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2019.09.28
地方創生に求められる中小企業診断士の役割

地方創生・グローカル研究会
一色 義直、木佐貫 正博、阿部 仁志

1.はじめに
 地方創生は、第2次安倍政権(2012年~)において、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的とした一連の政策である。2014年9月3日の第2次安倍改造内閣発足時の総理大臣記者会見で発表された。その中核である「まち・ひと・しごと創生法」は2014年11月28日に公布された。現在、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に係る第1期(2014-2019)の検証と第2期(2020-2024)の策定に関する会議が開催されている。
 地方創生研究会は20名の発起人(東京協会6支部)をもって設立、第一回研究会を2014年9月に開催し、以来、42回の月例研究会、2年ごとに地方創生連合フォーラムを9月に催している。昨年、地方創生・グローカル研究会(以下、「本研究会」)と活動実態に合わせ変更した。
201910_1.jpg この原稿を執筆する過程で41回の本研究会での発表テーマを分類すると4つに類型化できた。①中小企業(3件)...中小企業の取組紹介、②地域活性化(17件)...面としての地域の取組、地方創生の案件、③商店街(4件)...個店ではなく商店街に焦点を絞ったもの、④知識・実践論(16件)として中小企業診断士(以下「診断士」)にとって必須な知識やツールの紹介、講義・演習、および診断士の経験談などを対象にしたものである。発表件数から本研究会は地域活性化と診断士に求められている知識・実践論を両輪として取り組んできたことに特徴がある。補助輪として商店街、中小企業を取り上げている。

2.地方創生政策の背景:産業構造変化と人口移動
 地方創生は、人口急減と高齢化に関する人口ビジョンに基づき地方の総合戦略を策定し、地域における事業化を集中的に推進しようとする政策である。特に、地方では人口急減により地域社会の維持が困難となり、地方消滅が起こることも懸念されている。
 最初に戦後の産業構造変化と人口移動について概観する。終戦直後の日本における主な産業は第一次産業であった。朝鮮戦争特需をきっかけに重厚長大型の工業が復興・拡大、国内の需要増加、通貨安を背景とした輸出の拡大の波に乗った。当時の工業は労働集約型であったので、生産拡大にあたっては多数の労働者の確保が急務であった。そこで地方の一次産業に従事している人材から労働者を求めようと、地方にも多くの工場が立地した。
 重厚長大型産業の立地によって地方に多くの雇用を生むとともに、下請けとなる多数の中小企業も興した。さらに、これらの工場に向けたサービスと、増加する工場労働者とその家族に向けたサービスも地域の産業として拡大していった。その結果として、地方の人口が増加、経済が拡大していった。
 高度成長期には、オイルショックなどのインパクトを含む社会問題も挟むものの、地方としては順調に成長していった。ところが、1980年代の為替変動により、構造変化が始まる。1985年のG5おけるプラザ合意により、ドル安誘導が先進国において容認された。それにより急速な円高が進むこととなった。当時の日本の産業は、高い生産能力・品質に加え円安でもあったことからコスト優位性が高く、輸出に非常に強かった。しかし、急激な円高によりコスト優位性が損なわれ、奪われた。企業はコスト優位性を失った国内各地の工場を、集約し、海外に工場を移転するなど、収益確保対応策を取った。

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 工場の集約や海外移転により、多くの地方で工場が縮小、閉鎖された。工場が存在することにより発展した地方から、工場がなくなると下請けの中小企業も仕事がなくなり、従業員もいなくなりサービス業も仕事がなくなった。当然地方での雇用も減った。
 一方で都市部には国内に残る営業、事務、管理、経営等の業務が集約される。また、物流効率から工場も都市部に集約されることが多く、都市部には雇用が集中し、人口は維持、拡大された。地方では雇用が減少、都市部には多くの仕事と雇用が集中、多くの若年者が学校卒業後、都市部で就職し地方に戻らなくなった。地方の人口は減少し高齢化、地方消滅の危機が叫ばれ地方創生がクローズアップされるようになった。

3.地方創生に不可欠な「しごと」創出
 地方創生において「しごと」を増やす方法は、大きく2つの方向が考えられる。一つは地方の既存の事業者の再生であり、一つは起業である。
 既存の事業者の再生にはこれまで需要増加の市場環境で成長してきた事業者が需要減少という大きな環境変化に対応しなければならないという問題がある。下請工場は元請けの工場がなくなり、地域のサービス業においては、住民が減少、高齢化するという問題である。このような経営環境に適応するためにこれまで以上に高度な経営技術、マーケティングが求められ、事業再生というレベルで経営改革が求められようになった。
 地方での起業は、競争優位の源泉に地域資源を活用したビジネスモデルが想定される。地域資源を活用した事業化は6次産業化などが典型例であるが、こうした事業には課題も多い。魅力的な産品などがあっても地域内でしか流通していないのは、「調達できる量が少ない」、「時期が限られる」、「品質が安定しない」、「保存がきかない」など、取り扱いが難しい特徴を有していることが多い。そのようなものが多い状況で、新たに商品を開発して、生産、販路開拓、PRを行い事業化して成長させるには、高度な経営手腕、マーケティングなどが求められる。

