TOP >> コラム >>  特集 >>  ファミリーの影響力を考慮した 中小企業支援に向けて
コラム
最新の記事
月別の記事
2019.11.30
ファミリーの影響力を考慮した 中小企業支援に向けて

ファミリービジネス研究会 荒尾 正和

1.はじめに

 ファミリービジネスは日本企業の約97%を占めており、日本経済における中心的役割を果たしているといわれる。ファミリービジネスの研究は、まず欧米を中心に1950年代から始められ、日本においても、昨今のファミリービジネスの事業承継の問題を中心に、当該研究領域に対する関心が高まっている。そのようななか、3年半前の平成28年4月にファミリービジネス研究会を立ち上げた。ファミリービジネス研究会は、企業の長寿性にかかわらずファミリービジネスの強みや弱みを分析し、ファミリーの観点も考慮した中小企業支援に役立てようとするものである。特に企業経営に及ぼすファミリーの影響力が想定以上に大きいことが明らかになり始めていることから、今後の実証的な調査とそれに基づく支援策が求められている。

2.ファミリービジネスに関する動き
 ファミリービジネスについて欧米を中心に再評価され始めてきている。そもそも、資本の巨大化に伴い所有と経営の分離が進むものと考えられてきた。また、そのことが、近代的な経営に結びつくものと固く信じられていた。したがって所有と経営の一致するファミリービジネスは、遅れているものと考えられていた。
 ところが、80年代に入りファミリービジネスが、ニューズウィーク誌で取り上げられるほか、各大学の講座に名を連ねるようになるなど、再び脚光を浴びることとなった。
 時期を同じくしてファミリービジネスの業績優位性についての比較研究も進み、ファミリービジネスに対する関心が一段と高まりを見せ始めている。欧米のほか、我が国においてもファミリービジネスの業績優位性を始めとした研究がなされており、国内においても関心が高まり始めている。
 そもそも日本におけるファミリービジネスは、1930年代以降、官僚統治の中で復興を遂げるという目的のため、官僚統制が強まりファミリービジネスは十分に評価されることなく今日に至っている。ファミリービジネスの専門家によると中国やアジアで急成長している企業は、ほとんどがファミリービジネスである。ファミリービジネスを育てなかった社会主義国や開発独裁主義国は、成長に失敗している。ファミリービジネスの経営者は、雇われ経営者よりはるかに情熱を持って事業に当たっており、ファミリービジネスの栄えない国は低迷すると指摘する。日本においても遅れているファミリービジネスに対する研究の進展とともに、ファミリービジネスに対する評価も併せて高まることが期待されているところである。そのような動きに呼応するように、国内の各大学においてもファミリービジネス教育を取り上げる動きが加速している。明治大学、名古屋商科大学、法政大学などですでに実施されている。東京大学も昨年から寄附講座という形ではあるが、ファミリービジネ講座を開設している。

3.ファミリービジネスの現況
 ここでは、ファミリービジネスの現況について統計データの整備されている上場企業と中小企業に分けて以下に述べる。

(1)上場企業の場合
ア.ファミリービジネス比率
 上場ファミリービジネスに対象を絞り、上場企業全体に占めるファミリービジネス比率を把握すると次に示す通りである。証券市場別にファミリービジネスの占める比率は東証一部が46.9%と最も低く、東証二部57.6%、新興市場61.5%、地方単独68.5%と上昇し、総計で52.9%と過半を占める結果となっている。
イ.業績比較
 上場企業に関して有価証券報告書のデータを用いて、上場企業をファミリービジネスとファミリービジネス以外(以下「一般企業」という。)に区分けを行い各経営指標に基づいて、ファミリービジネスと一般企業の比較分析を行った(図表1参照)。その結果、測定期間(2011年~2017年/7年間)において一貫して優位性が確認された総資産利益率(ROA)を特定した。

