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2018.12.27
稼ぐ商店街から見る行政ビジネス

稼ぐ商店街から見る行政ビジネス
将来商店街の支援における「商店街収益可能性指数」と
「行政内商店街評価基準」のダブル支援パッケージの策定

商店街研究会 鵜頭 誠

1.商店街の崩壊構造の打破と本研究会の意義
(1)商店街崩壊構造からの救済の必要性
 これまで数多の中小企業診断士が全国の商店街を支援し、その運営を支えてきた。そのようななかでも今なお商店街が疲弊してしまうのはなぜであろうか。
 私は、商店街と個店に対し、これまで数々の中小企業診断士が支援に入るにあたり、「商店街が今後も稼いでいける体制と財政基盤の構築」を行うことが困難であったからではないかと考える。
 また、地域商店街を支える基礎的自治体も、直面する課題を解決すべく、数々の施策を企画しなければならない一方、支援対象である商店街の運営実態について、評価すべき効果指標を十分に持ち合わせておらず、財政当局への説明も困難となってしまったからであると考える。
 私は、中小企業診断士として、商店街支援にあたり、商店街とその店主が現在の強みと可能性に気づかないまま落胆しきっている様子を見てきた。また、施策を実現するにあたって拠り所が少なく迷っている行政職員に直面し、数々のヒアリングとアドバイスを行ってきた。
 100を超える商店街の現場支援を受けて、商店街自身が将来への可能性を見出すことと、行政の評価体制の両面の解決をしなければ、商店街の崩壊構造を根本から改善しえないと感じた。

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(2)当研究会の紹介
 東京協会認定の商店街研究会は、平成14年6月、商店街の活性化、個店繁盛に積極的に取り組みたい中小企業診断士が集まって設立された。
 定例活動として、毎月1回土曜日に商店街を訪問し、役員の方から成功談をヒアリングし、活性化方策を知る活動を年間約10回実施している。
 会員は現在約100名。研究会定例会は土曜日午後を中心とし、プロコンと企業内診断士が参加しやすい活動スケジュールとしている。支援、執筆にも企業内診断士が多く参加し積極的にノウハウの蓄積と発信を行っている。

2.自活できない商店街組織の限界の認識と脱出策
(1)なぜ商店街は崩壊構造を抜け出せなかったのか
 今日の多くの商店街で、自主活動の不足が商店街組織の崩壊に追い打ちをかける。全国の商店街における理事長や幹部の平均年齢は、60代~70代で、在職年数は長期化している。
 このままの体制では、事業実施主体が、自らの手でにぎわい活動を行うことが困難な状況となっている。そのため、数々の商店街がイベント事業者などに商店街活動を委託し、商店街店主自身が販売促進としての活動を行わない商店街が増えつつある。
 その結果、補助金の切れ目が事業の切れ目となってしまい、補助金がなくなったことでイベント事業者が撤退した後、商店街には事業の運営ノウハウが残らず、事業費の負担金を解消できる事業活動を行うことが困難となった商店街が散見される。このような形での商店街活動は、結果的に補助金依存から抜け出せない体質を生み出す恐れがある。この補助金依存の体制により、次世代の担い手の発生のチャンスを失い、商店街組合を解散させた街区は後を絶たない。
 外部の事業者のみに頼った商店街活動は、地域内に「人的・物的資産」が何も残らなくなってしまい、ひいては次世代の地域の生活基盤を生み出す原動力さえ奪ってしまう恐れがある。

(2)「商店街経営」を実現する評価モデルで崩壊構造から脱する
 地域商店街が存在しなくなれば、買い物難民の日々の対応困難、地域の伝統事業の滅失、生活拠点としての利便性が損なわれ、地域機能の消失に繋がりかねない。
 私は、商店街と地域行政とを診る立場から、商店街の機能継続は必要と考える。地域と住民のニーズが変わっていくのであれば、それに合わせて商店街も変わらなければならないと考える。
 しかしながら、「変わる」ベクトルを持とうとしても、現在自らの地域がどのような状況にあり、何を改善していけばよいのかを測る方法はこれまでの商店街支援の現場では十分に存在しなかった。
 本論文では、私のこれまでの数々の経験を活かし、「稼ぐ商店街」となるための将来的な収益可能性を導き出す指数とともに、それを受ける行政職員がそれを評価できるモデルを提案する。
 商店街はもっと経営できる。着実な現状把握と改善要素の抽出から将来の可能性を見出す。

