や業務プロセス改革(イノベーション)の活動も含まれる。
 IT経営実現領域の各プロセス概略を図2に示す。

2p-図2.jpg

 (1)経営戦略プロセス(B1)
  経営戦略プロセスはIT経営実現領域の最初のプロセスで、経営者の変革構想を受けて、経営戦略の策定・実行・評価を行う。経営戦略は全体計画と個々の組織別計画にブレイクダウンして実行され、結果は経営戦略目標の達成度で評価される。
  ①経営戦略策定段階
   経営戦略プロセスでは、変革認識プロセス(A1)で作成した変革構想を確認し、自社の「強み」や会社としての能力、内外の経営資源を考慮し、経営戦略を策定する。
   また、経営変革にどの程度ITを組み込むのかを決める重要なプロセスでもあり、変革の程度、範囲やスピードを大きく左右する方針が決定される。
   図3(経営戦略企画書の事例)は、中小企業はもちろん小規模事業者まで対応可能な支援実績のある、できるだけ簡単にテマ・ヒマ・カネをかけず経営戦略を1枚にまとめ検討・確認する目的で作成されたものである。

3p-図3.jpg

  ②経営戦略実行段階
   経営戦略を組織内で共有し、これと整合をとった中期経営計画、組織の短期実行計画(通常年度単位)などを作成し実行に移す。これらの計画に沿って開始される業務改革やIT戦略、IT利活用の各プロジェクトは、業務改革プロセス、IT戦略プロセスおよびIT利活用プロセスで推進される。
  ③経営戦略評価段階
   中期計画期間終了時点で、各プロジェクトから実行結果の評価を引き継ぎ、全体として経営戦略目標を達成しているかどうかを評価する。評価結果は、持続的成長認識プロセス(A3)へ引き継ぎ、経営戦略プロセス(B1)を完了する。
 (2)業務改革プロセス(B2)
  業務改革プロセスでは、新たなビジネスのあり方や新業務プロセスを検討し実現する。必要に応じて業務改革プロジェクトとして実施する。ITに目がいきがちであるが、ITは業務改革の実現手段であることを意識しておく必要がある。
  ①改革課題の明確化
   中期経営計画から具体化したCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)/KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)および業務改革課題などを明確化し、業務改革方針を策定する。
  ②現状のビジネス・業務の分析
   業務改革に関連する外部環境および内部環境の情報やデータを収集し、中期経営計画実現に向けての課題と対策を検討する。
  ③目標とするビジネスのあり方・業務プロセスの決定
   外部のベンチマーキングやさまざまな事例、技術動向、業界動向などから目標とするビジネスのあり方を検討・決定し、それを実現するための業務プロセスを具体化する。そして、改革内容、スケジュールを業務改革実行計画にまとめる。
   図4は、具体化した業務プロセスを業務フローで表現した例である。

4p-図4.jpg

  ④ビジネス改革・業務改革の実施
   目標とするビジネスのあり方やその業務プロセスの実現のために業務部門やビジネスパートナーとの協働作業を行う。
  ⑤ビジネス改革・業務改革の評価
   予定されていた計画との差異を確認し、成果を評価するとともに、そこで明らかになった課題の改善や見直し内容を明らかにする。
 (3)IT戦略プロセス(B3)
  本プロセスでは、ITサービスやIT利活用のための戦略を策定する。IT戦略プロセスの進め方は以下の通りである。
  ①IT領域環境分析
   IT領域の環境を、現行のIT環境、内部制約条件、外部のIT動向の観点で分析を行い、現行のIT環境の成熟度、および制約条件を確認し課題を抽出する。
  ②IT要因による業務プロセス改革の特定
   実現すべき業務プロセスを特定したうえで、KGI/KPI達成のための既存業務の見直しを行う。制約条件(IT環境、予算、期間)を踏まえ、解決を「人間系」「IT系」に区分し、目標とする業務プロセスの概要を策定する。そして、「IT利活用レベル」を把握し、目標業務プロセス実現のための目標IT環境を策定する。
  ③経営戦略とリンクしたIT戦略の策定
   目標とする業務プロセス、およびIT環境の現状とのギャップをIT経営の成熟度の観点で分析を行う。そして経営戦略の優先度、難易度、投入可能な経営資源、費用対効果などを評価し、新業務プロセス・ITサービスの範囲と機能、サービスレベル、スケジュール概要、推進体制、評価項目、IT戦略目標達成、IT戦略活動指標を定める。さらに、ITの導入方式(パッケージ導入、パッケージのカスタマイズ導入等)、運用形態、IT化プロジェクト体制の構築方法を策定する。これらをまとめ、「IT戦略企画書」を作成する。
   図5は、「図3 経営戦略企画書の事例」をもとにIT化戦略を検討・確認する目的で、1枚にまとめた事例である。
  ④IT戦略の展開
   IT化の方針を、ITサービスの範囲、対象者、サービスレベル、機能、導入、運用、新旧システムの連携と整合性、セキュリティポリシー、リスク対策などを踏まえて、推進体制、進め方を具体的に定める。そして、目標ITサービスレベルと利活用レベルを定め、業務部門と合意し、IT化プロジェクトの評価内容を決定する。これらの決定事項とロードマップ、投資計画を加え「IT戦略実行計画書」を作成する。
  ⑤IT戦略の達成度評価
   IT戦略の実行後(IT戦略の実行については後述するB4を参照)、あらかじめ「IT戦略実行計画書」で設定した計画の達成度を評価し改善を行う。IT戦略のKGI/KPI等の計画値と実測値の差異分析と、その結果に対する原因分析を実施してIT戦略の実現度を評価する。その中で導出された問題点は解決方針を明らかにし、課題の内容を鑑みてフィードバック先のプロセスを決定する。

6p-図5.jpg

 (4)IT利活用プロセス(B4)
  ①IT資源調達ステップ(B4-1)
   中小企業の場合、内部資源だけでは、ITサービスをすべて調達することは難しい。そのため、ITサービスを外部のサービス開発・提供者から調達するケースが多い。
ア)IT資源調達計画
 「IT戦略実行計画書」に基づいて、新業務プロセスとITサービスを、調達できる単位に整理し、それぞれ、機能要件、情報モデル、技術的要件、運用要件、品質要件といった調達要件を明確にする。あわせて、現行の業務プロセス・IT環境(As Is)と、業務プロセス・IT環境のあるべき姿(To Be)を外部の関係者に理解できる形に整理しておく。
 契約方法、納品、研修など日常調達業務の作業範囲・契約条件などについて、購買部門と調整を図る。また、調達基準は、経営基盤、技術力、アフターサービス体制、要求事項の達成度、費用などから設定しておく。

イ)提案依頼書(RFP)の発行
 今までの検討に基づき、発注企業の現況および環境、課題と達成目標、調達内容および範囲、期待効果、予算、現行の業務プロセス、体制、業務フローと新業務フロー、新情報システム、移行、教育・訓練、開発・運用条件、保証条件、契約条件、取引形態などをまとめて提案依頼書(RFP:Request For Proposal)を作成する。提案依頼対象者のリストを技術的能力、実績、開発能力、品質管理能力、財務安定性などに基づいて作成し、それらに対してRFPを発行する。必要に応じて、提案依頼対象者に対して、説明会などを開催して、質問や依頼に対する説明などを行う。

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ウ)調達先の選定・契約
 外部のサービス開発・提供者から提案と費用見積もりを受領し、内容を調達基準に基づき評価し、選定する。その後、選定した外部のサービス開発・提供者との契約内容の合意のための交渉を行い、合意に基づいて契約を交わす。
 IT資源調達は、公平な立場で、公正、オープン、透明性を確保して実施し、総合的な視点で選ぶ。
  ②IT導入ステップ(B4-2)
   外部のサービス開発・提供者を含めたIT化プロジェクトチームを編成し、経営目標・業務改革実現のためのIT利活用を行う業務プロセスを具体化する。

8p-図7.jpg

ア)IT導入実行計画策定
 具体的なシステムの方式・形態(内外製方式、導入形態、開発方式、運用形態)を決定する。IT導入ステップを、WBS(Work Breakdown Structure:プロジェクト全体を細かな作業に分解した構成図)などを用いて詳細なタスクに分解し、各タスクにおける役割分担を業務改革プロジェクトチーム、IT化プロジェクトチーム、外部のサービス開発・提供者を含め定義する。導入詳細スケジュール、IT化プロジェクトチームが中心になって、IT導入マネジメント計画を策定する。
イ)IT導入のマネジメント
 IT導入マネジメント計画に基づいて、IT化プロジェクトチームが中心となって外部のサービス開発・提供者とともに、IT導入を進める。積極的なIT利活用に基づく業務要件やITサービスの要件を確定し、新業務の業務プロセスを詳細な業務フローやITサービス内容についてIT戦略との整合性を取りつつ、設計する。新業務の業務プロセスについては、業務要件定義、業務フロー、情報モデル、コード体系、入出力情報といった内容を確定する。ITサービス内容については、サービス内容、基盤、日次、週次、月次、年次などの運用方法やその仕組みだけでなく、緊急時運用法などについても業務の実施に影響がないよう検討する。IT環境構築にあたっては、IT導入方式に従って、導入を行い、品質・コスト・納期から全体管理を行う。
 総合テスト計画・システム移行計画の策定と準備は、業務改革プロジェクトチームとIT化プロジェクトチームが一体となって行う。総合テスト計画では、テストの範囲・方法・環境、スケジュール、役割分担、要員配置、必要機器類、必要設備などについて、計画の策定と準備を行う。移行計画は、1)移行時期、タイミングの判断、2)移行のためのツール準備、3)移行による現行業務への影響度合い、4)移行の実施者、責任者の明確化、5)移行テストと移行結果の確認方法、6)実施予定日における全体調整、7)リハーサルの必要性と実施、8)移行失敗時の手戻し手段と戻し作業手順などを考慮する。
 業務改革プロジェクトチームが業務マニュアルを、IT化プロジェクトチームがシステム運用マニュアルをそれぞれ主体となって作成をする。業務マニュアル、システム運用マニュアルに基づき、業務改革プロジェクトチームとIT化プロジェクトチームが一体となって教育・訓練計画を作成し実施する。
 総合テストは、計画に基づき、ステイクホルダー参加のもとで実施する。システム移行、データ移行、現業業務から新業務への業務移行のリハーサルは、移行計画に基づいて、業務改革プロジェクトチームとIT化プロジェクトチームが一体となって実施する。
ウ)IT利活用開始判断
 総合テスト状況と結果、業務移行準備、データ移行準備、システム移行準備、ITサービスの開始準備状況等を評価して、ITサービス利活用開始可否の判断を行う。
  ③ITサービス利活用ステップ(B4-3)
   業務改革プロジェクトチームは、積極的なITサービスの利活用を対象業務部門などに促し、業務改革を推進する。
   ITサービス提供部門は、その提供状況と利活用状況をSLA(Service Level Agreement
:サービスの提供事業者とその利用者の間で結ばれるサービスのレベルに関する合意水準)に規定された指標ごとに、設定されたタイミングで捕捉し、差異分析を行い、必要に応じて改善策を検討する。ITサービスレベルの改善はITサービス提供部門が、ITサービス利活用の改善活動は業務改革プロジェクトチームが中心となって実施する。
   運用中に、IT提供部門に対して、業務改革プロジェクトチームから各業務部門からさまざまなITサービスの提案やクレームや改善要望が出されることがある。その場合、経営全体視点の観点などから、変更を行うかの判断、変更の方法、変更内容や範囲、変更時期などを決定して、その変更要求の過程(受付、対応、指示、結果)を記録する。

10p-図8.jpg

5.IT経営共通領域(C)
 IT経営共通領域は、IT経営の各領域、プロセス、ステップに関して、共通の考え方で推進すべき取組みを示す。
 (1)プロジェクトマネジメント(C1)
  IT経営実現領域(B)での各プロジェクトを整理・統制し、目標、成果物、期限、品質や対象範囲、責任範囲を明確にし、目的の達成に導く取組みである。
 (2)モニタリング&コントロール(C2)
  環境の変化と、各領域、各プロセスの状況をモニタリングし、目的達成に向けてコントロールする取組みである。IT経営認識領域(A)では外部変化も踏まえて全体最適観点で、IT経営実現領域(B)では各プロセスの完遂をめざして実施する。
 (3)コミュニケーション(C3)
  IT経営プロセスの全般に渡るステイクホルダーとのコミュニケーションにおいて、重要なコンピテンシー(能力・適性)である。相手の価値観を察知し、相手の意見を聞き(傾聴)、自己の意見も伝え(アサーション)、より良い合意形成ができるコミュニケーションの環境作りを主導する。

6.おわりに
 IT化の急速な進展の中で中小企業・小規模事業者も経営改革・改善にITの利活用が必要とされている。しかし、ITへ関心がない、ITの話題を避ける経営者も多く見られる。診断士ITC研究会では、研究テーマの一つとして経営戦略からIT利活用まで大企業も参考にできる「IT経営推進プロセスガイドライン」(旧ITCプロセスガイドライン)に対し、中小企業支援に役立つ簡素版IT経営PGLのあり方を検討してきた。
 本稿を、IT化に比較的馴染みの薄い中小企業診断士が企業支援を行う際に参考にしていただければ幸甚である。迅速に幅広くIT化の進展が見込まれるなかで、今後とも、IT経営の視点を中小企業・小規模事業者への経営支援に役立てたい考えである。

2017.08.29
中小企業のマネジメント研修

中小企業のマネジメント研修

人財開発研究会 上井 光裕

1.はじめに
 中小企業診断士の業務に「研修」がある。筆者は、独立して6年、これまで主にガス業界の中小企業の研修を実施してきた。中でも階層別マネジメント研修を10社ほど実施してきたため、その実績をベースに標準的な「マネジメント研修」としてまとめたものである。今後マネジメント研修を企画する際の参考にしていただきたいと思う。

(1)マネジメント研修のニーズ
 平成28年度厚生労働省能力開発基本調査によれば、OFF―JTを実施している事業所は、正社員で従業員30人以上の企業でも5割以上あり、マネジメント研修は新規採用者研修に次いで、5割近くの事業所で実施されている。

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 そこで今回は、従業員30人以上300人未満程度の中小企業を対象とした、初級マネジメント研修について、その内容や効果について、まとめてみた。
 
(2)マネジメント研修に入れるべきスキル
 マネジメントに求められるスキルとして、ハーバード大学のカッツ教授は、コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキル、テクニカルスキルの3つのスキルを挙げている。上級管理者になればコンセプチュアルスキルが多く、初級管理者はテクニカルスキルが占める部分が多い。ヒューマンスキルはどの階層でも等しく求められる。
 そこで、今回は、ヒューマンスキルを中心に、コンセプチュアルスキルを入れてマネジメント研修とした。なお、テクニカルスキルは業種によって求められるものが異なるケースが多く、業種を問わないものを取り入れた。

2.初級管理者研修のカリキュラム
 階層別研修は、多くの研修会社から提案されているが、上記の必要とされるスキルからカリキュラムを作成した。人事考課・人材育成といったヒューマンスキルを中心に、企業の課題分析としてのコンセプチュアルスキル、財務基礎やプレゼンテ―ション等のテクニカルスキルを、筆者の研修実績と実施した企業のニーズと振り返りからカリキュラムを設定した。なお、研修は月に一回開催として、研修後は課題を出し、次回履修結果を発表するという想定である。

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3.経営管理・リスク管理研修
(1)SWOT分析 
 最初のコンセプチュアルスキルの代表は、「我が社の課題分析」である。診断士にはおなじみのSWOT分析を使うが、初級管理職に、いきなりSWOT分析は難しい。
 従って、まず自分の周囲や職場、社会の変化を思い浮かべて列挙してもらう。これがSWOTの外部環境になる。
 次に内部資源について列挙してもらう。多くの研修では、自社を客観的に見たことが少ないせいか、強みはあまり出ず、弱みは目につき数も多い。そして弱みの大小、粒の大きさも異なって列挙されることが多い。

(2)因果関係分析
 実際の問題は複雑に絡み合っていて、その原因や結果、根源的な真因などが混在している。そこで、SWOT分析で出された弱み(問題点)を、1項目ずつ総あたりで原因と結果の関係を調べていく。

4p図.jpg

 そして因果関係の得点を合計して、得点によりグループ全員の合意で真因を見つけるのが、因果関係分析である。
 筆者の経験によれば、「我が社の本質的課題」をテーマとすると、業界企業の多くは、①人材不足、②危機意識が少ない、③受注先が偏っている、がベスト3であった。
 最後に、コンセプチュアルスキルの演習として、真因の解決策をレポート等で求めるのがいいだろう。

(3)リスクマネジメント
 管理職になると、定常的には起きないが、発生すると影響の大きいリスクをマネジメントする必要が出て来る。そこでコンプライアンスの課題を含むリスク管理研修を行う。自社のコンプライアンス推進体制としくみを作成・周知し、業界や自社のリスク、職場のコンプライアンス課題やリスクをグループになって洗い出し、マップに落とす。
 リスクマップは、横軸に発生確率、縦軸に発生した時の影響度を取る。そして象限ごとに対策が異なることを理解し、プロットした事象について対策を検討していく。
 対策は、保有、移転(保険などの対策)、軽減、回避の4種類で、たとえば、影響度大:大地震が発生、発生確率大:首都圏で頻繁に起きる、なら、その事業は事象から回避策を取る、つまり事業を廃止する。影響度小:電車の遅延で、発生確率小:めったに起きないなら、そのリスクは保有である。このようにグループの同意で、一つずつ対策を検討していく。典型的なリスク課題は、事例を事務局で提供し、共有化する。またこの手法は、受講生が持ち帰り、自分の職場に当てはめて分析するようにすることも有効である。

5p図.jpg 筆者の経験した企業は、業種特性もあるのであろうか、交通事故と個人情報の紛失リスクが多く出されていた。

4.人事考課・人材育成研修
(1)リーダーシップ研修
 リーダーシップの研修は、数多く提案されているが、ここでは比較的簡単で、実践的なチームによる模擬建物の組み立てを紹介する。
 数人が1チームになり制限時間内で、割りばしやストロー等で模擬的にタワーや橋を組み立てる。1回目の作業では、時間内にキチンと組み立てるのは難しい。それは、リーダーがいないこと、チーム員の役割が不明確なことが原因である。振り返りを行って2回目にチャレンジすると、リーダーを決めて、材料、加工、組立て、タイムキーパー等の役割を分担し、見事に組織力を発揮して完成する。
 この研修では、リーダーシップのもと、短時間で「組織」を体験し、組織に必要なこと、①材料の制約という原価管理、②制限時間という工程管理、③安全で高い建物という品質管理、を体験してもらう研修である。

(2)人事考課とプロセス研修
 人事考課や人材育成は、ヒューマンスキルの中心的課題である。人事考課研修は、まず当該企業の人事考課方式・流れを確認する。そして、人事考課者の陥りやすい誤りを学習する。誤りは中小企業診断士試験にも出題される内容のため細部は省略する。
 この後、事例を数ケース事前に作成しておき、研修で用いる。以下は、実際の中小企業で遭遇したケースである。Aさんの行動について、まず受講者個人が5段階で評価した。その後同じ内容をグループで評価をしたが、メンバー間で評価が2段階異なる場合が出てきた。3を平均とすると4と2、つまり被評価者一人の行動をやや良いとする考課者とやや悪いとする考課者がいた。同じ企業でこれはまずい。これを徹底的に議論し収束させた。この作業を通じて当該企業における公正な評価方法を身につけていただいた。

(3)簡単な作業による仕事の教え方研修
 簡単な作業によって、上司に仕事の教え方の気づきを与えるものである。まず、講師が受講生に、写真のような二本のひも(コード)を一定の方法で結んで見せる。次に受講生に実際にやってもらう。一見簡単そうだが、これがなかなか難しい。講師が、「あなたが普段教えている部下も実はわかっていないんですよ」と言い、教える難しさを実感してもらう。そして受講生に教え方のスタイルを見直してもらう研修である。
 筆者も実際、何度か研修に使っているが、3ステップで結べる簡単そうな内容でも、5~10回程度繰り返して教えるとやっと結べるようになる。そのくらい仕事を教えるのは難しいということが実感できる。

6p写真.jpg

(4)OJT計画書の作成
 OJTは、経営資源に制約のある中小企業においては優れた教育手法である。
 OJTの課題は、指導者が正しく手法を理解し、継続できるか否かである。実際、筆者の診断経験でも、つい仕事が優先し、せっかく作ったOJT計画も中断することが多い。そこでOJTの目的や手法について研修を行っている。6p下表.jpg OJTは思いつきで行うものではなく、意図的、計画的、継続的に行う必要があり、研修ではOJT計画書の作成方法を学び、実際に計画書を作成してもらう。

7p上図.jpg

 OJT計画書は、作成するだけではなく、研修後課題として、実際に対象者と面接し、OJTを実施してもらうようにしている。実際1か月後の履修状況発表では、上手に行ったOJTや挫折したOJTが報告されている。

(5)コーチング研修
 最近では多くの企業で取り入れられているコーチング研修は、中小企業ではまだまだ普及していない。コーチングは、「傾聴」と、「承認」、そして「質問」が基本的な3つのスキルである。

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 あまり欲張らずにこの3つの基本スキルを身につけてもらうように、講義とペア演習を組み合わせる。
 コーチング指導は一定のスキルが必要なため、コーチングの講師をするには机上だけでなく、スクールなどで基本を身につけるとよい。なお、コーチングは、研修しても実際に使わないとすぐに忘れてしまうため、フォロー研修や職場で使ってもらうことを事後課題とするなどの工夫が必要である。

(6)面接研修
 大企業では目標管理が導入されているため、期末や中間期の面接は徹底しているが、中小企業では実施していない企業も多い。そこで、業績面接を研修に取り入れている。一般的な業績面接では、部下が期初と期末に目標管理シートを提出し、その内容を上司が確認するスタイルである。
 研修では、実際の目標管理シートをお借りして模擬面接を行うが、受講者同士のロールプレイになるため、緊張感に欠ける場合が多い。
 そこで筆者は、ワイルドカードを用いて、緊張感を出している。ワイルドカードは、5枚のカードを伏せておいて、面接演習時に被面接者が1枚引く。そこには、シートに書かれていないことを面接者に強く訴えるなど、面接者が臨機応変な対応を求められることを書いておく。
 面接者は、目標を達成した項目は褒め、未達成の項目は動機付けしなければならない。その上相手から意外な事実を話されても動揺しないように訓練するのが研修の目的である。
 面接研修の例では、多くの上司は心で褒めてはいるが、口では出しておらず、部下に伝わっていないケースが多く見られた。

5.財務基礎・文書作成・プレゼン研修
 テクニカルスキルの研修は、業種や企業によって大幅に異なるが、ここでは共通なテーマについて解説する。

(1)財務の基礎研修
 今まで財務状況などは縁のなかった人達に対する研修で、あまり時間も取れないため基本的な知識を研修する。内容は、貸借対照表と損益計算書の見方を知ってもらい、自分の仕事がどこの勘定科目に反映されているのか、自分が努力したらどの勘定が改善されるのかを概略理解してもらう。
 正直、講義をしてもピンとこない受講生が多い。そこで筆者は、勘定科目を固定費と変動費に分け、損益図表を作成してもらい、損益グラフを書き、3本の線が何を意味しているかを理解してもらう。そして売上アップや変動費・固定費のダウン等、自分の努力が何に反映されるかを理解してもらっている。また計算で損益分岐点も算出できるため、自社の採算ラインも理解できる。
9p上図.jpg(2)文書の作成
 筆者の業界は現場の監督の仕事が多く、文章の作成を苦手とする新人管理者が多い。そこで企業の要望により、文書作成の研修を行っている。テーマは、社内用として事故報告、社外提出用として、顛末書である。自社で報告しなければならない状況と、受講生が報告書に盛り込むべき事項を箇条書きにして渡す。そして市販の文書の書き方書籍を人数分購入し、これらを使って演習する。演習用パソコンが人数分準備できれば実施するが、できないと宿題とする。市販の書籍はCDで様式が沢山ついているため、重宝しているようだ。

(3)プレゼンテーション
 研修の最後は、プレゼンテーションである。パワーポイントで資料を作成し、研修の最終回に経営層にプレゼンする。受講生は、物事をまとめて発表する経験をほとんどしておらず、この研修が最も緊張するようだ。
 受講生は、まずパワーポイントの学習から始める。筆者の研修では、パワーポイントを使ったことのない受講生が約3割であったが、最後は全員パワーポイントでのプレゼンを実施している。以前はそれほど重要視されなかったプレゼンだが、現在は管理者必須のテクニカルスキルとなっているようである。
 プレゼンのテーマはこれまでの研修の感想や、課題の解決策など、自分で見つけてもらい、資料作成後、講師が事前チェックする。そして話し方や時間の設定などを講義し、自宅などで演習をしてきてもらう。最終日は一人15分程度のプレゼンを経営層に対して行い、質疑応答をする。

6.研修効果の向上策
(1)受講生の意識調査
 せっかく貴重な時間を使って研修するのだから、効果的な研修をやりたい。そこで、筆者は、研修前に、受講生の特性調査を実施している。

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 従業員特性調査ツール(Basmos)は、パソコンを利用して、一人10分程度の調査で、社会人基礎力診断と従業員満足度の両方が調査できるツールであり、中小企業の経営支援ツールとしても有効である。筆者の場合、調査結果
は、受講生、事務局、講師が共有化し、受講生の性格を掴み、研修に活用している。従業員特性調査ツール(Basmos)は、中小企業診断士なら安価で利用できる。

(2)複数企業の合同研修の準備
 研修によっては、複数の企業が集まって一度に受講する場合がある。受講生同士が初対面で、企業のバックグラウンドが異なるため、複雑な課題の研修が難しい。筆者の場合、「対立解消の演習研修」が、このケースであった。
 そこで、対立解消では事務局で小説「下町ロケット」の文庫本を購入してもらい、受講生に事前に読んできてもらった。当日は、佃製作所の社長と営業部長の対立をテーマに、その解消方法を小説企業の背景も考慮してディスカッションしてもらい、解消手法が習得できた。

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(3)その他研修効果アップの工夫
 研修が複数回にわたる際には、日毎に各部の幹部の方にプレゼンをお願いしている。これは、同じ企業内でも他部署の幹部の方の話をうかがう機会も少ないため、効果的である。また一日の研修終了時には、必ず振り返りをする。1日でもいろいろなことを学ぶため、終わりに振り返りをする。
 研修が複数の日に及ぶ場合、たとえば月に1回などの場合、研修内容の実践を課題として出題するのがよい。研修は学んだことを使って初めて効果を発揮するため、次回までに本日学んだツールを使ってみて報告させるのが効果的である。

(4)研修の評価と課題
 研修の評価は重要ではあるが、なかなか難しい。筆者は1研修が終了したら企業にレポートをしている。
 その中には、講師の所感、主な質疑、受講生のアンケート結果で、研修の定量評価(研修目的の達成度、講師の評価、研修の準備をおのおの5満点)、定性評価(受講生の所感)を作成し、研修事務局へ報告している。短期的な評価はこのアンケートで評価できるが、長期的な評価は難しく課題と考えている。

7.終わりに
 一度顧客から評価していただいた研修も時代とともに陳腐化する。各種法令やファシリテーション技術など常に新しいスキルを学んでおきたい。また、研修も一人では限界があるため、研修の一部を委託できる人的ネットワークを積極的に作っておきたい。
 診断士の仕事は研修が最終ゴールではない。信頼を得れば、その先の企業診断へ繋がっていく。
 なお、本稿は、マスターコース「プロ講師養成講座」での受講体験を一部活用している。講座関係者に謝意を表する。

2017.07.29
第4次産業革命と中小企業等経営強化法

中小企業施策研究会 牛嶌 一朗

1.はじめに

東京協会中小企業施策研究会は長年にわたり、会員に対して中小企業・小規模事業者に対する政策や施策について広く情報を提供する取組を行ってきた。本稿ではその取組から得た知見に基づき、とくに中小企業等経営強化法について、我が国の中小企業・小規模事業者の発展において重要な鍵となる第4次産業革命の創出と活用の観点から、その意義を考察する。

2.産業構造の変化と生産年齢人口の減少

(1)産業構造の変化

  国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、2012年から2015年の3年間で、製造業の給与所得者数は29万人減少している中、サービス業においては235万人もの大幅な増加となり、我が国の雇用を牽引している。この傾向は大都市圏に限られたものではない。1986年時点では、北海道を除き市町村単位で雇用を支えていたのは製造業であったが、2012年になるとそれがサービス業・福祉医療業が増加する、といった形で多様化している(2015年版中小企業白書 第3部 第1章「地域活性化への具体的取組」)。このことからも、サービス業が我が国の雇用を牽引する中心的な産業となったことは、地域を含む全国的な傾向となっている。

(2)生産年齢人口の減少

  我が国の生産年齢(15~64歳)人口は、1995年の8,716万人をピークに減少に転じ、2016年10月には7,708万人と1,000万人以上もの減少となっている(平成28年版高齢社会白書 第1章「高齢化の状況」)。さらに国連の「世界人口推計:2015年改訂版」によると、2000年の生産年齢人口を100として指数化した場合、2015年の同人口は米国が113.5、イギリスが108.8、ドイツが94.9であるのに対し、我が国は89.8と国際的にもその減少率は顕著なものとなっている。

 この傾向は今後も続くことが想定される。経済産業省が2016年1月に行った推計では、今後出生率が回復し、かつ女性がスウェーデン並みに働くとともに高齢者が現在よりも5年長く働いたとしても、我が国の15歳以上の労働人口が2030年には6,300万人、2060年には5,400万人程度まで減少するという結果になっている。

3.中小企業・小規模事業者の現状と課題

(1)小規模事業者とその従業員の減少

 2009年から14年にかけて、中小企業の数は420.1万者から380.9万者と約39万者の減少となっている。その中でも、中規模企業は53.6万者から55.7万者と増加になっているものの、小規模事業者は366.5万者から325.2万者と約40万者以上も大きく減少している(2016年版中小企業白書 第1部 第2章「中小企業の動向」)。

 この傾向は、従業者数の変化でも顕著となっている。非農林雇用者数の1996年から2015年までの推移をみた場合、従業者数30~99人ならびに100~499人の企業は、ともに800万人から1,000万人の間でゆるやかに推移しているものの、従業者数1~29人の企業は、1,735万人から1,523万人と200万人以上もの大幅な減少を示している(2016年版中小企業白書 第1部 第2章「中小企業の動向」)。この傾向は、さらに前述の生産年齢人口の減少によっても加速化される可能性がある。

 一方、地域区分別に企業規模別の売上高、付加価値額、給与総額および従業員数の構成割合を見た場合、都市部から地方に行くほど小規模事業者の構成割合が高くなる。たとえば、2012年度の事業者ベースの場合、企業規模別の付加価値額構成における小規模事業者の割合は、東京特別区と政令指定都市が9.3%なのに対し、郡部の町村が34.2%、同様に従業者数構成における割合は、前者が15.6%なのに対し、後者が45.4%となっている(2016年版小規模企業白書 第1部 第4章「地域の中の小規模事業者」)。換言すれば、「地方都市」や「郡部の町村」ほど、小規模事業者の地域への貢献度が高い。このような現状を踏まえた場合、小規模事業者とその従業員の減少は、地域経済の活性化を推進する上で大きな課題である、といえる。

(2)中小企業の生産性の伸び悩み

 ここ13年間で、大企業の従業員一人あたりの労働生産性(付加価値額)はリーマン・ショックの影響もあった2008年度・2009年度に大きく落ち込んだ後、その後上昇に転じ、2009年度から2015年度にかけて製造業で999万円から1,307万円の30.8%増、非製造業で1,080万円から1,296万円の20.0%増となっている。これに対して、中小企業の労働生産性は、ほぼ横ばいとなっており、製造業で501万円から549万円の9.6%増、非製造業で521万円から558万円の7.1%増とその格差の拡大が続いている(2017年版中小企業白書 第1部 第2章「中小企業のライフサイクルと生産性」)。

 業種別にみた場合、なかでもサービス業の労働生産性が他業種に比べ相対的に低い水準にある(2016年版中小企業白書 第1部 第3章「中小企業の生産性分析」)。前述のように、我が国における生産年齢人口の減少が顕著ななか、中小企業・小規模事業者にとっては、雇用環境の改善のみならず、全業種、とくに我が国の雇用を牽引するサービス業の生産性向上が重要な課題である、といえる。

4.第4次産業革命とは

 2年ごとに世界のデータ量が倍増する中、ハードウェア性能の指数関数的な進化、ディープラーニングなどによるAI技術の非連続的な発展などの技術的なブレークスルーにより、データの活用による新しい社会の創造が可能となり、産業構造や就業構造が劇的に変化する可能性が出てきている。全ての産業における革新を目指す第4次産業革命の構想はそのような背景から生まれ、ドイツのIndustrie4.0や米国のIndustrial Internetに代表される世界的な潮流となっている。

 この第4次産業革命を支える基盤技術として経済産業省などが重視するものは、IoT・ビッグデータ・AI・ロボットである。これらの基盤技術により、データを収集(IoT)し、蓄積+分析(ビッグデータ+AI)し、制御(ロボット)し、またそれにより生じたデータを収集する、というサイクルを回すことで、個々のニーズに合わせたカスタマイズ生産や製品・モノのサービス化など、新たな付加価値を生み出す、ということが本革命の基本モデルとなっている(図1)。

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5.第4次産業革命における中小企業等経営強化法の意義

(1)我が国の政策における第4次産業革命の位置づけ

 日本再興戦略2016においては、「戦後最大の名目GDP600兆円」の実現を目指し、第4次産業革命の創出と活用を我が国の経済の未来を切り開く重要な鍵として位置づけている。そのため、日本再興戦略2016では、「新たな『有望成長市場』の戦略的創出」「人口減少に伴う供給制約や人手不足を克服する『生産性革命』」「新たな産業構造を支える『人材強化』」の3つを課題としている。これは、前述のような我が国の産業構造の変化と生産年齢人口の減少が進展する中で、都市部のみならず地方を含め、サービス業を含めた全産業の生産性を第4次産業革命により向上させるとともに、その高い生産性の労働力を新たな有望市場に投入することで地域経済を再興していく、という観点によるものである。

 その場合、国際的に第4次産業革命の先鞭となったドイツのIndustrie4.0において、中小企業・小規模事業者がその推進の上で重要なプレイヤーとして位置づけられているのと同様、我が国においても中小企業・小規模事業者における第4次産業革命の推進が政策上も重要となる。

 以下ではこの観点から、第4次産業革命を巡る我が国の政策を考える上での中長期戦略とも言える新産業構造ビジョンを概観し、中小企業等経営強化法の意義を考察する。

(2)新産業構造ビジョン

 「新産業構造ビジョン」は、第4次産業革命をキーとした我が国の経済社会システムの再設計のために示されたビジョンである。本ビジョンは、経済産業省の産業構造審議会内に平成27年8月に設置された新産業構造部会で検討され、日本再興戦略2016の発表に先立つ平成28年4月に中間整理として発表されたものである。その中では、我が国の戦略として次の7つの対応方針が示されている。

  ①データ利活用促進に向けた環境整備   ②人材育成・獲得、雇用システムの柔軟性向上   ③イノベーション・技術開発の加速化(「Society5.0」)   ④ファイナンス機能の強化   ⑤産業構造・就業構造転換の円滑化   ⑥第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及   ⑦第4次産業革命に向けた経済社会システムの高度化

 これらの方針の中で、中小企業・小規模事業者が第4次産業革命の創出者として期待されるのが、「③イノベーション・技術開発の加速化(「Society5.0」)」、活用者として期待されるのが「⑥第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」である。

 前者においては、オープンイノベーションの推進が主要な課題のひとつとなっている。その中で当面の対応策として挙げられているのが、「産学共同研究推進の強化」「大企業・ベンチャーとのオープンイノベーション推進の環境整備」「ベンチャーへの資金供給機能強化」などである。官邸・経済産業省も、米国経済を牽引している巨大企業GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)が小規模事業者たるベンチャー企業からスタートし、さまざまなイノベーションを生み出してきたことに注目しており、我が国の第4次産業革命の実現にむけ、大企業にはない発想力をもった中小企業・小規模事業者の活躍への期待がこの方針に表されている。   後者においては、地域の中小企業・小規模事業者におけるIoTなどの導入・利活用基盤の構築が課題となっている。その中で当面の対応策として挙げられているのが、「専門家によるITやロボット導入支援」「IoT等での省力化・自動化投資促進」「ディープラーニングでの技術開発・現場導入推進」、そして「中小企業等経営強化法の活用」である。これらにより、中小企業・小規模事業者の生産性の抜本的な改善を実現することがこの方針の狙いである。次に、この「中小企業等経営強化法の活用」の具体的な内容について考察する。

(3)中小企業等経営強化法の活用

 平成28年7月に施行された中小企業等経営強化法は、政府が生産性向上に役立つ取組を分かりやすく中小企業・小規模事業者等に提供すること、ならびに生産性を向上させる取組を計画した中小企業・小規模事業者等を積極的に支援することを目的としている。そのための具体的なスキームとして、事業分野ごとに生産性向上の方法などを示した指針に基づき、自社の生産性を向上させるための取組を記載した「経営力向上計画」を事業所管大臣に申請、認定された事業者は税制面や各種融資における支援措置を受けられることとしている。前述の「新産業構造ビジョン」における「⑥第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」では、このスキームの活用を意図していることになる。実際、すでに採択された経営力向上計画の中には、製造機器のIoT化など、本目的に則したものも含まれている。

 この傾向は、今後より一層強化されていくことが想定される。すでに本年度の中小企業・小規模事業者政策の基本的な方向のひとつ「経営力強化・生産性向上に向けた取組」では、第4次産業革命にむけての「イノベーションの加速、ITの集中的な導入」とともに、「中小企業等経営強化法の機能強化」が謳われ、経営力向上計画の認定と補助金・融資制度を連携させた生産性向上支援を行うこととしている。

 具体的には、平成29年度税制改正要望により、固定資産税の特例対象設備の拡充や、中小企業経営強化税制の創設を行い、まずは税制面からサービス業を含む幅広な中小企業の生産性向上を後押しすることとしている。中小企業経営強化税制では、国や地方公共団体からの補助金により導入した設備も対象となる。また、その対象設備も拡充され、一定の器具備品・建築付属設備が追加されている。このことは、必ずしも大型の機械装置類で構成されるわけではないIoTやAI、ロボットなどを導入・運用する上で重要な意義を持つ。一例としては、IoTやAI、ロボットなどの設備導入において、経営力向上計画の認定が加点要素となる「ものづくり補助金(革新的ものづくり・商業・サービス支援補助金)」を取得し、実際の設備導入は経営力向上計画の認定による日本政策金融公庫(日本公庫)の低利融資で行い、その融資返済に取得した「ものづくり補助金」を充て、導入設備については引き続き中小企業経営強化税制による税制支援を受ける、といったことも可能となる(図2)。

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6.おわりに

 本稿では、第4次産業革命の創出と活用の観点から、新産業構造ビジョンにおける7つの対応方針のひとつ、「第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」で中小企業等経営強化法がどのような意義をもつのかを考察した。無論、本法は第4次産業革命のためだけのものではない。しかし、我が国の再興において第4次産業革命の創出と活用が重要な鍵となっている中、中小企業・小規模事業者政策上もその意義は重要なものとなる。中小企業施策研究会では、そのような多角的な視点を持って引き続き各種の政策・施策の情報を会員に提供し、会員の中小企業支援に役立つよう努めていく所存である。

2017.06.28
経営コンサルタントから見た聖地巡礼ビジネス調査レポート

コンテンツビジネス研究会有志

1.はじめに

 コンテンツビジネス研究会は、2008年8月にコンテンツビジネスに強い中小企業診断士が中心となり結成された(一社)東京都中小企業診断協会の認定研究会である。当研究会では2014年より「コンテンツ×まちおこし」プロジェクトとして、会員有志により「聖地巡礼」の実地調査や、観光地・作品の知名度の定性分析・定量分析を行ってきた。その成果として2016年に研究論文「経営コンサルタントの見た聖地巡礼ビジネス」を出版するに至った。聖地巡礼については先行研究もあるが、9カ所に及ぶ実地調査とアンケート等を用いた客観的な分析は他に類を見ない内容となっている。

 本稿では「経営コンサルトの見た聖地巡礼ビジネス」から事例および、調査分析方法について抜粋し、研究論文では記載しなかった内容を一部補足して紹介する。本稿を通じて、「聖地巡礼」やアンケート手法・分析の留意点を知ることにより、読者の今後の活動の一助となれば幸いである。

2.聖地巡礼とは

 聖地巡礼とは、文字どおり、聖地を巡礼するということである。巡礼するというのは、訪ねて参拝するということであり、ツーリズムであるということもできる。すなわち、聖地巡礼とは、聖地というターゲットに対して、ツーリズムを行うということを意味するとも言える。では、聖地とは何か、もともと神聖とされる土地や、聖者や教祖のような敬われる人物に関わる土地等、信仰の対象となる場所を指しているものであった。近年、その意味は拡大し、文化やスポーツ等において、「憧れや注目の対象となる場所」を聖地として呼ばれるようになっている。日本においては、映画やアニメの舞台を聖地として、巡礼することがあたり前なことになってきている。

 2016年、大ヒットした映画『君の名は。』は、その背景描写の素晴らしさもあいまって、その聖地(四谷、飛騨等)を訪れる人が急増するといった現象もあり、注目されたのは記憶に新しい。アニメツーリズム協会の発足などもあり、聖地巡礼が、クローズアップされることが多かった年となったといえる。

 アニメの作品舞台を聖地として巡礼することが行われるようになったのが、いつ頃からなのかについては、諸説が存在している。少なくとも、作品中に、実在の場所とわかる舞台が描かれるようになってからであることは間違いない。1970年代より、アニメの舞台背景をよりリアルに描くため、ロケハンが行われるようになっていく、その流れの延長線上に、アニメファンによる作品への拘りから舞台となったロケハンの場所を訪ねるという動きが出てくることになる。その後、ネットによるコミュニケーションの場の広がり等もあり、アニメファンの中で認知度が高まっていき、聖地巡礼としてアニメファンの中では大きなイベントの1つとして定着していくことになった。アニメの聖地巡礼は、作品とファンと聖地(地元)との関係から成立している。聖地巡礼は人を集めるものであり、人が集まることによって産業や地域が活力を得ることができるものである。その力をまちおこしに利用しようという取組みも数多く存在している。しかしながら、必ずしも成功と言える結果を得ているわけでもない。広い意味で、聖地としての対象が持っている質に対して、扱いを誤ると失敗を招く結果とも成り得ると考えるべきである。聖地巡礼といっても何の聖地なのかによって、ビジネスとしてのアプローチも対応も異なってくる。コンテンツとして、アニメや映画などの作品としての聖地の場合、作品の魅力は当然として、その他にも大切な要素が存在していると言える。クールジャパン、観光立国を目指す日本において、アニメによる聖地巡礼は、当然注目されるものとなっている。研究論文では、どのように活かすのが良いのか、複数の事例を通して考察を行っている。

3.具体的調査事例

 本稿においては、研究論文の9つの事例の中から、ベストプラクティスとみられる茨城県大洗町(ガールズ&パンツァー)の事例の内容を紹介する。

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(1)観光地としての魅力201707_2_1.jpg

 大洗町は、茨城県においては有数の観光地であり、2009年度の年間観光入込客数は約560万人。海水浴場や水族館、マリンタワー等、海を中心とした観光施設が揃う。このため、「るるぶ情報版」等の旅行雑誌でも、しばしば取り上げられている。しかし、2011年に発生した東日本大震災では、大きなダメージを受けた。2014年の年間観光入込客数は、震災前の8割程度に止まっている。

(2)作品の認知度

 『ガールズ&パンツァー』(以下、ガルパン)は、オリジナルのTVアニメ。2012年10月から「TOKYO MX」やBS11、茨城県のローカルインターネットテレビ「いばキラTV」等で放映された。その後は、オリジナルビデオアニメや劇場版が製作され、メディアミックスも盛んに行われている。しかし、認知度調査アンケートでは、男性が2.98、女性が1.47、全体で2.20と総じて低い結果であった。とは言え、この作品は、万人ではなく男性を中心とした熱心なアニメファンをターゲットにした作品と判断され、アンケートの結果でもその傾向が確認できた。ターゲットが絞り込まれているため、一般的な認知度が高くないことは仕方がないと考えた。

(3) 中心的人物の熱意

 大洗町側の中心人物は、常盤良彦氏や商工会、青年部のメンバー等である。常盤氏は、2011年10月に商工会長によって製作者側に引き合わされ、ロケハンや撮影等の支援を依頼された。そこで、撮影ポイントのマップやタイムスケジュール等を作成し、鉄道会社やバス会社、商店街等に対して撮影場所の提供を依頼した。そしてそれに止まらず、電車やバスのラッピングを実施し、地元のお祭りの際には訪れるファンの人達が買える物を用意することを事業者に要請した。ほかにも、キャラクターパネルを用いたスタンプラリーや、作品仕様のレンタサイクルを用意する等、数多くの企画を実施した。イベントは、大小合わせて年間で30以上手がけていると言われ、企画グループは毎週日曜の夜に会合を開いている。常盤氏等の熱意が人を引き付け、さまざまな企画を実現させる原動力となっていることは、間違いない。

(4)ステークホルダーの協力度合い

 常盤氏らの企画に対して、商工会や大洗町、茨城県等は、人的面を中心に積極的に支援している。作品のキャラクターパネルは、商工会の青年部等が製作した。ファンへのおまけ(ノベルティー)の缶バッチは、商工会の事務局長が自ら作成している。これによって生まれた1個数円の利益により、イベント等の資金を生み出した。大洗町役場でも、イベントの実施や手続き等でバックアップしており、業務時間外の会合にも参加していると言われている。

(5)権利者との関係

 コンテンツの権利者とは、当初より良好な関係を築いていた。製作者側は東日本大震災で被災した大洗を作品の舞台にしたいと考え、すごく前向きに手を組んでやりたかったと言われている。鉄道やバスのラッピングは、常盤氏らと一緒に作業した。地元のイベントでは、プロデューサーや声優等も多数出演している。これらの影響もあって、地元の祭りでは、従来の倍以上の10万人超の来場者を記録するようになった。キャラクターパネルや町内の事業者が製造・販売する商品に使用されているイラストやキャラクター等の点数は、多くの取組事例の中でもトップクラスとなっている。

(6)住民の作品への理解度

 作品は大洗のまちに溶け込んでおり、ラッピングされた電車やバスが走り、駅構内では作品のイラストを使った看板を多数目にする。駅のインフォメーションコーナーは作品の案内所となっており、作品に関係した観光案内やスタンプ、巡礼ノート等が置かれている。観光案内は、来街者に楽しんでもらいたい想いが伝わってくる。町中では、商店街等を中心に、キャラクターパネルを目にする。店舗では作品に関連したメニューや商品が用意されており、店内にはポスターやチラシ、グッズ、関係者のサイン色紙等のアイテムが並べられている。地域における作品の露出は非常に多く、事業者や住民の理解度は高いと考える。

(7)その他特記事項

 本事例は、特定のアニメ作品によって発生した聖地巡礼という事例の中でも、地域に対してきわめて大きな影響を及ぼしたものの1つである。しかし、この取組みは元々、「まちおこし」を目的として行われたものではない。この点は、大洗の関係者と製作者側の双方が明確に述べている。「まちおこし」ではなく、「町全体を舞台としたまち遊び」をしている認識で、取組みが行われている。

 しかしながら、これらの取組みが、大きな影響と成果を生み出したことも事実である。地域のイベントでは、従来の倍以上の来場者が訪れるようになった。商店街や観光施設等には聖地巡礼を行うファンが訪れ、飲食し、商品を購入している。ホテルや旅館は、週末を中心に多くのファンに利用されている。ファンの中には町のファンになった人もいて、年間で120日程度訪れている人もいる。大洗町に移住した人の数も2桁を超えており、仕事があれば来たいという人も少なくないという。このように、「まちおこし」を狙った活動ではなかったが、結果的に「まちおこし」と言われるようなインパクトを大きく残したのである。

 このような大きな影響を大洗町に及ぼした理由は、作品そのものの魅力を別にすると、常盤氏を始めとした中心的人物の熱意とステークホルダーや権利者の協力が大きかったと考えられる。大洗のまちが単なる作品の舞台にとどまらず、ガルパンという作品を包み込み、訪れるファンを受入れている雰囲気を作り出した理由としては、常盤氏らの取組みが「お客様を考えた」ものであったことと、若手を中心とした活動が従来から盛んに行われていたことを挙げたい。

 ガルパンの効果は、アニメの聖地としての知名度の向上による来街者の増加や土産等の販売増といった経済的な側面にとどまらず、社会的な変化もまちにもたらした。まちや店舗でのコミュニケーションが増え、ファンとの交流を楽しんでいる。ガルパンという共通言語を基に大洗のまちの人やファンが繋がり、まちの雰囲気を明るくしたと言われている。商店街では、商店主の等身大パネルを作成し、キャラクターパネルとともに並べることを始めた。取組みとしてはパネルの作成と設置だけだが、こういったことを行える商店街が全国にどれだけあるだろうか。大洗町の事例は、ガルパンというアニメ作品と大洗のまちが起こした、奇跡とも言えるものである。

(8)問題点・課題と解決策・提言

 本事例に対して大きな問題や課題はないと考えるが、宿泊キャパを超える観光客への対応とインバウンドへの対応を課題として取り上げ、提言を考えた。大洗町は、海や海産物といった資源や古い街並みが残り、ガルパンという作品の舞台となって楽しんでいる、非常にユニークなまちである。インバウンドへの取り組みは、進めておきたい。

4.聖地巡礼事例スコアリング概要

(1)定量的項目、定性的項目

 研究論文では、アニメおよびゲーム作品の舞台としての9つの事例を100点満点でスコアリングしている。スコアリングという手法を採用したのは、経験や勘に安易に頼らず、事実や論理を優先したい、という経営コンサルタントとしての思いからである。スコアリングは6項目について実施している。6項目すべてが「まちおこし」の成否に等しく影響を与えるとは考えられないため、必要な重み付けを行った上で100点満点にしている。

 定量的項目(①②)は、旅行雑誌掲載状況やアニメ認知度アンケート等に基づき算出した客観的なものである。その一方で、定性的項目(③~⑥)については、研究論文の執筆者間で調整した10点、7点、4点、1点の4段階からなる相対的な評価である。 

①観光地としての魅力(20点満点)

 当地が観光資源に恵まれていれば、1回の聖地巡礼につき滞在する時間が長くなったり、リピーターになったりする可能性が高まる。地元にとっても「作品のファンとしてその舞台を訪れてもらうことに始まり、やがては当地自体のファンになってもらう」というのが、理想的な中長期シナリオである。

②作品の認知度(40点満点)

 アニメ「聖地巡礼ビジネス」の成否に最も大きな影響を与える要素とは、聖地巡礼の対象となる作品自体の人気である。作品の人気があるほど、その聖地を訪れようとするファンが増える。後述する「認知度指数」を4倍し、四捨五入した点数である。

③中心的人物の熱意(10点満点)

 中心的人物が不在なまま、「まちおこし」が成功することは難しい。さらに、プロジェクトの持続可能性を高め、「聖地巡礼ビジネス」を成功させるためには、その人物が地元在住の人間であることが不可欠である。

④ステークホルダーの協力度合い(10点満点)

 「聖地巡礼ビジネス」を成功させるためには、行政や地域事業者等のステークホルダーが協力、連携することが欠かせない。

⑤権利者との関係(10点満点)

 コンテンツを「聖地巡礼ビジネス」に活用するためには、権利者の了承・協力が欠かせない。

⑥住民の作品への理解度(10点満点)

 アニメイラストが地域に溢れることに対する住民の理解や拒絶反応には、地域性による差が見られる。

(2)取り上げた作品とその舞台

 調査した多数の事例の中から、今回の研究論文で取り上げた作品、およびその舞台は下記である(表1)。なお、鳥取県境港市は、厳密に言うと、アニメ作品(鬼太郎)の舞台ではなく、作者(水木しげる)ゆかりの聖地であるため、スコアリングの対象からは除外している。

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5.「作品の認知度」の調査方法としての「アニメ認知度調査アンケート」

 10作品の人気を把握することを目的に、アニメ愛好者か否かを問わず、アンケート調査(以下、アニメ認知度調査アンケート)を実施した(表2、表3)。

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 アニメの視聴頻度についてみると、男性の方が平均的にアニメを多く視聴している。男性のコアなアニメファン(週に3本以上アニメを視聴する層)が全体の約28%を占めるのに対し、女性は2割に満たない。例外はあるものの、全体的に、年齢を重ねるほど視聴頻度は低くなり、どの年齢層でも男性の視聴頻度が女性よりも高い傾向がある。

 10作品の認知度にかかる回答の集計結果をいかに客観的に評価し、作品間の比較を可能にするかが認知度調査アンケートを分析する上でもっとも重要な点である。平均的な認知度を把握するために、選択肢ごとの人数と便宜的に設定した得点を基に「認知度指数」を算出することにした。先に事例紹介した「ガルパン」の一部データ(表4)を例にとり、認知度指数を説明する。

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 「回答」の文字の下にある1から5は、アニメ認知度調査アンケートにおける「10作品それぞれに対して抱くイメージ、あるいは、作品との関わり」にかかる質問に対する選択肢である。以下のとおり対応しており、それぞれに得点を与えることにする。なお、9はデータを整理する上で設けた選択肢(回答漏れ)である。

  1 世代に関係なく、誰でも知っている⇒10点

  2 特定世代に人気(であろう)⇒7点

  3 少なくとも、自分は見た(やった)ことがある⇒4点

  4 タイトルは知っている⇒1点

  5 そのタイトルは初めて聞いた⇒0点

 ガルパンの「認知度指数」(全体)は、2.20であるが、次の計算方法に基づいている。

  (18×10+269×7+125×4+394×1+541×0)÷(1,349-2)≒ 2.20

 すなわち、認知度指数とは、作品の認知度にかかる「選択肢ごとの回答者数」に「選択肢ごとに設定した得点」を乗じ、それら「選択肢ごとの数値の総和」を「回答者数」で除した平均値である。指数は0点から10点の間に収まることになる。この指数が高いほど、当該作品の認知度が高い、あるいは、人気があることを意味する。

(1)WEBアンケートを行う際の留意点

 研究論文のアンケートに対する有効回答数のうち約9割は、クラウドワークス(日本最大級のクラウドソーシング事業者)を通した2回のWeb調査による。有効回答者1人につき10円を支払ったが、スピード感をもってアンケートを実施する上で、クラウドソーシングを活用するメリットは享受できた。その一方で、研究論文では触れていない問題点もいくつか露呈しており、ここでそれらを共有させていただく。

 Webアンケートが1回で済まなかった理由は、女性の回答者数が約3分の2を占め、とりわけ、20代と30代の男女差が看過できないほど偏ってしまったからである。2回目の調査を、【1回目に回答しなかった20代および30代の男性限定】を条件に行うことにした。

 だが、実際には、女性が男性になりすましたり、40代の男性が20代になりすましたり、1回目と同一の人物が再び回答してきたりした。「こうした回答はすべて無効にする」との警告をしてもなお収まらず、最終的には、2回目に入手した回答のうちの約2割が無効なものとなった。有効なものか否かを判別するために、夜な夜な、1件ずつ回答者のIDを確認し、目検する作業に忙殺された。クラウドワークスには、無効な回答をはじいてくれるよう、システムを改善していただきたいものである。

 また、クラウドワークスの登録ユーザーは、女性が多いだけでなく、10代が少ないものと推測される。一般的に他の世代よりもアニメやゲームに興味を示すであろう10代の回答者を確保するのが、性別に限らず困難であった。それゆえ、10代の回答者をピンポイントに探し出し、対面アンケートを追加的に行う必要性に迫られた。

 以上、クラウドソーシングを活用したアンケート調査も決して完璧ではないものの、上記留意点を踏まえた上で活用すれば、コストパフォーマンスは決して低くはないことも実感できた。システムの改善に期待しつつ、今後も折を見て、研究活動の中で活用していきたい。

6.聖地巡礼事例スコアリング結果

 以下にスコアリング結果を一覧表で示す。(表5)

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7.まとめ

 本稿にて、抜粋紹介させて頂いた研究論文の最も大きな成果は、「コンテンツ自体の人気」という、「聖地巡礼ビジネス」の成否に決定的な影響を与える要素の分析を真正面から試みたことである。また、事例の横比較ができるように数値化したことも、成果として挙げられる。「聖地巡礼スコアリング」の一覧表を見れば、定量的項目だけに依存して持続させることは容易ではなく、定性的項目の充実も欠かせないことが分かるだろう。

 今回は、アニメ・ゲーム作品を基にした聖地巡礼に絞って事例を調査したが、聖地の元になり得るコンテンツは、アニメやゲームだけでなく、TVドラマや映画、小説、音楽等他のコンテンツも多数存在している。コンテンツを活用した他の「まちおこし」の事例についても研究していくことで、「コンテンツの活用によるまちおこし」の可能性をより広く研究していくことは、今後の研究課題の1つである。

 アニメ・ゲーム作品の事例についても、引き続き調査を行い、成功のポイントというべきものについて、より確証を得ることができるような情報へとブラッシュアップしていくことができれば望ましいと考える。失敗事例についても、振り返って、もしこの時にこの点について手を打っていれば、異なる結果になっていたかもしれない―と言った可能性について検討していくことは、今後、同様な事象に遭遇する場合の良きアドバイスとなり得るものである。成功と失敗、それぞれから学ぶべき点を整理して、コンサルティングにおける知恵としていくことは、われわれにとっても大切なことである。また、女性向けアニメの事例調査や、放映時期といった「旬」の問題を考察することも、今後の宿題になろう。

 今回の研究結果より、元になる作品の人気が「まちおこし」成功への重要なファクターとなっていることが明白となった。成功する可能性を高めるためにも、作品の公開にあたって、できるだけ早い段階で人気度が把握できるような仕組みがあれば、非常に有効であると言える。そのあたりのアプローチについても、「コンテンツによるまちおこし」を成功に導くために必要な研究テーマであるだろう。各方面との協力も含めて、日本のコンテンツビジネスとコンテンツを活用したさまざまなビジネスにおいて、良い結果を導くための知恵を深めていきたいと考えている。201707_10.jpg

 本稿の基になった研究論文は、当研究会のHPを通じて販売している。またコンテンツビジネスに関心があれば、ぜひ当研究会の例会に参加していただければ幸いである。

2017.05.30
損保代理店の「成功の秘訣」から 導き出したコンサルティング・フレームワーク

損保代理店の「成功の秘訣」から
導き出したコンサルティング・フレームワーク

代理店ビジネス研究会 枦山 直和
 

1.損保代理店向けコンサルティング・フレームワークを開発した経緯
 昨今の大規模自然災害や、高齢者による自動車事故の増加により、損害保険の重要性が再認識されている。損害保険業界では金融規制緩和を受けて、メガ損保グループへの業界再編や、商品自由化、さらには、損保代理店数の減少傾向の状況にある。また、保険金不払い問題を発端とするコンプライアンスの厳格化や、金融庁主導による法整備も進んでいる。すでに成熟産業と見えるが、冒頭にあげたリスクに対する備えの需要も高まっており、代理店経営者の工夫次第でいかようにもビジネスを伸ばす余地が高い業界であると考えている。
 中小損保代理店が勝ち残るために、どのような未来戦略を描いたらよいのかについて、代理店ビジネス研究会のメンバーで研究・討議をかさね、コンサルティング・ツールとして体系化している。さらに、損保代理店の経営者に役立つ「成功の秘訣」として、実際に成功している優良代理店の事例と合わせ、明日から実践できる具体的な施策に落し込んでいる。
 損保代理店のコンサルティングに従事する中小企業診断士の知見とするため、損害保険業界の基礎知識から、損保代理店を取り巻く経営環境まで整理したフレームワークである。

2.損保代理店の診断予備知識を整理
(1)損害保険の基礎知識と市場動向
 損害保険の仕組みと歴史、損害保険業界の市場環境の現状と今後の見通しを概観する。
 日本経済の成長とともに拡大してきた国内市場は現在、停滞傾向にあり、各保険会社は国内代理店網の再編と海外進出を進めている。反面、金融機関、インターネット、来店型店舗など、代理店チャネルは多様化し、従来型の代理店にとって非常に厳しい状況と認識している。

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 ①損害保険の3つの原則(大数の法則、収支相等の原則、公平の原則)
 ②市場動向(米国に次ぐ2位で7兆円規模、規制緩和、メガ損保へ集約化、損害率推移)
 ③環境変化(国内代理店網の再編、コンプライアンス厳格化、委託型募集人の禁止)

(2)損保代理店のビジネス環境
 損保代理店の業務や種類、業界全体の規模を説明するとともに、損保代理店を取り巻く環境変化とビジネス影響、さらに変化に対してどのような変革が迫られているのか整理している。
 1996 年の金融ビッグバン以降、損保業界では販売チャネルの多様化や商品多様化が進展し、損保代理店にとっては新たな競争に直面している。コンプライアンスの要請の高まりや新たな規制の強化などを受け、代理店は一層の効率化と経営水準の向上が求められる。
 ①損保代理店の種類(専業代理店と兼業代理店、専属代理店と乗合代理店)
 ②業界の規制緩和(商品の多様化・複雑化、代理店ポイント制度変更、チャネル多様化)
 ③損保代理店の業務内容・損保代理店の変化(M&Aでの大型化、来店型保険ショップ)

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3.損保代理店を経営変革させる方策
 損保代理店経営における「成功の秘訣」をこれから論じる6つの切り口で方策化し、さらにコンサルティング場面において課題発見や提言に活用できる具体的施策に細分化している。
(1)勝ち残る秘訣としてのキッチリした経営計画を整備する方策
 年々厳しくなる損保代理店の経営環境のなか、専業代理店は基本に立ち返り、経営理念・ビジョンの作成(再定義)、経営戦略の策定、キッチリとした経営計画の作成・実行が、勝ち残る秘訣である。環境変化を見据えて、市場と顧客、そして保険会社とのパートナーシップを見直し、自らの強み・弱みを洗い出し、マーケティングの視点を持って取り組むべきである。
 ①社会環境変化をビジネスチャンスと捉え「求められる代理店像(存在意義)」を価値創造
 ②市場と顧客、保険会社とのパートナーシップを見直し、マーケティング視点を持ち策定
 ③問題解決力・専門性・企画提案力・関係性の観点から自社のポジショニングと差別化
 ④コミュニケーション・協業・パートナーシップの切り口でマーケティングイノベーション創出

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(2)法人市場の開拓をリスクマネジメントで攻める方策
 法人市場の開拓手段として、リスクマネジメントを切り口とした中小企業へのアプローチが有効である。最近、企業を取り巻くリスクは大幅に多様化・顕在化・巨額化しており、保険の重要性が高まっている。保険代理店は、中小企業のリスクについて十分な知識と対応方法を知る専門家としての存在意義は大きい。中小企業の実情を理解したうえで、リスクマネジメントにもとづきリスクを十分見積もり、相手先企業の体力に対応した保険提案をする。
 ①ターゲットは機関代理店を持たない中小企業のリスクファイナンスに対する潜在的需要
 ②コンサルティング型の保険提案(経営状態とリスクの把握、中小企業診断士との連携)
 ③最適な保険商品の選択(賠償リスク対応商品、パッケージ型商品、団体制度型商品)
 ④法人営業のアプローチ(イニシャル、エリア開拓、団体制度活用、業務提携、職域)

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(3)地域密着型の保険代理店をめざす方策
 中小代理店が生き残っていく方法として、地域密着型の保険代理店をめざしたい。経営規模や宣伝力では大手には対抗できないので、自らが存在する地域に密着した営業を行っていくことが重要となる。そのため、まず自社の顧客分布状況を把握し、地域特性や競合状況を調べて地域戦略を策定する。店舗周辺を中心とした重点注力地域に対して、「ホスピタリティ・マインド」を持ち、訪問営業などの具体的な営業戦略を立てて実践する。
 ①顧客分布状況や地域ポートフォリオ分析(距離と売上高)を踏まえた地域営業戦略 
 ②安心と信頼、顧客ロイヤリティを獲得するホスピタリティマインド・コミュニケーション
 ③リピーターを越えるファン客を育て、これを組織化することを営業の優先課題とする
 ④先義後利の精神(地域への感謝、地域との交流、困っている方へ損得抜きの支援)
 ⑤自分達で行う販促(チラシ配布、訪問営業、お礼状、ニュースレター、イベント参加)
 ⑥地域への貢献活動(セミナー開催による役立つ情報発信、CSR、マッチングの仲介)

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(4)ITのフル活用により売上倍増させる方策
 業績アップを図るためにITをどのように活用していくのか、経営戦略に沿った形で、IT 戦略を策定する。IT動向や自社のIT活用の状況などを踏まえた上で、やみくもではなく、経営目標を達成するために、いかにITを活用するのかの具体的な方策を検討・決定する。
 このIT活用の方策を、「IT活用戦略マップ」、「IT活用ロードマップ」に落とし込むことで社員に示し、全社をあげて売上拡大に向けたIT 活用を推進する羅針盤とする。
 ①顧客接点強化や顧客との関係性強化を目指す「リアル(営業現場)の世界でのモバイル情報機器の活用」、「ネットの世界でのソーシャルメディア(SNS)の活用」
 ②ソーシャルメディアのさまざまなサービスを組み合わせて使う「メディアミックス」でファン拡大
 ③来店ショップとITの融合によりお客様と多面的につながり合う仕組みづくり

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(5)強い会社組織を構築する方策
 社内の良い雰囲気を創出し、社員1人ひとりのパフォーマンスを向上させることで、自然と業績が上がっていく優れた会社組織へ転換させていく取り組みが必要不可欠である。
 保険販売の多くを担ってきた委託型募集人が全面禁止となり、対応策として正社員化が進行している。損保代理店経営においてサービス・マーケティングの考え方を取り入れ、保険販売員の従業員満足度(ES)を高め、その延長で保険契約者である顧客満足度(CS)を高める。
 ①委託型募集人を正社員化したときの留意点(高齢化、既存顧客中心、モチベーション)
 ②組織3要素(共通目標、貢献意欲、コミュニケーション)のコントロールにて帰属意識醸成
 ③組織・人事の再編成、モチベーションの向上、インセンティブの拡充をバランス良く実施

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(6)経営を強くする財務管理と人材管理の方策
 損害保険代理店の経営の特質は、「ヒト」という経営資源の占める比重が大きい。厳しい環境の変化にさらされる業界において勝ち残っていくためには、代理店経営を強くするために、この人的資源について財務状況を踏まえてどのようにマネジメントしていくべきかを提言する。

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 財務マネジメントについては、人件費率の高い財務構造をふまえた収益力向上のために、損益分岐点分析(CVP分析)というツールを用いて利益計画を作成する。また、人件費・販売費・管理費の各費用項目についてその特質に沿った管理の要点を示している。
 人材マネジメントについては、重要な経営資源である人材の活力向上を念頭に、「給与・報酬制度」の考え方と効果的な「人材育成」の要点を示している。
 さらに、財務と業務の視点から具体的な「人員計画と人件費計画」を作成し、活動分析を通じ社員(特に営業社員)の非付加価値活動を削減し、生産性向上を図る方策を提案する。
 ①損益分岐点分析の導入により、固定費と変動費を適切にコントロールして収益性を確保
 ②損保代理店の費用を構成する人件費・販売費・一般管理費は精緻にマネジメントする
 ③「ヒト」が中心となって担うビジネスモデルであり「人材」は企業価値を高める要素と心得る
 ④歩合給と固定給の人材管理に与えるメリット・デメリットを考慮した最適な給与・報酬制度
 ⑤戦略面・財務面・業務面から熟慮して人員計画と人件費計画を作成する
 ⑥営業人員の活動分析を行い生産性向上の改善策
  →担当者の地域割を明確化、営業社員の行動パターン明確化、サブ拠点の設置、数ある会議の必要性見直し、IT化(営業報告書、稟議書)

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4.本ツールの活用事例・成果・課題等
(1)活用事例
 私達、代理店ビジネス研究会では、損保代理店のビジネスモデル解明と経営診断メソッドの研究に取り組んできた。その中で、東京都・埼玉県におけるM&Aで成長してきた年商4億円規模の中小損保代理店における実務従事や、一般社団法人東京損害保険代理業協会様向け会員セミナー(経営イノベーション関連、SWOT分析ワークショップ)での代理店経営者からの生の声などを通じて、代理店経営者にとって価値のある「成功の秘訣」を導き出している。
 さらに実際に成功している損保代理店5社の取材を通して分析・整理を行っており、損保代理店コンサルティングの場面で再現・横展開できる実践的なコンサルティング・フレームワークとして本ツールを開発した。これから損保代理店をクライアントとして持つ中小企業診断士にとって、損害保険業界の基礎知識から、損保代理店を取り巻く経営環境までも平易に解説しており、明日から代理店が取り組める具体的な提案施策を数多く示していることから、初めての経営診断の場面においてもプロフェッショナルとして立ち振る舞うことができる。
 なお、本論文を執筆している現在も、代理店ビジネス研究会会員からの口コミにより、千葉県の大規模で優良な損保代理店様が本フレームワークに興味を持っていただく機会を得ており、研究会の実務従事としてコンサルティング作業が進行中であることを付け加えておく。

(2)成果
 コンサルティング・フレームワークの詳細は、代理店ビジネス研究会の著書として同友館より2016年6月発売の『損保代理店 成功の秘訣』として出版済であるので参考にされたい。
 本論文ではアウトラインまでの記載であるが、著書では細部まで具体的に記述している。実際に取材させて頂いた優良代理店についての取り組みについても経営者の想いを交えて紹介している。さらに、取り上げた損保代理店経営の課題と対応施策のキーワードは、全編をロジックツリー形式で表記(本論文の図表9、図表11を参照)しており、外観を捉えやすくしている。
 読者はコンサルタントのみならず、これから損保代理店を始める起業家や、損保代理店への入社を検討中の就活者にも、損保代理店を理解できるようわかりやすく解説している。

「損保代理店 成功の秘訣」 同友館 ISBN978-4-496-05202-6定価1,800円+税

(3)課題
 損保代理店の経営基盤を拡大させるためには、さらなる売上拡大が必要不可欠であり、具体的な営業力強化のメソッドを提案する必要があると考えている。特に、保険営業マンの育成、法人営業先の開拓方法、生命保険のクロスセルの促進について損保代理店へのコンサルティング実践を通じて取り組みや成功事例を分析・整理し、追加施策としてツール拡充を図る。
 現在、研究中の「組織的営業力の強化コンサルティング」の切り口は以下の通りである。
 ①新規顧客開拓へのステップ式営業アプローチ(準備・段取りによる成約率の向上)
 ②個人力に頼る成り行き営業から、組織知による計画的営業への転換
 ③営業現場が抱える問題点の明確化と、回避策の検討
 ④新規開拓を主体に計画化(時間確保のため、既存顧客に対する営業活動を織り込む)
 ⑤営業日報の徹底的な活用(顧客情報を整理し、記録に貯めて、次の一手を考える)等

2017.04.25
TKKメソッドの活用によるオンリーワン戦略の実践

ものづくりコンサルタント養成コース 安藤  豊
平林 裕治

1.はじめに

 ものづくりコンサルタント養成コースは、赤字または問題を抱える工場(企業)を真に蘇生させるプロコンを養成するマスターコースである。当コースでは、TKK(トータル工場改善)メソッドを用いて、工場改善を進める実践力を習得することを目標としている。
 本稿では、マスターコースにおいて、継続して3回の工場診断を実施した企業を題材に、各診断時のレベルチェックの比較・分析を行う。その結果から、支援先企業がオンリーワン企業として成長する過程と工場改善の成果について検証し、TKKメソッドの有効性と新たな活用方策について紹介する。

2.TKKメソッドの概要
 TKKメソッドは、8つのステップから構成され、各ステップにはそれぞれ8つ、合計で64の実行課題がある。実行課題は、達成度にあわせて5段階に区分しており、レベルチェックにおいて点数化し評価する。各レベルの目安は、無策の状態はレベル1、工場改善が定着し継続した段階をレベル3、企業文化になるまで理想を追求する段階をレベル5としている。
 レベルチェックは、個人単位で行うので、職種階層、業務単位での分析が可能であり、定期的に継続してレベリングを実施することで時系列での比較も可能である。
 具体的な改善は、レベリングの結果を踏まえ、強化すべき実行課題について改善テーマを設定し、活動に取り組むこととなる。実行課題ごとのレベリング結果に応じた適切なアクションを提言することにより、工場の実力に応じて身の丈に合った工場改善が推進できる。

201705-01-01.jpgのサムネイル画像201705-01-02.jpgのサムネイル画像

さらに、図2のとおり、TKKメソッドは、アクションを提言する際、改善に取り組む人間にも着目し、その人の「器」を向上させる現実的方法についても深く考えることを示している。

 
3.支援先企業の概要
(1)オンリーワン企業とは
 本稿で対象とする企業はオンリーワンの製造業である。そこでオンリーワン企業とは、どのような特徴、性格を有しているのか、まず、この点を整理する。
 政府は、「ものづくり白書2016」などにおいて、これまで培った製造技術などの強みを強化するのと同時に、市場変化に応じてビジネスモデルの変革を進め、ものづくりを通じた価値づくりを進める「ものづくり+」の特性を有した製造業の出現を求めている。
 また、ものづくり基盤技術を担う中小企業への支援を定めた「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」は、施行から10年経過し、アベノミクスの進展とともに、製造業の国際競争力強化や新事業の創出につながる基盤技術の強化への期待が高まっている。
 こうした状況下において、オンリーワン企業とは、我が国製造業が抱えるさまざまな課題に対して、同業他社と明確に異なる独自性のある事業コンセプトや独自の技術・製品戦略で差別化に成功し、優れた業績をあげている企業を指す。オンリーワン企業の取り組みは、これから「ものづくり+」でのイノベーションを実現しようする企業にとって、先行事例として参考になる。

