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2019.03.30
承継者の意識改革および計画実践を支援し迅速に成果を上げる

中小企業再生承継(CSS)研究会

筒井恵、柳澤智生、高橋昌弘、植木康之、松本誠司

1.はじめに
(1)研究会のミッション
 金融再編の新たな局面のなかで、大企業→中堅企業→中小規模企業での「再編・承継・再編(M&A、リバイバル)」の支援ニーズは重要性を増している。新陳代謝を実現するため、事業再生&承継は国を挙げたテーマとなっている。
 企業再生&承継のスキーム、プロセスは激変し、ケースによって取り組み方も複雑化している。本研究会では、ここを深耕し、実践している。

(2)研究会の目的
 再生承継支援は、企業の利益体質の革新を実現して、成果を出して初めて成功と言える。
そのためには、的確な事業性評価に基づく、再生計画・経営改善計画の立案、早期採算の取れる革新的なアクションプランの策定、アクションの実行支援と成果評価が必要となる。
 本研究会では、外部講師(関係諸機関、専門家)、内部講師(会員の中小企業診断士)を招いて、実践事例を学びながら、会員の「現場力」を養う活動に注力している。

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(3)研究会内での実践チーム(CSST)の編成
 平成29年度より、代表である筒井恵会員のもと、希望者を募って実践チームの編成がなされた。再生承継支援経験の浅い会員にとっては、①企業再生支援の実践、②再生支援策のポイントを現場でつかむ、③計画提示から実践支援まで成果を確実に出すプロセスを踏む、④企業の成果を上げることで、顧問先として長期的に取り組む、⑤事業承継・M&A・リバイバルの経験を積む、といった「緊張感のある、実践の場」を経験できる機会となっている。

2.承継を含めた事業性評価
 平成29年7月、某企業(T社)の先代社長から事業承継を合わせて支援依頼があった。本研究会の方向性と合致するとともに、これまで培ってきた知識を活かすことができると判断し、T社に対し支援を実施するに至った。

(1)事業概要
 T社の事業概要は以下のとおりである。

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(2)取り組みのきっかけ
 取り組みのきっかけは、先代社長が従前から続いている赤字決算の継続を懸念し、廃業するべきかどうかの経営診断を実践チームに依頼したことにある。

(3)経営改善計画提案の実施
 可及的速やかに営業利益を出すことが最重要であり、事業革新の可能性を承継者(長男)へのヒアリングで見出した。経営改善計画立案にあたっては優先的に営業黒字化に取り組むことを決定した。
 具体的には、①事業承継を踏まえた社長・承継者の意識改革、②人的リソースの効率向上、③稼働率向上のための具体的対応策を提案することにした。

3.実行支援

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 実践チームによる経営診断を行い、先代社長および承継者に事業性評価および経営改善計画の結果報告をおこなったところ、取り組みに大変理解を示していただいた。経営改善計画には、承継者の意思を盛り込み、組み立てたことも功を奏した。
 この結果報告を踏まえて、先代社長は事業性評価で赤字解消の目処が立ち、承継者である長男に全面承継する決意を固めた。承継者である後継社長(以下、「社長」)は経営改善計画に取り組むことを決意し、実行支援に対して引き続き支援を依頼するに至った。実践チームは、承継者が腑に落ちる計画を組み立てて実行する重要性を感じた。

(1)計画・実行支援スケジュール提示
 平成29年9月以降、社長との打ち合わせを行うため毎月の頻度で訪問した。その際、社長以下従業員同席のミーティングを開催して具体的改善計画内容の提示と進捗チェックを行うとともに、社長・従業員とのコミュニケーションを図り、情報の共有と意識改革を図った。
 その後、現在に至るまで継続的な支援を実施中である。

(2)現場でのコミュニケーション醸成
 実行支援における収益・費用管理を行うにあたって、ホテルの入退館記録や食事のオーダー記録をノートに手書き記入していたので、手書きからデータ化への移行を推進する必要があった。
 現場の従業員は当初我々に対して「社員をリストラする中心人物」と思い警戒し、無視していた。
 現場の従業員を巻き込んで計画を推進しない限り実現は困難であることが明らかであることから、いかにして現場の従業員を巻き込み経営改善を実行することができるかを優先課題とした。

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4.従業員のやる気を引き出す取り組み=ITによる経営分析を通じて
 現状を打破し現場の従業員の協力を得てIT化へ移行するかを模索した結果、現場で従業員とのコミュニケーションを密にすることとし、コミュニケーションを通してIT化への理解とコスト意識を醸成させることに取り組んだ。
 