4.「しごと」創出における行政の役割と限界
 地方で「しごと」を増やすには、既存の事業者の再生でも起業でも高度な経営、マーケティングが求められる。それを行政がサポートできるか、というとハードルが高い。行政で取り組もうとしても企画するのは担当者であり、経営、マーケティング等の知見が豊富でなければ、効果は限定的になる可能性が高い。また行政の事業は年度単位となっているため、短期的な成果が要求され、長期的な取り組みが難しいことも限界になっている。
 行政は地域の持続が最大のミッションとなるが、地方創生においては特に「しごと」を増やすことが鍵になる。「しごと」を増やすため、既存事業者の再生、起業においては高度な経営、マーケティングが必要となるが、行政がそれをサポートするにも多くの課題がある。
2016年の調査に、地方自治体の産業・商工振興担当者を対象にしたアンケート調査結果がある。行政の担当者として、金融・経済に関しての知識が「平均よりもかなり詳しい」としたものは全体で9.0%であった。「平均よりやや詳しい」を合わせても約40%となっている。町村では、「平均よりかなり詳しい」とするものは5.4%、「平均よりもやや詳しい」をあわせても約33%となっている。町村では人口急減が激しいところが多く、担当者も厳しい状況である。

 そのような条件の下で、行政が単独で、これらの問題を解決することは困難な状況にある。そのため、商工会議所、商工会等の産業支援機関との域内の連携が必須である。しかし、これらの多くの産業支援機関も、さまざまな行政に関連する事業に取り組んでおり、補助金等が削減される中、少ない職員で運営しているところが多い。地方における行政、関係機関が厳しい状況であるからこそ、地方創生に対して貢献意欲があり、経営、マーケティングと地域での取り組みについて知見のある診断士には、地方の「しごと」を増やしていくサポートが可能であり、機会でもある。
 地域の活性化などにかかる事業を推進する母体は、地域住民が自発的に運営している町内会などの法人格を持たない任意団体、民間企業(その合同体(JV、SPCなど)を含む)、行政、および、行政が出資等する第3セクターなどとなっている。
 地方創生は、人口減少、少子・高齢化などにより、市場が小さく雇用が十分でないなど条件の不利な地方において、事業化を進めるもので、対象とする事業形態はほぼ全ての業態となっており、診断士として貢献できる範囲は、事業形態・事業推進母体も広くなる。地方創生の事例をカテゴリー毎に整理すると次の図表となる。

5.診断士に求められていること
(1)活躍の領域と求められる能力・スキル
 診断士から見ると、地方創生の鍵は「ひと、まち、しごと」の中でも「しごと」となる。「しごと」を増やすためには、地方の既存の事業者の再生と起業を増やすことが必要である。地域資源を活用した事業を成功させるには、高度な経営、マーケティング等が求められる。都市部であれば、市場も大きく、原材料等も内外から豊富に得られる。地域資源を活用した事業は、差別化されるように見えて、商品・サービスを開発する上では安定調達や品質などの課題にぶつかることが多い。地方の市場は大きくもなく縮小もしているので、都市部に送るかインバウンドとなり、販路・流通・PRにおいても手間もコストもかかる。
 地方には長い歴史の中で形成された地域コミュニティがあり、そこでは住民に信頼されることやさまざまな配慮が求められる。そのようなところまで理解し、対応して支援を行わなければならない。企業のコンサルティングにおいても、組織、関係者の状況把握、調整、配慮は重要なことであり、それを地域にも拡げる能力・スキルが求められる。
 合理的に考えれば都市部で事業したほうが成功可能性は高いようにも見える。地方で事業を再生、起業する事業者には、情熱や思い入れがある。しかし、経営、マーケティングの知見が豊富な事業者は多くはないと見られる。また、それをサポートする行政においても同様である。ここに、経営、マーケティングの知見を有する診断士が貢献できる領域は大きいと考える。
 
(2)課題解決へのアプローチ
 前述してきたように、地方で「しごと」を増やすためには既存事業者の再生と起業を増加させる必要がある。課題解決には、個別の事業、人材、地域の連携に向けた異なるアプローチが考えられる。
 個別の事業に向けたアプローチは、既存事業者の再生でも起業でも、それぞれに事業の特性、成立要件等が異なり、その個々の条件に対して課題を抽出し、対策を検討、事業の成長に向けた計画を立案し、PDCAを回していくことが必要となる。これは中小企業に対するコンサルテーションの基本であり、診断士のスキルが十分に活用できる。
 人材に向けたアプローチは、地方での事業再生、起業に取り組む事業者に高度な経営、マーケティング等の能力が求められる。事業者が持続的に成長するためには自らが必要な能力を向上させなければならない。診断士には、個別事業のコンサルテーションにとどまらず、事業者の経営、マーケティング等の能力向上支援にも取り組むことが望まれる。
 地域の連携に向けたアプローチでは、事業再生でも起業でも、地域の多様な関係者との適切な連携がなければ、持続させることは難しい。地域資源を活用するため、地域の関係者との連携は必須となる。そのため、さまざまな立場、考え方、能力を持った地域の関係者をコーディネートすることが求められる。診断士は経営に関わる幅広い知見を持ち、多様な専門家をコーディネートする力を有している。
 このように地方創生に診断士が大きく貢献していくには、経営、マーケティング等の知見だけでは十分ではないことも指摘されている。地域で活躍している本研究会出身のOB、OG(三重県、熊本県、青森県)と連携を図り診断士に必要な知識・スキル体系の調査研究を本研究会のテーマとしたい