(2)企業の概要
 支援先企業(以下、K社という。)の概要は表1のとおりである。

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 K社は、独自に開発した高性能ダクタイル(注1)を材料にエレベーターの昇降に用いられる最重要保安部材シーブ(鋼車)など、産業機械の鋳物部品を製造する企業である。
 K社は、競合他社と技術面での差別化を進め、顧客である大手機械メーカーと強固な信頼関係を築き、安定経営を継続している(表2)。
(注1)ダクタイルは、組織中の黒鉛の形を球状にして強度や延性を改良した鋳鉄品。高性能ダクタイルは、軽量かつ耐久性の材料特性と加工コストの低減を実現し、強度や耐熱性、耐食性、耐摩耗性など、あらゆるニーズに応える最適合金設計を可能とし、高い信頼性が要求される部品に使用することで実力を発揮する。

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(3)得意分野
 ①独自性
 K社は、元々営業力が弱く、既存顧客と少しでも有利な条件で取引を継続するためには、技術力で差別化を図るしかなかった。
 社長は、自社の強みの本質が、顧客からの厳しい制約条件から適切な加工条件を導き出す対応力(原因分析のプロセス、蓄積したノウハウ)にあると気づいた。そして、試行錯誤ののち、「ニーズ→設計→シミュレーション→再現実験」を机上と現場で繰り返すことで理論の裏づけから問題を解決し、製品化につなげる独自の開発プロセス(図3)を構築した。

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 ②オンリーワンの組織
 K社は、技術人材の育成として、試験研究センターを組織化(2007年)し、金属材料分野において権威ある技術顧問を招き、独自の研究開発を行っている。加えて、社外研修への参加を積極的に支援するなど、大学院レベルの教育を実施することで、幅広く専門知識を身につける機会を提供している。
 ③オンリーワン戦略の実践
 (a)解析
 社長は、技術の向上を10年単位での長期の積み重ねと認識している。試験研究センターにおいては、独自技術の研究開発に加え、大学等から国レベルでの解析作業を請負うなど、技術データとノウハウを蓄積し、日々技術のレベルアップに努めている。
 (b)試作
 K社は、開発プロセスを活用し、試作品とともにさまざまな提案を行うことで、取引先からの信頼を得て、現在では新製品の開発初期から関与している。取引先の問題解決に協力することで、逸早く新製品の情報入手が可能となり、開発期間の短縮、性能アップなどの効果が生まれ、下請けの立場ではなく貴重なパートナーとしてWin-Winの関係を築いている。

(4)今後の方向性
 社長は、今後、材料開発に特化した技術力ナンバーワン企業になることを目指している。そのためには、高技術を要する希少品を開発プロセスで対応していくことに加えて、現場力を高め、量産品の生産強化を図り、研究開発と高収益を両立しなければならないと考えている。こうしたビジョンを実現することで恒常的に利益を確保し、その利益を研究開発に投資する循環を形成することにより、売上高12億円、営業利益率10%の達成を目指している。

4.TKKメソッドの活用と有効性
(1)診断と改善提案などの概要
 K社への各診断におけるレベリング結果(注2)と業績での改善効果を表3にまとめる。

201705-04.jpg

(注2)レベルチェックは、経営陣、従業員、診断士を対象に実施。点数は、各実行課題に対し、5点満点で採点。結果は、総得点を回答人数で単純平均しており、本論文に関係するステップを抜粋して表記した。過去3回のレベリング結果を単純比較すると2013年診断時に大きく改善したことが認められる。2015年は、作業員が大幅に交代したことなどにより、一時的に点数が低下したものと思慮される。

 診断時における改善提案の概要は表4のとおりである。提言の内容を踏まえ、K社は、改善テーマを設定し、改善活動に取り組んでいる。

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(2)オンリーワン戦略とレベリングの関係
 表5のとおり、K社のオンリーワン戦略に関連した実行課題に絞り込んで状況を確認すると、レベリングが向上していく過程が見え、社長の想いが社内に浸透していく様子がうかがえる。

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 実行課題「工程設計と製造技術」は、K社の強みである開発プロセスと同様に、3回のレベリング全てにおいて高水準を維持している。また、実行課題「加工条件の改善」、「治工具の改善」は、作業面での改善が進んでいること、実行課題「顧客志向の実現」は、社長の想いが現場に伝わりコミュニケーションの活性化につながったと推察される。いずれにしても取引先からの信頼が高まるに連れて、レベリングの向上に結びついたと考えられる。
 201705-06-01.jpgのサムネイル画像このように得意分野を伸ばすために関連する分野の現場改善に取り組むことで、さまざまな実行課題が相互補完的に機能していることが確認できる。こうした改善活動を継続して計画的に取り組むことは、K社が目指す研究開発型高収益企業とも方向性が合致している。図4のとおり、「ものづくり+研究開発」のオンリーワン企業としてさらなる業績向上に向けての効果が期待される。

(3)K社におけるTKKメソッドの活用と有効性
 K社の現場では、過去3回の診断での改善提案を実践することで、5S活動や品質管理など、現場改善に対する基本的考え方は確実に浸透している。

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 図5は、2015年の診断時にK社に提案した戦略マップである。戦略マップは、バランススコアカードの切り口で整理している。社長のビジョンは、現場力に支えられた研究開発型高収益企業としての成長であることから、真の意味でのオンリーワン企業を目指すための方向性をK社に提言した。
 戦略マップの左側は、オンリーワン企業の経営資源や戦略の特徴をあるべき姿として示し、レベリング結果などからK社の現状を評価(◎できている、○まあまあ、△いまひとつ)し、比較したものである。この比較から、K社が改善すべき課題(△の部分)が見えてくる。
 これに対し、右側の改善提案欄は、あるべき姿に近づくために、持続的に成長し、利益を確保する上で必要となる現場力や生産管理、ニーズ対応などに関する方向性を示しており、戦略マップとして整合性が取れた内容となっている。
 K社の事例では、以下の取り組みにおいてTKKメソッドを活用し、工場診断を進めた結果、場あたり的な問題点を指摘するだけではなく、身の丈に合ったアクションを提言できた。
 ① 過去の診断結果と改善提案から現状を検証し、時系列にレベリング結果を比較することで、改善効果を確認したうえで新たな課題を把握したこと。
 ② オンリーワン戦略に合致した実行課題がレベルアップしていたことから、さらに得意分野が伸ばせるよう、強化すべきポイントを戦略マップにより見える化したこと。
 
5.まとめ
(1)総括
 TKKメソッドによるレベルチェックは、表3、表5のように支援先の現状が可視化され、工場診断と合わせることで企業のあるべき姿とのギャップを改善提案として示すことができる。
 その際、レベリング結果から、支援先企業とともに実行課題から得意分野を見つけ出し、得意分野との関連が強く、喫緊に取り組むべき改善テーマを絞り込むといった共同作業が重要となる。その過程を経ることで、支援先企業に改善活動に対する納得感が生まれ、実効性の高い目標設定と一体的な現場改善として取り組める。
 このような、レベリングの作業、結果から改善テーマを設定、改善活動といった一連の行動、取り組みは、個人、組織、それぞれの単位での器向上にもつながると考えられる。
 
(2)今後の課題
 TKKメソッドの8ステップ全64項目の実行課題は、工場改善のヒントが網羅されており、K社のような研究開発型企業だけなく、製品開発型企業やスタートアップ企業のオンリーワン戦略やイノベーションなどに対しても活用は可能である。
 さらに、TKKメソッドが、工場診断において汎用的に活用できるようなツールとして認識されるよう、レベリングのデータ蓄積を行うとともに、各ステップの実行課題におけるレベリングの内容などに関して不断の見直しを図ってゆく。

2017.03.27
三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介

三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介

主催:三多摩支部 能力開発推進部

 三多摩支部では、平成20年(2008年)に「多摩の塾」を開始し、将来独立を志向している方および新たな領域を開拓したいと考えているプロコンに対してコンサルティング「塾」を実施しています。3~5日間にわたり座学と演習を行い、特定の分野に対してプロとして通用する技能を修得していただくことを狙いとしています。「多摩の塾」の概要は下記のとおりです。

    目   的:専門的な分野を掘り下げて、「専門家派遣」にて通用するコンサルティングの実践能力を修得すること

  対 象 者:新たな領域を開拓したいプロコン、プロコンを目指す企業内診断士、自己啓発を目指す企業内診断士

  平成29年度のテーマ:事業承継など(予定)   開催予定日:7月下旬~10月下旬の5日間(土曜日開催予定)

  募集人員:20名(定員限定)

  参 加 費:25,000円

  開催場所:国分寺労政会館またはビジネスト(中小企業大学校)(予定)

   「多摩の塾」は、コンサルティングスキルの中で特定の分野にテーマを絞りプロとしての高度な知識、技能を身につけることを目指します。プロとして中小企業の経営者から高い評価を受けられるレベルを目指します。

 毎年テーマを選定して、7月から10月までの土曜日に計5回実施し、各回とも講義およびグループワークによる演習を行います。講義と演習およびディスカッション、発表を中心に行いますが、各自が自分自身で考えること、現場での実戦を重視したプログラムを研修に組み込みます。

 講師は、テーマ分野において実務経験があり、現在現場で活躍されている支部の会員または協会の会員が行います。講義を担当する複数の講師と、グループワークをサポートする複数の会員で研修を進行します。また、必要に応じて企業経営者・支援団体の担当者などを招聘して、テーマに関連した実務や実際の対応などを話していただきます。

 地域の支援機関との連携が強いという三多摩支部の特性を生かせるよう、実施するプログラムは、支援機関において実施される事業に合わせて即戦力として活動できる内容にしています。  (連絡先:三多摩支部 能力開発推進部長 谷 譲治、mail:garyo21@mx2.ttcn.ne.jp

2017.03.27
城北支部 城北プロコン塾5期生募集

城北支部 城北プロコン塾5期生募集

主催:城北支部 能力開発推進部

 城北支部では、診断士としての資質とスキルの向上、診断士活動の場の拡充およびプロとして仕事に役立つ人脈の形成を目的として、平成25年に「城北プロコン塾」を立ち上げました。

 "今までにない実践的スキルが身につくプロコン塾"として、城北支部の中から豊富な経験と実績を有する講師陣の熱の籠った指導のもと、製造業、小売・サービス業、商店街支援などの幅広い切り口で、一騎当千の実力を有する診断士を育成します。併せて、受講期間中を通して塾生自らが専門分野をブラッシュアップし、"メシのタネになるコンテンツ"を1本のレポートに仕上げるという課題に取組みます。

卒塾後は、企業診断案件への登用、認定支援機関などへの専門家登録の取次ぎ、ベテラン診断士のコンサル現場への同行訪問など、"稼げるプロコン"への更なるステップアップを城北支部全体でバックアップします。

開催日程:平成29年6月~平成30年3月<全10回>

実施場所:「北とぴあ」会議室(最寄駅;JR王子)他

募集人数:15名 受講料:城北支部60,000円(他支部65,000円 東京協会以外70,000円)

カリキュラム:※講師の都合などにより一部変更となる場合があります。

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申込&問合せ窓口:城北支部プロコン塾事務局(担当:石井 邦利)

         E:jouhoku-procon-info@googlegroups.com

         紹介HP:http://jouhoku-procon.jimdo.com/

 2017年3月19日よりHPにて申込を受付けしております。詳しくは「城北プロコン塾」で検索ください。

2017.03.27
城南支部 中小企業・小規模事業者支援専門家養成講座(通称)第13期 城南コンサル塾  東京協会で最も伝統あるプロコン塾

城南支部 中小企業・小規模事業者支援専門家養成講座

(通称)第13期 城南コンサル塾  東京協会で最も伝統あるプロコン塾

日  程:平成29年6月18日(日)、7月15日(土)、8月19日(土)20日(日)、

     9月16日(土)、10月21日(土)、11月18日(土)、12月16日(土)、

     平成30年1月20日(土)、2月18日(日)、3月17日(土)

     全11回(うち1回は合宿、日程は予定) 9:00~18:00前後・診断実務実習、視察は別日程

     城南支部コンサル塾公式サイト http://johnan-consul.com/ 応募資格:東京都中小企業診断士協会会員(他支部も歓迎します)

募集人数:最大20名 受 講 料:18万円(税込み)実施場所:座学はちよだプラットフォームなど

■中小企業・小規模事業者支援専門家養成講座としてリニューアル

 東京協会で最古のプロコン養成塾である「城南コンサル塾」は、今期より基本コンセプトを新たに「中小企業・小規模事業者支援専門家養成講座」として大幅にリニューアルすることになりました。これは、単なるプロコン養成塾としての意味合いから、中小企業支援機関から真に必要とされる中小企業診断士を育成するべく、伴走型支援を実現できるノウハウと知見を習得するものへと変わるものです。

■伴走型支援ノウハウの提供

 「実践の城南」の名に恥じぬ人材を育成するため、机上の空論、評論家的診断士ではなく、実践的な専門家養成を目的とします。無理なく実現可能で、かつ実証できた効果的効率的な経営支援手法を習得するための通年型(合宿含めて全11回)の研修を開催します。

■講師陣:仕事につながるネットワークを持つ講師を全国から招聘。診断士に限らず、中小企業支援機関の職員、経営者などが講師となって実践的指導を行います。

■実務実習:2社程度を予定。業種、業歴、規模が異なっており標準化が難しい支援手法ですが、共通点も多くあります。「ヒアリング」、「分析」、「方向付け」、「報告書作成」、この繰り返しで支援手法が身につきます。

■講義 テーマ

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■模擬講演:自分の言いたいことではなく、相手の聞きたいことを伝え、相手の心を動かす訓練の場です。独自ツールをつかった指導によって、プレゼン能力の飛躍的向上が期待できます。

■交流会:仕事の相談、独立に関わるさまざまな相談、講師とのネットワークづくり、コンサル塾OBとの交流の機会として、講義終了後に交流の場を設けます。

申込先:城南支部 コンサル塾部 星野 裕司 E:fieldstar25@gmail.com

氏名、住所、電話、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上メールでお申込みください

2017.03.27
城西支部 城西プロコン養成塾13期生募集

城西支部 城西プロコン養成塾13期生募集

主催:城西支部 JOPY委員会

 城西プロコン養成塾(略称JOPY)は、中小企業経営者に適切な助言・提案のできる診断士養成を目指し、平成17年に開講しました。JOPY修了生は、各分野で活躍し高い評価を得ているとともに、城西支部の活動を担う人材となっています。

 コンサルタントは、中小企業経営者の目線に立ち、一緒にモノを考え、適切な助言を行うとともに、良き相談相手となる必要があります。知識だけでなく、現場の状況を把握したうえで、クライアントが納得する実現可能な解決策を提示する、JOPYはこうした診断士を養成します。

 診断士能力向上、基本と応用の再確認、独立を目指す方......ぜひ、ご応募ください。

養成期間:平成29年6月~12月 原則、毎月第3土曜日10:00~17:30

     ただし、商店街診断、商業診断、工場診断は別途日程を組みます。

研修会場:杉並区立産業商工会館

     (JR「阿佐ヶ谷駅」または東京メトロ「南阿佐ヶ谷駅」より徒歩5分)

募集人数:18名 受講料:75,000円

講座内容:講師、会場の都合により、一部変更の場合があります。

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     商店街診断・工場診断・商業診断は、クライアントより実務従事ポイント取得が可能です。

説明会および申込方法:スプリングフォーラムにおいて説明会を行います。申込希望の方は、氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上、下記宛にメールでお申込みください。お問合せも受け付けます。

<申込先> 城西支部プロコン養成塾(JOPY)事務局 浅田 昌紀

     T: 080-5678-0055  E:asada@dp.u-netsurf.ne.jp

2017.03.27
城東支部 スキルアップ受講生募集

城東支部 スキルアップ受講生募集

主催:城東支部 能力開発推進部

 城東支部のスキルアップコースは、主に診断士の資格を取得し、将来診断士として独立を考えられている方を対象としたプロコンを目指すための研修コースです。

 6月から3月まで、毎月1回計10回の開催を予定しています。城東支部長をはじめ、城東支部のプロコンとして活躍されている方々が講師を努めます。

  城東スキルアップコースの特徴は、以下の3点です。

①中小企業経営診断の定石を学ぶことができます。(経営診断テキスト入門編を提供します)

②フィリップ・コトラー、ピーター・ドラッカー、バーバラ・ミント、マービン・バウワーなどの著書を経営診断課題図書(8冊)として定め、経営の基本を学びます。

③企業診断、セミナー講師など実践の機会を提供いたします。

 初回の6月の講義では、将来プロコンを目指す方のために、城東のプロコンの方々が、仕事の獲得方法やプロコンとしてどのような仕事をしているかなどをお伝えします。

 7月以降の講義の内容は、午前中は主に経営診断課題図書と診断技法の原理原則について学習します。午後からは毎回テーマごとの講義とグループワークをおこないます。

■カリキュラム(予定)

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*原則第1土曜日の(9:30~16:30)に開催いたします。ただし6月と1月は第2土曜日開催。

*講義内容や開催月は変更となる場合があります。

*企業の実地診断を1、2社実施予定です。 

*セミナー講師の機会を提供します。

■申込資格 新人会員、既存会員(城東支部以外でも歓迎いたします)

■受講料 45,000円/年

■開催場所 都内の区民館

■申込先 城東支部 能力開発推進部 大石 正明  E:ooishi@zj8.so-net.ne.jp

2017.03.27
中央支部 認定マスターコースのご紹介

中央支部 認定マスターコースのご紹介

 中央支部では認定マスターコース制度を設けています。認定マスターコースはプロコンとしての診断実務能力の向上を目的に、原則1年間のカリキュラムを通してプロコンとしてのスキルアップを目指す中央支部独自の取り組みとなっています。27年度ではマスターコースにのべ315名の会員が所属しプロコンを目指し研鑽を行っています。

 中央支部マスターコースの特徴はバラエティーに富んでいることです。プロコンとしての幅広い知識やスキル、心構えなどを養成するマスターコースだけではなく、「製造業」「ファッションビジネス」「アグリビジネス」など業種・業態に特化したマスターコースや、「プロ講師」「経営革新」「事業承継」など特定分野に特化したマスターコースなど、会員のニーズに応えられる多様なマスターコースがラインナップされております。

<中央支部マスターコース一覧>

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 詳細はhttp://www.rmc-chuo.jp/category/master/courseをご確認ください。

 5月27日(土)に『中央支部カンファレンス2017』が開催されます。この中で「中央支部認定研究会・マスターコース活動紹介」「ブース相談会」が開催されます。中央支部が誇る研究会とマスターコースにふれる絶好の機会ですので、プロコンを目指している診断士の皆様ぜひご参加をお願いいたします。

 中央支部会員以外でも参加可能です。(Myページでの事前登録をお願いします)

2017.03.27
特集 東京協会・支部 プロコン養成講座

特集 東京協会・支部 プロコン養成講座

東京プロコン塾 第11期生募集のお知らせ

主催:一般社団法人 東京都中小企業診断士協会

運営:能力開発推進部

 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会では、診断士制度の変更、診断士の社会的ニーズ、激変する経済環境などに対応するため、平成19年度より真のプロコンを養成しています。真のプロコンとは、高度な学識、スキルはもとより、人間力も備え、クライアントの要望を充分満足させられる"稼げるコンサルタント"を指します。

 東京プロコン塾では、稼げるプロコンを養成するため、座学による講義、現地実習をはじめ、最も重要な、稼いでいるプロコンのノウハウを伝授します。

 講師には、当塾の趣旨にご賛同いただいた、各方面で活躍中のプロコンがあたります。

 プロコンとして独立をお考えの方、コンサルタントとして独立したが活躍が十分でないと感じている方は、ぜひご応募ください。

開催日程:平成29年5月~平成30年3月 原則毎月第4土曜日(9:00~17:00)      

     〔うち2回は合宿研修(1泊2日)を予定〕全10回

応募資格:①東京都中小企業診断士協会 会員

     ②プロコンとして独立する強い意志のある方

応募人員:最大25名(申込者多数の場合は選考いたします)

参加費用:10万円(一括支払、支払方法は別途連絡します。合宿費、現地実習費込み。)

実施場所:座学は、主に東京都中小企業会館8階会議室を予定

     現地実習は現地、合宿地は未定〔平成28年度は、さわやか ちば県民プラザ(千葉県柏市)〕

カリキュラム

・毎回、プロコンとしての心構え、独立の仕方、営業方法について話をします。

・講義は、実務に直結したコンサルティングスキル向上を目指した内容になります。

・現地実習では、商店街や企業を訪問し、コンサルティングを行います。

・ミニプレゼンを実施する機会が5回程度あり、プレゼン能力が向上します。 ※詳細は4月22日の説明会で発表します。

その他:修了認定者には、東京都中小企業診断士協会より修了証を授与します。

    実務更新ポイントが必要な方は、現地実習にて取得可能です。

    講師陣や、活躍する塾生の先輩、東京都中小企業診断士協会の塾生同士で人脈ができます。

    メーリングリストや研究会で、卒塾後もOB・OGとのつながりを持てます。

下記のとおり説明会を実施します

日  時:4月22日(土)14:00~16:00

場  所:あすか会議室神田小川町会議室902会議室

     (東京都千代田区神田小川町2-1-7日本地所第7ビル)

申込方法:現在、申し込みを受け付けています。会員Myページにてお申し込みをいただくか、氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.、メールアドレスを明記の上メールでお申し込みください。

     申込をされた方には入塾申込書フォーマットを送りますので、4月22日の説明会で内容をご確認のうえ正式にお申し込みください。

運営担当:能力開発推進部 部長 佐藤 正樹

申込先:東京都中小企業診断士協会 東京プロコン塾係 担当:清水

     T:03-5550-0033 E:info_tokyo@t-smeca.com

ご質問は、加藤敦子(atsuko.k@altopartner.co.jp)まで

2017.03.27
新たな仕組みによる「ものづくり企業」の活性化支援

新たな仕組みによる「ものづくり企業」の 活性化支援

城北支部 ビジネス創造研究会

伊藤 敦

はじめに  

 東京協会城北支部ビジネス創造研究会は、「新たなビジネスの創出による中小企業診断士の活動領域の拡大」を目的とした研究会である。

 具体的な活動は、板橋区、荒川区を中心とした城北・城東地域の行政、商工会議所、産業連合会、商店街連合会・信用金庫などと連携して地域の製造業・サービス業者・小売店舗の実態調査や支援プログラム、セミナー開催および個別企業・店舗に対する支援に関わる企画・提案である。更に、板橋区においては地元政党との勉強会・政策提言を行っている。実務については、(一社)板橋中小企業診断士協会(「板診会」)、荒川区中小企業経営協会(「荒川経営協会」)など、各区の診断士会と一体となり実施している。

 平成25年の政権交代以降の補助金の申請・補助事業の実施に関して、「板診会」および「荒川経営協会」と一体となり、新たな仕組みの構築により一貫した企業支援を確実に実施して大きな成果をあげることができた。その仕組みと実施事例について述べることとしたい。

1.平成25年以降に実施したものづくり企業の支援概要

ものづくり小規模事業者支援への新たな仕組みづくり

○小規模事業者の課題

 ここ数年来中小企業の経営環境は厳しさを増しており、多数の企業は企業規模を縮小し経費削減による生き残りを図ってきた。平成25年の政権交代以降、各種の補助金による中小企業に対する支援策が強化されているが、小規模事業者においてはギリギリの陣容で運営していることより、補助金の申請書類作成における要点の理解や、実際の作成作業を単独で実施することが困難な状況にある。また、採択・承認後の事業実施に際して、関連書類の整備や定期的な報告などの負担が大きいのが実情である。

  結果として、申請を検討したものの見送るケースはもとより、承認後に実施を辞退する事例も少なからず発生している。

 具体的な課題は以下の通りである;

 ・省庁、都、区などからさまざまな補助金が公募されているが、自社に最適な補助金の選択が困難。

 ・補助金申請の経験がなく具体的に対応方法が判らない。また採択を獲得するための要点を理解することが困難。

 ・複雑な申請書の作成作業に手が回らない。

 ・採択・承認後の関連書類の作成、報告などを行う体制がなく、最終的に補助金を獲得する確信が持てない。

○課題解決方法

 城北地区の企業には小規模事業者が多く専門家の支援を求める声が高まったことにより、当会では毎月の定例研究会において対応方法について検討を重ねてきた。

 その結果、以下の仕組みで支援活動を実施した。

 ・荒川区産業経済部、板橋区産業経済部、板橋区産業振興公社と協議の結果、期間限定の補助金に関わる相談専門の窓口を設け、中小企業診断士が企業からの相談に対応する。

 ・役所は区内の企業に窓口設置による支援の案内を行い、窓口相談の活用を促す。

 ・窓口相談に引続き、専門家の派遣制度を活用し、申請書の完成まで中小企業診断士がハンズオンの支援を行う。

 ・採択・承認後の補助事業実施においても継続的な支援を行い、最終的に補助金の獲得まで継続する。

 ・補助事業実施の過程では単に書類作成業務に留まらず、申請書に記載した事業計画の実現に向けてのアドバイスを行い、企業の経営課題の解決をサポートする。

 ・この過程で担当した中小企業診断士が相手企業との信頼関係を醸成し、個別の顧問契約に結びつける。

○小規模企業支援の仕組み

 ・荒川区の仕組み

 荒川区では、荒川区(産業経済部)の要請に基づき、「荒川経営協会」から企業相談員、創業相談員、にぎわいコ-ディネ-タなどの中小企業診断士を派遣している。各相談員が荒川区と常に連携を取り、区内各企業にそれぞれの実情に見合った各種補助金を紹介して、申請書作成から補助事業実施の支援を行った。

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 ・板橋区の仕組み

 板橋区では板橋区産業振興公社と「板診会」が連携して補助金申請に特化した相談窓口を設置して中小企業診断士を配置した。更に必要に応じて個別企業を訪問して申請書類作成支援から採択・承認後の書類整備・報告の社内体制作りまでの支援を行った。

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ものづくり試作開発補助金支援事例

 板橋区、荒川区の小規模企業への補助金申請支援事例を以下のとおり紹介する。

A社 板金・溶接加工企業 事例  工作機械のゴミ保護カバ-を製造しているが、取引先からの要望に応えるには生産性の向上が急務になり、ボトルネック工程の解消、受注元との生産管理に関わる情報を共有するシステムの開発などが必要になっていた。そこで、ものづくり試作開発補助金を紹介して、補助金申請、採択後の交付申請、採択・承認後の書類の整備などを支援した。

B社 エボナイト製造企業の競争力強化支援事例  長年ゴム・エボナイト製品を製造・販売しているが、他樹脂材料の進出で価格競争力が低下して減収傾向にある。更に、客先からエボナイト製品に含まれる有害化学物質の非含有化要求があり、その解決が課題であった。そこで、エボナイト製造における歩留り改善などによる価格競争力の強化、有害化学物質の非含有エボナイト製品開発のためにロール、プレス、試験機などを設計・開発・導入してコスト低減並びに有害物質の非含有化を実現する事業計画を立案し、これに基づき補助金申請書を作成、採択・承認後の補助事業の実施支援を行った。

C社 プライダル製品の製造法の改善支援事例  結婚指輪製造・販売業者であるが、金・プラチナ価格の高騰により、販売価格を維持するためには地金使用量の減少が不可欠になった。そこで、地金を溶解する工程で高硬度を保ちながら指輪の厚みを薄くする鍛造法を開発して、地金組織の高密度化を実現して価格競争力を高め、売上を伸ばす事業計画の立案並びに補助金申請書の作成支援を行った。

D社 位牌製造業の生産性向上支援事例  数年前より位牌事業を開始して位牌の字彫製造・販売を展開している企業であるが、 引合い件数の増加および顧客からのさまざまな要求に対し、現有字彫機では対応ができず、受注機会を逸失するケースが増加している。そのため新たな字彫機を開発・導入して、多様な顧客の要求に対応可能とした。また、現行の生産管理・販売管理システムの機能が不十分のため、新たなシステムを開発・導入により、生産性向上を実現するための支援を行った。

E社 フィギュア製造に3Dプリンターを導入し競争力を強化する事例

   フィギュアとはホビー・おもちゃ業界における商品である。古くは土偶から始まる人類最古の歴史を持つ美術のひとつであり、形や使用目的を変えて現在に至っている。

   フィギュア原型の製造過程において、3Dプリンター・スキャナー設備の導入およびソフト技術工法の開発・評価を行い、デジタル技術とアナログ技術の融合によって一度製作されたオリジナル製品をリプロダクトする際のQ・C・D向上を実現する。

    3Dプリンターなどの導入にあたり補助金の申請・採択後の事業実施の支援を行い、リプロダクトにおける生産手法の改善、同一原型から多種製品を開発・生産のスピードアップにより、TVアニメなど業界でのコンテンツの激しい変化に対応できる競争力の強化を実現した。

2.城北地域の中小企業支援団体の概要  城北地域には、すでに述べた「荒川経営協会」、「板診会」に加え、台東区中小企業診断士会、NPO法人東京都北区中小企業経営診断協会、(一社)ねりま中小企業経営支援センター(旧、練馬区中小企業診断士会)があり、それぞれ小規模企業の支援を行っている。

(1)(一社)板橋中小企業診断士協会 (「板診会」)

 昭和60年に板橋区中小企業診断士会として創立。昨年、一般社団法人に改組した。板橋区在住の中小企業診断士が中心となり、所属会員は130名。板橋区産業経済部・板橋産業振興公社と長年にわたり良好な関係を築いており、経営相談・創業相談・BCP計画策定、商店街支援などを行っている。特徴としては区の出前相談制度(専門家派遣事業)を活用して個別企業に対するきめ細かい支援と経営革新アドバンスセミナーの開催がある。

 ・出前相談制度

 企業から経営課題に関わる相談の要望に対して迅速に対応できる仕組みとして、「板診会」が板橋区産業経済部・板橋区産業振興公社に提案して実現した企業支援の仕組みである。  依頼企業が板橋区産業振興公社宛相談要請を提出。これに対して、「板診会」が会員の中から適任者を選択し、実際に要請先を訪問して支援にあたるものである。

 ・経営革新アドバンスセミナーの開催

 平成16年に若手経営者交流会として発足した経営者交流会が発展し、平成25年度は「板診会」、「荒川区経営協会」が中心となり、荒川区、板橋区産業振興公社、東商板橋支部・同荒川支部の後援により合計5回のセミナーを開催している。  板橋区および荒川区内のものづくり分野での会社経営者による経営革新の取り組み、大学研究員による3次元プリンターを活用したモノづくり革命など充実したプログラムであり、参加者より自社の事業運営に大変参考になると好評である。

(2)荒川区中小企業経営協会(「荒川経営協会」)

 昭和35年に創立。会員は中小企業診断士、弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士の資格保有者から構成され、荒川区産業経済部へ企業相談員、創業相談員、融資相談員、にぎわいコーディネータを派遣している。平成25年度は荒川区産業経済部から区内製造業に対する実態調査を受託して報告書を提出し高い評価を得ている。

 ・製造業調査と巡回相談

 平成25年に3ヶ月に亘り「荒川経営協会」所属の診断士を中心として60 人の診断士が参加して区内の製造業調査を実施した。区内製造業約2,000社に対する訪問調査を行い、報告書を作成した。

(3)(一社)東京都中小企業診断士協会 城北支部ビジネス創造研究会

 本研究会は主に城北地域の中小企業の経営課題解決のための支援の新たな仕組みづくりを企画し、各区の行政機関などに提案。各区の診断士会と一体になり支援を実施している。

 また、各区の行政機関、東商各支部、産業連合会、商店街連合会などからの要望に対して個別に対応を行っている。

3.他地域への今後の展開

 当研究会および「板診会」「荒川経営協会」による地元企業の支援実績は、地元のみならず、このようなスキームの存在しない他地域でも注目を集めており、問合せの頻度も増加している。今後、地域連携ネットワークとの連携により、板橋区・荒川区に加え北区、墨田区など他地域の金融機関から企業支援の要請もあり、本研究会の対象として支援を行うこととする。

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2017.02.25
データ主導のサロン店舗運営

情報管理研究会 飯村 和浩

【要旨】

 中小企業の場合、大企業と比べてデータの収集・分析・活用を行っている企業は多くはない。その原因にはさまざまな背景があげられている。データ入力の手間や集計・分析する時間を確保できないといった現実的な問題もあるが、そもそもデータ分析を経営に活かすという考え方自体に価値があると感じていないことが多いのではないだろうか。
 本事例では小規模企業がデータを経営活動に活かしていく過程を記載している。他の中小企業が参考にして自社の行動に少しでも役立てて欲しいという思いがある。
 近年のITやクラウド・サービスの進歩によって、中小企業がデータ収集・分析するハードルは一気に下がってきた。事例の内容をご覧いただければお分かりになると思うが、取得するデータや分析する手法も決して特別なものや高度なものを使っているわけではなく、データ分析の基本的なテキストに書いてあるような手法や比較的安価なツールを使っている。その中で自社の顧客や企業の理解を通じて、有効なヒントを探し、実際の行動に移しながら、結果を常に確認し続けることが重要になってきている。小規模企業でも自社の持っているデータを実際に分析してみることで役立つことを実感していただきたい。

1.支援先企業の背景
① 会社概要
 千葉県にあるG社(以下、当社とする)は2013年から柏市内にヘアサロンを展開している。このヘアサロンの特徴は、スタイリスト(顧客を担当し、へアカットなどサービス提供する主力スタッフ)を業務委託契約としているところにある。結果的に正社員のスタッフの人数比が低くなっている。委託契約のスタイリストには売上実績と連動した報酬を支払うことによって、ヘアサロンのコストの大半を占める人件費を変動費化し、売上高に対する固定費の比率を低く抑えられている。コスト構造は固定費の比率が低くなるため、損益分岐点比率を低く抑えられ低稼働率でも利益が出る体質を目指した結果だった。
 また、美容業界の美容師の就労環境は、長時間である割に他業種と比較しても待遇は決して良いものではなく、スタイリストにとっても自分の売上高に合わせて報酬が決まる制度は彼らのモチベーションになっている。さらに、委託契約であることから、自分の顧客の予約に合わせてシフトを組むことができ、柔軟な働き方を選択できる。たとえば、結婚や出産を期にヘアサロンを退職し、日中の短時間のみ働きたいスタイリストや他の店とも委託契約を結び複数店舗で働いているスタイリストの就労機会の場となっている。

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② 経営者の想い
 当社の経営者は、都内の美容専門学校を卒業後、都心でいくつかのヘアサロンに勤務し、美容師としての経験を積んだ。特定の顧客から指名されることも増え、順調にスタイリストとして成長していった。本人も独立するつもりだったため近隣の他店や都内・首都圏など多くのヘアサロンを訪れ、自分のお店をオープンさせるためのヒントを集めていた。
 その中で感じたこと、見えてきたことが今の店舗のコンセプトにつながっている。1つは新規顧客獲得のためにメニューの大幅値引きやクーポンを発行していることへの違和感だった。
 ヘアサロンの売上高は、"来店数"×"顧客単価"で構成される。1人の顧客の来店数は、"来店頻度"×"来店期間"で計算される。当然、新規の顧客よりすでに何度か来店している顧客の売上高の方が高くなる。
 しかし、クーポンや割引の対象としているのは新規顧客のみという店が多かった。これには、大きく2つの原因が考えられる。
 1つ目は新規顧客の獲得が難しく、その反面、一度顧客になれば継続した売上高が見込めるということにある。通常、顧客はすでにどこか別のヘアサロンの顧客であり、何かきっかけがない限り行き慣れたお店やスタイリストを替えようとは思わない。そこで初めての顧客向けの価格を下げることでヘアサロンを替えるための動機付けをする。髪を切るという行為は続いていくため新規顧客獲得に費用をかけるだけの顧客生涯価値(LTV)が高いという計算がされている。
 もう1つは、スタイリストの顧客の担当制度にある。通常、ヘアサロンでは、1人の顧客は同じスタイリストが担当する。指名して変更できる店もあるが、同じ店でスタイリストを変えるというのはあまり多くはない。スタイリスト側から見ると、定期的に来店してくる顧客は別のスタイリストの顧客であり、自分の顧客を獲得するためには、まだ来店したことのない新規の顧客に指名してもらう必要がある。よって、スタイリストのキャリア、成長という視点からも店舗にとって新規顧客獲得は欠かせない構造になっている。

③ 当社のコンセプト
 前述した通り、当社の経営者は新規顧客だけを優遇するクーポンや割引に疑問を持ち、すでに来店したことのある顧客も含め、いつでも、誰でも使えて一律割引になるものを発行している。
 このヘアサロンは、「長い間来店してもらえる顧客を重視し、いつでも気持ちよく再来店してもらえる店」を目指している。また、店舗のスタッフも数名の社員を除き、メインのスタイリストは業務委託契約として完全な歩合制であり、新規顧客獲得がインセンティブとなる制度は採っていない。

2.当社の店舗運営の課題と取り組み
① 出店当初の課題
 出店当初、このヘアサロンではWebの広告を使った集客をうまく行えていたため予約も満席になることが多く、売上高も順調に伸びていた。一方で、新規の顧客に再度来店してもらうための具体的で効果がある方法を模索していた。結果的にスタイリストが個々人のスキルによって再来店の顧客を獲得できていたが、何が売上高や顧客の伸びにつながっているのか明確にわかっていなかった。
 また、店舗運営においても、事務的な仕事も含めてスタイリストに任せることは現実的ではなかった。当初は紙で販売実績を記録し、表計算ソフトに入力して集計していたため、集計に時間がかかったり、入力ミスや計算の不一致が起こったり、細かいミスも発生していた。

② データの取得・店舗オペレーションの効率化
 顧客の来店数の増加や売上高の伸びの理由を明らかにするためには、データを取得し分析する必要があった。しかし、店舗のコストを下げるためにも、顧客データの記録など間接業務的なものは、極力自動化し負荷をかけないことが求められた。
 店舗でのオペレーションは、来店前の集客・予約受け付けから、来店時の接客、退店後の店舗管理業務がある。予約のほとんどはWebから入ってきていたが、来店時の顧客情報や売上高の実績は紙ベースで管理されていた。そこでiPadなどタブレット端末で使えるスマート・レジを導入することを検討した。 
 スマート・レジは月額の利用料で利用でき、タブレット端末も安価に購入できたことから初期費用は低く抑えられた。また、見た目もスタイリッシュでヘアサロンでの設置も問題ないため、試してみるという感覚で、すぐに導入することを決めた。
 スマート・レジが導入されたことで紙ベースの作業がなくなり、計算ミスや集計の手間も減らすことができた。紙での売上の集計をしていたものをやめることで、工数でいうと20%程度の削減を実現した。

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③ 顧客データ・売上高の分析
 顧客のデータは日々の店舗運営の中で自然に取得することができたため、分析に必要なデータを収集できるようになった。データ収集は、決済時にIDが付与され、メニュー単位で収集し、来店日時、顧客名、メニュー、指名/フリー、担当スタイリストなどのデータを収集している。
 
A)データ分析の初期段階
 データ分析の最初の取り組みとして、データを収集し、さまざまな角度から可視化することで、見えてくるものを探していた。いきなり分析し、何かしらの答えを出すりよりも、新規顧客と再来店顧客別・予約ルート別の売上高や来店顧客数などを可視化し、店舗を経営している中で経営者が感じる感覚と一致している数値、感覚からは外れている数値をピックアップしていった。可視化された数値と感覚値が外れているところをより深く分析することで、ヒントが見つからないかなど試行錯誤しながら可視化と分析を進めた。
 初期段階で意識したのは、経営者がデータに可視化することの意義を感じてもらいプロセスを着実に実行する点だった。経営のテキストではあたり前のように書かれているPDCAサイクルは、定着化させるまでには何度も何度も繰り返す必要がある。当社でも同様に、週次や月次、四半期の単位で可視化した結果を比較するというサイクルを何度か繰り返した。

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B)店舗実績の推移
 データ可視化を繰り返していく中で、再来店顧客の売上高の推移や構成比率を数値でいつでも確認できるようになった。データ分析の結果、たとえば以下のようなことが数値で確認できるようになった。
 ✓ 売上高の多い顧客の上位20%が全体の売上高の42%を占めている。
 ✓ 平均の2.5倍の単価で月に2回以上来店する顧客が18%を占めている。
 これらは現場のスタイリストは、感覚値として理解していたが、実際にデータ解析結果からも裏付けられたことになった。Webでの広告の表示を変更したり、日々の接客の中で次の来店を促すようなサービス、コミュニケーションを心がけたり、次の来店を促したりなど効果が見込めるアクションをとっていけるようになった。

C)データ分析に使用したツール
 データ分析に使用したツールは、主に表計算ソフトや簡易BIツール、オープンソースの統計解析ツール、クラウド・サービスのDBなどである。スマート・レジを含め初期投資には数十万円程度で分析可能な環境を用意できている。中小企業の中には百万円単位のIT投資も躊躇する規模の企業も多いが、近年のクラウド・サービスなどを利用すればIT投資のハードルは大きく下がってきている。また、データ分析も重回帰分析やロジスティクス回帰分析など基礎的な手法のみで高度な手法や解析ツールを採用しているわけではない。
   使用したソフトウェア :Microsoft Excel、R、Tableau
   クラウド・サービス :Amazon Web Service

④ 分析結果から実行したアクションの評価
 データ分析のPDCAサイクルが定着した頃から、分析結果から実行したアクションに対する評価も行えるようになった。評価は、分析結果から採るべきアクションを決める際に、前提を置いてシミュレーションする。その結果と実際にどういう数値になったかを数ヶ月後に確認するというプロセスをとっている。ヘアサロンの場合、平均の来店頻度が2ヶ月程度であるため来店したことのある顧客に対してのアクションをとった場合、効果を評価するのは数ヶ月以降ということになる。
 効果が出たものもあったが、当然、予想通りの効果が出ない場合もあった。これらについても要因を分析して、どこに原因があったのかを探るようにしている。

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3.さらなる課題と取り組み
 結果的に、再来店顧客の売上高に占める割合も、顧客数も継続して伸びていった。これは、データ分析に取り組みの成果が出たものもあるだろうが、そもそも営業開始時点ではすべて新規顧客であるため営業期間が長くなれば再来店顧客の売上高割合が増加するのは、当然の傾向でもある。

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 データを分析し可視化することによって多くのことが明確になった。経営者としては意思決定や次のアクションに何を選択するべきか迷うような結果も出てきた。
たとえば、
 ✓ 新規顧客の単価は高く、来店期間が長くなると単価は下がる
 ✓ スタイリストによって再来店につながるかどうかの差が数値として表れる
 データ分析の結果から短期的な実績を推計すると新規顧客が増えれば売上高は増えることになる。しかし、経営者は既存顧客を重要視するスタイルを貫いている。そもそものコンセプトを大事にし、長期的にはその方が効果的と考えているからである。

4.今後の課題
 当社では、集客のために多額の広告宣伝費を払っている。ヘアサロンの中には、当該広告サービスを使わなければ成り立たない店舗も多い。現在の課題は広告に頼らずに自分たちで集客し、顧客との関係を維持していくことである。
 店舗からのメッセージの発信や告知はITによって解決する部分もあるが、それだけでは現在と同様の集客力を得られるわけではなく、試行錯誤を重ねている状況である。

5.最後に
 企業を取り巻くICTやクラウド・サービスの進化は著しい。数年前に初期投資で数億円かかるようなシステムと同程度の機能や性能を、初期投資なしに月額数千円で利用できるクラウド・サービスは多く存在する。クラウド・サービスの恩恵を最も受けられるのは中小企業といえる。
 しかし、機能やサービスが高度でもITは手段であり、何のために、どうやって使うかは自分たちで考えなければならない。本事例のようにデータ分析には決められた機能ややり方があるわけではないことから、結果を出すためには試行錯誤を繰り返していくしかない。
 一方で、データ分析の結果がすべて正しいわけではない。本事例においては、顧客の売上高や来店頻度などは見えるが、実際に来店時に感じていることや率直な意見などは、データで取得できているわけではない。大前提として、経営に影響する要素すべてがデータとして取得されているわけではないため、当然であるが限界がある。本事例の経営者は、データ分析の結果も尊重しながら、最終的に自分で考え意思決定することにしている。

6.研究会としての今後の取り組み
 情報管理研究会は、「中小企業を変革するIT活用」をテーマに、店舗経営にかぎらず、中小企業の経営に役立つシステムの研究やITを活用する経営手法、管理手法について研究している。今後も事例や新しいITの動向を踏まえ、ITを経営に活かしていく手法を生み出すなどの成果を目指していきたい。

2017.01.31
小規模小売店に対する買い物行動分析を通じた販促支援の実施

城西支部 先端小売業研究会

稲垣 修

1.はじめに

 先端小売業研究会(以下「先端研」)では、2014年11月よりおおむね1年間をかけて、東京都内某所の洋菓子小売店兼喫茶店に対し、販促施策の提案、および同提案を踏まえた小規模事業者持続化補助金の申請並びに同補助事業実施にあたっての実行支援を行った。
 当社は、①不動産関連事業および②洋菓子製造販売業・飲食業の業種の異なる2事業を営む小規模事業者。夫婦2人で経営しており、社長である夫は全事業を俯瞰しつつ、実働的には①不動産関連事業を、妻は店長として②洋菓子製造販売業・飲食業(喫茶店)を担っている。今般は、上記②事業の店舗を対象としたもの(以下「A店」)。

 

2.対象店舗の概要と経営状況

 A店は、乗降客数が多く商業地として人気の高い都内某駅徒歩3分という好立地にあり、開店より19年と地元で古くから続く喫茶店である。売上は、洋菓子テイクアウト、近隣スーパー向け販売(買取制)、喫茶、オーダーメイドのオリジナルケーキ、主に子供を対象とした洋菓子のクッキングスクールの5部門で構成されている。経理、支払関係を除く、店舗内業務(製造、販売等)については、ほぼ全てを店長が一人でこなしており、アルバイトは雇っていない。
 1997年にオープンし、当初は「駅近」と「人通りの多さ」という「立地」を強みとし、また、一時期は雑誌等でも紹介されるなど相応に知名度も高かったことから、堅調に売上を維持していたが、近隣商店街が改装し人の流れが大きく変わったことで前面道路の人通りが激減したこと、駅ビル改装によりスイーツ店が充実したこと、さらに、コンビニスイーツの進化等を要因として、来店客数は徐々に減少傾向にあり、加えて、A店の特徴でもある主に小学生を対象としたクッキングスクールは、昨今の少子化の流れもあり生徒数が減少、売上高は長期間にわたって低迷している状況である。
 今般、かかる店舗の経営状況を打開せんとして、社長より当会会員あてに、売上活性化について相談があったもの。

 

3.先端研のアプローチ方法

 先端研では、「そのお店のお客様が何を求めているのか?」というお客様目線でのアプローチをおこなっているが、その起点となっているのが、「買い物行動分析」である。とかく、「自分は、こういうものを売りたい!」という「こだわり」がある経営者は、そのこだわりが強い分、「本当にお客様が何を求めているのか?」「お客様のこだわり」が、見えなくなってしまっていることが往々にしてある。
 しかし、「作り手や売り手のこだわり」と「お客様のこだわり」が適合しなければ「物が売れる」には至らない。先端研のアプローチ方法は、そういったこだわりのある経営者に対して、お客様のこだわりを想像して示してあげることであり、「買い物行動分析」とは、「お客さま目線で買い物行動パターンを観察し、売り手の現状から新たな視点や強化する視点を分析する手法」である。

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 「買い物行動パターンの観察」は、2つの視点で14類型に分類して実施する。1つ目の視点は、「どういった生活目的なのか?」という視点。これは具体的に「生活を維持するため」、「生活に変化を与えるため」、「生活に革新を与えるため」の3パターンに分類される。次の視点は、「どういった買い方をするのか?(意思決定過程)」という視点。これは、「思わず衝動的に買ってしまう」、「あれこれと選択して買う」、そして、「これを買うんだ!」という目的意識をもって買うの3パターンとなる。
 加えて、意思決定過程においては、自分で選ぶ場合と、売り手と相談する場合があることから、さらに細分化する。

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 この14類型でお客様の買い物行動を観察することで、利用するお客様の行動パターンを浮き彫りにした上で、お客様目線での施策検討というプロセスに入っていく。
 先端研の「先端」にはロングテールの先端に当たる部分を支援しようという、研究会創立時の杉浦肇氏の思いが込められている。もともとはニッチ企業を応援するツールではあるが、これだけ消費者ニーズが多様化してくると、どんな小売店でもお店の方向性をとがらせてアピールすることが大切になってくると思われる。そういった意味では、ニッチ企業に限らずこのアプローチ方法は有効なのではないかと考えている。

 

4.A店に対するサポート(フェーズ1「現状分析・プロモーション手法の提案」)

  取組期間:2014年11月~2015年4月

(1)近隣地域の市場特性および競合店調査

 同駅周辺には、同種の店舗は数多く見受けられるものの、個性的な店舗が多く、それぞれが独自の「ストアコンセプト」を出すことで「共存」が図れている市場となっている。

(2)SWOT分析

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(3)売上高低下要因検証

 外部環境変化(商店街の改装に伴う駅からの人の流れの変化、駅ビル改装にともなう高単価スイーツの充実、コンビニスイーツの進化等)により、同駅を中心とした市場内で、相対的にA店の「買いやすさ(立地等)」と「価格」が劣後するようになった結果、A店を「立地」の良さで選定していたお客様が剥落。
 従って、売上活性化に向けては、これまで十分にお客様に訴求できていなかったA店の「強み」や「ストアコンセプト」をいかにしてアピールしていくかということが重要になるものと推察した。

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(4)A店利用客の買い物行動分析

 以下の通り、既存客と新規客に分け、来店客の買い物行動分析を実施し、施策検討にあたってのテーマを考察した。

①既存客:「生活維持(K)型」、特に、KSS型かKOS型が中心。少なくともある程度は、お客様なりにA店の良さ(強み)を感じて来店していることから、いかにしてA店の強みを、さらにしっかりと擦りこんでいくか?他の強みを訴求していくか?そして、既存客でも、利用機会を広げてもらうために、いかにして「生活変化」を与えることができるか?

②新規客:「生活変化(V)型」、具体的には、VIC型やVSC型がターゲットに。たとえば、コンビニスイーツをよく買う人を、どういうきっかけで、ちょっと高めでも美味しい手作りシュークリームに興味を持たせるか? 

(5)目指すべき「ストアコンセプト」の明確化

 利用客の行動分析を行ったところで、施策検討の指針とすべく、改めて、A店として目指すべき「ストアコンセプト」の明確化を行った。

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(6)売上活性化に向けた施策のご提案

①お客様の「買い方」を意識したアイテムへの工夫

―アイテム名の工夫、季節限定品の提供、歩きながらでも食べられるアイテムの提供、小さめアイテムの開発・ホールケーキのカット売り、看板メニューの確立、スイーツ原材料のセット販売

②「買い方」を意識した広告・包装等への工夫

―アイテム表示の工夫、店長の似顔絵キャラの作成

③既存のお客様に対する囲い込み戦略

―ポイントカードの導入、高齢者向け「シルバーポイントカード(仮称)」の作成、レシピの開示による常連客のストアロイヤリティ向上、一個買いのお客様が買いやすいような広告の掲示、会議室や教室としての喫茶スペースの貸し切り提供

④通行人をA店に誘導するための施策
―店頭POP作成/店名の看板取り替えとオープンな雰囲気のエントランス作り

⑤宣伝広告
―ホームページの更新、電子メールの活用(お誕生日月や記念日のオリジナルケーキの案内等)、ショップカードの作成

 

5.A店に対するサポート(フェーズ2「小規模事業者持続化補助金申請サポート」)

  取組期間:2015年5月

(1)フェーズ1の反省

 社長の店舗に対する危機意識をきっかけにサポートを開始したものの、ディスカッションを深めていく過程で、社長の思いと実際に現場(店舗)を切り盛りしてきた店長の思いの違いを認識。

―社長「売り上げが低迷している店舗経営状況に、自身のネットワークで収集したさまざまなアイディアを試してみたい。」

―店長「あれこれチャレンジするよりも自分自身が好きでこだわりのあるケーキ作りに専念したい。」

 フェーズ1の提案書は社長の意向に軸足を置いた内容になった感あり。

(2)店長としての優先取組事項の確認

 フェーズ2からは、当会として「店長の本音を引き出す」ことに軸足を置いたサポートを意識。補助事業申請にあたり、改めて、店長としてまず取り組みたいことを確認したところ、「店頭POP」、「ショップカード」、「ホームページリニューアル」の3点を列挙。

(3)補助事業の策定と申請書作成サポート

①補助事業で行う事業名  「ストアコンセプトの明確化と市場浸透を通じた新規顧客開拓」

②補助事業の具体的内容(申請時)

・店舗視認性向上のための突き出し看板の取り替え

・店頭POPの新設

・ホームページの復活リニューアル

・ショップカードの作成・店頭設置、配布

・「安全・安心」の手作り感が伝わる新開発商品

・地元商店街で開催されるイベントへの参加

 

6.A店に対するサポート内容(フェーズ3「補助事業実行支援」)

 現状、店長は毎日の業務をこなすことだけでいっぱい、いっぱいである中、付加的に補助事業を、しかも限られた時間内で実施するには、「誰が」、「何を」、「どのように」、「いつまで」を管理する等、「一緒に汗をかく役回り」が必要と考え、当会で実行支援サポートのためタスクチーム(6名)を編成し、2015年8月~11月まで、下記サポートを実施。

(1)補助事業の具体化

 補助事業それぞれについて更にタスクを細分化したうえで、責任の所在を明確化

(2)工程管理

 工程管理表を作成、それぞれの施策、さらにタスク毎に課題・確認事項、経費、スケジュールと進捗状況を管理し共有するとともに、2~3週間に1回のペースで期間中計8回、社長、店長、当会メンバーで全体会議を開催の上、PDCAを実施

(3)実務的な作業サポート(「一緒に汗をかく!」)

 指摘、アドバイスだけに留まるのではなく、手を動かし、一緒に汗をかくことで、店長との信頼関係を構築しつつ、店長のプロモーションに対する自発性を誘引

①店頭視認性アップの店舗外観案作成

同業のみならずA店の現状を踏まえて店舗視認性をアップさせるため、参考として考えられる他店事例を収集。また、突き出し看板の塗り替え、店頭ライトアップにあたって店長をサポートし、実際に業者とのディスカッションを実施

②ショップカードのデザインサポート

社長および店長の意見を調整しつつ、所定の素材を組み合わせて原稿を作成

③業者選定調整

ホームページ業者選定(2社より選定)にあたっての入札要綱の作成、両候補者からの提案内容の検証と比較対比表の作成、選定後の作業進捗確認等

④ホームページ用写真撮影

当初専門家への外注を検討したものの、融通とコスト面から断念。今後のホームページリニューアル時の継続フォローも視野に入れて、当会メンバーでカメラマンを含む撮影部隊(先端研写真部)を編成し、全アイテムおよび店舗内外観写真を撮影

(4)実績報告書策定サポート

 8月~11月に実施した補助事業について、エビデンス等を含めた実績報告書の策定をサポート

 

7.補助事業実施概要と効果、今後の課題

(1)各施策の実施概要

①店頭POP設置

ホワイトボード、ホワイトボード設置用の椅子を購入、POPを作成の上、店頭に設置、視認性の改善とストアコンセプトの積極的な訴求に

②ホームページリニューアル

長年更新されておらず、古めかしさが残っていたホームページを全面刷新。また、ITが苦手な店長に対して、ホームページ更新の講習も受けてもらうなど、今後の定期的な更新も視野に入れたサポートを実施

③ショップカード

名刺サイズとはがきサイズで2種類×5,000枚作成。店頭設置のほか地元商店街の案内所、地元スーパーへの設置、社長・店長関係者等に配布

④新商品開発

実施期間中にケーキ2種類、焼き菓子2種類を新商品として販売を開始した他、約3種類の商品についてはおおむね販売の目途が立つ段階に。なお、商品開発にあたっては、コンビニ等のチェーン店では真似できない製法を使う等、「手作り感」が顧客に伝わるようなものを意識

⑤地元イベント参加

地元商店街が主催するイベント(2日間)に参加。イベントのおみくじ用スタンプ押印目的で来店する新規客に対し、ショップカードの配布等のプロモーションを実施。また、新商品の一部販売も開始し既存客にもアピール。なお、3日間アルバイトを1名雇用

⑥突き出し看板の塗り替えと店頭ライトアップ

突き出し看板の塗り替えと照明2個、店頭植栽のライトアップ用照明2個の設置を外部専門家に委託の上実施。突き出し看板は補助金申請当初「取り替え」の予定であったが、費用負担軽減のため既存資産を極力有効活用し「塗り替え」で対応

(2)実施効果

 補助事業実施後約1年が経過しているが、来店客は増加傾向にあり、特に喫茶の売上は前年対比1~2割増加している。クッキングスクールは、昨今の少子化等の流れから開催回数の減少を余儀なくされているものの、スクールの売上高減少を喫茶、テイクアウトの売上高増加で打ち返し、店舗全体では概ね前年対比1割の売上高増加となっている。これは、POPの設置・突き出し看板の塗り替え等により明らかに視認性がアップした効果が出てきたものと思われる。(店頭で立ち止まる通行人が増えたり、「ここってケーキ屋さんだったんだ」と会話する声が聞こえたりと、店長自身もPOP等の効果を肌で実感しているとのこと。)

(3)今後の取り組むべきこと

 ホームページについては、アクセス数が未だ低いこと、直帰率(トップページだけ見て他のサイトに移動する閲覧の割合)が高いことなど課題がある。全面リニューアルをしたものの、定期的なメンテナンスが行われていないこと等が原因と推察できる。しかし、一人で店舗を切り回している店長の業務量全体を考慮したうえで、ホームページのメンテナンスについては、いかに無理のない範囲でルーティン化していくかの検討が必要であると思われる。
 また、継続的に商品開発は行っており、その中でもお客様の反応が特にいいものもある(スフレケーキ等)。来店客との対話の中からそういった商品について的確に把握し、看板商品化すべくプロモーションしていくということもリピート率向上にあたっては有効であると考えられる。
 今般の補助事業は、既述4(6)売上活性化に向けた施策提案のうちの最優先事項を先行させたもの。同店はまだまだ改善余地があり、当会としては継続的にディスカッションを実施しながら、A店販促支援を行っていくことと致したい。

 

8.おわりに

 約1年間かけて、現状分析・施策提案から補助金申請、さらには補助事業の実行支援まで一気通貫で取り組めたことは、当会にとって貴重な経験となった。店長は、洋菓子づくりに対するこだわりや思いが強い一方で、自店を積極的にアピールする意識はそれ程高くは無かったが、一連の取組を通じ、顧客目線でのプロモーションの重要性について、小さな気づきを与えることができたのではないかと思っている。既述の通り、施策実施により売上高アップ等定量的な成果は出始めてきているが、今般の当会取組を通じて、職人気質の店長が、ITが苦手であるにもかかわらずホームページリニューアルの勉強をしたり、自らPOPを作成したりと、店舗のプロモーションのために一定の時間と労力を割くようになったその店長の意識改革こそが、当会にとっての何よりの成果であった。
 そして、基本的なことではあるが、「クライアントとの信頼関係」と「クライアント目線でのコンサルタント」の重要性を改めて痛感させられた、我々にとって意義深い取組であった。かような機会を当会に与えて頂いた社長並びに店長に、心からお礼を申し上げたい。

2016.12.29
営業力強化コンサルティングメニューの開発

営業力強化コンサルティングメニューの開発

営業力を科学する売上UP研究会 渡邉 卓
YFA64764@nifty.com

 本研究会は、法人営業における課題が一目で分かる「法人営業力診断アンケート」を開発し、2014年度中小企業経営診断シンポジウム第3分科会で発表した。その後、システムに改良を重ねながら、2016年9月現在13社から221名の回答を蓄積し、企業の困りごとや営業課題を可視化できた。
 せっかく営業課題を可視化できても、解決策を提案できなければ、中小企業経営者の悩みは解消しない。そこで本研究会は、2015年7月から、アンケートで可視化できた営業課題それぞれの解決策となる「営業力強化コンサルティングメニュー」の開発に着手した。1年をかけて完成したメニューをもとに、金融機関と提携して中小企業向けセミナーを開催し、また、中小企業に対する個別支援を開始したので、ここに報告する。

1.ツール開発の背景、経緯
(1)営業力強化に注力したい中小企業
201701_4_1.jpg 日本政策金融公庫「2016年中小企業の景況見通し」(2015年11月)によると、中小企業が経営基盤強化に向けて注力する分野は、2位「人材の確保・育成」(51.2%)に大差をつけて、「営業・販売力の強化」(69.4%)が1位である。
 売上を会社にもたらす源泉である「営業・販売力の強化」に対して中小企業経営者の危機感が強い一方で、中小企業の営業力強化に焦点を当てた解決策は多くないのが現実である。

(2)経緯
 工場と違って営業現場は、相手(顧客)次第で状況が変わり、現場に目が届きにくく定量化が難しいことから、どういう問題が起こっているのか把握しづらい。
201701_5_2.jpg 当研究会が開発した「法人営業力診断アンケート」は、Web上で4段階の選択回答50問と自由回答の5問に答えることにより、法人営業に必要な5つの評価軸(戦略力、計画力、行動力、商談力、管理力)に沿って測定する。図表2のように、営業マネージャー、営業担当者という階層別のレーダーチャートによって、把握しづらい営業課題を可視化できる。50問の回答分析に加えて、豊富な自由意見を集められるのが本アンケートの特長だが、それらをまとめた分析レポートを提示・説明する中で、中小企業経営者に改善策を提案することができる。
 アンケート分析から問題把握までは仕組み化・自動化することで省力化できたが、その後の提案はコンサルタントのスキルや経験に依存する部分が多く、個別対応による提案ツール作成に多大な時間がかかっていた。

2.開発ツールのポイント
(1)課題に最適なメニューの用意
201701_5_3.jpg 法人営業力診断アンケートを受診する中小企業が抱える営業課題はさまざまだ。提案を1つ、2つ定形化しても、幅広いニーズにとても対応しきれない。
 そこで当研究会は、2015年7月から1年をかけて、「可視化課題を解決」する営業力強化コンサルティングメニューを開発した。中小企業経営者が自社の営業課題に合わせて、11種のツールから自由に選べる、という意味で「メニュー」と名付けた。図表3のとおり、5つの評価軸ごとに重複しないように、かつ相互に補完しあえるようなメニューを選定した点が特長だ。
 たとえば、「管理力」には3つあるが、「組織営業のプロセスと管理」は体系化・仕組み化してPDCAを回していくものであり、「営業会議の実践法」は営業会議を効果的に行うための具体的指導である。3つめの「コミュニケーション力の強化」は人の思考タイプに着目した、上司の部下指導、取引先担当者への対応方法など、人的な「コミュニケーション力の強化」に力点を置いた。このように同じ管理力でも硬軟織り交ぜたメニューを用意して、人材育成を伴う営業力強化を目指すことが大きな特長である。
 当研究会の月例会で3か月おきに各分科会が進捗報告を行ない、分科会の間で重複や齟齬がないか横串をさして、メニューのレベルを合わせた。
 2016年1月の月例会で、都内金融機関A行を顧客に持つ当会員が仲介し、A行研修担当者を招いてプレゼンを行った。それと前後してA行が主催する中小企業向けセミナーで会員が講義する機会を得た。それらを踏まえて、A行が新しく企画したスキルアップ研修の受注を目指した。ツール開発を1年間続けることは心身ともにきついが、セミナー開催が動機づけとなって中だるみを防ぎ、メニューをブラッシュアップできたことは幸運だった。ここで、メニューの一部を紹介する。

(2)メニュー紹介①「新規開拓に繋げる展示会活用法」
 1つめは、新規顧客開拓を行うことを決定し、具体的営業活動として展示会出展を選んだ場合のコンサルティングメニューである。
 展示会出展は、経営革新計画認定企業向けに優遇策があるなど、新規顧客開拓策として大変有効である。しかしながら、展示会に出展したことがなく経営資源が乏しい中小企業は、どうやって展示会を企画運営するのか術を持たない。
201701_6_4.jpg そこで当研究会は、図表4のとおり展示会のステップ別に手順(シーン)や内容をまとめて、その行動内容を細かく取り決めた。展示会の準備と実施はイメージがわきやすい一方で、忘れがちな行動がある。
 事業戦略に沿って出展コンセプトや顧客ターゲットを決めた上で出展展示会を選ぶ「企画・計画ステップ」、来場者リストを作成して社内で共有した上で御礼やフォロー訪問する「フォローステップ」の2つが展示会成功の鍵であり、それらの進め方も具体的に織り込んだ。
 ファッション性の高いバッグ製造卸売業に勤め、東京ビッグサイトで展示会出展を手掛けた会員のノウハウが大いに活きた。前職の大企業時代に培ったノウハウを、小規模企業で実践する過程で磨いた工夫が織り込まれているので、中小企業が使いやすい事は明らかだ。

(3)メニュー紹介②「組織営業のプロセスと管理」
201701_7_5.jpg 中小企業における営業活動は、経営者や辣腕営業部長の個人プレーが多いが、属人的であるがゆえに、その人が引退・退社すれば途端に営業力が落ち、売上にマイナス影響を与えることが多い。
 個の力に頼るのでなく、営業マネージャーや担当者に加えて、技術部門など他部門と連携して全社一丸になった組織営業こそが、経営資源に劣る中小企業には不可欠である。そこでは、誰が、どのタイミングで、何処へ、どのように行動するのか「仕組み化」、「見える化(可視化)」することで、ごく普通の営業担当者が一定レベルの営業成績を発揮できる仕組みが求められる。その答えとして、図表5のとおり、営業プロセス別に行動や指標を整理・設計するマトリックスを開発して、仕組み化している。
 これは、高額産業機器の法人営業経験が長い会員を中心に仕組み化したものであり、A行主催セミナーでも講演した。ここでは2例を紹介したが、開発したメニューの全てが、実践経験に基づく会員のノウハウを結集して作り上げた。

3.効果
(1)メニューの会員間共有
 営業力強化コンサルティングメニューとして11種のツールをラインアップすることで、ある程度の営業課題に迅速に対処できるようになった。2016年7月には一泊二日の合宿を行ない、模擬講義やグループワークを経て、他の会員が作成したメニューも各自が使えるように、コンサルティングスキルの底上げを図った。

(2)金融機関と提携したセミナー開催
201701_7_6.jpg 都内金融機関A行は、中小企業支援にあたって、図表6のような認識を抱いていた。中小企業の課題の本質は「いかに売上を増やすか」にかかっているが、それに応えられる支援の仕組みがないことだ。
 このような認識をもつA行だったので、当研究会の提案に興味を示し、単発のセミナーでなく、企業の集合研修(5回シリーズ)という形で受注できた。2016年10月から12月にかけて研修を開催しており、実際に講義することで受講者から有益なフィードバックを得て、メニューの改良に活かしていく。
 
4.今後の活動予定
 営業力強化に悩む中小企業経営者に提案するコンテンツは完成したので、中小企業に提案する機会を増やすことが次の課題である。そこで、「中小企業への提案窓口」となる中小企業支援者とパートナーシップを結び、Webサイトの新設、お試し体験「営業力強化セミナー」等を用意することで、多くの中小企業経営者の課題解決につなげることを目指している。その全体像は、図表7のとおりである。

201701_8p_7.jpg

(1)パートナーとの提携
 中小企業の最大課題である営業力において、体系化・仕組み化された支援策が他にないという金融機関A行の現状認識から類推すれば、当研究会のメニューは、他の中小企業支援者に歓迎してもらえるものと考えた。
201701_9_8.jpg そこで、自らクライアントを持つものの、営業力強化の手立てを持たない中小企業支援者に提案窓口になっていただく仕掛けを考案した。図表7の左側に挙げた提案窓口のうち、都内某区の産業振興部門、税理士や社会保険労務士が属する団体、2つの研究会、1つの出版社と提携済みあるいは協議中である(2016年9月現在)。
 中小企業経営者、およびパートナーである中小企業支援者に情報を直接お届けするために、図表8のとおり、ホームページを立ち上げた。

(2)お試し体験「営業力強化セミナー」の開催
 企業経営者がいくら興味をもっても、法人営業力診断アンケートを受診することで自社内情をさらすこと、効果が見通せない中でコンサルティングをいきなり有料で発注することに抵抗感を抱く心理が想定される。

 他士業を含む中小企業支援者にヒアリングしたところ、たとえば、税理士や社会保険労務士が顧問先に営業力強化を提案しても、営業面の具体的な質問には答えられないし、「先生の専門外ですよね」といわれて、暗に拒絶されてしまうようだ。

201701_9_9.jpg

 そこで、経営者と一緒にお試し体験「営業力強化セミナー」を受講すれば、日頃の関係を一旦リセットできて、営業力強化の必要性を理解してもらえ、中小企業支援者にとっても新しい案件受注が期待できる。
 図表9のとおり、2016年12月から定期的に開催する予定である。交通至便な会議室で、平日夜に2時間程度のセミナーを行ない、メニューを開発した会員が講師を務める。セミナー終了後に個別相談会を設けて、中小企業経営者の課題解決にあたる。

(3)企業へのコンサルティング実施と支援体制の強化
 当研究会の最終目標は、中小企業の営業力アップである。コンサルティングメニューがセミナーで使えても、企業へのコンサルティング現場で効果を発揮するとは限らない。そこで、都内某区の産業振興部門から、営業力強化に困っている企業を紹介してもらい、複数の企業に対して営業力強化支援コンサルティングを行なっている最中だ。
 中小企業の実情に合ってない部分は、実践を通じてメニューのブラッシュアップを図っている。また、メニューを作った会員だけが研修やコンサルティングを行うのでは、数多くの中小企業に対して同時並行した支援が難しい。そこで、1メニューを最低2~3人の会員が説明できるように、内部研修の仕組みをつくって、コンサルタントの内部養成を図っている。

5.まとめ
 顧客を抱える中小企業支援者にとって、自らが関わりながら営業力強化を推進でき、経営者が自信を持てるようになれば、事業計画作成や設備投資、人材育成や資金繰り強化等のニーズが出てくることが見込まれる。中小企業支援者どうしがWin&Winの関係でパートナーとなり、中小企業が最も重視する営業力強化の一助になりたい。

【執筆メンバー】
営業力を科学する売上UP研究会
 渡邉 卓(リーダー)、阿部 裕、坪田 誠治、東條 裕一、福地 信哉、丸山 直明ほか

2016.11.29
稼働率99%!特別養護老人ホームに対するコンサルティングのキー項目

福祉ビジネス研究会 代表 的場 秀夫


1.福祉ビジネス研究会
福祉ビジネス研究会は、1997年4月「社会福祉研究会」として発足しました。2000年4月介護保険法が施行され、福祉の世界に民間企業が進出し始めました。社会福祉法人が設置主体である特別養護老人ホームにおいても、利用者との関係が「措置」から「契約」に変わり、「運営」から「経営」へというビジネス的視点が求められるようになりました。
儲けてはいけないというイメージを持つ「福祉」。儲けを出し続けなければいけない「ビジネス」。一見、相入れない世界の間に何があるのだろうか。ビジネスという視点で福祉を考えてみたらどうだろうか。そんな興味の中2002年、「福祉ビジネス研究会」と改名し、活動を続けています。
2016年9月時点で会員は約30人。親の介護のことを心配している会員、自分自身の老後を見据えている会員、親族に障害を持つ方がいる会員など「将来の暮らし」に対する興味から参加する会員が中心でしたが、自ら介護事業所を経営する会員、障害者施設の管理運営を任されている会員など、「福祉ビジネス」の内側で活動している会員も増えています。最近は、銀行、建設、教育・出版等、高齢者・障害者・児童に関連した市場への進出を企画している企業からの参加や、地域福祉のマネジメントを担当する市区町村の方々も参加しています。

2.コンサルタントとしてのスキル・知識
コンサルティングに必要なスキル・知識には三つの領域があると考えています。201611-2p-Fig.jpg
ひとつめは「マネジメント・組織管理領域」であり、中小企業診断士であれば保有しているスキル・知識です。
二つめの領域は「業界研究」。介護の世界でコンサルティングを実施するのであれば、介護保険法を始めとした制度の理解、介護市場の動向、就業者の状況や労働環境の理解、介護報酬等の理解が必須となります。業界研究については、毎月の例会において、福祉・介護の世界で活躍をしている講師や、会員の研究成果発表により、知識を深めていくことができます。
三つめの領域はコンサルティングを実施するための「メソッド・ツール」です。事業所・施設の状況を把握した上で、問題や課題をどのように解決していくのか。机上の知識だけで対応できるものではなく、具体的な方針を策定し、コンサルティングを進めていく必要があります。「メソッド・ツール」の領域は、実際のコンサルティングを実施する中で試行錯誤しながら身に付けていくしかありません。当研究会においては、過去に「介護専用型有料老人ホーム開設市場調査」、「住宅型有料老人ホーム開設コンセプトおよび事業成功要因分析」事業の受注、「有料老人ホーム経営支援マニュアル」の作成などをプロジェクトチームで対応し、ノウハウとして蓄積してきています。

3.特別養護老人ホームに対するコンサルティング事例201611-3p-UpFig.jpg
本原稿では、福祉ビジネス研究会の会員が関わった特別養護老人ホーム(以降、特養という)「まごころタウン静岡(静岡市駿河区、定員100名ユニット型)」対するコンサルティング事例から抽出した、コンサルティングのキーとなる項目について解説します。
(1)最も重要な指標「稼働率」
特養の運営は社会福祉法人か行政に限られており、介護保険法では「介護老人福祉施設」として規定されています。主な収入は、介護保険給付と利用者からの介護サービス費、居住費、食費です。介護保険給付と介護サービス費は要介護度による一律の単位数と加算、居住費と食費は基準費用額で定められています。単位数単価は地域によって10円~10.90円と異なりますが、静岡市の特養には10.27円が適用されます。
1日1ベッドあたりの収入見込みは13,352円です。定員100名の特養で1年間(365日)の収入は487,348,000円となります。定員オーバは原則として認められないため、この金額が収入の上限です。施設の空きベッドに対して介護保険給付は算定されません。食費、居住費も原則取ることはできません。空きベッドの発生は、利用者が入院している期間と、利用者退所後に次の入所者が決まるまでの期間となります。
全国平均の特養ベッド稼働率は96%です。これを1%向上させることで、年間の収入は 4,873,480円増えます。逆に稼働率が1%下がると4,873,480円の減収となります。特養の経営においては、稼働率をいかに高く安定させるかが最も重要です。

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(2)コンサルティングの成果
開所月の2015年5月は、週単位で徐々に入所者を受け入れたため、稼働率は39%と低いですが、12月を過ぎると、全国平均の稼働率96%を超え2016年5月には稼働率100%を達成しています。その後も99%~100%の稼働率を維持しています。