3.評価しきれない行政の限界
(1)なぜ行政機関は適正な施策を打ち続けることができないのか
 区市町村では、商店街施策などの行政事業の実施にあたり、予算当局へ提出する資料として「事務事業分析シート」を作成し、施策の説明責任を果たす機会が多い。しかし、この分析シートでは、大枠の事業ごとの分析のみで、個別の商店街施策の効果測定までは行わないことが多い。
 たとえば、荒川区のまちゼミ(街なか商店塾)は平成30年度で第12回目を実施し、現場の商店主たちのなかでは、より若い店主達による運営主体の改善、産業振興課では、区予算を使った実施の見直しなどを検討しつつあるが、事務事業分析シートではその姿を確認することができない。
 個別の商店街とその事業に対する効果測定ができなければ、商店街が必要する事業についての詳細な説明責任を果たすことができない。これでは、効果が十分でない既存事業が見直される機会が少なく、かつ新規事業を企画する際の障壁が高くなってしまうと感じる。
 商店街の実情把握のためには、個別の商店街の特性とともに、既存事業の継続是非の実情把握と、新規事業を行うに足る、ニーズ把握を果たせる評価基準を設けるべきであると考える。

(2)実施プロセスで大きく異なる事業成果
 上記の荒川区街なか商店塾は、私が当事業の企画形成過程をモニタリングしていくなかで、近隣区で開催されたまちゼミと比較し、大きな成果の違いが見えてきた。(平成30年9月時点調査)

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 荒川区は、東京23区内第一番に岡崎まちゼミの会の公認のまちゼミを開催した。その先駆者であり、手探りで行われていた部分が当初は多々あったことは想像できるが、後発の北区まちゼミが、第2回開催時点で同規模以上の成果を出したことに驚いた。
 私は、この違いの要因は「事業の実施世話人の育成プロセス」にあったと考えている。

(3)行政が商店街事業の効果を深くとらえるためには
 上記事例から考えられることは、他事例でも挙げられる。私が港区の某商店街において、まちゼミのトライアル事業の企画を支援した際に、まず成果として見えたのが、このような自主企画を行いたいと名乗り出る3人の若手店主達であった。
 この時に私は、実施した事業が直接的に売上向上につながる前に、まず人材の発掘・育成に繋がったことを強く感じた。投下された補助金等予算が、いかに事業をつくり、またそれが人材を育成したか、その形成プロセスを見ていくことが商店街経営を判断する指標としても重要と感じた。

4.稼ぐ商店街を診る指標―「商店街収益可能性指数」7p-資料3.jpg

(1)商店街で「稼ぐ」という認識を付与
 平成29年に経済産業省における有識者の検討会、「新たな商店街政策の在り方検討会」において、「稼ぐ」商店街という言葉が提起された。今後は商店街も持続可能性を展望するために、「稼ぐ」意識を持たなければ、立ち行かないという視点では、私も非常に同感である。しかしながら、この「稼ぐ」という視点は、売上に限らない数々の要素に分解するべきであると私は考えている。

(2)数々の支援現場の実例から抽出した指標の作成
 私は、これまで約8年間にわたり、商店街研究会における視察およびその結

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果に対する執筆、東京都協会地域支援部事業の総括、城北支部内の区商店街連合会、商店街連合組織の活動を多数見てきた。それらの事例から現場動向に触れた商店街数は100件を超えるものとなった。 それらの活動の帰納的手法での整理により、商店街が繁栄した経過に何があったか、効果的と思われた事業が今どのようになっているかを経過的に観察してきたことで、「長期的に『稼ぐ』源泉が生まれた商店街」を本事例の要素として抽出した。

(3)商店街収益可能性指数を構成する要素
 商店街経営を実現する上で、その収益可能性を表す要素は、以下の6項目から抽出した。
①店舗に直接的売上が反映する。(店舗総売上高拡大)
 まずは基本たる会員店舗の個々の売上が重要となる。事業を行っても売上への感度が全くない事業は、効果に対する疑問が多数出てしまう。
 今日の商店街はコミュニティの拠点としての位置づけも大きいが、それを支えるおのおののキラリと光る個店の原動力となる売上高動向について、さまざまな要素から把握することが求められる。
 本指数においては、商店街加盟店の売上高を判定し、以下のとおり評定した。