6.将来展望
 地方創生は、「第1期(2014-2019)」である創成期から「第2期(2020-2024)」たる定着期に移行する段階にある。本研究会も、シンクタンクとして調査、勉強する段階から、ドウタンクとして自ら行動し企業(起業)支援をする段階に移行すべきと認識している。
 特に、第2期における新たな視点として、①民間と協働する、②人材を育て活かす、③新しい時代の流れを力にする、④地方へのひと・資金の流れを強化する、⑤誰もが活躍できる地域社会をつくる、⑥地域経営の視点で取り組む、が取り上げられている。
 地方創生の支援策として地方創生関係交付金などが投入されており、地方創生本部所管以外の補助金も地方創生の枠組みで交付されている。創生期である1期の交付金などは、創業当初における支援をするもので、地方創生事業における継続を力にすることでは十分でなく、診断士としての貢献する余地がまだまだ多くあるものと考える。
 本研究会における診断士の貢献に向けた研究では、特定の地域、自治体(南伊豆町、魚津市など)を対象とした支援に向け準備しているところである。また、会員の中では、先行的に支援に入り、診断士だからこその視点での検討を行っている。これらは基本的にボランタリーな取り組みで、交通費等の直接経費の負担がある程度の条件で取り組んでおり、診断士の新たな事業領域にはまだ遠い状況である。
 自治体事業は年度単位となっており、自治体をクライアントとする取り組みの事業化には時間がかかる。そのため、地方創生の取り組みを自治体と連携し、地域が持続できる支援を行いつつ、マネタイズについては自治体に依らない方法を開発していくことが次の研究テーマでもある。
 現在、地方創生の支援枠組みに、地方大学の支援があり、地域の中核的な人材養成機関、地域で産業等を支える基盤となりうる。加えて、地方創生・イノベーションの拠点大学(12校)、国立大学の特色ある学部等設置(国立大学13校)など、地方創生の取り組みが行われている。
 地方創生における事業を進める場合、人材・知識などが不足することが多く、地方に所在する大学の人材の確保、地域産業を支える基盤を活用することによって、不足する機能を補完することが可能である。持続可能な事業を実現するため、大学の持つポテンシャルを活用したい。
 本研究会は地方創生関連の大学講座に講師、客員教授等を送ることを準備中である。教壇に立つ意欲のある方は、ぜひこの機会に手を挙げ一報、連絡いただきたい。

7.追加:中原淳内閣審議官の講演(19.7.3)から
 今回、本原稿依頼を4年間の研究会活動を総括、次の活動へ向けた指針を作成する良い機会と捉えた。研究会の代表である阿部がはじめにと最後を担当、三名の執筆者に自由に論じていただいた。木佐貫氏の提案に沿う形でタイトルを『地方創生に求められる中小企業診断士の役割』とした。10以上の研究会に協賛いただき2年ごと(2016年、2018年)に地方創生連合フォーラムを9月に開催している。
 原稿タイトルと連合フォーラムの取組内容から中小企業診断士と地方創生の接点、診断士が得意とする活躍の場は何かを議論し、絞り込んでいった。診断士が活躍している『ものづくり補助金』と同額の年間1000億円規模の予算が組まれている『地方創生推進交付金』に着目した。
 我々は第二期の政策に取り組んでいる内閣府地方創生推進事務局に講演を依頼した。その結果、講演依頼の主旨に賛同いただき、「地方創生推進交付金のあり方に関する検討会」メンバーである中原淳内閣審議官に「これからの地方創生-地方創生推進交付金を中心に-」という演題で100ページを超える資料を基に講演いただいた。「まち・ひと・しごと」の中で、第二期は地方の交流人口を増やすこと、そして、「ひと」に焦点を当てていきたい、との話であった。今後、研究会でこの講演内容を咀嚼し活動方針を策定、研究会活動、現場実践をしていく所存である。

【参考資料】
[1]地方消滅―東京一極集中が招く人口急減― 増田寛也 編著(初版2014.8.25)
[2]まち・ひと・しごと創生基本方針2019(R1.6.21 閣議決定)
[3]地方創生先行型交付金(1,700億円:26補)、
  地方創生加速化交付金(1,000億円:27補)、
  地方創生拠点整備交付金(2,100億円:28,29,30補)、
  地方創生推進交付金(4,000億円:28,29,30,31当初))
[4]大学による地方創生に関する取組、
  https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/chiikitf/5kai/siryou3.pdf

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