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4.特別養護老人ホームに対するコンサルティングのキー項目
コンサルティング活動において、指導・支援のキーとなる10項目を「稼働率向上メソッド体系」として整理しました。この項目は、小売店舗を支援する場合のキー項目である「店舗レイアウト設計」「商品陳列」「仕入計画」「在庫管理」「導線管理」等に該当します。
稼働率を向上させるためには、入院につながる状態にしないことが大切であり、さまざまな状態に対応したケアが重要です。具体的には、「G.認知症ケア」「H.口腔ケア」「I.事故防止」「J.感染症予防」です。また、入院させないケアの前提として、利用者の状態をよくすることが必要であり、その考え方とケアが「F.自立支援介護」です。入院させないケア、状態をよくするケアを行うためには、利用者に対するアセスメント(利用者の状態・状況などから問題・課題を把握し、利用者のニーズを明確にすること)を実施し、適切な目標設定をする必要があり「E.要介護者モデル」による整理が有効です。
稼働率向上の目的は収入の確保ですが、特養で暮らす利用者の生活をないがしろにするわけにはいきません。特養のすべての活動を支える考え方・あり方として、「A.リハビリテーション」を常に意識し実践していく必要があります。また、稼働率向上のために、「B.入院退院カンファレンス」「C.入所退所管理」により利用者の「入」「出」を管理していくことが重要です。感情労働(感情の抑制や緊張、忍耐など、感情をコントロールする必要がある労働)を強いられる職員の「D.教育・研修・人事・労務・採用」の中にも、コンサルティングを実施する上でのポイントがあります。それぞれのキー項目の中には多くの「メソッド・ツール」がありますが、紙面の都合上、それぞれの項目の概要のみを記載していきます。
A.リハビリテーション
「リハビリテーション」といえば、弱った筋肉を動かせるようにするためのトレーニングや、関節の可動域を広げるためのストレッチをイメージする方が多いと思いますが、ここでは広い捉え方をします。
・リハビリテーションとは、身体的・精神的・社会的に最も適した生活水準の達成を可能とすることによって、各人が自らの人生を変革していくことを目指し、且つ時間を限定した過程である(「リハビリテーション概論第7版(中村隆一 2009年)」)。
・リハビリテーションとは、人が生れながらにして持っている人権が本人の障害と社会制度や習慣・偏見等によって失われた状態から、本来のあるべき姿に回復させることである(「地域リハビリテーション支援活動マニュアル(1999年)」)。
「身体的な機能を取り戻すことで、できなかったことができるようになる」というのはリハビリテーションのひとつの側面にすぎません。おむつをしていた利用者が、リハビリテーションによってトイレに歩行して行けるということは、身体的な機能だけではなく「尊厳」を取り戻すことにもつながります。訓練室の訓練だけがリハビリテーションではなく、すべてのケアがリハビリテーションです。接遇もリハビリテーションです。コンサルティングにおいても、リハビリテーションの考え方・あり方を念頭に進めていくことが大切です。
B.入院退院カンファレンス
稼働率を上げるためには、いかに入院を減らすかが大きな要素です。入院が発生した場合「なぜ入院したのか」についてカンファレンス(多職種参加の会議)をする必要があります。カンファレンスでは入院に至った経緯を明確にした上で、「入院に至る状態の変化になぜ気づけなかったのか」などの内省をするとともに、「今後どうすればよいか」の対応を検討します。
防ぐことのできない入院であっても「なぜ入院日数を短くできなかったのか」についての検討が必要です。たとえば、尿路感染症の場合、初期であれば3日の入院で済みますが、敗血症に至ると1~2週間の入院になってしまいます。尿路感染症にならないケアの実施だけではなく、初期の段階で利用者の病状に気づくための介護技術や記録方法の検討も必要です。入院という事例は「気づかなかったことに気づく」「漫然と実施していたケアの意味を意識する」など、利用者の状態をよくするケアにつながる大切なチャンスです。
C.入所退所管理
安定した稼働率確保のためには、入院を減らすことと並行して、退所した利用者のベッドを空けないことが重要です。特養待機者52万人という数字から、ベッドが空いたらすぐに入所者が確保できると思っている人が多いですが、そうではありません。待機者リストの上位から電話をすると、「入院しています」「他の施設に入所しました」「亡くなりました」「親戚の家に引越しました」など、さまざまな理由で入所に至らないケースがあります。
退所(死亡退所が多い)が決まってから入所者を探していては、入所までのリードタイムを短縮することはできません。特養の平均在所年数は約3年半です。100床の特養であれば毎月2~3人の退所者が発生することになります。待機者リスト上位に位置する本人や家族との連絡を密にして、すぐに入所できる待機者を常に3人確保しておく必要があります。また、特養の職員に、次の入所予定者の状況を伝え、受け入れ準備をしておく必要があり、多職種との協働関係作りも重要です。
D.教育・研修・人事・労務・採用
職員の思考や行動は利用者の状態に大きく影響し、結果的に稼働率を変動させる要因となります。施設の職員に求められる資質は行動変容です。知識をつけるための教育も重要ですが、知識の意味を理解した上で行動に移すことがより重要です。行動変容が起きる組織にしていくためには、施設長を含め、組織全体での取り組みと、継続的な働きかけがポイントとなります。
介護職の有効求人倍率が2.59(平成27年)という状況の中、資質のある能力の高い人を雇うことは難しく、施設内部で訓練と支援をしていく必要があります。集合研修を中心にした知識教育だけでなく、ケアプラン(介護計画)から始まるPDCAの中に、行動変容の仕組みを織り込んでいく必要があります。
自己肯定感は行動変容を生むためのエネルギーとなり向上心にもつながります。施設長が施設内をまわり、職員に声をかけ「あなたはここで役に立っている」ということを意識的に伝えることも職員の自己肯定感を高めていく上で大切な活動です。
E.要介護者モデル
リハビリテーションの考え方に基づき、状態をよくするケアを実施するためには、要介護状態になった「経緯による分類」と現在の「状態による分類」により、適切な目標設定と目標に至る道筋を明らかにする必要があります。
経緯による分類には「脳卒中モデル」「認知症モデル」「進行性疾患モデル」「生活不活発病モデル」「複合モデル」があり、課題や目標を探るヒントとなります。状態による分類には、「患者モデル」「固定障害モデル」「虚弱高齢者モデル」「BPSDモデル」「複合モデル」があり、ケアのプロセスや留意事項を明確にすることができます。
モデルを特定し、対応していくと、虚弱高齢者モデルに行きつきます。そこから、入所者の状態悪化を防ぎ、状態をよくするためのケアにつなげていきます。
F.自立支援介護
状態をよくするための日々のケアが自立支援介護です。自立支援介護は、入院させないケアの前提であり、利用者の暮らしの基盤を創るための介護となります。水分1日1500cc以上、食事1日1500Kcal以上、自然排便、歩行による運動が自立支援介護の基本となります。水分を摂取することより、確実に意識レベルが上がります。意識レベルの向上はBPSD(行動・心理症状)を発生させない認知症ケアにもつながり、適切な栄養と運動は、褥そう(床ずれ)予防、低栄養防止、事故防止だけではなく自然排便にもつながります。
全国老人福祉施設協議会(特養の全国組織)では「おむつゼロ」を目標に自立支援介護を推進しています。自立支援介護を実施するためのポイントは、組織的対応です。トップの方針のもと、介護職、看護職、医師、理学療法士、作業療法士、栄養士等すべての職種が協力していくことが重要です。自立支援介護を実践し、おむつゼロを達成した施設では、利用者の要介護度も改善しており、特養のイメージを「自宅での介護が困難な利用者をお預かりする施設」から、「利用者を元気にして地域との関係を取り戻していく施設」に大きく変化させています。
G.認知症ケア
特養利用者における認知症の割合は約9割であり(平成26年介護給付費分科会資料:認知症高齢者日常生活自立度ランクⅡ以上の割合)、認知症ケアは最も基本となるケアです。
認知症は、脳の神経細胞の破壊に伴って発生する病気であり、中核症状(記憶障害、見当識障害、実行機能障害、理解・判断能力障害など)を治すことはできません。認知症ケアとは、BPSD(妄想、幻覚、暴力、徘徊などの行動・心理症状。以前は問題行動と呼ばれていた)への対応です。BPSDには、本人の性格や生活環境に起因する理由があり、その理由を理解し、適切な対応をすることで穏やかに過ごすことが可能となります。逆に、BPSDが発生している理由を理解できず、不適切なケアで症状が悪化し介護が困難になるケースもあります。そこから状態が悪化し、寝たきりや入院に至ります。
H.口腔ケア
口腔ケアは、口の中の清潔と、口の機能の向上・維持のためのケアです。
口から食事が摂取できない胃ろうの方であっても、口の中の雑菌が肺に入ることで誤嚥性肺炎による入院に至ることがあります。すべての利用者にとって口の中を清潔に保つことは重要です。
口腔機能は、噛む、飲み込む、話す、笑うなど口の動きのことです。自分の口から美味しく食事を食べることや、家族や親しい方との会話を楽しむことは、口腔機能ができているからこそ可能なことです。口腔ケアにより、筋肉や脳が刺激され失われていた口腔機能が回復することもあります。
胃ろうゼロを目指し、口腔ケアにより口から食事ができるようにする取り組みをしている施設もあります。刻み食、ペースト食から常食に移行する取り組みも実践されています。口から食べることは、生きる元気を取り戻すことにつながり、入院は確実に減っていきます。
I.事故防止
転倒による骨折、誤嚥による肺炎等の事故は直接入院につながります。事故に対する予防・対応は、事故発生の事象を自損事故と介護過誤に分けることから始めます。
自損事故の対応は、ケアプランの見直しです。たとえば転倒のリスクが高い利用者に必要なのは、転倒しないように立ち上がりを制限するのでなく、歩行訓練です。また、利用者本人が動く環境を整えることも必要です。利用者の目標の再検討、ケア手段の再検討により、根本的な解決になっているかどうかを見極めることが重要です
介護過誤とは、職員のミスのことです。ミスを発生させた職員個人を原因とした対応ではなく、職場環境を見直すことが対応となります。手元が暗い、職場が忙しい、仕事の中断、分かりにくい指示、複雑な手順等、何が注意力を削いでミスにつながったのかに着目する必要があります。介護知識や技術が少ないがゆえに発生したミスであれば、介護知識・技術をつけるという組織的対応が必要です。
J.感染症予防
稼働率を向上させる上で、感染症から入院する利用者の増加は避けるべき事象です。感染原因は利用者の家族であることが多く、1人目の感染を防ぐことは難しいですが、そこから蔓延しないようにすることが重要です。「感染症を防ぐため冬季は利用者との面会禁止です」という施設もありますが、特養が生活施設であることを考えると、面会禁止は行き過ぎた対応であり、本人のQOL(quality of life)から見て適切な対応ではありません。
感染症予防の最も有効な対応は手洗いの徹底です。また、発生した場合に処理が的確にできる体制および知識が重要であり、教育や定期的な訓練が必須です。

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5.実践!施設稼働率向上メソッド セミナー 
福祉ビジネス研究会では、2016年6月より毎月1回「実践!施設稼働率向上メソッド セミナー」と題して、10回シリーズのセミナーを開催しています。1回90分で各キー項目を中心に「メソッド・ツール」の解説をしています。1回ずつ完結した内容になっていますので、興味のある方は、ぜひご参加ください。詳細は福祉ビジネス研究会ホームページをご参照ください。(ホームページ http://fukushi-b.jimdo.com/

2016.10.30
「食品製造業の信頼性評価基準」を活用した企業診断について

食品業界研究会 代表 磯部 典久

1.はじめに(食品業界研究会の活動範囲)
 食品業界研究会は1995年に設立されました。当研究会は、食品製造業のみならず農業から食品小売業までを対象とした幅広い中小企業者の経営支援に応えられる診断スキル、知識および技術の向上を図ると共に実践することを目的に活動を行っています。

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 当特集におきましては、食品業界研究会が平成15年に診断ツールとして開発して、中小企業経営診断シンポジウムにて会長賞を受賞した「食品製造業信頼性評価基準」とそれを活用した企業診断について、概要を述べさせていただきます。

2.食品製造業信頼性評価基準の概要
(1)食品製造業信頼性評価基準の必要性
 食品は人の生命を支えているものです。そのため、食品の購入に対する顧客の評価は非常に厳しいものがあります。過去においても、食品安全上の問題を起こした大手企業が顧客の信頼を失い、存続にかかわるような事態に追い込まれた事例も発生しています。
 食品製造に関しては、衛生管理や品質保証の観点からHACCPなどの管理システムが存在しています。しかしながら、安全・安心な食品およびそれを提供する企業として顧客から信頼されるには、HACCPによる衛生管理やトレーサビリティによる管理システムだけでは不十分であり、経営全体の質を高めることが必要です。
 「顧客満足」を経営の基本原則として位置付けている企業が多くあります。しかしながら、「顧客が満足している」ということは、「顧客は不満ではない」ということと同等の場合がほとんどで、ぜひ買いたい、ぜひ取引したいというレベルではありません。「顧客から信頼されている」ということは、それとは大きく異なります。購入する商品(食品)について、顧客の「満足度」と「信頼度」の違いを比較すると、
 「顧客がその商品に満足している」:機会があればその商品を買っても良い
 「顧客がその商品を信頼している」:その商品を必ず買うことにしている
の違いがあります。食品企業が存続してゆくためには、当然ながら、顧客からの信頼度を向上させるべく経営を行っていく必要があります。
 食品製造業信頼性評価基準は、その企業が顧客からどの程度の信頼性が得られる経営が行われているかを経営全般について評価する基準です。この基準をもとに評価を行うことにより、企業が顧客からの信頼性を高めるにはどのような改善をしなければならないかが明確になります。
(2)食品製造業信頼性評価基準の概要
 食品企業の場合、安全・安心な商品を提供することが、顧客からの信頼を得る最大の要因となります。その実現のためには、関連する多くの管理要素があり、それらを「信頼性評価基準」のチェック項目の中に組み入れました。
 このようなチェック項目について、6つのカテゴリー(大項目)に分類し、さらに大項目毎に10のチェック項目を整理し、計60のチェック項目を整備しました。 

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 以下はそのチェック項目の例です。

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 また、各チェック項目については、別途チェック項目の評価の手引きを作成して、評点者毎のものさしを、できる限り統一するようにしました。

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 診断の際には、各チェック項目について評価の上1~5点の評点をつけます。なお、評点を行う上でのガイドラインを次のように取り決めました。これは評点者の実績、経験による評点の食い違いを極力さけるためのものです。

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 評価結果は、6角形レーダーチャートにプロットして強み・弱みを明確にします。

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3.食品製造業信頼性評価基準を使った企業診断

 食品製造業信頼性評価基準は次のような場面で使用します。

 ・中小企業診断士が食品製造業の経営者、経営幹部や一般社員から現状を聴取し、対象企業の信頼性について診断・支援を行う場面。

 ・中小企業診断士がセミナー・スタイルで講義をしながら、食品製造業の社員に自社の信頼性について自己診断をしてもらい、改善すべきテーマを導かせるような場面。あるいは、公開された食品製造業信頼性評価基準を使って、企業自らが自己評価を行う場面。

 診断にあたっては、当然ながら事前に企業の経営者に当診断の主旨や目的、評価項目と評価方法等について説明し、診断のご要望をいただき、かつ経営関連の資料提出やヒヤリング等のご協力が得られることが前提になります。
 中小企業診断士が食品製造業の信頼性のレベルを診断し、その結果にもとづいて信頼性向上の提言・支援を行う際の手順は以下のようになります。
 ⑴ 支援の都度チームメンバーを編成(3~6名)し、総合評価の6つの大項目を担当するカテゴリー・オーナーを決定します。
 ⑵ 企業から提出された資料他によって診断企業の内容を把握するとともに、業界動向などを予備調査します。
 ⑶ 予備調査結果より信頼性評価における重点事項や留意点を抽出します。
 ⑷ 企業を訪問して、経営者や経営幹部他からヒヤリング(質疑・応答)を行うと共に、製造現場や倉庫などを拝見し調査します。なお、各大項目のヒヤリングについては、それぞれのカテゴリー・オーナーが中心になって行います。
 ⑸ チームメンバーは各自全項目について評点を付けます。評点結果については、全員で討議の上、チームとしての評点を決定します。評点結果は、個別評価結果報告書にまとめるとともに6角形レーダーチャートにプロットします。
 ⑹ 高得点の項目(企業の強み)と低得点の項目(企業の弱み)を明確にした上で、改善すべき課題を明確にします。
 ⑺ 抽出された課題について、重点度・優先順位を明確にした上で、改善提案を記述した改善提案報告書を作成します。
 ⑻ 経営者や経営幹部に個別評価結果報告書および改善提案報告書に沿って診断結果を報告し、企業側の改善提案に対する意見と今後の取組みについての意向を聴き、必要に応じて助言します。また、企業の希望に沿って継続支援に発展させます。

4.食品製造業信頼性評価基準を使った企業診断の事例と今後の課題
(1)企業診断の事例
 当研究会では、食品製造業信頼性評価基準を使用した企業診断を実施しており、企業から診断実務ポイントもいただいています。詳細については、守秘義務がありますので報告できませんが、診断を行った企業の経営者からは、大変喜ばれております。

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(2)今後の課題

 当評価基準につきましては、以下のような課題も明確になって参りました。
 ① 外部環境の変化に伴い、食品企業の信頼性に対する顧客の要求事項も変わってきており、個別チェック項目の見直しが必要
 ② 一部の個別チェック項目間に類似性があるため、大項目とチェック項目内容の見直しが必要
 ③ 財務的視点に関する評価軸が弱いため項目追加が必要
 ④ 飲食店などの業態向けの信頼性評価基準については、別途定めることが必要
 このため、当研究会では今後当評価基準の見直し等を図り、よりブラッシュアップしたものとしてゆきたいと考えています。合わせて、当評価基準のPRをすすめ、より積極的な活用を図って参りたいと思います。
    
5.おわりに(食品業界研究会の活動状況)
 当研究会では、毎月の例会において会員の研究成果の発表や外部講師を招いた勉強会を行なっています。2016年2月にはオープンセミナー「いま、改めてフード・マイレージと地産地消を考える」も開催いたしました。また、食品関連工場や農商工連携・6次産業化の現場見学会、雑誌寄稿(「企業診断」や「企業診断ニュース」)なども実施するとともに、随時分科会を設置して、より専門分野の研究を行っています。
 最近の主な分科会活動としては、
 ・「タイ王国進出食品製造業の現地視察研究」(2013年)
 ・「イノベーション東北」に参加(2014年)
  「東北某食品卸企業のネットショップ構築支援」を行い、東京協会が主催する「活動成果プレゼンコンペ大会」にて成果発表
 ・「台湾進出食品企業の現地視察研究」(2016年)
 ・「某レストランの経営診断」(2016年)
などを実施しています。

◎食品業界研究会月例会開催場所:久松町区民館(中央区日本橋久松町1-2)
◎食品業界研究会月例会開催日時:原則 毎月第2水曜日(18:30~20:30)

【 食品業界研究会ホームページ : http://www.f-consul.jp/】

2016.09.28
中小企業・個人が起こす「スローファッション」のイノベーションと、中小企業診断士の新たな役割

中小企業・個人が起こす「スローファッション」のイノベーションと、中小企業診断士の新たな役割

ファッションビジネス研究会 会員 坪井 竜之介
ryunosuke.tsuboi@gmail.com

【はじめに】
 ファッションビジネス研究会は、平成17年(2005)発足以来、月1回の例会で活動し続けている。当時、中小企業診断士にはアパレル・繊維産業の出身者が少なく、中小企業診断士にとって有用なアパレルビジネス・モデルの理解・認識を拡げたいという研究会代表今宿博史の想いが出発点である。
 アパレル・繊維産業は、雁行型経済発展による変化の波を先頭で被り、その経済環境は厳しい。一方で世の中の「気分」の変化が最も早く現象化する文化産業であり、「モノからコトへ」経済のサービス化の先端にあって機会創出が常に続いている。すなわち、課題先進産業にしてイノベーション先端産業である。ファッションの視点で継続的に現場を見続けることは、あらゆる業種・業界において活用可能・重要であると考えるゆえんである。しかしながら、変化の中にあって先見性を持つ企業が次代の役割を創造するも、近年ますます加速する変化に追いつけず立ちすくむ従来型企業が多いのも事実である。
 ゆえに中小企業診断士の役割は重要となっている。当会は「現場力」をキーワードに、会員による日常活動、および姉妹関係の中央支部認定マスターコースである「ファッションビジネス・リデザイン支援マスターコース」における実務従事での「実践」を出口として活動を推進している。以下ではまず、(1)アパレルビジネスを支える繊維企業にして地域経済を構成する産地企業、(2)先細りの経営環境から抜け出し反転攻勢の道を模索するアパレル企業、(3)新しい価値観とビジネスモデルを組み合わせファッションビジネスに挑戦している新興企業の3つの形態のビジネスの事例を紹介する。

【事例研究】
(1)資源の限られた産地企業の選択と集中の事例
 S社は、身の丈にあった経営革新を続ける生地メーカー、すなわち機屋(はたや)である。産地自体、生地受注下請企業数は激減したものの、ここまで生き残った各社は自社主導によるメインビジネスの生地素材の受注が堅調で、跡取りへ代替わりをはたし能力・気力が充実している。S社の産地でいえば、気鋭の跡取り経営者が集まって染色・撚糸等のどの企業にも共通する工程は協同組合化し(協調領域)、機織や新たに取り組む最終製品企画・展開では各社の独自性を出す(競争領域)、すなわちオープンイノベーションの手法で価値創造の仕組みを現代的に最適化し、生み出した余力で新規事業を拡大している。
 機屋専業から最終製品企画・展開までの事業拡大では、これまでやったことが無い消費者アプローチが問題となる。S社では各種SNS等を通じた働きかけは、手間さえ割けばコストが掛からないということで経営者自身のコトバで非常に積極的に取り組んでいる。一方で資源が不足しノンコアであるEC(eコマース)・物流はアマゾンを活用するというメリハリの効いたネット利活用で成功した。

(2)産元商社主導でベテラン職人と若いクリエイターを巻き込む人的資源活用事例
 H社は、織物産地の産元商社でアパレル企業のOEM依存の先細りからの脱却を図るため、自社ブランドの商品企画・展開を目指している企業である。取組みの中心に若いブランド責任者を抜擢し、ネットを活用した認知度向上活動などは無論のこと、地域の職人の巻き込みと意識改革に取り組み、都会の若いクリエイターの呼び込みなど、人的資源の充実・成長に力を注いでいることが特徴である。産地においてはこれまでの成功体験の残照による強固な保守性向があり、これを変えていくには説得より行動、成功の実例をもって見せつける必要があった。しかし一度納得すれば、産地内の人的ネットワークにより一段と優れたスピード・パフォーマンス発揮している。このように産地で成立してきたシステムは、保守性という点で一見弱みに見えても、働きかけ次第ではポジティブな能力に転化する。総合力で勝る大企業と同質化競争・空中戦をする愚に陥らず差異化していくには、潜在する現場力の発揮がカギとなる。

(3)フェアトレード×B2B×受注生産という新しいビジネスモデル構築事例
 I社は、他の先進国に比べまだ市場が小さく、ゆえに拡大余地の大きいフェアトレードの可能性に着目し、B2Bと受注生産を組み合わせた、まったく新しいビジネスモデルを立ち上げた新興企業である。バングラデシュの縫製工場ビル「ラナ・プラザ」崩壊事故で縫製現場の劣悪な労働環境が批判を浴びて以来、低賃金国生産の恩恵を受けてきた世界の大手アパレルは急速にフェアトレードに舵を切っている。大手企業の取引が低コスト・大規模生産であるのに対し、小規模企業は多品種生産となり、高コストで在庫問題も重い。これに対しI社のイノベーションのポイントは、出口をB2Bとしノベルティを含む企業CSR向けOEM商品を受注生産で納めるビジネスモデルとしたことである。受注生産にしたことで規模と在庫にまつわる数々の問題が解決できる上、ビジネスをスケールさせやすいメリットが生まれている。

(4)「つながりビジネス」の成功事例を分析する
 当会が研究してきた挑戦する中小企業各社は、社長ないし取り組みの中心的推進者自身が「コト」の媒体であった。顧客は、経営者の強い想い・生き様を商品・サービスの消費を通じ再体験するのである。顧客自身が次なる媒体となり、SNS・サイバー空間を通じ従来の口コミよりずっと高速・感染的に広がるようになってきた。「つながりビジネス」である。 当会では上記I社の研究を契機に、コンテンツとインタラクションの両方を記述でき、強み・課題を浮かび上がらせる新しいモデル化手法を「コ・マーケティング・ピラミッド」と命名・研究している。カギになるのは、当企業あるいはby nameの社長自身が表現する価値観・ライフスタイルである。

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【ファッションビジネス研究会による長期仮説】
 当会が研究してきた新しいファッションビジネスの事例から研究蓄積を高める一方で、業界先端のトレンド・ウォッチャー、トレンド・セッターを招き、過去の振り返り、今後のトレンドを定期的に議論してきた。その中でファッションビジネスの大潮流のこれまでを歴史的・経済的に説明し、今後を予測する長期仮説を「V仮説」と命名し構築してきた。

(1)繊維産業からアパレル産業への転換
 今日のアパレルメーカーはかつて百貨店を主要ターゲットとする「衣料問屋」であった。百貨店で販売される婦人服・紳士服類は、生地(テキスタイル)販売が主力であり、既製服は"つるし"と呼ばれる安物であった。購入した生地は自分自身で縫製するか、近所の家内工業的な「仕立屋」「テーラー」に縫製委託していたのである。
 繊維産業は素材中心に戦前・戦後を通じて日本の基幹産業・輸出産業であったが、昭和40年代、対米輸出が沖縄返還に絡む交渉によって規制・圧迫された。これに対し通産省は米国視察チームを派遣し「アパレル(衣料品)」と言われる業界が素材メーカーを遥かに超える規模となっていることを確認、国内アパレル市場の育成・拡大を目標に据えた。急速に成長する量販店(GMS)チェーンの追い上げを受けていた百貨店も、衣料問屋が取り組みはじめた海外有力ブランドのライセンス商品を採用・展開した。こうして衣料問屋はアパレルメーカーへ、生地は既製服へと業界が転換した。特に婦人服の既製服化進行は消費を大きく広げ、名だたる大手アパレルメーカーや小売の専門店チェーンを誕生させ、大手アパレルメーカーは直営店にも販路を広げていった(SPA化)。こうした量的成長が続く中で、小売起点・編集による妙を追求するセレクトショップ、製造起点のDCブランドが生まれ、ファッションビルも隆盛し、質も多様化した。しかし雁行型経済発展の原理により海外で軽工業たるアパレル・繊維産業が勃興すると、日本国内における輸入浸透率は着実に高まっていった。

(2)アパレル産業におけるグローバル化の進展とスローファッションの萌芽
 決定的な転機は冷戦終結であった。中国改革開放等による安価な労働力の大量供給と世界的コンテナ物流網整備を越境する資本が利用した。低賃金国での大規模生産を武器に、価格破壊力のある新しいSPAが登場し、トレンド商品を迅速・安価に供給できる欧米の有力FF(ファストファッション)が上陸した。わが国はバブル崩壊および人口減・高齢化・増税による長期経済停滞にも追い討ちをかけられ、20世紀型企業となった百貨店・量販店・専門店の後進性が一気にアパレル産業を衰退させるに至った。バリュー消費化は仕掛けた側をも飲み込み市場縮小が止まらない。伸びているのはECだけである。慢性的オーバーストア、そしてイノベーション無き多品種化・流行追いがプロパー消化率低下(バーゲン比率拡大)を招き業界全体を疲弊させている。
 
 飽和と同質化の消耗戦にあるこれらを従来の経済圏とすれば、同質化されたくない生産者と消費者がネットで直接繋がり、生産者・消費者の壁を越え「協創」し、大企業の流通構造支配力が及ばぬ新しい経済圏を形成する動きが出始めている。古くはA.トフラーの「第三の波」(1980年)、近年ではT.フリードマンの「フラット化する世界」(2005年)で予測されていた流れであり、生産者と消費者が再び接近し消費者が生産者・販売者にもなる。また個人がネットをテコに直接世界に進出できる状況の出現である。
 同質化を脱しイノベーションが生まれるカギは、「売らんかな」発想の対極、多様な「1人称の趣味性・こだわり・物語」にあり、顔の見える中小企業や個人がその担い手になる。その価値観は流行追い・同質化のマスマーケティングの対極として、地域と伝統(コミュニティ)・サスティナブル・社会貢献(ソーシャル)・スピリチュアル等による、共感・つながり・心に刺さる(エンゲージメント)といった特徴を有する。あえて一言でまとめてみると、スローファッションとでも呼べるだろう。

(3)「ファッションテック」と「オンデマンド生産」がイノベーションを後押しする
 中小企業や個人が担うスローファッションを技術革新が後押しするとファッションビジネス研究会は予測している。技術革新の柱の1つは従来の流通構造の外で新しいつながりを作るITである。○○×IT=○○テック、つまりファッションテックと呼べるが、従来のITやECの文脈をはるかに超える「IoT(Internet of Things)・AI(人工知能)による革新」になると当会は考えている。ハンドメイドやC2Cにより無数の消費者が無数の生産者・販売者にもなり得る状況に対し、ECによって個人が市場に参入するだけなら容易になった。ボトルネックは「無数の生産・販売者×無数の消費者」をうまく結びつけることである。これをブレークスルーするのがAIとなる。現在の商品検索は人が入力した商品名・説明文等に依っているが、画像を認識し分類・意味付けするAIによってマッチングされるようになるだろう。認識能力を獲得したAIはトレンドのサーベイ、デザイン・クリエイションにも応用されることは必至で、ファッションビジネスに限らず巨大なインパクトをもたらすと考えられる。
 ファッションテックが作る新しいつながりにより「売り切りからサービス化へ」シェア&レンタルも進む。ファッションは生産・販売側が新奇性・流行を仕掛けることで必需をはるかに上回る消費を喚起してきた。しかしながら多品種化で目先を変えれば畢竟在庫の問題が難しくなり、それを消費者に負わせるのは矛盾である。消費者は着たいのであって保管したいのではない。シェア&レンタルで在庫のリスクを解決すれば在庫負担によって諦めていた新しい「コト消費」が喚起されるだろう。そもそも不確実性プールの原理により川上に在庫するほど経済的だというのがシェア&レンタルである。C2Cによるリユースも消費者の在庫リスクを軽減し「消費者の仕入予算」を回復させる助けになる。上記のような特徴を備えるファッションテックのサービスはすでにはじまり、発展しつつある。
 
 もう1つの技術革新の柱が、これまで低賃金国・大規模生産・大規模販売網で築かれた大企業優位を揺るがすオンデマンド生産技術である。その主役はロボットと3Dプリンタになる。縫製は人間でしかできない、ゆえに低賃金国が優位であるという制約は、いずれこれらの技術で破られる。ニットの方であればそもそも20年以上も前から糸から1着編みができる編機が実用化されている。当会が研究した産地企業の事例ではいずれも販路問題と並び在庫問題がボトルネックであったが、もし受注生産にできれば在庫問題は大きく解消しパーソナライズでも圧倒的に有利である。すなわちオンデマンド生産技術とは、消費者近接・小ロット生産がコスト面・販売面では劣位を縮小し、物流・在庫面および顧客ニーズ適合面では大きく優位に立つ可能性を拓くものである。
 オンデマンド生産技術はファッションテックで予想される供給ボトルネックの解決にも貢献するだろう。顔が見える生産者にファンが付くファッションは他のシェアビジネスと異なる。人気が出た場合需要がスケールする速度はネットのそれだが、生産は簡単にスケールしない。従来の繊維産業は長いサプライチェーンが仇となり需要即応が難しかったが、オンデマンド生産技術はセル生産的なスケーラビリティを確保しやすい。「買いたいものが買えない市場」となって信頼を落とさないようにするには、このような課題解決も重要である。
 
(4)中小企業診断士が高めるべき資質・要件
6p-図.jpg スローファッションがイノベーションを興すという文脈にあって、中小企業診断士には新たな機会・役割が出現すると思われる。中小ファッションビジネス向けのデジタル技術活用支援、ファッション×コミュニティ/ソーシャルビジネスの立上げ支援、異業種コラボの実現支援などである。このような機会・役割が要求するであろう戦略企画・戦術構築能力は非常に幅広い。1人の中小企業診断士でカバーすることや、中小企業の側から複数のアドバイザーをセレクトし使いこなすのは困難である。ワンストップで支援をおこなうにはファッションビジネスとテクノロジーの多くのタレントを結集させる必要がある。「V仮説」ではこのためにチームコンサルティングの技術向上、タレント結集方法としての企業内診断士の活用、付随する課題として診断業務そのものの生産性向上の必要性を予測している。

【おわりに】
 ファッションは時代の風をもっとも速く受ける。ファッションビジネス研究会は今や一線のファッションビジネスコンサルタントやアパレル業界に身を置く企業内診断士が多く集まるほか、ファッションビジネスの先進性に着目し異業種からも多くの参加がある。「V仮説」も異業種出身の診断士が中核となって研究を進めた。月に1回、銀座の東京協会会議室で例会をおこない、挑戦する経営者を招いての企業研究と、業界紙編集者・ファッションマーケティング専門家による業界動向定期解説も好評である。東京協会のホームページに案内が掲載されているので、関心を持たれた方は参加歓迎、ぜひコンタクトをとっていただきたい。

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2016.08.29
住宅産業経営支援研究会 ~「作る人」と「住む人」の架け橋に!~

住宅産業経営支援研究会 ~「作る人」と「住む人」の架け橋に!~

住宅産業経営支援研究会 代表幹事 飯島 康

 住宅産業経営支援研究会は、会則に「住宅産業経営に関心を持つ中小企業診断士が、・・・」と明記されている通り、住宅メーカー、建材メーカー、金融機関等の出身者から「自称 消費者代表」まで、住宅に関心を持つ多士、多才な中小企業診断士の集まりである。  今回は、東京都中小企業診断士協会認定研究会として、住宅建設に携わる中小企業(作る人)、或は、生活者(住む人)にどのような支援ができるかの考察の報告である。  具体的には、研究会・研究会会員の企業支援事例を「提言書」という形でまとめ、今後、研究会活動を展開するツールと位置付けるとともに、研究会そのものを知ってもらうための準備を行い、何とか外部へ展開が図るまでになってきた、そんな足跡をまとめたものである。

Ⅰ.住宅産業界と研究会:「作る人」と「住む人」との架け橋  私たち研究会のコンセプトは「『住む人』と『作る人』との架け橋」である。これを簡単に図式化すると下図のようになる。生活者「住む人」の家に対する想いを、住宅建設に携わる多くの人達「作る人」にいかに伝え、経営に役立てていくかの架け橋である。 1p図.jpg

 双方の理解者として当研究会が仲介役となり、中小工務店等への経営的視点での支援を行っていきたいとの想いである。  このような構造から、住宅産業は「すそ野が広い」「経済への波及効果が大きい」と言われている。また、一生に一度、手に入れられるかどうかの「住宅購入」に際して、「住む人」が、多くの「作る人」を相手にするには、あまりに範囲が広すぎることから、これらのまとめ役として、工務店・建設会社等があり、更に、建設業者は許可業種として行政の管理下に置かれているのである。  ここでは、「作る人」のまとめ役を総称して「地域の工務店」と呼んでいる。 *対象とする「地域の工務店」の規模等 近年の住宅産業市場の縮小、ストックからフローへの流れ、地域工務店の経営の実態等から、当研究会が対象としている地域の工務店のイメージは下記のとおりである。  売上高1~5億円程度、社員数3~10名程度、新築工事+リフォーム工事

Ⅱ.研究会活動の状況 1.研究会の現状 (1)研究会の発足と会員数(多様な出身業界)  当研究会は、同じ東京都中小企業診断士協会の「建設業経営研究会」に準備委員会が置かれ、平成10年に独立したもので、いわば親子のような関係で、現在も両方の研究会に所属している会員もいるが、研究会活動としては独立した研究会活動を行っている。  会員数は、H28年5月(研究会総会)時点で22名である。  内訳は、住宅産業に特化した研究会ではあるが、先の業界の特性から、  住宅メーカー・建設会社:5名、建材メーカー・商社:4名、IT関係:3名、  不動産関係:2名、金融保険機関等:4名、その他:4名(計22人)となっている。 (2)定例会活動  平成27年度の活動状況は以下のとおりである。

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2.これまでの実績と反省  今回の活動報告の前に、これまでの外部への活動を整理してみた。 (1)研究会としての外部活動 ・研究会の仲間で作り上げた活動:執筆~書籍出版「工務店のQ&A(井上書房)」 ・会員個人への業務だったものを研究会の仲間で支援した事業  *工務店支援:工務店創業支援1件、完成見学会支援1件  *建設専門職育成学校支援:セミナー講師:延20名程度  *業界データ整理支援:業界動向レポート:延50編程度  こうした支援活動を踏まえ、平成20年にLLPの立ち上げを行う。 (2)研究会としての「LLP住宅産業経営支援協議会」の設立と解散  前述のような研究会による企業への支援実績も踏まえ、平成20年6月に、支援活動が可能な研究会所属のプロコン会員7名が理事となり、「LLP住宅産業経営支援協議会」を立ちあげた。また、研究会の他のメンバーは後方支援として、LLPが支援依頼を受けた際にはデータ収集等の役割を担うとしての体制である。誰もが、これからの活発な展開を疑ってはいなかった。  しかし、残念ながら、3年間目立った成果があげられないなか、中心となっていた理事長の病死という、思ってもいなかった事態によりLLPは解散せざるをえなかった。  この時の反省としては、企業支援のスキルを持った会員はいるが、LLPとしてスキルを生かす市場を探し出す活動、いわば営業活動への対応が甘かったと考えている。  こんな例を聞いたことがある。ある研究会でセミナーを開催したが、初回は、会員の顧問先にお願いをし、セミナーに参加していただき、大盛況であった。2回目は、新たな顧問先も先細り、参加企業様は半減し、3回目は・・・、である。  このような事例をこの紙面で報告すること自体「いかがなものか!」とおしかりを受けそうであるが、この体験が、次に紹介する研究会の外部支援へのアプローチ方法に何らかの影響を与えていると考えられていることから、あえて紹介させていただいた。

Ⅲ.研究会の新たな取り組み 1.「提言書 地域工務店の受注の方程式」の作成  外部活動に向けての新たな模索を開始した。それが今回の報告の内容である。 (1)研究会の営業ツールとしての提言書作成:「作る人」と「住む人」との掛け橋  LLP活動への反省、また、研究会として新たな外部活動を模索する中で、「研究会のことを知ってもらうにはどうしたらよいのか」がテーマとなり、模索する中で、工務店向けに何らかの提言書を作り、これを営業ツールにしたらどうかとの案が浮上してきた。  同じころ、定例会での「会員からの報告」の中で、お客様のコンサルタントへのニーズの1つとして「不安」「不満」「不信」等の「不」をどのように解消してあげるかがあるとの報告があった。 3p図.jpg

 このことをヒントに、また、研究会の方針である「作る人」と「住む人」との架け橋を念頭に、提言書の主旨として、「住む人」が家を作るにあたっての「不安・不満・不信」は何か? 特に、不良業者、手抜き工事等、時折、新聞紙上を騒がす建設業者への不信感を持つ「住む人」が、地域の工務店に安心して家づくりの相談に来ていただくには、工務店としてどのような対応をすればよいのか。「作る人」である工務店の受注に結びつくヒント集的なものができないかとのこととなった。まさに「作る人」と「住む人」とのかけ橋である。これが「提言書 地域工務店の受注の方程式」となったのである。 (2)「住む人」の不安・不満等を「作る人」が解消することへの「系統図」

・基本的な考え方  提言内容を検討するにあたり、研究会で以下のような基本的な考え方を確認した。

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・「事業の流れ」と工務店の対応のポイント  前記の流れに沿って、「作る人」が「住む人」の不安等を解消し、信頼を得るにはどうしたら良いのかを、「設計段階~施工段階~生活段階の流れ」に沿って検討した。  系統図の流れは下図の通りである。

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ⅰ.「計画段階」での不安解消:安心して相談ができる工務店になるには? A.自社のことを知ってもらう提案3件   B.顧客のニーズ・イメージを把握する提案3件 C.技術力・施工能力の見える化を図る提案4件  D.見積もりの見える化を図る提案3件 ⅱ.「施工段階」での不安解消:気に入った家を作ってくれるか  A.施工状況の見える化を図る提案3件   B.顧客対応力の見える化を図る提案5件 ⅲ.「生活段階」での不安解消:住んでからの不具合が発生しないか  A.フォロー体制の整理を図る提案5件               【全26提案】

 少し見にくいが、系統図の抜粋を下図に示す。

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(3)提言の原稿作成  この骨組みができた段階で、「対応のポイント」に相応しい提言タイトルを募集し、各ポイントに3~5項目を割り振り、改めて執筆の希望を募った。この際、企業支援の経験、企業からの情報、研究会での工務店見学等、具体的な事例を織り込んでの提言を依頼した。 *提言の構成:1.提言の背景、2.具体的な取り組み、3.期待される効果 *提言内容:イベントの開催、ライフスタイルへの提案、原価の把握が基本、       施工管理のポイント、住宅ローンの考え方、従業員のコミュニケーション 等々の26提案で、ほぼ全会員参加の44頁の小冊子である。当研究会の今後の外部活動に向けた営業ツール的な資料であり、地域工務店へのアプローチのツールになるものである。  正式名称は、下記の通りとした。  「提言書 地域工務店の受注の方程式 ~信頼され選ばれる工務店になるためのヒント集~」

2.会員の調査と研究会パンフレットの作成  営業ツールができたことから、早速、当研究会のメンバーと関係のある建設業関連の団体にお持ちし、研究会の紹介と提言書の説明を行った。「このような資料は初めて」との関心は持っていただいたが、「どのような方がいて、どんなことをされている研究会ですか?」とのきわめて単純、明解な質問をいただき、とまどってしまった。対面している中ではいくらでも説明はできるが、たとえば、この団体を通して工務店等への紹介をお願いする場合、仲介をお願いする団体の方に当研究会を紹介していただく資料がなかったのである。  恥ずかしい限りであった。スプリングフォーラムで診断士の仲間を募るパンフレットはずいぶん前に作成し、活用しているが、地域の工務店等へ紹介するパンフレットはなかったのである。 (1)会員の得意分野の調査  早速、研究会内にアンケート調査委員会を立ち上げ、会員の得意分野や研究会に何を求めて入会をしたか、更に、外部への支援、働きかけ等を行う場合に、対応する時間等が取れるか、等のアンケートを行った。  先の研究会会員の構成にも示すとおり、研究会には、住宅産業をめぐるさまざまな分野の仲間が集まっているが、入会時の簡単な「自己紹介書」の他には、ことさら得意分野(企業支援・セミナー等への対応のできる分野)を改めて確認したことはなかった。  全員へのアンケートにより得意分野を確認した結果が、次のとおりである。  ⅰ.経営方針等の作成への支援   *事業計画の作成支援 *経営革新計画の作成支援 *企業統合の支援等  ⅱ.社内組織強化への支援   *業務改善・IT活用支援 *施工管理・従業員育成支援 *予算管理の支援等  ⅲ.市場拡大への支援   *販路開拓・顧客管理支援、*公的支援・住宅ローン対応、*リフォーム相談等  また、ピンポイントの対応として「太陽光発電への対応」や「フラット35の活用への指導」等、実に多彩なメンバーがいることが分かる。 (2)研究会紹介パンフレットの作成:クラウドワークスの活用  会員の状況を把握した後、これらを生かしてのパンフレット作りが始まった。  「『住む人』と『作る人』の架け橋になりたい」をコンセプトに、会員募集用のパンフレットを参考に、今回作成した「提言書 地域工務店の受注の方程式」をプレゼントに、「こんな支援ができます」との素案を作成した。会員間で2か月程度検討したが、文言の整理はできても全体のレイアウト・デザイン等はうまくまとまらない中、会員の提案で「クラウドワークス」の活用を試みた。  依頼を行うと2週間で8件の応募があった。同じ依頼資料から、ここまでの種々のデザインに展開されるのかと驚かされた。創造の世界の多様さ・奥深さに感心し、また、参考になった。完成したパンフレットを示す。6p図.jpg

3.今後の展開に向けて  「提言書の整備」、「会員の得意分野の確認」、「研究会パンフレット」の整備ができたところで、改めて、今年度、外部へ向けた活動を行うためのプロジェクトを立ちあげた。  「仮称 受注の方程式活用プロジェクト」である。HPの担当者を含め5人のメンバーである。今までほとんど活用されてこなかったHPを有効に活用し、研究会会員全員が後方支援を行うことを踏まえての、具体的な対応を検討するものである。

(1)研究会の当面の方向性 ❖対象市場:地域工務店、住宅専門工事業者  代替市場:研究会の既存関係団体・企業等       住宅産業関係団体、商工会、商工会議所等 ❖支援形式:個別企業支援:経営改善・人材育成等の個別の企業を対象とした支援       グループ支援:講演会・セミナー等による企業経営者・従業員研修等 ❖支援分野:経営方針作成、業務・現場管理の改善による利益確保、資金繰り管理等 ❖紹介ツール:研究会パンフレット、「提言書 地域工務店の受注の方程式」  ❖具体的活動方針:  ◦地域工務店へ直接アプローチをかけていく手法は、実際には、会員の関係工務店や飛び込み営業的なものとなり、限られた範囲での対応しかできず継続的な関係維持も難しいことは、過去の事例からも学んだところである。このため、代替市場として、各会員が関係する住宅関係機関を代替市場と考えアプローチを行い、更にはこれらの機関から工務店や建設業団体等を紹介していただく手法を検討している。

 ◦「作る人」への支援を通し「住む人」の支援を   「作る人」が抱いている家づくりへの「不安」をどのように「信頼」に変えていったら良いのかを、「作る人」との仲介ツールである「提言書 地域工務店の受注の方程式」を通して我々研究会のことを知ってもらい、我々を有効に活用してもらうことが、「作る人」への支援になると同時に、研究会のレベルアップにつながると信じての活動である。研究会としての収益にこだわるものではなく、「生きた支援」を通して、住宅産業界の実態に触れられるとともに、「住む人」にとってより魅力ある「作る人」になっていただく支援ができればと思っている。

(2)研究会としての支援の社会的な責任について  研究会としての活動が、「作る人」に対してどこまで責任を担保しての支援が可能なのか。  研究会としては「研究」だが、企業としては実態のある「事業」である。このため、研究会は、あくまでも企業経営への後方支援、アドバイザーであるといえる。  とは言え、中小企業診断士の資格そのものは、公的なコンサルタントの資格であり、当研究会も改めてLLPやNPOという形での企業支援の方法もあるのではとも考えている。  研究会グループの総合力を結集し、中小の地域工務店がより元気になる活動を支援し、地域の自然環境、社会環境にあった、人々の安心、安全、快適な住空間を創造するお手伝いができたらと切望している。

2016.07.28
フランチャイズマニュアルの重要性と作成、管理・活用のポイント

フランチャイズ研究会 幹事 高木 仁

takagi.hitoshi@kernel-c.com

はじめに

 フランチャイズビジネスにおいてマニュアルは非常に重要なものである。提供する商品やサービスの品質を一定のレベルに保つためのものであると同時に、フランチャイズ本部の「商品」を象徴するものでもあるからだ。しかし、そのマニュアルを作成するためのノウハウについて体系的に整理されているものがなかった。

 そこで当研究会では、2年に渡りフランチャイズマニュアルの作成についての研究を行った。1年目は当研究会のメンバーが本部構築の支援を行っている企業へ実際に出向き、全部で約140頁に及ぶフランチャイズマニュアル一式を作成した。2年目は1年目の実践を元に、フランチャイズマニュアルの作成ノウハウを体系化し、「フランチャイズマニュアル作成ガイド」(同友館)として商業出版した。

 

 本稿では、フランチャイズビジネスにおけるマニュアルの重要性、作成方法、作成後の管理・活用方法について、実際のマニュアルの作成例も含めて紹介する。

 

1.フランチャイズ本部にとってのマニュアルとは「経営ノウハウ」を具象化したもの

(1)マニュアルの意義

 マニュアル作成の最大の目的は、提供する商品やサービスの品質を一定のレベルに保つためである。共通のブランドを使用してチェーンビジネスを展開する場合、商品を作る人やサービスを提供する人が異なっても一定で同質の商品やサービスを提供しなければ、ブランド価値が高まらない。

 マニュアルによってオペレーションを標準化することで、商品やサービスを提供するまでのプロセスでのバラツキがなくなってくる。そして、「あのチェーンに行けば、大体このくらいの商品やサービスが受けられる」という、顧客の安心感を得るようなオペレーションを目指さなければならない。ブランドには大きく分けて「出所表示機能・品質保証機能・広告宣伝機能」という3つの機能があるが、マニュアル作成はこの中の「品質保証機能」を担保するために必要不可欠なタスクである。

 また、企業のコンプライアンスという観点からもマニュアルは重要なものとなる。事業責任者の悪意による不祥事を防止するのはもちろんのこと、無意識による過誤を避けるためにも、事業責任者の責任範囲や、業務内容を明確にする必要がある。そのため、これらを明確に規定した管理マニュアルという形で整備する必要がある。

 さらに、マニュアルは作成して終わりではなく、活用されることに意義がある。事務所のキャビネットに置かれているだけでは意味がなく、新しいスタッフの研修のテキストとして活用するとか、店舗や現場でオペレーションをチェックする際の指標とするなど、実際に活用されなければならない。

 

(2)フランチャイズビジネスのしくみ

 フランチャイズビジネスのしくみについて確認する(図表1)。

 本部から加盟者に対してはフランチャイズパッケージが提供される。フランチャイズパッケージには、「商標の継続的使用の許可」「経営ノウハウの提供」「継続的な経営・運営指導」などが含まれる。そして、加盟者はこのパッケージの見返りとして、本部に対価(加盟金、ロイヤルティなど)を支払うことになる。

 ここでいう「経営ノウハウの提供」とは、「フランチャイズ本部が持つ経営ノウハウの集大成」を形にした「マニュアル」を加盟者に渡す行為である。そして、この「マニュアル」を使ってノウハウを定着させる「研修」の実施が行われる。さらに、マニュアルをベースにした「継続的な経営・運営指導」が行われることになる。

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図表1 フランチャイズビジネスのしくみ

(3)フランチャイズビジネスにおけるマニュアル

 フランチャイズ本部がフランチャイズパッケージを販売し、パッケージの継続的な運用を提供するビジネスであるという側面を考えれば、パッケージに含まれる「経営ノウハウ」は、フランチャイズ本部にとっての「商品」であり、それを具象化したものが「マニュアル」である。つまり、マニュアルは、フランチャイズ本部の「商品」を象徴するものでもある。「商品」ということを考えれば、加盟金の金額に見合うノウハウを提供している根拠として、マニュアルが相応の質と量を具備していることが、フランチャイズ本部と加盟者との良好な関係を構築するうえでも重要な要件となる。

 また、フランチャイズビジネスにおいて、本部と加盟者は異なる事業体であり、それぞれの責任において事業を推進することになる。このとき、チェーン全体のコンプライアンスという観点からも、マニュアルは重要な意味を持つ。本部が何をマニュアルに規定しているかによって、違法行為の責任が本部にあるのか加盟者にあるのか解釈が分かれることがある。加盟店がマニュアルに違反して営業し、トラブル・違法行為などを起こした場合には、本部に責任はないとすることができる。一方、マニュアルがない、規定がされていない場合、加盟者が起こした問題であっても、本部の責任が問われる可能性も出てくる。

 

2.マニュアル作成の基本

(1)マニュアルの体系

 フランチャイズマニュアルの体系を図表2に示す。

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図表2 マニュアル体系

(2)作成のステップ

 マニュアルをいきなり作成することはできない。チェーンオペレーションに向けての取組みは、「標準化」→「システム化」→「マニュアル化」の順に進む。マニュアル作成に取りかかる前に、標準化やシステム化ができているかどうか確かめる必要がある。

 標準化とは、製造方法、調理方法、施術方法、接客方法など、チェーンの中で決められたルールや手順を確立することである。店舗や人によってやり方が違っては、チェーン全体の質を担保できないため、まずはオペレーションを標準化することから始める。また、100%オペレーションを標準化することは不可能なことであり、顧客満足度の視点から考えると顧客は応用的な20%のサービスに付加価値を感じるということからも、80%程度の割合で標準化することが妥当である。

 次の段階であるシステム化は「IT化する」という意味ではなく、しくみ化するあるいは段取り化することである。システム化は個々の作業レベルから始まり、しかる後、作業工程全体を取り扱う。標準化された作業レベルの各要素が、オペレーション全体の中で最適化されている状態がシステム化である。システム化による最大の効果は「ムダの排除」である。オペレーション全体をシステム化することで、人員の最適な配置や、在庫過多やロスの発生を抑制することができる。

 次にマニュアル化(作成)ということになる。作成ステップを図表3に示す。

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図表3 マニュアルの作成ステップ

(3)わかりやすいマニュアル

 実際に作成されるマニュアルはわかりやすくなければならない。

 わかりやすい文章で書くためのポイントとしては「ターゲットに合わせて書く」「簡潔な表現で書く」「表記のルールを統一する」などが挙げられる。内容がわかりやすいものであっても、読者が理解できる言葉で書かれていなければわかりやすい文章とは言えない。とりわけ、専門用語や業界用語の使い方には配慮が必要である。

 また、分かりやすいマニュアルを作成するためには、文章ばかりでなく写真やイラスト、フロー図や表などの図表を多く使うように構成する。文章による左脳への刺激に加えて、図表を使って右脳も刺激することで、脳への定着率を向上させる狙いがあるからである。

 図表について、基本マニュアルで使用するフロー図やマトリックス図などはデスクワークで作成できるが、オペレーションマニュアルで多用する写真やイラストには現場での取材やヒアリングが欠かせない。マニュアル作成を契機として現場に足繁く通うことで、業務改善の種を見つけることもある。

 さらに、ページのレイアウトも読みやすさを左右する要素である。読者に読むストレスを感じさせないためのポイントとしては、「要素を整列させる」「関係のある要素を近づける」「対比を強調する」などが挙げられる。

(4)マニュアルの作成例

 実際に作成したマニュアルの作成例を図表4に示す。

 現場の写真やイラスト、表などを多数用いてわかりやすく伝えることに留意している。また、見出しに背景をつけたり、本文とは別の書体を使ったりすることで目立たせるなど、読みたいところがすぐに見つかるように配慮している。

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図表4 マニュアルの作成例

3.マニュアルの管理と活用

(1)マニュアルの管理・メンテナンス

 マニュアルは「チェーンのノウハウの集合体」であり、大変重要なものである。当然、店舗にはマニュアルを安全に保管し、営業秘密として保全する義務がある。また、フランチャイズ展開しているチェーンの場合には、マニュアルは本部のノウハウの集大成であるとともに、フランチャイズシステムを象徴する重要なものである。フランチャイズ契約上では、加盟者に対して、営業秘密として保全する義務を課すことが通常である。

 外部環境の変化や顧客の変化、自社のシステムや商品構成の変化などにより、フランチャイズシステムは常に進化しており、システムとしてのノウハウを集約した存在であるマニュアルも進化し続けなければならない。チェーンとしての設備更新、商品基準、情報システム、サービス品質の基準、具体的なオペレーションの手順などが進化した場合、その内容を全ての店舗、オーナーとそこで働く従業員に一定期間内に伝え、実際の店舗でのオペレーションを変えてゆくという行動を起こさせるしくみが必要になる。

 

(2)マニュアルの活用方法

 マニュアルは作って終わりではなく、それを活用していくことが重要である。さらに、マニュアルは一部の担当者だけが活用していても意味がなく、オペレーションに関わる全員がマニュアルを活用し、マスターしていなければならない。

 せっかくマニュアルを作成したにも関わらず、活用できていなければオペレーションの標準化も進まず、店舗や人によって品質にバラつきが出てしまい、リスクの高い状況でオペレーションが行われることになる。たとえば、食品を扱うオペレーションにおいて、マニュアル通りに食材を扱っていない、機器の洗浄が行われていないなどが起きていれば、食中毒を起こすリスクが高まる。一人でも守らない人がいると、チェーン全体の存続を揺るがすほどの大事件へつながることもある。

 苦労して作成したマニュアルを活用し、結果を残すためには、活用するしくみづくりが必要である。しくみとしては、「すぐに見られる状態にする」「教育ツールにする」「チェックツールにする」などが挙げられる。

4.まとめ

 経営者がひとりで目を光らせて管理できるのは3店舗程度までである。3店舗以上の多店舗化を目指すのであれば、業種の別にかかわらず、オペレーションをある程度、標準化、システム化、マニュアル化していなければ、提供する商品・サービスの品質を一定に保つことはできない。また、フランチャイズビジネスにおいては、マニュアルは、フランチャイズ本部の「商品」を象徴するものでもあり、相応の質と量が求められる。

 さらに、マニュアルは作成して終わりではなく、その後の正しい管理、ビジネス変化に応じた改訂、現場での活用は必須であり、そのためのしくみづくりも重要である。

 参考文献

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フランチャイズ研究会 著『フランチャイズマニュアル作成ガイド』同友館

フランチャイズ研究会 著『フランチャイズ本部構築ガイドブック』同友館

フランチャイズ研究会について

 毎月の月例会に加え、分科会形式によるFCビジネスの研究、研究結果の書籍化、日経フランチャイズ・ショーにおける相談ブースの出展・セミナー講師の協力など、FCビジネスの健全な発展とノウハウ開発を目的とした実践的活動を行っている。

月例会:毎月第3木曜日 18:30~20:30

HP:http://fcken.com/

2016.06.30
経営革新が企業成長の基本

経営革新が企業成長の基本
-課題解決型の実務能力向上を目指して-

経営革新計画:実践支援研究会 日比 雅之

経営革新が企業成長の基本 課題解決型の実務能力向上を目指して

 経営革新計画:実践支援研究会(代表 小林 勇治)は、中小企業活動促進法に基づく「経営革新計画」を支援すると同時に、計画後のフォローを実践し、真に経営革新効果を高め、かつ中小企業診断士のビジネス創造に結びつけることができる実務能力の向上を目指すことを目的に平成20年に設立した。企業経営のイノベーションを通じて企業の継続と成長を支援するために研究し、実践をしている。

1.研究のテーマと研究活動
① 企業の成長は経営革新が基本
 企業の成長は経営革新をせずに存続は困難である。中小企業も企業経営は日常的に革新の必要がある。経営革新をしないと企業は衰退に向かうことは必然である。単なる承認支援ではない経営革新支援がすべての企業支援の基本であると考えている。    

② 経営革新承認支援はビジネスチャンス
 東京都の経営革新承認企業数が平成11年度から平成26年度までで6,672件となっている。(図表1)平成26年経済センサス基礎調査では東京都の全企業数179,867社あるが、これに対して東京都で経営革新計画が承認された企業数は約3.7%となる。ここにビジネス機会の可能性が存在している。

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③ 研究活動は中小企業基本法、診断協会、時代の要請に対応

 当研究会の発足時の経緯は以下のポイントとなった中小企業基本法の変化に対応をし、変化してきた。すなわち、中小企業の支援は民間の者として創造活動が求められ、当研究会の立ち上げと研究テーマが決定され、同時にビジネス創造の場の開発が必然となっていた。
法律改正の主なポイントは以下のとおりである。

 平成8年 中小企業診断制度の改正
 平成12年 中小企業基本法の抜本的改正
 平成16年 国家資格への正式認証
 平成18年 中小企業診断制度の改正
 平成20年 当研究会設立

 以降平成24年に一般社団法人東京都中小企業診断協会が発足し、独自の営業活動環境の整備が進み、問題指摘型から課題解決型へ指導できる中小企業診断士が求められ、時代環境変化に対応した研究会のあり方を追求してきた。
 
2.課題解決型に対応した実践支援
 中小企業診断士の業務は活動内容で①講演、②執筆、③診断に分けることができる。この3つの実務能力の向上を図るため、当研究会もこの3つの実務能力の向上を図っている。

① 講演
 講演はセミナー講師や、テーマについて講話をすることである。講話の内容が優れていることは当然であるが、最終的な表現形態であるプレゼンテーションも重要となる。当研究会ではプレゼンテーションのスキル向上のために、プレゼンの機会を提供している。すなわち、定例会で発表する機会を会員に募り、発表の事前準備や資料作成、プレゼンテーションスキルを意識することにより、結果的に人前で講演をするレベル向上に努めている。

② 執筆
 執筆活動の1つは後述する東京都経営革新計画フォローアップ事業に参加して事例集を作成することによりレベルアップを図ることである。この事例集作成は研究会を発起人となった、先輩診断士の経験値を詰めたマニュアルがあり、毎年内容を見直し改定をしてきた。その成果として、初めて執筆する診断士でもレベル以上の品質を身につけることができる。

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 執筆活動の2つめは有志を募り共著出版の機会を作り、執筆のスキル向上を図ってきたことである。出版社から実際に販売されるとその喜びは大きい。中小企業診断士としての意欲向上、ビジネス機会に活用できる。当会員が経営革新計画承認企業を支援またはフォローにより出版をした直近の3事例は以下の3冊がある。

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 これらの執筆は執筆者全員のレベルを合わせるべく執筆マニュアルを確認して上辞したものである。この執筆活動は、毎月の定例会とは別途に行うため先輩診断士から新人診断士の交流やスキル向上の場にもなっており、実践スキルの向上に繋がっている。

これの執筆も品質レベルを向上させるべく、執筆マニュアルを作成して、執筆者全員により、確認と毎回更新をして、作り上げてきたものである。その一部抜粋は図表4のとおりである。

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③ 診断実務

 診断実務は年に1度東京都経営革新計画フォローアップ事業に有志が参加し、レベルアップを図っている。企業訪問はメイン担当サブ担当2人が訪問している。この手法は経験豊富な診断士の手法を学びながら企業診断レベルの向上に役立っている。
 具体的には経営革新計画承認された企業に訪問し、その後の進捗を確認し、課題を発見し解決のための助言をすることが目的である。副次的に企業の了解を得て事例集の取材を行っている。
 これらの講演、執筆、診断活動が課題解決型の実務スキル向上に大きな力となっている。定例会での経営革新計画承認の成功例と実際に承認された企業様での講話を傾聴することと合わせて会員が積極的に経営革新計画承認支援とその後の経営課題支援、補助金支援等の活動につなげている。

3.研究成果事例
 さて、研究の成果を総合した会員の、経営革新承認支援した事例を以下に紹介する。
 経営革新計画承認を受けるために、研究会で学んだがポイントは、新規性と実現性の2つである東京都のパンフレット説明でも図表4のように審査のポイントとして新規性と実現性を挙げている。この2つのポイントに絞って紹介する。

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 サンドナイス社長様は機械製造業を退職後、機械設計・機械製造のノウハウを生かし、砂場清掃専用機の開発を目指した。既存事業は砂場抗菌剤の卸売販売が売り上げ主力となっている。

 背景には砂場は子供たちの成長過程において創造力を発揮する重要な遊び場であるが、今の砂場はガラス片、犬や猫の糞などで汚染されている。母親が砂場での怪我やペットの糞に潜む回虫による感染症を恐れ、砂場遊びを避けることが多くなっている。子供たちの砂場環境を守ることが、健全な発育に重要であることが専門家からも指摘されてきた。ところがこれに対応するにはスコップで砂を掬い、網でふるい落とす方法が一般的だが、人手のかかる作業で現実的ではない。建設現場での大型篩機ではごみは除去できても糞は除去できない現状となっている。(網目が大きいため)
 世の中にまだ存在していない砂場専用清掃機を試作開発し、この砂場清掃サービスを新規事業として経営革新計画の申請を目指すこととなった。
 経営革新計画承認ポイントの1つである新規性については、世の中に存在していないことを確認できれば審査要件の1つはクリアである。インターネットで検索をしても同製品、類似製品は見当たらなかった。

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 2つ目のポイントは実現性である。当然ながらこの実現性について根拠が求められる。

 生産面では試作機ほぼでき上がっていて、砂をふるい落とす機構の特許の取得もしている。
 課題は販路開発と受注に応じた生産体制の構築である。販売のためにまず商標登録「すなっぴー」を申請すること、取扱説明書とチラシを作成すること。その上で取引のある砂場抗菌剤の取扱店、千葉県、神奈川県の自治体や幼稚園、保育園へのPRを強化することにした。また、清掃サービスを受注し、効果を知ってもらうこととした。その根拠を数値で表し、実現性のポイントもクリアすることができ、経営革新計画は平成26年9月に承認された。新規性が明確であったので実現性について詳細に検討を進めることができた。

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 支援の内容と効果および今後については図表10のとおりである。また、今後の拡大事業にために畝形成装置としての特許も取得をしており、砂場清掃だけでなく農業への取り組みを視野に入れている。

 当研究会でのテーマである、単に承認を得るためでなく真の経営革新の効果を高め、ビジネス創造につなげる事例として取りあげた。今後も企業に寄り添い支援を継続していく好事例である。

<経営革新計画:実践支援研究会の活動紹介>
 当研究会は、代表小林勇治のもと、毎月1回、原則として第4金曜日に中央支部事務所にて研究会を開催している。毎月会員の経営革新計画承認事例と企業経営者(主に社長)にご登壇をいただき経営革新計画を取得するに至った経緯や苦労した点、効果について講話をいただき、会員との情報交換や交流を図り研究を深めている。会員数は登録上では124名、毎月平均参加者約40名で研鑽を図っている。

2016.05.29
人、店が集まり、店主の自主活動で盛り上がる街に!~白金商店会支援の軌跡~


企業内診断士の5年にわたる支援で街のイメージ一新!