201912_3_1.jpg

ウ.創業経営者
 次にファミリービジネスのうち、「創業経営者」についてみると、以下の結果が得られる。平均的な創業経営者は、39.5歳で入社し、平均して22年の在任期間を得て経営者となり、現在年齢が平均61.6歳である。とりわけ注目すべきことは、過去3年間における業績(超過総資産事業利益率)が、2.71%(2017年3月)、3.93%(2016年3月)、3.63%(2015年3月)を示している点である。一般企業よりはるかに優位であることはもちろん、ファミリービジネスのなかでも際立った好業績をしかも安定的に示している。
エ.婿養子
 さらに、京都産業大学の沈 政郁教授の研究によると「創業者経営」「婿養子経営」「同族経営」「非同族経営」に分けた場合「婿養子経営」が「創業者経営」に次いで業績が良いことが確認されている。親族内に適切な経営者が見当たらない場合に、この婿養子という仕組みで後継者問題の表面化を回避している。血筋を重視する中国や韓国ではありえない仕組みと言える。
オ.業績優位性の背景......経営者の在任期間
 ファミリービジネスについて経営者在任期間と業績との関係性を調べると、経営者在任期間が長期のほうが短期より総じて業績が良好である。一方、一般企業においては、経営者の在任期間と業績との間に明確な関係性は確認できない。もっとも一般企業の場合、在任期間が5年未満の企業が672社と全体の66%、10年未満は全体の9割を占めており、経営者在任期間が長期のケースは、むしろ少数派である。
 以上からファミリービジネスと一般企業の業績格差の観点から考えると、ファミリービジネスは経営者の在任期間の長期化に向けた後継者育成上の計画がなされている点で、一般企業に比べ優位性が期待できる。反対に一般企業は、経営者の在任期間の長期化を図る仕組みが存在しないか、あるいは弱いことがマイナス面として挙げられる。
カ.ファミリービジネス区分と企業業績
 ファミリービジネスについてファミリーメンバーが及ぼす影響力を所有と経営の両軸で考察し、その強弱によって6分類を行った。このファミリービジネス区分によって、企業業績に格差が生じることが分かってきた(「ファミリービジネス白書2018」その他)。
 ファミリーメンバーにおける所有と経営のあり方によって企業経営(業績)にも影響を及ぼすというわけだ。このことは、上場企業のみならず中小企業経営においても、同様の傾向を示す可能性がある。中小企業経営の支援を考える場合に、ファミリーの影響も視野に入れた提案が今後求められる所以である。

(2)中小企業の場合
 中小企業の大半がファミリービジネスと言われているが、その中小企業を対象とする調査によると(中小企業白書2018)オーナー経営企業が約72%、オーナー経営企業でない企業が約28%となっており、オーナー経営企業の比率が高い(図表2参照)。同調査によると規模の拡大につれて、第三者の株主がいないオーナー経営企業の比率は減少し、オーナー経営企業でない企業の比率が上昇していくようだ。この規模の拡大に伴い外部株主が増大しオーナーにおける所有の影響力が希薄化する現象は、上場企業においても認められる現象である。
 このことを時系列的に見ると次のようになる(「中小企業白書2017」)。中規模法人の自社株式の所有状況について、経営者が所有する株式の構成比(平均)を経営者の代数別(何代目の経営者に当たるか)に見たものである。その構成比は、創業者の平均で66.2%であったが、4代目以降の平均では26.1%となっており、経営者が代替わりするにつれて、経営者の所有する株式構成比が低減していくことが推察される。株主数の平均について経営者の代数別に見ていくと図表3記載のとおりとなり、経営者が代替わりするにつれて、株式が広く分散していくというわけだ。
 以上から、中規模法人においても上場企業同様に所有面の希薄化が一般的に生じていることが確認できる。このことは、親族の影響力が時間の経過とともに低下することを意味し、ファミリービジネスとしては具体的な防衛に向けた支援策が求められることになる。

