TOP >> コラム >>  特集 >>  「葬儀社診断ツール」の活用 -葬儀社への新たな貢献の方法-
コラム
最新の記事
月別の記事
2019.02.27
「葬儀社診断ツール」の活用 -葬儀社への新たな貢献の方法-

終活ビジネス研究会 三瀬 隆

1.はじめに
 葬祭業界といえば、どのような印象をお持ちだろうか。高齢化社会が進む中、葬儀の需要が増加し、「正直なところ儲かっている」という印象をお持ちのかたもいるのではないだろうか。しかし、実際の数値は希望的な予測を表していない。201903_01_1.jpg
 葬儀の需要を予測する上で、高齢者の人口を確認する。65歳以上人口は、2040年ごろまで増加し、その後も全人口の内、高い割合を維持していくと推計されている。また、2040年頃までは、死亡者数が増加するという予測であり(平成28年版高齢社会白書〔全体版〕年齢区分別将来人口推計より推計)、葬儀の機会という意味では、増加すると考えられる。葬儀社が活躍する場面は、過去と比較しても多くなっているといえる。
 一方、実際の葬儀件数と葬儀社数に注目すると、葬儀業界が持つもう一方の側面がみえてくる。2000年時点の葬儀社全体の売上高は約2,630億円、事業所数が553カ所となっている。2017年時点では売上高が約6,110億円と約2.3倍になる一方で、事業所数が2,361カ所となり、約4.3倍になるほど増加しているのである。つまり、葬儀社全体の売上規模は増加しているが、それ以上に競合が増加し、競争が激しくなっているといえる。

201903_01_2.jpg
 当研究会では、上記のような厳しい環境に置かれている葬儀社の助けとなるべく、葬儀社診断などの活動を続けてきた。

2.葬儀社に対する経営診断について

201903_02_1.jpg

 当研究会では年間4~5社の葬儀社において診断業務を行っている。その中で、葬儀社特有の経営課題や考慮すべき業界事情など、さまざまな情報を得ることができており、研究会内で共有することで経営診断の質向上にも努めている
 しかしながら、研究会に所属する診断士の中でも、葬儀社の診断経験が豊富な診断士とそうでない診断士がいるため、一定レベル以上の診断を行うことが、当研究会の課題でもあった。そこで、過去の診断で得られた情報を体系的に整理し、葬儀業界特有の課題を明確にすることで、今後の診断活動の助けとなるべく、この葬儀社診断ツールを作成した。本マニュアルを使用することで、経営診断の質向上とともに、より効率的かつ、柔軟な提案が可能になる