人、店が集まり、店主の自主活動で盛り上がる街に!
 ~白金商店会支援の軌跡~

商店街研究会 山中令士、鵜頭誠

1.企業内診断士による白金商店会支援の経緯
(1)商店街研究会の活動
 東京協会認定の商店街研究会は、平成14年6月、商店街の活性化、にぎわいづくり、個店繁盛に積極的に取り組みたいという中小企業診断士の仲間が集まって設立された。201606-2p-1.jpgのサムネイル画像
 当研究会の活動は、毎月1回土曜日に商店街を訪問し、役員の方から成功談をヒアリングし、活性化方策を学ぶ活動を年間10回実施している。その他に、年2回は平日の夕方に斯界の有識者や専門家を講師として招いての座学研修を行うなどの活動を続けている。一昨年にはこれらの成果を基に10周年記念の書籍出版も行った。
 会員は現在94名で、企業内診断士が参加しやすい活動スケジュールであることから、多くの企業内診断士が参加しており、その数60名で約2/3を占める。この比率は東京協会の構成とほぼ同じであって、企業内診断士の研究活動の場を確保し、自主的かつ主体的な実践的支援活動の取り組みの機会をいかに確保するか、が課題であった。

(2)白金商店会への支援の開始

 平成22年2月、研究会の企業内診断士有志8名が、それまでの優良商店街への訪問活動で蓄えた数多くの先進的な取り組み事例を、実際に自分たちで商店街活性化の支援活動として取り組みたいと模索していたところ、当時の研究会会長から港区の白金商店会を紹介され、支援活動を開始することができた。

 白金商店会は、東京メトロ南北線の白金高輪駅から徒歩4分にある商店街で、歴史は古く明治43年から続く。商店会の加盟は63店舗で、港区では数少ない生鮮三品の揃う商店街である。 201606-2p-2.jpgのサムネイル画像

 昔は、ガス灯の製造を中心とした近隣の町工場で働く多くの工員達とその家族を顧客にして栄えていたが、その後、次々と工場が廃止された跡地の住宅地化が進んでおり、今では、地域在住の主婦や高齢者を対象とする近隣型商店街となっている。また、駅前のスーパーや大型店との競合も厳しく、スーパー立地の直後などは、店舗廃業も多く続いていた。
 
(3)支援初年度の活動
 平成22年の2月から3月にかけて、8名の企業内診断士のメンバーが商店街調査分析のセオリー通り、「商店主意識調査」、「来街者アンケート調査」および「歩行者通行量調査」を実施し、その調査結果に基づいた各種提言を、3月下旬の理事会において行ったが、理事のメンバーからの反応は今一つであった。
 今、振り返ってみると教科書的な提言内容であったと反省している。ちなみに同年3月の調査時点での歩行者通行量は2,942人/日であった。
 その年の8月、夏まつり支援の後の「白金商店会夏まつりの視察報告」において、「浴衣での来街者へ優待品贈呈」や「浴衣姿での記念写真撮影」などを夏まつりの活性化方策として提案しているが、その時の皆さんからは「そうですねぇ」というありきたりの反応で、特段の賛成の意見も反論もないままに発表は終了し、いずれの提言も実施には至らなかった。
 ただ、この時の提案がその後の我々の継続した支援活動を通じて、3年後に「浴衣コンテスト」として日の目を見ることになるのだが、その時点では全くそういった気配はないままに1年目が終了した。

(4)支援2年目の活動と変化の兆し
 翌23年5月、前年と同様に、夏まつりに向けての取り組み支援として、「商店主意識調査」および「来街者アンケート調査」および「歩行者通行量調査」を実施し、その結果を夏まつり前の7月理事会で報告する機会をいただいた。
 その際に、夏まつりに向けての盛り上げ支援策として、ホームページやTwitterによるPR活動を提案したところ、参加した商店主の一人が、「商店街内のある有名店舗が、Twitterを活用してお客さんが絶えないお店になっている」と発言したことから、反応が変わったのを感じた。
 Twitterの活用について、会長、副会長としては、「店舗の売上になるのであれば挑戦したいが、全くどのように操作をしたらいいのかも、Twitterの仕組み自体すらもよくわからない」との発言があった。早速、診断士一同で、仕組みや活用の仕方、他の商店街の取り組みなどについて調べるので、再度報告の機会を設けてほしい旨を訴え、了解を得ることができた。
 この点を新たな支援活動に活かせるものと捉え、その場で提案できたことが、その後の支援活動に繋がった。
 多くのメンバーにとって、商店街でのTwitter活用は初めての取り組みではあったが、商店街が希望する支援活動に具体的に挑戦できる機会ができたことから、メンバーの支援への盛り上がりも増し、新たな若手メンバーも応援に入り、ITを活用した商店街活性化の支援準備を開始した。

(5)支援3年目、Twitter支援の開始201606-4p-1.jpg
 平成24年2月、「夏まつりでのTwitter支援」として、商店街の皆さんとともに手を動かしながら支援する活動の内容を商店会理事会にて提言した。多くの理事の皆さんがTwitterを使うのが初めてということもあり、「白金商店街ツイッターのつぶやき方」というチラシを作成し、パソコンやタブレットを多く持ち込んで、理事の皆さんとのマンツーマンの教室を開催した。そうして、無事、理事の皆さん全員の承認を得られたことから、Twitter活用による支援を開始することとなり、診断士の我々がまず、つぶやきのモデルを示すべく、挑戦を始めることとした。
 そして、6月から8月の夏まつりに向けて、商店街からの情報発信としてTwitterでのつぶやきを我々から率先して活発に展開した。夏まつり当日には、会場での商店街の皆さんの準備活動や屋台販売の姿などを全店写真撮影し、その場でツイートしてそのTwitter画面をすぐに見ていただくという活動を展開した。
 
(6)Twitter支援の効果
 次第に、Twitterを通して、「ママさん達でのお祝い会を行うのにおススメの店を教えてください」というコメントが入って回答した際に、「いつも商店街を利用しています。これからも楽しみにしています」というつぶやきや、「就職活動で明日使うからって言ったら、翌日のすぐにクリーニングをしてくれた。白金商店街のこの下町らしさが好き」というつぶやきがあるなど、地域を利用し、かつさらに利用しようとしている人たちの本音が聞こえるようになり、オンライン上でのゆるやかな繋がりから、商店街を利用するという実際の繋がりに活かされていることが実感できてきた。201606-4p-2.jpg
 以後も、お客様側のさまざまな声がTwitter上で届けられたことから、理事会を通して、随時その声を会長や副会長をはじめとした多くの理事の方に伝えることで、「このように言ってくれるのならうれしいね」「こう思ってもらえるなら、また頑張ってやってみよう」などとさまざまな声が飛び交うようになった。
 こうした活動によって、商店街の方々にTwitterの効果について直接見せ、実感してもらうことで、理解を進めることができた。このことが、商店街の店主の皆さんと我々支援する中小企業診断士との関係では大きな成果となり、その後の我々の活動のスタイルも、「まずは実践して見せる」ということに変革していった。こうした活動を通じて、来街者や商店街に関心を持つフォロワーも増え、当初5月のフォロワー数393人が11月には1000人を突破し、フォロワー返信率も79.1%と大人気となっていった。
 平成25年の夏まつりでも、TwitterによるPR活動をさらに積極的に展開し、その後の理事会においてTwitterのPR活動の結果を報告した際には、実際にTwitterの画面を見た理事の皆さんの反応が大変良く、また、フォロワー数も大きく伸びていることを喜んでいただいた。
 Twitter活用の目的は、目指すべきターゲットである「子育て世代の女性とのゆるやかな繋がり、共感しあえる場づくり」であって、Twitter支援を約1年半続けてきた中で、オンラインの世界では、十分に地域の方々と商店街との交流機会の拡大を図ることができた。

2.店主の自主活動で盛り上がる街へ
(1)次なる支援としての「まちゼミ」提案と店主の積極参加
 平成25年9月の理事会には、今後目指すものとして、「このオンラインで、共感しあえる商店街の下町の良さや雰囲気を、オフライン、現場の店舗でも数々の体験ができる機会を持ってほしい」という想いがあった。その実現手段として、商店街の三種の神器の一つである「まちゼミ」の実施を提案した。
 ただ、「まちゼミを開催しましょう」といっても、会長、副会長は、具体的にどのようなものかがイメージがつかなかった。そこで、すでにまちゼミのイメージを持っており、かつ最もまちゼミへの声掛けに熱意のあった商店街の着物屋の店主が前面に立って、我々診断士とともにモデルケースを作り、それを他の理事の方々に示しながら実現を図るという実施計画を提示し、全理事の賛同を得ることができた。
 また、開催時期についても、年間を通して、商店街のお客様を呼びよせるよう、また最も商店街で集客のある夏まつりが終わった後の集客を拡大すべきという提言を、これまでの診断報告書でも行っていたことに商店街の方々の賛同もいただいて、2月の1か月間を実施期間とすることとなった。ここに都区内でも先駆的で、港区初となる「まちゼミ」を実施することが決定した。
 支援が3年半を過ぎて、ようやくいい方向に進み始め、我々の支援活動に商店街の皆さんからの信頼を得ることができたエポックメイキングな瞬間であった。
 我々の活動開始当初は、会長を始め各理事の皆さんも押しかけ的な若手中小企業診断士の支援活動がどこまで続くのか、過去に入れ替わりやって来ては去っていった経営コンサルタントと同様ではないかと懐疑的な見方があったが、3年半にわたり、無償で自主的な支援活動を継続する我々の姿に、やがて理解と共感を示してくれるようになった。特に、まずは自ら動いてみた、やって見せたという活動のスタイルを始めたことが大きな契機となったのである。
 こうして、これまでの我々の活動についての信頼感を得たことから、次の一手として商店街活性化策として有力となっていた「まちゼミ」の実施を提案した際にも、個店主が積極的に賛同し、その意見をもとに、その場で会長他理事の皆さんの賛同を得ることができたのである。

(2)白金商店街まちゼミの実施
 すぐさま、会長、各理事や店主を巻き込んでの「まちゼミ」実施に向けての準備に入り、平成26年2月には港区初めての「まちゼミ」を7店舗10講座で開催し、その結果について参加商店主から、「自身のお店のことなのに、いざまちゼミで話すとなると、話しきれないことがわかった。自店のことをよくするためには、自店を知るとともに、商店街を知ることがとっても重要であると痛感した」、「このような形でお店と地域の情報をお客さんに発信できることはユニークな取り組み。このような事業は継続して行っていきたい」といった声が寄せられた。
 初めての取り組みに、楽しみつつも、反省すべき点が見つかり、かつそのインパクトが大きかった。そういった中で、若手商店主たちが「中小企業診断士の方々がここまでやってくれているが、我々だってもっとできることをやらねばならないのではないか」といった声をあげ、自主的に商店街を盛り上げることへの意欲を持つようになり、その想いが、以後の、「商店街ホームページ」「浴衣コンテスト」などのさまざまな商店主の自主活動を生み出す原動力となった。

(3)若手商店主たちの自主的な活動と表彰
 平成26年4月から6月に、若手商店主主導のもとITインフラを我々中小企業診断士が支え、わずか3か月間で商店会のホームページが完成した。さらに同年8月には伝統ある夏まつりで青年部のアイデアが受け入れられ、商店街初の「浴衣コンテスト」が実現した。201606-6p.jpg
 Twitter支援やまちゼミ支援を通して、商店街を支える活動への想いを共有できた商店街の着物屋、美容室、化粧品店や八百屋の各店主などと中小企業診断士が、審査委員、採点委員、運営スタッフを作業分担して行うことで、4年前に夏まつりの活性化方策として診断報告書で提案していた「浴衣での来街者へ優待品贈呈」や「浴衣姿での記念写真撮影」などがようやく実現に至ったのである。
 平成26年10月には、こうした白金商店会の取り組みに対して、東京販売士協会主催の『販売士が推す!! エネルギッシュタウン-私の街-』表彰事業において、商店会でのホームページやTwitterを通じての頻繁なPR活動や、「浴衣コンテスト」、「まちゼミ」実施などの一連の活動が高く評価され、「コミュニティ賞」を受賞した。
 
(4)人、店が集まり、自主活動で盛り上がる街
 その後は、理事会において、今までは発言もしなかったメンバーが積極的に発言、イベントを提案し、率先して活動を進めるようになってきている。 
 平成27年1月には、昨年のまちゼミを通して、互いの商売への想いを語り合う中で、それぞれの店に寄せられた顧客の声を新たなメニューで形にしようと、意気投合した店主達の想いを汲む支援を行った。商店街内の2店の特別コラボメニュー「着付け&ヘアセット」を小規模事業者持続化補助金事業として実施し、近隣の学校、大学等の卒業式における教師や保護者等の需要を多く取り込むことに成功している。201606-7p.jpg
 また、2月には、第2回「まちゼミ」が開催され、地域の郵便局、英会話教室等を合わせて、15店20講座が催され、多くの参加者を呼ぶことができ成功裡に終えることができた。
 こうした商店街の活性化の動きを反映して、新たな店舗進出が増えてきており、歩行者通行量の数字も支援開始当初の2,942人/日が5年後の3月には3,576人/日まで増加している。
 さらに、5月には、「着付け&ヘアセット」のコラボ事業に動機づけられた地域の5店の若手商店主達が、地域の主要顧客である「子育て世代の女性」をターゲットとして、地域への想いのある互いの店舗を紹介する独自の逸品事業を展開した。本事業も小規模事業者持続化補助金の採択を受け、10月には、小冊子として配布される予定である。
 
3.まとめ
(1)商店街支援のポイント
 平成22年の支援開始から5年半を迎え、我々中小企業診断士の切れ目のない商店街支援活動が実を結ぶようになってきたのを実感できている。やはり、商店街の支援活動は息の長いもので、商店会の会長や理事だけでなく、多くの商店主や奥様方との人間関係が深まってこそ、活性化の提案も皆さんに受け入れていただけるようになるのであって、一方、短い期間では空回りとまでは言わないが、なかなかうまく意見や提案が浸透できないものだと感じている。
 我々の行う商店街活性化の提案も、年を追うごとに現場の実態に合わせてどうすれば変革していけるのか、という視点で地についた提案ができるようになってきたことも、商店街の方々の信頼を勝ち得、活性化に向けての歯車がうまく進むことになった大きな要因と考える。
 また、企業内診断士の支援メンバーもこの間に次々と新たなメンバーの参加を得て、多様な能力や知識を継続的な商店街支援に組み込むことができるようになってきたことも今回の成功のポイントである。
 企業内診断士は、普段は業種も規模も異なる企業や組織体に勤務しており、その職務経験から得られる多様な観点からのアプローチを結集することで、実にさまざまな意見やアイデアが期待できるというメリットがある。
 これが、中小企業支援の場合では、財務内容や経営状態といった機微に触れる企業情報に関与することが避けられないことから、企業内診断士の多くのメンバーが支援に長い間参画することには難しい点がある。
 しかし、商店街支援においては、企業内診断士の所属する企業との競合関係がなく、利害関係もなく支援にあたれる現場であることが多い。また、支援活動の時間についても、夕方の各店舗の閉店後の時間に個店への訪問や理事会への参加が可能であるし、土・日曜日でも店舗の営業日であれば支援活動が進められるということから、企業内診断士の勤務時間外での支援活動が大いに可能であるということから、相性がよい支援先と言える。

(2)ワーク・ライフ・バランスに留意しつつ取り組む企業内診断士
 我々の支援メンバーの特徴として、過半数は、30代、40代の中小企業診断士が占め、企業内でも第一戦、かつ家庭内でも子育てをしながら自身の時間を捻出しながら活動を行っているメンバーも多いことが注目すべき点である。
 20代や30代で中小企業診断士を取得したとしても、企業での業務多忙や子育てが重なることなどから、以後の活動機会を見いだせず、活動を休止し、引いては中小企業診断士としての資格までも失ってしまう例を残念ながらよく耳にする。
 中小企業診断士を取得した時の想いをずっと忘れずに、その想いと知識と経験を少しずつであっても活かしながら、中小企業診断士としての活動を続けることを諦めないでほしいという想いがあり、企業内診断士を中心として新たなメンバーを集めてきた。
 このように、企業内診断士としてのワーク・ライフ・バランスも留意しつつ取り組んだことが、商店街への継続した支援につながっていると考える。
 たとえば、Twitter支援であれば、現場になかなか行けなくても、電車通勤の前後でTwitterから商店街のアカウントの情報を確認したり、リツイート、リプライなどをすることは可能である。また、1日全体を歩行者通行量調査で拘束するのではなく、10人程度で、1~2時間交代のシフトで1日の調査を実施することで、おのおのの現地での作業時間を少なくすることができる。
 必ず伝えなければならないことがある重要な例会は、必ず2名か3名で訪問をする予定を組むことで、万が一の業務上の突発的な会議や、家庭の事情等が発生した際にも、誰かが必ず発言することができるようにし、適時に支援活動の進行管理を行うことができる。
 このような観点からメンバーを集め、取り組みを進めたことによって、これまで診断士活動を行っていなかった未就学児童のいる中小企業診断士が、継続してTwitter支援活動を行ったり、家庭での出産・育児の時期に重なっている中小企業診断士が継続して商店主との会合に参加し続けられる雰囲気と環境を実現できている。

(3)最後に
 我々が長年の支援活動を通じて感じたことは、商店街支援は基本的には人と人のつながりがすべてであって、人間関係重視の支援であるべきということを我々自身が実感できたからこそ、こうして長く支援を続けることができた、ということである。
 今回、我々の支援活動を披露させていただくことで、同様に多くの企業内診断士を抱える研究会や協会の活動にヒントとなれば幸いである。
 最後に、これまでに白金商店会の支援に参加いただいた仲間の皆さん、そして我々企業内診断士の活動を温かく見守っていただいた研究会の役員並びに多くの会員の皆様に厚く感謝申し上げるとともに、今後とも引き続いて白金商店会の皆さんと手を取り合って積極的な支援活動を展開し続けることをお約束して今回の報告とする。

2016.04.29
迷ったら、経営哲学に戻れ ~知識創造経営の真髄~

ものづくり経営管理研究会 竹村 一太
takemura.kazuta@gmail.com


【要旨】
 中小企業の経営者は孤独である。迷いに迷うが、最終的には独りで経営判断を行わなければならない。支援者の役割は何か。経営者と対話し、経営者の迷いや心の内を理解し、想いの表出化を支援し、また、判断材料となる考え方や情報を提供することなどである。何よりも支援者に求められるのは、経営者に寄り添うことではないだろうか。
 本稿の事例企業は、親事業者から機械の製造を受注する下請企業であった。しかし、受注の低迷から業績が落ち込み、創立50周年を目前にして、二代目社長は賭けに出た。厳しい資金繰りにもかかわらず、自社ブランド製品の開発を行い、展示会に出展し、下請けからの脱却を目指した。
 しかし、自社ブランド製品の事業化の過程では、業績の低迷や資金繰りの悪化などから、社長の心中に迷いがなかったとは言えない。支援者として、社長に寄り添い、対話し、理解し、時には、考え方などについて話し合った。そして、最終的には、社長は独りで経営判断を行った。「迷ったら、経営哲学に戻る」 
 経営者が強く「想い」を抱き、理念やビジョン、自社の存在意義や強みの源泉をぶれなく語るとき、それは経営哲学としてステークホルダーに伝わる。経営哲学を的確に伝えるために、知的資産経営の支援は有効であった。また、経営哲学について共感できていたため、事業計画策定、資金調達、業務改善などの支援を円滑かつ効果的に実施することができた。
 当社の業績は、自社ブランド製品の事業化を契機に大きく改善した。新製品開発を継続し、年2回展示会に出展し、新規分野の受注が安定してきた。積極的に設備投資を行い、新入社員も毎年採用し、将来への投資ができるようになった。 
 「迷ったら、経営哲学に戻れ」 社長の主観的な現実(actuality)が客観的な現実(reality)になりつつある。「正当化された真なる信念(justified true belief)」 知識創造経営の真髄である。
 
はじめに
 中小企業庁の平成27年度の方針のひとつに「イノベーションの推進」が掲げられている。中小企業・小規模事業者が競争を勝ち抜いていくためには、これまでのビジネスの殻を破り、創意工夫を活かしたイノベーションを起こしていくことが必要である。筆者自身もこの方針に共感している。中小企業・小規模事業者の「イノベーションの推進」を支援していきたいと考えている。
 中小企業・小規模事業者がイノベーションを起こしていくには、どのようなことが重要になるのであろうか。イノベーションの推進により企業再生を図ってきた事例企業の取組みを紹介しながら、イノベーション・コンサルティングの手法について、ご提案させていただく。

1.イノベーションとは何か
 イノベーションとは「新しい価値」の創造である。顧客や社会が「本当に価値がある!」と認める新しい価値を生み出すことである。また、イノベーションにはもうひとつの側面がある。「新しい知識」の創造である。顧客や社会が認める新しい価値を生み出すために「新しい知識」を創造することである。
 当初は、経営者やイノベーターの心の中に「われわれが生み出すべき新しい価値はこれだ!」「顧客や社会が求める新しい価値はこれだ!」という「主観的な現実(actuality)」がある。これが、新しい製品やサービスなどの創生を通じて、顧客や社会が認める「客観的な現実(reality)」になる。知識の創造とは、「新しい価値」が、主観的現実から客観的現実になるプロセスである。

2.想い(Belief)
 イノベーションの原点は、経営者やイノベーターの主観的現実である。イノベーションには、経営者やイノベーターの想いや信念が決定的な役割を果たす。
 2010年、創立50周年を前にして、印南製作所の二代目社長である印南英一氏は、「下請から脱却する。そのためには決して断らず新規分野の案件を受注する。さらに、自社ブランド製品の開発にも挑む」という想いを新たにした。
 印南製作所は、大手包装機械メーカーO社からの受注が、売上高のほぼ100%を占める典型的な下請企業であった。バブル崩壊、デフレによる価格破壊、リーマンショックなどの影響から、売上高はピークの14億円超(1996年)から10億円(2010年)まで減少した。O社からの受注は低迷を続けており、当社の経営は危機に瀕していた。しかし、コストカット、リストラ、リスケなどではなく、「断らない印南」「自社ブランド製品開発」を目標に掲げ、「下請からの脱却」への挑戦を決意した。
 想いや信念は、実体験を通じて強化される。印南英一氏の想いも、強烈な実体験の文脈から醸成された。2007年春、外資系大手通販企業A社より開発の相談が持ち込まれた。メール便のパッケージ・マシンを開発してくれないかというものであった。A社の物流センターのオペレーションは、他社とはまったく異なるコンセプトで運営されていた。そのため、パッケージ・マシンの要求仕様も前例のないまったく新しいものであった。A社はいくつかの機械メーカーに声を掛けたが、すべて断られていた。A社が最後に相談を持ち掛けたのが当社であった。
 
 先行きの見えない業績低迷の時期でビッグチャンスではあったが、資金繰りや技術リスクで正直即答はできなかった。しかし、打ち合わせに出向いてみて、カルチャーショックを受けた。ポロシャツにパーカー、ジーンズ姿の支社長と面談。社長か派遣か見分けのつかないスタッフの中で、「物流を変えよう」と握手を求められたのである。外資系の成果主義や改善提案の積極推進に間近に触れ、継続・存続を第一義に重んじていた保守的な経営理念が、一発で砕け散った。勢いも相まって握手をしてしまい、そして、「断らない印南」が生まれたのである。
 (印南英一 「モノ創りの最前線 ~通販業界へ挑む省力化機械メーカーの新提案」 流通ネットワーキング(日本工業出版株式会社) 2015年7月8日号 p20-23)
 
 9か月間の試行錯誤を重ね、メール便パッケージ・マシンを納品した。翌年2号機も納品し、現在、約60,000通のメール便が、毎日、当社が製作したマシンでパッケージされ、大手通販企業A社より発送されている。

3.想いをカタチにする
(1)INNAMIの約束
 A社との出会いが契機となり、2010年、印南英一氏は、企業再生へのプロジェクトを始動させた。全社員の意識改革をねらって経営理念を刷新し、「INNAMIの約束」を制定した。3つの「約束」のひとつに、「たゆまぬ変革により、新たな価値を創造します」というイノベーションへの決意が盛り込まれた。
 
(2)自社ブランド製品「エコメールパック」の開発
 法人設立第50期(2011年)をターニング・ポイントと定め、自社ブランド製品「エコメールパック」を開発した(図-1)。A社の巨大物流センターへのメール便パッケージ・マシンの導入で培った技術を活用し、中・小規模物流拠点向けに毎時450パックの性能のメール便パッケージ・マシンを開発した。専用封筒も自社開発した。ダンボールの張力を利用して梱包するタイプのもので、緩衝材を必要としない「エコ」がコンセプトであった。
 2010年秋の中小企業総合展に出展したところ、日刊工業新聞に紹介記事が掲載されるなど注目を集めた。また、2011年には「中小企業優秀新技術・製品賞」を受賞した(図-1)。

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4.知的資産経営から知識創造経営へ
(1)知的資産経営 ~知的資産の見える化~
 2010年12月、印南英一氏は、知的資産経営を導入した。「知的資産」とは、「決算書には現れない目に見えにくい強みの源泉」という意味である。また、「知的資産経営」とは、知的資産を「見える化」し、活用する経営手法である。
 印南英一氏には、知的資産経営を導入する明確な動機があった。第一に、企業再生プロジェクトを進めるために、「社長の想い」「当社が進もうとしている道筋」などを「見える化」し、従業員にわかりやすく説明し、理解を求める必要があった。第二に、自社ブランド製品や当社の技術などを見込み客にわかりやすく説明し、販路を開拓する必要があった。第三に、開発に必要な資金を調達するため、決算書には現れない当社の魅力や潜在的な成長力について、金融機関に理解していただく必要があった。最後に、新たに社員を採用するため、就活者に当社の魅力を訴える必要があった。
 そこで、印南英一氏は、中小企業基盤整備機構の支援を受けて、知的資産を「見える化」した「魅力発信レポート」(知的資産経営報告書)を作成することを決意し、筆者がその作成を担当することになった。
 当社の知的資産の中で最も重要なものは、印南英一氏の「想い」「信念」「経営哲学」などである。これらは、印南英一氏の暗黙知である。経営理念「INNAMIの約束」を制定はしたが、それだけでは十分に伝わらない。従業員でさえ見えにくいのであるから、社外の得意先や金融機関にはさらに見えにくい。それどころか、印南英一氏自身も明示的に認識していない想いもあった。
 インタビューを通じて筆者が問いかけ、印南英一氏自身が、「想い」「信念」「経営哲学」などを言葉に表し、明示的に認識することが非常に重要であると思われた。自らの言葉で、ぶれなく、従業員に語りかけ、得意先や金融機関、就活者に説明すること。これが、当社の知的資産経営支援では、最も重要なテーマであった。
 インタビューでは、言葉を選び、次のような内容について問いかけた。 「当社の存在意義は何か」「当社の絶対的な価値基準は何か?」 「当社はどのような未来を実現するのか?」 「顧客にとっての、社会にとっての価値は何か?」、そして「それはなぜか?」
 知的資産経営報告書「魅力発信レポート」は、2011年2月に初版が完成し、中小企業基盤整備機構の特設サイトならびに当社のホームページに掲載された。その後、毎年更新されている(図-2)。

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 知的資産経営に取り組んだ結果、「社長の想い」「当社が進もうとしている道筋」などが社員にも理解されるようになった。展示会では来訪者に「魅力発信レポート」を配布し、商談に活用した。「魅力発信レポート」が金融機関の目に留まり、表彰された。当社の魅力を理解し、数多くの新入社員が入社した。

(2)知識創造経営への進化 ~新しい価値の創造(イノベーション)~
 当社は、知的資産経営によって「今ある強みの源泉」を開示するだけに留まらず、「新しい価値」を求めて知識創造経営に踏み込んでいる。次々と新製品を開発し、毎年2回以上、展示会に出展し、披露している。「エコメールパック」に続いて、「メール便パッケージソルーション」「ダンボールパッドシュリンク包装機」「宅配便パッケージソルーション」など、梱包機械分野で新製品を開発した。2015年には、ものづくり・商業・サービス革新補助金の交付を受け、「自動ポスター巻き機」の開発を進め、出展する予定である。
 新製品の出展の度に、日刊工業新聞などに記事が掲載され、当社の技術などの知的資産が情報発信された。印南英一氏は、講演会に招かれ、TV番組にもたびたび出演するようになり、経営哲学や未来を語り、共感を集めるようになった。
 2010年に46人だった従業員は、2015年に65人まで増えた(図-3)。2011年以降、毎年、5軸MC加工機の導入、タレットパンチプレスの更新など、設備投資にも積極的に取り組んでいる。
 知的資産経営、知識創造経営、新規分野への積極的な事業展開、設備投資や人財採用などを進めるにつれて、当社の業績も向上した。2010年8月期の売上高は約10億円であったが、売上高は3年連続で毎年約1億円ずつ伸長し、2013年には約13億円となった。2014年以降も業績は堅調に推移している(図-3)。

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 知的資産経営への取組みによって、印南英一氏の想いや信念、経営哲学を、従業員、顧客、金融機関、就活者に伝えることができた。従業員に一体感が生まれ、新入社員も数多く入社し定着した。新製品の価値や技術について的確に情報発信を行うことにより、新規顧客からの引合いが著しく増えた。顧客や金融機関からも共感をいただき、プロパー融資を受けることができるようになった。その結果、業績が目に見えて改善してきたのである。

 現在も、新たな価値、新しい知識、イノベーションを生み出す挑戦が続いている。静的な知的資産経営から、動的(ダイナミック)な知識創造経営へと進化しつつある。印南英一氏が描いた主観的な現実が、客観的な現実になろうとしている。

5.迷ったら、経営哲学に戻れ
 当社の企業再生のターニング・ポイントは、印南英一氏の想いや信念、経営哲学であった。経営者の想いや信念、経営哲学が、その企業に「違い」をもたらす。「当社の存在意義は何か」「当社の絶対的な価値基準は何か?」「当社はどのような未来を実現するのか?」「顧客にとって、社会にとっての価値は何か?」 企業によって答えはさまざまである。
 描く未来がそれぞれ異なるために、企業に存在意義が生まれる。トヨタやホンダなど、多くの自動車メーカーが存在するのは、それぞれが描く未来が違うからである。描く未来は企業の運命をも左右する。コダックは倒産したが、富士フィルムは発展を続けている。ぶれない経営哲学は、企業に違いをもたらす。企業は、経営哲学を売っているのである。
 経営者が具体的な課題について判断に迷っているようなとき、支援者は何をすればよいのであろうか。筆者は、「当社の存在意義は何か」「当社の絶対的な価値基準は何か?」「当社はどのような未来を実現するのか?」「それはなぜか?」といった本質的な問いかけを行う。
 答えは経営者自身の中にある。経営哲学である。迷ったら経営哲学に戻る。その支援をするのが、筆者の役割である。

6.未来を創るイノベーション・コンサルティング
 筆者は、中小企業のコンサルティングを、6つのステップに分けて考えている(図-4)。
 第1ステップは「想い」である。経営者の想いを、それが形成された文脈とともに理解し、共感するステップである。経営者は、迷ったら、経営哲学に戻ることが重要である。経営哲学を構成する要素の中でも、「想い」は最も暗黙的であり、理解することが難しい。しかし、経営者に寄り添い、対話し、「想い」に共感できた時、第2ステップ以降のコンサルティングが非常に効果的なものになる。
 第2ステップでは、「想い」を、理念やビジョン、あるいはコンセプトとして、表出化する。この段階では、経営者との対話が重要な役割を果たす。
 第3ステップでは、「想い」、理念やビジョンを実現するための知的資産(強みの源泉)を認識するステップである。知的資産を明らかにすることにより、経営哲学を理解できるようになる。当社については、「魅力発信レポート」の作成支援を行ない、知的資産を明らかにした。
 第4ステップは、経営哲学やビジョンを実現するための事業計画の策定である。ビジネスモデルやビジネスプランを作成することである。経営革新計画の承認支援などは、事業計画の策定に有効である。当社については、「エコメールパック」の経営革新計画の承認支援を行ない、新規事業のビジネスプランを作成した。
 第5ステップは、資源調達の支援である。ヒト・モノ・カネの調達支援である。当社については、知的資産を明らかにしたことにより、当社に魅力を感じた就活者が数多く入社した。また、「エコメールパック」では市場開拓助成金(東京都)、「自動ポスター巻き機」ではものづくり・商業・サービス革新補助金(全国中小企業団体中央会)の申請支援を行い、資金を調達した。
 第6ステップは、計画を実行するにあたっての業務オペレーションの支援である。
 どの段階からでも支援は可能であるが、筆者の経験では、より上位のステップから支援を開始することが、より高い効果を得ることにつながる。

201605_8p-図4.jpgおわりに

 本事例は、イノベーションによる企業再生の成功例である。企業再生に向けて、事業承継後の二代目社長に経営哲学が生まれた文脈、新機軸の提示、知的資産経営によるステークホルダーの支援獲得といった経営イノベーションに加えて、新製品の継続的な開発、中小企業政策を活用したビジネスプランの作成や資金調達といった製品イノベーションにより、当社は企業再生を行ってきた。経営者の主観的な現実(actuality)が客観的な現実(reality)へと向かう知識創造「正当化された真なる信念(justified true belief)」の物語である。 
 筆者の使命は、「未来を創るイノベーション・コンサルティング」である。当社の企業再生に向けたイノベーションや知識創造のプロセスを支援してきた。そのために最も重要なことは、経営者へ寄り添い、想いや経営哲学を真摯に傾聴し、そして、共感することであった。

2016.03.27
東京協会・支部 プロコン養成講座

▼東京プロコン塾 第10期生募集のお知らせ

主催:一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
運営:能力開発推進部

 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会では、診断士制度の変更、診断士の社会的ニーズ、激変する経済環境などに対応するため、平成19年度より真のプロコンを養成しています。真のプロコンとは、高度な学識、スキルはもとより、人間力も備え、クライアントの要望を充分満足させられる"稼げるコンサルタント"を指します。
 東京プロコン塾では、稼げるプロコンを養成するため、座学による講義、現地実習をはじめ、最も重要な、稼いでいるプロコンのノウハウを伝授します。
 講師陣には当塾の趣旨にご賛同いただいた各方面で活躍中のプロコンがあたります。
 プロコンとして独立をお考えの方、コンサルタントとして独立したが、活躍が十分でないと感じている方は、ぜひご応募ください。
<記>
開催日程:平成28年5月~平成29年3月 原則毎月第4土曜日(9:00~17:00)
     〔うち2回は合宿研修(1泊2日)を予定〕全10回
応募資格:①東京都中小企業診断士協会 会員
     ②プロコンとして独立する強い意志のある方
応募人員:最大25名(申込者多数の場合は選考いたします)
参加費用:10万円(一括支払、支払方法は別途連絡します。合宿費、現地実習費込み。)
実施場所:座学は、主に東京都中小企業会館8階会議室を予定
     現地実習は現地、合宿地は未定〔平成27年度は、さわやか ちば県民プラザ(千葉県柏市)〕

カリキュラム
・毎回、プロコンとしての心構え、独立の仕方、営業方法について話をします。
・講義は、実務に直結したコンサルティングスキル向上を目指した内容になります。
・現地実習では、商店街や企業を訪問し、コンサルティングを行います。
・ミニプレゼンを実施する機会が5回程度あるので、プレゼン能力が向上します。
※詳細は4月23日の説明会で発表します。
その他:修了認定者には、東京都中小企業診断士協会より修了証を授与します。
    実務更新ポイントが必要な方は、現地実習にて取得可能です。
    講師陣や、活躍する塾生の先輩、東京都中小企業診断士協会の塾生同士で人脈ができます。
    メーリングリストや研究会で、卒塾後もOB・OGとのつながりを持てます。

下記のとおり説明会を実施します
日  時:4月23日(土)14:00~16:00
場  所:あすか会議室神田小川町会議室902会議室
     (東京都千代田区神田小川町2-1-7日本地所第7ビル)
申込方法:現在、申し込みを受け付けています。マイページにてお申し込みをいただくか、氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.、メールアドレスを明記の上メールでお申し込みください。
     申込をされた方には入塾申込書フォーマットを送りますので、4月23日の説明会で内容をご確認のうえ正式にお申し込みください。
運営担当:能力開発推進部 部長・佐藤 正樹
申込先:東京都中小企業診断士協会 東京プロコン塾係 担当:清水
     T:03-5550-0033  E: info_tokyo@t-smeca.com
ご質問は、加藤敦子(atsuko_k@altoconsulting.jp)まで


▼中央支部 認定マスターコースの紹介

 中央支部は、会員のコンサルティングスキルの研鑽を目的として、認定マスターコース制度を設けています。マスターコースの大きな特徴は、後進指導に情熱を抱く先輩プロコンが、自ら磨き編み出したコンサルスキル、コンサルマインドを惜しげもなく提供することです。専門性の高いテーマを設定し、独自のカリキュラムを編成して1年間にわたり指導します。


詳細・申込はURLを参照してください。
http://www.rmc-chuo.jp/home/mt/archives/cat4/index.html
来たる5月28日(土)の中央支部カンファレンスにて説明会およびブース相談会を開催します。


▼城東支部 スキルアップ受講生募集

主催:城東支部 能力開発推進部


 城東支部のスキルアップコースは、診断士の資格を取得し、将来診断士として独立を考えられている方を主に対象とした、プロコンを目指すための研修コースです。
 6月から3月まで、毎月1回計10回の開催を予定しています。城東支部長をはじめ、城東支部のプロコンとして活躍されている方々が講師を務めます。 
 城東スキルアップコースの特徴は、以下の3点です。
 ①中小企業経営診断の定石を学ぶことができます。(経営診断テキスト入門編を提供します)
 ②フィリップ・コトラー、ピーター・ドラッカー、バーバラ・ミント、マービン・バウワーなどの著書を経営診断課題図書(8冊)として定め、経営の基本を学びます。
 ③企業診断、セミナー講師、ビジネス相談員など実践の機会を提供いたします。
 初回の6月の講義では、将来プロコンを目指す方のために、城東のプロコンの方々が、仕事の獲得方法やプロコンとしてどのような仕事をしているかなどをお話しします。
 7月以降の講義の内容は、午前中は主に経営診断課題図書と診断技法の原理原則について学習します。午後からは毎回テーマごとの講義とグループワークをおこないます。
■カリキュラム(予定)

*原則第1土曜日の(9:30~16:30)に開催いたします。ただし6月と1月は第2土曜日開催。
*講義内容や開催月は変更となる場合があります。
*企業の実地診断を1、2社実施予定です。
■申込資格 新人会員、既存会員(城東支部以外でも歓迎いたします)
■受講料 45,000円/年   ■開催場所 都内の区民館
■申込先 城東支部 能力開発推進部 大石 正明  E:ooishi@zj8.so-net.ne.jp


城西支部 城西プロコン養成塾12期生募集

主催:城西支部 JOPY委員会

 城西プロコン養成塾(略称JOPY)は、中小企業経営者に適切な助言・提案のできる診断士養成を目指し、平成17年に開講しました。JOPY修了生は、各分野で活躍し高い評価を得ているとともに、城西支部の活動を担う人材となっています。
 コンサルタントは、中小企業経営者の目線に立ち一緒にモノを考え、適切な助言を行い良き相談相手となる必要があります。知識だけでなく、現場の状況を把握したうえで、クライアントが納得する実現可能な解決策を提示する、JOPYはこうした診断士を養成します。
 診断士能力向上、基本と応用の再確認、独立を目指す方......ぜひ、ご応募ください。
養成期間:平成28年6月~平成28年12月 原則 毎月第3土曜日10:00~17:30
     ただし、商店街診断、商業診断、工場診断は別途日程を組みます。
研修会場:阿佐谷地域区民センターおよび杉並区立産業商工会館
募集人数:18名
受講料:75,000円
講座内容:講師、会場の都合により、一部変更の場合があります。

   商店街診断・工場診断・商業診断はクライアントより実務従事ポイント取得可能です。
説明会および申込方法:スプリングフォーラムにおいて説明会を行います。申込希望の方は、氏名、住所、電話番号、ファクス番号、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上、下記宛にメールでお申込みください。お問い合わせも受け付けます。
  <申込先> 城西支部プロコン養成塾(JOPY)事務局  山内 喜彦
  T&F:045-316-1416  携帯:090-3002-3507  E:ys-yamauchi@dab.hi-ho.ne.jp


第12期 城南支部 コンサル塾 東京協会で最も伝統あるプロコン塾

日  程:平成28年6月19日(日)、7月16日(土)、8月20日(土)・21日(日)、
     9月17日(土)、10月15日(土)、11月19日(土)、12月17日(土)、
     平成29年1月21日(土)、2月19日(日)、3月18日(土)
     全10回(うち1回は合宿、日程は予定)
     9:00~19:00前後・診断実務実習、視察は別日程
     城南支部コンサル塾公式サイト http://johnan-consul.com/
応募資格:東京都中小企業診断士協会会員(他支部も歓迎します)
募集人数:最大20名 受 講 料:18万円(税込み)
実施場所:座学は台東複合施設いきいきプラザ JR秋葉原駅 他


■「稼ぐ力」を強化
 安い単価を数で補う診断士ではなく、付加価値の高い仕事をし、それに見合った報酬を得ることのできる診断士になって欲しいと考えます。稼ぐ診断士とそうでない診断士の違いは、市場ニーズ、企業のニーズを掴む能力の差です。クライアントニーズの的確な把握、経営状況の分析、施策、表現力など付加価値の高い仕事をするための支援ノウハウとネットワークを提供します。
■「小規模企業対応伴走型支援ノウハウの提供」
 小規模事業者の支援ニーズも創業、経営革新、ITなど多様化・高度化しています。今後の小規模企業支援においては、このような多様化・高度化するニーズに的確に対応していくことが必要となっています。コンサル塾では経験を問わず支援方法を深められ、診断士が単独で伴走型の経営支援ができるように指導します。
■講師陣:仕事につながるネットワークを持つ講師を全国から招聘。診断士に限らず、中小企業支援機関の職員、経営者など講師となって実践的指導を行います。
■実務実習:2社程度を予定。業種、業歴、規模が異なっており標準化が難しい支援手法ですが、共通点も多くあります。「ヒアリング」「分析」「方向付け」「報告書にまとめる」、この繰り返しで支援手法が身につきます。
■講義 テーマ
 基   礎 プロコン活動の基本と営業活動、プレゼン技法・セミナーの進め方、スライドの作成・効果的な使い方
 フェーズ別 創業支援の実務、経営革新計画策定支援の実務、経営改善計画策定支援の実務、事業承継支援の実務
 機 能 別 販路開拓支援、経営分析および財務の見方、地域資源活用の実務、中小企業支援施策、融資と資金繰りの実務
 業 種 別 小売業の支援、建設業の支援
■模擬講演:自分の言いたいことではなく、相手の聞きたいこと、相手の心を動かす訓練の場です。独自ツールをつかった指導によって、プレゼン能力の飛躍的向上が期待できます。
■交流会:仕事の相談、独立にかかるさまざまな相談ができる場、講師とのネットワークづくり、コンサル塾OBとの交流の機会として、講義終了後に交流の場を設けます。


申込先:城南支部能力開発部 コンサル塾担当 星野裕司 E:fieldstar25@gmail.com
氏名、住所、電話、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上メールでお申込みください


城北支部 城北プロコン塾4期生募集

主催:城北支部 能力開発推進部

 城北支部では、診断士としての資質とスキルの向上、診断士活動の場の拡充およびプロとして仕事に役立つ人脈の形成を目的として、平成25年に「城北プロコン塾」を立ちあげました。
 "今までにない実践的スキルが身に付くプロコン塾"として、城北支部の中から豊富な経験と実績を有する講師陣の熱の籠った指導のもと、製造業、小売・サービス業、商店街支援などの幅広い切り口で、一騎当千の実力を有する診断士を育成します。併せて、受講期間中を通して塾生自らが専門分野をブラッシュアップし、"メシのタネになるコンテンツ"を1本のレポートに仕上げるという課題に取組みます。
 卒塾後は、企業診断案件への登用、認定支援機関等への専門家登録の取次ぎ、ベテラン診断士のコンサル現場への同行訪問など、"稼げるプロコン"への更なるステップアップを城北支部全体でバックアップします。
開催日程:平成28年6月~平成29年3月 <全10回>
実施場所:「北とぴあ」会議室(最寄駅;JR王子)他
募集人数:15名
受講料:60,000円
カリキュラム:
※講師の都合等により一部変更となる場合があります。

申込&問合せ窓口:城北支部プロコン塾事務局(担当:石井 邦利)

         E:jouhoku-procon-info@googlegroups.com
         紹介HP:http://jouhoku-procon.jimdo.com/


三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介

主催:三多摩支部 能力開発推進部

 三多摩支部では、平成20年(2008年)に「多摩の塾」を開始し、将来独立を志向している方および新たな領域を開拓したいと考えているプロコンに対してコンサルティング「塾」を実施しています。3~5日間にわたり座学と演習を行い、特定の分野に対してプロとして通用する技能を修得していただくことを狙いとしています。多摩の塾の概要は下記の通りです。
 
  目   的:専門的な分野を掘り下げて、「専門家派遣」にて通用するコンサルティングの実践能力を修得すること
  対 象 者:新たな領域を開拓したいプロコン、プロコンを目指す企業内診断士、自己啓発を目指す企業内診断士
  平成28年度のテーマ(予定):事業再生またはM&Aなど(予定)
  開催予定日:7月下旬~10月下旬の3~5日間(土曜日開催予定)
  募集人員:20名(定員限定)
  参 加 費:15,000円~25,000円
  開催場所:国分寺労政会館またはビジネスト(中小企業大学校)(予定)
 
 「多摩の塾」は、コンサルティングスキル全般の向上ではなく特定の分野にテーマを絞りプロとしての知識、技能を身につけることを目指しています。その到達点は、プロとして中小企業社に価値評価されるレベルです。
 毎年テーマを選定して、7月から10月までの土曜日に実施する予定です。各回とも講義およびグループワークによる演習を行います。講義と演習および演習に関わるディスカッション、発表を中心に行いますが、各自が自分自身で考えること、自己研鑽を重視したプログラムを研修に組込みます。
 講師はテーマ分野において実務経験があり、現在現場で活躍されている支部の会員または協会の会員が行います。講義を担当する複数の講師と、グループワークをサポートする複数の会員で研修を進行します。また、必要に応じて企業経営者・支援団体の担当者などを招聘して、テーマに関連した実務や実際の対応などを話していただくこともあります。
 毎年実施するテーマについては、その時々の旬なテーマ、特に地域の支援機関との連携が強いという三多摩支部の特徴を生かし、支援機関において実施される事業との連携を重視した内容にしていきたいと考えております。
 (連絡先:三多摩支部 能力開発推進部長 谷 譲治 E:garyo21@mx2.ttcn.ne.jp)

2016.03.27
サービスの差異化を目指す事業者が設備導入でものづくり補助金を活用するために行った 経営革新計画策定支援事例

TAMA活性化支援グループ 細谷 和丈

E-mail:whosoya@topaz.ocn.ne.jp


はじめに
 対象事業者は、大手の安価料金理容店が台頭する中、理容業の差異化戦略として理容業だからできる新サービス(アフターシェービングO2エステ)の提供を考えた。アフターシェービングエステに対するニーズはモニター顧客ですでに確認されていたが、今回はそれらのニーズに応え、その効果をさらに高めるためのものである。それを実現するためにはO2発生器の導入が必要で、当社でもすでに検討していたが、課題は資金調達であった。
 そうしたタイミングに理容機器輸入商社の顧問コンサルタントから、国の「ものづくり補助金」の情報を知り、補助金申請要件として認定支援機関の支援が必要なことを知った。
いろいろ調べたが認定支援機関を特定できず、対象事業者の依頼税理士から支援要請を受けたのが認定支援機関で研究会「TAMA活性化支援グループ」の会長である。
 会長が第一に取り組んだことは、研究会が3年前から取り組んできた「ものづくり補助金セミナー」に参加してもらい、補助金の申請要件などの基本的知識を習得していただくことであった。
 第二の取り組みは、補助金申請に必須な経営革新計画策定の個人支援で、税理士、顧問コンサルタントとの連携で行った。その結果2014年4月12日に申請、同年6月28日採択され、9月3日交付決定後、補助事業を遂行、同年12月2日に無事事業を終了した。

Ⅰ支援対象事業者
1.事業者概要

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2.主要サービス:理容サービス「都内に以下の4店舗を展開する。従業員21名」

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3.渋谷区幡ヶ谷店の風景  

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Ⅱ 理容業界の環境 

 理美容店「プラージュ」(630店うち理容店286店)、理容店「QBハウス」(480店)などの大型安価料金店の台頭で、理容店間の価格競争が激化し、経営環境が悪化している。当店もその例外ではない。

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Ⅲ.支援対象事業者のこれまでの取り組みと課題
1.これまでの取り組み
 ① 15年前から女性のためのシェービングに積極的に取り組んできた。
 ② 7年ぐらい前から女性スタッフが揃ったのを機に、理容師の国家資格を持つ女性による、女性のためのシェービングを打ち出し、本店の1階で女性のためのリラクゼーションルーム(ボタンジュ)を開業した。 
 ③ その結果お客様の声(ニーズ)がより聞けるようになった。そこで分かったことは「肌のくすみの改善」と「アンチエイジング」である。
 ④ このニーズに応えるための方策を探している時に出会ったのがシェ―ビング後のO2エステであり、これを当社の革新的サービスとして実現したいと考えるようになった。


2.課題
  しかし、O2エステには設備投資(約240万円)が必要で、その資金調達が課題であった。
 
3.課題解決の模索
 ① 幸運なことに、平成25年度補正「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」では、平成24年度補正「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」では対象ではなかった商業・サービスが追加された。
   この情報の提供者は当事業者と取引のあった理容機器販売商社の顧問コンサルタントであった。
 ② 社長は内容を知りたいと補助金の事務局(東京都中小企業団体中央会)主催の説明会に参加した。しかし、初めての経験で担当者の説明を十分にフォローできなかった。
 ③ また、補助金の申請には認定支援機関の協力が必要であることを知り、理容機器販売商社の顧問コンサルタントの協力を得てホームページ等を調べたが特定できず、依頼先の税理士に打診をした。これこそが正に縁の始まりである。

Ⅳ 「ものづくり補助金」申請支援の取り組み 
1.「ものづくり補助金」申請支援の取り組み経緯 
  事業者の税理士から依頼を受けたのは認定支援機関で、研究会(TAM活性化支援グループ)の会長であったが、会長はあえて個人の支援とせず、研究会をからませた二つの取り組みで支援することにした。
  第一の取り組みは、研究会主体の「ものづくり補助金セミナー」による支援であり、第二の取り組みは研究会を離れての認定支援機関としての個別支援である。

2.「ものづくり補助金」の申請支援のプロセスと方法
  表4は研究会および会員による「ものづくり補助金」の申請支援のプロセスと方法をまとめたものである。理想的には①セミナー⇒②個別相談⇒③個別支援のフルコース参加がお薦めである。しかし、実際にはセミナーや個別相談のみの参加が多いのが現実である。今回紹介の事例も日程が合わずセミナーのみの参加であった。

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3.第一の取り組み(研究会によるセミナーと個別相談)

1)ものづくり補助金申請支援に取り組めた要因
 ① 研究会員の中に補助金申請支援経験者(平成24年度補正「ものづくり補助金」で採択実績がある)がおり、また研究会自体が「ものづくり補助金」等をテーマに企業向けのセミナーを10年前から開催していたことによる。
 ② 表5は2013~2015に研究会が開催したものづくり補助金セミナーの回数と参加者数である。3年間で11回開催し、185人の参加があった。

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2)セミナー、個別相談会風景

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3)支援の特徴(セミナー・個別相談の競合優位性)

 ① 講師の実践経験が豊富でポイントを絞った解説ができる。
 ② 公的支援機関ではできない採択事例を交えた分かりやすい解説ができる。
 ③ セミナー講師を担える人材が豊富である。(会員14名中10名が経験者)
 ④ セミナーは有料である。(本気度を示す)
 ⑤ セミナー当日のオペレーションでは会員全員が自分の役割を持つ。

4.第二の取り組み(個別支援の方法と内容)
  個別支援は認定支援機関が税理士および理容機器商社の顧問コンサルタントと連携して行った。対面での支援は2014年3月24日と最後の5月1日の2回のみで、その間の支援は補助金申請書の実質的取りまとめ者とのメールでの経営革新計画書作成支援となった。

Ⅴ 取り組みの成果と課題

1.支援事業者の成果等
1)研究会のセミナーに参加した事業者は会員の個別支援・認定機関としての実効性確認を経て6月28日には「ものづくり補助金」の東京事務局より採択通知を受け取り、9月3日交付決定後、事業を完遂し、2014年12月2日には事業を終了した。
2)採択後中小企業庁のチラシ「平成25年度補正予算事業」の事例として紹介された。
 ブランド力の向上が期待される。

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3)補助金事業に取り組んだ結果、平成27年3月決算で売上もわずかながら増加するとともに、社員の一体感が醸成された。

Ⅵ 今後の取組み
1.支援対象事業者の今後の課題
  補助金事業は無事終了したが、新規事業の本格的な立ち上げはこれからである。
  以下が課題と考えられる。
 ① 本事業は2店舗で行っているが地域により集客に差が出ている。
 ② ゲット顧客(商圏内のアンチエイジング意識の高い40~50歳代の女性)に対するシェービング後のO2エステの効能を訴求する作戦の継続的展開、たとえば小規模事業者持続化補助金の活用による販路開拓などが必要と思われる。
 ③ 顧客満足を高めるためO2エステ施術技術のさらなる向上による競合優位の追求
   たとえば、社内コンペテイションによるO2施術技術の研鑽など、スタッフのさらなる能力開発が望まれる。

2.研究会活動の総括
1)活動の成果
  今回紹介した事例は研究会および会員の取り組みの代表的事例である。表7は会員の個人支援を含めた研究会全体の取り組み成果で、採択された事例が18件あった。

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2)予定外の成果
  当初想定していなかった以下の成果も出ている。
 ① セミナーや個別相談で支援スキルを磨いた会員が個人支援のチャンスを拓いた。
 ② セミナーは経営者だけでなく、中小企業診断士の意識高揚の機会も提供した。

おわりに
 TAMA活性化支援グループは15年前に設立され、当初はTAMA協会の実働部隊として会員の課題解決支援を担った。しかし、コーディネーター制度が導入されてからはその役割を終え、地域企業の経営革新をテーマに独自に活動してきた。
 10年前からは経営セミナーを通して企業の経営革新支援を、また3年前からは「ものづくり補助金」申請支援に軸足を置いて活動してきたが、これからも挑戦、相互研鑽、革新、実践を理念として、企業の経営革新を実践支援できる以下のような研究会を目指したい。
 ① 話して、聞いて、ハモる(自分の意見を出し、参加する)そんなゼミ志向の研究会。
 ② もっとアグレッシブに中小企業の経営革新支援に挑戦する研究会。
 ③ 支援対象事業者を惹きつけることのできるアトラクティブな研究会。
 ④ 成果の共有化(見える化)と先輩から受けた恩を後輩に返せる(恩送りの)研究会。
 ⑤ 他の組織(支援機関・地域診断士会・診断士以外の士会)との連携ができる研究会。

2016.02.25
ストーリーとしての「ウェブサイト構築」 コンサルティング・マニュアル

中小小売業の情報化研究会(POS研) 大久保 紀子
E-mail: n.okubo@plusyou.biz

はじめに

 ICT(IT)の活用は企業経営にとって重要な課題となっている。中でもウェブサイトを活用することによって、大きく業績を伸ばしている企業は少なくない。中小小売業の情報化研究会(POS研)では、多くのウェブサイト構築支援実績に基づき、支援事例を一般化し、ウェブサイト構築を支援するための手順をマニュアルとして体系化した。


 本マニュアルでは、コンサルティングのプロセスをフロー図で表し、各プロセスで必要とするデータ(インプット)、作成するデータ(アウトプット)を定義し、さらにプロセス間のデータの流れを示した。データの流れを「ストーリー」として落としこむことで、経営者の理解を得たうえでウェブサイト構築を進めていくことができる。現在、バージョン1(V1)としてダウンロード販売で提供している。
 (http://www.dlmarket.jp/products/detail/260653)
 
 本稿では、マニュアルに沿ってウェブサイト構築に「ストーリー」をもたせる基本的な考え方を紹介し、支援企業への適用例をとおして具体的なウェブサイト構築の事例を紹介する。

1.「ウェブサイト構築」 コンサルティング・マニュアルについて
(1)ツール開発の経緯
 企業の情報化を支援する一環として、ウェブサイト構築のコンサルティングを行う機会が増えている。特に、ホームページの作成支援を行う事例が増えてきたことから、ウェブ知識のない中小企業診断士でも支援が行えるよう、コンサルティングの方法を体系化し、「ウェブサイト構築コンサルティング・マニュアル」としてまとめることとした。
 これまでの構築支援実績をベースとしてツール開発を行い、事例として紹介する河野エムイー研究所(製造小売)、他2社のホームページ作成支援をとおしてマニュアルのブラッシュアップを図った。

(2)基本的な考え方
 ウェブサイト構築における中小企業診断士の役割は、単にホームページを作成することではなく、経営理念の策定から、費用対効果を考慮した業者選定アドバイス、ホームページ導入後の効果検証、改善までのPDCAサイクル支援まで、ウェブサイトを通した経営目標やマーケティング目標の実現にある。 
 したがって、本マニュアルでは以下の5章に分けてPDCAサイクル全体を支援することを目指している。(図表1、図表2)

201602 2p-図表1.jpgのサムネイル画像201602 2p-図表2.jpgのサムネイル画像
(3)マニュアルの特徴
 各章には、章のテーマに応じた複数のプロセスがあり、プロセスは「インプット」「ツールと技法」「アウトプット」からなっている。それぞれのプロセスでは、集めた情報を「インプット」とし、適切な「ツールと技法」を用いて情報を加工し、成果として「アウトプット」を作成するような形式を採用している。アウトプットは他のプロセスのインプットとなっており、プロセス間のつながりをデータフロー図として表している(図表3) 。

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 たとえば、第1章「経営戦略」では、7つのプロセスを定義している(図表4)。これらのプロセスのうち、「1.5 経営戦略の検証」プロセスを中心とした「インプット、ツールと技法、アウトプット」(図表5)、およびフロー図(図表6)の例を示す。
 このように、第1章から第5章までのすべてのプロセスがフロー図としてつながっているため、ホームページ作成支援において作成すべき成果物が明確になり、全体をストーリーとしてとらえることができる。そのため、支援する診断士・経営者の双方にとって理解しやすいようになっている。

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2.ツールの活用事例、成果
(1)事例企業について201602 4p-図表7.jpgのサムネイル画像
 株式会社河野エムイー研究所では、本マニュアルをもとにホームページのリニューアルを行った。
 株式会社河野エムイー研究所(代表取締役:河野英一氏)は、2002年に設立され、川崎市内のインキュベーション施設にある。
 事業内容は医療・健康機器の研究開発や技術コンサルティングである。その中でも「減塩モニタ」(図表7)を主力製品として販売している。本製品は、日々の塩分摂取量を手軽に家庭で測定するための器具である。NHKでも紹介され、複数の大学の教授からも推奨されている高血圧患者の減塩治療にきわめて有効な製品である。リニューアルまでは主として他の通販サイト経由での販売を行ってきた。

(2)支援内容
 ウェブサイトの改修に際し、経営者から課題として、以下の2点を求められた。
 ① 乱立する通販サイトから自社サイトへ誘導し利益率を改善すること
 ② NHK等のマスメディアによるパブリシティの活用
 背景として、これまでは「減塩モニタ」に知名度が不足していたこともあり、通販サイトから言われるままの値付けで販売していたが、NHKで紹介された後は売り手の交渉力が強くなったという、外部環境の変化があげられる。
 経営理念「人々の生命、健康に役立つ技術を実用化する」を確認し、経営戦略の策定を行い、「専門医師や福祉関係者の推薦、マスメディアによるパブリシティを活用し、高血圧や腎機能に不安を感じている消費者をターゲットとする」ことを基本戦略とした。その上で、ストーリーとして、「自社サイトの魅力を高めることにより、高血圧予防に興味のある潜在顧客の流入を図る。その上で自社サイト内の巡回やリピート訪問を促し、結果的に減塩モニタの販売につなげる」とした。
 以下、各章でのポイントを説明する。

1)第1章「経営戦略」
 「1.6マーケティング戦術策定の」のアウトプットとして「マーケティング戦術」、「1.7ウェブサイト・コンセプト確定版作成」のアウトプットとして「ウェブサイト・コンセプト」を策定する。
 「マーケティング戦術」は、販売サイトや商社に対し、取引数量に応じた価格を一律に適用することにより、既存の取引業者の選択と集中を行い、自社サイトにおける直販の強化を図ることとした。
 「ウェブサイト・コンセプト」は、「高血圧予防」関連用語の検索順位の上位に当社サイトが表示されるように、コンテンツの充実によるSEO対策を行った。具体的には、まずパブリシティの活用として、NHKや朝日新聞などのマスメディアにおける専門医師の推薦を紹介した。また、定期的な情報発信により高血圧や腎機能に関する関連用語や記事の発信を強化することとした。あわせて、高血圧患者は主に男性であるが、プレゼント用など購買者と使用者が異なることを想定して、女性の購入者を意識した表現にした。

2)第2章「ウェブサイトの分析」
 「第2章 ウェブサイトの分析」では、主として「2.1キーワード分析」、「2.2ウェブサイト・アクセス分析」、および「2.4ウェブサイト・コンテンツ分析」を実施した。
 「2.1キーワード分析」では、「高血圧予防」関連用語の中でも「高血圧」のようなありふれた単語では、多くのサイトの中に紛れてしまう。よって、「クレアチニン」や「慢性腎臓病」のように潜在顧客による検索数が多い割には、他サイトでの掲載数の少ないやや専門的な用語を狙うこととした。
 「2.2ウェブサイト・アクセス分析」では、まず利用者の現状を確認した。アクセス元は首都圏が多いものの全国からアクセスがある。平均滞在時間が1分、最初のページで離脱する率が45%になるため滞在時間を伸ばす余地が大きいことがわかった。動線分析では、全体の8割が検索サイトからの訪問であり、検索ワードは製品名の直接入力する割合が40%を占め、残りの5割は減塩や減塩食に関わるワードであり、製品情報取得以外を目的としていた。
 「2.4ウェブサイト・コンテンツ分析」では、スタートページを除いた人気ページは「製品紹介」43%、「減塩レシピ」11%であった。
 以上の結果から、検索ワードとして多かった「減塩レシピ」を更に充実させ「減塩食」経由のアクセス数の向上を図り、製品ページに誘導することとした。

3)第3章「ウェブサイトの設計」
 「3.1ウェブサイトの目標設定」のアウトプットとして、「ウェブサイト目標設定シート」以下のとおり設定した。(図表8)

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「3.2ドメイン選択」では、本製品そのものを強調するため、会社名ではなく、製品名である「gen-en-monitor.com」をドメイン名とした。
 「3.3コンテンツフロー計画」では、「減塩メニュー」、「クレアチニン」、「CKD」等キーワード分析で洗い出したワードを主題とするページを作成して、SEO対策を行うこととした。また、検索サイトからどのページに来ても、製品情報や注文情報に容易にアクセスできるようにした。

4)第4章「ウェブサイトの制作」
 「4.5ウェブサイト構築」については、必ずしも中小企業診断士が実施する必要はなく、適切な外部業者に依頼することも検討する。ただし、ウェブサイト制作会社が、意図したコンセプトやサイト設計にもとづいて制作できるように業者と経営者の間に立って、中小企業診断士が調整するようにする。また、「4.2CMSツールの選定」で検討するように、汎用的なCMSツール(htmlなどの専門知識がなくても簡易にウェブサイトを構築・運用ができるツール)などを利用することで、運用開始後に経営者自身がウェブサイトを更新できるように留意する。

5)第5章「ウェブサイトの運用」
 「第5章 ウェブサイトの運用」については、経営者や従業員が定期的にブログなどの更新を実施するのが理想である。しかし、日常の業務プロセスの中にウェブサイト更新業務を組み込まなければ放置された状態となる。長期に更新されていない状態はウェブサイト訪問者によくない印象を与えるため注意が必要である。経営者には高血圧関連用語の用語集を定期的に作成するように助言した。理由は経営者にとって更新しやすいテーマであり、関連用語を充実させることが検索上位に上がることにつながるからである。

(3)支援成果
 ウェブサイト改修を行った2012年度の販売台数は前年度の5倍程度にまで上昇した。(図表9)201602 6p-図表9.jpg
 支援実施後も、NHK(再放送)や新聞などのメディアで、何度か減塩モニタは取り上げられた。それらの情報を自社のウェブサイトに記載するパブリシティの活用により、本製品に対する訪問者の信頼を厚くしている。
 トップページでは改修の結果、視認性が改善し、顧客が必要とする情報や注文書に容易にアクセスできるようになった。(図表10)
 結果的に乱立していた通販サイトへの顧客流出を防ぎ、自社サイトによる直販比率が増加し、利益率の改善を実現することができた。

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3.今後の課題
 近年においてWEBマーケティングでは、ホームページだけでなく、SNSやECサイトなどの周辺技術も含めた全体的な活用が求められている。本マニュアルで作成するストーリーを軸として、業種・業態に応じたICT活用の支援ができるよう、引き続きマニュアルのブラッシュアップを進めていく予定である。
 

2016.01.29
公的オープンデータの 中小企業支援・地方創生への活用

公的オープンデータの 中小企業支援・地方創生への活用

三多摩支部データ活用研究会 黒田 一磨

はじめに

 データ活用研究会では、どういった課題に対して、どういった情報が必要で、どうやってその情報を入手するかといったデータ活用のプランニング部分(以下、「データ活用設計」)の開発を中心に活動している。診断士活動にデータを活用するための手順を整理することで、データ活用の習得の容易化や、診断の質を高めることが期待できる。

1.ツール開発の経緯

 企業活動におけるデータ活用の重要性が増している。しかし、中小企業が単独でデータ活用することは難しい。なぜなら、データ分析を習得するためのコストや時間がかかりすぎることや、自社データを分析可能な形で保有していないためである。  診断士が支援活動に使えるデータやツールは整ってきている。インターネットを通じて無料で取得できる信頼のおけるデータが数多く存在する。たとえば、総務省が運営しているインターネットサイト「e-stat」では各種統計調査の結果をダウンロードすることができる。内閣官房および経産省が運営している「地域経済支援システム」では地域に関する情報を取得することができる(以下、オープンデータ)。また、分析や効果的な表示を可能にする無償・安い解析ツールも存在する(R、QGIS等)。

 しかし、診断士の中小企業や商店街への支援活動はまだまだデータドリブンで行われていない。その原因として、個々のデータやツールの使い所と、診断手法との関係が整理されていないことが考えられる。

 そこで、オープンデータを活用した支援手法を開発した。具体的には、データを支援活動に活用するための手順を整理し、ツールや解析手法の位置づけを明確にすることを試みた。中小企業を支援する診断士は、データ分析の習得と公的オープンデータの活用により診断の質を高め、活躍の場を広げることが期待できる。

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2.開発ツールの概要

 開発ツールの概要は以下のとおりである。

 ・ツールの名称:データ活用設計

 ・活用領域・目的:中小企業支援、地方創生プランニング支援のデータ活用設計

 ・ツールの利点:一定の手順に従い、公的オープンデータを活用した支援活動ができること

(1)データ活用設計の手順

 診断活動でのデータ活用の全体の流れを解説する。まず、目標を設定し、その目標を達成するまでのプロセスを整理する。そのプロセスなどをもとに課題や課題解決策の方向性を洗い出す。この際に各課題のKPIとKPIの目標値を設定する。次に、各課題解決策をより効果的に行うための情報をデータから導き出し、課題解決策を具体化する。最後に、課題解決策の実施成果をモニタリングする仕組みを整理し、実施成果から更なる改善策を検討できるようにする。

手順概要

(1)目標を設定する

   ・目標が達成された状態を定義する

   ・目標値と期間を設定する

(2)目標達成までのプロセスを整理し、課題を特定する

   ・目標達成までのプロセスを可視化し、構成要素の数値(量や割合)を記入する

   ・改善ポイントを選定し、KPIとその目標値を設定する

   ・課題と課題解決策を洗い出す

(3)課題解決に必要な情報・入手方法を特定し、具体策を検討する

   ・課題解決に必要な情報を定義し、必要な情報(データ)の取得方法を検討する

   ・データ収集の実施計画を策定する

   ・データを収集し、分析する

   ・データ分析結果を評価し、具体策を検討する

(4)課題解決策の実施成果と目標への貢献度を評価し、改善策を検討する

   ・実施成果のモニタリングフローを設計する

   ・実施成果を評価し、改善策を検討する

3.公的オープンデータの中小企業支援への活用

 開発した手順とは別に、まずは公的なオープンデータや無償の解析ツールでどのようなことができるのかといった活用例を紹介する。国勢調査や家計調査等の統計調査結果を活用した「商圏内の地域特性・潜在購買力を推計する手法」を紹介する。次に、「商圏特性にあわせた販売促進計画を立てる手法」を紹介する。

(1)商圏内の地域特性・潜在購買力を推計する手法

 ここでは、品揃えの見直しや売上目標の設定などを想定して、商圏内の潜在購買力(市場規模)を推計する手法を紹介する。まず、商圏を設定し(駐車場の有無や、ターゲットの移動手段などにあわせて)、その商圏内の世帯数をカウントする。調べたい商品の世帯あたり購買額を、家計調査で調べ、先ほどの世帯数と掛け合わせることで、商圏内の潜在購買力を推計することができる。

 商圏内の統計情報を分析することで、地域特性の概要を把握することができる。たとえば、性別・年齢別人口から家族構成やターゲットの多寡、昼夜間人口比率から通勤通学の拠点性などである。商圏内(一定の距離内)のデータを抽出する際には、GIS(地理情報システム)の使用をおすすめする。QGIS等の無償で使用できるツールがあるので、興味のある方は試していただきたい。

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(2)商圏特性にあわせた販売促進計画を立てる手法

 商圏内の競合店や人口・世帯のデータから、効果的なチラシの配布エリアを特定する手法を紹介する。手順は、先ほどの商圏特性を調査する手法と同じで、商圏内の性別・年齢別人口からターゲットが集中して分布するエリアを特定する。配布するエリアが絞れたら、世帯数を調査し、チラシの配布にかかる費用を見積もる。また、競合店の配置を調べるために、タウンページなども利用できる。

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4.公的オープンデータの地方創生への活用

 地方創生では、「まち・ひと・しごと創生法」に基づき、人口の減少に歯止めをかけ、それぞれの地域の住みよい環境を確保し、将来にわたって活力ある社会を維持していくことを目的としている。

 これらの実現に向けた計画策定段階は、人口ビジョン策定段階と総合戦略策定段階の2つの段階に分けられる。人口ビジョン策定段階では、人口の現状・将来見通しなどを分析し、方向性を検討する。次の総合戦略策定段階では、人口ビジョンを踏まえ、より具体的な施策に落としこんでいく。

 本稿では、某地方自治体での人口ビジョン策定段階の支援をもとに、開発したデータ活用設計の手順に沿って、目標の設定、現状分析・課題設定、施策案の基礎分析例、目標(将来人口)とKPIのモニタリング・評価手法を紹介する。

(1)目標設定

 目標設定段階では、目標が達成された状態を定義し、その目標を定量的に表現し、より具体化していく。上記の地方創生の目的の通り、状態目標のおおまかな内容は定義されており、とくに補足することはない。目標値については、「4.目標とKPIのモニタリング・評価手法」で解説する。

 企業支援ではこの段階がもっとも重要だと考えている。データ分析というと、調査手法や解析手法に目がいきがちであるが、「何を調べるか(手段)」よりも「何を知りたいか(目的)」を先に明確にしておく必要があるからだ。

(2)現状分析・課題設定

 この段階では、目標達成までのプロセスを構造化・可視化し、改善するポイントや課題・方向性にあたりをつける。各構成要素の定量的なデータを明記することで、客観性を持たせることや、各構成要素の関連性を検証することが可能になる。  次図に、将来人口の維持を目標とした例を示す。

201602_tokusyu_6_1.jpg(3)施策案の基礎分析

 先ほど洗い出した各課題への解決策(施策案)の具体化や検証のために、基礎分析を行う。たとえば、周辺地域における立ち位置を把握するために、昼夜間人口比率(昼間の人口を夜間の人口で除したもの、通勤通学の拠点性の評価指標)が役に立つ。中核都市のベットタウンに位置づけられるのか、集客力があり小売業などの活性化の見込があるか、どの地域との連携・差別化を図るべきか、などを検討する際には分析することをおすすめする。また、地域内の視点では、人口密度や面積あたりの売上高が、施設配置や統廃合を検討する際に役に立つ。

 次図に、昼夜間人口比率の分析例を示す。

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(4)目標(将来人口)とKPIのモニタリング・評価手法

 各施策の目標値・KPIを前提条件として、将来人口のシミュレーションを行い、目標値の妥当性や将来人口への効果を検証する。また、実施段階における実績値をモニタリングし、進捗・目標の達成度合いの評価や、効果の検証に使える仕組みを構築する。

 次図に、将来人口のシミュレーション例を示す。

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(5)成果  本稿の執筆時点でも多くのプロジェクトが計画段階にあるため、定量的な成果は得られていない。そこで、定性的な成果として、ワーキンググループ(自治体職員、外部専門家)からいただいた感想を紹介する。

 ・データ(統計)と施策とのつながりを整理することができた。

 ・データで状況を客観的に整理することで、新たな気付きが得られた。

 ・いままで成果を数値で振り返ることは積極的に行ってこなかったが、とても大切だと感じた。

5.今後の取組予定

 診断士の立ち位置としては、データ活用のプランニング部分が本質的な部分だと考えている。ツールを使えるに越したことはないが、分析の専門業者への外注という手段もある。  今後は、研究会会員の支援経験や専門領域の知識と併せて、支援活動に必要なデータ活用手法・着眼点の整理・開発や、データを活かした企業支援を予定している。

2015.12.26
アグリビジネスにおける都市部のマーケットリサーチツールの開発と実践

アグリビジネス研究会 松井 淳、細野 祐一

はじめに
 アグリビジネス研究会では、流通チャネルを切り口として農産物および食品加工品の市場調査に使える汎用的なツールを開発した。
 このツールの利点は、消費者ニーズを極力具体化・定量化し客観的に調査することにより、農産物加工品の潜在需要を把握することができ、商品開発の方向性の決定、効果的な販路開拓、販売促進活動に役立つ点である。
 当研究会では、本ツールを、A県B町の山菜加工品の有償の市場調査プロジェクトに適用し、クライアントより高い評価を獲得することができた。

1.ツール開発に至る背景
(1)食農産業にとってのマーケット調査の必要性
 近年、食品産業の市場の停滞に伴い、商品間・産地間での農産物や加工品の競争は激化し、ブランド化に成功したものは都市部において高い価格で取引される一方で、市場価値が低いものは低価格化が続くなど、二極化の様相を見せている。
 高付加価値化と販路開拓が大きな課題となる中、農産物の主生産地は農村地域であり周辺需要が限られることと、生鮮品のままでは保管・流通方法が限定されることから、扱いが容易で付加価値の高い加工食品に加工し、地域農産物の加工品の販路開拓に取り組む農業経営体は多い。しかしその多くは、都会の人々のニーズが掴めずに、販路開拓やブランド化に苦戦しているのが現状である。
(2)アグリビジネス研究会の取り組み
 当アグリビジネス研究会では、農産物の生産から販売までのアグリビジネス全般の研究および診断手法の開発を進めており、農商工連携や6次産業化というテーマで診断士の活躍の場を開拓してきた。特に、東京という大都市を拠点に活動しているという利点を生かし、いくつかの農産物や加工品の流通加工に関するマーケット調査に取り組んできた。
 たとえば、北海道ジンギスカンの需要調査、焼き鳥店の店舗実態調査、土壌改良剤と機能性野菜の市場調査、などを行ってきた。
 これらの調査では、食農業界に詳しい中小企業診断士が中心となり、個別に調査方法を組み立て、調査してきたが、個人のノウハウをツールに落とし込んで食農業界の診断経験が少ない人でも実施できるよう、市場調査ツールの開発に取り組むことにした。
 

2.開発したマーケットリサーチツールのコンセプト
 農産物および食品加工品業界の特徴として、流通構造の複雑さがあげられる。生産者(農業経営体)、卸売業者(卸、仲卸)、加工業者(1次加工、2次加工)、小売業者、直売店、飲食店などが複雑に絡み合っており、商品の提供形態も生鮮(常温、冷蔵)、1次加工、中食(持ち帰り)、外食(飲食)と多岐にわたる。
 これらの複雑な流通形態は、食品に関する多様な消費者ニーズに応えるために、発展分化してきたともいえる。

201601-7p.jpg そこで、本マーケットリサーチツールでは、流通業者を切り口として、想定するターゲット顧客層のニーズを直接的および間接的にとらえることとした。ターゲット顧客層のニーズを仮説として作り、その仮説に基づいた調査項目を、流通形態ごとの調査項目と調査プロセスとして標準化して整理する(流通経路別ツールキット)。この調査項目と調査プロセスには経験者の調査ノウハウを盛り込み、経験の浅い診断士でも一定品質のマーケット調査が実施できる構造になっている。

 本マーケットリサーチツール開発の特徴・利点は、次の3点である。
 ① 流通経路に着目して網羅的に捉えたこと
   小売店、消費者、飲食店、食品加工業者、卸売業、ネット販売業という、農産物加工品の販路を網羅し、各販路の特徴を踏まえた調査項目と手法をまとめている。基本的にほとんどの加工食品に適用できる汎用的なものになっている。小売業や飲食業は、さらに細分化し、顧客層や購入動機別の売り方も調査できるようにしている。
 ② 調査対象に沿った帳票・手順、ITツールを準備したこと
   調査対象に基づき、調査が多面的になるよう質問項目を洗い出した。店舗の観察では、品揃えや顧客への訴求の様子がわかるようにし、消費者への調査では、出身や環境で好みに違いがでているかなど、ヒトに焦点を当てた調査項目を洗い出した。このように予め調査項目を決めることで、調査担当者が異なることによる調査結果の違いが出ないようにした。
   また調査対象によってツールの媒体も揃えた。小売店の観察は基本的には調査員が店に行き観察する手法となり、紙に記入する方式にした。個々の消費者へのアンケート調査は、ITを活用しネットで声を拾うようにした。この手法では、簡単に多くの声を拾うことができ、集計も簡単にした。また情報収集と分析が並行して行えるようクラウドを活用し情報共有もできるようにした。
 ③ 多面的な分析の切り口を整理したこと
   小売店、飲食店、食品加工業、卸売店などで、一般的に活用できる分析の切り口を準備した。また消費者アンケートにおいては、アンケート項目間での相関分析を準備し、ターゲットとする顧客層とニーズの関連を分析できるようにした。

3.マーケティングリサーチツールの具体的内容
 リサーチの目的を「首都圏における『特定農産物およびその加工品』の消費者や食品関連業者の購入・仕入ニーズを調査する」と仮定して、以下のようなツールを設計した。

(1)調査対象の範囲
 本ツールを開発するにあたって、農産物およびその加工品のマーケティングの観点から、どんな製品であっても調査が必要になると思われる調査対象範囲を列挙して、調査対象を以下のように設定した。
201601-8p.jpg 上記は1次データであるが、①~⑥の調査を効率的、効果的に行うにあたっては、2次データによる事前調査を行っておくことも重要である。2次データの調査としては、以下の分野を挙げた。

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(2)ツールの内容
 各調査対象に応じて、以下のようなツールを開発した。

201601-9p-2.jpg201601-10p.jpg

4.本ツールの活用事例と成果
(1)本ツールの提案事例
 本ツールの基本構成を作成したのち、当研究会の会員経由で、ある農産物生産者から、A県B町における「地域経済循環創造事業」(注1)への公募の話が持ち掛けられた。応募テーマが地域農産物(山の幸)の加工販売による地域のブランド化と農産物加工品の拡販であった。そこで当研究会では、同事業への応募にあたって、当ツールを用いた首都圏における販路開拓の可能性に関しての基礎調査の実施を提案した。その提案が無事採択されたため、有償での調査を受注するに至った。
(2)本ツールを活用したプロジェクトの実施
 提案内容の通り、調査事業の受注を受けて、本ツールを用いた包括的な市場調査を、平成26年1月下旬~2月の1か月余りで実施した。
 実施に当たっては、既存の標準ツールに以下の3点をアレンジして活用した。
 ① 特に依頼元の農産物生産者の関心が高いと思われ、小売店および飲食店に対しては、会員の紹介を通じて実際の食品サンプルを渡して、商品価値に対する評価も行ってもらった(合計7件)。
 ② 依頼元の農産物生産者の農産物およびその加工品は流通量の少ないものであったため、卸売業者への定量的な調査は実施せず、会員の紹介を通じてのヒアリング調査にとどめた。
 ③ 加工品に対する調査は、加工業者が全国に広範囲に分散していることが判ったため、インターネットによる調査にとどめた。また、具体的な農産物および加工品を想定していなかった標準ツールでは、調査項目に掘り下げ方が足りない部分があったため、本調査の受託を通して更に標準ツールの完成度を挙げながら作業を行った。最終的には、小売店調査(40件)、消費者調査(150件)、飲食店(20件)、加工業者(20件)、卸売業者(3件)に対する調査を実施し、報告書(本編46ページ、調査データ73ページ)を作成した。

(3)ツール適用の効果
 ① 依頼元の農産物事業者から、今回調査結果について、顧客より「予想以上のでき栄えだ」と高い評価を得た。本案件は東北地方の事業者であったため、「首都圏(都会)での、商品の使われ方、消費者ニーズや、販売現場での売られ方が分らない。本調査を通して、首都圏での販売機会の全体像を広く浅くとらえることができた」、との評価をいただいた。その事業者は、順調に基礎調査段階を終了し、首都圏でのテスト販売活動のステップへと進んでいる。
 ② 中小企業診断士として、診断調査プロセス面で、以下のような3つの効果が得られた。
  ・スマートフォン活用による調査効率の向上:手軽に回答できる利便性のおかげもあり、メインターゲットである女性の回答比率を高めることができた(40%が女性)。またWEBを使った消費者調査のため、2週間で150件ものアンケートを集めることに成功した。
  ・効果的な作業分担により短期間で多くのデータ収集が可能に:10名あまりのメンバーで実施したが、調査フォーマットが定義されていたため、調査と分析・執筆作業を分離して分担することができた。具体的には、小売店・飲食店の調査はメンバーが自宅に近い地域で効率的に分担調査を行い、データの分析と執筆はそれぞれ担当の調査対象を決めて責任をもってまとめる形が取れた。それによって多くのデータを短期間で集めることができ、調査の信頼性を高めることができた。
  ・クライアントへの効果的な提案:提案時に標準ツールを使って調査項目や内容を明示したことで、農産物・加工品分野での調査ノウハウと実績があることを訴えることができ、本研究会を交付金事業の実施パートナーに選定してもらうことにつながったと考えている。提案に当たっては、調査項目が当初からわかっていたため、今回のような短期間の調査であっても、具体的な調査実施件数等について、安心して提案時に見積ることができた。

