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2019.07.31
人を大切にする経営こそが真の経営

人を大切にする経営研究会 会長 才上 隆司

1.はじめに
 人を大切にする経営研究会を、小林勇治前会長が立ち上げて3年になる。小林前会長は、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞(下記)の審査員を8年間務められた経験から、中小企業診断士が学ぶべき、真の経営はここにあるということで、満を持して立ち上げられた研究会である。今年から中小企業診断協会の米田英二会長が審査員に就任され、毎回出席し、支援していただいている。
 この3年間、メディアにも取り上げられ、人を大切にする経営を実践している優秀な経営者に登壇いただいた。経営者から生でお聞きする話は、時には涙をさそうこともあり、「研究会メンバーだけで聴くにはもったいない」講話ばかりであった。いままで聞いた経営者の講話の中から、人を大切にする経営についての感想やポイントをまとめてみた。

2.人を大切にする経営とは
 元法政大学院教授 坂本光司先生は、会社経営とは、「5人に対する使命と責任」を果たすための活動である(日本でいちばん大切にしたい会社1より)と言われている。201908_01_01.jpg
 すなわち
  ⑴ 社員とその家族を幸せにする
  ⑵ 外注先・下請企業の社員を幸せにする
  ⑶ 顧客を幸せにする
  ⑷ 地域社会を幸せにし、活性化させる
  ⑸ 自然に生まれる株主の幸せ
 「五方好しの経営」を実践している会社こそが、日本でいちばん大切にしたい会社である。その会社の目的は、社員の雇用を守り継続することであり、売上や利益は手段にすぎない。

3.日本でいちばん大切にしたい会社大賞201908_01_02.jpg
 人を大切にする経営学会(坂本光司会長)が事務局になり、人を大切にする経営すなわち「正しいことを正しくおこなっている」優秀な企業を毎年表彰している。中小企業庁、厚生労働省、中小企業基盤整備機構が後援しており、今年で9回目を迎える。当研究会は、日本でいちばん大切にしたい会社大賞の受賞企業の経営者の方々をお招きし、人を大切にする経営の取組みをお聞きしている。

4.人を大切にする経営の特長
 3年間の人を大切にする会社の講演の中から、特長を挙げていく。
(過去の主な講演者と経営理念。)なお、ご役職は講演当時の場合があります。

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⑴ 人を大切にする会社は、理念経営を徹底している。
 企業のホームページを見ると、ほとんどの会社が経営理念を掲げている。経営理念とは、その企業の存在目的や使命を簡潔に表現した文章のことである。企業によっては、「社是」「社訓」「綱領」「クレド(信条)」などと掲げている場合もある。しかし、この経営理念を社員全員が唱和できる会社、実践している会社は多くない。登壇いただいた「人を大切にしている会社」は、経営者が自ら理念に基づく行動を実践し、自ら徹底的に浸透するよう教育をしている。登壇いただいた会社の主な経営理念は前頁の通りであるが、おのおのの会社が長年時間をかけ、築いた理念は、何のために会社は存在するかを明確に示している。税理士法人古田土会計の古田圡代表によると、経営理念は、社員に「やりがい」(と自分のために)「生き甲斐」(人のために)を持たせるためにあると言われている。経営理念に基づく行動は、社員を成長させ、会社を成長させている。たとえば、茨城県でレストランチェーンを展開する、㈱坂東太郎の経営理念は「親孝行」であり、新入社員の初任給時に、両親に親孝行することを宣言させ、プレゼントを贈ることを徹底している。
 また、㈱ふらここは、時代のニーズに調和した日本の伝統文化を提供することを大切にし、若い女性社員に商品開発を任せ成果を上げている。このように人を大切にする会社は、いい経営理念で、いい会社へと成長させている。

⑵ 人を大切にする経営者は、逆境から会社を成長へと導いている。
 ㈱日本レーザーの近藤会長は、リストラやリーマンショックの危機から、25年間黒字経営に導かれている。危機を乗り切るために必要なことは、身の回りに起きることは全て必然と考え、人のせいにしないことであると述べられている。㈱坂東太郎の青谷会長は、1人の従業員の交通事故をきっかけに、それまで売上の8割を占めていた出前を廃止し、売上至上主義から、店舗を中心とする業態に一新し「親孝行」の経営理念のもと、社員を幸せにする会社へと変貌させている。
 また古田土会計の古田圡代表は、バーベキュー帰りの社員の交通事故をきっかけに、「一生社員と家族を守る」と経営理念に書き、つぶさない経営を誓っている。㈱中央歯科補綴研究所の木村社長は、売上至上主義の野心経営の行き詰まりから、社員満足度の高い歯科技工所の「志経営」へ、「健康・笑顔」企業へ変革させている。
 このように、人を大切にする経営者は、危機をきっかけにして会社を変革へと導かれている。