201903_03_1.jpg

3.葬儀社診断ツールの構成と活用方法
 当研究会で作成した葬儀社診断ツールは、以下の3部で構成している。
Ⅰ.葬儀社訪問前作業について ~「プロの提案」をするために~
 概要でも述べたように、診断の一定の機会を確保できている中で、従事する診断士の経験、バックボーン(独立、企業内など)は毎回多様な状況となっている。ヒアリング時に効率的に情報収集し、かつ、確認漏れがないようにするために、訪問前作業は非常に重要なフェーズである。葬儀業界の経験が浅い診断士でも自信をもって訪問に臨み、最終的に診断先企業に対する診断の「品質保証」をするうえで、訪問前作業は非常に重要になる。
(1)訪問前作業の具体的イメージ
 ① 訪問前基礎資料作成シートの作成
   本マニュアル「訪問前基礎資料作成シート」を活用し、訪問前に確認できる情報を整理する。内容は、資本金や従業員数・財務情報など基本的な項目に加え、葬儀業界特有の情報についても整理が可能である。葬儀社の診断で重要な商圏内の人口や死亡者数の取得についても本マニュアルでカバーし、容易に情報を取得することが可能である。このような基本的な情報を取得し、活用することで、事前にある程度のシェアなどを把握することを可能にしている。
 ② 訪問前基礎資料作成シートとアーカイブ
   作成された訪問前基礎資料については、診断実務に従事する会員に共有されることになる。当研究会では、全ての資料の保管・整理についてクラウドサービスを利用しており、全ての研究会会員が閲覧できる状態にしている。
   また、葬儀業従事者に対するマニュアル(テキスト)もまとめたところであり、それらを参照することによって、葬儀社の診断経験がまったくない者であっても、相当の知識をもって実務に従事することができる状態にしている。
 ③ 地域の死亡者数情報の把握
   201903_04_1.jpgターゲットエリアにおける死亡者数の年度別推移がわかれば、ビジネスボリュームの傾向がほぼわかる。この情報はReSAS(https://resas.go.jp/)を利用することで簡単に入手できる。ReSASのメニュー「人口マップ」を用いると全国の市町村の1994年から2016年までの年別の死亡者情報をCSVファイルの形で得ることができるため、表計算ソフトで2次加工することによりターゲットエリアの死亡者数推移を求めることができる。
   jSTAT MAP(https://jstatmap.e-stat.go.jp/)はターゲットエリアを図示するために非常に役立つ。jSTAT MAPのメニュー「統計地図作成」を用いるとターゲットエリアの地図を簡単に得ることができる。(右は川越市の地図)
(2)事前準備の効果
 売上、営業利益、従業員一人あたりの売上、商圏におけるシェアほか、対象企業に関する基本的な経営情報と過去の診断事例を把握し、メンバーで共有することが可能になる。
 一般的に葬儀社は商材(葬儀プランなど)と従業員の雇用形態、販売チャネルが多様なため、対象企業ごとに比較することが困難である。シートの作成により、当研究会が蓄積してきた他社のデータとの比較も容易になり、訪問前における予測課題の抽出を効果的に行うことができるようになる。
 主な調査項目は以下となる。ヒアリングの中でより踏み込んだ情報を得るためにも、可能な限り情報を把握しておく必要がある。
 診断業務においてもっとも重要だと考えていることは、葬儀社診断の経験の無い診断士が業界と対象企業の状況について俯瞰できるようになり、自信を持って診断に臨むことが可能となることである
  ○財務諸表より売上状況などの数値データ
  ○パンフレットやHPから葬儀プランなどの商品・サービス情報
  ○商圏内の死亡人口や居住者の年齢情報など
 
Ⅱ.葬儀社訪問時のヒアリング、および情報の整理について
(手順1)限られたヒアリング時間の中で、改善すべき要望・課題を確認
 葬儀社診断ツールでは、葬儀社特有の項目を含めたチェックシートを準備している。併せて、事前準備で用意した資料も活用し、ヒアリングを実施する。項目は、一般的に経営診断で確認される会社の成り立ちや目指すべき姿から始まり、数値情報や営業指標などに加え、葬儀社診断で重要である地域性や葬儀プラン・オプション、地域組織と関連するイベントなどの営業情報、人材確保や育成についてなど多岐にわたる。葬儀社が抱える課題を踏まえ、直接的な営業が難しい中でいかにPRし、地域に密着するかといった営業方法、人材確保が難しく、また特殊な接客が求められるなどの人的な観点を特に意識し、ヒアリングにおいて十分かつ重要な情報を引き出すように考慮している。
 また、必要に応じて従業員からのヒアリングも想定している。のちの提案作成につながるが、現場がどういう状況であるかを正確に把握することが良い課題解決提案になると考えている。
(手順2)目指すべき姿と現状のギャップの確認
 経営層、従業員を含めたヒアリングから得た情報や葬祭ホールなどの施設の状況、実際に活用しているチラシや実施しているイベントのデータと目指すべき姿とのギャップを診断士として第三者的な視点で確認することが次の段階である。本ツールでは、現状との差異を整理できるようテンプレートを整えている
(手順3)重点課題の整理・目標値の確認
 手順2までの理想とのギャップをもとに、何を重点的に改善していく必要があるかを検討する。大まかな流れや考え方は一般的な経営診断と大差ないが、葬儀社特有の状況(たとえば、施行単価の下落、葬儀の多様化への対応、など)も存在する。本ツールでは、これら葬儀社特有の状況の整理も進んでいる。
 