5.今後の課題
 今回の成果を受けて、さらに、横展開を図りながらツールの精度、適用範囲を広げていくことが課題である。
(1)農業の経営診断テンプレートとして整備し活用を促進
 マーケットリサーチツールを、農業経営の経営診断に結び付けられるように、経営診断用テンプレートとして整理してアグリビジネス研究会内での活用を促進する。
 また活用した結果を研究会の中で共有し、活用ノウハウの蓄積を進めていく
(2)適用領域の拡大
 アグリビジネス研究会の一つの診断メニューとしてJAや農業団体にアピールしていく。
 また、農産物加工品だけでなく、生鮮農産物、農業サービス(観光農園等)、水産業等周辺分野へも適用をすすめる。
 さらに将来的には、農産物の海外展開に役立つよう海外の都市部のマーケット調査にも活用できるようにしていきたい。海外における日本食人気やTPPによる自由化を見据え、高品質の農産物をアジアや欧米への輸出に取り組む事業者も出てきている。これらの事業者を支援できるツールとしても展開したい。
(3)適用情報の蓄積によるリファレンスモデル作りとその活用
 多くの調査に同じ手法を適用し、調べた情報を蓄積しデータベース化することで、リファレンスモデルとして活用することが可能になる。たとえば、ある作物の需要調査において、その類似作物の調査結果があれば、需要がある市場が類推でき、より精度の高い調査が可能となる。


(注1) 総務省主宰の交付金事業で、産学金官連携により、地域の資源と地域の資金を活用して、事業を起こし、雇用を生み出すモデルの構築を行う自治体を支援するものである。

2015.11.30
TOKYO SMECAニュース12月号研究会論文

TOKYO SMECAニュース12月号研究会論文

ロスプリベンション研究会

1.研究会紹介
 当研究会は2005年、現場でコンサルのできるロスプリベンション(商品ロスの防止)手法を研究し、診断士の新しい活躍の場を創造することを目的に発足し、今年で10年を迎えた研究会である。
 消費者の購買行動が変わり、商業者にとっては売上高を伸ばして利益を確保する方法が難しくなってきている。そこで従来あまり顧みられることがなかった「商品ロス」に焦点をあて、万引き・社内不正・伝票管理をロスプリベンションの立場から解明し、最終利益を確保する増益手段としてこの手法を活用する時がきていると当研究会は考えている。

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 いままで当研究会はロスプリベンション診断として、大手CD販売店、大手雑貨店、ローカルスーパーマーケット、中堅ドラッグストア等数多くの診断を通じて経験をつみ、企業のロスプリベンション担当者とのネットワークを築いてきた。そして近年はその実績を踏まえて、当研究会が2010年9月にロスプリベンションの普及啓蒙を目的として設立した一般社団法人ロスプリベンション協会と協同で、日本で最大のセキュリティー関連の展示会であるセキュリティーショー(日本経済新聞社主催)でのセミナー等講演活動も5年連続で実施している。

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 当研究会の活動は座学と外部講師による講演、実践と大きく3部構成になっている。
 ・座学:ロスプリベンション協会で作成した「店長が学ぶ実践商品ロス対策」を使った当研究会員による講義であり、ロスプリベンションのステップ、万引きのできない店舗づくりについて体系だった内容を学習している。

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 ・外部講師を招いての講演:株式会社トイザらス、株式会社ライフ、日本万引防止システム協会等実際に現場でロスプリベンションを実施しているご担当者をお招きし、臨場感のあるお話をいただいている。
 ・実践:昨年よりミステリーショッパープロジェクトを立ち上げ、半年かけて調査マニュアル・調査票を作りあげ、今年よりトライアルとして書籍販売店、簡易調査としてヤングアパレル店のミステリーショッパーを実施した。
 今回はミステリーショッパープロジェクトの活動内容を紹介する。

2.ミステリーショッパープロジェクト
 当研究会は過去数多くのロスプリベンション診断を実施してきたが、診断にはヒアリング・現場調査等、依頼主への多大な負担や、財務諸表の開示が障害となり、なかなか踏み切れないことが多かった。そこで導入診断としてミステリーショッパーという手法により、依頼主に負担をかけることなく、顧客視点で問題点・改善案を提示することで、ロス率改善に貢献したい。そして依頼主の信頼を得て、その後のロスプリベンション診断につなげたいという思いから立ちあげたプロジェクトである。
 ミステリーショッパーをビジネスとしている事業者はすでに多く存在するため、同じことをしていても差別化できない。そこで将来的には数多く調査サンプルを集め、回帰分析等統計手法を使って、ロス率予測モデル(たとえばこの項目を改善すると、ロス率が改善する等)の確立をしたいと考えており、座学には統計に関するテーマも盛り込んでいる。
<ミステリーショッパープロジェクト>
 ・目的:ミステリーショッパーにて当研究会オリジナルのビジネスモデルを構築すること
 ・市場環境:CS目的のミステリーショッパーは数多くあるが、ロス率改善を目的としたミステリーショッパーはほとんどない
 ・強み:専門家(診断士)の目による調査、問題点・改善案の提示
    クライアントに負担をかけない調査
 ・目指す研究成果:調査結果を蓄積、要因・原因の分析を行い、ロス率予測モデルの構築
 ・調査先の開拓:株式会社日本保安(万引きGメン専門会社)のセキュリティサービスメニューのひとつとして、連携しての取り組み
 ・研究会員のメリット:診断士の診断実務実践場所の提供、実際のデータを使った統計手法
の知識の習得、新コンサル手法の開発

3.ミステリーショッパー調査事例
 今年に入って、トライアルとして書籍店6店舗、簡易調査であったがヤングアパレル店6店舗の調査を実施した。今回はヤングアパレル店の簡易調査を紹介する。

ヤングアパレル店P社
(1)対象店舗の概要
 P社はロス率の異常値が出ている店があり、担当者が困って当研究会に相談に来た企業である。首都圏を中心に全国に30店舗のヤングカジュアル店を運営しており、常に時代のトレンドに沿いながらも、自分達の主張を大切にしたスタイル提案をし続けるお店である。独自のスタイルを貫いたオリジナル商品に加え、新品から中古までワールドワイドなセレクトによる幅広い商品を取り扱っている。その品揃えはファッションだけでなく、音楽、アートなどさまざまなカルチャーをミックスしライフスタイルとして提案し続けているお店である。

(2)調査概要
 ・調査方法:下記調査票による現地調査、○×方式
 ・調査期間:2015年3月31日から4月3日
 ・調査員:中小企業診断士協会ロスプリベンション研究会メンバーのべ12名
 ・店舗数:首都圏6店舗

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 ※実際に使った調査票(調査項目はプロジェクト外秘のため隠しています)

(3)調査結果
 調査項目 中分類別に10点満点として評価

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             ※1従業員態度、2店頭店内清掃で店舗間格差がでている


 簡易調査でサンプル数が少ないので参考程度であるが
 ・総合点でA店・B店が高得点であり、その他は同レベル
 ・中分類別にみると1従業員態度・2店頭店内清掃で大きな差がでており、他は同レベル
 ・防犯機器については全店低得点

(4)調査結果より考えられる改善案
 ・A店・B店の店長による他店従業員への接客教育、本社による防犯教育の実施
 ・防犯カメラは防犯上および社内不正対策上、最低限レジ上に必要
 ・防犯ミラーは死角コーナーに設置することで、防犯上または声掛け等顧客サービス向上のため有効
 ・私服で接客にあたる店員と客の区別がつかないので、積極的な声掛け、大きな名札・腕章等一目で店員とわかる工夫の実施

(5)その他調査員からのコメント
 ・イヤリングなどの小物類を手に持って自由に歩けるため、店員の目を盗んでバックなどに入れることは、比較的容易だと思われる。ロスプリベンションの観点から経費はかかるが防犯タグは必要
 ・D店、E店は出入り口が1つなのでゲートなど設置しやすい。他の店舗も出入り口を少なくするなど、客の流れのコントロールをするべき
 ・全体的に元気な接客で声も良く出ていた。ただ、不審者対応などの教育を受けているか不明
 ・小物をいくつか持ってみたり、持ったまま動いてみたりしたが、それを不審に思っている様子はなかった
 ・店の雰囲気などに関係するが、万引き防止ポスターを貼るなど万引き対策を店側がしていることを客側に明示するべき

(6)P社の報告後の反応
 報告内容を参考にして、各店への防犯機器の導入を本格的に検討している。

4.今後のミステリーショッパープロジェクトの活動
 現在、某有名紳士服チェーンにおけるミステリーショッパーの話がすすんでいる。研究会の実績、研究会員の経験を増やすため、またデータ蓄積のため積極的に取り組んでいきたいと考えている。そして多くのデータの蓄積により「ロス率予測のモデル化」にトライしていきたい。小売店・統計に興味のあるかた、ぜひ一緒にやりましょう。

<研究会紹介>
ロスプリベンション研究会
代  表:秋元初心
メールアドレス:akimoto@a-d-d.co.jp
会員数:29名
開催日時:毎月第3金曜日
開催場所:大久保または代々木貸し会議室

関連組織:一般社団法人ロスプリベンション協会
HP:http://www.j-lpa.or.jp/

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             2014/7~2015/6活動実績

(文責:ロスプリベンション研究会事務局
 城東支部 小貫 直之)

2015.10.29
中小企業への「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」の導入に向けて

中小企業への「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」の導入に向けて

リスク・マネジメント研究会 佐々 比呂之
sassa@grape.plala.or.jp

はじめに
 当研究会が発足した1993年当時、リスクマネジメントや危機管理というのは未だ一般的ではなかった。1995年1月の阪神・淡路大震災後に一躍注目を集め、関連図書の刊行やセミナーの開催が頻繁に行われるようになった。その後東日本大震災などの自然災害はもちろんのこと、取引先倒産、事故・故障、情報セキュリティ、粉飾決算、不祥事、内部統制、法規制、経済情勢・政治情勢の変化などあらゆるところで、リスクが大きく取り上げられるようになってきた。
 一方、マネジメントシステムは国際標準規格として品質ISO9000シリーズが1987年に標準化され、1996年9月には環境ISO14001が制定されている。その後ISOは食品安全、情報セキュリティ、事業継続などさまざまな分野に活用されるようになった。リスク関連では2001年3月20日に日本標準規格JIS Q 2001:リスクマネジメントシステム構築のための指針が制定された。これはISOとは関係なく日本独自のもので、審査機関の認証を必要とせず自主的な運営ができるような仕組みになっていた。その後2009年11月15日にリスクマネジメントに関するISO 31000:2009 Risk management-Principles and guidelinesが制定された。そして2010年9月21日のISO 31000を踏襲したJIS Q 31000:2010 リスクマネジメント-原則および指針制定により、JIS Q 2001は廃止となっている。3p-図.jpg
 この規格を利用していざシステム構築をしようとしても、どこから手を付けて良いのか戸惑うばかりで、使いこなすのは容易ではない。そこで、比較的簡単にシステムを構築・運用することができる支援ツール、「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」を完成させた。
 それでは具体的な内容を見てみよう。

1.「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」
 「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」は、本文と様式編の2部構成となっている。
(1)本文
 本文は、中小企業において自社用に必要な文言(社名、組織等)を埋めていくことにより、自社専用の「リスクマネジメントシステム運用マニュアル」ができ上がるというイージーオーダー的な形式としている。面倒な規程文書をそのまま活用することができるメリットがある。
 リスクマネジメントシステムを構築するにあたり、多くの人が迷うところでもある「リスクの評価指標」については、次のような一例を提示している。導入初年度は、さらに簡単にするために評価指標を5段階から3段階に減らすこともできる。

    【画像2】 「リスクの評価指標」例

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(2)様式編
 様式編は、リスクマネジメントシステム運用にあたり、必要となる各種様式のひな形を備えている。EXCELで作成しているため、集計等の自動化をしている。
 「リスク評価・識別表」については、別に定める「リスク分類表」(多くの業種でも使用できるように幅広くリスクを拾い、大分類、中分類、小分類と分類している)を参照して、 リスク評価を一覧化するものである。

    【画像3】 リスク評価・識別表

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 【図表4】各種帳票類

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 その他にも、リスク対策実施計画シート、リスクマップ、事故報告書、情報収集シート等の各種帳票類もセットしている。

2.中小企業への導入に向けて
「リスクマネジメント」というと、多くの中小企業の社長は、「必要であることは分かっているが、まずは今日の売り上げを伸ばしていかなければ始まらない」、「大企業のものでしょ?高いんでしょ?中小企業には金銭的にも、ヒューマンリソースとしても、そんな余裕はないよ」というような反応を示す。どうしても、後ろ向きなイメージがつきまとい、余裕があるときに考えるものと捉えられていることが多い。

(1)ターゲット
 「リスクマネジメントシステムの構築」を喫緊の課題としており、コンサルティング費用を負担することが可能な企業をターゲットとすることとした。
 それではどのような場合に「リスクマネジメントシステムの構築」が必要となるのか?一つは株式の上場であるが、上場を計画している企業は数が少なく、そもそも探すことは困難である。
 もう一つは法律等の改正である。対象となる業態全体に期限を伴って求められるため、数も多く、私たちがアプローチできる可能性が高まる。
 そこで、私たちは特別養護老人ホームや保育所などの「社会福祉法人」に注目することとした。2006年の公益法人制度に連なる形で、2014年より社会福祉法人制度改革が始まった。理事長や理事に対する責任が重くなり、コンプライアンス体制の構築も求められている。
 また、社会福祉法人は手厚い補助金や税制上の優遇措置を受けている。その上、主なサービスの価格は行政により決定され、提供する量も定員等により制約を受けるため、市場競争はなく、予算通りに事業を運営することが評価される。そのために多額の内部留保金が積立てられている。(特別養護老人ホーム1施設あたりで、3.1億円の内部留保金がある:平成22年度決算) 
 
(2)訴求ポイント
 ①コスト
  「リスクマネジメントシステム」を構築するにあたり、リスク対策はやり始めればきりがない。しかし、何も初めから満点を取りにいく必要もなく、初めは抑え目にすることもできる。年間予算に合わせて、できる範囲から始めることができることを理解してもらう。
 ②文書化メリット
  理事長の頭の中には、当該施設のリスク対策について、シミュレーションをされているかもしれない。しかし、文書化していなければ、もしもの時にその場に理事長がいなければ、指示もできない。施設全体の取組みとして、改めてリスクを見直すことで、職員の意識を高める効果も期待できる。
 また、施設にとっては重要な外部監査への対応が可能になる。
 ③リスクに対する危機感
  リスクと言えば、最近気になるニュースからも次のようなものを思い浮かべることと思う。
   *自然災害の増加(地震、噴火、洪水等)
   *情報化社会のリスク(ウィルス、漏えい等)
   *金融上のリスク(為替・金利の変動等)
   *伝染病の流行(MERS、SARS、エボラ出血熱等)
   *職員管理のリスク(虐待、いじめ等)
  理事長の危機意識を高め、平時の備えを万全に行うためにリスクマネジメントシステムの導入を検討してもらう。

(3)どのように導入するか?
 次のステップを踏まえ、当研究会として、リスクマネジメントシステム構築支援までを目指す。
 ①リスクマネジメントへの関心を高め、セミナーへの誘導
  a) 広く集客するために~ インターネットの活用
「ビジネス・セミナー・ガイド」等のセミナー紹介専門サイトを活用したり、当研究会ホームページの活用を念頭に考えている。
  b) 限定的なコミュニティでの集客
社会福祉法人の団体等に対してセミナー開催の営業を行う。
 ②リスクマネジメントを啓蒙するセミナー開催
  リスクマネジメントとは、決して後ろ向きではないことを伝えたい。また、施設の周辺にリスクが多く潜んでいるという実態から、事前に備えておく必要性を認識してもらう。そのような直接的な効果の他に、間接的な効果も存在する。
  a) リスクマネジメントシステムを導入して、得られるものは何か?【直接的】
   *もしもの事態に対して、予め備えることができる。
   *事故や損失を未然に防ぐことができる。チェック機能。
   *発生してから考えるのではなく、発生する前に準備することで、落ち着いて検討できる。
   *管理者がいなくても、文書化していれば、参照できる。連絡がいつでも取れるとは限らない。
  b) リスクマネジメントシステムを導入して、得られるものは何か?【間接的】
   *監督官庁による監査等の外部監査に対する備えとなる。
   *後継者の育成。リスクマネジメント構築のリーダーを委ねることで、施設の全体像も理解できる。また、次のトップになると思えば、真剣味も違う。
   *職員の士気の向上。これまでは、はっきりとしていなかった不安について、施設全体として取り組むことで解消する。
 ③リスクマネジメントシステムの構築支援
  次のような内容での支援を実施したいと考えている。
   *参加者:理事長もしくは後継者を含む。複数名可。
   *期間:2か月半(隔週土曜日3時間×5回)
    第1回 基本方針の策定、体制の構築
    第2回 リスクの洗い出し
    第3回 リスクの評価
    第4回 リスクの対策
    第5回 モニタリング・レビュー
   *毎回、前半は前回の課題の確認、後半は次回の課題の説明。

さいごに
 今回はリスクマネジメントシステムのニーズが高まっている社会福祉法人をターゲットとするが、もちろんその必要性を感じている一般の中小企業向けにも積極的に働きかけ、一助になればと願っている。
 
 研究会名:リスク・マネジメント研究会
 開催日時:毎月第3木曜日18:30~20:30
 開催場所:「青南いきいきプラザ」港区青山4-10-1(表参道駅より徒歩10分)

2015.09.28
昨年度の研究成果~デザイン思考によるイノベーション

経営イノベイション研究会 代表 井上 美夫

1.研究テーマ選定の背景

 日本企業における意思決定は、市場調査・分析による客観的な事実を基に、組織立って合理的に決定することが求められてきた。従って、市場への投資効果や競争相手企業への優位性確保などの事前評価が求められ、これを確認するまで意思決定が延ばされる。しかし、これは大量生産・大量消費時代の物質・有形の資産が中心のモノ経済モデルで通用したことである。現在は、過去の延長に未来は見えず、未知数の市場、顧客もまだイメージにない潜在ニーズなど、価値の源泉が原料から製品、サービス、そして経験へと移り、直感的な志向から仮説を設けて実験を行う創造性、主観的意思決定がスピード感をもって求められるコト経済モデルへと移っている。また、知識社会と言われた優位性も、インターネットによって知識は瞬く間に世界に拡がり陳腐化し、コモディティ化する社会へと変貌した。世界を席巻した日本の技術立国代表企業が市場から撤退を余儀なくされている姿は、技術や品質のみではなく、魅力要因の創出へ、創造性を資源として価値を生むことを重視する世界に進展していることを示している。

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 経営者は、経済性・文化性・社会性の最適解ビジョンを構想し、自社らしい最適解をビジュアル化しつつ精緻化して、アクションにつなげて社会や社員に示す会社のデザイナーとなった。つまり経営がデザインそのものになっている。

 一方、技術としてのデザインも機能性を追求する人間工学的デザインから、需要を喚起するモデルチェンジなどの見栄えを良くするデザイン、モノだけではなくサービスなどのソフトデザインやビジネスモデルのデザインへ拡充し、企業のすべてのプロセスを通じて顧客の経験をデザインする技術へと広がってきており、対象がモノから経営そのものにシフトしてきている。イノベーション研究には必ず表出する傑出した人材を中小企業が求めるべくもない。組織とプロセスでイノベーションを興す手法として「デザイン思考」を、またイノベーションを興す「場」の研究を行い、中小企業の経営に資することができればと考えた次第である。

2.デザイン思考とは
 デザイン思考は、社会をよりよく変えるためのイノベーション技法として誕生した。人間主体の発想でイノベーションを起こし、社会に新たな価値を提供することがデザイン思考の目的である。特集-2p-表1.jpg
デザイン思考では5つのステップでイノベーションを生み出す(表1)。デザイン思考の考え方、方法を理解し、活用することで、イノベーションを生み出すことが可能である。
【STEP1 深いニーズを知る(共感)】
  人々の気持ちに共感することで本当に求めているものは何かを明らかにする。ニーズには、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」があり、理解するためには、①「観察」、②「共感」、③「洞察」の段階を踏む。
【STEP2 問題点とゴールを決める(問題定義)】
  エネルギーを集中させ、もっとも効果を見込めるポイントを明らかにすることを目的とする。①問題を構成する要素を明らかにし、②さまざまなアクションとその結果を想定、③もっとも効果が見込まれる課題の順で行っていく。
【STEP3 アイデアを生み出す(創造)】
  アイデアを生み出すために必要なことは、たった一つの優れたアイデアを生み出そうとするのではなく、可能な限りたくさんのアイデアを量産すること、および、アイデアを生み出す段階と評価する段階をきちんと分けることである。アイデアとは「既存の要素の新しい組み合わせ」を意味し、少しでも多くの情報を集め、少しでも多くの経験を積み、慣習を打ち破るという意識で、すでにあるものを利用し、新しい組み合わせを考えることでアイデアは生まれてくる。
【STEP4 アイデアを形にする(プロトタイプ)】
  試しにプロトタイピングを作るということであり、アイデアを具現化していく過程である。具現化させることで、ユーザーへの共感が高まり、作る過程で、よりよいアイデアを手にすることもできる。この過程で大切なことは、確かめたいことを事前に決め、確かめたい部分にだけ特化したプロトタイプを作成するということである。①頭の中でアイデアを固め、②手を動かし、③形を作り、④目で見て確認し、⑤さらにアイデアを練る、というサイクルを繰り返していく。チャレンジ、失敗することでアイデアが洗練されていく。
【STEP5 アイデアを評価する(テスト)】
  問題解決のために考え出したアイデアが、当初の意図とおりにうまく機能するかどうかを確かめる。対象者の誰でも解決策を活用できるかという「再現性」、感情的な視点からアイデアの納得感や重要性を検証する「妥当性」の2つの側面から評価を行う。妥当性の検証では、ユーザーが得られるメリットは明確か、そのメリットが得られるとユーザーにうまく伝わっているか、これらを重要視することで妥当性を高めることができる。
  後にユーザーからのフィードバックをもらうことも重要である。その際気をつけるべきことが2点ある。1つは「予期せぬ成功を受け入れる」ということである。2つ目は「答えを推測しない」ということである。想定と違う利用方法や効果、予想外の発言であっても、否定せず受け入れることが必要である。

3.意味のデザイン
 イノベーションを興し創造性を経営に活かすために、「デザイン思考の5つのステップ」に共通して重要なこととは、視野を広くし、正しい方向性を確保し、本当に必要な目的に向かって英知を傾けることである。あたり前のことではあるが、この「意味のデザイン」は本来の評価軸さえも変えてしまう不思議な魅力を持っている。ここでは、その例として4つの視点から「意味」をデザインしている。特集-3p-図.jpg
① 事業目的を見直す。
 従来の自社の利益を最大化する営利事業から社会的利益の追求へとソーシャルビジネスへの転換や、CSR(企業の社会的責任)からCSV(共通価値の創出)へ持続可能性を高めるなど。
② 製品・サービスの目的(本来の意味)を見直す。
 「もし私が顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えていただろう。」(ヘンリー・フォード)顧客がまだイメージできていない潜在ニーズを掴むことが必要である。
③ 目的と手段の関係を見直す。
 日本は「手段」が豊富、でも「目的」を忘れているケースが多い。手段に囚われすぎると、本質を見失う。まず「利益」ではなく「よい目的」を考えるビジネスを実践することが重要である。
④ 枠組みを変える。
 上記アフリカのある国の市場調査報告は、リフレーミングの例であるが、捉え方次第でさらなる取組みが可能となる。

4.デザイン思考の事例
(1) 3Dプリンタ革命とデザイン思考
 「3Dプリンタ」とは、紙プリンタが平面(2D)に印刷するのに対し、3Dデータをもとに立体造形(3D)することのできる機器を指し、2013年が家庭用3Dプリンタ元年となる。
 特長としては、①中空形状や複雑な内部形状も造形可能(切削では不可)、②複数の異なる材料部品が一体化された状態を一度で造形可能、③誰でも毎回同質の物を造形できる(操作者への技術依存なし)、④モノづくり経済を、大量生産から職人モデルへ回帰させる可能性などがある。
また、応用分野には、機械(試作やモックアップ)、建築(建築模型)・医療(術前検討用モデル)、教育(モノづくり教育ツール)など広範囲に適応されている。

1) 第3次産業革命
 モノ(リアル)の製造革命は、情報(ビット)革命(20世紀後半)と比べ5倍以上の経済規模であり、革命としての影響力が大きい。資本家でなくともグローバルに起業(=民主化)でき、「もの作り」のデジタル化により、個人によるデスクトップ製造業(メイカーズ)が可能となる。資金調達では、クラウドファンディングが拡大中であり、個人製造業の起業を加速させている。まさに産業革命となりうる規模と影響度である。

2) 製造業の未来
 参入障壁が低く、起業家精神をくすぐるモデルであり、利益よりも自己の充足を重視する企業家が多く出現しやすく、起業家コミュニティーが成立しやすい。このような社会は先進国では達成されやすく、結果的に先進国も低コストで挑んでくる発展途上国と同じ土俵で戦えることになる。
 
3) デザイン思考から見た『3Dプリンタ革命』
① 共感:情報革命が先行する一方、モノの製造革命が遅れており、情報のグローバル化が進む中で、モノづくり分野での革命が求められていた。
② 問題定義:手法・材料・装置本体 等の開発が長く続いたが、ようやく「ダーウィンの海」を乗り越えた。当初の課題は、汎用材料が一定の形状精度で加工可能な低価格3Dプリンタ本体の一般への普及であった。
③ 創造:金属を含む各種材料に対応した各種手法が開発されてきた。
④ プロトタイプ:要素技術の進展により、種々の機能・価格帯の装置本体が開発・商品化され、市場に広く出回った。
⑤ テスト:現状では、対象材料の拡大と、形状的・組成的な精度の向上に向け改善途上にある。グローバルなモノづくりSCM体制に向けてのさらなる発展のためには、CADデータ等の知的財産・知的資産の保護の仕組みが弱く、さらなる技術的なブレークスルーが必須となる。

(2) 社会システムの変換
 従来の主に行政による地域課題解決方法は、制度的裏づけをつくり、それに沿って予算をつけ、国⇒都道府県⇒市町村⇒民間の委託者と指導と予算を降ろしていく方法である。しかし、この方法は、①十分な予算が確保できない、②行政は人手不足であり十分な指導が行き届かない、③限られた課題に対してしか適応できない、④法制面で縛られて自由な発想や行動ができない、⑤あくまでも縦割であるため横断的課題に対応できない、⑥多様な地域資源の活用が難しいなどの問題があり、また、現代地域で起こってきている新しい課題に対応できないという欠点を抱えている。
 これらは課題解決手法における欠点であるため、現在の複雑に絡み合っている課題を解決していくためには新しい発想により、多様な地域資源を有効に組み合わせていく解決の仕組みが必要である。図1はその概念図であり、図2は障害者福祉施設で課題となっている工賃向上をどのようなネットワークで解決していくかの1案である。
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 障害者施設(就労支援B型)ではいろいろな課題を抱えている。①まず人手不足があげられる。受注活動に従事できる専任者を置くだけの余裕がなく、営業活動が十分にできない。②受注時駆け引きに合って受注単価を上げられず、低く据え置かれているということがある。③受注できると、短納期のために急に忙しくなるが、その仕事が終わると次に受注できるまで仕事のない期間ができ、稼動率を一定に保てないことなど、さまざまである。

 この1案はそれらの課題に対応するために積極的な取り組み姿勢の事業所で共同受注組織を作り共同することで上記①②③の課題を解決しようとする案である。福祉事業所だけで組織の設立や運営ができない場合は地域のNPO法人や地域の人材などが手助けすることで運営も可能になる。この仕組みでは地域のNPOだけでなくいろいろな資源を動員して受注活動、品質管理、納期管理、マニュアルづくりが可能になる。行政や企業の信頼を高めることで共同受注組織の運営をビジネスにしていくことができる。
 
5.今後に向けての課題整理
 デザイン思考は、アメリカのデザインコンサルティングファームIDEO社のコンサルティングノウハウから発展し、アップル(Apple)社の初期のマウスや、パーム社のPDA(Palm V PDA)、無印良品の壁掛け式CDプレーヤーを生み出したことで知られ、P&GやGE、サムソン、ノキアといった大企業が事業戦略に導入するなど、世界的に注目を集めている。
 当研究会でもその手法を学ぶべく、「デザイン思考によるイノベーション」をテーマに研究してきたが、まだまだ手法を使いこなすまでには至っていない。今年度は、新たなテーマとして「場」を取り上げているが、再度、「デザイン思考」をテーマに取り上げて研究を深め、実務でも活用できるようにしたいと考えている。

6.研究会の紹介
 当研究会が発足したのは、リストラの嵐が吹いていた1996年(平成8年)である。設立メンバーは、リストラよりも新しい経営手法を追求しようという想いをもって研究会を立ちあげた。設立目的は、中小企業経営診断支援の資質向上に資することであり、経営手法の研究と経営課題解決法の実践的研究活動を行っている。特に、経営イノベーションを「価値の増加や全く新しい価値の創造」と解釈し、企業が抱えている困難な経営環境を克服でき、成長戦略を実行し経営ビジョンを実現させることに貢献できる活動をそのテーマとしている。
 日本経済社会の基盤を支える中小企業が「経営イノベーション」を起こすことにより、継続的に企業変革し、さらに発展・成長し、その結果、日本の将来社会が繁栄できると確信し、「経営イノベイション研究会」が微力ながら社会貢献したいと研究活動しているところである。
 さらに、①中小企業の経営イノベーションを支援できる実践的経営手法の確立とその実践、②中小企業を指導できる実践的な人材の育成、③会員相互の情報交換と親睦、人脈形成ができる研究会を目指している。特集-7p-写真下.jpg
また、会の運営方針は;
 ○毎年テーマを設定し、そのテーマに関する会員の自主研究発表と自由な意見交換
 ○参加した全員が充実感を持って帰れるように自由闊達でフレンドリーな雰囲気
 ○プロコン、社内診断士など肩書き、年齢も関係なく率直な意見交換を行うことで、人間関係の形成とコンサルとしての力量を磨く
 研究会は、毎月第3水曜日の18:30から約2時間行っている。研究会の見学・飛び入り自由で無料であり、常に外部に開かれている。

7.10年間の実績
●2006年度:BSCを活用した優良中小企業の戦略分析(日本経営品質賞大賞(中小企業部門)受賞企業:イビザ、ホンダクリオ新神奈川、武蔵野)
●2007年度:BSC事例研究(千葉ゼロックス、福井リコーなど)、ホンダカーズ中央神奈川の見学会と感想文、『バランススコアカードによる中小企業の戦略分析~優良企業の研究』:小冊子(写真(右下))にまとめ会員に配布特集-7p-写真上.jpg
●2008年度:中小企業(3社)のBSC作成支援および報告会。併せて、実務ポイントを取得。
●2009年度:昨年度、『バランススコアカードの知識』(吉川武男)をベースにしてBSCを実践した際に生じた問題点・課題を各章・各ステップの担当を決めて検討・討議
●2010年度:『バランススコアカード実践時の問題点・疑問点に関する検討』(小冊子(写真・上右))にまとめた。
●2011年度:会員による研究発表の他、外部講師による講演を実施(講師:永和総合事務所代表税理士 原田佳明氏)
●2012年度:①会津若松経営品質賞受賞企業3社の探訪ツアーを実施(オノギ食品、向瀧(旅館、写真(下))、会津若松三菱自動車販売)、②共催セミナーの開催(テーマ:福井県済生会病院はなぜ経営革新ができているのか。講師は福井県済生会病院 事務副部長兼企画課長
●2013年度:各メンバーが研究していることをテーマに取り上げ発表した。
●2014年度:デザイン思考によるイノベーションをテーマに会員が発表した。

●2015年度:イノベーションを興す「場」をテーマに会員が研究発表をしている。

執筆担当:岩橋 秀高、長島 博、濱田 良祐、井上 美夫 他

2015.08.30
医薬品業界従事者(初任者)向け通信教育テキスト執筆報告

医薬品等研究会 代表 竹中 洋介

1.はじめに
日本は少子・高齢化の進展で医療ニーズが増大する反面、財政窮迫のため歳出抑制の政策が実行に移されつつあり、今後更なる変動が予想される状態にある。
そのため、医薬品産業従事者は、単に技術的な側面だけではなく医療経済・政策的な側面を含め、業界を俯瞰して理解する必要性が大きくなっている。このような環境下で、従来、一般製造業従事者向け通信教育を提供していた職業訓練法人より、一次依頼者を経由し当研究会にテキスト執筆依頼があり、広範な人材(薬剤師・MR・技術者・薬局経営者など医薬品・医薬部外品・医療機器など広範な分野に関与している)を擁する当研究会の活動をアウトプットする好機と考え、執筆を受託した。
 
2.執筆までの経緯・執筆中の紆余曲折その他
当時の研究会活動は主として研究会内外の講師の話を聞く受け身の活動が多く、能動的な活動の好機と考え依頼を受けた前代表がこの委託を受けることにした。
しかしながら、一次受託者が専門外であったためか、当初依頼の内容は詰まっておらず、前代表が委託元の事務所を訪問、趣旨や最近の医薬品産業の環境について意見交換し、そのうえで、当方でテキストの目次や構成そのものを立案することになった。
呼びかけに応じた9名の執筆者が集まり執筆開始となったが、執筆メンバーよりこれで本当に完成するのかと危惧の弁を頂戴したほどであった。そこで、研究会員の所属事務所で考え方を練り骨子を徹底させるなどの緻密な作業が続いた。
最も苦労したのは、医薬品の研究開発について執筆可能な会員が少なく、神戸市先端医療財団アドバイザーとして、先端の医薬品開発の情報に多く接している川端隆司会員が担当、研究開発に関する専門書籍を何冊も参照いただくなど、依頼元の構成要件を満たすべく情報の精度と品質向上に努めた点である。
 
3.留意点
対象読者は医薬品業界に従事する初任者であるため、易しい表現が必要であった。そのため、技術テキストのように専門的な部分の詳述ではなく実務的な内容を初心者に解りやすく、最近の動きまで広く織り込み相互の関係が理解できるように考える必要があった。
具体的には、最近の医療供給政策、薬事法改正の意味・その効果など現代的な内容を部分的に深く解説するためにコラムを活用したこと、本テキストを入門書として使うが実務に入ったのち、もっと深く独学できるように種々の参考書・資料を挙げたことなど、多くの工夫を施している。

4.内容概要紹介
医薬品関連企業の新入社員および業界全体を俯瞰して学ぶ機会のない既存従業員に向けた内容であり、業界の概略を学び早期に全体図が把握できるよう構成されている。

第1章 製薬・医薬品の概要
   医薬品の特性と開発の歴史
   医薬品のもつリスクと対策(相互作用・安全対策等)
   医薬品の種類  医療用医薬品と一般医薬品

医薬品の全体像を把握することを目標に一般消費財と異なる医薬品の特性(生命関連性・高品質性・使用の緊急性・価格規制など)や医薬品開発の実際(基礎研究から臨床試験を経て製造販売の承認を得るまで)に触れながら「医薬品」の概要について学べる内容となっている。

第2章 医薬品・製薬業界
   製薬企業の分類
   医薬・製薬企業を取り巻く環境と製薬企業の現状
   病医院・薬局との関係と医療保険制度

内資・外資企業、専業・兼業メーカー、新薬・ジェネリックメーカーなどの違い、製薬企業を取り巻く医療保険制度、取引先である病医院・薬局との関係など外部環境や事業モデルなど内部環境的な視点まで業界全体を広く俯瞰した内容となっている。

第3章 薬剤師・薬事法
   薬剤師の扱える業務  薬事法

薬剤師の役割、薬剤業務の実際、専門薬剤師についてなど薬剤師に関係する内容を網羅する内容となっている。また、薬機法(旧薬事法)について法改正の内容を概説している。

第4章 医薬品の研究開発
   医薬品の開発  医薬品開発・製品化の流れ
   非臨床試験と臨床試験  承認審査
   研究成果の製品化のために

医薬品開発の流れ(基礎・創薬研究から臨床試験、製品化にいたるまで)、各種試験についての解説を行っている。
第5章 医薬品の製造
   医薬品の製造工程  原薬製造工程と製剤工程の違い
   原薬製造の流れ  原薬製造工程を構成する機器
   製造工程と工場における汚染の防止
   製剤工程のフローと機器の概要
   内服固形製剤設備の汚染防止管理
   医薬品GMPの概要  医薬品製造設備に関する基準
   ICHガイドライン  PIC/S

医薬品製造工程の大まかな流れと製剤工程および各工程で使用する代表的な機器類の解説を具体的に行っている。

第6章 これからの医薬品業界
   環境変化とこれからの医薬品業界
   治療効果を上げる医薬品開発の動き
   個の医療への動き  有限な医療資源の中で

高齢化に伴う医療経済環境の変化や分子標的薬など新たな医薬品開発の実際、代替医療などのトピックスを織り交ぜながら概説している。

付録:略語一覧表

5.成果と苦労・反省点
単に依頼に沿って執筆したわけではないため、結果として膨大な作業量となった。教科書的な底の浅い、細切れの知識の提供ではなく、最近の医薬品業界、医療経済、医療をめぐる国内外の関係を読み込み、医薬品の新しい動きとその背景、法改正の背景など幅広い内容ながらタイムリーな話題は深い内容を目指した。幅広い分野をいかにわかりやすく、かつタイムリーに解説するかに主眼を置いたため、本書の内容については業界解説本としては良いものになったと依頼元から評価をいただいている。
依頼元の担当者は引用資料を隅々まで読みこなし、「最新版では、ここがこう改定されていますが、こちらで良いですか?」とたびたびの確認・提案があり、「最近の開発の具体的な動きを追加していただきたい」等の希望が出された。
二次受託の形であり、一次受託者との契約・原稿料支払や税務処理など、事務処理的な体制が当初十分でなく、9名にのぼる執筆者に対する原稿料の支払い、税務処理など煩雑な処理に手がかけられないとのことで危惧したが、関係者各位の尽力により、無事解決した。
研究会としての専門性を維持・向上していくために何ができるかを考え今回の執筆を受託したが、結果として執筆担当者の自己研鑽に加え外部に自らの専門性をアウトプットすることに繋がり、大変有益であったと考えている。

6.今後の展開
今回の執筆活動を単に有志の仕事として終わらせるのではなく、業界誌等に会員の研究成果をアウトプットすべく、その後、当研究会内に「執筆ワーキンググループ」を設置した。
今後の研究会の活動の方向の一つとして、実務ポイント獲得につながるコンサルティング案件への取り組みなどと併せ、社会に還元できるアウトプットを意識した活動に取り組んでいきたいと考えている。

                    

「製薬・医薬品の基礎」執筆者等について

執筆者全員の氏名はhttp://www.iyakuhin.org/ をご覧ください。

また、本書購入希望の方は代表 竹中洋介のメールアドレスtakenakashindanshi.jp 【▲をアットマークに置き換えてください。】までお申し込みください。折り返しご連絡いたします。

2015.07.31
中小企業の海外展開支援 ワールドビジネス研究会

中小企業の海外展開支援
                             ワールドビジネス研究会 徳久 日出一
1.研究会設立の経緯
当研究会の前身は『ISG(東京国際スペシャリスト会)』である。1990年代からJICAやJETRO等の業務を中心に内外で活動していた国際診断士が、独自にISGというグループを結成して東京支部内で情報交換や交流を行っていた。ところが、ISGは東京支部所属の公認組織ではなかったため、2005年末に発展的に解散し、2006年1月、当時の東京支部や各支部の国際部のメンバーを中心に、国際関連業務に従事、または興味を持つ診断士を対象として当研究会を設立した。

2.研究会の概要と特徴
 【研究会の目的】
 経済のグローバル化や中小企業の国際化に対応するため、以下の目的で活動している。
 ①国際社会に貢献する中小企業診断士としての知識、技術、品格の向上を目指す。
 ②国際関連・海外ビジネス情報等を収集・調査し、診断士や関係組織等に提供する。
 ③多彩な交流を通して、国際関連業務に携わる診断士のネットワークを構築する。
 【過去の活動実績】
国際関連業務に必要な知識、ノウハウ、スキルの向上を図るため、株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツと共同で、JICAやJETROをはじめとする国際支援機関や金融機関等の担当者を講師に、10回にわたって海外展開支援のための講座を開催した。
また、会員の有志により、以下のような書籍や資料を執筆・出版している。
・図解『BRICs経済がみるみるわかる本』(PHP研究所)
・入門『NEXT11がみるみるわかる本』(PHP研究所)
・図でわかる! 新興国の実力『BRICsとNEXT11のすべて』(PHP研究所)201507_tokusyu_2.jpg
・『海外進出のための基本情報2013年度版』(首都圏産業活性化協会)
 【WBAとの連携】
前身のISG解散後、研究会の発足とほぼ同時期に、診断士の国際業務を開発する法人組織として、株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ(WBA)が設立された。WBAは現在、診断士が経営し事業活動を行う企業として、東京協会の賛助会員(法人会員)にもなっており、多くの研究会会員を含め約80名の診断士が登録し活動している。
 【現在の活動状況】
通常、毎月第3木曜日にWBAのオフィスで定例会を開催している。会員約150名。

3.中小企業の海外展開
中小企業の海外展開には大きく分けて、販路開拓と直接投資(海外進出)がある。経営資源に制約のある中小企業では、最初から大きな投資をせず、「小さく始めて大きく育てる」考え方が重要である。ある程度の売上が見込める大企業の下請け等の場合を除いて、当初は海外への販路開拓からスタートして、相応の実績や営業基盤が確立された後に、本格的に海外に進出することが望ましい。しかしながら、最近では、国内市場の人口減少・高齢化、およびアジアや新興国の急速な経済発展に伴い、飲食業やサービス業等が直接海外に進出するケースも増加している。
初めて海外展開に取り組む企業は、支援機関や専門のコンサルタントなどから、海外ビジネスについての基本や考え方をしっかりと学んでおくことが肝要である。中小企業が海外で成功するためには、まず、理念・ビジョン・戦略を明確にすることである。
販路開拓の場合、海外での展示会や商談会に参加することが第一歩である。そこで自社製品に対する現地での反応や販売可能性等を調査・確認し、その後の販路開拓プロセスにつなげていく。下図のような標準モデルに沿って、展示会や商談会で興味を示した企業を選別し、有力な相手を訪問して、取引先として適当かどうかを判断することが必要である。

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4.海外展開支援事例
最近の事例として、昨年、当研究会幹事の廣井正義会員が実施した案件を紹介する。

(1)食品製造業A社の中国販路開拓事例
 ①企業概要
関西に拠点を置くA社は食品製造業である。売上の80%はOEM供給、20%が自社ブランド商品で、国内で製造・販売している。強みは長年の経験とノウハウで蓄積された特殊な加工技術で、その製品の風味や味わいは、他社では真似のできない職人技から生まれている。しかし、ほとんどがOEM供給で、日本国内では自社ブランドでの大規模展開が難しいため、海外への販路開拓を意思決定し、公的機関を使って海外の展示会に参加した。しかし、欧米やアジアで幅広く展示会に参加したものの、次の一手を打てないでいた。

 ②販路開拓戦略の再構築
展示会への出展等を通じて調査の結果、A社の製品は中国での販売に向いていることがわかった。しかし、今までコンタクトのあった企業とは数回メールでのやり取りだけで、その後連絡が途絶えていた。基本的には待ちの姿勢で対応も場あたり的となっており、自分たちで何をどのように進めていくのかという方針が漠然としていた。
そこで、中国のどの市場に対して、どの商品でアプローチし、どの層を狙うのか、それをどのように進めるかなど、マーケティング戦略の再構築を提案した。そのためには、自分たちの足で歩くことが必要であり、メール交信のみで、相手との面談なしでは販路開拓には結び付かない。商談相手と会って商品とターゲットをすり合わせ、落としどころを探る必要がある。訪問し直接交渉することで、商談をより具現化させることができる。
 
 ③現地での販路開拓支援
過去に連絡のあった企業リストを分析し、ターゲットとする企業を選択した。加えて、未接触だった企業の中から、可能性のありそうな候補をピックアップし、現地訪問することを決定。11月に上海で開催されるFHC Chinaという展示会への参加を予定していたため、そのスケジュールに合わせて、上海での訪問先を決定した。
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上海以外では北京と成都をターゲットとし、数社の主要卸売業・小売業を訪問した。日本から訪問するとどこでも大歓迎され、商談により相手先の規模や販路、得意分野等の貴重な情報が得られた。A社も、自社製品の紹介や試食、今後の計画等、具体的なプレゼンを行うことができ、お互いの理解と協力体制構築の第一歩を踏み出すことができた。
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 ④今後の活動計画
1回目の出張後、訪問した企業の特長や可能性を再度分析し、攻略する市場と優先順位を検討した。それぞれの強みを生かして、開拓するターゲットを明確化することは、今後の戦略立案には必要なことである。そして、熱が冷めないうちに2回目の訪問を提案した。当初は渋っていたが、前回の御礼とともに、今後の進め方や関係強化の依頼をしたところ、ぜひ本格的に取り組みたい旨の回答が得られ、担当者からもモヤモヤしていた営業活動への不安が一気に解消された、と非常に喜ばれた。
その後も定期的にコンタクトを繰り返しながら、少しずつターゲットと商品、プロモーション等が具現化しており、市場に商品が供給される日も近いと感じている。

(2)飲食業C社のアセアン地域進出事例
 ①企業概要
C社はラーメン店を経営している。過去の豊富な飲食店経営の経験から、日本では消耗戦が続いていること、成長するにはそれなりの体力が必要であること、一方、海外に目を向けると、まだまだ可能性の余地が高いことがわかり、海外進出を検討していた。

 ②支援のきっかけ
同社が海外展開の資金について金融機関に相談に行ったところ、経営革新の承認を取るよう言われ、認定支援機関に登録している私の方に計画立案、申請支援の依頼がきた。経営革新計画の申請と承認については、これが大変な苦労であった。所在地である地方自治体の担当者より、事業の新規性については「すでに相当程度普及している技術・方式等は不可、他社との違いを明確にすること」しかも、「海外展開で、海外子会社の業績を連結決算や配当等で日本本社に還元するだけでは不可、日本本社が直接売上・利益を得なければならない」という。これには少々閉口したが、話を伺っているうちに、この担当者は、いかにしてこの案件の承認を得るかを真剣に考えていることが分かった。そこで、何回も申請書を提出しては電話とメールでやり取りを行い、ようやく承認が取れた。

 ③事前可能性調査(F/S)
経営革新申請の際に作成した事業計画を基に、国内でさらに可能性調査を行い、海外店の進出先ターゲットとしてホーチミンとプノンペンに絞り込んだ。当初想定していたシンガポールとバンコクは、競争の激化に加えて賃料の高騰、従業員の確保難等がネックであった。一方、ホーチミンは日本料理店の市場が発展途上で可能性が高く、プノンペンは日本料理店の進出が始まったばかりで、大きな潜在力を秘めている。また、ベトナムはアセアン統合に向けてさらに市場開放が進む予定であり、今後期待が持てる。カンボジアはまだまだ発展途上だが、外資の参入障壁が低く、飲食業も外資100%で登記が可能であることが分かった。
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それらの調査結果を基に、両地での現地調査を開始。調査項目は、ラーメン店をはじめ、日本料理店出店状況、従業員の雇用状況、法規制、商習慣、不動産事情、食材調達事情、厨房機器の価格等に加えて、外国人の居住環境やコスト、物価や賃金の上昇実態等々である。
調査の方法は、日本ではインターネットや新聞、雑誌、公的機関でのヒアリング、セミナーの聴講、関係機関での情報収集。現地では、公的機関現地事務所、日本人商工会議所、日系金融機関の出先、日系のコンサル企業、不動産会社、法律事務所、税理士事務所、さらに現地に駐在している中小企業診断士のネットワーク先等を訪問した。また、事前に企業側よりインターネットを通じて、日系ラーメン店を中心に参考になりそうな日本料理店をピックアップしてもらっていた。そして、いよいよ現地調査のスタートとなった。

 ④現地調査の実施と帰国後の作業
現地調査では、面談先を訪問しながら、その空き時間を使って市内の日本料理店、ラーメン店等の市場調査を行った。店舗では実際にオーダーしてひたすら食べ歩き、写真を撮り、メモを取る作業が続いた。

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帰国後、それらの情報を項目別にまとめて整理し、事業計画に落とし込み、ベトナムとカンボジアの事業計画書をそれぞれ作成、優先順位を決めた。その上で、それらを統合する企業としての事業計画書を作成するとともに、5年間の目標B/SとP/Lを作成し、それに伴う資金計画も作成した。
現在その計画を基に、まずはベトナムでの起業を目指して、登記手続きを申請している。現在の目標は、年内にカンボジアでも登記を行い、2拠点での店舗展開を実現するべく準備を進めているところである。

☆中小企業への対応で、いつも大切にしていること

  ・相手に興味を持ち、相手の話を根気よく最後まで傾聴する
  ・経営者の過去の実績をしっかりと認識し、その功績を尊重する
  ・経営者のビジョンに向かって、指導ではなく、伴走しながら支援する
  ・答えは経営者の中にある。それに気づいていただくお手伝いをする
  ・具体的で明確なゴールを設定し、軸がぶれないように誘導する
  ・常に謙虚さを忘れず、上から目線で対応しないよう気をつける
  ・経営者と一緒に汗をかき、長期的な友好・信頼関係を構築する 


5.診断士にとっての大きなチャンス
政府の日本再興戦略の中で、具体策として「国際展開する中小企業の支援」が挙げられており、成果目標が、今後5年間で1万社の海外展開を実現することとなっている。そのため、現在、政府によるさまざまな海外展開戦略が打ち出されており、下表のように、いまだかつてないほどの支援施策が用意されている。以前は各省庁や各支援機関がそれぞれバラバラに支援策を展開していたが、今回の特徴はオールジャパンとして、各機関が協力して取り組んでいることである。

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いま、国際ビジネスに携わる診断士にとって、さらに、これから挑戦したいと考えている診断士にとっても、このような施策を上手に活用して、中小企業の海外展開を支援する最大のチャンスである。詳しい内容については、この「中小企業海外展開支援施策集」、ならびに各支援機関のホームページ等を参照されたい。

2015.06.27
新陳代謝を高める再生構造への変革を遂げる中小企業再生支援研究会

新陳代謝を高める再生構造への変革を遂げる中小企業再生支援研究会

筒井  恵

me.tsutsui@linksp.jp

1.研究会紹介
2006年度、再生手法の調査研究に端を発し、今年10年目を迎える。研究会は二部構成になっており、第1部は、外部講師を招き、2008年度に中小企業庁経営支援課課長、2014年度に岡山の世界的優良企業『林原』林原靖氏にご講演いただく等、中小企業庁、中小事業再生支援協議会、金融機関等との連携を深めている。第2部は、第一線で活躍されている講師陣により実践現場から旬のテーマで講話いただいており、企業再生スキームを実践交えて習得できる。
金融緩和から変わろうとしている今、企業再生の支援ニーズは益々高まっている。新陳代謝を実現するため、事業承継&再生は国を挙げたテーマとなっており、激変する企業再生のスキームを深耕する研究会である。
事例として、業態転換した事業者の再生内容を以下に提示する。

2.事例研究 ~ニット製造業~
(1)事業再生の概要
従業員40名、資本金10,000 千円
当社は、ニット製品の製造業として製造主体の工場を長年業としていたが、機械装置や工員を維持管理しながら事業継続するには市場獲得が困難になってきた。このまま事業を継続しても、採算がとれないことは明確であり、経営革新を図ることが必至であった。
事業社と検討していく中で、取引先との信頼関係をより強固なものにしていくために、新たな取り組みとして長年ニット製造業として培ってきた独自の技術を生かし、本格的なニット製品の修理・リフォームサービスの提供とこれらを総合的に機能させるため、サプライチェーンの支援体制を構築していくことを目標とした。

(2)窮境原因を分析
①製造工場の方向性
かつては量産品を扱っていたので、採算が取れていたが、多品種少量生産になり、自社で製造するのは割があわなくなった。相当のパート・アルバイトを雇用していたため、人件費負担は大きかった。自社製造では限界があると判断し、分散化・外注するようにした。

②営業所の失敗
製造工場を維持するために、新規取引件数の拡大および売上の増加を目的とし、営業所を構えた。営業スタッフを3名増員し、恵比寿に営業所を開設したが、これが裏目に出た。営業所の維持が相当の負担になっており、担当者3名は解雇した。1年で実質閉鎖するまでの間、賃借料は払い続けた。多少売り上げは伸びたが、大きな損失を空けてしまい、その期の決算は15,696千円の赤字を計上した。
売上は40,000千円のダウンであるが、かかる経費削減と、粗利率向上によって、繰越損失は清算できる見込みである。

③自社のコア・コンピタンスを活かしきれていなかった
ダイレクトマーケット事業としては、全国300社の専門店を確保できているにもかかわらず、活かしきれていなかった。

(3)窮境原因の除去策
①請負製造業からの脱却
ニットの修理専門サイトを構築し、専門店と取引する中で、専門店側300社の賛同を得ながら立ち上げた。修理機能など、リテールサポート機能があるので、専門店にとって有効なサイトになりうる。高級ニット製品の直しを中心としたパイプの太い修理専門店として構築した。
外注先は、品質レベルが確保されており、ニット製品とともに外注先製品をラインナップして市場に流すことが可能であるため、当社とWin-winの関係を築くことができる。

②営業所の撤退
営業所の成果を出せないまま、運転資金(家賃、人件費、活動費、等)も相当支出した。営業所を閉鎖するまでの間、大きな損失を空けてしまった。営業所撤退した後は、単純計算で30,000千円/年の経費削減が実現できた。

③コア・コンピタンスを活かした事業革新
撤退するまでの1年は大幅赤字であったが、欠点を是正(コンサル営業の復活と、営業所の閉鎖)し、その後、新規事業に着手する。今回の経営革新の核となるアウトレット店舗とニット修理専門サイトの運営を行うことで、顧客の囲い込みとサプライチェーン支援の実現を目指すビジネスモデルを構築した。

(4)経営革新の内容
①経営革新の内容を洗い直した上で、当社の強みとして以下の項目を洗い出した。
・製造直売による低価格販売を実現。
・全国優良専門店が行なっている顧客満足向上ノウハウを持っている。
・全てオリジナル商品なので、顧客の要望を即製品化する事ができる。
・原材料メーカーの糸や生地の余材を利用し、OEM先メーカーの閑散期などを使ってディスカウント製品を企画し、コストパフォーマンスを実現できる。
・OEM依頼先製造業者からの商材提供等のコラボレーションにより、幅広い商品構成が可能である。
・バッグ製造業者の在庫を代理で販売するなどのコラボレーションにより、販売アイテムが豊富に揃う。

②当社のコア・コンピタンスを活かした新たなビジネスモデルの展開で、以下の革新事業が期待できる。
・大手アウトレット=安売り量販店、とは品質・サービスともに大きく性質が異なる。
・既存取引先である全国300の専門店へ、ライバル他社が真似のできない、弊社独自のニット製品の修理サービスを提供し、より強固な取引関係を構築していく。
・HPを開設し、インターネットを使ってエンドユーザーへ幅広くニット製品の修理サービスを提供していく。
・Webを通じて顧客となったお客様に対し、同時に商品紹介も行ない、直接販売にまでつなげる。

③ビジネスモデル図

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(5)川上の差別化要因(大手メーカとの差別化)
・修理を拒む:工場の生産ラインをとめてやらなければならないので、費用が高額になる。
・手間のかかるサービスについて、大手はしたがらない。
・1週間~2週間で修理できるところ、大手は製造業者の空き手間を待つため、1ヶ月以上待たなければならない。
・修理方法が雑で、元の高級ニットデザインの特徴を殺してしまう。
・消費者ニーズを汲み取って対応できるだけの人材が存在しない。
・バッグ製造業者等は、むしろ取引先になりうる。品質レベルが確保されるのであれば、当社製品とともにラインナップして市場に流すことが可能であるため、Win-winの関係を築くことができる。

(6)川下との差別化(価格訴求品量販店等と比較した優位性)
①価格訴求量販店と比較した優位性
量販店は、紡績の質の圧倒的違いがある。着衣してみると理解できる品質なので、販売店も取り扱いしやすい。プライスラインはユニクロでも通用する値ごろから高級品までの幅があるが、全般に金額以上の満足度は得られる。よって、価格訴求量販店よりも強いポジションで展開できる。

②百貨店・専門店と比較した優位性
・百貨店・専門店では、上代を下げられない。
・百貨店・専門店では、修理方法含め製品のノウハウが乏しい。
・対面販売であっても顧客管理の荒さが出ている。
・百貨店でそろえきれない商材も当社では取り扱うことが可能である。
・当社は、デザインの情報収集から製品化、流通させるまでのリードタイムが短い。

③Webサイトの優位性
販売サイトは楽天、古着オークションなど、多く存在する。一方、修理サイトは手間がかかるため、大手は参入しづらい。サイトを運営しているのは、縫製業者もしくはミシン販売業者である。全国的に見ても、修理は片手間で運営している事業者が大半で、リテールサポート機能を有し、消費者と製造業者をつなぐサプライチェーン構築を具現化している修理サイトは当社に限られるのではないかと検討した。

(7)再生成果
多く存在する「たたき売り」タイプのアウトレットと比較すると、当社は、戦略的で確実に利益を上げられる仕組みが構築できている点で、他には見られない形態である。修理についても、他社は修理スキルが低いので、元のデザインを壊して修理してしまうケースが多い。品質の確保ができるのも、当社の強みであり、信用である。
アウトレットショップとニット修繕専門サイトの運営の相乗効果がみられ、粗利確保の仕組みも構築されており、新事業が高付加価値を生み出したことで結果が出た。
計画1年目からの販売管理費については、売上高対比で直近の33.1%から1年後25%に大きく低下しているが、直近の販管費には売上高への貢献が低かった営業所の営業担当3名の人件費半年分が含まれており、この金額を除くとこの期の売上高対販管費率は、約27%である。また、付加価値の高い新規事業の売上高構成比率は、計画以上の伸び率を示した。
結果、1年目から黒字化し、早い段階での再生が果たせた。今後は、更にローコストで専門店の囲い込み、並びにネットとの相乗効果を目指す。

3.これからの再生支援あり方
当研究会が発足した当初は、再生手段としてコストカットの対策が主流であった。
第1段階:P/Lのコストカットはすでに済んでいる
  ↓
後に、不動産処分含めて、B/S是正対策が行われた。
第2段階  個人資産含めて、資金投入は終わっている
      ・不動産抵当、処分、証券処分等々
      ・売れない不動産だけが残っている
  ↓
それでも円滑化法から緩和策が継続しているうちはよかったが、終結してから連続営業赤字、債務超過となっている企業の再生は困難をきわめる。営業外の負荷が大きく、支払利息が払えない状態も生じている。
  ↓
第3段階の策:知恵を使って仕組みを変え、利益体質にしなければ残れない時代
日本の企業数の99%、全雇用の95%を占める圧倒的ウエイトの中小企業経営者たちとその家族にとって、新陳代謝が避けられない。そこには、単なる企業の再生だけではなく、「事業承継」、「会社経営の退出戦略」、「業種・業態転換」が複雑に絡んでいる。これらを含み置いた、「P/L革新」がはかれないと、本質的な再生は果たせない。

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新しい産業を創出する活気溢れる国づくりの提唱の背後には、廃業も避けては通れない。「会社経営の退出戦略」「失敗の痛み」含め、再生・廃業のフェーズでは、経営者個人やその家族に押し付けて決着を付けるという現在の前時代的なやり方も多く存在する。これらからいち早く脱して、社会全体が「リスクある挑戦の意義」を充分に汲み取り、その失敗の痛みを「広く薄く分散し吸収する巧みなシステム」を、備えていなければならない。

そのために、中小企業再生支援研究会(CSS研)は、再生の現場を深耕し、1社でも多くの中小企業健全経営に寄与する研究会でありたい。

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研究会は、2部構成になっており、第1部講話は、再生の現場で活躍している診断士の事例紹介となっている。第2部講話は、全国の中小企業再生支援協議会統括責任者、金融機関、等から外部講師を招き、ホットな情報を提供していただく内容になっている。

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2015.05.30
ケーススタディによる事業承継支援ツール

ケーススタディによる事業承継支援ツール

事業承継研究会 庭野 勉

1.開発の経緯
(1)取り組みに至る経過と目的
 事業承継研究会は、2005年10月に中小企業の事業承継支援を研究する目的で設立された。活動内容としては、月一回の定例会で、経営者や税理士・弁護士、事業承継支援機関・金融機関の関係者などを招いてのセミナー開催、さらには会員による事例発表などを行ってきた。201506_特集-2p図.jpg
 これらの研究会活動を踏まえて、これまで「中小企業診断士のための事業承継マニュアル」(2008年2月)、「事業承継塾テキスト」(2010年9月)を発行してきた。
 「事業承継マニュアル」は、事業承継支援において実務経験豊かな中小企業診断士が、この分野で活躍したい専門家のための手引としてまとめたものである。「事業承継塾テキスト」は、「事業承継マニュアル」発行後に新たに施行された事業承継円滑化法の制度概要などを追加しつつ、事業承継を控えた経営者および後継者向けのセミナーや研修会のテキストとして発行した。この「事業承継塾テキスト」は、毎月の研究会とは別に希望者を募り、プロジェクト形式で取り組んだものである。

 その後、会員の取り組み事例も増え、また、事業承継に関して中小企業診断士に対する期待が一層高まってきた状況を踏まえて、会員から新たな成果物を作成しようとする機運が生まれ、再び研究会内にプロジェクトを立ち上げ2012年7月から取り組みを開始した。
 前2冊は、どちらかというと理論編であったが、その2冊を踏襲しつつ、より実践的なものを作ろうと、目的は次の3つに設定した。
 ①生きた教材としての事例を提供し実践に使えるツールとして開発する
 ②過去のマニュアル類の検証(事例と理論の整合性、最新の統計データ類採用等)
 ③作成を通じて会員相互に学び合い、さらに実践的理解を深めること

(2)体制および取り組み
 20名の会員がプロジェクトに参加したが、特に今回は、研究会会員としても増えている弁護士・税理士等、他士業の資格を持つ会員の参加を得て取り組むことができた。事業承継は、経営と財産の2つの側面から取り組む必要があるが、弁護士・税理士の参加により財産の承継についてより深くまとめることができた。中小企業診断士だけでなく、他士業との連携が課題解決に必要となる事業承継支援という性格上、非常に有意義であったと言える。
 2012年7月のキックオフミーティング以降、事例を持ち寄り、定期的に打合せを重ね、2013年10月に冊子が完成した。

2.基本的な考え方
(1)総論の解説と事例で理解を深める
 総論と事例に一通り目を通すことによって、事業承継における課題全体に対する支援の流れがイメージできる。総論では直近の動向も踏まえ、支援にあたっての基礎的な知識を解説している。例えば、年齢が離れた後継者に対して経営課題の共有化とともに、段階的に引き継いでいくことの重要性を各段階における留意点とともに解説している。成功事例とともに、後継者の理解が不十分であったり、承継後に経営者が介入を続けたことによって、失敗した事例も解説している。理論と実際の事例双方に触れることによって理解を深め、実際の相談対応の場面で経営者に対して留意点として紹介し、解決の手がかりとして活用できる。
 また、巻末に、キーワードで総論と事例の関係を整理しており、索引として活用できるようにすることによって、単なるチェックリストとは違い、事例を踏まえて初心の支援者でもイメージを膨らませることが可能となっている。

(2)事業承継の4類型に合せた事例により支援の取り組み手順を実践的に理解
 事業承継の一般的な4類型(親族内、親族外、M&A、廃業)に合せて7事例を掲載しているが、各事例とも統一の事業承継計画にそって概要をまとめ、支援の手順と事業者の課題に対する把握項目を整理している。また、取り組み経過についても時系列的に整理している。このことによって、支援者が新たな案件に取り組む際には、手順や発生する典型的な課題をあげることができ、解決方向について事前にシミュレートすることも可能である。

(3)他士業からのアドバイスを掲載
 株式譲渡や「争族」回避等、財産の承継課題では他士業との連携が重要となる。今回、弁護士や税理士といった他士業の資格を持つ会員が参加し、4つの類型で起こった財産承継問題に対して、税務・法務面で的確に解説できており、今後同様の問題が発生した場合の参考になる。また、今後連携する場合のポイントが明確になっている。さらに、総論において基本的な理解を深め、各事例に対する具体的な解説によって、留意点が一層鮮明になっている。

3.構成
 全体の構成は、次のとおりである。

【第1部】(総論)
①事業承継の現状・課題
 中小企業白書等のデータをもとに現状や経営者の抱える課題等を整理
②相続人への経営の承継
 子息・子女への承継について、事業承継計画策定と後継者育成を関連付けて留意事項について解説
③相続人以外への承継
 親族外あるいは相続人以外の親族などが承継する場合の後継者の選定、承継計画の策定、後継者の育成、およびM&Aについて解説
④廃業
 廃業のパターンなどについて解説
⑤株式承継対策と税務
 事業承継の4パターンごとに自社株式の承継方法について解説
⑥相続
 資産の承継について、主に遺留分対策や円滑化法の民法特例等を含めて解説

【第2部】(事例)
①株価対策を優先し経営権承継を失敗した事例(親族内)
②後継者と経営状況の認識を共有して成功した事例( 〃 )
③社内に後継候補となる複数の親族がいる場合( 〃 )
④親族外後継者に新会社を設立させ事業譲渡を計画している事例(親族外)
⑤親族外後継者へ株式を移行する事例( 〃 )
⑥社外の事業者に事業を承継した事例(M&A)
⑦事業承継と争続回避のため前向きに廃業した事例(廃業)

<参考資料>
第1部と第2部の関係表

4.ツールの特徴と活用方法
(1)事例を通じた取り組み手順の提示
 各事例とも同一の項目立てで構成されており、概要を分かりやすく整理するとともに、課題に対して把握すべき基本項目や、取り組みを進める際の基本的な流れをイメージできるようになっている。また、中心となる事業承継計画表も統一様式で再整理し、モデルになるよう工夫している。
 事例の流れを整理すると以下のとおりである。
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(2)統一的な事業承継計画表の活用
 事業承継の課題対応のなかでは、経営者との間で目に見える形の計画表を作成し確認することが重要であるが、本ツールでは、一般的な計画表の項目立てに合わせ、各事例で統一様式の計画表で整理している。このことにより事例の全体像が分かりやすくなっているとともに、今後、案件に取り組む場合のモデルとして活用することが可能となっている。
 計画表の構成は、次のとおりである。
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(3)事例と総論での解説の連動性
 各事例における取り組みの経過に沿って、より理解を深めるために、巻末に関係表を整理し、各課題に対して第1部の解説と結び付けている。
 事例4を例に取り、具体的に一部を紹介する。
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5. 本ツールの普及と今後の活用
 本取り組みは「事業承継ケーススタディブック」として300冊印刷し、当研究会会員はもとより、希望者に有料で配布し、実際の支援において活用されている。
 また、関東経済産業局や(独)中小企業基盤整備機構、(公財)東京都中小企業振興公社等の行政機関や支援機関、都内金融機関等にも配布し、事業承継支援での中小企業診断士の果たす役割の重要さを訴えることができた。
 なお本書は、本研究会がこれまで作成した2冊のマニュアル類と併せて、事業承継課題に対する支援に際して活用できるものと期待している。

6. 今後の課題
(1)事例の蓄積
 現在、経営者の高齢化と後継者不足等、事業承継に問題を持つ事業者が増加しており、専門家に対する支援ニーズが高まっている。様々な支援機関や団体からの刊行物や一般書籍で事業承継に関する解説書が出版されているが、経営と財産の承継について併行的に取り組んだ事例の解説書はまだまだ少ない。
 当研究会の活動として、引き続き経営者や各専門家の講演等を通じて実践的ノウハウや情報の蓄積を図っていくとともに、今後も中小企業診断士が実際に携わった生の事例を収集し、様々な場面で効果的な支援ができるようなツールを作成していきたい。

(2)後継者育成への取り組み
 本冊子でも後継者教育の重要性や手法等について総論および各事例において触れているが、今後の課題としては、後継者育成に関する体系的なマニュアルやツール類の開発と整備を図っていく必要があると考えている。

 なお、本冊子は、当研究会で余部を持っており、希望者に対しては有料で配布している。

2015.04.29
経営改善の新たな進め方とIT化モデルの提供

経営改善の新たな進め方とIT化モデルの提供

SCMとIT経営・実践研究会 吉村 正平
yoshimura-m@mbm.nifty.com

<活動の経緯/開発の経緯>
 「SCMとIT経営・実践研究会」(略称:SCM研)は、1999年にサプライチェーン・マネージメントの概念・手法・標準化や実例等の実現状況を研究する「SCMビジネスモデル研究会」として、発足した。2006年からはIT経営の実践を研究することを明確にした現在の名称になった。
2013年度、東京協会から「中小企業のIT化支援」の理論政策更新研修を依頼されたのをきっかけに、新たな分科会として更新研修企画プロジェクト(略称:K-プロジェクト)を立ち上げ、研修内容を吟味し、資料としてまとめ、研修会を5回実施した。

 講義内容を討議していく中で、「研究会で対応した事例や発表してもらった事例を盛り込む」、「経営戦略や課題解決を検討する段階に支援が必要」、「戦術の重要な要素として『IT』を武器とする考え方」や「中小企業の相談相手である診断士を研究会メンバが支援できないか」などの意見が出された。
 「中小企業のIT化支援」を実践するときの課題に対する「ソリューションサービス」を研究会で作っていこうという機運が高まり、研修実施後も経営診断支援プロジェクト(略称:K-プロジェクト)を編成し、「経営診断支援サービスメニュー」や「ボトムアップ・アプローチ」「ジャンプアップ・アプローチ」の具体化を進めている。

1.ツールの開発の背景
 中小企業診断士がIT化を経営者に助言するために、理解しておくべき事項と助言するときの参考資料をまとめ、具体的な構築手順「ボトムアップ・アプローチ手順」とIT化業務モデルシステム「受注管理業務」を開発した。

1-1.「中小企業のIT化支援」は如何にあるべきか?
 中小企業白書(2013年版)の従業員規模別のITを導入していない理由に、「導入効果が分からない、評価できない」、「コスト負担が過大」、「IT人材不足」、「従業員のIT活用能力不足」があり、「適切なアドバイザー等がいない」も上がっている。
 中小企業のIT化の課題を次の4点にまとめた。
 ①経営者の経営目標が不明のために、実現手段としてITが使われない。
 ②IT人材不足のため、特定の個人にノウハウが集中し、組織的な対応ができない。
 ③従業員のIT能力不足のため、外部ベンダに依存し、迅速な対応ができない。
 ④各現場個別のIT利用で、経営効率化に結びつかない。
 IT化の課題に対して、発想の転換が必要と考えて、4つの新たな視点を提案したい。
 【効率化から付加価値増加へ】
  省力化よりも顧客に訴求できる業務改善への利用へ
 【経営改革活動でIT適用の検討を】
  経営改善に挑戦する経営者に中小企業診断士が助言すべき
 【開発投資コストだけでなくITの生涯コストで評価する】
  開発コスト、運用コスト、改修コストに加え、遅れによる機会損失コストも考慮した投資評価を
 【開発業者に依存しない維持改修体制へ】
  DIYがおすすめ:社員が学習しやすいツールを選択し、社員のITリテラシー向上に投資を

 具体的に、経営者に助言するための方法を体系化した。
 経営者が望む"ありたい姿"に向けた実現手順を3つのタイプのアプローチ「トップダウン・アプローチ」、「ボトムアップ・アプローチ」、「ジャンプアップ・アプローチ」がある。SMECA5月-特集-3p図.jpg
 「トップダウン・アプローチ」は、戦略に基づく業務の全体最適化を目指して、社長主導で進められる。例えば、全社統合システム(ERP)を導入する場合には関係部署を横断したプロジェクト体制をとり、1年以上の構築期間と移行期間を経て、運用を開始する。
 「ボトムアップ・アプローチ」は、現場の継続改善による現場力強化を目指すものである。これは、目の前にある身の回りの業務を改善しながら、ありたい姿に向かう小集団活動であり、日常業務を行いながら、数か月単位の改善を繰り返す継続活動である。
 「ジャンプアップ・アプローチ」は、目標・目的に向かって仮説に基づく新たな道を切り開くもので、従来の活動からは離れた特命体制で取り組み、成功するまで試行錯誤を繰り返し、経営者の支援がある限り挑戦する。
 以上の3つのアプローチを選択肢として、中小企業診断士が経営課題を解決するのに適した手順を経営者に助言する。さらに、情報セキュリティ、個人情報保護、知的財産権への対応も助言することを提言した。
 以上の内容をまとめたものが、更新研修資料「中小企業のIT化支援」である(参照資料1)。


1-2.IT化支援に新たな追加提言
 IT化の課題(②、③)の解決策として「自社要員によるIT化」を提言した。

 提言1:投資効果を「開発投資コスト」を含めた「IT化の生涯コスト」で評価する
 企業活動におけるIT投資効果は運用してはじめて効果測定が可能となる。そのとき、評価対象となるコストは開発コストだけでなく、運用開始後の運用コスト・改修コストを含めるべきである。ハードウェア・ソフトウェアのコストは大きく低下傾向が続くが、人件費がコストの中心である導入・運用・改修コストは低下しにくい。
 外部委託して構築した仕組みの改修は、委託先企業に依存せざるを得ない。ところが、委託先では、変更要件の理解と改修方法の発見・改修箇所の特定・改修後の全体稼働確認の時間とコストが発生する。このような外部への流出コストに加え、結果には表れにくい対処遅れによる機会損失コストへの考慮も必要である。