⑶ 人を大切にする会社は、社員のモチベーションがきわめて高い。
 ㈱日本レーザーの近藤会長は、著書「社員に任せるから会社は進化する」の中で、社員の成長が会社の成長であるという考えのもと、大幅な権限移譲により、社員の自立を促進し成長させている。透明性のある評価、報酬、風土等の制度、仕組みを導入し、社員のモチベーションを上げている。そして 「会社から大切にされている」実感を持たせることにより、非常に火事場のバカ力が出るのだと話されている。
 また人財教育コンサルティング会社のアチーブメント㈱の青木社長は、グラッサー博士(米)のビジネス選択理論に出会い、「外的コントロールでは、人は動かず、自らの変革で道を開く」という発見から、人が育つ会社経営(内的コントロールで、働く社員に育てる、他人と過去は変えられない、自分と未来は変えられる等)を実践するとともに、セミナー、教育で、中小企業の経営者に対して、コンサルティングを行っている。
 特定非営利活動法人Future Dream Achievement(以下 FDA)の成澤理事長は、5つのM:Money(報酬) Medal(表彰,研修旅行) Message (社長から熱い言葉)Mission(目標、役割の明確化) Mood(組織文化)が、モチベーションを上げる要素であるとして、実践されている。

⑷ 人を大切にする会社は、社員と情報を共有している。
 産業用自動機械メーカーのスズキ機工㈱の鈴木社長は、毎年経営計画書を策定し、基本方針、運営方針、数値計画、5年後の人財像等を情報共有し、全員で最も重要な道具として保有している。その結果、「絶対に止まらない潤滑剤 LSベルハンマー」というヒット商品を生み出している。静岡県で印刷・広告事業を行っている㈱吉村の橋本社長も、①目的と目標を明確にする、②やらないことを社員に示す、③ニーズと解決策を区別する、④アイメッセージを送る、等の現場マネジメントの徹底、すなわち社員とのコミュニケーションを重視している。

⑸ 人を大切にする会社は、女性が活躍している。
 雛人形作りの㈱ふらここは、女性活躍を推進しており、責任ある業務へ女性社員の配属や、子連れ出勤の自由等の女性が働きやすい環境の整備、時間限定正社員の導入等社員主体の制度、ルール構築に取り組まれている。新人の女性社員も活き活きと、人形作りに取り組んでいる。㈲原田左官工業所は、「3K職場」の代表事例ともいわれる建設現場において、若者や女性など多様な人材が活躍し、好業績を上げ続けている。

⑹ 人を大切にする会社は、障がい者にやさしい。
 厚生労働省が定める民間企業の障がい者の法定雇用率は、現在2.2%(平成30年4月現在)で、45.5人に1人以上の雇用を義務づけている。登壇いただいた、人を大切にする会社は、この数字をはるかに超えている。
 FDAの成澤理事長は、自らが視覚障がい者でありながら「大丈夫、働けます」という言葉のもと、障がい者等(10大採用)からニート・フリーター等(30大雇用)に至るまでの就労困難者に対し、支援をされている。
 ㈱ツバサ・翼学院グループは、障がい児に独自の教育手法を開発し、1人~2人の児童に対して1人の先生が教える、手厚い授業を行っている。
 少子化で縮小するランドセル市場で売上を伸ばす㈱協和は、肩に障害のある子供に、苦労して特殊な肩ひものないランドセルを通常価格と同じ価格で提供し、感謝されている。人を大切にする会社、人にやさしい会社は滅びないと、被災地に修理した1万個のランドセルを提供されている。「できるものを探し」「身の丈に合った支援を」「継続する」ことは、感動を呼ぶ言葉である。

⑺ 人を大切にする会社は、高齢者が働きやすい。
 講義していただいた会社のほとんどが、高齢者の定年制がない。町田で介護施設を運営されている社会福祉法人合掌苑は、定年制を廃止し、時短勤務、限定制正職員、時間給制度等高齢者の事情に合わせ、高齢者の働きやすい環境を提供しており、また高齢者を貴重な戦力として活用している。またランドセルの㈱協和は、会社都合で辞めさせたことは一度もなく、65歳を過ぎても希望があれば、いつまでも働くことができる。若松専務は、「あなたでなければできない仕事があり、あなたが必要です」とやりがいを持って働いていただいていると言われている。