Ⅲ.訪問後の提案策定
 ヒアリング後の情報整理から引き続き、個社ごとに適した提案作成へと移っていく。
 事前調査/ヒアリング・確認が葬儀ビジネスの課題とどう結びつくのかを葬儀ビジネスの課題から見ると下図のようになる。

201903_05_1.jpg

 典型的な葬儀ビジネスの課題は、葬儀の簡略化/多様化への対応、低価格葬儀への対応、Web受注業者との協力、である。この典型的な課題に加え、葬儀社独自の課題を加え、提案における課題認識が作成される
 なお、この課題の解決提案においてとても重要になるのが、葬儀業は地域密着ビジネスであるということである。マーケティングは、地域においていかに認知され、葬儀サービスを利用してもらうのかに注力する活動がメインの提案となる。また、ランチェスター戦略のシェアの基準値を用いることにより、葬儀社のシェアの市場評価を得ることができ、シェア目標の提案に役立てることができる。また、葬儀の簡略化/多様化などに対応する施設の在り方や、単価アップ対策なども、提案の骨子となる。
 本ツールでは、過去の葬儀社診断から得られたノウハウとして、葬儀社が抱える課題に対応する提案集を用意している。可能な限り、過去に行った提案とその効果も持ち合わせるようにしているため、取り組んだ際の想定を行うことが可能となっている。個社の提案づくりでは、過去のノウハウを参考に、それぞれの状況にあったカスタマイズを行うことにより、経営診断の高品質化が図れる

4.葬儀社診断ツール活用事例
 当研究会では本ツールをすでに葬儀社診断の場で活用している。
 当初想定していた生産性の向上や作業の標準化、提案の高品質化の側面から、わかってきたことを紹介する。
 まず、事前情報収集などのツールはうまく機能している。これまでは、基本的な人口統計の情報など慣れていない会員では作業に時間がかかっていたが、本ツールを活用することで、短時間で情報収集・整理が可能となった。同じように財務分析の面でも作業の標準化、生産性の向上が達成できているといえる。
 一方、提案作成の高品質化の面では課題も見えてきている。特に経営戦略や営業戦略の面である。葬儀社の一般的な課題や状況は把握できているにしても、個社ごとの状況の違い(たとえば、経営戦略と葬儀施設のアンバランスに対する葬儀施設の転用の提案)を本ツールではカバーしきれていない面もある。しかしながら、過去ノウハウから作成した提案集は活用できており、一定の品質向上には寄与していると考える。
 提案作成においては、個社に合わせたアイデアが必要であるが、このアイデア出しこそ診断士に求められる能力である。本ツールを活用することで、標準化できる作業を洗い出し、その部分の生産性向上は達成され、そのうえで、診断士が診断士たる高度な経営改善策の検討に時間を使い、診断士の価値を上げる提案に集中化できるツールとなっている
 
5.ツール利用の総括

201903_06_1.jpg

 また、このツールを他の診断士が使うには、提案テンプレートから、葬儀業界の典型的な課題と解決策を把握したうえで、事前基礎資料とチェックリストを用いて顧客インタビューを行う。これにより、顧客の持つ典型的な課題と顧客固有の課題を認識できる。典型的な課題に対する解決策はすでにあるので、顧客固有の課題の解決に注力できる
 実際に、このツールを用いて行った診断では、葬儀業界の診断が初めてのメンバーが提案テンプレートにより他のメンバーとの業界知識のギャップを埋めることができるなど、効果を実感することができた。
 
6.今後の展開
 葬儀社診断ツールは2018年4月に完成し、その後の当研究会の葬儀社診断で利用している。しかしながら、より葬儀社の経営に資するためにはさらなる改善が必要と考えている。葬儀社診断ツールを、今後も継続的に診断に活用し、その結果を診断ツールに反映し、ブラッシュアップを図っていく。そして、経営診断の質向上・効率化につなげて行く。
 当研究会は、今回紹介した葬儀社診断ツールをはじめとして、さまざまな取り組みを行っている。今後も葬儀社のみならず、葬祭業界全体に寄与するために活動を行っていく所存である。

TOP