 提言2:開発業者に依存しない維持改修体制へ
 ITの内製化へ方針変換すると、社内要員のITスキルの育成コストが課題になる。
 しかし、情報化社会においては「従業員のIT活用能力不足」を解消すること(情報リテラシーの向上)は、情報セキュリティや個人情報保護、知的財産権保護の要件からも必要な人材育成事項である。
 中小企業でもExcelを使うITスキルは自動車免許程度に普及しており、社内要員の継続育成を考えると構築・運用・改修を担う人材の育成コストが小さい(前提スキルが低く、学習時間が少ない)ツールを採用することが現実的な選択であり、個人に依存しないために、複数の社員による兼任体制を目指すことが大切である。
 自社開発を実践している企業では「環境の変化に合わせて事務処理やものづくりを自分たちで変えられる意識を持てるようになることが、大きなメリットである」と発言されている。

 以上の内容をまとめたのが、研究会発表資料「ボトムアップアプローチ手順~DIYがおすすめ~」である(参照資料2)。

2.経営改善の新たな手順とIT化モデルの開発
 IT化の道具として、Excelのデータを活用できるコンテキサー(Contexer)を取り上げた。
 SMECA5月-特集-5p図.jpg法政大学の西岡教授が提唱された「ITカイゼン」と開発されたデータ連携ツール「コンテキサー」は、工場現場の情報のムダ取りと情報の清流化を狙いとした仕組みである。工場の生産計画から現場の作業指示まで生産管理全般を対象とした、今野製作所の適用事例等の中小企業の適用事例も公開されている。
 生産に必要な情報伝達は、注文(オーダ)の単位に各種マスタデータを参照しながら業務間を流れていく情報処理である。工場のIT化の経験者が現場で使える連携ツールのソフトウェア要件を提言し、それを満たすようにソフトウェア「コンテキサー」が企画・開発された。
 コンテキサーは、業務の流れを実現するデータ連携ツールである。Excelの表形式とおなじような項目のタイトル行とデータをもつレコード行で構成される表(パネル)が基本単位である。
 表のデータ編集機能に加え、表と表の関連付けや表の外部ファイルとの入出力を使って、情報処理を行うことができる。表と表の関係付けは転記、限定、補助の三種で、詳細をパラメータで指定する。データ編集・操作(アクション)をまとめて手順(コマンド)が登録できる。業務に必要な演算・操作をプログラム言語の知識がなくても組み込むことが可能で、担当者の作業を支援する自前のシステムを構築することができる。
 このツールを中小企業のどの業種にも使える業務改善の道具であり、「ボトムアップ・アプローチ」を実現するITツールとして位置づけ、具体的な業務間連携のIT化モデルシステムを開発した。

2-1.ボトムアップ・アプローチの手順の開発
 従来は「トップダウン・アプローチ」が取られており、今までにはない取り組みとして、「ボトムアップ・アプローチ」について具体的に手順を作成した。
新たな経営改善の進め方は、現場の情報リテラシーの向上を伴って、経営者と社員が一体となって、段階的に継続的に進める。大きな区切りとしては、次の3つの段階を推奨する。
 第一段:現行担当業務の処理をIT化
 第二段:業務見直しと業務間のデータの清流化
 第三段:業務連携の強化と基幹システムとのデータ連携

第一段:現行担当業務の処理をIT化
 現場の伝票、台帳、帳票をもとに項目情報とデータの整理・整頓・精査を実施する。
 手作業やExcelで行っていた人間系の処理部分を、コンテキサーで行えるように、画面上でデザインする。保有のExcelデータはCSV形式で受けとることができ、プログラムの作成なしに試行が可能である。RDB等のデータベースを内蔵していないため、項目追加・変更、新たな表の追加などが画面上で簡単に行える。この作業を通じて、担当者に業務のIT化に慣れてもらう。SMECA5月-特集-6p図.jpg
 受注伝票のような細目があるものは、受注に対する複数行の細目を細目表に記録し、状況変化に応じて更新する。その結果をもとに他の業務で必要なデータ(たとえば、仕入リスト、出荷リスト)を必要なタイミングでCSV形式のファイルで渡せる仕組みが現場で作れる。表間の項目転記や表間の制約条件により伝票項目と明細を関連付けた階層表現の編集、条件設定による一括編集、時間経緯による在庫推移表や資金繰り表などの時系列表展開などが可能である。
 帳票の印刷は、Excelへのデータ出力機能で従来のExcelの帳票出力処理を利用できる。

第二段:業務見直しと業務間のデータの清流化
SMECA5月-特集-7p図.jpg 業務担当者の開発・運用経験をもとに、業務間連携の紙からデータへの切り替えを目指して、データ項目や内容の共有化、標準化、手順化に向けた検討を行い、望ましい業務の形態を決める。
 役割分担の見直しを含めて、データ項目と内容の整理活動(情報の5S活動:整理・整頓・精査・鮮度・躾)を行う。既存のアプリの改修と新規アプリの開発を行い、CSV形式連携の試行で課題を解決するという運用を数か月単位で逐次繰り返して、適用範囲を繋げて拡大していく。

第三段:業務連携の強化と基幹システムとのデータ連携
 基幹業務との役割・連携の見直し、必要な受け渡しのデータ項目と連携方法を決める。営業活動を支援するネット利用の情報処理や取引先との情報共有にも取り組む。
運用変更のためのスケジュールには、データ移行やデータベース連携データの検証を行う期間を設けることが必要である。
 運用開始後も業務担当者による評価会を実施して、改善を継続していく。

2-2.業務のIT化モデルの開発
 受注に対応して商品提供している企業では、受注した後、社内の関連部署で作業がなされていくが、お客様からの注文確認、納期確認等の問い合わせには各部署の状況を把握して迅速・適切に回答することが求められる。紙での伝達では情報共有は難しく、手間と時間が取られるのが実情である。そこで、「お客様からの問い合わせに誰でも回答できること」を狙いとし、受注から代金回収までの業務連携「注文管理業務」を段階的に構築できるIT化モデルを開発した。
 1つの業務アプリ(販売)から使い始めて、営業・販売・購買・商品・経理の注文の情報の流れを5つの業務担当アプリに発展させるIT化モデルとし、業務のデータ連携と情報共有を可能とする仕組みとした。このモデルシステムを使えば、担当者が自分の会社の業務に合わせて改修して利用できる。
 第一段として、オーダーの流れを見える化する。最初の業務アプリは注文の生涯管理を行う受注担当者の業務を対象とした。受注伝票を精査して登録し、受注案件の社内の手続きの進行状況をデータとして保持している業務アプリ(販売アプリ)である。販売アプリのデータを参照することができる問合せアプリでは、お客様の問合せ内容を記録して、回答する業務を実施できる。誰でも操作できるようにすることで、お客様への迅速な対応を可能にする。
 第二段として、業務間のデータの清流化をするため、関連する業務(営業、購買、商品、経理)の業務をコンテキサー化して、業務間のデータを電子データにする。
 それぞれの業務アプリはその業務履歴情報を保持しており、過去のデータを知識として再利用できる。分散データベースの形態であり、完全なリアルタイム性はないが、締め処理を行うことで、データの整合性を担保する。
 CSVデータ形式のファイルシステムを採用することで、データの修正・検証機能を開発しなくても、業務担当がExcelで修正できるため、データの信頼性を確保することが可能である。
 業務量が増え、利用者が増えたとき、データのリアルタイム更新や信頼性を確保する目的で、CSVデータ形式をRDB等の本格的なデータベースへ移行することも可能である。
 第三段:将来構想として、現場のIT化を進めながら、社員の情報リテラシー向上と合わせて経理システム等の保有システムとの連携も実施していくことを示した。

2-3.ツールの効用・効果
 1)経営に役立つIT化の支援に活用可能
 東京都経営力向上プロジェクトなどの経営診断をした情報をもとに、企業に合ったオーダーメイドの経営力向上策をお客様と一緒に検討する段階からIT化の実現アプローチの設定を進めていくことが肝要である。
 経営者と経営革新計画を立てる。その中で「トップダウン・アプローチによる業務革新」、「ボトムアプローチによる業務改善」、「ジャンプアップを狙う開拓プロジェクト推進」の3つの形態を個別企業の具体的な行動に落とし込み、実行段階まで継続して支援できる。
 ボトムアップ・アプローチの手順をベースにしてお客様に助言し、この手順を共有することでITスキルを持った中小企業診断士やITコーディネータと連携することが容易になる。

 2)関連業務のIT化の実現性と操作イメージの提示
 業務のIT化モデルのデモを見せることにより、経営者や担当者はボトムアップ・アプローチが理解しやすくなる。業務改善に取り組むための全社の情報整理やデータベース設計を前提とせずに、今の業務データを利用してすぐに現場で使える点を理解してもらえれば、IT化に取り組むためのハードルが低くなる。
 データ連携ツール「コンテキサー」では、保有するExcelデータと紙の伝票・帳票を入力情報として用意すれば、データ連携の仕組みは数日で開発できる。開発要員の育成期間は、プログラミング言語の知識がなくても、数日である。自社の従業員でも使えそうであること、必要な業務に逐次適用できることが理解されれば、経営者にもIT化に期待を持ってもらえる。

3.「中小企業のIT化支援」の実践に向けて
 K-プロジェクトは、月1回の研究会定例会開催日の会合とネット利用の活動で進めている。
 今後は、経営診断から経営改善の企画、さらに実施過程でも継続的に支援を行えるような実践に使える「経営改善の進め方」を作成し、企業内診断士の能力と継続支援対応可能な独立系診断士(企業OBを含む)が相互に協力できる「チーム体制」の構築と実践に取り組む。「経営改善の進め方」は、中小企業診断士が中小企業から経営相談に対応する際に、効果的なIT化へとつながる改善提案・提言を組み立てられるように、三つのアプローチを含めて、手順と事例の研究を継続する。また、ボトムアップアプローチのIT化モデルを発展させるとともに、サポートできる人材育成に取り組む。SMECA5月-特集-8p図.jpg
 「中小企業のIT化」は、経営者の理解なしには効果が実現しない。中小企業診断士がその分野の専門家と連携して対応していく「チームコンサルティング」により、経営者に助言していくことが肝要である。研究会がそのための情報共有の場とネットワークを提供していきたい。

問い合わせ先
魚谷 幸一  E-mail:uotanik@mb.infoweb.ne.jp
吉村 正平  E-mail:yoshimura-m@mbm.nifty.com

K-プロジェクトメンバ(敬称略)
石渡 昭好、魚谷 幸一、岡部亮一郎、栗山 敏、今野 浩好、下平 雄司、
富松潤治郎、福本 勲、堀尾 健人、吉村 正平

参照資料
1.2013年度東京都中小企業診断士協会 理論政策更新研修テキスト「中小企業のIT化支援」
2.SCM研究会 発表資料「ボトムアップアプローチ手順~DIYがおすすめ~」

参考HP
SCMとIT経営・実践研究会:http://www6.airnet.ne.jp/scmbm/
"ITカイゼン"、コンテキサー:ApstoWebのHP:http://www.apstoweb.com/
東京都「経営課題解決支援事業」新・経営力向上TOKYOプロジェクト:http://www.keieiryoku.jp/
中小企業IT経営力大賞:http://www.it-keiei.go.jp/award/

2015.03.27
トマト農家における現場改善支援事例

アグリビジネス研究会 藤島 有人 imaboku@palette.plala.or.jp

Summary(要約)  千葉県長生農業事業所改良普及課から、農家の現場改善について、トマト農家における支援モデルを共同研究するという打診を受けた。  比較的規模の大きい農家は、家族労働に加え、雇用導入による安定的な人材確保と、効率的な雇用管理により、生産性の向上が期待できると仮定した。しかし、事前の調査の結果、作業によっては、パートタイマーの能力差が出ることが判明した。  そのため、実際のトマト農家をモデルケースとし、能力差を埋める作業マニュアル作成モデルの確立と、将来的な事業規模拡大に備える目的も含めた、優秀な人材を確保するための雇用管理のモデル案を検討することとなった。  提案した施策は、作業マニュアルモデルに関しては、工場診断における工程改善のノウハウを多分に利用したものであり、雇用管理モデル案に関しては、農業における就業規則を整備したものである。

Ⅰ.本支援を実施するに至った経緯  

千葉県長生農業事業所改良普及課から、農家の現場改善について、トマト農家における支援モデルを共同研究するという打診を受けた。  農業は、一般企業と比べ、自然や土地の影響が大きく、更には天候や気温などの微妙な変化に応じて臨機応変な対応が求められることが多い。また農山漁村集落の知恵や個人の経験知に頼るところが大きく、標準化が難しい分野といえる。しかし、組織化する上で、標準化は重要なプロセスである。  本事例では、属人化しているノウハウを見える化することで、知見の伝授の促進及び、業務の効率化を目指した。更に、業務を細分化し切り出すことで、繁忙期の手伝いなどパートタイムでの対応可能領域を拡大することを目指した。  また、家族経営を中心とした、信頼関係や経験に基づいた営みから、外部の優秀な人材を活用し規模を拡大していく上では、雇用者と被雇用者間の認識の違いが無く、被雇用者間で不公平感の無いように、一定のルールに基づき、雇用契約の内容・業務範囲を明確にすることが必要となる。更に、常に10人以上の従業員を使用する際には、就業規則が必須となる。農業では、労働時間の制限など、例外が認められているなど、一般企業で標準的に用いられている規則を、農業の実態に即してカスタマイズすることが必要となる。  本事例では、実際のトマト農家をモデルケースとし、農業独自のポイントを整理して、農作業の標準化を図るとともに、法令に則り且つ実際の運用と齟齬が無いような就業規則の雛形を提供することで、農業経営者の就業規則作りの負担軽減を図った。

Ⅱ.支援先農家の概要  

本事例における、支援先農家の概要は以下の通りである。

1.作業工程  

本事例のトマト農家は、ハウスでの養液栽培を行っている。トマト農家の規模としては、比較的大規模である。作業者の成熟度に関しては、トマトの摘み取り工程における色の見分けと、芽掻き作業に差が出ている状態である。ハウス栽培のため、年間を通して栽培でき、収穫の時期は、2月から6月及び、8月から12月と、非常に長期間となる。  色の見分けに関しては、出荷所でトマトの色が指定されているが、JAから支給された色見本には、収穫の基準となる色が掲載されていない。また、その日の天候により、事業主が指示する基準の色も異なっている。

2.作業環境  

現在の労働者は、家族従業員3名の他に、パートタイマー労働者が常時雇用3名、臨時雇用1名在籍している。労働者数が10名以下のため、現時点では就業規則を作成していない状態である。  外部環境は、他の農家や小売店などとのパートタイマー労働者の人材確保競争が激しくなっており、雇用が確保しにくい状態である。

Ⅲ.提案・取り組みのポイント  

現状の概要や目指すべき姿などのヒアリング結果から、以下のように支援を行った。

1.工程改善

(1)工程改善の分析手法  

一般的な工程改善は、①重点項目の検討(PQ分析)、②工程分析、③作業分析、④動作分析の順に行い、工程分析以降の各分析では、時間分析を合わせて行う流れである。しかし、本事例では、ヒアリング結果や視察、診断の時期的な関係から、改善工程が、「トマトの摘み取り作業」、「コンテナの組み換え作業」であることが既に判明していた為、作業分析以降の分析を行うこととなった。また、時間分析に関しては、作業自体が、比較的簡単であるため、作業分析でのみ行うこととなった。

①作業分析  

作業分析とは、生産現場などで行われている仕事を、作業のレベルまで細分化して、わかりやすい図表に表し、問題点や改善点を調べる分析手法である。作業者の動きを分析し、その一つひとつの作業を記号で表す手筈である。  作業は、大きく分けて単位作業と要素作業に分けられる。単位作業とは、一つの作業目的を遂行する最小の作業区分を指す。トマトの摘み取り作業、コンテナの組み換え作業などがそれに該当する。  要素作業とは、単位作業を構成する最小単位の作業を言う。尚、本事例では、作業者が作業をしている姿をビデオ撮影し、分析を行っている。  本事例で行ったトマトの摘み取り作業分析の例では、要素作業のうち「トマトを見分ける」作業に大きな改善点が見つかった。具体的には、作業場で一番熟練した作業者である事業主の配偶者は、トマトをもぎ取る前にトマトの色味を見分けているのに対し、他の従業員は、トマトをもぎ取った後で色味を見分けているケースが多く、それが原因でロスが多発していることが判明した。

②動作分析  

作業は、動作の集まりであり、作業を改善する際には、その要素である動作の特性について研究し、理解することが必要になる。動作分析とは、作業を動作レベルまで細分化し、改善すべき非能率・非効率な動作を洗い出すものである。  今回採用した、MTM法では、動作を8つの基本動作に分けて分析を行う手法である。MTM法で、これらの時間を国際標準として見積もることができる。

③時間分析  

時間測定とは、作業に掛かる時間を測定することであり、作業分析で分析した作業項目について、客観的に時間を測定することにより、その作業の無駄やばらつきを発見するために行うものである。今回は、個々の作業員のばらつきも把握したいため、時間観測法を用いた。作業状況を録画し、観察者が画像を再生しながら時間の計測を行った。  測定対象作業は、摘み取り工程とコンテナ組み換え工程である。今回は、上記の作業を半日撮影し、動画を持ち帰って分析を実施した。各作業を約10回観察し、その平均値の時間で集計していった。  測定結果であるが、摘み取り工程では、ベテランの作業者は移動時間が他の人に比べ長いのが特徴で、移動しながらトマトの選別をしていると推測できた。一方経験の短い作業者は、トマトを見分ける作業の時間が短い特徴がある。後筆のコンテナ組み換え工程に時間を掛けていることから、収穫したトマトの不良率に影響があると推定できた。  コンテナ組み換え工程では、作業時間にばらつきが大きいことが特徴である。特に経験の短い作業者は、他の人に比べ2倍近く要している。

④標準作業の設定  

標準作業とは、人と物と設備などの最も効率良い組み合わせを考えて、良い物を、より早く、安全に、ムダの無い作業が出来るように、「サイクルタイム」「作業順序」「標準手持ち」の3要素を決め、それに基づいて行われる作業を指す。  本事例では、最も作業効率の高い事業主の配偶者の作業をベースに、標準作業を設定している。設定の手順は、以下の通りである。  A)配偶者の作業分析、動作分析、時間測定結果を標準作業表に記入  B)他従業員の分析結果を踏まえ A)の内容を補正  C)配偶者と他従業員の作業の相違点を踏まえ、作業上の留意点を抽出  標準作業表を作成することで、統一基準での教育、評価を行うことが可能となる。これにより、作業者の一定の生産性、効率性などを確保することが可能である。

(2)施策の提案

①作業マニュアル

 マニュアルとは、一般的に初心者や未経験者があることを適切に行うための方法や基準を解説した文書のことを指す。今回は、トマトの収穫作業について、経験の無い人が始めて就労する場合の習熟時間を短縮することを目的に、マニュアル作成を行った。  人が業務を理解するためには、一般的に全体像を示し、次第にスコープを絞り込んで行く方法が効果的である。  マニュアル作成に関しては、以下の点を工夫した。  A)年間作業を把握する  トマトの年間作業を示すためには、年間の作業工程を把握する必要があるが、当初の年間作業についてはインタビューしておらず、把握できていない状態であった。そこで、千葉県農業改良普及員に直接、関連資料を送って頂き、叩き台資料を作成した。そして、それをもとにして、農家にインタビューする方法を採用した。  年間作業項目は、標準工程がドキュメント化されているわけではなかったが、話を伺いながら年間作業項目を組み立てなおし、年間作業の概要を作ることができた。  B)作業内容を伝えるための項目作り  作業を真似るだけでなく、創意工夫が生まれやすいようにすることを狙いとした。そこで、工程を説明するために、単に作業プロセスを書くだけでなく、作業の目的、実施体制や関係者、関連資料、用意するもの、作業手順、作業上の留意点という風に絞り込みを行った。  C)簡易マニュアルの作成  マニュアル全体を見るにあたって、作業をしながら見るのには煩雑と言う意見に応えて、3ページの簡易版を作成した。これは摘み取り作業に絞って、作業の流れと留意点を中心に説明する資料となっている。

②QC工程表  

QC工程表とは、製造現場の品質を保証するために、各工程で、どのような「管理項目」を誰が何時、確認しているかを表したものである。お客様に自社の品質管理状況を説明する際や、品質保証活動を確実に実施して、不良の発生を防ぐ、などの目的がある。  本事例では、トマトの市場出荷規格を基準として、トマトの色味や形状、キズなどを管理項目に設定し、その検査方法や頻度、検査に用いる管理図などのツールや品質異常発生時の処理方法を、作業の順序に合わせて作表している。  不良品を後工程に流さない、ということが品質を維持するための基本である。QC工程表を作成し、作業者に徹底してもらうことが品質管理のスタートとなる。  QC工程表は、品質に関係する項目と品質特性や基準が表示されている。QC工程表は、品質に関係する項目とその検査方法などがあるが、作業のやり方は記載されていない。

③色見本  

現状では、配布されているトマトの色の着色標準は、No.1からNo.5までの5段階の色見本であり基準とされるが、納品時に着色標準のNo.3とNo.4の間(通称3.5)となるように定められている。3.5については、着色基準のNo.3とNo.4の間とされ、明確な基準が無く、農業者の主観により微妙に異なる。  また、収穫時の色の基準は、収穫前に諸条件を鑑みて事業主が判断し、収穫前に当該色の現物を収穫者に見せることで、共有するため、収穫者によって色の幅が異なり、時間の経過とともに基準がぶれる場合も少なくない。  そのため、配布されている色見本よりも細分化した見本を作成し、収穫前に見本となるカードを配布することで、属人化している判断の精度を平準化すること。更に、日々ツールを用い確認することで、諸条件により日々変化する判断基準の標準化を図ることを目的に、色見本を作成した。  色見本の作成においては、①収穫時の基準となる色(No.5~No.3.5相当の色の間)のトマトの写真を撮影し、色サンプルを収集する、②色サンプルを薄い順に並べ、番号を振りより細分化した色見本を作成する、③各色毎に見本カードを収穫担当者の人数分作成する手順を採用した。  色見本は、①収穫前に事業主が当日の基準色を決定する、②収穫担当者に色見本カードを配布する、③収穫担当者はカートの見えやすい位置に見本カードをセットする、④収穫担当者は、現物と見本カードを見比べながら収穫作業を行う手順で利用するものである。  また、今後の検討内容として、気温・天候・納品までの時間と選択した見本カードの記録を残し、データを蓄積することで、判断の精度を上げることが挙げられる。

④もぎ取り作業の見える化  

本事例では、トマトのもぎ取り作業の見える化資料を作成している。その理由は、作業の中に、言葉では表現することが難しい要素が多数存在するためである。例えば、「親指で茎のこぶを押しながら、トマトを持ち上げる」というポイントがあるが、これだけを教えられても、実際にどのように作業をすればよいのかが作業者には判断できないからである。  通常、このような作業を新人に教育する場合、熟練の作業者が実際に作業をしながら説明をすることになるが、このような内容を一度で習得することは不可能である。そのため、長い時間をかけ、経験を積むことで正しい作業を習得していくことになる。  一方、作業の「見える化」資料が存在する場合、新人でもその資料をもとに作業をすることで、すぐに正しい作業を行うことができるようになる。資料を見ながら、実際にやってみることで早期に正しい技術を身につけることが可能となり、教育にかかる工数や時間も削減することが可能である。  本事例では、①見える化が必要とされる単位作業の特定、②単位作業を構成する要素作業毎のポイント・留意点などを熟練作業者にヒアリング、③抽出した作業ポイント・留意点のイメージを理解できる画像の撮影、④作業順序に従い見える化資料への落とし込みの手順で、見える化資料を作成している。  見える化資料を導入する際の留意点は、作業中にその資料をいつでも、すぐに参照することができる環境を整えることである。どんなに素晴らしい見える化資料を作成しても、それが事務所の中に置かれているだけでは不十分である。実際に見える化資料を参照しながら、作業に取り組めるような工夫が必要である。本事例においては、見える化資料を、A4用紙1枚にまとめ、それをラミネート加工して作業車に設置することを提案した。

⑤頻発不良原因の見える化  

トマトもぎ取り工程では、多くの不良トマトが発生する。その不良トマトを適切に見分けることが、作業を標準化する上で欠かすことができない。更に、その不良原因を把握し、原因に対する対策を打つことが不良率低減につながることとなる。  「頻発不良原因の見える化」では、これまで、簡単な絵で示されていた不良現象を写真で示すことで、初心者でも判別できるようにし、不良の原因を示すことで不良率を低減させることを目的としている。  本事例では、①現場の写真取りとヒアリング、②農業改良普及員への原因に関する情報入手、③農家の方とのレビューの手順を踏みながら、「頻発不良原因の見える化」を進めた。専門的な知識が必要となり、農業改良普及員との連携が必須な作業であった。

2.作業環境改善

(1)作業環境改善の方向性  

本事例の課題は、雇用導入による安定的な人材確保である。採用においては、職場の労働条件や規律等を明らかにしておく事は非常に重要である。そのため、労働者が安心して働くための環境整備が有効である。  就業規則とは、労働時間や賃金、有給休暇などの労働条件や職場の服務規律などを定めて書面にしたもので、つまり、労働者と事業主との間のルールブックのようなものである。特に、農業の場合は、就業規則を作成している農家の方は非常に少なく、就業規則を作成することで、職場内外で安心感を与えられ、他の農家との差別化を図ることができ、優秀な人材を安定的に確保することが可能である。また、職場でのトラブルを未然に防ぐことも可能である。そのため、本事例では、就業規則を作成し、労働者が安心して働くための環境を整備する方向で支援を行った。

(2)施策の提案  

農業の場合、雨風や台風等の気象条件に左右されること、作業の性質から1日8時間、1週40時間や週休といった規制に馴染まないこと、悪天候時、農閑期に各自適宜に休息が取れるので労働者保護に欠けないことを理由に、労働時間、休日、休憩、割増賃金、年少者の取扱が労働基準法の適応除外になっている。ただし、所定労働時間を超えて労働させた場合の割増賃金の支払いは不要であるが、通常の賃金の支払いは必要となる。また、深夜労働に関しては、農業でも労働基準法が適応され、割増賃金を支払う必要がある。  しかし、優秀な人材の採用や定着率の向上など雇用を確保する上で、一般企業並みの労働条件にすることが望ましいことから、割増賃金制度を採用した。  また、本事例のパートタイマーは、被扶養家族である場合がほとんどで、配偶者扶養控除の扶養範囲内に収入を押さえたい意向があった。勤務日数・時間の調整を行うことにより、有給休暇の付与や、健康診断の受診義務の有無が左右される。それらを決定する基準である所定労働日数・労働時間は、労働契約書に記載されている日数・時間となるため、労使間トラブルが起きにくく、扶養範囲内に収入を押さえられるように、勤務日数・時間を明記できる労働契約書を作成した。  更に、所轄労働基準監督署に就業規則を届け出るための、就業規則意見書と就業規則届を作成した。  表彰に関しては、一度賃金を上げると再び下げる事が難しくなるため、一時金で対応することとし、その体制整備のために人事評価制度を提案した。

Ⅳ.定量・定性的な効果  

本事例の支援は、提案した段階で一旦終了しており、明確な効果を確認できていない状態であるが、当初、収穫の色まわりの判断は、その日の気候を基準に、事業主の判断で色見本には存在しない色を収穫基準としてパートタイマーに指示していたが、細かい色見本を作成することで、基準となる色情報の共有精度を高める仕組みの整備ができた。また、不良品の見本を手書きから写真に変えた不良一覧表の作成により、不良判断を行いやすくする事ができるようになった。更にトマトのもぎ取り工程手順書と合わせ、パートタイマーの収穫作業習熟速度を速める体制構築を行うことができた。  雇用管理においても、就業規則を作成し、終業時間や有給休暇等を明示することで、事業主が求める人材を確保し、要求レベルに達する作業を行える体制整備を行った。

Ⅴ.今後の取り組み  

今回は、支援期間がトマトの収穫時期と重なり、収穫作業をメインとした作業改善を行った。今後は、収穫だけでなく、同じくパートタイマーによる能力差が出るトーン付けなどの作業改善を目指す。  また、本事例で確立した作業改善の手順をモデル化し、野菜栽培を中心とした他の規模の大きい農家への応用を行う予定である。

2015.03.26
三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介

主催:三多摩支部 能力開発推進部

 三多摩支部では、平成20年(2008年)に「多摩の塾」を開始し、将来独立を志向している方および新たな領域を開拓したいと考えているプロコンに対してコンサルティング「塾」を実施しています。3日間にわたり座学と演習を行い、特定の分野に対してプロとして通用する技能を修得していただくことを狙いとしています。多摩の塾の概要は下記の通りです。  

目   的: 専門的な分野を掘り下げて、「専門家派遣」にて通用するコンサルティングの実践能力を修得すること

対 象 者: 新たな領域を開拓したいプロコン、プロコンを目指す企業内診断士、自己啓発を目指す企業内診断士

平成27年度のテーマ(予定):金融機関と連携できる事業再生実践能力の向上(事業再生士補レベルを目指します)

開催予定日: 7月~9月の3日間(土曜日を予定)

募集人員: 20名(定員限定)

参 加 費: 15,000円

開催場所: 国分寺労政会館(予定)  

 「多摩の塾」は、コンサルティングスキル全般の向上ではなく特定の分野にテーマを絞りプロとしての知識、技能を身につけることを目指しています。その到達点は、プロとして中小企業社に価値評価されるレベルです。  毎年テーマを選定して、7月から9月までの土曜日に実施する予定です。各回とも講義およびグループワークによる演習を行います。講義と演習および演習に関わるディスカッション、発表を中心に行いますが、各自が自分自身で考えること、自己研鑽を重視したプログラムを研修に組み込みます。  講師はテーマ分野において実務経験があり現在現場で活躍されている支部の会員または協会の会員が行います。講義を担当する複数の講師とグループワークをサポートする複数の会員で研修を進行します。また、必要に応じて企業経営者・支援団体の担当者などを招聘して、テーマに関連した実務や実際の対応などを話していただくこともあります。  毎年実施するテーマについては、その時々の旬なテーマ、特に地域の支援機関との連携が強いという三多摩支部の特徴を生かし、支援機関において実施される事業との連携を重視した内容にしていきたいと考えております。  (連絡先:三多摩支部 能力開発推進部長 谷 譲治、E:garyo21@mx2.ttcn.ne.jp

2015.03.26
城北支部 城北プロコン塾3期生募集

主催:城北支部 能力開発推進部

 城北支部では、診断士としての資質とスキルの向上、診断士活動の場の拡充およびプロとして仕事に役立つ人脈の形成を目的として、平成25年に「城北プロコン塾」を立ち上げました。201504_14p-up.jpgのサムネイル画像  "今までにない実践的スキルが身に付くプロコン塾"として、城北支部の中から豊富な経験と実績を有する講師陣の熱のこもった指導のもと、製造業、小売・サービス業、商店街支援などの幅広い切り口で、一騎当千の実力を有する診断士を育成します。併せて、受講期間中を通して塾生自らが専門分野をブラッシュアップし、"メシのタネになるコンテンツ"を1本のレポートに仕上げるという課題に取組みます。  卒塾後は、企業診断案件への登用、認定支援機関等への専門家登録の取次ぎ、ベテラン診断士のコンサル現場への同行訪問など、"稼げるプロコン"への更なるステップアップを城北支部全体でバックアップします。

開催日程:平成27年7月~平成28年3月      <全10回>

実施場所:「北とぴあ」会議室      (最寄駅;JR王子)他

募集人数:15名

受講料:50,000円

カリキュラム:※講師の都合等により一部変更となる場合があります。

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申込&問合せ窓口:城北支部プロコン塾事務局(担当:徳永 税)

         E:ctokuctoku@email.plala.or.jp  

        紹介HP:http://jouhoku-procon.jimdo.com/

2015.03.26
城南支部 第11期コンサル塾 5/17(日)スタート

主催:城南支部 運営:能力開発推進部

 コンサル塾は平成10年開塾の東京協会で最も伝統あるハイレベルなプロコン養成塾です。支部や協会には公的機関や外部団体からの紹介要請が増加しています。コンサル塾では、このようなニーズに応える実践的で総合的な能力をもつ人材を育成します。  卒塾生からは「プレゼンスキルが飛躍的に向上した」、「仕事につながる強力なネットワークを得ることができた」、「独立1年目で前職の収入を上回った」等の声を頂いております。  

開催日程:平成27年5月~平成28年2月 原則毎月第3土曜日     

 ・全10回(うち1回は合宿)9:00~19:00前後     

 ・診断実務実習、工場/企業視察(別日程)

応募資格:①中小企業支援専門家に求められる実践的な能力を身に付けたい方

     ②東京協会・支部行事への積極的参加を確約できる方

     ③東京都中小企業診断士協会会員(他支部も歓迎します)

募集人数:最大20名(少人数教育を基本としています。申込者多数の場合は選考いたします。)

受講料:18万円(税込み、合宿・診断実実習・工場/企業視察含む、食事・交通費除く)

実施場所:座学は台東複合施設(最寄駅 JR秋葉原駅)他

予定しているカリキュラム:全ての回で塾生全員による模擬講演を実施

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その他:実務更新ポイントが必要な方は、診断実務実習にて取得可能です。      上記カリキュラムの他にオプション講座も開催します。

<第11期コンサル塾 説明会開催のお知らせ>

日 時:4月20日(月)18:30~20:30(18:00受付開始) 

申込締切日:4月13日(月)

場 所:渋谷区立商工会館 6階クラブ室(渋谷区渋谷1-12-5) 渋谷駅から徒歩10分

申込先:城南支部能力開発部 コンサル塾担当 宮島 仁 E:mail@miyajin.net 氏名、住所、電話、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上メールでお申し込みください。

2015.03.26
城西支部 城西プロコン養成塾11期生募集

主催:城西支部 JOPY委員会

 城西プロコン養成塾(略称JOPY)は、中小企業経営者に適切な助言・提案のできる診断士養成を目指し、平成17年に開講しました。JOPY修了生はすでに150名を超え、各分野で活躍し高い評価を得ています。  コンサルタントは、中小企業経営者の目線に立ち一緒にモノを考え、適切な助言を行うとともに、良き相談相手となる必要があります。知識だけでなく、現場の場数を踏み、クライアントが納得する解決策を提示する、JOPYはこうした診断士を養成します。  診断士能力向上、基本と応用の再確認、独立を目指す方......ぜひ、ご応募ください。

養成期間: 平成27年6月~平成27年12月 原則 毎月第3土曜日10:00~17:30

      ただし、商店街診断、商業診断、工場診断は別途日程を組みます。

研修会場: 杉並区立産業商工会館(12月は阿佐谷地域区民センターの予定)

募集人数: 18名

受講料: 75,000円

講座内容: 講師、会場の都合により、一部変更の場合があります。

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   商店街診断・工場診断・商業診断はクライアントより実務従事ポイント取得可能です。 申込方法: 氏名、住所、電話番号、ファクス番号、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上、下記宛にメールでお申し込みください。お問い合わせも受け付けます。 <申込先> 城西支部プロコン養成塾(JOPY)事務局  山内 喜彦 T&F:045-316-1416 携帯:090-3002-3507   E:ys-yamauchi@dab.hi-ho.ne.jp

2015.03.26
城東支部 スキルアップ受講生募集

主催:城東支部 能力開発推進部

 城東支部のスキルアップコースは、主に診断士の資格を取得し、将来診断士として独立を考えられている方を対象としたプロコンを目指すための研修コースです。  6月から3月まで、毎月1回計10回の開催を予定しています。城東支部長をはじめ、城東支部のプロコンとして活躍されている方々が講師を努めます。  この研修に参加することにより、独立後に必要となる、行政機関の創業相談業務、個別企業の診断手法、研修講師のスキルなどを学ぶことができます。  初回の6月の講義では、将来プロコンを目指す方のために、城東のプロコンの方々が、仕事の獲得方法やプロコンとしてどのような仕事をしているかなどをお話しします。

カリキュラム(予定)

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 *原則第1土曜日の(9:30~17:00)に開催いたします。

 *講義内容や開催月は変更となる場合があります。

 *このほか企業の実地診断を1、2社おこなう予定です。

申込資格  新人会員、既存会員(城東支部以外でも歓迎いたします) 受講料  45,000円/年 開催場所  都内の区民館 申込先  城東支部 能力開発推進部 大石 正明  E:ooishi@zj8.so-net.ne.jp

2015.03.26
中央支部 認定マスターコースの紹介

主催:各マスターコースの代表者(中央支部会員)

 中央支部は、会員のコンサルティングスキルの研鑽を目的として、認定マスターコース制度を設けています。マスターコースの大きな特徴は、後進指導に情熱を抱く先輩プロコンが、自ら磨き編み出したコンサルスキル、コンサルマインドを惜しげもなく提供することです。  専門性の高いテーマを設定し、独自のカリキュラムを編成して1年間にわたり指導します。  多くの修了者は、マスターコースと強い絆を維持していくことで診断士活動の基盤としています。

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 申込・詳細は下記参照。4月18日スプリング・フォーラム、5月23日支部カンファレンスで詳しい説明が聞けます。  http://www.rmc-chuo.jp/home/mt/archives/cat4/index.html

2015.03.26
TOKYO SMECAニュース3月号特集の訂正とお詫び

広報部

3月号の特集にて掲載いたしました『法人営業における課題が一目で分かる 法人営業力診断アンケート「SPM1」の 開発とコンサルティング現場での活用』(営業力を科学する売上UP 研究会 坪田 誠会員執筆)の図表に誤りがありましたので訂正いたします。 ご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

<訂正箇所>  図表2の矢印(下の右側から左側に向けたもの)がひとつ欠落いたしました。

<原因>  原稿には確かについておりましたが、図表が、インデザインでグループ化されて、上記の矢印のみがグループ化からはずれていたために印刷元原稿を作成する過程で、矢印が欠落することになりました。校正を広報部もしておりますが、この点を見落としたためそのまま掲載となりました。

<対策>  今後は印刷原稿の図表の作成の方法を上記のような現象が起こらない方法に変更し、さらに図表についての校正を厳格にするようにいたします。

 訂正については、図表のみではわかりにくいと存じますので、「はじめに」と「2.ツールの概要 (1)」を掲載いたします。論文全体をご覧になりたい場合は、以下URL(東京協会HP>コラム>特集)をご覧ください。  http://www.t-smeca.com/column/2015/02/spm1.html

はじめに

   「営業力を科学する売上UP研究会」の有志で構成する「営業力可視化分科会」は、法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1(Sales Pentagon Model version1)」を開発した。法人営業(BtoB)で提案型(ソリューション型)営業が求められる中小企業を対象に設計しており、営業力の簡易現状把握を経た改善提案により、法人営業力改善コンサルティングの案件受注および支援につなげることを目的とする。 (中略) 2.ツールの概要 (1)業績を向上させる営業力    営業活動は、営業マンの個人任せになりがちであり、その活動内容を企業として共有できていないことが多い。そのため、業績が停滞する企業では、営業上の問題を表面上の現象面で捉えがちであり、真因に迫れていない。  当研究会で営業力強化に成功した企業事例を発表、分析した結果、業績を向上させることに成功した企業の営業力を図表2のとおり体系化した。  営業は多様な形態や状況があるが、体系化すると、全社経営戦略をもとに、営業方針を構築し、具体的な訪問計画を立てる。次に、訪問計画に沿って訪問行動を起こし、提案やプレゼンテーションを実施して、商談やクロージングを行う。その全般を管理して必要に応じて修正するというPDCAのサイクルを回す。そのプロセスのどこに課題があるのか、営業担当者やマネージャーはそれぞれにどのように認識しているのか、その相違はどこから生じるのか、それらを知り、今後のアクションプランを立てる必要がある。  この一連の流れから、営業力は、戦略力、計画力、行動力、商談力、管理力の5つに分解することができ、これを評価軸と定義した。業績を向上させている企業の営業力は、この5つの評価軸を相互に連携づけて、PDCAを回す仕組みができている。 (後略)

図表2 業績を向上させる企業の営業力のイメージ

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2015.03.26
東京プロコン塾 第9期生募集のお知らせ

主催:一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 運営:能力開発推進部

 一般社団法人東京都中小企業診断士協会では、診断士制度の変更、診断士の社会的ニーズ、激変する経済環境などに対応するため、平成19年度より真のプロコンを養成しています。真のプロコンとは、高度な学識、スキルはもとより、人間力も備え、クライアントの要望を充分満足させられる"稼げるコンサルタント"を指します。  東京プロコン塾では、稼げるプロコンを養成するため、座学による講義、現地実習をはじめ、最も重要な、稼いでいるプロコンのノウハウを伝授します。  講師陣には当塾の趣旨にご賛同いただいた各方面で活躍中のプロコンがあたります。  プロコンとして独立をお考えの方、コンサルタントとして独立したが、活躍が十分でないと感じている方は、ぜひご応募ください。

開催日程:平成27年5月~平成28年3月 原則毎月第4土曜日(9:00~17:00)

       〔うち2回は合宿研修(1泊2日)を予定〕全10回

応募資格:①東京都中小企業診断士協会 会員

     ②プロコンとして独立する強い意志のある方

     ③原則55歳以下の方 応募人員:最大25名(申込者多数の場合は選考いたします)

参加費用:10万円(一括支払、支払方法は別途連絡します。合宿費、現地実習費込み。)

実施場所:座学は、東京都中小企業会館8階会議室を予定      

現地実習は現地、合宿地は未定〔平成26年度は、さわやか ちば県民プラザ(千葉県柏市)〕

カリキュラム

・毎回、プロコンとしての心構え、独立の仕方、営業方法について話をします。

・講義は、実務に直結したコンサルティングスキル向上を目指した内容になります。

・現地実習では、商店街や企業を訪問し、コンサルティングを行います。

・ミニプレゼンを実施する機会が5回程度あるので、プレゼン能力が向上します。

※詳細は4月25日の説明会で発表します。

その他:修了認定者には、東京都中小企業診断士協会より修了証を授与します。     

実務更新ポイントが必要な方は、現地実習にて取得可能です。     

講師陣や、活躍する塾生の先輩、東京都中小企業診断士協会の塾生同士で人脈ができます。

メーリングリストや研究会で、卒塾後もOB・OGとのつながりを持てます。

下記のとおり説明会を実施します

日  時:4月25日(土)14:00~16:00

場  所:東京都中小企業会館 8階会議室C(東京都中央区銀座2-10-18)

申込方法:現在、申込みを受け付けています。氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.、メールアドレスを明記の上メールでお申込みください。      

申込をされた方には入塾申込書フォーマットを送りますので、4月25日の説明会で内容をご確認のうえ正式にお申込みください。

運営担当:能力開発推進部 部長・佐藤 正樹

申込先:東京都中小企業診断士協会 東京プロコン塾係 担当:清水

     T:03-5550-0033  E: info_tokyo@t-smeca.com

ご質問は、能力開発推進部 山辺俊夫(yamve@yahoo.co.jp)まで

2015.02.27
法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1」の開発とコンサルティング現場での活用

法人営業における課題が一目で分かる 法人営業力診断アンケート「SPM1」の 開発とコンサルティング現場での活用

営業力を科学する売上UP 研究会 坪田 誠治 st1025n@gmail.com

はじめに  「営業力を科学する売上UP研究会」の有志で構成する「営業力可視化分科会」は、法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1(Sales Pentagon Model version1)」を開発した。法人営業(BtoB)で提案型(ソリューション型)営業が求められる中小企業を対象に設計しており、営業力の簡易現状把握を経た改善提案により、法人営業力改善コンサルティングの案件受注および支援につなげることを目的とする。

1.ツール開発の経緯、背景

(1)営業力強化に注力したい中小企業  日本政策金融公庫がまとめた「2014年の中小企業の景況見通し」(2013年11月)における調査では、中小企業の注力分野として「営業力・販売力の強化」が73%に上り、40%前後にとどまる人材の確保・育成、販売価格引き上げ・コストダウンを大きく引き離している。営業力強化に向けた中小企業の関心は高く、中小企業診断士として今後もっとも支援が求められる分野の1つである。

(2)法人営業特有の課題  企業の業界、業態や企業特性によって、法人営業のスタイルは多様である。また、人的営業に頼りがちな営業現場で何が起きているか、外からは見えづらい。支援する側に専門知識が求められるため、対処できる中小企業診断士が限定され、個別対応に工数がかかる。中小企業経営者にとっては、自社の営業力に課題を感じつつも、どこから着手すればよいのか判断しづらく改革を進められないという課題がある。これら現状の課題を図表1に表す。

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2.ツールの概要

(1)業績を向上させる営業力  営業活動は、営業マンの個人任せになりがちであり、その活動内容を企業として共有できていないことが多い。そのため、業績が停滞する企業では、営業上の問題を表面上の現象面で捉えがちであり、真因に迫れていない。  当研究会で営業力強化に成功した企業事例を発表、分析した結果、業績を向上させることに成功した企業の営業力を図表2のとおり体系化した。  営業は多様な形態や状況があるが、体系化すると、全社経営戦略をもとに、営業方針を構築し、具体的な訪問計画を立てる。次に、訪問計画に沿って訪問行動を起こし、提案やプレゼンテーションを実施して、商談やクロージングを行う。その全般を管理して必要に応じて修正するというPDCAのサイクルを回す。そのプロセスのどこに課題があるのか、営業担当者やマネージャーはそれぞれにどのように認識しているのか、その相違はどこから生じるのか、それらを知り、今後のアクションプランを立てる必要がある。  この一連の流れから、営業力は、戦略力、計画力、行動力、商談力、管理力の5つに分解することができ、これを評価軸と定義した。業績を向上させている企業の営業力は、この5つの評価軸を相互に連携づけて、PDCAを回す仕組みができている。201503_tokusyu_02.jpg

(2)営業力の5つの評価軸  5つの評価軸の意味と、そのポイントが低い場合の企業へのコメント例を図表3に示す。

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(3)法人営業力診断アンケートの構成  営業力5つの評価軸に対して、4段階の選択回答59問と自由回答5問の合計64問を作成した。その64問を、営業マネージャー用と営業担当者用とに言い回しを変えて、図表4の構成で、法人営業力診断アンケートを設計した。

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(4)可視化できる考察  本ツールは、アンケート形式の質問に回答し、その結果をレーダーチャート化することで、以下①~⑤の切り口で企業の営業力とその問題点を、可視化することができる。

 ①評価軸における想定課題

 ②営業マネージャーの自社の営業力に対する意識・認識

 ③営業担当者自身の営業力に対する意識・認識

 ④営業マネージャーと営業担当者の認識の差異

 ⑤営業部署別・事業別・拠点別の意識・認識の差異

(5)アンケート実施の手順

アンケートの目的と目標を明確にし、対象企業の業界、業種、業態、企業特性の把握を行うために、アンケート実施前に経営者インタビューを行う。その後、アンケート実施、回収・分析、分析結果報告と進める。一連の流れを図表5に示す。  この手順を踏むことで十分な情報を得られ、20頁程度の報告書(フルバージョン)を完成させることができる。逆に、経営者インタビューの時間がとれない場合や、グラフだけで良いので早く結果を提供する必要がある場合に備えて、1頁程度の簡易版報告書(サマリー)を用意している。  今後の展開としては、現時点では法人営業(BtoB)で提案型(ソリューション型)営業が求められる中小企業を対象にしたバージョン「SPM1」だけであるが、異なる営業スタイルに最適なアンケートバージョンを増やす予定にしている。

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(6)設問の特徴

次に、5つの評価軸ごとの選択回答での設問例を、図表6のとおり示す。これは営業マネージャー向け設問例であるが、営業担当者向けには、立場を変えた同じ趣旨の設問を用意している。この工夫によって、同じ事柄に対する営業マネージャーと営業担当者の認識差異が明確になる。

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3.実践事例の紹介

(1)アンケート分析結果の可視化  従業員約100名の部品加工組立メーカーA社で、コンサルティングに入る前の営業力事前診断に当アンケートを活用した。社長、営業マネージャー、営業担当者にアンケートを実施した結果を、階層別にレーダーチャートにまとめたものが図表7となる。ちなみに、図表6で示した4段階の選択回答の結果を、レーダーチャートでは5点満点に換算して評価している。  レーダーチャートの効果として、営業マネージャーの意識・認識と、営業担当者の意識・認識を、レーダーチャート上の得点と線で可視化することができる。その得点の高低と、両方の線の乖離具合から、営業力を診断することができる。  計画力を見ると、営業担当者は概ねできていると自己認識しているが、営業マネージャーから見ると低いポイントになっており、十分にできていると認識していない。一方管理力は、逆に営業マネージャーは概ねできていると認識しているが、営業担当者は不十分と感じている。計画と管理は表裏一体であり、計画ができていなければ管理できるわけがなく、管理が不十分であれば計画に反映されず、十分な計画にならない。

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(2)評価軸ごとの結果  次に、評価軸ごとの結果を図表8のようにまとめた。前述のレーダーチャートから計画と管理をきちんと設計し、回す必要があると推測されたが、これを裏付ける内容となっている。計画力を評価する質問から抜粋した質問16、17を見ると、計画段階で訪問目的の明確化やそのための準備が十分できていないと思われる。管理力を評価する質問41、44を見ると、営業活動の内容の見直しや予実管理が十分できていないことが見てとれる。

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(3)提言内容  アンケート実施前の経営者インタビューを通じて、特定の業界向け部品を扱っているA社は顧客数が限定されること、売上高全体に占める上位客の売上比率が高いことが判明していた。そこで、アンケート診断結果を踏まえて、以下3点に集約して今後の取り組みをA社社長に提言した。

①営業戦略の立案と関係者間での共有  中長期での計画や具体的な営業戦略を関係者間で共有し、意思統一する。

②顧客別戦略の立案とアクションプランの策定  重要顧客に対して関係者を交えて顧客別戦略を立案し、攻めの営業へ転換する。

③プロセス管理のための数値管理の実施  「売上数値の結果」の管理から、「売上に至るプロセス」の管理・フィードバックへ転換する。

(4)コンサルティングの実施  提言の結果、A社社長からは自社の課題認識が明確になったと高評価を得て、営業力強化のためのコンサルティングを受注した。診断フェーズからコンサルティングフェーズに移行するタイミングに合わせて、当研究会から新たに賛同者を募ってメンバーを再編成した上で、コンサルティングフェーズに進んだ。  社長や営業部長など主要メンバーにヒアリングした後、上位客を中心に顧客別戦略とアクションプランを立てることをA社社長と合意して、図表9の流れでコンサルティングを実施中である。

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4.今後の展開

(1)コンサルティング受注活動における本ツールの位置づけ  本ツールは、多くの中小企業診断士が売上UP、営業力強化を望む中小企業に対して、より具体的・実践的なコンサルティングを行うためのツールを提供するものである。  コンサルティング受注におけるアンケートの位置づけを図表10のとおり示す。具体的には、中小企業支援機関や他団体と協業した営業力強化セミナーや中小企業診断士同士の連携を通じて、集客する。アンケートによる簡易診断後に、個別改善提案によるコンサルティング実施につなげることを目指していく。  当研究会では、営業力強化セミナーを近いうちに開催する予定にしており、多くの中小企業診断士の方々と協業する形で進めていきたい。

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(2)アンケートのバージョン拡充  今後、アンケートデータの収集を進め、業界別、企業規模別や営業タイプ別(物販営業、ソリューション営業、サービス営業、代理店営業など)などで、中小企業診断士に標準値を提供していきたい。同時にアンケート内容を業界別、営業タイプ別などの特性に合わせて複数パターンを用意することにより、適用範囲を増やしていく予定である(図表11)。  当研究会では、法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1」を活用して、中小企業の売上アップと営業力強化、中小企業診断士の活躍機会の増大に貢献したいと考えている。同じ志を持つ方は、ぜひ仲間に加わっていただきたい。

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【執筆メンバー】

営業力を科学する売上UP研究会 営業力可視化分科会  坪田 誠治(リーダー)、阿部 裕、池田 誠、小澤 栄一、丸山 直明、渡辺 辰洋

2015.01.30
新社会人向け研修ゲーム「PMG」の開発

新社会人向け研修ゲーム「PMG」の開発


城南支部実践能力開発研究会 岩立  誠
E:iwatate@tkd.att.ne.jp

Summary(要約)
 若者の価値観や能力の多様化からか、昨今、スケジューリングや報告・連絡・相談といった基本的な仕事の仕方を十分に身につけないまま企業に入る新社会人が増えつつあり、これらを会得させる手立てのニーズが高まっている。
 これら仕事の仕方は、体験、とりわけ失敗体験を通じて習慣として身につけさせることが望まれるものの、多くの企業では余裕の乏しさから、実業務での失敗体験の提供が難しくなりつつある。次善の策として研修ゲームにおける疑似体験が有効と考えられるものの、既存の研修ゲームは主に経営者・管理職用のものと簡易なアイスブレーク用とに二極化されており、新社会人向けのものは少ない。
 そこで当研究会では昨年度、新社会人向けの能力開発の中でも特にニーズが大きいと思われるスケジュール管理を題材に、研修ゲームの開発を実施した。プロトタイプの作成後、研究会の中で試行と改良を繰り返し、現在までにゲームのベータ版を完成させ、試行しつつ改良を加えているところである。今後、研究会の外部への提供を狙い、内容のブラッシュアップやバランス調整、受託促進ツールの整備等を行っていきたいと考えている。

Ⅰ.開発の経緯
 「実践能力開発研究会」は、(一社)東京都中小企業診断士協会城南支部のプロコン養成課程である「コンサル塾」の卒塾生を中心に、継続的な自己研鑽を目的に平成23年に設立された研究会である。
 当研究会では設立以来プレゼンテーション演習をはじめ、主に個々人の能力向上を目指した活動をしてきたが、昨年度は研究会独自のコンテンツを開発することを狙い、ニーズ発掘の議論を行った上で、次の点に着目して新社会人向けの「研修ゲーム」を題材に取り上げることとした。

 ①若い世代の価値観・能力の多様化や中間管理職の希薄化により、有効な新入社員の教育システムを持っていない企業が増えている。
 ②研修の充実度合いが就職先を選ぶ学生の高評価に繋がり、採用活動で有利になりやすい。
 ③世にある研修ゲームは経営者・管理職用のものか、アイスブレーク用のものが大半で、新人研修用のものはいまだ少ない。

 このうち①の育成と②の採用は中小企業にとって喫緊の課題であり、また③は他の士業やコンサルタントに比べて中小企業診断士の優位性を生かしうる点である。
 開発に当たっては、基本コンセプトを決め、ゲームの大まかな骨組みを作った後、研究会内で講師役と新社会人役に分かれて試行を繰り返し、ゲームを拡張・改良していった。現在は一旦完成したベータ版のゲーム素材(ボード、カード、コマ等)、ルールブック等を改良中である。

Ⅱ.開発したツールのポイント
1.本研修ゲームで身につけさせる能力
 今回の研修ゲームで題材に取り上げたのは、新社会人に求められる能力の中でも、「複数の業務を指示された際に、優先順位を考えながらスケジューリングを行っていく能力」である。
 この能力に対する企業側のニーズは高い。というのも、新社会人にスケジューリング能力が身についていない場合、複数の業務や、ある程度の固まりの業務を任せることができず、上司や教育担当者が新社会人に対して逐次指示を出すような仕事の仕方をしなければならないためである。これでは上司や教育担当者の手を煩わせ、かえって組織(部門)全体の戦力はダウンしてしまう。このため一部企業では、本来であれば人手が足らないからこそ増員をするにも関わらず、忙しい部門ほど新入社員を受け入れたがらないという本末転倒な状況も見られるほどである。
 なお、優先順位の決定を題材とすることから、本ゲームの名称は「Priority Management Game」(略称:PMG)とした。

2.研修ゲームの利点
 「スケジューリングは基本的な仕事の仕方であり上司から適切な注意をすれば治るのではないか」という意見もあるが、注意が有効なのは誤りを認識している者に対してであり、新社会人がスケジューリングの必要性自体を理解できていなければ、注意だけでは行動を変えるには至らない。また、一度や二度の説明を聞いただけでは、たとえ必要性を認識できたとしても、習慣として身につくまでには至らない。こういった基本的な仕事の仕方を習慣として身につけさせるためには、腹に落ち記憶に残るような体験、特に失敗体験をさせることが有効である。
 ところが昨今は多くの企業において余裕が無くなってしまったことから、以前は実際の仕事の中で普通に与えることができたこれら失敗体験を、新入社員に与え難くなってきている。そこで、研修の中で、この腹に落ち記憶に残るような体験を組み込んだゲームを準備すれば、企業活動への実際のダメージ無く、必要な疑似体験をさせることができる。
 また、実務の中ではいろいろな体験が混ざってしまうことから気づかせたい体験に意識が向かない場合があるが、ゲームであれば特定の体験を抽出することができ、更にゲーム前後に必要な解説を入れることで、効果を高めることも可能である。


Ⅲ.ゲームの構成・進め方と体験できる状況
1.ゲームの概要
 PMGはターン制のカードゲームであり、3~5人のプレイヤーが各ターンにランダムに与えられる小タスクを限られた自分自身の手持ち資源で次々とこなしていき、その結果としてのポイントを競う。基本的には、手持ち資源は各プレイヤー平等の「勤務時間」であるが、ゲームの中には個人のスキルを高め、タスク処理能力を上げる要素を含んでいる。
 1回のゲームは1時間程度、ゲーム内の架空時間で3~6か月。実際の研修では最初の説明と最後の振り返りを挟んで、ゲームを1~2回行う。研修時間は2~6時間を想定している。

2.計画ボード
 ゲームを開始するに当たっては、図表.1のように場の中央に必要なカード類、サイコロ等を置いておく。小タスクを表現したタスクカードについては、計画ボードと呼ばれるボードの上にプレイヤー毎の列を作り、ランダムに並べておく。

特集3p-図1.jpg ゲーム内では1ターンを1週間と捉え、それぞれのプレイヤーは各ターン1枚ずつ自分の列からタスクカードを引いていく。プレイヤーはゲーム中、この計画を睨みつつ、いかに小タスクをこなすか、或いは遂行が難しいと判断してアラームを挙げるかを考えていく(ただし後述するイベントカードにより「予想外の小タスクが与えられる」等の状況が発生するため、必ずしもその直前まで計画ボードに並んでいた通りに小タスクが与えられるとは限らない)。

3.プレイヤー用ボード
 プレイヤーの前にはスケジュール表を模したボードが置かれ、図表.2のように、カードとして表現された小タスク、チップとして表現された勤務時間などを配置し、自身が抱えている小タスクの状況を可視化することができるようになっている。プレイヤーには、ターン毎に概ね5営業日分の勤務時間が与えられるので、小タスクの期限やポイントを踏まえ、数ターン先の状況の先読み等もしながら、どの小タスクにどれだけの勤務時間を費やすのかを決定していく。
 このように複数タスクのスケジュールを目に見える形で管理するという体験を通じて、初めてスケジューリングに触れる新社会人も、スケジューリングの大切さを認識することができる。


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4.タスクカード
 与えられる小タスクを表すカードであり、192枚ある。ものによって成功時・失敗時のポイントが異なり、成功時にプラスされるポイントに比べて失敗時にマイナスされるポイントが同じか大きく設定されている。タスクは自分では選べないものの、期限までに遂行できないと判断したものは、事前に申し出て担当を解除してもらうことができる。その場合もマイナスポイントとなるものの、失敗よりはマイナスされるポイントが少ない。これは、上司の立場からすれば、仕事の担当を事前で変更しなければいけないことに比べ、一旦任せた仕事が締め切り間際になってできないと発覚することのほうが、リカバリーが格段に難しく悪影響が大きいことを反映している。
 このため各プレイヤーは高いポイントを狙う中で、現状の自分の仕掛りタスク、勤務時間状況と近い将来あたえられる可能性のあるタスクを冷静に見つめるスキルを身につけると同時に、タスクの優先度を考える、できないことは事前に申し出るということを体験することができる。

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5.スキルカード
 抱えているタスクをこなしても勤務時間が余るようなときには、場からスキルカードを引き、スキル習得のために勤務時間を費やすこともできる。スキルカードは5種類あり、必要日数をかけてそのスキルを習得すると、特定分野のタスクを短い勤務時間で終わらせたり、勤務時間を長くして1ターンでもらえる時間チップを増やしたりできるようになる。
 高得点を狙うために、プレイヤーには、計画ボード上のタスクカードをにらみながら、どのスキルを身につけるために、どこで、どれだけの勤務時間を費やすのかを考えることも求められる。
 なお、「計画的に時間を確保しなければ目の前のタスクに振り回されてスキルをなかなか習得できない」、ということもこのゲーム中で体験できる状況の一つである。

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6.イベントカード
 更に、本ゲームでは各ターンで引くイベントカードにより、「タスクに費やせる時間が変わる」、「タスクの期限が変わる」、「タスクの担当が変わる」等、予想外のイベントが発生する。多くのイベントはトラブルであり、これらにより予定通りにタスクが処理できない体験を通じて、もしもの場合に優先順位を下げるタスク或いはスキル習得を常に考えておく等、トラブルに備える心構えを身につけることができる。なお、イベントカードの枚数は168枚である。

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Ⅳ.定性的な効果
 前述の通り企業の現場からオンザジョブトレーニングの余裕が失われている中、PMGでの「スケジュールを可視化して管理する」、「できないことは事前に申し出る」、「予期せぬトラブルに対処する」といった体験を通じて、効果的にスケジューリング能力を身につけさせることができると考える。
 なお、開発中にPMGをプレイした当研究会会員からは、以下のような感想も出されている。

 ・自身の抱えている小タスクを眺めながら、無理なく優先順位を考えることができた。
 ・期限までに終わらない小タスクを多数抱えたことで、できない仕事のアラームを上げる大切さを考えさせられた。
 ・ゲームに夢中になって、高得点を狙い、ついつい無理なスケジュールを組んでしまった。トラブルが起こって初めて、想定外の事態に備えることの大切さに気付かされた。
 ・冷静に作戦を立てたつもりでも、意外に強気、弱気といった性格に影響されてしまった。

Ⅴ.今後の予定
 PMGは現状、研究会内部での試行を繰り返し、一旦、ベータ版が完成したところである。次のステップとして、実際の企業や団体等、研究会外部における試行を実施し、体験者へのアンケート調査等、定量面も含めた効果測定を行った上で、内容のブラシュアップを図っていきたいと考えている。現状、候補先の探索や訪問等を行っているところであり、試行先の紹介や推薦は大歓迎である。
 また併せて、企業及び中小企業支援行政機関等の提供先ターゲットを選んだ上で、受託促進ツールを作成予定である。更に将来的には、講師用マニュアル等の改良を図り、中小企業診断士および企業人事部・研修部を対象に、コンテンツそのものを提供することも視野に入れている。

2014.12.26
ビッグデータ時代にこそ必要な中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方

ビッグデータ時代にこそ必要な
中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方

中央支部ビジネスデータ分析研究会 村山 聡

 

【活動の経緯】
 ビジネスデータ分析研究会は、2012年1月より活動を開始した研究会である。ビッグデータに代表されるデータ分析活用ニーズの高まりを背景に、中小企業支援において中小企業診断士がデータ分析を積極的に活用していくことを目的に、統計解析手法やデータ分析ツールの使用方法などを研究している。

【支援企業概要】
 支援先である株式会社ビレセントは、女性を対象とした酵素風呂サービスを提供する「酵素風呂ボラボラ」を八丁堀にて運営している。酵素風呂とは酵素入りヒノキパウダーの入った風呂であり、酵素による温熱効果で、新陳代謝の活性化や体質改善を促進する効果があるとされている。また健康をキーワードとした商品の店舗での販売、及び空きスペースを活用した整体、マッサージなどのサービスを提供している。

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【データ分析を取り巻く現状】
 ここ数年「ビッグデータ」を始めとしたデータ活用事例が、さまざまなメディアにキーワードとして取り上げられている。情報システムの発達により、ネット上に存在する膨大なデータや、センサーから取得できるデータ、デジタル画像や動画データと言ったデータを比較的容易に収集・分析できる環境が整ったことが理由である。

 しかし、これらのデータ活用事例の多くは情報システム、分析ツール、アナリストといった分析に必要なリソースが十分に揃った大企業での利用を前提としている。
 では、中小企業にはデータ分析は不要なのだろうか。確かに高度な統計解析手法の活用は、中小企業にとっては敷居が高い場合が多い。しかしデータを分析し、財務分析だけでは読み取れない経営の現状を数値で把握することは、中小企業にとっても必要不可欠である。とはいえ、実際に分析リソースを中小企業が独自で用意することは困難であることが多い。
 このような現状を鑑みた場合、中小企業診断士がデータ分析を実施した上で、経営支援を実施することは、重要な意義があるといえる。

【分析対象の把握】
 支援を開始した当時、ビレセントは創業して1年ほど経過しており、売上げも順調に伸びつつあった。一方で、主力事業である酵素風呂の稼働状況は20%程度とまだまだ余裕があり、さらなる売上向上がビレセントの当面の課題でもあった。そこで今後、売上げ向上施策検討のための基礎資料とするため、2013年1月から2013年12月までの1年間の売上げデータを用い、顧客データ分析を実施することとなった。
 分析を実施する際には、分析対象について状況を把握することが重要だ。今回は顧客データ分析を行うため、まず顧客の行動を可視化することから支援を開始した。

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 酵素風呂は、繰り返し入浴することで効果が持続すると言われている。そのためビレセントでは、利用料を割り引いた回数券を用意し、継続して利用したい顧客に利便性を提供している。この回数券販売という施策は、来店可能性を高めると同時に、顧客から先に利用料金を払ってもらえるため、資金繰りが楽になるというメリットがある。一方で、顧客が回数券を使用する場合、設備は稼動していても、その日の売上げにはならないため、日々の売上げと店の稼働状況が一致するとは限らないことになる。つまり売上推移だけを見て、経営状況を判断すると、実情を見誤る可能性が高いということになる。このような現状を踏まえた上で、データ分析の実務を開始した。

【データ分析のポイント】
 顧客データ分析実施においては、3つのポイントを押さえておく必要がある。

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 一つ目は、データを分析可能な状態に加工することである。一般的にシステムに残されているデータは、そのままでは分析に適さないため、さまざまな加工が必要となる。数値化されているマスタ情報の置き換え、年月日や曜日といった分析に必要な軸の作成、名寄せなどがそれにあたる。本事例では、受領した顧客売上げデータは、「売上管理シート」というExcelで作成されており、デジタル化はされていたが、加工作業以前の問題として日々の顧客一人一人の売上げが個別のシートに記載されていた。

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 このように中小企業においては、日々の記帳を優先し、データが分析に適さない状態となっている場合も少なからず存在する。幸いフォーマットは標準化されていたため、データを抽出、変換するマクロを作成することで対応した。これにより月別に12個のファイル、3,000を超えるシートにわかれていた売上げデータを一元化し、データ加工を実施した。地道な作業ではあるが、この作業を実施しなければ、データ分析自体も実施することができない。分析の世界で、データ加工が分析の8割の業務量を占めると言われる由縁である。

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 二つ目は、顧客を分類する手法を決定することである。顧客データ分析においては、デシル分析(顧客をある軸に従って10段階に分類する)やRFM分析(直近来店日、来店間隔、購入金額の3軸を掛け合わせて分類する)といった分析手法を使うことが多いが、これは大量に顧客データが存在する比較的大企業において有効な手法であり、中小企業に対しては、現実的な手法ではない。

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 そこで、分析の主目的である売上向上施策を検討しやすい、優良顧客(グループA)、初回離脱顧客(グループC)、その他(グループB)の3種類に軸を設定することとした。優良顧客が判別できれば、継続して利用いただけるよう手厚いサービスが可能となり、初期離脱の比率を減少させることができれば、新規開拓コストの早期回収が可能となるからだ。

8p-中図_201501.jpg 分析の結果、ビレセントの売上げの約8割が、19%の優良顧客からの売上げであり、63%の顧客は1回きりの来店で初期離脱していたことが判明した。実際の分析では、この分析以外にも多面的に状況を把握するため、多くの分析を実施している。

8p-下図_201501.jpg 三つ目は、データから得られた知見をいかに活用するかである。データ分析は注力すべき方向性は確認できるが、そのための具体的な施策まで明らかにしてくれる訳ではない。そのため、分析結果をもとに経営者とディスカッションをし、具体的な施策を検討する必要があり、ここはまさに中小企業診断士の領域である。本事例では数回に渡り、分析結果をもとに、経営者にヒアリングを実施した上で、チームメンバーで50を超える改善施策提案を行った。その狙いは、取り得る施策をすべて洗い出した上で限られたリソースの中で、実行できる施策、効果のある施策を経営者とともに検討していくことである。提案した施策の中から、満足度向上、及び次回来店促進効果が得やすい施策として、優良顧客へのダイレクトメールの送付、店舗内における整体・マッサージの予約状況の掲示、及び酵素風呂とのコラボサービスの開発、分析により明らかになった売れ筋商品の自社開発などを実施することになった。

9p-上図_201501.jpg また優良顧客(グループA)の人数比率を19%から25%に、初回離脱顧客(グループC)の比率を63%から50%に改善することを目標として設定した。この目標を達成することができれば、同じ顧客数と仮定した場合、125%の売上向上が見込めることになる。

【施策実行後の効果】
 施策は、2014年4月から順次実行されている。そこで分析を実施した2013年1月~12月と2014年4月~7月の二つの期間での状況を比較することで、施策の効果検証を行った。

9p-中図_201501.jpg 分析を実行した2013年1月~12月と比較して、売上、来店人数、顧客単価すべてにおいて向上している。次に、各顧客グループの比率は目標を達成したかを確認する。グループの比率については、2013年1月〜12月と2013年1月〜2014年7月とを比較する。

9p-下図_201501.jpg 比較した結果、目標を達成するまでには至っていないが、グループAの顧客数比率は、19%から23%に向上しており、施策実行の効果が出ていると考えられる。

【今後の支援について】
 今回の支援事例では、創業間もないこともあり、新規顧客開拓に目が行きがちだった経営者に、顧客データ分析の結果により、リピート・単価アップの重要性を改めて認識していただいたことが、売上向上につながったと言える。とはいえ新規顧客開拓を怠ってしまえば、せっかくの施策も宝の持ち腐れになる可能性がある。事実、積極的な広告展開を行っていた創業当初と比較して、最近の初回来店人数は減少している。

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 今後はさらなる売上げ向上に貢献していくため、新規顧客開拓についても支援を予定しており、その第一歩としてWebの改善支援に取り掛かっている。

【中小企業診断士が持つべき分析スキル】
 我々、中小企業診断士が経営支援を実施する時、財務分析の結果から経営課題を把握し、その後、経営者に課題についてヒアリングを行い、解決策を提案するという流れがスタンダードである。しかし、分析者の観点から言えば、経営者へのヒアリングだけでは不十分ではないかという想いがある。今回のように、中小企業ではリソースが不足しているため、経営者が、自社の状況についてデータを分析していないことが十分にありえる。そのような場合、経営者のヒアリングに関する回答は、主観的な判断に偏ってしまう可能性がある。また限られたヒアリングの時間の中では、経営者が重要な事実を伝え忘れるといった事態も考えられる。このような事態を避けるためにも、中小企業診断士は、データ分析のスキルを身に付けておく必要があると考えられる。

2014.12.26
「中小企業経営診断シンポジウム表彰論文」6篇を連載

「中小企業経営診断シンポジウム表彰論文」6篇を連載

研究会部 副部長 吉崎 茂夫

●シンポジウムの概要
 一般社団法人 中小企業診断協会主催の平成26年度「中小企業経営診断シンポジウム」が10月28日(火)に東京ガーデンパレスにて開催されました。
 第2部は3つの分科会に分かれ、第1分科会は中小企業診断士による経営革新支援事例論文発表、第2分科会は会員グループによる調査・研究発表/地域施策の効果検証と新たな提言、第3分科会は東京都中小企業診断士協会による研究会成果発表が行われました。
 第3分科会の発表論文は、例年どおり東京協会および6支部の研究会等から募集しましたが、本年度は10件の応募があり、そのうち、事前審査で選ばれた6研究会がシンポジウムで発表を行いました。

●第3分科会の発表内容
 第3分科会には約100名以上が参加し、大変盛り上がりました。6研究会の発表内容は次の通りでした。

①法人営業における課題が一目で分かる法人営業力診断アンケート「SPM1」の開発とコンサルテイング現場での活用(営業力を科学する売上UP研究会、発表 坪田誠治会員)
②ケーススタディによる事業承継支援ツール(事業承継研究会、発表 庭野勉会員)
③新社会人向け研修ゲーム「PMG」の開発(城南支部実践能力開発研究会、発表 岩立誠会員)
④トマト農家における現場改善支援事業(アグリビジネス研究会、発表 藤島有人会員)
⑤ビッグデータ時代にこそ必要な中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方(中央支部ビジネスデータ分析研究会、発表 村山聡会員)
⑥経営改善の新たな進め方とIT化モデルの提供(SCMとIT経営・実践研究会、発表 吉村正平会員)

 6名の発表内容は診断ツールまたは事例の紹介で、新しい手法などが紹介され、参加者は手元の発表資料とプレゼン資料とを見比べながらメモを取りつつ熱心に聞き入っていました。いずれも甲乙つけがたい発表でしたが、最優秀賞は僅差で、斬新な発想で審査員の高評価を得た、中央支部の「ビッグデータ時代にこそ必要な中小企業経営支援におけるデータ分析のあり方」を発表した村山聡会員に決まりました。

●表彰式
 発表後、第1分科会から第3分科会までの表彰式が行われ、第3分科会は東京都中小企業診断士協会の会長賞が小黒光司会長より村山聡会員に授与されました。

●表彰論文の連載
 今回表彰された6研究会の論文を、順次掲載していきます。
 シンポジウムに参加されなかった方々もぜひ、ご一読ください。

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2014.11.29
ベンチャー企業と大企業の好循環形成に向けた課題

~ベンチャー企業と大企業の好循環形成に向けた課題~

東京協会認定 ベンチャービジネスサポート研究会
干臺(ひだい)  俊

当研究会について
 ベンチャービジネスサポート研究会(VBS研究会)は、平成8年登録のメンバーが、「これからの日本経済の活性化のためには新たなベンチャーの出現が重要で、それを支援するメンターも育っていかなければならない」として平成9年に設立され今日に至っている。
 ベンチャーの創業や経営支援のあり方、仕方、事業レビュー等のスキルを磨くことが、主な目的であり、会員の中心世代は、40歳くらいで比較的若い人達が集まっている。現在、定例会とは別に2つの分科会が開催されており、企業支援として事業レビューと改善提案のための活動を行っている。今回は、VBS研究会の一つの関心事である「創業における大企業とベンチャー企業との関係」について、論じることにする。