(1)従業員の不安解消
 従業員に対しIT化によってどういう内容が明らかになり、自分たちにどう関係するのかを実際のPC入力テストで示した。
 また、データ入力の理由、入力方法のレクチャーを継続して行い、改善点・不明点や不安を都度ヒアリングし、その場で対応できるものは即対応して従業員の不安の除去を図った。
 
(2)従業員の積極的な取り組みサポート
 従業員によるPC入力結果をグラフで提示して、日々の業務の収益と費用を見える化した結果、コストに関する従業員の意識と現実とのギャップを認識するに至った。
 従業員はその結果、自ら業務改善提案を提示し、コスト削減に向けた取り組みに真剣に向き合うようになった。
 具体的には以下のとおり。


 ①キーパーソンである従業員は、PCスキルが不十分で、アナログ(ノート)データのエクセル入力に抵抗を示したため、入力しやすいフォーマットを作成してデモを実施する等の試行錯誤を繰り返した。
  その際に従業員から以下のような意見があった。
   ・「ノートに手書き記入するだけで大変なので、PC入力する時間がない。」
   ・「PCを使っていて何かあったときに回復処理が分からない。」
   ・「お客様から食事の注文明細を聞かれるが、データだとお客様へ迅速に回答できない。」
  これらの従業員の意見に真摯に向き合い、改善方法を提案し実行していった。


 ②訪問の都度粘り強いデータ入力支援を続け、自発的な改善行動(データの入力)を促した。従業員は、最初はテスト入力をすることすら拒否していたが、2回目訪問時にテスト入力をしてPCの操作を実体験した。


 ③3回目の訪問になってようやく日々の入力を開始するに至った。4回目の訪問では、従業員から「過去にキーパンチをしていたので入力は得意である」とのオープンな言質をとるに至り、さらには、前向きな改善提案を意見するようになり、積極性・協調性を発揮するようになった。
  積極性の面では従業員の行動がコストを意識するようになり、以下の行動を取るに至った。
  ・従業員は入社以降初めて仕入れ業者と仕入れ価格について交渉し、仕入れ価格を下げることに成功した。
  ・従来は仕入業者が納品した食材を使用していたが、従業員から仕入れ業者に対して食材を選んでコストダウンを図りたいと要求し、仕入業者から価格差のある複数の食材を用意してもらい、実食して味と価格を比較検討してから食材を選ぶようになった。

<従業員によるPCデータ入力結果をグラフで提示>
*従業員が日々の業務量をデータ入力した結果、前年同月比較が可能となった。その結果、6月・7月・8月期の売上高と粗利に関して前年同月比較のグラフを作成することができるようになり、経営状況の見える化が実現した。

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5.具体的な改善効果
(1)定量効果
 定量効果として、計画0期目は早くも営業利益黒字化を達成した。1期目も増収増益で決算を終えている。2期目以降も引き続き増収増益を見込んでいる。
 今後も永続的に増収増益を確保できる体質への改善を図るため、経営改善計画の実践に取り組んでいる。

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(2)定性効果
 定性効果として、社長・従業員の行動が自律的な行動へと変化した。この結果、社長と従業員との意識の一体化、チームワークの醸成、やる気の向上が見て取れるようになった。
 ①(社長による)シフトの効率化企画・実行
 ②(社長による)食事アイテムの絞り込み、提供価格の値上げ、仕入先との値引き交渉
 ③(従業員による)食事新メニューの開発(新規、規格変更)
 ④(従業員による)プロモーション発案(日別宿泊者別分析による提供食事メニューの検討)

(3)成功要因
 主な成功要因として以下の3点を挙げることができる。
 ①社長がビジョン・目標を持ち、チームの実践を誘導することで手応えを感じた。
  先代社長のもとで勤務していた従業員と一体で経営を推進するようになった。
 ②従業員が数字に基づいた仮説・検証を持って行動したことでコスト削減が実現した。
 ③IT化に対する意識改革により入力する意味を従業員が理解し、50代女性がきっちり情報を作り上げることで、結果のリアルタイム見える化が実現した。

6.今後の予定
(1)本事例の活用
 実践チームとして、T社は最初の取り組みである。本事例での経験をベースに、計画策定から、運営支援までのツール化・ルーチン化を図っており、支援実績を積んでいる。支援ツールも充実してきており、早期営業黒字化を実現していく。

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(2)研究会が目指す方向
 今後の研究会運営についても、月例会での事例研究を進める一方で、「実践の場」を設ける研究会として、会員の中から現場での実践支援人材を育成する。成果を出せるチーム編成により、年間5社の支援目標を掲げて取り組んでいく。

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※取り組んだ案件については、顧問先として長期的に取り組む

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