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 しかしながら、売上は商店街事業にとっては遅行指数であると考えている。すでに集客を終えている商店街であれば、即時的に効果が表れることを期待するが、それ以外の商店街にとっては、売上の基盤となる「個店集客」を街区や商店のネットワーク内で立ち上げなければならないからである。そのため、その経過に見えてくる、以下のような多面的な要素も含めて分析を行う。
②商店街加盟店が増え、商店街組合の財源が増える。(商店街事業準備金増加)
 商店街の加盟店が増えれば、自然と商店街財政が健全化されるとともに、新たな事業の担い手が生まれる可能性が高くなる。そのような収益と人材が生み出される源泉の要素から、加盟店の拡大は重要である。本指標では、加盟店数について、以下のとおり評定を行った。

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 この逆に、加盟店が減り、財政が困難でも、イベント事業者に動かされ、更なる借金を抱える「ゾンビ」的経営を強いられている商店街も存在する。このような悪循環に陥らないように、自身のエリアの地域性を見据えて、今日的な商店街区のネットワーク化を行い、街区を拡大しながらも、地域商店街の経営者にとってのメリットが循環する商店街組合を作っていく必要がある。

③地域内人材が発生する。(自主活動世話人数の増加、男性・女性担い手の拡大)
 多くの商店街事業は、商店街会長1人か、2、3人でしか商店街活動を行っていないというのが今日の実情である。これでは、そのトップの交代の際に、急に商店街事業の担い手が全滅してしまい、商店街組合がなくなってしまうという事態になりかねない。そういった視点から、地域内の将来人材が生まれる要素を見据え、数々の商店主にチャレンジさせる機運を醸成させていく必要がある。本指標では、地域内人材の発生について、以下のとおり評定を行った。

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 既存の商店街会長等に向けて、若手店主の自主活動を重んじるような啓発も重要な要素がある。そのような動きによって、数々の若手が意見を言いやすい雰囲気が一度生まれれば、次々と人材と事業が生まれる要素が発生する循環が生まれやすくなる。

④地域外人材を獲得する。(課題をこの地域で解決したい、アーティスト、NPO、芸術家等)
 地域商店街事業は、商店街だけのものではない。地域に存在する施設、学校、地域住民などからもその担い手は構成される。そのような人材は、地域に協力したいという「貢献意欲」があっても、「商店街組合はどういうものかわからず近づけない」という不安を抱えていることが多い。その結果、なかなか地域のさまざまな主体が連結するきっかけが多くない状況にある。地域をコーディネートする中小企業診断士にとっては、この指標を分析し、そのネットワーク化に貢献することには大きな期待がされている。本指標では、地域外人材の獲得について、以下のとおり評定を行った。

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⑤地域外連携が深まる。(統一地域特性の魅力向上、地域発信力向上、共同集客の実現)
 単会の商店街のみが地域の色を構成するわけではない。当該商店街の最寄り駅や統一的な街の成り立ちによる周辺地区の状況は、来街者にとっては同じ商店街の特徴として捉えられやすい。地域外の連携が高まり、統一的な地域特性の演出や地域来街者の広域からの集客が実現することで、自身の商店街にとっても更なる好循環が生まれやすい。
 本指標では、地域外連携の深まりについて、以下のとおり評定を行った。

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⑥地域外資本を獲得する。(大学、病院、図書館、保育園施設等誘致)
 商店街事業は、事業の実施場所確保や方法、広報手段で既存の資産のみを活かしているだけでは、近年では十分に協力者が得られない状況にある。施設はもっぱら外部的要因であり、コントロールが不能と思われがちであるが、地域内には事業の連携体となりうる主体が多く存在する。
 たとえば20年以上商店街に隣接している飲食系企業が、地域の若手店主の呼びかけがきっかけとなって、初めて地域商店街内でグルメイベントを実施するなどといったことも発生している。
 本指標では、地域外資本の獲得について、以下のとおり評定を行った。

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5.「行政ビジネス」を継続的に稼働させる効果指標―行政内商店街評価基準の策定
(1)これまでの行政の商店街評価手法の限界
 行政の産業振興部門は、投下される予算をいかに最大限に活用し、いかに地域内活性化と賑わい創出を実現できるかが求められている。しかし、説明責任を全うする一方、数多の現場に自ら足を多数踏み入れることには限界がある。そのため「何が成功か、成果か」という視点に確たる自信を持ち、長期的に産業施策に携わる機会をもてる行政職員は多くはないのが現状である。