1.はじめに
 近年、従来であれば企業内に留まっていたであろう若手のエンジニアなどの人材が、スピンアウト・カーブアウトして社外に飛び出し、ベンチャーを起業する事例が注目されている。なぜ、このような変化が起きているのだろうか。本稿では、ベンチャービジネスサポート研究会の活動報告として、その変化を考察した結果を以下の項目に沿って紹介する。
(1) スピンアウトベンチャーを生み出す社会面・ビジネス面の環境の変化
(2) スピンオフベンチャーの事例と、起業準備のための社会インフラ整備の進展
(3) スピンオフベンチャーと大企業によるビジネス育成モデルと、解決すべき課題
(4) ベンチャー支援に求められる中小企業診断士像

2.スピンアウトベンチャーを生み出すビジネス・社会環境の変化
 まず、背景にある環境変化に着目したい。社外に飛び出す人材を後押しする最近の環境変化は主に3つあると考えられる。
(1) 市場の細分化と小規模化
(2) ユーザーと一体化した製品開発手法への変化
(3) 企業への帰属意識の低下

ユーザーの一層の多様化
 個人が得られる情報量が飛躍的に増大した結果、近年のユーザーのニーズの多様化が著しく進み、市場のセグメントは一層細分化しており、この変化の中で、大きな課題が顕在化している。すでに広く認識されているとおり、一層多様化したユーザーニーズの的確な把握とウォンツの発掘である。
 
 ユーザーの多様化により開発側とユーザーの認識のギャップは一層拡大している。たとえば、大手メーカーが3次元の加速度センサーを開発したが、機能を生かすアイデアが思いつかず、「万歩計」として販売したが全く売れなかった、といった事例がある。開発段階からユーザーニーズやウォンツを認識できていない例といえる。ニーズ志向型マーケティングと言われて久しいが、当事者であるほど実践は難しく、製品企画を先行し、市場で失敗する事例は後を絶たない。

ユーザーと一体化した製品開発手法への変化
 この課題を達成するために、最近、各企業が取り組んでいる製品開発手法が、ユーザーとの共同開発である。ユーザーが開発メンバーとして参画し、マーケッターや事業プランナー、デザイナー、設計技術者、プログラマーなど、バリューチェーンの関係者がチームを組み、プロトタイピングを通じた検証により、機能やデザインを詰め、製品を作り上げる。ユーザーと開発側の認識のギャップを解消し、バックグラウンドの異なる者同士の相互の気づきから、新たなウォンツを発掘する手法である。

 本手法は、さまざまな実践方法がある。とあるソフトウェア企業では、今や社内の管理職で製品企画の良し悪しを判別することが難しいと考え、Facebookやツイッター等にプロトタイプを掲載し、「いいね」を一定数得たものを、社長含めた幹部会議で議論し、製品化の決定を行う仕組みを試験的に行っている。また、とあるデバイス企業では、開発したセンサーを主婦のグループに持ち込み、ワークショップを通じて新たなユーザーニーズを発見したり、また、身体の不自由な方と一緒に製品企画・デバイスの使い方を考えることで、その方の利便性を向上させると同時に、広く一般の方々の利便性も一層高めるといった製品開発などを行い始めている。
 
 このような方法論が拡大しているが、この変化から企業内のエンジニアなどの人材がベンチャーを立ち上げる理由が2つ見えてくる。
(1)「ユーザーとの距離の近さ」、「関係者が一同に集まれるフットワークの軽さ」が必要となり、ベンチャーなど小さい組織の方が、より取り組みやすい点
(2)特定のユーザーを対象とするため、予測できる市場規模が小さくなり、大企業では市場とならなくても、ベンチャーなど小さい組織であれば市場となり得る点
 また、エンジニアが顧客と直接対面することで、顧客の喜びを直接感じることができる、といった側面も理由に含まれるだろう。
 
企業への帰属意識の低下
 前述のような変化が起こる一方で、企業内の人材のマインドも大きく変化している。「電機連合組合員調査1994年・2005年」および「経済産業省産業技術人材の成長と育成環境に関する調査」において企業内の人材の「仕事のやりがい感」、「企業忠誠心」について分析を行っている。その結果の一つは、技術者全般に共通する傾向として、仕事・企業への思いが急速に冷めている、と示唆されている点である。

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 2000年以降の成果主義人事制度の導入と、大規模な人員整理が行われたことで、終身雇用が中心と考えられていた雇用風土が大きく変化し、特に、技術系人材において、企業への忠誠心が低下したのではないか、と示唆されている。雇用の不安定さ、待遇の伸び悩みが生じた結果、「やりがい」の相対的価値が上昇し、技術者などの人材が社外に飛び出す遠心力が高まっていると考えられる。
 
3.スピンオフベンチャーの活躍と起業準備のための社会インフラ
 本稿では、実際に企業から飛び出してベンチャーを起業した事例と、前述のような社会変化を受けて、整備が進みつつある企業外・本業外での活動するための社会インフラについて紹介する。

スピンオフベンチャーの活躍
 最近の著名なスピンオフベンチャーの一つとして挙げられる企業は、車椅子を開発・製造するWHILL株式会社である。数百メートルの移動でも車椅子に集まる人目が気になり外出を控えるという車椅子ユーザーの声を受けて、デザインと機能に優れた新たな車椅子の開発を目指し、自動車や電機などの各大手企業から若手・シニアエンジニアが集まり、ベンチャーを起業した。特定のユーザーの声を大切にし、それぞれが所属する大企業では開発が難しいがために、スピンアウトして製品開発に取り組む姿勢は、昨今の変化を象徴しているものではないだろうか。
 
 もう一つのスピンオフベンチャーの事例は、3Dプリンターで安価な義手を開発する企業である。これまでの腕や指が稼動する義手は百数十万円したが、それを数万円で実現することにより、世界の腕をなくした方々に、複雑な動作は難しいが傘を持つなどの機能を持つ義手を届けることを目的とした企業である。こちらも企業内の若手エンジニア達がスピンアウトして設立したベンチャーである。
 その他、未だに起業に至っていないが企業内の若手のエンジニアから起業に関する相談を受ける機会が筆者の周囲にも増えつつある。

起業準備のための社会インフラの整備の進展
 このような動向と同時に、試作、ビジネスプランの検討、専門家とのネットワーク形成など、スピンアウトする前の起業準備を行いやすい環境の整備が進んでいる。

ファブラボ、メイカースペース、コワーキングスペースなどの整備
 「ファブラボ」や「メイカースペース」とは、簡易な工作機械を設置した製品開発環境を整えた施設であり、現在、民間の施設として全国で増えつつある。施設内のデスク、レーザーカッター、3Dプリンター、ボール盤、旋盤等を利用し、自身のアイデアを形にすることができる。「コワーキングスペース」とは、オフィスや打ち合わせスペースを共同で持ち、維持・管理コストの低下することの他に、バックグラウンドの異なる人材の出会いによる相乗効果の発揮を狙ったレンタルオフィスである。
 たとえば、経済産業省の産業技術構造審議会においても類似の取組が紹介されている。品川駅に近い場所に、品川ものづくりラボ=品モノラボ、という、品川に縁のあるメーカーや、ものづくりへの関心の高い人々が、会社帰りに集まり、ものづくりに関して相互に学び合う場が立ち上がっている。本ラボでは、すでに複数のアイデアが製品化に向けて動いているという。

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2枚目の名刺活動
 マスコミにも多数取り上げられており、ご存じの方も多いと思う。本業で培った知見や能力を本業以外の社会活動で発揮することを目的に、本業以外のもう1枚名刺を持つことを促す活動である。たとえば、NPOなどの抱える問題について、社会人がチームを組み、各個人の能力を活かしてソリューションを提供する。このような社会貢献を通じて、ベンチャーの企業など新しいキャリアを模索する若手が増えている。

 着目すべき点は、企業に所属しながらも、企業内に留まることなく、こうした活動に取り組む方々が少なからず存在する点である。「経営者保証に関するガイドライン」などの整備等により、起業失敗時のリスクは低減されているが、日本においては起業に失敗すると再起が難しい、と依然としていわれることも多い。企業に所属してリスクを最小化しつつ、起業の準備を行うことが可能なこれらの取組は、日本社会にマッチした仕組みではないだろうか。

4.ベンチャー企業と大企業によるビジネス育成モデルと課題
 前述のように社会変化とともに、スピンオフベンチャーの活躍や、企業外での活動が活性化している中で、ベンチャー企業と既存の企業にとって、どのようなビジネス育成モデルが構築されていくのだろうか。
 これまで紹介した現象を踏まえると、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源全体に渡る「ベンチャー企業と大企業による循環の形成」が今後のビジネス育成を担うモデルの一つとして考えられる。

 企業内における人材が、自己の能力発揮の場を求めて、スピンアウトもしくはカーブアウトベンチャーを起業し、製品企画・開発を通じて小規模市場でビジネスモデルの構築・検証を行う。そして、大企業がベンチャー企業を買収し、資本力を活かして、より大きな市場に製品を供給していく。ベンチャーを起業した人材は、売却とともに企業内に戻ることや、新たなベンチャーを起業していく。といった米国では日常的に行われているビジネスの育成モデルが、いよいよ日本でも始まることが期待される。

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 ただし、この育成モデルが循環するためには、これまでの終身雇用のライフスタイルを前提とした制度上に、いくつかの課題が存在する。最近の国の動きに合わせて、2点紹介したい。

入り口としての兼業・副業
 一点目は、循環のスタートである、企業内の人材が企業外の活動においてビジネスを探す副業・兼業行為を禁止する就業規則の存在である。「2014年度版中小企業白書」によると、兼業・副業が許可されていない企業は67.2%に達し、また兼業・副業したいと希望する社員・職員が48.1%存在することが示されている。

 また、過去の事例の少なさから、兼業・副業に関して具体的やつ詳細を規定したルールの積み上げも少ない。兼業・副業を解禁するためには、所属する企業側と兼業・副業の線引きがある程度明確化されるルールなどが必要である。本格的な解禁に向けては、以下の項目に関するルールの整備が必要となるであろう。
(1) 本業の利益相反とならない兼業・副業が認められる範囲
(2) 本業と副業・兼業時の個人との知的財産権の範囲
(3) 雇用者として副業・兼業を行った場合の総労働時間の管理 など
 上記のような整理が存在しなければ企業側も根拠をもって兼業・副業を許可することは難しい。今後、各企業がルールを策定の際に参考となるガイドラインの整備が今後必要となると考えられる。

出口としてのコーポレートベンチャリング
 二点目は、企業がベンチャーを買収する際のコーポレートベンチャリング(CVC)の課題である。オープンイノベーションの実践という従来から指摘されている課題であるが、外部とのアライアンスの判断基準となる「企業のコアコンピタンスの特定」や「アライアンスを結ぶ事業エリアの設定」などに難しさが存在している。ただし、企業規模が大きさに比例し、これらの特定や設定は難しくなる。また、多様な組織があるが故に、多少のコスト高が生じても外部とのアライアンスよりも内部調達の圧力が強まる傾向も存在する。

 昨今、新たな視点として、上武大学の中村裕一郎教授により、ベンチャー企業と大企業の信頼関係の形成の重要性が指摘されている。具体的には、大企業がベンチャーキャピタル(VC)のコミュニティに参加し、そのネットワークの中で、VCの投資先から将来の買収候補を選定し、ベンチャー企業自身の可能性と、経営者の資質を確認していくことで、企業によるベンチャー買収の進展の可能生を示唆している※ものである。

※中村裕一郎著 アライアンス・イノベーション 大企業とベンチャー企業の提携 理論と実際(白桃書房)
 このような信頼関係の醸成を図る取組は、現在、経済産業省が進めている「ベンチャー創造協議会」においても実施されている。大企業、ベンチャー企業、ベンチャーキャピタル等を協議会に集め、各組織間のネットワークを醸成し、大企業によるベンチャー買収を促すことを目的の一つとして協議会を運営している。

5.ベンチャー支援に求められる中小企業診断士像
 ベンチャー企業と大企業による循環形成については前述のとおり、いくつかの課題があるが、競争力のある製品を市場に供給するために、大企業とベンチャー企業の循環は徐々に形成されていくものと考えられる。このような流れの中で、ベンチャー企業を支援する中小企業診断士には、どのような能力が求められていくのだろうか。

 企業内の技術者などの人材からの独立・起業に関する相談を受ける中で、従来の(1)独立に当たってのビジネスモデルの検証、(2)融資元の選定、(3)開発・生産計画、資金繰り計画の策定、(4)知的財産の特定・保護などの支援に加えて
(1) 所属企業との知的財産の整理
(2) スピンアウトの選択、時期、所属企業との関係に関するアドバイス
(3) 企業売却に備えた候補先の選定 など
の支援が今後拡大していくことが見込まれる。

 支援範囲の拡大により、ビジネス全般をカバーする中小企業診断士の社会的なニーズは一層高まっていくことが期待される。また、所属する企業内のロジックを理解しつつ、客観的にビジネスを俯瞰することが可能な企業内診断士の新たな活躍の場としても期待することができるのではないだろうか。

6.終わりに
 本稿では、企業内のエンジニアなどの人材から、起業の相談が増えている実感および周囲の声を踏まえ、近い将来に想像されるベンチャー企業と大企業の関係について、敢えて踏み込んで紹介することを試みた。紙面では紹介仕切れていない背景や事例、また、待遇面の課題など、まだまだ多数の整備すべき点があると考えられるが、本稿をお読みいただいた方々にとっての新しい「気付き」があれば幸いである。

 また、このような論点について発表する機会をいただけた東京協会およびベンチャービジネスサポート研究会の方々に感謝の意を表したい。

2014.10.27
事業承継に取り組む中小企業診断士のための 「事業承継ケーススタディブック」の発行

東京協会認定 事業承継研究会 相川 尚之

 「事業承継研究会」は、中小企業診断士協会東京支部で結成された提案チームを母体に、平成18年度に発足した。研究会の概要は以下の通りである。
(1)研究会名:事業承継研究会
(2)発足年度:平成18年度
(3)代表者名:鈴木 勇吉
(4)会員数:93名
(5)開催日時:毎月第2月曜日 18:30~20:30(8月を除く)
(6)開催場所:中央区の区民会館

 月例会では、中小企業基盤整備機構、金融機関、M&A会社等の外部講師による施策や事例に関する講演、事業承継を行った会社の新代表者あるいは前代表者による経験談、また、税理士、弁護士等の他士業の講演、会員発表を行っている。
 月例会以外の活動ではプロジェクトチームにより「中小企業診断士のための事業承継マニュアル」(2008年2月:執筆25名)、「事業承継テキスト」(2010年8月:執筆27名)、「事業承継ケーススタディブック」(2013年10月:執筆21名)を作成した。「中小企業診断士のための事業承継マニュアル」は、事業承継支援において実践経験豊かな中小企業診断士が、この分野で活躍したい専門家のための手引としてまとめたものである。「事業承継テキスト」は、新たに施行された事業承継円滑化法の制度概要などを追加し、事業承継を迎える経営者および後継者向けのセミナーや研修会のテキストとして発行した。そして、2013年に3冊目となる「事業承継ケーススタディブック」を発行した。ここでは、この「事業承継ケーススタディブック」の一部を抜粋し概要を紹介する。
 
1.「事業承継ケーススタディブック」作成の経緯と構成
 3冊目の目的は、前2冊を踏まえて、事業承継に取り組む中小企業診断士の活動の参考になるために、より実践的な内容にすることであった。このため、理論的な内容以外に多くの事例を掲載し、事業承継を行うときによく出る課題にどのように対応したかを、事例を通して一層の理解を深まるようにした。
 構成は、第1部を理論編、第2部を事例編とした。第2部は、事業承継の一般的な4類型(親族内、親族外、M&A、廃業)に合せて事例を掲載した。各事例とも統一様式の事業承継計画表を用い概要をまとめ、また、支援の手順、事業承継者の課題に関する把握すべき項目の整理等も同じ切り口で編集したため、理解し易くなっている。また、理論編と事例編の関係を巻末に関係表を添付することにより整理した。事例編のそれぞれのページに記載されていることが、理論編のどの項目に該当するかがわかり、事例編の各課題を理論編の解説と結び付けた。
2.「事業承継ケーススタディブック」の一部抜粋
(1)事業承継の現状と主な課題
 事業承継は、「経営の承継」と「資産の承継」がある。この両方を円滑に行うためには、準備のための期間として年単位の時間をかける必要がある。準備なく経営者が亡くなった場合、適切な経営者がいない、経営者がいてもその人が事業資産を相続できない、相続人間で「争続」となり相続財産の分割が長期間できず、事業ができなくなることもある。このため、事業承継は経営者が第一線で活躍している時期から計画的に行うことが重要である。

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 事業承継のパターンは、一般的に①親族内承継、②親族外承継、③M&A、④廃業である。親族内承継は、承継する人が相続人であるか否かで主な課題が異なり、親族内でも相続人以外に承継する場合の課題は、親族外承継の課題と同様な場合が多い。
 

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(2)承継者の選定
 承継者を選定する場合、一般的には、初めに子供(相続人)を検討し、その承継が難しい場合は、次に娘婿、甥・姪などの相続人以外の親族、従業員等の社内人材、社外の人材の順番で検討する。適切な承継者が確保できない場合は、M&Aとして売却先を探し、それもできない場合は廃業を検討する場合が一般的である。
 
(3)子供への承継
 事業承継先は子供が一番多く、この年齢差は30歳前後が中心と考えられる。後継者には学卒後の社会経験から他社および自社での業務経験、経営者補佐役としての経験や人間としての成長が必要であり、育成には中長期で取り組む必要がある。また、それぞれの時期に現経営者と後継者がなすべきことには留意する必要がある。

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(4)子供以外への承継と廃業
 子供がいないか、いても承継の意思がない場合は、娘婿、甥、姪、従業員、外部招へいなどが考えられる。この場合、後継の経営者として最も適切な資質を持ったものは誰か、という観点で広く候補者を求めることができる。
 後継者に経営権だけを移して、所有権がオーナーの妻などというケースも考えられるが、将来的に問題が発生しにくいのは、所有権そのものを買い取らせて、会社の経営権と所有権を一致させることである。しかし、後継者が必要な株式を買い取る資金力があるかどうかだが、一般的には資金がないケースが多いのが実情である。さらに、現経営者が負っている個人債務保証の問題をどうするかも検討が必要となる。
 親族や社内外に事業を承継する適当な後継者がいない場合には、従業員の雇用の維持や取引先の仕事を確保し、また経営者の老後の生活資金を得るため会社そのものを売却し、第三者に経営してもらうM&Aも選択肢の一つである。M&Aでは、企業価値の向上のために、計画的に「会社の実力を磨きあげる」ことが必要である。また、事前準備段階で最も注意すべき事項は、いかにして秘密を守り、従業員、取引先等の事業関係者へ、M&Aを検討しているという情報の漏洩を防ぐかということである。
 親族および外部に後継者がいない、M&Aの買い手企業も現れない場合、廃業という選択肢がある。この場合、企業価値がプラスかマイナスかでいくつかのパターンがある。また、主要事業の先行きが厳しい場合、事業部分と所有している不動産を分離し、不動産業に転業するという方法もある。
 
(5)株式承継対策
 事業承継対策の中でも株式承継対策、すなわち先代経営者などの所有している自社株式をどのように後継者に承継させるかというのはきわめて大きな問題となる。優良企業であるほど自社株式の評価額は高くなり、株式承継を実行した場合の税額は多額となる。
 先代経営者の所有する自社株式の所有権を後継者に移転する手法は、大きく分けて「贈与」「譲渡」「相続」の3つになり、所有権移転の際の株式の評価額の算定がポイントとなる。親族外承継の場合は、後継者が法定相続人でないため「譲渡」を基礎とした手法となることが多い。この場合の最大の問題点は、後継者がどのようにして自社株式の買取資金を調達するかと言う点である。
 中小企業のM&Aは、多くの場合、株式譲渡方式と事業譲渡方式のいずれかによることが多い。M&A方式は純然たる第三者間の取引であることから、取引価額については、基本的に税務リスクは気にしなくて良い。
 蓄積した財産がある場合の廃業は、法人を完全に清算し、その財産を株主に配当する方法と、事業を廃業した後に、その財産を基に不動産賃貸業に転業する方法がある。法人を解散・清算する場合は、法人の残余財産は持分比率に応じて株主に配当されることになる。株主が個人であれば配当所得となり、最高で地方税を合わせて50%の税率の所得税が課税されるが、自由に使えるようになる点が大きなメリットである。不動産賃貸業へと転業する方法は、会社の商号が残る他、配当所得への所得税がかからないというメリットがある。

(6)相続
 資産の承継を考える場合に、まずは、先代経営者の資産を把握することから始める。事業承継の観点から先代経営者の資産をみる場合、自社株式、事業用資産、その他資産の3つに切り分けて把握することが重要である。
 資産の承継を考える上で、相続法の知識が必要となる。被相続人の財産を相続人が相続によって承継する方法には、「遺言相続」と「法定相続」がある。遺言がある場合には、遺言相続として遺言にしたがって処理され、遺言がない場合には、法定相続となる。事業承継では遺言相続が望ましい方法である。
 遺言によって法定相続のルールを修正することができるが、民法では、一定の相続人の生活保障などのために、遺言によっても被相続人が自由に処分できない一定割合を定めており、この一定割合の相続権のことを「遺留分」と呼んでいる。遺留分対策はいくつか考えられ、それぞれの対策を組み合わせることも可能である。

(7)事例の概要
 ①株価対策を優先し経営権承継を失敗した事例(親族内)
 創業者は、自社株の評価対策および承継対策として、自らの社長退任と後継者である長男の社長就任を決定し、役員退職金を受領するとともに、相続時精算課税制度を活用し、自社株を長男に贈与した。しかしながら、名誉会長となった創業者はその後もたびたび経営へ介入し、社内で強い影響力を保持したため、創業者と後継者との間で不協和音が生じていた。
 本件の相談を受けた中小企業診断士は、社内調査を実施した上で、失敗してしまった経営権の承継を立て直すための改善策を提案した。本提案は会社で採用され、事態は徐々に好転に向かっている。
 
 ②後継者と経営状況の認識を共有して成功した事例(親族内)
 当社は現経営者(62歳)が創業した金属部品製造業である。長男を入社させてはいるが、経営状況については何も伝えていない。その結果長男は前職の大会社にいた時と同じようにのんびりとした仕事ぶりで、事業承継についての心構えもできていない状態であった。
 中小企業診断士が社長に対して長男に経営状況を伝えて本人の自覚を促すよう勧め、経営状況について理解を求めた結果、長男には後継者としての自覚が生まれ、事業承継に向けての準備が進んだ。
 
 ③社内に後継候補となる複数の親族がいる場合(親族内)
 当社は現経営者(69歳)が創業した食品卸売業であるが、75歳までに後継者に経営を引き継ぎたいと考えている。
 社内に2人の息子がおり、経営に対する意欲や能力、社内の評価などから二男を後継者として指名した。長男も会社に残し一定の株式を譲渡することも考えたが、最終的に長男は退社して別会社を任せられ、株式も後継者の二男に集中させることにした。
 現在、将来ビジョンづくりをはじめ、後継者教育に取り組んでいる。
 
 ④親族外後継者に新会社を設立させ事業譲渡を計画している事例(親族外)
 経営者が従業員を後継者に選定し事業承継の準備を始めたが、自社株式の承継については評価額が高額となることから、従業員の後継者には一部だけ保有させ、多くは相続財産として相続人に残す「所有と経営の分離」で対応する考え方でいた。
 しかし、経営者が相談に訪れた中小企業診断士から、「所有と経営の分離」は後々経営者と相続人の争いの元になるので避けたほうが良いこと、自社株式が高い場合にも「所有と経営の分離」をしない事業承継のやり方があることなどのアドバイスを受けた。経営者はこのアドバイスを受入れ、従業員に新会社を設立させそこに主事業を事業譲渡する形で事業承継することを決意した。
 そこで中小企業診断士は事業譲渡方式による事業承継の進め方を更に詳しく提案するとともに、税理士(会計士)、弁護士とプロジェクトチームを立ち上げて税務法務の面でどんな問題点があるか検討を行った。
 
 ⑤親族外後継者へ株式を移行する事例(親族外)
 創業者はひとり娘の長女を次期社長とし、実力のある営業部長をその補佐役とする承継計画を立てていたが、長女が急逝し、営業部長も病気で退職した。銀行の紹介による会社売却も市況が悪化して頓挫した。途方にくれたが、偶然訪れた公的機関の相談窓口で、従業員への承継の可能性を示唆された。
 従業員の中から後継者を指名したが、高額での株式売却を望む創業者と株式買取資金が十分でない後継者との間で、利害対立が起こった。
 相談を受けた中小企業診断士は、他の専門家を交えた事業承継対策チームを作り、円滑な株式移行対策を提案した。
 
 ⑥社外の事業者に事業を承継した事例(M&A)
 当社は、前代表取締役が創業した会社であるが、過剰設備投資に加え、近年の事業環境の変化により、業績が急激に悪化した。
 当初、取締役である息子への事業承継を検討していたが、前代表取締役から引きついだ過剰債務があまりに重く、自主再建がなかなか思うように進まずにいた。
 金融機関と相談し、事業価値が毀損し、破たんに至る前に、外部のスポンサーに事業を承継することとした。
 
 ⑦事業承継と争続回避のため前向きに廃業した事例(廃業)
 小型船舶造船業を営む社長は、市場の縮小および自分と従業員の高齢化から、廃業を検討していたが、2011年3月の東日本大震災の被災を契機に廃業を決断した。社長の思いは、①従業員や取引先などの負担の軽減、②当社のDNAを引継いでいる金属加工会社の株式を自分から長男(この会社の社長)へ承継、③争続の回避を実現できることであった。
 本件は、これらの課題に対して、中小企業診断士のコーディネーター力の発揮と専門家とのコラボにより、社長を中心とした円滑な廃業と不動産M&Aの手法を活用してソリューションした、前向きな廃業事例である。

2014.09.27
エコステージ:中小企業の環境経営の総合サポートと支援手法の研究開発

エコステージ実務研究会 大滝 俊武

はじめに
 エコステージ実務研究会では、月に1回、環境マネジメントシステム研究会(EM研)、
一般社団法人東京環境経営研究所(以下TKKと略す。2年程前から、契約を結ぶことが可能な一般社団法人であるTKKがエコステージの評価機関となっている)の例会と同じ場所で、時間をずらして合同例会を行っている。
 以下、エコステージ活動をミッションとするエコステージ実務研究会の研究活動を中心として記していくこととする。

1.エコステージの概要
 環境問題は、世界共通の大きな課題。企業活動においても環境への対応が必須となり、大手企業を中心に環境マネジメントシステム(EMS)の導入が普及している。EMSとは、企業や団体などの事業者が、環境に関する方針や目標などを自ら設定し、これらの達成に向けて取り組み、実行していくためのシステムである。

 代表的なEMSとして国際規格のISO14001が知られているが、中小企業にとっては費用や工数などの負担が重いものである。そこで、中小企業でも導入しやすいEMS国内規格の一つとして生まれたのがエコステージ。エコステージは、ISO14001と整合性が高く、さらに経営力強化を図る有効なシステムである。国内中小企業を中心に普及が広まり、多くの大手企業の取引基準にも推奨されている。

 エコステージは次のような組織にお応えしていく。
 (1)取引先のグリーン調達基準を満すために、信頼のおける評価機関による第三者認証が必要。
 (2)将来的にはISO14001を取得したいが、コスト負担が大きくなかなか手が出ない。
 (3)経営改革、改善の実現によりコスト削減を図り、収益アップにつなげたい。
 (4)「社会的責任」がクローズアップされる中、組織のイメージ向上を目指したい。

 201410_tokusyu_1.jpgエコステージの概要を図に示す。
 エコステージ1は、環境マネジメントシステムの導入初期段階で基本的な経営管理要素について環境配慮が実施されているレベルである。

 エコステージ2は、環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001認証と同等レベルの要素が構築され、実施されているレベルである。

 エコステージ3は、システム改善が実施され、経営マネジメントシステムの中で、必須要素である営業、購買、設計、工程、物流などの管理システムにも環境への配慮が実現できているレベルである。

 エコステージ4は、経営マネジメントシステムの必須要素がカバーされ、かつ環境パフォーマンス指標に基づいた管理が実現できているレベルである。

 エコステージ5は、統合マネジメントシステムが構築されているレベルであり、かつ環境会計および情報開示により環境パフォーマンスの改善および社会とのコミュニケーションが実現できているレベルである。

2.エコステージ活動の取組み例
 エコステージ実務研究会では、数社のエコステージのシステム構築・運用支援およびエコステージの評価機関であるTKK所属の評価員として認証評価、定期評価、更新評価などの活動を行っているが、その取組み例を表に示す。
201410_tokusyu_2.jpg

3.エコステージ実務研究会の環境経営への取組み
 PDCAのサイクルを使った業務や経営の改善、中小企業診断士・エコステージ評価員による環境経営実現の支援などをエコステージ実務研究会の取組みとしている。
 
 前記の数社のエコステージ活動の取組み例でも示したように、ホームページ(以下HPと略す)のリニューアルの支援、経営革新計画の認証取得の支援、ものづくり補助金申請書作成の支援等の経営改善に関する支援なども行ってきており、中小企業診断士の強みを生かして、本業と環境活動の一体化支援をエコステージ実務研究会の環境経営への取組みの特徴としてあげることができる。

4.支援手法開発・研究
 エコステージ実務研究会ではTKKとの連携のもとに、次の支援手法の開発・研究などを行っている。

(1)化学物質管理関係の開発・研究
1)ISO-RoHSガイダンス文書の作成
  マネジメントシステム
  -製品の化学物質等の使用制限に関する法規制遵守のためのガイダンス(仮称)
    (ISO-RoHSガイダンス文書)の作成を平成24年度に行った
     (TKKのHP(http://www.ecoken.net/)参照)。

 EU RoHS(Ⅱ)指令によるCEマーキング対応が2013年1月から義務付けられることになった。CEマーキングは製造・流通過程の下流(川下)企業の義務であるが、その対応は製造・流通過程の中流(川中)、上流(川上)段階の企業に求める必要が生じている。
 川中企業は多くの川下企業からさまざまな経路で、電気電子業界固有の"均質材料"レベルでの適合性確認が要求されている。
 川中の中小企業の立場からは、対応の一本化が望まれる。また、中小企業では中国などのアジア諸国へ直接輸出する企業が増加している。
 川中の中小企業にとって、国内川下企業共通のマネジメントシステムが望まれる。
 これらを背景として、ISO9001の造詣が深いNPO法人国際品質保証協会(IQAI)と海外法規制情報に明るいTKKが連携して、ISO-RoHSガイダンス文書の作成を行った。

2)川中企業の情報伝達の現状調査
 平成25年度の経済産業省の委託調査の一環として、TKKは川中企業の情報伝達の現状
調査を行った。この調査では、次の報告書の作成を行った
  (TKKのHP(http://www.ecoken.net/)と経済産業省のHP
  (http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/reports.html#11)を参照)。
 ・製品含有化学物質管理ガイド 企業担当者向け
 ・製品含有化学物質管理ガイド 企業の化学物質管理協力者向け
 ・製品含有化学物質管理ガイド 中小企業診断士など専門家向け
 ・副読本 CE マーキング 技術文書の作成の手引きなど
 
3)エコステージと化学物質管理の手引き
 エコステージ実務研究会の上部団体である(一社)エコステージ協会の化学物質管理WGからの協力依頼により、化学物質管理手引きの作成を行ってきている。昨年度はRoHS指令対応の手引きを作成し、引続き今年度は8月末を目標にREACH編を作成中である。

 この中のサプライチェーン内の情報伝達管理の項目では、(1)情報伝達管理の手順 (2)情報伝達管理のツール (3)情報伝達管理の課題 についての整理を行ってきているが、
当研究会グループとしては、このサプライチェーン内の情報伝達管理問題の解決を研究テーマの1つとしている。

(2)節電手法としての電力測定技法
 エコステージ実務研究会ではEM研とTKKとの連携のもとに、200社以上の中小企業の節電支援を行ってきているが、その中で、電力の見える化の手段として、電力モニターやクランプ メ-ターを活用して、配電盤での消費電力測定などを実施してきた。

5.最新の自然エネルギーと環境関連動向の把握
 環境マネジメントシステムの研究を進めていく上で、最新の自然エネルギーと環境関連動向の把握を行っていくことは重要であり、環境マネジメントシステム研究会(EM研)主催の外部講師の講演会にエコステージ実務研究会のメンバーも参加して、講演を聞くとともに、積極的に講演後のディスカッションに参加して、知見を拡げている。

 この数年間の外部講師の講演会のテーマと講演要旨を以下に記す。
2012年7月 「化工屋さんの環境研究-公害対策から地球環境へ」
 成蹊大学理工学部物質生命理工学科 小島紀徳教授
 ・化学工学学会賞受賞(2012年3月)記念講演
 ・地球環境・温暖化・エネルギー利用を考える
 ・豪州の実証植林サイト JSTの大型プロジェクト
 ・CO2固定のための植林技術開発
 ・エネルギーと廃棄物のLCA

2012年10月 「バイオマス利用設備の現状」
 蔵前バイオマスエネルギー技術支援ネットワーク 吉川 浩理事長
 ・地球温暖化防止とバイオエネルギーの利用
 ・バイオエタノールの利用と現状
 ・森林資源の利用と現状

2013年7月 「自然エネルギーの将来-再生可能エネルギーの大量導入とエネルギーシステムの動向」
 東京工大 平井利弘 元特任教授
 ・再生可能エネルギーの大量導入と対応策 
 ・スマートコミュニティの実証プロジェクト
 ・アジア地域での再生可能エネルギーの可能性 

2014年7月 「再生可能エネルギー普及と政策学的課題」
 東京農工大学名誉教授 龍谷大学政策学部 堀尾正靱教授
 ・再エネ・節エネ政策の背景と課題
 ・FIT(電力固定価格買取制度)後の再エネ政策の現状
 ・JST-RISTEX環エネ領域の経験から

6.今後の展開
 エコステージ実務研究会の研究活動の今後の展開として、次のものをあげる。
 ・化学物質管理手引き作成WG活動の一環として、2014年度はREACH編の作成を行う。
 ・ISO14001 2015年版(2015年夏頃の発行を目指して改正作業中)の改正の動向とエコステージへの影響についての研究を行う。
 ・TKKのHP(http://www.ecoken.net/)等の販売促進ツールを活用しての顧客開拓を行っていく。

2014.08.29
「中小企業のIT化支援」への提言

「中小企業のIT化支援」への提言

東京協会認定 SCMとIT経営・実践研究会
中小企業診断士 吉村 正平

 「SCMとIT経営・実践研究会」(略称:SCM研)は、1999年にサプライ・チェーン・マネージメントの概念・手法・標準化や実施例等の実現状況を研究する「SCMビジネスモデル研究会」として、発足した。2006年からはIT経営を含む企業経営に役立つ内容を研究することを明記した現在の名称になった。
(1)研究会名:SCMとIT経営・実践研究会(略称:SCM研)発足年:1999年
(2)代表者名:魚谷 幸一
(3)開催日時:毎月第4土曜日(12月は第3土曜日)
(4)開催場所:都内(中央区または杉並区)の区民館
(5)1日の構成:
  午前:分科会
  午後:定例会(2テーマ)
  夕方:懇親会
(6)情報発信:HPでの公開

 2013年度の取り組みとして、本部から「中小企業へのIT化支援」の理論更新研修を依頼されたのをきっかけに、新たな分科会として更新研修企画プロジェクト(略称:K-プロジェクト)を立ち上げ、研修内容を吟味し、資料としてまとめ、研修会を5回実施した。201409_tokusyu_1.jpg

 講義内容を討議していく中で、「研究会で対応した事例や発表してもらった事例を盛り込む」、「経営戦略や課題解決を検討する段階に支援が必要」であり、戦術の重要な要素として「ITを武器として考えるもらうこと」や中小企業の相談相手である「診断士を研究会メンバが支援するサービスの提供」などの意見がだされた。
 「中小企業へのIT化支援」を実践する時の課題に対する「ソリューションサービスを研究会で作っていこう」との機運が高まり、研修実施後も「経営診断支援サービスメニュー」や「ボトムアップ・アプローチ」「ジャンプアップ・アプローチ」の具体化を進めている。
本稿では理論更新研修「中小企業のIT化支援」対応プロジェクトとその後の継続活動を紹介する。

1.「中小企業のIT化支援」はいかにあるべきか?
 情報化社会の進展とともに経営環境の潮流変化は発生しており、小規模事業者でも何らかのIT環境を利用している。中小企業は大手企業に比べて、IT化が遅れていると言われており、その対策として各種の支援策が実施されてきた。オフィスコンピュータの時代に比べれば、現在では安価なパッケージソフトの普及もあり、企業規模によるITの適用格差は小さくなってきている。業務現場でのIT利用についても表計算や文書作成ソフト等の業務ソフト利用は進んでいる。一方では、現場の課題は経営者から見ると些細なこととしか見えないため、現場のIT化費用が認められないケースが散見される。経営から見た投資効果が表れておらず、経営者から金食い虫と思われ、経費削減の対象になっているところもある。大手企業でも優先順位やセキュリティの懸念から適用が進んでいないものもあることを勘案すると、中小企業のIT化はもはや大企業の後追いではないと言える。201409_tokusyu_2_1.jpg
 中小企業白書(2013年版)の従業員規模別のITを導入していない理由に、①「コスト負担」②「IT人材不足」③「従業員のIT活用能力不足」があり、⑦「適切なアドバイザー等がいない」も上がっている。
 中小企業のIT化の課題を次の4点にまとめた。
①経営者の経営方針が不明のために解決手段としてITが有効に使われない。
②IT人材不足のため、特定の個人に集中している。組織的な対応の無さがリスクである。
③人材のIT能力不足のため、外部ベンダに依存度が高くなりすぎる。迅速な対応力がない。
④現場では個別のIT利用で、経営効率かに結びつかない利用形態になっている場合がある。

2.IT化支援のフレームワーク
 IT化の課題に対して、発想の転換が必要と考えて、新たな視点を提案したい。
【効率化から付加価値増加へ】
 中小企業では省力化が直接的に経費削減に結びつかない場合が多く、業務処理コストの視点で省力化効果は限定的である。適用すべき現場は付加価値の創造を担っている現場であり、狙いは「IT活用による付加価値増加」である。201409_tokusyu_2_2.jpg

【経営改革活動でIT適用の検討を】
 経営力向上は経営者の意思決定の問題であり、中小企業診断士が経営者の参画する経営改革活動で、適切な時期にIT化に関するアドバイスすることが大切である。
 経営者が望む"ありたい姿"に向けた実現手順を3つのタイプのアプローチ「トップダウン・アプローチ」、「ボトムアップ・アプローチ」、「ジャンプアップ・アプローチ」として紹介する。201409_tokusyu_3.jpg
 「トップダウン・アプローチ」は戦略に基づく業務の全体最適化を目指して、社長主導で進められる。たとえば、全社統合システム(EPR)を導入する場合には関係部署を横断したプロジェクト体制をとり、1年以上の構築期間と移行期間を経て、運用を開始する。
「ボトムアップ・アプローチ」は現場の継続改善により現場力強化を目指すものである。これは、目の前にある身の回りの業務を改善しながら、ありたい姿に向かう小集団活動であり、日常業務を行いながら、数か月単位の改善を繰り返す継続活動である。
 「ジャンプアップ・アプローチ」は目標・目的に向かって仮説に基づくあらたな道を切り開くもので、従来の活動からは離れた特命体制で取り組み、成功するまでトライ&エラーを繰り返し、経営者の支援がある限り挑戦する。
 以上の3つのアプローチを選択肢として、中小企業診断士が経営課題を解決するのに適した手順を経営者に助言する。さらに、情報セキュリティ、個人情報保護、知的財産権への対応も助言することを提言する。
 以上の内容をまとめたものが、研修用テキスト「中小企業のIT化支援」である。

3.研究会活動実績の活用
 提言を分科会活動で討議できたのは、それまでに、大学教授、企業の専門家、実務経験者、中小企業経営者、独立コンサルタント、ITベンダ等の有識者に講演を依頼して、その後の継続した交流を行ってきた人脈と情報調査を行える研究会メンバによるところが大きい。
 以下に、テキストに収納した例を紹介する。

3.1.ITカイゼンとデータ連携ツール「コンテキサー(Contexer)」
 西岡靖之(法政大学デザイン工学部教授)はトヨタのものづくりのカイゼンに対応して、工場現場の情報処理の"ITカイゼン"として情報のムダ取りと情報の清流化を提唱した。
 製造業は商流、物流、金流に関連して多様な情報伝達(情報流)があり、業務の流れに関連して各種のデータを蓄積したマスタファイルが点在し、業務担当者が必要な情報を取り扱っている。工場で扱われる情報は製品に関する多様なデータ構成と変化するデータの集まりで常に変化している。日々、付加価値を生みだす現場で、必要な情報や知識・知恵を蓄積して作業に合わせて利用できることが"強み"である。基幹システムのような統合データベースを工場のものづくりの現場で実現することは現実的ではない。
 現場作業に必要なデータは仕様と"もの"に依存しており、現場でのデータ蓄積も必要である。これらのデータ活用策としては、基幹システムのデータと現場の各種データ、整合性を取りながら現場ニーズに柔軟に対応して、情報の流れを清流化することが現実解である。
 生産に必要な情報伝達は注文(オーダ)の単位に各種マスタデータを参照しながら、業務間を流れていく情報処理である。工場のIT化の経験者が現場で使える連携ツールのソフトウェア要件を提言し、それを満たすようにソフトウェア「コンテキサー」が企画・開発された。201409_tokusyu_4_1.jpg
 コンテキサーは業務の流れを実現するデータ連携ツールである。Excelの表形式とおなじような項目のタイトル行とデータをもつレコード行で構成される表(パネル)が基本単位である。201409_tokusyu_4_2.jpg
 表のデータ編集機能に加え、表と表の関連付けや表の外部ファイルとの入出力を使って、情報処理を行うことができる。表と表の関係付けは転記、限定、補助の3種で、詳細をパラメータで指定する。データ編集・操作(アクション)をまとめて手順(コマンド)が登録できる。業務に必要な演算・操作をプログラム言語の知識がなくても組み込むことが可能で、担当者の作業を支援する自前のシステムを構築することができる。
 "ITカイゼン"の普及活動が東京都の提案公募型産業交流促進事業に採択され、中小企業が参加して実績をあげている。

3.2.今野製作所の適用事例
 研究会に講師として招聘して以来、参加メンバとなった今野製作所の社長が改善状況を研究会で発表。"ITカイゼンの講習会"の参加企業でもあり、コンテキサーで自前の生産管理システムを作り、市販の販売管理、会計処理ソフトに連携させて活用した。201409_tokusyu_4_3.jpg
以下は社長が研究会に寄せたコメントの抜粋である。
[中小企業の実情]30人規模の会社。専任のIT担当者はおけない。小さい会社は、ひとりのできる担当者が、複数の業務機能を兼務し、パラレル処理をしている。(「中小企業は小回りが効く」。)現場は、近視眼的。業務プロセス全体が見えていない。本来の「業務プロセス」「業務機能」「情報のながれ」が、自分達もわからなくなっている。
[ITカイゼンの中核メンバ]3年掛かって、ようやく体制ができつつある。
本社:業務マネージャー(42歳)+設計担当者(27歳、社歴3年)
   コンテキサーで業務アプリを作ってきた。業務全般に関して、驚くほどの急成長。
工場:業務担当者(32歳)+現場製造担当(20歳、新入社員、育成中)
   新人は「IT」「パソコン」はやたら詳しい。でも業務はまだ知らない。
[経営者の役割]①経営課題としての問題認識を、俯瞰して、その因果関係を冷静に分析することが重要。そもそも問題点だらけの中小企業。優先順位付けを経営者が行う。
②ITカイゼンの推進をどうするかの、担当者育成方針、研修会への参加コンサルの活用など、経営者の意思決定、ふんぎりが大切。
③「IT経営」。社長はなにも「狭義のIT」に詳しくなくてもいいが、業務プロセスの理解と業務全体の俯瞰能力があれば、いい。
④「業務を自分たちでカイゼンしていくのだ!」という組織マインドの醸成を目指す。

3.3.研究会の対応事例と事例調査
 当会の実践分科会で診断した事例と中小企業IT経営力大賞などの事例を検討し、スタートアップ企業の「トップダウン・アプローチのシステム構築提案」、今野製作所の「ボトムアップ・アプローチ事例」新分野適用の「アパレル卸企業のIT化提案」「遠隔地カメラによる店舗運営」を選び、パネルディスカッションの紹介事例とした。

4.IT化支援のフレームワークに新たな追加提言(参照資料2)
 IT化の課題(②、③)の解決策として「自社要員によるIT化」を提言する。また「ボトムアップ・アプローチ」の手順を提示する。

4.1.自社要員によるIT化
【投資効果を「開発投資コストからITの生涯コストで評価する」】
 企業活動におけるIT投資効果は運用して初めて効果測定が可能となる。そのとき、評価対象となるコストは開発コストだけでなく、運用開始後の運用コスト・改修コストを含めるべきである。ハードウェア・ソフトウェアコストは大きく低下傾向が続くが、人件費がコストの中心である導入・運用・改修コストは低下しにくい。

IT生涯コスト=構築コスト+運用・改修コスト
   =構築コスト(人×月)+ Σ(要員アサイン待ち+仕様打合せ+改修期間)201409_tokusyu_5.jpg


 外部委託して構築した仕組みは社内の要員で運用維持をしていたとしても、業務要求の変化に対応した改修を実施するとなると委託した企業の人に依存せざるを得ない。ところが、委託先では開発担当者から引き継いだ要員が改修対応をすることになり、変更要件の理解と改修方法の発見・改修箇所の特定・改修後の全体稼働確認の時間とコストが発生する。このような外部への流失コストに加え、結果には表れにくい対処遅れによる機会損失コストも発生するため、これらの考慮も必要である。

【開発業者に依存しない維持改修体制へ】
 内製化へ方針変換すると、社内要員のITスキルの育成コストが課題になる。
 しかし、情報化社会においては「従業員のIT活用能力不足」を解消すること(情報リテラシーの向上)は情報セキュリティや個人情報保護、知的財産権保護の要件からも必要な人材育成事項である。
 中小企業でもExcelを使うITスキルは自動車免許程度に普及しており、社内要員の継続育成を考えると構築・運用・改修の人材育成コストが小さい(前提スキルが低く、学習時間が少ない)ツールを採用することが現実的な選択であり、個人に依存しないために、複数の要員の兼任体制を目指すことが大切である。
 自社開発することを実践されている企業では以下の声が聞かれる。
◦自社内で開発できたという達成感もあり、非常に大きな自信につながった。
◦安価で自社にあった柔軟(不具合はすぐ改善)なシステム運用が可能となる。
◦「環境の変化に合わせて事務処理やものづくりを自分たちで変えられる」意識を持てるようになることが、経営にとって大きなメリットになる。

4.2.ボトムアップ・アプローチの具体化(手順)
 ボトムアップ・アプローチの手順は社員の情報シテラシーの向上と暗黙知の形式知化を伴う3段階のステップアップで行う。
 事例として次の企業の現状を例にボトムアップ・アプローチ手順を解説する。
 ある製造小売業の現状を調査した結果、自社用に新規開発したシステムやパッケージソフトが導入されているが、導入担当者は退社して、ブラックボックス化していた。
 既存のシステムは個別の書類作成に利用され、手書き伝票やFAXの伝票、紙印刷の資料をもとに各自が業務用にExcelを活用しているが、業務間の情報伝達は紙で行われていた。201409_tokusyu_6.jpg

第一弾:現行担当業務の処理機能をコンテキサー化
 現場の伝票、台帳、帳票をもとに項目情報とデータの整理・整頓・精査を実施する。
 手作業やExcelで行なっていた人間系の処理部分をコンテキサーで行なえるように画面上でデザインする。既存のExeclデータはCSV形式で受けとることで、プログラムの作成なしに試行可能である。データベースを内蔵していないため、項目追加・変更、新たな表の追加などが画面上で簡単に行える。201409_tokusyu_7_1.jpg
 受注伝票のような細目があるものは受注オーダ単位に複数細目を細目シートに記録し、状況変化に応じて更新。その結果をもとに他の業務で必要なデータ(たとえば、仕入リスト、出荷リスト)を必要なタイミングでCSV形式のファイルで渡せるようになる。シート間の項目転記やシート間の制約条件により項目と明細を関連付けた階層表現の編集、条件設定による一括編集、時間経緯による在庫推移表や資金繰り表などの時系列表展開などが可能となる。
 帳票の印刷はExcelへのデータ出力機能で従来のExcelの帳票出力処理を利用できる。

第二弾:業務見直しと業務間のデータの清流化
 業務担当者の開発・運用経験をもとに、業務間のデータ渡しを目指して、共有化、標準化、手順化に向けた検討を行う。201409_tokusyu_7_2.jpg
 業務の役割分担の見直しとデータ項目の統合とデータの整理(情報の5S活動:整理・整頓・精査・鮮度・躾)を行う。コンテキサーの改修とCSV形式連携の試行で課題を解決し、紙からデータ渡しの運用へと数か月単位で逐次実施し、適用範囲をつなげて拡大していく。

第三弾;業務連携の強化と基幹システムとデータ連携
 基幹業務との役割・連携の見直し、必要な受け渡しのデータ項目と連携方法を決める。
 営業活動を支援するネット利用の情報処理や取引先との情報共有にも取り組む。
 運用変更のためのスケジュールには、データ移行やDB連携データの検証を行う期間を設けることが必要である。
 運用開始後も業務担当者による評価会を実施して、改善を継続していく。201409_tokusyu_7_3.jpg
5.経営に役立つIT化の支援
 東京都経営力向上プロジェクトなどの経営診断した情報をもとに、企業にあったオーダーメイドの経営力向上策をお客様と一緒に検討する段階からIT化の実現アプローチの設定を進めていくことが肝要である。201409_tokusyu_8.jpg
 経営者と経営革新計画を立てる。その中で「トップダウン・アプローチによる業務革新」、「ボトムアプローチによる業務改善」、「ジャンプアップを狙う開拓プロジェクト推進」の3つの形態を個別企業の具体的な行動に落とし込み、継続して支援していくことが大切である。

6.おわりに
 経営者の理解なしには、IT化の推進は実現しない。「中小企業のIT化支援」は中小企業診断士がその分野の専門家と連携して対応していく「チームコンサルティング」により、経営者に助言していくことが肝要である。研究会がそのための情報共有の場とネットワークを提供していきたい。
 研究会の運営はペーパレスのネット利用の活動で進めて、毎月第4土曜日(12月は第3土曜日)は分科会、定例会、懇親会という1日のプログラムを実施している。
 分科会では経営診断から経営改善の企画、さらに実施過程でも継続的に支援をおこなえるような「実践に使えるフレームワーク」を作成し、企業内診断士の能力と継続支援対応可能な独立系診断士(企業OBを含む)が相互に協力できる「チーム活動として実施体制」で実践することに取り組む。
 定例会では午後にSCM、IT経営に関連する多様なテーマについて、その分野の有識者による講演会と会員の発表の場であり、最新情報の学習と人的交流を継続している。
 定例会だけでも見学が可能であり、活動の趣旨に賛同し、主体的に活動に取り組む方の参加を歓迎する。(講演内容・参加方法は研究会のHPを参照)
 提言に関する問い合わせ先:吉村 正平:yoshimura-m@mbm.nifty.com
(敬称略)
Kプロジェクトメンバ:魚谷 幸一、福本 勲、石渡 昭好、今野 浩好、岡部 亮一郎、
           堀尾 健人、高橋 誠一、下平 雄司、久保 聰、吉村 正平

参考資料
1. 2013年度東京都中小企業診断士協会 理論更新研修テキスト「中小企業のIT化支援」
2. SCM研究会 発表資料「ボトムアップアプローチ手順~DIYがおすすめ~」
  参考HP:SCMとIT経営・実践研究会:http://www6.airnet.ne.jp/scmbm/
"ITカイゼン"、コンテキサー:ApstoWebのHP:http://www.apstoweb.com/
東京都新・経営力向上プロジェクト:http://www.keieiryoku.jp/
中小企業IT経営力大賞:http://www.it-keiei.go.jp/award/

2014.08.01
FCチェーンの海外展開を成功させるために ~『FCチェーンの海外展開ハンドブック』を発刊

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東京協会認定 フランチャイズ研究会 高橋 利忠
(http://www.fcken.com/)

 「フランチャイズ研究会」は、フランチャイズ(FC)ビジネスの健全な発展に貢献することを理念にかかげる研究実践団体で、FC 本部およびFC 加盟店のいずれにも偏ることなく中立的な立場からコンサルティング&アドバイスを行っています。メンバーは、一般社団法人東京都中小企業診断士協会所属の中小企業診断士を中心に、FCを専門とする弁護士、税理士、社会保険労務士、行政書士により構成されています。(現在44名)
 具体的な活動内容としては、日本経済新聞社主催「フランチャイズショー」など各種FC展示会でのセミナー講師、無料相談のほか、毎年いくつかのテーマを設定し研究活動を行っています。研究成果は調査報告書や書籍に取りまとめ、出版もしています。
 2013年度の活動のテーマのひとつとして、「FCチェーンの海外展開研究」を選びました。近年、日本のFCチェーンの海外展開の記事をよく目にします。以前は低コストを目的とした工場進出が大半でしたが、最近ではマーケットを目的とした海外展開が増えています。海外展開するチェーンはこれからもますます増加するでしょう。しかし、進出する話の一方で、撤退する話もよく聞きます。海外展開で成功することは容易ではありません。そこで、FCチェーンへのヒアリング調査を通じて、海外展開の実態や留意点などを明らかにしたいと考えました。
 ヒアリング調査は、日本を代表するFCチェーン8社に実施しました。業種についても、外食だけでなく、小売、サービスからもヒアリングすることができました。日本を代表するチェーン本部の海外での失敗談や苦労話なども紹介しています。また、法制面や契約書など専門家の知見によるオリジナル原稿を盛り込んでいます。海外展開の検討に役立つ情報として、ステップ別のTo-Do項目、海外展開支援施策、各国の基本情報なども紹介しており、実践的な書籍となりました。以下では、書籍の一部をご紹介します。

1.FCチェーンの海外展開の動向
 最近、FCチェーンの海外展開の話題が多い。和食がユネスコの無形文化遺産に登録され、世界的に和食ブームが起きていることもあり、外食チェーンの海外展開の報道が増えている。しかし、外食チェーンに限らず、小売・サービス業チェーンにおいても海外展開報道が増えている。ほとんどのFCチェーンがアジアへの海外展開を急速に進めている点が特徴的である。
2.なぜアジアに進出するのか
 これまでアジア諸国は、安価な労働力が注目され、生産拠点として進出の対象となっていた。最近では、マーケットとしての魅力が注目され、進出の対象となっている。
 アジアは世界人口の6割を占めている。しかも今後さらに人口増加が見込まれている。経済(GDP)の成長率は日本を含め先進国の成長率が低迷している中で、高い成長率を維持している。経済の成長とともに、1人あたりGDPは増加傾向にある。こうして購買力が高まることで、マーケットとしての魅力が高まっている。
 加えて、アジア諸国は日本から近く、食文化が比較的似通っていることや、「日本ブランド」に対して好印象を持っている人が多いことも、アジアへの進出を促す一因になっていると考えられる。
 日本国内では経済の低迷が続き、競合も激化しているため、事業を今後とも大きく成長させていくことは難しい。そこで、外食・小売・サービスの業種で構成されている日本のFCチェーン各社は、アジア諸国のマーケットに注目し、大きく成長することを求めて、アジアへの海外展開を積極化させているといえる。

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3.FCチェーンの海外展開パターン(進出形態)
 海外への進出形態を類型化すると、以下のとおりである。

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 実際に取材したチェーンをみると、ほとんどのケースが、「③-2マスターフランチャイズ契約(現地本部:合弁会社)」となっている。これは、海外展開をするには、現地の有力なパートナー企業が欠かせないことを示している。また、合弁にすることで、パートナー企業と自社の役割分担を決めて両社の強みを発揮することが重要である。一方で、経営状況や事業運営をチェックし、ブランドやノウハウの管理を行うことも必要である。
 取材したチェーンは全て日本国内でFC展開しているチェーンである。しかし、海外での店舗展開は、加盟店(FC店)を募集せず現地本部の直営店だけで展開しているケースが多い。このことは、海外での加盟店(FC店)展開の難しさを示しているといえる。

4.海外展開事例
 今回、日本を代表するFC本部8社から、海外進出のきっかけや苦労話など貴重な話を聞くことができた。いずれのFCチェーンも今では海外の複数国に展開しており、海外展開ノウハウが蓄積されていると考えられる。以下では、3社の事例を紹介する。

(1)CoCo壱番屋
 2004年5月に日本と同様のコンセプトで1号店を出したが、来店客がなかなか増えなかった。ここで、日本では国民食であるカレーライスも海外では外国料理であることに気付いた。男性は食べ物に対して保守的だが、女性はファッション的に冒険していく。女性が行くと男性がついてくる。こう考えて、2号店目からはデートでも使えるようなカフェ的なレストランタイプにした。店舗レイアウトは日本人のデザイナーを使い、おしゃれな雰囲気の店舗にした。メニューは見栄えのいいオムレツカレーを用意したほか、スパゲティやサイドメニューなども揃えた。すると、上海テレビで取り上げられて、一気に認知度が高まった。日本では男性客が3分の2を占めるが、海外では女性が7割を占めている。クリスマス、バレンタインデーは日本では来店客が少ない日だが、海外では逆に来店客が多くなっている。
 昇給基準や将来ビジョンを明確に示している。マニュアル・基準表に則って、ここまでできたらいくらと明確に見せ、できていないことを理解させた。こうしてモチベーションを高く維持している。これは、ブルームシステム(社員独立制度)を加工して昇給昇格に適用したものである。
 どの国においてもコミュニケーションが大切だと思う。タイなど東南アジアでは動作や、料理の温度の感覚で多少日本人との違いを感じる。
 パートナーには最初から儲かる商売でないことを認識してもらい、当社を好きになった方と組んでいる。

(2)ファミリーマート
 海外進出は、ある程度の店舗規模に成長するまで先行投資が掛かるので、数年間のスパンで赤字が続く。したがって、パートナー選びは、①資金力のある会社、②政府と良好な関係を構築している会社、③国内全域にオフィスを持つ会社など、知名度だけでなく"体力"のある会社を選定することが重要である。
 海外展開を拡大する上で、パートナー企業との相互信頼が重要なため、2003年以降、展開地域のトップが一堂に会した、「Family Mart Summit」を年1回開催している。ここでは、各地域における取り組み事例の共有や、トップ同士による意見交換が行われる。日本のファミリーマートが主体となって、世界各地域のパートナーとのコミュニケーションをより円滑にし、チェーン全体の一体感を醸成している。
 グローバル化の足掛かりとして、最初の進出先には台湾を選定した。進出当初は、日本の店舗サイズやレイアウト、品揃えをそのまま移植して事業をスタートした。しかし、台湾と日本とでは商取引の形態や物流インフラの整備状況などが大きく異なっていた。当時の台湾には、日本の卸のような中間流通の機能がなく、メーカーと小売業者が直接取引を行う形態が基本で、日本のように整備された物流網が存在しなかった。そのため、専用の物流インフラを自前で整備する必要があった。また、店舗の出店コストなどの初期費用が膨らんだことも影響し、黒字化するまでに7年の時間を要した。「小売はローカル」という現実をこうした経験で強く認識させられた。
 2012年9月に事業パートナーの再編を行った。新たな事業パートナー(CRC)は、タイにおいて百貨店やスーパーマーケットを展開する小売業最大手である。事業スキームの再編により、①タイ市場を熟知したCRCによりタイ現地商習慣への対応が加速する、②CRCが持つタイ当局への人脈等により出店に伴うよりスピーディな手続きが可能になる、といったメリットが期待できた。

(3)吉野家
 米国産牛肉の輸入円滑化のため、牛肉買い付けの目的でUSA吉野家を設立した。まもなく、日本政府が牛肉の輸入を禁止し、本来業務を失ったUSA吉野家が窮余の一策として現地販売を始めた。これが海外展開の始まりである。
 合弁会社設立のポイントはパートナーの選定である。パートナーの選定基準は、①マーチャンダイジング能力、②物件開発力、③従業員教育システムの有無の3点である。
 雇用面では賃金上昇や転職への対応に苦労している。日本人と異なり会社へのロイヤルティが低い。転職対策として、従業員をマネージャークラスとアルバイトとを分けて対応している。マネージャークラスに対しては権限と報酬のバランスが重要で報酬制度を構築し運用している。一方、アルバイトには、食事や交通費の補助など福利厚生面を手厚くするとともに給与アップの仕組みを構築し運用している。
 成功例としては、インドネシアではサービスを日本品質化しモデレートクラスのサービスを提供して高級路線にて成功した。香港では国土が狭く店舗数の確保が困難なため小規模の牛丼専門店をテスト展開。プロモーションでは「日本色」を抑えたポスター等、日本が前面に出ないようにして反日対応を図っている。
 カントリーリスク(日中間問題等)を踏まえた事業計画を策定しても日本の収益を圧迫することがあるため、撤退基準を明確にして取り組んでいる。

5.海外展開を成功させるために
(1)パートナー選定が成功の大きな鍵
 海外展開が成功するか失敗するか、その大きな鍵となるのが、現地パートナー候補の選定である。現地パートナーは現地に明るく、物件情報や流通チャネルなどを有する場合が多い。多くの場合、事業の成否が立地によって左右されることから、有力な現地パートナーと組めれば、成功する可能性が高まる。逆に、いいパートナーだと思っていたのに、出店手続きがズルズル遅れ、言われないと期待される行動をとらないようなケースもある。最初からベスト・パートナーが見つかればよいが、意に反して期待に添わない場合は、早期に見切ってパートナー関係を解消し、新たなパートナー探しをすることが重要である。
 また、現地パートナーとの役割分担を明確にしておくことが必要である。決してパートナーに任せっきりにしてはいけない。任せっぱなしにすると、だまされたという結末になりかねない。パートナーにも問題があるかもしれないが、任せっぱなしにした方にも責任の一端がある。パートナーの強みを活用しつつ、自社が主体的に運営していくことが求められる。

(2)パートナー企業とは理念の共有が重要
 パートナー選びを間違えないためには、自社の経営理念を共有できる相手かどうかを、十分に見極める必要がある。経営理念は事業活動のベースとなる考え方である。理念が共有されず利害だけでパートナーになった場合は、いずれ利害が合わなくなり関係が綻ぶ。長期的な友好関係を維持するためには経営理念の共有が必要である。
 海外展開では、投資回収に長期間を要する場合が多い。パートナー企業には、この点の理解を得ておく必要がある。この共通認識がないと、事業開始わずか数年でパートナーがさじを投げたり、目先の利益を追ってしまったりしてビジネスモデルが崩れることも起こり得る。現地パートナーには長期投資に耐えうる企業体力があるかどうかも調査しておく。

(3)撤退基準を明確にする
 海外事業は思うほどには利益が出ないと考えて臨んだほうがよい。想定しなかったことで追加のコストがかかったり、スケジュールが遅れたりするなど、計画どおりにいかない場合も多い。海外に展開しているチェーンは多いが、しっかりと利益を上げているチェーンは少数にすぎない。たとえば、海外展開事例でも紹介しているファミリーマートは、今では国内店舗数よりも海外店舗数のほうが多い。しかるに、営業利益は国内店舗が8割以上を占め、海外店舗は2割も占めていない。海外では成長のための先行コストが多分に含まれている場合もあるが、思うほどには利益が出ないと考えておくほうが無難である。
 いつまでも利益が出ず、逆に赤字が膨らむような場合には、思い切って撤退することも考えるべきである。海外進出の決断したことを、途中で断念するというのは、苦渋の決断であり、なかなかできない決断である。しかし、決断をためらっている間に赤字金額は膨らむ一方となり、取り返しのつかない大きな傷を残す場合もある。
 海外進出を決める際には、撤退の基準を決めておくことが望ましい。基準を設けておくことで、時機を逸することなく、撤退の検討ができる。もうしばらく様子を見ようという結論になるかもしれない。その場合でも、事態が改善しなければ再度、撤退を検討することになり、深い傷は回避できると考えられる。
 紹介した事例のなかでも、一度撤退し、再度進出している事例がある。撤退は恥ずべきことではない。撤退の判断をできないことのほうが恥ずべきことである。
 国によっては自由に撤退できない場合もあるので、進出する前に確認しておきたい。

(4)契約書で日本の法律文化は通用しない
 日本の契約書では、「~の場合、甲乙双方誠実に協議のうえで解決するものとする」という条文をよく目にする。しかし、海外当事者との契約においては、このような条項を入れること自体が稀である。契約書というものは、双方が誠実に協議できなくなった場合の解決指針として機能している。よって、あらゆるケースを想定して、どのように対処するかを契約書に盛り込む必要がある。雇用契約を例にあげると、遅刻が常態化したり、上司の指示に従わなかったりすれば、解雇されても当然と考えられる。しかし、こうしたケースが解雇事由として雇用契約に明示されていないと、不当に解雇されたとして訴えられる可能性が高い。
 罰則だけでなく、報償制度などの動機づけもルールを明示する必要がある。ルールに従った透明性の高い運営をすることで、従業員の目標意識につながり、モチベーションや定着率の向上へとつながる。

(5)異文化間コミュニケーションの重要性
 FCチェーンの海外展開は今後ますます活発になると予想される。海外展開によって、マーケットが広がるだけでなく、多様な民族、多様な文化との交流も広がる。
 世界には多様な民族、多様な文化が存在している。異文化交流とは言葉だけの問題ではない。多様な価値観や、既成概念に縛られないダイナミズム、そして自らのアイデンティティー(独自性)をよく理解した発想の意識改革こそ、グローバル化への第一歩である。そうした発想の広がりや、想像力を養うことで世界の人々とのビジネス交流もより活発になるだろう。互いの視点が異なることで、相乗効果も期待できるし、新たな付加価値も得られることだろう。

(参考)海外展開のステップ
 海外展開は、流行で安易に意思決定するのでなく、慎重に吟味し、適切に判断する必要がある。以下のステップを参考にされたい。


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2014.06.28
東京都区内商店街における「まちゼミ」の可能性

商店街研究会 研究事業
東京都区内商店街における「まちゼミ」の可能性
~港区初、白金商店街での実施事例をひもといて~

中小企業診断士・一級販売士・商業施設士
鵜頭 誠


はじめに
 東日本大震災以降、「絆」という言葉が注目された。人々のつながり、どこかに属していたいという意識による、コミュニティの大切さが注目されたことによるものだろう。
 しかし商店街は、ずっと昔から今まで、地域の絆やコミュニティを大切にして歩んできた。東日本大震災当日、商店街の店主同士で、通行する人の誘導を自然と行いつつ、夜から朝方にかけて、交通情報、近隣の一時避難所情報等をtwitterで流し続けた人達がいた。そこまでに至った「想い」を間近に聞いて、地域を守る商店主の想いが、長年の積み重ねによって生み出されてきたものだと感じた。
 東京都中小企業診断士協会認定研究会である商店街研究会では、地域コミュニティの担い手である商店街の視察、取組紹介を主として、月一回の活動を行っている。
 都内を中心として、キラリと光る商店街を視察し、その活力の源泉を聞く。そこから、どのように、まちの「にぎわい」を維持していくべきかを模索する。そのような想いを蓄えつつ、おのおのの中小企業診断士が支援先商店街に対して、地域再生へのノウハウとして還元している状況にある。

1.まちゼミ開催のきっかけ
 平成25年度に愛知県岡崎市の松井洋一郎氏をお迎えし、「得する街のゼミナール、まちゼミ」の講義を受けた。
 まちゼミは、各店舗が長年培ってきた、店舗や店主独自のノウハウをもとに、生活に役立つワンポイントを、ゼミ形式の講座で一般客向けに実質無料で提供するものである。愛知県岡崎市を起点として、平成26年6月現在では、100を超える全国の商店街、中心市街地での実施事例があり、個店と店主、顧客を直接結びつけていることに事業の特徴がある。
 私は、この実施過程のサポートに中小企業診断士の支援の意義があると感じ、商店街研究会に所属する13名の企業内診断士とともに、東京都港区の白金商店街で、港区初となる、まちゼミ実施の支援にあたった。その要点を今回ご紹介する。

2.今回ご紹介するまちゼミの実施概要
 港区の白金商店街にて行った、まちゼミの実施概要は下記のとおりである。
 商店街組織:白金商店会(東京都港区白金)
 商店街属性:近隣型商店街
 参加店舗数:7店
 実施講座数:10講座
 参 加 店:男性衣料品店、肉屋、魚屋、八百屋、呉服店、美容院、化粧品店
 コンセプト:「白金最後の下町」白金商店街
       生鮮三品が集うまちゼミとして、コンパクトさをウリにし、さらに地域と店主とが親しみを深めていく交流の機会とした。
 本まちゼミの大きな制約は、「規模」と「予算」であった。
 規模について、通常、「まちゼミ」は、20店舗以上が参加することを基本としている。しかしながら、任意団体である「商店会」が単独で行うには、20店舗を集めることは困難であった。しかしながら、想いをもつ数名の店主達を中小企業診断士がバックアップすることで、商店会長、副会長の了解を得て、可能な限りでの拡大を行っていき、実施に結びつけたものである。
 予算について、年度途中で実施が決まったために、補助金を含めた予算計上が本事業に対しては行われていなかった。しかし、まちゼミでは、「販促活動の大きさ」が事業成功のカギを握っている。そのため、限られた範囲内で最大限のPRを行う必要があった。
 そこで、ポスターデザインは中小企業診断士が無償で担当し、印刷費は地域の印刷業者で低く抑え、地域の区営施設、最寄り駅の掲示スペースなどを活用しながらPRを行った。
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3.まちゼミの「三方よし」を見る
 まちゼミでは、売り手よし、買い手よし、地域よしの「三方よし」を踏まえた上で臨む必要がある。三つの主体が、このようなメリットを共有できるというルールがあるからこそ、まちゼミの良さが活きてくるのである。
 「売り手よし」
・お店の認知度向上、顧客との信頼関係の構築、商店街内の店舗同士のチームワークの向上が図れる。
 「買い手よし」
・すぐに商品を購入する気持ちがなくても、押し付けられることなくその道のプロから適切なアドバイスを受けられる。
 「地域よし」
・地域の歴史、逸品等をテーマに取り上げることで、地域の特徴が発信され、「その地域独自の成り立ち、良さ」が改めて地域住民に向けて発信され、伝承される機会となる。

4.本活動における、中小企業診断士と商店街のメリットを把握する
 中小企業診断士、特に企業内診断士と商店街支援はもとより相性が良い状況ではあるが、おのおのがどのようなメリットを持つのかについて確認する。
 中小企業診断士のメリット
・数多くの店主との直接のヒアリング機会が得られ、個店支援力の強化が図れる。
 商店街のメリット
・一般顧客に好まれる講座のテーマや内容になっているかについて、コンサルタントの視点から確認してもらえる。
・中小企業診断士とともにスケジュール管理を行うことで、自分のみでは先送りしやすい作業を、予定通りに、モチベーションを維持しながら進めていくことができる。

5.多様な主体を巻き込むことが成功の秘訣
 まちゼミは、商店街が行う地域活動としての意義が大きい。その視点から、多様な主体を巻き込んだことで多くのメリットが得られた。ご協力いただいた主な方々は以下の通りである。
・区役所等の職員
 各区市町村の職員は、立場上、自らがまちづくりに手を動かす主体になれないことが多い。そこで、中小企業診断士が、地域に貢献するまちゼミの魅力を区に説明し、中小企業診断士が区の要望事項を聞きながら手を動かす主体となっていった。そのバックアップとして、区から、「プレスリリース」等のご協力をいただいた。役所が情報発信するイベントになったことで「お墨付き」が得られ、安心して地域の住民に参加してもらうことができた。
特集-4p-図.jpg・区や市の商店街連合会
 たとえば東京23区では、区毎に商店街連合会が存在する。商店街の活力向上のために、区役所と商店街の「パイプ役」を担うのがこの組織である。
 港区の実践では、港区商店街連合会に大変お世話になりながら支援を進めることができ、区の産業振興課や港区のケーブルテレビへ話をつないでもらうことができた。
・各区等のケーブルテレビ
 ケーブルテレビは、地域の「旬」の情報を発信する目的があり、今回の取材にもご快諾いただけた。実施にあたり、初めはやや懐疑的だった店主が、「ケーブルテレビの取材が来た。このような注目される地域の取組だと知って驚いた」と言い、高いモチベーションを発揮してゼミ運営に取り組むようになった。

6.まちゼミ実施の支援内容
 まちゼミによる支援は、まちゼミ自体への深い理解が不可欠であり、松井洋一郎氏の講義の複数回の受講や多くの事例研究を行っていく必要がある。
 その上で、私のチームで中小企業診断士が発揮した力は以下のとおりである。
・講座名や内容検討の支援
 お店のウリについて聞いても、「いまさら言われてもわからない、恥ずかしい」などという理由から、店主自身から言われることは少ない。ここで、中小企業診断士が個別に店舗ヒアリングを行うことで、参加者となる人たちからも見える、店舗の「ウリ」を抽出することで、講座内容の「発見」を行うことができた。
・講義手法の支援
 商店主の方によっては、「多くの方に向けて講義なんておこがましい、恥ずかしい」という意見を持っている。そこで、店主が自信をもって話せるよう、普段から講義、プレゼンに慣れている中小企業診断士が講義の手法を伝授して、「人前で話すのは苦手」という意識を解消した。
・当日配布レジュメの作成支援
 まちゼミでは、A4サイズ、1枚程度のレジュメを用いて講義することが多い。見やすい資料作りの方法を中小企業診断士が教えることで、一般顧客が理解しやすい講座の実施ができるようになった。
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7.まちゼミ実施の効果
 商店街におけるイベント事業で即効性のあるものはない。しかし、本まちゼミ事業を通して、実施後3か月以内に、当初は想像していなかった、商店街内部での効果があった。
・実施月とその翌月の商店街理事会に、まちゼミ参加店主が全員参加した。
・本事業で商店街活動への意欲が高まった商店主が、自主的にできることを模索し始め、商店街ホームページの作成を始めた。
・まちゼミで知り合った意欲ある店主同士が仲良くなり、「ヘアセット&着付け」といった2店舗でのコラボメニューを生み出すようになった。
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8.商店街支援を行う企業内診断士に期待する
 私は、中小企業診断士のうち、企業内診断士の活動のあり方は、「スモールビジネス・マーケティング」の考え方に近いものであると感じている。プロコンに比べ時間が制約されている中で、全領域において診断士活動を行うよりは、特定の領域(ライン)で、幅広い支援内容(アイテム)を展開して活動を行う人が、そのプレゼンスを強く発揮していると感じる。
 今日、にぎわい補助金等の補助金支援など、商店街を支える中小企業診断士の需要が非常に高く、企業内診断士の実践の場での力が重要となっている。
 平日夕方や土日が支援実施の主体となっている商店街活動に対して、より多くの企業内診断士が参画してくれることを期待する。
 今回の事例紹介が、その支援活動の一助となれば幸いである。