201912_5_1.jpg

201912_5_2.jpg

 最後に中小企業における経営者の在任期間を見る(中小企業白書2018)。図表4(同白書における第1-4-23図)は経営者の在任期間と所有形態について示したものである。オーナー経営企業でない企業では、在任期間が3年未満と回答した割合が約4割と一番大きいのに対し、オーナー経営企業(外部株主はいない)では在任期間が「20年以上」と答えた比率が約35%と一番大きく、在任期間が10年以上の経営者で6割を超えている。オーナー経営企業はオーナー経営企業でない企業と比較して、長期間、経営者として関与し、長期的な目線で経営を行うことができると考えられる。経営者の在任期間の長短についても、上場企業におけるファミリービジネスと一般企業に見られるような傾向が認められる(ただし、経営者在任期間が業績へ及ぼす影響については、上場企業と同様の傾向を示す可能性はあるが、確認はできていない)。

201912_6_1.jpg

4.ファミリービジネスに関する理論
 ファミリービジネスに関する理論と実践的枠組み
 ファミリービジネス研究の主要な理論的課題は、①永続性(伝統と革新)、②事業承継、③ガバナンスである。ここでは、ファミリービジネスを分析し、解明していくうえで活用される代表的な二つの考え方を紹介したい。

(1) スリーサークルモデル
 ファミリービジネスは「ファミリー」「ビジネス」「オーナー」の3つの要因から構成される。このスリーサークルモデルによれば、7つの異なるタイプが生じる。最もファミリービジネスらしいのは、ファミリー(創業家)が所有し、経営も行うものである。それぞれのタイプの違いによって経営スタイルが異なり、経営の関心も異なる(図表5参照)。異なる経営関心に対して適切な対処を行うことを可能にしている。この経営モデルに創業者の時代、兄弟などの時代、そして従兄弟を中心とした時代へと時間軸を加えることによりファミリービジネスは進化しファミリービジネスが抱える問題は一層複雑となる。このような問題を解決するには、近代的な経営手法のみならず非経済的な要因も加味する必要が出てくる。

201912_7_1.jpg

(2)パラレル・プランニング・プロセス・モデル
 ファミリービジネスには、そのファミリー固有のビジョンや目標があるケースが一般的である。そこでファミリービジネスにおいては、ファミリープランニングと戦略プラニングを並行的に行うことが必要になってくる。この両者の計画を並行的に行うことで、企業の永続性を確保しようとするものである。パラレル・プランニングは、①価値観、②ビジョン、 ③ 戦略、 ④ 投資、 ⑤ ガバナンス という 5 つのステップで構成される。これら 5 つのステップはいずれもパラレル・プランニングにとって不可欠のものである。これら 5 つのステップを経ることで、「ファミリーメンバー各人の目標が明確」にされて、それらが「一つに集約」されていくことになる。

5.ファミリービジネス支援のあり方について
 ファミリービジネスにおけるガバナンスは、コーポレートガバナンスとファミリーガバナンスから構成される。一般企業は、まさに株主と経営の視点でのみ経営的対応を行う必要があるが、ファミリービジネスは、さらにファミリーの要素を加える必要がある。このファミリーの要素を加えることにより、経営問題がより複雑化することになる。さらに創業世代から子の世代、孫の世代と承継するにつれて親族間の関係性も薄れていき、さらにそのマネジメントが困難になっていくことになる。このような状況に対して、ファミリービジネスに対する実践的な調査・研究を進めながら効果的な支援策を講じることが求められている。
 前述したとおりファミリーメンバーにおける所有と経営のあり方によって企業経営(業績)にも影響を及ぼすことが明らかになるなか、中小企業経営においてもファミリーの影響も視野に入れた提案が必要となっている。
 当研究会ではファミリービジネスに関する調査研究とともに弁護士や税理士などの各種専門家との連携をはかり、ファミリービジネスオーナーに向けた実践的な支援策をテーマに今後活動予定である(ファミリービジネスのオーナーを支える現代版「番頭」あるいは「ファミリービジネスCFO」)の育成など)。

TOP