(2)説明責任を果たす効果測定基準の必要性
 行政活動は投下された税金によって担われることから、住民と議会への説明責任が求められる。その前提として、予算原案として組み込む際の財務当局への適切な説明が求められる。
 評価軸のない施策は、効果への説明が十分に全うされず、その結果、必要とされる予算が確保できなくなる恐れもある。事業の効果が明確に説明できるよう、産業振興部門の職員は継続的な効果測定軸を持ち、支援する商店街自体とその実施事業への説明責任を果たす必要がある。

(3)資金-事業-人材軸評価モデル10p-資料5.jpg
 従来の商店街事業の評価手法である、通行量、来街者の動向把握のみでは、今後の商店街事業の効果測定に限界を迎えてきていると感じてきた。私は数々の現場で葛藤し考えた中、関東大震災後から東京の復興計画に寄与した、後藤新平の言葉から由来されるとも言われる、この3軸の言葉から違和感を解消することができた。
 「資金」「事業」「人材」の3軸である。財産だけを遺しては、担い手が十分にその財産を投資できない。結果的には想いのない事業により、財産を散財させてしまって事業も人材も育たない悪循環に陥ることもある。しかし財力がなければ、事業を継続できなければ、優秀な人材は育てられない。この言葉を要素に、3軸の循環モデルを評価項目とした。

(4)評価モデルの要素分析
 以下に、実際に提案する行政内商店街評価シートを掲載して説明する。このシートでは先述した、商店街収益可能性指数と連動を図り、その要素となる大要素の6項目について、個別施策の目標と達成度合いを暦年で計測している。
 商店街の内部的動向の変化があり、資金-事業-人材の好サイクルに繋がる要素があれば、この成果指標から把握することが可能となり、より商店街の個別動向の把握が可能となる。
 この評価シートは、区市町村の情勢に応じ、要素をカスタマイズして活用することも可能である。

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①資金

 支出された資金によって行われた事業が、どのような人材においてどのように担われたかを審査する。

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 一過性の要素の高い外部事業者を中心とした事業ではなく、人間関係の構築された地域内の実施主体によって担われているかをチェックする。また、支出された資金により行われた事業が商店街の体質改善にも貢献したかをチェックする。
②事業
 事業の企画内容が今日の消費者ニーズに適合している事業であるかを審査する。経年的に行われていた事業が今の消費者ニーズに合わず、費用対効果が出ていない可能性を検討する。
 また、事業が商店街の地域特性を踏まえたターゲットを想定した事業になっているかを審査し、地域住民により必要とされる新たな事業企画を促進する。
 さらに、実施事業が一部の商店主の満足に限らず、多くの店主の満足を満たした事業になっているかを確認する。この満足は地域内の関連団体の満足も含め、検証することが可能となる。
③人材
 実施された事業が次の担い手を生み出したか、事業実施の担い手にとっての成長過程を審査する。この成長が新たな事業の企画アイデアを生む源泉で、将来の商店街経営の基盤となる。
 また、事業実施の担い手が地域内外の共同参加者を生み、限定された人材のみで事業を保有し続けていないかもチェックし、商店街事業が将来的に引き継がれやすい環境を構築する。

6.終わりに-商店街と行政が共走し、商店街が地域の価値を創る「行政ビジネス」で稼ぐ
 これからの商店街は、互いを守り合う平等意識だけでは生き残れない。しかし、地域に必要とされる価値、機能を果たせる店舗の集合体であれば、これからも商店街は生きてゆけると考える。
 本モデルにより、商店街の自活能力を伸長させることができれば、行政がかつて直接行っていた公益的事業や、地域の今の困りごとに対する解決策を「行政ビジネス」として見つけ、収益事業とできる。商店街と店主は地域に寄り添いながら、時代に合わせて悩みに応え、自主財源を確保することが可能となる。(放置自転車対策、子ども食堂、民間交番、保育・喫茶一体空間整備など)
 地域ニーズを新たな価値に変えられれば、「稼ぐ商店街」を生み出していくことは可能である。
 また、行政が時代に合わせ、精度をもって事業評価をできなければ、地域のニーズに合わない施策が生まれかねない。それに気づかないまま中小企業診断士が施策活用をしてしまえば、知らぬ間に中小企業診断士自身が地域と行政の意識のギャップを広げる悪循環を招きかねない。
 本支援パッケージで、商店街と行政が共同で地域の「稼ぐ」サイクルが生まれる支援をしたい。
 本論文の締め括りにあたり皆さんに厚く感謝申し上げるとともに、このツールを用いて、生き残ってほしいと願われる地域商店街が、残っていける支援ができることをお約束して今回の報告とする。

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