2014.05.25
『消費者WEB調査結果から見た日本酒需要開拓の可能性』

『消費者WEB調査結果から見た日本酒需要開拓の可能性』

東京協会認定 <酒と食>マーケティング研究会
 榎本博之・老川多加子

 <酒と食>マーケティング研究会(旧・酒類業研究会)では、平成25年度の取り組みとして、将来的な日本酒需要拡大につながる情報提供や提言を行うための基礎データの作成を目的に、消費者WEB調査を実施しました。
 本稿では、この消費者WEB調査の集計・分析結果の一部を紹介させていただきます。
 調査は平成25年9月にマクロミル社を通じて実施しました。予備調査として5,000名、本調査では予備調査より抽出した416名を対象としています(いずれも、首都圏在住の20歳以上)。以下では、本調査(全35問)の結果の一部を取り上げます。

1.アルコール全般の飲用頻度
 「買って飲む」頻度は「週1~2日」以上、「飲食店で飲む」頻度は「月1~2日」以上で半数を占める
 本調査は、消費実態の基礎データとなるアルコール全般の飲用頻度を尋ねるところから始めています(「アルコールを飲まない」という方は、回答対象よりはずしています)。「買って飲む」場合は「ほぼ毎日」から「週1~2日」以上の頻度の累計で60.3%、「飲食店で飲む」場合は「ほぼ毎日」から「月1~2回」以上の頻度の累計で47.8%となりました。

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 また、詳細データは割愛しますが、性別、年代別、ライフステージ(未・既婚および子供の有無)別等の分析も行っており、以下のような傾向が浮かび上がりました。
◦若者(20代)の飲酒離れが叫ばれるが、「買って飲む」頻度は他世代より著しく少ないものの、「飲食店で飲む」頻度については他世代との差はなかった。
◦男性の場合、「買って飲む」頻度は、結婚を境に著しく増える。
◦女性の場合、境は出産・育児にある。既婚子あり女性の「飲食店で飲む」頻度は、著しく低い。ただし、「買って飲む」頻度の差はほとんどない。出産前後の一時的禁酒はあるが、育児が落ち着くと、"外飲み"の機会こそ減るものの"家飲み"はしている。

2.酒類毎の飲用頻度
 日本酒をよく飲む人の割合は1割程度
 酒類毎の飲用頻度についても「買って飲む」「飲食店で飲む」それぞれで尋ねています。グラフ2は「買って飲む」場合についての全回答者(316名)結果をまとめたものです。
 個別に見ると、「ビール類」を「ほぼ必ず飲む」が45.9%です。「割とよく飲む」も含めると約7割となり、依然、「ビール類」の存在感が大きいことが分かります。これに続くのが「酎ハイ・サワー」で、「ほぼ必ず飲む」と「割とよく飲む」を合わせると約5割となっています。これに続く存在感を示すのは「ワイン」、そして「焼酎・泡盛」です。本調査の中心テーマである「日本酒」は、これらの後塵を拝する結果となりました。

特集-3p-グラフ2.jpg3.アルコール全般飲用頻度別に見た、各酒類の飲用頻度
 アルコールをよく飲む人ほど「日本酒」は好まれ、「ワイン」は飲む頻度に関係なく受け入れられている
 前述の「1.アルコール全般の飲用頻度」と「2.酒類毎の飲用頻度」をかけあわせたクロス分析も試みました。詳細データは割愛しますが、「日本酒」「焼酎・泡盛」「ビール類」は正の相関、「酎ハイ・サワー」は逆相関、「ワイン」は相関なしとなりました。つまり、「日本酒」「焼酎・泡盛」「ビール類」は飲用頻度が高い方ほどこれらの酒類を好んで飲み、他方、「酎ハイ・サワー」は飲用頻度が低い人ほどこれを飲む傾向にあり、そして、「ワイン」はそもそもの飲用頻度に関わらずよく飲まれているということです。
 特にワインについては、お酒に対するこだわり層だけでなく、幅広い層に受けられているのが分かります。一方で、日本酒は飲用頻度の低い人には好まれない傾向が表れています。

4.日本酒の飲用頻度
 男性の方が日本酒を好み、世代を重ねるごとに飲む割合が増える
 女性は「ほぼ必ず飲む」と「割とよく飲む」割合の世代差がない
 「2.酒類毎の飲用頻度」の内、日本酒について性別年代別で比較したのがグラフ3と4です。「ほぼ必ず飲む」と「割とよく飲む」の合計値は総じて、「飲食店で飲む」が「買って飲む」を上回っていますが、その差は顕著とまではいえません。男女間、世代間での違いは、飲む場所によらないといえます。
 男女での違いは、一般イメージ通り、女性の方が日本酒を飲まない、という点です。
 性別年代別で見ると、男女とも、世代が上がるにつれ日本酒をよく飲む、ということがいえます。ただし、女性の場合、「まず飲まない」に着目すれば、"世代が上がるにつれよく飲む"が当てはまるものの、「ほぼ必ず飲む」と「割とよく飲む」の合計値で見ると、男性のような世代間差はほとんど見られません。特に30代に限定すると、「男性30代」より「女性30代」の方が、日本酒を好む傾向が強いといえます。

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特集-4p-グラフ4.jpg5.日本酒の飲用頻度と各酒類の飲用頻度とのクロス分析
 飲食店で飲む方が自宅で飲む場合より、日本酒を試す機会が多い
 ワインをよく飲まれる方は、日本酒を飲む頻度が高い
 「4.日本酒の飲用頻度」を他の酒類の飲用頻度とクロス分析し、他の酒類をよく飲む方が日本酒をどの程度飲んでいるかについてまとめました。そのうち、グラフ5では「飲食店で飲む」頻度を表したものです。
 飲食店の方が、自宅で飲む場合と比べ、日本酒を試す機会が多くなります。また、「焼酎・泡盛」「ウィスキー等」よりも「ワイン」の方が日本酒を飲む頻度が高くなっていることが「飲食店で飲む」場合での特徴となっております。
 つまり、「3.アルコール全般飲用頻度別に見た、各酒類の飲用頻度」で見たように幅広い層に受け入れられているワインとの相性は高く、関連付けや提案販売などで日本酒の飲用機会を増やすことが考えられます。

特集-5p-グラフ5.jpg6.日本酒を飲むシーン
 男性は「自宅で一人」、女性は「飲食店で友人や家族と一緒」が多い
 日本酒をどのようなシーンで飲むかについてですが、全体では「飲食店で友人や家族と一緒に」が55.0%と過半数を占める一方、「宴会で」は17.8%と少なくなっています。接待や宴会ではあまり飲まれず、近しい関係の方と飲まれているようです。さらに男女別では、女性においてその傾向が強くなっています。
 また男性は、晩酌の習慣からか自宅で一人でも飲む傾向があるようです。男女で飲み方の違いがあり、シチュエーションに合わせた提案がポイントになります。

特集-6p-グラフ6.jpg7.日本酒をおいしいと感じたことの有無
 飲酒経験を積み重ねると日本酒をおいしいと感じる人の割合が増えてくる
 日本酒がおいしいと感じる人を性別年代別でみたのが、グラフ7になります。「いつも『おいしい』と感じている」人の割合は、年代が高まるにつれ増えていきます。一方で、男性20代・30代、女性20代の一部の人が「『おいしい』と感じたことはない」と回答しております。嗜好の変化もありますが、回答の傾向を見ると、20代、30代にとって日本酒との接点が少ない、と見ることができます。そのため、日本酒の需要の拡大には20代、30代への日本酒に対する飲酒機会の掘り起しが不可欠なポイントになります。

特集-7p-グラフ7.jpg

8.日本酒を選ぶ際の理由
 飲食店では、仲間からの勧め(口コミ)やお店の人の紹介を重視、小売店では、男女で購入の選定理由に違いがある
 最後に日本酒の選び方です。飲食店では、これまで飲んでおいしかった銘柄のリピートや知人や店員からの情報、「甘口・辛口」や日本酒度といった味の傾向も重要な要素となります。さらに、女性は知人からの情報や限定商品に対する興味や関心が高い傾向にあります。
 小売店でも、これまで飲んでおいしかった銘柄のリピートが一番多いのですが、男性になるとその傾向が顕著になります。つまり、飲酒経験のある男性を中心に、日本酒の購買選択は保守的な傾向にあるといえます。
 一方で、女性は商品ラベルや限定商品を重視する割合が高まり、文字情報や視覚情報に効果があると考えられます。また、店員からの情報も有益と考えている人が多いのも女性の特徴です。また、飲食店・小売店ともにマスメディアやネットの影響はきわめて低いことが結果として表れました。

■グラフ8 日本酒を選ぶ理由(左:飲食店、右:小売店)特集-8p-グラフ8.jpg9.おわりに
 当研究会では、今回の調査を活用し今後、さらなる調査・分析や、酒類業者や飲食店向けの提案を進めていきます。また、酒販店向け、清酒製造業者向けの研修コンテンツの作成を検討しております。
 今後も酒と食を通じて、新たなマーケットの創造を目指し、酒類業界の発展に向け活動していきます。毎月第2水曜日には例会を開催しています。意欲的な方の見学は大歓迎です。

2014.03.30
限界集落における地域活性化支援事例

限界集落における地域活性化支援事例

アグリビジネス研究会 澁谷 宗紀
shibuya@visionaryladder.com


Summary(要約)
 本事例は、限界集落の地域活性化を依頼された際、どのような方法、順序で施策を検討したかをまとめた事例である。「雇用の機会」が「人口の増加」につながると仮定し、転入者を雇用するのにどのくらいの付加価値額が必要か、という観点から実施施策を積み上げた。
 数値目標を仮定することで、現状とのギャップがより明確になり、各施策によってもたらすべき効果を定量的に検討することができた。また、注力する予定になかった事業についても重要であることを明示することができた。
 提案した施策の多くは未だ仮定を含んでおり、今後の検証が課題として残っている。支援活動としては始まったばかりであるが、どのように施策検討を始めたか、という導入部分を参考事例として以下にまとめている。


Ⅰ.本支援を実施するに至った経緯
 関東近県の限界集落から、地域活性化を念頭においた農業法人の立ち上げについて相談をうけた。具体的には、「高齢者が人口の過半数を超える集落を、なんとか盛り立てようとの思いから農業法人を立ち上げたいと考えている。外から人がやってきて、やがて居着いて欲しい。付加価値の高い農作物を発掘し、農家所得を上げる。そのことにより、出ていった若者が戻ってくる。新たに人が入ってくることを目指したい」といった構想であった。この構想を実現化するにあたり、地域の有志が集まってこれから何をすれば良いか、というところから支援を依頼された。


Ⅱ.支援先地域の概要
1.支援先組織
 山間部にある38戸110名程度の集落が対象である。高齢者が人口の過半数を超えているおり、いわゆる限界集落となっている。独自に地域活性化委員会を組織しており、地域住民約110名全員がこの委員会に参加している。この地域活性化委員会の中心人物10名が今回の農業法人立ち上げメンバーであり、具体的な支援先である。
 10名中、比較的若い50代は2名であり、60代~70代が残りの8名を占めている。代表を務める方も70歳とやはり高齢であった。地域活性化委員会は、農業法人が設立された後、法人の出資団体となる。

2.既存事業の概要
 地域活性化委員会は、以下2つの事業を行っている。農業法人設立後、以下の事業を農業法人へ移管することになっている。
(1)農業事業
 柿・栗・サツマイモ・荏胡麻・ゆず等を生産・販売する農業事業である。地域活性化委員会として約20,000㎡の圃場を持っており、このうち農業法人(中心メンバー10名からの名義寄せ)として、4,000㎡の圃場を持つ予定である。
 農作物を生産・販売することに加え、加工商品(干し芋など)を直接販売する6次産業化を目指している。生産量の指定が厳しい大手流通へ販売することは難しいと考えており、道の駅やサービスエリアでの販売を検討している。

(2)民泊事業
 農業体験を主とした民泊事業である。この事業は外から人が訪れてくれることを目的に運営されている。年金暮らしが多い地域住民の「生きがい」になればよい、との思いで運営されており、地域農家のボランティアによって細々と運営されている。
 このため、「一気に顧客が来すぎても、対応することができなければ、顧客もがっかりするし、地域も疲れてしまう」という考えを基本としており、大人数の受け入れを断っていた。NHKなどのマスコミ取材も断っており、地域の負担にならないことを前提としていた。

Ⅲ.提案・取り組みのポイント
 現状の概要や目指すべき姿などのヒアリングを行い、提案の全体像を以下のようにとりまとめた(図表1)。

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図表1 取り組みの全体像
 地域密着型産業(農業や民泊)を再生することで雇用の場を創出し、さらに地域の魅力を地域密着型産業へ加味していくことで、地域への来訪者増加を図る。雇用の場の創出と、来訪者の増加を定住者の増加につなげていき、地域の活性化を図っていく。この一連の流れを、提案の骨子とした。
 上記によって農業法人として注力すべきテーマは整理できたものの、具体的な経営目標、特に財務面での数値がはっきりしていなかった。マーケティング面(新規商品開発、販路検討)の検討を行う前に、以下の手順で経営目標から段階的に具体化を図ることとした。

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図表2 取り組みの流れ

1.経営目標の仮定
 「雇用を提供する」というテーマに着目し、以下の手順で経営目標の数値化を試みた。この試みにより、これに続く課題の抽出や施策の検討をより具体的に進めることが可能となった。

(1)人口動態の把握
 まずどのように人口が減少しているのかを調査した。図表3は「国勢調査 小地域集計(総務省統計局)」より集計した対象地域周辺の人口動態である(住所範囲と「集落」の範囲が一致していないため、人口の総数は異なっている)。この調査の結果、5年で約20%の人口が減少していることがわかった。

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図表3 人口動態
(2)期待する転入者数の算定
 前記1.(1)で人口がどのように減少しているか確認できたことから、5年後、10年後、20年後にどの程度の人口になっているのか算定し、期待する転入者数を求めた。シニア層家族を2名、ファミリー層家族は4名と仮定し、家族数にして何戸になるのかもあわせて算出した(図表4)。

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図表4 期待する転入者数
(3)必要付加価値額の算出
 この転入者に対して雇用を提供するという観点で、事業運営に必要な付加価値額を算出した。シニア層家族に120万円、ファミリー層家族に400万円を年間支払うと想定し、転入家族の家長7割を法人として受け入れると仮定した。また、既存の法人立ち上げメンバーは5年で2名世代交代すると仮定した(図表5)。

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図表5 雇用者数と所得


2.経営課題の抽出
 ここまでの取り組みによって、ある程度具体的な数値目標を設定することができた。そこで現在の事業状況を分析し、どの程度の収益を見込めるのか現状分析を行った。その結果を踏まえ、必要な収益とのギャップを分析し、課題の抽出を行った。

(1)農業事業の棚卸し
 生産中の農地、生産予定の農地から各農作物の生産量を概算した。その後、その生産量をもとに、通常の流通経路で得られる収益の見通しを算出した。

(2)民泊事業の棚卸し
 ご協力いただいている農家の戸数や、最大で受け入れ可能な人数などを確認し、どの程度の収益をあげることが可能なのか試算を行った。また、年間の利用者数を整理し、転入候補として充分な人数が地域を訪れているか、という観点でも分析を行った。

(3)ギャップ分析
 前記2.(1)、2.(2)で算出した収益を踏まえ、前記1.(3)で算出した付加価値額に対してどの程度不足しているかギャップ分析を行った。結果、やはり農作物をそのまま販売したのではかなり収益が不足することがわかった。より付加価値の高い加工商品の開発・販売が必須であることをあらためて確認することができた。

3.施策の提言
(1)加工品の企画と販路の検討
 不足する収益を補うべく、農作物の加工品について詳細を具体化していった。加えて、近隣地域で期待できる販路(道の駅や地域イベント、観光スポット)を探索し、それぞれの販路でどの程度の販売を見込むべきか、シミュレーションを行った。

(2)経営目標とのすりあわせ
 前記3.(1)まで検討を重ねてきたが、それでも目標とした付加価値額に対して収益の不足が見込まれた。ここで仮定した経営目標をもう一度見直し、無理のある仮定がなかったかを点検した。その結果、転入者の7割を雇用することはハードルが高く、まず5割からの雇用を目指すこと、民泊事業は現状維持の方針であったが、こちらも本格的に事業として運営する必要があること、などを経営目標に反映した。

(3)追加施策の検討
 民泊事業を本格的に運営する必要があることを受け、「農林漁業体験民宿業」を念頭に、民宿事業をより本格化させる提案を追加した。転入者が中心となって民宿を営むことを想定し、そこで提供する体験プログラム案や価格設定などを提言に盛り込んだ。


Ⅳ. 定量・定性的な効果
 当初、地域を活性化するという定性的な目標しかなかったが、上記の手順を実施することで、定量的な目標値を設定することができた。ファミリー層に移住して欲しいという願いが先行していたが、定量的な指標値をもとに検討を行った結果、年金を期待できるシニア層から受け入れるべきだという結論を導くことができた。
 また、農作物による収入だけでは移住してくる方に雇用を提供することが難しいことも明示することができ、控えめであった農家民泊を拡大することにも納得いただけた。


Ⅴ.今後の取り組み
 現在、農業法人設立のための手続きを進めている。今後は、加工商品の開発を実際に進めていくとともに、上記支援の中で仮定した各販路の売れ行きを実地検証していく。
 また、今回は外部へのアプローチを中心に検討を行ったが、内部資源(集落のどこに住んでもらい、どのような雇用形態にするのか等)の整備が必要である。有志のほぼ全員が60歳以上であり、後継者の問題も早期に出てくることが予想される。今後は内外のバランスをとりながら、施策の推進を支援していく。

2014.03.30
ALL東京協会 コンサルタント養成塾 募集のお知らせ
東京プロコン塾 第8期生募集のお知らせ
主催:一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
運営:能力開発推進部
 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会では、診断士制度の変更、診断士の社会的ニーズ、激変する経済環境などに対応するため、平成19年度より真のプロコンを養成しています。真のプロコンとは、高度な学識、スキルはもとより、人間力も備え、クライアントの要望を充分満足させられる"稼げるコンサルタント"を指します。
 東京プロコン塾では、稼げるプロコンを養成するため、座学による講義、現地実習をはじめ、最も重要な、稼いでいるプロコンのノウハウを伝授します。
 講師陣には当塾の趣旨にご賛同いただいた各方面で活躍中のプロコンがあたります。
 プロコンとして独立をお考えの方、コンサルタントとして独立したが、活躍が十分でないと感じている方は、ぜひご応募ください。
開催日程:平成26年5月~平成27年3月 原則毎月第4土曜日(9:00~17:00)
     〔うち2回は合宿研修(1泊2日)を予定〕全10回
応募資格:①東京都中小企業診断士協会 会員
     ②プロコンとして独立する強い意志のある方
     ③原則55歳以下の方
応募人員:最大25名(申込者多数の場合は選考いたします)
参加費用:10万円(一括支払、支払方法は別途連絡します。合宿費、現地実習費込み。)
実施場所:座学は、東京都中小企業会館8階会議室を予定
     現地実習は現地、合宿地は未定
     〔平成25年度は、さわやか ちば県民プラザ(千葉県柏市)〕
カリキュラム
・毎回、プロコンとしての心構え、独立の仕方、営業方法について話をします。
・講義は、実務に直結したコンサルティングスキル向上を目指した内容になります。
・現地実習では、商店街や企業を訪問し、コンサルティングを行います。
※詳細は4月19日の説明会で発表します。
その他:修了認定者には、東京都中小企業診断士協会より修了証を授与します。
    実務更新ポイントが必要な方は、現地実習にて取得可能です。
下記のとおり説明会を実施します
日  時:4月19日(土)13:00~15:00
場  所:あすか会議室(神田小川町)
     千代田区神田小川町2丁目1番7号 日本地所第7ビル T:03-3233-1207
申込方法:現在、申し込みを受け付けています。氏名、住所、電話番号、支部名、登録No.、メールアドレスをの明記の上メールでお申し込みください。
     申込をされた方には入塾申込書フォーマットを送りますので、4月19日の説明会で内容をご確認のうえ正式にお申し込みください。
申込先:東京都中小企業診断士協会 東京プロコン塾係 担当:清水
     T:03-5550-0033  E:info_tokyo@t-smeca.com
中央支部 認定マスターコースの紹介
主催:各マスターコースの代表者(中央支部会員)
 中央支部では、会員のコンサルティングスキルの研鑽を目的として、認定マスターコース制度を設けています。マスターコースの大きな特徴は、後進指導に情熱を抱く先輩プロコンが、自ら磨き編み出したコンサルスキル、コンサルマインドを惜しげもなく提供することです。
 専門性の高いテーマを設定し、独自のカリキュラムを編成して1年間にわたり指導します。
 多くの修了者は、マスターコースと強い絆を維持していくことで診断士活動の基盤としています。
マスターコース名 目的・狙い
ものづくりプロコン養成コース
TKKマンダラ法 ものづくりの現場でのコンサルティング経験に基づくノウハウやコツを共有するコースです。現場での"気付き"を基に体系化した診断手法を効率的に学びます。総合的な「現場力」を身につけるには最適です。
目標必達のコンサルティング 目標を必達するコンサルティングを実践できるプロコンサルタントを育成します。目標を必達する研修を実践できるプロ講師を育成します。コンサルティング、研修のスキル、手法等の開発・研究・伝承を行います。
国際会計と財務戦略 中小企業診断士としても一般企業人としても必要である実践的な会計能力を、特に経営・グローバルな視点から、身につけることを目的とします。
経営革新のコンサルティング・
アプローチ 企業経営の最大のテーマである「経営革新」に真正面から取り組みます。単なる手法・スキルではなく、プロコンや企業内診断士が経営革新に取り組む際の重要な課題・解決策について、理論的かつ実践的に学習・研究します。
プロ講師養成講座 研修の基本である「管理職研修」についてマネジメントスキル、ヒューマンスキルを学びます。研修講師に求められる基本から一流のプロとして幅広いスキルを習得させ、各自の研修商品構築に応用ができるレベルまでに指導します。
戦略経営支援塾 大きく翔こうとする中小企業の経営者や第2創業者、後継者などを育成・支援することができ、3年以内に独立を希望する中小企業診断士や実践的な実務能力をつけたい人で、独立心の高い人を養成することを目的とするコースです。
稼げる!プロコン育成塾 「稼ぐ」ということは、スキルや知識の他にお客様から選ばれるためのコンサルタントとしての"ひととなり"についても評価をいただくことです。本マスターコースは、お客様に選ばれるためのプロコンとしての基本要件と基本および実践的スキルの習得を狙いとしています。
「夢をカナエル」プロコン養成 研修・セミナー講師とビジネス誌等への執筆を通して、若手診断士(チャレンジ精神のある方なら年齢不問)の独立をサポートします。
女性のビジネス支援 ①「女性起業家」のビジネス支援分野で特に強みを発揮できる専門家を養成します。② 個人・法人開業の実践ノウハウと成長の支援力を持つ起業の支援家を養成します。③プロコンサルタントへの独立準備や、独立コンサルタントのネットワーキングを支援します。
ファッションビジネス・リデザイン支援 中小企業診断士によるファッション関連企業の診断実務修得と当該企業様の経営支援を企図します。「現場主義」を徹底するために、「衣料総合スーパー」において業務の実地作業を体験します。キック・オフ講座によりファッションビジネスについての基本を学びます。
経営革新プロジェクトマネージャ養成コース 計画倒れに終わらない経営革新、すなわち、ライバルの負けない差別化戦略とビジネスプラン、計画を実現するためのプロジェクトマネジメントのすべてを、座学と実践を通じて学びます。
アグリビジネス経営支援研究会 中小企業によるアグリビジネスへの新規参入および事業展開の支援を行います。アグリビジネス経営支援を基にした企業内診断士の独立を支援します。
売れる!人気プロ研修講師・
コンサルタント養成講座 民間・官公庁で売れる研修講師、プロコンの養成と成功要因、成功者の特性の研究およびメソッドの習得を行います。
みんなのプロコン塾
~活躍する診断士の王道テオリア・メソッド! 中小企業診断士のコンサルタント能力を磨き、活躍できる診断士を養成します。実際の企業の現場で活かせる革新的な戦略・コンサルティング術を学び、現場で役立つノウハウ・スキルを活用し、個々のコンサルタントビジネスの飛躍を図ります。
 申込・詳細は下記参照。4月12日(土)のスプリング・フォーラム、5月24日(土)の支部カンファレンスで詳しい説明が聞けます。
 http://www.rmc-chuo.jp/home/mt/archives/cat4/index.html
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城東支部 スキルアップ受講生募集
主催:城東支部 能力開発推進部
 城東支部のスキルアップコースは、主に診断士の資格を取得し、将来診断士として独立を考えられている方を対象としたプロコンを目指すための研修コースです。
 6月から3月まで、毎月1回計10回の開催を予定しています。城東支部長をはじめ、城東支部のプロコンとして活躍されている方々が講師を務めます。
 この研修に参加することにより、独立後に必要となる、行政機関の創業相談業務、個別企業の診断手法、研修講師のスキルなどを学ぶことができます。
 初回の6月の講義では、将来プロコンを目指す方のために、城東のプロコンの方々が、仕事の獲得方法やプロコンとしてどのような仕事をしているかなどをお話しします。
■予定カリキュラム
開催月 講義内容
1 6月 オリエンテーション
プロコンの稼ぎ方・体験談
2 7月 知的資産経営          
3 8月 人事戦略
4 9月 経営改善支援と事業承継
5 10月 創業支援
6 11月 販路開拓(ランチェスター戦略)
7 12月 中小企業におけるIT活用支援
8 1月 国際化対応
9 2月 工場診断
10 3月 事業所防災計画と事業継続計画(BCP)の策定手法
 *原則第1土曜日の9:00~17:00に開催いたします。
 *講義内容や開催月は変更となる場合があります。
 *このほか城東地区の企業の実地診断を1、2社行なう予定です。
■申込資格  新人会員、既存会員(城東支部以外でも歓迎いたします)
■受講料  45,000円/年
■開催場所  都内の区民館
■申込先  城東支部 能力開発推進部 大石 正明  E:ooishi@zj8.so-net.ne.jp
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城西支部 城西プロコン養成塾10期生募集
主催:城西支部 JOPY委員会
 城西プロコン養成塾(略称JOPY)は、中小企業経営者に適切な助言・提案のできる診断士養成を目指し、平成17年に開講しました。今年度は10年目の節目を迎え、講座内容もリニュ
ーアルし、受講生のさらなるスキルアップを目指しています。
 コンサルタントは、中小企業経営者の目線に立ち一緒にモノを考え、適切な助言を行うとともに、良き相談相手となる必要があります。知識だけでなく、現場の場数を踏み、クライアントが納得する解決策を提示する、JOPYはこうした診断士を養成します。
 診断士能力向上、基本と応用の再確認、独立を目指す方......ぜひ、ご応募ください。
1.養成期間: 平成26年6月~平成26年12月
       原則 毎月第3土曜日10:00~17:30
ただし、商店街診断、商業診断、工場診断は別途日程を組みます。
2.研修会場: 杉並区立産業商工会館
3.募集人数: 15名
4.受講料: 75,000円
5.講座内容: 講師、会場の都合により、一部変更の場合があります。
開講日 講 座 内 容 予 定 講 師
6月21日(土) 自分を魅せるプレゼンテーション技法 Jacky Marketing Office
柴田 正幸
7月19日(土) 中小企業支援施策と活用事例 日本政策金融公庫(講師選定中) キャリアカウンセリング方法による助言能力の向上 林  啓史 (JOPY修了生)
8月 9日(土) 中小企業の資金繰り 大西 俊太 (JOPY修了生) 中小企業のマーケティング戦略 伊藤  恭
9月 (全6日) 商店街診断、商業診断、工場診断(選択制) 指導員選定中
10月18日(土) 創業支援の実際 平澤  明 企業再生の実際 和田 敦登
11月 (全6日) 商店街診断、商業診断、工場診断(選択制) 指導員選定中
12月20日(土) 中小企業のIT活用事例 魚谷 幸一 事業承継支援の実務 内藤  博 (JOPY修了生)
商店街診断・工場診断・商業診断はクライアントより実務従事ポイント取得可能です。
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6.申込方法: 氏名、住所、電話番号、ファクス番号、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上、下記宛てにメールでお申し込みください。お問い合わせも受け付けます。
<申込先>城西支部プロコン養成塾(JOPY)事務局 山内 喜彦
     T&F:045-316-1416 携帯:090-3002-3507 E:ys-yamauchi@dab.hi-ho.ne.jp
城南支部 第10期コンサル塾 5/18スタート
主催:城南支部 運営:城南総研
 コンサル塾は平成10年開塾の東京協会で最も伝統あるハイレベルなプロコン養成塾です。支部や協会には公的機関や外部団体からの紹介要請が増加しています。コンサル塾では、このようなニーズに応える実践的で総合的な能力をもつ人材を育成します。
 卒塾生からは「プレゼンスキルが飛躍的に向上した」、「仕事につながる強力なネットワークを得ることができた」、「独立1年目で前職の収入を上回った」等の声をいただいております。
開催日程:平成26年5月~平成27年2月 原則毎月第3土曜日
     ・全10回(うち1回は合宿) 9:00~19:00前後
     ・診断実務実習、工場/企業視察(別日程)
応募資格:①中小企業支援専門家に求められる実践的な能力を身に付けたい方
     ②東京協会・支部行事への積極的参加を確約できる方
     ③東京都中小企業診断士協会会員(他支部も歓迎します)
募集人数:最大20名(少人数教育を基本としています。申込者多数の場合は選考いたします。)
受講料:16.5万円(合宿、診断実務実習、工場/企業視察含む、食事交通費除く)
実施場所:座学は台東複合施設(最寄駅 JR秋葉原駅)他
予定しているカリキュラム:全ての回で塾生全員による模擬講演を実施
第1回
5/18(日)
プロコン活動の基本と営業活動、
セミナー・講演の進め方
第6回
10/18(土)
事業再生(再生概論)、新商品・新事業開発支援
第2回
6/21(土)
創業支援実務、中小企業の財務の
見方、企画書・LP・レジュメの作成
第7回
11/15(土)
事業再生(デューデリジェンス手法)、経営分析、プレゼン技法
第3回
7/19-20(土日)
経営分析手法、経営革新支援、販路開拓支援、プレゼン技法 (合宿)
第8回
12/20(土)
事業承継支援実務、流通業マーケティング、プレゼン技法
第4回
8/16(土)
経営改善計画策定支援実務、企業診断実務、融資・資金繰り
第9回
1/17(土)
地域資源活用・農商工連携支援、承継計画における財務、スライド作成
第5回
9/20(土)
経営改善計画策定支援実務、戦略策定、中小企業の会計
第10回
2/15(日)
修了式、プレゼンコンペ
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その他:実務更新ポイントが必要な方は、診断実務実習にて取得可能です。
<第10期コンサル塾 説明会開催のお知らせ>
日 時:4月16日(水)19:00~20:30(18:45受付開始) 申込締切日:4月9日(水)
場 所:渋谷区商工会館 第一会議室(渋谷区渋谷1-12-5 JR渋谷駅から徒歩5分)
申込先:城南総研 コンサル塾担当 木村春夫 E:kimuharu@aioros.ocn.ne.jp
氏名、住所、電話、支部名、登録No.メールアドレスを明記の上メールでお申し込みください。
城北支部 城北プロコン塾2期生募集
主催:城北支部 能力開発推進部
 城北支部では、診断士としての資質および診断能力の向上と活動の場を広げるため、および人脈形成を狙いとして、昨年10月「城北プロコン塾(塾長 古川支部長)」を立ち上げました。「城北プロコン塾」の特長として、城北支部の中からプロコンとして豊富な実績のある診断士に、"座学にとどまらない実践的な講義"をお願いし、現場実習も行い、プロコンとしての実力を有する診断士の育成を行っています。また、卒塾生には、新・経営力向上TokyoPJや信金等からの企業診断案件への参画、認定支援機関等への専門家登録などへの取次、ベテラン診断士の診断実務に同行する機会の提供、専門性に応じた支部研修会等での講師の場の提供など、城北支部全体でバックアップし、仕事獲得の機会を提供するプログラムを組んでいます。
 講義以外にも、塾生の専門性を高めるための「レポート発表」の場も作っています。診断士としての専門とする(もしくはしたい)分野の情報を整理し独自の診断スキル・フレームワークを構築するため、毎回グループディスカッションを行い、受講生同士や講師からのアドバイスを受け、10ヶ月かけてブラッシュアップを図ります。できあがったコンテンツは出版や講演の素材として活用できるように取り組んでいます。
 第1期の講義は、本年1月までに4回実施し、人事労務から始まり、経営診断プロセスのポイント、ものづくりの現場の診断ポイント、事業再生、財務的観点からの実践的経営分析、マーケティング、新市場開拓と、幅広い分野で演習を交えた講義を開催しました。2月以降は企業訪問も含めた、より実践的なカリキュラムを実施します(HP http://jouhoku-procon.jimdo.com/ご参照)。
 これまでの講義についての満足度調査アンケート結果(1講義ごとに実施)では、講義内容・運営方法に満足しているとの回答が、91.3%に達しています。
  「城北プロコン塾」には、城北支部以外の方も参加できます。独立のため実力をつけたい方、さらなるレベルアップを図りたい方、専門性を高めるきっかけを得たい方、幅広い人脈ネットワークを築きたい方は、ぜひご応募ください。
第2期実施計画案
1.実施スケジュール
平成26年7月~平成27年3月(予定) 月1回土曜日実施(9:30~17:30)
2.募集人数  15名程度
3.参加費 5万円(予定)
4.説明会 後日説明会を開催予定です。
5.連絡先 城北支部プロコン塾事務局(担当:徳永)
E:jouhoku-procon-info@googlegroups.com
三多摩支部 「多摩の塾」のご紹介
主催:三多摩支部 能力開発推進部
 三多摩支部では、7年程前にコンサル塾の立ち上げを検討し、三多摩独自のものにしようとの思いで、平成20年(2008年)に「多摩の塾」を開始し、独立を志向している方だけではなく、より幅広い対象者に対してコンサルティング「塾」を実施しています。通年ではなく、集中的に3日程度の座学と演習を行い、特定の分野に対してのプロとなっていただくことを狙いとしています。目的、特徴等を整理すると下記の通りです。
 目  的: 専門的な分野を掘り下げて、コンサルティングの実践能力を修得すること
 対象者: 新たな領域を開拓したいプロコン、プロコンを目指す企業内診断士、自分を再開発したい診断士
 特  徴: 全般的なコンサルティングスキルの向上ではなく特定の分野に絞って、プロとしての知識、技能を身につけられるような内容になっています。目指している到達点は、その分野で報酬がいただけるプロというレベルです。
 会  費: 15,000円
 「多摩の塾」は、毎年テーマを選定して、講義およびグループワークによる演習を朝から夕方まで終日行います。通常5月から7月までの土曜日ないしは日曜日に実施しております。各回の講義では、自宅での復習および理解の促進のために宿題が出されます。次のグループワークの際に、その宿題についての発表・ディスカッションがあります。自宅での研究や研鑽が非常に重要な要素と考えております。
 講師は基本的に該当分野において活躍されている、支部の会員または協会の会員にお願いしています。一人で3日間通して担当するのではなく複数の講師が担当する形としています。また、必要に応じて企業経営者・支援団体の担当者などを招聘して、テーマに関連した実務や実際の対応などを話していただきます。
 毎年実施するテーマについては、その時々の旬なテーマ、特に地域の支援機関との連携が強いという三多摩支部の特徴を生かし、支援機関において実施される事業との連携を考えた内容にしております。ちなみに過去の実施テーマは下記の通りです。
 ・化学物質管理支援アドバイザー養成
 ・事業承継
 ・連携事業
 ・BCP(事業継続プラン)策定
 ・経営改善計画のたて方
 今後は、東京協会や他の支部が実施しているような、通年にわたる全般的なコンサル・スキル向上を目指したプロコン塾の開設も検討していきたいと考えています。
 (連絡先:能力開発部長 中辻 一裕、mail:kaznaka@k3.dion.ne.jp )
2014.02.27
成功事例集の出版によって 経営革新計画施策の有効性を広く産業界に発信
成功事例集の出版によって
経営革新計画施策の有効性を広く産業界に発信
経営革新計画・実践支援研究会 戸田 正弘
E-mail:mtoda248@gmail.com
Summary(要約)
〈活動の経緯/開発の経緯〉
 当研究会の目的は、東京都の経営革新計画を支援し、その計画を実現するためのノウハウを身につけ、支援することにより、中小企業の発展に寄与することにある。よって、副次的には中小企業診断士のビジネスの創造に結びつけ、公的機関の支援のみならず、民間ベースのコンサルティングに結びつける能力を高めることを目的としている。
 そのことから、(1)優秀賞を受賞した企業等の経営者を毎月ゲスト講師として招き、成功に至るまでの苦労話を傾聴し、企業の革新ドラマを疑似体験する学びの"場"である。(2)さらに、東京都産業労働局商工部経営支援課の課長を招く等、都の経営革新計画フォローアップ事業を理解し、計画承認企業へのフォローアップ訪問を実行する実践の"場"でもある。さらに、東京都が年度末に発行する「経営革新計画事例集」への掲載について、フォローアップ訪問を通じて企業に働きかけ、会員が原稿を執筆して、当該企業の成功事例を紹介する、という一連のサイクルで活動している。(3)中小企業診断士が、自ら経営革新計画承認企業の計画実行を推進し、その成果発表もするようになっている。
 東京都の経営革新計画承認企業数は一時期減少したが、ここにきて増え続けており、都が発行する事例集や2010年度から発案された優秀賞の表彰制度が奏功しているように見受けられる。
 しかし、この優れた施策の存在さえも知り得ずに、経営革新に乗り遅れたままの中小企業が、依然として多いというのも事実である。
 この情報発信を補完し、この施策の有効性を中小企業診断士の目線で取材・再構成し、掲載企業には誇りを持たせ、読者には中小企業であっても経営革新計画の実践によって元気企業になっている姿を披瀝し、勇気を与え、中小企業診断士には希望を提供できるようにと考え、2012年3月に「経営革新計画で成功する企業」(31社の事例)として上梓したのである。
 「同PART②」(25社の事例)を2014年11月に発行すべく、編集作業が進行している。
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Ⅰ.当研究会の概要
 支援ツール開発の経緯を説明する前に、当研究会の概要を下記のとおり紹介する。なぜなら、当研究会の発足は2008年4月であるが、当該ツールを世に出すまでに当研究会員の4年間の研鑚を要したからである。
1.研究会の概要
 (1)研究会名:経営革新計画・実践支援研究会(略称:KKJS研)
 (2)代表者名:小林 勇治
 (3)発足年月:2008年4月
 (4)会 員 数:77名
 (5)開催回数:12回
 (6)開催日時:第3または第4金曜日 18:15~20:30
 (7)開催場所:東京都中央区日本橋堀留1-11-5
         (一社)東京都中小企業診断士協会中央支部事務所
2.研究会の目的、テーマ
 旧経営革新法、現中小企業新事業活動促進法に基づく、経営革新計画を支援し、その計画を実現するためのノウハウを身につけ、支援することにより、中小企業の発展に寄与することにある。よって、副次的には中小企業診断士のビジネスの創造に結びつけ、公的機関の支援のみならず、民間ベースのコンサルティングに結びつける能力を高めることを目的としている。
3.研究会の活動内容
(1)革新企業の社長の講演
  前年度に東京都経営革新優秀賞(最優秀賞、優秀賞、奨励賞)を受賞した企業経営者を招聘し、現場の生の体験をご講話いただく。(例会の第2講話)
(2)東京都の経営支援課長等の講演
  東京都産業労働局商工部経営支援課の課長や、(一社)東京都中小企業診断士協会事業化推進部長等を招聘し、行政ニーズの把握や推進のための注意事項を習得する。
(3)東京都のフォローアップ事業への協力
  ①実施フォローアップ
   承認企業からの希望に応じて、中小企業診断士が専門家として支援する。
  ②終了時フォローアップ
   専門家を派遣し、PDCAサイクル定着など経営支援を実施する。
  ③フォローアップ確認
   優秀賞候補企業に訪問し、内容審査の協力。 
(4)東京都内中小企業経営革新計画事例集の原稿執筆
  前述のフォローアップ事業で訪問した企業を取材し、東京都が年度末に発行する事例集の原稿を、企業と連携して制作する。
(5)経営支援事例の講演
  会員の中小企業診断士が、経営革新計画立案支援やフォローアップ事業支援を通じて体験・研究した内容を講演する。(例会の第1講話)
Ⅱ.ツール開発の経緯
1.取り組みに秘めた想い
 「経営革新なくして企業の持続・成長なし」というメッセージが1冊に凝縮され、それを手にした中小企業経営者が勇気づき、経営革新に挑戦する契機となるような本を発行したいという想いが、研究会の中で日増しに充満していった。というのは、東京都の経営革新計画優秀賞を受賞するような企業経営者の方々は、誰もがクレイジーと思えるほど情熱的かつ努力の天才で、研究会の例会でご講演いただき、成功に至るまでの苦労話を聴くたびに、感動で胸が熱くなり、未だ革新の緒についていない多くの迷える経営者の方々の背中を押す本が必要だという結論に達したからである。
 当研究会が東京都と連携し、制作に協力している「東京都内中小企業経営革新計画事例集」は、経営革新計画施策の有効性を手早く俯瞰でき、行政がここまでやるかと感心できる質の高い出版物であると言える。しかし、頁数に制限があり、冊子を入手できる場所が限定され、年度ごとに版が変わるという制約条件を考えると、この施策の有効性を産業界の隅々にまで、宣伝するには限界がある。
 そこで、経営革新に興味・関心のある方であれば誰でも書店で入手でき、通読すれば経営革新計画施策の全容がわかり、活用のヒントが得られるような本の編纂が求められたのである。
2.開発ツールのポイント
 研究会の中で議論を重ねた結果、開発する単行本に必要な条件は、次の4点に絞られた。
(1)読者への感動の提供
  東京都の最優秀賞、優秀賞、奨励賞受賞企業は必須としても、受賞企業だけに留まらず、執筆者が精魂込めて書きたいと思う価値ある企業を厳選すること。
(2)最適な質と量の提供
  経営者の経営革新に賭けたチャレンジ精神を余すところなく伝えられる最低限の頁数を確保し、1社当たり5~6頁とすること。
(3)利便性の提供
  読者が興味本位に読みやすい業種別・数社単位の章建てとすること。
(4)網羅性の提供
  経営革新未経験の経営者と、支援を志す中小企業診断士の双方の入門書となり得る内容の具備。序章では、経営革新計画承認制度と表彰制度の概要・企業のメリット・社会的意義などを紹介するほか、事業期待効果と実現可能性を高める効果的な進め方まで学べること。
3.実際の開発ツール
(1)出版物の体裁
2012年3月28日 第1刷発行
著 書 名:「経営革新計画」で成功する企業
編 著 者:小林勇治
発 行 者:脇坂康弘
発 行 所:株式会社同友館
発行部数:2,000部
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(2)出版物の目次
 序章 経営革新計画の承認と効果ある進め方
1.経営革新計画承認とその本質を知る 2
2.経営革新計画フォローアップと東京都の表彰制度への応募 10
3.企業・事業ソリューションはこのように進める 14
4.事業期待効果と実現可能性を確認する 18
5.経営革新を実現し中小企業利益向上による社会貢献をしよう 21
 第1章 経営革新計画承認で躍進している製造業の事例
1.高品質・低コスト「消音装置」で躍進する アルパテック㈱ 24
2.消火設備用鋼管加工の内製化とモジュール化で躍進する ㈱ニチボウ 30
3.オートバイ用HIDヘッドライトで躍進する ㈲サイン・ハウス 36
4.家庭用品進出で躍進を目指す鴨肉トップの コックフーズ㈱ 42
5.新技術でリビングの風を変える バルミューダ㈱ 47
6.アロマの香りで店内を演出する企業に変身した ㈱メリ・テック 52
 第2章 経営革新計画承認で躍進している建設業の事例
1.改良フーチングレス・パネル工法で躍進する ㈱コクヨー 60
2.高級路線で収益体質をつくり上げた ㈱新居伝 66
3.提案型デザインリフォーム事業で躍進する ㈱カネタ建設 71
4.吸引掘削工法の実用化により経営革新した 山美津電気㈱ 76
5.建売住宅のブランド価値を追求する ㈱Promoters 81
6.内装解体から産業廃棄物処理一貫体制で発展する ㈱ナンセイ 86
 第3章 経営革新計画承認で躍進している卸売業の事例
1.トータルビジネスサポートで躍進する ㈱シービージャパン 92
2.脱臭ビジネスに着目して市場開拓に挑む アイダッシュ㈱ 97
3.新型インフルエンザ対策抗ウィルスマスクで成功した ㈱セス 102
4.塗装業より環境企業へ経営革新を図った ㈱松茂良 108
5.環境にやさしいアスベスト工法普及で躍進を図る ㈱ウィズユー 113
 第4章 経営革新計画承認で躍進している小売業・飲食業の事例
1.顧客と深くつながる仕組みで囲い込みを図る ㈱ファイエット 120
2.経営指導からマーケティング代行業に革新した ㈲ビーウィッシユ 125
3.店舗展開の経営革新 玩具小売業 ㈱サンマルタ 131
4.フランチャイズチェーン展開・飲食店への進出に成功した ㈱ひびき 136
 第5章 経営革新計画承認で躍進しているサービス業の事例
1.多彩な教育サービス拡充で躍進する ㈱未来舎 142
2.中国人向け訪日結婚式サービスへ業容拡大する ゲストハウス㈲ 147
3.セル生産方式で更なる飛躍を目指す ㈱セルフ 152
4.総合リゾート会社へと躍進する ㈱小笠原エコツーリズムリゾート 157
5.企業価値向上による事業再生に取り組む ㈱ノア総合研究所 162
 第6章 経営革新計画承認で躍進しているeビジネスの事例
1.データベースのリモート保守サービスを展開する ㈱アイ・ティ・プロデュース 168
2.無線通信技術を活かしてニッチ市場に攻め込む ㈱イーアンドエム 173
3.介護ソフト新シリーズで経営革新をした ㈱ジャニス 178
4.自社商品の開発・販売で飛躍する ㈱ゲネシス コンマース 183
5.ネットで絵本の購買行動を革新し、飛躍する ㈱絵本ナビ 188
Ⅲ.開発ツールの機能
1.暗黙知を形式知に変換するプロセスの提供
 当研究会において、経営革新計画に関する知識を創造していくには、暗黙知と形式知の相互変換を持続的に回していく仕組みが必要だった。革新企業の社長の体験は、暗黙知の山であり、各社各様の多様な暗黙知の束を分類・整理し、そのエッセンスをわかりやすく文章で形式知化するのは骨の折れる作業である。これを研究会員の一人ひとりが思い思いのやり方で、企業を取材し書いていくとしたら、トーン&マナーが揃った一貫性のある著作物には到底なりえない。そこで、膨大な暗黙知の山を丁寧に切り崩して、整理しやすい形式知に段階的に変換していくプロセスが求められた。
KKJS研究会の知識創造プロセス
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暗黙知
共同化(S)
◦革新企業の社長の体験談に共感する
◦中小企業診断士の支援体験談に共感する
◦東京都の経営支援課長から施策説明を受け理解する
暗黙知
表出化(E)
◦事例集などを参考にして自社の経営革新の体験談をスライドにまとめ研究会でプレゼンする
◦先行の支援事例を参考にして支援体験談をスライドにまとめ研究会でプレゼンする
◦革新企業の社長が中小企業診断士のインタビューに答える
内面化(I)
◦フォローアップ事業で企業訪問することで新たな暗黙知を得る
◦フォローアップの報告書と事例集作成により新たな暗黙知を得る
◦単行本の原稿を執筆することで経営革新に対する洞察が深まり新たな暗黙知を得る
連結化(C)
◦経営者は経営革新計画をステークホルダーに開示して連携を深める
◦フォローアップ事業で収集した情報を東京都の事例集にまとめる
◦成功事例集を単行本にまとめ産業界に広く発信する
※野中郁次郎・竹内弘高(著)「知識創造企業」東洋経済新報社(1996)を参考に筆者作成
 すなわち、その変換プロセスの段階とは、次の4段階に整理できる。
(1)革新企業の社長が体験談(暗黙知)をスライドにまとめ発表する(形式知化)
(2)当研究会員が支援体験談(暗黙知)をスライドにまとめ発表する(形式知化)
(3)当研究会員が、フォローアップ訪問時の支援と取材体験(暗黙知)を基に、東京都の事例集を執筆する(形式知化)
(4)当研究会員が、上記(1)~(3)のプロセスを経て蓄積した形式知に、独自の暗黙知を統合して単行本の原稿を制作する(形式知化)
 当研究会におけるこれらの段階的な変換作業の繰り返しが、形式知の集大成である単行本の品質を高めているのである。
2.書く機会の提供
 共著とはいえ単行本を執筆する機会はそう多くはない。中小企業診断士の必須能力の一つである書く能力を鍛える機会となる。
3.情報発信機能
 書店やネット販売で入手できる単行本を出版することは、有力な情報発信手段になる。
Ⅳ.ツール開発の成果
 次の4点の定性的な効果が持続的に拡大している。
1.経営革新計画施策の有効性の見える化
 経営革新計画承認を受け、成功している企業の事例集を単行本にしたことで、施策の有効性を一層顕著に明示することが可能になった。
2.掲載企業の強みの見える化
 掲載企業の経営者の大半から、掲載によりステークホルダーに対して自社の強みを明確に説明できるようになり、競争優位性が一層高まった、と感謝されている。
3.中小企業診断士のビジネス機会の創造
 当研究会の活動成果は、東京都の経営革新計画施策の推進の一翼を担うだけに留まらず、中小企業診断士が民間企業の経営革新の支援者として営業活動を展開する際に活用できる参考書や宣伝材料を提供し、ビジネス機会の創造に寄与するものとなっている。
4.暗黙知の形式知化による知識体系の共有
 企業が経営革新で成功に至るプロセスは各社各様で、その暗黙知に満ちた革新ストーリーを社外の第三者が取材し、わかりやすく伝えるのは至難の技である。この暗黙知の束を会員が形式知に変換し、誰もが活用しやすく体系化するには、一定のスタイルを持つ単行本化は必然であり、その完成により、効率的な知識共有が可能になった。
Ⅴ.今後の予定
 第1弾が中小企業経営者と経営革新を支援する中小企業診断士や税理士など多くの実務家から好評と応援をいただいたため、経営革新計画の承認を受け成功している中小企業25社の事例を集めた『「経営革新計画」で成功する企業PART②』を、2013年11月に発行すべく、編集作業が進行している。
2014.02.01
経営革新評価システムの開発と実践

企業格付け研究会 古田中 孝一
E-mail:k2kotanaka@gmail.com

Summary(要約)
中小企業が継続的に発展していくためには、自社の今ある姿を正確に把握することが必要であり、さらに強みを伸ばし弱点を克服して将来のあるべき姿(経営戦略像)を描くことが求められる。しかし、その必要性は認識しつつも実際は日々の活動に追われ、振り返る時間的余裕の少ない中小企業が多いのが現状である。
企業格付け研究会は、この現状を改善すべく、機能的な「経営革新評価システム」を開発・実践し、展開することを目的として、1999年10月に発足した。
検討を重ねた結果、経営資源の3要素として、「ヒト」「モノ」「カネ」を評価のベースとすることとし、業種別に、製造業版、卸・小売業版、サービス業版を順次完成させた。またこれをベースに、社団法人中小企業診断協会(当時)からの依頼により、同協会編の「中小企業の評価・診断・支援」(2004年5月)の出版につき、研究会として協力をさせていただいた。
その後、さらに内容の検討を重ね、今般、全業種を対象とした「経営革新評価システム」を完成するに至ったので、それを発表するものである。

Ⅰ.「経営革新評価システム」とは
1.本システムの基本的な考え方
企業経営(管理)をよりレベルアップするためには、現状の経営(管理)のレベルを体系的・網羅的に評価したうえで、無理のない経営革新を図る必要がある。
その際、経営(管理)のレベルを評価する基準となる要素が必要となるが、『中小企業基本法第2条』では、『経営資源とは、設備、技術、個人の有する知識及び技能その他の事業活動に活用される資源をいう』とされている。また、「中小企業も独創性、機動性などを発揮して、新たな事業活動を展開していくことが重要であり、そのための基礎条件として、経営ノウハウ、技術、人材、市場情報などのソフトな経営資源の充実強化が、従来経営資源の代表例とされた機械設備や資金等のハード面の資源に加えて必要不可欠になってきた」とある。
本システムは、このような状況を踏まえ、経営資源を「ヒト」「モノ」「カネ」の切り口から総合的に把握・分析し、企業のさらなる発展に向けた提言を行うことを目的として、開発されたものである。したがって、総括的な評価報告では、「ヒト」「モノ」「カネ」それぞれについて評価を行った結果から、現状の優れている点や問題点、課題などを指摘し、企業が経営革新を推進、実行するための戦略、施策、改善策などを中心に提言する。

2.本システムの特長
(1)全業種への対応が可能
モデル業種として、①製造業、②卸売業、③小売業、④サービス業(店舗あり)、⑤サービス業(店舗なし)の5つを設定した。これによりほとんどの企業に対応することができる。
ただし、昨今企業の業態はますます多様化しており、その場合は、評価者の判断にて対象企業の業種・業態、規模等に応じた戦略項目及び評価指標を抽出することができるシステムとしたので、柔軟に活用することが可能である。

(2)評価基準の明確化
評価は客観的であることが求められる。このため、評価内容に偏りやもれがなく、企業全体の状況を体系的に把握できる構成にするとともに、評価基準を明確にすることにより、だれが行っても同じ評価となるようなシステムとした。
「ヒト」「モノ」については、全体を総合的に把握できる評価項目を体系化するとともに、評価指標ごとに、「経営者への具体的質問内容」、「ヒアリングのポイント」及び「着眼点」を明示しており、評価者の経験の有無や恣意性に影響されず、客観的かつ公平な評価が可能である。
「カネ」については、定量評価に加えて定性部分も出来る限り客観的に評価できるよう工夫し、定量部分と合わせて、企業の財務に関する実態を総合的に評価、判断できるようにした。

(3)システムのプログラム化
評価を行う場合、多くのデータを作成、処理する必要があるため、多大な手間がかかったり、時間的な負荷が大きくなるとともに、誤りが発生する可能性もある。このため表計算ソフト(Excell)によるプログラム化を図り、個々の評価結果や必要データを入力することで、短時間で正確に評価のベースが作成できるようにした。また、データをインプットするとレーダーチャートで表示される等、診断結果がビジュアル的にもわかりやすくなるように工夫をした。

Ⅱ.「経営革新評価システム」の概要
1.全体概要
「ヒト」「モノ」「カネ」について、経営革新レベルを5段階で判定する。各部門の戦略項目、評価指標の項目数は下記のとおりであり、評価は評価指標ごとに行う。

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評価および経営革新レベルの判定は、①評価指標による評価⇒②戦略項目の評価⇒③部門別総合評価、の順に行う。最終的な報告は「総合評価報告書」として、各部門の評価結果から現状の優れている点や問題点、課題などを指摘し、企業が経営革新を推進、実行するための戦略、施策、改善策などを提言する。

2.ヒト、モノ部門の評価 
(1)基本的な考え方
①「ヒト」の戦略項目と評価指標

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②「モノ」の戦略項目と評価指標

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③業種対応
「ヒト」の評価指標は全業種共通に使用し、「モノ」の評価指標は、業種の特性を考慮し、全業種に対応する指標(必須)、企業の実態に合わせて取捨選択できる指標(オプション)、当該業種では対象としない指標(対象外)の3つに分類し、業種に応じて選択可能である。

(2)評価の構成とプロセス
①評価指標の評価
評価指標ごとに定められている「具体的質問内容」「ヒアリングのポイント」「着眼点」をもとにして、経営者に対するヒアリング結果をベースに5段階で評価する。
たとえば、「ヒト」部門の戦略項目(企業経営)のうち、評価指標(経営理念・経営目標の浸透)では、以下のとおりとなる。

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②戦略項目の評価
各評価指標の評価結果(経営革新レベルで設定した評価)から、戦略項目ごとの評価指標の平均値を算出し、戦略項目のレベルを5段階(Ⅰ~Ⅴ)で判定する。

③各部門評価
最後に、戦略項目のレベルから「ヒト」および「モノ」部門の総合のレベル判定を行う。これは、平均値などによる統一的な基準は用いずに、各評価のバランスや平均値には現れない定性的な要因などを総合的に考慮して、評価者が決定する。

3.カネ部門の評価
(1)基本的な考え方
定量面と定性面の双方から総合的な格付判定を行う評価体系とした。
①「カネ」の戦略項目と評価指標

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②「カネ」の全体評価のプロセス

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(2)評価の構成
①定量評価(比率分析)
〈第Ⅰステップ(評価指標の動態評価と静態評価による3段階評価)〉
評価指標別に基準値(中小企業庁編の「中小企業の財務指標」の業種別・規模別業界平均値を採用)と比較し、基準値を上回る、範囲内(基準値の±5%)、下回る、の3つに分類する。さらに、前期決算との増減比較により、良化、悪化を判別する。これを総合し、「A」・「B」・「C」の「3段階評価」の判定を行う。

〈第Ⅱステップ(評価指標を3段階評価から5段階評価へ細分化)〉
第Ⅰステップの「A」・「B」・「C」の3分類のうち、「A」と「C」について、基準値との乖離度が極めて高(低)い場合、これを5段階評価の「5」または「1」とする。この結果、評価指標別に5段階評価が行われる。「乖離度の判定」は、評価者の裁量的判断に基づいて行うが、参考値として、予め所定のシートに判定の目安を掲載している。
評価指標の重点評価項目の評価を勘案し、戦略項目別に「5」・「4」・「3」・「2」・「1」の5段階評価を行う。

〈第Ⅲステップ(戦略項目の評価)〉
戦略項目ごとに重要度・分布状況を総合し、定量評価全体としての評価を行う。

②定性評価
健全度分析として、問題債権や不良在庫の有無などから、財務の透明性が図られているかを把握する。また、該当する項目にその有無をコメントし、判定する。
体力度分析として、役員報酬の多寡や減価償却の実施状況などによって収益力に差が生じるケースが多いので、その実数を把握することにより判定する。

③総合評価
「定量評価」(比率分析)および「定性評価」の結果を総合し、最終的な「カネ」の総合評価の判定を「Ⅴ」・「Ⅳ」・「Ⅲ」・「Ⅱ」・「Ⅰ」の5段階で評価する。

4.企業全体の評価
以上のプロセスにより、「ヒト」「モノ」「カネ」の3部門の評価を決定する。本評価システムでは、この3部門はそれぞれ企業にとっての位置づけが異なるという観点から、これら3部門全体をまとめた評価は行わず、評価の結果、それぞれの部門について企業として取るべき戦略を提案し、トータルとして企業力の向上を目指す。

Ⅲ.経営革新評価システムの活用と実践
1.本システムの活用
(1)中小企業診断士による活用
中小企業診断士として、さまざまな業種において、意欲ある経営者の経営革新に向けてのチャレンジを積極的に支援していくことが必要である。
本システムは、中小企業診断士にとって企業診断における具体的なクライアント対応を体系化したものであり、診断アプローチの導入ツールとして、非常に有用なものと考える。

(2)経営者自身による活用
中小企業の経営者においては、本システムを活用することで、自社の経営管理の現状を体系的に把握することができ、将来のあるべき姿との差分から、経営革新を図るべき箇所を明らかにすることができる。

2.本システムの今後の実践
本システムは、中小企業の評価のみならず、財務体質の改善、事業再生計画の策定、事業承継、新市場・新事業への進出などを行う場合の基礎となる分析が可能であり、今後は上記のようなテーマに対するシステムの活用と実践に取り組みたいと考えている。
その結果をシステムにフィードバックすることにより、一層役に立つ、使いやすいシステムの開発に役立てていく方針である

2013.12.26
事業再生~知的資産経営手法の導入~
城南支部 知的資産経営研究会 中村 良一
URL:http://www.iabm.jp E-mail:r-nakamura@smesolution.jp
1.ツール開発の経緯
 本活動は、知的資産経営研究会有志6名(中小企業診断士、弁護士)により、「事業再生の現場プロセス」~見えない資産が経営を変える~(中央経済社、2013年6月)を共同執筆したことにより、まとめたものである。
 東日本大震災で有形資産の多くを失った企業が、知的資産(無形資産)を糧に復興を目指しているのが象徴的であるが、さまざまな要因で窮境に至る企業は、同様に有形資産が傷ついている場合が多い。このような窮境にある企業の事業再生のためのエンジン(駆動力)の役割を担うものとして、知的資産を取り上げた。
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 事業再生の手法は、①債務カットを伴うような外科的治療(BS的アプローチ)と、②営業利益を改善させることを目指す内科的治療(PL的アプローチ)とに分けられる。
 知的資産経営手法の導入により、PL的アプローチによる経営改善が図られることを、事例を挙げて証明した。
 また、事業再生の包括的な理解を進めるため、弁護士にも参加してもらい、法的整理の手続き等のBS的アプローチの整理を行い、現代における私的整理、法的整理の課題を抽出した。
2.事業再生の概要と現代の課題
(1)事業再生手法の概要
 事業再生の範囲は広く、主に図表2のように私的整理と法的整理に分類することができる。
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 法的整理が体系的であるが、再建型と清算型に分かれ、清算型はもちろんであるが再建型も同様に、企業再建のため債権放棄を得ることが目標となる。一方、私的整理においては、債権者は債権放棄をしても通常は、損金算入は認められない。わずかに大企業において債権放棄(無税償却)のスキームを含む私的整理ガイドラインや、事業再生ADRが利用されている。中小企業においては、再生支援協議会を用いたスキームがとられるが、リスケやDES、DDS等の手段が主で、債権放棄が実施されることは稀である。
 中小企業の再生スキームである中小企業再生支援協議会の活動状況は、図表3のとおりであり、その93%がリスケである。
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(2)事業再生施策の歴史
 事業再生施策の歴史は、図表4のとおり、2000年の民事再生法施行前後に本格的となり、現在まで十数年の歴史である。
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 バブル崩壊期には、民事再生法の前身といわれる和議法は、和議案(民事再生手続きにおける再生計画)が可決、認可されればその実行につき何の拘束手段もなかったことから、和議の申立てに対して債権者は同意せず、したがって和議手続きはすでに利用されなくなっていた。いわゆる倒産5法のうち、会社更生法の適用が困難な場合、他に事業再生に有効な手法がなく、破産に追い込まれることが多く、この反省から民事再生法等の施策が誕生した。
(3)現代の事業再生の課題
 バブル崩壊期、法的整理によって債務免除を得た企業は、不採算事業を切り捨てることによって、再建を達成することができた。
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 しかしながら現代の厳しい経済環境の中、本業といえどもPL的アプローチを同時に行わないと企業の再建が危うい状況にある。ましてや私的整理においてリスケによって債務を先送りしただけでは、真の再建を勝ち取ることができない状況にある。
 現代の事業再生においては、BS的アプローチ(外科的治療)が必要な場合はもちろんあるが、同時にPL的アプローチ(内科的治療)が重要となっている。この場面において、事業再生のエンジン(駆動力)になる、知的資産経営の導入が有効なのである。
3.知的資産経営の概要
(1)知的資産経営のやさしい概要
 これはあるプロサッカーチームの再建のフィクションである。
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 社長はまず経営理念を定めた。
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5年目の成績は!
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 社長が行った活動は以下のとおりである。「形のあるもの」「お金で買えるもの」から「形のないもの」「お金で買えないもの」の順の活動を整理する。
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 「形のないもの」「お金で買えないもの」の方が、差別的優位性を発揮しやすく(同時利用の許容性・相乗効果・模倣困難性)、企業としての強さを表現している。分類方法としては、「人・人材」は『人的資産』、「仕組み」は『構造資産』、「対外関係」は『関係資産』として整理する(MERITUMガイドライン)。
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(2)「3分類」を活用した事業再生
①リソースの発見
 知的資産経営導入の第1段階は、前述したプロサッカーチームの強みの抽出と3分類(人的資産・構造資産・関係資産)を用いた整理である。通常このプロセスはSWOT分析によって行うが、主に企業の保有する強みを重点的に抽出する。これは事業再生の段階にある企業は、強みを増強し、弱みを補強するというような平均的な戦略をとる余地が少ないためである。また、ヒト・モノ・カネ・情報等の経営資源のうち、モノ・カネについては弱みに入る場合が多く、これは捨象する。
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②アクティビティの方向性
 前述した知的資産の3分類の増強活動をアクティビティというが、これについても平均的ではなく、差別的優位性を発揮できる方向に伸ばしていくことを考える。それぞれの企業が自社の強みを発揮できるように、ビジネスモデルを構築することが重要となる。
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③知的資産経営手法導入による期待効果
 事業再生計画を推進していくエンジン(駆動力)の役割が、知的資産経営である。事業再生計画を単なる数字で埋めるのではなく、その価値創造のプロセスとビジネスモデルを説明するものが、知的資産経営報告書である。これを説明することによって、ステークホルダーの信頼が得られ、社内では目標の明確化が図られ、事業再生のゴールに向かって前進していくことになる。
2013.12.26
特集記事について
研究会部 溝口 晃子


 「平成25年度中小企業経営診断シンポジウム東京協会研究会成果発表のご報告」
http://www.t-smeca.com/event_report/2013/12/post-30.html
で紹介した受賞論文6篇を以下のスケジュールで順次掲載いたします。
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2013.11.28
ハイブリッド・コンサルタント(企業内診断士) 活用スキーム
ハイブリッド・コンサルタント(企業内診断士) 活用スキーム
城北支部 企業内診断士フォーラム 中村 昌幸
nakamasa@m7.gyao.ne.jp
 今号では先日2013年11月7日に開催されました平成25年度中小企業経営診断シンポジウムの第3分科会において東京協会長を受賞した論文を掲載いたします。
Summary(要約)
■ハイブリッド・コンサルタントとは?
 城北支部企業内診断士フォーラムは、勤務先企業を持つ中小企業診断士により構成される研究会であり、勤務先内外で中小企業診断士としての実践的な活動を行うべく、さまざまな取組みを行っている。本発表ではいわゆる「企業内診断士」を「ハイブリッド・コンサルタント」と再定義し、経営コンサルティングサービス提供を提案するものである。
■小規模事業者/団体等のコンサルティングサービス受給の課題
 ◦経営コンサルティングサービスへの費用捻出が予算規模的に難しいと考えられ、サービス受給のハードルとなっていることが考えられる。
 ◦経営課題をさまざまに認識しているものの、日々の業務に追われ、コンサルティングニーズを整理することが難しく、サービス受給のハードルとなっていることが考えられる。
 ◦客観的な外部の視点で、アドバイスを得てみたいという『ライトなニーズ』に対応したコンサルティングサービスの受け皿が見当たらない現状があると考えられる。
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■ハイブリッド・コンサルタントの特徴(強み)
 ◦中小企業診断士として、診断手法・経営知識等のビジネススキルの共通言語を共有し、スムーズなチーム組織結成による課題対応が可能である。
 ◦個々のハイブリッド・コンサルタントは、さまざまな業種・業態のノウハウを有しており、経営課題に応じた対応を行うことが可能である。
 ◦中小企業診断士として保有する知識や手法を、幅広く社会への活用と実践機会を重視する目的で、リーズナブルなコンサルサービス提供が可能である。
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■ハイブリッド・コンサルタントの課題と提供サービス
 コンサルティングサービス提供の活動時間帯の制約、サービス提供先とのマッチング機会の確保という課題が挙げられる。こうした課題に対して、小規模事業者・団体様へのコンサルティングサービスの"ファースト・コンタクト"となるべく、積極的に下記活動を行っている。
  ①就業時間終了後に活動が行われることが多い「商店支援」
  ②休日等を利用した支援が可能な「地域支援」
  ③就業時間後の自主セミナー等を対象とした「セミナー提供」
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■ハイブリッド・コンサルティングサービスの事例と成果
 実際に当研究会が取組んでいる事例と成果として、3つの事例で説明する。
 事例1:地域活性化コンサル提供
     「首都圏への魅力発信による地方都市活性化」コンサル事例
 事例2:商店街販売促進コンサル提供
     「商店街WEBサイト 商店魅力発信支援」コンサル事例
 事例3:従業員教育セミナー提供
     「マーケティング知識習得入門セミナー」コンテンツ提供事例
Ⅰ.ハイブリッド・コンサルタントとは
 城北支部企業内診断士フォーラム(以下、KSF)は、勤務先企業を持つ中小企業診断士により構成される研究会である。診断実務案件を開拓し、勤務先の枠外でも中小企業診断士として活動を行うべく、さまざまな取組みを行っている。我々は、経営コンサルタントとして独立し、生計を立てる中小企業診断士や、コンサルティングサービス企業とは、コンサル業務に従事する時間帯の制約や、営業活動等で異なる立場を持つこととなるが、勤務先で得られたビジネススキル+中小企業診断士のコンサルティングスキルを併せ持つ「ハイブリッド」なビジネススキルを活かした経営コンサルティングサービスの提供形態があるものと考えている。本稿では、いわゆる「企業内診断士」との名称を「ハイブリッド・コンサルタント」と再定義し、経営コンサルティングサービス提供のスキームを提案するものである。
Ⅱ.小規模事業者/団体等のコンサルティングサービス受給の課題
 小規模企業・団体には、起業して間もない事業者や、家業としての規模を保ちながら経営を続けている商店、地域需要に対応した団体など、多様な業種業態の事業者が活動を行う上で、大小さまざまな経営課題が存在している。経営者は必ずしも今後新たに取組む事業経営等について十分な知識・経験を有しておらず、また、社内に相談できる陣容も限られていることにより、外部コンサルタントの知識・ノウハウの活用が必要であるが、実際には十分に活用されているとは言えない状況である。その理由として、経営コンサルティングサービスを受けるには、相当な費用が必要との先入観や、費用対効果が不透明と見られることがサービス受給に踏み切れない要因となっていると考えられる。また、経営課題を認識しているものの、日々の業務に追われ、明確なコンサルティングニーズとして整理が行えず、具体的な相談に結びつかないこと。さらには、直面している経営課題や、直近の運営に支障はないものの、現状の経営への漠然とした不安や、経営計画の必要性について、客観的な外部の視点でアドバイスを得てみたいという『ライトなコンサルティングニーズ』に対応した受け皿が見当たらないことも、サービス受給の機会拡大を阻んでいる要因ではないかと考えられる。
Ⅲ.ハイブリッド・コンサルタントの特徴(強み)
 課題に対して、ひとりのコンサルでなく、複数の専門家がチームを組んで、多面的な視点でアイデア出しを行い、最適な改善提案を行うことができれば、より具体的な成果に繋がる経営コンサルティングサービスの提供が可能となる。ただし、多様な考え方をそのまま羅列するような改善提案では実践的とは言えず、複数での検討がマイナスの結果を招くことになりかねない。  
 KSFのメンバーは、中小企業診断士の持つ診断手法・経営知識等のビジネススキルを共通言語として、基本的なフレームワークや分析手順、課題解決手段を共有している。これにより効果的な課題対応に向けて、複数の中小企業診断士による【ハイブリッド・チーム】の組織を、迅速に編成して個別案件に対応している。このハイブリッド・チームは、各KSF会員が所属企業の業務から習得したノウハウ(業界ノウハウ、業種ノウハウ、業務ノウハウ)を有しており、それを効果的に組み合わせることで、さまざまな経営課題に対応した【ハイブリッド・コンサルティング】の提供が可能である。
 KSF会員による活動時間は、就業後や休日に限定される制約があるものの、中小企業診断士として保有する経営知識や診断手法によって、社会に貢献したいとの意欲を有しており、経営コンサルティングスキルを現場で磨くための実践機会を求めている。こうした背景と勤務先業務で収入を得ていることから、ハイブリッド・コンサルティングは、リーズナブルなコンサルティングサービスとして提供することが可能となっている。
Ⅳ.ハイブリッド・コンサルタントの課題と提供サービス
 ハイブリッド・コンサルタントは、コンサルティング活動時間帯に制約があることが課題である。KSF会員は、勤務先業務との調整を図りながら、コンサルティングサービス提供を行っており、活動時間帯の制約の範囲内で、クライアント様への訪問・打合せの時間調整や、チーム間の整合等を行っている。また、ハイブリッド・コンサルティングのニーズを発掘し、提供を行うための"営業活動"を行い、サービス提供の場を確保することも必要である。
 こうした課題への対応と、コンサルティングのサービス品質を高めるために、具体的な提供メニューを用意し、自らサービス受給者に発信することが有効である。KSFでは、会員によるワーキンググループをテーマ毎に組織し、具体的なコンサルティングメニューとして予め準備を行っており、小規模事業者・団体様にとり、経営コンサルティングサービスへ接するためのファースト・コンタクトとなるべく、KSFでは特に積極的に3つの活動を推進している。
 1つめは、就業時間終了後に活動が行われることが多い「商店支援」である。商店や商店街では、営業時間中は自店の対応で多忙であるため、営業時