⑻ 人を大切にする会社は、透明性、納得性の高い人事評価をしている。
 登壇いただいた人を大切にする会社は、社員とのコミュニケーションを重視し、経営者と面談を行っている。㈱日本レーザーは、経営理念に基づき、年2回総合評価を行っている。評価は、本人、上司、役員の3方向から時間をかけて面談を行い、透明性、納得性のある運用を行っている。特長的なことは、トップに対して異論を言える人を評価するしくみになっている点である。

⑼ 人を大切にする会社は、離職率が低い。
 介護施設を運営されている、社会福祉法人合掌苑は、人材不足に悩み、離職率の高い介護業界の中、離職率7%、月平均残業7時間、長期休暇(10日以上)年2回取得を実現している。その理由は、理事長が、業界では非常識ともいえる仕組み(障がい者雇用、シングルマザーのシェアハウスの開設、限定正社員制度、夜勤専従化等)等の介護経営イノベーションに取組み、職員がいきいきと働いているからである。IT業界では、離職率の高さが課題となっているが、自社ソフト開発を行っている、ゾーホージャパン㈱は、正社員比率は94%と高い。在宅ワークやスーパーフレックスタイム制導入(月間の勤務時間を満たせば、時間、場所は自由)等により、障がい者、育児休業者も継続して働ける環境づくりを進めており、定着率も高い。

⑽ 人を大切にする会社は、地域から愛されている。
 ㈱さくら住宅は、本社隣に「さくらラウンジ」を設け、地域住民に憩いの場として提供するなど、地域貢献も活発に行うといった活動を行い、住民に愛されている。おづつみ園 尾堤宏社長は、「超地域密着」というほど地域貢献を大切にしている。お祭り、地域公共イベントへの継続的参加やお茶摘み体験教室の開催を、春日部市内ですでに30年以上継続しており、地域にお茶の良さを伝え続けている。毎月第4金曜の特売「お茶2割引」は40年続いており、地域の名物となっている。いずれも「モノを売る」ことが目的ではなく、「コトを楽しむ」「思い出を作る」「季節を感じる」といったことを大切にしており、そうした取組みを通じて地域に愛され続けている。

⑾ 人を大切にする会社は、業績が良い。
 これまで3年間、人を大切にする会社の講話を聞いてきたが、1社たりとも業績の悪い会社はなかった。坂本会長も、関係する人々が所属する幸せを実感し、働きがいが高い企業で、業績が低い企業は歴史上見あたらないと述べられている。人を大切にする会社を増やすことにより、経済の好循環が期待できる。

5.中小企業診断士の課題
 坂本会長は、経営者に対し、「『業績向上の手法』『コストダウン手法』等の経営のやり方を教える前に、『企業のあり方』『そもそも論』を教えなければならない。また企業経営の最大の目的・使命は、業績を高めることでも、ライバル企業との勝ち負けを競うことでもなく、関係する人々の幸せの追求・実現である。」と述べられている。日本レーザーの近藤会長は、社長が変わらないかぎり、会社は変わらないとも言われている。
 人を大切にする会社への取組みは、経営者の意識改革にあり、中小企業診断士のやるべき仕事である。中小企業診断士の役割は、間違った経営を行っている経営者に、いかに気づきを与えるかである。診断士が、人を大切にする会社の行っている取組みを事例として、説明しても、なかなか理解してもらえないのが現状である。さまざまな講話内容を、今後のコンサルティングに活かすことが、我々の課題である。顧問先の経営者に、研究会に来ていただき生の講話を聞いていただくのも一つの方策であると考えている。

6.おわりに
 第9回日本でいちばん大切にしたい会社大賞の表彰式が3月22日に開催された。今年も大賞を受賞された優秀な企業の経営者に講話をお願いしている。また坂本光司会長の著書「日本でいちばん大切にしたい会社」で掲載されている、㈱日本レーザー近藤会長、㈱坂東太郎青谷会長、徳武産業十河会長の講演も予定している。人を大切にする会社に興味のある方は、ぜひ本研究会にご参加ください。

参考文献:「いい経営理念が会社を変える」(法政大学院教授 坂本光司著他)、「日本でいちばん大切にしたい会社」1巻~6巻(坂本光司著)「理想の会社をつくるたった7つの方法」(坂本光司、渡辺尚共著)「社員に任せるから会社は進化する」「社員を大切にするから黒字になる。甘いから赤字になる」「ありえないレベルで人を大切にしたら23年間連続黒字になった仕組み」(近藤宣之著)「介護経営イノベーション」(森一成、渡邊佑共著)「大丈夫、働けます」(成澤俊介著)

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